(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108442
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】量子ドット分級用多孔膜、該多孔膜を用いた量子ドットの分級方法
(51)【国際特許分類】
B01D 61/02 20060101AFI20230728BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20230728BHJP
B01D 63/02 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
B01D61/02 500
B01D71/56
B01D63/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009572
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】向井 剛輝
(72)【発明者】
【氏名】田中 潤
(72)【発明者】
【氏名】安藤 秀仁
(72)【発明者】
【氏名】正木 辰典
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮太
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006HA01
4D006HA41
4D006MA01
4D006MA03
4D006MA06
4D006MB01
4D006MB02
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC33
4D006MC39
4D006MC48
4D006MC54
4D006MC58
4D006MC62
4D006MC63
4D006PA01
4D006PB70
(57)【要約】
【課題】量子ドットの新規な分級方法を提供する。
【解決手段】量子ドットを分級するための多孔膜を備える、量子ドット分級用多孔膜。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ドットを分級するための多孔膜を備える、量子ドット分級用多孔膜。
【請求項2】
前記多孔膜が、ポリアミド樹脂を含む、請求項1に記載の量子ドット分級用多孔膜。
【請求項3】
前記多孔膜の形状が、中空糸膜形状である、請求項1又は2に記載の量子ドット分級用多孔膜。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の量子ドット分級用多孔膜を用いる、量子ドットの分級方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドット分級用多孔膜、該多孔膜を用いた量子ドットの分級方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子ドットは、長径1nm~100nm程度の半導体粒子であり、離散的なエネルギー準位を有している。量子ドットのエネルギー状態はその大きさに依存する。このため、量子ドットのサイズを変化させることにより、発光波長を調整することが可能である。
【0003】
このように、量子ドットの発光波長は量子ドットのサイズに依存するため、発光波長を好適に調整するためには、量子ドットのサイズの均一化が求められる。量子ドットのサイズの均一化の手法として、遠心分離を繰り返し行う方法が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、量子ドットの一例であるPbS粒子の製造方法として以下が開示されている。すなわち、三口フラスコに、鉛(Pb)前駆体溶液として酸化鉛(II)、有機配位子としてオレイン酸、溶媒としてオクタデセン、を入れ、三口フラスコ内を窒素置換し、オイルバスにおいてPb前駆体溶液を90℃に加熱し、酸化鉛とオレイン酸とを反応させる。その後に、120℃まで加熱し、PbS量子ドットを生成、成長させる。硫黄(S)前駆体溶液としてビストリメチルシリルスルフィドのオクタデセン溶液を別途調製する。120℃に加熱されたPb前躯体溶液中にS前駆体溶液を急速注入し、反応させる。反応終了後、室温まで自然冷却し、極性溶媒として、メタノールもしくはアセトンを加えて遠心分離を行い、PbS粒子を沈殿させる。この上澄みを除去した後に、トルエンを添加しPbS粒子を再分散する洗浄を行う。