(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108458
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】磁気ディスク基板用研磨剤組成物、及び磁気ディスク基板の研磨方法
(51)【国際特許分類】
G11B 5/84 20060101AFI20230728BHJP
G11B 5/73 20060101ALI20230728BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20230728BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20230728BHJP
B24B 1/00 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
G11B5/84 A
G11B5/73
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
B24B37/00 H
B24B1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009591
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000178310
【氏名又は名称】山口精研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100198856
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】村田 徹
【テーマコード(参考)】
3C049
3C158
5D006
5D112
【Fターム(参考)】
3C049AA07
3C049CA01
3C049CB01
3C049CB03
3C049CB10
3C158AA07
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3C158ED26
5D006CB07
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5D006FA00
5D112AA02
5D112AA24
5D112BA03
5D112BA06
5D112BA09
5D112GA14
(57)【要約】
【課題】アルミナ粒子を使用することなく、高い研磨速度を実現可能であって、かつ、良好な表面平滑性と残存砥粒や研磨屑の付着のない表面状態を実現可能な研磨剤組成物の提供を課題とする。
【解決手段】磁気ディスク基板用研磨剤組成物は、平均粒子径が10~120nmの範囲であるコロイダルシリカと、平均粒子径が200~600nmの範囲である湿式法シリカと、水溶性高分子化合物と、第4級アンモニウム塩型有機化合物と、水とを含有し、水溶性高分子化合物は、少なくともカルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体を含有し、第4級アンモニウム塩型有機化合物は、窒素原子に結合する炭化水素基が炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基及び/または炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が10~120nmの範囲であるコロイダルシリカと、
平均粒子径が200~600nmの範囲である湿式法シリカと、
水溶性高分子化合物と、
第4級アンモニウム塩型有機化合物と、
水と
を含有し、
前記水溶性高分子化合物は、
少なくともカルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体を含有し、
前記第4級アンモニウム塩型有機化合物は、
窒素原子に結合する炭化水素基が炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基及び/または炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基である磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項2】
前記第4級アンモニウム塩型有機化合物は、
窒素原子に結合する炭化水素基が炭素数1~10の飽和脂肪族炭化水素基及び/または炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基である請求項1に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項3】
前記第4級アンモニウム塩型有機化合物は、
ジビニルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジエチルジメチルアンモニウムクロライド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、ジブチルジメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、オクチルトリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムクロライドで構成される群の中から選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項4】
前記第4級アンモニウム塩型有機化合物は、
窒素原子に結合する炭化水素基が4つの炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基である第一の第4級アンモニウム塩型有機化合物と、
窒素原子に結合する炭化水素基のうち少なくとも1つ以上の炭化水素基が炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基であり、かつ、残余の炭化水素基が炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基である第二の第4級アンモニウム塩型有機化合物と
を少なくとも一つ以上含む混合物である請求項1に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項5】
前記水溶性高分子化合物は、少なくともカルボン酸基を有する単量体及びアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体を更に含有する請求項1~4のいずれか一項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項6】
酸及び/またはその塩を更に含有し、
pH値(25℃)が0.1~4.0の範囲である請求項1~5のいずれか一項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項7】
酸化剤を更に含有する請求項1~6のいずれか一項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項8】
無電解ニッケル―リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板を研磨対象とする研磨に用いられる請求項1~7のいずれか一項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物を用いた磁気ディスク基板の研磨方法であって、
研磨工程、及び前記研磨工程の後に実施される最終研磨工程を具備し、
前記磁気ディスク基板用研磨剤組成物は、
前記最終研磨工程より前の前記研磨工程で使用される磁気ディスク基板の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク基板用研磨剤組成物、及び磁気ディスク基板の研磨方法に関するものであり、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体等の電子部品を構成する磁気ディスク基板の研磨に使用可能な磁気ディスク基板用研磨剤組成物(以下、単に「研磨剤組成物」と称す。)、及び磁気ディスク基板の研磨方法に関するものである。
【0002】
特に、本発明は、ガラス磁気ディスク基板やアルミニウム磁気ディスク基板等の磁気記録媒体用の磁気ディスク基板の基板表面の研磨に使用可能な研磨剤組成物、及び磁気ディスク基板の研磨方法であり、更にアルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケル-リンめっき皮膜を施したアルミニウム磁気ディスク基板等の研磨に使用可能な研磨剤組成物、及び当該研磨剤組成物を用いた磁気ディスク基板の研磨方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、アルミニウム磁気ディスク基板の無電解ニッケル-リンめっき皮膜表面を研磨するための研磨剤組成物として、高い研磨速度を実現可能な、比較的粒径の大きなアルミナ粒子を水に分散させた研磨剤組成物が生産効率等の生産性の観点から多く使用されている。
