(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108491
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】絶縁電線
(51)【国際特許分類】
H01B 7/02 20060101AFI20230728BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20230728BHJP
C09D 179/08 20060101ALI20230728BHJP
H01B 13/16 20060101ALI20230728BHJP
C08G 73/16 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
H01B7/02 A
C09D7/20
C09D179/08 D
H01B13/16 Z
H01B13/16 B
C08G73/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009642
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 唯我
(72)【発明者】
【氏名】引地 達也
(72)【発明者】
【氏名】木村 直貴
(72)【発明者】
【氏名】若原 大暉
【テーマコード(参考)】
4J038
4J043
5G309
5G325
【Fターム(参考)】
4J038DJ041
4J038JB13
4J038KA06
4J038MA14
4J038MA15
4J038NA14
4J038PB09
4J038PC02
4J043PA02
4J043PA19
4J043QB15
4J043QB31
4J043RA34
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA47
4J043SB01
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4J043SB03
4J043TA14
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4J043TA32
4J043TA71
4J043TB01
4J043UA131
4J043UA151
4J043UA152
4J043UA672
4J043UB121
4J043UB162
4J043UB401
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4J043YA06
4J043ZA05
4J043ZA12
4J043ZA43
4J043ZB03
4J043ZB48
5G309MA04
5G325KC05
(57)【要約】
【課題】絶縁被覆層にポリエステルイミドを含み、低誘電率であり、熱安定性に優れる絶縁被覆層を有する絶縁電線及びその製造方法を提供する。
【解決手段】導体と、前記導体を被覆する絶縁被覆層を有する絶縁電線であって、
前記絶縁被覆層が下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリエステルイミドを含む、絶縁電線。
(式(1)中、Xは上記式(X1)で表される2価の基及び上記式(X2)で表される2価の基からなる群より選ばれる少なくとも1つである。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体を被覆する絶縁被覆層を有する絶縁電線であって、
前記絶縁被覆層が下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリエステルイミドを含む、絶縁電線。
【化1】
(式(1)中、Xは上記式(X1)で表される2価の基及び上記式(X2)で表される2価の基からなる群より選ばれる少なくとも1つである。)
【請求項2】
前記式(1)で表される繰り返し単位が下記式(1-1)で表される繰り返し単位である、請求項1に記載の絶縁電線。
【化2】
【請求項3】
Xが式(X2)で表される2価の基を含む、請求項1又は2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
Xが式(X1)で表される2価の基及び式(X2)で表される2価の基を含む、請求項1~3のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【請求項5】
式(X1)で表される基と式(X2)で表される基のモル比[(X1)/(X2)]が、30/70~95/5である、請求項4に記載の絶縁電線。
【請求項6】
前記式(X1)で表される2価の基が下記式(X1-1)で表される2価の基である、請求項1~5のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【化3】
【請求項7】
前記式(X2)で表される2価の基が下記式(X2-1)で表される2価の基である、請求項1~6のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【化4】
【請求項8】
前記ポリエステルイミドが、実質的に脂肪族炭化水素基を含まない、請求項1~7のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【請求項9】
前記ポリエステルイミドのガラス転移温度が、220~280℃である、請求項1~8のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【請求項10】
前記ポリエステルイミドの空気中での10%熱重量減少温度が、470℃以上である、請求項1~9のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【請求項11】
前記ポリエステルイミドの1kHzでの比誘電率が、3.1以下である、請求項1~10のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1つに記載の絶縁電線の製造方法であって、
下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有するポリエステルアミド酸と有機溶媒を含む絶縁電線用塗料を、導体上に塗布し、焼き付けして絶縁被覆層を形成する、絶縁電線の製造方法。
【化5】
(式(2)中、Xは式(X1)で表される2価の基及び式(X2)で表される2価の基からなる群より選ばれる少なくとも1つである。)
【請求項13】
前記絶縁電線用塗料中の前記ポリエステルアミド酸の濃度が、8~50質量%である、請求項12に記載の絶縁電線の製造方法。
【請求項14】
前記絶縁電線用塗料の25℃における粘度が、1~50Pa・sである、請求項12又は13に記載の絶縁電線の製造方法。
