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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108207
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】車両制御システム及び転舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20230728BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20230728BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
B60W30/02
B62D5/04
B62D6/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009204
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】皆木 亮
(72)【発明者】
【氏名】本橋 祐也
【テーマコード(参考)】
3D232
3D241
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC22
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA63
3D232DA64
3D232DB02
3D232DB03
3D232DC01
3D232DC02
3D232DC03
3D232DC08
3D232DC29
3D232DD10
3D232DD17
3D232EB04
3D232EB12
3D232EC23
3D232EC37
3D232FF01
3D241BA18
3D241BC01
3D241CC08
3D241CC17
3D241CD15
3D241DA52Z
3D241DA58Z
3D241DB02Z
3D333CB02
3D333CB29
3D333CE45
(57)【要約】
【課題】操舵制御用ECU(操舵制御装置)と転舵制御用ECU(転舵角制御装置)との間の送受信遅延に応じた車速制限が可能な車両制御システム及び転舵制御装置を提供すること。
【解決手段】ハンドルの操舵角に応じてハンドルに操舵反力を付与する反力装置と、ハンドルの操舵角に応じて転舵輪を転舵する転舵用モータを駆動する転舵装置とを具備した車両の制御を行う車両制御システムであって、反力装置を制御する操舵制御装置(操舵制御用ECU)と、転舵装置を制御する転舵制御装置(転舵制御用ECU70)と、を備える。操舵制御装置(操舵制御用ECU)と転舵制御装置(転舵制御用ECU70)との間で送受信されるデータの遅延時間に応じて、車両の車速抑制制御を行う。
【選択図】図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルの操舵角に応じて前記ハンドルに操舵反力を付与する反力装置と、前記ハンドルの操舵角に応じて転舵輪を転舵する転舵用モータを駆動する転舵装置とを具備した車両の制御を行う車両制御システムであって、
前記反力装置を制御する操舵制御装置と、
前記転舵装置を制御する転舵制御装置と、
を備え、
前記操舵制御装置と前記転舵制御装置との間で送受信されるデータの遅延時間に応じて、前記車両の車速抑制制御を行う、
車両制御システム。
【請求項2】
前記操舵制御装置は、前記転舵制御装置に第1データを送信し、
前記転舵制御装置は、
前記第1データの遅延時間を検出する第1遅延検出部と、
前記第1データの遅延時間に応じた第1車速制限値を生成する第1車速制限値生成部と、
を備える、
請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記第1車速制限値は、前記第1データの遅延時間の増加に伴って単調減少する、
請求項2に記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記第1車速制限値は、前記第1データの遅延時間の増加に伴って減少率が減少する、
請求項3に記載の車両制御システム。
【請求項5】
前記第1車速制限値は、前記第1データの遅延時間に対して略反比例する、
請求項4に記載の車両制御システム。
【請求項6】
前記第1データの遅延時間は、予め設定された遅延時間最大値によって制限され、
前記第1車速制限値は、前記遅延時間最大値によって車速制限値最小値に制限される、
請求項3から5の何れか一項に記載の車両制御システム。
【請求項7】
前記第1遅延検出部は、所定の時間間隔で前記第1データの遅延検出処理を行い、
前記遅延検出処理を行うポーリング期間において取得される第1データの有無、整合性、連続性に基づき、前記第1データの遅延を検出する、
請求項2から6の何れか一項に記載の車両制御システム。
【請求項8】
前記転舵制御装置は、前記操舵制御装置に第2データを送信し、
前記操舵制御装置は、
前記第2データの遅延時間を検出する第2遅延検出部と、
前記第2データの遅延時間に応じた第2車速制限値を生成する第2車速制限値生成部と、
を備える、
請求項2から7の何れか一項に記載の車両制御システム。
【請求項9】
前記第2車速制限値は、前記第2データの遅延時間の増加に伴って単調減少する、
請求項8に記載の車両制御システム。
【請求項10】
前記第2車速制限値は、前記第2データの遅延時間の増加に伴って減少率が減少する、
請求項9に記載の車両制御システム。
【請求項11】
前記第2車速制限値は、前記第2データの遅延時間に対して略反比例する、
請求項10に記載の車両制御システム。
【請求項12】
前記第2データの遅延時間は、予め設定された遅延時間最大値によって制限され、
前記第2車速制限値は、前記遅延時間最大値によって車速制限値最小値に制限される、
請求項9から11の何れか一項に記載の車両制御システム。
【請求項13】
前記第2遅延検出部は、所定の時間間隔で前記第2データの遅延検出処理を行い、
前記遅延検出処理を行うポーリング期間において取得される第2データの有無、整合性、連続性に基づき、前記第2データの遅延を検出する、
請求項8から12の何れか一項に記載の車両制御システム。
【請求項14】
前記操舵制御装置は、
前記第1車速制限値と前記第2車速制限値とのうち、何れか小さい方を選択する車速制限値選択処理部をさらに備える、
請求項8から13の何れか一項に記載の車両制御システム。
【請求項15】
前記転舵制御装置は、
前記第1車速制限値と前記第2車速制限値とのうち、何れか小さい方を選択する車速制限値選択処理部をさらに備える、
請求項8から13の何れか一項に記載の車両制御システム。
【請求項16】
操舵制御装置から送信されるデータに基づき、車両の転舵角を制御する転舵制御装置であって、
前記操舵制御装置から送信されるデータの遅延時間に応じて、前記車両の車速抑制制御を行う、
転舵制御装置。
【請求項17】
前記データの遅延時間を検出する遅延検出部と、
前記データの遅延時間に応じた車速制限値を生成する車速制限値生成部と、
を備える、
請求項16に記載の転舵制御装置。
【請求項18】
前記車速制限値は、前記データの遅延時間の増加に伴って単調減少する、
請求項17に記載の転舵制御装置。
【請求項19】
前記車速制限値は、前記データの遅延時間の増加に伴って減少率が減少する、
請求項18に記載の転舵制御装置。
【請求項20】
前記車速制限値は、前記データの遅延時間に対して略反比例する、
請求項19に記載の転舵制御装置。
【請求項21】
前記データの遅延時間は、予め設定された遅延時間最大値によって制限され、
前記車速制限値は、前記遅延時間最大値によって車速制限値最小値に制限される、
請求項18から20の何れか一項に記載の転舵制御装置。
【請求項22】
前記遅延検出部は、所定の時間間隔で前記データの遅延検出処理を行い、
前記遅延検出処理を行うポーリング期間において取得されるデータの有無、整合性、連続性に基づき、前記データの遅延を検出する、
請求項17から21の何れか一項に記載の転舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システム及び転舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者が操作するハンドルを有する操舵機構(FFA:Force Feedback Actuator)と、転舵輪を転舵する転舵機構(RWA:Road Wheel Actuator)とが機械的に分離されているステアバイワイヤ(SBW:Steer By Wire)システムがある。SBWシステムでは、操舵機構と転舵機構とが車両制御システムを介して電気的に接続され、ハンドルの操作を電気信号によって転舵機構に伝えて転舵輪を転舵すると共に、運転者に適切な操舵感を与えるための操舵反力を操舵機構で生成する。操舵機構は、反力用モータを備える反力アクチュエータにより操舵反力を生成し、転舵機構は、転舵用モータを備える転舵アクチュエータにより転舵輪を転舵する。反力アクチュエータとハンドルとは、コラム軸を介して機械的に接続されており、反力アクチュエータが生成した反力(トルク)が、コラム軸とハンドルを介して運転者に伝達される(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-185819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両制御システムは、エンジン・コントロール・モジュール(ECM:Engine Control Module)や、ライトやドアロックなどの車体の電装品を制御するボディ・コントロール・モジュール(BCM:Body Control Module)、アンチロック・ブレーキ・システム(ABS:Antilock Brake System)などを含む各電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)との間が車載用通信バスで接続され、CAN(Controller Area Network)やFlexRay等の車載ネットワーク(車載LAN)を用いて各種データの送受信を行う。
