(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108215
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】磁気抵抗素子及び磁気メモリ
(51)【国際特許分類】
H10B 61/00 20230101AFI20230728BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20230728BHJP
【FI】
H01L27/105 447
H01L43/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009216
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】316005926
【氏名又は名称】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】肥後 豊
(72)【発明者】
【氏名】阪井 塁
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 将起
(72)【発明者】
【氏名】平賀 啓三
(72)【発明者】
【氏名】細見 政功
【テーマコード(参考)】
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4M119AA01
4M119AA05
4M119BB01
4M119CC05
4M119DD17
4M119DD24
4M119DD25
4M119DD32
4M119DD45
4M119EE22
4M119EE27
5F092AA03
5F092AA04
5F092AC12
5F092AD03
5F092AD23
5F092AD25
5F092BB08
5F092BB23
5F092BB34
5F092BB35
5F092BB36
5F092BB43
5F092BB53
5F092CA02
5F092CA03
5F092CA08
5F092CA25
(57)【要約】
【課題】双極性電圧書き込みが可能であり且つ製造が容易な磁気メモリ素子及び磁気メモリを提供する。
【解決手段】磁気抵抗素子の第2の磁性層は、磁気抵抗素子に電圧が印加されていないときは垂直磁化層であり、磁気抵抗素子に第1の電圧が印加されると、垂直磁化層から面内磁化層に変化し、磁気抵抗素子に第2の電圧が印加されると、垂直磁化層から面内磁化層に変化し、第2の磁性層の磁化は、磁気抵抗素子に第3の電圧が第1の時間だけ印加された後で、層の面内に垂直な方向のうちの第1の向きに変化し、磁気抵抗素子に第4の電圧が第2の時間だけ印加された後で、層の面内に垂直な方向のうちの第2の向きに変化し、第1の電圧及び第2の電圧は、互いに逆方向の電圧であり、第3の電圧及び第4の電圧は、互いに逆方向の電圧である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の磁性層と、
層の面方向に磁化されているときの磁気エネルギーと層の面方向に垂直な方向に磁化されているときの磁気エネルギーとの差分に基づいて定められる垂直磁気異方性エネルギーが正になる垂直磁化層と、前記垂直磁気異方性エネルギーが負になる面内磁化層との間で変化する第2の磁性層と、
前記第1の磁性層及び前記第2の磁性層との間に設けられた非磁性層と、
を備える磁気抵抗素子であって、
前記第2の磁性層は、
前記磁気抵抗素子に電圧が印加されていないときは前記垂直磁化層であり、
前記磁気抵抗素子に第1の電圧が印加されると、前記垂直磁化層から前記面内磁化層に変化し、
前記磁気抵抗素子に第2の電圧が印加されると、前記垂直磁化層から前記面内磁化層に変化し、
前記第2の磁性層の磁化は、
前記磁気抵抗素子に第3の電圧が第1の時間だけ印加された後で、層の面内に垂直な方向のうちの第1の向きに変化し、
前記磁気抵抗素子に第4の電圧が第2の時間だけ印加された後で、層の面内に垂直な方向のうちの第2の向きに変化し、
前記第1の電圧及び前記第2の電圧は、互いに逆方向の電圧であり、
前記第3の電圧及び前記第4の電圧は、互いに逆方向の電圧である、
磁気抵抗素子。
【請求項2】
前記第2の磁性層の前記垂直磁気異方性エネルギーは、
前記磁気抵抗素子に印加される電圧がゼロから前記第1の電圧に近づくにつれて線形に減少し、前記第1の電圧で正から負に変わり、
前記磁気抵抗素子に印加される電圧がゼロから前記第2の電圧に近づくにつれて線形に減少し、前記第2の電圧で正から負に変わる、
請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項3】
前記第1の電圧及び前記第3の電圧は、互いに同方向の電圧であり、
前記第2の電圧及び前記第4の電圧は、互いに同方向の電圧である、
請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項4】
前記第3の電圧の絶対値は、前記第1の電圧の絶対値の2倍以下であり、
前記第4の電圧の絶対値は、前記第2の電圧の絶対値の2倍以下である、
請求項3に記載の磁気抵抗素子。
【請求項5】
前記第1の時間は、100ns以下であり、
前記第2の時間は、100ns以下である、
請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項6】
積層方向にみたときに、鏡面対称形状及び回転対称形状の少なくとも一方を有する、
請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項7】
積層方向にみたときに、円形形状、楕円形形状、正方形形状及び長方形形状の少なくとも1つを有する、
請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項8】
前記第2の磁性層の磁化の向きを層の面方向に実質的に一致させる外部磁界を有効異方性磁界とすると、
前記有効異方性磁界の絶対値は、前記磁気抵抗素子に印加される電圧がゼロから離れるにつれて実質的に直線的に減少する、
請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項9】
前記第2の磁性層の磁化の向きを層の面方向に実質的に一致させる外部磁界を有効異方性磁界とすると、
前記有効異方性磁界と前記印加される電圧との関係を示す相図線が、前記印加される電圧がゼロの位置に頂点を有する形状を規定し、
前記頂点は、180度未満の内角を有する、
請求項8に記載の磁気抵抗素子。
【請求項10】
複数の磁気抵抗素子を備え、
前記複数の磁気抵抗素子それぞれは、
第1の磁性層と、
層の面方向に磁化されているときの磁気エネルギーから積層方向に磁化されているときの磁気エネルギーを減じた垂直磁気異方性エネルギーが正になる垂直磁化層と、前記垂直磁気異方性エネルギーが負になる面内磁化層との間で変化する第2の磁性層と、
前記第1の磁性層及び前記第2の磁性層との間に設けられた非磁性層と、
を含み、
前記第2の磁性層は、
前記磁気抵抗素子に電圧が印加されていないときは前記垂直磁化層であり、
前記磁気抵抗素子に第1の電圧が印加されると、前記垂直磁化層から前記面内磁化層に変化し、
前記磁気抵抗素子に第2の電圧が印加されると、前記垂直磁化層から前記面内磁化層に変化し、
前記第2の磁性層の磁化は、
前記磁気抵抗素子に第3の電圧が印加されている間に層の面内の第1の方向に変化し、
前記磁気抵抗素子に第4の電圧が印加されている間に前記層の面内の第2の方向に変化し、
前記第1の電圧及び前記第2の電圧は、互いに逆方向の電圧であり、
前記第3の電圧及び前記第4の電圧は、互いに逆方向の電圧である、