【0004】
しかしながら、アルミナ粒子は基板表面に形成された無電解ニッケル-リンめっき皮膜と比べて硬度が高い物性を有し、研磨時に当該アルミナ粒子が基板表面に突き刺さった状態で保持され、かかる状態のアルミナ粒子が研磨工程の次工程として行われる最終研磨工程(仕上げ研磨工程)に影響を及ぼす可能性があることが問題となっている。
【0005】
上記問題を解決するために、例えば、アルミナ粒子の成分とシリカ粒子の成分とを所定の比率で混合し、組み合わせた研磨剤組成物の使用が提案されている(特許文献1~4参照)。更に、アルミナ粒子を研磨剤組成物中に含有せず、シリカ粒子のみを含有した研磨剤組成物を使用した研磨方法も提案されている(特許文献5~11参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-260005号公報
【特許文献2】特開2009-176397号公報
【特許文献3】特開2011-204327号公報
【特許文献4】特開2012-43493号公報
【特許文献5】特開2010-167553号公報
【特許文献6】特表2011-527643号公報
【特許文献7】特開2014-29754号公報
【特許文献8】特開2014-29755号公報
【特許文献9】特表2003-514950号公報
【特許文献10】特開2012-155785号公報
【特許文献11】特開2019-16417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1~11に示した研磨剤組成物、或いは研磨剤組成物を使用した研磨方法は、下記に示す問題点を有することがあった。
【0008】
例えば、特許文献1~4に示されるアルミナ粒子の成分とシリカ粒子の成分とを組み合わせた研磨剤組成物の使用により、磁気ディスク基板の基板表面へのアルミナ粒子の突き刺さりをある程度は改善することが可能であった。しかしながら、アルミナ粒子を少なくとも含有しているため、当該アルミナ粒子が基板表面に突き刺さる可能性は依然として残っていた。加えて、アルミナ粒子及びシリカ粒子の双方の成分を含有して研磨剤組成物が構成されているため、個々の粒子の成分の有する特性を互いに相殺し、研磨速度及び表面平滑性等の研磨剤組成物の特性が低下する問題があった。
【0009】
そこで、アルミナ粒子を使用することなく、シリカ粒子のみを含んで構成される研磨剤組成物、及びかかる研磨剤組成物を使用する研磨方法が提案されている。例えば、コロイダルシリカと研磨促進剤とを組み合わせたものが知られている(特許文献5及び特許文献6参照)。更に、コロイダルシリカやフュームドシリカ、表面修飾されたシリカ、及び水ガラス法で製造されたシリカ等による研磨方法、特に特殊な形状を有するコロイダルシリカを使用する研磨方法が既に提案されている(特許文献7及び特許文献8参照)。しかしながら、上記提案された研磨方法の場合、研磨速度が不十分である等の研磨性能が従来の研磨剤組成物と比較して劣る可能性があり、更なる改良が求められていた。
【0010】
更に、コロイダルシリカとフュームドシリカとを組み合わせた研磨剤組成物を使用する研磨方法が提案されている(特許文献9参照)。しかしながら、かかる研磨剤組成物を使用する研磨方法の場合、研磨速度の向上は認められるものの、フュームドシリカの嵩比重が低いことに起因して、研磨剤組成物をスラリー化することが難しく、作業性に影響を及ぼす可能性があった。更に、破砕シリカ粒子を使用することで、アルミナ粒子の使用に近い研磨速度を実現することが可能な研磨方法が提案されている(特許文献10参照)。しかしながら、かかる研磨方法の場合、従来の研磨剤組成物と比較して表面平滑性が悪化する問題があり、更なる改良が求められていた。
【0011】
また、研磨工程後の基板表面に残存砥粒や研磨屑が付着することがあった。そのため、研磨工程後に基板表面に対する洗浄を行っても残存砥粒や研磨屑が除去できない場合、研磨工程後の最終研磨工程における作業負荷が多くかかる可能性があった。そのため研磨工程後の基板表面に残存砥粒や研磨屑が付着することがない、若しくは比較的簡易な洗浄作業によって容易に除去可能な研磨剤組成物を使用することが求められていた。
【0012】
そこで、本発明は、上記の従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、アルミナ粒子を使用することなく、高い研磨速度を実現可能であって、かつ、良好な表面平滑性と残存砥粒や研磨屑の付着のない表面状態を実現可能な研磨剤組成物、及び当該研磨剤組成物を用いた磁気ディスク基板の研磨方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、コロイダルシリカと、湿式法シリカとを組み合わせ、更に特定の水溶性高分子化合物と、特定の第4級アンモニウム塩型有機化合物を含有する研磨剤組成物を用いることにより、高い研磨速度と良好な表面平滑性と残存砥粒や研磨屑の付着のない表面状態を実現できることを見出し、下記に示す研磨剤組成物及び磁気ディスク基板の研磨方法を完成するに至った。
【0014】
[1] 平均粒子径が10~120nmの範囲であるコロイダルシリカと、平均粒子径が200~600nmの範囲である湿式法シリカと、水溶性高分子化合物と、第4級アンモニウム塩型有機化合物と、水とを含有し、前記水溶性高分子化合物は、少なくともカルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体を含有し、前記第4級アンモニウム塩型有機化合物は、窒素原子に結合する炭化水素基が炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基及び/または炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基である磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0015】
[2] 前記第4級アンモニウム塩型有機化合物は、窒素原子に結合する炭化水素基が炭素数1~10の飽和脂肪族炭化水素基及び/または炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基である前記[1]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0016】
[3] 前記第4級アンモニウム塩型有機化合物は、ジビニルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジエチルジメチルアンモニウムクロライド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、ジブチルジメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、オクチルトリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムクロライドで構成される群の中から選ばれる少なくとも1種である前記[2]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0017】
[4] 前記第4級アンモニウム塩型有機化合物は、窒素原子に結合する炭化水素基が4つの炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基である第一の第4級アンモニウム塩型有機化合物と、窒素原子に結合する炭化水素基のうち少なくとも1つ以上の炭化水素基が炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基であり、かつ、残余の炭化水素基が炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基である第二の第4級アンモニウム塩型有機化合物とを少なくとも一つ以上含む混合物である前記[1]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0018】
[5] 前記水溶性高分子化合物は、少なくともカルボン酸基を有する単量体及びアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体を更に含有する前記[1]~[4]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0019】
[6] 酸及び/またはその塩を更に含有し、pH値(25℃)が0.1~4.0の範囲である前記[1]~[5]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0020】
[7] 酸化剤を更に含有する前記[1]~[6]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0021】
