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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010796
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】セルロースナノ繊維及び植物栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 61/00 20060101AFI20230113BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20230113BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20230113BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20230113BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20230113BHJP
   A01M 1/20 20060101ALI20230113BHJP
   A01G 24/27 20180101ALI20230113BHJP
【FI】
A01N61/00 D
A01N25/00 102
A01P21/00
A01P7/04
A01N25/02
A01M1/20 C
A01G24/27
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181587
(22)【出願日】2022-11-14
(62)【分割の表示】P 2019232944の分割
【原出願日】2018-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2017058732
(32)【優先日】2017-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591023642
【氏名又は名称】中越パルプ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095740
【弁理士】
【氏名又は名称】開口 宗昭
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕之
(57)【要約】
【課題】環境負荷が小さく安全性の高いセルロースナノ繊維及び植物栽培方法を提供する。
【解決手段】植物栽培剤材料として特定の平均繊維径及び平均繊維長を有するセルロースナノ繊維を用いることにより、セルロースの凝集性が抑制され、効率の良い殺虫効果を実現することができる。さらにこのセルロースナノ繊維としては例えば、木材繊維、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維、葉繊維等の天然の植物を含むセルロース由来のセルロースナノ繊維が挙げられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物に直接または間接に添加若しくは散布または噴霧される植物栽培剤に含有される成分である、平均太さ3~200nmであり、セルロース分子の構造変化がない化1に示す構造式であることを特徴とするセルロースナノ繊維。
【化1】







【請求項2】
植物に直接または間接に添加若しくは散布または噴霧される植物栽培剤に含有される成分である、平均太さ3~200nmであり、セルロース分子の構造変化がない化1に示す構造式であり、殺虫有効成分および又は成長促進成分であることを特徴とするセルロースナノ繊維。
【請求項3】
成長促進成分であるセルロースナノ繊維を含有する噴霧剤を植物に直接または間接に添加若しくは散布または噴霧する植物栽培方法に用いられ、平均太さ3~200nmであり、セルロース分子の構造変化がない化1に示す構造式であることを特徴とするセルロースナノ繊維。
【請求項4】
