IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 共和レザー株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-抗ウイルス性ウレタン樹脂シート 図1
  • 特開-抗ウイルス性ウレタン樹脂シート 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108466
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】抗ウイルス性ウレタン樹脂シート
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/14 20060101AFI20230728BHJP
【FI】
D06N3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009606
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】390023009
【氏名又は名称】共和レザー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 晴貴
(72)【発明者】
【氏名】久保 賢治
【テーマコード(参考)】
4F055
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055BA13
4F055BA19
4F055CA13
4F055EA23
4F055FA15
(57)【要約】
【課題】良好な抗ウイルス性を有しつつ、耐擦過性、耐摩耗性及び意匠性に優れる抗ウイルス性ウレタン樹脂シートを提供する。
【解決手段】ウレタン樹脂を含む表皮層、及び、表皮層の一方の面上に設けられた抗ウイルス層、を備え、抗ウイルス層は、アルコキシシラン系4級アンモニウム塩と、溶剤系ウレタン樹脂バインダーと、シリコーン樹脂からなる添加剤と、艶消し剤と、を含有する抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン樹脂を含む表皮層、及び、
前記表皮層の一方の面上に設けられた抗ウイルス層、を備え、
前記抗ウイルス層は、アルコキシシラン系4級アンモニウム塩と、溶剤系ウレタン樹脂バインダーと、シリコーン樹脂からなる添加剤と、艶消し剤と、を含有する抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。
【請求項2】
合成皮革である請求項1に記載の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。
【請求項3】
前記抗ウイルス層は、抗ウイルス層の全固形分100質量部に対し、前記アルコキシシラン系4級アンモニウム塩を17質量部~26質量部含有する請求項1又は請求項2に記載の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。
【請求項4】
前記抗ウイルス層は、抗ウイルス層の全固形分100質量部に対し、前記シリコーン樹脂からなる添加剤を4質量部~6質量部含有する請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。
【請求項5】
前記抗ウイルス層は、抗ウイルス層の全固形分100質量部に対し、前記艶消し剤を11質量部~14質量部含有する請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。
【請求項6】
前記抗ウイルス層の厚みは、6.5μm~10.5μmである請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。
【請求項7】
前記抗ウイルス層は、アクリル樹脂バインダーをさらに含有する請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。
【請求項8】
前記艶消し剤は、無機フィラー及び有機フィラーからなる群より選択される、平均粒子径が2μm~12μmの粒子の少なくとも1種を含む請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。
【請求項9】
下記条件で耐擦過性試験を行った後、目視にて白化が確認されない請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。
-耐擦過性試験-
テーバー式スクラッチテスター(TABER INDUSTRISE社製)のターンテーブル上に、被検体である直径120mmの抗ウイルス性ウレタン樹脂シートを接着固定し、被検体の表面にタングステンカーバイド製のカッターの刃先を接触させ、加重1.96N、回転速度0.5回転/分にて、1回転させる。
【請求項10】
JIS Z 8741(1997年)に準拠して、方法3「60°鏡面光沢度測定方法」にて測定した表面グロス値が1.4未満である請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗ウイルス性ウレタン樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境衛生に対する意識の高まりに起因して、自動車内装部品、鉄道車輌及び航空機の内装部品、家具、靴、履物、鞄、建装用内外装部材、衣類表装材及び裏地、壁装材等に用いられる、耐久性に優れる合成皮革についても、抗ウイルス性を付与することが望まれている。
ウレタン樹脂シートとしては、例えば、合成樹脂表皮材の如き合成皮革への適用が検討されている。合成皮革は、最表面に天然皮革に類似した凹凸模様、即ち、絞(シボ)模様を有しており、微細な凹凸を有するマットな外観を要求されている。例えば、自動車内装品については、車輌の高級化に伴い、内装用の表皮材である合成皮革についても高級感を低下させず、抗ウイルス性を付与させることが重要になってきている。
【0003】
抗菌性等の機能性が付与された合成皮革を製造するために、機能性粒子含有層を備えてなる、合成皮革の表面層として適用される合成皮革製造用工程剥離シート及び合成皮革の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、抗ウイルス性を付与する機能性材料として、機能性第4級アンモニウムオルガノシラン組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2021-30683号公報