この遠心分離と再分散の工程を複数回繰り返すことで過剰なオレイン酸や未反応物を除去し、最終的にオクタンなどの溶媒を加えることで、量子ドットが分散した量子ドット分散液とすることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Lutfan Sinatra、他2名、“単分散コロイド状量子ドットの合成法”、[online]、2017年12月1日、[令和3年11月26日検索]、インターネット<https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/technical-documents/technical-article/materials-science-and-engineering/nanoparticle-and-microparticle-synthesis/methods-of-synthesizing-monodisperse-colloidal-quantum-dots>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、量子ドットのサイズの均一化手法として、遠心分離を繰り返し行う方法は、量子ドットの分級に長時間を要し、また、コストが大きいという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、量子ドットの新規な分級方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、量子ドットの分級方法として知られていない、多孔膜を用いる分級方法を検討した。その結果、多孔膜を用いる分級方法は、量子ドットの分級方法として好適に使用し得るという新たな知見を取得した。本発明はかかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1.量子ドットを分級するための多孔膜を備える、量子ドット分級用多孔膜。
項2.前記多孔膜が、ポリアミド樹脂を含む、項1に記載の量子ドット分級用多孔膜。項3.前記多孔膜の形状が、中空糸膜形状である、項1又は2に記載の量子ドット分級用多孔膜。
項4.項1~3のいずれか1項に記載の量子ドット分級用多孔膜を用いる、量子ドットの分級方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、量子ドットの新規な分級方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】多孔膜を用いた量子ドットの分級試験の方法を説明するための模式図である。
【
図2】多孔膜のバブルポイントを測定する際に使用する装置の模式図である。
【
図3】実施例において、多孔膜または遠心分離を用いて量子ドットを分級した結果(粒子サイズ(nm)と存在頻度(%)との関係を示すグラフ)である。
【
図4】量子ドットの粒径分布(平均粒径)の測定方法を説明する参考画像である。
【
図5】aは透水量の測定時に使用するモジュールの模式図であり、bは透水量の測定に使用する装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の量子ドット分級用多孔膜は、量子ドットを分級(分離)するための多孔膜を備えることを特徴としている。本発明の量子ドット分級用多孔膜は、量子ドットの新規な分級方法に利用され、例えば、遠心分離を用いる従来の分級方法と比較して簡便に分級を行うことができる。以下、本発明の量子ドット分級用多孔膜について詳述する。
【0014】
<量子ドット分級用多孔膜>
[多孔膜の構成素材]
本発明の量子ドット分級用多孔膜の構成素材は、樹脂である。すなわち、本発明の量子ドット分級用多孔膜は、樹脂により形成されている。
【0015】
量子ドット分級用多孔膜に含まれる樹脂としては、多孔膜を形成できるものであれば特に制限はない。例えば、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂等が挙げられる。これらの中でも、後述する、量子ドットの分散液として有機溶剤を用いる場合は、量子ドットを好適に分級する観点、さらには耐溶剤性の観点から、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂が好ましく、ポリアミド樹脂がより好ましい。ポリアミド樹脂の種類については、特に制限されないが、例えば、ポリアミドのホモポリマー、ポリアミドの共重合体、又はこれらの混合物が挙げられる。ポリアミドのホモポリマーとしては、具体的には、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミドMXD6、ポリアミド4T、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T等が挙げられる。また、ポリアミドの共重合体としては、具体的には、ポリアミドとポリテトラメチレングリコール又はポリエチレングリコール等のポリエーテルとの共重合体等が挙げられる。また、ポリアミドの共重合体におけるポリアミド成分の割合については、特に制限されないが、例えば、ポリアミド成分が占める割合として、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上が挙げられる。ポリアミドの共重合体においてポリアミド成分の割合が上記範囲を充足することにより、一層優れた有機溶媒耐性を備えさせることができる。
【0016】
