IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 村田 正義の特許一覧

<>
  • 特開-高周波プラズマ発生装置 図1
  • 特開-高周波プラズマ発生装置 図2
  • 特開-高周波プラズマ発生装置 図3
  • 特開-高周波プラズマ発生装置 図4
  • 特開-高周波プラズマ発生装置 図5
  • 特開-高周波プラズマ発生装置 図6
  • 特開-高周波プラズマ発生装置 図7
  • 特開-高周波プラズマ発生装置 図8
  • 特開-高周波プラズマ発生装置 図9
  • 特開-高周波プラズマ発生装置 図10
  • 特開-高周波プラズマ発生装置 図11
  • 特開-高周波プラズマ発生装置 図12
  • 特開-高周波プラズマ発生装置 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108044
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】高周波プラズマ発生装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/46 20060101AFI20230727BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20230727BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20230727BHJP
   C23C 16/509 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
H05H1/46 M
H01L21/31 C
H01L21/302 101B
C23C16/509
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2023099830
(22)【出願日】2023-06-19
(71)【出願人】
【識別番号】303034908
【氏名又は名称】村田 正義
(72)【発明者】
【氏名】村田正義
(57)【要約】
【課題】
液晶デイスプレイや有機ELデイスプレイ等の製造に用いられる平行平板型(容量結合型)電極を用いた高周波プラズマ発生装置は、給電棒からプラズマ生成領域へ供給される高周波電力波が伝播路の途中の壁で反射し、電力損失が発生してジュール熱が発生するという問題を抱えている。この問題を解決可能な高周波プラズマ発生装置を提供すること。
【解決手段】
床板と壁板と天板で構成される反応容器の内部に配置された平板型の非接地電極と接地電極とを備えた高周波プラズマ発生装置において、前記非接地電極の前記接地電極に対向する面と反対側の面に前記高周波電源の出力電圧が印加される給電点が設けられ、前記天板と前記壁板の境界領域に電気的に接地された導電性材料で形成された廻り縁が配置されることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性ガス供給系及び排気系を備え、床板と壁板と天板で構成される反応容器と、前記天板に平行に配置された平板型の非接地電極と、前記非接地電極に対向して配置される接地電極と、少なくとも高周波電源と整合器と真空装置用電流導入端子と給電棒を有する高周波電力供給手段と、を備え、前記非接地電極と前記接地電極に挟まれたプラズマ生成領域でプラズマを発生させ、前記プラズマ生成領域に収容した基板にプラズマ処理を施す高周波プラズマ発生装置において、
前記非接地電極の前記接地電極に対向する面と反対側の面に前記高周波電源の出力電圧が印加される給電点が設けられ、前記天板と前記壁板の境界領域に電気的に接地された導電性材料で形成された廻り縁が配置されることを特徴とする高周波プラズマ発生装置。
【請求項2】
前記非接地電極の前記接地電極に対向する面と反対側の面の辺の角部は面取り加工が施されることを特徴とする請求項1に記載の高周波プラズマ発生装置。
【請求項3】
前記廻り縁の断面形状は、三角形であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高周波プラズマ発生装置。
【請求項4】
前記反応容器は、前記非接地電極の前記接地電極に対向する面の角部の周辺領域に、電気的に接地された導波板を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一つに記載の高周波プラズマ発生装置。
【請求項5】
前記高周波電源は、周波数13.56MHz、又は27.12MHz、又は40.68MHz、又は54.24MHz、又は67.8MHzを発生することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一つに記載の高周波プラズマ発生装置。
【請求項6】
前記反応性ガスは、少なくともシランガス又は有機シランガスを含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一つに記載の高周波プラズマ発生装置。
【請求項7】
前記反応性ガスは、少なくとも水素又は酸素又は塩素を含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一つに記載の高周波プラズマ発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大面積基板を対象にした高周波プラズマ発生装置に関する。特に、プラズマCVDによる薄膜形成、プラズマALDによる薄膜形成及びプラズマエッチングによる微細加工に用いられる大面積高周波プラズマ発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶デイスプレイ、有機ELデイスプレイ及び各種半導体デバイス等の製造には、プラズマCVD装置、プラズマALD装置及びプラズマエッチング装置等が活用されている。
近年、プラズマCVD装置、プラズマALD装置及びプラズマエッチング装置の応用分野では、液晶ディスプレイパネル及び有機ELディスプレイパネルの大画面化、高品質化、低価格化のニーズが更に強くなり、それらの生産に用いるマザーガラスの大型化への取り組みが、鋭意進められている。なお、マザーガラスの寸法は、第10世代:2,880mmx3,100mm、第11世代:3,000mmx3,320mmと言われている。
プラズマ応用分野において、プラズマ処理の高品質化を図るには、プラズマによるダメージ(イオン衝撃による基板の損傷)を抑制することが必要である。プラズマによるダメージ(イオン衝撃による基板の損傷)を抑制する手段として、電源周波数を工業周波数の13.56MHzより高くすることが効果的であることが、一般に知られている。
しかしながら、電源周波数を高くすると、工業周波数である13.56MHz(真空中での波長:22.12m)の場合に比べて、波長が短くなり、プラズマ生成領域である電極間に供給電力の定在波が発生する。前記定在波の発生は、均一なプラズマの生成を阻害する、という問題を起こす。この定在波に起因するプラズマの不均一化という問題は、プラズマを励起する電磁波固有の現象であることから、高周波プラズマ発生装置では避けて通れない問題である。
【0003】
特許文献1には、容量結合型平行平板プラズマ処理装置の電源の高周波数化の問題に関し、以下に示す主旨の記述がある。
従来、上部電極への給電は給電棒を介して行っており、給電棒の周囲をチャンバーと略同一寸法の箱で覆って電磁波を遮蔽している。しかし、給電棒のインダクタンスが非常に大きいため、上部電極への供給高周波電力の周波数が高くなると、プラズマからの反射波の高調波が給電棒のインダクタンス成分のために反射され、さらに給電棒が設置されている箱の中の至るところで反射し、反射した高調波がプラズマに接触している上部電極表面に戻る。電極径が大きい場合、電極表面に定在波が生成されやすい。その結果、電極表面の電界分布が不均一になる。電極径が250mm~300mmの場合に、電極表面に定在波が生成されやすく、このような定在波が生じると電極表面の電界分布が不均一になる、という問題がある。この問題を解決するために、特許文献1は、板状部材を非接地電極に対向配置し、且つ該電極にローパスフィルターを設けることにより給電棒のインダクタンスを低下させるとともに、高調波をグランドに落とすことを特徴とするプラズマCVD装置を提案している。
【0004】
特許文献2には、容量結合型平行平板プラズマ処理装置の電源の高周波数化の問題に関し、以下に示す主旨の記述がある。
印加周波数を上昇させると、高周波電流は電極のごく表面しか流れないようになり、給電棒から電極に供給された高周波電力は、電極裏面を通って電極の円周方向に至り、電極のプラズマ接触面を円周側から中心に向かって徐々に供給される。また、上部電極の円周部分は絶縁体(容量成分)で囲まれており、絶縁体の外側のチャンバーは保安接地されている。このため、上部電極のプラズマ接触面で干渉作用により定在波が形成され、電極径方向での電界分布が不均一になる、という問題がある。この問題を解決するために、特許文献2は、給電部材の給電位置を移動させる移動機構を有する(給電棒の位置を時間的に変化させる)ことを特徴とするプラズマCVD装置を提案している。
【0005】
特許文献3には、容量結合型平行平板プラズマ処理装置の電源の高周波数化の問題に関し、以下に示す主旨の記述がある。
