(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107982
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】未成熟卵母細胞の誘導方法及び成熟卵母細胞の作製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20230727BHJP
【FI】
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098431
(22)【出願日】2023-06-15
(62)【分割の表示】P 2019166578の分割
【原出願日】2019-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】522228333
【氏名又は名称】株式会社Dioseve
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼崎 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】林 克彦
(57)【要約】
【課題】従来よりも短期間の培養で簡便に多能性幹細胞等の卵母細胞への分化能を有する
細胞から未成熟卵母細胞を誘導する方法を提供する。
【解決手段】未成熟卵母細胞の誘導方法は、FIGLA、NOBOX、LHX8及びTB
PL2からなる4種類の遺伝子、又はそれらの転写物若しくは発現タンパク質を多能性幹
細胞、エピブラスト様細胞及び始原生殖細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種の細
胞に導入することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FIGLA、NOBOX、LHX8及びTBPL2からなる4種類の遺伝子、又はそれ
らの転写物若しくは発現タンパク質を多能性幹細胞、エピブラスト様細胞及び始原生殖細
胞からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞に導入することを含む、未成熟卵母細胞
の誘導方法。
【請求項2】
FIGLA、NOBOX、LHX8及びTBPL2からなる4種類の遺伝子を前記細胞
に導入することを含む、請求項1に記載の未成熟卵母細胞の誘導方法。
【請求項3】
STAT3の遺伝子、又はその転写物若しくは発現タンパク質を前記細胞に更に導入す
ることを含む、請求項1又は2に記載の未成熟卵母細胞の誘導方法。
【請求項4】
SOHLH1、SUB1及びDYNLL1からなる群より選ばれる1種以上の遺伝子、
又はそれらの転写物若しくは発現タンパク質を前記細胞に更に導入することを含む、請求
項1~3のいずれか一項に記載の未成熟卵母細胞の誘導方法。
【請求項5】
SOHLH1、SUB1及びDYNLL1からなる3種類の遺伝子を前記細胞に更に導
入することを含む、請求項4に記載の未成熟卵母細胞の誘導方法。
【請求項6】
前記細胞が多能性幹細胞である、請求項1~5のいずれか一項に記載の未成熟卵母細胞
の誘導方法。
【請求項7】
前記遺伝子の発現が発現誘導物質の存在により誘導されるように制御されており、
前記導入後に、前記細胞を増殖させることと、
前記増殖後に、前記発現誘導物質を培地に添加し、前記遺伝子の発現を誘導することと
、をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の未成熟卵母細胞の誘導方法。
【請求項8】
FIGLA、NOBOX、LHX8及びTBPL2からなる4種類の遺伝子、又はそれ
ら転写物若しくは発現タンパク質を多能性幹細胞、エピブラスト様細胞及び始原生殖細胞
からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞に導入することと、
導入後の前記細胞及び卵巣体細胞を共培養することと、
を含む、成熟卵母細胞の作製方法。
【請求項9】
STAT3の遺伝子、又はその転写物若しくは発現タンパク質を前記細胞に更に導入す
ることを含む、請求項8に記載の成熟卵母細胞の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未成熟卵母細胞の誘導方法及び成熟卵母細胞の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物において、一細胞からの個体発生能として定義される全能性は単細胞に備わる
特別な性質である。しかしながら、こうした全能性を形成するメカニズムは、不妊治療等
の社会的要望が強い分野にも関わらず、難航している。その原因は、胎児卵巣で進行する
卵形成過程を体外で再現できないことにある。
【0003】
発明者らはこれまでにマウス多能性幹細胞から卵母細胞を再構築するインビトロ培養系
を開発している。具体的には、マウスES細胞又はiPS細胞をBMP4等の液性因子を
含む培地を用いて始原生殖細胞様細胞(PGCLCs)に分化誘導し、得られたPGCL
Csを卵巣体細胞と混合させて再構築卵巣を作製する。次いで、該再構築卵巣においてP
GCLCsから第2減数分裂中期卵の形成までの期間を「in vitro分化期間」、
「in vitro成長期間」及び「in vitro成熟期間」の3つの期間に分割し
、それぞれの培養期間において、2次卵胞、卵核胞期卵、第2減数分裂中期卵を得るため
に最適な培養条件を確立している(例えば、非特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Hikabe O et al., “Reconstitution in vitro of the entire cycle of the mouse female germ line.”, Nature, Vol. 539, p299-303, 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法では、マウス多能性幹細胞から原始卵胞の卵
母細胞を得るために、3週間以上4週間以下程度の期間が必要であり、また、霊長類やそ
の他大型哺乳動物において多能性幹細胞から卵母細胞をインビトロ培養系で作製するため
には1年以上の培養が必要になることが見込まれている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、従来よりも短期間の培養で簡便に
多能性幹細胞等の卵母細胞への分化能を有する細胞から未成熟卵母細胞を誘導する方法を
提供する。また、従来よりも短期間の培養で簡便に多能性幹細胞等の卵母細胞への分化能
を有する細胞から成熟卵母細胞を作製する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、卵母細胞の形成に関与する
特定の遺伝子を多能性幹細胞に導入し5日間以上10日間以下程度の短期間培養すること
で未成熟卵母細胞に分化誘導できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
本発明の第1態様に係る未成熟卵母細胞の誘導方法は、FIGLA、NOBOX、LH
X8及びTBPL2からなる4種類の遺伝子、又はそれらの転写物若しくは発現タンパク
質を多能性幹細胞、エピブラスト様細胞及び始原生殖細胞からなる群より選ばれる少なく
とも1種の細胞に導入することを含む。
上記第1態様に係る未成熟卵母細胞の誘導方法は、FIGLA、NOBOX、LHX8
及びTBPL2からなる4種類の遺伝子を前記細胞に導入することを含んでもよい。
上記第1態様に係る未成熟卵母細胞の誘導方法は、STAT3の遺伝子、又はその転写
物若しくは発現タンパク質を前記細胞に更に導入することを含んでもよい。
上記第1態様に係る未成熟卵母細胞の誘導方法は、SOHLH1、SUB1及びDYN
LL1からなる群より選ばれる1種以上の遺伝子、又はそれらの転写物若しくは発現タン
パク質を前記細胞に更に導入することを含んでもよい。
上記第1態様に係る未成熟卵母細胞の誘導方法は、SOHLH1、SUB1及びDYN
LL1からなる3種類の遺伝子を前記細胞に更に導入することを含んでもよい。
前記細胞が多能性幹細胞であってもよい。
上記第1態様に係る未成熟卵母細胞の誘導方法において、前記遺伝子の発現が発現誘導
物質の存在により誘導されるように制御されており、
前記導入後に、前記細胞を増殖させることと、
前記増殖後に、前記発現誘導物質を培地に添加し、前記遺伝子の発現を誘導することと
、をさらに含んでもよい。
【0009】
本発明の第2態様に係る成熟卵母細胞の作製方法は、
FIGLA、NOBOX、LHX8及びTBPL2からなる4種類の遺伝子、又はそれ
らの転写物若しくは発現タンパク質を多能性幹細胞及び始原生殖細胞からなる群より選ば
れる少なくとも1種の細胞に導入することと、
導入後の前記細胞及び卵巣体細胞を共培養することと、
を含む。
上記第2態様に係る成熟卵母細胞の作製方法は、STAT3の遺伝子、又はその転写物
若しくは発現タンパク質を前記細胞に更に導入することを含んでもよい。
【発明の効果】
【0010】
上記態様の未成熟卵母細胞の誘導方法によれば、従来よりも短期間の培養で簡便に多能
性幹細胞等の卵母細胞への分化能を有する細胞から未成熟卵母細胞を誘導することができ
る。上記態様の成熟卵母細胞の作製方法によれば、従来よりも短期間の培養で簡便に多能
性幹細胞等の卵母細胞への分化能を有する細胞から成熟卵母細胞を大量に作製することが
できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1におけるマウスES細胞から誘導された未成熟卵母細胞の明視野像及び蛍光像(倍率:200倍)である。
【
図2】実施例1における各培養日数での卵母細胞形成遺伝子が導入された多能性幹細胞と卵巣体細胞とからなる凝集塊の蛍光像(倍率:8倍)である。上段では、生殖細胞及び卵母細胞マーカーであるStellaの発現制御下に発現させている改良されたシアン蛍光タンパク質(Enhanced cyan fluorescent protein;ECFP)の蛍光により、卵母細胞を可視化した。下段では、活性化(成熟)卵母細胞マーカーであるNucleoplasmin 2(Npm2)の発現制御下に発現させている赤色蛍光タンパク質mCherryの蛍光により、卵母細胞を可視化した。
【
図3】実施例2におけるマウスiPS細胞から誘導された未成熟卵母細胞の明視野像及び蛍光像(倍率:8倍)である。
【
図4】実施例3における卵母細胞形成遺伝子中の重要因子を同定した結果を示す図である。左の図において、縦軸はサンプル名、横軸は卵母細胞形成遺伝子の種類を示している。白抜きの欄は当該遺伝子が導入されていないことを示している。中央の図は、各細胞株から形成された卵母細胞の数を示している。右の図は、各サンプルでのStella遺伝子の下流に発現させている青色蛍光タンパク質CFPの蛍光面積から算出された、卵母細胞の面積を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<未成熟卵母細胞の誘導方法>
一実施形態において、本発明は、FIGLA、NOBOX、LHX8及びTBPL2か
らなる4種類の遺伝子、又はそれらの転写物若しくは発現タンパク質を多能性幹細胞、エ
