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  • 特開-干し芋の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108335
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】干し芋の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/10 20160101AFI20230728BHJP
   A23B 7/02 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
A23L19/10
A23B7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009396
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】515281880
【氏名又は名称】有限会社森水園
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森谷 和郎
【テーマコード(参考)】
4B016
4B169
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LE03
4B016LG06
4B016LP03
4B016LP05
4B016LP06
4B016LP13
4B016LT09
4B016LT10
4B169BA01
4B169BA02
4B169BA09
4B169HA05
(57)【要約】
【課題】甘味及び風味を向上させた干し芋の製造方法を提供する。
【解決手段】サツマイモを蒸して加熱する蒸し加熱工程と、加熱したサツマイモの外皮を剥く皮むき工程と、外皮を剥いたサツマイモをスライスするスライス工程と、スライスしたサツマイモを遠赤外線で加熱する遠赤外線加熱工程と、遠赤外線で加熱したサツマイモを乾燥させる乾燥工程と、乾燥させたサツマイモをプレスする仕上げ工程と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
干し芋を製造する方法であって、
サツマイモを蒸して加熱する蒸し加熱工程と、
加熱したサツマイモの外皮を剥く皮むき工程と、
外皮を剥いたサツマイモをスライスするスライス工程と、
スライスしたサツマイモを遠赤外線で加熱する遠赤外線加熱工程と、
遠赤外線で加熱したサツマイモを乾燥させる乾燥工程と、
乾燥させたサツマイモをプレスする仕上げ工程と、
を有する干し芋の製造方法。
【請求項2】
前記蒸し加熱工程では、生サツマイモを100℃~260℃にて3~4時間蒸し加熱することを特徴とする請求項1に記載の干し芋の製造方法。
【請求項3】
前記皮むき工程は、前記蒸し加熱工程後10分以内に開始することを特徴とする請求項1又は2に記載の干し芋の製造方法。
【請求項4】
前記遠赤外線加熱工程では、摂氏220℃~260℃にてサツマイモを加熱することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の干し芋の製造方法。
【請求項5】
前記遠赤外線加熱工程では、3μm~1000μmの範囲の電磁波をサツマイモに照射することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の干し芋の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥工程では、摂氏55℃~60℃、湿度28~32%にて5~6時間サツマイモを温風乾燥機で乾燥させることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の干し芋の製造方法。
【請求項7】
前記干し芋はブリックス糖度が25~30%であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の干し芋の製造方法。
【請求項8】
前記サツマイモは、紅はるか、玉豊又はいずみであることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の干し芋の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干し芋の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
干し芋は、サツマイモを蒸して乾燥させた食品であり、細長く薄い板状をしたものや、薄切りにしないまま干した丸干し芋と呼ばれるものや、食べやすいように角棒状に細切りにしたもの等がある。干し芋は、そのままで食べてもよいが、火であぶることにより、柔らかくなり、甘味も増し、香ばしくなる。干し芋は、適度な水分を含むため、粘度のある噛み応えとサツマイモの甘味が特徴的である。
【0003】
干し芋は根強い人気があり、冬の風物詩としても有名であり、昔ながらの独特な掛け声で売られており、コンビニエンスストアでも見かけられる。最近では、真空パック入りで販売されているものもある。
