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  • 特開-切削加工制御装置及び切削加工装置 図1
  • 特開-切削加工制御装置及び切削加工装置 図2
  • 特開-切削加工制御装置及び切削加工装置 図3
  • 特開-切削加工制御装置及び切削加工装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108500
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】切削加工制御装置及び切削加工装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/4093 20060101AFI20230728BHJP
   B23B 1/00 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
G05B19/4093 M
B23B1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009657
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】後藤 俊輔
【テーマコード(参考)】
3C045
3C269
【Fターム(参考)】
3C045AA01
3C045AA08
3C269AB02
3C269BB03
3C269CC01
3C269EF02
3C269EF20
3C269EF39
3C269MN08
(57)【要約】
【課題】被加工物に切屑が絡まることを抑制可能な切削加工制御装置及び切削加工装置を提供する。
【解決手段】切削加工制御装置10は、生成部33と、送り制御部34とを備える。生成部33は、加工方向におけるワーク22及び工具23の相対位置と、ワーク22が取り付けられた主軸21の回転位相とで表される加工軌跡T2を生成する。送り制御部34は、加工軌跡T2に基づいて、工具23を加工方向に移動させる。加工軌跡T2は、送り量が設定された第1位相期間R1と、逆送り量が設定された第2位相期間R2とを繰り返す。加工軌跡T2の周波数は、回転位相の進行に伴って徐々に高くなった後に徐々に低くなる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工方向における被加工物及び工具の相対位置と、前記被加工物及び前記工具のうち一方が取り付けられた主軸の回転位相とで表される加工軌跡を生成する生成部と、
前記加工軌跡に基づいて、前記被加工物及び前記工具のうち他方を前記加工方向に移動させる送り制御部と、
を備え、
前記加工軌跡は、前記加工方向の送り側への送り量が設定された第1位相期間と、前記加工方向の逆送り側への逆送り量が設定された第2位相期間とを繰り返し、
前記加工軌跡の周波数は、前記回転位相の進行に伴って徐々に高く又は低くなっている、
切削加工制御装置。
【請求項2】
前記加工軌跡は、正弦波によって表される、
請求項1に記載の切削加工制御装置。
【請求項3】
前記加工軌跡は、三角波によって表される、
請求項1に記載の切削加工制御装置。
【請求項4】
加工プログラムからプログラム軌跡を取得する取得部をさらに備え、
前記生成部は、前記プログラム軌跡における前記第1位相期間の送り量を大きくするとともに、前記プログラム軌跡の周波数を前記回転位相の進行に伴って徐々に高く又は低くすることによって前記加工軌跡を生成する、
請求項1乃至3のいずれかに記載の切削加工制御装置。
【請求項5】
前記加工軌跡の周波数は、前記回転位相の進行に伴って最低周波数と最高周波数との間を反復する、
請求項1乃至4のいずれかに記載の切削加工制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の切削加工制御装置と、
前記送り制御部から出力される送り指令値に従って、前記被加工物及び前記工具のうち前記他方を移動させる送り駆動部と、
を備える切削加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削加工制御装置及び切削加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、工具を用いて被加工物を切削加工する工作機械において、被加工物に対して工具を低周波数で加工方向に振動させることによって、切削により生じる切屑を分断する手法が開示されている。特許文献1に記載の手法によれば、被加工物に切屑が絡まることを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-190119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の手法では工具を低周波数で振動させているため、切屑を細かく分断するにも限界がある。