ピブラスト様細胞及び始原生殖細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞(以下
、これらの細胞を総じて「卵母細胞への分化能を有する細胞」と称する場合がある)に導
入することを含む、未成熟卵母細胞の誘導方法を提供する。
【0013】
従来の方法では、マウスの場合に、in vitroで多能性幹細胞から未成熟卵母細
胞まで分化誘導するために、1か月弱程度の時間を要し、また、in vitroで始原
生殖細胞から未成熟卵母細胞まで分化誘導するために、約11日程度要していた。これに
対して、本実施形態の未成熟卵母細胞の誘導方法では、多能性幹細胞等の卵母細胞への分
化能を有する細胞に上記4種類の遺伝子を導入し、5日間以上10日間以下程度の短期間
培養することで、未成熟卵母細胞に分化誘導することができる。さらにヒトの場合は、生
体では始原生殖細胞から未成熟卵母細胞まで分化誘導するために、9ヶ月以上の期間を有
するが、本実施形態の未成熟卵母細胞の誘導方法を用いることで、当該期間を劇的に短縮
することができる。
【0014】
また、従来の方法では、多能性幹細胞からPGCLCsに分化誘導し、該PGCLCs
をさらに未成熟卵母細胞に分化誘導するために、培養条件の異なる少なくとも2段階の工
程を経る必要があった。これに対して、本実施形態の未成熟卵母細胞の誘導方法では、多
能性幹細胞を未成熟卵母細胞に直接分化誘導することができる。
【0015】
なお、本明細書において、「未成熟卵母細胞」とは、卵胞成長を経ていない1次卵母細
胞(primary oocyte)のことである。未成熟卵母細胞は、必ずしも卵胞構
造をとる必要はない。また、未成熟卵母細胞では、後述する実施例に示すように、卵母細
胞マーカーであるStella遺伝子やPadi6遺伝子等の一部の母性効果遺伝子を発
現している。
また、本明細書において、「卵胞」とは、卵母細胞とそれを取り巻く体細胞(顆粒膜細
胞及び莢膜細胞)とからなるものである。
本実施形態の未成熟卵母細胞の誘導方法について、以下に詳細を説明する。
【0016】
[卵母細胞形成遺伝子]
多能性幹細胞等の卵母細胞への分化能を有する細胞への導入に用いられる卵母細胞形成
遺伝子は、発明者らがこれまで卵母細胞系列における遺伝子の発現動態をRNAシークエ
ンシング(RNA-Seq)解析を行なうことで同定したものである。卵母細胞形成遺伝
子として具体的には、例えば、FIGLA、NOBOX、SOHLH1、LHX8、SU
B1、STAT3、TBPL2、DYNLL1等が挙げられる。後述の実施例に示すよう
に、FIGLA、NOBOX、LHX8及びTBPL2からなる4種類の遺伝子が多能性
幹細胞から未成熟卵母細胞への誘導に特に重要である。よって、上述の卵母細胞形成遺伝
子の中でも、少なくともFIGLA、NOBOX、LHX8及びTBPL2からなる4種
類の遺伝子又はそれらの転写物若しくは発現タンパク質を細胞に導入することで、卵母細
胞への分化能を有する細胞を未成熟卵母細胞に誘導することができる。
【0017】
また、上記4種類の遺伝子又はそれらの転写物若しくは発現タンパク質に加えて、ST
AT3遺伝子、又はその転写物若しくは発現タンパク質を更に導入することが好ましく、
STAT3遺伝子を更に導入することがより好ましい。後述する実施例に示すように、F
IGLA、NOBOX、LHX8及びTBPL2に加えて、STAT3を細胞に導入する
ことで、卵母細胞の形成率をより向上させることができる。
【0018】
また、FIGLA、NOBOX、LHX8、TBPL2及びSTAT3の5種類の遺伝
子又はそれらの転写物若しくは発現タンパク質に加えて、さらに、SOHLH1、SUB
1及びDYNLL1からなる群より選ばれる1種以上の遺伝子、又はそれらの転写物若し
くは発現タンパク質を更に導入することが好ましく、SOHLH1、SUB1及びDYN
LL1からなる3種類の遺伝子、又はそれらの転写物若しくは発現タンパク質を更に導入
することがより好ましい。後述する実施例に示すように、上記全8種類の遺伝子、又はそ
れらの転写物若しくは発現タンパク質を細胞に導入することで、卵母細胞への分化能を有
する細胞を未成熟卵母細胞により効率よく誘導することができる。
【0019】
なお、FIGLA遺伝子は、複数の卵母細胞特異的遺伝子(卵胞形成に関与する遺伝子
及び透明帯(ZP1、ZP2及びZP3)をコードする遺伝子を含む)を調節する塩基性
ヘリックス-ループ-ヘリックス(bHLH)転写因子をコードしている。転写因子FI
GLAは、ZP(ZP1、ZP2及びZP3)プロモーターのE-box(5’-CAN
NTG-3’)に結合する。FIGLAに関連した疾患としては、例えば、早発卵巣不全
(6型)、仮性半陰陽等が挙げられる。FIGLAの遺伝子オントロジー(GO)アノテ
ーションには、配列特異的DNA結合性及びタンパク質二量体化活性が含まれる。FIG
LAの重要なパラログは、SCXである。FIGLAは、Folliculogenes
is Specific BHLH Transcription Factor、Fa
ctor In The Germline Alpha、Folliculogene
sis-Specific Basic Helix-Loop-Helix Prot
ein、Transcription Factor FIGa、BHLHC8(BHL
Hc8)、Folliculogenesis Specific Basic Hel
ix-Loop-Helix、FIGALPHA(FIGalpha)、POF6とも呼
ばれる。
【0020】
FIGLA遺伝子等の卵母細胞形成遺伝子の塩基配列、該遺伝子のmRNAの塩基配列
、及び該遺伝子がコードしているタンパク質のアミノ酸配列の情報は、Genbank等
のデータベースから入手できる。
【0021】
ヒトFIGLA遺伝子の塩基配列は、例えば、Genbankの「Gene ID:3
44018」として開示されている。ヒトFIGLA遺伝子のmRNAの塩基配列は、例
えば、Genbankのアクセッション番号NM_001004311として開示されて
いる。ヒトFIGLAのアミノ酸配列はGenbankのアクセッション番号NP_00
1004311として開示されている。
【0022】
マウスFIGLA遺伝子の塩基配列は、例えば、Genbankの「Gene ID:
26910」として開示されている。マウスFIGLA遺伝子のmRNAの塩基配列は、
例えば、Genbankのアクセッション番号NM_012013として開示されている
。マウスFIGLAのアミノ酸配列はGenbankのアクセッション番号NP_036
143として開示されている。
【0023】
NOBOX遺伝子は、卵形成に関与する転写因子をコードしている。NOBOXに関連
した疾患としては、例えば、早発卵巣不全(5型)等が挙げられる。NOBOXのGOア
ノテーションには、DNA結合性転写因子活性及びRNAポリメラーゼII近傍プロモー
ター配列特異的なDNA結合性が含まれる。具体的には、「5’-TAATTG-3’」
、「5’-TAGTTG-3’」及び「5’-TAATTA-3’」等の塩基配列に好ま
しく結合する。NOBOXの重要なパラログは、UNCXである。NOBOXは、NOB
OX Oogenesis Homeobox、Homeobox Protein N
OBOX、Newborn Ovary Homeobox-Encoding Gen
e、Newborn Ovary Homeobox-Encoding、TCAG_1
2042、OG-2(OG2)、OG2X、POF5とも呼ばれる。
【0024】
ヒトNOBOX遺伝子の塩基配列は、例えば、Genbankの「Gene ID:1
35935」として開示されている。ヒトNOBOX遺伝子のmRNAの塩基配列は、例
えば、Genbankのアクセッション番号NM_001080413、XM_0011
34420として開示されている。ヒトNOBOXのアミノ酸配列はGenbankのア
クセッション番号NP_001073882、XP_001134420として開示され
ている。
【0025】
マウスNOBOX遺伝子の塩基配列は、例えば、Genbankの「Gene ID:
18291」として開示されている。マウスNOBOX遺伝子のmRNAの塩基配列は、
例えば、Genbankのアクセッション番号NM_130869として開示されている
。マウスNOBOXのアミノ酸配列はGenbankのアクセッション番号NP_570
939として開示されている。
【0026】
SOHLH1遺伝子は、精子形成、卵形成及び卵胞形成に必須の生殖巣特異的な転写因
子の一つであり、塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックス(bHLH)転写因子をコード
している。SOHLH1は第1減数分裂に影響を与えずに卵母細胞の分化を調整する役割
を有する。SOHLH1に関連した疾患としては、例えば、非閉塞性無精子症、卵巣形成
不全等が挙げられる。SOHLH1のGOアノテーションには、DNA結合性転写因子活
性及びタンパク質二量体化活性が含まれる。SOHLH1遺伝子の重要なパラログは、S
OHLH2である。SOHLH1は、Spermatogenesis And Oog
enesis Specific Basic Helix-Loop-Helix 1
、Spermatogenesis-And Oogenesis-Specific
Basic Helix-Loop-Helix-Containing Protei
n 1、Spermatogenesis Associated 27、C9orf1
57、NOHLH、TEB2、Chromosome 9 Open Reading
Frame 157、Newborn Ovary Helix Loop Helix
、BA100C15.3、SPATA27、BHLHe80、SPGF32、ODG5と
も呼ばれる。
【0027】
ヒトSOHLH1遺伝子の塩基配列は、例えば、Genbankの「Gene ID:
402381」として開示されている。ヒトSOHLH1遺伝子のmRNAの塩基配列は
、例えば、Genbankのアクセッション番号NM_001012415、XM_49
7082として開示されている。ヒトSOHLH1のアミノ酸配列はGenbankのア
クセッション番号NP_001012415、XP_497082として開示されている
。
【0028】
マウスSOHLH1遺伝子の塩基配列は、例えば、Genbankの「Gene ID
:227631」として開示されており、マウスSOHLH1遺伝子のmRNAの塩基配
列は、例えば、Genbankのアクセッション番号NM_001001714、XM_
130180として開示されており、マウスSOHLH1のアミノ酸配列はGenban
kのアクセッション番号NP_001001714、XP_130180として開示され
ている。
【0029】
LHX8は、LIMホメオボックスファミリーのタンパク質のメンバーであり、様々な
組織のパターン形成及び分化に関与している。LIMホメオボックスファミリーのタンパ
ク質は、DNA結合ホメオドメインに加えて、LIMドメインとして知られている、2つ
のタンデムに反復したシステインに富んだダブルジンクフィンガーモチーフを含む。LI