【特許文献2】特表2013-501742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、機能性粒子含有層に含まれる機能性粒子が主として抗菌性の金属粒子であるため、表面の外観が光沢を有するものに限定されること、最表面に応力が掛かった場合、金属粒子の脱落が懸念されること、等の問題がある。特許文献1には、例えば、車両用内装材に使用した場合等の耐擦過性、耐摩耗性等に対する着目はない。
特許文献2に記載の抗菌性粒子は、第4級アンモニウムオルガノシラン組成物を含有する結合剤により凝集した担体粒子を含む抗菌性顆粒であり、合成皮革等の最表層に用いた場合の耐擦過性、耐摩耗性等が十分ではないという問題がある。
【0006】
本発明のある実施形態の課題は、良好な抗ウイルス性を有しつつ、耐擦過性、耐摩耗性及び意匠性に優れる抗ウイルス性ウレタン樹脂シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するための手段は以下の実施形態を含む。
<1> ウレタン樹脂を含む表皮層、及び、上記表皮層の一方の面上に設けられた抗ウイルス層、を備え、上記抗ウイルス層は、アルコキシシラン系4級アンモニウム塩と、溶剤系ウレタン樹脂バインダーと、シリコーン樹脂からなる添加剤と、艶消し剤と、を含有する抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。
【0008】
<2> 合成皮革である<1>に記載の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。
<3> 上記抗ウイルス層は、抗ウイルス層の全固形分100質量部に対し、上記アルコキシシラン系4級アンモニウム塩を17質量部~26質量部含有する<1>又は<2>に記載の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。
【0009】
<4> 上記抗ウイルス層は、抗ウイルス層の全固形分100質量部に対し、上記シリコーン樹脂からなる添加剤を4質量部~6質量部含有する<1>~<3>のいずれか1つに記載の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。
<5> 上記抗ウイルス層は、抗ウイルス層の全固形分100質量部に対し、上記艶消し剤を11質量部~14質量部含有する<1>~<4>のいずれか1つに記載の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。
【0010】
<6> 上記抗ウイルス層の厚みは、6.5μm~10.5μmである<1>~<5>のいずれか1つに記載の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。
<7> 上記抗ウイルス層は、アクリル樹脂バインダーをさらに含有する<1>~<6>のいずれか1つに記載の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。
【0011】
<8> 上記艶消し剤は、無機フィラー及び有機フィラーからなる群より選択される、平均粒子径が2μm~12μmの粒子の少なくとも1種を含む<1>~<7>のいずれか1つに記載の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。
【0012】
<9> 下記条件で耐擦過性試験を行った後、目視にて白化が確認されない<1>~<8>のいずれか1つに記載の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。
-耐擦過性試験-
テーバー式スクラッチテスター(TABER INDUSTRISE社製)のターンテーブル上に、被検体である直径120mmの抗ウイルス性ウレタン樹脂シートを接着固定し、被検体の表面にタングステンカーバイド製のカッターの刃先を接触させ、加重1.96N、回転速度0.5回転/分(以下、rpm)にて、1回転させる。
<10> JIS Z 8741(1997年)に準拠して、方法3「60°鏡面光沢度測定方法」にて測定した表面グロス値が1.4未満である<1>~<9>のいずれか1つに記載の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート。
【発明の効果】
【0013】
本発明のある実施形態によれば、良好な抗ウイルス性を有しつつ、耐擦過性、及び耐摩耗性に優れる抗ウイルス性ウレタン樹脂シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示の抗ウイルス性ウレタン樹脂シートの一態様を示す概略断面図である。
図2】実施例11の抗ウイルス性ウレタン樹脂シートの層構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の抗ウイルス性ウレタン樹脂シートについて詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されない。
なお、本開示において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本開示において、段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0016】
本開示における「全固形分」とは、例えば、組成物に含まれる全成分のうち、溶媒を除いた成分の量を指す。
本開示における「樹脂を含む層」とは、「当該層の主成分である樹脂を含んで形成された層」を指す。即ち、本開示における「樹脂を含む層」は、樹脂のみを含む樹脂層、及び、主成分である樹脂に加え、可塑剤、着色剤、紫外線吸収剤等の任意成分をさらに含む樹脂組成物により形成された層の双方を包含する意味で用いられる。
なお、本開示における「主成分である樹脂」とは、当該成分が含まれる樹脂組成物の全量に対し、60質量%以上含有される樹脂を指す。
【0017】
<抗ウイルス性ウレタン樹脂シート>
本開示の抗ウイルス性ウレタン樹脂シートは、ウレタン樹脂を含む表皮層、及び、上記表皮層の一方の面上に設けられた抗ウイルス層、を備え、上記抗ウイルス層は、アルコキシシラン系4級アンモニウム塩と、溶剤系ウレタン樹脂バインダーと、シリコーン樹脂からなる添加剤と、艶消し剤とを含有する。
【0018】
本開示の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート(以下、「本開示の樹脂シート」と称することがある)について、図1を参照して説明する。図1は、本開示の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート10の層構成の一態様を示す概略断面図である。
