IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 合同会社embriоの特許一覧

<>
  • 特開-処理装置および処理方法 図1
  • 特開-処理装置および処理方法 図2
  • 特開-処理装置および処理方法 図3
  • 特開-処理装置および処理方法 図4
  • 特開-処理装置および処理方法 図5
  • 特開-処理装置および処理方法 図6
  • 特開-処理装置および処理方法 図7
  • 特開-処理装置および処理方法 図8
  • 特開-処理装置および処理方法 図9
  • 特開-処理装置および処理方法 図10
  • 特開-処理装置および処理方法 図11
  • 特開-処理装置および処理方法 図12
  • 特開-処理装置および処理方法 図13
  • 特開-処理装置および処理方法 図14
  • 特開-処理装置および処理方法 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108459
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】処理装置および処理方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230728BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20230728BHJP
【FI】
C12M1/00 Z
C12M1/00 A
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009592
(22)【出願日】2022-01-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人情報処理推進機構2021年度未踏アドバンスト事業(低コスト・高成功率な自動体外受精ロボットEmbrioの開発)に関する委託契約、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】522034240
【氏名又は名称】合同会社embriо
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】周 静芳
(72)【発明者】
【氏名】森 啓太
(72)【発明者】
【氏名】中島 美涼
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 峰登
(72)【発明者】
【氏名】吉田 恵梨子
(72)【発明者】
【氏名】石川 玲
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC01
4B029DF01
4B029DF04
4B029DG08
4B029HA10
4B065AA90X
4B065BC03
4B065BC10
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】生殖補助医療を支援する処理装置などを提供すること。
【解決手段】処理装置20は、卵胞液から卵子を検出する検出部と、検出した前記卵子に、精子を供給する精子供給部と、卵子を洗浄する洗浄部と、前記検出部、前記精子供給部および前記洗浄部を格納する筐体41とを備える。処理装置20は、前記筐体41内の温度および二酸化炭素濃度を含む筐体内環境を制御する環境制御部を備える。前記環境制御部は、前記筐体41内の温度を検出するセンサ245と、検出した温度に基づき前記筐体41内の温度を制御する温度制御部とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵胞液から卵子を検出する検出部と、
検出した前記卵子に、精子を供給する精子供給部と、
卵子を洗浄する洗浄部と、
前記検出部、前記精子供給部および前記洗浄部を格納する筐体と
を備える処理装置。
【請求項2】
前記筐体内の温度および二酸化炭素濃度を含む筐体内環境を制御する環境制御部を備える
請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記環境制御部は、
前記筐体内の温度を検出するセンサと、
検出した温度に基づき前記筐体内の温度を制御する温度制御部と
を備える請求項2に記載の処理装置。
【請求項4】
前記環境制御部は、
前記筐体内の二酸化炭素濃度を検出するセンサと、
検出した二酸化炭素濃度に基づき前記筐体内の二酸化炭素濃度を制御する二酸化炭素濃度制御部と
を備える請求項2または請求項3に記載の処理装置。
【請求項5】
検卵ウェル、検卵後洗浄ウェル、体外受精ウェルおよび受精後洗浄ウェルを有するディスポーザブルプレートを着脱可能に保持する保持部を備える
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項6】
前記筐体内に、前記検出部が前記検卵ウェル内の卵胞液から検出した卵子を、前記検卵後洗浄ウェルへ搬送する搬送部を備える
請求項5に記載の処理装置。
【請求項7】
前記搬送部は、前記洗浄部が前記検卵後洗浄ウェルにて洗浄した卵子を前記体外受精ウェルに搬送する
請求項6に記載の処理装置。
【請求項8】
前記搬送部は、精子と前記受精後洗浄ウェルにて洗浄された卵子とが受精した受精卵を胚培養ウェルへ搬送する
請求項6または請求項7に記載の処理装置。
【請求項9】
前記搬送部は、卵子または受精卵を抽出するピッキング針を備え、
前記筐体内に設けられ、前記ピッキング針を、当該ピッキング針を支持する支持部から取り外し、新たなピッキング針に交換する交換部を備える
請求項6から請求項8のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項10】
前記ピッキング針は屈曲部を備えており、
前記支持部は、前記屈曲部よりも先端側が水平になるように前記ピッキング針を支持する
請求項9に記載の処理装置。
【請求項11】
前記筐体内に、前記検卵後洗浄ウェル、前記体外受精ウェルおよび前記受精後洗浄ウェルにミネラルオイルを供給する前記筐体内に設けられるミネラルオイル供給部を備える
請求項5から請求項10のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項12】
前記洗浄部は、前記検卵後洗浄ウェルおよび前記受精後洗浄ウェルに洗浄液を供給する
請求項5から請求項11のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項13】
前記洗浄部は、前記検卵ウェル内にて検出された卵子を洗浄するための洗浄液を供給する
請求項5から請求項12のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項14】
前記精子供給部は、所定の時間培養された卵子が存在する前記体外受精ウェルに精子を供給する
請求項5から請求項13のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項15】
前記検卵ウェルにて検出した卵子に対し患者ID、卵子ID、検出時の日時、ウェルの位置IDおよび卵子の質を対応させて記憶する
請求項5から請求項14のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項16】
前記検卵ウェルにて検出した卵子を計数する
請求項5から請求項15のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項17】
前記検出部は、卵胞液画像を入力した場合に、前記卵胞液画像に含まれる卵子に関する情報を出力するように学習されたモデルである
請求項1から請求項16のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項18】
環境設定値を受け付ける受付部と、
前記受付部で受け付けた前記環境設定値を、前記筐体が設置される環境を識別する環境識別情報に対応付けて記憶する記憶部と
を備える請求項1から請求項17のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項19】
卵胞液から卵子を検出する検出部と、
検出した前記卵子に、精子を供給する精子供給部と、
卵子を洗浄する洗浄部と、
前記検出部、前記精子供給部および前記洗浄部を格納する筐体と
を備える処理装置を用いた処理方法において、
前記検出部は、卵胞液から卵子を検出し、
前記精子供給部は、検出した前記卵子に、精子を供給し、
前記洗浄部は、卵子を洗浄する
処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理装置および処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生殖補助医療の一環として、卵子と精子とを体外で受精させて受精卵を作成し、所定期間培養した後に、母体に移植する処置が行われている。受精卵の品質を自動的に評価する受精卵品質評価方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-076058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された評価方法では、体外受精により受精卵を作成する作業は自動化されていない。
【0005】