Mホメオボックスファミリーのタンパク質は、歯の形態形成、卵形成及びニューロン分化
に関与する転写因子である。LHX8遺伝子に関連した疾患としては、例えば、口蓋裂、
歯牙腫等が挙げられる。LHX8は、LIM Homeobox 8、LIM/Home
obox Protein Lhx8、LIM-Homeodomain Protein
Lhx8、LIM Homeobox Protein 8、LHX7とも呼ばれる。
【0030】
ヒトLHX8遺伝子の塩基配列は、例えば、Genbankの「Gene ID:43
1707」として開示されている。ヒトLHX8遺伝子のmRNAの塩基配列は、例えば
、Genbankのアクセッション番号NM_001001933、XM_086344
、NM_001256114、XM_017001316、XM_017001317と
して開示されている。ヒトLHX8のアミノ酸配列はGenbankのアクセッション番
号NP_001001933、XP_086344、NP_001243043、XP_
016856805、XP_016856806として開示されている。
【0031】
マウスLHX8遺伝子の塩基配列は、例えば、Genbankの「Gene ID:1
6875」として開示されている。マウスLHX8遺伝子のmRNAの塩基配列は、例え
ば、Genbankのアクセッション番号NM_010713、XM_00650107
2、XM_017319470として開示されている。マウスLHX8のアミノ酸配列は
Genbankのアクセッション番号NP_034843、XP_006501135、
XP_017174959として開示されている。
【0032】
SUB1遺伝子は、転写調節因子をコードする遺伝子である。SUB1は、TAFと協
調して機能し、上流のアクチベーター及び一般的な転写機能間の機能的相互作用を仲介す
るコアクチベーターとして働く。SUB1に関連する疾患としては、例えば、爪白癬等が
挙げられる。SUB1のGOアノテーションには、一本鎖DNA結合性が含まれる。SU
B1は、SUB1 Homolog, Transcriptional Regula
tor、Positive Cofactor 4、Activated RNA Po
lymerase II Transcriptional Coactivator
P15、PC4、P14、Activated RNA Polymerase II
Transcription Cofactor 4、RPO2TC1、P15とも呼ば
れる。
【0033】
ヒトSUB1遺伝子の塩基配列は、例えば、Genbankの「Gene ID:10
923」として開示されている。ヒトSUB1遺伝子のmRNAの塩基配列は、例えば、
Genbankのアクセッション番号NM_006713、XM_017008986、
XM_017008987、XM_011513944として開示されている。ヒトSU
B1のアミノ酸配列はGenbankのアクセッション番号NP_006704、XP_
016864475、XP_016864476、XP_011512246として開示
されている。
【0034】
マウスSUB1遺伝子の塩基配列は、例えば、Genbankの「Gene ID:2
0024」として開示されている。マウスSUB1遺伝子のmRNAの塩基配列は、例え
ば、Genbankのアクセッション番号NM_011294、XM_00652004
2として開示されている。マウスSUB1のアミノ酸配列はGenbankのアクセッシ
ョン番号NP_035424、XP_006520105として開示されている。
【0035】
STAT3は、STATタンパク質ファミリーメンバーである。STATタンパク質フ
ァミリーは、インターフェロン(IFN)、上皮成長因子(EGF)、インターロイキン
5(IL5)、インターロイキン6(IL6)、肝細胞増殖因子(HGF)、白血病抑制
因子(LIF)、骨形成タンパク質2(BMP2)等のサイトカイン及び成長因子に応答
して、受容体関連キナーゼにリン酸化され、次いで、ホモ又はヘテロダイマーを形成し、
それらが転写活性因子として作用する細胞核に移行し、細胞増殖やアポトーシス等の多く
の細胞プロセスにおいて重要な役割を果たしている。STAT3に関連する疾患としては
、例えば、幼児期発症多臓器性自己免疫疾患、常染色体優性の高IgE症候群等が挙げら
れる。STAT3のGOアノテーションには、DNA結合性転写因子活性及び配列特異的
DNA結合性が含まれる。STAT3遺伝子の重要なパラログはSTAT1である。ST
AT3は、Signal Transducer And Activator Of
Transcription3、Acute-Phase Response Fact
or、APRF、Signal Transducer And Activator
Of Transcription 3、DNA-Binding Protein A
PRF、ADMIO1、ADMIO、HIESとも呼ばれる。
【0036】
ヒトSTAT3遺伝子の塩基配列は、例えば、Genbankの「Gene ID:6
774」として開示されている。ヒトSTAT3遺伝子のmRNAの塩基配列は、例えば
、Genbankのアクセッション番号NM_001369512、NM_001369
513、NM_001369514、NM_001369516、NM_0013695
17、NM_001369518、NM_001369519、NM_00136952
0、NM_003150、NM_139276、NM_213662、XM_01702
4973、XM_011525146、XM_011525145、XM_017024
972、XM_005257617、XM_005257616、XM_0170249
75、XM_024450896、XM_017024974、XM_01702497
6として開示されている。ヒトSTAT3のアミノ酸配列はGenbankのアクセッシ
ョン番号NP_001356441、NP_001356442、NP_0013564
43、NP_001356445、NP_001356446、NP_00135644
7、NP_001356448、NP_001356449、NP_003141、NP
_644805、NP_998827、XP_016880462、XP_011523
448、XP_011523447、XP_016880461、XP_0052576
74、XP_005257673、XP_016880464、XP_02430666
4、XP_016880463、XP_016880465として開示されている。
【0037】
マウスSTAT3遺伝子の塩基配列は、例えば、Genbankの「Gene ID:
20848」として開示されている。マウスSTAT3遺伝子のmRNAの塩基配列は、
例えば、Genbankのアクセッション番号NM_011486、NM_213659
、NM_213660、XM_011248846、XM_017314401として開
示されている。マウスSTAT3のアミノ酸配列はGenbankのアクセッション番号
NP_035616、NP_998824、NP_998825、XP_0112471
48、XP_017169890として開示されている。
【0038】
TBPL2遺伝子は、TATAボックス結合タンパク質様2をコードする遺伝子である
。TBPL2は、筋芽細胞の筋細胞への分化を誘導するために、TAF3と複合体を形成
する転写因子であり、該複合体は、分化の初期段階で特定のプロモーターにおいてTFI
IDを置換する。TBPL2に関連する疾患としては、例えば、網膜色素変性等が挙げら
れる。TBPL2のGOアノテーションには、DNA結合性転写因子活性が含まれる。T
BPL2遺伝子の重要なパラログはTBPである。TBPL2は、TATA-Box B
inding Protein Like 2、TATA Box-Binding P
rotein-Related Factor 3、TATA Box-Binding
Protein-Like Protein 2、TBP-Related Fact
or 3、TBP-Like Protein 2、TBP2、TRF3とも呼ばれる。
【0039】
ヒトTBPL2遺伝子の塩基配列は、例えば、Genbankの「Gene ID:3
87332」として開示されている。ヒトTBPL2遺伝子のmRNAの塩基配列は、例
えば、Genbankのアクセッション番号NM_199047として開示されている。
ヒトTBPL2のアミノ酸配列はGenbankのアクセッション番号NP_95024
8として開示されている。
【0040】
マウスTBPL2遺伝子の塩基配列は、例えば、Genbankの「Gene ID:
227606」として開示されている。マウスTBPL2遺伝子のmRNAの塩基配列は
、例えば、Genbankのアクセッション番号NM_001289689、NM_19
9059として開示されている。マウスTBPL2のアミノ酸配列はGenbankのア
クセッション番号NP_001276618、NP_951014として開示されている
。
【0041】
DYNLL1遺伝子は、分子量約1200kDaの酵素複合体である細胞質ダイニンを
構成するタンパク質のうち、軽鎖に分類されるタンパク質をコードする遺伝子である。D
YNLL1に関連する疾患としては、例えば、慢性腸管静脈不全等が挙げられる。DYN
LL1のGOアノテーションには、タンパク質ホモ二量体化活性及びタンパク質ドメイン
特異的結合性が含まれる。DYNLL1遺伝子の重要なパラログはDYNLL2である。
DYNLL1は、Dynein Light Chain LC8-Type 1、Pr
otein Inhibitor Of Neuronal Nitric Oxide
Synthase、Dynein, Cytoplasmic, Light Pol
ypeptide 1、Dynein Light Chain 1, Cytopla
smic、8 KDa Dynein Light Chain、DNCLC1、DNC
L1、DLC1、DLC8、PIN、Cytoplasmic Dynein Ligh
t Polypeptide、Hdlc1(HDLC1)、LC8a、LC8とも呼ばれ
る。
【0042】
ヒトDYNLL1遺伝子の塩基配列は、例えば、Genbankの「Gene ID:
8655」として開示されている。ヒトDYNLL1遺伝子のmRNAの塩基配列は、例
えば、Genbankのアクセッション番号NM_001037494、NM_0010
37495、NM_003746として開示されている。ヒトDYNLL1のアミノ酸配
列はGenbankのアクセッション番号NP_001032583、NP_00103
2584、NP_003737として開示されている。
【0043】
マウスDYNLL1遺伝子の塩基配列は、例えば、Genbankの「Gene ID
:56455」として開示されている。マウスDYNLL1遺伝子のmRNAの塩基配列
は、例えば、Genbankのアクセッション番号NM_019682として開示されて
いる。マウスDYNLL1のアミノ酸配列はGenbankのアクセッション番号NP_
062656として開示されている。
【0044】
[卵母細胞への分化能を有する細胞]
本実施形態の未成熟卵母細胞の誘導方法で用いられる卵母細胞への分化能を有する細胞
