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特開2023-108371セパレータ及びその製造方法、電池、並びに、不織布
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108371
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】セパレータ及びその製造方法、電池、並びに、不織布
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/44 20210101AFI20230728BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20230728BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20230728BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20230728BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20230728BHJP
   D04H 3/153 20120101ALI20230728BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20230728BHJP
   D04H 3/007 20120101ALI20230728BHJP
   D04H 3/009 20120101ALI20230728BHJP
【FI】
H01M50/44
H01M50/489
H01M50/417
H01M50/414
H01M50/403 B
D04H3/153
D04H3/16
D04H3/007
D04H3/009
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009462
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】冨澤 錬
【テーマコード(参考)】
4L047
5H021
【Fターム(参考)】
4L047AA14
4L047AA19
4L047AA28
4L047AB07
4L047CC12
5H021BB05
5H021CC02
5H021EE04
5H021EE08
5H021HH00
5H021HH03
5H021HH06
5H021HH10
(57)【要約】
【課題】低熱収縮性に優れ、高温環境下において形状維持性を有するセパレータ及びその製造方法、安全性が高く、長寿命である電池、並びに、低熱収縮性に優れ、高温環境下において形状維持性を有する不織布の提供。
【解決手段】不織布を有するセパレータであって、前記不織布が、ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下であるポリマーと、ガラス転移温度が80℃以上150℃以下であるポリマーとを含有し、かつ、繊維径が5μm以下の第1の繊維と、繊維径が5μm超えの第2の繊維と、を含有するセパレータである。
【選択図】図3B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布を有するセパレータであって、
前記不織布が、ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下であるポリマーと、ガラス転移温度が80℃以上150℃以下であるポリマーとを含有し、かつ、繊維径が5μm以下の第1の繊維と、繊維径が5μm超えの第2の繊維と、を含有することを特徴とするセパレータ。
【請求項2】
第1の繊維の繊維径が、0.1μm以上5μm以下であり、第2の繊維の繊維径が、5μm超え30μm以下である、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
第1の繊維が、ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下であるポリマーを含有し、
第2の繊維が、ガラス転移温度が80℃以上150℃以下であるポリマーを含有する請求項1から2のいずれかに記載のセパレータ。
【請求項4】
第1の繊維の配向方向と、第2の繊維の配向方向が異なる請求項1から3のいずれかに記載のセパレータ。
【請求項5】
ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下であるポリマーが、ポリプロピレンであり、ガラス転移温度が80℃以上150℃以下であるポリマーが、ポリカーボネートである請求項1から4のいずれかに記載のセパレータ。
【請求項6】
平均厚みが0.025mm~5mmである請求項1から5のいずれかに記載のセパレータ。
【請求項7】
20℃における熱収縮率を0%とした場合、130℃以下における熱収縮率が3%以下である請求項1から6のいずれかに記載のセパレータ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のセパレータを有することを特徴とする電池。
【請求項9】
ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下である第1のポリマー溶液を第1のノズル孔から吐出させ、同時にガラス転移温度が80℃以上150℃以下である第2のポリマー溶液を第2のノズル孔から吐出させる吐出工程と、
前記第1のノズル孔から吐出された第1のポリマーと、前記第2のノズル孔から吐出された第2のポリマーとを、250℃以上350℃以下の空気により延伸する延伸工程と、
延伸された第1のポリマー及び延伸された第2のポリマーを捕集する捕集工程と、
を含むことを特徴とするセパレータの製造方法。
【請求項10】
第1のノズル孔と第2のノズル孔とが、一列に並んで設けられており、
前記第1のノズル孔の数と、前記第2のノズル孔の数とが、10:1~3:1である請求項9に記載のセパレータの製造方法。
【請求項11】
ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下であるポリマーと、ガラス転移温度が80℃以上150℃以下であるポリマーとを含有し、かつ、繊維径が5μm以下の第1の繊維と、繊維径が5μm超えの第2の繊維と、を含有することを特徴とする不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータ及びその製造方法、電池、並びに、不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン(Li)電池は、その利用分野が、従来の携帯電話、PC用電池などのいわゆる小型民生用途の利用分野に加え、電動工具、自動車及び自転車用蓄電池、大型蓄電設備など、大型かつ大容量が求められる利用分野へと広がってきており、使用中の安全性の確保が重要である。
【0003】
リチウムイオン電池は、通常、電解液中のLiイオンがセパレータを構成する孔を介して移動することによって、電池としての機能を発揮する。前記セパレータとしては、一般に、ポリオレフィン樹脂等を用いて得られる二軸延伸フィルムが使用されている。
【0004】
リチウムイオン電池の出力が増大する中で、リチウムイオン電池には、異常発熱に起因した発火等を引き起こす可能性があるという問題がある。具体的には、リチウムイオン電池が充放電を繰り返すと、電解液、負極表面、及び正極表面が劣化し、充放電できる部分が減少する。これらの電池特性の低下により、リチウムイオン電池の内部抵抗が増加する。一方で、リチウムイオン電池は初期と同出力で動作しようとするため、リチウムイオン電池がオーバーワークし、まず60℃~80℃程度の異常発熱が発生する。この異常発熱が、100℃~120℃程度になると、電解液が沸騰し始め、ガスが発生する。これにより電極間の距離が開き、抵抗が上昇すると、更なる発熱が発生し、200℃を超えると、正極活物質が発火する。これにより、真空状にパックされたリチウムイオン電池のパッキングが裂け、爆発することとなる。
【0005】
多孔質のポリオレフィン二軸延伸フィルムは、有機溶媒に不溶であり、機械特性に優れるものであり、リチウムイオン電池用セパレータとして使用した場合、前記異常発熱時に孔閉塞をして電流を遮断し、過度の昇温を抑制する優れたシャットダウン特性を有することが知られている。しかしながら、前記ポリオレフィン二軸延伸フィルムセパレータは、前記異常発熱時の熱の影響によって著しい収縮を引き起こし、その結果、電解液内における電子の移動を停止するだけの十分な面積を維持できず、リチウムイオン電池の短絡を引き起こすという問題があった。
