(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108086
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】イオン液体噴霧装置、及びイオン液体噴霧方法
(51)【国際特許分類】
B05B 5/035 20060101AFI20230728BHJP
B05B 5/025 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
B05B5/035
B05B5/025 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009045
(22)【出願日】2022-01-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】515023464
【氏名又は名称】小畑産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119725
【弁理士】
【氏名又は名称】辻本 希世士
(74)【代理人】
【識別番号】100168790
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英之
(72)【発明者】
【氏名】松本 祐司
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼奈 秀匡
(72)【発明者】
【氏名】西ヶ花 完
【テーマコード(参考)】
4F034
【Fターム(参考)】
4F034AA10
4F034BA01
4F034BA07
4F034BA36
4F034BB04
4F034BB12
4F034BB15
4F034BB25
(57)【要約】
【課題】イオン液体の劣化を抑制し、コスト増大を抑制できるとともに、イオン液体を肉眼では容易に視認できない、気化に準ずるような微小径の液滴とし、噴霧できるイオン液体噴霧装置、及びイオン液体噴霧方法を提供する。
【解決手段】
イオン液体噴霧装置は、収液部10と、放出部20と、送液手段30と、電源部40と、真空容器50とを具備する。収液部10は、開口10aを有し、イオン液体3を収容する。放出部20は、ノズル21、及び対向電極22を含み、イオン液体3の液滴を放出する。ノズル21は、イオン液体3を吐出する。対向電極22は、ノズル21に対向配置される。送液手段30は、収液部10の開口10aを開放及び閉塞可能であり、収液部10から放出部20にイオン液体3を送る。電源部40は、放出部20のノズル21と対向電極22との間に電圧を印加する。真空容器50は、収液部10を収容する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有し、イオン液体を収容する収液部と、
前記イオン液体を吐出するノズル、及び前記ノズルと対向配置される対向電極を含み、前記イオン液体の液滴を放出する放出部と、
前記収液部の前記開口を開放及び閉塞可能であり、前記収液部から前記放出部に前記イオン液体を送る送液手段と、
前記放出部の前記ノズルと前記対向電極との間に電圧を印加する電源部と、
前記収液部を収容する真空容器
とを具備するイオン液体噴霧装置。
【請求項2】
前記送液手段は、前記真空容器に収容され、前記開口を介し前記収液部と嵌合され、前記収液部から前記イオン液体を押出すピストン、前記収液部から押出された前記イオン液体を前記放出部に送る輸液管、及び、前記収液部及び前記ピストンの少なくとも一方を移動する移動手段であって、前記収液部の前記開口が開放される開放状態と、前記収液部の前記開口が閉塞される閉塞状態との間で、前記収液部、及び前記ピストンの少なくとも一方を移動する移動手段を含み、
前記収液部は、前記ピストンと嵌合される被嵌合部であって、前記イオン液体が注入される被嵌合部を含む、請求項1に記載のイオン液体噴霧装置。
【請求項3】
前記収液部は、複数の前記被嵌合部を有し、
前記送液手段は、前記複数の被嵌合部と嵌合する複数の前記ピストンを含む、請求項2に記載のイオン液体噴霧装置。
【請求項4】
前記放出部の前記ノズル、及び前記送液手段の前記輸液管は、導体から形成される、請求項2又は請求項3に記載のイオン液体噴霧装置。
【請求項5】
前記電源部は、バイポーラ電源を含む、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のイオン液体噴霧装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のイオン液体噴霧装置を使用し、イオン液体を噴霧するイオン液体噴霧方法であって、
前記収液部の前記開口が開放されている開放状態において前記真空容器を減圧し、前記イオン液体を脱気する脱気工程と、
前記脱気工程の後、前記送液手段が、前記収液部の前記開口を閉塞し、前記開口が閉塞されている閉塞状態において、前記収液部から前記放出部に前記イオン液体を送る送液工程と、
前記電源部が、前記放出部の前記ノズルと前記対向電極との間に電圧を印加する電圧印可工程と、
前記放出部が、前記ノズルと前記対向電極との間の電位差によって、前記イオン液体の液滴を放出する放出工程
とを具備する、イオン液体噴霧方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体噴霧装置、及びイオン液体噴霧方法に関し、特に、各種有機化合物の精製などに使用されるイオン液体を肉眼では容易に視認できない微小径の液滴とし、噴霧するためのイオン液体噴霧装置、及びイオン液体噴霧方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
次世代ディスプレイ、次世代照明などに使用されるデバイスとして、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと称する)を利用した有機ELデバイスが注目されている。そして、有機ELデバイスの主要材料である有機化合物(以下、有機EL化学材料と称する)について、需要の増大による量産化が求められるとともに、高特性を得るための高純度化が求められている。
