(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108309
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】導電性ポリウレタン多孔質構造体
(51)【国際特許分類】
C08J 9/28 20060101AFI20230728BHJP
H01B 1/20 20060101ALI20230728BHJP
H01B 1/12 20060101ALN20230728BHJP
【FI】
C08J9/28 101
C08J9/28 CFF
H01B1/20 Z
H01B1/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009364
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】394006037
【氏名又は名称】株式会社松本技研
(71)【出願人】
【識別番号】000222255
【氏名又は名称】東洋クロス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】松本 亘弘
(72)【発明者】
【氏名】高木 直樹
【テーマコード(参考)】
4F074
5G301
【Fターム(参考)】
4F074AA78
4F074AA87
4F074AA98
4F074CB34
4F074CB45
4F074CC27Z
4F074CC28Z
4F074DA03
4F074DA10
4F074DA23
4F074DA24
4F074DA59
5G301DA28
5G301DA42
5G301DD08
5G301DD10
5G301DE01
(57)【要約】
【課題】帯電防止能に優れた導電性ポリウレタン多孔質構造体を提供する。
【解決手段】本発明の導電性ポリウレタン多孔質構造体10は、導電性ポリウレタン層20と、導電性ポリウレタン層20に形成された連通孔を有する多孔質構造30と、を含む導電性多孔質層50を備えるものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ポリウレタン層と、
前記導電性ポリウレタン層に形成された連通孔を有する多孔質構造と、
を含む導電性多孔質層を備える、
導電性ポリウレタン多孔質構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性ポリウレタン多孔体構造体であって、
前記導電性多孔質層の表面抵抗値が、1×105Ω以上1×1013Ω以下である、導電性ポリウレタン多孔質構造体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の導電性ポリウレタン多孔体構造体であって、
前記導電性多孔質層の最大帯電量が、100V以下である、導電性ポリウレタン多孔質構造体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性ポリウレタン多孔体構造体であって、
前記導電性多孔質層の透湿度が、6000g/m2・24hr以上22000g/m2・24hr以下である、導電性ポリウレタン多孔質構造体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の導電性ポリウレタン多孔体構造体であって、
前記導電性多孔質層の透気度が、5sec./100cc以上である、導電性ポリウレタン多孔質構造体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の導電性ポリウレタン多孔体構造体であって、
前記導電性多孔質層の厚みが、10μm以上150μm以下である、導電性ポリウレタン多孔質構造体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の導電性ポリウレタン多孔体構造体であって、
前記導電性多孔質層の、表面における前記連通孔の孔径が、中間における前記連通孔の孔径よりも小さく構成される、導電性ポリウレタン多孔質構造体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の導電性ポリウレタン多孔体構造体であって、
前記導電性多孔質層の、中間における前記連通孔の孔径が5μm以上70μm以下である、導電性ポリウレタン多孔質構造体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の導電性ポリウレタン多孔体構造体であって、