ポリアミド樹脂の架橋の有無は問わないが、製造コストを低減させるという観点から、架橋されていないものが好ましい。また、ポリアミド樹脂の相対粘度については、特に制限されないが、例えば、2.0~8.0、好ましくは3.0~7.0、より好ましくは3.5~6.0が挙げられる。このような相対粘度を備えることにより、ポリアミド多孔膜の製造時に、成形性や相分離の制御性が向上し、ポリアミド多孔膜に対して優れた形状安定性を備えさせることが可能になる。なお、ここで、相対粘度とは、96%硫酸100mLに1gのポリアミド樹脂を溶解した溶液を用い、25℃でウベローデ粘度計によって測定した値を指す。
【0017】
本発明において、量子ドット分級用多孔膜を形成する樹脂は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0018】
これらの樹脂の中でも、ポリアミド樹脂、とりわけポリアミド6は、量子ドットの分散液として有機溶剤を使用したときのバブルポイントの維持がしやすく、本発明の量子ドット分級用多孔膜の構成樹脂として特に好適である。
【0019】
本発明の量子ドット分級用多孔膜は、前述した樹脂の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、フィラーを含んでいてもよい。多孔膜がフィラーを含むことにより、多孔膜の強度、伸度、弾性率を向上させることができる。多孔膜がフィラーを含むことにより、分級の際に高圧をかけても、多孔膜が変形し難くなるという効果も得られる。
【0020】
フィラーの種類については、特に制限されないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミウィスカー、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維等の繊維状フィラー;タルク、ハイドロタルサイト、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケート等の珪酸塩;酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄等の金属化合物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物;ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラック、シリカ、黒鉛等の非繊維フィラー等の無機材料が挙げられる。多孔膜に含まれるフィラーは、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。フィラーの含有量については、特に限定されないが、例えば、ポリアミド樹脂100質量部当たり、フィラーが5~100質量部、好ましくは10~75質量部、より好ましくは25~50質量部が挙げられる。このような含有量でフィラーを含むことにより、量子ドット分級用多孔膜の強度、伸度、弾性率の向上を図ることができる。
【0021】
また、本発明の量子ドット分級用多孔膜には、孔径制御や膜性能の向上等のために、必要に応じて、増粘剤、酸化防止剤、表面改質剤、滑剤、界面活性剤等の添加剤が少なくとも1種含まれていてもよい。
【0022】
[多孔膜の形状]
本発明の量子ドット分級用多孔膜の形状については、特に制限されず、中空糸膜、平膜等の任意の形状から選択することができる。中空糸膜は、モジュールの単位体積当たりの濾過面積が多く、効率的に量子ドットの分級を行うことが可能になるため、本発明の量子ドット分級用多孔膜の形状として好適である。
【0023】
本発明の量子ドット分級用多孔膜が中空糸膜である場合、その外径については、備えさせる液体透過性、さらには分級対象とする量子ドットの種類、サイズ等に応じて適宜設定される。モジュールに充填した際の有効膜面積、膜強度、中空部を流れる流体の圧損、座屈圧との関係を鑑みた場合、多孔膜の外径としては、例えば300μm以上、好ましくは350~4000μm、より好ましくは400~3500μmが挙げられる。また、本発明の量子ドット分級用多孔膜が中空糸膜である場合、その内径については、特に制限されないが、例えば100~3000μm、好ましくは150~2500μm、より好ましくは200~2000μm、更に好ましくは250~1500μmが挙げられる。本発明において多孔膜(中空糸膜)の外径及び内径は、5本の多孔膜について光学顕微鏡にて倍率200倍で観察し、各多孔膜の外径及び内径(ともに最大径となる箇所)を測定し、それぞれの平均値を算出することにより求められる値である。
【0024】
本発明の量子ドット分級用多孔膜の厚みについては、量子ドット分級用多孔膜の形状、備えさせる液体透過性、さらには分級対象とする量子ドットの種類、サイズ等に応じて適宜設定されるが、例えば、50~600μm、好ましくは100~350μmが挙げられる。本発明の量子ドット分級用多孔膜が中空糸形状である場合、その厚みは、外径から内径を引いた値を2で除することにより算出される値である。
