(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108508
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】熱輸送媒体および熱マネジメントシステム
(51)【国際特許分類】
C09K 5/10 20060101AFI20230728BHJP
F01P 3/12 20060101ALI20230728BHJP
F01P 3/18 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
C09K5/10 E
F01P3/12
F01P3/18 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009665
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】517018101
【氏名又は名称】公立大学法人山陽小野田市立山口東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉村 仁志
(72)【発明者】
【氏名】中岡 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 睦明
(72)【発明者】
【氏名】瀧 浩志
(72)【発明者】
【氏名】結城 和久
(72)【発明者】
【氏名】海野 ▲徳▼幸
(72)【発明者】
【氏名】木伏 理沙子
(72)【発明者】
【氏名】浅野 比
(57)【要約】
【課題】熱輸送媒体からの析出物の生成を抑制する。
【解決手段】熱マネジメントシステム10は、インバータ2との間で授受する熱を輸送する熱輸送媒体12と、熱輸送媒体12が流れる回路14と、を備える。熱輸送媒体12は、水を含む液状の基材と、エチレンジアミン四酢酸と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物(2)の温度を調整する熱マネジメントシステムであって、
前記対象物との間で授受する熱を輸送する熱輸送媒体(12)と、
前記熱輸送媒体が流れる回路(14)または前記熱輸送媒体を収容する容器と、を備え、
前記熱輸送媒体は、水を含む液状の基材と、前記熱輸送媒体中に存在する陽イオンとキレート錯体を形成することで、前記熱輸送媒体からの析出物の生成を阻害する阻害剤と、を含む、熱マネジメントシステム。
【請求項2】
前記阻害剤は、エチレンジアミン四酢酸である、請求項1に記載の熱マネジメントシステム。
【請求項3】
熱を輸送する熱輸送媒体であって、
水を含む液状の基材と、
前記熱輸送媒体中に存在する陽イオンとキレート錯体を形成することで、前記熱輸送媒体からの析出物の生成を阻害する阻害剤と、を含む、熱輸送媒体。
【請求項4】
前記阻害剤は、エチレンジアミン四酢酸である、請求項3に記載の熱輸送媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱輸送媒体および熱マネジメントシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、対象物の温度を調整する熱マネジメントシステムが開示されている。この熱マネジメントシステムに用いられる熱輸送媒体は、水を含む液状の基材を含む。また、この熱輸送媒体は、イオン性防錆剤を含まない場合と、イオン性防錆剤を含む場合とがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、熱マネジメントシステムに用いられる熱輸送媒体が、水を含む液状の基材と、イオン性防錆剤としてのリン酸イオンと、カルシウムイオン等の金属イオンとを含む場合がある。金属イオンは、熱輸送媒体に用いる水に予め含まれていたり、熱輸送媒体に添加されたり、熱マネジメントシステムから熱輸送媒体に溶出したりするものである。
【0005】
熱マネジメントの対象物の温度が高いとき、対象物と熱輸送媒体との間の熱交換によって、対象物が冷却される。このとき、熱輸送媒体のうち熱輸送媒体と接して熱交換する対象物の熱交換部付近では、熱輸送媒体が対象物によって加熱されることで、熱輸送媒体の温度が高くなる。このため、リン酸イオンと金属イオンとの結合が促進され、リン酸カルシウム等のリン酸塩が析出物として生成する。析出物が熱交換部の表面を覆うと、析出物によって対象物と熱輸送媒体との間の熱交換が阻害され、熱輸送媒体の冷却性能が低下する。また、析出物が熱輸送媒体中に浮遊した状態で、熱輸送媒体が流路を流れると、流路が閉塞する恐れがある。
【0006】
