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特開2023-108472棟間衝突用発泡緩衝材及び棟間衝突緩衝構造
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  • 特開-棟間衝突用発泡緩衝材及び棟間衝突緩衝構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108472
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】棟間衝突用発泡緩衝材及び棟間衝突緩衝構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20230728BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20230728BHJP
   F16F 7/12 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
E04H9/02 351
F16F7/00 B
F16F7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009615
(22)【出願日】2022-01-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)公開内容 開催日 2021年1月28日 集会名 国立大学法人 筑波大学 令和2年度修士論文発表会 開催場所 国立大学法人 筑波大学 (2)公開内容 発行日 2021年5月26日 刊行物 一般社団法人日本計算工学会 第26回計算工学講演会論文集Vol.26 発行者 一般社団法人日本計算工学会 (3)公開内容 開催日 2021年5月27日 集会名 一般社団法人日本計算工学会 第26回計算工学講演会 開催場所 オンライン開催 (4)公開内容 ウェブサイトの掲載日 2021年12月11日 ウェブサイトのアドレス(Elsevier BVが運営するホームページ「ScienceDirect」) https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0141029621018095
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】磯部 大吾郎
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 知弘
(72)【発明者】
【氏名】中村 英輔
【テーマコード(参考)】
2E139
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB03
2E139AB13
2E139AC43
2E139AC80
2E139AD03
2E139AD04
2E139BA22
2E139BC08
2E139BD22
2E139BD33
2E139BD49
3J066AA23
3J066BA03
3J066BC03
3J066BD05
3J066BE08
(57)【要約】
【課題】隣接する建築物どうしの棟間衝突を緩衝する緩衝体とそれを用いる棟間衝突用の緩衝構造を提供する。
【解決手段】隣接する第1の建築物と第2の建築物との揺れによる棟間衝突を緩衝する棟間衝突用発泡緩衝材1は、発泡緩衝板2を備える。発泡緩衝板2は、少なくとも前記第1の建築物における前記第2の建築物との対向部位に設置される板状の発泡樹脂板材によって構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する第1の建築物と第2の建築物との揺れによる棟間衝突を緩衝する棟間衝突用発泡緩衝材であって、発泡緩衝板を備え、
前記発泡緩衝板は、少なくとも前記第1の建築物における前記第2の建築物との対向部位に設置される板状の発泡樹脂板材でなる、
棟間衝突用発泡緩衝材。
【請求項2】
さらに、前記棟間衝突用発泡緩衝材はバックアップ部材を備え、
前記バックアップ部材は、支持部材と固定具とを有し、
前記支持部材は、板状に形成されており、前記第1の建築物に固定する固定片部と、前記固定片部から前記対向部位に沿って伸長しており前記発泡緩衝板を取付ける支持片部とを有し、
