(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108380
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】セラミクス粉体処理方法及び蒸着方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/00 20060101AFI20230728BHJP
C23C 16/02 20060101ALI20230728BHJP
B01J 2/00 20060101ALI20230728BHJP
B02C 17/08 20060101ALI20230728BHJP
B02C 17/20 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
C23C14/00 A
C23C16/02
B01J2/00 B
B02C17/08
B02C17/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009476
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】520373648
【氏名又は名称】有限会社湘南技研
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】伊沢 頼昭
(72)【発明者】
【氏名】佐田谷 真治
(72)【発明者】
【氏名】池田 博之
【テーマコード(参考)】
4D063
4G004
4K029
4K030
【Fターム(参考)】
4D063FF04
4D063FF14
4D063FF35
4D063GA05
4D063GB05
4D063GC32
4D063GD02
4D063GD22
4G004BA00
4K029AA04
4K029AA07
4K029AA22
4K029BA01
4K029CA01
4K029CA03
4K029CA05
4K029DB18
4K029DB21
4K029DD06
4K029FA01
4K029FA06
4K030CA05
4K030CA18
4K030DA02
(57)【要約】
【課題】粉体に含まれたセラミクス粒子の表面に蒸着物質を効率よく付着させることができるセラミクス粉体処理方法及び蒸着方法を提供する。
【解決手段】セラミクス粉体処理方法は、真空中で攪拌しながら蒸着物質を付着させるために使用されるセラミクス粉体の処理方法であって、セラミクス粒子により構成されるセラミクス粉体を準備する工程ST100と、セラミクス粉体を大気中で加熱して脱水する工程ST105と、脱水したセラミクス粉体に含まれるセラミクス粒子の凝集物を大気中又は不活性ガス雰囲気中又は真空中で解砕する工程ST110と、凝集物の解砕を実施したセラミクス粉体を大気中又は真空中で攪拌する工程ST115とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空中で攪拌しながら蒸着物質を付着させるために使用されるセラミクス粉体の処理方法であって、
セラミクス粒子により構成される前記セラミクス粉体を準備する工程と、
準備した前記セラミクス粉体に含まれる前記セラミクス粒子の凝集物を、大気中又は不活性ガス雰囲気中又は真空中で解砕する工程とを有する、
セラミクス粉体処理方法。
【請求項2】
前記凝集物を解砕する工程の前に、前記セラミクス粉体を大気中で加熱して脱水する工程を有する、
請求項1に記載のセラミクス粉体処理方法。
【請求項3】
前記セラミクス粉体の前記凝集物を解砕する工程の後、大気中又は真空中で前記セラミクス粉体を攪拌する工程を有する、
請求項1又は2に記載のセラミクス粉体処理方法。
【請求項4】
前記凝集物を解砕する前記工程は、容器に入れた前記セラミクス粉体の中で回転体を回転させることにより、前記セラミクス粉体に含まれた前記凝集物を解砕することを含む、
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のセラミクス粉体処理方法。
【請求項5】