一つの側面では、生殖補助医療を支援する処理装置などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一つの側面に係る処理装置は、卵胞液から卵子を検出する検出部と、検出した前記卵子に、精子を供給する精子供給部と、卵子を洗浄する洗浄部と、前記検出部、前記精子供給部および前記洗浄部を格納する筐体とを備える。
【発明の効果】
【0007】
一つの側面では、生殖補助医療を支援する処理装置などを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】受精卵培養処理の概要を説明する説明図である。
図2】処理装置の構成を説明する説明図である。
図3】制御装置の構成を説明する説明図である。
図4】ピッキング針先端の拡大図である。
図5】ディスポーザブルプレートの上面図である。
図6】検卵ウェルの断面図である。
図7】カメラによる撮影される画像を説明する説明図である。
図8】機械学習モデルの構成を説明する説明図である。
図9】卵子情報DBのレコードレイアウトを説明する説明図である。
図10】プログラムの処理の流れを説明するフローチャートである。
図11】検卵のサブルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
図12】共培養のサブルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
図13】マイクロ流体デバイスの模式図である。
図14】環境識別情報DBのレードレイアウトを説明する説明図である。
図15】環境設定値を入力する画面の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施の形態1]
図1は、受精卵培養処理の概要を説明する説明図である。精子提供者から精液が、卵子提供者から卵胞液がそれぞれ採取されて、処理装置20に投入される。処理装置20の内部では、以下に説明する処理が自動的に行われ、胚が完成する。
【0010】
卵胞液には、卵子が卵丘細胞により覆われた卵丘細胞卵子複合体(COC:Cumulus Oocyte Complex)が含まれている。以後の説明では、卵子、COC、受精卵および胚を総称して、「卵子またはCOC等」と記載する場合がある。
【0011】
卵胞液の採取は、卵子が卵巣内で十分に成熟した時期に行なわれても、卵子が未成熟である時期に行なわれてもよい。未成熟な卵子は、成熟した卵子に比べて環境変化に弱い傾向があることが知られている。
【0012】
処理装置20の内部で自動的に行われる処理の概要を説明する。未成熟な卵子を含む卵胞液が処理装置20に投入された場合には、図示を省略する未成熟卵体外培養が行なわれる。本実施の形態の処理装置20は、卵子またはCOC等を適切な環境下で一貫して管理するため、未成熟な卵子が採取された場合であっても、胚が完成する可能性を高くできる。
【0013】
卵巣内で十分に成熟した時期に卵子が処理装置20に投入された場合、または未成熟卵が以後の処理に耐え得る程度にまで成熟した場合、卵胞液からCOCが抽出される。抽出されたCOCの洗浄が行われ、周囲に付着している血液および脂肪等の夾雑物が除去される。その後、卵子が十分に成熟するまで、数時間程度の前培養が行われる。前培養は、行なわれない場合もある。
【0014】
なお、以上に説明したいずれかの段階で凍結保存されたCOCが、処理装置20に投入されてもよい。処理装置20の外部で準備されたCOCが、処理装置20に投入されてもよい。
【0015】
精子提供者から採取された精液は、精子調整部36(図2参照)に投入される。精子調整部36において、精子の洗浄および濃縮等の精液調整が自動的に行なわれて、精子液が作成される。精液から精子液を作成する処理は従来から行なわれているため、詳細については説明を省略する。なお、調整後に凍結保存された精子液、または調整直後の新鮮な精子液が処理装置20に投入されてもよい。
【0016】
COCと精子液とにより、受精誘導が行なわれる。受精誘導は、たとえばCOCに精子液を加える媒精、卵丘細胞を除去して透明帯を露出させた卵子の近傍に精子を静置する手法、または、ICSI(Intracytoplasmic Sperm Injection:顕微授精)等により行なわれる。以後の説明では媒精により受精誘導を行なう場合を例にして説明する。その他の例については後述する。
【0017】
媒精においては、COCに精子液を加えた後、所定の条件で数時間から十数時間程度の共培養が行われる。共培養中に、卵子に精子が侵入した場合、受精が成立して受精卵ができる。COCの洗浄が行われた後に、卵丘細胞の剥離が行なわれる。
【0018】
形態観察により受精卵が出来たか否か判定される。受精卵に対しては、所定の条件で胚培養が行われる。たとえば胚盤胞等の、所定の状態まで成長した胚が処理装置20から取り出される。
【0019】
取り出された胚は、たとえば凍結保存され、母体の状態が妊娠に適している時期に子宮に移植される。取り出された胚は、新鮮な状態で速やかに母体に移植されてもよい。
【0020】
なお、受精誘導の後、COCが速やかに処理装置20から取り出されて、図示を省略する他のインキュベータ内で胚培養等の工程が行なわれても良い。
【0021】
図2は、処理装置20の構成を説明する説明図である。処理装置20は、制御装置10と処理装置本体21とを含む。制御装置10と処理装置本体21とが一体のハードウェアに構成されていてもよい。制御装置10と、処理装置本体21とは、離れた場所に設置されており、ネットワークまたは無線通信を介して制御装置10が処理装置本体21を遠隔制御してもよい。
【0022】
処理装置本体21は、筐体41および調整ユニット24を含む。筐体41は、処理装置本体21の外装部材であり、遮光性および気密性を有する。筐体41の下面には、高さ調整機構を有する脚が設けられており、机等の上に処理装置本体21を水平に設置可能である。
【0023】
筐体41は、図示を省略する扉を有する。作業者は、扉を開けて卵胞液および精液等を処理装置本体21の内部に配置した後に、扉を閉める。以後、図1を使用して説明した各工程が自動的に実行されて、胚が完成する。作業者は、扉を開けて胚を取り出す。
【0024】
調整ユニット24は、筐体41の側面に取り付けられている。調整ユニット24はたとえば温度制御部242、二酸化炭素濃度制御部244および湿度制御部246等の、処理装置本体21の内部環境を調整するユニットを含む。以上に列挙した内部環境を調整するユニットは例示であり、これらに限定されるものではない。
【0025】
図3は、制御装置10の構成を説明する説明図である。制御装置10は、制御部11、主記憶装置13、補助記憶装置14、読取部19、図示を省略する処理装置20とのインターフェイス、およびバスを備える。制御部11は一または複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、TPU(Tensor processing unit)、量子プロセッサなどのプロセッサであり、様々な情報処理を実行する。制御部11は、バスを介して処理装置20を構成するハードウェア各部と接続されている。
【0026】
主記憶装置13はSRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などの一時記憶領域であり、制御部11が処理を実行するうえで必要なデータを一時的に記憶する。
【0027】
補助記憶装置14はSSD(Solid State Drive)またはHDD(Hard Disk Drive)などのメモリである。補助記憶装置14は、卵子情報DB(database)140、プログラム142、卵子等追跡モジュール144、生体検出モジュール145およびプログラム等の実行に必要な各種データが保存される。
【0028】
卵子情報DB140は、制御装置10に接続された大容量記憶装置に記憶されてもよい。卵子情報DB140は、ネットワーク上のいわゆるクラウドストレージに記憶されていてもよい。卵子等追跡モジュール144および生体検出モジュール145は、プログラム142の一部であっても、プログラム142と連動して動作する別のソフトウェアであってもよい。卵子等追跡モジュール144および生体検出モジュール145は、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0029】
読取部19は、たとえばUSB(Universal Serial Bus)等のインターフェイスである。制御部11は、読取部19を介して図示を省略するUSBメモリ等に、卵子情報DB140に記録されたデータを書き込める。ユーザはUSBメモリ等に取り出されたデータを、任意のコンピュータ等を用いて取り扱える。
【0030】
制御装置10は、たとえば汎用のパソコンである。制御装置10は、たとえばNVIDIA(登録商標)社製Jetson(登録商標)のような、GPUを搭載した並列処理用のシングルボードコンピュータを用いて構成されていてもよい。
【0031】
なお制御装置10は、読取部19を介して可搬型記憶媒体10aからプログラム142(プログラム製品)を読み込んでもよい。
【0032】
図2に戻って説明を続ける。処理装置本体21の内部に、たとえば温度センサ241、二酸化炭素濃度センサ243および湿度センサ245等のセンサ247が配置されている。同じ種類のセンサ247が、処理装置本体21の内部に複数個配置されていてもよい。以上に列挙したセンサ247は例示であり、これらに限定されるものではない。
【0033】
制御部11は、センサ247から取得したデータに基づいて調整ユニット24を制御し、処理装置本体21の内部環境を所定の状態に維持する。以後の説明では、処理装置本体21の内部環境を筐体内環境と記載する場合がある。