【0003】
有機EL化学材料の精製には、従来、昇華精製法が用いられている。しかしながら、現行の昇華精製法によれば、有機EL化学材料を十分に高純度化するために、複数回の精製を繰り返すことが必要となり、収率は、50%以下となることも多い。従って、現行の昇華精製法によっては、高純度の有機EL化学材料を低コストで量産化することは困難であるとの指摘があり、現行の昇華精製法を代替する新たな精製手法の開発が求められている。
【0004】
有機EL化学材料のような有機化合物を高い収率で精製する技術に関し、特許文献1には、気化したイオン液体を使用し有機化合物を精製する精製方法が記載されている。特許文献1に記載の精製方法によれば、加熱により気化したイオン液体と加熱により気化した有機化合物とが接触された後、冷却され、有機化合物が固体として析出され、有機化合物が精製される。
【0005】
特許文献1に記載の精製方法によれば、有機化合物とイオン液体とが気化されることによって、単位体積当たりの両者の接触面積が大きくなり、精製を何度も繰り返す必要がなく、高い収率で有機化合物を精製でき、有機EL化学材料の精製においても低コスト化が見込める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている減圧下におけるイオン液体の微粒子化、微細化手段では、減圧機により、第一容器、第二容器、捕捉容器がそれぞれ接続されて一体となった状態の内部の圧力を、5×10-3Paに調整しているが、イオン液体を貯留する第二容器を200℃程度に保温する必要があるために、イオン液体が加熱により変色や熱分解して変性することで再利用することが困難であるという課題があった。また、比較的に高価であるイオン液体の再利用が制限されると、高コスト化に繋がることも考えられる。また、イオン液体は、蒸気圧が極めて小さく、例えば真空下においても気化しにくく、イオン液体を気化するためには多くの熱量を必要とし、加熱に要する費用も増大する。
【0008】
更には、例えばイオン液体を様々な化学物質の精製に使用するとき様々なイオン液体が使用されるところ、微小径の液滴として気化するために過剰な加熱により着色や分解するイオン液体は、それ以外の化学特性がいかに優れていても、特許文献1に記載の精製方法に使用することは困難である。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、1×10-7~1×10-1Pa程度の超高真空乃至は高真空という減圧下においても、イオン液体が変色や熱分解を起こさないようにすることができ、また、イオン液体を肉眼では容易に視認できない微小径の液滴として噴霧することができるイオン液体噴霧装置、及びイオン液体噴霧方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願に開示するイオン液体噴霧装置は、収液部と、放出部と、送液手段と、電源部と、真空容器とを具備する。前記収液部は、開口を有し、イオン液体を収容する。前記放出部は、ノズル、及び対向電極を含み、前記イオン液体の液滴を放出する。前記ノズルは、前記イオン液体を吐出する。前記対向電極は、前記ノズルと対向配置される。前記送液手段は、前記収液部の前記開口を開放及び閉塞可能であり、前記収液部から前記放出部に前記イオン液体を送る。前記電源部は、前記放出部の前記ノズルと前記対向電極との間に電圧を印加する。前記真空容器は、前記収液部を収容する。
【0011】
本願に開示するイオン液体噴霧装置において、前記送液手段は、ピストン、輸液管、及び移動手段を含む。前記ピストンは、前記真空容器に収容され、前記開口を介し前記収液部と嵌合され、前記収液部から前記イオン液体を押出す。前記輸液管は、前記収液部から押出された前記イオン液体を前記放出部に送る。前記移動手段は、開放状態と閉塞状態との間で、前記収液部及び前記ピストンの少なくとも一方を移動する。前記開放状態とは、前記収液部の前記開口が開放される状態である。前記閉塞状態とは、前記収液部の前記開口が閉塞される状態である。前記収液部は、前記ピストンと嵌合される被嵌合部であって、前記イオン液体が注入される被嵌合部を含む。なお、前記移動手段は、前記閉塞状態において、前記収液部から前記イオン液体を押出すように、前記収液部、及び前記ピストンの前記少なくとも一方を移動する機能を併有してもよい。
【0012】
また、本願に開示するイオン液体噴霧装置において、前記収液部は、複数の前記被嵌合部を含む。前記送液手段は、複数の前記ピストンを含む。前記複数のピストンは、前記複数の被嵌合部と嵌合する。
【0013】
更に、本願に開示するイオン液体噴霧装置において、前記放出部の前記ノズル、及び前記送液手段の前記輸液管は、導体から形成される。
【0014】
更に、本願に開示するイオン液体噴霧装置において、前記電源部は、バイポーラ電源を含む。
【0015】
また、本願に開示するイオン液体噴霧方法は、上記したイオン液体噴霧装置を使用し、イオン液体を噴霧する方法であって、脱気工程と、送液工程と、電圧印可工程と、放出工程とを具備する。前記脱気工程は、前記収液部の前記開口が開放されている開放状態において前記真空容器を減圧し、前記イオン液体を脱気する工程である。前記送液工程は、前記脱気工程の後、前記送液手段が、前記収液部の前記開口が閉塞されている閉塞状態において、前記収液部から前記放出部に前記イオン液体を送る工程である。前記電圧印可工程は、前記電源部が、前記放出部の前記ノズルと前記対向電極との間に電圧を印加する工程である。前記放出工程は、前記放出部が、前記ノズルと前記対向電極との間の電位差によって、前記イオン液体の液滴を放出する工程である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るイオン液体噴霧装置によれば、1×10-7~1×10-1Pa程度の超高真空乃至は高真空という減圧下においても、イオン液体が変色や熱分解を起こさないようにすることができ、また、イオン液体を肉眼では容易に視認できない微小径の液滴として噴霧できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係るイオン液体噴霧装置を示す正面図である。