基板の大型化に伴う電極の大型化には、定在波の問題がある。高周波電源として、通常13.56MHz又は27.12MHzの周波数の高周波電源が用いられ得る。基板のサイズが1m×1m以下では、堆積すべき膜の種類に応じて成膜条件を最適化することにより、得られる膜厚分布は±10%以下にすることができる。しかし、基板サイズが1m×1m以上になると、定在波の発生により、膜厚分布の所望の均一性を確保することができなくなる、という問題がある。この問題を解決するために、特許文献3は、非接地電極に複数個の誘電体が埋め込まれ、 前記電極に供給する高周波電力の周波数の波長をλとする時、電極の中心を中心とする直径がλ/8~λ/4の範囲に設定された第1の円形領域では、前記電極の表面における金属の表面積と前記誘電体の表面積の割合が7:3~5:5であることを特徴とするプラズマCVD装置を提案している。
【0006】
特許文献4には、容量結合型平行平板プラズマ処理装置の電源の高周波数化の問題に関し、以下に示す主旨の記述がある。
従来のプラズマCVD装置では、シャワープレート電極の裏側の面(プラズマ発生領域から見て裏側の面)の中心1点を介して高周波電圧を印加している。この従来の方法では、該シャワープレート電極の面積が増大すると、成膜ガスを均一にプラズマ化することが原理的に困難である。これは高周波特有の定在波の問題である。この問題を解決するために、特許文献4は、シャワーヘッド電極の構造が、原料ガスを大面積状態に拡散させ、流れ分布を均一化する手段を内包した容器状のヘッド本体と、前記ヘッド本体の開口を覆い、ガス噴出孔を備えた一枚のシャワープレートを備えること、複数の電源装置を有し、各前記電源装置には位相制御装置が接続され、前記位相制御装置は、各前記電源装置が出力する高周波電圧の位相をそれぞれ制御するように構成され、各前記電源装置は、前記ヘッド本体の底面に中心から等距離で異なる位置に配置された給電点にそれぞれ接続されること、を特徴とするプラズマCVD装置を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-331996
【特許文献2】特開2001-060581
【特許文献3】特開2006-324603
【特許文献4】特開2005-220368
【0008】
【非特許文献1】高橋秀俊、電磁気学(1963)、裳華房、319-322
【非特許文献2】R.P.Feynman, R.B.Leightion, M.L.Sands著(戸田盛和訳)、ファインマン物理学、四電磁波と物性(1971)、岩波書店、24-28
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、高周波プラズマ発生装置に関する問題として、定在波に起因するプラズマの不均一化の問題が指摘されている。この定在波の問題に対応可能な装置としては、例えば、特許文献5に記載の高周波プラズマ発生装置がある。しかしながら、特許文献5には位相制御の方法が明確に示されておらず、位相制御によるプラズマの不均一化への効果が懸念される。即ち、従来の高周波プラズマ発生装置が抱える定在波に起因するプラズマの不均一化の問題は依然として、残されている。
更に、従来の高周波プラズマ発生装置では、前記プラズマの不均一化の問題の他に、プラズマ発生のための電力供給系における電力損失の発生及びジュール熱の発生という問題がある。即ち、非接地電極に設けられた給電点からプラズマ生成領域へ電力を送電する電力伝播路において、以下に説明するように、電磁波の反射に係わる電力損失の発生及びジュール熱の発生という問題が、未解決の課題として残されている。
【0010】
特許文献1及び特許文献2に記載の高周波プラズマ発生装置は、図12に示されるように、床板100a-2と壁板100a-3と天板100a-1で構成される円筒型の真空容器100a、円板型の非接地電極101a及び円板型の接地電極102aからなる一対の平行平板型電極(容量結合型平行平板電極)、高周波電源103a、整合器104a、給電棒105a、給電点106aを備え、該一対の平行平板型電極間にプラズマ107aを生成し、基板108aにプラズマ処理を行う。なお、非接地電極101aは、図示しない空洞を有する非接地電極本体と図示しないガス噴出孔を有するシャワープレート電極で構成される。
図12に示されるプラズマ発生装置において、高周波電源103aの出力である高周波電力は、給電棒105aから放射され、円板型の天板100a-1と円板型の非接地電極101aの裏面(プラズマ107aから見て裏側の面)の間、及び該真空容器100aの壁板100a-3と該非接地電極101aの側面の間を伝播し、非接地電極101aと接地電極102aの間に供給される。即ち、図12において、給電棒105aから放射された高周波電力波は、円筒型の真空容器100aの内壁と非接地電極101aの間の空間を電磁波として伝播する。なお、真空容器100aの内壁と非接地電極101aの間の空間には、一般にセラミックス等の誘電体が配置され、該空間での放電発生が抑制される。また、誘電体を配置しない場合には、真空容器100aの内壁と非接地電極101aの間の距離dを放電抑制の条件を満たす所要の値に設定され、該空間での放電が抑制される。なお、放電開始の電圧は、圧力pと距離dの積p・dに依存する(パッシェン則)ことが知られている。
給電棒105aから放射された高周波数の電力波は、図12に電磁波Wi11、Wi12として示されるように、給電棒105aから天板100a-1と非接地電極101aの間を、真空容器100aの壁板100a-3へ向けて進行し、その大部分は真空容器100aの壁板100a-3で反射されて退行波Wr11、Wr12として退行し、前記真空容器100aの他方の壁板100a-3との間で反射を繰り返す。その結果、給電棒105aから放射された電力波の大部分は、真空容器100aの天板100a-1と非接地電極101aに挟まれた空間で消費され、ジュール熱が発生する。電磁波が金属板にその法線方向から入射した場合の反射率は80%以上と高いことから、図12に示されるプラズマ発生装置では、給電棒105aから放射された高周波数の電力波の大部分は、前記天板100a-1と非接地電極101aの間の空間で消費され、ジュール熱が発生する。
前記電磁波Wi11、Wi12の一部分は、回折して進行方向を90°曲げて前記真空容器100aの壁板100a-3に沿って進み、非接地電極101aと接地電極102aの間に電力波109aa、109abとして伝播する。そして、プラズマ107aを生成し基板のプラズマ処理に用いられる。
したがって、特許文献1及び特許文献2に記載のプラズマ発生装置では、非接地電極101aの裏面に設けられた給電点とプラズマ生成領域を結ぶ電力伝播路における電力損失の発生及びジュール熱の発生という問題がある。
【0011】
特許文献3及び特許文献4に記載の高周波プラズマ発生装置は、図13に示されるように、床板100b-2と壁板100b-3と天板100b-1で構成される矩形筒型の真空容器100b、矩形板型の非接地電極101b及び矩形板型の接地電極102bからなる一対の平行平板型電極(容量結合型平行平板電極)、複数の高周波電源103b-1、103b-2、図示しない103b-3、図示しない103b―4、複数の整合器104b-1、104b-2、図示しない104b-3、図示しない104b-4、電極中心から等距離で異なる複数の位置に配置された複数の給電棒105b-1、105b-2、図示しない105b-3、図示しない105b―4、複数の給電点106b-1、106b-2、図示しない106b-3、図示しない106b-4、を備え、該一対の平行平板型電極間にプラズマ107bを生成し、基板108bにプラズマ処理を行う。なお、非接地電極101bは、図示しない空洞を有する非接地電極本体と、図示しないガス噴出孔を有するシャワープレート電極で構成される。
図13に示される高周波プラズマ発生装置において、高周波電源103b-1、103b-2の出力である高周波電力は、給電棒105b-1、105b-2から放射され、矩形型の天板100b-1と矩形型の非接地電極101bの裏面(プラズマ107bから見て裏側の面)の間、及び該真空容器100bの壁板100b-3と該非接地電極101bの側面の間を伝播し、該非接地電極101bと接地電極102bの間に供給される。
即ち、図13において、給電棒105b-1、105b-2から放射された高周波数の電力波は、天井板100b-1と非接地電極101bの間の空間を電磁波として伝播する。なお、天井板100b-1と非接地電極101bの間の空間には、一般にセラミックス等の誘電体が配置され、該空間での放電が抑制される。また、誘電体を配置しない場合には、天井板100b-1と非接地電極101bの間の距離dが放電抑制の条件を満たす所要の値に設定され、該空間での放電が抑制される。なお、放電開始の電圧は、圧力pと距離dの積p・dに依存する(パッシェン則)ことが知られている。
給電棒105b-1、105b-2から放射された電力波は、図13に電磁波Wi21、Wi22として示されるように、給電棒105b-1、105b-2から天井板100b-1と非接地電極101bの間を、真空容器100bの壁板100b-3へ向けて進行し、その大部分は該壁板100b-3で反射されて退行波Wr21、Wr22として退行し、真空容器100bの他方の壁板100b-3との間で反射を繰り返す。その結果、給電棒105b-1、105b-2から放射された電力波の大部分は、真空容器100bの天板100b-1と非接地電極101bに挟まれた空間で消費され、ジュール熱が発生する。電磁波が金属板にその法線方向から入射した場合の反射率は80%以上と高いことから、図13に示されるプラズマ発生装置では、給電棒105b-1、105b-2から放射された電力波の大部分は、上記天板100b-1と非接地電極101bの間の空間で消費され、ジュール熱が発生する。