【0006】
熱収縮を引き起こしにくいセパレータとしては、例えば、微多孔質電池セパレータ膜であって、厚さが14μm未満を有する微多孔質ポリオレフィンセパレータ膜を含み、前記微多孔質セパレータ膜が、138℃以下の温度でサーマルシャットダウンが開始され、前記微多孔質セパレータ膜が、120℃、1時間において7.5%以下の機械方向の熱収縮率を有し、前記微多孔質セパレータ膜が、120℃、1時間において、1%以下の横方向の熱収縮率を有し、および/または前記微多孔質セパレータ膜が、イオン化放射エネルギーを使用して改良または改変された、微多孔質ポリオレフィン電池セパレータ膜が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、前記提案の微多孔質ポリオレフィン電池セパレータ膜は細孔の直進性が高いため、リチウムデンドライトが発生しやすいという問題がある。リチウムデンドライトは、電池の異常により電極の一部に電流が集中した場合、リチウムがデンドライト(針状結晶)の形で電極表面に析出する現象である。このリチウムデンドライトがセパレータを突き破るまで成長すると、リチウムイオン電池の短絡を引き起こす。セパレータの細孔の直進性が高い場合、このようなリチウムデンドライトが生じやすいという問題がある。
【0008】
したがって、低熱収縮性に優れ、高温環境下において形状維持性を有し、リチウムデンドライトが生じにくいセパレータ及びその製造方法、安全性が高く、長寿命である電池の提供が強く望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2021-101423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、低熱収縮性に優れ、高温環境下において形状維持性を有するセパレータ及びその製造方法、安全性が高く、長寿命である電池、並びに、低熱収縮性に優れ、高温環境下において形状維持性を有する不織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 不織布を有するセパレータであって、
前記不織布が、ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下であるポリマーと、ガラス転移温度が80℃以上150℃以下であるポリマーとを含有し、かつ、繊維径が5μm以下の第1の繊維と、繊維径が5μm超えの第2の繊維と、を含有することを特徴とするセパレータである。
<2> 第1の繊維の繊維径が、0.1μm以上5μm以下であり、第2の繊維の繊維径が、5μm超え30μm以下である、前記<1>に記載のセパレータである。
<3> 第1の繊維が、ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下であるポリマーを含有し、
第2の繊維が、ガラス転移温度が80℃以上150℃以下であるポリマーを含有する前記<1>から<2>のいずれかに記載のセパレータである。
<4> 第1の繊維の配向方向と、第2の繊維の配向方向が異なる前記<1>から<3>のいずれかに記載のセパレータである。
<5> ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下であるポリマーが、ポリプロピレンであり、ガラス転移温度が80℃以上150℃以下であるポリマーが、ポリカーボネートである前記<1>から<4>のいずれかに記載のセパレータである。
<6> 平均厚みが0.025mm~5mmである前記<1>から<5>のいずれかに記載のセパレータである。
<7> 20℃における熱収縮率を0%とした場合、130℃以下における熱収縮率が3%以下である前記<1>から<6>のいずれかに記載のセパレータである。
<8> 前記<1>から<7>のいずれかに記載のセパレータを有することを特徴とする電池である。
<9> ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下である第1のポリマー溶液を第1のノズル孔から吐出させ、同時にガラス転移温度が80℃以上150℃以下である第2のポリマー溶液を第2のノズル孔から吐出させる吐出工程と、
前記第1のノズル孔から吐出された第1のポリマーと、前記第2のノズル孔から吐出された第2のポリマーとを、250℃以上350℃以下の空気により延伸する延伸工程と、
延伸された第1のポリマー及び延伸された第2のポリマーを捕集する捕集工程と、
を含むことを特徴とするセパレータの製造方法である。
<10> 第1のノズル孔と第2のノズル孔とが、一列に並んで設けられており、
前記第1のノズル孔の数と、前記第2のノズル孔の数とが、10:1~3:1である前記<9>に記載のセパレータの製造方法である。
<11> ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下であるポリマーと、ガラス転移温度が80℃以上150℃以下であるポリマーとを含有し、かつ、繊維径が5μm以下の第1の繊維と、繊維径が5μm超えの第2の繊維と、を含有することを特徴とする不織布である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、低熱収縮性に優れ、高温環境下において形状維持性を有するセパレータ及びその製造方法、安全性が高く、長寿命である電池、並びに、低熱収縮性に優れ、高温環境下において形状維持性を有する不織布を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明のセパレータの製造方法に用いられるノズルの一例を示す概略図である。
図2図2は、本発明のセパレータの製造方法に用いられるメルトブロー装置の一例を示す概略断面図である。
図3A図3Aは、試験例2-1における[PP/PC混繊不織布2]の倍率150倍のSEM画像を示す図である。
図3B図3Bは、試験例2-1における[PP/PC混繊不織布2]の倍率1,000倍のSEM画像を示す図である。
図3C図3Cは、試験例2-1における[PP不織布1]の倍率150倍のSEM画像を示す図である。
図3D図3Dは、試験例2-1における[PP不織布1]の倍率1,000倍のSEM画像を示す図である。
図4A図4Aは、試験例2-1における[PP/PC混繊不織布1]の繊維の直径のヒストグラムである。縦軸は割合(%)を示し、横軸は繊維径(μm)を示す。
図4B図4Bは、試験例2-1における[PP/PC混繊不織布2]の繊維の直径のヒストグラムである。縦軸は割合(%)を示し、横軸は繊維径(μm)を示す。
図4C図4Cは、試験例2-1における[PP/PC混繊不織布8]の繊維の直径のヒストグラムである。縦軸は割合(%)を示し、横軸は繊維径(μm)を示す。
図4D図4Dは、試験例2-1における[PP/PC混繊不織布10]の繊維の直径のヒストグラムである。縦軸は割合(%)を示し、横軸は繊維径(μm)を示す。
図4E図4Eは、試験例2-1における[PP/PC混繊不織布11]の繊維の直径のヒストグラムである。縦軸は割合(%)を示し、横軸は繊維径(μm)を示す。
図4F図4Fは、試験例2-1における[PP不織布1]の繊維の直径のヒストグラムを示す図である。縦軸は割合(%)を示し、横軸は繊維径(μm)を示す。
図5A図5Aは、試験例2-2における[PP/PC混繊不織布4]の倍率150倍のSEM画像を示す図である。
図5B図5Bは、試験例2-2における二軸延伸PETフィルムの倍率150倍のSEM画像を示す図である。
図5C図5Cは、試験例2-2における[PP/PC混繊不織布4]の倍率1,000倍のSEM画像を示す図である。
図5D図5Dは、試験例2-2における二軸延伸PETフィルムの倍率1,000倍のSEM画像を示す図である。
図5E図5Eは、試験例2-2における二軸延伸PETフィルムの倍率3,000倍のSEM画像を示す図である。
図5F図5Fは、試験例2-2における二軸延伸PETフィルムの倍率5,000倍のSEM画像を示す図である。
図6図6は、試験例3における熱収縮率の結果を示すグラフである。縦軸は熱収縮率(%)を示し、横軸は温度(℃)を示す。実線は[PP不織布1]を示し、点線は[PP/PC混繊不織布2]を示し、破線は[PP/PC混繊不織布8]を示し、一点鎖線は[PP/PC混繊不織布11]を示す。