【請求項15】
前記ポリエステルアミド酸の重量平均分子量が5,000~1,000,000である、請求項12~14のいずれか1つに記載の絶縁電線の製造方法。
【請求項16】
前記有機溶媒がN,N-ジメチルアセトアミドを含む、請求項12~15のいずれか1つに記載の絶縁電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁電線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モーターは、産業用途、家電民生用途など、様々な用途に用いられ、その用途に応じて、高出力、小型・軽量など、多様なモーターが開発、製造されている。最近では電気自動車等の普及に伴い、輸送用途の高性能モーターも開発されている。
このような状況において、近年、モーター用コイルを構成する絶縁電線にも高い性能が要求されている。
絶縁電線の絶縁層(被覆層)として、優れた絶縁性と耐久性を有する、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが用いられている。これら絶縁層(被覆層)に用いられる樹脂についても更なる改良が行われている。
たとえば、特許文献1には、耐部分放電性及び高温における加工性の改善を目的として、ピロメリット酸二無水物とビフェニルテトラカルボン酸二無水物を特定のモル比で含む酸成分、ジアミノジフェニルエーテル等のジアミン成分から得られる特定の貯蔵弾性率を有するポリイミドを絶縁層とする絶縁電線が開示されている。
また、ポリエステルイミド樹脂を用いた例として、特許文献2には、部分放電開始電圧を高めることを目的として、3つ以上の芳香環を有するビスフェノールからなるフェノール成分が含まれているエステル結合成分と、特に分子骨格中にイミド基を有するイミドジカルボン酸からなるカルボン酸成分を含む絶縁塗料を塗布、焼付けして形成された絶縁被膜を有する絶縁電線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-049377号公報
【特許文献2】特開2012-211241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリエステルイミドは、絶縁電線の絶縁層として優れているが、前記のように、近年のモーターの小型化、高出力化に対応するため、より高い絶縁性と熱に対する安定性が要求されている。
そのため、特に誘電率が低く、熱に対する安定性に優れる絶縁層で導線が被覆された絶縁電線が求められていた。
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、絶縁被覆層にポリエステルイミドを含み、低誘電率であり、熱安定性に優れる絶縁被覆層を有する絶縁電線及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特定の構造を有するポリエステルイミドを含む絶縁被覆層を有する絶縁電線が上記課題を解決できることを見出し、発明を完成させるに至った。
【0006】
即ち、本発明は、下記の[1]~[16]に関する。
[1]導体と、前記導体を被覆する絶縁被覆層を有する絶縁電線であって、
前記絶縁被覆層が下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリエステルイミドを含む、絶縁電線。
【化1】
(式(1)中、Xは上記式(X1)で表される2価の基及び上記式(X2)で表される2価の基からなる群より選ばれる少なくとも1つである。)
[2]前記式(1)で表される繰り返し単位が下記式(1-1)で表される繰り返し単位である、上記[1]に記載の絶縁電線。
【化2】
[3]Xが式(X2)で表される2価の基を含む、上記[1]又は[2]に記載の絶縁電線。
[4]Xが式(X1)で表される2価の基及び式(X2)で表される2価の基を含む、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の絶縁電線。
[5]式(X1)で表される基と式(X2)で表される基のモル比[(X1)/(X2)]が、30/70~95/5である、上記[4]に記載の絶縁電線。
[6]前記式(X1)で表される2価の基が下記式(X1-1)で表される2価の基である、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【化3】
[7]前記式(X2)で表される2価の基が下記式(X2-1)で表される2価の基である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【化4】
[8]前記ポリエステルイミドが、実質的に脂肪族炭化水素基を含まない、上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の絶縁電線。
[9]前記ポリエステルイミドのガラス転移温度が、220~280℃である、上記[1]~[8]のいずれか1つに記載の絶縁電線。
[10]前記ポリエステルイミドの空気中での10%熱重量減少温度が、470℃以上である、上記[1]~[9]のいずれか1つに記載の絶縁電線。
[11]前記ポリエステルイミドの1kHzでの比誘電率が、3.1以下である、上記[1]~[10]のいずれか1つに記載の絶縁電線。
[12]上記[1]~[11]のいずれか1つに記載の絶縁電線の製造方法であって、
下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有するポリエステルアミド酸と有機溶媒を含む絶縁電線用塗料を、導体上に塗布し、焼き付けして絶縁被覆層を形成する、絶縁電線の製造方法。
【化5】
(式(2)中、Xは式(X1)で表される2価の基及び式(X2)で表される2価の基からなる群より選ばれる少なくとも1つである。)
[13]前記絶縁電線用塗料中の前記ポリエステルアミド酸の濃度が、8~50質量%である、上記[12]に記載の絶縁電線の製造方法。
[14]前記絶縁電線用塗料の25℃における粘度が、1~50Pa・sである、上記[12]又は[13]に記載の絶縁電線の製造方法。
[15]前記ポリエステルアミド酸の重量平均分子量が5,000~1,000,000である、上記[12]~[14]のいずれか1つに記載の絶縁電線の製造方法。
[16]前記有機溶媒がN,N-ジメチルアセトアミドを含む、上記[12]~[15]のいずれか1つに記載の絶縁電線の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、絶縁被覆層にポリエステルイミドを含み、低誘電率であり、熱安定性に優れる絶縁被覆層を有する絶縁電線及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[絶縁電線]