としては、多能性幹細胞、エピブラスト様細胞(EpiLCs)及び始原生殖細胞からな
る群より選ばれる少なくとも1種の細胞であることが好ましい。
【0045】
(多能性幹細胞)
本明細書において、「多能性幹細胞」とは、未分化状態を保持したまま増殖できる「自
己再生能」と三胚葉系列すべてに分化できる「分化多能性」とを有する未分化細胞を意味
する。多能性幹細胞としては、以下に限定されないが、例えば、人工多能性幹細胞(iP
S細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、始原生殖細胞に由来する胚性生殖細胞(EG細胞)
、精巣組織からのGS(Germline Stem)細胞の樹立培養過程で単離される
multipotent GS細胞(mGS細胞)、骨髄間葉系細胞から単離されるMu
se細胞等が挙げられる。なお、ES細胞は体細胞から核初期化されて生じたES細胞で
あってもよい。上記に列挙した多能性幹細胞は、それぞれ公知の方法により得ることがで
きる。
【0046】
本明細書において、「iPS細胞」とは、分化した体細胞にいくつかの遺伝子を導入す
ることによって様々な組織や器官の細胞へのリプログラミングが可能となった細胞を意味
する。本実施形態の未成熟卵母細胞の誘導方法で用いられるiPS細胞は、適当なドナー
から採取した体細胞の初代培養細胞由来であってもよく、樹立細胞株由来であってもよい
。iPS細胞は、いかなる胚葉系細胞にも分化誘導が可能であることから、iPS細胞の
調製に用いる体細胞は、原則的には外胚葉系及び内胚葉系のいずれの胚葉系細胞由来のも
のであってもよい。侵襲性が低く採取が容易な皮膚、髪の毛、歯肉、血液等の細胞は、i
PS細胞の調製に用いる体細胞として好適である。iPS細胞の調製方法については、当
該分野で公知の方法に従えばよい。具体的には、例えば、「Okita K. et al., “Genera
tion of germline-competent induced pluripotent stem cells.”, Nature, Vol. 448,
p313-317, 2007.」(参考文献1)、「Hamanaka S. et al., “Generation of germline-
competent rat induced pluripotent stem cells.”, PLoS One, Vol. 6, Issue 7, e220
08, 2011.」(参考文献2)等の公知の文献に記載されている調製方法を利用できる。
【0047】
本実施形態の未成熟卵母細胞の誘導方法で用いられるES細胞は、公知の方法により得
ることができる。例えば、対象動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を採取し、当該内部
細胞塊を繊維芽細胞に由来するフィーダー細胞上で培養することによって樹立することが
できる。その他、体細胞の核を核移植することによって作製された初期胚を培養すること
によって樹立したES細胞も使用することができる。また、後述する実施例に示すように
、ES細胞は、フィーダー細胞を用いずに、2i(2 inhibitor;PD032
5901及びCHIR99021)、並びにLIF(Leukemia Inhibit
ory Factor)を添加した無血清培地で維持培養することができる(参考文献3
:「Ying QL et al., “The ground state of embryonic stem cell self-renewal.”, N
ature, Vol. 453, No. 7194, p519-523, 2008.」)。
【0048】
(エピブラスト様細胞)
なお、本明細書において、「エピブラスト様細胞(EpiLCs)」は、多能性幹細胞
(例えば、iPS細胞、ES細胞等)から特定の培養条件で分化させた細胞であり、エピ
ブラスト(生体内で始原生殖細胞へと分化する組織)によく似た特徴を有する。
多能性幹細胞(iPS細胞又はES細胞)からEpiLCsを分化誘導する方法は、公
知の方法、例えば、特表2013-538038号公報(参考文献4)や、「Hayashi K.
et al., “Reconstitution of the mouse germ cell specification pathway in cultur
e by pluripotent stem cells.”, Cell, Vol. 146, No. 4, p519-532, 2011.」(参考
文献5)等を参考にして行なうことができる。
【0049】
(始原生殖細胞)
また、本明細書において、「始原生殖細胞」とは、生殖細胞へ分化する予定の細胞であ
り、減数分裂を経て最終的に卵子や精子に分化する細胞を意味する。始原生殖細胞は、生
体由来のものであってもよく、多能性幹細胞より分化誘導した始原生殖細胞様細胞(PG
CLCs)であってもよい。生体より始原生殖細胞を回収する場合には、例えば、雌マウ
スの胎仔(11.5日齢から12.5日齢まで)より生殖巣とともに回収することができ
る。なお、生体より生殖巣を回収する際には、中腎を伴う形で回収してもよく、中腎を切
り離しても回収してもよい。
【0050】
また、上述のとおり、「始原生殖細胞」には多能性幹細胞より分化した始原生殖細胞様
細胞が含まれる。多能性幹細胞(iPS細胞又はES細胞)からPGCLCsを分化誘導
する方法は、公知の方法、例えば、上記参考文献5等を参考にして行うことができる。
【0051】
なお、多能性幹細胞由来のPGCLCsを始原生殖細胞として用いる場合には、分化誘
導させた多能性幹細胞集団から未分化な状態の細胞を予め取り除くことが好ましい。この
ような方法は公知であり、例えば、多能性幹細胞に、始原生殖細胞のマーカー遺伝子であ
るBlimp1とレポータータンパクとが結合した融合タンパクをコードする核酸を導入
しておくことで、多能性幹細胞より分化誘導されたPGCLCsと未分化な細胞とをFl
uorescence-activated cell sorting(FACS)法
等により容易に分離することができる。
【0052】
また、「始原生殖細胞」には生体由来の始原生殖細胞や多能性幹細胞由来の始原生殖細
胞様細胞の遺伝子を遺伝子工学の手法を用いて改変した細胞も含まれる。生体由来の始原
生殖細胞及び多能性幹細胞由来の始原生殖細胞様細胞の遺伝子を改変する方法としては、
CRISPRシステム、Transcription Activator-Like
Effector Nucleases(TALEN)を用いた方法、ジンクフィンガー
ヌクレアーゼを用いた方法、相同組み換え法等の公知のゲノム編集法を用いて、目的とす
る核酸やベクター等の導入を行うことができる。核酸やベクター等の導入法としては、例
えば、顕微注入法(マイクロインジェクション)、エレクトロポレーション法、リポフェ
クション法、ウイルスベクターを用いた核酸導入法等が挙げられる。また、外来遺伝子や
外来の核酸フラグメントの導入法は、遺伝子改変された始原生殖細胞が本実施形態の方法
により機能的な卵母細胞へ分化できる限りにおいて、上記に列挙した方法に限定されない
。なお、始原生殖細胞に対する遺伝子改変は、始原生殖細胞の培養期間中の適切なタイミ
ングで行うことができる。例えば、マウスにおいては、11.5日齢から12.5日齢ま
での期間に行うことができる。また、多能性幹細胞由来の始原生殖細胞様細胞を用いる場
合には、始原生殖細胞様細胞への分化誘導前の多能性幹細胞を公知の方法により遺伝子改
変することもできる。
【0053】
中でも、本実施形態の未成熟卵母細胞の誘導方法で用いられる卵母細胞への分化能を有
する細胞としては、多能性幹細胞が好ましい。特に、ES細胞を用いた場合には、その増
殖能の高さから、大量の未成熟卵母細胞を得ることができる。
【0054】
また、卵母細胞への分化能を有する細胞は、哺乳動物に由来するものを用いることがで
きる。哺乳動物としては、以下に限定されないが、例えば、ヒト、チンパンジー及びその
他の霊長類;イヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、ラット(ヌードラ
ットも包含する)、マウス(ヌードマウス及びスキッドマウスも包含する)、ハムスター
、モルモット等の家畜動物、愛玩動物及び実験用動物等が挙げられ、これらに限定されな
い。
【0055】
[導入工程]
本実施形態の未成熟卵母細胞の誘導方法において、上記卵母細胞形成遺伝子は、多能性
幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞に
導入される。
【0056】
また、卵母細胞形成遺伝子の代わりに、その転写物であるmRNA又はその発現タンパ
ク質を導入してもよい。卵母細胞形成遺伝子のmRNA及びその発現タンパク質としては
、上記Genbankのアクセッション番号で示される塩基配列からなるmRNA及びア
ミノ酸配列からなる発現タンパク質を用いることができる。
【0057】
導入方法としては、特に限定されず、対象細胞、導入材料の種類(核酸であるのか、或
いはタンパク質であるのか等)に応じて、適宜選択することができる。
【0058】
卵母細胞形成遺伝子を細胞に導入する方法としては、特に限定されず、公知の方法を適
宜選択して用いることができる。具体的には、例えば、リポフェクション法、マイクロイ
ンジェクション法、DEAEデキストラン法、遺伝子銃法、エレクトロポレーション法、
リン酸カルシウム法等が挙げられる。
【0059】
卵母細胞形成遺伝子のmRNAを細胞に導入する方法としては、特に限定されず、公知
の方法を適宜選択して用いることができる。具体的には、例えば、Lipofectam
ine(登録商標)MessengerMAX(Life Technologies社
製)等の、市販のRNAトランスフェクション試薬等を用いる方法が挙げられる。
【0060】
卵母細胞形成遺伝子の発現タンパク質を細胞に導入する方法としては、特に限定されず
、公知の方法を適宜選択して用いることができる。具体的には、例えば、タンパク質導入
試薬を用いる方法、タンパク質導入ドメイン(PTD)融合タンパク質を用いる方法、マ
イクロインジェクション法等が挙げられる。
【0061】
卵母細胞形成遺伝子は、発現ベクターの形で、多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生
殖細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞に導入し、一過的に発現させてもよ
く、卵母細胞形成遺伝子を多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞からなる群より
選ばれる少なくとも1種の細胞の染色体に組み込んでもよい。中でも、遺伝子を安定して
発現させることができることから、卵母細胞形成遺伝子を多能性幹細胞、EpiLCs及
び始原生殖細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞の染色体に組み込むことが
好ましい。
【0062】
卵母細胞形成遺伝子を発現ベクターの形で多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細