図7A図7Aは、試験例4における熱処理前の[PP/PC混繊不織布2]の外観を示す図である。
図7B図7Bは、試験例4における12時間熱処理後の[PP/PC混繊不織布2]の外観を示す図である。
図7C図7Cは、試験例4における熱処理前の[PP不織布1]の外観を示す図である。
図7D図7Dは、試験例4における12時間熱処理後の[PP不織布1]の外観を示す図である。
図8A図8Aは、試験例5における[PP/PC混繊不織布2]の空孔径分布のヒストグラムである。縦軸は細孔径分布(%)を示し、横軸は細孔径(μm)を示す。
図8B図8Bは、試験例5における[PP/PC混繊不織布8]の空孔径分布のヒストグラムである。縦軸は細孔径分布(%)を示し、横軸は細孔径(μm)を示す。
図8C図8Cは、試験例5における[PP/PC混繊不織布11]の空孔径分布のヒストグラムである。縦軸は細孔径分布(%)を示し、横軸は細孔径(μm)を示す。
図8D図8Dは、試験例5における[PP不織布1]の空孔径分布のヒストグラムである。縦軸は細孔径分布(%)を示し、横軸は細孔径(μm)を示す。
図9A図9Aは、試験例6における初期充放電曲線の結果を示す図である。縦軸は電圧(V)を示し、横軸は容量(mAh)を示す。実線は[PP不織布1]を示し、点線は[PP/PC混繊不織布2]を示し、破線は[PP/PC混繊不織布8]を示し、一点鎖線は[PP/PC混繊不織布11]を示す。
図9B図9Bは、試験例6における容量検査の結果を示す図である。縦軸は電圧(V)を示し、横軸は容量(mAh)を示す。実線は[PP不織布1]を示し、点線は[PP/PC混繊不織布2]を示し、破線は[PP/PC混繊不織布8]を示し、一点鎖線は[PP/PC混繊不織布11]を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(セパレータ)
本発明のセパレータは、不織布を有するセパレータであって、前記不織布が、ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下であるポリマー(以下、「ポリマーA」と称することがある)と、ガラス転移温度が80℃以上150℃以下であるポリマー(以下、「ポリマーB」と称することがある)と、を含有し、かつ、繊維径が5μm以下の第1の繊維と、繊維径が5μm超えの第2の繊維とを含有する。前記セパレータは、更に必要に応じて、その他の構成を有していてもよい。
【0015】
<不織布>
前記不織布は、ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下であるポリマー(ポリマーA)と、ガラス転移温度が80℃以上150℃以下であるポリマー(ポリマーB)と、前記第1の繊維と、前記第2の繊維と、を含有する。
【0016】
<<ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下であるポリマー(ポリマーA)>>
前記ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下であるポリマーAのガラス転移温度(Tg)が、-10℃未満であると、常温で緩和しやすくなることで前記不織布の寸法維持性が低下しやすく、70℃を超えると、メルトブロー中の熱風による効率的な細化が困難である。
前記ポリマーAのガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定の変曲点により測定することができる。
【0017】
前記ポリマーAの融点(Tm)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、80℃以上300℃以下が好ましく、160℃以上200℃以下がより好ましい。前記ポリマーAの融点(Tm)が、80℃以上であると、連続繊維が形成されやすく、300℃以下であると、溶融成型が容易である。
前記ポリマーAの融点(Tm)は、示差走査熱量測定の吸熱ピークにより測定することができる。
【0018】
前記ポリマーAとしては、ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下であるポリマーであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱可塑性ポリマー、ブロックコポリマーなどが挙げられる。
【0019】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリエステル(PES)樹脂、ポリブチレン(PB)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリウレタン(PU)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、ポリ酢酸ビニル(PVAc)樹脂、アクリルニトリルスチレン(AS)樹脂、アクリル(PMMA)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂などが挙げられる。
【0020】
前記ブロックコポリマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー、スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー(ABS樹脂)などが挙げられる。
【0021】
これらのポリマーAは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記ポリマーAは、ポリプロピレン(PP)樹脂が好ましい。
【0022】
<<ガラス転移温度が80℃以上150℃以下であるポリマー(ポリマーB)>>
前記ガラス転移温度が80℃以上150℃以下であるポリマーBのガラス転移温度(Tg)は、130℃以上150℃以下が好ましい。前記ポリマーBのガラス転移温度(Tg)が、80℃未満であると、高温領域での収縮を抑制できないため、異常発熱時にシャットダウン機能を発揮できず、150℃を超えると、溶融成型が困難である。
前記ポリマーBのガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定の変曲点により測定することができる。
【0023】
前記ポリマーBの融点(Tm)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、220℃以上300℃以下が好ましい。前記ポリマーBの融点(Tm)が、220℃以上であると、骨格材として機能する繊維が形成されやすく、300℃以下であると、溶融成型が容易である。
前記ポリマーBの融点(Tm)は、示差走査熱量測定の吸熱ピークにより測定することができる。
【0024】
前記ポリマーBとしては、ガラス転移温度が80℃以上150℃以下であるポリマーであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エンジニアリング・プラスチック(エンプラ)に属する樹脂、スーパー・エンジニアリング・プラスチック(スーパーエンプラ)に属する樹脂などが挙げられる。
【0025】
前記エンプラに属する樹脂としては、例えば、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアミド46(PA46)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂(ナイロン等)、ポリアセタール(POM)樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート樹脂、環状ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。
【0026】
前記スーパーエンプラに属する樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリサルホン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルフォン(PES)樹脂、非晶ポリアリレート(PAR)樹脂、液晶ポリマー(LCP)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂等などが挙げられる。
【0027】
これらのポリマーBは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記ポリマーBは、ポリカーボネート(PC)樹脂が好ましい。
