(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108295
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】エレベータ運行システム
(51)【国際特許分類】
B66B 1/18 20060101AFI20230728BHJP
B66B 5/00 20060101ALI20230728BHJP
B66B 9/02 20060101ALI20230728BHJP
B66B 11/02 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
B66B1/18 F
B66B5/00 A
B66B9/02 Z
B66B11/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009344
(22)【出願日】2022-01-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】宮川 行宏
【テーマコード(参考)】
3F301
3F304
3F306
3F502
【Fターム(参考)】
3F301BD06
3F301CA15
3F301DC07
3F301DC08
3F304CA11
3F304EB11
3F306AA02
3F306AA11
3F306CB06
3F306CB60
3F502HA02
3F502HB15
3F502HB16
3F502JA43
3F502JA44
3F502JA91
(57)【要約】
【課題】乗りかごが横移動の動作につき異常となった場合でも、点検及び修理のために乗りかごにアクセスしやすくする。
【解決手段】横駆動装置32を備えた乗りかご3と、前記乗りかご3を着脱可能であり、前記乗りかご3の横移動をガイドする第1横軌道41を備える昇降駆動装置4と、前記乗りかご3の横移動をガイドする第2横軌道51を備える非昇降支持体5と、群管理サーバーと、を備え、複数の前記乗りかご3,3のうち1台である救助乗りかご3Aは、前記非昇降支持体5にて、横移動の動作につき異常となった他の1台である故障乗りかご3Bに対して、自己の発する推力により、前記故障乗りかご3Bを前記昇降駆動装置4に装着されるまで牽引または後押しを行うための結合が可能であり、前記群管理サーバーは、前記牽引または後押しに関与する2台の前記乗りかご3A,3Bの運行を制御する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの設置対象である構造物に対して横移動できる横駆動装置の少なくとも一部を備えた乗りかごと、
前記乗りかごに対して着脱可能であり、前記乗りかごの前記横移動をガイドする第1横軌道を備え、かつ、前記構造物に対して昇降することで装着した前記乗りかごを昇降させる昇降駆動装置と、
前記構造物に対して昇降しないように設けられ、前記乗りかごの前記横移動をガイドする、前記第1横軌道に連続した位置関係となりえる第2横軌道を備える非昇降支持体と、
前記乗りかご及び前記昇降駆動装置の運行を管理する群管理サーバーと、を備え、
前記構造物にて複数の前記乗りかごが運行され、
複数の前記乗りかごのうち1台である救助乗りかごは、前記非昇降支持体にて、前記横移動の動作につき異常となった他の1台である故障乗りかごに対して、自己の発する推力により、前記故障乗りかごを前記昇降駆動装置に装着されるまで牽引または後押しを行うための結合が可能であり、
前記群管理サーバーは、前記牽引または後押しに関与する2台の前記乗りかごの運行を制御する、エレベータ運行システム。
【請求項2】
複数の前記乗りかごの各々は、他の乗りかごに対向する部分に乗りかご同士の当接時の衝撃を緩和する緩衝部を備える、請求項1に記載のエレベータ運行システム。
【請求項3】
複数の前記乗りかごの各々は、前記結合をなす結合装置を備え、
前記結合装置は、係合または吸着により結合及び結合解除が可能な結合体及び被結合体の組み合わせで前記結合が可能であり、
複数の前記乗りかごの各々で、前記救助乗りかごになる分と前記故障乗りかごになる分とにわたって前記組み合わせが設けられている、請求項1または2に記載のエレベータ運行システム。
【請求項4】
複数の前記乗りかごの各々は、各々における前記横駆動装置を制御する横駆動用マイコンを備え、
複数の前記乗りかごのいずれかが備える前記横駆動用マイコンが、前記横駆動装置の前記横移動の動作に関する異常を検出した場合、異常発生信号を前記群管理サーバーに送信し、