[8] 無電解ニッケル―リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板を研磨対象とする研磨に用いられる前記[1]~[7]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0022】
[9] 前記[1]~[8]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物を用いた磁気ディスク基板の研磨方法であって、研磨工程、及び前記研磨工程の後に実施される最終研磨工程を具備し、前記磁気ディスク基板用研磨剤組成物は、前記最終研磨工程より前の前記研磨工程で使用される磁気ディスク基板の研磨方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、アルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム基板の表面を研磨する際に、2種類のシリカ粒子と、特定の水溶性高分子化合物と、特定の第4級アンモニウム塩型有機化合物を含有する研磨剤組成物を用いることにより、高い研磨速度と研磨後の基板表面に残存砥粒や研磨屑の付着が無い平滑な基板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0025】
1. 研磨剤組成物(磁気ディスク基板用研磨剤組成物)
本発明の研磨剤組成物は、必須成分としてコロイダルシリカと、湿式法シリカと、特定の水溶性高分子化合物と、特定の第4級アンモニウム塩型有機化合物と、水とを含み、任意成分として酸及び/またはその塩と、酸化剤を含有する研磨剤組成物である。
【0026】
1.1 コロイダルシリカ
本発明の研磨剤組成物に含有されるコロイダルシリカは、平均粒子径が10~120nmの範囲であり、好ましくは10~110nmの範囲であり、更に好ましくは15~100nmの範囲のものを使用することができる。コロイダルシリカの平均粒子径が10nm以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。一方、コロイダルシリカの平均粒子径が120nm以下であることにより、研磨後の基板の表面平滑性を良好に保つことができる。
【0027】
コロイダルシリカは、球状、鎖状、金平糖型(表面に凸部を有する粒子状)、及び異形型等の形状が知られており、水中に一次粒子が単分散してコロイド状をなしている。本発明で使用されるコロイダルシリカとしては、球状、または球状に近いコロイダルシリカが特に好ましい。このような球状、または球状に近いコロイダルシリカを用いることで、表面平滑性をより向上させることができる。なお、コロイダルシリカは、ケイ酸ナトリウムまたはケイ酸カリウムを原料とする水ガラス法、テトラエトキシシラン等のアルコキシシランを酸またはアルカリで加水分解するアルコキシシラン法、あるいは金属ケイ素と水をアルカリ触媒の存在下に反応させて水素を発生させながらシリカ粒子を形成させる方法等の従来から周知の方法を採用することで得られる。
【0028】
1.2 湿式法シリカ
本発明の研磨剤組成物に含有される湿式法シリカは、ケイ酸アルカリ水溶液と無機酸または無機酸水溶液とを反応容器に添加することにより、沈殿ケイ酸として得られるシリカ粒子から調製されるものである。なお、本明細書における湿式法シリカの中には、上述したコロイダルシリカは含まれない。
【0029】
湿式法シリカの原料となるケイ酸アルカリ水溶液は、例えば、ケイ酸ナトリウム水溶液、ケイ酸カリウム水溶液、及びケイ酸リチウム水溶液等を挙げることができ、一般的にはケイ酸ナトリウム水溶液の使用が好ましい。一方、ケイ酸ナトリウム水溶液とともに反応容器内に添加される無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、及び硝酸等を挙げることができ、一般的には硫酸の使用が好ましい。
【0030】
反応容器内に湿式法シリカの原料となるケイ酸アルカリ水溶液及び無機酸等の各成分を添加し、反応終了後の反応液を濾過し、水洗し、その後乾燥機で水分が6%以下となるように乾燥処理を行う。ここで、使用する乾燥機は、特に限定されるものではなく、例えば、静置乾燥機、噴霧乾燥機、及び流動乾燥機等のいずれかを用いるものであっても構わない。その後、ジェットミル等の粉砕機で粉砕し、更に分級を行うことで粉砕された上記湿式法シリカを得ることができる。
【0031】
得られた湿式法シリカに更に焼成処理を行うものであっても構わない。例えば、電気炉或いはロータリーキルン等の一般的な焼成装置を用いて焼成処理を行うことができる。この場合、湿式法シリカの焼成処理のための焼成温度は、600~1000℃の範囲に設定することができる。なお、焼成処理を行った後に、上述の粉砕処理を行うものであってもよい。このような粉砕処理によって粉砕された湿式法シリカはその粒子形状が複数の角部を有して構成されており、粉砕処理を行っていない一般的な球状を呈する湿式法シリカの粒子と比較すると高い研磨性能を有することが期待される。
【0032】
得られた湿式法シリカの平均粒子径は、200~600nmの範囲内であり、好ましくは200~500nmの範囲内である。湿式法シリカの平均粒子径が200nm以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。一方、平均粒子径が600nm以下であることにより、研磨後の基板の表面粗さの悪化を抑制することができる。
【0033】
ここでコロイダルシリカの平均粒子径をAと規定し、湿式法シリカの平均粒子径をBと規定した場合、コロイダルシリカの平均粒子径に対する湿式法シリカの平均粒子径の比の値(=B/A)は、2.0~30.0の範囲であり、好ましくは2.5~25.0の範囲であり、更に好ましくは3.0~20.0の範囲に設定されている。上記B/Aの値が2.0以上であることにより、研磨速度の向上が期待される。一方、B/Aの値が30.0以下であることにより、表面粗さの悪化を抑制することができる。
【0034】
研磨剤組成物中のコロイダルシリカと湿式法シリカの濃度の合計、すなわち全シリカ粒子の濃度は、1~50質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは2~40質量%の範囲である。研磨剤組成物中の全シリカ粒子の濃度が1質量%以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。一方、全シリカ粒子の濃度が50質量%以下であることにより、必要以上のシリカ粒子を使用することなく十分な研磨速度を維持することができる。
【0035】
コロイダルシリカ及び湿式法シリカの合計質量に占めるコロイダルシリカの割合は、5~95質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは10~90質量%の範囲である。コロイダルシリカの割合が5質量%以上であることにより、表面粗さを低減させることができる。コロイダルシリカの割合が95質量%以下であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【0036】
コロイダルシリカと湿式法シリカの合計質量に占める湿式法シリカの割合は、5~95質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは10~90質量%の範囲である。湿式法シリカの割合が95質量%以下であることにより、研磨後の基板の表面粗さの悪化を抑制することができる。一方、湿式法シリカの割合が5質量%以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【0037】
1.3 その他のシリカ粒子
本発明の研磨剤組成物に含有されるシリカ粒子としては、コロイダルシリカ及び湿式法シリカに加え、フュームドシリカ等の使用を例示することができる。
【0038】
フュームドシリカは、揮発性シラン化合物(一般には四塩化ケイ素が用いられる。)を酸素と水素の混合ガスの炎の中(1000℃内外)で加水分解させたもので、極めて微細で高純度なシリカ粒子である。コロイダルシリカと比べると、コロイダルシリカが個々に分散した一次粒子として存在するのに対して、フュームドシリカは一次粒子が多数凝集し、鎖状につながり二次粒子を形成している。この二次粒子の形成により研磨パッドへの保持力が高くなり、研磨速度を向上させることができる。
【0039】
1.4 第4級アンモニウム塩型有機化合物
本発明の研磨剤組成物に含有される第4級アンモニウム塩型有機化合物は、窒素原子に結合する炭化水素基が、炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基及び/または炭素数2~20不飽和脂肪族炭化水素基で構成される第4級アンモニウム塩型有機化合物である。
【0040】