前記電磁波Wi21、Wi22の一部分は回折して、前記真空容器100bの壁板100b-3に沿って進み、非接地電極101bと接地電極102bの間に電力波109ba、109bbとして伝播する。そして、プラズマ107bを生成し基板のプラズマ処理に用いられる。
したがって、特許文献3及び特許文献4に記載のプラズマ発生装置では、非接地電極の裏面に設けられた給電点とプラズマ生成領域を結ぶ電力伝播路における電力損失の発生及びジュール熱の発生という問題がある。
【0012】
本発明は、上述した従来の代表的装置である容量結合型電極を用いた高周波プラズマ発生装置の電力伝播路における電磁波の反射に起因する電力損失発生及びジュール熱発生という問題を解決可能な高周波プラズマ発生装置を提供することを目的とする。また、従来の装置で問題であるプラズマの不均一化という問題を解決することを目的とする。
即ち、本発明は、プラズマCVD、プラズマALD及びプラズマエッチング等のプラズマ処理に用いられる容量結合型電極を用いた高周波プラズマ発生装置に関し、電力電送路における電力損失を抑制し、且つ均一なプラズマの発生が可能である高周波プラズマ発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、反応性ガス供給系及び排気系を備え、床板と壁板と天板で構成される反応容器と、前記天板に平行に配置された平板型の非接地電極と、前記非接地電極に対向して配置される接地電極と、少なくとも高周波電源と整合器と真空装置用電流導入端子と給電棒を有する高周波電力供給手段と、を備え、前記非接地電極と前記接地電極に挟まれたプラズマ生成領域でプラズマを発生させ、前記プラズマ生成領域に収容した基板にプラズマ処理を施す高周波プラズマ発生装置において、
前記非接地電極の前記接地電極に対向する面と反対側の面に前記高周波電源の出力電圧が印加される給電点が設けられ、前記天板と前記壁板の境界領域に電気的に接地された導電性材料で形成された廻り縁が配置されることを特徴とする。
第2の発明は、第1の発明において、前記非接地電極の前記接地電極に対向する面と反対側の面の辺の角部は面取り加工が施されることを特徴とする。
第3の発明は、第1の発明又は第2の発明において、前記廻り縁の断面形状は、三角形であることを特徴とする。
第4の発明は、第1の発明から第3の発明のいずれか一つの発明において、前記反応容器は、前記非接地電極の前記接地電極に対向する面の角部の周辺領域に、電気的に接地された導波板を備えることを特徴とする。
第5の発明は、第1の発明から第4の発明のいずれか一つの発明において、前記高周波電源は、周波数13.56MHz、又は27.12MHz、又は40.68MHz、又は54.24MHz、又は67.8MHzを発生することを特徴とする。
第6の発明は、第1の発明から第5の発明のいずれか一つの発明において、前記反応性ガスは、少なくともシランガス又は有機シランガスを含むことを特徴とする。
第7の発明は、第1の発明から第5の発明のいずれか一つの発明において、前記反応性ガスは、少なくとも水素又は酸素又は塩素を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記のように構成された本発明の高周波プラズマ発生装置は、反応容器の天板と壁板の境界領域に導電性材料で形成された廻り縁を配置することにより、給電棒から放射される電力波の進行方向を略90°曲げて、プラズマ生成領域へ効果的に送電することが可能である。これにより、給電棒から放射された電力波の反射に起因する電力損失発生及びジュール熱発生という問題を解決可能という効果を奏する。また、非接地電極の裏面に設けられた給電点からプラズマ生成領域への電力の効果的な送電が可能であることから、容量結合型の一対の電極間の電界分布を、ゼロ次のベッセル関数型分布に制御することが可能である。その結果、均一性の良いプラズマを生成可能である。即ち、高周波プラズマの均一生成を容易に実現することが可能という効果を奏する。
本発明による高周波プラズマ発生装置は、大画面液晶デイスプレイ、大画面有機ELデイスプレイ、大面積太陽電池及び各種半導体デバイス等の分野にける大面積均一のプラズマ生成が可能であり、製品製造コストの低減及び性能向上への貢献度は著しく大きいことから、産業上の貢献度は著しく大きい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の構成を示す模式的断面図である。
図2図2は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の構成部材である導電性材料で製作された廻り縁の模式図、(a)断面形状が三角形の場合、(b)断面形状が円形の場合、(c)断面形状が矩形の場合、である。
図3図3は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の供給電力の流れを示すポインテイングベクトルPの模式図である。
図4図4は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の一対の電極間の電界Eを示す模式的斜視図である。
図5図5は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の一対の電極間の電界分布を示すゼロ次のベッセル関数のグラフである。
図6図6は、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の構成を示す模式的断面図である。
図7図7は、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の構成部材である電力供給手段の電気系統図である。
図8図8は、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の構成部材である導電性材料で製作された断面形状が三角形の廻り縁の模式図である。
図9図9は、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の供給電力の流れを示すポインテイングベクトルPの模式図である。
図10図10は、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の電界分布表示に用いる座標xの説明図である。
図11図11は、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の一対の電極間の電界分布を示すゼロ次のベッセル関数のグラフ(横軸line-x)である。
図12図12は、円筒型真空容器と円板型電極を用いる従来の高周波プラズマ発生装置の模式的断面図である。
図13図13は、矩形筒型真空容器と矩形板型電極を用いる従来の高周波プラズマ発生装置の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。各図において、同様の部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
なお、本発明は以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜変更可能である。また、以下に示す図面は、説明の便宜上、各部材の縮尺が、実際と異なる場合がある。また、各図面間においても、縮尺が、実際と異なる場合がある。
【0017】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の構成について、図1図5を参照して、説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の構成を示す模式的断面図である。図2は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の構成部材である導電性材料で製作された廻り縁の模式図、(a)断面形状が三角形の場合、(b)断面形状が円形の場合、(c)断面形状が矩形の場合、である。図3は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の供給電力の流れを示すポインテイングベクトルPの模式図である。図4は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の一対の電極間の電界Eを示す模式的斜視図である。図5は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の一対の電極間の電界分布を示すゼロ次のベッセル関数のグラフである。
【0018】
本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置は、図1に示されるように、図示しない排気系を有する反応容器1と、図示しない反応性ガス供給系と、前記反応性ガスをプラズマ化する高周波電力供給手段を備えている。
図1において、反応容器1は、天板1aと壁板1bと床板1cで構成される円筒型の反応容器である。即ち、反応容器1は、形状が円筒型の壁板1bの上側に形状が円板型の天板1aを連結し、下側に形状が円板型の床板1cを連結した構造を有する。