前記異常発生信号を受信した前記群管理サーバーは、前記異常が検出された前記故障乗りかごが前記非昇降支持体に位置していて昇降できない状態の場合、前記横駆動装置に異常がなく、かつ、空きかご状態である前記乗りかごを選択し、当該乗りかごを前記救助乗りかごとして、前記故障乗りかごに対する結合をなすように、前記救助乗りかごが備える前記横駆動用マイコンに対する制御を行う、請求項1~3のいずれかに記載のエレベータ運行システム。
【請求項5】
前記群管理サーバーは、前記救助乗りかごが前記故障乗りかごと結合して、前記乗りかごへの乗降のために前記構造物に設けられた乗場まで前記牽引または後押しを行うことにより、前記故障乗りかごが乗場に到着できる状態で前記昇降駆動装置への装着がなされたら、前記牽引または後押しを終了して前記結合を解除し、前記救助乗りかごを通常の運行に復帰させるよう、前記救助乗りかごが備える前記横駆動用マイコンを制御する、請求項4に記載のエレベータ運行システム。
【請求項6】
前記救助乗りかごによる前記故障乗りかごの前記牽引または後押しは、前記故障乗りかごが備える前記横駆動装置の出力異常、または、前記横駆動装置への駆動電源の供給不足の場合に限ってなされる、請求項1~5のいずれかに記載のエレベータ運行システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、故障により乗りかごの運行に支障が出た場合に対応したエレベータ運行システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、乗りかごと、乗りかごを昇降させるための装置(昇降駆動装置)とが分離・結合するエレベータが提案されている(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、離れた関係で並行する昇降路間で乗りかごを横移動させることのできる構成が開示されている。乗りかごは横移動が可能であって、一方の昇降路に位置する昇降駆動装置から、両昇降路を連結する横軌道を備える支持体(特許文献1における「構造物」)を介して、他方の昇降路に位置する昇降駆動装置に移動させることができる。
【0004】
乗りかごは横移動するための横駆動装置を備える。ここで、乗りかごが昇降路外であって支持体に位置する場合に横駆動装置が故障した等、横移動の動作につき異常となった場合、乗りかごは支持体の途中位置で立ち往生してしまう。このような場合、支持体に乗場が設けられていなかった場合、乗りかご内の利用者を救助する作業者が乗りかごにアクセスすることは困難であった。更に、横駆動装置の故障が、乗りかごを自走させられないレベルであった場合、支持体の横軌道に沿わせて、乗りかごを昇降路まで人力やウインチを使用して移動させなければならず、利用者の救助、及び、横駆動装置の修理完了までに大きな手間がかかる。特に、故障した乗りかごに利用者が搭乗していた場合には、利用者に不安を感じさせながら、救助まで長時間待たせることになる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-121021号公報(
図7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって本発明は、乗りかごが横移動の動作につき異常となった場合でも、点検及び修理のために乗りかごにアクセスしやすいエレベータ運行システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エレベータの設置対象である構造物に対して横移動できる横駆動装置の少なくとも一部を備えた乗りかごと、前記乗りかごに対して着脱可能であり、前記乗りかごの前記横移動をガイドする第1横軌道を備え、かつ、前記構造物に対して昇降することで装着した前記乗りかごを昇降させる昇降駆動装置と、前記構造物に対して昇降しないように設けられ、前記乗りかごの前記横移動をガイドする、前記第1横軌道に連続した位置関係となりえる第2横軌道を備える非昇降支持体と、前記乗りかご及び前記昇降駆動装置の運行を管理する群管理サーバーと、を備え、前記構造物にて複数の前記乗りかごが運行され、複数の前記乗りかごのうち1台である救助乗りかごは、前記非昇降支持体にて、前記横移動の動作につき異常となった他の1台である故障乗りかごに対して、自己の発する推力により、前記故障乗りかごを前記昇降駆動装置に装着されるまで牽引または後押しを行うための結合が可能であり、前記群管理サーバーは、前記牽引または後押しに関与する2台の前記乗りかごの運行を制御する、エレベータ運行システムである。