セルロース中のα-セルロース含量が60~99重量%のセルロースを高圧水流にて解繊して得られ、平均太さが3~200nmであり、セルロース分子の構造変化がない化1に示す構造式であり、結晶化度50 以上であるセルロースナノ繊維であって、成長促進成分であるセルロースナノ繊維を含む媒体を植物に直接または間接に添加若しくは散布または噴霧することを特徴とする植物栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平均太さ3~200nmであり、セルロースを高圧水流にて解繊してなるセルロースナノ繊維を有効成分とし、噴霧剤として活用できるセルロースナノ繊維及び植物栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、ある種の化合物を噴霧剤の有効成分として用いることが多く行われている。一方、ケナコナダニ、ハダニ、油ムシ、アザミウマ、貝ガラ虫、ササラダニなどについては、天敵のダニを定期散布してこれらを捕食させている。この天敵ダニは1ヵ月半~2ヵ月半に 1度葉の上に施布する。
【0003】
特許文献1は優れた効力を有する動物外部寄生虫の防除組成物を提供することを課題として、殺虫成分(I)[Qは少なくとも1つのフッ素原子を含むC1~C3ハロアルキル基、またはフッ素原子を、R1及びR3は同一または相異なり、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1~C4鎖式炭化水素基、ハロゲン原子、または水素原子を、R2及びR4は同一または相異なり、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1~C4鎖式炭化水素基、-C(=G)R5、シアノ基、ハロゲン原子、または水素原子を表し;Gは酸素原子、または硫黄原子を表す]などとアジピン酸エステルとを含有する動物外部寄生虫防除組成物;及び該動物外部寄生虫防除組成物の有効量を、動物に投与することを特徴とする動物外部寄生虫の防除方法を開示した。
【0004】
特許文献2は害虫に対して優れた誘引駆除効果を有する害虫駆除剤及び害虫の駆除方法を提供することを課題としてココアと殺虫活性成分とを含有する害虫駆除剤、ココアと殺虫活性成分との有効量を害虫の生息場所に施用する害虫の駆除方法を開示した。
【0005】
特許文献3は害虫に対して優れた誘引駆除効果を有する害虫駆除剤及び害虫の駆除方法を提供することを課題としてミルク、チーズ、コーヒー、及び卵からなる群から選択される少なくとも1種と殺虫活性成分とを含有する害虫駆除剤、ミルク、チーズ、コーヒー、及び卵からなる群から選択される少なくとも1種と殺虫活性成分との有効量を害虫の生息場所に施用する害虫の駆除方法を開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-153129号公報
【特許文献2】特開2011-153131号公報
【特許文献3】特開2011-153132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の多くの噴霧剤は環境負荷が大きいという点で問題があり、場合によっては幼児に危害を加える可能性があるという問題があった。
本発明は以上の従来技術における問題に鑑み、環境負荷が小さく安全性の高い噴霧剤として活用できるセルロースナノ繊維及び植物栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の状況に鑑み、すぐれた殺虫効力を有する素材を見いだすべく鋭意検討を重ねた結果、平均太さ3~200nmであり、セルロースを高圧水流にて解繊してなるセルロースナノ繊維が高い殺虫効力を有すると共に植物の育成を促し、また細菌や害虫に対する防護力を有することを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の植物栽培剤はセルロースナノ繊維を含有し、植物に直接または間接に添加若しくは散布または噴霧され、成長促進成分がセルロースナノ繊維であることを特徴とする。
ここで成長促進成分とは植物に吸収されて直接に成長促進の効果を生じるのみならず殺虫効果を発揮してその点で間接的にも成長促進の効果を生じる成分である。
【0010】
前記セルロースナノ繊維が、結晶化度50以上であり、媒体と共に噴霧可能にすることができる。
ここで結晶化度が50未満である場合には害虫に噴霧して害虫の気門に付着しても気門の動きを効果的に封じることはできない。
媒体としては例えば水を用いることができる。
【0011】