【0004】
干し芋は、一般に、サツマイモを蒸かした後、皮をむき、所定厚さにスライスして、天日又は乾燥機により乾燥させることにより製造される。また、従来、皮をむいた蒸かし芋をマイナス5~10℃の冷凍庫に4~5時間入れて冷凍した後、乱切りにカットし、干し網などに並べて乾燥させて干し芋を製造する方法も提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
またサツマイモを蒸す代わりに焼いて、得られた焼き芋を乾燥させて芋菓子とする方法(特許文献2参照)や、サツマイモを加熱して表面を柔らかくした後、皮をむき、それを0.5~3時間蒸し、更に40~70℃で8~96時間燻蒸して干し芋にする方法(特許文献3参照)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3192798号公報
【特許文献2】特開2014-209894号公報
【特許文献3】特開2001-204334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、近年のグルメ嗜好の向上に伴い、前述の干し芋の製造方法では、消費者の干し芋に対する甘味及び風味に対する満足度が十分ではない場合がある。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、従来よりも甘み及び風味を向上させることができる干し芋の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる干し芋の製造方法は、
サツマイモを蒸して加熱する蒸し加熱工程と、
加熱したサツマイモの外皮を剥く皮むき工程と、
外皮を剥いたサツマイモをスライスするスライス工程と、
スライスしたサツマイモを遠赤外線で加熱する遠赤外線加熱工程と、
遠赤外線で加熱したサツマイモを乾燥させる乾燥工程と、
乾燥させたサツマイモをプレスする仕上げ工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば甘味及び風味を向上させた干し芋を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明にかかる製造方法で製造した紅はるかの干し芋の写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0013】
本発明にかかる干し芋の製造方法は、下記工程を有する。即ち、
サツマイモを蒸して加熱する蒸し加熱工程と、
加熱したサツマイモの外皮を剥く皮むき工程と、
外皮を剥いたサツマイモをスライスするスライス工程と、
スライスしたサツマイモを遠赤外線で加熱する遠赤外線加熱工程と、
遠赤外線で加熱したサツマイモを乾燥させる乾燥工程と、
乾燥させたサツマイモをプレスする仕上げ工程と、を有する。以下順に説明をする。
【0014】
(1)蒸し加熱工程
蒸し加熱工程では、洗浄した生のサツマイモを、蒸す方法で所定時間加熱する。加熱時間は、特に限定されるものではなく、サツマイモの大きさや種類に応じて適宜選択することができる。甘い干し芋を得るためには、ゆっくりと長時間かけてふかして加熱することが好ましい。特に限定されるものではないが生サツマイモを例えば100℃~260℃にて3~4時間蒸すことが好ましい。
【0015】
(2)皮むき工程
皮むき工程では、蒸し加熱後のサツマイモの皮をむく。見た目を良くし且つ食感を良くするために、サツマイモの皮をきれいにむく必要がある。そこでこの皮むき工程は、サツマイモが熱いうち、即ち蒸し加熱工程の直後に行うことが好ましい。ここで蒸し加熱工程の直後とは、蒸し加熱工程後30分以内、好ましくは20分以内、より好ましくは10分以内、最も好ましくは1分以上10分以内である。
【0016】
皮むき工程は、例えば、蒸し加熱後のサツマイモを中央にて切断し、その後は分離機にかけて所定の圧力で押し出して、実(塊根)と皮とを分離して皮むきを行う。
【0017】
(3)スライス工程
スライス工程では、皮むき工程後のサツマイモを食べやすい大きさに切りそろえるため所定の大きさにスライス切断する。例えば、サツマイモを切断機にかけて、上下運動する縦刃に通すことにより、所定の間隔(本例においては、10mm~16mm)で切断する。
【0018】
(4)遠赤外線加熱工程
遠赤外線加熱工程は、本発明にかかる方法において特徴的な工程である。
【0019】
赤外線加熱工程では、スライス切断後のサツマイモを遠赤外線加熱する。遠赤外線加熱は、特に限定されるものではないが、例えば摂氏220℃~260℃にてサツマイモを20分~120分間加熱する。遠赤外線加熱をする手段としては、特に限定されるものではなく、例えば遠赤外線オーブンを利用できる。
【0020】
遠赤外線加熱は、サツマイモに3μm~1000μmの範囲の電磁波(遠赤外線)を照射し、被加熱物を直接加熱する方法である。物質を構成する分子や結晶は、それぞれ固有の振動をしており、水などの遠赤外線を吸収しやすい物質は、共通して3~30μmの固有振動があり、遠赤外線の照射を受けるとお互いの波長帯が合うので、共鳴し合い分子レベルの運動を活発にする。これを熱振動といい、照射された物質の温度を上昇させる。遠赤外線加熱の装置としては、特に限定されるものではなく、オーブン、オーブントースター、電気ヒーター、電気炉等が挙げられる。