【0008】
この構成では、群管理サーバーの制御により、複数の乗りかごのうち1台を救助乗りかごとして、当該救助乗りかごを故障乗りかごに対して結合して牽引または後押しを行うことで、故障乗りかごを昇降駆動装置に装着させ、故障乗りかごを点検及び修理が可能な位置まで移動させることができる。
【0009】
また、複数の前記乗りかごの各々は、他の乗りかごに対向する部分に乗りかご同士の当接時の衝撃を緩和する緩衝部を備えるものとできる。
【0010】
この構成では、緩衝部により、救助乗りかごを故障乗りかごに対して結合する際の衝撃を緩和し、衝突に伴うダメージを両乗りかごに生じないようにできる。
【0011】
また、複数の前記乗りかごの各々は、前記結合をなす結合装置を備え、前記結合装置は、係合または吸着により結合及び結合解除が可能な結合体及び被結合体の組み合わせで前記結合が可能であり、複数の前記乗りかごの各々で、前記救助乗りかごになる分と前記故障乗りかごになる分とにわたって前記組み合わせが設けられているものとできる。
【0012】
この構成では、複数の乗りかごのうち救助乗りかごになる分と故障乗りかごになる分とにわたって、結合体及び被結合体の組み合わせが設けられたことで、両乗りかごの結合を確実にできる。
【0013】
また、複数の前記乗りかごの各々は、各々における前記横駆動装置を制御する横駆動用マイコンを備え、複数の前記乗りかごのいずれかが備える前記横駆動用マイコンが、前記横駆動装置の前記横移動の動作に関する異常を検出した場合、異常発生信号を前記群管理サーバーに送信し、前記異常発生信号を受信した前記群管理サーバーは、前記異常が検出された前記故障乗りかごが前記非昇降支持体に位置していて昇降できない状態の場合、前記横駆動装置に異常がなく、かつ、空きかご状態である前記乗りかごを選択し、当該乗りかごを前記救助乗りかごとして、前記故障乗りかごに対する結合をなすように、前記救助乗りかごが備える前記横駆動用マイコンに対する制御を行うものとできる。
【0014】
この構成では、横駆動用マイコンと群管理サーバーとが連携することで、複数の乗りかごのうち適切な1台を救助乗りかごとして故障乗りかごに向かわせることができる。
【0015】
また、前記群管理サーバーは、前記救助乗りかごが前記故障乗りかごと結合して、前記乗りかごへの乗降のために前記構造物に設けられた乗場まで前記牽引または後押しを行うことにより、前記故障乗りかごが乗場に到着できる状態で前記昇降駆動装置への装着がなされたら、前記牽引または後押しを終了して前記結合を解除し、前記救助乗りかごを通常の運行に復帰させるよう、前記救助乗りかごが備える前記横駆動用マイコンを制御するものとできる。
【0016】
この構成では、故障乗りかごの救助を終えた救助乗りかごを、速やかに通常の運行に復帰させることができる。
【0017】
また、前記救助乗りかごによる前記故障乗りかごの前記牽引または後押しは、前記故障乗りかごが備える前記横駆動装置の出力異常、または、前記横駆動装置への駆動電源の供給不足の場合に限ってなされるものとできる。
【0018】
この構成では、牽引または後押しを行うことでかえって故障を悪化させる可能性の低い場合に限って、救助乗りかごを用いた故障乗りかごの救助を実施できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、救助乗りかごの牽引または後押しによって、故障乗りかごを昇降駆動装置に装着させ、故障乗りかごを点検及び修理が可能な位置まで移動させることができる。よって、乗りかごが横移動の動作につき異常となった場合でも、点検及び修理のために乗りかごにアクセスしやすい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るエレベータにて、乗りかごと昇降駆動装置とが一体とされた状態を示す、斜視での模式図である。
【
図2】
図2は、前記エレベータにて、単体の昇降駆動装置を示す、斜視での模式図である。
【
図3】
図3は、前記エレベータにて、単体の乗りかごを示す、斜視での模式図である。
【
図4】
図4は、前記エレベータにて、故障乗りかごが救助乗りかごに後押しされて、一方の昇降駆動装置から非昇降支持体を介して他方の昇降駆動装置に移動する様子を示す、斜視での模式図である。
【
図5】
図5(A)~(C)は、結合装置の構成の一例を示す、斜視での模式図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係るエレベータ運行システムの構成ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、