前記セルロースナノ繊維は平均太さ3~200nmであり、α-セルロース含有率60%~99質量%であるセルロースを高圧水流にて解繊してなるものとすることができる。 またα-セルロース含有率60%~90質量%とすることで効率よく解繊を進めることができる。
【0012】
平均太さ3~200nmであり、セルロースを高圧水流にて解繊してなるセルロースナノ繊維は密着力が強いため自らの力で固着し、固着剤が必要ない。
この植物栽培剤である噴霧剤を用いたダニ駆除は、ダニの気門を塞ぎ、呼吸を停止させることで効果を発揮するものと推察される。またダニの体表面に固着することでダニの動きを止める効果が推察される。したがって他の固着材や界面活性剤などが不要で、セルロースナノ繊維の水分散水のみを噴霧することで有効である。噴霧は、通常の散水設備を使うことができるため省人力で散布可能である。
また家庭の布団や絨毯への噴霧も有効であり、安全なので気軽に家庭で使用できる。
でんぷんでもセルロースナノ繊維と同様な気門作動停止効果はあるが、でんぷんを噴霧した場合は、カビなどが繁殖することで植物生育環境を悪化させるという欠点がある。セルロースナノ繊維は容易に分解せず土壌中のセルラーゼなどの酵素で緩慢な速度で分解し、その分解物であるブドウ糖は、植物の根から速やかに吸収されるため、生育環境の悪化の原因にはならず、むしろ成長促進の効果が期待できる。
【0013】
前記セルロースナノ繊維は、0.5~10質量%の水混合液にしたセルロースに対し、50~400MPa程度の高圧水を衝突させることによって得ることができる。
【0014】
前記セルロースナノ繊維は、水分散状態における固形分濃度が20%未満であるようにすることができる。
【0015】
前記セルロースナノ繊維含有量を0.01%以上とするとダニ防除効果を発揮する。また4.0%でも通常のスプレーで容易に噴霧することができる。したがって前記セルロースナノ繊維含有量を0.01%以上4.0%以下とするのがよく、最も好ましくは3.0質量%以下とするのが良い。さらに0.05%以上0.15%以下とすることによって十分なダニ防除効果を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の植物栽培剤は、優れた殺虫効果を示しかつ環境負荷が小さく安全性が高いと共に優れた植物育成機能を備える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の植物栽培剤の成分であるセルロースナノ繊維の製造装置の一例の概念図である。
図2図1に示すセルロースナノ繊維の製造装置の一部を拡大して示す概念図である。
図3】本発明の植物栽培剤の成分であるセルロースナノ繊維の製造装置の他の例の概念図である。
図4】本発明の植物栽培剤の成分であるセルロースナノ繊維の製造装置のさらに他の例の概念図である。
図5】本発明の植物栽培剤の一態様としての噴霧剤の効果確認写真
図6】本発明の植物栽培剤の一態様としての噴霧剤の他の効果確認写真
図7】本発明の植物栽培剤の効果確認写真
図8】本発明の植物栽培剤の効果を示すグラフ
図9】本発明の植物栽培剤の他の効果確認写真
【発明を実施するための形態】
【0018】
[(A)セルロースナノ繊維]
本発明において、植物栽培剤材料として特定の平均繊維径及び平均繊維長を有するセルロースナノ繊維を用いることにより、セルロースの凝集性が抑制され、効率の良い殺虫効果を実現することができる。さらにこのセルロースナノ繊維としては例えば、木材繊維、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維、葉繊維等の天然の植物由来のセルロースナノ繊維及び酢酸菌が生成するナタデココや、海藻類、ホヤなどから生成されるセルロースナノ繊維が挙げられ、これらセルロースナノ繊維は一種を単独で又は二種以上を混合して用いてもよい。またセルロースとしてはα-セルロース含有率60%~99質量%のパルプを用いるのが好ましい。α-セルロース含有率60質量%以上の純度であれば繊維径及び繊維長さが調整しやすくなって繊維同士の絡み合いを抑えることができ、α-セルロース含有率60質量%未満のものを用いた場合に比べ、保管時の経時劣化を引き起こすことがないほか、本発明の効果をより優れたものとすることができる。さらに、99質量%以上のものを用いた場合、繊維をナノレベルに解繊することが困難になる。
【0019】