反応容器1の内部には、後述の非接地電極の電極本体2aと後述のシャワープレート電極2bから成る非接地電極2と、後述の接地電極3が、後述の反応性ガスをプラズマ化するための一対の電極として配置される。非接地電極2は、図示しない絶縁材を介して図示しない片持ち梁の棚により反応容器1の壁板1bに固定される。なお、非接地電極2の反応容器1の壁への固定手段として、例えば、図示しない絶縁材を介して図示しないボルトを用い、反応容器の天板1aに吊り下げて固定しても良い。
反応容器1は、図示しない真空ポンプに接続された排気口9a、9bを備えている。排気口9a、9bは、図示しない真空ポンプと組み合わせて稼働させることにより、反応容器1の内部を所定の圧力に調整し、該圧力を保持することが可能である。また、反応容器1内部を高真空度に真空引きすることが可能である。
【0019】
接地電極3は、反応容器1の所定の場所に、例えば、真空容器の底面である床板1cに配置される。 接地電極3と後述のシャワープレート電極2bは互いに対向して配置される。接地電極3には基板5が載置される。接地電極3は、前記排気口9a、9bと連携して用いられる通気穴9aa、9baを備えている。接地電極3は、主面3aを有し、該主面3aで基板5と接し、保持する。基板5の温度は、接地電極3の内部に設けられた図示しない基板ヒータにより所定の温度に制御される。接地電極3の形状は、例えば、後述のシャワープレート電極2bと同様に、円形である。寸法は、後述の非接地電極2より一回り大きい寸法で、ここでは、例えば、直径1.1mである。
基板5は、図示しない基板搬入搬出用バルブを開閉することにより、大気側から接地電極の主面3aに搬入、載置され、目的とするプラズマ処理が行なわれた後、大気側へ搬出される。ここで、基板5のサイズを、例えば、直径1mx厚み0.5mmとする。
【0020】
非接地電極2は、図1に示されるように、図示しない反応性ガス供給源から反応性ガスを導入する反応性ガス導入口7と前記反応性ガスを拡散する空洞2cを有する円形の非接地電極本体2aと、前記反応性ガスを噴出する多数の反応性ガス噴出孔2dを有する円形平板型のシャワープレート電極2bとを図示しないボルトで締め付けて組み立てられる、という構造を有する。即ち、前記非接地電極本体2aと前記シャワープレート電極2bは図示しない複数のボルトを用いて、締め付けられて、連結される。
なお、非接地電極本体2aは、反応性ガス導入口7から導入された反応性ガスを拡散する空洞2cを介して、前記反応性ガスを後述の多数の反応性ガス噴出孔2dへ輸送する。
シャワープレート電極2bは、図1に示されるように、多数の反応性ガス噴出孔2dを備え、前記反応性ガス導入口7から導入され、前記電極本体2aの空洞2cで拡散されて輸送された反応性ガスを噴出する。反応性ガス噴出孔2dは、直径略0.4mm~略1mmの円形に形成される。ここでは、例えば、0.8mmとする。原料ガス噴出孔の直径を略1mm以上にすると、ガスの噴出量の空間分布が空洞2cの圧力依存度が強くなり、その結果、ガス噴出量が不均一に成る。それを略1mm以下にすると、個々の反応性ガス噴出孔2dのガス噴出量は均一になるが、加工に際し多大の労力と費用が発生する。前記孔直径0.8mmはガスの噴出量の空間分布が均一であり、製作加工費を抑制できることで妥当な数値と言える。
シャワープレート電極2bの寸法は、基板5の大きさに対応して選ばれるが、例えば、基板5のサイズが直径1mの場合、ほぼ同様のサイズに、例えば、直径1mとする。
非接地電極本体2aは、前記非接地電極本体2aの接地電極3の主面3aと対向しない面の中央点に、高周波電力が供給される地点である給電点17が設けられる。
シャワープレート電極2bと接地電極3との間隔D、ガス圧力、及びプラズマ発生開始電圧との関係は、予め、後述の高周波電力供給手段を用いて実験を行い、そのデータに基いて選ばれる。なお、プラズマ発生に必要な印加電圧と、真空容器内部の圧力pと該間隔Dの積(即ち、p・D)の関係は、パッシェン則に従う、ことが知られている。
【0021】
符号10は高周波電源である。高周波電源10は、高周波の電力を発生する。高周波電源10は、後述の整合器11と後述の真空装置用電流導入端子12と後述の給電棒13と連携して後述のプラズマ16を生成するために用いられる。高周波電源10の出力周波数は、13.56MHz、又は27.12MHz、又は40.68MHz、又は54.24MHz、又は67.8MHzから選ばれる。その選定理由は、工業周波数13.56MHz及びその倍波に相当する電源は安価に入手できるから、である。前記周波数以外に、VHF(30MHz~300MHz)帯域から任意に選ぶこともできる。高周波電源の出力は、ここでは、例えば、2KW~30KWである。なお、高周波プラズマ発生装置の応用においては、基板へのイオンダメージを抑制するために電源周波数をより高くすることが求められる。
ここでは、例えば、工業周波数13.56MHzの3倍波である40.68MHzとする。40.68MHzの電磁波の波長は、真空中では7.37mであるが、プラズマ中では、波長が短縮するので、真空中の波長より短い。波長短縮率0.65として、略4.8mである。
符号11は整合器である。整合器11は、高周波電源10とその負荷のインピーダンスを整合する。即ち、該整合器11に内蔵のインピーダンス整合回路を調整して、該高周波電源10の出力の進行波を最大とし、負荷から戻ってくる反射波(退行波)を最小にする。
符号12は真空装置用電流導入端子である。真空装置用電流導入端子12は真空漏れがない状態で、整合器11から送電された高周波電源10の出力を後述の給電棒13に送電する。
符号13は給電棒である。給電棒13は真空装置用電流導入端子12から送電された高波電源10の電力を給電点17へ送電する。給電棒13は、前記真空装置用電流導入端子12から送電される高周波電源10の出力である電力を、真空容器1と非接地電極2の間の空間に放射する。即ち、給電棒13から放射された高周波電源10の出力である電力波は、真空容器1と非接地電極2の間の空間を伝播して、プラズマ生成領域であるシャワープレート電極2bと接地電極3に挟まれた領域へ送電され、プラズマ16を生成する。
符号17は給電点である。給電点17は前記高周波電源10の出力が前記非接地電極2に印加される地点である。給電点17に印加された高周波電源10の出力である高周波電力の電流は、高周波特有の表皮効果により反応容器1の表面層及び非接地電極2の表面層(深さ略10μm以下)を流れる。なお、給電点17に印加された高周波電源10の出力である高周波電力は、上記の通り、真空容器1と非接地電極2の間の空間に放射され、電力波として伝播する。
【0022】
符号19aは廻り縁である。廻り縁19aは導電性材料で製作され、反応容器1の天板1aと壁板1bとの境界領域に、配置される。廻り縁19aは、真空容器1と電気的に導通状態とする。廻り縁19aの断面形状は、図2(a)に示されるように、三角形とする。断面形状が三角形の廻り縁19aは、その頂点の一つを天板1aと壁板1bとの境界に向け、その辺の一つを非接地電極本体2aの辺を向くような姿勢で配置される。
廻り縁19aは、図1に示されるように、給電棒13から放射され、天板1aに平行に壁板1bの方向へ伝播してきた電力波(電磁波)21aを、正反射する。即ち、廻り縁19aは入射角と反射角を同じとする反射により、前記電力波(電磁波)21aを、図1に示される電力波(電磁波)21bとして伝播させる。その結果、給電棒13から放射され、天板1aに平行に壁板1bの方向へ伝播してきた電力波(電磁波)21aを、その伝播方向を90°曲げて、壁板1bに平行に電力波(電磁波)21bとして伝播させることが可能である。なお、電磁波は光と同様に正反射するという特性(入射面に対して入射角と反射角は等しい)を有する。
廻り縁19aに代えて、断面形状が図2(b)に示される円形である廻り縁19b、あるいは、断面形状が図2(c)に示される矩形である廻り縁19cを用いても良い。いずれの場合でも、電力波の進行方向を略90°曲げる作用を有する。ここでは、例えば、断面形状が三角形である廻り縁19aを用いる。
符号22aは、面取りされた角である。面取りされた角22aは、非接地電極本体2aの角部における電界の集中を抑制緩和するために、非接地電極本体2aの天板1aを臨む角がC面取り加工又はR面取り加工された角部である。ここでは、例えば、角から3mm~5mmを45°で加工(C3~C5)、例えば、C5面取り加工とする。なお、R面取り加工の場合、R5~R10面取り加工を施すのが好ましい。
面取りされた角22aは、給電棒13から放射された電力波が、反応容器1の天板1aの面に平行方向に伝播し、廻り縁19aが配置された天板1aと壁板1bとの境界領域で伝播方向を90°曲げて電磁波21bとなり、壁板1bの面に平行な方向へ伝播する際に、廻り縁19aと非接地電極本体2aの天板1aを臨む角との間に発生する電界の集中を緩和し、異常放電発生を抑制する作用を有する。
符号20は導波板である。導波板20は導電性材料で製作され、シャワープレート電極2bの接地電極3の主面3aに対向する面の角部の周辺領域に設置される。導波板20の断面形状は、三角形、丸形、矩形のいずれでも良い。断面形状が三角形の導波板20の場合は、その辺の一つがシャワープレート電極2bの角を向くような姿勢で配置される。断面形状が矩形の導波板20の場合は、その面の一つがシャワープレート電極2bの角を向くような姿勢で配置される。断面形状が丸形の導波板20の場合は壁板1bと接地電極3の境界領域に配置される。