図1~
図6を示しつつ説明する。本実施形態は、1台以上の乗りかご3と各乗りかご3を移動させる昇降駆動装置4とが分離・結合する昇降分離型エレベータ(以下、エレベータ1)に適用されるエレベータ運行システム6である。乗りかご3自体は昇降機能を有していない。
【0022】
本実施形態の適用対象であるエレベータ1は、移動路2として、建物等の構造物内を複数の階床(フロア)にわたって上下方向に延びる昇降路2Aと、構造物における所定階において、昇降路2Aに隣接して水平方向(横方向)に延びる横移動路2Bと、昇降路2A及び横移動路2Bを自在に移動する乗りかご3と、昇降路2Aを上下方向に移動する昇降駆動装置4と、を備える。本実施形態では、2本の昇降路2A,2Aが離れて設けられており、昇降路2A,2A間が1本の横移動路2Bで連結されている。この構造物では、複数(図示では2台)の前記乗りかご3,3が運行される。乗りかご3は、昇降路2A内を昇降して建物の各階に設けられる乗場に停止可能である。乗場には後述する乗場マイコン62が設けられている。乗場操作盤は通常時に利用者が乗りかご3を呼び出す際に操作(例えばボタン操作)される。
【0023】
本実施形態に係るエレベータ1の物理的な構成は、本願の発明者の先願に係る特許文献1に記載された構成と共通している。以下にこの物理的な構成を説明する。
図1は、昇降駆動装置4に対して乗りかご3を結合させた状態を示している。昇降駆動装置4は、
図2に示すように、昇降路2Aの内部に設けられたガイドレール21に沿っていて、吊ロープ22により昇降可能に構成されている。昇降駆動装置4は、乗りかご3に対して着脱可能である。昇降駆動装置4は、構造物に対して昇降することで装着した乗りかご3を昇降させる。ここで、従来のトラクション式エレベータにおいては、吊ロープに連結した乗りかごそのものを昇降させていた。本実施形態では、従来の乗りかご部分を昇降駆動装置4に置き換え、さらに昇降駆動装置4の正面側垂直面に水平方向に延びる溝状の第1横軌道41を設けた構成とすることで、乗りかご3が第1横軌道41に沿って水平移動(横移動)できるように構成されている。第1横軌道41は乗りかご3の横移動をガイドする。なお、本実施形態の構成はトラクション式であるが、その他の駆動方式でも実施可能である。
【0024】
横移動路2Bは非昇降支持体5を備える。非昇降支持体5は、構造物に対して昇降しないように、少なくとも通常時は固定的に設けられている。昇降駆動装置4と同様に、非昇降支持体5の正面側垂直面に水平方向に延びる溝状の第2横軌道51が設けられている。第2横軌道51は、第1横軌道41と同じ構成であって、乗りかご3の横移動をガイドする。第2横軌道51は、昇降駆動装置4における第1横軌道41に連続した位置関係(
図4に示す横並びの関係)となりえるように構成されている。このため
図4に示すように、水平方向に並んだ2台の昇降駆動装置4,4間で、非昇降支持体5を経由して乗りかご3を移動させられる。
【0025】
図3は、本実施形態の乗りかご3を正面側から示したものである。乗りかご3は、利用者が搭乗する乗りかご本体31、及び、乗りかご本体31の背面に、水平方向に延びるように突出しており、昇降駆動装置4の第1横軌道41を走行するための横駆動装置32を備える。
【0026】
乗りかご本体31は、開閉により内外を連通させるかごドア33を備える。本実施形態のかごドア33は、開閉単位(一枚のドア、または、開閉の際の移動方向が同じ複数枚のドアから構成される単位)が対称に一対(二つ)設けられた両開きとされている。なお、図示していないが乗場ドアも同様の形態とされている。また、乗りかご3の外部(横駆動装置32を含む)の保守を乗りかご3の内部から行うことができるように、保守用開閉口(ハッチ)を乗りかご本体31に設けてもよい。
【0027】
複数の前記乗りかご3,3の各々は、他の乗りかご3に対向する部分に乗りかご3,3同士の当接時の衝撃を緩和する緩衝部34を備える。本実施形態の緩衝部34は横駆動装置32の長手方向(横方向)端部に設けられている。この緩衝部34により、後述する救助乗りかご3Aを故障乗りかご3Bに対して結合する際の衝撃を緩和し、衝突に伴うダメージを両乗りかごに生じないようにできる。ここで、本実施形態では乗りかご3が、昇降路2A、横移動路2Bを越えて上下左右に移動するため、万が一、他の乗りかご3が衝突した場合の衝撃を緩和するためにも、この緩衝部34は機能する。緩衝部34は、本実施形態では横駆動装置32に設けられているが、これに限られない。例えば、乗りかご本体31に直接固定することもできるし、昇降駆動装置4に移動可能に設けられていて、乗りかご本体31を囲むように位置する(乗りかご本体31には直接固定しない)ようにすることもできる。緩衝部34は、後述の結合装置35と同じ位置に設けることもできるし、他の位置に設けることもできる。ただし、乗りかご3,3同士が接近した際に、最初に当接する位置(つまり、横方向に最も突出した位置)に設けておく必要がある。