磁気メモリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気抵抗素子及び磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1は、鏡面対称性及び回転対称性の無い平面形状を有する、双極性電圧書き込み型の磁気メモリ素子を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような磁気メモリ素子は、形状のバラつきが大きくなる等の理由から製造が困難である。
【0005】
本開示の一側面は、双極性電圧書き込みが可能であり且つ製造が容易な磁気抵抗素子及び磁気メモリを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る磁気抵抗素子は、第1の磁性層と、層の面方向に磁化されているときの磁気エネルギーと層の面方向に垂直な方向に磁化されているときの磁気エネルギーとの差分に基づいて定められる垂直磁気異方性エネルギーが正になる垂直磁化層と、垂直磁気異方性エネルギーが負になる面内磁化層との間で変化する第2の磁性層と、第1の磁性層及び第2の磁性層との間に設けられた非磁性層と、を備え、第2の磁性層は、磁気抵抗素子に電圧が印加されていないときは垂直磁化層であり、磁気抵抗素子に第1の電圧が印加されると、垂直磁化層から面内磁化層に変化し、磁気抵抗素子に第2の電圧が印加されると、垂直磁化層から面内磁化層に変化し、第2の磁性層の磁化は、磁気抵抗素子に第3の電圧が第1の時間だけ印加された後で、層の面内に垂直な方向のうちの第1の向きに変化し、磁気抵抗素子に第4の電圧が第2の時間だけ印加された後で、層の面内に垂直な方向のうちの第2の向きに変化し、第1の電圧及び第2の電圧は、互いに逆方向の電圧であり、第3の電圧及び第4の電圧は、互いに逆方向の電圧である。
【0007】
本開示の一側面に係る磁気メモリは、複数の磁気抵抗素子を備え、複数の磁気抵抗素子それぞれは、第1の磁性層と、層の面方向に磁化されているときの磁気エネルギーから積層方向に磁化されているときの磁気エネルギーを減じた垂直磁気異方性エネルギーが正になる垂直磁化層と、垂直磁気異方性エネルギーが負になる面内磁化層との間で変化する第2の磁性層と、第1の磁性層及び第2の磁性層との間に設けられた非磁性層と、を含み、第2の磁性層は、磁気抵抗素子に電圧が印加されていないときは垂直磁化層であり、磁気抵抗素子に第1の電圧が印加されると、垂直磁化層から面内磁化層に変化し、磁気抵抗素子に第2の電圧が印加されると、垂直磁化層から面内磁化層に変化し、第2の磁性層の磁化は、磁気抵抗素子に第3の電圧が印加されている間に層の面内の第1の方向に変化し、磁気抵抗素子に第4の電圧が印加されている間に層の面内の第2の方向に変化し、第1の電圧及び第2の電圧は、互いに逆方向の電圧であり、第3の電圧及び第4の電圧は、互いに逆方向の電圧である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る磁気抵抗素子の概略構成の例を示す図である。
【
図2】第2の磁性層(記録層)の磁化の向きの例を示す図である。
【
図3】電圧と磁気異方性エネルギーとの関係を模式的に示す図である。
【
図4】電圧と磁気異方性エネルギーとの関係を模式的に示す図である。
【
図6】マクロスピンモデルによるシミュレーションの例を示す図である。
【
図7】マクロスピンモデルによるシミュレーションの例を示す図である。
【
図8】層内に外部磁界を印加したときの抵抗値の変化の例を示す図である。
【
図9】層内に外部磁界を印加したときの抵抗値の変化の例を示す図である。
【
図10】さまざまな印加電圧及び外部磁界の組合せに対する磁気抵抗素子の抵抗値を3次元的に示す図である。
【
図11】有効異方性磁界の電圧依存性を示す図である。
【
図12】実施形態に係る磁気メモリの部分的な構成の例を模式的に示す図である。
【
図13】実施形態に係る磁気メモリの部分的な構成の例を模式的に示す図である。
【
図14】実施形態に係る磁気メモリの部分的な構成の例を模式的に示す図である。
【
図15】磁気メモリの書き込み及び読み出しのタイミングチャートの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示の実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態において、同一の部位には同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。また、開示される技術は、実施形態限定されるものではなく、また、実施形態における種々の数値や材料は例示である。
【0010】
以下に示す項目順序に従って本開示を説明する。
0.序
1.第1実施形態
2.第2実施形態
3.効果の例
【0011】
0.序
磁気抵抗素子を記憶素子に用いる磁気メモリ(例えばMRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)は、強磁性体の磁化状態によって情報を保持するため、電源を切っても記録されたデータが保持される不揮発性を有する。磁気抵抗素子の基本構造は、2つの磁性層(磁性体薄膜等)で非磁性層(絶縁体薄膜等)を挟んだサンドイッチ構造である。非磁性層の厚さ(例えば膜厚)が数nm程度と非常に小さいため、磁気抵抗素子の両端に電圧を印加すると、トンネル電流が流れる。このトンネル電流の大きさが、2つの磁性層の磁化の相対角度に依存する特徴を持つ。これをトンネル磁気抵抗(TMR:Tunnel Magneto Resistance)効果と呼ぶ。
【0012】
MRAMにおいては、2層の磁性層のうち、一方の磁性層(固定層)の磁化を固定し、他方の磁性層(記録層)の磁化を外場により制御する。固定層と記録層の磁化が互いに平行である状態を0状態、反平行である状態を1状態とする。このように、磁化の平行・反平行状態を書き換えることで、情報(“0”または“1”)を不揮発に保存する。磁化の向きの制御に用いる外場としては、外部配線への電流通電により生じる電流磁界や、磁気抵抗素子に直接電流通電を行い、スピン角運動量移行(STT:Spin Transfer Torque)効果を利用する方法、また、電圧による磁気異方性制御(VCMA:Voltage Controlled Magnetic Anisotropy)を利用した方法等がある。情報の読み出しには、TMR効果を用いる。
【0013】
現在主流となっている磁気メモリは、電流磁界を用いる場合よりも微細化が可能で、消費電力も抑制できるSTT-MRAMである。一方、VCMAを利用した電圧制御型(VC:Voltage Controlled)MRAMが、書き込みが高速でさらに低消費電力で動作可能であることから注目されている。従来のVCMAを利用した電圧書き込み方式は、単極性(一方向にのみ電圧を印加すること)で超高速のパルス電圧を印加することによって双方向の書き込みを実現する。これに対して、特許文献1では、双極性電圧を印加することにより双方向の磁化反転を誘起して書き込みを行う双極性電圧書き込み方式が報告されている。
【0014】
従来の電圧書き込み方式は、単極性電圧で双方向の書き込み動作が行われるが、以下のような課題があり、実用的ではなかった。
【0015】
磁気抵抗素子に電圧が印加されていないとき、記録層がもつ垂直磁気異方性(磁化が層面に垂直な方向に向きやすい性質)によって、記録層の磁化の向きは垂直方向(後述のZ軸方向に相当)を向いている。同様に固定層の磁化も、垂直磁気異方性によって、垂直方向(Z軸方向)を向いている。
【0016】
