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特開2023-108258芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類の回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108258
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/50 20060101AFI20230728BHJP
   C07C 39/17 20060101ALI20230728BHJP
   C07D 493/10 20060101ALI20230728BHJP
   C08G 64/40 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
C07C37/50
C07C39/17
C07D493/10 C
C08G64/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009279
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】布目 和徳
【テーマコード(参考)】
4C071
4H006
4J029
【Fターム(参考)】
4C071AA04
4C071BB01
4C071CC14
4C071DD26
4C071EE06
4C071FF16
4C071GG03
4C071KK16
4C071LL03
4H006AA02
4H006AC91
4H006AD15
4H006BB11
4H006BB12
4H006BC10
4H006BE10
4H006FC36
4H006FE13
4J029AA09
4J029AB07
4J029AC01
4J029BA02
4J029BA03
4J029BA05
4J029BA08
4J029BA10
4J029BB04A
4J029BB05A
4J029BB12A
4J029BB12B
4J029BB13A
4J029BB13B
4J029BD03A
4J029BD09A
4J029BD10
4J029BF13
4J029BF30
4J029KG01
4J029KG03
(57)【要約】
【課題】芳香族-脂肪族共重合ポリカーボネート樹脂から、芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類を得た後、芳香族ジオール類と脂肪族ジオール類を高度に分離し、光学樹脂用原料として再利用可能な高純度で色相に優れるジオール類を効率的に回収する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】芳香族-脂肪族共重合ポリカーボネート樹脂を金属水酸化物水溶液の存在下に加水分解させて芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類を生成させ、前記加水分解により生成した芳香族ジオール類を金属水酸化物水溶液中に分配させた後、分解液をろ別し、芳香族ジオール類を含む金属水酸化物水溶液と脂肪族ジオール類を分離することを特徴とする芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類の回収方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族-脂肪族共重合ポリカーボネート樹脂を金属水酸化物水溶液の存在下に加水分解させて芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類を生成させ、前記加水分解により生成した芳香族ジオール類を金属水酸化物水溶液中に分配させた後、分解液をろ別し、芳香族ジオール類を含む金属水酸化物水溶液と脂肪族ジオール類を分離することを特徴とする芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類の回収方法。
【請求項2】
前記芳香族ジオール類が下記式(1)であり、前記脂肪族ジオール類が下記式(2)および/または下記式(3)で表される脂肪族ジオール類である請求項1に記載の芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類の回収方法。
【化1】
(式中R~Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシル基、炭素数6~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のシクロアルコキシル基、炭素数6~20のアリールオキシ基を表す。Xは単結合あるいは下記式(A)で表される単位である。)
【化2】
(式中R~R14はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシル基、炭素数6~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のシクロアルコキシル基、炭素数6~20のアリールオキシ基を表す。nは4~10の整数を表す。)
【化3】
(式中、Yは炭素数4~12のアルキレン基、炭素数5~20のシクロアルキレン基または下記式(B)で表される単位である。)
【化4】
【化5】
【請求項3】
前記式(1)が下記式(4)である請求項1または2に記載の芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類の回収方法。
【化6】
(式中R15~R20はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシル基、炭素数6~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のシクロアルコキシル基、炭素数6~20のアリールオキシ基を表す。)