本発明におけるセルロースナノ繊維は、平均太さ3~200nmであり、セルロースを高圧水流にて解繊してなる。
平均太さは日本電子株式会社の電界放出形走査電子顕微鏡JSM-7001FTTLSによって測定した。
平均太さ3~200nmのレベルまで解繊することで流動性があり噴霧性に優れた植物栽培剤を得ることができる。
平均太さ3nm未満では脱水性が悪化するため固形分濃度を上げることが難しくなり好ましくない。
平均太さ200nmを超える場合には、解繊が進んでいない数10μmの繊維幅のものが含まれることになり流動性が著しく低下し、且つ噴霧性が悪化することとなり好ましくない。
セルロースの高圧水流による解繊は、0.5~10質量%の水混合液にしたセルロースに対し、50~400MPa程度の高圧水を衝突させて行う。これは例えば図1に示すセルロースナノ繊維の製造装置1を用いて行うことができる。セルロースナノ繊維の製造装置1は、一のチャンバー2に対してセルローススラリを供給可能に配置される第1の液状媒体供給経路であるところのセルローススラリ供給経路3と、例えば水である非セルローススラリを一のチャンバー2を介して循環させる第2の液状媒体供給経路4とよりなる。一のチャンバー2内には第2の液状媒体供給経路4の非セルローススラリをセルローススラリ供給経路3からのセルローススラリ供給方向と交差する方向にオリフィス噴射するオリフィス噴射部5を備える。セルローススラリ供給経路3は、セルローススラリを一のチャンバー2を介して循環可能にされる。
【0020】
セルローススラリ供給経路3と第2の液状媒体供給経路4とは一のチャンバー2内に相互の交差部6を有する。
セルローススラリ供給経路3はセルローススラリ供給部でありセルローススラリを貯留するタンク7、ポンプ8を循環路9に配置してなり、一方、第2の液状媒体供給経路4はタンク10、ポンプ11、熱交換器12、プランジャ13を循環路である液状媒体供給経路4に配置してなる。
【0021】
なお非セルローススラリは、例えば水であり、当初タンク10に収納され、その後セルロースナノ繊維の製造装置1の作動に伴い交差部6を通過してタンク10に収納されたナノ微細化されたセルロースを操業の度合いに応じた濃度で含むことになった状態のものをも、包括的に指称する。
【0022】
図2に示すようにチャンバー2を貫通する態様でセルローススラリ供給経路3の循環路9が配置され、これと交差する方向に非セルローススラリをオリフィス噴射して循環路9を貫通させることができるように第2の液状媒体供給経路4のプランジャ13に接続されるオリフィス噴射部5のオリフィス噴射口14がチャンバー2内側において開口する。チャンバー2のオリフィス噴射口14と対向する位置にチャンバー2の排出口15が設けられ、このチャンバー2の排出口15に第2の液状媒体供給経路4の循環路が接続されて、第2の液状媒体供給経路4が構成される。
【0023】
一方、セルローススラリ供給経路3の循環路9は例えばビニルホース、ゴムホース等を用いて形成され、その循環路9のチャンバー2への入り側にはチャンバー2方向にのみ開弁される一方向弁16が取りつけられる。さらに循環路9のチャンバー2からの出側にはチャンバー2からの排出方向にのみ開弁される一方向弁17が取りつけられる。加えてチャンバー2と一方向弁17の間の循環路9にはエア吸入弁18が取りつけられ、このエア吸入弁18は外部から循環路9へエアを吸入する方向にのみ開弁される。
【0024】
以上のセルロースナノ繊維の製造装置によれば以下のようにしてセルロースナノ繊維が製造される。
非セルローススラリをチャンバー2を介して第2の液状媒体供給経路4を循環させる。具体的にはポンプ11を用いてタンク10内の非セルローススラリを熱交換器12、プランジャ13を通過させて液状媒体供給経路4内を循環させる。一方、セルローススラリをチャンバー2を介してセルローススラリ供給経路3内を循環させる。具体的にはポンプ8を用いてタンク7内のセルローススラリをビニルホース、ゴムホース等を用いて形成された循環路9内を循環させる。
【0025】
これにより、セルローススラリ供給経路3内を循環してチャンバー2内を流通するセルローススラリに対して第2の液状媒体供給経路4を循環する非セルローススラリがオリフィス噴射される。具体的にはプランジャ13に接続されるオリフィス噴射口14にプランジャ13から高圧水が供給され、これがオリフィス噴射口14から循環路9に向けて50~400MPa程度の高圧でオリフィス噴射される。