今、記録層の磁化及び固定層の磁化がともにZ軸正方向、すなわち平行状態であって情報0が書き込まれているものとする。また、層面内方向(X軸及びY軸方向)のうちX軸正方向に外部磁界が印加されているとする。ここで、パルス電圧が印加されると、非磁性層と記録層との界面付近に発生する電界によって、記録層の垂直磁気異方性が減少し、記録層の磁化がZ軸方向に向きやすいという性質が失われる。その結果、記録層の磁化は、外部磁界によってエネルギーが安定となっているX軸方向へ向かう運動を始める。
【0017】
記録層の磁化は、単純にZ軸正方向からX軸正方向に一直線に変化するのではなく、YZ平面内を周回しながらX軸正方向に徐々に向かう、いわゆる歳差運動を始める。最初はZ軸正方向を向いていた記録層の磁化が、YZ平面内の周回運動の過程において、略Z軸負方向を向く瞬間が存在する。このときにパルス電圧をゼロにすると、記録層の垂直磁気異方性が元に戻り、記録層の磁化がZ軸方向に向きやすくなり、従って、記録層の磁化は、Z軸負方向に固定される。すなわち、パルス電圧印加前に情報0が書き込まれていた状態から、記録層の磁化及び固定層の磁化が互いに反平行となる、情報1が書き込まれた状態に変化する。同様のことは、初めに記録層の磁化がZ軸負方向を向いている場合でも起きるために、単極性のパルス電圧で双方向の書き込みが実現できる。
【0018】
しかし、上述の書き込み方式では、パルス電圧の波形を高精度に制御しなければならない。一般的に、YZ平面内の周回運動の周期は1nsオーダーであり、パルス電圧を印加する時間が理想的な半周期からずれると所望の状態の書き込みが行えず、書き込みエラーが発生するからである。複数の磁気抵抗素子から構成される磁気メモリでは、磁気抵抗素子ごとに周期がばらつくため、より深刻な問題となる。従来の電圧書き込み方式では、書き込みエラー率を実用レベルまで低減することは困難である。また、歳差運動を起こすために外部磁界が必要であるが、一般的にはチップ内に永久磁石を埋め込むことで実現する。しかしながら、余分なプロセスが必要であるうえ、チップ内に均一な磁界を発生させることも容易ではない。
【0019】
この課題を解決するために、特許文献1では、強磁性体層に作用するジャロシンスキー(Dzyaloshinsky)-守谷の相互作用を利用し、双極性電圧を用いて双方向書き込みを実現できる磁気抵抗素子および書き込み方法が提案されている。特許文献1の磁気抵抗素子の接合断面形状(Z軸方向にみたときの形状)は、鏡面対称性や回転対称性のない形状(たとえば不等辺三角形状)、又は、(2)特定の1軸に対してのみ鏡面対称性を有する形状(たとえば二等辺三角形状)を持つことが特徴である。これによってパルス電圧の印加で磁化方向の分布を生じさせ、双方向書き込みを実現している。また、歳差運動を利用した書き込み方式ではないため、高精度のパルス形状の制御は必要ない。
【0020】
しかし、特許文献1の磁気抵抗素子は、接合断面形状が鏡面対称性も回転対称性ももたないため、素子のパターニングやエッチングといった素子の形成工程で、形状ばらつきが大きくなったり、エッジが丸くなったりし易い。その結果、書き込み動作の安定性が低下するという問題がある。また、従来の電圧書き込み方式と同様に外部磁界が必要となる問題もある。
【0021】
上述のような問題が、開示される技術によって対処される。例えば、高速かつ低消費電力で書き込みが可能な磁気抵抗素子が提供される。また、これにより高性能化を実現した磁気メモリが提供される。
【0022】
本願の発明者らは、マクロスピンモデルを使った研究の結果、外部磁界がない状態でも双極性電圧を用いて双方向の書き込みを実現できる磁気抵抗素子を発明した。外部磁界が必要ないため、チップ内に永久磁石を埋め込む必要がない。磁気抵抗素子の接合断面形状は、円形、楕円形、正方形、長方形といった鏡面対称性や回転対称性を持つ。VCMAは、正負どちらの電圧を印加しても、記録層の垂直磁気異方性が減少するようにはたらく。これは、磁気抵抗素子を構成する各層の材料、積層構造、界面状態等を調整することにより実現が可能である。また、電圧を印加することによって磁気抵抗素子を貫通する電流によってSTTが記録層の磁化にはたらき、電流の向きによって磁化の向きが決定される。
【0023】
従来技術の双極性電圧書き込み方式では、対称性の低い断面形状を必要としていたのに対して、開示される技術では、磁気抵抗素子の接合断面形状が高い対称性を持つので、形成工程での形状ばらつきが小さい。その結果、書き込み動作の高速性や安定性のばらつきを抑制できる。また、外部磁界が不要であるので、永久磁石をチップ内に埋め込むといった余分なプロセスを略することができ、かつ外部磁界の不均一性に起因する書き込み動作のばらつきを排除できる。
【0024】
1.第1実施形態
図1は、実施形態に係る磁気抵抗素子の概略構成の例を示す図である。磁気抵抗素子100は、積層構造を有する。X軸方向(及びY軸方向)は、層の面方向(延存方向)に相当する。Z軸方向は、層の面方向に垂直な方向(積層方向)に相当する。なお、層は膜であってよく、矛盾の無い範囲において、層及び膜は適宜読み替えられてよい。
【0025】
図1に示される例では、磁気抵抗素子100は、磁性層11と、非磁性層12と、磁性層13とを含む。磁性層11、非磁性層12及び磁性層13が、Z軸正方向にこの順に積層される。非磁性層12は、磁性層11と磁性層13との間に設けられる。なお、各層の結晶構造や磁気特性を制御したり電気的接続を確保したりするために、図示しない下地層、キャップ層等がさらに積層されてよい。各層は、単一の材料からなる単層構造であってもよく、複数の層が積層された積層構造であってもよい。
【0026】
Z軸方向にみたときの磁気抵抗素子100が有する形状(例えば接合断面形状)の例は、鏡面対称形状、回転対称形状等である。より具体的な形状の例は、円形形状、楕円形より具体的に、Z軸方向にみたときに、磁気抵抗素子100は、円形形状、楕円形形状、正方形形状、長方形形状等である。本実施形態では、円形形状を例に挙げる。
【0027】
磁性層11の磁化を、磁化M11と称しその向きを矢印で模式的に図示する。同様に、磁性層13の磁化を、磁化M13と称しその向きを矢印でも式的に図示する。磁性層11は、磁化M11の向きが固定された第1の磁性層(固定層)である。磁性層13は、磁化M13の向きが変化する第2の磁性層(記録層)である。磁気抵抗素子100に記録する情報は、磁性層11の磁化M11に対する磁性層13の磁化M13の向きによって決まる。なお、磁性層11が記録層であり、磁性層13が固定層であってもよい。
【0028】
図2は、第2の磁性層(記録層)の磁化の向きの例を示す図である。磁性層13は、磁化M13に応じた磁気エネルギーEを有する。
図2の(A)に示される例では、磁性層13の磁化M13は、Z軸方向を向いている。このときの磁性層13の磁気エネルギーを、磁気エネルギーE
⊥と称する。
図2の(B)に示される例では、磁性層13の磁化M13は、X軸方向を向いている。このときの磁性層13の磁気エネルギーを、磁気エネルギーE
||と称する。
【0029】
磁気エネルギーE⊥と磁気エネルギーE||との大小関係から、磁化M13が取りやすい向き(磁化容易軸)が決まる。磁気抵抗素子100に電圧が印加されていないときの磁性層13の磁気エネルギーは、磁気エネルギーE||が磁気エネルギーE⊥よりも大きくなっている(E||>E⊥)。このときの磁化容易軸はZ軸方向であり、このときの磁性層13を、垂直磁化層とも称する。一方で、後述するように、磁気抵抗素子100に電圧を印加することで、磁性層13は、磁気エネルギーE||が磁気エネルギーE⊥よりも小さくなるように変化する(E||<E⊥)。このときの磁化容易軸は面内方向であり、このときの磁性層13を面内磁化層とも称する。すなわち、磁性層13は、垂直磁化層と面内磁化層との間で変化する。