【0005】
工具を高周波数で振動させれば切屑を細かくできるが、工具を振動させる駆動モータを制御可能な限界周波数を超える周波数で駆動モータを駆動させると実質的に工具が振動しなくなってしまう。
【0006】
また、限界周波数を知ることができれば、駆動モータを限界周波数で駆動させることによって切屑を細かく分断できるが、限界周波数は駆動モータの諸元(性能)によって異なるため、あらゆる駆動モータの限界周波数を予め調べておくことは困難である。
【0007】
従って、工具を高周波数で振動させることによって切屑を細かくすることは容易ではない。
【0008】
本開示は、被加工物に切屑が絡まることを抑制可能な切削加工制御装置及び切削加工装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係る切削加工制御装置は、生成部と、送り制御部とを備える。生成部は、加工方向における被加工物及び工具の相対位置と、被加工物及び工具のうち一方が取り付けられた主軸の回転位相とで表される加工軌跡を生成する。送り制御部は、加工軌跡に基づいて、被加工物及び工具のうち他方を加工方向に移動させる。加工軌跡は、加工方向の送り側への送り量が設定された第1位相期間と、加工方向の逆送り側への逆送り量が設定された第2位相期間とを繰り返す。加工軌跡の周波数は、回転位相の進行に伴って徐々に高く又は低くなっている。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、被加工物に切屑が絡まることを抑制可能な切削加工制御装置及び切削加工装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る切削加工装置の構成を示す模式図
図2】プログラム軌跡及び加工軌跡の一例を示すグラフ
図3】切削加工制御方法の流れを示すフローチャート
図4】三角波の加工軌跡を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
(切削加工装置)
本実施形態に係る切削加工装置10の構成について図面を参照しながら説明する。図1は、切削加工装置10の構成を示す模式図である。
【0013】
切削加工装置10は、切削加工部20と、切削加工制御装置30とを備える。
【0014】
[切削加工部]
切削加工部20は、主軸21と、被加工物(以下、「ワーク」という。)22と、工具23と、主軸駆動部24と、送り駆動部25とを有する。本実施形態では、金属の丸棒をワーク22として、工具23によって丸棒の外径を所望の外径に切削加工する場合を例にとり説明する。
【0015】
主軸21は、回転軸Lを中心として回転する。ワーク22は、主軸21に取り付けられる。ワーク22は、主軸21とともに回転軸Lを中心として回転する。
【0016】
工具23は、ワーク22の切削加工に用いられる。工具23は、加工方向(Z軸方向)に移動する。これによって、工具23が、ワーク22に対して相対移動しながらワーク22を切削加工する。加工方向とは、いわゆる送り方向である。本実施形態において、加工方向は、回転軸Lと平行な方向である。
【0017】
工具23は、後述するように、送り側及び逆送り側に振動しながら加工方向に沿って移動する。送り側とは、加工方向においてワーク22の加工が進められる側であり、逆送り側とは、加工方向において送り側の反対側である。
【0018】
主軸駆動部24は、主軸21を回転駆動させる。主軸駆動部24としては、例えば駆動モータを用いることができる。
【0019】
送り駆動部25は、送り側及び逆送り側に工具23を振動させながら、工具23を加工方向に沿って移動させる。送り駆動部25は、限界周波数以下で工具23を振動させることができる。限界周波数は、送り駆動部25の諸元(性能)によって異なる。本実施形態において、送り駆動部25の限界周波数は未知であるものとする。送り駆動部25としては、例えば駆動モータを用いることができる。
【0020】
送り駆動部25は、回転軸Lに垂直な径方向(X軸方向)に工具23を適宜移動させることもできる。
【0021】
[切削加工制御装置]
切削加工制御装置30は、取得部31と、主軸制御部32と、生成部33と、送り制御部34とを有する。
【0022】
取得部31は、工具23によるワーク22の切削加工に用いられるNC(Numerical Control)プログラムから、主軸回転数Sとプログラム軌跡T1とを取得する。NCプログラムは、本開示に係る加工プログラムの一例である。主軸回転数Sとは、単位時間当りにおける主軸21の回転の回数である。プログラム軌跡T1とは、加工方向における工具23の予定移動軌跡である。プログラム軌跡T1は、NCプログラムに記述された送り指令値によって表される。