【0034】
卵子またはCOC等を順調に生育させるためには、酸素濃度が低く、温度が37度の状態に、筐体内環境を維持する必要がある。制御部11は、センサ247から取得したデータに基づいて、筐体内環境が卵子またはCOC等にダメージを与えない状態を維持していることを、常時モニタリングする。
【0035】
制御部11、センサ247および調整ユニット24は、筐体内環境を制御する環境制御部の機能を実現する。なお、調整ユニット24は、センサ247から取得したデータに基づいて自律的に筐体内環境を所定の状態に維持してもよい。そのようにする場合、調整ユニット24とセンサ247とは連携して環境制御部の機能を実現する。
【0036】
調整ユニット24を覆う箱の側面に、表示部15が取り付けられている。表示部15は液晶ディスプレイまたは有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなどの表示画面である。制御部11は、処理の進行状況および撮影した画像等を、表示部15に随時表示する。
【0037】
図2に示す例では、表示部15の下側に胚培養士等の作業者からの操作入力を受け付ける機械式操作ボタンである入力部12が3個設けられている。入力部12と表示部15とが積層されて、タッチパネルを構成していてもよい。入力部12は作業者の音声指令を受け付けるマイクロフォンであってもよい。
【0038】
筐体41の内部に格納された構成要素について説明する。処理装置本体21の下部に、下部ユニット34が配置されている。処理装置本体21の上部に、上部ユニット26が配置されている。
【0039】
下部ユニット34は、台座35、廃液容器31および調湿バット33を含む。台座35の天面に、下側移動機構25、交換部28、遠沈管収容部30、および精子調整部36が配置されている。下側移動機構25の上に、ディスポーザブルプレート250が保持されている。
【0040】
上部ユニット26は、上側移動機構263、吸入/吐出モジュール262、精子供給ピペット22、洗浄液供給ピペット23、ミネラルオイル供給ピペット29等の各種ピペット、圧力発生機構264および支持部27を含む。支持部27には、ピッキング針261が取り付けられる。なお、1本のピペットが、複数のピペットの役割を兼ねてもよい。たとえば培養液供給ピペット、滅菌水供給ピペットまたは精子液希釈用ピペット等が設けられていてもよい。
【0041】
台座35は中空であり、内部にカメラ42が収容されている。カメラ42の上部においては、台座35の天面、下側移動機構25およびディスポーザブルプレート250は透光性を有する。
【0042】
カメラ42は、対物レンズおよび撮像素子を含み、卵子またはCOC等へのダメージが少ない赤色光での撮影が可能である。カメラ42により撮影された画像は、制御装置10に伝送される。カメラ42は、ディスポーザブルプレート250の全体を素早く、かつ、取りこぼしなく撮影可能に構成されている。すなわち、カメラ42は広角の対物レンズを備えており、ディスポーザブルプレート250全体を同時に撮影可能である。カメラ42は、たとえばオートフォーカス機能により、ピントの合った画像を撮影できる。
【0043】
カメラ42は、たとえばズーム機構、または、観察倍率の異なる複数の対物レンズを交換可能な対物レンズ交換機構を備えており、観察倍率を変更可能であってもよい。たとえばカメラ42は、ディスポーザブルプレート250全体を撮影可能な広角の対物レンズと、顕微鏡レベルの高倍率対物レンズとの複数の対物レンズを切替可能であってもよい。このようにすることにより、広い視野での探索と、高精度の観察とを両立し、卵子またはCOC等と、精子との状態を網羅的に観察可能な処理装置20を実現できる。
【0044】
カメラ42は高画素の撮像素子を備え、いわゆるデジタルズームが可能であってもよい。カメラ42は動画を撮影してもよい。
【0045】
下側移動機構25は、制御部11による制御に基づいて、保持したディスポーザブルプレート250を水平方向に移動させて、ディスポーザブルプレート250の所定の部分をカメラ42の上部に移動させる。移動機構は、たとえばステッピングモータとガイドレールとにより実現される。下側移動機構25は、ディスポーザブルプレート250を着脱可能に保持する保持部の例示である。
【0046】
下側移動機構25は、ディスポーザブルプレート250を固定するクランプ機構等を有してもよい。たとえば地震等が起きた場合であっても、ディスポーザブルプレート250の位置ずれを防止できる。
【0047】
処理装置20は、下側移動機構25に加えてカメラ42および照明32を移動させる機構を備えてもよい。ディスポーザブルプレート250とカメラ42とを同時に移動させることにより、ディスポーザブルプレート250上の目的位置を速やかに撮影できる。照明32は、カメラ42と連動して移動し、観察対象位置を適切に照明する。
【0048】
処理装置20は、下側移動機構25を備えなくてもよい。固定されたディスポーザブルプレート250に対して、カメラ42と照明32とが相対的に移動してもよい。たとえば高倍率対物レンズと組み合わせたカメラ42を使用して、ディスポーザブルプレート250全体を走査することにより、ディスポーザブルプレート250全体を高倍率で撮影できる。
【0049】
調湿バット33は、処理装置20の使用中に滅菌水を満たしておく容器である。調湿バット33は、滅菌水の水面の面積を広く確保できる平たい形状である。調湿バット33に満たした滅菌水により、たとえば湿度制御部246に不調が生じた場合であっても、処理装置本体21内部の湿度が保たれる。
【0050】
遠沈管収容部30には、たとえば洗浄液、培地、ミネラルオイルおよび滅菌水等の、培養に必要な液体が入った遠沈管301が収容される。精子調整部36は、前述の通り精液の洗浄および濃縮等の精液調整を自動的に行ない、精子液を作成する。廃液容器31は、一連の工程で発生する廃液を収容する容器である。
【0051】
交換部28は、支持部27への新しいピッキング針261の取り付け、および、使用後のピッキング針261の取り外しを行なう機構である。交換部28は、未使用のピッキング針261および使用済のピッキング針261をそれぞれ分けて収容する針収容部を備える。交換部28はたとえばピッキング針を掴んで支持部27に着脱するロボットアーム状の機構である。
【0052】
上側移動機構263は、精子供給ピペット22、洗浄液供給ピペット23、ミネラルオイル供給ピペット29および支持部27をそれぞれ水平方向および上下方向に動作させる。吸入/吐出モジュール262は、精子供給ピペット22、洗浄液供給ピペット23、および、ミネラルオイル供給ピペット29にそれぞれ陰圧および陽圧を加え、吸引および吐出を行なわせる。
【0053】
上側移動機構263、および、吸入/吐出モジュール262は従来から使用されているため、詳細については説明を省略する。上側移動機構263と下側移動機構25と、ピッキング針261と、圧力発生機構264とは連携して、卵子またはCOC等を所定の場所に搬送する搬送部の機能を実現する。
【0054】
圧力発生機構264は、ピッキング針261に加える陰圧および陽圧を発生する。圧力発生機構264は、10μL以下の少量の液体であっても、精度よく吸引および吐出可能な様に、高い精度で制御された圧力を発生可能である。たとえば圧力発生機構264は、ポンプ、シリンジ、または微小アクチュエータを用いてピッキング針261に加える圧力を発生させる。圧力発生機構264で発生した圧力は、気体または液体を介して、ピッキング針261の先端に伝達される。
【0055】
たとえば制御部11は、カメラ42により撮影された画像に基づいて、ピッキング針261と卵子またはCOC等との位置関係を認識して、圧力発生機構264が発生する圧力を制御する。制御部11と圧力発生機構264とは連動して、後述するようにピッキング針261に卵子またはCOC等を吸引および吐出する処理を1秒以内の高速で実行できてもよい。
【0056】
照明32は、卵子またはCOC等に与える悪影響が比較的少ない赤色照明光を発する。照明32は、カメラ42による撮影に必要な時間だけ動作し、それ以外の時間は消灯していることが望ましい。照明32がディスポーザブルプレート250を照らす照度は、卵子またはCOC等へのダメージが少ない照度であり、20ルクス以下である。
【0057】
支持部27は、ピッキング針261を着脱可能に支持する。図4は、ピッキング針261先端の拡大図である。ピッキング針261は、先端が屈曲した針であり、先端部分が略水平になるように支持部27に取り付けられる。
【0058】
たとえばピッキング針261は、屈曲部の角度αが135度、先端部分の長さLが1000μm、外径φ1が600μm、内径φ2が500μmである。ピッキング針261の、少なくとも先端部分は透明である。ピッキング針261は、たとえばガラス製である。
【0059】
角度αは、たとえば90度以上、180度未満である。長さLは、たとえば100μm以上、3000μm未満である。外形φ1は、たとえば100μm以上、1200μm未満である。内径φ2は、たとえば80μm以上、1000μm未満である。
【0060】
ピッキング針261は、後述するように卵子またはCOC等の抽出に使用される。抽出する卵子またはCOC等の発育状態に応じて、ピッキング針261の太さが選択されてもよい。卵子またはCOC等の直径と同程度から3倍程度までの内径φ2を有するピッキング針261が選択されることが望ましい。図1に示した卵丘剥離工程でピッキング針261を使用する場合の、ピッキング針261の太さの選択については後述する。