本発明の絶縁電線は、導体と、前記導体を被覆する絶縁被覆層を有する絶縁電線であって、
前記絶縁被覆層が下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリエステルイミドを含む。
【化6】
(式(1)中、Xは上記式(X1)で表される2価の基及び上記式(X2)で表される2価の基からなる群より選ばれる少なくとも1つである。)
【0009】
本発明の絶縁電線が、低誘電率であり、熱安定性に優れる絶縁被覆層を有する理由は定かではないが、次のように考えられる。
本発明の絶縁電線は、絶縁被覆層に式(1)で表される繰り返し単位を有するポリエステルイミドを含む。該ポリエステルイミドは、連結基として分極率の高いイミド基の割合が少なく、代わりに分極率の低いエステル基を含むことから、得られる絶縁被覆層は、低誘電率となるものと考えられる。また、剛直なビフェニレン基を含むことから、熱安定性に優れるものと考えられる。
【0010】
<絶縁被覆層>
本発明の絶縁電線の前記絶縁被覆層は、導体を被覆するものであり、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリエステルイミドを含む。
【化7】
(式(1)中、Xは上記式(X1)で表される2価の基及び上記式(X2)で表される2価の基からなる群より選ばれる少なくとも1つである。)
【0011】
(一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリエステルイミド)
前述のように、前記絶縁被覆層は、前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリエステルイミドを含む。
前記式(1)におけるXは、上記式(X1)で表される2価の基及び上記式(X2)で表される2価の基からなる群より選ばれる少なくとも1つであり、好ましくは式(X2)で表される2価の基を含み、より好ましくは式(X1)で表される2価の基及び式(X2)で表される2価の基を含み、更に好ましくは式(X1)で表される2価の基及び式(X2)で表される2価の基である。
【0012】
Xが、式(X1)で表される2価の基及び式(X2)で表される2価の基を含む場合、式(X1)で表される基と式(X2)で表される基のモル比[(X1)/(X2)]は、好ましくは30/70~95/5であり、より好ましくは30/70~85/15であり、更に好ましくは40/60~85/15である。
【0013】
前記式(1)で表される繰り返し単位は、原料の入手性や熱安定性の観点から、好ましくは下記式(1-1)で表される繰り返し単位である。
【化8】
(式(1-1)中、Xは上記式(X1)で表される2価の基及び上記式(X2)で表される2価の基からなる群より選ばれる少なくとも1つである。)
【0014】
前記式(X1)で表される2価の基は、原料の入手性や熱安定性の観点から、好ましくは下記式(X1-1)で表される2価の基である。
【化9】
【0015】
前記式(X2)で表される2価の基は、原料の入手性や熱安定性の観点から、下記式(X2-1)で表される2価の基である。
【化10】
【0016】
前記ポリエステルイミドは、前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するが、式(1)で表される繰り返し単位の含有量は、ポリエステルイミドを構成する全繰り返し単位に対して、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上であり、更に好ましくは90モル%以上であり、より更に好ましくは95モル%以上であり、100モル%以下である。前記ポリエステルイミドは、前記一般式(1)で表される繰り返し単位のみからなることがより更に好ましい。
ここで、ポリエステルイミドを構成する繰り返し単位とは、1つのテトラカルボン酸二無水物と1つのジアミンがイミド構造を介して結合した単位をいう。
【0017】
前記ポリエステルイミドは、好ましくは実質的に脂肪族炭化水素基を含まない。
ここで、「実質的に脂肪族炭化水素基を含まない」とは、ポリエステルイミド中の脂肪族炭化水素基の含有量が、本発明の効果に影響を与えない含有量であるか、又はポリエステルイミド中に脂肪族炭化水素基を含まないことを意味し、具体的には、ポリエステルイミド中の脂肪族炭化水素基の含有量は、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下であり、更に好ましくは0.5質量%以下であり、より更に好ましくは0質量%である。ポリエステルイミドが脂肪族炭化水素基を含まないことがより更に好ましい。
前記脂肪族炭化水素基は、ポリエステルイミドの主鎖又は側鎖に存在する飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基及び脂環式炭化水素基である。具体的にはアルキル基、アルキレン基、アルキリデン基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基等である。
【0018】
前記ポリエステルイミドのガラス転移温度は、好ましくは200~300℃であり、より好ましくは220~285℃であり、更に好ましくは220~280℃であり、より更に好ましくは250~270℃である。前記ポリエステルイミドのガラス転移温度が前記範囲であると、耐熱性に優れ、絶縁被覆層の熱安定性が良好となる。ポリエステルイミドのガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて、ポリエステルイミドをフィルム状とした試料に対して引張モードにおける損失正接(tanδ)の温度依存性測定を行い、tanδがピークトップとなる温度をガラス転移温度として求めることができる。具体的には、実施例に記載した方法によって測定することができる。
【0019】
前記ポリエステルイミドの1kHzでの比誘電率は、好ましくは3.1以下であり、より好ましくは3.0以下であり、更に好ましくは2.9以下である。下限には制限はないが、一般的に2.0以上である。前記ポリエステルイミドの1kHzでの比誘電率が前記範囲であると、絶縁被覆層の誘電率が低く、絶縁性に優れるものとなる。ポリエステルイミドの比誘電率は、JIS C 2138に準拠する自動平衡ブリッジ法によって測定することができる。具体的には、実施例に記載した方法によって測定することができる。
【0020】