前記回転体は、羽根、翼、プロペラ、スクリュー、櫛、コーム、フィン、ピラー、スクロール、ベーン、歯車、ギア、ウォーム、ピニオンのいずれか、又はそれらの2つ以上を組み合わせたものであることを特徴とする請求項4に記載のセラミクス粉体処理方法。
【請求項6】
前記凝集物を解砕する前記工程は、硬質材料で形成された球体と前記セラミクス粉体とを容器の中に封入し、前記容器を自転させながら公転させることにより、前記セラミクス粉体に含まれた前記凝集物を解砕することを含む、
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のセラミクス粉体処理方法。
【請求項7】
真空中でセラミクス粒子の表面に蒸着物質を付着させる蒸着方法であって、
前記セラミクス粒子により構成されるセラミクス粉体に前処理を施す工程と、
前記前処理が施された前記セラミクス粉体を真空チャンバの中で攪拌しながら、前記真空チャンバの中で放出させた前記蒸着物質を前記セラミクス粉体に送り込むことにより、前記セラミクス粉体の前記セラミクス粒子の表面に前記蒸着物質を付着させる工程とを有し、
前記セラミクス粉体に前記前処理を施す前記工程は、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のセラミクス粉体処理方法における各工程を含む、
蒸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミクス粉体処理方法及び蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミクス粒子の表面に所定の蒸着物質(金属など)を付着させる真空蒸着法では、セラミクス粒子の粉体を真空チャンバの中で攪拌しながら、真空チャンバ内に設けられた蒸着源から蒸着物質を放出させてプラズマ等を生成し、これを粉体に送り込む。下記の特許文献には、このような真空中での蒸着を行うために真空チャンバの中で粉体を攪拌する攪拌装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、数10nm程度の径を持つセラミクス粒子(チタニアなど)は、粉体において凝集を起こし易く、例えば数mm程度の凝集物を形成する場合がある。また一般に、真空中では大気中よりも粒子が凝集を起こし易くなる傾向がある。更に、粉体に含まれた凝集物は、攪拌装置によって攪拌しても崩れ難い場合があり、攪拌の過程で凝集を起こし易くなる場合もある。粉体が凝集物を多く含んだ状態で上述した真空蒸着を行った場合、凝集物の内部のセラミクス粒子には蒸着物質のプラズマ等が届かないため、蒸着物質を付着させることができない。そのため、粉体に含まれたセラミクス粒子の表面に蒸着物質を効率よく付着させることができないという問題がある。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、粉体に含まれたセラミクス粒子の表面に蒸着物質を効率よく付着させることができるようにするセラミクス粉体処理方法と、そのようなセラミクス粉体処理方法を用いた蒸着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、真空中で攪拌しながら蒸着物質を付着させるために使用されるセラミクス粉体の処理方法であって、セラミクス粒子により構成される前記セラミクス粉体を準備する工程と、準備した前記セラミクス粉体に含まれる前記セラミクス粒子の凝集物を大気中不活性ガス雰囲気中又は真空中で解砕する工程とを有する。
【0007】
好適には、上記セラミクス粉体の処理方法は、前記凝集物を解砕する工程の前に、前記セラミクス粉体を大気中で加熱して脱水する工程を有する。
【0008】
好適には、上記セラミクス粉体の処理方法は、前記セラミクス粉体の前記凝集物を解砕する工程の後、大気中又は真空中で前記セラミクス粉体を攪拌する工程を有する。
【0009】
好適には、前記凝集物を解砕する前記工程は、容器に入れた前記セラミクス粉体の中で回転体を回転させることにより、前記セラミクス粉体に含まれた前記凝集物を解砕することを含む。
【0010】