【
図2】開放状態における
図1のイオン液体噴霧装置を示す正面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るイオン液体噴霧装置と接続される外部装置の一例を示す正面図である。
【
図4】本発明の他の実施形態に係るイオン液体噴霧装置を示す一部拡大図である。
【
図5】本発明の更に他の実施形態に係るイオン液体噴霧装置を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係るイオン液体噴霧装置、及びイオン液体噴霧方法を図面に基づいて詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するのに好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に発明を限定する旨が明記されていない限り、この実施形態に限定されるものではない。
【0019】
〈実施形態〉
以下に、
図1から
図3を参照して、本発明の実施形態に係るイオン液体噴霧装置を説明する。
図1は、実施形態に係るイオン液体噴霧装置を示す正面図である。
図2は、開放状態における
図1のイオン液体噴霧装置を示す正面図である。
図3は、実施形態に係るイオン液体噴霧装置と接続される外部装置の一例を示す正面図である。
【0020】
図1から
図3に示すように、実施形態に係るイオン液体噴霧装置は、外部装置1と接続する接続部2を有し、エレクトロスプレーによって、常温、且つ真空下で、イオン液体3を肉眼では容易に視認できない、気化に準ずるようなナノサイズの微小径の液滴3aとし、接続部2から外部に向かって噴霧し、外部装置1に供給する装置である。
【0021】
実施形態の外部装置1は、
図3を参照して後で詳述するように、イオン液体噴霧装置から供給されるイオン液体3の微小径の液滴3aを使用し、有機EL化学材料を精製する装置である。ただし、有機EL化学材料とは、本明細書においては、有機エレクトロルミネッセンス(organic electro-luminescence)を利用するデバイス(有機ELデバイス)における主要材料としての有機化合物を指称する。
【0022】
有機EL化学材料には、正孔注入材料、正孔輸送材料、電子輸送材料、及び電荷発生材料などがある。なお、本明細書においては、実施形態のイオン液体噴霧装置に接続される外部装置の一例として、有機EL化学材料の精製装置を挙げている。しかしながら、実施形態のイオン液体噴霧装置は、イオン液体3の微小径の液滴3aを何らかの目的に使用する外部装置であれば、どのような外部装置と接続されてもよい。例えば、化学物質の精製装置を実施形態のイオン液体噴霧装置と接続する場合には、有機EL化学材料に限らず、固体から気体に変化する物性を有する化学物質であれば、他の用途の電子材料、又は医薬品などの精製装置と実施形態のイオン液体噴霧装置とを好適に接続できる。
【0023】
従って、実施形態に係るイオン液体噴霧装置は、上記した有機EL化学材料などの有機化合物の精製のような産業的分野だけではなく、大学、各種研究機関における基礎研究開発のようなアカデミック分野における利用も期待される。アカデミック分野としては、イオン液体の真空蒸着が必要なナノ材料の基礎研究分野において、従来のレーザー加熱、又は抵抗加熱による方法を代替し、高効率にナノスケールからマクロスケールの蒸発量を制御可能な装置として、本発明のイオン液体噴霧装置は期待できる。
【0024】
実施形態において、接続部2は、円形の金属板又は樹脂板であり、後述のノズル21が気密に嵌挿される図示しない貫通孔、外部装置1を連結するためのボルト孔などが穿設される。
【0025】
イオン液体は、カチオンとアニオンのみから構成される溶融塩であり、通常の「塩」と比較すると融点が顕著に低く、優れた化学安定性を有していること、イオン伝導度が高いこと、難燃性、特殊な溶解性を有することなどの特徴を有している。イオン液体は、イオンのみから成り、粒子間の長距離引力(クーロン力)が比較的に大きく、蒸気圧が極めて小さい。従って、真空下でも蒸発せず、真空下でイオン液体を噴霧することが可能である。
【0026】
また、真空下では、大気圧下と異なり、粒子の平均自由行程が短いので、液滴が会合しにくく、ナノサイズのイオン液体3の液滴3aを比較的に容易に安定化できる。例えば、1×10-2Paオーダー以下の高真空下では、大気圧下よりも放電が生じにくく、より高電圧の電源を使用し、高速の粒子線としてイオン液体3の液滴3aを噴霧できる。
【0027】
また、イオン液体は、使用目的に応じて具体的な成分が選定されるものであり、実施形態のイオン液体3は、使用温度範囲(例えば、摂氏10度から35度)で液体であり、有機EL化学材料などの精製対象物に含まれる不純物を吸収する吸収性を有していれば、成分は特に限定されない。イオン液体3としては、公知または市販のものを使用することができる。例えば、イオン液体3は以下に示すアニオンとカチオンとからなる。
【0028】
アニオンとしては、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6
-)、テトラフルオロボレート(BF4
-)、p-トルエンスルホナート(p-CH3-C6H4SO3
-)、トリフルオロメタンスルホナート(CF3SO3
-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[(CF3SO2)2N-]、ジシアナミド[(NC)2N-]、トリス(トリフルオロメチルスルフォニル)メチド[(CF3SO2)3C-]、酢酸イオン(CH3COO-)、トリフルオロ酢酸イオン(CF3COO-)等から1種類以上が選択される。