前記固定具は、前記発泡緩衝板を前記支持片部に対して取付けるものである、
請求項1記載の棟間衝突用発泡緩衝材。
【請求項3】
前記固定具は、前記支持片部と係止する第1の係止部材と、前記発泡緩衝板と係止する第2の係止部材とを有しており、
前記発泡緩衝板は、前記第1の係止部材と前記第2の係止部材とで押圧状態で挟持することにより前記支持片部に全部又は一部を埋め込ませて取付け可能として構成されている、
請求項2記載の棟間衝突用発泡緩衝材。
【請求項4】
前記発泡緩衝板は、前記固定具を前記発泡緩衝板の板厚内に収容する取付孔を有する、
請求項2又は3記載の棟間衝突用発泡緩衝材。
【請求項5】
前記発泡緩衝板の天端は、前記第1の建築物に向けて下る水勾配を有する、
請求項1~4何れか1項記載の棟間衝突用発泡緩衝材。
【請求項6】
前記固定片部は、前記第1の建築物の屋根における外壁側に位置する立上がり部の天端に沿う形状である、
請求項2~4何れか1項記載の棟間衝突用発泡緩衝材。
【請求項7】
前記発泡緩衝板は、前記第1の建築物の屋根における外壁側に位置する立上がり部に設置したときに、前記立上がり部の天端に設置した笠木の外壁側部位と対向する笠木側突出部を有し、
前記笠木側突出部は、前記笠木の前記外壁側部位を受け入れる凹部を有する、
請求項1~6何れか1項記載の棟間衝突用発泡緩衝材。
【請求項8】
隣接する第1の建築物と第2の建築物との揺れによる棟間衝突を緩衝する棟間衝突緩衝構造であって、棟間衝突用発泡緩衝材を備え、
前記棟間衝突用発泡緩衝材は、前記第1の建築物における前記第2の建築物との対向部位に設置される板状の発泡緩衝板を有する、
棟間衝突緩衝構造。
【請求項9】
複数の前記発泡緩衝板を前記対向部位に横方向に並べて設置する、
請求項8記載の棟間衝突緩衝構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、棟間衝突用発泡緩衝材及び棟間衝突緩衝構造に関する。
【背景技術】
【0002】
市街地では隣接する高層ビルなどの建築物が、例えば1m以下の狭い間隔で立地していることがある。このように隣接する建築物が狭間隔で立地していると、地震の揺れによって棟間衝突を発生するおそれがある。棟間衝突が発生すると、建築物の外観のみならず、梁、柱、床などの外観から視認できない躯体や、室内に設置している什器などの非構造部材が、棟間衝突の衝撃によって損壊するおそれがあることから、被害を低減するために緩衝体を設置することが知られている。そのような緩衝体には、例えば減衰性を有するゴムでなる緩衝部材(特許文献1)やオイルダンパー(特許文献2)を用いるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平6-12664号公報
【特許文献2】特開平9-256676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように緩衝体としてゴムを用いる場合、衝突時の反発力が大きいため、却って緩衝体を設置した建築物が隣接する他の建築物に対して大きな衝突力を加えてしまうおそれがある。
【0005】
また、特許文献2のようにオイルダンパーなどのメカニカルダンパーを用いる場合には、それを建築物の外壁を貫通して構造強度の高い躯体に固定する大掛かりな工事が必要であり、またそれを既設建築物に後付けする場合には隣接する建築物との間隔が狭いと設置できないこともある。さらにオイルダンパーのようなメカニカルダンパーは、野晒しにされることから、定期的なメンテナンス作業が必要となる。
【0006】
そこで本開示は、新たな棟間衝突用の緩衝体とその緩衝体を用いる棟間衝突用の緩衝構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、隣接する第1の建築物と第2の建築物との揺れによる棟間衝突を緩衝する棟間衝突用発泡緩衝材であって、発泡緩衝板を備え、前記発泡緩衝板は、少なくとも前記第1の建築物における前記第2の建築物との対向部位に設置される板状の発泡樹脂板材でなる、棟間衝突用発泡緩衝材である。
【0008】
本開示の他の一態様は、隣接する第1の建築物と第2の建築物との揺れによる棟間衝突を緩衝する棟間衝突緩衝構造であって、棟間衝突用発泡緩衝材を備え、前記棟間衝突用発泡緩衝材は、前記第1の建築物における前記第2の建築物との対向部位に設置される板状の発泡緩衝板を有する、棟間衝突緩衝構造である。