【0061】
支持部27の内部には、ピッキング針261を取り付けた場合に連通するように、たとえばシリコーン製のチューブが設けられている。
【0062】
遠沈管301内の液体の概要について説明する。洗浄液は、たとえばリン酸緩衝生理食塩水(PBS(-):phosphate-buffered saline)などのバッファである。バッファは、培養液中の酸および塩基が増減した際に、緩衝作用によりpH(potential of hydrogen)を一定に保つ効果がある。
【0063】
培養液は、たとえばHTF(Human Tubal Fluid:ヒト卵管液塑性培養液)、TYH、またはKSOMなどの細胞培養用の液体である。培養の工程ごとに適切な種類の培養液が使用される。ミネラルオイルは、軽質流動パラフィンである。培養液の表面をミネラルオイルで覆うことにより、水分の蒸発等による培養液のpHおよび浸透圧等の変化を防止できる。
【0064】
図5は、ディスポーザブルプレート250の上面図である。ディスポーザブルプレート250には、マーカ258、底面が平坦な窪み状である検卵ウェル251、4個の検卵後洗浄ウェル252、16個の体外受精ウェル253、8個の受精後洗浄ウェル254および16個の胚培養ウェル255が設けられている。マーカ258の形状、それぞれのウェルのサイズの比率、数および配置はいずれも例示である。
【0065】
マーカ258は、たとえば縦横500μmの正方形のエリアに印刷、刻印またはレーザマーキング等により形成された模様である。マーカ258には文字が記載されていてもよい。制御部11は、カメラ42を介して撮影したマーカ258を用いて、カメラ42の視野と、ディスポーザブルプレート250との相対的な位置関係を正確に特定できる。制御部11は、マーカ258を用いて、ディスポーザブルプレート250を下側移動機構25に載置した際の位置ズレを補正できる。
【0066】
ディスポーザブルプレート250は、マーカ258以外の場所においては、照明32により放射された照明光の80パーセント以上が透過可能な程度の透光性を有する。すなわち、ディスポーザブルプレート250は照明光の透過率が80パーセント以上である。
【0067】
ディスポーザブルプレート250は平面状のタッチセンサを備えてもよい。タッチセンサは、たとえばマーカ258の隣に配置される。制御部11は、ピッキング針261の先端をタッチセンサに接触させることにより、ディスポーザブルプレート250とピッキング針261との位置関係を正確に特定できる。たとえば、ディスポーザブルプレート250を下側移動機構25に載置した後の初期化操作において、ピッキング針261の先端をタッチセンサに接触させることにより、両者の位置関係のキャリブレーションを実施可能である。
【0068】
図6は、検卵ウェル251の断面図である。図5および図6Aに示すように、検卵ウェル251の底面には、たとえば1mm間隔の格子状のグリッド線259が設けられている。図6Bは、グリッド線259の拡大図である。図6Bにおける二点鎖線は、卵子またはCOC等を模式的に示す。
【0069】
グリッド線259は、たとえば幅50μm、高さ50μmの矩形断面を有する。グリッド線259は、検卵ウェル251内における卵子またはCOC等の位置の特定に利用される。グリッド線259により、検卵ウェル251の水平方向の加速度、下側移動機構25等の動作に伴う振動、および、ピペット操作により生じる水流等に伴って、卵子またはCOC等が遠くに移動することが防止できる。
【0070】
図7は、カメラ42により撮影される画像を説明する説明図である。中央部右側に、ピッキング針261の先端が写っている。ピッキング針261の先端が透明であるため、ピッキング針261内部の卵子またはCOC等も画像に写っている。前述のとおり、制御部11は、カメラ42により撮影された画像に基づいて、ピッキング針261と卵子またはCOC等との位置関係を認識して、圧力発生機構264が発生する圧力を制御する。
【0071】
前述のとおり、各ウェルの底が平らであるため、ディスポーザブルプレート250を水平に動かした場合に、カメラ42のピント調整を行なう必要がない。ピッキング針261の先端の水平に配置された範囲においては、卵子またはCOC等はピッキング針261内を移動した場合に、カメラ42のピント調整を行なう必要がない。したがって、制御部11は卵子またはCOC等を見失いにくい。
【0072】
なおカメラ42は、ウェルの底に位置する卵子またはCOC等と、ピッキング針261の先端部内に位置する卵子またはCOC等との双方を同時に観察できる程度の焦点深度を有することが望ましい。
【0073】
カメラ42により撮影された画像にグリッド線259が映り込むため、カメラ42の視野範囲および撮影倍率を記録できる。制御部11は、画像上のグリッド線259を用いて撮影倍率の補正を行なってもよい。
【0074】
制御部11は、グリッド線259が映り込んだ画像を用いて、ディスポーザブルプレート250上の卵子またはCOC等の座標を特定してもよい。したがって制御部11は、画像を基準に定めた画像座標系における卵子またはCOC等の位置と、ディスポーザブルプレート250を基準に定めたディスポーザブルプレート座標系における卵子またはCOC等の位置とのアラインメントを行なえる。
【0075】
グリッド線259の代わりに、または、グリッド線259とともに、ディスポーザブルプレート250に位置認識模様が設けられてもよい。制御部11は位置認識模様を用いて、カメラ42の視野と、ディスポーザブルプレート250との相対的な位置関係を正確に特定し、ディスポーザブルプレート250を下側移動機構25に載置した際の位置ズレを補正できる。
【0076】
ディスポーザブルプレート250は、生体安全性を有する素材製である。ディスポーザブルプレート250は、たとえばPDMS(Dimethylpolysiloxane)製またはガラス製である。
【0077】
ディスポーザブルプレート250には、シリアル番号または型番等を記載したバーコードが設けられていてもよい。バーコードには、たとえばQRコード(登録商標)が用いられてもよい。バーコードの利用目的については後述する。
【0078】
図2に戻って説明を続ける。卵子等追跡モジュール144は、それぞれの卵子およびCOC等の位置を連続的に推定し続ける。制御部11は、卵子等追跡モジュール144が推定した情報に基づいて、卵子およびCOC等の紛失を防止するように、ピッキング針261等を制御する。さらに制御部11は、万が一卵子およびCOCを見失った場合にも、卵子等追跡モジュール144が推定した情報に基づいて捜索を行なう。
【0079】
卵子等追跡モジュール144は、カメラ42を用いて透光性の高いディスポーザブルプレート250を常時撮影した画像を、画像解析し、卵子またはCOC等の位置をトラッキングすることにより実現される。卵子等追跡モジュール144は、たとえばCSRT(Channel and Spatial Reliability Tracking)を用いて、卵子またはCOC等を追跡してもよい。
【0080】
卵子等追跡モジュール144により、卵子およびCOC等の各個体の同一性を保証し、紛失を防止する。さらに、卵子およびCOC等を紛失した場合であっても、説明可能性を保証できる処理装置20を提供できる。
【0081】
生体検出モジュール145は、カメラ42により微細な構造が撮影された画像を用いて、卵子およびCOC等の位置を推定する。生体検出モジュール145は、たとえば高倍率で撮影されたデジタル画像を、機械学習により生成されたモデルに入力して、卵子およびCOC等の位置を推定する。このような推定は、画像の明度および彩度等が変化しても、ただしく卵子およびCOC等の位置を推定できるロバスト性を有する。
【0082】
生体検出モジュール145は、筐体41内に配置されたレーダー装置等を用いて検出した三次元構造に基づいて、卵子またはCOC等を検出してもよい。
【0083】
なお、生体検出モジュール145が卵子またはCOC等を検出する速度は、ピッキング針261等の位置制御を精密に行なう上で重要である。生体検出モジュール145の計算速度を高める種々の工夫が行なわれてもよい。
【0084】
前述の通り、卵子等追跡モジュール144および生体検出モジュール145は、プログラム142の一部であっても、プログラム142と連動して動作する別のソフトウェアであってもよい。卵子等追跡モジュール144および生体検出モジュール145は、ハードウェアにより実現されてもよい。以後の説明においては、卵子等追跡モジュール144および生体検出モジュール145がプログラム142の一部である場合を例にして説明する。
【0085】
図8は、機械学習モデル143の構成を説明する説明図である。機械学習モデル143は、カメラ42により撮影された画像を受け付けて、画像に含まれる卵子またはCOC等に関する情報を出力するモデルである。画像は、たとえば検卵ウェル251上の卵胞液を撮影した卵胞液画像である。
【0086】
機械学習モデル143は、たとえば図8に示すように画像に含まれる卵子またはCOC等の位置を示すバウンディングボックスと、卵子またはCOC等の質とを出力する。卵子またはCOC等の質は、「良好」、「不良」等のランクにより出力されても、点数により出力されてもよい。ここで「良好」は、処理装置20を用いた胚の作製に適していることを意味する。
【0087】