ここでは、例えば、断面形状が矩形の導波板20を、図1に示されるような配置で設置される。
ただし、導波板20が基板5の搬入、搬出において、邪魔になる場合は、該導波板20を配置しなくとも良い。
【0023】
次に、図1において、高周波電源10の出力が給電点17に供給される際に発生する一対の電極2、3の間の電界分布及び生成されるプラズマの形態について、以下説明する。
高周波電源10の出力である高周波電力Pは、給電棒13からその周辺に電力波として放射される。前記放射された電力波21aは、図1に示されるように、円筒型の反応容器1の天板1aの面に平行方向に伝播し、廻り縁19aが配置された天板1aと壁板1bとの境界領域で伝播方向を90°曲げて電力波21bとなり、壁板1bの面に平行な方向へ伝播し、一対の電極2、3の周辺からその間に流れ込む。なお、この高周波電力Pは、伝播波の形態が円筒状(円柱状)であることから、円筒波(円柱波)と呼ばれる。
上記一対の電極2、3の周辺からその間に流れ込むという形態の高周波電力Pは、電磁気学の知見によると(例えば、非特許文献1参照)、ポインテイングベクトルP=ExB(joule/m・s)で表される。ただし、Eは電界(ベクトル表示)、Bは磁界(ベクトル表示)である。図1に示される高周波プラズマ発生装置の場合、高周波電力Pの伝播の形態は、模式的に、図3の21a、21bのように、円筒波状(円柱波状)である。
即ち、図3において、一対の平行円板型電極(容量結合型平行平板電極)2、3間の電界Eは、該一対の電極2、3の互いに対向する面の法線方向を向き、磁界Bは該一対の電極2、3の中心軸22を中心にした円19の接線方向を向いている。ここで、磁界Bは、アンペールの法則により、電界E方向に流れる変位電流の方向に対して右ネジを回転する方向に発生することにより、円19で表されるように、渦巻き状に発生する。
したがって、ポインテイングベクトルP=ExBは、該電極周辺から中心軸22の方向を向いている。これは、高周波電源10の出力である高周波電力Pが、円板型電極2、3の周辺から中心軸22へ集中するように、円筒波状(円柱波状)の形態で流れ込む、ということを意味している。なお、円筒波状(円柱波状)の形態で流れ込む高周波電力は、該一対の電極2、3内部でプラズマ16を生成する。
【0024】
高周波プラズマ発生装置が、図1に示されるような円筒型の反応容器1に配置され、中心軸22を中心にした軸対称型の一対の円板型電極2、3を備え、該一対の円板型電極2,3の周辺部から円筒波状の形態で電力が供給されるという構造を有する場合、高周波電力Pが円板型電極の周辺から中心軸22へ集中するように流れ込む円筒波状(円柱波状)の形態であることから、該一対の電極2、3間の電界は、例えば、非特許文献2に記載されているように、ゼロ次のベッセル関数J(2πr/λ)で表される。
即ち、電力波の波長をλ、中心軸22からの距離をrで表すと、該一対の電極2、3間に発生する電界Eは、波長λと中心軸からの距離rに依存し、次式で表される。
E=E・J(2πr/λ) ・・・(1)
ただし、Eは定数、J(2πr/λ)はゼロ次のベッセル関数である。ゼロ次のベッセル関数J(2πr/λ)は、2πr/λ=2.405、5.520、8.634等を満たす場合、J(2πr/λ)=0となる。
式(1)は、図4に示されるように、電界の方向(正と負)が中心軸22からの距離rにおいて、交互に変化することを示している。また、式(1)は、一対の円板型電極の半径Rが、R=(λ/2π)x2.405=0.383λより大きいサイズの場合は、電界がゼロという領域が発生することを意味している。
したがって、一対の円板型電極の半径Rが、R=(λ/2π)x2.405=0.383λ以上である場合、電界がゼロの領域を含むことから、電界分布の均一化は電磁気学的に無理がある、ということを示している。逆に考えれば、一対の円板型電極の半径Rが、R=(λ/2π)x2.405=0.383λ以下である場合、均一化が可能というメリットがある。
【0025】
上記式(1)を、図1に示されるシャワープレート電極2bの接地電極3と対向する面の中心点からの距離rを横軸に、縦軸に電界を最大値1.0に基準化してグラフ化すると、図5が得られる。これは、シャワープレート電極2bの中心点を原点とし、半径r方向の電界分布を示している。
図5によれば、r=0~略0.15λにおいて、E=1.0~略0.9である。したがって、電界がほぼ一様な領域は、電極中心からr=略0.15λと見ることができる。プラズマの分布は、電界の強さの二乗に比例する電力の分布に依存することから、シャワープレート電極2bと接地電極3の間に発生するプラズマは、該電極の中心から半径0.15λ程度の領域は一様なプラズマが発生する。これは、直径0.3λ=0.3x4.8m=1.44mの円で囲まれる領域は一様なプラズマが生成されることを意味している。
なお、図1の装置では、上記電力波の波長λは、高周波電源10の周波数が40.68MHzであるので、プラズマの波長短縮率0.65として、プラズマ中の波長λ=4.8mである。
【0026】
次に、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の薄膜形成への応用について、図1図5を参照して説明する。説明の便宜上、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の代表的応用例としてプラズマCVDによる微結晶シリコン膜の形成を例にとり、以下に説明する。
なお、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置を用いたプラズマCVDによる微結晶シリコン膜形成に関する予備試験として、電極間隔、基板温度、シランガスの流量、水素ガスの流量、圧力、電力等の関係に係わるデータとして、例えば、プラズマ生成の電力依存性・圧力依存性、膜厚の電力依存性及び膜厚みの原料ガス流量依存性等のデータを、予め実験により把握し、上記微結晶シリコン膜形成に備えておくのが好ましい。
また、導波板20が基板5の搬入、搬出において、邪魔になる場合は、該導波板20を配置しなくとも良い。
図示しない原料ガスの供給源から原料ガスが選ばれる。ここでは、例えば、微結晶シリコン膜を形成することから、ガス供給条件は、例えば、シランガスと水素を選び、流量比を水素流量/シランガス流量=100/1とする。
先ず、反応容器1の図示しない基板搬入搬出バルブを開いて、基板5を接地電極3の主面3aに載置する。次に、基板搬入搬出バルブを閉じた後、図示しない真空ポンプにより、排気口9a及び排気口9bを介して、反応容器1内部を所定の真空度にする。
その後、図示しないシランガス源及び図示しない水素ガス源から、それぞれ図示しないシランガス及び水素ガスのマスフローコントローラで所定の流量を制御されたシランガス及び水素ガスを反応ガス導入管7へ輸送し、前記シランガス及び前記水素ガスを、空洞2cを介して、反応ガス噴出孔2dから噴出させる。
次に、図示しない排気バルブ制御装置により図示しない排気バルブの開閉度を制御し、反応容器1の内部圧力を、略133Pa~略1333Paに保つ。なお、反応容器1の真空引きに用いる真空ポンプと製膜時に用いる真空ポンプは、異なるものを別々に用いてもよい。ここでは、例えば、250Paに設定し、維持する。
【0027】
次に、予め得られているデータに基づいて、高周波電源10の出力を、例えば、10KWとして、給電点17に印加する。
そうすると、高周波電源10の出力は、図1に示されるように、電力波として給電点17から非接地電極本体2aと天板1aの間を伝播し、廻り縁19aで進行方向を90°曲げて壁板1bに沿って伝播し、導波板20で進行方向を90°曲げて、シャワープレート電極2bの周辺部から前記シャワープレート電極2bと接地電極3の間へ流れ込む。上記電力波の伝播路において、非接地電極本体2aの面取りされた角22と廻り縁19aの間の電界は、前記非接地電極本体2aの角部が面取り加工されていることから、電界集中に起因する放電は発生しない。
この電力は、図3に示されるように、シャワープレート電極2bの中心軸22へ向けて集中するように進行する。シャワープレート電極2bと接地電極3の間に高周波電源10の出力が供給されると、図5に示される分布を持つ電界が発生する。この電界分布が発生すると、該電界の二乗に比例した強さを持つ電力分布が形成される。前記電界がプラズマ発生条件を満たせば、シャワープレート電極2bと接地電極3の間にプラズマ16が生成される。
即ち、原料ガスのSiH、水素Hがプラズマ化される。その結果、SiH、水素Hが解離し、微結晶シリコン膜形成の前駆体であるSiHラジカル、Hラジカル等を発生する。SiHラジカル、Hラジカルは拡散して、基板5の表面に堆積する。
【0028】
次に、微結晶シリコン膜の厚みは該プラズマ生成時間に比例するので、前記高周波電源10の出力供給開始から所定の時間が経過した時点で、その出力をゼロにする。
製膜時間は、予め取得されたデータに基づいて決められる。ここでは、1分~20分、例えば2分とする。
目的とする微結晶シリコン膜の製膜が終了後、上記シランガスガス及び水素ガスの供給を停止し、反応容器1内部を、一旦、高い真空度に真空引きする。その後、反応容器1を大気条件に戻す。反応容器1が大気条件に戻された後、図示しない基板搬入搬出バルブを開とし、基板5を取り出す。反応容器1から取り出された基板5には、均一な微結晶シリコン膜が形成されている。