【0009】
本開示の一態様によれば、棟間衝突時の衝撃を緩和することができ、また容易に施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態による棟間衝突用発泡緩衝材の分解斜視図である。
図2図2は、図1の棟間衝突用発泡緩衝材を建築物に設置した状態を示す説明図であり、図2Aは複数の建築物が隣接する状態を示す説明図、図2B図2Aの矢示2B方向から見た図、図2Aの矢示2C方向から見た説明図である。
図3図3は、図1の棟間衝突用発泡緩衝材を建築物の立上がり部に設置した状態を示す説明図である。
図4図4は、図3のIV部の部分拡大断面図である。
図5図5は、図4のV部の部分拡大断面図であり、図4Aは固定具の締結前を示す部分拡大断面図、図4Bは固定具の締結後を示す部分拡大断面図である。
図6図6は、図1の棟間衝突用発泡緩衝材の第1の変形例を示す断面図である。
図7図7は、図1の棟間衝突用発泡緩衝材の第2の変形例を示す断面図である。
図8図8は、シミュレーションで使用した建築物モデルの鳥観図である。
図9図9は、図8の建築物モデルの平面図である。
図10図10は、図8のEW方向の応答加速度を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の一態様を具体的に説明する。しかしながら、その説明は、本開示の範囲を限定することを意図するものではなく、例示的な実施形態を説明する記載として理解すべきものである。以下の説明は、特許請求の範囲を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが課題解決手段として必須であるとは限らない。
【0012】
以下の説明で「上」、「下」、「左」、「右」の方向を示す用語は、説明の便宜のために使用するものであり、使用方法、使用態様を示すものではない。本明細書及び特許請求の範囲に記載する「第1」、「第2」などの用語は、発明や実施形態の異なる構成要素を区別するための識別用語として使用するものであり、特定の順序や優劣などを示すものではない。
【0013】
以下の説明で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書及び特許請求の範囲に記載する一態様による構成要素は、単数形又は複数形であることを文脈上明確に記載しない限り、複数形も含むことが意図される。用語「及び/又は」は、関連する列挙された要素のうちの1つ以上のいずれか及び全ての考えられる組み合わせを指し、かつこれを含むことが意図される。本明細書及び特許請求の範囲に「含む」、「備える」、「有する」、「構成される」との用語が記載されている場合、その用語は特徴、動作、要素、ステップの存在を特定するものである。しかしながら、1つ以上の他の特徴、動作、要素、ステップ及び/又はそれらのグループの存在又は追加を除外するものではない用語として用いるものである。
【0014】
棟間衝突用発泡緩衝材の説明
【0015】
棟間衝突用発泡緩衝材1は、図1で示すように、発泡緩衝板2とバックアップ部材3とを備えて構成できる。バックアップ部材3は、支持部材4(第1の支持部材4a1、4a2、第2の支持部材4b1、4b2)と、固定具5と、設置部材6とを備えて構成できる。
【0016】
発泡緩衝板2の説明:
発泡緩衝板2は、発泡樹脂板材により構成できる。発泡樹脂板材は、ブロック状の発泡樹脂材を複数枚の板状に切断することで得られる。発泡樹脂板材をなす発泡合成樹脂としては、例えば、発泡ポリスチレン系樹脂、発泡ポリエチレン系樹脂や発泡ポリプロピレン系樹脂などの発泡オレフィン系樹脂、発泡ポリエチレンテレフタレート係樹脂や発泡ポリエチレンフラノエート系樹脂などの発泡ポリエステル系樹脂などがあげられる。発泡樹脂板材は、それらの発泡合成樹脂を原料とするビーズを発泡させた独立気泡構造体のEPSとして形成することができる。このような発泡緩衝板2とすることで、低密度で軽量な材料とすることができる。そして、棟間衝突用発泡緩衝材1の発泡緩衝板2が軽量であることにより、例えば既設建築物への施工が容易となる。特に高層建築物の場合に施工時の取扱いが容易となるため安全に設置することができる。また、発泡緩衝板2が軽量であることにより、仮に発泡緩衝板2が建築物から地上に落下した場合の危険性を低減することができる。