【0030】
より具体的に、磁性層13は、垂直磁気異方性エネルギーKuの正負に応じて、垂直磁化層と面内磁化層との間で変化する。垂直磁気異方性エネルギーKuは、下記の式(1)で与えられる。
【数1】
【0031】
上記の式(1)において、Vは、磁性層13の体積である。垂直磁気異方性エネルギーKuが正(Ku>0)の場合、磁性層13は垂直磁化層になる。垂直磁気異方性エネルギーKuが負(Ku<0)の場合、磁性層13は面内磁化層になる。
【0032】
磁気抵抗素子100に印加される電圧、より具体的には磁性層11と磁性層13との間に印加される電圧によって、VCMAが誘起される。磁性層13の垂直磁気異方性エネルギーKuは、電圧の符号に依らず減少する。
図3及び
図4を参照して説明する。
【0033】
図3及び
図4は、電圧と磁気異方性エネルギーとの関係を模式的に示す図である。グラフの横軸は、磁気抵抗素子100に印加される電圧Vを示す。グラフの縦軸は、磁性層13の垂直磁気異方性エネルギーKuを示す。垂直磁気異方性エネルギーKuは、電圧Vに対して略Λ(ラムダ)形状に変化する。すなわち、電圧Vがゼロのとき(電圧Vが印加されていないとき)、垂直磁気異方性エネルギーKuが最も大きい。垂直磁気異方性エネルギーKuは正であり、磁性層13は垂直磁化層である。電圧Vの絶対値が大きくなるにつれて(ゼロから離れるにつれて)、垂直磁気異方性エネルギーKuは線形に減少する。垂直磁気異方性エネルギーKuが正から負に変わると、磁性層13は、垂直磁化層から面内磁化層に変化する。
【0034】
図3には、VCMAを考慮する一方で、STTは考慮しない場合の垂直磁気異方性エネルギーKuの電圧Vへの依存性が示される。垂直磁気異方性エネルギーKuが正から負に変わるとき(Ku=0)の電圧Vを、電圧V
1及び電圧V
2と称し図示する。電圧V
1及び電圧V
2は、互いに逆方向の(異符号の)第1の電圧及び第2の電圧である。この例では、電圧V
1はゼロよりも大きい電圧であり(0<V
1)、電圧V
2はゼロよりも小さい電圧である(V
2<0)。電圧V
1の絶対値及び電圧V
2の絶対値は同じであってよい。
【0035】
電圧Vが電圧V2よりも大きく電圧V1よりも小さければ(V2<V<V1)、磁性層13は、垂直磁化層になる。反対に、電圧VがV2以下又は電圧V1以上であれば(V≦V2又はV1≦V)、磁性層13は、面内磁化層になる。すなわち、磁気抵抗素子100に電圧V1が印加されたり電圧V2が印加されたりすると、磁性層13は、垂直磁化層から面内磁化層に変化する。より具体的に、垂直磁気異方性エネルギーKuは、電圧Vがゼロから電圧V1に近づくにつれて減少し、電圧V1で正から負に変わる。また、垂直磁気異方性エネルギーKuは、電圧Vがゼロから電圧V2に近づくにつれて線形に減少し、電圧V2で正から負に変わる。
【0036】
なお、電圧Vの印加により非磁性層12が静電破壊し、実質的に電圧V1や電圧V2を印加することができない場合もある。その場合には、電圧V1や電圧V2よりも低電圧側における垂直磁気異方性エネルギーKuの電圧依存性を高電圧側に外挿し、垂直磁気異方性エネルギーKuが正から負に変わるときの電圧Vを、電圧V1及び電圧V2とみなすことができる。
【0037】
実際に磁気抵抗素子100に情報を書き込むために、STTが用いられる。磁気抵抗素子100を貫通する電流によって、STTが磁性層13の磁化M13に作用する。
【0038】
図4には、VCMA及びSTTの両方を考慮した場合の垂直磁気異方性エネルギーKuの電圧Vへの依存性が示される。この場合に印加される電圧Vとして、電圧V
3及び電圧V
4が例示される。電圧V
3及び電圧V
4は、互いに逆方向の第3の電圧及び第4の電圧である。この例では、電圧V
3はゼロよりも大きい電圧であり(0<V
3)、電圧V4はゼロよりも小さい電圧である(V
4<0)。すなわち、電圧V
1及び電圧V
3は、互いに同方向の(同符号)の電圧である。電圧V
2及び電圧V
4は、互いに同方向の電圧である。電圧V
3の絶対値及び電圧V
4の絶対値は同じであってよい。
【0039】
磁気抵抗素子100に電圧V3を印加すると、VCMAによって垂直磁気異方性エネルギーKuが減少すると同時に、STTによって磁化反転が起こる。磁気抵抗素子100に電圧V3が第1の時間印加された後で、磁性層13の磁化M13の向きは、Z軸方向のうちの第1の向きに変化する。第1の時間は、磁化反転に要する時間であり、例えば後述するような100ns以下であってよい。この例では、第1の向きは、Z軸正方向である。
【0040】
磁気抵抗素子100に電圧V4を印加すると、VCMAによって垂直磁気異方性エネルギーKuが減少すると同時に、上述の電圧V3印加時とは逆向きのSTTによって磁化反転が起こる。磁気抵抗素子100に電圧V4が第2の時間印加された後で、磁性層13の磁化M13の向きは、Z軸方向のうちの第2の向きに変化する。第2の時間は、磁化反転に要する時間であり、第1の時間と同様に例えば100ns以下であってよい。この例では、第2の向きは、Z軸負方向である。
【0041】
このように、VCMAだけでなくSTTも用いることで、双極性の電圧で双方向の書き込みが実現できる。また、VCMAにより垂直磁気異方性エネルギーKuが減少しているので、VCMAがない場合よりも、情報の書き込みに要する電力を低減することができる。
【0042】
以上の方式をマクロスピンモデルによって理論的に解析した。VCMAとSTTが同時にはたらく場合のマクロスピンモデルを鋭意研究した結果、下記の式(2)の等価回路で説明できることが明らかになった。
【数2】
【0043】
上記の式(2)において、Gは、磁気抵抗素子100の抵抗Rと特性抵抗Ic0/Vc0とが並列接続されたときのコンダクタンスである。Ic0は、VCMAがないときのSTTによる臨界反転電流である。Vc0は、VCMAによって垂直磁気異方性エネルギーKuが正から負に変わる(Ku=0になる)電圧Vであり、上述の電圧V1の絶対値及び電圧V2の絶対値に相当する。
【0044】
次に、下記の式(3)で示すオームの法則が成り立つ。
【数3】
【0045】
上記の式(3)において、tはパルス幅である。Qは、反転電流のパルス幅依存性を決める量で電荷の単位を持つ。上記の式(2)及び式(3)により、消費電力が最も低くなる電圧V
bestは、以下の式(4)のように求められる。
【数4】
【0046】
ところで、コンダクタンスGは、G>Ic
0/Vc
0を満たすから、V
best<2Vc
0が得られる。
図5を参照して説明する。
【0047】
図5は、電圧の範囲の例を示す図である。先に説明した電圧V
3絶対値の上限値は、電圧V
1の絶対値の2倍である。電圧V
4の絶対値の上限値は、電圧V
2の絶対値の2倍である。すなわち、下記の式(5)のように、電圧V
3の絶対値は、電圧V
1の絶対値の2倍以下である。電圧V
4の絶対値は、電圧V
2の絶対値の2倍以下である。
【数5】
【0048】
電圧V3及び電圧V4の絶対値の下限値LLは、動作条件にも依るが、例えば後述するような反転時間が100nsを超えないような電圧値であってよい。
【0049】
図6及び
図7は、マクロスピンモデルによるシミュレーションの例を示す図である。シミュレーション条件は以下のとおりである。なお、ここでは、Z軸方向にみたときに、磁気抵抗素子100が円形形状を有するものとする。
飽和磁化Ms=1MA/m
磁気抵抗素子の径W=50nm
磁性層13の厚さt
free=1nm
熱安定性の指標Δ=100
エラー率=10
-7
スピン偏極率η=0.7
VCMA効率β=300fJ/Vm
【0050】
図6の(A)には、面積抵抗RAが10Ωμm