【0029】
なお、上述した本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の薄膜形成への応用では、プラズマCVDによる微結晶シリコン膜形成を例にとり、説明したが、有機シランガスを含む反応性ガスを用いたプラズマCVDによる薄膜形成あるいはプラズマALDによる薄膜形成への応用も可能である。また、水素、酸素又は塩素を含む反応性ガスを用いたプラズマエッチングへの応用も可能である。
【0030】
本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置を用いた薄膜形成装置は、上述の通り、周波数40.68MHzの高周波電源を用いて、電極サイズが直径1mの円形平板型の非接地電極2aの前記接地電極3に対向しない面の中央点に給電点17が設けられ、前記天板1aと前記壁板1bの境界領域に電気的に接地された導電性材料で形成された廻り縁19aが配置されることを特徴とし、従来の円形平板電極を用いた高周波プラズマ発生装置において発生する供給電力伝播路での電力損失問題及びジュール熱発生問題を解消することが可能であることを示した。また、円形平板電極を用いた高周波プラズマ発生装置で発生するプラズマの均一性はゼロ次のベッセル関数で表され、非接地電極の中心点から直径で0.3λ(λは、プラズマ中の波長)の領域はプラズマの均一化が可能であることを示した。
なお、ここでは、周波数を40.68MHzとし、基板サイズを直径1mとしているが、この数値に限定されることはない。周波数を工業周波数13.56MHzに選ぶことにより、基板サイズが直径3m級プラズマの均一化が可能である。
本発明による高周波プラズマ発生装置は、大画面液晶デイスプレイ、大画面有機ELデイスプレイ、大面積太陽電池及び各種半導体デバイス等の分野にける大面積均一のプラズマ生成が可能であり、製品製造コストの低減及び性能向上への貢献度は著しく大きいことから、産業上の貢献度は著しく大きい。
また、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置は、プラズマCVDを用いた微結晶シリコン膜の形成への応用であるが、これに限定されず、反応性ガスとして、水素又は酸素又は塩素等を用いるプラズマエッチング装置及びプラズマALD装置としての応用が可能であることは、当然のことである。
【0031】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置について、図6図11を参照して、説明する。
図6は、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の構成を示す模式的断面図である。図7は、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の構成部材である電力供給手段の電気系統図である。図8は、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の構成部材である導電性材料で製作された断面形状が三角形の廻り縁の模式図である。図9は、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の供給電力の流れを示すポインテイングベクトルPの模式図である。図10は、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の電界分布表示に用いる座標xの説明図である。図11は、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の一対の電極間の電界分布を示すゼロ次のベッセル関数のグラフ(横軸line-x)である。
【0032】
本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置は、図6に示されるように、図示しない排気系を有する反応容器30と、図示しない反応性ガス供給系と、前記反応性ガスをプラズマ化する高周波電力供給手段を備えている。
図6において、反応容器30は、天板30aと壁板30bと床板30cで構成される矩形筒型の反応容器である。即ち、反応容器30は、形状が矩形筒型の壁板30bの上側に形状が矩形型の天板30aを連結し、下側に形状が矩形型の床板30cを連結した構造を有する。
反応容器30の内部には、後述の非接地電極の電極本体31aと後述のシャワープレート電極31bから成る非接地電極31と、後述の接地電極32が、後述の反応性ガスをプラズマ化するための一対の電極として配置される。非接地電極31は、図示しない絶縁材を介して図示しない片持ち梁の棚により反応容器30の壁に固定される。なお、非接地電極31の反応容器30の壁への固定手段として、例えば、図示しない絶縁材を介して図示しないボルトを用い、反応容器の天板30aに吊り下げて固定することも出来る。
反応容器30は、図示しない真空ポンプに接続された排気口36a、36bを備えている。排気口36a、36bは、図示しない真空ポンプと組み合わせて稼働させることにより、反応容器30の内部を所定の圧力に調整し、該圧力を保持することが可能である。また、反応容器30内部を高真空度に真空引きすることが可能である。
【0033】
接地電極32は、反応容器30の所定の場所に、例えば、真空容器の底面である床板30cに配置される。 接地電極32と後述のシャワープレート電極31bは互いに対向して配置される。
接地電極32には基板33が載置される。接地電極32は、前記排気口32a、32bと連携して用いられる通気穴36aa、36baを備えている。接地電極32は、主面32aを有し、該主面32aで基板33と接し、保持する。基板33の温度は、接地電極32の内部に設けられた図示しない基板ヒータにより所定の温度に制御される。接地電極32の形状は、例えば、後述のシャワープレート電極31bと同様に、矩形である。寸法は、後述の非接地電極31より一回り大きい寸法で、ここでは、例えば、3.2mx3.2mである。
基板33は、図示しない基板搬入搬出用バルブを開閉することにより、大気側から接地電極の主面32aに搬入、載置され、目的とするプラズマ処理が行なわれた後、大気側へ搬出される。ここで、基板33のサイズを、例えば、3mx3mx厚み1.8mmとする。
【0034】
非接地電極31は、図1に示されるように、 接地電極32の主面32aに対向して配置される。非接地電極31は、図示しない反応性ガス供給源から反応性ガスを導入する反応性ガス導入口37と前記反応性ガスを拡散する空洞31cを有する矩形の非接地電極本体31aと、前記反応性ガスを噴出する多数の反応性ガス噴出孔31dを有する矩形平板型のシャワープレート電極31bとを図示しないボルトで締め付けて組み立てられる、という構造を有する。即ち、前記非接地電極本体31aと前記シャワープレート電極31bは図示しない複数のボルトを用いて、締め付けられて、連結される。
なお、非接地電極本体31aは、反応性ガス導入口37から導入された反応性ガスを拡散する空洞31cを介して、前記反応性ガスを後述の多数の反応性ガス噴出孔31dへ輸送する。
シャワープレート電極31bは、図6に示されるように、多数の反応性ガス噴出孔31dを備え、前記反応性ガス導入口37から導入され、前記電極本体31aの空洞31cで拡散されて輸送された反応性ガスを噴出する。反応性ガス噴出孔31dは、直径略0.4mm~略1mmの円形に形成される。ここでは、例えば、0.8mmとする。
シャワープレート電極31bの寸法は、基板33の大きさに対応して選ばれるが、例えば、基板33のサイズが3mx3mx厚み1.8mmの場合、ほぼ同様のサイズに、例えば、3mx3mとする。
非接地電極本体31aは、前記非接地電極本体31aの接地電極32の主面32aと対向しない面の4つの辺の端部に、図6及び図7に示されるように、高周波電力が供給される地点である複数の給電点35a、35b、35c、35dが設けられる。複数の給電点35a、35b、35c、35dの位置は、図7に示されるように、非接地電極本体31aの4つ辺のそれぞれ略中央点である。
シャワープレート電極31bと接地電極32の間隔D、ガス圧力p、及びプラズマ発生開始電圧との関係は、予め、後述の高周波電力供給手段を用いて実験を行い、そのデータに基いて選ばれる。なお、プラズマ発生に必要な印加電圧と、真空容器内部の圧力pと該間隔Dの積(即ち、p・D)の関係は、パッシェン則に従う、ことが知られている。
【0035】
符号50は高周波電源である。高周波電源50は、高周波の電力を発生する。高周波電源50は、後述の電力分配器51、後述の第1、第2、第3及び第4の整合器52a、52b、52c、52dと、後述の第1、第2、第3及び第4の真空装置用電流導入端子53a、53b、53c、53dと、後述の第1、第2、第3及び第4の給電棒55a、55b、55c、55dと連携して、後述のプラズマ58を生成するために用いられる。高周波電源50の出力周波数は、13.56MHz、又は27.12MHz、又は40.68MHz、又は54.24MHz、又は67.8MHzから選ばれる。その選定理由は、工業周波数13.56MHz及びその倍波に相当する電源は安価に入手できるから、である。上記工業周波数13.56MHz及びその2倍、3倍及び4倍波以外の周波数を、VHF(30MHz~300MHz)帯域から任意に選ぶこともできる。高周波電源の出力は、ここでは、例えば、5KW~50KWである。なお、高周波プラズマ発生装置の応用においては、基板へのイオンダメージを抑制するために周波数をより高くすることが求められるが、ここでは、基板が大面積基板への応用であることから、長波長の、例えば、工業周波数13.56MHzを選ぶ。13.56MHzの電磁波の波長は、真空中では22.1mであるが、プラズマ中では、波長が短縮するので、真空中の波長より短い。波長短縮率0.7として、略15.4mである。