【0029】
カチオンとしては、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピラゾリウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、イミダゾリウム等の窒素含有環状カチオン化合物及びそれらの誘導体;テトラアルキルアンモニウムのアミン系カチオン及びそれらの誘導体;ホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、テトラアルキルホスホニウム等のホスフィン系カチオン及びそれらの誘導体;リチウムカチオン及びその誘導体等から1種以上が選択される。
【0030】
そして、実施形態に係るイオン液体噴霧装置は、収液部10と、放出部20と、送液手段30と、電源部40としての第1電源41と、真空容器50とを具備する。
【0031】
図2に示すように、収液部10は、全体として円柱状であり、開口10a、被嵌合部10b、及びテーパ部10cを有し、開口10aが上を向くように設置され、イオン液体3を収容する。収液部10の材質は、特に限定されず、金属であっても樹脂であってもよいが、実施形態においては、軽量化、低コスト化、及び移動手段32との絶縁のために、収液部10は樹脂から形成される。
【0032】
開口10aは、被嵌合部10bの一端、実施形態においては、被嵌合部10bの上端に位置している。被嵌合部10bは、収液部10の内部に形成された円柱形状の空間であり、開口10aを介し、イオン液体3が注入され、開口10aを介し、後述のピストン31と嵌合される。被嵌合部10bの他端、実施形態において下端は、完全に閉塞された底部となっており、イオン液体3は、開口10aを介し、被嵌合部10bから外部に送られる。テーパ部10cは、被嵌合部10bと連設され、開口10aから収液部10の一端、実施形態においては上端に向かって拡径していく擂鉢状の斜面から形成される。
【0033】
放出部20は、ノズル21、及び対向電極22を含み、イオン液体3の液滴3aを放出する。以下、放出部20が、イオン液体3をナノサイズの液滴3aとして放出する原理を説明する。
【0034】
ノズル21と対向電極22との間に電圧を印加すると、界面に作用する静電気力がノズル21の端部におけるイオン液体3の表面張力を上回った時点でノズル21の端部においてイオン液体3によりテイラーコーンが形成され、エレクトロスプレー(静電噴霧現象)が生じる。このエレクトロスプレーは、電界による静電気力がテイラーコーン先端から液糸を生成し、液糸が分裂することにより、微小液滴化されたイオン液体3を噴霧排出する現象である。排出された液滴中のイオン間に作用するクーロン力が液滴の表面張力よりも大きくなるとレイリー分裂を起こし、液滴は分裂し、微細化がより促進される。つまり、ノズル21の先端部において、帯電したイオン液体3が、ナノサイズにまで微細化された帯電微粒子、すなわち微小液滴となり、対向電極22からのクーロン力によって引き寄せられ、気化に準ずるような、ナノサイズの微小径の液滴3aが、外部に放出され、イオン液体3が噴霧される。
【0035】
実施形態においては、ノズル21は、少なくとも先端付近の内径が約0.1mmであるキャピラリから形成されており、イオン液体3を吐出する。また、実施形態のノズル21は、導体である、ステンレス鋼などの金属材料から形成され、導電性を有する。ノズル21として極細のキャピラリを使用することによって、ノズル21の鋭い先端に強い電界が誘起されやすくなり、表面電化密度が臨界値を超えるように速やかに増大され、エレクトロスプレーによってイオン液体3のナノサイズの液滴3aがより確実に発生される。
【0036】
対向電極22は、ノズル21と対向配置される。実施形態においては、対向電極22は、リング状であり、キャピラリであるノズル21の先端にゆがみのない電界が集中されるように、ノズル21は、対向電極22の中心軸と一致するように配置される。対向電極22の材質は、特に限定されない。しかしながら、対向電極22にはノズル21から吐出され、放出されるイオン液体3が付着することがあり、イオン液体3に対する耐食性に優れている金属材料、例えばタングステン、モリブデン、アルミニウム、ステンレス鋼、及びニッケル合金から対向電極22を形成することが好ましい。
【0037】
送液手段30は、収液部10の開口10aを開放及び閉塞可能であり、収液部10から放出部20にイオン液体3を送る。実施形態においては、送液手段30は、ピストン31、輸液管33、及び移動手段32を含む。
【0038】
ピストン31は、開口10aを介し、摺動可能に被嵌合部10bに嵌挿され、収液部10と嵌合され、収液部10からイオン液体3を押出す。実施形態のピストン31は、金属から形成される細長い円柱状であり、導電性を有し、中心軸に沿って長手方向に貫通するように、導液孔31aが形成されている。導液孔31aの一端は、ピストン31と収液部10とが嵌合されている状態において、被嵌合部10bの内部に向かって開口し、他端は、輸液管33と接続可能に開口している。
【0039】
輸液管33は、ピストン31によって収液部10から押出されたイオン液体3を放出部20に送る。実施形態においては、輸液管33は、導体であるステンレス鋼から形成されており、導電性を有し、ピストン31の導液孔31aと接続されることによって、ピストン31と電気的に接続され、導電性を有するキャピラリであるノズル21と、ピストン31とを電気的に接続する。
【0040】
移動手段32は、開放状態と閉塞状態との間で収液部10及びピストン31の少なくとも一方を移動する。実施形態においては、ピストン31が、支柱、及び台座を含む固定手段34によって真空容器50に対し固定されており、収液部10が移動手段32によって開放状態と閉塞状態との間で移動される。なお、移動手段32は、閉塞状態において、収液部10からイオン液体3を押出すように、収液部10を一定の速度で移動する機能を併有する。
【0041】
開放状態とは、