2、ダンピング定数αが0.02、電圧Vが0.6Vのときの磁化運動が示される。グラフの横軸は、時刻(ns)を示す。グラフの縦軸は、磁化M13の大きさを示す。グラフ線mxは、X軸方向における磁化M13の大きさ(x成分)を示す。グラフ線myは、Y軸方向における磁化M13の大きさ(y成分)を示す。グラフ線mzは、Z軸方向における磁化M13の大きさ(z成分)を示す。時刻=7.5ns付近(すなわち電圧印加時間=約7.5ns)で、磁化M13のz成分がゼロになり、この時点で書き込みが完了する。ただし、マージンを確保するために電圧印加時間をより長くすることも可能である。
【0051】
図6の(B)には、書き込みパルス幅(ns)の電圧依存性が示される。
図6の(C)には、消費電力(pJ)の電圧依存性が示される。電圧V
min以上で書き込みが可能であり、電圧V
bestで消費電力が最小となる。電圧V
maxは、磁気抵抗素子100が静電破壊しないための最大の印加可能電圧である。低消費電力が望ましいので、電圧V
bestで書き込みを行うことが望ましいが、静電破壊する確率を減少させるためには低電圧で書き込みを行うことが望ましい。結局、書き込み電圧Vは、電圧V
best以下に設定するのが望ましい。理論式より、この条件は2Vc
0以下であることが分かっている。書き込み電圧Vの最小値は、たとえば、反転時間が100nsよりも長くなると、消費電力が急激に増加することから、反転時間が100nsとなる電圧よりも大きくすることが望ましい。
【0052】
図7には、さまざまな条件下で消費電力が最小となる組み合わせがプロットで示される。なお、途中でプロットが途切れているのは、静電破壊のため書き込めないからである。VCMA効率βは、垂直磁気異方性エネルギーKuの電圧Vへの依存性に比例する量で、単位はfJ/Vmである。VCMA効率βが大きくなるほど、面積抵抗RAが大きくなり且つ高いダンピング定数αでも書き込みが可能になる。VCMAを利用する磁気抵抗素子は高RAかつ高αになる傾向なので、実施形態の書き込み方式は親和性が高いといえる。
【0053】
先にも述べたように、実施形態の磁気抵抗素子100では、VCMAとSTTの両方を用いて書き込みを行う。このような場合に現れる磁気抵抗素子100の抵抗値の外部磁界依存性の特徴について説明する。
【0054】
図8及び
図9は、層内に外部磁界を印加したときの抵抗値の変化の例を示す図である。グラフの横軸は、外部磁界の大きさを示す。ここでの外部磁界の大きさは、異方性磁界H
kで規格化されている。グラフの縦軸は、磁気抵抗素子100の抵抗値を示す。ここでの抵抗値は、低抵抗状態の抵抗値R
Lで規格化されている。
【0055】
図8には、磁気抵抗素子100に電圧Vが印加されておらず(電圧V=0)、VCMAがはたらいていないときの抵抗値の変化が示される。説明の便宜上、グラフ線上の外部磁界のうち、いくつかの外部磁界に符号A~符号Eを付している。
【0056】
外部磁界をゼロからX軸正方向に増加させることを想定する。この外部磁界の変化を、正の掃引と称し矢印で模式的に図示する。外部磁界がゼロのとき(外部磁界A)、磁性層13が有する垂直磁気異方性により、磁性層13の磁化M13はZ軸正方向に向いている。このときの抵抗値は抵抗値RLに等しい。
【0057】
正の掃引において外部磁界を外部磁界Aから外部磁界Bまで増加させると、外部磁界方向に磁化成分を持つ方がエネルギー的に安定することから、磁性層13の磁化M13は、X軸正方向に傾いていく。一方で、磁性層11の磁化M11は、垂直磁気異方性が十分大きいため、外部磁界が増加してもZ軸正方向のままである。外部磁界が外部磁界Aから外部磁界Bになるまでの間、磁気抵抗素子100の抵抗値は徐々に増加する。
【0058】
外部磁界Bにおいて、磁性層13の磁化M13の向きは、外部磁界の向きに揃う。この外部磁界Bを、異方性磁界Hkと定義する。磁性層13の磁化M13と磁性層11の磁化M11とのなす角度(相対角度)が90度であるので、磁気抵抗素子100の抵抗値は、低抵抗状態の抵抗値RLと高抵抗状態の抵抗値RHの平均値近傍となる。
【0059】
正の掃引において外部磁界を外部磁界Bからさらに増加、この例では外部磁界Cまで増加させても、磁性層13の磁化M13の向きは変わらず、抵抗変化は生じない。
【0060】
反対の掃引についても同様である。外部磁界をゼロからX軸負方向に増加させることを想定する。この外部磁界の変化を、負の掃引と称し矢印で模式的に示す。
【0061】
負の掃引において外部磁界を外部磁界Aから外部磁界Cまで増加させると、磁性層13の磁化M13は、X軸負方向に傾いていく。外部磁界が外部磁界Aから外部磁界Dになるまでの間、磁気抵抗素子100の抵抗値は徐々に増加する。
【0062】
外部磁界Dにおいて、磁性層13の磁化M13の向きは、外部磁界の向きに揃う。磁気抵抗素子100の抵抗値は、低抵抗状態の抵抗値RLと高抵抗状態の抵抗値RHの平均値近傍となる。
【0063】
負の掃引において外部磁界を外部磁界Dからさらに増加、この例では外部磁界Eまで増加させても、磁性層13の磁化M13の向きは変わらず、抵抗変化は生じない。
【0064】
以上の磁気抵抗素子100の抵抗値の変化は、電圧を印加していないため、VCMAの有無に依らない。
【0065】
図9には、磁気抵抗素子100に電圧V
bestを印加し、X軸方向の外部磁界を印加したときの抵抗値の変化が示される。先の
図8と重複する説明は略する。
【0066】
図9の(A)には、STTのみ、すなわちVCMA効率β=0(fJ/Vm)の場合の抵抗値の変化が示される。
図9の(B)には、STT及びVCMAの両方がある場合、この例ではVCMA効率β=300(fJ/Vm)の場合の抵抗値の変化が示される。ここで、磁性層13の磁化M13の向きをX軸方向に実質的に一致させる外部磁界を、有効異方性磁界(実効的な異方性磁界)と称する。例えば磁化M13の向きとX軸との間の角度が数度以下である場合は、実質的な一致に含まれ得る。図には、有効異方性磁界として、有効異方性磁界F~有効異方性磁界Iが例示される。
【0067】
図9の(A)に示される有効異方性磁界F及び有効異方性磁界Gは、異方性磁界H
kよりもΔH1だけ小さくなっている。これは、電圧V
bestの印加により磁気抵抗素子100に電流が流れ、ジュール熱で磁気抵抗素子100の温度が上昇し、結果的に磁性層13の有効異方性磁界がHk-ΔH1まで減少するからである。ΔH1の大きさは、印加電圧や磁気抵抗素子100の構成、磁気抵抗素子100の形成プロセス等に依存する。
【0068】
図9の(B)に示される有効異方性磁界H及び有効異方性磁界Iは、上述の有効異方性磁界F及び有効異方性磁界Gよりもさらに小さくなっている。異方性磁界H
kからの減少量は、ΔH1及びΔH2に分解できる。ΔH1は、前述のようにジュール熱による異方性磁界Hkの減少に対応する。ΔH2は、VCMA効果そのものの影響であり、電圧印加で磁性層13の垂直磁気異方性が減少したことに起因する。ΔH2の大きさは、印加電圧、磁性層13の材料、VCMA効率β等に依存する。
【0069】
図9の(A)及び(B)は、いずれも、印加電圧がゼロの場合(
図8)と比較して、有効異方性磁界が減少している。減少幅は上述のようにさまざまな要因によって決まるので、
図9の(A)及び
図9の(B)を比較しただけでは、どちらがSTTのみの場合でどちらがSTT及びVCMAの両方の場合なのかを判別することは難しい。種々の検討を行った結果、さまざまな印加電圧で同様の測定(シミュレーション等)を行い、有効異方性磁界の電圧依存性を見比べることで、両者の判別が可能であることが分かった。
図10及び
図11を参照して説明する。
【0070】