前記ポリエステルイミドの空気中での10%熱重量減少温度は、好ましくは470℃以上であり、より好ましくは490℃以上である。上限には制限はないが、一般的に800℃以下である。前記ポリエステルイミドの空気中での10%熱重量減少温度が前記範囲であると、耐熱性に優れ、絶縁被覆層の熱安定性が良好となる。ポリエステルイミドの空気中での10%熱重量減少温度は、TGA(熱重量分析)法によって測定することができる。具体的には、実施例に記載した方法によって測定することができる。
【0021】
<導体>
本発明の絶縁電線に用いられる導体は、電気伝導率の高い物質からなる線状物である。
導体に用いられる物質としては、好ましくは金属であり、より好ましくは銅及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つであり、更に好ましくは銅である。
導体は、好ましくは導線であり、より好ましくは金属線であり、更に好ましくは銅線及びアルミニウム線からなる群より選ばれる少なくとも1つであり、より更に好ましくは銅線である。
【0022】
以上のように本発明の絶縁電線は、絶縁被覆層にポリエステルイミドを含み、低誘電率であり、熱安定性に優れる絶縁被覆層を有する。このことから、本発明の絶縁電線は、特にモーター用コイルを構成する絶縁電線として好適である。
【0023】
[絶縁電線の製造方法]
本発明の絶縁電線は、前記の絶縁電線が得られる方法であれば、特に限定されないが、次の方法によって製造することが好ましい。
すなわち、本発明の絶縁電線の好適な製造方法は、前記の絶縁電線の製造方法であって、
下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有するポリエステルアミド酸と有機溶媒を含む絶縁電線用塗料を、導体上に塗布し、焼き付けして絶縁被覆層を形成する方法である。
【化11】
(式(2)中、Xは式(X1)で表される2価の基及び式(X2)で表される2価の基からなる群より選ばれる少なくとも1つである。)
【0024】
<絶縁電線用塗料>
前記製造方法に用いられる絶縁電線用塗料は、前記一般式(2)で表される繰り返し単位を有するポリエステルアミド酸と有機溶媒を含む。
【0025】
(ポリエステルアミド酸)
前述のように、前記絶縁電線用塗料は、前記一般式(2)で表される繰り返し単位を有するポリエステルアミド酸を含む。
前記式(2)におけるXは、上記式(X1)で表される2価の基及び上記式(X2)で表される2価の基からなる群より選ばれる少なくとも1つであり、好ましくは式(X2)で表される2価の基を含み、より好ましくは式(X1)で表される2価の基及び式(X2)で表される2価の基を含み、更に好ましくは式(X1)で表される2価の基及び式(X2)で表される2価の基である。
【0026】
Xが、式(X1)で表される2価の基及び式(X2)で表される2価の基を含む場合、式(X1)で表される基と式(X2)で表される基のモル比[(X1)/(X2)]は、好ましくは30/70~95/5であり、より好ましくは30/70~85/15であり、更に好ましくは40/60~85/15である。
【0027】
前記式(2)で表される繰り返し単位は、原料の入手性や焼き付け後に生成するポリエステルイミド(絶縁被覆層)の熱安定性の観点から、好ましくは下記式(2-1)で表される繰り返し単位である。
【化12】
(式(2-1)中、Xは式(X1)で表される2価の基及び式(X2)で表される2価の基からなる群より選ばれる少なくとも1つである。)
【0028】
前記式(X1)で表される2価の基は、原料の入手性や焼き付け後に生成するポリエステルイミド(絶縁被覆層)の熱安定性の観点から、好ましくは下記式(X1-1)で表される2価の基である。
【化13】
【0029】
前記式(X2)で表される2価の基は、原料の入手性や焼き付け後に生成するポリエステルイミド(絶縁被覆層)の熱安定性の観点から、下記式(X2-1)で表される2価の基である。
【化14】
【0030】
前記ポリエステルアミド酸は、前記一般式(2)で表される繰り返し単位を有するが、式(2)で表される繰り返し単位の含有量は、ポリエステルアミド酸を構成する全繰り返し単位に対して、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上であり、更に好ましくは90モル%以上であり、より更に好ましくは95モル%以上であり、100モル%以下である。前記ポリエステルアミド酸は、前記一般式(2)で表される繰り返し単位のみからなることがより更に好ましい。
ここで、ポリエステルアミド酸を構成する繰り返し単位とは、1つのテトラカルボン酸二無水物と1つのジアミンがアミド構造を介して結合した単位をいう。
【0031】
また、前記ポリエステルアミド酸は、好ましくは実質的に脂肪族炭化水素基を含まない。
ここで、「実質的に脂肪族炭化水素基を含まない」とは、ポリエステルアミド酸中の脂肪族炭化水素基の含有量が、本発明の効果に影響を与えない含有量であるか、又はポリエステルアミド酸中に脂肪族炭化水素基を含まないことを意味し、具体的には、ポリエステルアミド酸中の脂肪族炭化水素基の含有量は、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下であり、更に好ましくは0.5質量%以下であり、より更に好ましくは0質量%である。ポリエステルアミド酸が脂肪族炭化水素基を含まないことがより更に好ましい。
前記脂肪族炭化水素基は、ポリエステルアミド酸の主鎖又は側鎖に存在する飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基及び脂環式炭化水素基である。具体的にはアルキル基、アルキレン基、アルキリデン基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基等である。
【0032】
前記ポリエステルアミド酸の重量平均分子量は、好ましくは5,000~1,000,000であり、より好ましくは50,000~300,000である。重量平均分子量が上記の範囲であると絶縁電線用塗料を、絶縁電線の製造に適した濃度、粘度に調整することができ、更に焼き付けによって生成するポリエステルイミド(絶縁被覆層)が伸びなどの機械物性に優れるため好ましい。なお、ポリエステルアミド酸の重量平均分子量は、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー測定による標準ポリスチレン(PS)換算値によって求めることができる。具体的には、実施例に記載した方法によって測定することができる。
【0033】
(ポリエステルアミド酸の製造)
前記ポリエステルアミド酸は、以下に説明するエステル結合を有するテトラカルボン酸成分及びジアミン成分を反応させることにより製造することができる。
【0034】
ポリエステルアミド酸の製造に用いられるテトラカルボン酸成分としては、下記一般式(a1)で表される化合物が挙げられる。
下記一般式(a1)で表される化合物のなかでも、下記式(a11)で表される化合物が好ましい。