好適には、前記回転体は、羽根、翼、プロペラ、スクリュー、櫛、コーム、フィン、ピラー、スクロール、ベーン、歯車、ギア、ウォーム、ピニオンのいずれか、又はそれらの2つ以上を組み合わせたものである。
【0011】
好適には、前記凝集物を解砕する前記工程は、硬質材料で形成された球体と前記セラミクス粉体とを容器の中に封入し、前記容器を自転させながら公転させることにより、前記セラミクス粉体に含まれた前記凝集物を解砕することを含む。
【0012】
本発明の第2の態様は、真空中でセラミクス粒子の表面に蒸着物質を付着させる蒸着方法であって、前記セラミクス粒子により構成されるセラミクス粉体に前処理を施す工程と、前記前処理が施された前記セラミクス粉体を真空チャンバの中で攪拌しながら、前記真空チャンバの中で放出させた前記蒸着物質を前記セラミクス粉体に送り込むことにより、前記セラミクス粉体の前記セラミクス粒子の表面に前記蒸着物質を付着させる工程とを有し、前記セラミクス粉体に前記前処理を施す前記工程は、上記第1の態様のセラミクス粉体処理方法における各工程を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、粉体に含まれたセラミクス粒子の表面に蒸着物質を効率よく付着させることができるようにするセラミクス粉体処理方法と、そのようなセラミクス粉体処理方法を用いた蒸着方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る蒸着方法の一例を説明するための図である。
【
図3】
図3は、攪拌装置の一例を示す斜視図である。
【
図6】
図6Aは、凝集物の解砕を行っていないセラミクス粉体(チタニア)の写真であり、
図6Bは
図6Aに示すセラミクス粉体を顕微鏡で拡大した写真である。
【
図7】
図7Aは、凝集物の解砕を行ったセラミクス粉体(チタニア)の写真であり、
図7Bは
図7Aに示すセラミクス粉体を顕微鏡で拡大した写真である。
【
図8】
図8Aは、凝集物の解砕を行っていないセラミクス粉体(チタニア)を攪拌したときの写真であり、
図8Bはその攪拌後のセラミクス粉体を顕微鏡で拡大した写真である。
【
図9】
図9Aは、凝集物の解砕を行ったセラミクス粉体(チタニア)を攪拌したときの写真であり、
図9Bはその攪拌後のセラミクス粉体を顕微鏡で拡大した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係るセラミクス粉体処理方法及び蒸着方法について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る蒸着方法の一例を説明するための図である。
図1におけるステップST100~ST115は、本発明のセラミクス粉体処理方法の一例である。
【0016】
ST100:
ステップST100では、セラミクス粒子により構成されるセラミクス粉体を準備する。このセラミクス粒子は、例えばチタニア、アルミナ、カーボン、シリコンなど、真空蒸着によって蒸着物質(金属など)を付着させることが可能なセラミクスの粒子である。セラミクス粉体は、1種類のセラミクスの粒子から構成されてもよいし、複数種類のセラミクスの粒子から構成されてもよい。セラミクス粉体は、例えば、セラミクス粒子の平均粒径が所定の範囲に含まれるように調製されている。
【0017】
ステップST100において準備するセラミクス粉体の平均粒径は、特に限定されないが、例えばチタニアの場合、数nm~数100nmでもよい。
【0018】
ST105:
ステップST105では、ステップST100で準備したセラミクス粉体を大気中で加熱して脱水する。例えば、セラミクス粉体を石英などの耐熱性のある容器に入れて、その容器を電気ヒーターなどで加熱することにより、セラミクス粉体を加熱して脱水する。
【0019】
ステップST105においてセラミクス粉体を加熱する際の条件は、特に限定されないが、例えばチタニアの場合、温度を200℃程度に設定して数時間の加熱を行ってもよい。
【0020】