【0028】
図4は、乗りかご3(ただし、図示された状態は救助時であって、救助乗りかご3A、故障乗りかご3Bの両方が示されている)が非昇降支持体5を経由して移動している途中状態を示している。乗りかご3を横移動させるための横駆動装置32の構成要素(駆動源、調速手段、駆動力出力手段)は、乗りかご3が全部を有していてもよいし、一部を有していてもよい。前者の例では、横駆動装置32に回転モータと、これにより駆動される車輪等の回転体を備えた構造により、横駆動装置32と第1横軌道41または第2横軌道51とが相対的に水平移動する。後者の例では、横駆動装置32と第1横軌道41または第2横軌道51とに亘って、前記駆動手段としてのリニアモータが形成されたことにより、横駆動装置32と第1横軌道41または第2横軌道51とが相対的に水平移動する。また、駆動手段に対する電源供給は、乗りかご3、昇降駆動装置4のいずれかの側に備えた蓄電装置から供給してもよいし、外部電源から供給してもよい。乗りかご3の各々は、各々における横駆動装置を制御する横駆動用マイコン65を備える。
【0029】
本実施形態のエレベータ運行システム6は、
図6に示すように、乗りかご3及び昇降駆動装置4の運行を管理する群管理サーバー61と、群管理サーバー61の管理下にある乗場マイコン62、昇降駆動装置マイコン63、乗りかご制御マイコン64を備える。本実施形態では、前記横駆動用マイコン65は乗りかご制御マイコン64に含まれている。乗場マイコン62は、乗場ごとに設けられ、人により操作される入力部である乗場操作盤621(不図示)を備え、操作内容を群管理サーバー61に伝達する。群管理サーバー61は、利用者の乗場操作盤621の操作に応じ、適切な乗りかご3に乗場呼を割り当てて、利用者のいる乗場まで移動させる。また、乗場操作盤621は、点検等の保守作業を行う作業者によって操作される。特に本実施形態の乗場操作盤621は、故障乗りかご3Bを点検及び修理が可能な位置(作業者のいる乗場)に呼び出す際に用いられる。昇降駆動装置マイコン63は、昇降駆動装置4に設けられており、昇降路2A内の現在位置や、乗りかご3の着脱状態を群管理サーバー61に伝達する。乗りかご制御マイコン64は乗りかご3に設けられており、かご内に設けられている操作盤の操作内容を群管理サーバー61に伝達したり、かご内の照明、ディスプレイ装置、ファン等を制御したりする。
【0030】
群管理サーバー61は、乗りかご3が使用状態(例えば利用者の搭乗状態)であるか、かご内の空間に少なくとも利用者が誰もいない空きかご状態であるかを認識可能である。この認識のため、各乗りかご3には、センサやカメラ等を有していて、かご内部の状況を検知できる空きかご検知手段が設けられており、この空きかご検知手段の検知結果を受けて、群管理サーバー61は前記認識を行う。空きかご検知手段は、前記の他、かご内の操作盤が所定時間操作されない状態であること(利用者が乗っていれば、通常は操作盤の操作がなされるため)をもって空きかご状態を検知することもできる。群管理サーバー61はまた、乗りかご3が移動路2のどの位置にあるかを認識する。
【0031】
ここで、横移動の動作につき異常となった乗りかごを「故障乗りかご」とし、故障乗りかご3Bを救助するために用いられる乗りかごを「救助乗りかご」として、故障乗りかご3Bの救助について説明する。救助乗りかご3Aは、複数の乗りかご3,3のうち1台で、少なくとも横移動の動作につき健全な乗りかごであって、後述のように、群管理サーバー61により選択されたものである。複数の乗りかご3,3のうち他の1台である故障乗りかご3Bが非昇降支持体5にある場合、非昇降支持体5は構造物に対して昇降しないから、故障乗りかご3Bは構造物に対して立ち往生した状態となってしまう。救助乗りかご3Aは故障乗りかご3Bに対して、自己の発する推力により、故障乗りかご3Bを昇降駆動装置に装着されるまで牽引または後押しを行うための結合が可能である。