胞からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞に導入する場合には、卵母細胞形成遺伝
子の塩基配列と、該卵母細胞形成遺伝子の塩基配列の発現を制御するプロモーターを含む
発現ベクターを用いることができる。該発現ベクターにおいて、卵母細胞形成遺伝子の塩
基配列は、プロモーターに機能的に連結している。また、上記8種の卵母細胞形成遺伝子
のうち、使用する遺伝子全てを一つの発現ベクターに組み込んでもよく、それらを1種類
ずつ異なるベクターに組み込んでもよいが、中でも、導入効率の観点から、使用する遺伝
子全てを一つの発現ベクターに組み込むことが好ましい。
【0063】
プロモーターとしては、特別な限定はなく、対象細胞において活性を有するものであっ
てもよく、薬剤等により活性を誘導可能な発現誘導型プロモーターであってもよい。
【0064】
対象細胞において活性を有するプロモーターとしては、例えば、ほぼ全ての細胞におい
て強いプロモーター活性を有する、サイトメガロウイルス・プロモーター(CMVプロモ
ーター)、CMV early enhancer/chicken beta act
in(CAGプロモーター)等が挙げられる。
【0065】
発現誘導型プロモーターとしては、人為的にプロモーター活性を制御することのできる
、ドキシサイクリン誘導型プロモーター(TetOプロモーター)等が挙げられる。
【0066】
発現ベクターは、卵母細胞形成遺伝子の塩基配列及びプロモーターの他に、所望により
エンハンサー、ポリA付加シグナル、マーカー遺伝子、複製開始点、複製開始点に結合し
て複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子等を含んでいてもよい。「マーカー遺伝
子」とは、該マーカー遺伝子を細胞に導入することにより、細胞の選別や選択を可能とす
るような遺伝子を指す。マーカー遺伝子の具体例としては、例えば、薬剤耐性遺伝子、蛍
光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子等が挙げられる。これらは、1種
単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。前記薬剤耐性遺伝子の具体例として
は、例えば、ピューロマイシン耐性遺伝子、ジェネティシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐
性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子
、ハイグロマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子等が挙げられる。前記
蛍光タンパク質遺伝子の具体例としては、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子
、黄色蛍光タンパク質(YFP)遺伝子、赤色蛍光タンパク質(RFP)遺伝子等が挙げ
られる。前記発光酵素遺伝子の具体例としては、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子等が挙げ
られる。前記発色酵素遺伝子の具体例としては、例えば、βガラクトシターゼ遺伝子、β
グルクロニダーゼ遺伝子、アルカリフォスファターゼ遺伝子等が挙げられる。
【0067】
卵母細胞形成遺伝子を組み込む発現ベクターとしては、特に限定されず、公知の発現ベ
クターを用いることができる。発現ベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ウ
イルスベクター等が挙げられる。
【0068】
プラスミドベクターは、多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞からなる群より
選ばれる少なくとも1種の細胞内で発現可能なプラスミドベクターであれば、特に限定さ
れない。例えば、哺乳動物細胞発現用プラスミドベクターとして、一般的に用いられてい
るものを用いることができる。哺乳動物細胞発現用プラスミドベクターとしては、例えば
、pX459、pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNA
I/Neo等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
ウイルスベクターとしては、例えば、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)ベクタ
ー、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター
、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ポックスウイルスベクター
、ポリオウイルスベクター、シルビスウイルスベクター、ラブドウイルスベクター、パラ
ミクソウイルスベクター、オルソミクソウイルスベクター等が挙げられる。
【0070】
中でも、発現ベクターとしては、プラスミドベクターが好ましい。
【0071】
卵母細胞形成遺伝子を染色体に組み込む場合には、公知のノックインシステムを用いて
行なうことができる。公知のノックインシステムとしては、例えば、CRISPR/Ca
sシステム、Transcription Activator-Like Effec
tor Nucleases(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ等の公知の
ゲノム編集法で染色体を切断し、相同組換え用のドナーベクターを用いて相同組換えを行
なう方法や、トランスポゾンベクターシステムを用いた方法等が挙げられる。
【0072】
ドナーベクターは、ホモロジーアームとして標的領域に隣接する塩基配列を含む。ドナ
ーベクターは、5’アームと3’アームとの間に卵母細胞形成遺伝子の塩基配列(以下、
「ノックイン配列」という場合がある)を含むことができる。また、卵母細胞形成遺伝子
を安定して発現させるために、セーフ・ハーバー領域内に標的領域を設定することが好ま
しい。
【0073】
ドナーベクターは、環状DNAベクター(例えばプラスミドベクター)であってもよく
、線状DNAベクターであってもよい。ドナーベクターは、ホモロジーアーム及びノック
イン配列に加えて、他の配列を含んでいてもよい。他の配列としては、例えば、マーカー
遺伝子、複製開始点、複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝
子等が挙げられる。マーカー遺伝子としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0074】
ドナーベクターの導入方法は、特に限定されず、対象細胞に応じて、適宜選択すること
ができる。ドナーベクターの細胞への導入方法としては、例えば、リポフェクション法、
マイクロインジェクション法、DEAEデキストラン法、遺伝子銃法、エレクトロポレー
ション法、リン酸カルシウム法等が挙げられる。
【0075】
トランスポゾンベクターシステムでは、後述する実施例に示すように、卵母細胞形成遺
伝子の塩基配列が組み込まれたトランスポゾンベクターを細胞に導入し、トランスポザー
ゼを作用させることにより、容易に細胞の染色体中に組み込むことができる。また、再度
トランスポザーゼを作用させることにより、染色体中に組み込まれた上記卵母細胞形成遺
伝子の塩基配列を、染色体から切り出し、痕跡を残さずに除去することもできる。トラン
スポゾンとしては、例えば、piggyBac(登録商標)、Sleeping Bea
uty、Tol II、mariner等が挙げられる。
【0076】
本実施形態の未成熟卵母細胞の誘導方法は、上記導入工程に加えて、任意の工程を含ん
でもよい。任意の工程としては、例えば、細胞を増殖させる工程(増殖工程)や、導入さ
れた卵母細胞形成遺伝子、又はその転写物若しくはその発現タンパク質が導入された細胞
を選択する工程(選択工程)、導入工程後の細胞を細胞内で卵母細胞形成遺伝子が発現し
ている又は卵母細胞形成遺伝子の発現タンパク質が存在している状態で培養する工程(培
養工程)等が挙げられる。また、導入工程において、卵母細胞形成遺伝子を導入する場合
には、導入された卵母細胞形成遺伝子の発現を誘導する工程(発現誘導工程)を含むこと
ができる。
【0077】
[増殖工程]
増殖工程では、より大量の未成熟卵母細胞を得るために、多能性幹細胞、EpiLCs
及び始原生殖細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞を増殖させる。
【0078】
増殖工程では、例えば、多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞からなる群より
選ばれる少なくとも1種の細胞を増殖用培地で培養することで増殖させることができる。
増殖用培地としては、ES細胞、iPS細胞、EpiLCs、始原生殖細胞等を培養する
ための公知に培地を用いることができるが、これに限定されず、ES細胞、iPS細胞、
EpiLCs、始原生殖細胞の培養に適した培地であればどのようなものであってもよい
。増殖用培地として具体的には、例えば、後述する実施例において示すように、2i(2
inhibitor;PD0325901及びCHIR99021)、並びにLIF(
Leukemia Inhibitory Factor)を添加した無血清培地等が挙
げられる。
【0079】
増殖工程における培養条件としては、多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞か
らなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞を培養する公知の条件で行なうことができる
。具体的には、例えば、培養温度は30℃以上37℃以下程度とすることができる。培養
期間は、マウスの場合には、特別な限定はないが、例えば、1日以上10日以下程度とす
ることができ、3日以上7日以下程度とすることができる。また、当業者であれば、由来
する動物種により適宜好ましい培養期間を設定することができる。
【0080】
増殖工程は、上記導入工程の前であってもよく、後であってもよい。なお、導入工程の
後である場合には、卵母細胞形成遺伝子が発現している又は卵母細胞形成遺伝子の発現タ
ンパク質を存在していると、多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞からなる群よ
り選ばれる少なくとも1種の細胞から未成熟卵母細胞への分化誘導が開始されるために、
増殖が停止する。そのため、後述する発現誘導工程に示すように、卵母細胞形成遺伝子の
発現が発現誘導物質の存在により誘導されるように制御されている場合には、導入工程の
後に、発現誘導物質の非存在下で増殖工程を行なうことができる。
【0081】
また、一過性の発現ベクターの形で卵母細胞形成遺伝子を導入する場合、又は、卵母細
胞形成遺伝子の転写物又は発現タンパク質を導入する場合には、上記導入工程の前に増殖