図1に示す抗ウイルス性ウレタン樹脂シート10は、ウレタン樹脂を含む表皮層12、及び、上記表皮層12の一方の面上に設けられた抗ウイルス層14、を備える。図1に示す抗ウイルス性ウレタン樹脂シート10では、使用時に抗ウイルス性を示す抗ウイルス層14が最表面となるように用いることが好ましい。
【0019】
本開示の抗ウイルス性ウレタン樹脂シートは、そのまま、樹脂シートとして使用してもよく、合成皮革に適用してもよい。
本開示の樹脂シートを合成皮革へ適用する態様には特に制限はない。例えば、本開示の樹脂シートを基布の一方の面に接着層を介して接着して合成皮革としてもよく、基材層、発泡層、基布等の公知の層を備える樹脂積層体の表面に、表皮層として適用してもよい。
本開示の樹脂シートを、基布又は他の樹脂層と積層する際に、表面に凹凸を有する絞ロールを用い、絞ロールを本開示の樹脂シートの抗ウイルス層側に接するようにしてラミネートエンボス加工することにより、抗ウイルス層の表皮層側とは反対側の面に凹凸模様を形成することもできる。
合成皮革の表面に本開示の樹脂シートを適用することで、合成皮革の表面に抗ウイルス性を付与することができる。
【0020】
以下、本開示の樹脂シートについて、これを構成する材料とその製造方法とともに順次説明する。
【0021】
(1.表皮層)
本開示の樹脂シートにおける表皮層は、ウレタン樹脂を含有する。
-ウレタン樹脂-
表皮層に含まれるウレタン樹脂としては、シート状に成形加工することができれば、特に制限はない。ウレタン樹脂としては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物等が挙げられる。
なかでも、長期耐久性がより良好であるという観点から、ポリカーボネート系ポリウレタンが好ましい。長期耐久性が良好であることにより、本開示の樹脂シートは、自動車内装材等の用途に好適に用いることができ、自動車内装材に良好な抗ウイルス性を付与することができる。
ウレタン樹脂の好ましい物性の一例として、ウレタン樹脂を20℃の条件下で測定した100%モジュラス値が2MPa(2×10N/m)~40MPaであることが挙げられる。
ここで、100%モジュラス値とは、JIS K 6253(1997年)に準じて、20℃にて測定した硬さを示す値である。
100%モジュラス値が上記範囲にあることで、ウレタン樹脂を含む表皮層、延いては、上記表皮層を有する本開示の樹脂シートが好ましい伸縮特性を発現し易くなる。
【0022】
表皮層には、ウレタン樹脂を1種のみ含んでもよく、2種以上を含んでもよい。表皮層におけるウレタン樹脂の含有量は、表皮層の全固形分100質量部に対し、80質量部~100質量部とすることができ、85質量部~95質量部であることが好ましい。
【0023】
-その他の成分-
表皮層には、主成分であるウレタン樹脂に加え、本開示における効果を損なわない限りにおいて、所望により、公知の添加剤等の、その他の成分を含んでもよい。
表皮層が含み得るその他の成分としては、着色剤、加工助剤、可塑剤、充填剤等が挙げられる。表皮層が、ウレタン樹脂以外の、その他の成分を含む場合、その他の成分の含有量は、表皮層と上記抗ウイルス層との密着性を低下させない範囲で用いることが好ましい。
【0024】
-その他の成分:着色剤-
表皮層は着色剤を含むことができる。
表皮層が着色剤を含む場合の着色剤には特に制限はなく、染料、顔料等を適宜選択して使用することができる。
着色剤としては、チタン白(二酸化チタン)、亜鉛華、群青、コバルトブルー、弁柄、朱、黄鉛、チタン黄、カーボンブラック等の無機顔料、キナクリドン、パーマネントレッド4R、イソインドリノン、ハンザイエローA、フタロシアニンブルー、インダスレンブルーRS、アニリンブラック等の有機顔料又は染料、アルミニウム及び真鍮等金属の箔粉からなる群より選択される金属顔料、二酸化チタン被覆雲母及び塩基性炭酸鉛の箔粉からなる群より選択される真珠光沢(パール)顔料等が挙げられる。なかでも、耐候性及び耐久性に優れる着色剤である顔料が好ましい。
【0025】
表皮層が着色剤を含む場合、着色剤を1種のみ含んでもよく、調色等の目的で2種以上含んでもよい。
表皮層の形成に用いられる表皮層形成用組成物における着色剤の含有量には特に制限はなく、樹脂シートにおいて目的とする色相等に応じて、用いる着色剤の種類、含有量等を適宜選択すればよい。
表皮層の均一性の観点からは、着色剤の含有量は、表皮層形成用組成物の全固形分中に対し、20質量%以下であることが好ましい。
【0026】
-表皮層の厚み-
表皮層の厚みは、耐久性及び意匠性がより良好となるとの観点から、20μm~70μmの範囲であることが好ましく、20μm~50μmの範囲がより好ましい。
表皮層の厚み、本開示の樹脂シートにおける後述の抗ウイルス層、及び所望により設けられる他の層の厚みは、樹脂シートを面方向に垂直に切断した切断面を観察することで測定することができる。従って、本開示の樹脂シートにおける各層の膜厚は、乾燥後の膜厚を指す。
【0027】
-表皮層の形成方法-
表皮層の形成は、公知の製膜方法を適用して行うことができる。製膜方法としては、例えば、ウレタン樹脂を含む表皮層形成用組成物を、離型紙等の仮支持体上に塗布して形成する方法、表皮層形成用組成物を公知の膜形成方法、例えば、カレンダー法、押出し法、キャスティング法等でシート状に成形する方法等が挙げられる。
塗布方法としては、公知の塗布方法、例えば、ナイフコーター法、ブレードコーター法、ロールコート法、バーコーター法、カーテンコーター法、グラビアコーター法等を適用することができ、ナイフコーター法が好ましい。
【0028】
(2.抗ウイルス層)
本開示の樹脂シートにおける抗ウイルス層は、抗ウイルス性成分としてのアルコキシシラン系4級アンモニウム塩と、溶剤系ウレタン樹脂バインダーと、シリコーン樹脂からなる添加剤と、抗ウイルス層にマットな外観を付与する艶消し剤とを含有する。
【0029】
-アルコキシシラン系4級アンモニウム塩-
本開示の樹脂シートにおける抗ウイルス層は、抗ウイルス性成分として、アルコキシシラン系4級アンモニウム塩を含有する。
アルコキシシラン系4級アンモニウム塩は、抗ウイルス性を有し、吸着性が良好なアルキル基を有するアンモニウム基と、アルコキシシリル基とを有する化合物である。
アンモニウム基と反応して塩を形成するアニオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、フッ素イオン、ヨウ素イオン、アリールスルホニルイオン、アセチルイオン等が挙げられ、抗ウイルス性の観点から、塩素イオン、臭素イオン、アセチルイオンが好ましい。