図4には、救助乗りかご3Aが故障乗りかご3Bを後押し(矢印で示す)する例が示されている。群管理サーバー61は、牽引または後押しに関与する2台の乗りかごの運行を制御する。本実施形態の構成では、群管理サーバー61の制御により、複数の乗りかご3,3のうち1台を救助乗りかご3Aとして、当該救助乗りかご3Aを故障乗りかご3Bに対して結合して牽引または後押しを行うことで、故障乗りかご3Bを昇降駆動装置に装着させ、故障乗りかご3Bを点検及び修理が可能な位置(乗場等)まで移動させることができる。牽引か後押しかの選択は、例えば、故障乗りかご3Bと、移動先である昇降路2Aとの距離の遠近によりなされる。移動後の故障乗りかご3Bは、もしも利用者が搭乗していた場合は、かごドア33を開放して利用者を乗りかごの外に移動させるよう促す。その後空きかご状態となったら、作業者により点検及び修理がなされる。また場合によっては、修理等に適する別の位置に乗りかごが移動させられる。このような乗りかご3の運行がされるため、点検及び修理のために作業者が故障乗りかご3Bにアクセスしやすい。
【0032】
図5(A)~(C)に示すように、複数の乗りかご3,3の各々は、結合をなす結合装置35を備える。この結合装置35は、係合または吸着により結合及び結合解除が可能な結合体351及び被結合体352の組み合わせで結合が可能である。この組み合わせが、複数の乗りかご3,3の各々で、救助乗りかご3Aになる分と故障乗りかご3Bになる分とにわたって設けられている。この結合装置35により、複数の乗りかご3,3のうち救助乗りかご3Aになる分と故障乗りかご3Bになる分の結合を確実にできる。
【0033】
図5(A)に示した例はラッチロック式である。図示右方の横駆動装置から、貫通穴を有する、結合体351としての板状のストライク部351aが突出している。一方、図示左方の横駆動装置には、被結合体352として、ストライク部351aが入り込む凹部352aが設けられている。凹部352aの内部には、ロッド3522が出没するソレノイドラッチ3521が設けられている。凹部352aに入り込んだストライク部351aの貫通穴3511にロッド3522が差し込まれることで、凹部352aに対してストライク部351aが抜き差しできなくなる。これにより、結合装置35が結合状態となる。この例では、結合体351(ストライク部351a)と被結合体352(凹部352a)との組み合わせで、乗りかご3,3同士の牽引も後押しも可能である。
【0034】
図5(B)に示した例は電磁ロック式である。図示右方の横駆動装置に結合体351としての電磁ロック本体351bが埋め込まれている。電磁ロック本体351bは電磁石を有する。一方、図示左方の横駆動装置には、被結合体352としての吸着プレート352bが埋め込まれている。吸着プレート352bは鋼材等の磁性体から構成されている。電磁ロック本体351bと吸着プレート352bとが吸着することで、結合装置35が結合状態となる。この例では、結合体351(電磁ロック本体351b)と被結合体352(吸着プレート352b)との組み合わせで、乗りかご3,3同士の牽引も後押しも可能である。
【0035】
図5(C)に示した例は引っかけロック式である。図示右方の横駆動装置に電磁ロック本体3512が埋め込まれている。この電磁ロック本体3512の動作に応じて、結合体351としてのラッチ351cが出没可能となっている。ラッチは略L字状の鍵部3513を有している。一方、図示左方の横駆動装置には、被結合体352として、ラッチ351cが入り込む凹部352cが設けられている。凹部352cの内部には、ラッチ351cの鍵部3513が引っ掛かる引っ掛かり台3523が設けられている。凹部352cに入り込んだラッチ351cの鍵部3513が引っ掛かり台3523に引っ掛かることで、凹部352cに対してラッチ351cが抜き差しできなくなる。これにより、結合装置35が結合状態となる。この例では、結合体351(ラッチ351c)と被結合体352(凹部352c)との組み合わせで、乗りかご3,3同士の牽引は可能である。ただし、後押しに関しては、横駆動装置32,32(具体的には端部の緩衝部34,34)同士の当接によってなされる。
【0036】
このように、
図5(A)(C)に示した例では物理的な結合、または、
図5(B)に示した例では電磁的な結合がなされる。いずれの例においても、結合体351及び被結合体352を囲むように緩衝部34が設けられている。なお結合装置35は、図示した三つの例に限定されず、種々の形態で実施できる。
【0037】
