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特開2023-108447生体状態安定化支援装置および生体状態安定化支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108447
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】生体状態安定化支援装置および生体状態安定化支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20230728BHJP
   G16H 50/20 20180101ALI20230728BHJP
【FI】
A61B5/00 G
G16H50/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009580
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】512068167
【氏名又は名称】株式会社ファーストスター・ヘルスケア
(71)【出願人】
【識別番号】399059049
【氏名又は名称】フューチャー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(72)【発明者】
【氏名】西川 久仁子
(72)【発明者】
【氏名】中元 淳
(72)【発明者】
【氏名】板垣 慎佑
(72)【発明者】
【氏名】鶴巻 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】長野 寛輝
【テーマコード(参考)】
4C117
5L099
【Fターム(参考)】
4C117XB18
4C117XC15
4C117XE06
4C117XE13
4C117XE14
4C117XE15
4C117XE16
4C117XE17
4C117XE18
4C117XE19
4C117XE24
4C117XE26
4C117XH02
4C117XH16
4C117XJ13
4C117XJ42
4C117XP12
4C117XQ20
5L099AA04
(57)【要約】
【課題】アプリケーションで脳の状態を安定化させるための仕組みを提供する。
【解決手段】患者と、当該患者と親近な関係性を有する健常者とが共同で課題を実施したときに生じる生体情報を患者および健常者のそれぞれから取得する生体情報取得部11と、患者の生体情報および健常者の生体情報が同調または同期しているか否かという観点から、患者の脳の状態の安定具合を評価する安定評価部12とを備え、脳の状態が安定している健常者から生じる生体情報と、健常者に共感した患者から生じる生体情報とが同調または同期してくるという性質を利用して、患者の脳の状態の安定具合を評価し、患者と健常者とが課題を適宜変えながら繰り返し共同体験を実施することにより、患者の脳の状態がより安定するようにしていくことができるようにする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳疾患、神経疾患または精神疾患の患者と、当該患者と親近な関係性を有する健常者とが共同で課題を実施したときに生じる生体情報を上記患者および上記健常者のそれぞれから取得する生体情報取得部と、
上記生体情報取得部により取得された上記患者の生体情報および上記健常者の生体情報が同調または同期しているか否かという観点から、上記患者の脳の状態の安定具合を評価する安定評価部とを備えた
ことを特徴とする生体状態安定化支援装置。
【請求項2】
上記安定評価部による評価結果に基づいて、上記課題の内容または実施方法の変更を促すメッセージを出力する情報提供部を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の生体状態安定化支援装置。
【請求項3】
上記情報提供部は、上記安定評価部による評価結果に基づいて、上記課題の内容または実施方法に関する変更内容の提案情報を更に出力することを特徴とする請求項2に記載の生体状態安定化支援装置。
【請求項4】
上記安定評価部による評価結果に基づいて、上記課題の実施者とは異なる医療従事者の介入または次段階の治療への移行を促すメッセージを出力する第2の情報提供部を更に備えたことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の生体状態安定化支援装置。