アルコキシシリル基としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等が挙げられる。
アルコキシシリル基とアンモニウム塩との間は、炭素数2~5のアルキレン基で連結されていてもよい。
アルコキシシラン系4級アンモニウム塩の具体例としては、以下に示す化合物が挙げられるが、本開示のアルコキシシラン系4級アンモニウム塩は以下の具体例には、限定されない。
(CHO)Si(CH(CH1837Cl
(CHO)Si(CH(CH(C1021)Cl
(CHO)Si(CH(CH1837Br
(CHO)Si(CH(CH(C1021)Br
(CO)Si(CH(CH1837Cl
(CO)Si(CH(CHCHCl
【0030】
抗ウイルス層におけるアルコキシシラン系4級アンモニウム塩の含有量は、十分な抗ウイルス性を付与し易いとの観点から、抗ウイルス層の全固形分100質量部に対し、17質量部~26質量部であることが好ましく、18質量部~22質量部であることがより好ましい。
【0031】
-溶剤系ウレタン樹脂バインダー-
抗ウイルス層は、均一な層形成を達成するという観点から、バインダーとしての溶剤系ウレタン樹脂を含有する。
溶剤系ウレタン樹脂としては、有機溶剤に溶解可能なポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤系ポリウレタンが挙げられる。溶剤系ポリウレタンは1液系であっても、2液系であってもよい。
耐久性、耐加水分解性、耐熱劣化性等の観点から、ポリカーボネート系ポリウレタン、シリコーン変性ポリカーボネート系ポリウレタン等が好ましく、ポリカーボネート系ポリウレタンがより好ましい。
抗ウイルス層には、溶剤系ウレタン樹脂を1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
溶剤系ウレタン樹脂とは、25℃の雰囲気下、有機溶剤であるメチルエチルケトンに、10質量%以上溶解しうるウレタン樹脂を指す。
【0032】
抗ウイルス層は、バインダーとして、溶剤系ウレタン樹脂以外の熱可塑性樹脂(以下、他の樹脂と称する)を含有してもよい。抗ウイルス層に使用しうる他の樹脂としては、アクリル樹脂が挙げられ、上記溶剤系ウレタン樹脂との相溶性、透明性の観点から、アクリル樹脂が好ましい。バインダーとしてのアクリル樹脂としては、具体的には、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表されるメタクリル酸又はメタクリル酸エステルの重合体或いは共重合体、メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルとスチレンの共重合体等が挙げられる。
抗ウイルス層が、他の樹脂としてのアクリル樹脂を含む場合、アクリル樹脂を1種のみ含んでもよく、2種以上を含んでもよい。
抗ウイルス層が他の樹脂を含む場合のアクリル樹脂の含有量としては、バインダーとしての樹脂の総量100質量部に対し、15質量部以下であることが好ましい。
【0033】
抗ウイルス層における樹脂バインダーの含有量としては、抗ウイルス層の固形分100質量部に対して、54質量部~68質量部であることが好ましい。
【0034】
-シリコーン樹脂からなる添加剤-
抗ウイルス層は、シリコーン樹脂からなる添加剤(以下、特定添加剤と称することがある)を少なくとも1種含有する。
抗ウイルス層が、特定添加剤を含有することで、抗ウイルス層の耐擦過性及び耐摩耗性が良好となる。
シリコーン樹脂としては、公知のシリコーン樹脂及び変性シリコーン樹脂からなる群よりを適宜選択して用いることができる。シリコーン樹脂は、シロキサン構造単位を有する樹脂であればよく、シロキサン構造単位からなる単独重合体であってもよく、シロキサン構造単位とアクリル酸由来の構造単位との共重合体であってもよい。
変性シリコーン樹脂としては、ウレタン変性シリコーン樹脂、エステル変性シリコーン樹脂等を用いることができる。
【0035】
抗ウイルス層には、特定添加剤を1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
抗ウイルス層における特定添加剤の含有量としては、耐擦過性等がより向上するという観点からは、抗ウイルス層の固形分100質量部に対して、4質量部~6質量部であることが好ましく、5質量部~6質量部であることがより好ましい。
【0036】
-艶消し剤-
抗ウイルス層は、艶消し剤を含有する。抗ウイルス層が艶消し剤を含有することで、本開示の樹脂シートは、意匠性に優れる。ここで、意匠性とは、樹脂シートにおいて、表面の光沢が抑制され、マットな外観を有することを示す。
艶消し剤としては、無機フィラー及び有機フィラーからなる群より選択される、平均粒子径が2μm~12μmの粒子の少なくとも1種を含むことが好ましい。
艶消し剤の粒子径は、艶消し効果がより良好であるという観点から、平均粒子径が2μm~12μmの粒子が好ましく、平均粒子径が4μm~10μmの粒子がより好ましい。
艶消し剤粒子の平均粒子径は、堀場製作所製の自動粒径測定装置(型番:CAPA-300)を用い、分散媒を水とした光透過遠心沈殿法によりディスク回転速度3000rpmで測定し、容積基準のメディアン径を測定する方法により測定した値を用いている。
艶消し剤としての無機フィラーとしては、シリカ粒子、ガラスビーズ等が挙げられる。有機フィラーとしては、樹脂粒子、樹脂製ビーズ等が挙げられ、有機フィラーのより具体的な例としては、ウレタンビーズ、アクリルビーズ、コラーゲン粒子などが挙げられる。
艶消し剤は、透明な粒子であってもよく、着色された粒子であってもよい。
【0037】
抗ウイルス層には、艶消し剤を1種のみ含んでもよく、目的に応じて2種以上含んでもよい。
抗ウイルス層における艶消し剤の含有量としては、意匠性がより向上するという観点からは、抗ウイルス層の固形分100質量部に対して、11質量部~14質量部であることが好ましく、12質量部~13質量部であることがより好ましい。
【0038】
-その他の成分-
抗ウイルス層は、上記必須の成分以外に、目的に応じてその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、アルコキシシラン系4級アンモニウム塩以外の抗ウイルス剤、抗菌剤又は殺菌剤、着色剤等が挙げられる。
【0039】
-抗ウイルス層の厚み-
抗ウイルス性、耐擦過性、耐摩耗性、及び意匠性がより良好になるという観点から、抗ウイルス層の厚みは、6.5μm~10.5μmが好ましく、7μm~9μmがより好ましい。