【0025】
本発明の量子ドット分級用多孔膜は、少なくとも一方の面の表面に、緻密層(スキン層)が形成されていることが好ましい。このような構成とすることにより、2~3nmの範囲の量子ドットもカットしやすくなる。本発明において、「緻密層」とは、緻密な微細孔が集合している領域であって、倍率10000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)写真において実質的に細孔の存在が認められない領域を示す。なお、走査型電子顕微鏡による緻密層の観察は、量子ドット分級用多孔膜が平膜の場合は、適切な大きさに裁断し試料台に載せた後、Pt、Au、Pd等の蒸着処理を施して観察すればよい。また、量子ドット分級用多孔膜が中空糸膜の場合、外側表面に存在する緻密層を観察する場合は、平膜の場合と同様、適切な大きさに裁断し試料台に載せた後、Pt、Au、Pd等の蒸着処理を施し観察すればよいが、内腔側表面に存在する緻密層を観察する場合であれば、メス等の鋭利な刃物で中空糸膜の長手方向に裁断し、内腔側表面を露出させてから適切な大きさに裁断し試料台に載せた後、Pt、Au、Pd等の蒸着処理を施し観察すればよい。
【0026】
例えば、本発明の量子ドット分級用多孔膜が中空糸膜の場合、内腔側表面と外側表面のいずれか少なくとも一方に緻密層が形成されていればよい。また、例えば、本発明の量子ドット分級用多孔膜が平膜形状の場合、表側の表面と裏側の表面のいずれか少なくとも一方に緻密層が形成されていればよい。本発明の量子ドット分級用多孔膜の好適な一例として、緻密層が一方の面のみに設けられている態様が挙げられる。また、本発明の量子ドット分級用多孔膜が中空糸膜の場合の好適な一例として、内腔側表面に緻密層が設けられ、外側表面には緻密層が設けられていない態様が挙げられる。
【0027】
本発明の量子ドット分級用多孔膜は、緻密層以外の領域は多孔質構造とすることができる。以下、緻密層以外の領域を「多孔質領域」と表記することもある。多孔質領域とは、具体的には、倍率2000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)写真において実質的に細孔の存在が認められる領域を示す。
【0028】
本発明の量子ドット分級用多孔膜において、緻密層を備えたものとする場合、緻密層の厚みについては、特に制限されないが、量子ドットを好適に分級する観点から、例えば10~2000nm、好ましくは100~1500nm、より好ましくは200~1000nm、更に好ましくは250~900nm、特に好ましくは300~700nmが挙げられる。本発明において、緻密層の厚みは、倍率10000倍の量子ドット分級用多孔膜断面のSEM写真において、実質的に細孔の存在が認められない領域の距離(厚み)を10か所以上測定し、その平均値を算出することにより求められる値である。
【0029】
本発明の量子ドット分級用多孔膜は、例えば、20℃において表面張力が21mN/mの液体中で空気圧を加えたバブルポイント試験において、バーストバブルポイントが0.3MPa以上であることが好ましく、0.7MPa以上がより好ましい。このようなバブルポイントを有するものとすることにより、量子ドットの分級をより好適に行うことができる。とりわけ、2~3nmの範囲の量子ドットもカットしやすくするという観点からは、当該バーストバブルポイントは、0.8MPa以上とすることが好ましく、0.85MPa以上とすることがさらに好ましい。当該バーストバブルポイントの上限については、例えば5.0MPa以下、4.0MPa以下、3.0MPa以下、2.0MPa以下、1.5MPa以下、または1.2MPa以下が挙げられる。
【0030】
なお、本発明の量子ドット分級用多孔膜が中空糸膜である場合には、バーストバブルポイントは、
図2の模式図に示される装置を用いて、以下の手順で測定される値である。先ず、バーストバブルポイントを測定するための中空糸膜ミニモジュールを作製する。具体的には、中空糸膜10本を20cm長に切断し、これらを揃えて束ねてU字型に曲げて、中空糸膜の開口部の側の端部1cm程度を熱シールし、中空部を塞ぎ、中空糸膜束を準備する。次に、長さ5cmの空気配管用軟質ナイロンチューブ(外径8mm、内径6mm)を用意し、その片方の開口部をシリコン栓で塞いで栓をする。次に、当該ナイロンチューブのシリコン栓を付けた端部側を下にした状態にして、当該ナイロンチューブ内に、高さ4cm程度までポッティング剤(ポリウレタン樹脂)を導入する。その後、前記中空糸膜束を熱シールした方の端からナイロンチューブ内に挿入して、ポッティング剤の中に前記中空糸膜束の一部を浸漬させ、ポッティング剤が硬化するまで静置する。硬化後、中空糸膜束を熱シールした部位よりも上部で切断し、中空糸膜の中空部を開口させる。この時、ポッティング剤が中空部に侵入していないか、中空糸膜間にポッティング剤が満たされているかを目視で確認する。問題なく中空が維持されていることを確認した後に、バーストバブルポイントの測定に供する。次に、