【請求項5】
上記健常者が興味関心を有する課題に用いるコンテンツまたは上記健常者が興味関心を有するコンテンツを選出するコンテンツ選出部を更に備えたことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の生体状態安定化支援装置。
【請求項6】
上記健常者および上記患者の双方が興味関心を有する課題に用いるコンテンツまたは上記健常者および上記患者の双方が興味関心を有するコンテンツを選出するコンテンツ選出部を更に備えたことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の生体状態安定化支援装置。
【請求項7】
上記健常者が興味関心を有する課題を選出する課題選出部を更に備えたことを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の生体状態安定化支援装置。
【請求項8】
上記健常者および上記患者の双方が興味関心を有する課題を選出する課題選出部を更に備えたことを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の生体状態安定化支援装置。
【請求項9】
脳疾患、神経疾患または精神疾患の患者と、当該患者と親近な関係性を有する健常者とが共同で課題を実施したときに生じる生体情報を上記患者および上記健常者のそれぞれから取得する生体情報取得手段、および
上記生体情報取得手段により取得された上記患者の生体情報および上記健常者の生体情報が同調または同期しているか否かという観点から、上記患者の脳の状態の安定具合を評価する安定評価手段
としてコンピュータを機能させるための生体状態安定化支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者状態安定化装置および患者状態安定化プログラムに関し、特に、患者の脳の状態の安定化を支援する装置およびプログラムに用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
病気や怪我による一過性の痛みに対し、痛みが長く続く慢性疼痛というものがある。慢性疼痛は、神経系の損傷によってもたらされ、心理的因子(ストレスや不安など精神的・心理的問題)によって増幅されることもあることが知られている。慢性疼痛の持続に何らかの身体的因子(例えば、脳や脊髄の病気または損傷など)が関与していることが明らかな患者でも、心理的因子も関与していることが多い。慢性疼痛を放置していると、心身ともに消耗し、不眠や食欲不振、集中力の低下、イライラなどの症状が現れることがある。慢性的な痛みによるストレスで抑うつ傾向となり、社会生活に支障をきたす可能性もある。
【0003】
従来、慢性疼痛の治療には、様々な薬剤と心理学的治療が用いられてきた。最近では、慢性疼痛の治療を支援するアプリケーション(いわゆる治療用アプリ)も提供されている(例えば、非特許文献1参照)。この非特許文献1に記載の治療用アプリは、主に脳の再訓練演習を行うことによって慢性疼痛の改善を図ることを目的としたものである。
【0004】
再訓練によって脳が正常状態に近づき、それによって慢性疼痛が改善されることは期待できる。しかしながら、そもそも患者が精神的に不安定な状態のままでは、脳が再訓練を受け容れる体制にはない。そのため、治療用アプリを用いて脳の再訓練を行う前に、脳の状態を安定化させることにより、患者の精神状態を安定させて訓練の受け容れ体制を心に作ることが必要となる。
【0005】
なお、コンテンツを実施したときに得られる被験者の脳波などの生体情報を解析することにより、被験者の脳疾患や神経疾患を診断する技術が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。特許文献1,2には、被験者がコンテンツを実施したときのリラックス度、ストレス度、楽しさ、意欲亢進などについての生理指標を使用することが開示されている。特許文献3には、被験者の生体情報のほかに、同じコンテンツを患者および健常者が実施したときに得られる生体情報も用いて、被験者の疾患の有無を判定することが開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1~3に記載の技術は、被験者がコンテンツを実施したときに得られる生体情報に基づいて、被験者が脳疾患や神経疾患に罹患しているか否かを診断するものであり、脳の状態を安定化させるための仕組みは何ら提供されていない。