【0005】
操舵機構と転舵機構とが機械的に分離されているSBWシステムでは、操舵機構を制御するECUと転舵機構を制御するECUとの間が接続され、操舵機構を制御するECUと転舵機構を制御するECUとが車両の操向制御に必要な各種データの相互通信を行うことにより車両の操向制御が行われるが、両ECU間で各種データの送受信遅延が生じることがある。このため、送受信遅延が生じた場合の制御に改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、操舵制御用ECUと転舵制御用ECUとの間の送受信遅延に応じた車速制限が可能な車両制御システム及び転舵制御装置を提供すること、を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の一態様に係る車両制御システムは、ハンドルの操舵角に応じて前記ハンドルに操舵反力を付与する反力装置と、前記ハンドルの操舵角に応じて転舵輪を転舵する転舵用モータを駆動する転舵装置とを具備した車両の制御を行う車両制御システムであって、前記反力装置を制御する操舵制御装置と、前記転舵装置を制御する転舵制御装置と、を備え、前記操舵制御装置と前記転舵制御装置との間で送受信されるデータの遅延時間に応じて、前記車両の車速抑制制御を行う。
【0008】
上記構成によれば、操舵制御装置と転舵制御装置との間で送受信されるデータの送受信遅延に応じた車速制限が可能な車両制御システムが得られる。
【0009】
車両制御システムの望ましい態様として、前記操舵制御装置は、前記転舵制御装置に第1データを送信し、前記転舵制御装置は、前記第1データの遅延時間を検出する第1遅延検出部と、前記第1データの遅延時間に応じた第1車速制限値を生成する第1車速制限値生成部と、を備えることが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、操舵制御装置から転舵制御装置に送信される第1データの遅延時間に応じた第1車速制限値を生成することができる。これにより、第1データの遅延時間に応じた車速制限が可能となる。
【0011】
車両制御システムの望ましい態様として、前記第1車速制限値は、前記第1データの遅延時間の増加に伴って単調減少することが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、第1データの遅延時間の増加に伴って単調減少する第1車速制限値が得られる。
【0013】
車両制御システムの望ましい態様として、前記第1車速制限値は、前記第1データの遅延時間の増加に伴って減少率が減少することが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、第1データの遅延時間の増加に伴って減少率が減少する第1車速制限値が得られる。
【0015】
車両制御システムの望ましい態様として、前記第1車速制限値は、前記第1データの遅延時間に対して略反比例することが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、第1データの遅延時間に対して略反比例する第1車速制限値が得られる。
【0017】
車両制御システムの望ましい態様として、前記第1データの遅延時間は、予め設定された遅延時間最大値によって制限され、前記第1車速制限値は、前記遅延時間最大値によって車速制限値最小値に制限されることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、第1データの遅延時間が長い場合でも、車両の運転を継続させることができる。
【0019】
車両制御システムの望ましい態様として、前記第1遅延検出部は、所定の時間間隔で前記第1データの遅延検出処理を行い、前記遅延検出処理を行うポーリング期間において取得される第1データの有無、整合性、連続性に基づき、前記第1データの遅延を検出することが好ましい。
【0020】
上記構成によれば、第1データの遅延を検出することができる。
【0021】
車両制御システムの望ましい態様として、前記転舵制御装置は、前記操舵制御装置に第2データを送信し、前記操舵制御装置は、前記第2データの遅延時間を検出する遅延検出部と、前記第2データの遅延時間に応じた車速制限値を生成する車速制限値生成部と、を備えることが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、転舵制御装置から操舵制御装置に送信される第2データの遅延時間に応じた第2車速制限値を生成することができる。これにより、第2データの遅延時間に応じた車速制限が可能となる。
【0023】
車両制御システムの望ましい態様として、前記第2車速制限値は、前記第2データの遅延時間の増加に伴って単調減少することが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、第2データの遅延時間の増加に伴って単調減少する第2車速制限値が得られる。
【0025】
車両制御システムの望ましい態様として、前記第2車速制限値は、前記第2データの遅延時間の増加に伴って減少率が減少することが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、第2データの遅延時間の増加に伴って減少率が減少する第2車速制限値が得られる。
【0027】
車両制御システムの望ましい態様として、前記第2車速制限値は、前記第2データの遅延時間に対して略反比例することが好ましい。
【0028】
上記構成によれば、第2データの遅延時間に対して略反比例する第2車速制限値が得られる。
【0029】
車両制御システムの望ましい態様として、前記第2データの遅延時間は、予め設定された遅延時間最大値によって制限され、前記第2車速制限値は、前記遅延時間最大値によって車速制限値最小値に制限されることが好ましい。
【0030】
上記構成によれば、第2データの遅延時間が長い場合でも、車両の運転を継続させることができる。
【0031】
車両制御システムの望ましい態様として、前記第2遅延検出部は、所定の時間間隔で前記第2データの遅延検出処理を行い、前記遅延検出処理を行うポーリング期間において取得される第2データの有無、整合性、連続性に基づき、前記第2データの遅延を検出することが好ましい。
【0032】
上記構成によれば、第2データの遅延を検出することができる。
【0033】
車両制御システムの望ましい態様として、前記操舵制御装置は、前記第1車速制限値と前記第2車速制限値とのうち、何れか小さい方を選択する車速制限値選択処理部をさらに備えることが好ましい。
【0034】
上記構成によれば、第1車速制限値と第2車速制限値とのうち、何れか小さい方を選択して車速制限を行うことができる。
【0035】
車両制御システムの望ましい態様として、前記転舵制御装置は、前記第1車速制限値と前記第2車速制限値とのうち、何れか小さい方を選択する車速制限値選択処理部をさらに備えることが好ましい。
【0036】
上記構成によれば、第1車速制限値と第2車速制限値とのうち、何れか小さい方を選択して車速制限を行うことができる。
【0037】
上記の目的を達成するため、本発明の一態様に係る転舵制御装置は、操舵制御装置から送信されるデータに基づき、車両の転舵角を制御する転舵制御装置であって、前記操舵制御装置から送信されるデータの遅延時間に応じて、前記車両の車速抑制制御を行う。
【0038】
上記構成によれば、操舵制御装置から送信されるデータの送信遅延に応じた車速制限が可能な転舵制御装置が得られる。
【0039】
転舵制御装置の望ましい態様として、前記データの遅延時間を検出する遅延検出部と、前記データの遅延時間に応じた車速制限値を生成する車速制限値生成部と、を備えることが好ましい。
【0040】
上記構成によれば、操舵制御装置から転舵制御装置に送信されるデータの遅延時間に応じた車速制限値を生成することができる。これにより、データの送受信遅延に応じた車速制限が可能となる。
【0041】
転舵制御装置の望ましい態様として、前記車速制限値は、前記データの遅延時間の増加に伴って単調減少することが好ましい。
【0042】
上記構成によれば、データの遅延時間の増加に伴って単調減少する車速制限値が得られる。
【0043】
転舵制御装置の望ましい態様として、前記車速制限値は、前記データの遅延時間の増加に伴って減少率が減少することが好ましい。
【0044】
上記構成によれば、データの遅延時間の増加に伴って減少率が減少する車速制限値が得られる。
【0045】
転舵制御装置の望ましい態様として、前記車速制限値は、前記データの遅延時間に対して略反比例することが好ましい。
【0046】
上記構成によれば、データの遅延時間に対して略反比例する車速制限値が得られる。
【0047】
転舵制御装置の望ましい態様として、前記データの遅延時間は、予め設定された遅延時間最大値によって制限され、前記車速制限値は、前記遅延時間最大値によって車速制限値最小値に制限されることが好ましい。
【0048】
上記構成によれば、データの遅延時間が長い場合でも、車両の運転を継続させることができる。
【0049】
転舵制御装置の望ましい態様として、前記遅延検出部は、所定の時間間隔で前記データの遅延検出処理を行い、前記遅延検出処理を行うポーリング期間において取得されるデータの有無、整合性、連続性に基づき、前記データの遅延を検出することが好ましい。
【0050】