機械学習モデル143は、たとえばR-CNN(Region Based Convolutional Neural Network)またはYOLO(You only look once)等のニューラルネットワーク構造を使用して生成された物体検出モデルである。
【0088】
機械学習モデル143は、画像と、画像に対応するラベルとを関連づけた多数組の訓練データを使用した機械学習により生成されている。機械学習モデル143は、卵子またはCOC等を検出するモデルと、検出した卵子またはCOC等を拡大した画像を受け付けて、卵子またはCOC等の質を出力する物体識別モデルとの組み合わせであってもよい。
【0089】
機械学習モデル143は、卵子検出、前培養、共培養等の、培養の工程ごとに用意されていてもよい。機械学習モデル143は、卵子、受精卵、桑実胚等の、卵子またはCOC等の発生過程ごとに用意されていてもよい。機械学習モデル143は、卵胞液から卵子またはCOC等を検出する検出部の例示である。機械学習を用いて、画像から物体を検出するとともに当該物体に関する情報を出力する物体検出モデルの生成方法は従来から使用されているため、詳細については説明を省略する。
【0090】
機械学習モデル143は、ニューラルネットワークを使用しない、いわゆる古典的な機械学習モデルであってもよい。古典的な機械学習モデルには、たとえばパターンマッチングを行なうモデルが含まれる。
【0091】
カメラ42により画像を撮影してから、機械学習モデル143から情報が出力されるまでの一連の処理は、1秒以内に実行される。このような高速処理を実現するために、制御部11には、前述のようにGPU等の高性能なプロセッサが使用される。処理の一部または全部が、FPGA(Field Programmable Gate Array)により実行されてもよい。
【0092】
図9は、卵子情報DB140のレコードレイアウトを説明する説明図である。卵子情報DB140は、生殖補助医療を受ける患者に関する情報と、培養中の卵子またはCOC等に関する情報とを関連づけて記録するDBである。
【0093】
卵子情報DB140は、氏名フィールド、患者ID(Identifier)フィールド、卵子IDフィールド、日時フィールド、ウェル位置IDフィールド、ウェル内位置フィールドおよび、進行状況フィールドを有する。進行状況フィールドは、採卵フィールド、前培養フィールド、共培養フィールド、受精卵フィールドおよび胚培養フィールドを有する。
【0094】
共培養フィールドは、1時間フィールド、2時間フィールド等、観察タイミングごとのフィールドを有する。それぞれの観察タイミングごとのフィールドは、質フィールドおよび画像フィールドを有する。受精卵フィールドは、質フィールドおよび画像フィールドを有する。胚培養フィールドは、1日目フィールド、2日目フィールド等、観察タイミングごとのフィールドを有する。それぞれの観察タイミングごとのフィールドは、質フィールドおよび画像フィールドを有する。
【0095】
氏名フィールドには、生殖補助医療を受ける患者の氏名が記録されている。患者IDフィールドには、患者に固有に付与された患者IDが記録されている。卵子IDフィールドは、卵胞液から抽出された卵子に固有に付与された卵子IDが記録されている。なお、卵子が受精卵を経て胚に成長した場合も、卵子IDは変更されない。
【0096】
日時フィールドは、卵子が検出された日時が記録されている。ウェル位置IDフィールドには、卵子またはCOC等が配置されているウェルに固有に付与されたウェル位置IDが記録されている。ウェル位置IDは、使用されているディスポーザブルプレート250のシリアル番号を識別する情報を含んでもよい。
【0097】
ウェル内位置フィールドには、ウェル位置IDにより特定されるウェル内における、卵子またはCOC等の位置が記録されている。たとえば、ウェル内位置フィールドには、図5および図6を使用して説明したグリッド線259により区画されるウェル内の座標が記録されている。図9における「針内」は、卵子またはCOC等が、図7に例示したようにピッキング針261の内部に入っていることを意味する。
【0098】
制御部11は、卵子またはCOC等を別のウェルに移動させた場合、当該卵子に関するウェル位置IDフィールドおよびウェル内位置フィールドの情報を随時更新する。制御部11は、卵子等追跡モジュール144または生体検出モジュール145が卵子またはCOC等の位置の変化を検出した場合も、当該卵子に関するウェル位置IDフィールドおよびウェル内位置フィールドの情報を随時更新する。
【0099】
採卵フィールドには、卵胞液から採卵された卵子の質が記録されている。前培養フィールドには、前培養が終了したときの卵子の質が記録されている。いずれも、「良好」は卵子が処理装置20を用いた胚の作製に適した質を有することを意味する。卵子の質は、図8を使用して説明した機械学習モデル143を用いて判定される。
【0100】
共培養フィールドの各サブフィールドには、共培養開始後の経過時間ごとの卵子またはCOC等の質および卵子を撮影した画像が記録されている。受精卵フィールドのサブフィールドには、共培養が完了した後の受精卵の質および受精卵を撮影した画像が記録されている。胚培養フィールドの各サブフィールドには、胚培養開始後の経過時間ごとの卵子またはCOC等の質および卵子を撮影した画像が記録されている。
【0101】
各フィールドの「-」は、処理の途中で当該卵子またはCOC等の質に問題があり、以後の処理が行われないことを意味する。各フィールドの空欄は、当該フィールドに対応する処理が未完了であることを意味する。
【0102】
なお、共培養フィールドおよび胚培養フィールドの経過時間は例示であり、これに限定されるものではない。それぞれの経過時間ごとの画像の代わりに、タイムラプス撮影された動画が記録されていてもよい。
【0103】
図1から図9を使用して、卵胞液および精液から胚を作成する手順の概要を説明する。
【0104】
[準備作業]
処理装置20の使用に先立ち、作業者は、精子供給ピペット22、洗浄液供給ピペット23およびミネラルオイル供給ピペット29等のピペットを処理装置20に取り付ける。作業者は、交換部28に新しいピッキング針261を補充する。作業者は、調湿バット33に滅菌水を入れる。
【0105】
作業者は、洗浄液、培養液、ミネラルオイルおよび滅菌水等をそれぞれ入れた遠沈管301を遠沈管収容部30に収容する。作業者は、処理装置20の動作を開始させる。制御部11は、調整ユニット24を動作させて、処理装置本体21内部の温度および湿度等の環境を所定の条件に調整する。
【0106】
[卵胞液および精液の受け入れ準備]
制御部11は、上部ユニット26を制御して、遠沈管301に入っている培養液を検卵後洗浄ウェル252、体外受精ウェル253、受精後洗浄ウェル254および胚培養ウェル255にそれぞれ分注する。具体的には、制御部11は上側移動機構263を動作させてピペット培養液が収容された遠沈管301の上に移動させる。制御部11は、ピペットを下降させて、先端を培養液内に差し込む。制御部11は、吸入/吐出モジュール262を制御して、ピペットの内部を陰圧にし、培養液を吸引させる。制御部11は、ピペットを元の高さに上昇させる。
【0107】
制御部11は、ピペットの先端を検卵後洗浄ウェル252の上に移動させる。制御部11は、ピペットを下降させて先端を目的のウェルに近づける。制御部11は、吸入/吐出モジュール262を制御してピペットの内部を陽圧にし、所定量の洗浄液を吐出させる。
【0108】
以上の処理を繰り返して各ウェルへの培養液の分注を完了した後、制御部11は、ピペットの先端を廃液容器31の上に移動させる。制御部11は、検卵後洗浄ウェル252を制御して、洗浄液供給ピペット23内に残った洗浄液を廃液容器31に廃棄する。処理装置20がピペットの自動洗浄機構を有する場合、制御部11は廃液容器31の上部で洗浄液供給ピペット23を洗浄する。
【0109】
以上により、培養液の分注が完了する。以後の説明においては、分注作業の詳細については説明を省略する。
【0110】
制御部11は、ミネラルオイル供給ピペット29を動作させて遠沈管301に入っているミネラルオイルを検卵後洗浄ウェル252、体外受精ウェル253、受精後洗浄ウェル254および胚培養ウェル255に分注する。以上により制御部11、吸入/吐出モジュール262、上側移動機構263およびミネラルオイル供給ピペット29は、検卵ウェル251等にミネラルオイルを供給するミネラルオイル供給部の機能を実現する。
【0111】
各ウェル内の培養液の表面が、ミネラルオイルにより被覆される。ミネラルオイルにより培養液中の水分の蒸発が防止される。その後、半日程度静置することにより、培養液のpHおよび溶存酸素量等が平衡化する。
【0112】
なおディスポーザブルプレート250は、各ウェルに培養液、洗浄液、ミネラルオイル等が分注済の状態で提供されてもよい。そのようなディスポーザブルプレート250を使用する場合は、以上に説明した分注作業は不要である。
【0113】
[卵胞液および精液の投入作業]
作業者は、筐体41の扉を開けて、精液を精子調整部36に入れる。作業者は、卵胞液を新しいディスポーザブルプレート250の検卵ウェル251に入れる。作業者は、ディスポーザブルプレート250を下側移動機構25の所定の位置に載置して、筐体41の扉を閉める。以後の処理は、制御部11が自動的に実行する。
【0114】
[卵子抽出作業]
制御部11は、下側移動機構25を制御して、検卵ウェル251をカメラ42の上に移動させる。制御部11は、検卵ウェル251の下側から卵胞液の画像を撮影する。制御部11は、撮影した画像を機械学習モデル143に入力して、卵胞液に含まれる卵子の位置および質を取得する。制御部11は、機械学習モデル143から取得したデータに基づいて、良好な卵子の数を計数する。