【0007】
慢性疼痛だけでなく、認知症や自閉症等の脳神経系の患者についても同様の問題がある。すなわち、脳神経障害の予防または進行の抑制を図る一手段として、アプリケーションによる脳トレ(いわゆる脳トレアプリ)が用いられている。脳トレは、認知機能(記憶・言語理解・注意・知覚・推論判断等)の低下の予防や回復を行うことを主眼とするものである。脳神経系の患者がこの種の脳トレアプリを用いる場合も、脳の訓練効果を高めるためには、訓練を行う前に脳の状態を安定化させて訓練の受け容れ体制を心に作っておくことが望まれる。
【0008】
なお、家族と一緒に訓練を行う脳トレアプリも提供されている(例えば、非特許文献2参照)。この非特許文献2に記載の脳トレアプリは、当該アプリの活動・脳状況を家族と共有できる「家族用サイト(Webサイト)」を組み合わせて用い、家族みんなが安心して楽しく脳の健康維持活動を行うことによって認知症予防を図るものである。しかしながら、この脳トレアプリは、認知症予防のために、あくまで健常者どうしが脳トレの対戦を行うといった内容であり、脳神経系の患者の心の安定を図ることを通じて治療に向けた前向きな意欲向上を意図するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008-86481号公報
【特許文献2】特許第5599839号公報
【特許文献3】特開2012-34839号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】慢性疼痛改善アプリ「Curable」(ウェブサイト:https://www.curablehealth.com/)
【非特許文献2】脳の健康維持アプリ「脳にいいアプリ」(ウェブサイト1:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000007987.html、ウェブサイト2:https://www.braincure.jp/)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上のような実情に鑑みて成されたものであり、脳の状態を安定化させるための仕組みを有するアプリケーションを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決するために、本発明では、脳疾患、神経疾患または精神疾患の患者と、当該患者と親近な関係性を有する健常者とが共同で課題を実施したときに生じる生体情報を患者および健常者のそれぞれから取得し、患者の生体情報および健常者の生体情報が同調または同期しているか否かという観点から、患者の脳の状態の安定具合を評価するようにしている。
【発明の効果】
【0013】
上記のように構成した本発明によれば、患者が健常者と一緒に課題を共同体験し、患者が健常者に共感すると、健常者から生じる生体情報と患者から生じる生体情報とが同調または同期してくるという性質を利用して、脳の状態が安定している健常者から生じる生体情報と、健常者に共感した患者から生じる生体情報とが同調または同期しているか否かに応じて、患者の脳の状態の安定具合を評価することができる。この評価結果をもとに、患者と健常者とが課題を適宜変えながら繰り返し共同体験を実施することにより、患者の脳の状態がより安定するようにしていくことができる。患者が単独で課題を実施するのではなく、患者と親近な関係性を有する健常者と一緒に課題を共同体験することにより、患者が繰り返しの共同体験を長く継続しやすくなり、かつ共感が得られやすい状態とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態による生体状態安定化支援装置を用いたヘルスケアシステムの全体構成例を示す図である。
図2】本実施形態による生体状態安定化支援装置の機能構成例を示すブロック図である。
図3】第1変形例による生体状態安定化支援装置の機能構成例を示すブロック図である。
図4】第2変形例による生体状態安定化支援装置の機能構成例を示すブロック図である。