上記構成によれば、データの遅延を検出することができる。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、操舵制御用ECU(操舵制御装置)と転舵制御用ECU(転舵角制御装置)との間の送受信遅延に応じた車速制限が可能な車両制御システム及び転舵制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1図1は、実施形態に係るSBWシステムの概要の例を示す構成図である。
図2A図2Aは、実施形態に係る車両制御システムの概略構成の一例を示す図である。
図2B図2Bは、各ECUのハードウェア構成の一例を示す模式図である。
図3図3は、車両の操向制御に関わる制御ブロック構成の一例を示す図である。
図4図4は、操舵トルク目標値生成部の構成例を示すブロック図である。
図5A図5Aは、基本マップの特性例を示す線図である。
図5B図5Bは、トルク値Tref_basicの特性例を示す線図である。
図6A図6Aは、ダンパゲインマップの特性例を示す図である。
図6B図6Bは、トルク値Tref_a+Tref_bの特性例を示す線図である。
図7図7は、本開示における操舵方向を説明するための領域図である。
図8図8は、実施形態に係る操舵トルク補償値演算部の構成例を示すブロック図である。
図9図9は、転舵機構に作用する実路面反力トルクの算出手法を説明するための概念図である。
図10図10は、伝達関数Gfilを導出するためのシミュレーションを実行する構成を示す概念図である。
図11図11は、操舵トルク補償値マップの特性例を示す線図である。
図12図12は、符号変換後のトルク値Tref_cの特性例を概念的に示す線図である。
図13図13は、実施形態に係る操舵トルク補償値演算部の変形例を示すブロック図である。
図14図14は、実施形態1に係る車速制限処理部の構成例を示すブロック図である。
図15図15は、実施形態1に係る遅延検出処理の一例を示すフローチャートである。
図16A図16Aは、車速制限マップの特性例を示す線図である。
図16B図16Bは、変形例の車速制限マップの特性例を示す線図である。
図17図17は、実施形態2に係る車速制限処理部の構成例を示すブロック図である。
図18図18は、実施形態2に係る遅延検出処理の一例を示すフローチャートである。
図19図19は、実施形態3に係る車速制限処理部の構成例を示すブロック図である。
図20図20は、実施形態3の第1変形例に係る車速制限処理部の構成例を示すブロック図である。
図21図21は、実施形態3の第2変形例に係る車速制限処理部の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、発明を実施するための形態(以下、実施形態という)につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0054】
図1は、実施形態に係るSBWシステムの概要の例を示す構成図である。運転者が操作するハンドルを有する操舵機構を構成する反力装置30、転舵輪を転舵する転舵機構を構成する転舵装置40、及び車両制御システム50を備える。
【0055】
SBWシステムには、一般的な電動パワーステアリング装置が備える、コラム軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2と機械的に結合されるインターミディエイトシャフトがなく、運転者によるハンドル1の操作を電気信号によって、具体的には、反力装置30から出力される操舵角θhを電気信号として伝える。
【0056】
反力装置30は、反力用モータ31及び反力用モータ31の回転速度を減速する減速機構32を備える。反力装置30は、転舵輪5L,5Rから伝わる車両の運動状態を操舵反力として運転者に伝達する。反力用モータ31は、減速機構32を介して、操舵反力をハンドル1に付与する。
【0057】
反力装置30は、舵角センサ33及びトルクセンサ34を更に備えている。舵角センサ33は、ハンドル1の操舵角θhを検出する。トルクセンサ34は、ハンドル1の操舵トルクThを検出する。以下、舵角センサ33によって検出される操舵角θhを、「実操舵角θh_act」とも称し、トルクセンサ34によって検出される操舵トルクThを、「実操舵トルクTh_act」とも称する。
【0058】
本開示において、コラム軸2には、操舵可能な限界となる操舵終端を物理的に設定するストッパ(回転制限機構)35が設けられている。すなわち、操舵角θhの大きさ(絶対値)は、ストッパ35によって制限される。
【0059】
転舵装置40は、転舵用モータ41、転舵用モータ41の回転速度を減速する減速機構42、及び転舵用モータ41の回転運動を直線運動に変換するピニオンラック機構44を備える。転舵装置40は、操舵角θhに応じて転舵用モータ41を駆動し、その駆動力を、減速機構42を介してピニオンラック機構44に付与し、タイロッド3a,3bを経て、転舵輪5L,5Rを転舵する。ピニオンラック機構44の近傍には角度センサ43が配置されており、転舵輪5L,5Rの転舵角θtを検出する。転舵輪5L,5Rの転舵角θtに代えて、例えば、転舵用モータ41のモータ角、あるいは、ラックの位置等を検出し、当該検出値を用いる態様であっても良い。以下、角度センサ43によって検出される転舵角θtを、「実転舵角θt_act」とも称する。
【0060】
車両制御システム50は、反力装置30及び転舵装置40を協調制御するために、両装置から出力される操舵角θhや転舵角θt等の情報に加え、車速センサ10で検出される車速Vs等を基に、反力用モータ31を駆動制御するための電圧制御指令値Vref1及び転舵用モータ41を駆動制御するための電圧制御指令値Vref2を生成する。
【0061】
車両制御システム50には、バッテリ12から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。
【0062】
図2Aは、実施形態に係る車両制御システムの概略構成の一例を示す図である。車両制御システム50は、車両の制御に関わる電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)として、操舵制御用ECU(操舵制御装置)60、転舵制御用ECU(転舵制御装置)70、及びブレーキ制御用ECU80を含む。ブレーキ制御用ECU80は、例えば、アンチロック・ブレーキ・システム(ABS:Antilock Brake System)が例示される。なお、車両制御システム50は、上記各ECUに加え、例えば、エンジン・コントロール・モジュール(ECM:Engine Control Module)、ボディ・コントロール・モジュール(BCM:Body Control Module)、メータコントローラ(MET:Meter Controller)、先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driver Assistance System)等の各ECUを含む態様であっても良い。
【0063】
各ECU間は、例えば、CAN(Controller Area Network)やFlexRay等の車載ネットワーク(車載LAN)を用いて各種データの送受信を行う。各ECU間は、例えば、車両の制御を行うために必要な各種情報を授受する車載用通信バス20(第1通信経路20)を介して接続されている。車載用通信バス20には、車速センサ10の他に、フロント・カメラ・モジュール(FCM:Front Camera Module)、クリアランスソナーやバックソナー等の超音波センサ等の各種センサが接続される態様であっても良い。
【0064】
本開示において、操舵制御用ECU60と転舵制御用ECU70との間は、車載用通信バス20とは独立したプライベートCANを用いて、車両の操向制御を行うために必要な各種データの送受信を行う。操舵制御用ECU60と転舵制御用ECU70との間は、車載用通信バス21(第2通信経路21)を介して接続されている。
【0065】
図2Bは、各ECUのハードウェア構成の一例を示す模式図である。具体的に、各各ECUは、主としてCPU(MCU、MPU等も含む)で構成される。反力装置30及び転舵装置40の協調制御は、操舵制御用ECU60及び転舵制御用ECU70のCPU内部において実行されるプログラムにより行われる。各ECUは、データやプログラム等を格納するために、例えば、図2Bに示すように、RAM(ランダムアクセスメモリ)やROM(リードオンリーメモリ)等を含む態様であっても良い。
【0066】
図3は、車両の操向制御に関わる制御ブロック構成の一例を示す図である。図3において、反力装置30は、反力用モータ31及び上述した構成に加え、PWM(パルス幅変調)制御部37、インバータ38、及びモータ電流検出器39を含む。また、転舵装置40は、転舵用モータ41及び上述した構成に加え、PWM制御部47、インバータ48、及びモータ電流検出器49を含む。操舵制御用ECU60と転舵制御用ECU70とが協調して、反力装置30及び転舵装置40を制御する。
【0067】
なお、車両制御システム50の構成要素の一部又は全部をハードウェアで実現しても良い。具体的に、操舵制御用ECU60は、PWM制御部37、インバータ38、モータ電流検出器39を具備した態様であっても良い。また、転舵制御用ECU70は、PWM制御部47、インバータ48、及びモータ電流検出器49を具備した態様であっても良い。
【0068】
図3に示すように、操舵制御用ECU60は、各制御ブロックとして、操舵トルク目標値生成部200、操舵トルク制御部400、電流制御部500を備えている。また、転舵制御用ECU70は、転舵角目標値生成部600、転舵角制御部700、及び電流制御部800を備えている。
【0069】
操舵制御用ECU60は、トルクセンサ34によって検出される実操舵トルクTh_actが反力装置30の操舵トルクの目標値である操舵トルク目標値Th_refに追従するような制御を行う。
【0070】
操舵トルク目標値生成部200は、操舵トルク目標値Th_refを生成する。
【0071】