前記導電性多孔質層の一面上または内部に基材を備える、導電性ポリウレタン多孔質構造体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の導電性ポリウレタン多孔体構造体であって、
静電気放電(ESD)保護部材に用いる、導電性ポリウレタン多孔質構造体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の導電性ポリウレタン多孔体構造体であって、
手袋状の、導電性ポリウレタン多孔質構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ポリウレタン多孔質構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで帯電防止材料について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、ポリウレタン系樹脂および導電性材料を含む帯電防止層を備える樹脂フィルムが記載されている(特許文献1の請求項1)。
【0003】
また、特許文献2には、帯電防止材料ではないが、感光ドラムを帯電させるための帯電ロールに使用する導電性ポリウレタン発泡体が記載されている(特許文献2の段落0002)。特許文献2の導電性ポリウレタン発泡体は、ポリウレタン原料に不活性ガスを機械的に強制混入することで気泡を形成する方法であるメカニカルフロス法により形成されており、独立気泡発泡体となる(請求項1、段落0082、段落0100等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-048559号公報
【特許文献2】特開2020-189948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
帯電防止材料を静電気放電用部材に用いる場合、その帯電防止能には、最大帯電量および半減期の両者が小さいことが要求される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが、予備的実験として、オネストメータ法により、多孔/無孔の絶縁性ポリウレタンシートにおける最大帯電量および半減期を測定した結果、多孔ポリウレタンシートは、無孔ポリウレタンシートに比べて、半減期が低減するが、反対に、最大帯電量が増大することが判明した。
おそらく多孔の場合には空乏自体が帯電する因子を持つと考えられる。そのため、樹脂帯電量に加え、空乏帯電量の合算によって最大帯電量が増大すると考えられる。
【0007】
本発明者はさらに多孔ポリウレタンシートについて検討したところ、湿式凝固法を用いることにより、導電性ポリウレタン層に連通孔が形成されてなる導電性ポリウレタン多孔質構造体を実現できること、そして、このような導電性ポリウレタン多孔質構造体は、上述の多孔の絶縁性ポリウレタンシートよりも、最大帯電量が小さくなるのみならず、半減期も大幅に小さくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
詳細なメカニズムは定かではないが、絶縁性シート中の孔は帯電因子になるものの、その孔の形状を適切に選択して連通孔とした上で、連通孔の周囲を導電性ポリウレタン層で覆う構造とすることによって、導電性ポリウレタン多孔質構造体における最大帯電量および半減期を小さくできる、と推察される。
【0009】
本発明によれば、
導電性ポリウレタン層と、
前記導電性ポリウレタン層に形成された連通孔を有する多孔質構造と、
を含む導電性多孔質層を備える、
導電性ポリウレタン多孔質構造体が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、帯電防止能に優れた導電性ポリウレタン多孔質構造体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】導電性ポリウレタン多孔質構造体10の構成の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】導電性ポリウレタン多孔質構造体の製造工程の一例を模式的に示す工程断面図である。
【
図3】実施例2の導電性ポリウレタン多孔質シートのSEM画像の上面図(a)、断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