【請求項4】
前記式(4)が下記式(5)である請求項3に記載の芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類の回収方法。
【化7】
【請求項5】
前記式(2)が下記式(6)である請求項2~4のいずれかに記載の芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類の回収方法。
【化8】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族-脂肪族共重合ポリカーボネートから、その原料である芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類を高品質かつ効率的に回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族-脂肪族共重合ポリカーボネート樹脂は、光学特性(透明性、屈折率特性、複屈折特性)、加工性、及び耐熱性に比較的優れていることから、近年、光学レンズや光学フィルムなどの光学樹脂材料として使用量が増加している。また、芳香族-脂肪族共重合ポリカーボネート樹脂の需要増にともない廃棄される樹脂の量も増えていることから、それらを再利用することが重要となってきた。
【0003】
ポリカーボネート樹脂を加水分解により解重合する方法としては、例えば、特許文献1には廃芳香族ポリカーボネート樹脂を有機溶媒に溶解後、金属水酸化物水溶液で分解し、得られた芳香族ジヒドロキシ化合物の金属水酸化物水溶液を回収する方法が開示されている。また、特許文献2や特許文献3にはフルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂を有機溶媒および金属水酸化物水溶液の存在下に加水分解させてビスフェノールフルオレン類を生成させ、生成したビスフェノールフルオレン類を有機溶媒中に分配させた後、有機溶媒の相と金属水酸化物水溶液の相とを分離して、ビスフェノールフルオレン類を有機溶媒の相中に回収する方法が開示されている。
【0004】
特許文献1は全芳香族ポリカーボネート樹脂から芳香族ジオール類を回収する方法であり、芳香族-脂肪族共重合ポリカーボネート樹脂から芳香族ジオール類と脂肪族ジオール類を分離し回収する方法について開示されていない。また、特許文献2および3はフルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂を加水分解後、ビスフェノールフルオレン類を有機溶媒の相中に回収する方法であり、当該方法では芳香族ジオール類と脂肪族ジオール類を分離することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-126358号公報
【特許文献2】特開2015-110555号公報
【特許文献3】特開2016-204271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、芳香族-脂肪族共重合ポリカーボネート樹脂から、芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類を得た後、芳香族ジオール類と脂肪族ジオール類を高度に分離し、光学樹脂用原料として再利用可能な高純度で色相に優れるジオール類を効率的に回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、以下の態様を有する本発明により、上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
《態様1》
芳香族-脂肪族共重合ポリカーボネート樹脂を金属水酸化物水溶液の存在下に加水分解させて芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類を生成させ、前記加水分解により生成した芳香族ジオール類を金属水酸化物水溶液中に分配させた後、分解液をろ別し、芳香族ジオール類を含む金属水酸化物水溶液と脂肪族ジオール類を分離することを特徴とする芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類の回収方法。
《態様2》
前記芳香族ジオール類が下記式(1)であり、前記脂肪族ジオール類が下記式(2)および/または下記式(3)で表される脂肪族ジオール類である態様1に記載の芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類の回収方法。
【0009】
【化1】
【0010】
(式中R~Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシル基、炭素数6~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のシクロアルコキシル基、炭素数6~20のアリールオキシ基を表す。Xは単結合あるいは下記式(A)で表される単位である。)
【0011】
【化2】
【0012】
(式中R~R14はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシル基、炭素数6~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のシクロアルコキシル基、炭素数6~20のアリールオキシ基を表す。nは4~10の整数を表す。)
【0013】
【化3】
【0014】
(式中、Yは炭素数4~12のアルキレン基、炭素数5~20のシクロアルキレン基または下記式(B)で表される単位である。)
【0015】
【化4】
【0016】
【化5】
【0017】
《態様3》