操舵トルク制御部400は、反力用モータ31に供給する電流の制御目標値であるモータ電流指令値Ih_refを生成する。操舵トルク制御部400では、操舵トルク目標値Th_refと実操舵トルクTh_actとの偏差Th_errがゼロに近づくようなモータ電流指令値Ih_refを演算する。
【0072】
電流制御部500は、反力用モータ31の電流制御を行う。電流制御部500は、操舵トルク制御部400から出力されるモータ電流指令値Ih_refとモータ電流検出器39で検出される反力用モータ31の実電流値(モータ電流値)Ih_actとの偏差Ih_errがゼロに近づくような電圧制御指令値Vh_refを演算する。
【0073】
反力装置30では、電圧制御指令値Vh_refに基づいて、PWM制御部37及びインバータ38を介して反力用モータ31が駆動制御される。
【0074】
転舵制御用ECU70は、角度センサ43によって検出される実転舵角θt_actが転舵角目標値θt_refに追従するような制御を行う。
【0075】
転舵角目標値生成部600は、車載用通信バス21(第2通信経路21)を介して操舵制御用ECU60から送信される操舵角θhに基づき転舵角目標値θt_refを生成する。
【0076】
転舵角制御部700は、転舵用モータ41に供給する電流の制御目標値であるモータ電流指令値It_refを生成する。転舵角制御部700では、転舵角目標値θt_refと実転舵角θt_actとの偏差θt_errがゼロに近づくようなモータ電流指令値It_refを演算する。
【0077】
電流制御部800は、転舵用モータ41の電流制御を行う。電流制御部800は、転舵角制御部700から出力されるモータ電流指令値It_refとモータ電流検出器49で検出される転舵用モータ41の実電流値(モータ電流値)It_actとの偏差It_errがゼロに近づくような電圧制御指令値Vt_refを演算する。
【0078】
転舵装置40では、電圧制御指令値Vt_refに基づいて、PWM制御部47及びインバータ48を介して転舵用モータ41が駆動制御される。
【0079】
本実施形態において、操舵トルク目標値生成部200、操舵トルク制御部400、及び電流制御部500は、操舵制御用ECU60における各制御を実現可能な構成であれば良く、これら各制御ブロックの構成により限定されない。また、転舵角目標値生成部600、転舵角制御部700、及び電流制御部800は、転舵制御用ECU70における各制御を実現可能な構成であれば良く、これら各制御ブロックの構成により限定されない。
【0080】
図4は、操舵トルク目標値生成部の構成例を示すブロック図である。図4に示すように、操舵トルク目標値生成部200は、主要な構成要素として、基本マップ部210、ダンパトルク生成部220、及び操舵トルク補償値生成部230を備える。
【0081】
図4に示す符号抽出部280は、操舵角θhの符号を抽出する。具体的には、例えば、操舵角θhの値を、操舵角θhの絶対値で除算する。これにより、符号抽出部280は、操舵角θhの符号が「+」の場合には「1」を出力し、操舵角θhの符号が「-」の場合には「-1」を出力する。具体的に、符号抽出部280は、例えば操舵角θhの符号関数Sgn(θh)を生成する。
【0082】
図5Aは、基本マップの特性例を示す線図である。基本マップ部210には、絶対値演算部260において絶対値処理された操舵角|θh|及び車速Vsが入力される。基本マップ部210は、図5Aに示す基本マップを用いて、車速Vsをパラメータとするトルク値Tref_basicを生成する。トルク値Tref_basicは、操舵角|θh|及び車速Vsに応じた基本的な操舵反力を生成するために使用される。
【0083】
トルク値Tref_basicは、操舵角|θh|に応じて増減する角度感応型の特性を有している。より具体的に、トルク値Tref_basicは、図5Aに示すように、操舵角|θh|が増加するに従い増加する。また、トルク値Tref_basicは、車速Vsに応じて増減する車速感応型の特性を有している。より具体的に、トルク値Tref_basicは、図5Aに示すように、車速Vsが増加するに従い増加する。つまり、図5Aに示す基本マップによって導出されるトルク値Tref_basicによって得られる反力は、運転者によるハンドル1の操作量(操舵角θh)が大きいほど大きくなり、また車両の速度(車速Vs)が速いほど大きくなる。なお、図5Aに示す基本マップでは車速感応型の特性を有する態様としているが、これに限定されない。
【0084】
図5Bは、トルク値Tref_aの特性例を示す線図である。基本マップ部210から出力されるトルク値Tref_basicに対し、符号抽出部280から出力される符号関数Sgn(θh)を、乗算器293にて乗じることで、図5Bに示すトルク値Tref_aが得られる。なお、符号抽出部280を有さない構成とし、図5Bに示されるように、正負の操舵角θhに応じた基本マップを用いてトルク値Tref_aを得る態様としても良い。
【0085】
ダンパトルク生成部220は、ダンパゲインマップ部221及び乗算部222を含む。図6Aは、ダンパゲインマップの特性例を示す図である。ダンパゲインマップ部221には、車速Vsが入力される。ダンパゲインマップ部221は、図6Aに示すダンパゲインマップを用いて、ダンパゲインDGを生成する。
【0086】
ダンパゲインDGは、図6Aに示すように、車速Vsに応じて増減する車速感応型の特性を有している。ダンパトルク生成部220は、操舵角θhを微分して算出したハンドル1の角速度(以下、「舵角速度ωh」とも称する)に対し(微分部270)、ダンパゲインマップ部221から出力されたダンパゲインDGを乗算し(乗算部222)、トルク値Tref_bとして出力する。
【0087】
ダンパトルク生成部220から出力されたトルク値Tref_bは、基本マップ部210から出力されたトルク値Tref_aに加算される(加算部291)。これにより、舵角速度ωhに比例した操舵反力の補償が可能となる。
【0088】
図6Bは、トルク値Tref_a+Tref_bの特性例を示す線図である。トルク値Tref_aに対してダンパトルク生成部220から出力されたトルク値Tref_bを加算し、トルク値Tref_a+Tref_bが得られる。図6Bにおいて、実線は、舵角速度ωhが正値(ωh>0)である場合のトルク値Tref_a+Tref_bを示し、破線は、舵角速度ωhが負値(ωh<0)である場合のトルク値Tref_a+Tref_bを示している。また、図6Bにおいて、一点鎖線は、トルク値Tref_aを示している。
【0089】
図7は、本開示における操舵方向を説明するための領域図である。図7において、横軸は操舵角θhを示し、縦軸は舵角速度ωhを示している。
【0090】
図7に示す領域A((θh,ωh)=(+,+))では、ハンドル1が右方向に切られた状態で(θh>0)、さらに右方向に切り増されている(ωh>0)ことを示している。図7に示す領域B((θh,ωh)=(+,-))では、ハンドル1が右方向に切られた状態で(θh>0)、左方向に切り戻されている(ωh<0)ことを示している。図7に示す領域C((θh,ωh)=(-,-))では、ハンドル1が左方向に切られた状態で(θh<0)、さらに左方向に切り増されている(ωh<0)ことを示している。図7に示す領域D((θh,ωh)=(-,+))では、ハンドル1が左方向に切られた状態で(θh<0)、右方向に切り戻されている(ωh>0)ことを示している。また、図7において、操舵角θh軸上(ωh=0)では、ハンドル1が切り増しも切り戻しも行われていない((θh,ωh)=(θh,0))ことを示し、舵角速度ωh軸上(θh=0)では、ハンドル1がセンター位置にある((θh,ωh)=(0,ωh))ことを示している。
【0091】
ダンパトルク生成部220から出力されるトルク値Tref_bは、舵角速度ωh>0の領域A,Dでは正値、舵角速度ωh<0の領域B,Cでは負値となる。これにより、舵角速度ωh>0である場合、すなわち、ハンドル1が右方向に切られた状態で(θh>0)、さらに右方向に切り増されている領域A、又は、ハンドル1が左方向に切られた状態で(θh<0)、右方向に切り戻されている領域Dでは、図6Bに実線で示すように、Tref_aに対して|Tref_b|が加算された値となる。また、舵角速度ωh<0である場合、すなわち、ハンドル1が右方向に切られた状態で(θh>0)、左方向に切り戻されている領域B、又は、ハンドル1が左方向に切られた状態で(θh<0)、さらに左方向に切り増されている領域Cでは、図6Bに破線で示すように、Tref_aから|Tref_b|が減算された値となる。
【0092】
図6Bに示すように、トルク値Tref_a+Tref_bは、操舵角θhの大きさが大きくなり、操舵角θhがストッパ(回転制限機構)35によって制限される操舵終端に近づくほど、操舵角θの変化に対するトルク上昇の増加分が小さくなる。換言すれば、トルク値Tref_a+Tref_bは、操舵角θhの増加に伴い、徐々に変化率が小さくなる特性を有している。
【0093】
SBWシステムでは、上述したように、コラム軸2と機械的に結合されるインターミディエイトシャフトを具備していない。すなわち、操舵機構と転舵機構とが機械的に分離されている。このため、例えば、凍結路面や、雨天時のハイドロプレーニング現象等によって路面の摩擦抵抗が著しく減少した低μ路を走行する際のオーバーステア状態やアンダーステア状態を、操舵反力として反力装置30に伝達する必要がある。
【0094】
本開示では、図3及び図4に示すように、転舵角制御部700によって生成されるモータ電流指令値It_refに応じた路面反力トルクを推定する操舵トルク補償値生成部230を具備し、操舵トルク補償値生成部230により生成されたトルク値Tref_cをトルク値Tref_a+Tref_bに加算する態様としている。これにより、ハンドル1に路面反力トルクの推定値に応じた操舵反力を付与することができる。以下、ハンドル1に路面反力トルクの推定値に応じた操舵反力を付与可能な構成及び動作について、詳細に説明する。