【0115】
制御部11は、卵胞液から良好な卵子が内包されたCOCを抽出して、検卵後洗浄ウェル252に入れる。具体的には制御部11は、上側移動機構263を動作させてピッキング針261の先端を良好な卵子が内包されたCOCに近づける。なお、制御部11はカメラ42を用いてリアルタイムで撮影した画像に基づいて、ピッキング針261の位置を微調整することが望ましい。
【0116】
制御部11は、圧力発生機構264を動作させてピッキング針261を陰圧にし、ピッキング針261の内部にCOCを吸引する。制御部11は、COCがピッキング針261の屈曲部よりも先端側に留まるように、圧力発生機構264を制御する。制御部11は、上側移動機構263を動作させてピッキング針261の先端を検卵後洗浄ウェル252に分注された培養液に差し込む。制御部11は圧力発生機構264を動作させてピッキング針261を陽圧にし、COCを吐出する。
【0117】
制御部11は、卵子を吐出した検卵後洗浄ウェル252内の培養液に、洗浄液供給ピペット23の先端を差し込み、洗浄液の吐出および吸引を繰り返して、COCを洗浄する。以上により制御部11、検卵後洗浄ウェル252、吸入/吐出モジュール262、上側移動機構263および洗浄液供給ピペット23は、卵子が内包されたCOCを洗浄する洗浄部の機能を実現する。
【0118】
制御部11は、カメラ42を検卵後洗浄ウェル252の下に移動させて、卵子を撮影する。制御部11は、公知の画像解析技術を用いて、卵子に付着している血液および脂肪等の夾雑物が除去されたか否かを確認する。機械学習モデル143が夾雑物の有無を判定するように学習済である場合、制御部11は撮影した画像を機械学習モデル143に入力して、夾雑物の有無を取得してもよい。
【0119】
夾雑物が除去された後、制御部11はピッキング針261にCOCを吸引し、体外受精ウェル253に分注した培養液の内部に吐出する。前述のとおり、ピッキング針261の先端に位置するCOCは、カメラ42により撮影され、制御部11により位置が検出され続ける。
【0120】
制御部11は、卵子情報DB140に新規レコードを作成し、患者氏名および患者IDを記録する。制御部11は、卵子IDを付与して、卵子IDフィールドに記録する。制御部11は、卵胞液を撮影した画像から卵子を検出した日時を日時フィールドに記録する。なお、制御部11は卵胞液からCOCを抽出した時刻、または洗浄後のCOCを体外受精ウェル253に吐出した時刻を日時フィールドに記録してもよい。
【0121】
制御部11は、上側移動機構263を動作させてピッキング針261を交換部28に差し込む。制御部11は、交換部28を動作させて支持部27から使用済のピッキング針261を支持部27から取り外し、新しいピッキング針261を取り付ける。
【0122】
以上の処理を繰り返して、制御部11は卵胞液中の良好な卵子を内包するCOCをすべて抽出して、体外受精ウェル253に移動させる。なお制御部11は、卵胞液中の良好な卵子を内包するCOCすべて検卵後洗浄ウェル252に移動させた後に、それぞれのCOCを洗浄して、体外受精ウェル253に移動させてもよい。そのようにする場合、制御部11はたとえば卵胞液から1個のCOCを抽出する都度、ピッキング針261を交換する。制御部11は、1本のピッキング針261を使用して、卵胞液に含まれるすべての良好な卵子を内包するCOCを抽出してもよい。なお、以後の説明においては、ピッキング針261の交換については説明を省略する。
【0123】
[前培養]
制御部11は、処理装置本体21内の環境を所定の条件に維持し続けることにより、前培養を行なう。前培養中に、体外受精ウェル253内で卵子が成熟する。制御部11は、カメラ42をそれぞれの体外受精ウェル253の下に移動させて、COCを撮影する。制御部11は、撮影した画像を機械学習モデル143に入力して、卵子の位置および質を取得する。制御部11は、卵子情報DB140の対応するレコードを抽出して、前培養フィールドに卵子の質を記録する。なお、前述の通り前培養は省略されてもよい。
【0124】
[受精誘導]
前述の通り、媒精による受精誘導を行なう場合について説明する。精子調整部36内で、精液から精子液が作成される。制御部11は、精子供給ピペット22を用いて成熟した卵子を内包するCOCが入っている体外受精ウェル253内の培養液に精子液を分注する。以上により制御部11、吸入/吐出モジュール262、上側移動機構263および精子供給ピペット22は、卵子に精子を供給する精子供給部の機能を実現する。
【0125】
制御部11は、処理装置本体21内の環境を所定の条件に維持し続けることにより、共培養を行なう。共培養中に、精子が卵丘細胞およびその内側の透明体を通過して卵子に侵入する、受精が行われる。
【0126】
なお、精子液を吐出する位置は、COCから十分に離れていることが望ましい。このようにすることで、1個の卵子に2個以上の精子が侵入する多精子侵入を防止できるとともに、運動性能の高い良質な精子が受精することが期待できる。さらに、精子液を吐出するピペットがCOCに接触することも防止できる。したがって、制御部11はカメラ42により撮影した画像を機械学習モデル143に入力し、機械学習モデル143から出力された卵子の位置に基づいて精子液を吐出する位置を決定することが望ましい。
【0127】
制御部11は、定期的に体外受精ウェル253を撮影して、機械学習モデル143に入力し、受精卵の質を取得する。制御部11は、卵子情報DB140の対応するレコードを抽出し、受精卵の質および画像を記録する。なお、受精卵の卵割等が正常に進まない場合には、制御部11は当該受精卵に関する以後の処理を中止する。
【0128】
[受精後の洗浄]
制御部11は、ピッキング針261により受精卵を抽出して、受精後洗浄ウェル254内の培養液に吐出する。制御部11は、たとえば内径が150μm、120μm、100μmのように、徐々に細いピッキング針261に交換しながら、受精卵の吸引と吐出とを繰り返す。ピッキング針261と受精卵との摩擦により、受精卵の周囲を包む卵丘細胞が剥離されるとともに、受精卵の周囲に残存している精子等の夾雑物が除去される。
【0129】
以上により制御部11、受精後洗浄ウェル254、吸入/吐出モジュール262、上側移動機構263およびピッキング針261は、受精卵を洗浄する洗浄部の機能を実現する。
【0130】
制御部11は、ピッキング針261により受精卵を抽出して、胚培養ウェル255内の培養液に吐出する。制御部11は、カメラ42をそれぞれの胚培養ウェル255の下に移動させて、受精卵を撮影する。制御部11は、撮影した画像を機械学習モデル143に入力して、受精卵の位置および質を取得する。制御部11は、卵子情報DB140の対応するレコードを抽出して、受精卵フィールドに受精卵の質と画像とを記録する。洗浄が終了しているため、明瞭な画像が記録される。
【0131】
なお、制御部11が、機械学習モデル143を用いて受精卵の質を取得する代わりに、医師等が受精卵を撮影した画像の形態観察を行ない、受精卵の質を判断してもよい。
【0132】
[胚培養]
制御部11は、処理装置本体21内の環境を所定の条件に維持し続けることにより、胚培養を行なう。胚培養中に、受精卵の細胞分裂が進む。制御部11は、定期的に胚培養ウェル255を撮影して、機械学習モデル143に入力し、胚の質を取得する。制御部11は、卵子情報DB140の対応するレコードを抽出し、胚の質および画像を記録する。なお、胚の細胞分裂等が正常に進まない場合には、制御部11は当該受精卵に関する以後の処理を中止する。
【0133】
なお、制御部11は所定の期間ごとに胚培養ウェル255内の培養液を交換する。たとえば制御部11は、胚培養ウェル255内の培養液の半量を吸引して廃棄した後に、新しい培養液を胚培養ウェル255内に吐出する。交換を要さない培養液が使用されてもよい。
【0134】
所定の段階まで胚が成長した場合、制御部11は表示部15に胚が完成した旨を表示する。作業者は、扉を開けて完成した胚を取り出す。作業者は、胚を凍結保存する。 なお、処理装置20は成長した胚を洗浄する機能を有してもよい。
【0135】
[片付け]
作業者は、ディスポーザブルプレート250、廃液容器31、精子供給ピペット22、洗浄液供給ピペット23、ミネラルオイル供給ピペット29、および、調湿バット33等の部品を取り外す。作用者は、再利用可能な部品については、洗浄および滅菌する。作業者は、消毒用アルコール等を用いて処理装置20の内部を清拭する。
【0136】
なお、処理装置20は内部に紫外線滅菌ランプ等の滅菌機器を有しても良い。処理装置20の内部は、過酸化水素滅菌されてもよい。処理装置20の内部を清拭した後に滅菌することにより、培養中に雑菌が繁殖する等のトラブルを防止できる。
【0137】
なお、処理装置20は部品の取り外しおよび清拭等を自動的に行なうロボットアーム等の機構を有してもよい。これらの作業は、処理装置20とは別体のロボット等により実施されてもよい。
【0138】
図10は、プログラムの処理の流れを説明するフローチャートである。制御部11は、作業者が卵胞液および精液を処理装置20に入れて扉を閉めた場合に、図10を使用して説明するプログラムを実行する。図10を使用して、制御部11が行う処理の流れを説明する。
【0139】
制御部11は、検卵のサブルーチンを起動する(ステップS301)。検卵のサブルーチンは、前培養の準備を行なうサブルーチンである。検卵のサブルーチンの処理の流れは後述する。
【0140】