【0036】
符号51は電力分配器である。電力分配器51は、高周波電源50の出力を4つに分配し、後述の第1、第2、第3及び第4の整合器52a、52b、52c、52dに送電する。
符号52a、52b、52c、52dは、第1、第2、第3及び第4の整合器である。第1、第2、第3及び第4の整合器52a、52b、52c、52dは、高周波電源50とその負荷のインピーダンスを整合する。即ち、第1、第2、第3及び第4の整合器52a、52b、52c、52dに内蔵のインピーダンス整合回路を調整して、各給電点35a、35b、35c、35d側から反射して戻ってくる反射波(退行波)を最小状態に調整する。
符号53a、53b、53c、53dは真空装置用電流導入端子である。真空装置用電流導入端子53a、53b、53c、53dは真空漏れがない状態で、各整合器52a、52b、52c、52dから送電された高周波電源50の出力を、それぞれ後述の給電棒55a、55b、55c、55dに送電する。
符号55a、55b、55c、55dは第1、第2、第3及び第4の給電棒である。第1、第2、第3及び第4の給電棒55a、55b、55c、55dは、真空装置用電流導入端子53a、53b、53c、53dから送電された高周波電源50の出力をそれぞれ各給電点35a、35b、35c、35dに供給する。
符号35a、35b、35c、35dは第1、第2、第3及び第4の給電点である。第1、第2、第3及び第4の給電点35a、35b、35c、35dは、前記高周波電源50の出力が前記非接地電極31に印加される地点である。各給電点35a、35b、35c、35dに印加された高周波電源50の出力である高周波電力の電流は、高周波特有の表皮効果により反応容器30の表面層及び非接地電極31の表面層(深さ略10μm以下)を流れる。給電点35a、35b、35c、35dに印加された高周波電源50の出力である高周波電力は、真空容器30と非接地電極31の間の空間に放射され、電力波として伝播する。
なお、ここでは、高周波電源50の出力が前記非接地電極31に印加される地点である給電点の個数は4個であるが、非接地電極31の各辺に2個ずつ、合計8個を設けてもよい。後述のプラズマ58の大面積均一化という観点からは、給電点の個数は多いほど好ましい。
【0037】
符号56aは廻り縁である。廻り縁56aは導電性材料で製作され、反応容器30の天板30aと壁板30bとの境界領域に、配置される。廻り縁56aは、真空容器30と電気的に導通状態とする。廻り縁56aの断面形状は、図6及び図8に示されるように、三角形とする。断面形状が三角形の廻り縁56aは、その頂点の一つを天板30aと壁板30bとの境界に向け、その辺の一つを非接地電極本体31aの角部を向くような姿勢で配置される。
廻り縁56aは、図6に示されるように、給電棒55a、55b、55c、55dから放射され、天板30aに平行に壁板30bの方向へ伝播してきた電力波(電磁波)57aを、正反射する。即ち、廻り縁56aは入射角と反射角を同じとする反射により、前記電力波(電磁波)57aを、図6に示される電力波(電磁波)57bとして伝播させる。その結果、各給電棒55a、55b、55c、55dから放射され、天板30aに平行に壁板30bの方向へ伝播してきた電力波(電磁波)57aを、その伝播方向を90°曲げて、壁板30bに平行に電力波(電磁波)57bとして伝播させる。なお、電磁波は光と同様に正反射するという特性(入射面に対して入射角と反射角は等しい)を有する。
廻り縁56aに代えて、断面形状が円形である廻り縁56b、あるいは、断面形状が矩形である廻り縁56cを用いても良い。いずれの場合でも、電力波の進行方向を略90°曲げる作用を有する。ここでは、例えば、断面形状が三角形である廻り縁56aを用いる。
符号59は、面取りされた角である。面取りされた角59は、非接地電極本体31aの角部における電界の集中を抑制緩和するために、非接地電極本体31aの天板30aを臨む角がC面取り加工又はR面取り加工された角部である。ここでは、例えば、角から3mm~5mmを45°で加工(C3~C5)、例えば、C5面取り加工とする。なお、R面取り加工の場合、R5~R10面取り加工を施すのが好ましい。
面取りされた角59は、各給電棒55a、55b、55c、55dから放射された電力波57aが、反応容器30の天板30aの面に平行方向に伝播し、廻り縁56aが配置された天板30aと壁板30bとの境界領域で伝播方向を90°曲げて電力波57bとなり、壁板30bの面に平行な方向へ伝播する際に、該廻り縁56aと非接地電極本体31aの天板30aを臨む角との間に発生する電界の集中を緩和し、異常放電発生を抑制する作用を有する。
符号60は導波板である。導波板60は導電性材料で製作され、シャワープレート電極31bの接地電極32の主面32aに対向する面の角部の周辺領域に設置される。導波板60の断面形状は、三角形、丸形、矩形のいずれでも良い。断面形状が三角形の導波板60の場合は、その辺の一つがシャワープレート電極31bの角を向くような姿勢で配置される。断面形状が矩形の導波板60の場合は、その面の一つがシャワープレート電極31bの角を向くような姿勢で配置される。断面形状が丸形の導波板60の場合は壁板30bと接地電極32の境界領域に配置される。
ここでは、例えば、断面形状が矩形の導波板60を、図6に示されるような配置で設置される。
【0038】
次に、図6において、高周波電源50の出力が複数の給電点35a、35b、35c、35dに供給される際に発生する一対の電極31、32の間の電界分布及び生成されるプラズマの形態について、以下説明する。
高周波電源50の出力である高周波電力は、複数の給電棒55a、55b、55c、55dからその周辺に電力波として放射される。前記放射された電力波57aは、図6に示されるように、矩形筒型の反応容器30の天板30aの面に平行方向に伝播し、廻り縁56aが配置された天板30aと壁板30bとの境界領域で伝播方向を90°曲げて電力波57bとなり、壁板30bの面に平行な方向へ伝播し、一対の電極31、32の周辺からその間に流れ込む。この高周波電力は、伝播経路が矩形筒型であることから、矩形柱状の形態の波となる。
上記一対の電極31、32の周辺からその間に流れ込むという矩形柱状の形態の高周波電力Pは、電磁気学の知見によると(例えば、非特許文献1参照)、ポインテイングベクトルP=ExB(joule/m・s)で表される。ただし、Eは電界(ベクトル表示)、Bは磁界(ベクトル表示)である。図6に示される高周波プラズマ発生装置の場合、高周波電力Pの伝播の形態は、図9に、模式的に、61a、61b、61c、61dで示されるように、矩形筒状波である。
即ち、図9において、一対の矩形板型電極(容量結合型平行平板電極)31、32間の電界Eは、該一対の電極31、32の互いに対向する面の法線方向を向き、磁界Bは該一対の電極31、32の中心軸22を中心にした円63の接線方向を向いている。ここで、磁界Bは、アンペールの法則により、電界E方向に流れる変位電流の方向に対して右ネジを回転する方向に発生することにより、円63で表されるように、渦巻き状に発生する。
したがって、ポインテイングベクトルP=ExBは、該電極周辺から中心軸62の方向を向いている。これは、高周波電源50の出力である高周波電力Pが、矩形板型電極31、32の周辺から中心軸62へ集中するように、矩形柱状の波の形態で流れ込む、ということを意味している。矩形柱状波の形態で流れ込む高周波電力は、該一対の電極31、32間にプラズマ58を生成する。
【0039】
高周波プラズマ発生装置が、図6に示されるような矩形筒型の反応容器30に配置され、矩形平板型の一対の電極31、32を備え、該一対の矩形平板型電極31、32の周辺部から矩形筒状波の形態で電力が供給されるという構造を有する場合、該一対の電極31、32間の電界は、例えば、非特許文献2に記載されているように、ゼロ次のベッセル関数J(2πr/λ)で表される。なお、一対の平板電極の間で正と負の電界が発生するのは、非特許文献2に記載されているように、一対の電極において高周波数の変位電流が流れると磁場が発生し、磁場が時間的に変化すると電界が発生するという電磁波の基本的な現象である。
即ち、電力波の波長をλ、中心軸62からの距離をrで表すと、該一対の電極31、32間に発生する電界Eは、波長λと中心軸からの距離rに依存し、次式で表される。
E=E・J(2πr/λ) ・・・(1)
ただし、Eは定数、J(2πr/λ)はゼロ次のベッセル関数である。ゼロ次のベッセル関数J(2πr/λ)は、2πr/λ=2.405、5.520、8.634を満たす場合、J(2πr/λ)=0となる。
式(1)は、図1に示される本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の場合と同様に、電界の方向(正と負)が中心軸62からの距離rにおいて、交互に変化することを示している。