【0017】
発泡緩衝板2となる発泡樹脂板の発泡倍率は20倍以上100倍以下とすることができる。そして発泡倍率が高いほど低密度であり軽量化することができ、前述の利点を享受することができる。
【0018】
ここで上記発泡樹脂板の材料特性、特に応力-ひずみ関係に着目すると、初めに内部構造の破壊が起きずに内壁の曲げ変形が支配的となる「弾性領域」があり、次に内壁の座屈が発生して発泡体セルの破壊を伴いながら進行するために応力変化がなだらかになる「プラトー領域」、最後にほとんどの発泡体セルの内壁が座屈して原料そのものの圧縮特性に近い挙動を示す「緻密化領域」があることが知られている。棟間衝突用発泡緩衝材1は、このような発泡樹脂板の応力-ひずみによる材料の挙動、特にプラトー領域での挙動を衝撃の吸収に利用するものとしている。
【0019】
発泡緩衝板2の形状は、設置対象物とする建築物に応じて任意の形状とすることができる。特に発泡緩衝板2は、前述のように発泡樹脂板材であって発泡後の後加工が容易であるため、特に建築物の設置面に応じた形状にできる点で好適である。一例として、発泡緩衝板2は多角形とすることができ、図1で示す一実施形態では建築物の外観面と平行で外向きに露出する主表面2a及び建築物の外観面と対向する裏面2bが、ともに横長長方形の板面を有する形状として形成されている。発泡緩衝板2の大きさは、例えば一辺が0.1m以上、2m以下として構成できる。また、発泡緩衝板2の側面、即ち主表面2aと面方向が交差する右側面2c、左側面2d、天端2e、底面2fの奥行長さ(発泡樹脂板材の厚み)は50mm以上、500mm以下とすることができる。
【0020】
発泡緩衝板2には、取付孔2gを有するように構成できる。一実施形態として示す図1では複数(4つ)の取付孔2gを例示している。取付孔2gは、図1で示すように、後述する支持部材4の貫通孔(第2の貫通孔4a41、第3の貫通孔4b3)と整合する位置に形成されている。取付孔2gは、図5で拡大して示すように、座繰り部2g1と挿通孔2g2とを有する。座繰り部2g1の底面は、発泡緩衝板2の厚み方向の中間に位置する段でなる係止部2g3(第2の係止受け部)として形成されている。また、座繰り部4c1は、後述するナット部材5b(第2の係止部材)と皿ねじ5aの先端とを内側に収容可能な深さで形成されている。このため棟間衝突が発生した際に、建築物がナット部材5b等に直接接触することで大きな衝撃が発生することを抑制している。また、ナット部材5bと皿ねじ5aの先端とを主表面2aから突出させないことで、外観を損ねないものとしている。
【0021】
発泡緩衝板2は、表面を被覆する保護層(図示略)を有するように構成できる。保護層は、紫外線、風雨、異物に発泡樹脂板材が暴露により劣化するのを抑制するために設けることができ、具体的にはウレタン系塗料の硬化体でなる塗層を例示することができる。したがって、長期にわたって設置しても、メンテナンスの頻度を大幅に低減することができる。
【0022】
バックアップ部材3の説明:
バックアップ部材3は、支持部材4と、固定具5と、設置部材6とを備える。
【0023】
図1で示す一実施形態による支持部材4は、第1の支持部材4a1、4a2と、第2の支持部材4b1、4b2とを有するように構成できる。これらの支持部材4は、いずれも金属板材で構成されている。
【0024】
第1の支持部材4a1、4a2は、一例としてL字形の金属平板にて構成することができ、これは固定片部4a3と支持片部4a4とを有する。固定片部4a3は、図3図4の例示では建築物の立上がり部B1dの天端B1eに沿う短冊形の平板形状に形成されている。固定片部4a3には、第1の貫通孔4a31が形成されている。第1の貫通孔4a31には、設置部材6であるアンカーボルト6aが挿通される。
【0025】
支持片部4a4は、固定片部4a3の一端と連続して形成されており、図3図4の例示では建築物の立上がり部B1dの外面に沿う短冊形の平板形状に形成されている。支持片部4a4は、前述した発泡緩衝板2の高さと同じ長さを有するように形成されている。これにより発泡緩衝板2の全高にわたって発泡緩衝板2に衝突した衝撃を発泡緩衝板2の裏面2bの側で支持片部4a4が受けることができる。支持片部4a4には、第2の貫通孔4a41が形成されている。
【0026】