図2の模式図に示される装置を用いて、中空糸膜のバーストバブルポイントを測定する。具体的には、ガラス容器14に2-プロパノール(20℃での表面張力21mN/m)を導入し、そこに前記で作製した中空糸膜ミニモジュール13を浸漬し、数秒間減圧にして孔への液体充填を行う。その後、2-プロパノールに浸漬された中空糸膜ミニモジュール13を
図2のようにセットし、中空糸膜内部に0.4MPa/分で空気を送り増圧していく。最初に中空糸膜から気泡が発生し、そのまま増圧を続け、中空糸膜のおよそ全体から気泡が発生した時の圧力を確認し、これをバーストバブルポイントとする。
【0031】
また、本発明の量子ドット分級用多孔膜が平膜である場合には、バーストバブルポイントは、以下の手順で測定される値である。直径40mm以上の円形に切り出した平膜を2-プロパノール(20℃での表面張力21mN/m)に浸漬させ、数秒間減圧にして孔への液体充填を行う。次いで、平膜を取り出し、2-プロパノールで濡れた状態で直径40mmのOリング及びメッシュで平膜の両面を挟み、これらを樹脂製の治具で固定する。その後、治具片面に空圧配管を接続し、平膜及び治具が試験液に浸漬された状態で空圧配管を通じて平膜内部に0.4MPa/分で空気を送り増圧していく。最初に平膜から気泡が発生し、そのまま増圧を続け、平膜の全体から気泡が発生した時の圧力を確認し、これをバーストバブルポイントとする。
【0032】
20℃において表面張力が21mN/mの液体中で空気圧を加えたバブルポイント試験において、バーストバブルポイントが0.3MPa以上である多孔膜としては、市販の多孔膜を使用することができる。例えば、ユニチカ株式会社製ポリアミド中空糸膜商品名WINSEP(登録商標)品番MF 002、005、010、040、UF 30、50、120等が挙げられる。
【0033】
また、量子ドット分級用多孔膜の内圧透水量としては、特に制限されないが、量子ドットを好適に分級する観点から、例えば10L/m2・bar・h以上、好ましくは30L/m2・bar・h以上、さらに好ましくは50L/m2・bar・h以上、などが挙げられる。当該内圧透水量の上限については、例えば7000L/m2・bar・h以下、6000L/m2・bar・h以下、5000L/m2・bar・h以下、1000L/m2・bar・h以下、500L/m2・bar・h以下、または100L/m2・bar・h以下が挙げられる。量子ドット分級用多孔膜の内圧透水量の測定方法は、以下の通りである。
【0034】
すなわち、本発明の量子ドット分級用多孔膜が中空糸膜である場合には、透水量は、内圧式濾過によって測定される値であり、以下の手順で測定される値である。先ず、
図5のaに示すモジュールを作製する。具体的には、先ず、中空糸膜10本を30cm長に切断し、これらを揃えて束ねたものを準備する。次に、外径8mm、内径6mm、長さ50mmのナイロン硬質チューブを準備し、当該チューブの一方の端部開口から、長さ20mm程度のゴム栓を挿入し、当該一方の端部開口の栓をする。次に、当該チューブの、ゴム栓をした方とは反対側の開口部に2液混合型で室温硬化型のエポキシ樹脂を挿入しチューブ内側空間を当該エポキシ樹脂で充填する。その後、前記準備した中空糸膜を束ねたものを略U字状に曲げ、中空糸膜の両端部を、前記エポキシ樹脂で充填されたチューブ内に、当該端部先端がゴム栓に触れるまで挿入し、そのままの状態でエポキシ樹脂を硬化させる。次いで、硬化したエポキシ樹脂部分のゴム栓側の領域をチューブごと切断することにより、中空糸膜の両端部の中空部が開口したモジュールを作製する。
【0035】
次に、
図5のbに示す装置に前記モジュールをセットし、約0.3MPaの圧力をかけて25℃の純水を前記モジュールの中空糸膜の内側に一定時間流し、中空糸膜の外側に透過した純水の容量を求め、下記算出式に従って透水量(L/(m
2・bar・h))を算出する。
【0036】
【数1】
中空糸膜の有効濾過長さ:モジュールにおいて中空糸膜の表面がエポキシ樹脂に被覆されていない部分の長さである。
【0037】
また、本発明のポリアミド多孔膜が平膜である場合には、透水量は、デッドエンド式濾過によって測定される値であり、以下の手順で測定される値である。高圧ポンプを接続した平膜クロスフロー試験機(例えば、GEウォーターテクノロジーズ社製のSepa-CF平膜試験セル)を用い、平膜形状のポリアミド多孔膜を所定の大きさ(19.1cm×14.0cm、セル中の有効膜面積:155cm2)にカットしてセルに固定し、25℃の純水を流して所定の圧力で透過した純水を回収し容量(L)を測定し、下記算出式に従って透水量(L/(m2・bar・h))を算出する。
【0038】
【0039】
<量子ドット>