複数の乗りかご3,3のいずれかが備える横駆動用マイコン65が、横駆動装置の横移動の動作に関する異常を検出した場合、異常発生信号を群管理サーバー61に送信する。異常発生信号を受信した群管理サーバー61は、異常が検出された乗りかご3である故障乗りかご3Bが非昇降支持体5に位置していて昇降できない状態の場合、横駆動装置に異常がなく、かつ、空きかご状態である乗りかご3を選択し、当該乗りかご3を救助乗りかご3Aとして、故障乗りかご3Bに対する結合をなすように、横駆動用マイコン65に対する制御を行う。このような制御を行うことで、横駆動用マイコン65と群管理サーバー61とが連携することで、複数の乗りかご3,3のうち適切であると群管理サーバー61が選択した1台を救助乗りかご3Aとして故障乗りかご3Bに向かわせることができる。空きかご状態である乗りかごを救助乗りかご3Aとすることで、利用者の体重や荷物の重量の分、救出のために使える推力を目減りさせないようにできる。なお、空きかご状態の乗りかご3がなかった場合には、いずれかの乗りかご3が空きかご状態になるまで待機する。この際、いずれかの乗りかご3が空きかご状態になるまで、乗場操作盤による乗りかご3の呼び出しを一時的に停止する。また、救助乗りかご3Aとして使用したい乗りかご3を最寄り階で停止させ、かごドア33及び乗場ドアを開放して、利用者に退出を求めるようアナウンスすることもできる。また、乗りかご3が3台以上運行される場合、群管理サーバー61が救助乗りかご3Aを選択する際には、故障乗りかご3Bへの移動距離が最も短くなる乗りかご3を選択することもできる。
【0038】
また、群管理サーバー61は、救助乗りかご3Aが故障乗りかご3Bと結合して、乗りかごへの乗降のために構造物に設けられた乗場まで牽引または後押しを行うことにより、故障乗りかご3Bが乗場に到着したら、牽引または後押しを終了して結合を解除し、救助乗りかご3Aを通常の運行に復帰させるよう、救助乗りかご3Aが備える横駆動用マイコン65を制御する。故障乗りかご3Bが乗場へ到着したことは、例えば故障乗りかご3Bに設けられた位置センサによる検出結果を受けた乗りかご制御マイコン64からの通信により群管理サーバー61に伝達される。なお、前記「乗場に到着」に関し、実際の到着前であって、故障乗りかご3Bが乗場に到着できると見なせる位置を通過したことを例えば、距離センサで検出して群管理サーバー61に伝達してもよい。つまり、故障乗りかご3Bが乗場に到着できる状態で昇降駆動装置4への装着がなされたら、救助乗りかご3Aを通常の運行に復帰させてよい。このような制御を行うことで、故障乗りかご3Bの救助を終えた救助乗りかご3Aを、速やかに通常の運行に復帰させることができる。
【0039】
なお例えば、乗りかごの一部の変形、破損、脱落等によって横移動の動作につき異常となっている状態では、牽引または後押しを行うことでかえって故障を悪化させる可能性がある。このため、救助乗りかご3Aによる故障乗りかご3Bの牽引または後押しは、故障を悪化させる可能性の低い場合である、故障乗りかご3Bが備える横駆動装置の出力異常、または、横駆動装置への駆動電源の供給不足の場合に限ってなされる。横駆動装置の出力異常は、横駆動装置を駆動させるインバータの出力異常から特定できる。また、駆動電源の供給不足は、電源系統の測定値から特定できる。
【0040】
なお、本発明のエレベータは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。
【0041】
例えば、故障乗りかご3Bが空きかごではなく利用者が搭乗中であった場合、乗りかご制御マイコン64が、利用者に対し、救助実施中であるから安心してもらう旨のアナウンス(音声案内または乗りかご内ディスプレイへの表示)を行うよう、故障乗りかご3Bに設けられている報知手段を制御することができる。この場合、更に、群管理サーバー61が救助乗りかご3Aを故障乗りかご3Bに横付けするまでに要する大体の時間、または、故障乗りかご3Bを乗場に到達させるまでに要する大体の時間を予測し、この時間をアナウンスして利用者を安心させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1…エレベータ(全体構成)、2…移動路、2A…昇降路、2B…横移動路、3…乗りかご、3A…救助乗りかご、3B…故障乗りかご、4…昇降駆動装置、5…非昇降支持体、6…エレベータ運行システム、21…ガイドレール、22…吊ロープ、31…乗りかご本体、32…横駆動装置、33…かごドア、34…緩衝部、35…結合装置、41…第1横軌道、51…第2横軌道、61…群管理サーバー、62…乗場マイコン、63…昇降駆動装置マイコン、64…乗りかご制御マイコン、65…横駆動用マイコン、351…結合体、352…被結合体