【0028】
<<第1の繊維>>
前記第1の繊維は、繊維径が5μm以下の繊維である。前記不織布が、前記第1の繊維を含有することにより、不織布の密度を高くすることができ、マイクロショートが起きることを防止することができる。
【0029】
前記第1の繊維の繊維径は、5μm以下であるが、0.1μm以上5μm以下が好ましい。前記第1の繊維の繊維径が、5μmを超えると、マイクロショートの原因となることがある。また、前記第1の繊維の繊維径が、0.1μm以上であると、空孔が形成されやすく、セパレータとして作用しやすくなる点で好ましい。
前記第1の繊維の繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して測定することができる。
【0030】
前記第1の繊維の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下であるポリマー(ポリマーA)を含有することが好ましく、ポリプロピレンを含有することがより好ましい。また、前記第1の繊維は、前記ポリマーAからなるものであってもよい。
【0031】
<<第2の繊維>>
前記第2の繊維は、繊維径が5μm超えである。前記第2の繊維は、前記不織布において骨格剤として機能し、前記セパレータに、低熱収縮性、高温環境下における形状維持性、及び耐衝撃性を付与することができる。即ち、前記セパレータが電池に使用され、前記電池で異常発熱が発生した場合において、前記第1の繊維が溶融してしまっても、前記第2の繊維は溶融することなくセパレータとしての形状を維持することができるため、安全性が高く、長寿命の電池とすることができる。
【0032】
前記第2の繊維の繊維径は、5μm超えであるが、5μm超え30μm以下が好ましい。前記第2の繊維の繊維径が、5μm以下であると、骨格材として作用することが困難となる。また、前記第2の繊維の繊維径が、30μm以下であると、前記第1の繊維の緻密性が向上する点で好ましい。
前記第2の繊維の繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して測定することができる。
【0033】
前記第2の繊維の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記ガラス転移温度が80℃以上150℃以下であるポリマー(ポリマーB)を含有することが好ましく、ポリカーボネートを含有することがより好ましい。また、前記第2の繊維は、前記ポリマーBからなるものであってもよい。
【0034】
前記第1の繊維の配向方向と、前記第2の繊維の配向方向としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記第1の繊維の配向方向と、前記第2の繊維の配向方向とが異なることが、低熱収縮性、高温環境下における形状維持性、及び耐衝撃性に優れる点で好ましい。
更に、複数の前記第1の繊維の配向方向同士がランダムに配向されており、また複数の前記第2の繊維の配向方向がランダムに配向されており、かつ、複数の前記第1の繊維の配向方向と、複数の前記第2の繊維の配向方向とがランダムに配向されていることが、低熱収縮性、高温環境下における形状維持性、及び耐衝撃性により優れる点で特に好ましい。
【0035】
前記不織布における前記第1の繊維と、前記第2の繊維の体積比(第1の繊維:第2の繊維)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50:50~99:1が好ましく、70:30~90:10がより好ましい。
【0036】
前記不織布の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.025mm~5mmが好ましく、0.02mm~2mmがより好ましく、0.02mm~1mmが更に好ましい。前記不織布の平均厚みが、前記好ましい範囲であると、リチウムデンドライトを好適に抑制することができる。
前記不織布の厚みは、ISO 9073-2に準拠して測定することができる。本明細書では、前記不織布の任意に選択した10点における厚みの測定値の平均値を「平均厚み」とする。
【0037】
従来の二軸延伸ポリエチレンフィルムセパレータは、孔が裏表に貫通した形状であり、リチウムデンドライトが形成されやすい構造であるという問題があった。これに対し、前記不織布は、孔が連続的ではなく、孔が流路のようにいくつにも枝分かれした構造となっている。このように、前記不織布は、リチウムデンドライトの成長進行方向に対して孔の進度が直進ではないため、リチウムデンドライトの成長抑制作用を有する点で有利である。また、前記不織布は、リチウムデンドライトを抑制するための流路を確保する点から、ある程度の厚みがあることが好ましく、前記平均厚みの好ましい範囲において好適に用いられる。
【0038】
前記不織布の平均目付としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、4g/m~100g/mが好ましい。前記不織布の平均目付が、前記好ましい範囲であると、リチウムデンドライトを好適に抑制することができる。
前記不織布の目付は、ISO 9073-1に準拠して測定することができる。本明細書では、前記不織布の任意に選択した10点における目付の測定値の平均値を「平均目付」とする。
【0039】
前記不織布の熱収縮率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20℃における熱収縮率を0%とした場合、130℃以下における熱収縮率が、3%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。
【0040】
前記不織布の熱収縮率は、熱機械的分析装置(例えば、TMA/SS6100、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて測定することができる。具体的には、熱処理前の20℃における試験試料の長さを測定し、初期長さ「L」とする。前記試験試料を20℃から、5℃/分間で200℃まで昇温した後、試験片の長さを測定し、熱処理後長さ「L」とし、下記式(1)に基づき熱収縮率(TS)を算出する。
熱収縮率(TS)(%)=(1-(L/L))×100 ・・・ 式(1)
【0041】
電池の安全性及び長寿命化の観点から、電池に異常発熱が生じた際、高温(約120℃)に達する前の初期の異常発熱に対するシャットダウン性を有することが重要である。そのため、セパレータの熱収縮においては、熱収縮が生じる最大温度ではなく、熱収縮が生じる最小温度が重要である。前記不織布は、130℃以下における熱収縮率が3%以下であるため、初期の異常発熱(約60℃~80℃)に対するシャットダウン性を有し、かつ、高温(130℃)での異常発熱に対するシャットダウン性も有する点で有利である。
【0042】
前記不織布の空孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リチウムデンドライトが形成し難い点から小さい程好ましい。
したがって、前記不織布の最大空孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20μm~40μmが好ましい。前記不織布の最大空孔径が前記好ましい範囲であると、前記セパレータを電池に利用した場合、導電性を十分に高くすることができる。
【0043】
前記不織布の最小空孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2μm~5μmが好ましい。前記不織布の最小空孔径が前記好ましい範囲であると、前記セパレータを電池に利用した場合、放電容量を十分に高くすることができる。
【0044】
前記不織布の平均空孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm~15μmが好ましい。前記不織布の平均空孔径が前記好ましい範囲であると、前記セパレータを電池に利用した場合、導電性を十分に高くすることができ、かつ放電容量を十分に高くすることができる。
【0045】
前記不織布の最大空孔径、最小空孔径、及び平均空孔径は、薄膜・多孔質素材評価装置(例えば、パームポロメーター、PMI社製)を用いて測定することができる。
【0046】