【化15】
式(a11)で表される化合物は、p-ビフェニレンビス(トリメリテート)二無水物である。テトラカルボン酸成分としてp-ビフェニレンビス(トリメリテート)二無水物を用いることで、低誘電率であり、熱安定性に優れ、更には伸びにも優れる絶縁被覆層を形成することができる。
【0035】
テトラカルボン酸成分中における式(a1)で表される化合物の比率は、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上であり、更に好ましくは90モル%以上であり、また、好ましくは100モル%以下である。テトラカルボン酸成分は式(a1)で表される化合物のみからなっていてもよい。
【0036】
テトラカルボン酸成分は、式(a1)で表される化合物以外のテトラカルボン酸二無水物を含んでもよい。そのようなテトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、式(a1)で表される化合物を除く芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。ただし、本発明においては、脂環式テトラカルボン酸二無水物及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物のいずれも実質的に用いないことが好ましく、芳香族テトラカルボン酸二無水物のみを用いることがより好ましい。
テトラカルボン酸成分に任意に含まれるテトラカルボン酸二無水物は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
テトラカルボン酸成分は、テトラカルボン酸二無水物に限られず、その誘導体であってもよい。当該誘導体としては、テトラカルボン酸二無水物に対応するテトラカルボン酸及び当該テトラカルボン酸のアルキルエステルが挙げられる。これらのなかでも、テトラカルボン酸二無水物が好ましい
【0037】
ポリエステルアミド酸の製造に用いられるジアミン成分としては、下記一般式(b1)で表される化合物及び下記一般式(b2)で表される化合物が挙げられる。
ポリエステルアミド酸の製造に用いられるジアミン成分としては、式(b1)で表される化合物及び式(b2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つを含み、好ましくは式(b2)で表される化合物を含み、より好ましくは式(b1)で表される化合物及び式(b2)で表される化合物を含む。
【0038】
ジアミン成分が、式(b1)で表される化合物及び式(b2)で表される化合物を含む場合、式(b1)で表される化合物及び式(b2)で表される化合物のモル比[(b1)/(b2)]は、好ましくは30/70~95/5であり、より好ましくは30/70~85/15であり、更に好ましくは40/60~85/15である。
下記一般式(b1)で表される化合物のなかでも、下記式(b11)で表される化合物が好ましい。また、下記一般式(b2)で表される化合物のなかでも、下記式(b21)で表される化合物が好ましい。
【化16】
式(b11)で表される化合物は、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)であり、式(b21)で表される化合物は、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)である。ジアミン成分としてODA又はBAPBを用いることで、低誘電率であり、熱安定性に優れ、更には伸びにも優れる絶縁被覆層を形成することができる。
【0039】
ジアミン成分中における式(b1)で表される化合物及び式(b2)で表される化合物の合計の比率は、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上であり、更に好ましくは90モル%以上であり、また、好ましくは100モル%以下である。ジアミン成分は式(b1)で表される化合物のみ、式(b2)で表される化合物のみ、又は式(b1)で表される化合物及び式(b2)で表される化合物の両方を含み、かつこれらのみからなっていてもよい。
【0040】
ジアミン成分は、式(b1)で表される化合物又は式(b2)で表される化合物以外のジアミンを含んでもよい。そのようなジアミンとしては、特に限定されないが、式(b1)で表される化合物又は式(b2)で表される化合物以外の芳香族ジアミン、脂環式ジアミン、及び脂肪族ジアミンが挙げられる。ただし、本発明においては、脂環式ジアミン及び脂肪族ジアミンのいずれも実質的に用いないことが好ましく、芳香族ジアミンのみを用いることがより好ましい。
ジアミン成分に任意に含まれるジアミンは、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
ジアミン成分は、ジアミンに限られず、その誘導体であってもよい。当該誘導体としては、ジアミンに対応するジイソシアネートが挙げられる。これらのなかでもジアミンが好ましい。
【0041】
以上の原料を用いて製造されたポリエステルアミド酸は、前記テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位及び前記ジアミンに由来する構成単位を有する。また、以上の原料を用いて製造されたポリエステルアミド酸を前駆体として製造されたポリエステルイミドは、前記テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位及び前記ジアミンに由来する構成単位を有する。すなわち、本発明のポリエステルアミド酸は、好ましくは前記テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位及び前記ジアミンに由来する構成単位を有する。また、本発明のポリエステルイミドは、好ましくは前記テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位及び前記ジアミンに由来する構成単位を有する。
【0042】
前記ポリエステルアミド酸は、上述の式(a1)で表される化合物を含むテトラカルボン酸成分と、式(b1)で表される化合物又は式(b2)で表される化合物を含むジアミン成分を反応させることにより製造することができる。なお、テトラカルボン酸成分に対するジアミン成分の量は0.9~1.1モルとすることが好ましい。
【0043】
本製造方法でテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させる方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