【0013】
本実施形態の導電性ポリウレタン多孔質構造体について説明する。
【0014】
本実施形態の導電性ポリウレタン多孔質構造体は、導電性ポリウレタン層と、導電性ポリウレタン層に形成された連通孔を有する多孔質構造と、を含む導電性多孔質層を備える。
【0015】
本実施形態の導電性ポリウレタン多孔質構造体によれば、最大帯電量を小さくできるが、さらに、半減期や減衰時間(1V以下までに減衰するまでの時間)をより一層小さくすることが可能になる。
【0016】
導電性ポリウレタン多孔質構造体は、様々な用途に適用可能であるが、上記の帯電防止能の観点から、静電気放電(ESD)保護部材に好適に用いることが可能である。アースに接続すれば、十分に実用的な除電効果が得られる。
【0017】
また、本実施形態によれば、詳細なメカニズムは定かではないが、連通孔を通って構造体内部まで湿気(水分)が浸透することにより、表面と内部の両方を通電しやすい環境を導電性ポリウレタン層に実現できるため、表面抵抗値や体積抵抗値をより一層低減できると推察される。
【0018】
また、導電性ポリウレタン多孔質構造体は、導電性フィラーなどの充填材を含まないように構成されてもよい。このため、充填材の脱落が抑制されるため、クリーンルーム内でも好適に使用可能である。
【0019】
また、導電性ポリウレタン多孔質構造体は、シート状に限定されず、様々な形状に適用可能である。
例えば、導電性ポリウレタン多孔質構造体が手袋状に構成されてもよい。すなわち、手袋の層構造の一部または全部が導電性ポリウレタン多孔質構造体により構成できる。このような手袋は、優れたESD保護部材となる。導電性ポリウレタン多孔質構造体が良好な透湿性を備えるため、手袋を装着した手が蒸れにくくなる。
【0020】
また、導電性ポリウレタン多孔質構造体は、貼り付き(タック感)が少ないため、ヒトへ皮膚に装着するためのテキスタイル部材(例えば、手袋)として好適に用いられる。
【0021】
図1は、本実施形態の導電性ポリウレタン多孔質構造体10の構成の一例を示す。
導電性ポリウレタン多孔質構造体10は、少なくとも導電性多孔質層50を備える。
導電性多孔質層50は、導電性ポリウレタン層20と、導電性ポリウレタン層20中に形成された多孔質構造30と、で構成される。
【0022】
導電性ポリウレタン層20は、例えば、導電性ポリウレタン材料およびポリウレタンを溶解する溶解性溶媒を含む樹脂塗料を凝固して成膜した凝固膜で構成されてもよい。
導電性部位を有するポリウレタンは、一分子中に、導電性基および/または導電性骨格を有するものであればとくに限定されない。
【0023】
多孔質構造30は、多孔質構造30の断面の一つにおいて、導電性ポリウレタン層20の一面から他面に亘って貫通する貫通孔を、2以上有する。また、多孔質構造30は、その断面において、一面および他面の少なくとも一方に、貫通しない非貫通孔を1または2以上有してもよい。
【0024】
導電性多孔質層50の表面抵抗値の上限は、例えば、1×1013Ω以下、好ましくは3×1012Ω以下、より好ましくは7×1011Ω以下である。これにより最大帯電量を抑制でき、また孔の条件も広く選択することが可能になる。
導電性多孔質層50の表面抵抗値の下限は、例えば、1×105Ω以上でもよく、1×106Ω以上でもよく、より好ましくは1×107Ωでもよい。これにより、電荷の急激な移動が抑制され、不意のESD障害の発生を抑えることができる。
【0025】
導電性多孔質層50の最大帯電量の上限は、例えば、100V以下、好ましくは50V以下、より好ましくは20V以下である。これにより、ESD耐性の低いデバイスやより厳しいEPA(ESD Protected Aria)に対しても使用が可能となる。
【0026】
導電性多孔質層50の透湿度の上限は、例えば、22000g/m2・24hr以下、好ましくは21800g/m2・24hr以下、より好ましくは21500g/m2・24hr以下である。この透湿度の上限値を上回ると塗料の粘度が低くなるため塗工時の膜厚が一定にならないため好ましくない。
導電性多孔質層50の透湿度の下限は、例えば、6000g/m2・24hr以上、好ましくは6200g/m2・24hr以上、より好ましくは6500g/m2・24hr以上である。この透湿度の下限値を下回ると樹脂分が増えて多孔化しにくくなり透湿性が下がるため好ましくない。この透湿度の下限値を上回ることにより、透湿性と帯電性を両立することができる。