制御部11は、処理装置本体21内の環境を所定の条件に維持し続けることにより、前培養を行なう(ステップS302)。前培養の終了後、制御部11はCOCの状態を撮影する(ステップS303)。制御部11はCOCを撮影した画像を機械学習モデル143に入力して、卵子の位置および質を取得する。
【0141】
制御部11は、共培養のサブルーチンを起動する(ステップS304)。共培養のサブルーチンは、卵子に精子液を加えて受精させて共培養を行なうサブルーチンである。共培養のサブルーチンの処理の流れは後述する。制御部11は、処理装置本体21内の環境を所定の条件に維持し続けることにより、胚培養を行なう(ステップS305)。なお、胚培養中、制御部11は定期的に胚の状態および写真を卵子情報DB140に記録するとともに、培養液の交換を行なう。胚培養の完了後、制御部11は処理を終了する。
【0142】
図11は、検卵のサブルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。検卵のサブルーチンは、前培養の準備を行なうサブルーチンである。制御部11は、卵胞液から卵子を検出する(ステップS101)。具体的には、制御部11は卵胞液の画像を撮影し、機械学習モデル143に入力して、卵胞液に含まれる卵子の位置および質を取得する。制御部11は、機械学習モデル143から取得したデータに基づいて、良好な卵子の数を計数する。
【0143】
制御部11は、検卵ウェル251内の卵胞液から良好な卵子を包含するCOC抽出して、検卵後洗浄ウェル252に搬送する(ステップS102)。制御部11は、検卵後洗浄ウェル252内でCOCを洗浄する(ステップS103)。制御部11は、洗浄したCOCを体外受精ウェル253に搬送する(ステップS104)。制御部11は、卵子情報DB140に新規レコードを作成し、搬送した卵子に関する情報と、当該卵子に付与した卵子IDとを記録する(ステップS105)。
【0144】
制御部11は、検卵ウェル251に良好な卵子が残っているか否かを判定する(ステップS106)。残っていると判定した場合(ステップS106でYES)、制御部11はステップS102に戻る。残っていないと判定した場合(ステップS106でNO)、制御部11は処理を終了する。
【0145】
図12は、共培養のサブルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。共培養のサブルーチンは、卵子に精子液を加えて受精させて共培養を行なうサブルーチンである。
【0146】
制御部11は、精子供給ピペット22に精子液を吸引する(ステップS201)。制御部11は、体外受精ウェル253中のCOCから遠い位置に精子液を吐出できるように、精子供給ピペット22の位置を制御する(ステップS202)。制御部11は、体外受精ウェル253の培養液中に精子を吐出する(ステップS203)。なお制御部11は、成熟した卵子を包含するCOCが入っているすべての体外受精ウェル253に対して、ステップS202およびステップS203の処理を実行する。
【0147】
所定時間の経過後、制御部11はカメラ42を制御して共培養中の卵子の画像を取得する(ステップS204)。制御部11は、撮影した画像を機械学習モデル143に入力して、卵子の質等の情報を取得する。制御部11は、卵子情報DB140の対応するフィールドに、卵子の質および卵子の画像を記録する。なお制御部11は、成熟した卵子が入っているすべての体外受精ウェル253に対して、ステップS204およびステップS205の処理を実行する。
【0148】
制御部11は、共培養の培養期間が終了したか否かを判定する(ステップS206)。終了していないと判定した場合(ステップS206でNO)、制御部11はステップS204に戻る。終了したと判定した場合(ステップS206でYES)、制御部11は良好に分裂した受精卵を受精後洗浄ウェル254に搬送する(ステップS207)。
【0149】
制御部11は、受精後洗浄ウェル254で受精卵を洗浄する(ステップS208)。制御部11は、洗浄した受精卵を胚培養ウェル255に搬送する(ステップS209)。制御部11は、カメラ42を制御して胚培養ウェル255に搬送した受精卵の画像を取得する。制御部11は、撮影した画像を機械学習モデル143に入力して、受精卵の位置および質を取得する。制御部11は、卵子情報DB140の受精卵フィールドに、卵子の質と画像とを記録する(ステップS210)。
【0150】
なお制御部11は、良好に分裂したすべての受精卵に対して、ステップS207からステップS210の処理を実行する。その後、制御部11は処理を終了する。
【0151】
本実施の形態によると、卵胞液および精液を入れた後、胚が完成するまでの処理を自動的に行なう処理装置20を提供できる。作業者の負担を減らすことにより、生殖補助医療を支援する処理装置20を提供できる。作業者の手作業を削減することにより、卵子、受精卵または胚の取り違え等のトラブルを防止する処理装置20を提供できる。
【0152】
なお、処理装置20は、胚培養を行なう機能を備えなくてもよい。作業者は、共培養が完了した受精卵を処理装置20から取り出し、別の装置または手作業により胚培養を行なう。
【0153】
制御部11は、処理の進捗状況および撮影した画像を、ネットワークを介して作業者または担当医が使用するパソコン、タブレットまたはスマートフォン等に送信してもよい。作業者または担当医は、随時進行状況を把握し、必要に応じて患者に情報を提示できる。
【0154】
制御部11は、処理装置本体21内部の温度等に異常が生じた場合に、ネットワークを介して作業者または担当医が使用するパソコン、タブレットまたはスマートフォン等に通知を送信してもよい。作業者または担当医は、速やかに状況を確認して、必要は処置を行なえる。
【0155】
処理装置本体21は、温度および湿度等が培養に適した状態に管理されたインキュベータ内に設置されてもよい。そのようにする場合には、処理装置本体21は筐体41および調整ユニット24を備えなくてもよい。
【0156】
下側移動機構25は、複数のディスポーザブルプレート250を載置可能な寸法であってもよい。下側移動機構25は、複数のディスポーザブルプレート250を収容する棚と、下側移動機構25と棚との間でディスポーザブルプレート250を移動させるプレート移動機構とを備えてもよい。複数組のカップルの胚を平行して作成可能な処理装置20を提供できる。
【0157】
処理装置20は、完成した胚を冷凍保存する凍結装置を備えてもよい。処理装置20は、凍結した胚に患者ID、卵子IDおよび凍結日等を記載したラベルを貼付する機構を有してもよい。
【0158】
処理装置20は、卵子を抽出した後の卵胞液を廃液容器31に廃棄する機構を備えてもよい。同様に処理装置20は、使用後の検卵後洗浄ウェル252および受精後洗浄ウェル254に残った培養液およびミネラルオイル等を廃液容器31に廃棄する機構を備えても良い。不要になった生体組織等をディスポーザブルプレート250上から除去することにより、扉を開けた際に侵入した常在菌等がディスポーザブルプレート250上で繁殖することによる汚染を防止できる。
【0159】
廃液容器31は、廃液を冷凍保存する機能を備えてもよい。廃液中で常在菌等が繁殖することによる汚染を防止できる。
【0160】
凍結された精子液が使用される場合、処理装置20は、解凍後の精子液を希釈する濃度調整装置を備えてもよい。このような処理装置20を使用する場合、精子液は媒精に適した濃度よりも濃い状態で凍結されていることが望ましい。
【0161】
たとえば、処理装置20はカメラ42を用いて解凍後の精子液を撮影する。カメラ42は公知の画像処理手法に基づいて、生きている精子の濃度を算出する。処理装置20は、媒精に適した濃度になるように精子液に培養液を加えて希釈する。
【0162】
制御部11は、卵胞液からCOCを抽出せずに、媒精および培養を行なってもよい。具体的には、制御部11は検卵ウェル251内における卵子またはCOC等の位置に基づいて個々の卵子を識別し、精子を吐出し、卵子またはCOC等の質を判定する。胚が完成した後、作業者はディスポーザブルプレート250から手作業により胚を抽出する。制御部11がピッキング針261により完成した胚を、作業者の手作業によらずに自動的に抽出してもよい。ピッキング針261を繰り返し使用することによる卵子またはCOC等のダメージを防止できる。
【0163】
制御部11は機械学習モデル143の代わりに、パターンマッチング等の手法を用いて、卵子またはCOC等の状態を判定してもよい。共培養後の判定を例にして説明する。制御部11は、卵子に第二極体、雌性前核および雄性前核に対応するパターンが存在する場合、受精卵であると判定する。制御部11は、卵子に前核に対応するパターンが存在しない場合、未受精卵であると判定する。制御部11は、卵子にひとつの前核と第二極体とに対応するパターンが存在する場合、単為発生卵であると判定する。
【0164】
制御部11は、培養液に含まれるバイオマーカに基づいて、卵子が受精したか否かを判定してもよい。たとえば制御部11は、バイオマーカ判定用のマイクロチップ等に、培養液を滴下して、バイオマーカの判定を行なう。
【0165】
制御部11は、ディスポーザブルプレート250に印刷されたバーコードを読み取るバーコードリーダを備えてもよい。前述したように、バーコードには、たとえばディスポーザブルプレート250にシリアル番号、または、型番等が記録されている。バーコードに、正規品であるか否かを判定する乱数が仕込まれていても良い。品質が担保できない非正規品のディスポーザブルプレート250が使用され、適切な培養が行われないトラブルを防止できる。バーコードの代わりに、無線IDタグが使用されてもよい。