抗ウイルス層の厚みは、既述の表皮層の厚みと同様にして測定することができる。
【0040】
-抗ウイルス層の形成方法-
本開示の樹脂シートにおいて、抗ウイルス層を形成する方法としては、上記抗ウイルス剤、樹脂バインダー、特定添加剤、艶消し剤、及び所望により含まれる他の成分を含有する抗ウイルス層形成用組成物を、既述の表皮層の一方の面に塗布し、乾燥する方法が挙げられる。塗布方法としては、公知の塗布方法を任意に適用すればよい。公知の塗布方法としては、ナイフコーター法、ブレードコーター法、ロールコート法、バーコーター法、カーテンコーター法、グラビアコーター法等が挙げられ、得られる層の均一性の観点から、ナイフコーター法、グラビアコーター法の一態様であるダイレクトグラビアコーター法、及びリバースグラビアコーター法が好ましく挙げられる。
塗布方法による抗ウイルス層形成用組成物の付与量は、抗ウイルス性、耐擦過性、耐摩耗性、及び意匠性がより良好になるという観点から、乾燥時の付与量として、7g/m~11g/mであることが好ましく、7.5g/m~9.5g/mであることがより好ましい。
【0041】
(3.本開示の樹脂シートの好ましい物性)
3-1.耐擦過性
本開示の樹脂シートは、そのまま樹脂シート、合成皮革等として用いてもよく、既存の合成皮革の表皮材として用いてもよい。抗ウイルス性を長期間保持するとの観点からは、本開示の樹脂シートは耐久性が良好であることが好ましい。
耐久性の目安としては、下記条件で耐擦過性試験を行った後、目視にて白化が確認されない耐擦過性を有することが好ましい。
試験は、常温(20℃)で行われる。なお、ここで、「白化」とは、試験片のカッターの刃先との接触面が摩擦により表面が粗面化され、目視で白く見えることを指す。
-耐擦過性試験-
テーバー式スクラッチテスター(TABER INDUSTRISE社製)のターンテーブル上に、被検体である直径120mmの抗ウイルス性ウレタン樹脂シートを接着固定し、被検体の表面にタングステンカーバイド製のカッターの刃先を接触させ、加重1.96N、回転速度0.5rpmにて、1回転させる。
【0042】
3-2.外観
本開示の樹脂シートは、光沢が抑えられたマットな外観を有することが好ましい。マットな外観としては、JIS Z 8741(1997年)に準拠して、方法3「60°鏡面光沢度測定方法」にて測定した表面グロス値が1.4未満であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましい。
60°鏡面光沢度測定方法により測定した表面グロス値が1.4未満であることで、本開示の樹脂シートを、例えば、合成皮革に適用した場合、表面にマットで、重厚な外観を与えることができる。
【0043】
本開示の樹脂シートは、上記構成としたため、良好な抗ウイルス性を有しつつ、耐擦過性、及び耐摩耗性に優れるため、抗ウイルス性を必要とする種々の用途に適用することができる。また、最表層である抗ウイルス層が、艶消し剤を適量含有しているため、樹脂シートはマットな外観を有し、意匠性に優れる。
【0044】
(4.その他の層)
本開示の樹脂シートは、上記表皮層及び抗ウイルス層に加え、樹脂シートの目的に応じてその他の層を有していてもよい。
その他の層としては、例えば、接着層、基布、樹脂発泡層、基材層、意匠層等が挙げられる。
【0045】
4-1.接着層
本開示の樹脂シートは、接着層を有していてもよい。
接着層は、表皮層と抗ウイルス層との積層体を、基布、基材層等の他の層に接着するために有用である。また、接着層により、本開示の樹脂シートを壁面等の硬質材料の表面に直接、接着することもできる。
【0046】
接着層は、接着性を有する樹脂により形成することができる。
接着層は、樹脂シートにおける表皮層の抗ウイルス層側とは反対側の面に、公知の接着剤を付与することで形成することができる。
樹脂シートに所望により設けられる接着層の形成に使用される接着剤としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択される。接着剤としては、例えば、ウレタン樹脂接着剤、ポリ塩化ビニル接着剤、ポリ塩化ビニリデン接着剤、スチレン樹脂接着剤等が好適である。
接着層は、接着剤としての樹脂を、表皮層の抗ウイルス層側とは反対側の面に塗布する方法により、形成することができる。塗布法は、既述の公知の塗布法を適宜、適用することができる。
接着層の厚さは、隣接する層間の接着性と樹脂シートの風合いの観点から、5μm~50μmの範囲であることが好ましく、10μm~50μmであることがより好ましい。
【0047】
4-2.基布
本開示の樹脂シートは、基布を有していてもよい。
基布を有することで、樹脂シートの強度が向上し、そのまま、合成皮革としても使用しうる。
基布としては、必要な強度と柔軟性を有し、ある程度の伸縮性を有すれば、特に制限はなく、織布、編布、不織布のいずれも使用することができる。
伸縮性の観点からは、編布が好ましく、公知の編製体である縦編み、経編み、ラッセル編み、パイル編み等を適宜用いることができる。
【0048】
基布を構成する繊維としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリアクリロニトリル繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維等の合成繊維、綿、麻等の天然繊維、レーヨン繊維等の再生繊維等を目的に応じて使用することができる。
基布を構成する繊維は、1種のみであっても、2種以上であってもよい。
例えば、基布を構成する繊維として、ポリウレタン繊維を併用することで基布の伸縮性がより向上する。また、ポリアミドの高強度繊維であるケブラー繊維を併用することで、基布の強度を向上させることができる。
【0049】
基布の厚みは、目的に応じて適宜選択できる。樹脂シートの強度と耐久性の観点からは、650μm~1200μmが好ましく、700μm~1100μmがより好ましい。
【0050】
4-3.発泡樹脂層
本開示の樹脂シートは、発泡樹脂層を有していてもよい。樹脂シートが発泡樹脂層を有することで、樹脂シートの可とう性、弾力性がより良好となる。
発泡樹脂層は、可とう性を有し、気泡を内在する樹脂層であれば特に制限はない。
発泡樹脂層に含まれる樹脂としては、以下に示す樹脂等が挙げられる。
ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン(PB)等のポリオレフィン、
ポリウレタン(PUR)、
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル。