【0027】
導電性多孔質層50の透気度の下限は、例えば、5sec./100cc以上、好ましくは10sec./100cc以上、より好ましくは15以上sec./100ccである。この透気度の下限値を下回ると樹脂分が少なく通気性はよくなるが、塗工性において塗料の粘度が低くなるため膜厚が一定にならないため好ましくない。
導電性多孔質層50の透気度の上限は、例えば、2000sec./100cc以下、好ましくは1700sec./100cc以下、より好ましくは1400sec./100cc以下である。この透気度の上限値を上回ると通気性と透湿性がなくなるため好ましくない。この透気度の上限値を下回ることで、透湿性と帯電性を両立することができる。
【0028】
導電性多孔質層50の厚みの上限は、例えば、150μm以下、好ましくは140μm以下、より好ましくは130μm以下である。厚みの上限値を上回ると透気度が高くなるため通気性が悪くなり好ましくない。
導電性多孔質層50の厚みの下限は、例えば、10μm以上、好ましくは15μm以上、より好ましくは18μm以上である。厚みの下限値を下回ると均一な膜を形成しにくく、塗膜強度もなくなるため好ましくない。厚みの下限値を上回ることで塗工性が安定し均一な膜を形成しやすく膜強度も上がるため好ましい。
【0029】
導電性多孔質層50中の多孔質構造30は、非対称構造多孔質で構成されてもよい。
具体的には、導電性多孔質層50の、表面における連通孔の孔径が、中間または表面とは反対側の裏面における連通孔の孔径よりも小さく構成されてもよい。
【0030】
導電性多孔質層50の、中間または裏面における連通孔の孔径の上限は、例えば、70μm以下、好ましくは65μm以下、より好ましくは60μm以下である。孔径の上限値を上回ると透気度が低くなる(通気性は高くなる)、また透湿性も高くなるが、断面部の樹脂隔壁厚みが薄くなり膜強度が低下するため好ましくない。
上記中間または裏面における連通孔の孔径の下限は、例えば、5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上である。孔径の下限値を下回ると断面部の樹脂隔壁厚みが厚くなるため透気度が高くなる(通気性が低くなる)ため好ましくない。孔径の下限値を上回ることで、樹脂の隔壁厚みが薄くなるため、透湿性を向上できる。
【0031】
また、他の形態として、導電性ポリウレタン多孔質構造体10は、導電性多孔質層50単独で構成されていてもよいが、導電性多孔質層50の一面上または内部に基材を備えてもよい。基材とは、後述の支持体、繊維基材、表皮層等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本実施形態の導電性ポリウレタン多孔質構造体10の製造工程について説明する。
製造方法の一例は、湿式凝固法により導電性ポリウレタン多孔質構造体10を形成する方法である。
湿式凝固法による製造方法を、以下、
図2に基づいて説明する。
【0033】
湿式凝固法による製造方法は、例えば、導電性ポリウレタン材料および溶解性溶媒を含む樹脂塗料2と支持体1とを接触させて、支持体1の少なくとも一方面に塗膜3を形成する工程と(塗膜形成工程)、湿式凝固法により塗膜3中の溶解性溶媒を除去して、連通孔6を有する多孔質構造が形成された凝固膜5を形成する工程と(凝固膜形成工程)、を含む。
【0034】
上記塗膜形成工程では、
図2(a)に示すように、樹脂塗料2を支持体1に塗工して、樹脂塗料2の支持体1の少なくとも一方面に塗膜3を形成する。
【0035】
支持体1として、例えば、離型フィルム、離型紙、織物、編物、不織布などを用いることができる。支持体1の表面は平滑であることが好ましい。これらのなかでも、平滑性に優れる点で、離型フィルムまたは離型紙を用いることが好ましく、更に再使用性できる点で、離型フィルムを用いることがより好ましい。更には、これらを貼り合せ等によって複合したものを使用してもよい。
【0036】
支持体1の組成としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリアミドなどが挙げられる。これらのなかでも、熱風乾燥処理に適している点で、ポリエステルが好ましい。
また、支持体1には、離型剤が含浸または塗布されていてもよい。離型剤としては、例えば、シリコーン系離型剤、オレフィン系離型剤、エポキシ系離型剤などを用いることができる。
【0037】