第2の支持部材4b1、4b2は、一例として短冊形の金属平板にて構成することができる。第2の支持部材4b1、4b2は、一対の第1の支持部材4a1、4a2に、はしご状に横方向に架設して配置される。そのために第2の支持部材4b1、4b2には、第2の貫通孔4a41が形成されており、ここには固定具5の皿ねじ5a(第1の係止部材)が挿通される。第2の貫通孔4a41における皿ねじ5aの挿通側は、皿ねじ5aの頭部と係止する漏斗状の傾斜面4a42(第1の係止受け部)が形成されている。
【0027】
棟間衝突用発泡緩衝材1の組立て:
次に、棟間衝突用発泡緩衝材1の組立てを説明する。
【0028】
図1で示すように、第1の支持部材4a1、4a2と第2の支持部材4b1、4b2とを、第2の貫通孔4a41と第3の貫通孔4b3とを位置合わせした状態として、固定具5の皿ねじ5aを挿通する。
【0029】
次に、皿ねじ5aを発泡緩衝板2の取付孔2gに挿通してナット部材5bと締結する。図5Aでは、締結し始めた状態を示している。この状態から皿ねじ5aを締結し続けると、皿ねじ5aの頭部5a1が第2の貫通孔4a41の傾斜面4a42(第1の係止受け部)に対して係止し、皿ねじ5aの先端側ではナット部材5bが取付孔2gの係止部2g3(第2の係止受け部)に対して係止することにより、皿ねじ5aとナット部材5bとの間に、第1の支持部材4a1、4a2と第2の支持部材4b1、4b2と係止部2g3とを挟持する構造が得られることとなる。換言すると、皿ねじ5aとナット部材5bとによって、第1の支持部材4a1、4a2及び第2の支持部材4b1、4b2と係止部2g3とが相互に押圧される押圧構造が形成される。
【0030】
そして、締結を進めると、図5Bで示すように、第2の支持部材4b1、4b2が発泡緩衝板2の裏面2bに食い込んで埋め込まれた状態を得ることができる。即ち、発泡緩衝板2には第2の支持部材4b1、4b2の埋込み部2b1が形成される。さらに、皿ねじ5aとナット部材5bとを締結させると、次に第1の支持部材4a1、4a2が裏面2bに食い込んで埋め込まれるような状態を得ることができる(図示略)。即ち、埋込み部2b1の深さが増して第1の支持部材4a1、4a2も埋め込まれる。このようにすることで裏面2bに対するバックアップ部材3の突出量を減らすことができ、立上がり部B1dの外面との間にできる隙間を減らすことができる。裏面2bに対するバックアップ部材3の突出量を減らすという点では、皿ねじ5aの頭部は第2の貫通孔4a41から突出せずに収めることができる。以上のように組立てることで、棟間衝突用発泡緩衝材1が得られる。
【0031】
棟間衝突用緩衝構造:
図2Aは、例えば市街地で見られるような高層建築物B1、B2、B3が隣接して立地する状態を示している。なお、本明細書及び特許請求の範囲でいう「建築物」との用語は、このような比較的高層の建築物を指しており、構築物をも含む概念として用いている。隣接する第1の建築物B1と第2の建築物B2との棟間間隔d1と、隣接する第2の建築物B2と第3の建築物B3との棟間間隔d2は、例えば1m以下となっている。このように隣接する建築物が狭間隔で立地していると、地震の揺れによって棟間衝突を発生するおそれがある。
【0032】
そこで地震による揺れによって互いに衝突するおそれがある建築物の衝突危険部位に、棟間衝突用発泡緩衝材1を設置することにより棟間衝突用緩衝構造を構成することができる。棟間衝突用発泡緩衝材1の第1の緩衝構造としては、例えば、図2Aで示す低層側の建築物(第1の建築物B1、第3の建築物B3)の最上部衝突危険部位B1a、B3aに設置することができる。この場合には、例えば図2Bで示すように複数の棟間衝突用発泡緩衝材1を横方向に並べて設置することができる。
【0033】
また、第2の緩衝構造としては、高層側の建築物(第2の建築物B2)における中間衝突危険部位B2aに設置することができる。図2Cには、第2の建築物B2の外壁を除いて梁B2bと柱B2cとを示す躯体の骨格構造を模式的に示している。中間衝突危険部位B2aとしては、梁B2bと柱B2cとの集合部位B2dに棟間衝突用発泡緩衝材1を設置することができる。集合部位B2dは構造強度が高いからである。
【0034】
さらに、第3の緩衝構造としては、それらの最上部衝突危険部位B1aと中間衝突危険部位B2aとの双方、最上部衝突危険部位B3aと中間衝突危険部位B2aとの双方に設置することができる。以下、より具体的な施工例について最上部衝突危険部位B1aを例示して説明する。