セラミクス粉体を加熱して脱水することにより、後述する真空蒸着の工程(ST120)でセラミクス粉体の水分が蒸発することによる真空チャンバ内の真空度の低下を抑制することができる。また、水分に起因したセラミクス粒子同士の凝集力が小さくなるため、攪拌に伴うセラミクス粒子の凝集を抑制できる。
【0021】
ST110:
ステップST110では、ステップST105で加熱したセラミクス粉体に含まれるセラミクス粒子の凝集物を大気中又は真空中で解砕する。
図2Aは、セラミクス粒子の凝集物の解砕に用いられる解砕装置1の一例を示す図である。
図2Aに示す解砕装置1は、セラミクス粉体を入れる容器2と、容器2の内側2Aで軸AX1を中心に回転する回転体3とを有する。解砕装置1は、容器2に入れたセラミクス粉体の中で回転体3を回転させることにより、セラミクス粉体に含まれた凝集物を解砕する。
図2Aの例において、回転体3の端縁は刃状に形成されている。セラミクス粉体の凝集物は、高速に回転する回転体3の端縁に当たった衝撃で粉砕される。
なお、解砕装置1においてセラミクス粉体を解砕するための回転体は、
図2に示す形状のものに限定されない。すなわち、解砕装置1においてセラミクス粉体を解砕する回転体は、羽根、翼、プロペラ、スクリュー、櫛、コーム、フィン、ピラー、スクロール、ベーン、歯車、ギア、ウォーム、ピニオンのいずれかであってもよいし、それらの2つ以上を組み合わせたものであってもよい。
【0022】
回転体3の回転によってセラミクス粉体の凝集物を衝撃粉砕する際の条件は、特に限定されないが、例えばチタニアの場合、回転体3の回転速度を数万rpm、解砕時間を数10秒間に設定してもよい。
【0023】
セラミクス粉体の凝集物を事前に解砕することにより、後述する攪拌の工程(ST115)や真空蒸着の工程(ST120)において凝集物のサイズが小さくなった状態でセラミクス粉体を攪拌することになるため、攪拌の過程におけるセラミクス粒子の凝集を抑制し易くすることができる。
【0024】
なお、セラミクス粉体に含まれるセラミクス粒子の凝集物の解砕は、大気中のみで行ってもよいし、不活性ガス雰囲気中のみで行ってもよいし、真空中のみで行ってもよい。あるいは、この凝集物の解砕は、大気中と真空中のそれぞれで行ってもよいし、不活性ガス雰囲気中と真空中のそれぞれで行ってもよいし、大気中と不活性ガス雰囲気中のそれぞれで行ってもよいし、大気中と不活性ガス雰囲気中と真空中のそれぞれで行ってもよい。また、セラミクス粒子の凝集物の解砕と、後述するセラミック粉体の攪拌は、並行して行ってもよい。
経験的に雨天時など湿度が高い日に大気中でセラミクス粉体を解砕したり攪拌すると,時間経過とともにかさ密度(体積あたりの重量)が大きくなる傾向があった。このことは、セラミクスの凝集や解砕には大気中の水分が影響していることが推察され、解砕の際には極力水分の無い雰囲気で行うことが理想であると考えられる。不活性ガスとしては、露点管理された空気、ドライ窒素、水素、アルゴンやヘリウムなどの希ガス、炭酸ガスが挙げられるが、水蒸気を含まないガスであれば良く、ここに示したガス種に限定されない。
【0025】
ST115:
ステップST115では、ステップST110でセラミクス粉体の凝集物を解砕した後、大気中又は真空中でセラミクス粉体を攪拌する。
図3は、セラミクス粉体の攪拌に用いられる攪拌装置7の一例を示す斜視図であり、
図4はこの攪拌装置7の平面図である。
【0026】
図3及び
図4に示す攪拌装置7は、セラミクス粉体を収容する容器10と、容器10の内側に配置された回転羽根21と、容器10の内側に固定された固定羽根22と、容器10の底の側を保持する保持部30と、回転羽根21に取り付けられた軸部40と、軸部40を回転駆動するモータ等の駆動部70と、駆動部70を保持部30に固定する支柱75とを有する。
容器10は、上側に開口部を持つ円筒形の器であり、開口部を囲むフード11を持つ。フード11は、上側に向かうほど径が大きくなっている。容器10の底には孔10hが形成されており、この孔10hを軸部40が貫通している。
回転羽根21は、容器10の内側で回転可能な3枚の翼部211を有する。翼部211はそれぞれハブ212に取り付けられており、ハブ212と軸部40がボルトなどで固定されている。固定羽根22は3枚の翼部221を有しており、これらの翼部221が回転羽根21の回転域の上方で容器10に固定されている。