図5】第3変形例による生体状態安定化支援装置の機能構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態による生体状態安定化支援装置を用いたヘルスケアシステムの全体構成例を示す図である。本実施形態のヘルスケアシステムは、脳疾患、神経疾患または精神疾患の患者PTが身につけて使用する生体情報検出センサ101と、当該患者PTと親近な関係性を有する健常者HPが身につけて使用する生体情報検出センサ102と、生体状態安定化支援装置10とを備えて構成される。本実施形態において患者PTとは、疾患に罹患していることの診断を実際に受けた者のほか、疾患に罹患している疑いのある者を含む。
【0016】
生体情報検出センサ101,102は、生体情報を検出するためのセンサである。生体情報検出センサ101,102が検出する生体情報は、例えば、脳波、心拍、心電位、脈波、呼吸、血圧、血流、筋電位、発汗、瞬目、眼球運動、体動、体位などの中の1つまたは2つ以上の組み合わせである。生体情報検出センサ101,102は、例えば、Wi-Fi(登録商標)またはBluetooth(登録商標)などの無線通信手段を備えたウェアラブル端末に備えられている。ウェアラブル端末は、生体情報検出センサ101,102により検出された生体情報を生体状態安定化支援装置10に無線送信する。
【0017】
生体状態安定化支援装置10は、例えば、Wi-Fi(登録商標)またはBluetooth(登録商標)などの無線通信手段を備えたスマートフォン、タブレットまたはパーソナルコンピュータにより構成される。生体状態安定化支援装置10は、生体情報検出センサ101,102から無線送信された患者PTの生体情報および健常者HPの生体情報を受信して記録し、これらの生体情報に基づいて患者PTの脳の安定具合を評価する。
【0018】
本実施形態の生体状態安定化支援装置10は、患者PTと、当該患者PTと近しい関係性を有する健常者HPとが課題を共同体験したときの共感を利用して、患者PTの脳の状態の安定具合を評価し、脳の状態を安定化させていくことができるようにしたものである。患者PTと近しい関係性を有する健常者HPとは、例えば家族、近親者、友人、かかりつけ医のように一定の関係を有する医療従事者などである。
【0019】
共同体験する課題は、主に情動や感情に働きかけるものであり、例えば以下のようなものが一例として挙げられる。
・音楽系・・・音楽を聴く、演奏する、リズムを刻むなど
・体動系・・・ヨガ、呼吸を合わせる、体を動かすなど
・匂い系・・・アロマをかぐ、利き酒をするなど
・映像系・・・写真をみる、映画をみるなど
・服装系・・・おしゃれをする、服を着る、色をコーディネートするなど
・アート系・・・絵を描く、色を混ぜ合わせる、図形・ブロックを組み合わせるなど
・その他・・・料理をして食べる、動物と遊ぶ、ゲームをする、読書するなど
【0020】
上述したように、本実施形態の生体状態安定化支援装置10は、患者PTと健常者HPとが課題を共同体験したときの共感を利用して、患者PTの脳の状態の安定化を図るものである。よって、共同体験の実施時に患者PTが健常者HPに共感するとき、健常者HP自身がその共同体験に前向きに楽しく取り組んでいる状態であることが望ましい。そこで、患者PTと健常者HPとが共同体験する課題は、例えば健常者HPが興味関心を有するものとするのが好ましい。また、共同体験する課題は、患者PT自身が前向きに楽しく取り組める内容であることも望まれる。よって、例えば健常者HPと患者PTとの双方が興味関心を有する課題を選出して共同体験を実施するのがより好ましい。
【0021】
患者PTと健常者HPとの共同体験は、課題の内容または実施方法を適宜変えながら繰り返し実施され、共同体験が実施される都度、そのときに患者PTおよび健常者HPに生じる生体情報をそれぞれ生体情報検出センサ101,102により検出する。課題の内容を変えるとは、例えば「音楽系」という同じ系統の中で「音楽を聴く」という課題から「演奏する」という課題に変える場合や、例えば「音楽系」の課題からそれとは異なる系統である「映像系」の課題に変える場合を含む。また、例えば「音楽を聴く」という課題は変えずに、聴く音楽(コンテンツ)を変える場合も、課題の内容を変えることの一態様である。一方、課題の実施方法を変えるとは、例えば「音楽を聴く」という課題も聴く音楽(コンテンツ)も変えずに、再生音量を変えるとか、聴く場所を変えるとか、一緒に聴く健常者HPを変えるということである。
【0022】
このように、患者PTが健常者HPと共同体験する課題の内容および実施方法は、従来の脳トレアプリのように画一的なものではなく、様々である。画一的ではない課題を実施することで、患者PTによる課題の実施率や継続率を高めることができる。また、共同体験の実施者である家族や近親者との接触率を向上させて心理的距離を縮めることで、患者PTの脳・神経・心の状態安定を効果的に図ることができる。