【0095】
図8は、実施形態に係る操舵トルク補償値演算部の構成例を示すブロック図である。図8に示す構成例において、操舵トルク補償値演算部240は、主要な構成要素として、路面反力トルク推定部241及び操舵トルク補償値マップ部242を備える。
【0096】
ここでは、まず、路面反力トルク推定部241における路面反力トルク推定値Tsat_estの推定手法について説明する。
【0097】
路面反力トルク推定部241には、車載用通信バス21(第2通信経路21)を介して転舵制御用ECU70から送信されるモータ電流指令値It_refが入力される。また、路面反力トルク推定部241には、下記(1)式に示す伝達関数Gfilが設定されている。伝達関数Gfilは、例えば、操舵制御用ECU60のROMに記憶されている。
【0098】
Gfil=N(s)/D(s)=(Ds+E)/(As+Bs+C)・・・(1)
【0099】
上記(1)式における一次関数N(s)=Ds+E、及び、二次関数D(s)=As+Bs+CにおけるA,B,C,D,Eは、以下に示すシミュレーションにより設定される係数である。
【0100】
なお、本開示では、伝達関数Gfilとして、分子一次、分母二次の伝達関数を仮定しているが、分子分母の次数について、実路面反力トルクTsat_actと路面反力トルク推定値Tsat_estとの間の誤差の許容量や、ECUの負荷などに応じて、適宜変更することができる。
【0101】
例えば、分子分母の次数を増やした場合、後述する実験により求めるモータ電流指令値It_refと実路面反力トルクTsat_actとの関係と、伝達関数Gfilの伝達特性を良好に一致させることができるため、実測値に近い路面反力トルク推定値Tsat_estを推定することができる。
【0102】
一方で、分子分母の次数を減らした場合、ECUの負荷を低減することができる。
【0103】
路面反力トルクTsatとモータ電流指令値It_refとの間で、下記(2)式に示す関係式が成り立つと仮定する。下記(2)式で示される路面反力トルクTsatを、本開示における路面反力トルク推定値Tsat_estとする。
【0104】
換言すると、伝達関数Gfilは、実験により求めたモータ電流指令値It_refと実路面反力トルクTsat_actとの関係を模擬することで、モータ電流指令値It_refから路面反力トルク推定値Tsat_estを算出する。
【0105】
Tsat=Gfil×It_ref=Tsat_est・・・(2)
【0106】
一方、転舵機構に作用する実路面反力トルクTsat_actは、タイロッドに加わる軸力から算出できる。図9は、転舵機構に作用する実路面反力トルクの算出手法を説明するための概念図である。
【0107】
実路面反力トルクTsat_actは、タイロッド3a,3bに加わる軸力FL,FRと、車種ごとに決まるアーム6a,6bの長さLとを用いて、下記(3)式により算出できる。
【0108】
Tsat_act=FL×L-FR×L・・・(3)
【0109】
本開示において、実路面反力トルクTsat_actは、予め実車を用いた実験により測定した軸力FL,FRを用いた上記(3)式を用いて算出する。軸力FL,FRは、例えば、タイロッド3a,3bに力覚センサを取り付けることで測定することができる。
【0110】
図10は、伝達関数Gfilを導出するためのシミュレーションを実行する構成を示す概念図である。
【0111】
図10に示す処理装置には、モータ電流指令値It_ref、軸力軸力FL,FRが入力される。処理装置において、上記(2)式で示される路面反力トルク推定値Tsat_estが、上記(3)式で算出される実路面反力トルクTsat_actと近似するような伝達関数Gfilを導出する。図10に示される処理装置としては、例えば、周波数特性分析装置(サーボアナライザ)を含み構成される態様が例示される。
【0112】
具体的に、処理装置は、スイープ法を用いたカーブフィットを実行して、上記(1)式で示される伝達関数Gfilの各係数A,B,C,D,Eを導出する。カーブフィット手法の一例としては、例えば、最小二乗近似法を用いることができる。なお、カーブフィット手法は最小二乗近似法に限定されない。
【0113】
路面反力トルク推定部241は、転舵角制御部700によって生成されたモータ電流指令値It_refに対し、上述のようにして導出した伝達関数Gfilを用いてフィルタ処理を行い、上記(2)式で示される路面反力トルク推定値Tsat_estを算出する。これにより、実際の車両の走行時における実路面反力トルクTsat_actの挙動に応じた路面反力トルク推定値Tsat_estが得られる。
【0114】
図8に戻り、符号抽出部244は、路面反力トルク推定値Tsat_estの符号を抽出する。具体的には、例えば、路面反力トルク推定値Tsat_estの値を、路面反力トルク推定値Tsat_estの絶対値で除算する。これにより、符号抽出部244は、路面反力トルク推定値Tsat_estの符号が「+」の場合には「1」を出力し、路面反力トルク推定値Tsat_estの符号が「-」の場合には「-1」を出力する。具体的に、符号抽出部244は、例えば路面反力トルク推定値Tsat_estの符号関数Sgn(Tsat_est)を生成する。
【0115】
図11は、操舵トルク補償値マップの特性例を示す線図である。操舵トルク補償値マップ部242には、絶対値演算部243において絶対値処理された路面反力トルク推定値|Tsat_est|及び車速Vsが入力される。操舵トルク補償値マップ部242は、図11に示す操舵トルク補償値マップを用いて、車速Vsをパラメータとするトルク値Tref_c0を生成する。
【0116】
トルク値Tref_c0は、図11に示すように、路面反力トルク推定値|Tsat_est|に応じて増減するトルク感応型の特性を有している。
【0117】
より具体的に、トルク値Tref_c0は、路面反力トルク推定値|Tsat_est|の増加に伴って増加し、路面反力トルク推定値|Tsat_est|の増加に伴って増加率が減少する。
【0118】
また、トルク値Tref_c0は、車速Vsに応じて増減する車速感応型の特性を有している。より具体的に、トルク値Tref_c0は、図11に示すように、車速Vsの増加に伴って増加する。
【0119】
つまり、図11に示す操舵トルク補償値マップによって導出されるトルク値Tref_c0によって得られる反力は、路面反力トルク推定値|Tsat_est|が大きいほど大きくなり、また車両の速度(車速Vs)が速いほど大きくなる。なお、図11に示す操舵トルク補償値マップでは車速感応型の特性を有する態様としたが、これに限定されない。
【0120】
操舵トルク補償値演算部240は、操舵トルク補償値マップ部242の出力値であるトルク値Tref_c0に対し、乗算部245にて路面反力トルク推定値Tsat_estの符号関数Sgn(Tsat_est)を乗算して符号変換したトルク値Tref_cを出力する。図12は、符号変換後のトルク値Tref_cの特性例を概念的に示す線図である。
【0121】
なお、操舵トルク補償値演算部240は、図13に示す態様とすることも可能である。図13は、実施形態に係る操舵トルク補償値演算部の変形例を示すブロック図である。
【0122】
図13に示す操舵トルク補償値演算部の変形例における操舵トルク補償値マップ部242aでは、図11に示す特性の操舵トルク補償値マップに代えて、図12に示す特性の操舵トルク補償値マップを有する態様とすれば良い。
【0123】
操舵トルク補償値生成部230から出力されたトルク値Tref_cは、図4に示す加算部291,292にてトルク値Tref_a及びトルク値Tref_bと加算される。これにより、操舵トルク目標値生成部200から、操舵トルク目標値Th_refが出力される。
【0124】
上述したように、路面反力トルク推定部241において、実車のシミュレーションによって導出された伝達関数Gfilを用いて路面反力トルク推定値Tsat_estを算出することにより、実際の車両の走行時における実路面反力トルクTsat_actの挙動に応じた路面反力トルク推定値Tsat_estが得られ、当該路面反力トルク推定値Tsat_estに応じた操舵反力を付与することができる。これにより、路面の状況を反映した操舵感が得られる。
【0125】
なお、路面反力トルク推定部241において路面反力トルク推定値Tsat_estを算出する際に用いる伝達関数は、上記(1)に示す態様に限定されない。具体的には、例えば、関数N(s)や関数D(s)の次数によって本開示が限定されるものではない。
【0126】
また、操舵トルク補償値マップの特性は、上述した図11又は図12に示す態様に限定されない。また、例えば、図11又は図12に示したマップの態様ではなく、所定の伝達関数によって特性が定義される態様であっても良い。
【0127】
さらに、操舵トルク補償値演算部240の後段に、操舵トルク補償値演算部240から出力されるトルク値Tref_cに対する位相遅れ補償や追従性補償を行う位相補償部を備える態様であっても良い。
【0128】
上述した構成において、操舵角θh及びモータ電流指令値It_refは、図2Aに示す車載用通信バス21(第2通信経路21)を介して、操舵制御用ECU60と転舵制御用ECU70との間で送受信される。具体的に、転舵角目標値生成部600は、車載用通信バス21(第2通信経路21)を介して操舵制御用ECU60から送信される操舵角θhに基づき転舵角目標値θt_refを生成する。また、路面反力トルク推定部241には、車載用通信バス21(第2通信経路21)を介して転舵制御用ECU70から送信されるモータ電流指令値It_refが入力される。すなわち、本開示では、車両の操向制御を行うために必要なデータとして、車載用通信バス21(第2通信経路21)を介して、操舵制御用ECU60から転舵制御用ECU70に操舵角θhが送信され、車載用通信バス21(第2通信経路21)を介して、転舵制御用ECU70から操舵制御用ECU60に転舵角目標値θt_refが送信される。