上記樹脂は変性されていてもよく、架橋剤等により形成された架橋構造を有する樹脂であってもよい。
発泡樹脂層は、これらの樹脂に公知の方法により形成された気泡を内在させることで形成することができる。
発泡樹脂層は、熱可塑性樹脂を1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
樹脂シートが発泡樹脂層を有する場合の発泡樹脂層の厚みとしては、100μm~500μmが好ましい。
【0051】
4-4.基材層
本開示の樹脂シートは基材層を有してもよい。基材層を有することで、樹脂シートの厚みが増し、強度と感触がより良好となる。
基材層は、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。基材層に用い得る熱可塑性樹脂には特に制限はなく、隣接する層間の親和性、樹脂シートの延伸性等の諸条件を考慮して、公知の熱可塑性樹脂から適宜選択することができる。
基材層に使用しうる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、PP樹脂、PVC樹脂、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリウレタン(ウレタン樹脂)、ABS樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂等が挙げられる。
基材層は、公知の製膜方法で形成することができる。
基材層は、熱可塑性樹脂を1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
【0052】
4-5.意匠層
樹脂シートは、意匠層を有してもよい。
意匠層は樹脂シートに、さらに意匠性を付与する層であり、印刷により形成される印刷層であってもよく、着色剤を含む着色層であってもよく、これらを併用した層であってもよい。
意匠層は、既述の表皮層の、抗ウイルス層側の面又は抗ウイルス層側とは反対側の面に、所望により設けることができる。
【0053】
意匠層は、例えば、既述の表皮層の面上に印刷法により形成することができる。意匠層を形成するための印刷法としては、樹脂を含む印刷インクを用いて、公知の印刷法により形成する方法が挙げられる。樹脂を含む印刷インクとしては、クリアな印刷画像の形成が可能であるという観点から、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましい。
意匠層が印刷層である場合に、意匠層の形成に適用できる印刷方法には特に制限はなく、グラビヤ印刷(凹版印刷)、凸版印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷等、任意の印刷方法を適用することができる。印刷方法により形成された意匠層は、印刷インクの被接着領域を含む不連続層であってもよく、印刷インクからなる連続の均一層であってもよい。
【0054】
(5.樹脂シートの層構成)
本開示の樹脂シートは、図1に示すように、表皮層と、表皮層の片方の面に抗ウイルス層を備え、種々の用途に使用することができる。
また、任意の層である接着層を介して、基布に接着された、基布上に、接着層、表皮層及び抗ウイルス層をこの順で有する、図2に示す如き態様を取ることもできる。
図2は、任意の層としての基布と接着層とを備えた抗ウイルス性ウレタン樹脂シートの一態様を示す概略断面図である。
図2に示す抗ウイルス性ウレタン樹脂シート20は、基布16の片方の面に、接着層18を介して表皮層12と抗ウイルス層14とを備える。
図2に示す如き、基布を備える樹脂シートは、そのまま合成皮革として、自動車の内装材、建築物内装材、鞄、靴、着衣等に適用することができる。
【0055】
(6.樹脂シートの製造方法)
既述の本開示の樹脂シートの製造方法には特に制限はなく、公知の製造方法を適宜採用することができる。
以下に製造方法の一例を挙げるが、製造方法は以下に限定されない。
【0056】
本開示の樹脂シートの製造方法は、少なくともウレタン樹脂を含む表皮層形成用組成物を用いて、表皮層を形成する工程(工程A)、及び、得られた表皮層の一方の面に、アルコキシシラン系4級アンモニウム塩と、溶剤系ウレタン樹脂バインダーと、特定添加剤と、艶消し剤とを含有する抗ウイルス層形成用組成物を塗布して、抗ウイルス層を形成する工程(工程B)を含む。
樹脂シートの製造方法は、例えば、表皮層の抗ウイルス層側とは反対側の面に接着層を形成する工程(工程C)、工程Cで得られた接着層の、表皮層側とは反対側の面に基布を接着させる工程(工程D)等の任意の工程をさらに含むことができる。
【0057】
(工程A)
工程Aでは、ウレタン樹脂を含む表皮層を形成する。形成方法としては、例えば、ウレタン樹脂を含む表皮層形成用組成物を、離型紙等の仮支持体上に塗布し、乾燥して表皮層を形成する方法、ウレタン樹脂を含む表皮層形成用組成物を、公知の製膜方法を適用してシート状に成形する方法等が挙げられる。
塗布方法を適用する場合のウェット塗布量は、形成される表皮層の厚みに応じて決定されるが、例えば、120g/m~200g/mとすることができる。
工程Aは、ウレタン樹脂を含む表皮層形成用組成物を、離型紙等の仮支持体上に塗布した後、形成された表皮層形成用組成物層を乾燥する工程を含んでもよい。
乾燥は、熱風乾燥機、温風乾燥機等を用いて行うことができる。乾燥温度は80℃~120℃とすることができ、90℃~100℃が好ましい。乾燥時間は、上記温度条件であれば、1分間~3分間とすることができる。
形成される表皮層の厚みは、既述の如く乾燥後の膜厚で、5μm~200μmが好ましく、30μm~150μmがより好ましい。
乾燥後、好ましくは、40℃~50℃の温度条件で、24時間~48時間熟成した後、離型紙等の仮支持体を剥離して表皮層を得る。
【0058】
(工程B)
工程Bでは、工程Aで得た表皮層の片方の面上に、調製した抗ウイルス層形成用組成物を塗布し、抗ウイルス層形成用組成物層を得る。塗布は、公知の方法で行えばよく、例えば、ナイフコーター法等を適用することができる。
塗布方法を適用する場合のウェット塗布量は、形成される抗ウイルス層の厚みに応じて決定されるが、例えば、20g/m~50g/mとすることができる。
乾燥は、熱風乾燥機、温風乾燥機等を用いて行うことができる。乾燥温度は80℃~100℃とすることができ、80℃~90℃が好ましい。乾燥時間は、上記温度条件であれば、40秒間~2分間とすることができる。
形成される表皮層の厚みは、既述の如く乾燥後の膜厚で、5μm~200μmが好ましく、30μm~150μmがより好ましい。
【実施例0059】