具体例としては、ビニルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジビニルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジエチルジメチルアンモニウムクロライド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、ジプロピルジメチルアンモニウムクロライド、ジブチルジメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、オクチルトリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド等を挙げることができる。
【0041】
第4級アンモニウム塩型有機化合物は、泡立ち抑制及び研磨速度低下抑制の観点から、窒素原子に結合する4つの炭化水素基が炭素数1~10の飽和脂肪族炭化水素基及び/または炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基で構成される第4級アンモニウム塩型有機化合物が好ましく用いられる。
【0042】
また、これらの第4級アンモニウム塩型有機化合物は、単独で用いることもできるし、2種類以上の第4級アンモニウム塩型有機化合物を混合して用いることもできる。特に窒素原子に結合する炭化水素基が4つの炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基で構成される第一の第4級アンモニウム塩型有機化合物と、窒素原子に結合する炭化水素基のうち少なくとも1つ以上の炭化水素基が炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基であり、残余の炭化水素基が炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基である第二の第4級アンモニウム塩型有機化合物とを少なくとも一つ以上含む混合物を用いることが好ましい。更に具体的に示すと、例えば、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドと、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドとを含む混合物を用いることができる。
【0043】
第4級アンモニウム塩型有機化合物の研磨剤組成物中の濃度は、通常0.00001~1.0質量%であり、好ましくは0.00005~0.5質量%、より好ましくは0.0001~0.3質量%、更に好ましくは0.0001~0.1質量%である。
【0044】
1.5 水溶性高分子化合物
本発明の研磨剤組成物に用いられる水溶性高分子化合物は、少なくともカルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体を含む。更に少なくともカルボン酸基を有する単量体及びアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体を併用することも好ましい態様である。
【0045】
1.5.1 少なくともカルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体
カルボン酸基を有する単量体として、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸及びこれらの塩等を例示することができる。
【0046】
スルホン酸基を有する単量体としては、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸及びこれらの塩等を例示することができる。
【0047】
少なくともこれらの単量体を組み合わせて重合することにより、共重合体とする。少なくともカルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の組み合わせとしては、例えばアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の組み合わせ、アクリル酸と2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の組み合わせ、メタクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の組み合わせ、メタクリル酸と2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の組み合わせ等が例示される。
【0048】
本発明で使用される、少なくともカルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体は、挙げられた二種類以外の単量体も使用するものであってもよい。例えば、カルボン酸基を有する単量体とアミド基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体の三種類の単量体を共重合した共重合体を使用することができる。
【0049】
少なくともカルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体におけるカルボン酸基に由来する構成単位とスルホン酸基に由来する構成単位の割合は、カルボン酸基に由来する構成単位とスルホン酸基に由来する構成単位の量比として、mol比で95:5~5:95の範囲であることが好ましく、更に好ましくはmol比で90:10~10:90である。
【0050】
1.5.2 少なくともカルボン酸基を有する単量体とアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体
カルボン酸基を有する単量体として、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸及びこれらの塩等を例示することができる。
【0051】
アミド基を有する単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N―アルキルアクリルアミド、及びN―アルキルメタクリルアミド等を例示することができる。
【0052】
アミド基を有する単量体であるN―アルキルアクリルアミド、及びN―アルキルメタクリルアミドの好ましい例として、N―メチルアクリルアミド、N―エチルアクリルアミド、N―n―プロピルアクリルアミド、N―iso―プロピルアクリルアミド、N―n―ブチルアクリルアミド、N―iso―ブチルアクリルアミド、N―sec-ブチルアクリルアミド、N―tert-ブチルアクリルアミド、N―メチルメタクリルアミド、N―エチルメタクリルアミド、N―n―プロピルメタクリルアミド、N-iso―プロピルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-iso-ブチルメタクリルアミド、N―sec-ブチルメタクリルアミド、及びN―tert-ブチルメタクリルアミド等が例示される。
【0053】
上記において、N―n―ブチルアクリルアミド、N―iso―ブチルアクリルアミド、N―sec-ブチルアクリルアミド、N―tert-ブチルアクリルアミド、N―n-ブチルメタクリルアミド、N―iso―ブチルメタクリルアミド、N―sec-ブチルメタクリルアミド、及びN―tert-ブチルメタクリルアミドを用いるのが好ましい。
【0054】
これらの単量体を組み合わせて重合することにより、共重合体とする。少なくともカルボン酸基を有する単量体とアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の組み合わせとしては、例えば、アクリル酸、及び/または、その塩とN-アルキルアクリルアミドの組み合わせ、アクリル酸、及び/または、その塩とN-アルキルメタクリルアミドの組み合わせ、メタクリル酸、及び/または、その塩とN-アルキルアクリルアミドの組み合わせ、メタクリル酸、及び/または、その塩とN-アルキルメタクリルアミドの組み合わせを好ましく用いることができる。N-アルキルアクリルアミドまたはN-アルキルメタクリルアミドのアルキル基が、n―ブチル基、iso―ブチル基、sec―ブチル基、tert―ブチル基で構成される群より選択される少なくとも1つであるものを特に好ましく用いることができる。
【0055】
本発明で好ましく使用される少なくともカルボン酸基を有する単量体とアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体は、それぞれ挙げられた二種類以外の単量体も使用するものであってもよい。例えば、カルボン酸基を有する単量体とアミド基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体の三種類の単量体を共重合した共重合体を使用することができる。
【0056】
少なくともカルボン酸基を有する単量体とアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体におけるカルボン酸基に由来する構成単位とアミド基に由来する構成単位の割合は、カルボン酸基に由来する構成単位とアミド基に由来する構成単位の量比として、mol比で95:5~5:95の範囲であることが好ましく、更に好ましくはmol比で90:10~10:90の範囲である。