【手続補正書】
【提出日】2022-12-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの設置対象である構造物に対して横移動できる横駆動装置の少なくとも一部を備えた乗りかごと、
前記乗りかごに対して着脱可能であり、前記乗りかごの前記横移動をガイドする第1横軌道を備え、かつ、前記構造物に対して昇降することで装着した前記乗りかごを昇降させる昇降駆動装置と、
前記構造物に対して昇降しないように設けられ、前記乗りかごの前記横移動をガイドする、前記第1横軌道に連続した位置関係となりえる第2横軌道を備える非昇降支持体と、
前記乗りかご及び前記昇降駆動装置の運行を管理する群管理サーバーと、を備え、
前記構造物にて複数の前記乗りかごが運行され、
複数の前記乗りかごのうち1台である救助乗りかごは、前記非昇降支持体にて、前記横移動の動作につき異常となった他の1台である故障乗りかごに対して、自己の発する推力により、前記故障乗りかごを前記昇降駆動装置に装着されるまで牽引または後押しを行うための結合が可能であり、
前記群管理サーバーは、前記牽引または後押しに関与する2台の前記乗りかごの運行を制御するものであって、
複数の前記乗りかごの各々は、各々における前記横駆動装置を制御する横駆動用マイコンを備え、
複数の前記乗りかごのいずれかが備える前記横駆動用マイコンが、前記横駆動装置の前記横移動の動作に関する異常を検出した場合、異常発生信号を前記群管理サーバーに送信し、
前記異常発生信号を受信した前記群管理サーバーは、前記異常が検出された前記故障乗りかごが前記非昇降支持体に位置していて昇降できない状態の場合、前記横駆動装置に異常がなく、かつ、空きかご状態である前記乗りかごを選択し、当該乗りかごを前記救助乗りかごとして、前記故障乗りかごに対する結合をなすように、前記救助乗りかごが備える前記横駆動用マイコンに対する制御を行う、エレベータ運行システム。
【請求項2】
前記群管理サーバーは、前記救助乗りかごが前記故障乗りかごと結合して、前記乗りかごへの乗降のために前記構造物に設けられた乗場まで前記牽引または後押しを行うことにより、前記故障乗りかごが乗場に到着できる状態で前記昇降駆動装置への装着がなされたら、前記牽引または後押しを終了して前記結合を解除し、前記救助乗りかごを通常の運行に復帰させるよう、前記救助乗りかごが備える前記横駆動用マイコンを制御する、請求項1に記載のエレベータ運行システム。
【請求項3】
エレベータの設置対象である構造物に対して横移動できる横駆動装置の少なくとも一部を備えた乗りかごと、
前記乗りかごに対して着脱可能であり、前記乗りかごの前記横移動をガイドする第1横軌道を備え、かつ、前記構造物に対して昇降することで装着した前記乗りかごを昇降させる昇降駆動装置と、
前記構造物に対して昇降しないように設けられ、前記乗りかごの前記横移動をガイドする、前記第1横軌道に連続した位置関係となりえる第2横軌道を備える非昇降支持体と、
前記乗りかご及び前記昇降駆動装置の運行を管理する群管理サーバーと、を備え、
前記構造物にて複数の前記乗りかごが運行され、
複数の前記乗りかごのうち1台である救助乗りかごは、前記非昇降支持体にて、前記横移動の動作につき異常となった他の1台である故障乗りかごに対して、自己の発する推力により、前記故障乗りかごを前記昇降駆動装置に装着されるまで牽引または後押しを行うための結合が可能であり、
前記群管理サーバーは、前記牽引または後押しに関与する2台の前記乗りかごの運行を制御するものであって、
前記救助乗りかごによる前記故障乗りかごの前記牽引または後押しは、前記故障乗りかごが備える前記横駆動装置の出力異常、または、前記横駆動装置への駆動電源の供給不足の場合に限ってなされる、エレベータ運行システム。
【請求項4】
複数の前記乗りかごの各々は、他の乗りかごに対向する部分に乗りかご同士の当接時の衝撃を緩和する緩衝部を備える、請求項1~3のいずれかに記載のエレベータ運行システム。
【請求項5】
複数の前記乗りかごの各々は、前記結合をなす結合装置を備え、
前記結合装置は、係合または吸着により結合及び結合解除が可能な結合体及び被結合体の組み合わせで前記結合が可能であり、
複数の前記乗りかごの各々で、前記救助乗りかごになる分と前記故障乗りかごになる分とにわたって前記組み合わせが設けられている、請求項1~4のいずれかに記載のエレベータ運行システム。