従来の二軸延伸ポリエチレンフィルムセパレータは、空孔径が大きく、空孔径分布が小さいと放電容量が増加するものであった。二軸延伸フィルムは緻密な構造をしており、空孔径分布を小さくするという面では非常に優れている。しかしながら、空孔径がとても小さいことから電池特性を低下させるという問題があった。これに対し、前記不織布を有する本発明のセパレータは、大きな空孔径を有するものであり、電池特性に優れるものである。
【0047】
前記セパレータの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、メルトブロー(MB)法で製造されることが好ましく、例えば、米国特許第3650866号,米国特許第3978185号に記載の方法を用いることができるが、後述する本発明のセパレータの製造方法により製造されることが特に好ましい。
【0048】
(セパレータの製造方法)
本発明のセパレータの製造方法は、吐出工程と、延伸工程と、捕集工程とを含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。前記セパレータの製造方法は、メルトブロー(MB)法により行われることが好ましい。
【0049】
<吐出工程>
前記吐出工程は、ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下である第1のポリマー溶液を第1のノズル孔から吐出させ、同時にガラス転移温度が80℃以上150℃以下である第2のポリマー溶液を第2のノズル孔から吐出させる工程である。
【0050】
前記第1のポリマー溶液における前記ポリマー原料としては、ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下であるポリマーであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記(セパレータ)の<不織布>の<<ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下であるポリマー(ポリマーA)>>の項目に記載のものと同様のものを使用することができる。
【0051】
前記第1のポリマー溶液を調製する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、温度をかけて溶融する方法などが挙げられる。
【0052】
また、前記第1のポリマー溶液は、メルトブロー装置の第1のポリマー溶液用原料タンク内で、一定の温度条件下で撹拌されて均一な溶液とされることが好ましい。
【0053】
前記温度としては、特に制限はなく、前記第1のポリマー溶液のポリマー原料の融点に応じて、適宜選択することができるが、150℃以上250℃以下が好ましく、200℃以上250℃以下がより好ましい。
【0054】
前記撹拌方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、単軸で、55rpm~135rpmで撹拌されることが好ましい。
【0055】
前記第1のポリマー溶液の吐出量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.03g/分間/孔~0.2g/分間/孔が好ましい。前記第1のポリマー溶液の吐出量が、0.03g/分間/孔以上又は0.2g/分間/孔以下であると、不織布における第1の繊維の繊維径を5μm以下とすることができる。
【0056】
前記第2のポリマー溶液における前記ポリマー原料としては、ガラス転移温度が80℃以上150℃以下であるポリマーであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記(セパレータ)の<不織布>の<<ガラス転移温度が80℃以上150℃以下であるポリマー(ポリマーB)>>の項目に記載のものと同様のものを使用することができる。
【0057】
前記第2のポリマー溶液を調製する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、温度をかけて溶融する方法などが挙げられる。
【0058】
また、前記第2のポリマー溶液は、メルトブロー装置の第2のポリマー溶液用原料タンク内で、一定の温度条件下で撹拌されて均一な溶液とされることが好ましい。
【0059】
前記温度としては、特に制限はなく、前記第2のポリマー溶液のポリマー原料の融点に応じて、適宜選択することができるが、200℃以上300℃以下が好ましい。
【0060】
前記撹拌方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、二軸で、55rpm~135rpmで撹拌されることが好ましい。
【0061】
前記第2のポリマー溶液の吐出量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1g/分間/孔~2g/分間/孔が好ましい。前記第2のポリマー溶液の吐出量が、0.1g/分間/孔以上又は2g/分間/孔以下であると、不織布における第2の繊維の繊維径を5μm超えとすることができる。
【0062】
前記第1のポリマー溶液の吐出量と、前記第2のポリマー溶液の吐出量との体積比(第1のポリマー溶液:第2のポリマー溶液)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記第1のポリマー溶液の吐出量:前記第2のポリマー溶液の吐出量が、50:50~90:10が好ましく、70:30~99:1がより好ましい。
【0063】
前記第1のノズル孔の孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1mm~0.5mmが好ましい。前記第1のノズル孔の孔径が、0.1mm以上であると、不織布における第1の繊維の繊維径を5μm以下とすることができ、0.5mm以下であると、吐出樹脂圧力が高くなりすぎず所望の吐出樹脂圧力とすることができる。
【0064】
前記第2のノズル孔の孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5mm~2.0mmが好ましい。前記第2のノズル孔の孔径が、0.5mm以上であると、不織布における第2の繊維の繊維径を5μm超えとすることができ、2.0mm以下であると、吐出樹脂圧力が高くなりすぎず所望の吐出樹脂圧力とすることができる。
【0065】
前記第1のノズル孔と前記第2のノズル孔とは、一列に並んで設けられていることが好ましい。
この場合、前記第1のノズル孔の数と、前記第2のノズル孔の数との比率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、第1のノズル孔の数:第2のノズル孔の数が、10:1~3:1あることが好ましく、6:1であることがより好ましい。
【0066】
また、前記第1のノズル孔と前記第2のノズル孔とが一列に並んで設けられる場合、前記第1のノズル孔と前記第2のノズル孔の配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記第1のノズル孔と、前記第2のノズル孔を有するノズルが、前記比率の第1のノズル孔及び第2のノズル孔の繰り返し単位を、10個~100個有することが好ましく、30個~50個有することがより好ましい。
【0067】
前記第1のノズル孔同士のピッチとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.3mm~1.5mmが好ましい。前記第1のノズル孔同士のピッチが、0.3mm以上又は1.5mm以下であると、前記不織布の空孔径が小さくなりにくく、適度に調整することができ、また繊維同士が融着しにくい。
【0068】
前記第1のノズル孔と、前記第2のノズル孔とのピッチとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5mm~2.5mmが好ましい。前記第2のノズル孔同士のピッチが、0.5mm以上又は2.5mm以下であると、前記不織布の空孔径が小さくなりにくく、適度に調整することができ、また、繊維同士が融着しにくい。
【0069】
以下に、前記ノズルの一例を、図面を用いて説明するが、本発明のセパレータの製造方法は、これに限られるものではない。
図1は、前記セパレータの製造方法に用いられるノズルの一例を示す概略図である。ノズル100は、3個の連続して配列された第1のノズル孔10と、1個の第2のノズル孔11と、3個の連続して配列された第1のノズル孔10とがこの順で配列された構成単位を有し、前記構成単位(第1のノズル孔の数:第2のノズル孔の数:第1のノズル孔の数=3:1:3)のノズル孔を35単位繰り返す構成となっている。