【0035】
棟間衝突用発泡緩衝材1の施工方法:
図3は、図2Aで示す最上部衝突危険部位B1aの構造を示す説明図である。第1の建築物B1の屋根部B1bにおける外壁B1cの側には立上がり部B1dが形成されている。この立上がり部B1dはパラペットであり、その天端B1eにアンカーボルト6aをナット部材6bによって棟間衝突用発泡緩衝材1を設置する。このとき棟間衝突用発泡緩衝材1の発泡緩衝板2とバックアップ部材3とを立上がり部B1dの外壁に付けるようにして設置し、隙間がある場合にはコーキングなどによりシーリングをしてもよい。なお、棟間衝突用発泡緩衝材1の取付孔2gもコーキングで内部を埋めるようにしてもよい。以上のようにして棟間衝突用発泡緩衝材1を設置することができる。
【0036】
効果:
以下、実施形態から把握可能な技術的構成と効果を例示して説明する。
【0037】
隣接する第1の建築物と第2の建築物との揺れによる棟間衝突を緩衝する棟間衝突用発泡緩衝材1であって、発泡緩衝板2を備え、前記発泡緩衝板2は、少なくとも前記第1の建築物における前記第2の建築物との対向部位に設置される板状の発泡樹脂板材でなる。また、隣接する第1の建築物と第2の建築物との揺れによる棟間衝突を緩衝する棟間衝突緩衝構造であって、棟間衝突用発泡緩衝材1を備え、前記棟間衝突用発泡緩衝材1は、前記第1の建築物における前記第2の建築物との対向部位に設置される板状の発泡緩衝板2を有する。これらによれば、棟間衝突時の衝撃を緩和することができる。また、新築建築物であっても既存建築物であっても、容易に施工することができる。
【0038】
発泡緩衝板2が発泡樹脂板材でなるため、従来のオイルダンパーなどのメカニカルダンパーによる緩衝機構に見られるような、施工の手間と施工コストと施工日数とメンテナンスの頻度が多いという課題を、発泡緩衝板2とバックアップ部材3とでなる簡易な構成によって解決し、それらを低減することができる。また、従来のタイヤのような合成ゴムによる緩衝材に見られるような衝突時の反発力が大きいという課題を、発泡緩衝板2におけるプラトー領域での内部破壊を伴う衝撃吸収性により衝突時の反発力を小さくすることで解決し、衝撃による被害の発生を抑制できる。また、合成ゴムのような重量物に見られる課題を、軽量な発泡緩衝板2により解決し、施工時の取扱い性や落下時の危険性を低減できる。さらに、発泡緩衝板2が発泡樹脂板材であるため薄型化が可能であり、建築物の設置対象面からの突出量を少なくでき、棟間間隔が1m以下であるような狭小な現場であっても使用できる。さらにまた、発泡緩衝板2が発泡樹脂板材であるため、現場合わせで適宜形状や大きさを調整しての設置も容易である。
【0039】
棟間衝突用発泡緩衝材1はバックアップ部材3を備え、前記バックアップ部材3は、支持部材4と固定具5とを有する。したがって、バックアップ部材3が簡易で部品点数の少ない部材構成でありながら、発泡緩衝板2を確実に支持して、棟間衝突の緩衝効果を発揮することができる。また、前記支持部材4は、板状に形成されており、前記第1の建築物に固定する固定片部4a3と、前記固定片部4a3から前記対向部位に沿って伸長しており前記発泡緩衝板2を取付ける支持片部4a4とを有し、前記固定具5は、前記発泡緩衝板2を前記支持片部4a4に対して取付けるものである。したがって、簡易で部品点数の少ない部材構成として構成できる。さらに、バックアップ部材3は第1の支持部材4a1、4a2と第2の支持部材4b1、4b2とをはしご状に組み合わせたラダー構造体であるため変形に強く、風雨や異物や鳥などによる外力を受けても捩れたりすることなく設置当初の状態を維持することができる。
【0040】
前記固定具5は、前記支持片部4a4と係止する第1の係止部材(皿ねじ5a)と、前記発泡緩衝板2と係止する第2の係止部材(ナット部材5b)とを有しており、前記発泡緩衝板2は、前記第1の係止部材と前記第2の係止部材とで押圧状態で挟持することにより前記支持片部4a4に全部又は一部を埋め込ませて取付け可能として構成されている。このため、棟間衝突用発泡緩衝材1の設置面からの突出量を少なくできる。
【0041】