【0023】
図2は、本実施形態による生体状態安定化支援装置10の機能構成例を示すブロック図である。図2に示すように、本実施形態の生体状態安定化支援装置10は、機能構成として、生体情報取得部11、安定評価部12および情報提供部13を備えている。また、生体状態安定化支援装置10は、記憶媒体として、生体情報記憶部21および評価結果記憶部22を備えている。
【0024】
上記機能ブロック11~13は、ハードウェア、DSP(Digital Signal Processor)、ソフトウェアの何れによっても構成することが可能である。例えばソフトウェアによって構成する場合、上記機能ブロック11~13は、実際にはコンピュータのCPU・GPUなどのプロセッサ、RAM、ROMなどを備えて構成され、RAMやROM、ハードディスクまたは半導体メモリ等の記憶媒体に記憶された生体状態安定化支援プログラムが動作することによって実現される。
【0025】
生体情報取得部11は、患者PTと健常者HPとが共同で課題を実施したときに生じる生体情報を、患者PTおよび健常者HPのそれぞれから取得する。上述したように、患者PTと健常者HPとの共同体験は、課題の内容または実施方法を適宜変えながら繰り返し実施される。生体情報取得部11は、共同体験が実施される都度、生体情報検出センサ101,102により検出された患者PTおよび健常者HPの生体情報をウェアラブル端末から取得する。そして、取得した生体情報を生体情報記憶部21に逐次記憶する。
【0026】
安定評価部12は、生体情報取得部11により取得された患者PTの生体情報および健常者HPの生体情報が同調または同期しているか否かという観点から、患者の脳の状態の安定具合を評価し、その評価結果を評価結果記憶部22に記憶する。
【0027】
例えば、生体情報として脳波を用いた場合、安定評価部12は、患者PTの脳波と健常者HPの脳波との類似度を算出し、類似度が閾値以上の場合に生体情報が同調または同期していると判定する。ここでいう脳波との類似度とは、波形、波長、周期などのうち何れか1つまたは2つ以上の組み合わせに関する類似度である。生体情報として心電位や脈波、血流、筋電位などを用いた場合も同様である。
【0028】
また、生体情報として心拍を用いた場合、安定評価部12は、心拍数や心拍を打つタイミングなどについて、患者PTの心拍と健常者HPの心拍との類似度を算出し、類似度が閾値以上の場合に生体情報が同調または同期していると判定する。生体情報として呼吸を用いた場合も同様であり、安定評価部12は、単位時間当たりの呼吸数や呼吸をするタイミングなどについて、患者PTの呼吸と健常者HPの呼吸との類似度を算出し、類似度が閾値以上の場合に生体情報が同調または同期していると判定する。
【0029】
なお、類似度は、公知の指標値を用いて算出することが可能である。一例として、相関係数、生体情報から抽出される特徴ベクトルに基づくコサイン類似度、ユークリッド距離、マハラノビス距離などの指標値を用いて脳波の類似度を算出することが可能である。
【0030】
情報提供部13は、安定評価部12の評価結果を示す情報をディスプレイに表示することにより、評価結果をユーザに提供する。例えば、情報提供部13は、患者PTの生体情報と健常者HPの生体情報とが同調または同期しているか否かの判定結果(類似度が閾値以上か否かを示す情報)をディスプレイに表示する。また、情報提供部13は、患者PTの生体情報と健常者HPの生体情報との類似度の大きさを示す情報を提供するようにしてもよい。また、情報提供部13は、生体情報記憶部21に記憶されている患者PTの生体情報および健常者HPの生体情報(評価結果に対応するもの)を、評価結果を示す情報と共にディスプレイに表示するようにしてもよい。
【0031】
情報提供部13により提供された情報を見た健常者HPは、共同体験の実施を継続するか否か、共同体験の実施者とは異なる医療従事者(例えば、脳神経系疾患の専門医など)に相談をするか、治療用アプリや脳トレアプリの使用を開始するかなどの判断を行うことができる。また、健常者HPは、情報提供部13により提供された情報を、事前問診の位置づけで医療従事者と共有しながら、受診や治療介入すべきタイミングを相談することも可能である。
【0032】