図10は、さまざまな印加電圧及び外部磁界の組合せに対する磁気抵抗素子の抵抗値を3次元的に示す図である。有効異方性磁界が、電圧Vごとに平面投影され、プロットで示される。ここでの電圧Vは、電圧V
bestで規格化されている。
図10の(A)には、STTのみの場合の抵抗値が示される。
図10の(B)には、STT及びVCMAの両方がある場合(この例ではVCMA効率β=300(fJ/Vm))の抵抗値が示される。理解されるように、
図10の(A)のようにSSTのみの場合と、
図10の(B)のようにSTT及びVCMAの両方の場合とで、電圧Vに対する有効異方性磁界の挙動が異なる。
【0071】
図11は、有効異方性磁界の電圧依存性を示す図である。有効異方性磁界と電圧Vとの相図が示される。有効異方性磁界の電圧依存性を示す線(実線)を、相図線と称する。
図11の(A)には、STTのみの場合の相図線が示される。
図11の(B)~(D)には、STT及びVCMAの両方がある場合の相図線が示される。
図11の(B)ではVCMA効率β=100(fJ/Vm)であり、
図11の(C)ではVCMA効率β=200(fJ/Vm)であり、
図11の(D)ではVCMA効率β=300(fJ/Vm)である。
【0072】
図11の(A)において、相図線と、電圧Vがゼロ(V/V
best=0.0)を示す直線(破線)との交点を、点A0及び点A1と称し図示する。点A0及び点A1において、相図線は滑らかに変化する。点A0及び点A1において、相図線は、電圧Vがゼロの直線と直交する。点A及び点A1における相図の内角θは、180度である。また、相図線において電圧Vが電圧V
best(V/V
best=1.0)となる点を、点A2及び点A3と称し図示する。相図線における点A0と点A2との間の部分は、曲線になる。同様に、相図線における点A1と点A3との間の部分は、曲線になる。
【0073】
図11の(B)において、相図線と電圧Vがゼロの線との交点を、点B0及び点B1と称し図示する。点B0及び点B1は、相図線で規定される形状の頂点を与える。点B0及び点B1において、相図線は、電圧Vがゼロの直線とは直交しない。点B0及び点B1を頂点に含む形状の内角θは、180度未満である。すなわち、相図線は、電圧Vがゼロの位置に頂点を有する形状を規定し、その頂点は、180度未満の内角を有する。また、相図線において電圧=V
bestとなる点を、点B2及び点B3と称し図示する。相図線における点B0と点B2との間の部分は、実質的に直線になる。例えば点B0や点B1を形状の頂点であると把握できるような場合は、実質的な直線に含まれ得る。同様に、相図線における点B1と点B3との間の部分は、実質的に直線になる。すなわち、有効異方性磁界の絶対値は、電圧Vがゼロから離れるにつれて実質的に直線的に減少する。
【0074】
図11の(C)及び
図11の(D)についても同様のことがいえる。
図11の(C)における点C0~点C3、及び、
図11の(D)における点D0~点D3は、
図11の(B)における点B0~点B3と同様であるので、説明は繰り返さない。
【0075】
以上のように、相図を比較することで、、STTのみの場合と、STT及びVCMAの両方の場合とを容易に判別することができる。本実施形態では、磁気抵抗素子100は、
図11の(B)~(D)に示されるような特徴を有する。
【0076】
以上で説明した磁気抵抗素子100の各構成要素の材料の例について説明する。
【0077】
磁性層11及び磁性層13には、Fe、Co、Ni、Mn、Nd、Sm、Tb等の磁性元素、若しくはそれらの合金等からなる層を用いることができる。また、上記磁性元素を積層した多層構造からなる磁性層、若しくは上記磁性元素とPt、Pd、Ir、Ru、Re、Rh、Os、Au、Ag、Cu、Re、W、Mo、Bi、V、Ta、Cr、Ti、Zn、Si、Al、Mgの少なくともいずれかを積層した多層構造からなる磁性層を用いることもできる。磁性層11および磁性層13は、非磁性層12と格子整合する結晶層、とくに一般的にはbcc(001)構造が用いられることが多いが、成膜時にはアモルファス層として形成し、その後の熱処理によって固相エピタクシープロセスを経て結晶化することも可能である。
【0078】
非磁性層12には、Mg、Al、Ti、Si、Zn、Zr、Hf、Ta、Bi、Cr、Ga、La、Gd、Sr、Baの群から選択された少なくとも1種の元素の酸化物、若しくはMg、Al、Ti、Si、Zn、Zr、Hf、Ta、Bi、Cr、Ga、La、Gd、Sr、Baの群から選択された少なくとも1種の元素の窒化物を用いる。とくに磁気抵抗素子に一般的に用いられる磁性層であるbcc構造を有するFeCo合金と格子整合性が良く、且つ高いTMR比が得られるMgO、MgAl2O4、Al2O3等を用いることがより好ましい。
【0079】
下地層及びキャプ層には、例えばCr、Ta、Ru、Au、Ag、Cu、Al、Ti、V、Mo、Zr、Hf、Re、W、Pt、Pd、Ir、Rh等の貴金属や遷移金属元素からなる層及びそれらの積層構造を用いることができる。とくに磁性層11にbct構造のCoFe合金薄膜を用いる場合、下地層の材料としてIr、Rh、Pd、Pt及びそれらを含む合金を用いることが有効である。また、下地層は下部電極層として、キャプ層は上部電極層として、用いることができる。
【0080】
以上に説明した種々の層は例えばスパッタリング法、イオンビーム堆積法、真空蒸着法に代表される物理的気相成長(PVD)法、原子層堆積(ALD)法に代表される化学的気相成長(CVD)法にて作製できる。また、これらの層のパターニングは反応性イオンエッチング(RIE)法やイオンミリング法にて行うことができる。種々の層は真空装置内で連続的に形成することが好ましく、その後パターニングを行うことが好ましい。
【0081】
2.第2実施形態
第2実施形態は、上述の磁気抵抗素子100を備える磁気デバイス、具体的には磁気メモリ(例えば半導体記憶装置)に関する。
【0082】
図12~
図14は、実施形態に係る磁気メモリの部分的な構成の例を模式的に示す図である。磁気メモリ200は、例えばアレイ配置された複数の磁気抵抗素子100を含む。このうちの1つの磁気抵抗素子100に関する部分が、模式的に図示される。
図12は、磁気メモリ200の断面図である。
図13は、磁気メモリ200の等価回路図である。
図14は、磁気メモリ200の斜視図である。
【0083】
磁気抵抗素子100の下地層及びキャップ層が、下地層10及びキャップ層34として図示される。この例では、下地層10、磁性層11、非磁性層12、磁性層13及びキャップ層34がこの順に積層された積層構造が与えられる。磁気抵抗素子100の下方には、選択用トランジスタTRが設けられる。例示される選択用トランジスタTRは、電界効果トランジスタである。
【0084】
具体的には、磁気メモリ200は、シリコン半導体基板60に形成された選択用トランジスタTR、及び、選択用トランジスタTRを覆う第1の層間絶縁層67を備える。第1の層間絶縁層67上に、第1の配線(ソース線)41が形成される。第1の配線41は、第1の層間絶縁層67に設けられた接続孔(或いは接続孔とランディングパッド部や下層配線)65を介して、選択用トランジスタTRのソース領域及びドレイン領域の一方の領域であるドレイン/ソース領域64Aに電気的に接続される。
【0085】
第2の層間絶縁層68は、第1の層間絶縁層67及び第1の配線41を覆う。第2の層間絶縁層68上に、磁気抵抗素子100及びキャップ層34を取り囲む絶縁材料層51が形成される。磁気抵抗素子100の下部は、第1の層間絶縁層67および第2の層間絶縁層68に設けられた接続孔66を介して選択用トランジスタTRのソース領域及びドレイン領域の他方の領域であるドレイン/ソース領域64Bに接続される。