【0021】
(5)乾燥工程
乾燥工程では、遠赤外線加熱後のサツマイモを乾燥させる。乾燥方法は、特に限定されるものではないが例えば55~60℃、湿度28~32%、乾燥時間5~6時間の条件下で温風乾燥機にて乾燥させる。この乾燥方法により、干し芋の仕上がりに適度な湿感を持たせた柔らかさ、明るいあめ色を実現できる。なお、網の上に間隔を空けて並べて、冬季自然温度条件下(例えば約0~14℃)で、1~2日間天日干しして乾燥させることも可能である。なおこの乾燥工程ではサツマイモの表面が少し乾くまで乾燥させることが好ましい。
【0022】
(6)仕上げ工程
仕上げ工程では、乾燥後のサツマイモをプレスして食べやすく且つ袋詰めしやすくするように仕上げる。プレスは特に限定されるものではないが例えばその厚さが15~20mmになるまで行う。干し芋の厚さが15mm未満の場合は厚さが薄くなりすぎて食感が低下する。干し芋の厚さが20mmを超えると厚すぎて袋詰め等において取り扱いが低下する。
【0023】
本発明にかかる干し芋の製造方法にて使用されるサツマイモは、特に限定されるものではないが例えば下記である。即ち、「紅はるか」、「紅赤」、「富の川越芋」、「農林一号」、「高系14号」、「紅さつま」、「宮崎紅」、「紅こまち」、「パープルスイートロード(紫芋)」、「クイックスイート」、「あやこまち(オレンジ芋)」、「玉豊」、「いずみ」、「玉乙女」、「人参芋」、「安納芋」、「あやむらさき(紫芋)」、「太白芋」、「金時芋」、「ほしきらり」、「紅あずま」、「紅まさり」、「種子島芋(紫芋)」、「紅隼人」、「小金千貫」、「鳴門金時」、「大栄愛娘」、「五郎島金時」、「紫唐芋」、「栗黄金」、及び、「カイアポ芋」等が挙げられる。好ましくは干し芋に適した「紅はるか」、「玉豊」又は「いずみ」である。
【0024】
本発明にかかる干し芋の製造方法で得られた干し芋は、非常に風味がよく糖度も高くそのブリックス糖度は25~30%である。
【実施例0025】
(1)蒸し加熱工程
サツマイモとして鹿児島県産の紅はるかを使用した。紅はるかを洗浄し120℃にて4時間蒸し加熱をした。紅はるかは、蒸し加熱機の中で絶えずぐるぐると回転しながら蒸し加熱したので全体にまんべんなく火が通った。なお、紅はるかは、選別作業において大小わけて、それぞれ別々に加熱することで焼きムラを抑えた。
【0026】
(2)皮むき工程
次に蒸し加熱後の紅はるかを中央にて切断し、10分以内に分離機にかけて所定の圧力で押し出して、実(塊根)と皮とを分離して皮むきを行った。
【0027】
(3)スライス工程
次に皮むき後の紅はるかを切断機にかけて、上下運動する縦刃に通すことにより12mm間隔で切断し、食べやすい大きさに切りそろえるた。
【0028】
(4)遠赤外線加熱工程
次にスライス切断後の紅はるかを遠赤外線オーブン2釜2段名人焼きSC-D2-AII(商品名:株式会社小野食品機械製)を使用して摂氏240℃にて60分間加熱した。遠赤外線の波長は100μmであった。本発明では乾燥工程の前にこの遠赤外線加熱工程があるので干し芋の甘みを従来よりも大幅に向上させることができる。
【0029】
(5)乾燥工程
次に遠赤外線加熱工程後の紅はるかを58℃、湿度30%、乾燥時間6時間の条件下で温風乾燥機にて乾燥させた。
【0030】
(6)仕上げ工程
次に乾燥後の紅はるかをプレス機を使用して厚さを18mmとした。その結果、図1に示されるように紅はるかの干し芋が製造できた。
【0031】
[官能試験]
本発明にかかる製造方法にて製造した図1に示される紅はるかの干し芋につき、試食(ブラインドテスト)により官能試験を行った。パネラーは20名、内10名は女性、年齢は20~70歳と幅広くした。味や香り食感などの喫食における比較テストである。
【0032】
その結果、一般的な焼き芋と比較しても食感も良好で美味しいとの評価を得た。とくに、本発明の製造方法による「実施例品」は「比較例品」よりも凝縮された濃厚な甘味と芳香があり、べたつき感も少なく、「繰り返し食べたくなる」「他の人たちにも勧めたい」といった感想が得られた。
【0033】
[糖度試験]
本実施例により製造された紅はるかの干し芋を所定大きさに切り出し、すりおろして、3倍重量%の蒸留水を入れてよく混合し、濾紙で濾過した濾液について、ブリックス糖度計(商品名:ポケット糖度計PAL-1:株式会社アタゴ製)によりブリックス糖度を測定し、測定値から未希釈のサンプルのブリックス糖度を算出した。その結果ブリックス糖度は27.9%であった。
【0034】
一方、本実施例から遠赤外線加熱工程をのぞいた方法である比較例にかかる製造方法で製造した紅はるかについて同様にブリックス糖度を算出したところ11.8%であった。このように本発明によれば甘み及び風味が向上した干し芋が得られることが客観的に示された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
干し芋の製造に利用できる。
図1