【0057】
1.5.3 水溶性高分子化合物の製造方法
水溶性高分子化合物の製造方法は特に制限されないが、水溶液重合法が好ましい。水溶液重合法によれば、均一な溶液として水溶性高分子化合物を得ることができる。
【0058】
上記水溶液重合の重合溶媒としては、水性の溶媒であることが好ましく、特に好ましくは水である。また、上記単量体成分の溶媒への溶解性を向上させるために、各単量体の重合に悪影響を及ぼさない範囲で有機溶媒を適宜加えてもよい。上記有機溶媒としては、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
以下に、上記水性溶媒を用いた水溶性高分子化合物の製造方法を説明する。重合反応では、公知の重合開始剤を使用できるが、特にラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。
【0060】
ラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、t―ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、過酸化水素等の水溶性過酸化物、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類等の油溶性過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド等のアゾ化合物が挙げられる。これらの過酸化物系のラジカル重合開始剤は、1種類のみ使用しても、または2種類以上併用してもよい。
【0061】
上記のラジカル重合開始剤の使用量は、特に制限されないが、水溶性高分子化合物の全単量体合計質量に基づいて、0.1~15質量%、特に0.5~10質量%の割合で使用することが好ましい。この割合を0.1質量%以上にすることにより、共重合率を向上させることができ、15質量%以下にすることにより、水溶性高分子化合物の安定性を向上させることができる。
【0062】
また、場合によっては、水溶性高分子化合物は、水溶性レドックス系重合開始剤を使用して製造してもよい。レドックス系重合開始剤としては、酸化剤(例えば上記の過酸化物)と、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、ハイドロサルファイトナトリウム等の還元剤や、鉄明礬、カリ明礬等の組み合わせを挙げることができる。
【0063】
水溶性高分子化合物の製造において、分子量を調整するために、連鎖移動剤を重合系に適宜添加してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、2-プロパンチオール、2-メルカプトエタノール及びチオフェノール等が挙げられる。
【0064】
水溶性高分子化合物を製造する際の重合温度は、特に制限されないが、重合温度は60~100℃で行うのが好ましい。重合温度を60℃以上にすることで、重合反応が円滑に進行し、かつ生産性に優れるものとなり、100℃以下とすることで着色を抑制することができる。
【0065】
また、重合反応は、加圧または減圧下に行うことも可能であるが、加圧あるいは減圧反応用の設備にするためのコストが必要になるので、常圧で行うことが好ましい。重合時間は、2~20時間、更には3~10時間で行うことが好ましい。
【0066】
重合反応後、必要に応じて塩基性化合物で中和を行う。中和に使用する塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア水、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン類等が挙げられる。
【0067】
中和後のpH値(25℃)は、水溶性高分子化合物濃度が10質量%の水溶液の場合、2~9が好ましく、更に好ましくは3~8である。
【0068】
1.5.4 重量平均分子量
水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、2000以上、1000000以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは4000以上、800000以下の範囲である。なお、水溶性高分子化合物の重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリアクリル酸換算で測定したものである。
【0069】
1.5.5 濃度
水溶性高分子化合物の研磨剤組成物中の濃度は、固形分換算で0.0001質量%以上、2.0質量%以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.001質量%以上、1.0質量%以下の範囲であり、更に好ましくは0.005質量%以上、0.5質量%以下の範囲である。
【0070】
1.6 酸化剤
本発明の研磨剤組成物に好ましく含有される酸化剤としては、過酸化物、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、過ヨウ素酸またはその塩等が挙げられる。具体例としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、過マンガン酸カリウム、オルト過ヨウ素酸、メタ過ヨウ素酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でも過酸化水素が好ましい。
【0071】
研磨剤組成物中の酸化剤の含有量は、通常0.1~10.0質量%の範囲で使用される。酸化剤が0.1質量%以上含有されることにより、研磨速度が向上する。酸化剤が10.0質量%以上含有されても、研磨速度の向上は認められず、経済的に不利である。
【0072】
1.7 酸及び/またはその塩
本発明の研磨剤組成物は、pH調整のために、または任意成分として、酸及び/またはその塩を使用することができる。使用される酸及び/またはその塩としては、無機酸及び/またはその塩と有機酸及び/またはその塩が挙げられる。
【0073】
無機酸及び/またはその塩としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等の無機酸及び/またはその塩が挙げられる。
【0074】
有機酸及び/またはその塩としては、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノカルボン酸及び/またはその塩、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸等のカルボン酸及び/またはその塩、有機ホスホン酸及び/またはその塩が挙げられる。これらの酸及び/またはその塩は、1種あるいは2種以上を用いることができる。
【0075】
有機ホスホン酸及び/またはその塩としては、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α―メチルホスホノコハク酸、及びその塩から選ばれる少なくとも1種以上の化合物が挙げられる。
【0076】
上記の化合物は2種以上を組み合わせて使用することも好ましい実施態様であり、具体的には、硫酸及び/またはその塩と有機ホスホン酸及び/またはその塩との組み合わせ、リン酸及び/またはその塩と有機ホスホン酸及び/またはその塩の組み合わせ等が挙げられる。
【0077】
1.8 水
本発明で使用される水は、蒸留水、イオン交換水等の不純物を除去した水が好ましく用いられる。水は研磨剤組成物の流動性を制御する機能を有するので、その含有量は、研磨速度のような目標とする研磨特性に合わせて適宜決定することができる。例えば、水の含有割合は50~95質量%とすることが好ましい。水の含有量が、研磨剤組成物の50質量%未満では、研磨剤の粘性が高くなり、流動性が損なわれる場合がある。一方、水の含有量が95質量%を超えると、砥粒濃度が低くなり、十分な研磨速度が得られない場合がある。
【0078】
2. 物性
本発明の研磨剤組成物のpH値(25℃)は0.1~4.0であることが好ましく、より好ましくは0.5~3.0である。研磨剤組成物のpH値(25℃)が0.1以上であることにより、表面平滑性の悪化を抑制することができる。研磨剤組成物のpH値(25℃)が4.0以下であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。無電解ニッケル-リンめっきにおいて、pH値(25℃)が4.0以下の条件では、ニッケルが溶解傾向に向かうため、めっきが進行しにくくなる。一方、研磨においては、例えばpH値(25℃)が4.0以下の条件でニッケルが溶解傾向に向かうため、本発明の研磨剤組成物を用いることにより、研磨速度を高めることが可能となる。
【0079】
3. 磁気ディスク基板の研磨方法
本発明の研磨剤組成物は、無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク(以下「アルミディスク」)やガラス磁気ディスク基板等の磁気ディスク基板の研磨での使用に適している。特に、アルミディスクの研磨での使用に適している。