一方、熱マネジメントの対象物の温度が低いとき、対象物と熱輸送媒体との間の熱交換によって、対象物が加熱される。このときにおいても、熱輸送媒体の温度が高いため、リン酸塩が析出物として析出する。析出物が接触部の表面を覆うと、析出部によって対象物と熱輸送媒体との間の熱交換が阻害され、熱輸送媒体の加熱性能が低下する。また、析出物が熱輸送媒体中に浮遊した状態で、熱輸送媒体が流路を流れると、流路が閉塞する恐れがある。
【0007】
なお、このような問題は、熱輸送媒体がリン酸イオンを含む場合に限られず、他のイオン性防錆剤としての陰イオンを含む場合においても同様に生じる。また、このような問題は、熱輸送媒体がイオン性防錆剤を含む場合に限られず、熱輸送媒体に含まれる陽イオンと結合して析出物を生成可能な陰イオンを、熱輸送媒体が含む場合においても同様に生じる。また、このような問題は、カルシウムイオン等の金属イオンに限らず、熱輸送媒体に含まれる陰イオンと結合して析出物を生成可能な他の陽イオンを、熱輸送媒体が含む場合においても生じる。
【0008】
本発明は上記点に鑑みて、熱輸送媒体からの析出物の生成を抑制することができる熱輸送媒体および熱マネジメントシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明によれば、
対象物(2)の温度を調整する熱マネジメントシステムは、
対象物との間で授受する熱を輸送する熱輸送媒体(12)と、
熱輸送媒体が流れる回路(14)または熱輸送媒体を収容する容器と、を備え、
熱輸送媒体は、水を含む液状の基材と、熱輸送媒体中に存在する陽イオンとキレート錯体を形成することで、熱輸送媒体からの析出物の生成を阻害する阻害剤と、を含む。
【0010】
また、請求項3に記載の発明によれば、
熱を輸送する熱輸送媒体は、
水を含む液状の基材と、
熱輸送媒体中に存在する陽イオンとキレート錯体を形成することで、熱輸送媒体からの析出物の生成を阻害する阻害剤と、を含む。
【0011】
これらによれば、熱輸送媒体に含まれる阻害剤が、析出物の生成の要因となる陽イオンと結合することで、熱輸送媒体からの析出物の生成を抑制することができる。
【0012】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態の熱マネジメントシステムの全体構成を示す模式図である。
【
図2】比較例1の熱輸送媒体および熱交換部を示す模式図である。
【
図3】第1実施形態の熱輸送媒体および熱交換部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0015】
(第1実施形態)
図1に示す本実施形態の熱マネジメントシステム10は、電動車両に搭載される。電動車両は、走行用電動モータから車両走行用の駆動力を得る。電動車両としては、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、電動二輪等が挙げられる。電動車両の車輪数や車両用途は限定されない。電動車両には、車載機器としての走行用電動モータ、電池およびインバータ2等が搭載されている。
【0016】
走行用電動モータは、電池から供給された電力を車両走行用の動力に変換するとともに、減速時に車両の動力を電力に変換するモータジェネレータである。走行用電動モータは、動力と電力との変換に伴い発熱する。
【0017】
電池は、走行用電動モータに電力を供給する車両走行用の電池である。電池は、車両減速時に走行用電動モータから供給される電力を充電する。電池は、車両停車時に外部電源(すなわち、商用電源)から供給される電力の充電が可能である。電池は、充放電に伴い発熱する。
【0018】
インバータ2は、電池から走行用電動モータへ供給される電力を直流から交流へ変換する電力変換装置である。また、インバータ2は、走行用電動モータから電池へ充電される電力を交流から直流へ変換する。インバータ2は、電力の変換に伴い発熱する。
【0019】
熱マネジメントシステム10は、熱マネジメントの対象物であるインバータ2の温度を調整する。熱マネジメントシステム10は、インバータ2と、熱輸送媒体12と、熱輸送媒体が流れる回路14とを備える。インバータ2は、熱輸送媒体12と接触する部分であって、熱輸送媒体12と熱交換する熱交換部16を有する。
【0020】
熱輸送媒体12は、インバータ2との間で授受する熱を輸送する。熱輸送媒体12は、水を含む液状の基材と、EDTAとを有する。
【0021】