【0086】
第2の配線(ビット線)42は、絶縁材料層51上に形成される。磁気抵抗素子100の上部は、キャップ層34を介して、第2の配線42に電気的に接続される。
【0087】
選択用トランジスタTRは、ゲート電極61、ゲート酸化膜62、チャネル形成領域63、並びに、上述のドレイン/ソース領域64A及びドレイン/ソース領域64Bを含む。ドレイン/ソース領域64Aと第1の配線41とは、上述したとおり、接続孔65を介して接続される。
【0088】
また、ドレイン/ソース領域64Bは、接続孔66を介して磁気抵抗素子100に接続される。ゲート電極61は、いわゆるワード線又はアドレス線としても機能する。そして、第2の配線42の延びる方向の射影像は、ゲート電極61の延びる方向の射影像と直交しており、また、第1の配線41の延びる方向の射影像と平行である。ただし、
図12では、図面の簡素化のために、ゲート電極61、第1の配線41、第2の配線42の延びる方向は、これらとは異なっている。
【0089】
磁気メモリ200の製造方法の概要を説明する。まず、周知の方法に基づき、シリコン半導体基板60に素子分離領域60Aを形成し、素子分離領域60Aによって囲まれたシリコン半導体基板60の部分に、ゲート酸化膜62、ゲート電極61、ドレイン/ソース領域64A及びドレイン/ソース領域64Bを含む選択用トランジスタTRを形成する。ドレイン/ソース領域64Aとドレイン/ソース領域64Bとの間に位置するシリコン半導体基板60の部分が、チャネル形成領域63に相当する。
【0090】
次いで、第1の層間絶縁層67を形成し、ドレイン/ソース領域64Aの上方の第1の層間絶縁層67の部分に接続孔65を形成し、更には、第1の層間絶縁層67上に第1の配線41を形成する。その後、全面に第2の層間絶縁層68を形成し、ドレイン/ソース領域64Bの上方の第1の層間絶縁層67、第2の層間絶縁層68の部分に接続孔66を形成する。こうして、第1の層間絶縁層67、第2の層間絶縁層68で覆われた選択用トランジスタTRを得ることができる。
【0091】
その後、全面に、下地層10、磁性層11、非磁性層12、磁性層13、キャップ層34を連続形成(例えば成膜)し、次いで、キャップ層34、磁性層13、非磁性層12、磁性層11、下地層10を、例えばイオンビームエッチング法(IBE法)を用いてエッチングする。下地層10は接続孔66と接している。
【0092】
次に、全面に絶縁材料層51を形成し、絶縁材料層51に平坦化処理を施すことで、絶縁材料層51の頂面をキャップ層34の頂面と同じレベルとする。その後、絶縁材料層51上に、キャップ層34と接する第2の配線42を形成する。こうして、
図12に示されるような構造を有する磁気メモリ200を得ることができる。磁気メモリ200の製造には一般のMOS製造プロセスを適用することができ、汎用メモリとして適用することが可能である。
【0093】
図15は、磁気メモリの書き込み及び読み出しのタイミングチャートの例を示す図である。書き込み及び読み出しは、例えば図示しない書き込み回路及び読み出し回路から、ソース線(第1の配線41に相当)、ビット線(第2の配線42に相当)及びワード線(ゲート電極61に相当)に電圧を印加することによって行われる。ソース線、ビット線及びワード線に印加される電圧を、電圧V
SL、電圧V
BL及び電圧V
WLと称し図示する。
【0094】
情報“0”の書き込みを行う場合には、電圧VBLをV30に等しい電圧値とする。電圧V30は、磁気抵抗素子100に電圧V3が印加されるように調整された電圧である。情報“1”の書き込みを行う場合には、電圧VSLをV40に等しい電圧値とする。電圧V40は、磁気抵抗素子100にV4が印加されるように調整された電圧である。読み出しを行う場合には、電圧VBLを、電圧Vreadに等しい電圧値とする。電圧Vreadは、磁気抵抗素子100に書き込みが行われないような電圧値とする。また、電圧Vreadをビット線(第2の配線42)に印加する代わりに、ソース線(第1の配線41)に印加してもよい。また、それぞれの動作において、電圧VWLを各々異なった電圧値としてもよい。
【0095】
以上、本発明を好ましい実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。また、実施例において説明した各種の積層構造、使用した材料等は例示であり、適宜変更することができる。
【0096】
3.効果の例
以上で説明した技術は、例えば次のように特定される。開示される技術の1つは、磁気抵抗素子100である。
図1~
図4等を参照して説明したように、磁気抵抗素子100は、磁性層11と磁性層13と、非磁性層12と、を備える。磁性層11は、第1の磁性層である。磁性層13は、層の面方向(X軸方向)に磁化されているときの磁気エネルギーE
||と層の面方向に垂直な方向(Z軸方向)に磁化されているときの磁気エネルギーE
⊥との差分に基づいて定められる垂直磁気異方性エネルギーKuが正になる垂直磁化層と、垂直磁気異方性エネルギーKuが負になる面内磁化層との間で変化する第2の磁性層である。非磁性層12は、磁性層11と非磁性層12との間に設けられる。磁性層13は、磁気抵抗素子100に電圧Vが印加されていないときは垂直磁化層であり、磁気抵抗素子100に電圧V
1が印加されると、垂直磁化層から面内磁化層に変化し、磁気抵抗素子100に電圧V
2が印加されると、垂直磁化層から面内磁化層に変化する。磁性層13の磁化M13は、磁気抵抗素子100に電圧V
3が第1の時間だけ印加された後で、層の面内に垂直な方向(Z軸方向)のうちの第1の向き(Z軸正方向)に変化し、磁気抵抗素子100に電圧V
4が第2の時間だけ印加された後で、層の面内に垂直な方向(Z軸方向)のうちの第2の向き(Z軸負方向)に変化する。電圧V
1及び電圧V
2は、互いに逆方向の第1の電圧及び第2の電圧である。電圧V
3及び電圧V
4は、互いに逆方向の第3の電圧及び第4の電圧である。
【0097】
上記の磁気抵抗素子100によれば、互いに逆方向の電圧V1や電圧V2を印加することで、磁性層13を垂直磁化層から面内磁化層に変化させることができる(VCMAに相当)。また、互いに逆方向の電圧V3や電圧V4を印加することで、磁性層13の磁化M13を変化させることができる(STTに相当)。このようにVCMA及びSTTの両方を用いることで、双極性の電圧で双方向の書き込みを行うことができる。Z軸方向にみたときの磁気抵抗素子100の形状は、特許文献1のように鏡面対称性及び回転対称性の無い形状でなくてもよい。従って、双極性電圧書き込みが可能であり且つ製造が容易な磁気抵抗素子100を提供することができる。
【0098】
図3及び
図4等を参照して説明したように、、磁性層13の垂直磁気異方性エネルギーKuは、磁気抵抗素子100に印加される電圧Vがゼロから電圧V
1に近づくにつれて線形に減少し、電圧V
1で正から負に変わり、磁気抵抗素子100に印加される電圧Vがゼロから電圧V
2に近づくにつれて線形に減少し、電圧V
2で正から負に変わってよい。例えばこのように垂直磁気異方性エネルギーKuが電圧Vに対して略Λ(ラムダ)形状に変化する特性を有する磁気抵抗素子100を用いて、双極性電圧書き込みを行うことができる。
【0099】
図4等を参照して説明したように、電圧V
1及び電圧V
3は、互いに同方向の電圧であり、電圧V
2及び電圧V
4は、互いに同方向の電圧であってよい。その場合、
図5等を参照して説明したように、電圧V
3の絶対値は、電圧V
1の絶対値の2倍以下であり、電圧V
4の絶対値は、電圧V
2の絶対値の2倍以下であってよい。このような電圧V
3や電圧V
4(例えば電圧V