前記ノズル100を構成する材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウムなどが挙げられる。
【0070】
<延伸工程>
前記延伸工程は、前記第1のノズル孔から吐出された第1のポリマーと、前記第2のノズル孔から吐出された第2のポリマーとを、250℃以上350℃以下の空気により延伸する工程である。
【0071】
前記空気の温度は、250℃以上350℃以下である。前記空気の温度が、250℃未満であると、吐出樹脂圧力が高くなり、所望の繊維径の繊維が得られず、350℃を超えると、樹脂のゲル化が促進し、劣化することや、不織布のコレクタからの剥離性が悪くなり、安定的に製造することができない。
【0072】
前記空気の流量(AFR)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50m/時間~400m/時間が好ましく、150m/時間~250m/時間がより好ましい。
【0073】
<捕集工程>
前記捕集工程は、延伸された第1のポリマー及び延伸された第2のポリマーを捕集する工程である。前記捕集は、巻き取り可能なコレクタにより行われることが好ましい。
【0074】
前記コレクタの巻き取り速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1m/分間~60m/分間が好ましく、6m/分間~20m/分間がより好ましい。前記コレクタの巻き取り速度により、前記不織布の厚みを調整することができる。
【0075】
前記第1のノズルと前記第2のノズルのノズル面と、前記コレクタとの距離としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100mm~500mmが好ましく、200mm~400mmがより好ましい。
【0076】
前記捕集を行う方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、空気で吸引する方法が好ましい。
前記空気で吸引する際の吸引量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1,000rpm~5,000rpmが好ましく、2,000rpm~3,500rpmがより好ましい。
【0077】
<その他工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乾燥工程、厚み調製工程などが挙げられる。
【0078】
<<乾燥工程>>
前記乾燥工程は、前記捕集工程で作製された不織布を乾燥させる工程である。
前記乾燥の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0079】
<<厚み調製工程>>
前記厚み調製工程は、前記捕集工程で作製された不織布又は前記乾燥工程で乾燥させた不織布の厚みを調製する工程であり、具体的には、前記不織布の厚みを薄くする工程である。
【0080】
前記不織布の厚みを薄くする方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カレンダ加工処理、ヒートプレス処理などが挙げられる。
【0081】
前記カレンダ加工処理は、少なくとも2個の金属ロールの組み合わせからなるカレンダ機構を利用するものであり、具体的には前記不織布を2個の金属ロールの間に挟持し、原料樹脂のガラス転移温度(Tg)以上の温度条件及び前記不織布の構成繊維の潰れが抑制されるように調整された加圧条件下においてカレンダ加工処理される。
【0082】
前記金属カレンダロールとしては、通常使用されるものを採用することができるが、特に鋼及び鋼と同等の合金材料のものが好ましい。
カレンダの形式とロールの配列として、逆L形、Z形、直立2本形等(実用プラスチック用語辞典第151頁、株式会社プラスチックス・エージ発行)を採用することもできる。
【0083】
前記ロールの線圧としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、200N/mm以下が好ましく、30N/mm~170N/mmがより好ましく、50N/mm~150N/mmが更に好ましい。
【0084】
前記ヒートプレス処理としては、特に制限はなく、公知の装置を用いて行うことができる。
【0085】
前記セパレータの製造方法は、公知のメルトブロー装置を用いて行うことができる。
以下に、前記セパレータの製造方法に用いられるメルトブロー装置の一例を、図面を用いて説明するが、本発明のセパレータの製造方法は、これに限られるものではない。
図2は、前記セパレータの製造方法に用いられるメルトブロー装置の一例を示す概略断面図である。メルトブロー装置200は、第1のポリマー溶液用原料タンク20と、第2のポリマー溶液用原料タンク21と、ノズル100と、コレクタ22とを備える。第1のポリマー溶液用原料タンク20で溶融された第1のポリマー溶液は、第1のポリマー溶液供給経路23を通過し、ノズル100に搬送される。また、これと同時に、第2のポリマー溶液用原料タンク21で溶融された第2のポリマー溶液は、第2のポリマー溶液供給経路24を通過し、ノズル100に搬送される。ノズル100から同時に吐出された第1のポリマー溶液及び第2のポリマー溶液からなる混繊25は、高圧の空気Aにより延伸され、空気吸引部26によってコレクタ22に堆積される。その後、コレクタ22において、コンベア27が所定の搬送速度で堆積した樹脂を矢印方向に搬送することにより、長尺の不織布28となる。
【0086】
(電池)
本発明の電池は、本発明のセパレータを有し、更に必要に応じて、その他の構成を有する。前記電池は、リチウムイオン電池であることが好ましい。
なお、本明細書において、「リチウムイオン電池」とは、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行う電池であって充電可能なものをいう。
【0087】
前記リチウムイオン電池は、セパレータとして本発明のセパレータを用いること以外は、一般に知られているリチウムイオン電池と同様の構成を有する。
具体的には、前記リチウムイオン電池は、セパレータ以外に、正極、負極、電解質(電解液)、及び外装を備える。
前記正極、前記負極、前記電解質、及び前記外装としては、特に制限はなく、リチウムイオン電池で使用可能なものであれば、全て利用可能である。
【0088】
<正極>
前記正極としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、活物質(例えば、リチウム遷移金属酸化物等)、導電材(例えば、カーボンブラック等)、バインダー(例えば、高分子物質等)などを含むものを用いることができる。
【0089】
<負極>
前記負極としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、活物質(代表的には、黒鉛)、導電材、バインダーなどを含むものを用いることができる。
【0090】
<電解質>
前記電解質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等のリチウム塩と溶媒とを含むものを用いることができる。
前記溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、又はこれらの混合溶媒などが挙げられる。
また、前記電解質は、電解質をゲル化させるための高分子物質(ポリマー)を含んでいてもよい。
【0091】
<外装>
前記外装としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属缶(スチール缶、アルミ缶等)、アルミラミネートフィルムパックなどが挙げられる。
【0092】
前記電池の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記正極、前記負極、前記セパレータ、及び前記電解質を、適切な形状に積層することにより製造される。更に、必要に応じて外装缶等の他の構成部材を用いることも可能である。
【0093】
前記正極及び前記負極の積層方法としては、特に制限はなく、通常採用されている方法の中から適宜選択することができ、多層積層したもの、集電体の両面に積層したものを組み合わせたもの、巻回したものなどが挙げられる。
【0094】
前記電池の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、コイン型、円筒状、角形、シート型、ボタン型などが挙げられる。