本発明の量子ドット分級用多孔膜で分級される量子ドットとしては特に制限されない。例えば、公知の量子ドットを分級対象とすることができる。量子ドットを構成する材料としては、例えば、半導体結晶である、IV族半導体、III-V族、II-VI族の化合物半導体、II族、III族、IV族、V族、および、VI族元素の内3つ以上の組み合わせからなる化合物半導体やハロゲン化物ペロブスカイトなどのナノ粒子が挙げられる。具体的には、PbS、PbSe、PbTe、InN、InAs、GaAs、GaSb、SnSSe、SnTe、CdTe、CdSe、ZnSe、Ge、InGaAs、CuInS、CuInSe、CuInGaSe、InSb、Si、InP、CsPbX2(Xはハロゲン)などの比較的バンドギャップの狭い半導体材料が挙げられる。量子ドット材料は、以上の中でも、合成のし易さや赤外線領域までの光感度から、Pbを有するナノ粒子、より具体的には、PbSまたはPbSeであることが好ましい。以下、本明細書において、上記量子ドットを構成する材料からなるナノ粒子を、便宜上、「半導体ナノ粒子」と示すことがある。本発明において、量子ドットは、上記半導体ナノ粒子を量子ドットの核(コア)とし、被覆化合物で覆ったコアシェル構造であってもよい。
【0040】
本発明において、量子ドットは、前述した半導体ナノ粒子を核としてその核を不動態層(配位子とも呼ばれる)で覆った構造のほか、核とは異なる被覆化合物で核を覆ったコアシェル構造を、さらに不動態層(配位子)で覆った構造とすることもできる。この場合、当該シェル部に配される被覆化合物としては、量子ドット材料(半導体ナノ粒子)と同種又は類似の各種半導体のほか、シリカに代表される無機材料等が挙げられる。また、シェルとして複数のシェル材料を重ねた、マルチシェル構造であってもよい。不動態層(配位子)としては、有機配位子、無機配位子、ハロゲン等が挙げられる。
【0041】
上記不動態層(配位子)の具体例としては、ブチルアミン:C4H11N、オレイルアミン:C18H35NH2、ステアリル(オクタデシル)アミン:C18H37NH2、ドデシル(ラウリル)アミン:C12H25NH2、デシルアミン:C10H21NH2、オクチルアミン:C8H17NH2等の脂肪族アミン系化合物;脂肪酸、オレイン酸:C17H33COOH、ステアリン酸:C17H35COOH、パルミチン酸:C15H31COOH、ミリスチン酸:C13H27COOH、ラウリル(ドデカン)酸:C11H23COOH、デカン酸:C9H19COOH、オクタン酸:C7H15COOH等の脂肪酸系化合物;エタンジチオール:C2H6S2、オクタデカンチオール:C18H37SH、ヘキサンデカンチオール:C16H33SH、テトラデカンチオール:C14H29SH、ドデカンチオール:C12H25SH、デカンチオール:C10H21SH、オクタンチオール:C8H17SH等のチオール系化合物;トリオクチルホスフィン:(C8H17)3P、トリフェニルホスフィン:(C6H5)3P、トリブチルホスフィン:(C4H9)3Pホスフィンオキシド系、トリオクチルホスフィンオキシド:(C8H17)3P=O、トリフェニルホスフィンオキシド:(C6H5)3P=O、トリブチルホスフィンオキシド:(C4H9)3P=O等のホスフィン系化合物、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
【0042】
本発明の量子ドット分級用多孔膜で分級される量子ドットは、溶媒中に分散された状態で存在することが好ましい。溶媒としては、特に制限されないが、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、n-ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶剤、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤、水等が挙げられる。中でも、本発明の量子ドット分級用多孔膜の構成材料をポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂とした場合は、上記溶媒として有機溶剤を使用した場合にも連続して量子ドットの分級がしやすくなるので好ましい。
【0043】
本発明において、本発明の量子ドット分級用多孔膜で分級される量子ドットの粒径分布(平均粒径)としては、特に制限されず、多孔膜の分級サイズ(多孔のサイズ)、目的とする分級後の量子ドットの粒径に応じて適宜選択することができる。分級される量子ドットの粒径分布としては、例えば、1~100nmが挙げられる。また、本発明の量子ドット分級用多孔膜で分級された後の量子ドットの粒径分布(平均粒径)についても、多孔膜の分級サイズ(多孔のサイズ)、目的とする分級後の量子ドットの粒径に応じて適宜選択することができ、例えば、1~15nm、15~25nm、25~50nm、50~80nm、80~100nmなどが挙げられる。なお、本発明において、量子ドットが、半導体ナノ粒子を量子ドットの核(コア)とし被覆化合物で覆ったコアシェル構造、半導体ナノ粒子を核としてその核を不動態層で覆った構造、又は核とは異なる被覆化合物で核を覆ったコアシェル構造をさらに不動態層(配位子)で覆った構造等の場合は、当該量子ドットの粒径は、上記被覆化合物、不動態層等を含んだ量子ドット全体の粒径をいう。