以下、実施例を挙げて本開示の樹脂シートについて具体的に説明するが、本開示は以下の具体例に制限されず、種々の変型例が可能である。
【0060】
(抗ウイルス性ウレタン樹脂シートの製造)
〔実施例1〕
以下の処方に従い、成分1~5を混合し、表皮層形成用組成物を調製した。
表皮層形成用組成物の固形分は、約13質量%であった。
-表皮層形成用組成物-
1.1液型溶剤系ポリカーボネート系ウレタン樹脂
(溶剤系ウレタン樹脂:樹脂固形分20質量%) 100質量部
2.溶剤(ジメチルホルムアミド:DMF) 20質量部
3.溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテル:PGM) 15質量部
4.溶剤(イソプロピルアルコール:IPA) 5質量部
5.着色剤(カーボンブラック) 15質量部
【0061】
得られた表皮層形成用組成物を、ナイフコート塗工装置を用いて、準備した離型紙の面上に、ウェット塗布量が150g/mとなる量で塗布し、表皮層形成用組成物層を形成した。
形成された表皮層形成用組成物層を、熱風乾燥機を用いて100℃で2分間乾燥して、離型紙上に表皮層を形成した。形成した表皮層の乾燥後の膜厚は20μmであった。
乾燥後の表皮層を、さらに、50℃の温度条件で48時間熟成させた後、離型紙を剥離した。(工程A)
【0062】
以下の処方に従い、成分6~10を混合し、抗ウイルス層形成用組成物を調製した。
抗ウイルス層形成用組成物の固形分は、約30質量%であった。
-抗ウイルス層形成用組成物-
6.抗ウイルス剤溶液 20質量部
7.1液型ポリカーボネート系ウレタン樹脂
(溶剤系ウレタン樹脂:樹脂固形分18質量%) 100質量部
8.溶剤(MEK) 10質量部
9.特定添加剤(ウレタン変性シリコーン樹脂) 5質量部
10.艶消し剤(シリカ粒子:平均粒子径7μm) 12質量部
【0063】
抗ウイルス剤であるアルコキシシラン系4級アンモニウム塩としては、塩化トリメトキシシリルプロピルジメチルオクタデシルアンモニウムのメタノール溶液を用いた。
得られた抗ウイルス層形成用組成物の固形分100質量部に対するメトキシシラン系第4級アンモニウム塩の含有量は、20.6質量部であった。
【0064】
得られた抗ウイルス層形成用組成物を、工程Aで得た表皮層の一方の面に、グラビアコーターを用いて、ウェット塗布量30g/mとなる量で塗布し、表皮層の一方の面に抗ウイルス層形成用組成物層を形成した。
その後、熱風乾燥機を用いて90℃で1分間加熱し、表皮層の面上に厚み9μmの抗ウイルス層を形成し、実施例1の樹脂シートを得た。
【0065】
〔実施例2〕
実施例1において用いた抗ウイルス層形成用組成物において、成分6.の抗ウイルス剤溶液の配合量を20質量部から30質量部に変えた以外は、実施例1と同様にして、実施例2の樹脂シートを得た。
得られた抗ウイルス層形成用組成物の固形分100質量部に対するメトキシシラン系第4級アンモニウム塩の含有量は、25.7質量部であった。
【0066】
〔実施例3〕
実施例1において用いた抗ウイルス層形成用組成物において、成分6.の抗ウイルス剤溶液の配合量を20質量部から15質量部に変えた以外は、実施例1と同様にして、実施例3の樹脂シートを得た。
得られた抗ウイルス層形成用組成物の固形分100質量部に対するメトキシシラン系第4級アンモニウム塩の含有量は、17.8質量部であった。
【0067】
〔実施例4〕
実施例1において用いた抗ウイルス層形成用組成物において、成分9.の特定添加剤の配合量を5質量部から6質量部に変えた以外は、実施例1と同様にして、実施例4の樹脂シートを得た。
【0068】
〔実施例5〕
実施例1において用いた抗ウイルス層形成用組成物において、成分9.の特定添加剤の配合量を5質量部から4質量部に変えた以外は、実施例1と同様にして、実施例5の樹脂シートを得た。
【0069】
〔実施例6〕
実施例1において用いた抗ウイルス層形成用組成物において、成分10.の艶消し剤の配合量を12質量部から14質量部に変えた以外は、実施例1と同様にして、実施例6の樹脂シートを得た。
【0070】
〔実施例7〕
実施例1において用いた抗ウイルス層形成用組成物において、成分10.の艶消し剤の配合量を12質量部から11質量部に変えた以外は、実施例1と同様にして、実施例7の樹脂シートを得た。
【0071】
〔実施例8〕
実施例1において、抗ウイルス層形成用組成物のウェット塗布量を30g/mから36g/mに変えた以外は、実施例1と同様にして、実施例8の樹脂シートを得た。
【0072】
〔実施例9〕
実施例1において、抗ウイルス層形成用組成物のウェット塗布量を30g/mから23g/mに変えた以外は、実施例1と同様にして、実施例9の樹脂シートを得た。
【0073】
〔実施例10〕
実施例1において用いた、抗ウイルス層形成用組成物に、さらに、バインダーとしてフッ素変性アクリル樹脂を2質量部添加して得た抗ウイルス層形成用組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例10の樹脂シートを得た。
【0074】
〔実施例11〕
実施例1と同様にして、離型紙の面上に、表皮層形成用組成物層を形成し、乾燥した。
その後、下記工程C及び工程Dを行い、離型紙の面上に、表皮層、接着層及び基布の積層体を形成した。
(工程C)
下記成分11~13を混合し、接着層形成用組成物を得た。接着層形成用組成物における固形分濃度は、45質量%であった。
-接着層形成用組成物-
11.2液型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(樹脂固形分70質量%)
100質量部
12.溶剤(DMF) 50質量部
13.イソシアネート系架橋剤 6質量部
【0075】
離型紙上に形成された表皮層の面上に、接着層形成用組成物をウェット塗布量100g/mとなる量を塗布し、接着層形成用組成物層を形成した。熱風乾燥機を用いて120℃で2分間加熱し、厚み45μmの接着層を形成し、離型紙、表皮層及び接着層を有する積層体を得た。
【0076】
(工程D)
-基布貼合わせ-
工程Cで得た積層体の接着層側に、基布(ポリエステル製編布:厚み1100μm)を貼り合せてラミネートした。ラミネート時の加熱温度は130℃とした。
得られた基布と、接着層と表皮層との積層体を、実施例1と同様にして、熟成し、離型紙を剥離した。
離型紙が剥離された表皮層の接着層側とは反対側の面に、実施例1と同様にして、抗ウイルス層を形成し、基布上に、接着層と表皮層と抗ウイルス層とをこの順に有する実施例11の樹脂シートを得た。得られた樹脂シートの厚みは、1174μmであった。