また、慢性疼痛、認知症、自閉症等の脳神経系の疾患について病識のない患者が課題の共同体験を実施している場合、情報提供部13により提供される情報を患者に伝えて正しい病識を持たせ、専門医による治療の開始や、治療用アプリや脳トレアプリの使用の開始を無理なく促すことができる。これにより、初診や治療介入に関するハードルを下げて、患者の見守り・ケアを行う家族・近親者への負担を軽減することができるというメリットも有する。また、治療を開始する前までに行った共同体験の内容と評価結果の情報を、治療を開始した医療従事者と共有することも可能であり、これによる治療の精度向上も期待できる。
【0033】
以上のように、本実施形態によれば、患者PTが健常者HPと一緒に課題を共同体験し、患者PTが健常者HPに共感すると、健常者HPから生じる生体情報と患者PTから生じる生体情報とが同調または同期してくるという性質を利用して、脳の状態が安定している健常者HPから生じる生体情報と、健常者HPに共感した患者PTから生じる生体情報とが同調または同期しているか否かに応じて、患者PTの脳の状態の安定具合を評価することができる。この評価結果をもとに、患者PTと健常者HPとが課題を適宜変えながら繰り返し共同体験を実施することにより、患者PTの脳の状態がより安定するようにしていくことができる。患者PTが単独で課題を実施するのではなく、患者PTと親近な関係性を有する健常者HPと一緒に課題を共同体験することにより、患者PTが繰り返しの共同体験を長く継続しやすくなり、かつ共感が得られやすい状態とすることができる。
【0034】
なお、情報提供部13は、安定評価部12による評価結果に基づいて、課題の内容または実施方法の変更を促すメッセージを出力するようにしてもよい。例えば、情報提供部13は、同じ課題を同じ方法で繰り返し実施した場合の生体情報をもとに安定評価部12により評価されたそれぞれの結果(評価結果記憶部22に記憶されている複数回分の評価結果)を解析し、健常者HPの生体情報と患者PTの生体情報とが同調または同期していないと判定されたことが所定回数以上続いている場合に、課題の内容または実施方法の変更を促すメッセージを出力する。
【0035】
あるいは、情報提供部13は、同じ系統の課題を繰り返し実施した場合の生体情報をもとに安定評価部12により評価されたそれぞれの結果(評価結果記憶部22に記憶されている複数回分の評価結果)を解析し、健常者HPの生体情報と患者PTの生体情報とが同調または同期していないと判定されたことが所定回数以上続いている場合に、異なる系統の課題に変更することを促すメッセージを出力するようにしてもよい。同じ系統の課題とは、例えば音楽系の課題どうしとか、体動系の課題どうしといったように、課題のカテゴリが同じものを言う。
【0036】
なお、情報提供部13は、同じ課題を同じ方法で繰り返し実施した場合の評価結果を解析し、生体情報の類似度が徐々に上昇している傾向がみられる場合に、同じ課題を同じ方法で実施することを継続することを促すメッセージを出力するようにしてもよい。同様に、情報提供部13は、同じ系統の課題を繰り返し実施した場合の評価結果を解析し、生体情報の類似度が徐々に上昇している傾向がみられる場合に、同じ系統の課題の実施を継続することを促すメッセージを出力するようにしてもよい。
【0037】
また、情報提供部13は、安定評価部12による評価結果に基づいて、課題の内容または実施方法に関する変更内容の提案情報を更に出力するようにしてもよい。例えば、安定評価部12による評価結果の情報とともに、実施した課題の内容および実施方法に関する情報を評価結果記憶部22に記憶するようにする。そして、情報提供部13は、同じ課題を同じ方法で繰り返し実施した場合の生体情報をもとに安定評価部12により評価されたそれぞれの結果を解析し、健常者HPの生体情報と患者PTの生体情報とが同調または同期していないと判定されたことが所定回数以上続いている場合に、評価結果記憶部22に記憶されている課題とは異なる内容の課題、または評価結果記憶部22に記憶されている実施方法とは異なる実施方法を、変更内容の提案情報として出力する。
【0038】
あるいは、情報提供部13は、同じ系統の課題を繰り返し実施した場合におけるそれぞれの評価結果を解析し、健常者HPの生体情報と患者PTの生体情報とが同調または同期していないと判定されたことが所定回数以上続いている場合に、評価結果記憶部22に記憶されている課題の系統とは異なる系統の課題を、変更内容の提案情報として出力するようにしてもよい。