【0026】
その結果、例えばビニルホース、ゴムホース等を用いて形成された循環路9に予め形成された貫通孔26a、bを通過して、循環路9と交差する方向に循環路9内側を通過した非セルローススラリが循環路9内を循環するセルローススラリを巻き込みながらチャンバー2の排出口15に向けて排出され、第2の液状媒体供給経路4に流入する。これによって、非セルローススラリが第2の液状媒体供給経路4内を再度循環する。
以上のプロセスを反復する過程でセルローススラリ供給経路3内を循環してチャンバー2内を流通するセルローススラリ及び第2の液状媒体供給経路4を循環する非セルローススラリ中のセルロースが徐々に解繊されて、用途に応じた解繊度合いの均一性の高いセルロースナノ繊維が得られる。
【0027】
その他にセルロースを高圧水流にて解繊してセルロースナノ繊維とする手法としては破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーで原料繊維を溶媒に分散させた分散液を処理するホモジナイズ処理法がある。図3に示されるようにこのホモジナイズ処理法によれば高圧でホモジナイザー内を圧送される原料繊維101が、狭い間隙である小径オリフィス102を通過する際に、小径オリフィス102の壁面(特にインパクトリング103の壁面)と衝突することにより、剪断応力又は切断作用を受けて分割され、均一な繊維径を有するミクロフィブリル化が行われる。
【0028】
さらにセルロースを高圧水流にて解繊してセルロースナノ繊維とする手法としては水中対向衝突法がある。これは、水に懸濁した天然セルロース繊維をチャンバー(図4:107)内で相対する二つのノズル(図4:108a,108b)に導入し、これらのノズルから一点に向かって噴射、衝突させる手法である(図4)。この手法によれば、天然微結晶セルロース繊維(例えば、フナセル)の懸濁水を対向衝突させ、その表面をナノフィブリル化させて引き剥がし、キャリアーである水との親和性を向上させることによって、最終的には溶解に近い状態に至らせることが可能となる。図4に示される装置は液体循環型となっており、タンク(図4:109)、プランジャ(図4:110)、対向する二つのノズル(図4:108a,108b)、必要に応じて熱交換器(図4:111)を備え、水中に分散させた微粒子を二つのノズルに導入し高圧下で合い対するノズル(図4:108a,108b)から噴射して水中で対向衝突させる。この手法では天然セルロース繊維の他には水しか使用せず、繊維間の相互作用のみを解裂させることによってナノ微細化を行うためセルロース分子の構造変化がなく、解裂に伴う重合度低下を最小限にした状態でセルロースナノ繊維を得ることが可能となる。
【0029】
以上の様にして得るセルロースナノ繊維は、そのまま植物栽培剤の一態様としての噴霧剤として用いる場合にはその脱水の程度は水分散状態における固形分濃度が20%未満である様にすることによって、凝集物を生成しにくくすることができる。そのため噴霧性が向上される。固形分濃度が20%以上である場合には、セルロースナノ繊維同士で凝集物を生成しやすいため、その凝集物が噴霧性の悪化要因となる。最も好ましくは16%未満とするのが良い。
【0030】
本発明の植物栽培剤の一態様としての噴霧剤が殺虫効果を発揮する害虫としては、たとえば下記に示される害虫に有効であると期待される。
ケナコナダニ、ハダニ、アブラムシ、アサミウマ、カイガラムシ、ササラダニ、半翅目害虫トビイロウンカ、セジロウンカ、ヒメトビウンカ等のウンカ類、ツマグロヨコバイ、タイワンツマグロヨコバイ、クロスジツマグロヨコバイ、イナズマヨコバイ、チャノミドリヒメヨコバイ、フタテンヒメヨコバイ等のヨコバイ類、ワタアブラムシ、モモアカアブラムシ、ユキヤナギアブラムシ、ミカンクロアブラムシ、リンゴコブアブラムシ、ジャガイモヒゲナガアブラムシ、ダイコンアブラムシ等のアブラムシ類、アメリカコバネナガカメムシ、ホソハリカメムシ、ホソクモヘリカメムシ、ホソヘリカメムシ、クモヘリカメムシ、ミナミアオカメムシ、チャバネアオカメムシ、クサギカメムシ等のカメムシ類、タバココナジラミ、オンシツコナジラミ、ミカンコナジラミ、ミカントゲコナジラミ等のコナジラミ類、カイガラムシ類、グンバイムシ類、キジラミ類等鱗翅目害虫ニカメイチュウ、コブノメイガ、ノシメコクガ、ワタノメイガ、サンカメイガ、ネッタイメイチュウ、イネミズメイガ、シロメイチョウ、モモノゴマダラメイガ、クロフタモンマダラメイガ、フキノメイガ、ナノメイガ、Southwestern