【0044】
なお、本発明において、量子ドットの粒径分布(平均粒径)は次のように測定されるものである。すなわち、量子ドット分級用多孔膜で濾過した濾液中に含まれる量子ドットの粒径及び粒度分布を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定する。具体的には、得られた濾液を透過型電子顕微鏡用のグリッド(応研商事株式会社製ハイレゾカーボンHRC-C10)上に滴下し、溶媒を揮発させることでTEM観察用試料を作製する。これを日本電子株式会社製透過型電子顕微鏡JEM-2100Fを用いて倍率150万倍で観察し、画像を得る。量子ドット同士が画像中で重なっていない量子ドット(
図4参照)の長径(最大長)と短径(最小長)を任意に30個以上100個以下測定する。そして、測定した長径と短径の平均を測定した量子ドットの粒径とし、当該粒径の総和を、測定した量子ドットの個数(測定データ総数)で除して得られる値を平均粒径とする。また、標準偏差は、測定した各量子ドットの粒径のデータを、Microsoft ExcelのSTDEV.S関数を用いて算出する。また、各粒径を有する量子ドットの存在頻度は、測定した各量子ドットの粒径の測定データを用いて1nm毎の個数を測定、作成し、各個数を測定データ総数で除することにより各粒径範囲の存在頻度を算出する。
【0045】
本発明の量子ドット分級用多孔膜で分級された量子ドットの粒径分布(平均粒径)の標準偏差としては、好ましくは3.0nm以下、より好ましくは2.0nm以下、さらに好ましくは1~1.5nmである。また、当該標準偏差を前述した平均粒径で除することにより得られる変動係数CVとしては、0.50以下が好ましく、0.30以下がより好ましく、0.22以下がさらに好ましい。
【0046】
本発明の量子ドット分級用多孔膜によれば、例えば、遠心分離を用いる従来の分級方法と比較して、同等以上の分級精度で分級を行うことも可能となる。したがって、分級後の量子ドットは、例えば、生体イメージング(蛍光染色用色素、バイオセンサーなど)、エレクトロニクス・フォトニクス(発光ダイオード、レーザーダイオード、白色照明、バックライト、ディスプレイ、フォトニクスインク、セキュリティインク、固体メモリーチップ、光検出器、光増幅器、トランジスタ、光学スイッチ、論理ゲート、量子計算機など)、太陽電池(色素増感型、有機薄膜型など)などの用途に好適に利用することができる。
【実施例0047】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0048】
<量子ドット分散液の製造>
ホットインジェクション法を用いた化学合成によって、有機溶媒中に、PbSを半導体ナノ粒子、オレイン酸を不動態層とするPbS量子ドット分散液を作製した。以下に作製時に使用した試薬および作製手順を示す。
【0049】
<試薬>
・酸化鉛(II):PbO, Lead(II) oxide 99.999% tra ce metals basis, Sigma-Aldrich社製
・ヘキサメチルジシラチアン:(TMS)2S, Hexamethyldisilat hiane synthesis grade, Sigma-Aldrich社製
・オレイン酸:OA, Oleic acid technical grade, 9 0%, Sigma-Aldrich社製
・1-オクタデセン:ODE, 1-Octadecene technical gr ade, 90%, Sigma-Aldrich社製
・エタノール(99.5):EtOH, Ethanol(99.5), Wako 1 st Grade, 99.5+%, Wako社製
【0050】
<作製手順>
1)予めグローブボックス内に窒素を充満させ、湿度を20%以下にした。
2)1-オクタデセン6.0mLと撹拌子を入れたフタ付きガラス容器をグローブボック ス内に移し、(TMS)2Sを126.6μL入れた。これを、ホットスターラーを用 いて40℃735rpmで撹拌した。これを、溶液Aとする。
3)電子天秤を使って酸化鉛(II)を0.2232g測り取り、四つ口フラスコに入れ た。さらに、1-オクタデセン2.0mLとオレイン酸7.9mLと撹拌子を四つ口フ ラスコに入れ、ホットスターラーを用いて、窒素雰囲気下130℃750rpmで1時 間撹拌した。これを、溶液Bとする。
4)溶液Bに溶液Aをシリンジを用いて注入し、130℃で50秒間反応させた。これを 、溶液Cとする。
5)予め5℃に冷やしておいたエタノール12mLに溶液Cを加えてよく振り、反応を停 止させた。
以上の手順で、PbS量子ドット分散液を得た。
【0051】
<量子ドット分級用多孔膜>
下記のユニチカ株式会社製ポリアミド中空糸膜(以下の商品名:WINSEP MF002、UF 50、MF 040)を、量子ドットの分級に用いる多孔膜として用いた。