工程を行なうことが好ましい。
【0082】
[選択工程]
選択工程では、卵母細胞形成遺伝子、又はその転写物若しくはその発現タンパク質が導
入された細胞を選択する。
【0083】
選択工程では、例えば、レポーター遺伝子を用いることで、卵母細胞形成遺伝子、又は
その転写物若しくはその発現タンパク質が導入された細胞を選択することができる。具体
的には、例えば、卵母細胞形成遺伝子を発現ベクターの形で細胞に導入する場合には、該
発現ベクターにレポーター遺伝子を含むことで、細胞内で、卵母細胞形成遺伝子の発現と
共に、或いは、卵母細胞形成遺伝子の発現とは独立してレポーター遺伝子を発現させて、
細胞を選択することができる。卵母細胞形成遺伝子を多能性幹細胞、EpiLCs及び始
原生殖細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞の染色体に組み込む場合には、
卵母細胞形成遺伝子の上流又は下流にレポーター遺伝子を機能的に連結させたコンストラ
クトを組み込むことで、卵母細胞形成遺伝子の発現と共に、或いは、卵母細胞形成遺伝子
の発現とは独立してレポーター遺伝子を発現させて、細胞を選択することができる。卵母
細胞形成遺伝子の転写物を導入する場合には、卵母細胞形成遺伝子の転写物の上流又は下
流にレポーター遺伝子の転写物を機能的に連結させたコンストラクトを細胞に導入するこ
とで、卵母細胞形成遺伝子の発現と共に、レポーター遺伝子を発現させて、細胞を選択す
ることができる。卵母細胞形成遺伝子の発現タンパク質を細胞に導入する場合には、卵母
細胞形成遺伝子の発現タンパク質とレポーター遺伝子の発現タンパク質との融合タンパク
質を細胞に導入することで、細胞を選択することができる。レポーター遺伝子としては、
上記「導入工程」の説明においてマーカー遺伝子として例示されたものを用いることがで
きる。
【0084】
[発現誘導工程]
上記導入工程において、卵母細胞形成遺伝子の発現が発現誘導物質の存在により誘導さ
れるように制御されている場合に、発現誘導物質を培地に添加することで、卵母細胞形成
遺伝子の発現が誘導される。多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞からなる群よ
り選ばれる少なくとも1種の細胞から未成熟卵母細胞へ分化誘導されると、細胞の増殖が
停止する。そのため、より大量の未成熟卵母細胞を得るために、発現誘導工程を行なう前
に、増殖工程を行なうことが好ましい。すなわち、卵母細胞形成遺伝子を発現ベクターの
形で細胞に導入する場合には、増殖工程、導入工程及び発現誘導工程をこの順で行なうこ
とが好ましい。一方、卵母細胞形成遺伝子を多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細
胞からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞の染色体に組み込む場合には、導入工程
、増殖工程及び発現誘導工程をこの順で行なうことが好ましい。
【0085】
卵母細胞形成遺伝子の発現誘導は、例えば、卵母細胞形成遺伝子を発現誘導型プロモー
ター(例えば、ドキシサイクリン誘導型プロモーター(TetOプロモーター))に機能
的に連結させた形で細胞に導入し、発現誘導物質(例えば、ドキシサイクリン)を培地に
添加することで卵母細胞形成遺伝子を発現させる方法等が挙げられる。或いは、例えば、
後述する実施例に示すように、ProteoTuner(登録商標)システム(クロンテ
ック社製)を用いる方法等が挙げられる。具体的には、卵母細胞形成遺伝子の上流又は下
流に不安定化ドメイン(Destabilizing Domain;DD、12kDa
)をコードする配列を機能的に連結させたコンストラクトを細胞に導入することで、該コ
ンストラクトが発現した融合タンパク質は、発現誘導物質が非存在下では、プロテアソー
ムにより迅速に分解される。一方、発現誘導物質としてプロテアソームによる分解から保
護する低分子化合物Shield1(膜透過性の低分子化合物、750Da)を培地に添
加することで、卵母細胞形成遺伝子を安定的に発現させ、細胞内に蓄積させることができ
る。
【0086】
発現誘導物質の添加量としては、卵母細胞形成遺伝子の発現量が所望の量となるような
濃度であればよく、特別な限定はない。例えば、発現誘導物質がドキシサイクリンである
場合には、培地中の濃度は例えば1nM以上10μM以下程度とすることができる。発現
誘導物質がShield1である場合には、培地中の濃度は例えば10nM以上10μM
以下程度とすることができる。
【0087】
発現誘導工程で用いられる培地としては、上記増殖工程で増殖用培地として例示された
ものを使用することができる。
【0088】
[培養工程]
培養工程では、上記導入工程後の細胞を、細胞内で卵母細胞形成遺伝子が発現している
又は卵母細胞形成遺伝子の発現タンパク質が存在している状態で培養する。
【0089】
培養条件としては、多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞からなる群より選ば
れる少なくとも1種の細胞を培養する公知の条件で行なうことができる。具体的には、例
えば、培養温度は30℃以上37℃以下程度とすることができる。培養期間は、マウスの
場合には、1日以上10日以下程度とすることができ、3日以上7日以下程度とすること
ができる。
【0090】
培養工程で用いられる培地としては、上記増殖工程で増殖用培地として例示されたもの
を使用することができる。なお、卵母細胞形成遺伝子の発現が発現誘導物質の存在により
誘導されるように制御されている場合には、培地に上記発現誘導物質を添加して、細胞内
で卵母細胞形成遺伝子が発現している状態で培養する。
【0091】
好ましい実施形態の未成熟卵母細胞の誘導方法としては、卵母細胞形成遺伝子の発現が
発現誘導物質の存在により誘導されるように制御されており、以下の1)~5)を含む。
1)FIGLA、NOBOX、SOHLH1、LHX8、SUB1、STAT3、TBP
L2及びDYNLL1からなる群より選ばれる1種以上の卵母細胞形成遺伝子を多能性幹
細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞(特
に好ましくは、多能性幹細胞)の染色体に導入すること;
2)導入後の細胞を増殖させること;
3)増殖後の細胞のうち、卵母細胞形成遺伝子が染色体に導入された細胞を選択すること
;
4)選択後の細胞において、発現誘導物質を培地に添加して、卵母細胞形成遺伝子の発現
を誘導すること;
5)発現誘導後の細胞を細胞内で卵母細胞形成遺伝子が発現している状態で培養すること
【0092】
本実施形態の未成熟卵母細胞の誘導方法では、上述したように、卵母細胞形成遺伝子、
又はその転写物若しくはその発現タンパク質の導入から5日以上10日以下程度の短い培
養期間で、多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞からなる群より選ばれる少なく
とも1種の細胞を未成熟卵母細胞に分化誘導することができる。
【0093】
多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種
の細胞が未成熟卵母細胞に分化誘導されたことは、公知の卵母細胞のマーカー遺伝子(例
えば、Stella等)の発現から確認することができる。具体的には、後述する実施例
に示すように、卵母細胞のマーカー遺伝子であるStellaとレポータータンパク質(
例えば、改良されたシアン蛍光タンパク質(Enhanced cyan fluore
scent protein;ECFP))とが結合した融合タンパク質をコードする核
酸を予め多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞からなる群より選ばれる少なくと
も1種の細胞の染色体に導入しておくことで、Stella-ECFPの発現により検出
される蛍光から未成熟卵母細胞に分化誘導されたことを確認することができる。さらに、
Stella-ECFPの発現から、Fluorescence-activated
cell sorting(FACS)法等により、分化誘導させた細胞集団から未分化
な状態の細胞を取り除き、未成熟卵母細胞を容易に分離することができる。
【0094】
<成熟卵母細胞の作製方法>
一実施形態において、本発明は、FIGLA、NOBOX、SOHLH1、LHX8、
SUB1、STAT3、TBPL2及びDYNLL1からなる群より選ばれる1種以上の
遺伝子、又はその転写物若しくは発現タンパク質を多能性幹細胞、EpiLCs及び始原
生殖細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞に導入することと、導入後の前記
細胞及び卵巣体細胞を共培養することと、を含む、成熟卵母細胞の作製方法を提供する。
【0095】
本実施形態の成熟卵母細胞の作製方法において、卵母細胞形成遺伝子の導入(導入工程
)は、上記「未成熟卵母細胞の誘導方法」に記載の導入工程と同じであるため、説明を割
愛する。
【0096】
なお、本明細書において、「成熟卵母細胞」とは、第2減数分裂中期の卵を意味し、2
次卵母細胞(secondary oocyte)とも呼ばれる。また、成熟卵母細胞で
は、後述する実施例に示すように、活性化卵母細胞マーカーであるNpm2遺伝子を発現
している。
【0097】
[凝集塊形成工程]
本実施形態の成熟卵母細胞の作製方法は、上記「卵母細胞の誘導方法」に記載の導入工
程後の多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞からなる群より選ばれる少なくとも
1種の細胞、並びに卵巣体細胞を共培養して、凝集塊を形成させる工程(凝集塊形成工程
)を含む。
【0098】
凝集塊形成工程に用いられる卵巣体細胞は、生体の卵巣から採取された体細胞であり、
上記多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞からなる群より選ばれる少なくとも1
種の細胞と共培養することで、卵胞を構成する顆粒膜細胞や莢膜細胞へ分化する細胞であ
る。
【0099】
なお、生体の卵巣から体細胞を採取する方法は、上記参考文献5に記載の方法に従って
行うことができる。
【0100】
具体的には、例えば、卵巣から体細胞を採取する方法は、生体より外科的に卵巣を採取
し、トリプシン処理等により卵巣を構成する体細胞を解離させることができる。なお、こ
のとき、生体由来の卵巣に内在する生殖細胞を取り除くことが好ましい。卵巣に内在する
生殖細胞を取り除く方法は、公知の方法により行うことができ、例えば、抗SSEA1抗
体や抗CD31抗体を用いたMagnetic activated cell sor
ting法により内在する生殖細胞を取り除くことができる。ここで、卵巣体細胞を採取
するため卵巣は胎仔由来のものが好ましい。マウスの場合であれば、例えば、胎齢(「胚
齢」ともいう)12.5日のマウス胎仔由来の生殖巣(卵巣)を使用することができる。
また、当業者であれば、本開示及び当該技術分野における技術常識から、由来する動物種