図2に示すように、収液部10とピストン31とが嵌合されず、開口10aが開放されている状態である。閉塞状態とは、
図1に示すように、収液部10とピストン31とが嵌合され、開口10aが閉塞されている状態である。以上のとおり、実施形態において、ピストン31は、収液部10の開口10aを開放及び閉塞する開閉部材であり、真空容器50に収容される。
【0042】
移動手段32は、電動機32a、直線導入機32b、及びコントローラ32cを含む。電動機32a、直線導入機32b、及びコントローラ32cは、支持部32dを介し、真空容器50の外部において真空容器50に支持される。なお、コントローラ32cは、別置きとされ、電動機32aと信号線などによって接続されてもよい。
【0043】
電動機32aは、実施形態においては、位置制御可能なステッピングモータであり、回転駆動力を発生する。直線導入機32bは、電動機32aの回転駆動力を直線駆動力に変換し、収液部10を直線的に進退移動する。コントローラ32cは、電動機32aを制御する。収液部10は、コントローラ32cの制御によって、開放状態と閉塞状態との間で移動される。また、コントローラ32cは、閉塞状態において、収液部10から単位時間当たり一定量のイオン液体3が放出部20に送られるように、電動機32aを制御する。
【0044】
電源部40は、放出部20のノズル21と対向電極22との間に電圧を印可する。実施形態においては、電源部40は、第1電源41から形成される。第1電源41は、最高電圧が数kVである高圧電源装置であり、ピストン31と接続され、輸液管33を介しノズル21と接続される。
【0045】
一方、対向電極22は、接地されており、ノズル21と対向電極22との間に、最大で数kVの電位差が生じ、ノズル21と対向電極22との間に電界を生じ、エレクトロスプレーによって、イオン液体3の液滴3aを放出部20から放出し、イオン液体3の液滴3aを噴霧することができる。
【0046】
真空容器50は、収液部10を収容する。実施形態においては、真空容器50は、送液手段30の一部であるピストン31をも収容している。また、真空容器50は、筒状の容器本体51と、一対の端板52とを有する。
【0047】
容器本体51は、上下方向に配されており、一対の端板52は、容器本体51の上下の開口を気密に塞ぐ。一対の端板52のうち、上側端板52Aには、図示しない細孔が穿設され、第1電源41とピストン31とを接続する電線が気密に挿通される。下側端板52Bには、図示しない挿通孔が穿設され、棒状の連結部材32eが、気密、且つ進退移動可能に挿通される。連結部材32eは、直線導入機32bと収液部10とを連結する。また、下側端板52Bには、固定手段34によってピストン31が固定される。
【0048】
次に、
図3を参照して、本発明の実施形態に係る外部装置1を説明する。実施形態の外部装置1は、真空排気される合成室61、被接続部62、抵抗加熱ボート63、捕集板64、第1外部電源65、及び第2外部電源66を具備し、実施形態のイオン液体噴霧装置から供給されるイオン液体3の液滴3aを使用し、有機EL化学材料などの有機化合物を精製する装置である。
【0049】
合成室61は、気密容器から形成され、抵抗加熱ボート63、及び捕集板64を収容する。被接続部62は、イオン液体噴霧装置の接続部2と連結され、外部装置1を実施形態のイオン液体噴霧装置と接続する。
【0050】
抵抗加熱ボート63は、有機EL化学材料などの有機化合物である精製対象物4を収容し、第1外部電源65から供給される電力によって精製対象物4を加熱し、精製対象物4の蒸気である対象物蒸気4aを発生する。抵抗加熱ボート63によって発生された対象物蒸気4aと、イオン液体噴霧装置から供給されるイオン液体3の液滴3aとは、合成室61の内部において接触され、対象物蒸気4aは、液滴3aの運動によって捕集板64に吹き付けられる。
【0051】
捕集板64は、上下方向に配されており、第2外部電源66から供給される電力によって、液滴3aと対象物蒸気4aとを冷却する。対象物蒸気4aが冷却されることによって、捕集板64の表面において精製対象物4が析出し、凝集され、捕集板64の下方に配される捕集皿64aまでイオン液体3とともに滑り落ち、収集される。
【0052】
そして、実施形態に係るイオン液体噴霧方法は、実施形態に係るイオン液体噴霧装置を使用し、イオン液体3を噴霧する方法であって、脱気工程と、送液工程と、電圧印可工程と、放出工程とを具備する。なお、実施形態のイオン液体噴霧方法によって得られるイオン液体3の液滴3aを有機EL化学材料の精製以外の目的に使用できることは上述したとおりである。
【0053】
脱気工程は、収液部10の開口10aが開放されている開放状態において真空容器50を減圧し、イオン液体3を脱気する工程である。イオン液体3には、大気圧下において空気中の酸素、窒素などの気体が溶存しており、減圧下においては、イオン液体3に溶存している気体が気泡として現れる。従って、収液部10にイオン液体3が収容され、開口10aが開放されている開放状態において、真空容器50が、イオン液体3の噴霧時と同程度の高真空状態となるように減圧され、イオン液体3が、一定時間、減圧下に置かれる。イオン液体3が、一定時間、減圧下に置かれることによって、イオン液体3に溶存している気体をイオン液体3から分離し、イオン液体3を脱気することができる。
【0054】
送液工程は、脱気工程の後、送液手段30が、収液部10の開口10aを閉塞し、開口10aが閉塞されている閉塞状態において、収液部10から放出部20にイオン液体3を送る工程である。
【0055】
電圧印可工程は、電源部40としての第1電源41が、放出部20のノズル21と対向電極22との間に電圧を印加する工程である。
【0056】
放出工程は、放出部20が、ノズル21と対向電極22との間の電位差によって、イオン液体3の液滴3aを放出する工程である。
【0057】
以上、
図1~