【0095】
本発明の電池は、低熱収縮性に優れ、高温環境下において形状維持性を有する本発明のセパレータを有するため、安全性が高く、長寿命のものである。
【0096】
(不織布)
本発明の不織布は、ガラス転移温度が-10℃以上70℃以下であるポリマー(ポリマーA)と、ガラス転移温度が80℃以上150℃以下であるポリマー(ポリマーB)と、を含有し、かつ、繊維径が5μm以下の第1の繊維と、繊維径が5μm超えの第2の繊維とを含有し、更に必要に応じて、その他の構成を有する。
【0097】
本発明の不織布は、前記(セパレータ)の<不織布>の項目に記載の通りであり、詳細は省略する。
【0098】
前記不織布の用途としては、前述のセパレータとして好適であるが、これに限られるものではなく、衣料用(例えば、衣料用芯地、ブラジャーカップ用芯、肩パット、イベントジャンパー等)、防護衣料用(例えば、実験着、防塵マスク等)、家具又はインテリア用(例えば、カーペット、カーペット基布等)、フィルター(例えば、エアフィルター、液体フィルター等)、車両用(例えば、フロアマット等自動車内装材、自動車用各種フィルター等)、工業用資材(例えば、研磨材、製紙用フェルト、電線押さえ巻テープ等)、土木又は建築用(例えば、吸出し防止材、遮水材、ルーフィング、結露シート等)、農業用(例えば、ビニルハウスシート、遮光シート、べたがけシート等)、生活用(例えば、収納袋、風呂敷、スーツカバー、ティーバッグ、水切りシート、掃除用ワイパー等)、医療用(例えば、手術着、覆布セット、お産用パット、キャップ等)、衛生用(例えば、紙おむつ、生理用ナプキン、ガーゼ、ウェットティッシュ等)など、一般的な不織布用途として幅広く利用可能である。
【実施例0099】
以下に実施例、比較例、及び試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例及び試験例に何ら限定されるものではない。
【0100】
(実施例1:PP/PC混繊不織布1の作製)
下記条件に設定した溶融式複合型不織布製造装置(型式:MB-0300、日本ノズル株式会社製;図2参照)に、下記構成を有する異径混繊紡糸ノズル(図1参照)を取り付け、下記樹脂原料を用いて、孔径0.3mmの吐出孔からポリプロピレン(PP)樹脂を吐出し、孔径0.7mmの吐出孔からポリカーボネート(PC)樹脂吐出して[PP/PC混繊不織布1]を作製した。
[装置]
・ノズル角度(α):60°
・セットバック距離(ds):0mm
・エアギャップ距離(da):0.5mm
・リップ間距離:1mm
・リップ高さ:1.4mm
・PP用樹脂タンク温度(溶融温度):180℃
・PC用樹脂タンク温度(溶融温度):250℃
[ノズル]
・幅400mmであり、孔径0.3mmの吐出孔が6孔と、孔径0.7mmの吐出孔が1孔からなる繰返し単位が35単位配置されてなる。
・孔径0.3mmの吐出孔のピッチ:1.1mm
・孔径0.7mmの吐出孔と、孔径0.3mmの吐出孔とのピッチ:2.2mm
[樹脂原料]
・ポリプロピレン(PP)樹脂(プライムポリプロ(登録商標)S13B、株式会社プライムポリマー製、MFR 700g/10分間、ガラス転移温度:-10℃、融点:170℃)
・ポリカーボネート(PC)樹脂(Iupilon(登録商標)HL-7001、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、MFR 113g/10分間、ガラス転移温度:130℃、流動温度:220℃)
なお、PC樹脂は、樹脂乾燥装置(P-30CDBS、株式会社カワタ製)を用い、120℃にて12時間かけて乾燥したものを用いた。
[条件]
・コンベア速度:6.0m/分間
・熱風流量(AFR):200m/時間
・熱風温度:280℃
・ダイ-コレクタ間距離(DCD):250mm
・空気吸引(AS):3,500rpm
・PP吐出量:0.17g/分間/孔
・ノズル1孔におけるPP体積:0.18cm/mm/孔
・PP総体積:37.5cm/分間
・PP(単軸)ギヤポンプ(GP)1:12.5rpm
・PP(単軸)ギヤポンプ(GP)2:5rpm
・PC吐出量:1.80g/分間/孔
・ノズル1孔におけるPC体積:1.50cm/mm/孔
・PC総体積:52.5cm/分間
・PC(二軸)ギヤポンプ(GP)1:17.5rpm
・PC(二軸)ギヤポンプ(GP)2:2.5rpm
【0101】
(実施例2~12:PP/PC混繊不織布2~12の作製)
実施例1において、[条件]を下記表1-1及び表1-2に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2~12の[PP/PC混繊不織布2]~[PP/PC混繊不織布12]を作製した。
【0102】
(比較例1~3:PP不織布1~3の作製)
実施例1において、[樹脂原料]をポリプロピレン(PP)樹脂単独に変更し、[条件]を下記表1-1及び表1-2に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1~3の[PP不織布1]~[PP不織布3]を作製した。
【0103】
【表1-1】
【0104】
【表1-2】
【0105】
(試験例1:目付及び厚み測定)
[PP/PC混繊不織布1]~[PP/PC混繊不織布12]及び[PP不織布1]~[PP不織布3]について、ISO 9073-1に準拠して目付を測定し、ISO 9073-2に準拠して厚みを測定した。目付及び厚みは、それぞれ任意に選択した10点について測定し、10点の平均値を算出し、平均目付及び平均厚みとした。結果を下記表2に示す。
【0106】
【表2】
【0107】
表2より、PP/PC混繊不織布の平均目付及び平均厚みは、PP不織布と比較して高い値であることが分かった。
【0108】
(試験例2-1:繊維径の測定)
[PP/PC混繊不織布1]、[PP/PC混繊不織布2]、[PP/PC混繊不織布8]、[PP/PC混繊不織布10]、[PP/PC混繊不織布11]、及び[PP不織布1]を幅10mm、長さ10mmに裁断し、試料片を作製した。なお、試験片における「長さ」は、不織布の製造時の流れ方向(MD)を示し、「幅」は前記MDに対して直行する方向(CD)である。以下の物性値の測定又は観察においても同様である。
【0109】
走査型電子顕微鏡(SEM)(3Dリアルサーフェスビュー顕微鏡 VE-9800S、KEYENCE社製)を用いて前記試料片の観察を行い、各不織布を構成する繊維の直径を測定した。この際、観察は、不織布の製造時のコレクタ側の面のMD及びCDの両方向を観察した。また、試料片から撮像点を無作為に16箇所選び、1箇所につき倍率50倍、150倍、及び1,000倍の3条件でSEM画像を撮像した。SEM画像の一例として、図3Aに[PP/PC混繊不織布2]の倍率150倍のSEM画像、図3Bに[PP/PC混繊不織布2]の倍率1,000倍のSEM画像、図3Cに[PP不織布1]の倍率150倍のSEM画像、及び図3Dに[PP不織布1]の倍率1,000倍のSEM画像を示す。
【0110】
倍率1,000倍のSEM画像16枚について、1枚当たり10点~30点を任意に選択し、合計200点に到達するまで直径を測定した。倍率1,000倍のSEM画像から測定した[PP/PC混繊不織布1]の繊維の直径のヒストグラムを図4Aに、[PP/PC混繊不織布2]の繊維の直径のヒストグラムを図4Bに、[PP/PC混繊不織布8]の繊維の直径のヒストグラムを図4Cに、[PP/PC混繊不織布10]の繊維の直径のヒストグラムを図4Dに、[PP/PC混繊不織布11]の繊維の直径のヒストグラムを図4Eに、[PP不織布1]の繊維の直径のヒストグラムを図4Fに示す。
【0111】
図4A図4Eより、PP/PC混繊不織布は、5μm以下の繊維と、5μm超え30μm以下の繊維を有することが分かった。一方、図4Fより、PPのみからなる不織布は、殆どの繊維が5μm以下の繊維であった。これより、PP/PC混繊不織布における5μm超えの繊維は、PCからなる繊維であると推察された。
【0112】
(試験例2-2:二軸延伸PETフィルムと不織布と繊維の比較)
実施例の不織布と、従来セパレータとして使用されてきた二軸延伸PETフィルムとを比較するために、走査型電子顕微鏡(SEM)による構造観察を行った。
[PP/PC混繊不織布4]及び二軸延伸PETフィルム(東レ株式会社製)を幅10mm、長さ10mmに裁断し、試料片を作製した。
【0113】