前記式(1)が下記式(4)である態様1または2に記載の芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類の回収方法。
【0018】
【化6】
【0019】
(式中R15~R20はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシル基、炭素数6~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のシクロアルコキシル基、炭素数6~20のアリールオキシ基を表す。)
【0020】
《態様4》
前記式(4)が下記式(5)である態様3に記載の芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類の回収方法。
【0021】
【化7】
【0022】
《態様5》
前記式(2)が下記式(6)である態様2~4のいずれかに記載の芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類の回収方法。
【0023】
【化8】
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、芳香族-脂肪族共重合ポリカーボネートから、その原料である芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類を高品質かつ効率的に回収する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0026】
本発明において、芳香族-脂肪族共重合ポリカーボネート樹脂とは、芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類を構成原料とし、界面重合法や溶融重合法等公知の方法で製造されたものであり、末端封止剤や安定剤などの添加剤を含んでいても良く、最広義に解釈されるものである。なお、本発明における脂肪族ジオール類は、脂肪族ジオール類に加えて脂環式ジオール類も含む広義の意味で使用される。
【0027】
本発明において、解重合の対象となるポリカーボネート樹脂としては、ポリカーボネート樹脂単独あるいは本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を含む樹脂、例えばポリエステルカーボネート類;他の成分と組み合わせた樹脂組成物、例えばポリカーボネートとポリエステル類の混合物などであっても良い。その形状はパウダー、ペレット、シート、フィルム、成型品等に限定されるものではなく、廃棄されたレンズ、シートや製造時および/または成型加工時に発生する不良品、バリなどの製造廃棄物等、すなわちポリカーボネート樹脂を使用した製品の廃棄物から回収された固形物、それらの粉砕物なども使用される。
【0028】
本発明において、共重合ポリカーボネート樹脂の構成原料であり、本発明の方法により回収される芳香族ジオール類として例えば、9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(アルキルヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(シクロアルキルヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(アリールヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(アルコキシヒドロキシフェニル)フルオレン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4′-ジヒドロキシジフェニル、1,4-ジヒドロキシナフタレン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチル)フェニル}メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチル)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2 -ビス{(3-イソプロピル-4-ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(4 -ヒドロキシ-3-フェニル)フェニル}プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2- ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルブタン、2,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、α,α′-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-o-ジイソプロピルベンゼン、α,α′-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン、α,α′-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、1,3 -ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4′-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4′-ジヒドロキシジフェニルエーテルおよび4,4′-ジヒドロキシジフェニルエステルが挙げられ、9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(アルキルヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(シクロアルキルヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(アリールヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(アルコキシヒドロキシフェニル)フルオレンが好ましく、9,9-ビス(アルキルヒドロキシフェニル)フルオレンがより好ましく、上記式(5)で表される9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(以下、ビスクレゾールフルオレンと省略することがある)が特に好ましい。