なお、攪拌装置7においてセラミクス粉体を攪拌するための回転体は、
図3及び
図4に示す回転羽根21に限定されない。すなわち、攪拌装置7においてセラミクス粉体を攪拌する回転体は羽根および翼に限定されず、プロペラ、スクリュー、櫛、コーム、フィン、ピラー、スクロール、ベーン、歯車、ギア、ウォーム、ピニオンのいずれかであってもよいし、それらの2つ以上を組み合わせたものであってもよい。
【0027】
駆動部70が軸部40を回転駆動すると、ハブ212に取り付けられた翼部211が容器10の中で回転する。これにより、容器10の中に入れられたセラミクス粉体が回転する翼部211に巻き込まれて攪拌される。このとき、回転する翼部211の上側に持ち上げられたセラミクス粉体が固定羽根22の翼部221によって掻き落されるため、セラミクス粉体が均一に拡販され易くなる。
【0028】
ステップST115においてセラミクス粉体を攪拌する際の条件は、特に限定されないが、例えばチタニアの場合、回転羽根の回転速度を数100rpm、攪拌時間を数時間に設定してもよい。
【0029】
ST120:
ステップST120では、上述したステップST100~ST115の前処理が施されたセラミクス粉体を真空チャンバの中で攪拌しながら、真空チャンバの中で放出させた蒸着物質(金属など)をセラミクス粉体に送り込むことにより、セラミクス粉体のセラミクス粒子の表面に蒸着物質を付着させる。
図5は、ステップST120で用いられる蒸着装置100の一例を示す面である。
【0030】
図5に示す蒸着装置100は、真空チャンバ110と、真空チャンバ110内に設けられる
図3及び
図4に示した攪拌装置7と、真空チャンバ110内に設けられる蒸着源120とを有する。
【0031】
真空チャンバ110は、図示しない真空ポンプ(ターボ分子ポンプ、拡散ポンプ、クライオポンプなど)により排気されて減圧雰囲気となる。真空チャンバ110の内部には、真空度を測るための図示しない真空計が設置されており、所定の真空度になるまで真空ポンプによる排気が行われる。
【0032】
蒸着源120としては、例えば抵抗加熱方式、電子ビーム加熱方式、アークプラズマ方式、スパッタリング、イオンプレーティングなど、真空中で行われる種々の蒸着方式に対応した蒸着源を用いることができる。
【0033】
図5の例において、攪拌装置7は、保持部30において軸部40を回転可能に支持するベアリング35と、ベアリング35の上側で軸部40の周囲に配置されたOリングなどのシール部50と、軸部40と孔10hとの隙間から漏出する粉体を捕獲するための粉体捕獲部60とを有する。粉体捕獲部60は、軸部40と孔10hとの隙間に設けられる第1捕獲部61と、保持部30の内部の空間において軸部40の周囲に配置される第2捕獲部62と、保持部30の内部の空間に埋め込まれる第3捕獲部63とを有する。第1捕獲部61及び第2捕獲部62はフェルト材や不織布などを用いて形成され、第3捕獲部63はグラスウールなどを用いて形成される。
【0034】
図5に示す攪拌装置7は、接地線ELを介してグランドに接地される。接地線ELに設けられたスイッチSWは、蒸着源120によって蒸着を行う場合にオフし、蒸着後にオンする。蒸着後にスイッチSWがオンすると、接地線ELを介して攪拌装置7が接地されるため、帯電したセラミクス粉体による静電気の放電が防止され易くなる。
【0035】
上述した蒸着装置100を用いてセラミクス粉体に対する真空蒸着を行う場合、真空チャンバ110内を所定の真空度(例えば10-3Pa程度)に設定し、攪拌装置7の回転羽根21を所定の回転速度(例えば数100rpm)で回転させて、容器10内のセラミクス粉体を攪拌する。また、攪拌装置7によるセラミクス粉体の攪拌と並行して、蒸着源120から蒸着物質(金属など)を放出させ、蒸着源120の下側に配置された攪拌装置7に蒸着物質を送り込む。蒸着物質が到達したセラミクス粉体中のセラミクス粒子の表面には、蒸着物質の微粒子や薄膜が形成される。このとき、セラミクス粉体を攪拌しながら蒸着物質(プラズマ等)をセラミクス粉体に送り込むことにより、セラミクス粉体中のセラミクス粒子に対して蒸着物質が満遍なく到達し易くなるため、表面に微粒子や薄膜等が形成されたセラミクス粒子を効率的に作製できる。