【0039】
また、第1変形例に係る生体状態安定化支援装置10Aの機能構成例として図3に示すように、生体状態安定化支援装置10Aは、安定評価部12による評価結果に基づいて、課題の実施者とは異なる医療従事者(例えば、脳神経系疾患の専門医など)の介入または次段階の治療(例えば、専門医による治療、治療用アプリや脳トレアプリの使用など)への移行を促すメッセージを出力する第2の情報提供部14を更に備えるようにしてもよい。
【0040】
一例として、第2の情報提供部14は、安定評価部12により、健常者HPの生体情報と患者PTの生体情報とが同調または同期していると判定された場合に、医療従事者の介入または次段階の治療への移行を促すメッセージを出力する。あるいは、評価結果記憶部22に記憶されている複数回分の評価結果を解析し、健常者HPの生体情報と患者PTの生体情報とが同調または同期しているとの判定が所定回数以上続いている場合に、医療従事者の介入または次段階の治療への移行を促すメッセージを出力するようにしてもよい。
【0041】
また、第2変形例に係る生体状態安定化支援装置10Bの機能構成例として図4に示すように、生体状態安定化支援装置10Bは、コンテンツ選出部15およびコンテンツ記憶部23を更に備えるようにしてもよい。コンテンツ記憶部23は、患者PTと健常者HPとが共同体験する課題において使用するコンテンツを示す情報を、課題を示す情報と関連付けて記憶する。コンテンツを示す情報は、例えばコンテンツの種類、名称、デジタルコンテンツの場合の各種プロパティ(タイトル、作成日時、種類、作成位置情報、ジャンル、作成者、コメントなど)などである。なお、コンテンツ記憶部23は、生体状態安定化支援装置10Bからインターネット等の通信ネットワークを介してアクセスすることが可能なサーバ装置が備えてもよい。
【0042】
コンテンツ選出部15は、コンテンツ記憶部23に記憶されているコンテンツの中から、健常者HPが興味関心を有する課題に用いるコンテンツまたは健常者HPが興味関心を有するコンテンツを選出し、その結果をディスプレイに表示して健常者HPに提示する。
【0043】
例えば、コンテンツ選出部15は、健常者HPが興味関心を有する課題を示す情報を入力し、入力した課題に関連付けて記憶されているコンテンツの情報をコンテンツ記憶部23から検索して提示する。該当するコンテンツの情報が複数ある場合は、それらを一覧表示してもよいし、所定のルールで選択した何れか1つを表示してもよい。ここで、健常者HPが興味関心を有する課題を示す情報は、例えば、健常者HPがタッチパネルやキーボードなどの入力デバイスを用いて入力する。
【0044】
あるいは、コンテンツ選出部15は、生体状態安定化支援装置10Bが備えるウェブブラウザ機能を使用して健常者HPがウェブサイトを閲覧したときの閲覧履歴情報を用いて、健常者HPが興味関心を有する事柄のカテゴリを解析し、そのカテゴリに対応する系統の課題を示す情報を入力情報として用いてコンテンツ記憶部23を検索することにより、当該課題に関連付けて記憶されているコンテンツの情報をコンテンツ記憶部23から抽出して提示するようにしてもよい。ここで、1つの系統に複数の課題が含まれている場合、コンテンツ選出部15は、その中の何れか1つまたは2つ以上を入力情報として用いてコンテンツ記憶部23を検索する。
【0045】
ここでは、ウェブサイトの閲覧履歴情報を用いて健常者HPが興味関心を有する事柄のカテゴリを解析する例を示したが、閲覧履歴情報以外の情報(例えば、ECサイトでの商品購入履歴、生体状態安定化支援装置10Bに記憶されている音楽系や映像系などのデジタルコンテンツのプロパティ情報など)を用いて解析するようにしてもよい。
【0046】
また、コンテンツ選出部15は、健常者HPが入力デバイスを用いて入力したキーワードに基づいて、コンテンツ記憶部23に記憶されているコンテンツを示す情報(コンテンツの種類、名称、デジタルコンテンツの場合の各種プロパティなど)を検索し、キーワードに合致するコンテンツの情報をコンテンツ記憶部23から抽出して提示するようにしてもよい。ここで入力するキーワードは、健常者HPが有する興味関心に関連するキーワードである。この場合、健常者HPにとって、接触回数が多く、強い想い出があるといった情動性の高いコンテンツの情報をキーワード検索することも可能である。
【0047】