図3を参照して説明したように、実施形態のイオン液体噴霧装置、及びイオン液体噴霧方法によれば、収液部10が、開口10aを有し、送液手段30が、開口10aを開放及び閉塞可能であり、真空容器50が、収液部10を収容する。従って、上記した実施形態に係るイオン液体噴霧方法のように、脱気工程を実行した後に、送液工程を実行することによって、放出部20に送られるイオン液体3から溶存気体を除去することができる。
【0058】
イオン液体を脱気しないまま真空下に置くと、激しく溶存気体の気泡が発生する。従って、真空下でイオン液体を噴霧する場合には、イオン液体を予め脱気しておく必要がある。しかしながら、イオン液体をシリンジなどの収液部に注入する作業は大気圧下で行う必要があり、脱気の効果は半減される。その結果、例えば輸液管に気泡が入り、送液が滑らかに行われなかったり、収液部が薄肉であると、収液部が破損したりするなどの不具合が生じる。
【0059】
実施形態のイオン液体噴霧装置、及びイオン液体噴霧方法によれば、放出部20に送られるイオン液体3から溶存気体を予め除去できることによって、上記した不具合が生じることを防止できる。また、送液手段30が、ピストン31を含み、真空容器50が、開口10aの開閉部材であるピストン31をも収容する実施形態においては、更に容易、且つ確実に、放出部20に送られるイオン液体3から溶存気体を除去することができる。
【0060】
更に、実施形態のイオン液体噴霧装置、及びイオン液体噴霧方法によれば、エレクトロスプレーを利用しイオン液体3を噴霧することによって、イオン液体3を加熱する必要がなく、イオン液体3の劣化を抑制し、コスト増大を抑制できるとともに、イオン液体3を肉眼では容易に視認できない、気化に準ずるような微小径の液滴3aとし、噴霧できる。その結果、イオン液体3の単位体積当たりの表面積を大幅に拡大することができ、イオン液体3の液滴3aと有機EL化学材料などの精製対象物4との接触によって対象物を精製するとき、高効率化が図れる。
【0061】
そして、実施形態のイオン液体噴霧装置、及びイオン液体噴霧方法によれば、静電噴霧によりイオン液体3を肉眼では容易に視認できない微小径の液滴として噴霧するので、イオン液体3を加熱して、気化する必要がないことによって、イオン液体に加熱による変色や分解が生じないことから、一度使用したイオン液体であっても再利用しやすい。ひいては長期にイオン液体噴霧装置を稼働したときに、運用コストの上昇を抑制することができる。
【0062】
また、各種化学物質の精製に限らず、実施形態のイオン液体噴霧装置、及びイオン液体噴霧方法によれば、高温とされていない微小径の液滴3aとしてイオン液体3を噴霧できる。従って、温度上昇が好ましくないプロセス、加熱気化されたイオン液体の使用が困難であるようなプロセスなどのプロセスにおいても、気化に準ずるような、微小径のイオン液体3の液滴3aを供給でき、本発明のイオン液体噴霧装置、及びイオン液体噴霧方法は、そのようなプロセスへの適用も可能となる。
【0063】
また、
図1~
図3を参照して説明したように、実施形態のイオン液体噴霧装置、及びイオン液体噴霧方法によれば、ノズル21が導電性を有し、例えば金属製のピストン31とステンレス鋼製の輸液管33とを介し、第1電源41と接続され、高電圧が印可される。従って、ナノサイズの微小径の液滴3aを得るために、ノズル21としてキャピラリのような微細な管を使用した場合にも、ノズル21の帯電を防止し、放電によってノズル21が破損されることを防止できる。
【0064】
上述したとおり、1×10-2Paオーダー以下の高真空下では、大気圧下よりも放電が生じにくい。しかしながら、圧力がより高い領域の真空下においては、放電はかえって生じやすくなる。実施形態のイオン液体噴霧装置によれば、放電を生じやすい圧力域の真空下においても放電を防止でき、ノズル21が破損されることをより確実に防止できる。また、ノズル21が例えば樹脂製のキャピラリから形成されていると、放電により樹脂が溶融し、ノズル21が閉塞されることがある。ノズル21が金属製であれば、放電が生じても、少なくとも溶融による破損を抑制することができる。また、このため、本実施形態において、真空容器50の内部は、1×10-3~1×10-5Paに調整されることが好ましく、真空容器50は当該圧力範囲において耐久性を有していることが好ましい。
【0065】
なお、上記の実施形態においては、ノズル21に導電性を付与し、ピストン31などと電気的に接続することによって、ノズル21の帯電を防止し、放電によってノズル21が破損されることを防止している。本発明は、これに限られず、第1電源41に、バイポーラ電源を使用し、ノズル21に印可される電圧の極性を常に切替えるようにして、ノズル21の帯電を防止し、放電によってノズル21が破損されることを防止してもよい。
【0066】
第1電源41に使用するバイポーラ電源は、例えば、最大電圧がプラスマイナス数kV、周波数特性が最大で数十kHzである高電圧、高周波数のバイポーラ電源であることが好ましい。また、第1電源41にバイポーラ電源を使用する場合には、
図1に示すように第1電源41をピストン31に接続することも、あるいは、第1電源41をノズル21に直接に接続することも可能である。また、高電圧、高周波数のバイポーラ電源である第1電源41をノズル21と直接に接続するとき、ノズル21は、溶融シリカ、ポリマー樹脂などの導電性を有していない樹脂製のキャピラリから形成することもできる。
【0067】
また、
図1~
図3を参照して説明したように、実施形態のイオン液体噴霧装置、及びイオン液体噴霧方法によれば、開口10aと収液部10の上端との間にテーパ部10cが形成されることによって、ピストン31を被嵌合部10bに嵌挿する際にピストン31が収液部10の上端と当たり、ピストン31を収液部10と嵌合できなくなるのを防止し、ピストン31と収液部10とをより確実に嵌合できる。
【0068】
更に、
図1~