により適宜好ましい時期の生殖巣(卵巣)を選択することができる。
【0101】
凝集塊形成工程において、導入工程後の多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞
からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞、並びに卵巣体細胞を共培養することで、
導入工程後の多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞からなる群より選ばれる少な
くとも1種の細胞、並びに卵巣体細胞からなる凝集塊が形成させることが好ましい。
【0102】
導入工程後の多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞からなる群より選ばれる少
なくとも1種の細胞、並びに卵巣体細胞からなる凝集塊を作製する方法は、例えば、後述
する実施例に示すように、10%ウシ胎児血清(FCS)、150μMのアスコルビン酸
、1×Glutamax、1×ペニシリン/ストレプトマイシン及び55μMのメルカプ
トエタノールを添加したS10培地(StemPro(登録商標)-34 SFM、ライ
フテクノロジーズ社製)中で、導入工程後の多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細
胞からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞と卵巣体細胞とを混合及び凝集させて培
養することで実施することができる。なお、卵母細胞形成遺伝子の発現が発現誘導物質の
存在により誘導されるように制御されている場合には、培地に上記発現誘導物質を添加し
て、卵母細胞形成遺伝子が発現している状態で培養する。培養には低吸着の培養皿(例え
ば、細胞低接着U底96ウェルプレート等)を用いることが好ましい。
【0103】
マウスの場合であれば、例えば、凝集塊を作製するための培養期間を2日以上3日以下
程度とすることができ、2日が好ましい。また、当業者であれば、由来する動物種により
適宜好ましい培養期間を設定することができる。
【0104】
また、導入工程後の多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞からなる群より選ば
れる少なくとも1種の細胞と卵巣体細胞との混合時の割合は、作製された凝集塊が成熟卵
胞を形成する限りにおいて限定されないが、例えばマウスの場合においては、導入工程後
の多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種
の細胞と卵巣体細胞との細胞数の比を、約2:1とすることが好ましい。
【0105】
また、導入工程後の多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞からなる群より選ば
れる少なくとも1種の細胞や卵巣体細胞、又は、卵巣体細胞を含む卵巣は、凍結保存した
ものを用いることもできる。凍結保存方法は、公知の方法により行うことができる。例え
ば、導入工程後の多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞からなる群より選ばれる
少なくとも1種の細胞や卵巣体細胞の凍結保存は10%DMSO溶液や市販の凍結剤(セ
ルバンカー(登録商標)等)を用いた緩慢凍結法等により行うことができる。
【0106】
なお、本実施形態の成熟卵母細胞の作製方法で使用される卵巣体細胞は、凝集塊を構成
する多能性幹細胞、EpiLCs及び始原生殖細胞からなる群より選ばれる少なくとも1
種の細胞と同一種の哺乳動物に由来するものであっても、異なる種の哺乳動物に由来する
ものであってもよいが、同一種の哺乳動物に由来するものを用いることが好ましい。哺乳
動物としては、上記卵母細胞への分化能を有する細胞の説明において例示されたものと同
様のものが挙げられる。
【0107】
本実施形態の成熟卵母細胞の作製方法は、上記導入工程の後であって、上記凝集塊形成
工程の前に、任意の工程を含んでもよい。任意の工程としては、上記「未成熟卵母細胞の
誘導方法」に記載の増殖工程、選択工程等が挙げられる。
【0108】
[培養工程]
また、本実施形態の成熟卵母細胞の作製方法は、上記凝集塊形成工程の後に、培養工程
を含むことができる。
【0109】
培養工程では、上記凝集塊形成工程後の凝集塊をコラーゲン膜上に移し、培養すること
が好ましい。
【0110】
培養条件としては、凝集塊を培養する公知の条件で行なうことができる。具体的には、
例えば、培養温度は30℃以上37℃以下程度とすることができる。培養期間は、マウス
の場合には、7日以上35日以下程度とすることができ、8日以上30日以下程度とする
ことができる。また、当業者であれば、由来する動物種により適宜好ましい培養期間を設
定することができる。
【0111】
培養工程で用いられる培地としては、上記増殖工程で増殖用培地として例示されたもの
を使用することができる。なお、卵母細胞形成遺伝子の発現が発現誘導物質の存在により
誘導されるように制御されている場合には、培地に上記発現誘導物質を添加して、細胞内
で卵母細胞形成遺伝子が発現している状態で培養する。
【0112】
培養工程後の凝集塊は、2次卵胞構造を有し、卵母細胞を多層化した顆粒膜細胞が取り
囲んでおり、さらに、多層化した顆粒膜細胞を取り囲む卵胞膜(theca folic
)が形成され、卵胞膜の内側(theca interna)を構成している莢膜細胞(
theca cell)が黄体化ホルモン受容体(luterinzing hormo
ne receptor)を、顆粒膜細胞は卵胞刺激ホルモン受容体(follicle
stimulating hormone receptor)を発現している。
【0113】
次いで、培養工程で得られた卵胞を非特許文献1に記載の方法を用いて培養することで
、成熟卵母細胞を作製することができる。成熟卵母細胞を得るまでの工程を成長工程と成
熟工程とに分けることができる。
【0114】
[成長工程]
成長工程では、培養工程で得られた卵胞を個々の卵胞に単離して、成長用培地を用いて
培養する。
【0115】
培養条件としては、非特許文献1に記載の条件で行なうことができる。具体的には、例
えば、培養温度は30℃以上37℃以下程度とすることができる。培養期間は、マウスの
場合には、7日以上15日以下程度とすることができ、8日以上13日以下程度とするこ
とができる。また、当業者であれば、由来する動物種により適宜好ましい培養期間を設定
することができる。
【0116】
成長用培地しては、非特許文献1に記載の組成の培地を用いることができる。具体的に
は、例えば、マウスの場合には、培養開始から2日間は、5%ウシ胎児血清(FCS)、
2%ポリビニルピロリドン(ここまでSigma社製)、150μMのアスコルビン酸、
1×GlutaMAX、1×ペニシリン/ストレプトマイシン、100μMの2-メルカ
プトエタノール、55μg/mLのピルビン酸ナトリウム(ここまでナカライテスク社製
)、0.1IU/mLの卵胞刺激ホルモン(フォリスチム(登録商標)、MSD社製)、
15ng/mLのBMP15(Bone morphogenetic protein
15)、及び15ng/mLのGDF9(Growth differentiati
on factor 9)(ここまでR&D Systems社製)を含有するα-ME
Mを用いて卵胞を培養する。次いで、培養開始から2日目に上記組成のうちBMP15及
びGDF9を除いたα-MEMに交換して、0.1%のTypeIVコラゲナーゼ(MP
Biomedicals社製)中で卵胞をインキュベートする。次いで、5%FCS含
有α-MEMで数回洗浄した後、卵胞を上記組成のうちBMP15及びGDF9を除いた
α-MEMを用いて培養開始から11日目まで培養する。
【0117】
成長工程後の卵胞は、胞状卵胞構造を有し、卵核胞期の卵を有する卵丘卵母細胞複合体
を形成している。
【0118】
[成熟工程]
成熟工程では、成長工程で得られた卵胞を、成熟用培地を用いて培養する。
【0119】
培養条件としては、非特許文献1に記載の条件で行なうことができる。具体的には、例
えば、培養温度は30℃以上37℃以下程度とすることができる。培養期間は、マウスの
場合には、7日以上15日以下程度とすることができ、8日以上13日以下程度とするこ
とができる。また、当業者であれば、由来する動物種により適宜好ましい培養期間を設定
することができる。
【0120】
成熟用培地しては、非特許文献1に記載の組成の培地を用いることができる。具体的に
は、例えば、マウスの場合には、5%FCS、25μg/mLのピルビン酸ナトリウム、
1×ペニシリン/ストレプトマイシン、0.1IU/mLの卵胞刺激ホルモン、4ngの
EGF(Epidermal Growth Factor)、及び1.2IU/mLの
hCG(Human chorionic gonadotropin、略称:ゴナドト
ロピン、ASKA社製)を含有するα-MEMが挙げられる。
【0121】
成熟工程後の卵胞は、第2減数分裂中期の卵(2次卵母細胞)まで成熟している。
第2減数分裂中期の卵(2次卵母細胞)であることは、例えば、顕微鏡等を用いた目視
により第一極体の放出を指標に評価することができる。
【0122】
得られた成熟卵母細胞(2次卵母細胞)は、不妊治療に好適に用いられる。すなわち、
一実施形態において、本発明は、上記方法で得られた成熟卵母細胞を用いる、不妊治療方
法を提供する。
また、本実施形態の成熟卵母細胞の作製方法を用いて得られた成熟卵母細胞は、産業動
物の効率的な育種、希少動物の繁殖のために好適に用いられる。すなわち、一実施形態に
おいて、本発明は、上記方法で得られた成熟卵母細胞を用いる、産業動物の育種方法又は
希少動物の繁殖方法を提供する。
なお、上記適用対象となる動物としては、哺乳動物が好ましい。哺乳動物としては、上
記に例示されたものと同様のものが挙げられる。
また、本実施形態の成熟卵母細胞の作製方法を用いて得られた成熟卵母細胞は、不妊原
因の究明、閉経疾患のメカニズム解明に役立てることができる。
【実施例0123】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものでは
ない。
【0124】
[実施例1]
(ベクターの構築)
CAGプロモーター及び不安定化ドメイン(DD)をCAG-DD-hTFAP2Cプ
ラスミド(参考文献6:「Kobayashi T et al., “Principles of early human developm
ent and germ cell program from conserved model systems.”, Nature, Vol. 546, No.
7658, p416-420, 2017.」)からクローニングし、従来から使用しているPiggyBA
Cベクター(参考文献7:「Shimamoto S et al., “Hypoxia induces the dormant stat
e in oocytes through expression of Foxo3”, PNAS, https://doi.org/10.1073/pnas.