【0080】
本発明の研磨剤組成物を適用することが可能な研磨方法としては、例えば、研磨機の定盤に研磨パッドを貼り付け、研磨対象物(例えばアルミディスク)の研磨する表面または研磨パッドに研磨剤組成物を供給し、研磨する表面を研磨パッドで擦りつける方法(ポリッシング)がある。例えば、アルミディスクのおもて面と裏面を同時に研磨する場合には、上定盤及び下定盤それぞれに研磨パッドを貼り付けた両面研磨機を用いる方法がある。この方法では、上定盤及び下定盤に貼り付けた研磨パッドの間に研磨剤組成物を供給し、2つの研磨パッドを同時に回転させることによって、アルミディスクのおもて面と裏面を研磨する。研磨パッドは、ウレタンタイプ、スェードタイプ、不織布タイプ、その他いずれのタイプも使用することができる。
【0081】
本発明の磁気ディスク基板の研磨方法は、研磨工程と、当該研磨工程の後に実施される最終研磨工程とを具備するものであり、本発明の研磨剤組成物は、最終研磨工程(=仕上げ研磨工程)の前に実施される研磨工程(=粗研磨工程)で使用されるものである。更に好ましくは、無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の研磨に用いられ、より好ましくは、無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の最終研磨工程よりも前に行われる研磨工程に用いられるものである。かかる研磨工程で本発明の研磨剤組成物を用いることにより、本発明の効果を十分に享受することができる。
【実施例0082】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り、種々の態様で実施することができる。
【0083】
3.1 研磨剤組成物の調製方法
実施例1~24、及び比較例1~4で使用された研磨剤組成物は、砥粒、酸及び/またはその塩、酸化剤、水溶性高分子化合物、及び第4級アンモニウム塩型有機化合物として、下記表1に記載した種類、及び研磨剤組成物中の含有量となるように調製された研磨剤組成物である。
【0084】
ここで、表1において、「AA」はアクリル酸を示し、「TBAA」はN-tert-ブチルアクリルアミド、及び「ATBS」は2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸をそれぞれ示す。
【0085】
水溶性高分子化合物は、表1に記載した通り、合成番号1及び2の共重合体を使用した。全ての実施例1~24、及び比較例1~4において、研磨剤組成物中の全シリカ濃度は、4.0質量%となるように調製されている。
【0086】
【0087】
3.2 実施例1~24、及び比較例1~4の研磨剤組成物の調製
以下に実施例1~24、及び比較例1~4の研磨剤組成物の具体的な調製方法について示す。
・実施例1
純水中に、研磨剤組成物中の含有量が3.6質量%のコロイダルシリカ、0.4質量%の湿式法シリカ、0.71質量%の硫酸、0.85質量%の硫酸アンモニウム、0.89質量%の過酸化水素、水溶性高分子化合物として0.02質量%の合成番号1の共重合体、及び第4級アンモニウム塩型有機化合物として0.0013質量%のジアリルジメチルアンモニウムクロライドを撹拌しながら添加することにより研磨剤組成物を調製した(表1参照)。
【0088】
・実施例2
実施例1の研磨剤組成物に調製において、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの含有量を0.0026質量%に変更し、実施例2の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例1の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0089】
・実施例3
実施例2の研磨剤組成物の調製において、第4級アンモニウム塩型有機化合物をジアリルジメチルアンモニウムクロライドから0.0026質量%のテトラエチルアンモニウムクロライドに変更し、実施例3の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例2の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0090】
・実施例4
実施例2の研磨剤組成物の調製において、第4級アンモニウム塩型有機化合物をジアリルジメチルアンモニウムクロライドから0.0026質量%のテトラブチルアンモニウムクロライドに変更し、実施例4の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例2の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0091】
・実施例5
実施例2の研磨剤組成物の調製において、第4級アンモニウム塩型有機化合物をジアリルジメチルアンモニウムクロライドから0.0026質量%のオクチルトリメチルアンモニウムクロライドに変更し、実施例5の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例2の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0092】
・実施例6
実施例2の研磨剤組成物の調製において、更に水溶性高分子化合物として0.02質量%の合成番号2の共重合体を追加添加し、実施例6の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例2の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0093】
・実施例7
実施例2の研磨剤組成物の調製において、第4級アンモニウム塩型有機化合物をジアリルジメチルアンモニウムクロライドから0.0026質量%のデシルトリメチルアンモニウムクロライドに変更し、実施例7の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例2の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0094】
・実施例8
実施例7の研磨剤組成物の調製において、更に水溶性高分子化合物として0.02質量%の合成番号2の共重合体を追加添加し、実施例8の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例7の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0095】
・実施例9
実施例2の研磨剤組成物の調製において、第4級アンモニウム塩型有機化合物をジアリルジメチルアンモニウムクロライドから0.0026質量%のドデシルトリメチルアンモニウムクロライドに変更し、実施例9の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例2の研磨剤組成物の調製と同一である。調製された実施例9の研磨剤組成物は撹拌時に泡立ちが認められたため、所定時間静置して当該泡が消失した後に後述の研磨試験に用いた。
【0096】
・実施例10
実施例9の研磨剤組成物の調製において、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドの含有量を0.00055質量%に変更し、実施例2の研磨剤組成物を得た。調製された実施例10の研磨剤組成物は、撹拌時に泡立ちが認められたものの、調製後直ぐに当該泡の消失が確認されたため、通常通り研磨試験に用いた。
【0097】
・実施例11
実施例2の研磨剤組成物の調製において、第4級アンモニウム塩型有機化合物としてジアリルジメチルアンモニウムクロライドに加えて、0.00055質量%のドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを更に添加し、実施例11の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例2の研磨剤組成物の調製と同一である。調製された実施例11の研磨剤組成物は、撹拌時に泡立ちが認められたものの、調製後直ぐに当該泡の消失が確認されたため、通常通り研磨試験に用いた。
【0098】
・実施例12
実施例11の研磨剤組成物の調製において、水溶性高分子化合物として合成番号1の共重合体に加え、0.02質量%の合成番号2の共重合体を更に添加し、実施例12の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例11の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0099】
・実施例13
実施例1の研磨剤組成物の調製において、砥粒構成を2.0質量%のコロイダルシリカ及び2.0質量%の湿式法シリカに変更し、実施例13の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例1の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0100】