また、式(1)は、図10にされる一対の矩形平板型電極の対角線(line-x)におけるその中心から角(頂点)まで距離Lが、L=(λ/2π)x2.405=0.383λより大きいサイズの場合は、電界がゼロという領域が発生することを意味している。
したがって、一対の矩形平板型電極の対角線において、その中心から角(頂点)まで距離Lが、L=(λ/2π)x2.405=0.383λ以上である場合、電界がゼロの領域を含むことから、電界分布の均一化は電磁気学的に無理がある、ということを示している。
逆に考えれば、一対の矩形平板型電極の対角線においてその中心から角(頂点)まで距離Lが、L=(λ/2π)x2.405=0.383λ以下である場合、均一化が可能というメリットがある。
【0040】
上記式(1)を、図10に示されるシャワープレート電極31bの接地電極32と対向する面の対角線(line-x)を横軸に、縦軸に電界を、最大値1.0に基準化してグラフ化すると、図11が得られる。図11は、シャワープレート電極31bの中心点を原点とし、シャワープレート電極31bの対角線(line-x)上の電界分布を示している。
図11によれば、line-x=0~略0.15λにおいて、E=1.0~略0.9である。したがって、電界がほぼ一様な領域は、電極中心からline-x=略0.3λと見ることができる。即ち、シャワープレート電極31bと接地電極32の間に発生するプラズマは、該電極の中心から半径0.15λ程度の領域は一様なプラズマが発生する。これは、直径0.3λ=0.3x15.4m=4.6mの円で囲まれる領域は一様なプラズマが生成されることを意味している。
なお、図6に示される装置では、上記電力波の波長λは、高周波電源50の周波数が13.56MHzであるので、プラズマの波長短縮率0.7として、プラズマ中の波長λ=15.4mである。
【0041】
次に、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の薄膜形成への応用について、図6図11を参照して説明する。説明の便宜上、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の代表的応用例としてプラズマCVDによる微結晶シリコン膜の形成を例にとり、以下に説明する。
なお、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置を用いたプラズマCVDによる微結晶シリコン膜形成に関する予備試験として、電極間隔、基板温度、シランガスの流量、水素ガスの流量、圧力、電力等の関係に係わるデータとして、例えば、プラズマ生成の電力依存性・圧力依存性、膜厚の電力依存性及び膜厚みの原料ガス流量依存性等のデータを、予め実験により把握し、上記微結晶シリコン膜形成に備えておくのが好ましい。
図示しない原料ガスの供給源から原料ガスが選ばれる。ここでは、例えば、微結晶シリコン膜を形成することから、ガス供給条件は、例えば、シランガスと水素を選び、流量比を水素流量/シランガス流量=100/1とする。
先ず、反応容器30の図示しない基板搬入搬出バルブを開いて、基板33を接地電極32の主面32aに載置する。次に、基板搬入搬出バルブを閉じた後、図示しない真空ポンプにより、排気口36a及び排気口36bを介して、反応容器30内部を所定の真空度にする。
その後、図示しないシランガス源及び図示しない水素ガス源から、それぞれ図示しないシランガス及び水素ガスのマスフローコントローラで所定の流量を制御されたシランガス及び水素ガスを反応ガス導入管37へ輸送し、前記シランガス及び前記水素ガスを、空洞31cを介して、反応ガス噴出孔31dから噴出させる。
次に、図示しない排気バルブ制御装置により図示しない排気バルブの開閉度を制御し、反応容器30の内部圧力を、略133Pa~略1333Paに保つ。なお、反応容器30の真空引きに用いる真空ポンプと製膜時に用いる真空ポンプは、異なるものを別々に用いてもよい。ここでは、例えば、250Paに設定し、維持する。
【0042】
次に、予め得られているデータに基づいて、高周波電源50の出力を、例えば、20KWとして、給電点35a、35b、35c、35dに印加する。
そうすると、高周波電源50の出力は、図6に示されるように、電力波として給電点35a、35b、35c、35dから非接地電極本体31aと天板30aの間を伝播し、廻り縁56aで進行方向を90°曲げて壁板30bに沿って伝播し、導波板60で進行方向を90°曲げて、シャワープレート電極31bの周辺部から前記シャワープレート電極31bと接地電極32の間へ流れ込む。上記電力波の伝播路において、非接地電極本体31aの面取りされた角59と廻り縁56aの間の電界は、前記非接地電極本体31aの角部が面取り加工されていることから、電界集中に起因する異常放電は発生しない。
この電力は、図9に示されるように、シャワープレート電極31bの中心軸62へ向けて集中するように進行する。シャワープレート電極31bと接地電極32の間に高周波電源50の出力が供給されると、図11に示される分布を持つ電界が発生する。この電界が発生すると、該電界の二乗に比例した強さを持つ電力が得られる。前記電界がプラズマ発生条件を満たせば、シャワープレート電極31bと接地電極32の間にプラズマ58が生成される。
即ち、原料ガスのSiH、水素Hがプラズマ化される。その結果、SiH、水素Hが解離し、微結晶シリコン膜形成の前駆体であるSiHラジカル、Hラジカル等を発生する。SiHラジカル、Hラジカルは拡散して、基板33の表面に堆積する。
【0043】
次に、微結晶シリコン膜の厚みは該プラズマ生成時間に比例するので、前記高周波電源50の出力供給開始から所定の時間が経過した時点で、その出力をゼロにする。
製膜時間は、予め取得されたデータに基づいて決められる。ここでは、1分~20分、例えば2分とする。
目的とする微結晶シリコン膜の製膜が終了後、上記シランガスガス及び水素ガスの供給を停止し、反応容器1内部を、一旦、高い真空度に真空引きする。その後、反応容器30を大気条件に戻す。反応容器30が大気条件に戻された後、図示しない基板搬入搬出バルブを開とし、基板33を取り出す。反応容器30から取り出された基板33には、均一な微結晶シリコン膜が形成されている。
【0044】
なお、上述した本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置の薄膜形成への応用では、プラズマCVDによる微結晶シリコン膜形成を例にとり、説明したが、有機シランガスを含む反応性ガスを用いたプラズマCVDによる薄膜形成あるいはプラズマALDによる薄膜形成への応用も可能である。また、水素、酸素又は塩素を含む反応性ガスを用いたプラズマエッチングへの応用も可能である。
【0045】
本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置を用いた薄膜形成装置は、上述の通り、周波数13.56MHzの高周波電源を用いて、電極サイズが3mx3mの矩形平板型の非接地電極本体31aの接地電極32に対向しない面の辺に給電点35a、35b、35c、35dが設けられ、天板30aと壁板30bの境界領域に電気的に接地された導電性材料で形成された廻り縁56aが配置されることを特徴とし、従来の矩形平板電極を用いた高周波プラズマ発生装置において発生する供給電力伝播路での電力損失問題及びジュール熱発生問題を解消することが可能であることを示した。また、矩形平板電極を用いた高周波プラズマ発生装置で発生するプラズマの強さの分布はゼロ次のベッセル関数で表され、非接地電極の中心点から直径で0.15λ(λは、プラズマ中の波長)の領域はプラズマの均一化可能であることを示した。
本発明による高周波プラズマ発生装置は、大画面液晶デイスプレイ、大画面有機ELデイスプレイ、大面積太陽電池及び各種半導体デバイス等の分野にける大面積均一のプラズマ生成が可能であり、製品製造コストの低減及び性能向上への貢献度は著しく大きいことから、産業上の貢献度は著しく大きい。
また、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマ発生装置は、プラズマCVDを用いた微結晶シリコン膜の形成への応用であるが、これに限定されず、反応性ガスとして、水素又は酸素又は塩素等を用いるプラズマエッチング装置及びプラズマALD装置としての応用が可能であることは、当然のことである。
【符号の説明】
【0046】
1、30・・・反応容器、
1a、30a・・・天板、
1b、30b・・・壁板、
1c、30c・・・床板、
2、31・・・非接地電極、
2a、31a・・・非接地電極本体、
2b、31b・・・シャワープレート電極、
2c、31c・・・空洞、
2d、31d・・・反応性ガス噴出孔、
3、32・・・接地電極、
5、33・・・基板、
10、50・・・高周波電源、
11、52a、52b、52c、52d・・・整合器、
12、53a、53b、53c、53d・・・真空装置用電流導入端子、
13、55a、55b、55c、55d・・・給電棒、
17、35a、35b、35c、35d・・・給電点、
19a、56a・・・廻り縁、
22a、59・・・面取りされた角、
20、60・・・導波板、
21a、21b、57a、57b・・・電力波(電磁波)、
51・・・電力分配器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13