【0166】
処理装置本体21の脚部に、除震装置が設けられていてもよい。外部の振動による悪影響を避ける処理装置20を提供できる。
【0167】
処理装置20は、無停電電源装置を備えるか、または、無停電電源装置に接続されていることが望ましい。停電が発生した場合であっても、卵子またはCOC等へのダメージの発生を防止できる。
【0168】
処理装置20は、緊急停止ボタンを備えることが望ましい。作業者等が緊急停止ボタンを操作した場合、処理装置20は動作中のピペット等を速やかに所定の待機位置に戻して停止する。ユーザは、扉を開けてディスポーザブルプレート250を取り出し、必要な処置を行なえる。
【0169】
処理装置20は、遠沈管301内の培養液、ミネラルオイルおよび洗浄液等を滅菌する滅菌機構を備えてもよい。滅菌機構は、たとえば滅菌フィルタまたは紫外線照射により実現される。
【0170】
処理装置20は、培養液の浸透圧または培養液の温度等を経時的に測定し、記録する機能を有してもよい。
【0171】
[変形例-1]
前述のとおり受精誘導は、卵丘細胞を除去して透明帯を露出させた卵子の近傍に精子を静置する手法により行なわれてもよい。このような手法を使用する場合、制御部11は、前培養の後でCOCから卵丘を剥離して、透明帯を露出させる。卵丘を剥離する手法は、受精卵から卵丘を剥離する手法と同様である。ただし、受精卵の卵丘を剥離する場合に比べて、細いピッキング針261を使用する。その後、制御部11は卵子の近傍に精子を静置する。
【0172】
[変形例-2]
前述の通り受精誘導は、ISCIにより行なわれてもよい。受精誘導は、たとえばELSI(Elongated Spermatid Injection:伸長精子細胞注入法)、または、ROSI(Round Spermatid Injection:円形精子細胞卵子内注入法)等の、さらに高度な生殖補助医療により行なわれてもよい。
【0173】
たとえばICSIを実現する場合、処理装置本体21は成熟した卵子を保持し、細いガラス管を介して1個の精子を注入する機構を備える。顕微授精を使用することにより、精子提供者から提供された精子の数が少ない場合であっても使用可能な処理装置20を提供できる。
【0174】
[実施の形態2]
本実施の形態は、多精子侵入を防止するディスポーザブルプレート250に関する。実施の形態1と共通する部分については、説明を省略する。
【0175】
図13は、マイクロ流体デバイス256の模式図である。本実施の形態のディスポーザブルプレート250は、体外受精ウェル253の代わりに、図13に示すマイクロ流体デバイス256を有する。
【0176】
マイクロ流体デバイス256は、精液吐出部256a、マイクロ流路256bおよび卵子吐出部256cを備える。精液吐出部256aおよび卵子吐出部256cは、円形の窪みである。マイクロ流路256bは、精液吐出部256aと卵子吐出部256cとを連結する溝である。
【0177】
卵子吐出部256cに、成熟した1個の卵子と培養液とが吐出される。培養液は、マイクロ流路256bを浸す程度の量である。精液吐出部256aに、精子液が吐出される。精子は、自らの走化性、走流性、走温性などの性質に基づき、卵子吐出部256c内の卵子に向けてマイクロ流路256bを遊走する。最初に卵子に侵入した精子により、受精が成立する。
【0178】
本実施の形態によると、マイクロ流路256bを遊走する間に、精子同士の距離が開くため、同時に複数の精子が卵子に侵入する多精子侵入が生じる可能性を低減できる。マイクロ流路256bは、運動性の面での質が高い精子を選別して受精させる精子選別器の役割を果たす。
【0179】
[実施の形態3]
本実施の形態は、筐体41に覆われた処理装置本体21が設置された環境ごとに、処理装置本体21内部の環境を記憶する処理装置20に関する。実施の形態1と共通する部分については、説明を省略する。
【0180】
図14は、環境識別情報DB141のレコードレイアウトを説明する説明図である。環境識別情報DB141は処理装置本体21が設置された環境を識別する環境識別情報と、処理装置本体21内部の環境設定値とを対応付けて記録するDBである。
【0181】
環境識別情報DB141は、環境識別情報フィールドと環境設定値フィールドとを有する。環境設定値フィールドは、温度フィールド、湿度フィールドおよび二酸化炭素濃度フィールドを備える。
【0182】
環境識別情報フィールドには、処理装置本体21が設置された環境を識別する情報が記録されている。図14においては、処理装置本体21が設置された場所の温度を環境識別情報に使用する場合の例を示す。たとえば、温度と湿度との組み合わせ、磁場の強さまたは騒音のレベル等、処理装置本体21が設置された環境であって、卵子またはCOC等に影響を及ぼす可能性がある任意の情報を環境識別情報に使用できる。
【0183】
環境設定値フィールドの各サブフィールドには、制御部11が調整ユニット24を制御して設定および維持する処理装置本体21内部の環境に関する設定値が記録されている。図14に示す環境設定値の各項目は例示であり、これに限定するものではない。環境識別情報DB141は、一つの環境識別情報について、一つのレコードを有する。環境識別情報DB141は、補助記憶装置14または制御装置10に接続された大容量記憶装置等に記憶される。
【0184】
図15は、環境設定値を入力する画面の例を示す説明図である。図15に示す画面は、たとえば表示部15に表示される。図1に示す画面には、環境識別情報欄51と、3個の環境設定値欄52と、決定ボタン53とが含まれている。ユーザは、環境識別情報欄51および環境設定値欄52の右側に表示された「+」および「-」のボタンを適宜操作して、環境識別情報および環境設定値を設定する。ユーザが決定ボタン53を選択した場合、制御部11は環境識別情報DB141に新規レコードを作成して、環境識別情報および環境設定値を記録する。
【0185】
環境設定値欄52は、環境設定値を受け付ける受付部の例示である。環境識別情報DB141は、環境設定値と環境識別情報とを対応付けて記憶する記憶部の例示である。
【0186】
制御部11は、筐体41の外側に取り付けられたセンサまたは処理装置本体21の近傍に配置された外部のセンサから環境識別情報を取得する。制御部11は、ユーザが入力部12を操作して入力した環境識別情報を取得してもよい。制御部11は、環境識別情報フィールドをキーとして環境識別情報DB141を検索し、取得した環境識別情報に最も近いレコードを抽出する。制御部11は、抽出したレコードに記録されている環境設定情報に基づいて、処理装置本体21内部の環境を制御する。
【0187】
本実施の形態によると、処理装置本体21が設置された場所の環境に合わせて、処理装置本体21内部の環境を設定する処理装置20を提供できる。
【0188】
なお、環境設定値には、培地の種類、培地の濃度、ピッキング針261の太さ、卵子またはCOC等を吸引する際の吸引圧力等、培養操作に関する条件が含まれていてもよい。
【0189】
環境識別情報の代わりに、または、環境識別情報とともに生殖補助医療に至った原因疾患の種類、卵子提供者の遺伝子情報、および精子提供者の遺伝子情報等の各種情報が、環境設定値と関連づけて用いられてもよい。
【0190】
今回開示された実施の形態はすべての点において例示であり、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は上記のように開示された意味ではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて定められ、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内において、すべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0191】
10 制御装置
10a 可搬型記憶媒体
11 制御部
12 入力部
13 主記憶装置
14 補助記憶装置
140 卵子情報DB
141 環境識別情報DB
142 プログラム
143 機械学習モデル(検出部)
144 卵子等追跡モジュール
145 生体検出モジュール
15 表示部
19 読取部
20 処理装置
21 処理装置本体
22 精子供給ピペット
23 洗浄液供給ピペット
24 調整ユニット
241 温度センサ
242 温度制御部
243 二酸化炭素濃度センサ
244 二酸化炭素濃度制御部
245 湿度センサ(センサ)
246 湿度制御部
247 センサ
25 下側移動機構(保持部、搬送部)
250 ディスポーザブルプレート
251 検卵ウェル
252 検卵後洗浄ウェル
253 体外受精ウェル
254 受精後洗浄ウェル
255 胚培養ウェル
256 マイクロ流体デバイス
256a 精液吐出部
256b マイクロ流路
256c 卵子吐出部
258 マーカ
259 グリッド線
26 上部ユニット
261 ピッキング針
262 吸入/吐出モジュール
263 上側移動機構(搬送部)
264 圧力発生機構
27 支持部
28 交換部
29 ミネラルオイル供給ピペット
30 遠沈管収容部
301 遠沈管
31 廃液容器
32 照明
33 調湿バット
34 下部ユニット
35 台座
36 精子調整部
41 筐体
42 カメラ
51 環境識別情報欄
52 環境設定値欄
53 決定ボタン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15