樹脂塗料2は、支持体1の少なくとも一方面に接触させればよく、両面に接触させても構わない。
接触方法は、例えば、コンマコーティング法、ダイコーティング法、ドクターナイフコーティング法、リバースロールコーティング法、グラビアコーティング法、バーコーティング法などが挙げられる。
【0038】
樹脂塗料2に含まれる導電性ポリウレタン材料は、導電性部位を有するポリウレタン、および/またはポリウレタンと導電性高分子との複合体を含んでもよい。
導電性部位を有するポリウレタンの一例は、ポリウレタン骨格中に、導電性基または導電性基を有する構造単位が導入されたものでもよい。
導電性基としては、例えば、カチオン性またはアニオン性を有するイオン導電性基が挙げられるが、これに限定されない。イオン導電性基として、例えば、第四級アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリウム等塩に由来するカチオン性のものが用いられる。
また、導電性部位を有するポリウレタンの他の例は、ポリウレタン骨格中に、導電性骨格が導入されたものでもよい。導電性骨格としては、例えば、共役構造を有する骨格が挙げられる。
【0039】
導電性高分子としては、例えば、ポリチオフェン系重合体、ポリアセチレン系重合体、ポリジアセチレン系重合体、ポリイン系重合体、ポリフェニレン系重合体、ポリナフタレン系重合体、ポリフルオレン系重合体、ポリアントラセン系重合体、ポリピレン系重合体、ポリアズレン系重合体、ポリピロール系重合体、ポリフラン系重合体、ポリセレノフェン系重合体、ポリイソチアナフテン系重合体、ポリオキサジアゾール系重合体、ポリアニリン系重合体、ポリチアジル系重合体、ポリフェニレンビニレン系重合体、ポリチエニレンビニレン系重合体、ポリアセン系重合体、ポリフェナントレン系重合体、ポリナフタレン系重合体等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。この中でも、ポリチオフェン系重合体として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェンを用いることができる。
また、導電性高分子は、ポリウレタンとの相溶性の観点から、分子中に官能基として、相溶性基を有するものが好ましい。相溶性基として、例えば、分子中に相溶性骨格を有するものであれば限定されないが、ベンゼン環(芳香族環)等の炭化水素骨格を含むものが用いられる。
導電性高分子は、さらにスルホン酸基(-SO3H)等のドーパント機能部位を有する相溶性基を分子中に有してもよく、公知のドーパントを含んでもよい。
【0040】
ポリウレタンとして、ポリオール、ポリイソシアネートを含む原料から得られるウレタン結合を有するポリマーであればよく、例えば、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリカプロラクトン系ポリウレタン等が挙げられる。また、これらを適宜組み合わせたポリウレタン共重合体を用いてもよい。また、ポリウレタンをその他骨格の異なるポリマーで変性しているものでもよく、例としてはシリコーン変性型、フッ素系ポリマー変性型、ポリアクリレート系ポリマー変性型ポリウレタン等を用いてもよい。
【0041】
樹脂塗料2に含まれる溶解性溶媒は、湿式凝固法で通常用いられる有機溶媒を用いることができ、ポリウレタンを溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドンといった非プロトン性極性溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素といったハロゲン系溶媒、ジメチルケトン、メチルエチルケトンといったケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンといった環状エーテル溶媒、トルエン、キシレンといった芳香族系等有機溶媒が挙げることができる。
【0042】
樹脂塗料2中の固形分濃度、すなわち、溶解性溶媒中に溶解させるポリウレタンの濃度は、任意に選択できるが、例えば、5~50質量%、好ましくは10~30質量%である。
固形分濃度を上げることにより、導電性多孔質層50の空隙率が下がり、通気性が低くなるため、電気抵抗値を低減できる。また、孔径を小さく、孔数を少なく、隔壁を厚くすることにより、導電性多孔質層50の電気抵抗値を低減できる。
【0043】