前記発泡緩衝板2は、前記固定具5を前記発泡緩衝板2の板厚内に収容する取付孔2gを有する。このため固定具5が発泡緩衝板2から突出しないようにして、棟間衝突用発泡緩衝材1と建築物の美観を損なわないようにすることができる。
【0042】
前記固定片部4a3は、前記第1の建築物の屋根部B1bにおける外壁B1cの側に位置する立上がり部B1dの天端B1eに沿う形状である。これによれば、固定片部4a3を天端B1eに沿わせて設置できるので、容易に施工できる。また、固定片部4a3は天端B1eに対してのみ設置する構成とすることもでき、これによれば外壁B1cに対する固定作業が不要となるので、容易に施工できる。
【0043】
変形例:
以下、前記実施形態の変形例を例示列挙して説明する。
【0044】
前記実施形態の発泡緩衝板2の天端2eは、図6で示すように、第1の建築物B1の屋根部B1bに向けて下る水勾配θを有する傾斜面として形成することができる。これによれば天端2eに付着した雨水が屋根部B1bに向けて流れるので、棟間衝突用発泡緩衝材1の構成部材の腐食などによる劣化を抑制できる。また、建築物の外に向けて雨水が流れないので、落下した雨水が飛来して通行人に降りかかるようなことが生じない。
【0045】
前記実施形態では、立上がり部B1dの天端B1eに設置したバックアップ部材3の固定片部4a3が露出する例を示したが、図7で示すように、天端B1eに設置した固定片部4a3を覆うカバー部材7を備えるように構成することもできる。カバー部材7は、笠木となるものであり、固定片部4a3を露出させずに覆うことによって、天端B1eの美観を高めることができる。
【0046】
このようなカバー部材7を備える棟間衝突用発泡緩衝材1にあっては、発泡緩衝板2がカバー部材7の側方に突出する突出部2h(笠木側突出部)を有するように構成できる。そして突出部2hには、カバー部材7の外壁側部位を受け入れる凹部2iを形成することができる。これによればカバー部材7の外壁側部位を覆うことができるので、カバー部材7と一体性があり良好な外観を呈する棟間衝突用発泡緩衝材1とすることができる。この場合、カバー部材7の外壁側部位と突出部2hとの間に隙間ができる場合にはコーキング材によるシーリングを行うことで内部への雨水の流入を防止できる。
【0047】
前記実施形態では、発泡緩衝板2として発泡樹脂板材を1枚構成とする例を示したが、1つのバックアップ部材3に対して複数枚に分割した発泡樹脂板材を用いることもできる。これによれば横方向又は縦方向に発泡緩衝板2の設置領域を長くすることができる。
【0048】
緩衝効果の確認:
棟間衝突用発泡緩衝材1による棟間衝突の緩衝効果についてシミュレーションを行うことで、その有用性を確認したため、以下説明する。なお、解析にはASI-Gauss法を用いた。
【0049】
本シミュレーションでは異なる固有周期を持つ建築物が隣接している状況を想定した。図8に本シミュレーションで用いた建築物モデルを示す。この建築物モデルは、4.0[m]の階高、EW方向及びNS方向ともに6.0[m]×3スパンの平面形状については共通とし、階数のみ異なる2棟の建築物をEW方向に並べたものである。この2棟は、8層の建築物モデル(以下「低層モデル」という。)と12層の建築物モデル(以下「高層モデル」という。)であり、各棟の高さはそれぞれ32[m]、48[m]とした。構造部材はすべて線形Timoshenkoはり要素を用いてモデル化を行った。
【0050】
柱部材は角形鋼管、梁部材はH形鋼とし、ともにSS400を用いた。材料定数を表1に、また低層モデルと高層モデルの柱及び梁の断面寸法を表2、表3にそれぞれ示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
この寸法は、各棟のベースシア係数を算出し、その場合における建築物に必要とされる水平体力を満たす断面形状によるものである。ベースシア係数は低層モデルで0.232、高層モデルで0.167である。梁および柱はともに4要素分割としている。
【0055】
床部材は、図9で示すように十字状のはり要素でモデル化を行った。厚さを300[mm]、幅をスパン長の半分と仮定して3000[mm]と設定する。材料は圧縮強度24[MPa]のコンクリートを用い、密度2.35×10-6[kg/mm]、弾性係数22.6[GPa]、ポアソン比は0.2とした。また、床荷重については、屋上階では360[kgf/m]、それ以外の階では500[kgf/m]と設定し、密度の次元に換算して床要素の密度に加えた。