【0029】
本発明において、共重合ポリカーボネート樹脂の構成原料であり、本発明の方法により回収される脂肪族ジオール類として例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール、ノルボルナンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、デカリン- 2 , 6 - ジメタノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、スピログリコール、イソソルビドが挙げられ、上記式(6)で表されるスピログリコールが特に好ましい。
前記芳香族ジオール類として、下記式(1)が好ましい。
【0030】
【化9】
【0031】
上記式(1)において、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシル基、炭素数6~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のシクロアルコキシル基、炭素数6~20のアリールオキシ基であり、水素原子または炭素数1~20のアルキル基が好ましく、水素原子または炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、水素原子またはメチル基がさらに好ましい。
【0032】
上記式(1)において、Xは単結合あるいは下記式(A)で表される単位であり、下記式(A)中のR~R14はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシル基、炭素数6~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のシクロアルコキシル基、炭素数6~20のアリールオキシ基であり、水素原子または炭素数1~20のアルキル基が好ましい。nは4~10の整数を表し、5~7の整数が好ましい。
【0033】
【化10】
【0034】
また、前記式(1)の中でも下記式(4)の芳香族ジオールであることがより好ましい。
【0035】
【化11】
【0036】
上記式(4)において、R15~R20はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシル基、炭素数6~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のシクロアルコキシル基、炭素数6~20のアリールオキシ基であり、水素原子または炭素数1~20のアルキル基が好ましく、水素原子または炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、水素原子またはメチル基がさらに好ましい。
さらに、前記式(4)の中でも下記式(5)の芳香族ジオールであることが特に好ましい。
【0037】
【化12】
【0038】
前記脂肪族ジオール類として、下記式(2)および/または下記式(3)で表される脂肪族ジオール類であることが好ましい。
【0039】
【化13】
【0040】
【化14】
【0041】
【化15】
【0042】
上記式(2)において、Yは炭素数4~12のアルキレン基または炭素数5~20のシクロアルキレン基または上記式(B)で表される単位であり、上記式(B)で表される単位が好ましい。
すなわち、前記式(2)は下記式(6)であることが特に好ましい。
【0043】
【化16】
【0044】
本発明において、使用される共重合ポリカーボネート樹脂は、例えば上記式(1)で表されるような芳香族ジオール類および上記式(2)で表されるような脂肪族ジオール類を主成分とするが、その他のジオール成分を構成原料として含むことができる。他のジオール成分は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0045】
本発明は、芳香族-脂肪族共重合ポリカーボネート樹脂を金属水酸化物水溶液の存在下に加水分解反応を行う。使用する金属水酸化物としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物が好適に用いられ、アルカリ金属の水酸化物がより好ましい。より具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどが用いられ、好ましくは水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであり、特に水酸化ナトリウムが好ましい。これらの金属水酸化物はいずれか1種もしくは2種以上の混合物として使用することが出来る。
【0046】
金属水酸化物の使用量は、共重合ポリカーボネート樹脂のカーボネート結合1モルに対し2.0~8.0モルが好ましく、3.2~7.5モルがより好ましく、3.6~7.0モルがより好ましく、4.1~6.5モルがさらに好ましい。金属水酸化物の使用量が下限以上の場合、分解反応が十分に行われるため好ましい。また、金属水酸化物の使用量をより多くするにつれて、分解反応時間が早く、さらに、生成する芳香族ジオール類を効率よく回収(金属水酸化物水溶液側に分配)できるため好ましい。金属水酸化物の使用量が上限以下であれば、コストを抑制でき、かつ、洗浄精製に要する水や酸の量も多くならないので、経済的に有利となる。