Corn Borer 、European Corn Borer 等のメイガ類、ハスモンヨトウ、アワヨトウ、ヨトウガ、イネヨトウ、シロナヨトウ、フタオビコヤガ、タマナヤガ、シロイチモンジヨトウ、ワタアカキリバ、ワタリンガ、オオタバコガ、ネスジキノカワガ、ノコメトガリキリガ、アケビコノハ、アカエグリバ、カブラヤガ、タマナヤガ、タマナギンウワバ、キクキンウワバ、ミツモンキンウワバ、ナガシロシタバ、Cotton Leafworm 等のヤガ類、モンシロチョウ(アオムシ)等のシロチョウ類、チャノコカクモンハマキ、チャハマキ、リンゴモンハマキ、リンゴコカクモンハマキ、ミダレカクモンハマキ、コカクモンハマキ、カクモンハマキ、クリミガ、テングハマキ、アトボシハマキ、リンゴモンハマキ、クロモンシロハマキ、Fruittree Leafroller等のハマキガ類、ヒメハマキガ類、イネツトムシ等のセセリチョウ類、シンクイガ類、ハモグリガ類、コハモグリ類、ホソガ類、キバガ類、マルハキバガ類、ドクガ類、ミノガ類、ニセマイコガ類、カレハガ類、シャチホコガ類、マダラガ類、スズメガ類、シャクガ類、スカシバガ類、トリバガ類、イラガ類、ヘリオティス属害虫(Heliothis spp.)、コナガ、イガ、コイガ等双翅目害虫アカイエカ、コガタアカイエカ等のイエカ類、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ等のヤブカ類、シナハマダラカ等のハマダラカ類、ユスリカ類、イエバエ、オオイエバエ等のイエバエ類、クロバエ類、ニクバエ類、ヒメイエバエ、タネバエ、タマネギバエ等のハナバエ類、タマバエ類、ミバエ類、ミギワバエ類、ショウジョウバエ類、チョウバエ類、アブ類、ブユ類、サシバエ類等甲虫目害虫ワタゾウムシ、イネミズゾウムシ、イネゾウムシ、スモモゾウムシ、コクゾウムシ、アズキゾウムシ等のゾウムシ類、イネドロオイムシ、Banded Cucumber Beetle、Western Corn Rootworm 、Northern Corn Rootworm、Southern Corn Rootworm、Paddy Hispid等のハムシ類、チャイロコメノゴミムシダマシ、コクヌストモドキ等のゴミムシダマシ類、ゴマダラカミキリ、ブドウトラカミキリ等のカミキリムシ類、ドウガネブイブイ、マメコガネ、ヒメコガネ等のコガネムシ類、ケシキスイ類、キスジノミハムシ、ダイコンサルハムシ、ウリハムシ等のハムシ類、キクイムシ類、ヒラタキクイムシ類、ナガシンクイムシ類、オトシブミ類、コメツキムシ類、ニジュウヤホシテントウ等のテントウムシ類、シバンムシ類等網翅目害虫チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ、トビイロゴキブリ、コバネゴキブリ等総翅目害虫ミナミキイロアザミウマ、チャノキイロアザミウマ、ハナアザミウマ等膜翅目害虫アリ類、カブラハバチ等のハバチ類等直翅目害虫ケラ、バッタ等隠翅目害虫ヒトノミ等シラミ目害虫ヒトジラミ、ケジラミ等等翅目害虫ヤマトシロアリ、イエシロアリ等に効果を発揮すると推定される。
【0031】
これらのうち、本発明の植物栽培剤の一態様としての噴霧剤が特に優れた効果を発揮する害虫として、ハムシ科 (Chrysomelidae)Diabrotica属 Diabrotica virgifera virgifera LeConte (ウェスタンコーンルーワーム) 、Diabrotica barberi Smith and Lawrence(ノーザンコーンルートワーム) 、Diabrotica undecimpunctata howardi (サザンコーンルートワーム) のコーンルートワーム類、Aulacophora属 Aulacophora femoralis Motschulsky (ウリハムシ)等Phyllotreta属 Phyllotreta striolata (Fabricius) (キスジノミハムシ等、コガネムシ科 (Scarabaeidae)Maladera属 Maladera castanea(アカビロウドコガネ) 等Anomala 属 Anomala cuprea Hope(ドウガネブイブイ)Anomala rufocuprea Motshulsky(ヒメコガネ)Anomala daimiana Harold(サクラコガネ) 等Papillia属 Papillia japonica Newman (マメコガネ)等などの土壌害虫(土壌中に棲息し作物に被害を与える昆虫等)があげられる。