【0056】
低層モデルと高層モデルをそれぞれ単独で構築したものを単体モデルとし、2棟をEW方向に並べて構築したものを隣接モデルとして使用した。各棟の総要素数、総節点数、床要素を除いた全柱・梁素数を表4に、単体モデルに対する自由振動解析によって求められる各棟の固有周期を表5にそれぞれ示す。
【0057】
【表4】
【0058】
【表5】
【0059】
また、以下の数式1で定義されるレイリー減衰を導入し、自由振動における減衰率を低層モデルで3.3[%]、高層モデルで2.0[%]とした。
【0060】
[数1] [C]=α[M]+β[K]
【0061】
数式1において[C]は全体減衰マトリクス、[M]は全体質量マトリクス、[K]は全体剛性マトリクスを表し、係数α=0.045、β=0.0とした。
【0062】
さらに隣接モデルには発泡緩衝板を設置しないモデル(以下「緩衝材未設置モデル」という。)と発泡緩衝板を低層モデルの壁面に設置したモデル(以下「緩衝材モデル」という。)の2種類を設定した。発泡緩衝板は2種類のはり要素を用いてモデル化を行った。
【0063】
上記発泡緩衝板の2種類のはり要素の一つ目は緩衝材の設置壁面に対して垂直に伸びている軸要素(以下、EPS要素)である。EPS要素は緩衝材の材料特性を表現するものである。もう一つは緩衝材の形状を表現している要素(以下、フレーム要素)である。フレーム要素は、他方の建築物との接触判定及び接触力の伝達に用いられ、緩衝材が存在する面をモデル上で表現するための仮想的要素である。したがって、フレーム要素の変形による接触の誤判定及びエネルギ吸収による接触力の過小評価を避ける必要がある。そこで、弾性体かつ硬い材料であるという仮定のもと、曲げ合成及びせん断剛性を確保するために、断面二次モーメントおよび部材断面積を本来の断面積から算出される値よりも大きな値に設定した。
【0064】
EPS要素は一端を設置面最上層の柱梁接合部に剛接し、他端を緩衝材面を表すフレーム部の中心に剛接する。
【0065】
隣接モデルにおける棟間距離は200[mm]とし、発泡緩衝板は低層モデルの最上層壁面に2個設置とした。発泡緩衝板の大きさは幅5,000[mm]、高さ4,000[mm]、厚さ100[mm]、発泡倍率33倍のポリスチレン系発泡成形体とした。
【0066】
入力地震波には1995年兵庫県南部地震時に神戸海洋気象台(現在の神戸地方気象台)で観測されたJMA神戸波源波を用いる。本シミュレーションではEW方向のみの1軸加振とし、JMA神戸波のEW方向加速波形の最大加速度は618[gal]、卓越周期は0.39[s]である。時間増分は1[ms]で、総ステップ数は40,961である。
【0067】
図10に緩衝材未設置モデルと緩衝材設置モデルの応答加速度を示す。緩衝材を設置した低層モデルの最大応答加速度はおおよそ2,400[gal]で、緩衝材未設置モデルに対し、およそ1/9と大きく抑制できていることを確認することができた。高層モデルの最大応答加速度でも、およそ1/9に抑制できていることを確認した。よって棟間衝突用発泡緩衝材が棟間衝突の衝撃吸収に有用であることが本シミュレーションにより明らかとなった。
【符号の説明】
【0068】
1 棟間衝突用発泡緩衝材
2 発泡緩衝板
2a 主表面
2b 裏面
2b1 埋込み部
2c 右側面
2d 左側面
2e 天端
2f 底面
2g 取付孔
2g1 座繰り部
2g2 挿通孔
2g3 係止部
2h 突出部(笠木側突出部)
2i 凹部
3 バックアップ部材
4 支持部材
4a1、4a2 第1の支持部材
4a3 固定片部
4a31 第1の貫通孔
4a4 支持片部
4a41 第2の貫通孔
4a42 傾斜面
4b1、4b2 第2の支持部材
4b3 第3の貫通孔
5 固定具
5a 皿ねじ(第1の係止部材)
5b ナット部材(第2の係止部材)
6 設置部材
6a アンカーボルト
6b ナット部材
7 カバー部材
B1 第1の建築物
B1a 最上部衝突危険部位
B1b 屋根部
B1c 外壁
B1d 立上がり部
B1e 天端
B2 第2の建築物
B2a 中間衝突危険部位
B2b 梁
B2c 柱
B2d 集合部位
B3 第3の建築物
B3a 最上部衝突危険部位
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10