WINSEP MF 002(緻密層(スキン層)なし、多孔質構造、外径485μm、内径277μm)
WINSEP UF 50(緻密層(スキン層)あり(内腔側表面に緻密層が設けられ、外側表面には緻密層が設けられていない、緻密層以外の領域は多孔質構造)、外径792μm、内径423μm、緻密層の厚み520nm)
WINSEP MF 040(緻密層(スキン層)なし、多孔質構造、外径556μm、内径282μm)
【0052】
これらの多孔膜のバーストバブルポイント、分画分子量(kDa)、内圧透水量(L/(m2・bar・h))を表1に示す。
【0053】
<量子ドットの分級試験>
[多孔膜を用いた分級]
前記の量子ドット分散液の製造で得られた、PbS量子ドット分散液を高純度トルエンで20倍希釈した。次に、希釈したPbS量子ドット分散液を、ポリアミド中空糸膜を用いて内圧式濾過にて分級操作を実施した。ここでの内圧式濾過とは、
図1に示すような、片端を治具5で封止した中空糸状ポリアミド精密濾過膜4の他方の中空部分から供給用シリンジ1および注射針3を用いて量子ドット分散液2を送液する手法を指す。
【0054】
[遠心分離を用いた分級]
以下に、遠心分離を用いた分級に使用した試薬および分級手順を示す。
【0055】
<試薬>
・トルエン(超脱水):Toluene Super Dehydrated, for Organic Synthesis, 99.5+%, Wako社製
・エタノール(99.5):EtOH, Ethanol(99.5), Wako 1 st Grade, 99.5+%, Wako社製
【0056】
<分級手順>
1)PbS量子ドット分散液を遠心分離チューブに12等分し、各々を14500rpm で3分間遠心分離した。
2)各々の上澄み液を捨て、沈殿物にトルエン(超脱水)を各0.5mLずつ加えて分散 させたのち、2本を1本にまとめた。これによって、遠心分離チューブの本数が0.5 mL×12本から1.0mL×6本になる。
3)各々にエタノールを1.0mL加え、14500rpmで3分間遠心分離した。
4)各々の上澄み液を捨て、沈殿物をトルエン(超脱水)0.5mLに分散させた後、エ タノール0.5mLを加えて14500rpmで3分間遠心分離を行なった。
5)各々の上澄み液を捨て、沈殿物にトルエン(超脱水)0.25mLを加えて分散させ 、14500rpmで1時間遠心分離した。
6)マイクロピペットで上澄み液を取り、フタ付きガラス容器に移して保存した。
以上の手順で、遠心分離を用いて分級したPbS量子ドット分散液を得た。
【0057】
量子ドットの粒径分布(平均粒径)は次のように測定した。すなわち、量子ドット分級用多孔膜で濾過した濾液中に含まれる量子ドットの粒径及び粒度分布を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した。具体的には、得られた濾液を透過型電子顕微鏡用のグリッド(応研商事株式会社製ハイレゾカーボンHRC-C10)上に滴下し、溶媒を揮発させることでTEM観察用試料を作製した。これを日本電子株式会社製透過型電子顕微鏡JEM-2100Fを用いて倍率150万倍で観察し、画像を得た。量子ドット同士が画像中で重なっていない量子ドット(
図4参照)の長径(最大長)と短径(最小長)を任意に30個以上100個以下測定した。そして、測定した長径と短径の平均を測定した量子ドットの粒径とし、当該粒径の総和を、測定した量子ドットの個数(測定データ総数)で除して得られる値を平均粒径とした。また、標準偏差は、測定した各量子ドットの粒径のデータを、Microsoft ExcelのSTDEV.S関数を用いて算出した。また、各粒径を有する量子ドットの存在頻度は、測定した各量子ドットの粒径の測定データを用いて1nm毎の個数を測定、作成し、各個数を測定データ総数で除することにより各粒径範囲の存在頻度を算出した。
【0058】
以上の量子ドットの分級試験の結果を表1及び
図3に示す。
【0059】
【0060】
※1:2-プロパノールを用いて測定
※2:LMH:L/(m2・bar・h)
【0061】
実施例1~3は、分級後の量子ドットの平均粒径の標準偏差が3.0nm以下であり、本発明の量子ドット分級用多孔膜は量子ドットの新規な分級方法に利用できるものであった。また、比較例1では、遠心分離工程を4回おこなって分離されたのに対し、実施例1~3は、1回の分級操作のみで上記標準偏差とすることができ、簡便に分級を行うことができるものであった。
【0062】
中でも、実施例1及び2は、量子ドット分級用多孔膜のバーストバブルポイントが0.7MPa以上であったことから、量子ドットの分級をより好適に行うことができるものであった。とりわけ、実施例2は、量子ドット分級用多孔膜が、バーストバブルポイントが0.8MPa以上であり、少なくとも一方の面の表面に緻密層(スキン層)が形成されているものであったことから、2~3nmの範囲の量子ドットもカットしやすくなり、量子ドットの分級をより一層好適に行うことができるものであった。