【0047】
金属水酸化物は水溶液の状態で使用し、その濃度は、10重量%~55重量%が好ましく、20重量%~50重量%がより好ましい。金属水酸化物の濃度が下限以上である場合は、ポリカーボネート樹脂の分解速度は遅くなく、金属水酸化物の濃度が上限以下の場合は、アルカリ金属水酸化物が析出することによって上記金属水酸化物水溶液がスラリーになるということが起こりにくいため好ましい。上記金属水酸化物水溶液がスラリーになった場合には、かえってポリカーボネート樹脂の分解反応の速度が低下する。また、金属水酸化物の濃度が上限以下の場合には、着色や不純物の生成が起こりにくく、回収されたジオール類の品質に優れるため好ましい。
【0048】
加水分解反応を行う温度は特に限定されるわけではないが、120℃以下が好ましく、10℃~110℃がより好ましく、30℃~100℃がさらに好ましい。上記温度が、120℃以下の場合、分解処理中に反応液が褐色に着色されることが起こりにくくなるため好ましい。上記反応液が着色される場合には、その影響でジオール類の色相が悪化したり、純度が低下したりする傾向にあるため、品質の良いジオール類が回収できなくなる場合がある。また、上記温度が低すぎる場合には、分解反応時間が長くなり、処理効率が著しく劣ることがある。
【0049】
本発明の分解反応において、ポリカーボネート樹脂を溶解させる有機溶媒を使用することが好ましい。有機溶媒を使用すると分解反応が低温で進み易く好ましい。有機溶媒の使用量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し40~2000重量部の範囲が好ましく、200~1500重量部がより好ましく、500~1200重量部が特に好ましい。有機溶媒の使用量が下限以上の場合には、ポリカーボネート樹脂を十分に溶解させ、不溶部の量を減少させ、収量を増加することができるため好ましい。有機溶媒の使用量が上限以下の場合には、分解反応時の分解速度を低下させることを抑制し、分解反応時間を短くすることができ、また溶媒の回収コストを抑制することもできるため好ましい。
【0050】
有機溶媒は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、トルエン、キシレン、メシチレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、シクロデカン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどが挙げられ、ジクロロメタン、トルエンが好ましい。これらの有機溶媒は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
本発明の加水分解反応において、分解反応中に生成した芳香族ジオール類は、塩基性条件下では酸化されやすいため、反応溶液中に酸化防止剤を添加することが好ましい。また、工程内の酸素濃度を不活性ガスにより、低減しておくことも有効である。
【0052】
上記酸化防止剤として、重亜硫酸ナトリウム(Na)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、ハイドロサルファイトナトリウム(Na)等が挙げられる。これらを1種または2種以上混合して用いても差し支えない。酸化防止剤の使用量はポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0.05~4.0重量部が好ましい。0.05~4.0重量部の範囲であると酸化防止効果があり、コスト的に有利で、分解反応速度が低下せず好ましい。
【0053】
不活性ガスの種類として、窒素、アルゴン等が挙げられる。窒素がコスト的に有利であり好ましい。
【0054】
本発明において、ポリカーボネート樹脂の加水分解反応後は、芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類が生成しているため、それぞれを単離する必要がある。本発明では、分解反応後に有機溶媒を留去または冷却することで、芳香族ジオール類を金属水酸化物水溶液に分配(溶解)させ、脂肪族ジオール類は析出させた後、ろ過することで芳香族ジオール類と脂肪族ジオール類を高度かつ容易に分離することができる。例えば、ジクロロメタンのように低沸点の有機溶媒を使用する場合、有機溶媒を留去すると好ましい。また、トルエンのように比較的高沸点でジオール類の溶解度が低い有機溶媒を使用する場合、有機溶媒を冷却すると好ましい。
【0055】
金属水酸化物水溶液に分配(溶解)させた芳香族ジオール類は、そのまま重合反応に使用しても良い。また、芳香族ジオール類を含む金属水酸化物水溶液を中和または酸処理し芳香族ジオール類をろ別回収した後、重合反応に使用しても良い。
【0056】
芳香族ジオール類を含む金属水酸化物水溶液を中和または酸処理する方法としては、蒸留水や酸水溶液を加える方法が好ましい。この際、水相の最終pHは4~10にするのが好ましく、pH6~8にするのがより好ましい。
【0057】
上記方法により、芳香族ジオール類がスラリーとして得られ、このスラリーをろ過することにより、芳香族ジオール類を得ることができる。
【0058】
使用する酸水溶液の酸の種類は特に限定はないが、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸が好ましく用いられる。
【0059】
本発明において、回収した芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類は、必要に応じて分液水洗、活性炭処理、再結晶等の精製処理をしても良い。
【0060】
かくして回収された芳香族ジオール類および脂肪族ジオール類の結晶は、高純度で色相に優れ、光学樹脂用ポリカーボネート原料として好適に使用される。