【0023】
主軸制御部32には、取得部31から主軸回転数Sが入力される。主軸制御部32は、受信した主軸回転数Sに基づいて、主軸駆動部24に回転指令を出力する。主軸駆動部24は、回転指令に応じて主軸21を回転駆動させる。
【0024】
生成部33には、取得部31からプログラム軌跡T1が入力される。生成部33は、プログラム軌跡T1を基準にして加工軌跡T2を生成する。加工軌跡T2とは、加工方向における工具23の実移動軌跡である。
【0025】
ここで、図2は、プログラム軌跡T1(破線)及び加工軌跡T2(実線)の一例を示すグラフである。図2において、横軸は主軸21の回転位相であり、縦軸は加工方向における工具23の送り位置である。送り位置とは、加工方向におけるワーク22及び工具23の相対位置である。
【0026】
図2に示すように、プログラム軌跡T1は、直線によって表される。プログラム軌跡T1では、回転位相の進行に伴って送り位置が直線的に増加する。
【0027】
図2に示すように、加工軌跡T2は、正弦波(sin波)によって表される。加工軌跡T2では、送り側への送り量が設定された第1位相期間R1と、逆送り側への逆送り量が設定された第2位相期間R2とが繰り返される。従って、加工軌跡T2では、回転位相の進行に伴って、送り位置の増加と減少とが交互に繰り返される。このように、加工方向において工具23が振動することによって、ワーク22に対して切削加工が断続的に実行されるため、切屑を分断することができる。
【0028】
さらに、図2に示すように、加工軌跡T2の周波数は、初期位相P0から第1位相P1までの第1区間Q1では回転位相の進行に伴って徐々に高くなっており、第1位相P1から第2位相P2までの第2区間Q2では回転位相の進行に伴って徐々に低くなっている。
【0029】
従って、加工軌跡T2の周波数は、回転位相の進行に伴って最低周波数(初期位相P0及び第2位相P2における周波数)と最高周波数(第1位相P1における周波数)との間を反復する。
【0030】
具体的には、図2に示すように、第1区間Q1では、或る第1位相期間R1の周波数は、その第1位相期間R1の前に位置する第2位相期間R2の周波数よりも高く、かつ、或る第2位相期間R2の周波数は、その第2位相期間R2の前に位置する第1位相期間R1の周波数よりも高い。一方、第2区間Q2では、或る第1位相期間R1の周波数は、その第1位相期間R1の前に位置する第2位相期間R2の周波数よりも低く、かつ、或る第2位相期間R2の周波数は、その第2位相期間R2の前に位置する第1位相期間R1の周波数よりも低い。
【0031】
加工軌跡T2の最高周波数は、工具23の振動によって切屑を分断する所望長さに基づいて決定することができる。切屑を分断する所望長さは、ワーク22のサイズや形状から求めることができる。なお、最高周波数は、入力装置(図示省略)などによって予め所定の数値が設定され、切削加工制御装置30の記憶部(図示省略)に記憶されている。
【0032】
なお、本実施形態では、送り駆動部25の限界周波数が未知であるため、送り駆動部25の限界周波数を基準として加工軌跡T2の最高周波数を決定することはできない。加工軌跡T2の最高周波数は、送り駆動部25の限界周波数より高くても低くてもよい。本実施形態では、加工軌跡T2の最高周波数が送り駆動部25の限界周波数より高い場合が想定されている。
【0033】
加工軌跡T2の最低周波数は、所望の周波数倍率に基づいて決定することができる。例えば、周波数倍率が0.5の奇数倍である場合、第n回目の回転時に工具23の送り位置が極大となるワーク22の周方向位置と、第n+1回目の回転時に工具23の送り位置が極小となるワーク22の周方向位置とが重なって切屑を確実に分断できるため、周波数倍率は0.5の奇数倍(例えば、0.5)であることが好ましい。
【0034】
このようにして第1区間Q1ではスイープ加振が実行されるため、加工軌跡T2の周波数が送り駆動部25の限界周波数を超えるまでは切屑を分断することができる。また、第1区間Q1に続く第2区間Q2ではスイープ減振が実行されるため、加工軌跡T2の周波数が送り駆動部25の限界周波数以下になった後は切屑を分断することができる。第1区間Q1及び第2区間Q2のいずれにおいても、加工軌跡T2の周波数が送り駆動部25の限界周波数付近では切屑を特に細かく分断することができる。
【0035】
よって、送り駆動部25の限界周波数を把握していなくとも、ワーク22に切屑が絡まることを抑制することができるとともに、或る程度は切屑を細かく分断することができる。