【0032】
本発明の植物栽培剤の一態様としての噴霧剤を有効成分として用いる場合は、有効成分として本発明の植物栽培剤の一態様としての噴霧剤を、水等の溶媒中重量比で0.01%以上4.0%以下、好ましく0.05%以上0.15%以下含有するのがよい。
各種ガスと混合してエアゾール等に製剤して使用することもできる。ガス状担体、すなわち噴射剤としては、例えはフロンガス、ブタンガス、炭酸ガス等が挙げられる。
【実施例0033】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例において用いた成分はセルロースナノ繊維:商品名[中越パルプ工業株式会社製、平均太さ36.5nm、α-セルロース含有率85質量%]である。
【0034】
試験例1
セルロースナノ繊維の水希釈液を、200坪の区分(14°C以上で管理しているハウスの中の1ブロック。)に散布した。この様に、ハウス内の特定の対照区のみで実証テストを実施することでダニや虫の移動が有るので効果を確認できる。
農薬はその有効成分で効果を発起するが、セルロースナノ繊維は包み込むことで果物を保護する。全く効果メカニズムが異なる。図5に示す様にセルロースナノ繊維0.1%を直接散布したナミハダニは死んでいることを確認した。これは澱粉などと同様にセルロースナノ繊維がダニの気門を封鎖して呼吸を阻止して駆除できるものと推定できる。農薬の場合、1000倍程度に希釈しているが、セルロースナノ繊維では1%品を原液10倍程度で使用することができた。
【0035】
試験例2
ナミハダニに対するセルロースナノ繊維の効果を確認した。ナミハダニの成虫を検体としてこれにセルロースナノ繊維を直接散布して効果を確認した。表1に示す様にセルロースナノ繊維0.05%は検体数3に対して致死数が2であり、さらにセルロースナノ繊維0.1%は検体数8に対して致死数が8であり既存の農薬であるアカリタッチと同等の効果が得られた。
【0036】
【表1】
【0037】
試験例3
1%セルロースナノ繊維分散液を用い、これを水で100倍に希釈して50日程度毎にミカンを栽培する樹木に噴霧した。その結果、ミカンの病気であるサビダニ病を発生させるサビダニによる黒色斑点の発生は見られなかった。
比較例として既存殺虫剤であるサンマイト水和剤を2000倍希釈して散布した。この場合もサビダニの発生はなかった。さらに既存殺虫剤であるダニゲッターフロアアブルを2000倍希釈して散布した。この場合もサビダニの発生はなかった。
なお図6に示す様に、セルロースナノ繊維分散液を散布した場合には、これを散布した樹木から採取した葉は散布しない樹木の葉に比べ、大きいことが観察された。このことから散布した樹木では散布しない樹木に比べより活発に効率よく光合成が行われ、より美味しいミカンの栽培が行われたものと推定できる。
しかも本発明の植物栽培剤散布した場合、本発明の植物栽培剤が植物表面の保護膜となり、細菌や害虫の侵入を阻止する働きがある。
加えて散布することによって植物の表面に付着した本発明の植物栽培剤は雨などで土壌中に染みこみ土壌中のセルラーゼ等の分解酵素によって糖や酢酸等に分解され、土壌の微生物分布を植物育成に望ましい環境に整える効果が認められる。
【0038】
試験例4
図7図9は本発明の植物栽培剤をアイビー生育環境に於ける土壌の灌水に使用した結果を示す。図7図9に示されるように本発明の植物栽培剤によって灌水した場合、水で灌水した場合に比べ、細根の生育が良好であることが認められた。また図8に示されるように本発明の植物栽培剤を施した場合は、単なる水を用いる場合に比し、アイビーの伸び、生重量、乾物重量何れについても、本発明の植物栽培剤を施した場合の方に優位が認められ、本発明の植物栽培剤がアイビーの根張り促進に有効であることが確認された。
【0039】
試験例5
次に本発明の植物栽培剤の噴霧性の評価を行った結果を表2に示す。
表2は室温下において、市販のスプレー容器を用いて本発明の植物栽培剤の噴霧テストを行った結果を示す。判定は以下の基準で行った。
○:均一にミストが広がり出た。