また、コンテンツ選出部15は、コンテンツ記憶部23に記憶されているコンテンツの中から、健常者HPおよび患者PTの双方が興味関心を有する課題に用いるコンテンツまたは健常者HPおよび患者PTの双方が興味関心を有するコンテンツを選出し、その結果をディスプレイに表示して健常者HPに提示するようにしてもよい。
【0048】
また、図4において、図3に示した第2の情報提供部14を更に備えるようにしてもよい。すなわち、第1変形例と第2変形例とを組み合わせて適用するようにしてもよい。
【0049】
また、第3変形例に係る生体状態安定化支援装置10Cの機能構成例として図5に示すように、生体状態安定化支援装置10Cは、課題選出部16および課題記憶部24を更に備えるようにしてもよい。課題記憶部24は、患者PTと健常者HPとが共同体験する課題を示す情報を記憶する。課題を示す情報は、例えば課題の系統、名称、課題の内容を表すキーワードまたは自由文のテキスト情報などである。なお、課題記憶部24は、生体状態安定化支援装置10Cからインターネット等の通信ネットワークを介してアクセスすることが可能なサーバ装置が備えてもよい。
【0050】
課題選出部16は、課題記憶部24に記憶されている課題の中から、健常者HPが興味関心を有する課題を選出し、その結果をディスプレイに表示して健常者HPに提示する。
【0051】
例えば、課題選出部16は、健常者HPが入力デバイスを用いて入力したキーワードに基づいて、課題記憶部24に記憶されている課題を示す情報を検索し、キーワードに合致する課題の情報を課題記憶部24から抽出して提示する。ここで入力するキーワードは、健常者HPが有する興味関心に関連するキーワードである。
【0052】
あるいは、課題選出部16は、健常者HPによるウェブサイトの閲覧履歴情報などを用いて、健常者HPが興味関心を有する事柄のカテゴリを解析し、そのカテゴリに対応する系統の課題を示す情報を課題記憶部24から抽出して提示するようにしてもよい。ここで、1つの系統に複数の課題が含まれている場合、課題選出部16は、その中の何れか1つまたは2つ以上を抽出する。
【0053】
また、課題選出部16は、課題記憶部24に記憶されているコンテンツの中から、健常者HPおよび患者PTの双方が興味関心を有する課題を選出し、その結果をディスプレイに表示して健常者HPに提示するようにしてもよい。
【0054】
また、図5において、図3に示した第2の情報提供部14を更に備えるようにしてもよい。すなわち、第1変形例と第3変形例とを組み合わせて適用するようにしてもよい。また、図5において、図4に示したコンテンツ選出部15およびコンテンツ記憶部23を更に備えるようにしてもよい。すなわち、第2変形例と第3変形例とを組み合わせて適用するようにしてもよい。また、第1変形例と第2変形例と第3変形例とを全て組み合わせて適用するようにしてもよい。
【0055】
なお、上記実施形態において、安定評価部12による評価結果に加えて、共同で課題を実施した健常者HPの所見(例えば、患者PTの感情発露を所定段階で評価した情報)を評価結果記憶部22に記憶するようにしてもよい。これに加えて、患者PTの行動情報(例えば、課題実施日の睡眠時間、外出時間など)を評価結果記憶部22に記憶するようにしてもよい。このようにすれば、評価結果だけでなく健常者HPの所見や患者PTの行動情報も医療従事者と共有することができ、診断・治療の精度向上を図ることができる。
【0056】
また、生体情報記憶部21に記憶される生体情報の履歴および評価結果記憶部22に記憶される評価結果の履歴の少なくとも一方に基づいて、経時的変化の傾向を解析したり、患者の状態変化を予測したりするようにしてもよい。
【0057】
また、安定評価部12が患者PTの生体情報と健常者HPの生体情報との類似判定に用いる閾値を、症例や重症度に応じた値に設定できるようにしてもよい。
【0058】
また、上記実施形態において、音楽系や映像系、アート系、その他の課題に関して、生体状態安定化支援装置10,10A,10B,10Cにおいて課題を実施する課題実行部を備えるようにしてもよい。
【0059】
その他、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0060】
10,10A,10B,10C 生体状態安定化支援装置
11 生体情報取得部
12 安定評価部
13 情報提供部
14 第2の情報提供部
15 コンテンツ選出部
16 課題選出部
図1
図2
図3
図4
図5