1817223116, 2019.」)に挿入して、PB-CAG-DDベクターを作製した。次いで、
FIGLA、NOBOX、SOHLH1、LHX8、SUB1、STAT3、TBPL2
及びDYNLL1の8つの遺伝子のcDNAを受精後13.5日齢の雌マウス卵巣のcD
NAから増幅し、インフュージョンHDクローニングキット(タカラバイオ社製)を用い
て、PB-CAG-DDベクターにクローニングした。各cDNAの増幅は、メーカーの
プロトコルに従い、KOD Fx Neo又はKOD Plus Neo DNAポリメ
ラーゼ(TOYOBO社製)を用いて、PCRによって行った。
【0125】
(ベクターのトランスフェクション)
ES細胞は、予め、フィーダー細胞を用いずに、2i及びLIFを添加した無血清培地
で維持培養しておいた(上記参考文献3参照)。また、未成熟卵母細胞及び成熟卵母細胞
への分化をモニターできるように、生殖細胞系列の重要な決定因子であるBlimp1の
発現制御下の黄色蛍光タンパク質(YFP)のバリアントであるmVenus(memb
rane-targeted Venus)をコードする遺伝子、生殖細胞及び卵母細胞
マーカーであるStellaの発現制御下の改良されたシアン蛍光タンパク質(Enha
nced cyan fluorescent protein;ECFP)をコードす
る遺伝子、並びに、活性化(成熟)卵母細胞マーカーであるNucleoplasmin
2(Npm2)の発現制御下の赤色蛍光タンパク質mCherry(membrane
-targeted Cherry)をコードする遺伝子が染色体上に挿入されているマ
ウスES細胞(Blimp1-mVenus:Stella-ECFP:Npm2-mC
herry(BVSCNmC))を用いた。構築した8つの遺伝子を含むPB-CAG-
DDベクターをLipofectamine 2000によってhyperactive
PBase(hypBase)プラスミドと同時にトランスフェクションした。2i及
びLIFを添加した無血清培地で5日間ピューロマイシン選択後に単一コロニーを増殖さ
せた。
【0126】
(未成熟卵母細胞への分化誘導)
次いで、10%ウシ胎児血清(FCS)、150μMのアスコルビン酸、1×Glut
amax、1×ペニシリン/ストレプトマイシン及び55μMのメルカプトエタノールを
添加したS10培地(StemPro(登録商標)-34 SFM、ライフテクノロジー
ズ社製)に0.5μMのShield1(クロンテック社製)を混合した培地(以下、「
卵母細胞分化誘導培地」と称する)を分注した細胞低接着U底96ウェルプレートに1×
10
5個のES細胞を移し、5日間培養して未成熟卵母細胞に分化誘導させた。共焦点顕
微鏡(Carl Zeiss社製、型番:Zeiss LSM 700)下で観察した結
果を
図1に示す。
図1において、「卵母細胞形成遺伝子」とは、FIGLA、NOBOX
、SOHLH1、LHX8、SUB1、STAT3、TBPL2及びDYNLL1の8つ
の遺伝子を示す。「卵母細胞形成遺伝子発現OFF」はShield1を含む培地の添加
前の細胞であり、「卵母細胞形成遺伝子発現ON」はShield1を含む培地の添加し
5日間培養した後の細胞である。
【0127】
図1から、卵母細胞形成遺伝子の発現がOFFである細胞では、コロニーを形成してお
り、Stellaの発現制御下で発現されるECFP(Stella-ECFP)の蛍光
がほとんど見られなかった。これに対して、卵母細胞形成遺伝子の発現がONである細胞
では、細胞同士がバラバラに存在し、Stella-ECFPの強い蛍光が検出され、未
成熟卵母細胞に分化誘導されたことが示唆された。
【0128】
(成熟卵母細胞の作製)
次いで、トランスフェクション後、5日間培養し、ピューロマイシンで選択した、単一
コロニーのES細胞(1×10
5個)を上記卵母細胞分化誘導培地で、3×10
4個の受
精後12.5日齢の雌マウス由来の卵巣体細胞と混合して凝集塊を作製して2日間培養し
た。卵巣体細胞は、予め、非特許文献1等に記載の方法を用いて、受精後12.5日齢の
雌マウスから卵巣を摘出して、当該卵巣から単離されたものを使用した。また、次いで、
該凝集塊をトランスウェル-COL膜(Coaster社製)上に移して、上記卵母細胞
分化誘導培地で28日間培養した。培養開始から2、6、8、10及び12日目の凝集塊
での各マーカーの発現を共焦点顕微鏡(Carl Zeiss社製、型番:Zeiss
LSM 700)下で観察した結果を
図2に示す。
図2において、上段では、生殖細胞及
び卵母細胞マーカーであるStella-ECFPの蛍光により、卵母細胞を可視化した
。下段では、活性化(成熟)卵母細胞マーカーであるNucleoplasmin 2(
Npm2)の発現制御下に発現させている赤色蛍光タンパク質mCherry(Npm2
-mCherry)の蛍光により、卵母細胞を可視化した。
【0129】
図2から、培養期間を通して、細胞においてStella-ECFPの蛍光は継続して
観察された。一方、培養開始から8日目には、Npm2-mCherryの蛍光が観察さ
れ(
図2中の「Day8」下段の矢印参照)、卵母細胞の成熟が進んでいることが示され
た。
【0130】
また、培養開始から28日目に、個々の卵胞を先鋭化タングステン針を用いて手動で単
離した。単離された卵胞は、2次卵胞構造を有していた。該卵胞を非特許文献1に記載の
「in vitro成長期間」及び「in vitro成熟期間」における培養条件下で
培養することで、胞状卵胞を経て第2減数分裂中期卵へと成熟させた。
【0131】
[実施例2]
マウスiPS細胞を用いて、ES細胞と同様に卵母細胞への分化誘導について検討した
。
【0132】
(ベクターのトランスフェクション)
iPS細胞は、非特許文献1の論文において樹立されたウイルスバスターにより作製さ
れたマウスBVSC iPS細胞を用いた。実施例1において構築した5つの遺伝子を含
むPB-CAG-DDベクターをLipofectamine 2000によってhyp
eractive PBase(hypBase)プラスミドと同時にマウスBVSC
iPS細胞にトランスフェクションした。2i及びLIFを添加した無血清培地で5日間
ピューロマイシン選択後に単一コロニーを増殖させた。
【0133】
(未成熟卵母細胞への分化誘導)
ベクターをトランスフェクションしたiPS細胞を、実施例1と同様の方法を用いて、
5日間培養して未成熟卵母細胞に分化誘導させた。
【0134】
(成熟卵母細胞の作製)
次いで、トランスフェクション後、5日間培養し、ピューロマイシンで選択した、iP
S細胞(1×10
5個)を上記卵母細胞分化誘導培地で、3×10
4個の受精後12.5
日齢の雌マウス由来の卵巣体細胞と混合して凝集塊を作製して2日間培養した。次いで、
該凝集塊をトランスウェル-COL膜(Coaster社製)上に移して、上記卵母細胞
分化誘導培地で21日間培養した。培養開始から21日目の凝集塊でのStella-E
CFPの発現を共焦点顕微鏡(Carl Zeiss社製、型番:Zeiss LSM
700)下で観察した結果を
図3に示す。
図3において、左側の像は明視野像であり、右
側の像は生殖細胞及び卵母細胞マーカーであるStella-ECFPの蛍光により、卵
母細胞を可視化した蛍光像である。
【0135】
図3から、培養開始から21日目の細胞においてStella-ECFPの蛍光が観察
された。このことから、iPS細胞においてもES細胞と同様に卵母細胞へ分化誘導でき
たことが確認された。
【0136】
[実施例3]
(卵母細胞形成遺伝子中の重要因子の同定)
卵母細胞形成遺伝子のうち重要因子である遺伝子を同定するために、
図4の左の図に記
載の遺伝子の組み合わせとなるように、実施例1と同様の方法を用いて、合計26種類の
ベクターを構築した。次いで、実施例1と同様の方法を用いて、マウスES細胞(Bli
mp1-mVenus:Stella-ECFP:Npm2-mCherry(BVSC
NmC))に各ベクターをトランスフェクションした。トランスフェクション後のES細
胞を、実施例1と同様の方法を用いて、5日間培養して未成熟卵母細胞に分化誘導させた
。次いで、トランスフェクション後、5日間培養し、ピューロマイシンで選択した、単一
細胞由来のES細胞(1×10
5個)を上記卵母細胞分化誘導培地で、3×10
4個の受
精後12.5日齢の雌マウス由来の卵巣体細胞と混合して凝集塊を作製して2日間培養し
た。次いで、得られた凝集塊を実施例1と同様の方法を用いて、21日間培養した。培養
後の細胞について、各細胞株から形成された卵母細胞の数を計測した。さらに、Stella遺
伝子の下流に発現させている青色蛍光タンパク質CFPの蛍光面積から算出された、卵母細
胞の面積を算出した。これらの結果を
図4に示す。
【0137】
図4から、卵母細胞形成遺伝子のうち、FIGLA、NOBOX、LHX8及びTBP
L2からなる4種類の遺伝子が多能性幹細胞から未成熟卵母細胞への分化誘導及び卵母細
胞の成熟に重要な因子であることが明らかとなった。また、FIGLA、NOBOX、L
HX8及びTBPL2からなる4種類の遺伝子に加えて、STAT3遺伝子を導入するこ
とで、卵母細胞の形成効率がより向上することが明らかとなった。
FIGLA、NOBOX、LHX8及びTBPL2からなる4種類の遺伝子、又はそれらの転写物若しくは発現タンパク質を多能性幹細胞、エピブラスト様細胞及び始原生殖細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞に導入することを含む、未成熟卵母細胞の誘導方法。