・実施例14
実施例2の研磨剤組成物の調製において、砥粒構成を2.0質量%のコロイダルシリカ及び2.0質量%の湿式法シリカに変更し、実施例14の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例2の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0101】
・実施例15
実施例3の研磨剤組成物の調製において、砥粒構成を2.0質量%のコロイダルシリカ及び2.0質量%の湿式法シリカに変更し、実施例15の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例3の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0102】
・実施例16
実施例4の研磨剤組成物の調製において、砥粒構成を2.0質量%のコロイダルシリカ及び2.0質量%の湿式法シリカに変更し、実施例16の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例4の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0103】
・実施例17
実施例5の研磨剤組成物の調製において、砥粒構成を2.0質量%のコロイダルシリカ及び2.0質量%の湿式法シリカに変更し、実施例17の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例5の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0104】
・実施例18
実施例6の研磨剤組成物の調製において、砥粒構成を2.0質量%のコロイダルシリカ及び2.0質量%の湿式法シリカに変更し、実施例18の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例6の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0105】
・実施例19
実施例7の研磨剤組成物の調製において、砥粒構成を2.0質量%のコロイダルシリカ及び2.0質量%の湿式法シリカに変更し、実施例19の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例7の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0106】
・実施例20
実施例19の研磨剤組成物の調製において、水溶性高分子化合物として合成番号1の共重合体に加え、0.02質量%の合成番号2の共重合体を更に添加し、実施例20の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例19の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0107】
・実施例21
実施例9の研磨剤組成物の調製において、砥粒構成を2.0質量%のコロイダルシリカ及び2.0質量%の湿式法シリカに変更し、実施例21の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例9の研磨剤組成物の調製と同一である。調製された実施例21の研磨剤組成物は撹拌時に泡立ちが認められたため、所定時間静置して当該泡が消失した後に後述の研磨試験に用いた。
【0108】
・実施例22
実施例21の研磨剤組成物の調製において、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドの含有量を0.00055質量%に変更し、実施例22の研磨剤組成物を得た。調製された実施例22の研磨剤組成物は、撹拌時に泡立ちが認められたものの、調製後直ぐに当該泡の消失が確認されたため、通常通り研磨試験に用いた。
【0109】
・実施例23
実施例14の研磨剤組成物の調製において、第4級アンモニウム塩型有機化合物としてジアリルジメチルアンモニウムクロライドに加えて、0.00055質量%のドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを更に添加し、実施例23の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例2の研磨剤組成物の調製と同一である。調製された実施例23の研磨剤組成物は、撹拌時に泡立ちが認められたものの、調製後直ぐに当該泡の消失が確認されたため、通常通り研磨試験に用いた。
【0110】
・実施例24
実施例23の研磨剤組成物の調製において、水溶性高分子化合物として合成番号1の共重合体に加え、0.02質量%の合成番号2の共重合体を更に添加し、実施例24の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例23の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0111】
・比較例1
実施例1の研磨剤組成物の調製において、第4級アンモニウム塩型有機化合物のジアリルジメチルアンモニウムクロライドを添加しないで比較例1の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例1の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0112】
・比較例2
実施例2の研磨剤組成物の調製において、第4級アンモニウム塩型有機化合物をジアリルジメチルアンモニウムクロライドから0.0026質量%のラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライドに変更し、比較例2の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例2の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0113】
・比較例3
実施例13の研磨剤組成物の調製において、第4級アンモニウム塩型有機化合物のジアリルジメチルアンモニウムクロライドを添加しないで比較例3の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例13の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0114】
・比較例4
実施例14の研磨剤組成物の調製において、第4級アンモニウム塩型有機化合物をジアリルジメチルアンモニウムクロライドから0.0026質量%のラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライドに変更し、比較例4の研磨剤組成物を得た。それ以外は、実施例14の調製と同一である。
【0115】
上記のように調製された実施例1~24及び比較例1~4の研磨剤組成物を用いて、研磨試験を行った結果を表2及び表3に示す。
【0116】
4. 各物性等の測定、条件、及び評価
4.1 水溶性高分子化合物の重量平均分子量
水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリアクリル酸換算で測定したものであり、以下にGPC測定条件を示す。
【0117】
(GPC測定条件)
カラム:TSKgel G4000PWXL(東ソー製)+G2500PWXL(東ソー製)+SHODEX OHpak SB-806M-HQ(昭和電工製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/アセトニトリル=9/1(容積比)
流速:1.0ml/min
温度:40℃
検出:示差屈折率(RI)
サンプル:濃度0.1wt%(注入量100μL)
検量線用ポリマー:ポリアクリル酸 分子量(Mp)11.5万、2.8万、4100、1250(創和科学(株)、American Polymer Standards Corp.)
【0118】
4.2 コロイダルシリカの粒子径及び平均粒子径測定方法
コロイダルシリカの粒子径(Heywood径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子(株)製、透過型電子顕微鏡 JEM2000FX(200kV))を用いて倍率10万倍の視野の写真を撮影し、この写真を解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver. 4.0)を用いて解析することによりHeywood径(投射面積円相当径)として測定した。
【0119】
コロイダルシリカの平均粒子径は、前述の方法で2000個程度のコロイダルシリカの粒子径を解析し、小粒径側から積算粒径分布(累積体積基準)が50%となる粒子径を上記解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver. 4.0)を用いて算出した平均粒子径(D50)である。