図3を参照して説明したように、実施形態のイオン液体噴霧装置、及びイオン液体噴霧方法によれば、ピストン31が真空容器50に対し固定され、収液部10が移動手段32によって移動され、イオン液体3が、ピストン31に形成される導液孔31aを介し、収液部10から押出され、輸液管33を介し、放出部20に送られる。従って、液だれ防止のためにノズル21をイオン液体3の液面より上に配置する場合に、輸液管33の長さを短くし、放出部20にイオン液体3をより安定的に供給できる。
【0069】
また、ピストン31が固定であることによって、ピストン31を金属材料から形成した場合に、輸液管33を固定のピストン31と接続でき、柔軟性のない金属材料から輸液管33を形成することができる。
【0070】
次に、
図4を参照して、本発明の他の実施形態を説明する。
図4は、本発明の他の実施形態に係るイオン液体噴霧装置を示す一部拡大図である。以下、
図4のイオン液体噴霧装置が、
図1、
図2のイオン液体噴霧装置と異なる部分を主として説明する。
【0071】
図4に示すように、本実施形態においては、収液部10Aは、複数の被嵌合部10bを有する。送液手段30は、複数の被嵌合部10bと嵌合される複数のピストン31と、複数の輸液管33とを有する。放出部20は、複数のノズル21と、図示していない複数の対向電極22とを有する。
【0072】
複数のピストン31は、固定手段34によって、真空容器50に対し固定される。複数のピストン31の各々は、導液孔31aを有し、図示していない第1電源41と接続され、導液孔31aには、ステンレス鋼製の輸液管33が各々接続され、導体から形成されるノズル21と電気的に接続される。複数の対向電極22は、複数のノズル21と各々対向配置される。
【0073】
以上、
図4を参照して説明したように、本実施形態によれば、収液部10Aが複数の被嵌合部10bを有し、送液手段30が複数のピストン31を有し、放出部20が複数のノズル21と、複数の対向電極22とを有する。従って、単位時間あたりに噴霧できるイオン液体3の液滴3aの分量を増大させることができ、例えば有機EL化学材料などの精製を更に効率よく行うことができ、量産化を更に容易とすることができる。
【0074】
次に、
図5を参照して、本発明の更に他の実施形態を説明する。
図5は、更に他の実施形態に係るイオン液体噴霧装置を示す正面図である。以下、
図5のイオン液体噴霧装置が、
図1、
図2のイオン液体噴霧装置と異なる部分を主として説明する。
【0075】
本実施形態のイオン液体噴霧装置においては、電源部40は、
図1と同様の高圧電源である第1電源41と、低電圧のバイポーラ電源である第2電源42とを有する。高電圧の第1電源41は、対向電極22と接続され、低電圧の第2電源42は、ノズル21Aと直接に接続される。第1電源41が対向電極22に印可する電圧は、数kVであることが好ましく、第2電源42がノズル21に印可する電圧は、プラスマイナス数Vであることが好ましい。また、ノズル21Aは、金属製又は樹脂製のキャピラリから形成される。輸液管33Aの材質は特に限定されず、樹脂製であってもよく、ピストン31の材質も特に限定されず、金属製であっても、樹脂製であってもよい。
【0076】
以上、
図5を参照して説明したように、本実施形態によれば、対向電極22にエレクトロスプレーのための高電圧の第1電源41が接続され、ノズル21に帯電防止のために、低電圧のバイポーラ電源である第2電源42が接続される。従って、ノズル21からの放電を防止し、ノズル21の破損を防止することができる。
【0077】
以上、図面(
図1~
図5)を参照しながら本発明の実施形態を説明した。但し、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である(例えば、下記(1)~(4))。
【0078】
(1)上記各実施形態においては、ピストン31が真空容器50に対し固定され、収液部10、10Aが移動手段32によって移動される。本発明は、これに限られず、収液部10、10Aが真空容器50に対し固定され、ピストン31が移動手段32によって移動されてもよく、収液部10、10Aとピストン31の両方が移動されてもよい。
【0079】
(2)上記各実施形態においては、ピストン31を長手方向に貫通するように導液孔31aが形成され、イオン液体3は、ピストン31の内部を通し放出部20に送られる。本発明は、これに限られず、例えば収液部10、10Aの底部にイオン液体3の出口を設け、収液部10、10Aの出口を介しイオン液体3が放出部20に送られるようにしてもよい。このとき、収液部10、10Aを金属材料から形成し、導電性を付与し、第1電源41と接続し、真空容器50に対し固定する。そして、ピストン31を移動手段32によって移動するものとすることが、金属から形成された輸液管33を収液部10、10Aの出口に接続する場合には特に好ましい。
【0080】
(3)上記実施形態においては、ノズル21は、導電性を付与するように金属製のキャピラリから形成されているが、溶融シリカ、ポリマー樹脂などの樹脂製のキャピラリに金属メッキを施し、導電性を付与したものであってもよい。
【0081】
(4)
図4の実施形態においては、複数の被嵌合部10bと、複数のピストン31と、複数のノズル21とが設けられているが、1つの被嵌合部10bと1つのピストン31とから複数のノズル21にイオン液体3を送るように、輸液管33を分岐してもよい。
【符号の説明】
【0082】
3…イオン液体
3a…液滴
10、10A…収液部
10a…開口
10b…被嵌合部
20…放出部
21、21A…ノズル
22…対向電極
30…送液手段
31…ピストン
32…移動手段
33、33A…輸液管
40…電源部
41…第1電源
42…第2電源
50…真空容器
【手続補正書】
【提出日】2023-02-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有し、イオン液体を収容する収液部と、
導体から形成され、前記イオン液体を吐出するノズル、及び前記ノズルと対向配置される対向電極を含み、前記イオン液体の液滴を放出する放出部と、
前記収液部の前記開口を開放及び閉塞可能であり、前記収液部から前記放出部に前記イオン液体を送る送液手段であって、導体から形成され、前記ノズルと電気的に接続される輸液管を含む送液手段と、