△:時々不均一になった、または広がり幅が狭くなった。
×:噴霧できなかった。
表2に示す様に本発明の植物栽培剤において媒体中のセルロースナノ繊維含有量が3.0質量%までであれば均一にミストが広がり出たが4.0質量%になるとミストが時々不均一になり、また広がり幅が狭くなった。さらに5.0質量%になると噴霧できなかった。この結果から、本発明の植物栽培剤を噴霧剤として使用する場合には媒体中のセルロースナノ繊維含有量を5.0質量%未満、好ましくは4.0質量%以下、最も好ましくは3.0質量%以下とするのが良い。
【0040】
【表2】
【0041】
本発明の植物栽培剤が環境負荷が小さく安全性の高いものであることを示すテスト結果を以下に説明する。
中越パルプ工業株式会社製の以下の化1に示す構造式で化2に示す分子式の分子量86000程度のセルロースナノ繊維(以下「nanoforest-S」と記す)を用い、7週齢の雄Crl:CD1(ICR)マウスの小核誘発能の有無を検討した。投与は24時間間隔の2回連続強制経口投与とした。
【0042】
【化1】







【0043】
【化2】

【0044】
90.0~360 mg/kg/dayを設定した予備試験において、動物の死亡を指標とした被験物質の最大耐量が、雌雄のいずれにおいても360 mg/kg/day以上と推定された。したがって、実施可能な最大用量である360 mg/kg/dayを被験物質の最高用量とし、公比2で希釈した180及び90.0 mg/kg/dayの計3用量を設定し、小核試験を実施した。毒性に性差がないと判断されたため、動物は雄のみを使用した。対照群には、陰性対照群及び陽性対照群を設定し、陰性対照群には媒体(蒸留水)を20 mL/kgで2回連続の強制経口投与を行った。陽性対照群にはマイトマイシンCを2 mg/kg/dayで単回腹腔内投与を行った。
小核試験では、標本作製時期とした2回目投与24時間後においても、最高用量の360 mg/kg/dayまでの被験物質群のすべての用量で死亡はみられなかったため、設定した3用量を被験物質の標本観察用量とし、骨髄細胞の小核を有する多染性赤血球の出現頻度(MNPCE/PCE)を調べた。
標本観察した被験物質群のすべての用量において、MNPCE/PCEは、陰性対照の背景データの範囲内であったため、被験物質投与により小核を有する多染性赤血球の出現は増加しないものと判断した。
以上の結果から、nanoforest-Sは、本試験条件下では小核を誘発しないものと判断した
【0045】
・EpiOcularTM EIT(OCL-200)を用いて、nanoforest-Sの眼刺激性の有無を評価した。
眼刺激性試験において、nanoforest-Sの細胞生存率は99.8%となり、判定基準である60%を超えた。
したがって、本試験条件下では、nanoforest-Sは「非刺激性(Non-irritant)」(UN GHS区分外)と判定された。
【0046】
・LabCyte EPI-MODEL24 SITを用いて、nanoforest-Sの皮膚刺激性の有無を評価した。
皮膚刺激性試験において、nanoforest-Sの細胞生存率は104.5%となり、判定基準である50%を超えた。
したがって、本試験条件下では、nanoforest-Sは「非刺激性(Non-irritant)」(UN GHS区分外(区分3を含む))と判定された。
【0047】
・チャイニーズハムスターの肺線維芽細胞(CHL/IU細胞)を用い、nanoforest-Sの染色体異常誘発能の有無を検討した。
染色体異常試験の結果、構造異常を持つ細胞及び数的異常細胞の出現頻度は、短時間処理法のS9 mix非存在下及びS9 mix存在下並びに24時間連続処理法のいずれにおいても、観察したすべての被験物質用量で、陰性対照の背景データの範囲内であったため、構造異常及び数的異常ともに陰性と判定した。
以上の結果から、nanoforest-Sは、本試験条件下では染色体異常を誘発しないものと判断した。
【符号の説明】
【0048】
2・・・チャンバー、4・・・液状媒体供給経路、8,11・・・ポンプ、7,10・・・タンク、12・・・熱交換器、13・・・プランジャ、9・・・循環路、3・・・セルローススラリ供給経路、14・・・オリフィス噴射口、26a、b・・・貫通孔。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9