【0129】
このような態様の車両制御システム50において、車載用通信バス21(第2通信経路21)においてデータ転送の遅延が生じることがある。本開示において、「遅延が生じる」とは、データ転送が正常に行われている場合の各ECUにおける処理遅延や通信遅延等による遅延量(時間)を逸脱した遅延が発生していることを示すものとする。
【0130】
具体的には、操舵制御用ECU60から車載用通信バス21(第2通信経路21)を介して転舵制御用ECU70に送信する操舵角θhの情報を含むデータの送信遅延が発生した場合、転舵角目標値生成部600において操舵角θhに基づき生成される転舵角目標値θt_refに遅れが生じ、遅延が生じていない本来の操舵角θhに対して転舵角θtの制御が遅れる。この操舵角θhの遅延時間が長くなると、転舵角θtの制御遅れが顕著となるため、改善の余地がある。
【0131】
さらには、転舵角制御部700において転舵角目標値θt_refに基づき演算されるモータ電流指令値It_refに遅れが生じ、操舵トルク目標値生成部200においてモータ電流指令値It_refに基づき生成される操舵トルク目標値Th_refに遅れが生じる。より具体的には、遅延していない車速Vs及び操舵角θhに基づき基本マップ部210によって生成されたトルク値Tref_basicに対し、遅延が生じたモータ電流指令値It_refに基づき操舵トルク補償値生成部230によって生成されたトルク値Tref_cが加算され、操舵トルク目標値Th_refが生成されることになる(図4参照)。
【0132】
本開示では、操舵制御用ECU60と転舵制御用ECU70との間のデータ転送遅延が生じた場合に、車速を抑制する制御を行う。これにより、車両の姿勢制御が不能となる事態に陥ることなく、運転を継続させることができる。以下、舵制御用ECU60と転舵制御用ECU70との間のデータ転送遅延に応じた車速制限処理を実現する構成及び動作について説明する。
【0133】
(実施形態1)
図14は、実施形態1に係る車速制限処理部の構成例を示すブロック図である。本実施形態では、転舵制御用ECU70に車速制限処理部71が設けられた例について説明する。
【0134】
車速制限処理部71は、遅延検出部711及び車速制限値生成部712を備える。
【0135】
車速制限処理部71は、車載用通信バス21(第2通信経路21)を介して操舵制御用ECU60から出力された第1データData1が入力される。第1データData1は、例えば、操舵角θhの情報を含む。第1データData1に含まれる情報は、操舵角θhに限定されない。
【0136】
遅延検出部711は、操舵制御用ECU60から出力された第1データData1の遅延時間Dt_dly1を検出する。図15は、実施形態1に係る遅延検出処理の一例を示すフローチャートである。
【0137】
遅延検出部711は、所定の時間間隔で図15に示す遅延検出処理を行う。具体的に、遅延検出部711は、例えば、10[ms]間隔でポーリング(巡回処理)を行う。このポーリング期間(例えば、10[ms])において、操舵制御用ECU60から出力された複数の第1データData1が取得される。
【0138】
以下において説明する実施形態1に係る遅延検出処理において、第1データData1の遅延時間Dt_dly1の最大値であるデータ遅延時間最大値Dt_dly_max、第1データData1の遅延時間Dt_dly1の最小値であるデータ遅延時間最小値Dt_dly_min、及び遅延カウンタDCの最大値である遅延カウンタ最大値DC_maxは、例えば、転舵制御用ECU70のROMに予め記憶されている。
【0139】
遅延検出部711は、操舵制御用ECU60から出力された第1データData1を取得し(ステップS101)、操舵制御用ECU60から出力された第1データData1の存在判定処理を行う(ステップS102)。
【0140】
具体的に、遅延検出部711は、例えば、第1データData1に含まれる所定のフラグを検知する。所定のフラグを検知出来ない場合、遅延検出部711は、第1データData1が存在しないものと判定する(ステップS102;No)。
【0141】
ステップS102において第1データData1が存在すると判定した場合(ステップS102;Yes)、続いて、遅延検出部711は、第1データData1の整合性判定処理を行う(ステップS103)。
【0142】
具体的に、遅延検出部711は、例えば、CRC(巡回冗長検査)を実行し、第1データData1のエラー検出処理を行う。ステップS103における第1データData1の整合性判定処理は、CRCに限定されず、例えば、パリティチェックやチェックサム等の他の誤り検出手法を用いた態様であっても良い。
【0143】
ステップS103においてエラー検出されなかった場合(ステップS103;Yes)、続いて、遅延検出部711は、第1データData1の連続性判定処理を行う(ステップS104)。
【0144】
具体的に、遅延検出部711は、例えば、操舵角θhの取得順を示すカウンタ値をチェックし、第1データData1の抜け、重複、不連続(データ順序の誤り)等を検出した場合、第1データData1の連続性に異常があるものと判定する(ステップS104;No)。
【0145】
ステップS102において第1データData1が存在しないものと判定した場合(ステップS102;No)、ステップS103においてCRC実行結果によりエラー検出された場合(ステップS103;No)、又は、ステップS104において第1データData1の連続性に異常があると判定した場合(ステップS104;No)、遅延検出部711は、遅延カウンタDCをカウントアップ(DC=DC+1)し(ステップS105)、遅延カウンタDCが遅延カウンタ最大値DC_max未満であるか否か(DC<DC_max)を判定する(ステップS106)。
【0146】
遅延カウンタDCが遅延カウンタ最大値DC_max未満である場合(ステップS106;Yes)、遅延検出部711は、予め設定されたデータ遅延時間最小値Dt_dly_minに遅延カウンタDCを乗じて、第1データData1の遅延時間Dt_dly1(=Dt_dly_min×DC)を算出する(ステップS107)。
【0147】
遅延カウンタDCが遅延カウンタ最大値DC_max以上(DC≧DC_max)となると(ステップS106;No)、遅延検出部711は、第1データData1の遅延時間Dt_dly1を予め設定されたデータ遅延時間最大値Dt_dly_max(Dt_dly1=Dt_dly_max)とする(ステップS108)。
【0148】
ステップS104において第1データData1の連続性に異常がない場合(ステップS104;Yes)、遅延検出部711は、遅延カウンタDCをリセット(DC=0)する(ステップS109)。
【0149】
図16Aは、車速制限マップの特性例を示す線図である。車速制限値生成部712には、遅延検出部711により検出された第1データData1の遅延時間Dt_dly1が入力される。車速制限値生成部712は、図16Aに示す車速制限マップを用いて、遅延検出部711により検出された第1データData1の遅延時間Dt_dly1に応じた車速制限値Vs_lim1を生成する。本実施形態において、車速制限マップは、例えば、転舵制御用ECU70のROMに予め記憶されている。図16Aにおいて、A点に示すデータ遅延時間最大値Dt_dly_maxは、例えば数千[ms]とされ、このときの車速制限値最小値Vs_lim_minは、例えば5[km/h]~20[km/h]とされる。また、図16Aに示すB点におけるデータ遅延時間は、例えば数十[ms]であり、このときの車速制限値は、例えば120[km/h]以上とされる。
【0150】
車速制限値Vs_lim1は、図16Aに示すように、第1データData1の遅延時間Dt_dly1に応じて増減する遅延時間感応型の特性を有している。図16Aに示す例において、縦軸は遅延時間Dt_dlyであり、グラフの上方向に増加するほど遅延時間Dt_dly1が大きいことを示している。また、図16Aに示す例において、横軸は車速制限値Vs_limであり、グラフの右方向に増加するほど車速制限値Vs_lim1が大きくなることを示している。
【0151】
より具体的に、車速制限値Vs_lim1は、第1データData1の遅延時間Dt_dly1の増加に伴って単調減少し、第1データData1の遅延時間Dt_dly1の増加に伴って減少率が減少する。すなわち、車速制限値Vs_lim1は、第1データData1の遅延時間Dt_dly1に対して略反比例する特性を有している。これにより、わずかな遅延から中程度の遅延になるにかけて車速制限値を大きく落とすようにすることで、安全な運転を実現できる。
【0152】
また、車速制限値Vs_lim1は、予め設定されたデータ遅延時間最大値Dt_dly_maxによって車速制限値最小値Vs_lim_minに制限される。これにより、第1データData1の遅延時間Dt_dly1が長い場合でも、車両の運転を継続させることができる。
【0153】
図16Aに示す車速制限値Vs_limよりも速い車速では、車両の姿勢制御が不安定になる可能性がある。このため、図16Aに示す車速制限マップは、予めデータ遅延時間に対して車両の挙動を安定に維持可能な車速が車速制限値Vs_limとして設定される。データ遅延時間に対する車速制限値は、図16Aに示したマップの態様に限定されず、例えば、所定の伝達関数によって特性が定義される態様であっても良いし、データ遅延時間に応じた車速制限値が設定された態様であっても良い。
【0154】
図16Bは、変形例の車速制限マップの特性例を示す線図である。車速制限マップは、予めデータ遅延時間に対して車両の挙動を安定に維持可能な車速が車速制限値Vs_limとして設定される態様であれば良く、例えば、図16Bに示すように、第1データData1の遅延時間Dt_dly1に対して車速制限値Vs_lim1が線形に減少する特性であっても良い。