前記放出部の前記ノズルと前記対向電極との間に電圧を印加する電源部と、
前記収液部を収容する真空容器
とを具備するイオン液体噴霧装置。
【請求項2】
前記送液手段は、導体から形成されるとともに前記真空容器に収容され、前記開口を介し前記収液部と嵌合され、前記収液部から前記イオン液体を押出すピストン、及び、前記収液部を移動する移動手段であって、前記収液部の前記開口が開放される開放状態と、前記収液部の前記開口が閉塞される閉塞状態との間で前記収液部を移動する機能、及び前記閉塞状態において前記収液部から前記イオン液体を押出すように、前記収液部を一定の速度で移動する機能を有する移動手段を含み、
前記収液部は、前記ピストンと嵌合される被嵌合部であって、前記イオン液体が注入される被嵌合部を含み、前記ピストンは、自身を長手方向に貫通するように形成され前記被嵌合部の内部と前記輸液管とを連通する導液孔を有し、前記輸液管と電気的に接続される、請求項1に記載のイオン液体噴霧装置。
【請求項3】
前記収液部は、複数の前記被嵌合部を有し、
前記送液手段は、前記複数の被嵌合部と嵌合する複数の前記ピストンを含む、請求項2に記載のイオン液体噴霧装置。
【請求項4】
前記電源部は、前記ピストン及び前記輸液管を介し前記ノズルと電気的に接続される、請求項2又は請求項3に記載のイオン液体噴霧装置。
【請求項5】
開口を有し、イオン液体を収容する収液部と、
前記イオン液体を吐出するノズル、及び前記ノズルと対向配置される対向電極を含み、前記イオン液体の液滴を放出する放出部と、
前記収液部の前記開口を開放及び閉塞可能であり、前記収液部から前記放出部に前記イオン液体を送る送液手段と、
前記放出部の前記ノズルと前記対向電極との間に電圧を印加する電源部と、
前記収液部を収容する真空容器
とを具備し、
前記電源部は、一定の電圧を前記ノズルと前記対向電極との間に印加する第1電源、及びバイポーラ電源であり、前記第1電源よりも絶対値が小さい電圧域の電圧を前記ノズルと前記対向電極との間に印加する第2電源を含む、イオン液体噴霧装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のイオン液体噴霧装置を使用し、イオン液体を噴霧するイオン液体噴霧方法であって、
前記収液部の前記開口が開放されている開放状態において前記真空容器を減圧し、前記イオン液体を脱気する脱気工程と、
前記脱気工程の後、前記送液手段が、前記収液部の前記開口を閉塞し、前記開口が閉塞されている閉塞状態において、前記収液部から前記放出部に前記イオン液体を送る送液工程と、
前記電源部が、前記放出部の前記ノズルと前記対向電極との間に電圧を印加する電圧印可工程と、
前記放出部が、前記ノズルと前記対向電極との間の電位差によって、前記イオン液体の液滴を放出する放出工程
とを具備する、イオン液体噴霧方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
本願に開示するイオン液体噴霧装置は、収液部と、放出部と、送液手段と、電源部と、真空容器とを具備する。前記収液部は、開口を有し、イオン液体を収容する。前記放出部は、ノズル、及び対向電極を含み、前記イオン液体の液滴を放出する。前記ノズルは、導体から形成され、前記イオン液体を吐出する。前記対向電極は、前記ノズルと対向配置される。前記送液手段は、前記収液部の前記開口を開放及び閉塞可能であり、輸液管を含み、前記収液部から前記放出部に前記イオン液体を送る。前記輸液管は、導体から形成され、前記ノズルと電気的に接続される。前記電源部は、前記放出部の前記ノズルと前記対向電極との間に電圧を印加する。前記真空容器は、前記収液部を収容する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
本願に開示するイオン液体噴霧装置において、前記送液手段は、ピストン、及び移動手段を含む。前記ピストンは、導体から形成されるとともに前記真空容器に収容され、前記開口を介し前記収液部と嵌合され、前記収液部から前記イオン液体を押出す。前記移動手段は、開放状態と閉塞状態との間で前記収液部を移動する機能、及び前記閉塞状態において前記収液部から前記イオン液体を押出すように、前記収液部を一定の速度で移動する機能を有する。前記開放状態とは、前記収液部の前記開口が開放される状態である。前記閉塞状態とは、前記収液部の前記開口が閉塞される状態である。前記収液部は、前記ピストンと嵌合される被嵌合部であって、前記イオン液体が注入される被嵌合部を含む。前記ピストンは、自身を長手方向に貫通するように形成され前記被嵌合部の内部と前記輸液管とを連通する導液孔を有し、前記導液管と電気的に接続される。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
更に、本願に開示するイオン液体噴霧装置において、前記電源部は、前記ピストン及び前記輸液管を介し前記ノズルと電気的に接続される。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
また、本願に開示するイオン液体噴霧装置は、収液部と、放出部と、送液手段と、電源部と、真空容器とを具備する。前記収液部は、開口を有し、イオン液体を収容する。前記放出部は、ノズル、及び対向電極を含み、前記イオン液体の液滴を放出する。前記ノズルは、前記イオン液体を吐出する。前記対向電極は、前記ノズルと対向配置される。前記送液手段は、前記収液部の前記開口を開放及び閉塞可能であり、前記収液部から前記放出部に前記イオン液体を送る。前記電源部は、前記放出部の前記ノズルと前記対向電極との間に電圧を印加する。前記真空容器は、前記収液部を収容する。そして、前記電源部は、第1電源、及び第2電源を含む。前記第1電源は、一定の電圧を前記ノズルと前記対向電極との間に印加する。前記第2電源は、バイポーラ電源であり、前記第1電源よりも絶対値が小さい電圧域の電圧を前記ノズルと前記対向電極との間に印加する。