【0036】
(解砕工程の有無によるセラミクス粉体の状態の比較)
ここで、セラミクス粉体の凝集物を解砕する工程(
図1:ST110)がある場合とない場合とでセラミクス粉体の状態が異なることを、実物の写真(
図6A~
図9B)により示す。
【0037】
図6Aは、凝集物の解砕を実施していないセラミクス粉体(チタニア)の写真であり、
図6Bは
図6Aに示すセラミクス粉体を顕微鏡で拡大した写真である。一方、
図7Aは、凝集物の解砕を実施した攪拌前のセラミクス粉体(チタニア)の写真であり、
図7Bは
図7Aに示すセラミクス粉体を顕微鏡で拡大した写真である。
図7Aのセラミクス粉体は、回転体の回転により衝撃粉砕を行う
図2Aに示すような解砕装置を用いて、回転体の回転速度を300rpm,解砕時間を30秒に設定して解砕を行ったものである。
図6Bと
図7Bの顕微鏡写真を比較すると、解砕を実施していないセラミクス粉体(
図6B)はサイズの大きい凝集物を多数含んでいるのに対し、解砕を実施したセラミクス粉体(
図7B)は
図6Bのようにサイズの大きな凝集物を殆ど含んでおらず、凝集物のサイズが全体的に小さくなっていることが分かる。
【0038】
図8Aは、凝集物の解砕を実施していない
図6Aのセラミクス粉体(チタニア)を攪拌装置により攪拌したときの写真であり、
図8Bはその攪拌後のセラミクス粉体を顕微鏡で拡大した写真である。一方、
図9Aは、凝集物の解砕を実施したセラミクス粉体(チタニア)を攪拌装置により攪拌したときの写真であり、
図9Bはその攪拌後のセラミクス粉体を顕微鏡で拡大した写真である。これらの写真に示されたセラミクス粉体は、いずれも攪拌装置によって3時間攪拌した後のものである。
図8Bと
図9Bの顕微鏡写真を比較すると、解砕を実施していないセラミクス粉体(
図8B)は、3時間攪拌した後も比較的サイズの大きい凝集物を多数含んでいるのに対し、攪拌前に解砕を実施したセラミクス粉体(
図7B)は、凝集物のサイズが更に全体的に小さくなっていることが分かる。
【0039】
(解砕工程の有無によるセラミクス粉体の粒径の比較)
セラミクス粉体の凝集物を解砕する工程(
図1:ST110)がある場合とない場合とでセラミクス粉体の粒径が異なることを示すため、チタニアの粉体について下記の粒径分布測定を行った。
【0040】
<測定条件>
測定装置:ゼータ電位・粒径測定システム ELS-Z2(大塚電子)
測定セル:粒径セルユニット(散乱角度165°)
測定温度:25℃
測定法 :動的光散乱法(光子相関法)
粒径解析法:Contin法
【0041】
<測定結果>
・解砕を実施しなかった場合
個数分布が最大となる平均粒径・・・124nm
・解砕(回転速度:150rpm、回転時間:60秒)を実施した場合
個数分布が最大となる平均粒径・・・94nm
【0042】
この測定結果から、チタニアの粉体について解砕(
図1:ST110)を実施することにより、解砕を実施しない場合に比べて平均粒径が小さくなることが確認された。
【0043】
(衝撃粉砕による解砕に伴ってセラミクス粉体に混入する不純物の評価)
回転体を用いた衝撃粉砕によりセラミクス粉体の凝集物を解砕した場合、回転体や容器から不純物が生じてセラミクス粉体に混入する可能性がある。そこで、回転体を用いた衝撃粉砕による解砕を実施したセラミクス粉体(チタニア、アルミナ)を試料として、試料に含有される所定の元素の質量を誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)により分析した。
【0044】
<解砕の条件>
回転体 :SUS400系ステンレス
容器 :SUS304ステンレス
回転速度:300rpm
解砕時間:60秒
【0045】
<分析結果(1mgあたりの質量)>
・チタニア粉体
チタン(Ti)・・・・・ 613.78μg
クロム(Cr)・・・・・ 0.006μg
鉄(Fe) ・・・・・ 0.04 μg