【0155】
車速制限処理部71は、車速制限値生成部712により生成した車速制限値Vs_lim1をブレーキ制御用ECU80に出力する。言い換えると、転舵制御用ECU70は、例えば、車載用通信バス20(第1通信経路20)を介して、車速制限値Vs_lim1をブレーキ制御用ECU80に送信する。
【0156】
ブレーキ制御用ECU80では、車速Vsが転舵制御用ECU70から送信された車速制限値Vs_lim1に制限されるようにブレーキ制御を行う。具体的に、ブレーキ制御用ECU80は、車速センサ10で検出される車速Vsと転舵制御用ECU70から送信された車速制限値Vs_lim1とを比較し、車速Vsが車速制限値Vs_lim1以上であるとき、車速Vsが車速制限値Vs_lim1に制限されるようにブレーキ制御する。これにより、車両の姿勢制御が不能となる事態に陥ることなく、運転を継続させることができる。
【0157】
(実施形態2)
図17は、実施形態2に係る車速制限処理部の構成例を示すブロック図である。本実施形態では、操舵制御用ECU60に車速制限処理部61が設けられた例について説明する。
【0158】
車速制限処理部61は、遅延検出部611及び車速制限値生成部612を備える。
【0159】
車速制限処理部61は、車載用通信バス21(第2通信経路21)を介して転舵制御用ECU70から出力された第2データData2が入力される。第2データData2は、例えば、モータ電流指令値It_refの情報を含む。第1データData1に含まれる情報は、モータ電流指令値It_refに限定されない。
【0160】
遅延検出部611は、転舵制御用ECU70から出力された第2データData2の遅延時間Dt_dly2を検出する。図18は、実施形態2に係る遅延検出処理の一例を示すフローチャートである。
【0161】
遅延検出部611は、所定の時間間隔で図18に示す遅延検出処理を行う。具体的に、遅延検出部611は、例えば、10[ms]間隔でポーリング(巡回処理)を行う。このポーリング期間(例えば、10[ms])において、転舵制御用ECU70から出力された複数の第2データData2が取得される。
【0162】
以下において説明する実施形態2に係る遅延検出処理において、第2データData2の遅延時間Dt_dly2の最大値であるデータ遅延時間最大値Dt_dly_max、第2データData2の遅延時間Dt_dly2の最小値であるデータ遅延時間最小値Dt_dly_min、及び遅延カウンタDCの最大値である遅延カウンタ最大値DC_maxは、例えば、操舵制御用ECU60のROMに予め記憶されている。データ遅延時間最大値Dt_dly_max、データ遅延時間最小値Dt_dly_min、及び遅延カウンタ最大値DC_maxは、実施形態1において説明したデータ遅延時間最大値Dt_dly_max、データ遅延時間最小値Dt_dly_min、及び遅延カウンタ最大値DC_maxとそれぞれ同値であっても良いし、それぞれ異なる値であっても良い。
【0163】
遅延検出部611は、転舵制御用ECU70から出力された第2データData2を取得し(ステップS201)、転舵制御用ECU70から出力された第2データData2の存在判定処理を行う(ステップS202)。
【0164】
具体的に、遅延検出部611は、例えば、第2データData2に含まれる所定のフラグを検知する。所定のフラグを検知出来ない場合、遅延検出部611は、第2データData2が存在しないものと判定する(ステップS202;No)。
【0165】
ステップS202において第2データData2が存在すると判定した場合(ステップS202;Yes)、続いて、遅延検出部611は、第2データData2の整合性判定処理を行う(ステップS203)。
【0166】
具体的に、遅延検出部611は、例えば、CRC(巡回冗長検査)を実行し、第2データData2のエラー検出処理を行う。ステップS203における第2データData2の整合性判定処理は、CRCに限定されず、例えば、パリティチェックやチェックサム等の他の誤り検出手法を用いた態様であっても良い。
【0167】
ステップS203においてエラー検出されなかった場合(ステップS203;Yes)、続いて、遅延検出部611は、第2データData2の連続性判定処理を行う(ステップS204)。
【0168】
具体的に、遅延検出部611は、例えば、モータ電流指令値It_refの取得順を示すカウンタ値をチェックし、第2データData2の抜け、重複、不連続(データ順序の誤り)等を検出した場合、第2データData2の連続性に異常があるものと判定する(ステップS204;No)。
【0169】
ステップS202において第2データData2が存在しないものと判定した場合(ステップS202;No)、ステップS203においてCRC実行結果によりエラー検出された場合(ステップS203;No)、又は、ステップS204において第2データData2の連続性に異常があると判定した場合(ステップS204;No)、遅延検出部611は、遅延カウンタDCをカウントアップ(DC=DC+1)し(ステップS205)、遅延カウンタDCが遅延カウンタ最大値DC_max未満であるか否か(DC<DC_max)を判定する(ステップS206)。
【0170】
遅延カウンタDCが遅延カウンタ最大値DC_max未満である場合(ステップS206;Yes)、遅延検出部611は、予め設定されたデータ遅延時間最小値Dt_dly_minに遅延カウンタDCを乗じて、第2データData2の遅延時間Dt_dly2(=Dt_dly_min×DC)を算出する(ステップS207)。
【0171】
遅延カウンタDCが遅延カウンタ最大値DC_max以上(DC≧DC_max)となると(ステップS206;No)、遅延検出部611は、第2データData2の遅延時間Dt_dly2を予め設定されたデータ遅延時間最大値Dt_dly_max(Dt_dly2=Dt_dly_max)とする(ステップS208)。
【0172】
ステップS204において第2データData2の連続性に異常がない場合(ステップS204;Yes)、遅延検出部611は、遅延カウンタDCをリセット(DC=0)する(ステップS209)。
【0173】
車速制限値生成部612には、遅延検出部611により検出された第2データData2の遅延時間Dt_dly2が入力される。車速制限値生成部612に適用される車速制限マップは、実施形態1において説明した車速制限マップ(図16A図16B参照)と同様である。車速制限値生成部712は、車速制限マップ(図16A図16B参照)を用いて、遅延検出部611により検出された第2データData2の遅延時間Dt_dly2に応じた車速制限値Vs_lim2を生成する。本実施形態において、車速制限マップは、例えば、操舵制御用ECU60のROMに予め記憶されている。
【0174】
車速制限値Vs_lim2は、実施形態1において説明した車速制限値Vs_lim1と同様に、第2データData2の遅延時間Dt_dly2に応じて増減する遅延時間感応型の特性を有している。
【0175】
より具体的に、車速制限値Vs_lim2は、第2データData2の遅延時間Dt_dly2の増加に伴って単調減少し、第2データData2の遅延時間Dt_dly2の増加に伴って減少率が減少する。すなわち、車速制限値Vs_lim2は、第2データData2の遅延時間Dt_dly2に対して略反比例する特性を有している。これにより、わずかな遅延から中程度の遅延になるにかけて車速制限値を大きく落とすようにすることで、安全な運転を実現できる。
【0176】
また、車速制限値Vs_lim2は、予め設定されたデータ遅延時間最大値Dt_dly_maxによって車速制限値最小値Vs_lim_minに制限される。これにより、第2データData2の遅延時間Dt_dly2が長い場合でも、車両の運転を継続させることができる。
【0177】
車速制限マップは、例えば、予めデータ遅延時間に対して車両の挙動を安定に維持することができる車速が設定される。データ遅延時間に対する車速制限値は、マップの態様に限定されず、所定の伝達関数によって特性が定義される態様であっても良いし、データ遅延時間に応じた車速制限値が設定された態様であっても良い。
【0178】
車速制限処理部61は、車速制限値生成部612により生成した車速制限値Vs_lim2をブレーキ制御用ECU80に出力する。言い換えると、操舵制御用ECU60は、例えば、車載用通信バス20(第1通信経路20)を介して、車速制限値Vs_lim2をブレーキ制御用ECU80に送信する。
【0179】
ブレーキ制御用ECU80では、車速Vsが操舵制御用ECU60から送信された車速制限値Vs_lim2に制限されるようにブレーキ制御を行う。具体的に、ブレーキ制御用ECU80は、車速センサ10で検出される車速Vsと操舵制御用ECU60から送信された車速制限値Vs_lim2とを比較し、車速Vsが車速制限値Vs_lim2以上であるとき、車速Vsが車速制限値Vs_lim2に制限されるようにブレーキ制御する。これにより、車両の姿勢制御が不能となる事態に陥ることなく、運転を継続させることができる。
【0180】
(実施形態3)
図19は、実施形態3に係る車速制限処理部の構成例を示すブロック図である。
【0181】
実施形態3に係る車速制限処理部61aは、第1遅延検出部711、第1車速制限値生成部712、第2遅延検出部611、第2車速制限値生成部612、及び車速制限値選択処理部613を含む。
【0182】
図19に示す例では、転舵制御用ECU70に第1遅延検出部711及び第1車速制限値生成部712が設けられ、操舵制御用ECU60aには、第2遅延検出部611及び第2車速制限値生成部612に加えて、車速制限値選択処理部613が設けられている。第1遅延検出部711及び第1車速制限値生成部712は、それぞれ、実施形態1において説明した遅延検出部711及び車速制限値生成部712に相当し、第2遅延検出部611及び第2車速制限値生成部612は、それぞれ、実施形態2において説明した遅延検出部611及び車速制限値生成部612に相当する。