【0077】
〔比較例1〕
実施例1において用いた抗ウイルス層形成用組成物において、成分6.の抗ウイルス剤溶液に含まれる抗ウイルス剤を、アルコキシシラン系4級アンモニウム塩に変えて、一価銅化合物ナノ粒子を30質量部配合した抗ウイルス層形成用組成物を用いて抗ウイルス層を形成した以外は、実施例1と同様にして比較例1の樹脂シートを得た。
ナノ粒子とは、平均粒子径が1nm~100nm以下の粒子を意味する。
【0078】
〔比較例2〕
実施例1において用いた抗ウイルス層形成用組成物において、成分7.のバインダーとしての溶剤系ウレタン樹脂に変えて、ポリ塩化ビニル(平均重合度1300)を100質量部配合した抗ウイルス層形成用組成物を用いて抗ウイルス層を形成した以外は、実施例1と同様にして比較例2の樹脂シートを得た。
【0079】
〔比較例3〕
実施例1において用いた抗ウイルス層形成用組成物において、成分9.の特定添加剤を含まない抗ウイルス層形成用組成物を用いて抗ウイルス層を形成した以外は、実施例1と同様にして比較例3の樹脂シートを得た。
【0080】
〔比較例4〕
実施例1において用いた抗ウイルス層形成用組成物において、成分10.の艶消し剤を含まない抗ウイルス層形成用組成物を用いて抗ウイルス層を形成した以外は、実施例1と同様にして比較例4の樹脂シートを得た。
【0081】
(樹脂シートの評価)
実施例、及び比較例で得られた抗ウイルス性ウレタン樹脂シートを以下の方法で評価した。結果を下記表1~表2に示す。
なお、表1~表2では、抗ウイルス剤を「メトキシシラン系第4級アンモニウム塩」と、1液型溶剤系ポリカーボネート系ウレタン樹脂を「ウレタン樹脂A」と、2液型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を「ウレタン樹脂B」と、それぞれ略記した。
【0082】
(1.抗ウイルス性)
樹脂シートに対し、ISO 21702に準拠して抗ウイルス活性値を測定した。
ウイルス株として、インフルエンザウイルス(H3N2)を用いた。
50mm角の抗ウイルス性ウレタン樹脂シート試験片に、ウイルス液0.4mlを接種した後、液不透過性の被覆フィルムを被せた。
ウイルス液接種後の試験片を、温度25±1℃、湿度90%RH以上の環境下で24時間静置した。
24時間静置した後、被覆フィルムを剥離し、試験片からウイルスを回収し、プラーク法にてウイルス感染価(抗ウイルス活性値)を測定し、以下の基準で評価した。
なお、ランクAが、抗ウイルス性が良好であり、問題のないレベルであると評価する。
-評価基準-
A:抗ウイルス活性値が2.0以上
B:抗ウイルス活性値が2.0未満
【0083】
(2.耐擦過性)
装置として、テーバー式スクラッチテスター(TABER INDUSTRISE社製)を用いた。
実施例、及び比較例の樹脂シートを直径120mmの大きさに裁断して試験片を作製し、試験片の中心部に15mm径の穴を開けた。
得られた試験片をテーバー式スクラッチテスターのターンテーブル上に接着固定し、試験片の表面にタングステンカーバイド製のカッターの刃先を接触させた。
試験片を回転させて15mmの長さに引っ掻くことで、耐擦過性を評価した。
荷重は1.96Nであり、ターンテーブルの回転速度:0.5rpmにて1回転させた。
試験後の各試験片を「正面と遮光」で目視により観察し、白化状態を評価した。評価は専門モニター10名で行い、以下の基準で評価した。
-評価基準-
A:モニター10名が、白化が認められないと評価した
B:モニターのうち1名以上が、白化がわずかに認められると評価した
C:モニターのうち1名以上が、白化が著しく認められると評価した
Aが、実用上問題のない評価レベルである。
なお、本評価において、「白化がわずかに認められる」と評価したモニターが1名以上いる場合でも、「白化が著しく認められる」と評価したモニターが1名以上いる場合には、Cランクと評価される。
【0084】
(3.耐摩耗性)
試験には、平面摩耗試験機(大栄科学精器製作所社製)を使用した。
実施例及び比較例の各樹脂シートを、幅:70mm、長さ:300mmに切断して試験片を作製した。
得られた試験片を平面摩耗試験機に固定し、綿布(6号帆布)をかぶせた摩擦子に荷重を掛けて試験片の表面を摩耗した。
荷重:9.8Nで、摩擦子を試験片の表面上にて60往復/分の速さで10000回往復摩耗した。
試験後の各試験片を目視により観察し、外観の損傷の有無を評価した。評価は専門モニター10名で行い、以下の基準で評価した。
-評価基準-
A:モニター10名が、外観の損傷は確認されなかったと評価した
B:モニターのうち1名以上が、外観のわずかな損傷が確認されたと評価した
C:モニターのうち1名以上が、外観の著しい損傷が確認されたと評価した
Aが、実用上問題のない評価レベルである。
なお、本評価において、「外観のわずかな損傷が確認された」と評価したモニターが1名以上いる場合でも、「外観の著しい損傷が確認された」と評価したモニターが1名以上いる場合には、Cランクと評価される。
【0085】
(4.意匠性)
JIS Z 8741 (1997)に準拠して、実施例及び比較例の各樹脂シートの、抗ウイルス層表面のグロス値(60°鏡面光沢)を測定した。測定装置はmicro-TRI-gloss(BYK社製)を用いた。
-評価基準-
A:グロス値が1.4未満
B:グロス値が1.4以上
Aが、実用上問題のない評価レベルである。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
表1~表2の結果より、実施例の樹脂シートは、抗ウイルス性が良好であり、耐擦過性及び耐摩耗性に優れ、且つ、光沢が抑えられた良好な意匠性を有することがわかる。
また、実施例1と実施例10との対比より、樹脂バインダーにウレタン樹脂に加え、アクリル樹脂を含んでいても、バインダーとして溶剤系のウレタン樹脂を含んでいれば、優れた効果を奏することが分かる。
他方、アルコキシシラン系4級アンモニウム塩以外の抗ウイルス剤を含む比較例1及びバインダー樹脂がポリ塩化ビニル系樹脂である比較例2の樹脂シートは、抗ウイルス性が問題のあるレベルであり、比較例1の樹脂シートは光沢があり、意匠性も実用上問題のあるレベルであった。また、特定添加剤を含まない抗ウイルス層を有する比較例3の樹脂シートは、耐擦過性及び耐摩耗性に劣っていた。
艶消し剤を含まない比較例4の樹脂シートは、各実施例に比較して耐擦過性及び耐摩耗性に劣り、さらに、外観に光沢があり、意匠性が劣っていた。
【符号の説明】
【0089】
10、20 抗ウイルス性ウレタン樹脂シート(樹脂シート)
12 表皮層
14 抗ウイルス層
16 基布
18 接着層
図1
図2