具体的な反応方法としては、テトラカルボン酸成分、ジアミン成分、溶剤、及び必要に応じて末端封止剤を反応器に仕込み、0~120℃、好ましくは5~80℃の範囲で1~72時間撹拌する方法等が挙げられる。
80℃以下で反応させる場合には、ポリエステルアミド酸の分子量が重合時の温度履歴に依存して変動することなく、また熱イミド化の進行も抑制できるため、ポリエステルアミド酸を安定して製造できる。
【0044】
末端封止剤としてはモノアミン類又はジカルボン酸類が好ましい。導入される末端封止剤の仕込み量としては、テトラカルボン酸成分1モルに対して0.0001~0.1モルが好ましく、0.001~0.06モルがより好ましい。モノアミン類末端封止剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ベンジルアミン、4-メチルベンジルアミン、4-エチルベンジルアミン、4-ドデシルベンジルアミン、3-メチルベンジルアミン、3-エチルベンジルアミン、アニリン、3-メチルアニリン、4-メチルアニリン、3-フェノキシアニリン、4-フェノキシアニリン、m-アニシジン、p-アニシジン等が挙げられる。これらのうち、アニリン、4-フェノキシアニリン、p-アニシジンが好ましい。ジカルボン酸類末端封止剤としては、ジカルボン酸類が好ましく、その一部を閉環していてもよい。例えば、フタル酸、無水フタル酸、4-クロロフタル酸、テトラフルオロフタル酸、2,3-ベンゾフェノンジカルボン酸、3,4-ベンゾフェノンジカルボン酸、シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸等が挙げられる。これらのうち、フタル酸、無水フタル酸がより好ましい。
【0045】
ポリエステルアミド酸の製造に用いられる溶剤は、生成するポリエステルアミド酸を溶解できるものであればよい。例えば、非プロトン性溶剤、フェノール系溶剤、エーテル系溶剤、カーボネート系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤等が挙げられ、好ましくは非プロトン性溶剤である。
【0046】
非プロトン性溶剤の具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタム、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素等のアミド系溶剤、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン系溶剤、ヘキサメチルホスホリックアミド、ヘキサメチルホスフィントリアミド等の含リン系アミド系溶剤、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸(2-メトキシ-1-メチルエチル)等のエステル系溶剤等が挙げられ、好ましくはアミド系又はラクトン系溶剤であり、より好ましくはアミド系溶剤であり、更に好ましくはN,N-ジメチルアセトアミドである。
【0047】
フェノール系溶剤の具体例としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,3-キシレノール、2,4-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、3,4-キシレノール、3,5-キシレノール等が挙げられる。
エーテル系溶剤の具体例としては、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、ビス〔2-(2-メトキシエトキシ)エチル〕エーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等が挙げられる。
カーボネート系溶剤の具体的な例としては、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。
上記溶剤の中でも、アミド系溶剤又はラクトン系溶剤が好ましく、アミド系溶剤がより好ましく、N,N-ジメチルアセトアミドが更に好ましい。
芳香族炭化水素系溶剤の具体的な例としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等が挙げられる。
上記の溶剤は単独で又は2種以上混合して用いてもよい。
【0048】
上記方法により、溶剤に溶解したポリエステルアミド酸溶液が得られる。
得られる溶液中のポリエステルアミド酸の濃度は、好ましくは1~80質量%であり、より好ましくは5~50質量%であり、更に好ましくは10~30質量%である。
【0049】
(絶縁電線用塗料の製造及び特性)
本発明の絶縁電線の製造に用いられる絶縁電線用塗料は、前述のポリエステルアミド酸及び有機溶媒を含み、該ポリエステルアミド酸は、有機溶媒に溶解している。
絶縁電線用塗料に含まれる有機溶媒は、ポリエステルアミド酸が溶解するものであればよく、特に限定されないが、ポリエステルアミド酸の製造に用いられる溶剤として上述した化合物が好ましい。
具体的には、絶縁電線用塗料に含まれる有機溶媒は、前記アミド系溶剤又は前記ラクトン系溶剤を含むことが好ましく、アミド系溶剤を含むことがより好ましく、N,N-ジメチルアセトアミドを含むことが更に好ましい。上記の溶剤は単独で又は2種以上混合して用いてもよい。
【0050】
前記絶縁電線用塗料には、更に脱水触媒を含有してもよい。
脱水触媒としては、無水酢酸、プロピオン酸無水物、n-酪酸無水物、安息香酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物等の酸無水物;ジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド化合物等を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
前記絶縁電線用塗料に含まれるポリエステルアミド酸は、溶媒溶解性を有しているため、室温で安定な高濃度の塗料とすることができる。
絶縁電線用塗料中の前記ポリエステルアミド酸の濃度は、好ましくは5~70質量%であり、より好ましくは8~50質量%であり、更に好ましくは10~30質量%である。
絶縁電線用塗料中のポリエステルアミド酸の濃度は、前述のポリエステルアミド酸の製造直後のポリエステルアミド酸溶液を有機溶媒で希釈して調整してもよいし、前記ポリエステルアミド酸溶液中のポリエステルアミド酸の濃度が、上記範囲であり、絶縁電線の製造に適する濃度であれば、ポリエステルアミド酸溶液をそのまま絶縁電線用塗料として用いてもよい。
前記絶縁電線用塗料の25℃における粘度は、好ましくは1~50Pa・sであり、より好ましくは5~30Pa・sである。塗料の粘度は、例えば、E型(コーンプレート型)粘度計を用いて測定することができる。具体的には、実施例に記載した方法によって測定することができる。