【0036】
生成部33は、プログラム軌跡T1における第1位相期間R1の送り量を大きくするとともに、プログラム軌跡T1の周波数を回転位相の進行に伴って徐々に高く又は低くすることによって加工軌跡T2を生成する。生成部33は、生成した加工軌跡T2を送り制御部34に出力する。
【0037】
送り制御部34には、生成部33から加工軌跡T2が入力される。送り制御部34は、主軸駆動部24から主軸21の回転位相Wを取得する。送り制御部34は、加工軌跡T2に基づいて、主軸21の回転位相に対応付けられた送り位置に工具23を移動させるよう、送り駆動部25に送り指令を出力する。送り駆動部25は、送り指令に応じて工具23を加工方向に移動させる。その結果、工具23は、加工軌跡T2に従って加工方向に振動しながら移動する。
【0038】
(切削加工制御方法)
次に、本実施形態に係る切削加工制御方法について、図面を参照しながら説明する。図3は、切削加工制御方法の流れを示すフローチャートである。
【0039】
ステップS1において、生成部33は、プログラム軌跡T1から加工軌跡T2を生成する。具体的には、生成部33は、図2に示したように、プログラム軌跡T1における第1位相期間R1の送り量を大きくするとともに、プログラム軌跡T1の周波数を回転位相の進行に伴って徐々に高く又は低くすることによって加工軌跡T2を生成する。
【0040】
ステップS2~S5において、送り制御部34は、加工軌跡T2に基づいて、主軸21の回転位相に対応付けられた送り位置に工具23を移動させる。
【0041】
まず、ステップS2において、送り制御部34は、回転位相の進行に伴って工具23の振動周波数を最低周波数から最高周波数に向けて徐々に高くする。
【0042】
ステップS3において、送り制御部34は、工具23の振動周波数が最高周波数に到達したか否かを判定する。工具23の振動周波数が最高周波数に到達していなければ処理はステップS2に戻り、工具23の振動周波数が最高周波数に到達していれば処理はステップS4に進む。
【0043】
ステップS4において、送り制御部34は、回転位相の進行に伴って工具23の振動周波数を最高周波数から最低周波数に向けて徐々に低くする。
【0044】
ステップS5において、送り制御部34は、工具23の振動周波数が最低周波数に到達したか否かを判定する。工具23の振動周波数が最低周波数に到達していなければ処理はステップS4に戻り、工具23の振動周波数が最低周波数に到達していれば処理はステップS2に戻る。
【0045】
(実施形態の変形例)
本開示は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本開示の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0046】
(変形例1)
上記実施形態において、加工軌跡T2は、正弦波(sin波)によって表されることとしたが、図4に示すような三角波によって表されてもよい。加工軌跡T2が正弦波によって表される場合には、工具23の加減速が緩やかであるため、工具23や送り駆動部25の消耗を抑制することができる。加工軌跡T2が三角波によって表される場合には、NCプログラムの行数を少なくすることができるため、NCプログラムを簡素化できるとともに、生成部33及び送り制御部34の処理負荷を軽減できる。
【0047】
(変形例2)
上記実施形態に係る加工軌跡T2では、スイープ加振が実行された後にスイープ減振が実行されることとしたが、スイープ減振の後にスイープ加振が実行されてもよい。また、加工軌跡T2では、スイープ加振及びスイープ減振のうち一方のみが実行されてもよい。また、スイープ加振及びスイープ減振の両方を繰り返し実行する場合、スイープ加振及びスイープ減振の繰り返し回数は特に限られない。
【0048】
(変形例3)
上記実施形態では、工具23が加工方向に移動することによって工具23がワーク22に対して相対移動することとしたが、ワーク22が加工方向に移動することによって工具23がワーク22に対して相対移動してもよい。例えば、切削加工の1つであるボーリング加工では、ワーク22が主軸21に取り付けられる形態と、工具23が主軸21に取り付けられる形態とがありうる。
【符号の説明】
【0049】
10 切削加工装置
20 切削加工部
21 主軸
22 被加工物(ワーク)
23 工具
24 主軸駆動部
25 送り駆動部
30 切削加工制御装置
31 取得部
32 主軸制御部
33 生成部
34 送り制御部
P0 初期位相
P1 第1位相
P2 第2位相
Q1 第1区間
Q2 第2区間
R1 第1位相期間
R2 第2位相期間
S 主軸回転数
T1 プログラム軌跡
T2 加工軌跡
図1
図2
図3
図4