樹脂塗料2は、導電性ポリウレタン材料および溶解性溶媒を含むものであれば特に限定されないが、必要に応じて、その他の添加剤を含んでもよい。
添加剤としては、例えば、孔調整剤等が挙げられる。
孔調整剤は、例えば、ノニオン性、カチオン性、アニオン性の界面活性剤、アルコール系溶媒、ポリエチレンオキサイド等の親水性高分子添加剤、パラフィン系オイル、芳香族系溶媒等の疎水性添加剤が挙げられる。孔調整剤の量は、通常用いられる程度でよく、溶液全体の質量に対して0.1~10質量部程度が好ましい。
なお、樹脂塗料2は、カーボンブラックなどの公知の導電性フィラーを含まないように構成されてもよい。これにより、使用時に導電性ポリウレタン多孔質構造体10から導電性フィラーの一部が脱離してしまうことを抑制できる。
【0044】
次に、凝固膜形成工程では、
図2(b)(c)に示すように、湿式凝固法により塗膜3中の溶解性溶媒を除去して、凝固膜5を形成する。
溶解性溶媒を除去する方法は、溶解性溶媒を、ポリウレタンが溶解しないか溶解しにくい非溶解性溶媒に置換する方法が挙げられる。具体的には、支持体1および塗膜3の積層体を、非溶解性溶媒に接触させる方法、非溶解性溶媒を含む凝固槽に浸漬させる方法等を用いられる。
【0045】
非溶解性溶媒は、例えば、水またはアルコール系溶媒を用いることが好ましく、2種以上を混合して用いてもよい。アルコール系溶媒としては、例えば、メタノールやエタノールなどを用いることができる。非溶解性溶媒には、溶解性溶媒が含まれていてもよい。
【0046】
図2(b)~
図2(c)に示す凝固過程において、塗膜3が非溶解性溶媒(例えば水)に接触すると、塗膜3中に含まれる溶解性溶媒(例えばDMF)が、塗膜3の表面側から膜中央に向かって徐々に、非溶解性溶媒に置換して、膜内部が相分離固化する現象が進行する。このとき、塗膜3の表面側から複数の孔4の成長が促進される。これにより、複数の連通孔6が形成された凝固膜5が得られる。
【0047】
凝固膜形成工程の後、必要なら、凝固膜5を、洗浄および/または乾燥させてもよい。
その後、凝固膜5から支持体1を分離することにより、
図1に示す導電性ポリウレタン多孔質構造体10が得られる。
【0048】
なお、必要なら、支持体1は分離しなくてもよい。導電性ポリウレタン多孔質構造体10の表面に、支持体1から分離さえる前または後に表皮層を積層してもよい。また、支持体1に形成された塗膜3を繊維基材に積層または含浸させた後、上記の凝固膜形成工程を行ってもよい。
【0049】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0050】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0051】
<樹脂塗料の調製>
表1に示す原料樹脂を用いて、表1に示す固形分濃度となるように、原料樹脂をジメチルホルムアミド(DMF)で希釈し、各実施例および各比較例に使用する樹脂塗料を調製した。
実施例1~3および比較例1の樹脂塗料の固形分(n.v.)は、樹脂塗料全体の10~15質量%の範囲内で、互いに同一の値とした。また、実施例4および比較例2の樹脂塗料の固形分(n.v.)は、樹脂塗料全体の20~25質量%の範囲内で、互いに同一の値とした。
【0052】
表1中の原料樹脂の情報を以下に示す。
・原料樹脂1:導電性ポリウレタン材料(ポリエステル系ポリウレタンに、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)の側鎖にスルホン酸基を導入した自己ドープ型導電性高分子(S-PEDOT)を混合して複合化したものを使用した。ショアA硬度:90)
・原料樹脂2:非導電性ポリウレタン材料(ポリカーボネート/ポリエステル系ポリウレタン、DIC社製 レザミンMP650-NC)
【0053】
<導電性ポリウレタン多孔質構造体の製造>
(実施例1~4)
表1に示す樹脂塗料を、アプリケーターを用いて、支持体(両面PP離形紙)上に、表1に示す厚みとなるように塗工し、支持体付き塗膜を形成した(塗工処理)。
続いて、支持体付き塗膜を、凝固液(5質量%のDMF水溶液)中に浸漬させて、支持体上に凝固膜を形成し、得られた凝固膜を、蒸留水で水洗して、膜中からDMFを除去した(凝固処理)。
次いで、オーブンを用いて、凝固膜を100℃で乾燥させた(乾燥処理)。
その後、凝固膜から支持体を分離して、実施例1~4の導電性ポリウレタン多孔質シートを得た。
【0054】