走査型電子顕微鏡(SEM)(3Dリアルサーフェスビュー顕微鏡 VE-9800S、KEYENCE社製)を用いて前記試料片の観察を行った。観察は、[PP/PC混繊不織布4]について、150倍及び1,000倍でSEM画像を撮像し、また、二軸延伸PETフィルムについて、150倍、1,000倍、3,000倍、及び5,000倍でSEM画像を撮像した。
【0114】
図5Aに[PP/PC混繊不織布4]の倍率150倍のSEM画像、図5B二軸延伸PETフィルムの倍率150倍のSEM画像、図5Cに[PP/PC混繊不織布4]の倍率1,000倍のSEM画像、図5Dに軸延伸PETフィルムの倍率1,000倍のSEM画像、図5Eに二軸延伸PETフィルムの倍率3,000倍のSEM画像、及び図5Fに二軸延伸PETフィルムの倍率5,000倍のSEM画像を示す。
【0115】
図5B及び図5D図5Fより、二軸延伸PETフィルムの構造は、倍率150倍及び1,000倍では把握できず、3,000倍でようやく空孔を観察することができた。これに対し、図5A及び図5Cより、[PP/PC混繊不織布4]は、倍率150倍及び1,000倍で繊維の1本1本が確認できた。このことから、二軸延伸PETフィルムは、[PP/PC混繊不織布4]より緻密な構造をしていることが分かった。また、二軸延伸PETフィルムは、倍率5,000倍のSEM画像(図5F)より、引き延ばされた裂け目から穴が開いている様子が観察された。このような穴周辺の引き延ばされた部分は、加熱時に縮みやすくなる。一方、[PP/PC混繊不織布4]は、穴は大きいが、1本1本の繊維の融着が少なく、また異方性も小さかった。これより、加熱時に、細いPP繊維はその場で溶融し、この際、各繊維同士が体積収縮しようとするわずかな力を太いPC繊維が阻害するため、後述する熱収縮測定の結果で示すように、極めて小さい収縮率を実現していると考えられる。
【0116】
(試験例3:熱収縮性の測定)
[PP/PC混繊不織布2]、[PP/PC混繊不織布8]、[PP/PC混繊不織布11]、及び[PP不織布1]を幅3mm、長さ10mmに裁断し、試料片を作製した。
20℃にて、熱機械的分析装置(TMA/SS6100、株式会社日立ハイテクサイエンス製)に前記試験片を取り付け、該試験片に10mNの荷重をかけ、たるみのない状態とした。この際、試験片の長さを測定し、初期長さ「L」とした。前記試験片を20℃から、5℃/分間で200℃まで昇温した後、試験片の長さを測定し、熱処理後長さ「L」とし、下記式(1)に基づき熱収縮率(TS)を算出した。結果を図6に示す。
熱収縮率(TS)(%)=(1-(L/L))×100 ・・・ 式(1)
【0117】
図6より、PP/PC混繊不織布は、PP不織布と比較して熱安定性に優れることが分かった。
【0118】
(試験例4:自由端熱処理)
[PP/PC混繊不織布2]、[PP/PC混繊不織布8]、[PP/PC混繊不織布11]、及び[PP不織布1]を幅100mm、長さ100mmに裁断し、試料片を作製した。
前記試料片を、樹脂乾燥装置(P-30CDBS、株式会社カワタ製)を用い、100℃にて3時間又は12時間熱処理した。
熱処理前の試験片と、熱処理後の試験片を、それぞれ同一の距離からデジタルカメラを用いて撮影し、外観を観察した。
【0119】
熱処理前の[PP/PC混繊不織布2]の外観を図7Aに、12時間熱処理後の[PP/PC混繊不織布2]の外観を図7Bに、熱処理前の[PP不織布1]の外観を図7Cに、及び12時間熱処理後の[PP不織布1]の外観を図7Dに示す。12時間の熱処理では、[PP/PC混繊不織布2]と比較すると、[PP不織布1]の方が収縮していた。
【0120】
また、100℃にて3時間又は12時間熱処理したものについて、外観の撮影画像から、画像処理ソフト(Image-J、オープンソース)を用いて二値化処理を行った。熱処理前の試験片に由来するピクセル数を「A」とし、熱処理後の試験片に由来するピクセル数を「A」として、下記式(2)に基づき試験片の面積の減少率を算出した。100℃にて3時間熱処理した結果を下記表4-1に、100℃にて12時間熱処理した結果を下記表4-2に示す。
減少率(%)=(1-(A/A))×100 ・・・ 式(2)
【0121】
【表4-1】
【0122】
【表4-2】
【0123】
前記減少率は、熱収縮率と同等の結果と考えられる。表4-1及び表4-2より、高温におけるPP/PC混繊不織布の低熱収縮性及び形状維持性が確認された。
【0124】
(試験例5:空孔径及び空孔径分布の測定)
[PP/PC混繊不織布2]、[PP/PC混繊不織布8]、[PP/PC混繊不織布11]、及び[PP不織布1]を直径20mmの円形に裁断し、試料片を作製した。
薄膜・多孔質素材評価装置(パームポロメーター、PMI社製)を用いて前記試験片の空孔径及び空孔径分布を測定した。この際、観察は、不織布の製造時のコレクタ側の面のMD及びCDの両方向を測定した。結果を下記表5に示す。また、[PP/PC混繊不織布2]の空孔径分布のヒストグラムを図8Aに、[PP/PC混繊不織布8]の空孔径分布のヒストグラムを図8Bに、[PP/PC混繊不織布11]の空孔径分布のヒストグラムを図8Cに、[PP不織布1]の空孔径分布のヒストグラムを図8Dに示す。また、下記表5に、[PP/PC混繊不織布2]、[PP/PC混繊不織布8]、[PP/PC混繊不織布11]、及び[PP不織布1]の最大空孔径、最小空孔径、平均空孔径、及び変動係数の結果を示す。
【0125】
【表5】
【0126】
表5、並びに、図8A図8Dより、PP/PC混繊不織布は、PP不織布と比較して空孔径が大きく、また空孔径分布も大きいことが分かった。
【0127】
(試験例6:電池特性の測定)
[PP/PC混繊不織布2]、[PP/PC混繊不織布8]、[PP/PC混繊不織布11]、及び[PP不織布1]を直径18.5mmの円形に裁断し、試料片を作製した。この試験片をセパレータとして用い、以下の方法で電池を作製し、以下の方法で電池特性の測定を行った。
【0128】
-二次電池の作製-
水分濃度5ppm以下に管理された、ドライルーム中にて、コインセルの構成部材であるケース下部にガスケットをはめ、正極を配置し、電解液150mLを加えた。この上に前記セパレータを積層し、更に電解液150mLを加えた。更に、負極、スペーサー、ウェーブワッシャー、及びケース上部をこの順に重ね、かしめ機により密閉してコインセル(リチウムイオン二次電池)を製造した。
【0129】
前記コインセルの各構成部材は以下の通りである。
[コインセルの構成部材]
・正極:直径14mmのリン酸鉄リチウム正極電極(積水化学株式会社製)
・負極:直径16mmの黒鉛負極(積水化学株式会社製)
・電解液:電解質 1質量%六フッ化リン酸リチウム(LiPF)溶液(EC:DEC:DMC=4:3:3、体積比)を加え均一に混合したもの。
・ガスケット:ガスケットPP(有限会社タクミ技研製)
・スペーサー:SUS316L(有限会社タクミ技研製)
・ウェーブワッシャー:SUS316L(有限会社タクミ技研製)
・ケース:SUS316L(有限会社タクミ技研製)
【0130】
-充放電試験-
作製した各コインセルについて、下記条件1により充電及び放電を行い、初期充放電容量(mAh)の測定を行った。結果を図9Aに示す。
次に、作製した各コインセルについて、下記条件2により充電及び放電を行い、容量検査(mAh)の測定を行った。結果を図9Bに示す。
[条件1]
・ 充電条件:0.1C、終止電圧3.6V
・ 放電条件:0.2C、終止電圧2.5V
[条件2]
・ 充電条件:0.3C、終止電圧3.6V
・ 放電条件:0.3C、終止電圧2.5V
なお、1Cレート(定電流)とは、二次電池の全容量を1時間かけて充電又は放電する電流値である。
【0131】
図9A及び図9Bより、[PP/PC混繊不織布2]、[PP/PC混繊不織布8]、[PP/PC混繊不織布11]、又は[PP不織布1]をセパレータとして用いた場合、いずれにおいても充放電が可能であり、0.2C及び0.3Cにおける放電性能にはあまり差がないことが分かった。
【符号の説明】
【0132】
100 ノズル
200 メルトブロー装置
10 第1のノズル孔
11 第2のノズル孔
20 第1のポリマー溶液用原料タンク
21 第2のポリマー溶液用原料タンク
22 コレクタ
23 第1のポリマー溶液供給経路
24 第2のポリマー溶液供給経路
25 第1のポリマー溶液及び第2のポリマー溶液からなる混繊
26 空気吸引部
27 コンベア
28 不織布
A 空気
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B