【0052】
また、前記絶縁電線用塗料は、得られる絶縁電線の要求特性を損なわない範囲で、無機フィラー、接着促進剤、剥離剤、難燃剤、紫外線安定剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、蛍光増白剤、架橋剤、重合開始剤、感光剤等各種添加剤を含んでもよい。
前記絶縁電線用塗料の製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。たとえば、上述の製造方法で得られたポリエステルアミド酸溶液に、必要に応じて更なる溶剤を混合して濃度を調整することによって得ることができる。
【0053】
[絶縁電線の製造方法]
本発明の絶縁電線の製造方法は、特に限定されないが、前述の絶縁電線用塗料を用いて製造することが好ましい。
具体的には、本発明の絶縁電線の製造方法は、前記絶縁電線の製造方法であって、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有するポリエステルアミド酸と有機溶媒を含む絶縁電線用塗料を、導体上に塗布し、焼き付けして絶縁被覆層を形成する、絶縁電線の製造方法である。
【化17】
(式(2)中、Xは式(X1)で表される2価の基及び式(X2)で表される2価の基からなる群より選ばれる少なくとも1つである。)
【0054】
このようにして得られる絶縁電線の絶縁被覆層は、前述のポリエステルアミド酸をイミド化して得られるものであるため、一般式(1)で表される繰り返し単位を含むポリイミドを含む。
【0055】
本製造方法によれば、前記絶縁電線用塗料を導体上に塗布し、焼き付けして絶縁被覆層を形成して、絶縁電線を得るが、前記塗布及び焼き付けを繰り返すことにより、適切な厚さの絶縁被覆層を形成することができる。
焼き付けの温度は、好ましくは180~600℃であり、より好ましくは200~600℃であり、更に好ましくは250~500℃である。焼き付けの時間は、好ましくは1分間~10時間であり、より好ましくは5分間~3時間であり、更に好ましくは5分間~1時間である。焼き付けは、温度が低い場合、時間が長い方が好ましく、温度が高い場合、時間が短い方が好ましい。
なお、焼き付けは絶縁電線用塗料に含まれる有機溶媒を除去し、ポリエステルアミド酸をイミド化し、導体上に絶縁被覆層を固定化するために行われるが、イミド化反応に熱イミド化でなく、化学イミド化を用いる場合にはより低温で焼き付けを行ってもよい。
以上のようにして得られた本発明の絶縁電線は、絶縁被覆層にポリエステルイミドを含み、低誘電率であり、熱安定性に優れる絶縁被覆層を有する。このことから、本発明の絶縁電線は、特にモーター用コイルを構成する絶縁電線として好適である。
【実施例0056】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0057】
[物性測定及び評価]
製造例及び比較製造例で得られた絶縁電線用塗料、ポリエステルアミド酸、並びに試験例及び比較試験例で得られたポリエステルイミドフィルムの各物性測定及び評価は以下に示す方法によって行った。
【0058】
(1)ポリエステルアミド酸の重量平均分子量
製造例及び比較製造例で得られたポリエステルアミド酸の重量平均分子量を次のようにして測定した。
前記ポリエステルアミド酸を含むワニスを、ポリエステルアミド酸濃度が0.2質量%となるように、下記に示す移動相溶媒で希釈して、測定用溶液とした。前記測定用溶液を用い、下記の条件でゲルろ過クロマトグラフィー測定を行い、ポリエステルアミド酸の重量平均分子量をポリスチレン換算値として求めた。
装置:CBM-20A、SIL-10ADvp、LC-10ADvp、DGU-12A、SPD-10Avp、CTO-10Avp、RID-10A、FRC-10A(いずれも株式会社島津製作所製)
カラム:Shodex GPC K-804
カラム温度:50℃
移動相:N-メチルピロリドン(LiBr(30mM),H3PO4(30mM))
移動相流量:0.7mL/分
分子量標準物質:ポリスチレン(Shodex M-6.8,63,955)
【0059】
(2)絶縁電線用塗料の粘度
製造例及び比較製造例で得られた絶縁電線用塗料の粘度を、下記粘度計を用いて、下記の条件で測定した。
装置:E型(コーンプレート型)粘度計 HAAKE RheoStress 6000(Thermo Scientific製)
測定温度:25℃
せん断速度:3s-1
【0060】
(3)ガラス転移温度(Tg)
試験例及び比較試験例で得られたフィルムを、真空下100℃で16時間乾燥し、10mm幅、30mm長の短冊状にカットし、測定用試料とした。
前記測定用試料を用い、動的粘弾性測定装置 DMA7100(株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて、下記の条件でガラス転移温度(Tg)の測定を行った。Tgは損失正接(tanδ)のピークトップにおける温度である。
測定モード:引張モード
昇温条件:30℃から320℃まで10℃/分で昇温、5分hold
周波数:1Hz
振幅:10μm
【0061】
(4)誘電率(比誘電率)
試験例及び比較試験例で得られたフィルムを60mm×60mmに切断し、真空下100℃で18時間乾燥し、試験片とした。
前記試験片を用い、プレシジョンLCRメータ E4980A(アジレント・テクノロジー社製)を用いて、下記の条件で誘電率(比誘電率)の測定を行った。なお、測定周波数は1kHzとした。
測定環境:23℃±2℃、50%RH±5%RH
電極寸法:主電極φ36mm、環状電極内径φ38mm
電極材質:導電性銀ペースト
【0062】
(5)熱重量減少温度(Td、熱安定性の評価)
実施例で得られた樹脂被覆層、又は試験例及び比較試験例で得られたフィルムを、凍結粉砕機を用いて粉末状とし、真空下100℃で16時間乾燥し、測定用試料とした。
測定用試料を用い、示差熱熱重量同時測定装置 STA7200(株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用い、下記の条件でTGA(熱重量分析)法により、10質量%熱重量減少温度(Td10%)の測定を行った。Td10%は測定用試料の質量が測定開始の質量に比べ、10%減少したときの温度とした。
熱重量減少温度が高いほど、熱安定性に優れる。なお、500℃まで昇温してもTd10%に達しなかった試料の測定値は、測定上限温度である490℃を超えるものとし、表1において「>490」とした。
昇温条件:30℃から500℃まで10℃/分で昇温、5分hold
測定環境:空気雰囲気下
【0063】
[原料]
製造例及び比較製造例にて使用した原料とその略号は下記の通りである。
<ポリエステルイミド、ポリエステルアミド酸の原料>