(比較例1)
表1に示す樹脂塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして、非導電性ポリウレタン多孔質シートを得た。
【0055】
(参考例1)
凝固処理を施さず、160℃で乾燥処理を行った以外は、実施例1と同様にして、無孔の導電性ポリウレタンシートを得た。
【0056】
【0057】
<厚さ、重量、透気度、通気度、透湿度>
得られたポリウレタンシートについて、厚さ、重量、透気度、通気度、透湿度を次のように測定した。
・厚み:シックネスゲージを用いて測定した。
・重量:JIS K 6251に準拠して測定した。
・透気度、通気度、透湿度:JIS L 1096に準拠して測定した。
【0058】
<表面孔径、孔数、空隙部の最大径、隔壁部の最大厚み>
得られたポリウレタンシートについて、走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製、S-3400N)を用いて得られたSEM画像に基づいて、表面孔径、孔数、空隙部の最大径、隔壁部(空乏層)の最大厚みを算出した。
【0059】
<SEM画像>
走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製、S-3400N)を用いて、支持体付きの状態で実施例2の導電性ポリウレタンシート(導電性ポリウレタン多孔質構造体10)における上面、断面を観察して、SEM画像を取得した。
図3(a)が500倍のSEM画像の上面図、
図3(b)が2500倍のSEM画像の断面図である。
【0060】
得られたポリウレタンシートについて、以下の評価項目に基づいて、評価を行った。
【0061】
【0062】
<帯電防止能:最大帯電量、半減期>
実施例1~4および比較例1のポリウレタンシートについて、オネストメータ(帯電電荷減衰測定器 スタチックオネストメータH-0110-S4A シシド静電気社製)を用いて、23℃、45%RH環境下、最大帯電量(kV)、および半減期(Sec)を測定した。5回測定した値の平均値を、表2に示す。なお、JIS L1094に準拠して測定した場合、試料のポリウレタンシートが帯電せずに最大帯電量や半減期を比較できないこともあった為、試料が微帯電するようにアース経路を極力絞った状態で測定を行った。
【0063】
<導電性:表面抵抗値>
実施例1~4および比較例1のポリウレタンシートについて、表面抵抗計(トレック・ジャパン社製、Model152)を用いて、23℃、45%RH環境下、2点間測定による表面抵抗値(Ω)を測定した。5回測定した値の平均値を、表2に示す。なお、表2中、UDL(Upper Decision Limit)は、機器の最大測定限界以上を意味する。
【0064】
<装着性:摩擦抵抗係数測定>
実施例1~4および参考例1のポリウレタンシートについて、引張試験機(東洋精機製作所製、ストログラフ-m1)を用いて、23℃、50%RH環境下、可能な限りJIS K7125に準拠して、動摩擦係数を測定した。なお、測定対象のポリウレタンシートは支持体付きの状態で使用した。相手材は豚革を使用した。
測定の結果、参考例1の無孔の導電性ポリウレタンシートは、表面のタック感(相手材への貼り付き)が強くため、測定された変位-荷重グラフ中に大きな振動波形が見られ、動摩擦係数を正確に算出できなかった。一方、実施例1~4では、グラフ中の振動波形は微弱~ほとんど見られず、動摩擦係数の値が実施例1>実施例2>実施例3>実施例4の順で小さくなることが確認された。
また、実施例1~4および参考例1のポリウレタンシートにおいて、表面にブリードは確認されなかった。
【0065】
上記の結果より、実施例1~4の導電性ポリウレタン多孔質シートは、比較例1の非導電性ポリウレタン多孔質シートと比べて、最大帯電量および半減期が小さい結果を示すことから、帯電防止能に優れることが確認された。このような実施例1~4の導電性ポリウレタン多孔質シート(導電性ポリウレタン多孔質構造体)は、EDS対策用部材に好適に用いられる。
【0066】
また上記の結果より、実施例1~4の導電性ポリウレタン多孔質シートは、参考例1の無孔の導電性ポリウレタンシートに比べて、豚革への貼り付き(タック感)が少ない結果を示すことから、ヒトへ皮膚に装着するためのテキスタイル部材に好適に用いられる。その上、適度な透湿性も備えるため、手袋などの形状とした場合でも、装着時における手の蒸れを抑制できると期待される。