best)を印加することで、少ない消費電力で磁性層13の磁化M13を変化させることができる。
【0100】
上述の電圧V3が印加される第1の時間は、100ns以下であり、電圧V4が印加される第2の時間は、100ns以下であってよい。消費電力が大きくなり過ぎないような反転時間で磁性層13の磁化M13を変化させることができる。
【0101】
図1等を参照して説明したように、磁気抵抗素子100は、積層方向(Z軸方向)にみたときに、鏡面対称形状及び回転対称形状の少なくとも一方を有してよい。例えば、磁気抵抗素子100は、積層方向(Z軸方向)にみたときに、円形形状、楕円形形状、正方形形状及び長方形形状の少なくとも1つを有してよい。例えばこのような対称形状を磁気抵抗素子100が有することで、磁気抵抗素子100を容易に製造することができる。
【0102】
図9~
図11等を参照して説明したように、磁性層13の磁化M13の向きを層の面方向(X軸方向)に実質的に一致させる外部磁界を有効異方性磁界(例えば
図9の有効異方性磁界G~有効異方性磁界I等)とすると、有効異方性磁界の絶対値は、磁気抵抗素子100に印加される電圧Vがゼロから離れるにつれて実質的に直線的に減少してよい。例えば、有効異方性磁界と印加される電圧Vとの関係を示す相図線が、印加される電圧Vがゼロの位置に頂点を有する形状を規定し、頂点は、180度未満の内角を有してよい。例えばこのような有効違法磁界の電圧依存性から、STT及びVCMAの両方を用いて情報を書き込む磁気抵抗素子100であることを特定することができる。
【0103】
図12~
図14等を参照して説明した磁気メモリ200も、開示される技術の1つである。磁気メモリ200は、複数の上記の磁気抵抗素子100を備える。これにより、双極性電圧書き込みが可能であり且つ製造が容易な磁気メモリ200を提供することができる。
【0104】
なお、本開示に記載された効果は、あくまで例示であって、開示された内容に限定されない。他の効果があってもよい。
【0105】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示の技術的範囲は、上述の実施形態そのままに限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。また、異なる実施形態及び変形例にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0106】
なお、本技術は以下のような構成も取ることができる。
(1)
第1の磁性層と、
層の面方向に磁化されているときの磁気エネルギーと層の面方向に垂直な方向に磁化されているときの磁気エネルギーとの差分に基づいて定められる垂直磁気異方性エネルギーが正になる垂直磁化層と、前記垂直磁気異方性エネルギーが負になる面内磁化層との間で変化する第2の磁性層と、
前記第1の磁性層及び前記第2の磁性層との間に設けられた非磁性層と、
を備える磁気抵抗素子であって、
前記第2の磁性層は、
前記磁気抵抗素子に電圧が印加されていないときは前記垂直磁化層であり、
前記磁気抵抗素子に第1の電圧が印加されると、前記垂直磁化層から前記面内磁化層に変化し、
前記磁気抵抗素子に第2の電圧が印加されると、前記垂直磁化層から前記面内磁化層に変化し、
前記第2の磁性層の磁化は、
前記磁気抵抗素子に第3の電圧が第1の時間だけ印加された後で、層の面内に垂直な方向のうちの第1の向きに変化し、
前記磁気抵抗素子に第4の電圧が第2の時間だけ印加された後で、層の面内に垂直な方向のうちの第2の向きに変化し、
前記第1の電圧及び前記第2の電圧は、互いに逆方向の電圧であり、
前記第3の電圧及び前記第4の電圧は、互いに逆方向の電圧である、
磁気抵抗素子。
(2)
前記第2の磁性層の前記垂直磁気異方性エネルギーは、
前記磁気抵抗素子に印加される電圧がゼロから前記第1の電圧に近づくにつれて線形に減少し、前記第1の電圧で正から負に変わり、
前記磁気抵抗素子に印加される電圧がゼロから前記第2の電圧に近づくにつれて線形に減少し、前記第2の電圧で正から負に変わる、
(1)に記載の磁気抵抗素子。
(3)
前記第1の電圧及び前記第3の電圧は、互いに同方向の電圧であり、
前記第2の電圧及び前記第4の電圧は、互いに同方向の電圧である、
(1)又は(2)に記載の磁気抵抗素子。
(4)
前記第3の電圧の絶対値は、前記第1の電圧の絶対値の2倍以下であり、
前記第4の電圧の絶対値は、前記第2の電圧の絶対値の2倍以下である、
(3)に記載の磁気抵抗素子。
(5)
前記第1の時間は、100ns以下であり、
前記第2の時間は、100ns以下である、
(1)~(4)のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
(6)
積層方向にみたときに、鏡面対称形状及び回転対称形状の少なくとも一方を有する、
(1)~(5)のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
(7)
積層方向にみたときに、円形形状、楕円形形状、正方形形状及び長方形形状の少なくとも1つを有する、
(1)~(6)のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
(8)
前記第2の磁性層の磁化の向きを層の面方向に実質的に一致させる外部磁界を有効異方性磁界とすると、
前記有効異方性磁界の絶対値は、前記磁気抵抗素子に印加される電圧がゼロから離れるにつれて実質的に直線的に減少する、
(1)~(7)のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
(9)
前記第2の磁性層の磁化の向きを層の面方向に実質的に一致させる外部磁界を有効異方性磁界とすると、
前記有効異方性磁界と前記印加される電圧との関係を示す相図線が、前記印加される電圧がゼロの位置に頂点を有する形状を規定し、
前記頂点は、180度未満の内角を有する、
(8)に記載の磁気抵抗素子。
(10)
複数の磁気抵抗素子を備え、
前記複数の磁気抵抗素子それぞれは、
第1の磁性層と、
層の面方向に磁化されているときの磁気エネルギーから積層方向に磁化されているときの磁気エネルギーを減じた垂直磁気異方性エネルギーが正になる垂直磁化層と、前記垂直磁気異方性エネルギーが負になる面内磁化層との間で変化する第2の磁性層と、
前記第1の磁性層及び前記第2の磁性層との間に設けられた非磁性層と、
を含み、
前記第2の磁性層は、
前記磁気抵抗素子に電圧が印加されていないときは前記垂直磁化層であり、
前記磁気抵抗素子に第1の電圧が印加されると、前記垂直磁化層から前記面内磁化層に変化し、
前記磁気抵抗素子に第2の電圧が印加されると、前記垂直磁化層から前記面内磁化層に変化し、
前記第2の磁性層の磁化は、
前記磁気抵抗素子に第3の電圧が印加されている間に層の面内の第1の方向に変化し、
前記磁気抵抗素子に第4の電圧が印加されている間に前記層の面内の第2の方向に変化し、
前記第1の電圧及び前記第2の電圧は、互いに逆方向の電圧であり、
前記第3の電圧及び前記第4の電圧は、互いに逆方向の電圧である、
磁気メモリ。
【符号の説明】
【0107】
10 下地層
11 磁性層(第1の磁性層、固定層)
12 非磁性層
13 磁性層(第2の磁性層、記録層)
34 キャップ層
41 第1の配線
42 第2の配線
51 絶縁材料層
60 シリコン半導体基板
61 ゲート電極
62 ゲート酸化膜
63 チャネル形成領域
64A ドレイン/ソース領域
64B ドレイン/ソース領域
65 接続孔
66 接続孔
67 第1の層間絶縁層
68 第2の層間絶縁層
100 磁気抵抗素子
200 磁気メモリ
M11 磁化
M13 磁化
TR 選択用トランジスタ