ニッケル(Ni)・・・・ 0.003μg
銅(Cu) ・・・・・ 0.15 μg
・アルミナ粉末
アルミニウム(Al)・・ 446.01μg
クロム(Cr)・・・・・ 0.004μg
鉄(Fe) ・・・・・ 0.11 μg
ニッケル(Ni)・・・・ 0.002μg
銅(Cu) ・・・・・ 0.002μg
【0046】
この分析結果から、回転体を用いた衝撃粉砕によってセラミクス粉体に混入する不純物の量は、主たる元素に対して十分に小さいものであることが確認された。
【0047】
以上説明したように、本実施形態によれば、セラミクス粉体に含まれるセラミクス粒子の凝集物を大気中又は不活性ガス雰囲気中又は真空中で解砕した後、セラミクス粉体を真空中で攪拌しながら蒸着物質を付着させる。これにより、凝集物のサイズが小さくなった状態でセラミクス粉体を攪拌することになるため、攪拌の過程におけるセラミクス粒子の凝集が抑制され易くなる。セラミクス粒子の凝集が抑制されることで、セラミクス粉体中のセラミクス粒子に対して蒸着物質が満遍なく到達し易くなるため、多くのセラミクス粒子の表面に蒸着物質を効率的に付着させることができる。従って、蒸着物質の微粒子や薄膜などが形成されたセラミクス粒子を効率的に作製することができる。
【0048】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々のバリエーションを含んでいる。
【0049】
例えば上述した実施形態では、セラミクス粉体の凝集物を解砕する方法の一例として、回転体により衝撃粉砕する方法を挙げたが、本発明はこの例に限定されない。すなわち、凝集物を解砕する方法には、上記の例に限らず、様々な解砕方法を適用することが可能である。
【0050】
図2Bは、セラミクス粉体の凝集物の解砕に用いる解砕装置の他の一例を示す図である。
図2Bに示す解砕装置1は、軸AX2を中心に回転する回転台6と、回転台6の上に設置された筒状の容器4と、容器4の中にセラミクス粉体とともに封入される複数の硬質材料(ジルコニアなど)の球体5とを有する。容器4は、回転台6に設けられた軸AX3を中心に回転する。回転台6の軸AX2と容器4の軸AX3とが互いに平行であり、軸AX2に対する回転台6の回転方向D1と軸AX3に対する容器4の回転方向D2とが互いに逆向きになっている。
【0051】
図2Bに示す解砕装置1では、容器4が軸AX2の周りで公転するとともに、軸AX3を中心に自転する。軸AX2の周りにおける公転の方向(D1)と軸AX3の周りにおける自転の方向(D2)とが互いに逆であるため、容器4の中では、球体5がダイナミックに移動する。これにより、容器4の内壁4Aと球体5との間や球体5同士の間でセラミクス粉体が擦り潰されるため、セラミクス粉体に含まれた凝集物が細かく解砕される。
【0052】
上述した実施形態では、ステップST105においてセラミクス粉体の加熱・脱水を行っているが、ステップST100で準備したセラミクス粉体の水分含有量が十分に小さい場合は、ステップST105の加熱・脱水工程を省略してもよい。
【0053】
上述した実施形態では、ステップST120の蒸着工程の前にセラミクス粉体の攪拌(ST115)を行っているが、この攪拌は大気中で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気中で行ってもよいし、真空チャンバ110の減圧雰囲気の中で行ってもよいし、大気中と真空中のそれぞれで行ってもよいし、不活性ガス雰囲気中と真空中のそれぞれで行ってもよい。セラミクス粉体の攪拌工程(ST115)は省略してもよい。
【符号の説明】
【0054】
1…解砕装置、2…容器、3…回転体、4…容器、5…球体、6…回転台、7…攪拌装置、10…容器、10h…孔、11…フード、21…回転羽根、211…翼部、212…ハブ、22…固定羽根、221…翼部、30…保持部、35…ベアリング、40…軸部、50…シール部、60…粉体捕獲部、61…第1捕獲部、62…第2捕獲部、63…第3捕獲部、70…駆動部、71…軸、75…支柱、100…蒸着装置、110…真空チャンバ、120…蒸着源、EL…接地線、SW…スイッチ