TA-BP:p-ビフェニレンビス(トリメリテート)二無水物(本州化学工業株式会社製BP-TME;式(a11)で表される化合物。純度98.6%。ポリエステルアミド酸の製造には真空下100℃で約2時間乾燥させたものを用いた。)
TA-BPZ:p-(シクロヘキシリデンビスフェニレン)ビス(トリメリテート)二無水物(本州化学工業株式会社製BPZ-TME;下記式で表される化合物。純度99.2%)
【化18】
TA-HMBP:p-(2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニレン)-ビス(トリメリテート)二無水物(本州化学工業株式会社製TMPBP-TME;下記式で表される化合物。純度99.5%)
【化19】
ODA:4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(東京化成工業株式会社製;式(b11)で表される化合物。純度99.4%)
BAPB:4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(東京化成工業株式会社製;式(b21)で表される化合物。純度100%)
BAPP:2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(東京化成工業株式会社製;下記式で表される化合物。純度99.4%)
【化20】
なお、下記比較試験例4では、PMDA/ODA:ポリ(ピロメリット酸二無水物―コ―4,4’-ジアミノジフェニルエーテル)(シグマアルドリッチ社製、N-メチルピロリドン溶液。15.7質量%)を用いた。その原料は、上記ODAと、PMDA(ピロメリット酸二無水物)である。
【0064】
<溶媒>
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
【0065】
[絶縁電線用塗料(ポリエステルアミド酸)の製造]
製造例1
窒素導入管、排気管、撹拌翼を備えたメカニカルスターラーを装着した300mLセパラブルフラスコに窒素を流通させ、窒素雰囲気下にした。
次に、前記セパラブルフラスコ内に、ODA 2.0g(10mmol)を入れた。その後、得られるポリエステルアミド酸の濃度が12.5質量%になるようにDMAcを加えた。
続いて、TA-BP 5.4g(10mmol)を加えた。撹拌しながら25℃で反応させ、粘度の上昇開始を確認したのち、得られるポリエステルアミド酸の濃度が10質量%となるようにDMAcを添加し、反応混合物とした。反応混合物を更に撹拌しながら25℃で20時間反応させ、ポリエステルアミド酸溶液(絶縁電線用塗料)を得た。
【0066】
製造例2及び比較製造例1~3
製造例1において、TA-BP又はODAを、表1に示す原料に変更した以外は、製造例1と同様にして、ポリエステルアミド酸溶液(絶縁電線用塗料)を得た。
【0067】
製造例3
窒素導入管、排気管、撹拌翼を備えたメカニカルスターラーを装着した300mLセパラブルフラスコに窒素を流通させ、窒素雰囲気下にした。
次に、前記セパラブルフラスコ内に、BAPB 1.8g(5mmol)を入れた。その後、得られるポリエステルアミド酸の濃度が12.5質量%になるようにDMAcを加えた。
続いて、TA-BP 5.4g(10mmol)を加えた。撹拌しながら25℃で反応させ、粘度の上昇開始を確認したのち、ODA 1.0g(5mmol)を入れた。その後、得られるポリエステルアミド酸の濃度が10質量%となるようにDMAcを添加し、反応混合物とした。反応混合物を更に撹拌しながら25℃で20時間反応させ、ポリエステルアミド酸溶液(絶縁電線用塗料)を得た。
【0068】
[絶縁電線の製造]
実施例1
製造例3で得られたポリエステルアミド酸溶液(絶縁電線用塗料)を1.6mmφの銅線(和気産業社製電気用軟銅線HW-312)に浸漬法(ディップ法)にて、絶縁被覆層の厚さが0.04~0.05mmになるように塗布し、熱風乾燥機で100℃2時間加熱して溶媒を除去した。その後、200℃で1時間加熱し、更に250℃で30分間加熱することで焼き付けを行い、樹脂で被覆された電線を作製した。テスター(マルチメーター)を用いて、前記電線の樹脂被覆層の電気伝導性を測定し、得られた電線が絶縁電線であることを確認した。
次に、前記絶縁電線の樹脂被覆層(絶縁被覆層)を剥がし、凍結粉砕機を用いて粉末状とし、真空下100℃で16時間乾燥し、10質量%熱重量減少温度(Td10%)の測定用試料とした。前述の方法によって該被覆層の10質量%熱重量減少温度(Td10%)の測定を行ったところ、500℃まで昇温してもTd10%に達せず、Td10%は490℃を超えるものであった。
このことから、実施例の絶縁電線の樹脂被覆層(絶縁被覆層)は、焼き付けによって、ポリエステルアミド酸の脱水イミド化が進行し、ポリエステルイミドが形成されており、熱安定性に優れることがわかる。また、本発明の絶縁電線は、熱安定性に優れる絶縁被覆層を有することがわかる。
【0069】
[絶縁被覆層の製造(モデル実験)]
本発明の絶縁電線が有する絶縁被覆層のモデル実験として、ポリエステルイミドからなるフィルムを下記の方法で調製し、前記評価を行った。
試験例1~3及び比較試験例1~3
(ポリエステルイミド膜(絶縁被覆層)の製造)
ガラス板を用意し、前記ポリエステルアミド酸溶液(絶縁電線用塗料)をフィルムの厚さが0.04~0.05mmになるように塗工機でガラス板上に塗布した。塗料を塗布したガラス板をホットプレート上に載せ、100℃で2時間加熱して溶媒を除去した。その後、熱風乾燥機を用い、200℃で1時間加熱し、更に250℃で30分間加熱することにより、ポリエステルアミド酸を熱イミド化させてポリエステルイミド膜(絶縁被覆層、厚さ0.04~0.05mm)を得た。
【0070】
比較試験例4
ガラス板を用意し、市販のポリエステルアミド酸溶液PMDA/ODA(絶縁電線用塗料)をフィルムの厚さが0.04~0.05mmになるように塗工機でガラス板上に塗布した。塗料を塗布したガラス板をホットプレート上に載せ、100℃で2時間加熱して溶媒を除去した。その後、熱風乾燥機を用い、200℃で1時間加熱し、更に250℃で30分間加熱することにより、ポリエステルアミド酸を熱イミド化させてポリエステルイミド膜(絶縁被覆層、厚さ0.04~0.05mm)を得た。
【0071】
表1に、前記製造例及び比較製造例で得られた絶縁電線用塗料(ポリエステルアミド酸)の物性、並びに前記試験例及び比較試験例で得られた絶縁被覆層(ポリエステルイミド)の物性、評価の結果を示す。
【0072】
【0073】
表1の結果から、本発明の絶縁電線は、絶縁被覆層に特定のポリエステルイミドを含むことで、低誘電率であり、熱安定性に優れる絶縁被覆層を有する絶縁電線であることがわかる。