【0061】
本発明において、回収された芳香族ジオール類の純度は95%以上であると好ましく、97%以上であるとより好ましく、99%以上であるとさらに好ましい。
【0062】
また、本発明において、回収された脂肪族ジオール類の純度は95%以上であると好ましく、97%以上であるとより好ましく、99%以上であるとさらに好ましい。
【実施例0063】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。以下、ポリカーボネート樹脂、ジオール類について測定した各測定値は以下のように行った。
【0064】
(1)ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量
粘度平均分子量は塩化メチレン100mLにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解し20℃の溶液で測定した。求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めた。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-40.83
c=0.7
【0065】
(2)ポリカーボネート樹脂の組成比(NMR)
日本電子社製JNM-AL400のプロトンNMRにて測定し、ポリマー組成比を算出した。
【0066】
(3)ガスクロマトグラフ測定(GC/MS)
アジレント・テクノロジー製シングル四重極GC/MS 5977Bを用い、下記測定条件で純度を測定した。実施例中、特に断らない限り%はGC/MSにおける溶媒を除いて補正した面積百分率値である。
(GC)
カラム:DB-1(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)
注入量:1μl
注入法:スプリット比40:1
注入口温度:280℃
オーブン:60℃-10℃/分-280℃(28分)
キャリアガス:He、線速度 36.6cm/s
(MS)
イオン源温度:230℃
イオン化モード:EI 70eV
測定範囲:m/z 33-700
【0067】
(4)融点
TA Instruments製Discovery DSC25を用い、窒素フロー下、昇温速度:20℃/minで測定し、ピーク温度を融点とした。
【0068】
[合成例1]
国際公開第2008/156186号の実施例5に記載の方法で、芳香族-脂肪族共重合ポリカーボネート樹脂を得た。当該ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は19,200、共重合組成はビスクレゾールフルオレンからなる繰り返し単位34モル%、スピログリコールからなる繰り返し単位66モル%だった。
【0069】
[実施例1]
窒素雰囲気下、撹拌機、冷却器、温度計を備え付けたフラスコに合成例1で得られたポリカーボネート樹脂20g、塩化メチレン237gを仕込み、30℃で撹拌しポリカーボネート樹脂の溶解を確認した後、40%NaOH水溶液34.73gを加え40℃で24時間反応させた。反応後、蒸留水を100ml加え希釈した後、徐々に昇温し塩化メチレンをすべて留去させた。残りの反応液をろ過し、白色結晶S1とNaOH水溶液に分けた。得られた白色結晶S1は蒸留水で洗浄後、真空乾燥した。また、NaOH水溶液に20%塩酸を46ml滴下し中性にすると析出物が生じた。析出物をろ過回収した後、酢酸エチル300mlに溶解し分液水洗を5回実施した。分液水洗後の有機相を濃縮した後、トルエンで再結晶し、得られた白色結晶B1を真空乾燥した。
【0070】
GCMS分析の結果、白色結晶S1はスピログリコールであり、純度97.4%、収量11.4g、収率98%だった。また、白色結晶B1はビスクレゾールフルオレンであり、純度99.5%、融点220℃、収量5.3g、収率71%だった。
【0071】
[実施例2]
窒素雰囲気下、撹拌機、冷却器、温度計を備え付けたフラスコに合成例1で得られたポリカーボネート樹脂20g、トルエン120g、40%NaOH水溶液34.73gを加え90℃で6時間反応させた。反応後、蒸留水を100ml加え希釈した後、撹拌しながら20℃まで冷却し、1時間撹拌した。反応液をろ過し、白色結晶S2とNaOH水溶液に分けた。得られた白色結晶S2は蒸留水で洗浄後、真空乾燥した。また、NaOH水溶液に20%塩酸を63ml滴下し中性にすると析出物が生じた。析出物をろ過回収した後、酢酸エチル500mlに溶解し分液水洗を5回実施した。分液水洗後の有機相を濃縮した後、トルエンで再結晶し、得られた白色結晶B2を真空乾燥した。
【0072】
GCMS分析の結果、白色結晶S2はスピログリコールであり、純度99.5%、収量10.3g、収率89%だった。また、白色結晶B2はビスクレゾールフルオレンであり、純度99.7%、融点220℃、収量5.8g、収率78%だった。
【0073】
[比較例1]
特許第5721300号公報(特開2015-110555号公報)の実施例7の方法を参考に、窒素雰囲気下、撹拌機、冷却器、温度計を備え付けたフラスコに合成例1で得られたポリカーボネート樹脂10g、48%NaOH水溶液7.8g、トルエン90gを仕込み、90℃で4時間反応させた。この時の反応液を分析すると高分子量体が13%残存しており、分解不十分であった。高分子量体が消失するまで合計16時間反応後、反応液をろ過し、トルエン相をGCMS分析したところ、スピログリコールを50%、ビスクレゾールフルオレンを50%含んでおり、スピログリコールとビスクレゾールフルオレンの分離が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の製造方法は、芳香族-脂肪族共重合ポリカーボネート樹脂を原材料まで分解し、再度、製造に利用することが可能であり、産業上有用なリサイクル方法である。