【0183】
車速制限値選択処理部613は、第1車速制限値生成部712から出力される第1車速制限値Vs_lim1と第2車速制限値生成部612から出力される第2車速制限値Vs_lim2とを比較し、Vs_lim1<Vs_lim2である場合、第1車速制限値Vs_lim1を車速制限値Vs_limとしてブレーキ制御用ECU80に送信し、Vs_lim1>Vs_lim2である場合、第2車速制限値Vs_lim2を車速制限値Vs_limとしてブレーキ制御用ECU80に送信する。図19に示す例において、転舵制御用ECU70は、例えば、車載用通信バス20(第1通信経路20)を介して、第1車速制限値Vs_lim1を操舵制御用ECU60aに送信する。
【0184】
ブレーキ制御用ECU80では、車速Vsが操舵制御用ECU60aから送信された車速制限値Vs_limに制限されるようにブレーキ制御を行う。具体的に、ブレーキ制御用ECU80は、車速センサ10で検出される車速Vsと操舵制御用ECU60aから送信された車速制限値Vs_limとを比較し、車速Vsが車速制限値Vs_lim以上であるとき、車速Vsが車速制限値Vs_limに制限されるようにブレーキ制御する。これにより、車両の姿勢制御が不能となる事態に陥ることなく、運転を継続させることができる。
【0185】
図20は、実施形態3の第1変形例に係る車速制限処理部の構成例を示すブロック図である。
【0186】
実施形態3の第1変形例に係る車速制限処理部71aは、第1遅延検出部711、第1車速制限値生成部712、車速制限値選択処理部713、第2遅延検出部611、及び第2車速制限値生成部612を含む。
【0187】
図20に示す例では、転舵制御用ECU70aには、第1遅延検出部711及び第1車速制限値生成部712に加えて、車速制限値選択処理部713が設けられ、操舵制御用ECU60に第2遅延検出部611及び第2車速制限値生成部612が設けられている。第1遅延検出部711及び第1車速制限値生成部712は、それぞれ、実施形態1において説明した遅延検出部711及び車速制限値生成部712に相当し、第2遅延検出部611及び第2車速制限値生成部612は、それぞれ、実施形態2において説明した遅延検出部611及び車速制限値生成部612に相当する。
【0188】
車速制限値選択処理部713は、第1車速制限値生成部712から出力される第1車速制限値Vs_lim1と第2車速制限値生成部612から出力される第2車速制限値Vs_lim2とを比較し、Vs_lim1<Vs_lim2である場合、第1車速制限値Vs_lim1を車速制限値Vs_limとしてブレーキ制御用ECU80に送信し、Vs_lim1>Vs_lim2である場合、第2車速制限値Vs_lim2を車速制限値Vs_limとしてブレーキ制御用ECU80に送信する。図20に示す例において、操舵制御用ECU60は、例えば、車載用通信バス20(第1通信経路20)を介して、第2車速制限値Vs_lim2を転舵制御用ECU70aに送信する。
【0189】
ブレーキ制御用ECU80では、車速Vsが転舵制御用ECU70aから送信された車速制限値Vs_limに制限されるようにブレーキ制御を行う。具体的に、ブレーキ制御用ECU80は、車速センサ10で検出される車速Vsと転舵制御用ECU70aから送信された車速制限値Vs_limとを比較し、車速Vsが車速制限値Vs_lim以上であるとき、車速Vsが車速制限値Vs_limに制限されるようにブレーキ制御する。これにより、車両の姿勢制御が不能となる事態に陥ることなく、運転を継続させることができる。
【0190】
図21は、実施形態3の第2変形例に係る車速制限処理部の構成例を示すブロック図である。
【0191】
実施形態3の第2変形例に係る車速制限処理部81は、第1遅延検出部711、第1車速制限値生成部712、第2遅延検出部611、第2車速制限値生成部612、及び車速制限値選択処理部813を含む。
【0192】
図21に示す例では、転舵制御用ECU70に第1遅延検出部711及び第1車速制限値生成部712が設けられ、操舵制御用ECU60に第2遅延検出部611及び第2車速制限値生成部612が設けられている。車速制限値選択処理部813は、ブレーキ制御用ECU80aに設けられている。第1遅延検出部711及び第1車速制限値生成部712は、それぞれ、実施形態1において説明した遅延検出部711及び車速制限値生成部712に相当し、第2遅延検出部611及び第2車速制限値生成部612は、それぞれ、実施形態2において説明した遅延検出部611及び車速制限値生成部612に相当する。
【0193】
車速制限値選択処理部813は、転舵制御用ECU70から出力される第1車速制限値Vs_lim1と操舵制御用ECU60から出力される第2車速制限値Vs_lim2とを比較し、Vs_lim1<Vs_lim2である場合、第1車速制限値Vs_lim1を車速制限値Vs_limとし、Vs_lim1>Vs_lim2である場合、第2車速制限値Vs_lim2を車速制限値Vs_limとする。図21に示す例において、転舵制御用ECU70は、例えば、車載用通信バス20(第1通信経路20)を介して、第1車速制限値Vs_lim1をブレーキ制御用ECU80aに送信し、操舵制御用ECU60は、例えば、車載用通信バス20(第1通信経路20)を介して、第2車速制限値Vs_lim2をブレーキ制御用ECU80aに送信する。
【0194】
ブレーキ制御用ECU80aは、車速Vsが車速制限値選択処理部813から出力された車速制限値Vs_limに制限されるようにブレーキ制御を行う。具体的に、ブレーキ制御用ECU80aは、車速センサ10で検出される車速Vsと車速制限値選択処理部813から出力された車速制限値Vs_limとを比較し、車速Vsが車速制限値Vs_lim以上であるとき、車速Vsが車速制限値Vs_limに制限されるようにブレーキ制御する。これにより、車両の姿勢制御が不能となる事態に陥ることなく、運転を継続させることができる。
【0195】
なお、上述した実施形態では、第1データData1が操舵制御用ECU(操舵制御装置)60から車載用通信バス21を介して送信される態様を例示したが、車両の走行系を遠隔操作する態様であっても良い。このような態様としては、例えば、車両の無人運転を実現するオートパイロット(自動操縦)システムが例示される。オートパイロットシステムでは、車両の外部に設けられた管制装置から衛星通信や5G(第5世代移動通信システム)等のネットワークを介して送信されるデータを受信して、車両の自動運転制御が行われる。
【0196】
このようなオートパイロットシステムに本開示を適用した場合、転舵制御用ECU(転舵制御装置)70は、車両の外部に設けられた管制装置(操舵制御装置)から衛星通信や5G通信(第2通信経路21)を介して送信された第1データData1(操舵角θhに相当する情報を含む)を受信して、転舵装置40を制御する。この場合においても、転舵制御用ECU70に上述した車速制限処理部71を設けることで、データ遅延時間に応じた車速抑制制御が可能となる。
【0197】
なお、上述した実施形態では、遅延カウンタDCが遅延カウンタ最大値DC_max以上(DC≧DC_max)となる場合には、車速制限値最小値Vs_lim_minに制限されることで、第1データData1(第2データData2)の遅延時間Dt_dly1(Dt_dly2)が長い場合でも、車両の運転を継続させることができるとしたが、異常と判断して遠隔運転モードの停止や車両を止める等の対応をしてもよい。
【0198】
また、上述した実施形態で使用した図は、本開示に関して定性的な説明を行うための概念図であり、これらに限定されるものではない。また、上述の実施形態は本開示の好適な実施の一例ではあるが、これに限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0199】
1 ハンドル
2 コラム軸
3a,3b タイロッド
5L,5R 転舵輪
6a,6b アーム
10 車速センサ
11 イグニションキー
12 バッテリ
20 車載用通信バス(第1通信経路)
21 車載用通信バス(第2通信経路)
30 反力装置
31 反力用モータ
32 減速機構
33 舵角センサ
34 トルクセンサ
35 ストッパ(回転制限機構)
40 転舵装置
41 転舵用モータ
42 減速機構
43 角度センサ
44 ピニオンラック機構
50 車両制御システム
60,60a 操舵制御用ECU(操舵制御装置)
61,61a 車速制限処理部
70,70a 転舵制御用ECU(転舵制御装置)
71,71a 車速制限処理部
80,80a ブレーキ制御用ECU
81 車速制限処理部
200 操舵トルク目標値生成部
210 基本マップ部
220 ダンパトルク生成部
221 ダンパゲインマップ部
222 乗算部
230 操舵トルク補償値生成部
240 操舵トルク補償値演算部
241 路面反力トルク推定部
242,242a 操舵トルク補償値マップ部
243 絶対値演算部
244 符号抽出部
245 乗算部
260 絶対値演算部
270 微分部
280 符号抽出部
291,292 加算部
293 乗算部
400 操舵トルク制御部
500 電流制御部
600 転舵角目標値生成部
611 遅延検出部(第2遅延検出部)
612 車速制限値生成部(第2車速制限値生成部)
613 車速制限値選択処理部
700 転舵角制御部
711 遅延検出部(第1遅延検出部)
712 車速制限値生成部(第1車速制限値生成部)
713 車速制限値選択処理部
800 電流制御部
813 車速制限値選択処理部
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17
図18
図19
図20
図21