【0120】
4.3 湿式法シリカの平均粒子径測定方法
湿式法シリカの平均粒子径は、動的光散乱式粒度分布測定装置(日機装(株)製、マイクロトラックUPA)を用いて測定した。湿式法シリカの平均粒子径は、体積を基準とした小粒径側からの積算粒径分布が50%となる平均粒子径(D50)である。
【0121】
4.4 研磨条件
無電解ニッケル―リンめっきした外径95mmのアルミディスク基板を研磨対象として、下記研磨条件で研磨を行った。
研磨機:SPEEDFAM(社)製、9B両面研磨機
研磨パッド:(株)FILWEL社製、P1パッド
定盤回転数:上定盤 -7.7rpm
下定盤 23.5rpm
研磨剤組成物供給量: 90ml/min
研磨時間:研磨量が1.2~1.5μm/片面となる時間まで研磨する。(240~720秒)
加工圧力:120kPa
【0122】
4.5 研磨速度比
研磨速度は、研磨後に減少したアルミディスク基板の質量を測定し、下記式(1)に基づいて算出した。
研磨速度(μm/min)=アルミディスク基板の質量減少量(g)/研磨時間(min)/アルミディスク基板片面の面積(cm2)/無電解ニッケル―リンめっき皮膜の密度(g/cm3)/2×104 ・・・式(1)
(但し、上記式(1)において、アルミディスク基板片面の面積は65.9cm2、無電解ニッケル―リンめっき皮膜の密度は8.0g/cm3として算出)
【0123】
なお、研磨速度比は、後述する表2において、上記式(1)を用いて求めた比較例1の研磨剤組成物の研磨速度を1(基準)とした場合の相対値であり、後述する表3において、上記式(1)を用いて求めた比較例3の研磨剤組成物の研磨速度を1(基準)とした場合の相対値である。
【0124】
4.6 表面粗さ比
アルミディスク基板の表面粗さは、アメテック社製の走査型白色干渉法を利用した三次元表面構造解析顕微鏡を用いて測定した。測定条件は、アメテック社製の測定装置(New View 8300(レンズ:10.0倍、ズーム:1.0倍))、波長20~100μmとし、測定エリアは0.8mm×0.8mmとし、アメテック社製の解析ソフト(Mx)を用いて解析を行った。
【0125】
表面粗さ比は、表2においては上記方法を用いて測定した比較例1の表面粗さを1(基準)とした場合の相対値であり、表3においては上記方法を用いて測定した比較例3の表面粗さを1(基準)とした場合の相対値である。
【0126】
4.7 研磨剤の洗浄性の評価方法
実施例1~24及び比較例1~4の研磨剤組成物を用いた研磨後のアルミディスクに対して、イオン交換水でリンスし、イオン交換水を用いてバフ洗浄を行い、バフ洗浄後更にイオン交換水でリンスを行ったのち、スピン乾燥を行った。得られたそれぞれのアルミディスクを、洗浄性評価用基板とした。なお、上記の操作はクリーンルーム内で実施した。
【0127】
得られた洗浄性評価用基板を、基板表面の微細な残留パーティクルを強調し、検査することができる装置であるビジョンサイテック社製のMicroMAX VMX―4100を用いて、アルミディスクのおもて面と裏面に対して、下記の測定条件下でおもて面を6視野、裏面を6視野(合計12視野)観察し、一つの視野中(9mm×7mm)に観察された残留パーティクルの数を計測した。そして、上述の方法で観察された残留パーティクルの数について、下記「洗浄性評価基準」に照らしあわせて12視野合計の残留パーティクルの数からランク付けした。ランク付けした結果を表2及び表3に示す。
【0128】
(MicroMAX VMX―4100測定条件)
傾斜:-5°
アイリス:10
ズーム:10
【0129】
(洗浄性評価基準(12視野合計の残留パーティクル数))
◎:残留パーティクル数 0~10個
〇:残留パーティクル数 11~30個
△:残留パーティクル数 31~50個
×:残留パーティクル数 >50個
【0130】
【0131】
【0132】
5.考察
5.1 表2の結果
上記表2の結果について以下に考察する。
実施例1~5は、本発明の第4級アンモニウム塩型有機化合物を含有しない研磨剤組成物を用いた比較例1に対して洗浄性が改善され、更に研磨速度と表面粗さも同等あるいは改善されている。
【0133】
比較例2は、本発明に該当しない第4級アンモニウム塩型有機化合物を実施例2~5と同じ添加量含む研磨剤組成物を用いた結果であるが、比較例1に対して洗浄性は改善されるものの、研磨速度は大幅に低下し、表面粗さも悪化している。比較例2を第4級アンモニウム塩型有機化合物の添加量が同じ実施例2~5と比較すると、研磨速度が大幅に低下し、表面粗さが悪化していることが更に明確になる。
【0134】
実施例1と2は、第4級アンモニウム塩型有機化合物の添加量が異なる場合の結果であり、実施例2~5は第4級アンモニウム塩型有機化合物の種類が異なる場合の結果である。実施例6は、実施例2で用いた研磨剤組成物に対して更に合成番号2の水溶性高分子化合物を追加添加した研磨剤組成物を用いた結果であるが、研磨速度が実施例2よりも更に向上している。
【0135】
実施例7と9で用いた第4級アンモニウム塩型有機化合物は、実施例2~5で用いた第4級アンモニウム塩型有機化合物よりも更に洗浄性に優れる結果となっている。実施例8は、実施例7で用いた研磨剤組成物に対して更に合成番号2の水溶性高分子化合物を追加添加した研磨剤組成物を用いた結果であるが、研磨速度が実施例7よりも更に向上している。
【0136】
なお、実施例9は研磨剤組成物の調製時に泡立ちがあり、しばらくして消えた。一方、第4級アンモニウム塩型有機化合物の添加量を減らした実施例10では、洗浄性改善効果は小さくなるものの、調製時の泡立ちは直ぐに消えた。
【0137】
実施例11は、実施例2で用いた研磨剤組成物に実施例10で用いた第4級アンモニウム塩型有機化合物を少量添加した結果であるが、実施例2よりも洗浄性が更に改善され、調製時の泡立ちはすぐに消えた。
【0138】
実施例12は、実施例11で用いた研磨剤組成物に対して更に合成番号2の水溶性高分子化合物を追加添加した研磨剤組成物を用いた結果であるが、研磨速度が実施例11よりも更に向上している。
【0139】
5.2 表3の結果
表3の結果について以下に考察する。
実施例13~17は、本発明の第4級アンモニウム塩型有機化合物を含有しない研磨剤組成物を用いた比較例3に対して洗浄性が改善され、更に研磨速度と表面粗さも同等あるいは改善されている。
【0140】
比較例4は、本発明に該当しない第4級アンモニウム塩型有機化合物を実施例14~17と同じ添加量含む研磨剤組成物を用いた結果であるが、比較例3に対して洗浄性は改善されるものの、研磨速度は大幅に低下し、表面粗さも悪化している。比較例4を第4級アンモニウム塩型有機化合物の添加量が同じ実施例14~17と比較すると、研磨速度が大幅に低下し、表面粗さが悪化していることが更に明確になる。
【0141】
実施例13と14は、第4級アンモニウム塩型有機化合物の添加量が異なる場合の結果であり、実施例14~17は第4級アンモニウム塩型有機化合物の種類が異なる場合の結果である。実施例18は、実施例14で用いた研磨剤組成物に対して更に合成番号2の水溶性高分子化合物を追加添加した研磨剤組成物を用いた結果であるが、研磨速度が実施例14よりも更に向上している。実施例19と21で用いた第4級アンモニウム塩型有機化合物は、実施例14~17で用いた第4級アンモニウム塩型有機化合物よりも更に洗浄性に優れる結果となっている。
【0142】
なお、実施例21は研磨剤組成物の調製時に泡立ちがあり、しばらくして消えた。一方、第4級アンモニウム塩型有機化合物の添加量を減らした実施例22では、洗浄性改善効果は小さくなるものの、調製時の泡立ちはすぐに消えた。実施例20は、実施例19で用いた研磨剤組成物に対して更に合成番号2の水溶性高分子化合物を追加添加した研磨剤組成物を用いた結果であるが、研磨速度が実施例19よりも更に向上している。
【0143】
実施例23は、実施例14で用いた研磨剤組成物に実施例21で用いた第4級アンモニウム塩型有機化合物を少量添加した結果であるが、実施例14よりも洗浄性が更に改善され、調製時の泡立ちはすぐに消えた。実施例24は、実施例23で用いた研磨剤組成物に対して更に合成番号2の水溶性高分子化合物を追加添加した研磨剤組成物を用いた結果であるが、研磨速度が実施例23よりも更に向上している。
本発明の研磨剤組成物は、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体等の電子部品の研磨に使用することができる。特に、ガラス磁気ディスクやアルミニウム磁気ディスク等の磁気記録媒体用基板の表面研磨に使用することができる。更には、無電解ニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム基板の表面研磨に使用することができる。特には、無電解ニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム基板の最終研磨工程よりも前の研磨工程に使用することができる。