基材は、熱輸送媒体12のベースとなる材料である。液状の基材とは、使用状態で液体の状態であることを意味する。基材は、水の他に凝固点降下剤を含む。水が用いられるのは、水は熱容量が大きく、安価であり、粘性が低いからである。熱輸送媒体12を製造するときに用いられる水は、純水、工業用水、イオン成分が多く含まれる硬水のいずれであってもよい。
【0022】
凝固点降下剤が用いられるのは、環境温度が氷点下であっても液体の状態を確保するためである。凝固点降下剤は、水に溶解し、水の凝固点を降下させる。凝固点降下剤としては、有機アルコール、例えば、アルキレングリコールまたはその誘導体が用いられる。アルキレングリコールとしては、例えば、モノエチレングリコール、モノプロピレングリコール、ポリグリコール、グリコールエーテル、グリセリンが単独または混合物として用いられる。凝固点降下剤としては、有機アルコールに限らず、無機塩等が用いられてもよい。
【0023】
EDTAは、熱輸送媒体12からの析出物の生成を阻害する阻害剤として、水を含む液状の基材に添加されている。EDTAは、エチレンジアミン四酢酸のことであり、ethylenediaminetetraacetic acidの略称である。EDTAは、下記の構造式(1)で示される。
【0024】
【0025】
EDTAは、EDTA単独の状態、または、後述するカルシウムイオンと結合したキレート錯体の状態で、熱輸送媒体12に存在する。
【0026】
また、熱輸送媒体12は、リン酸イオン(PO4
3-)を含む。リン酸イオンは、水を含む液状の基材に対して、イオン性防錆剤として添加されたものである。より詳細には、リン酸イオンは、イオン性防錆剤として添加されたリン酸塩から解離したものである。
【0027】
熱輸送媒体12は、上記した成分である、水、凝固点硬化剤、EDTAおよびリン酸塩等が混合されることで製造される。なお、熱輸送媒体12には、水酸カリウム等のpH調整剤が含まれてもよい。
【0028】
回路14には、インバータ2から流出した熱輸送媒体12がインバータに流入するように、熱輸送媒体12が循環して流れる。回路14は、放熱器18と、ポンプ20と、配管22とを含む。放熱器18は、熱輸送媒体12を冷却する冷却部である。放熱器18は、車両の外部の空気との熱交換によって、熱輸送媒体12を放熱させる熱交換器である。図示しない送風機の作動によって、放熱器18に空気が供給される。なお、放熱器18は、車両の外部の空気に限らず、冷凍サイクルの冷媒との熱交換によって、熱輸送媒体12を放熱させるものであってもよい。ポンプ20は、熱輸送媒体12を送る流体機械である。配管22は、熱輸送媒体12が流れる流路を形成する流路形成部材である。
【0029】
インバータ2と、放熱器18と、ポンプ20とは、配管22によって接続されている。これによって、熱輸送媒体12が循環して流れる回路14が形成されている。ポンプ20が作動することによって、インバータ2と放熱器18との間を熱輸送媒体12が循環する。インバータ2の温度が熱輸送媒体12よりも高いとき、熱輸送媒体12はインバータ2から熱を受ける。放熱器18で、熱輸送媒体12は熱を車両の外部の空気へ放出する。このように、インバータ2と熱輸送媒体12の間の熱交換によって、インバータ2が冷却される。
【0030】
次に、
図2に示す比較例1の熱輸送媒体12Aと比較しながら本実施形態の効果を説明する。比較例1の熱輸送媒体12Aは、EDTAが含まれていない点で、本実施形態の熱輸送媒体12と異なる。比較例1の熱輸送媒体12Aの他の構成は、本実施形態の熱輸送媒体12と同じである。
【0031】
図2に示すように、熱輸送媒体12Aにカルシウムイオン(Ca
2+)が含まれる場合がある。これは、カルシウムイオンが熱輸送媒体12Aの製造に用いる水(例えば、工業用水、硬水)に予め含まれている等の理由による。この場合において、熱輸送媒体12Aのうち熱交換部16の表面付近では、熱輸送媒体12Aがインバータ2の熱によって加熱されることで、熱輸送媒体12Aの温度が高くなる。このため、熱輸送媒体12Aに含まれるリン酸イオンとカルシウムイオンとの結合が促進され、リン酸塩であるリン酸カルシウムが析出物として生成する。
図2に示すように、この析出物30が熱交換部16の表面を覆うと、析出物30によって熱交換部16と熱輸送媒体12Aとの間の熱交換が阻害され、熱輸送媒体12Aの冷却性能が低下する。また、図示しないが、析出物が熱輸送媒体12A中に浮遊した状態で、熱輸送媒体12Aが回路14の流路を流れると、流路が閉塞する恐れがある。
【0032】
これに対して、本実施形態の熱輸送媒体12には、EDTAが含まれている。比較例1の熱輸送媒体12Aと同様に、熱輸送媒体12にカルシウムイオンが含まれる場合、EDTAは、カルシウムイオンと結合して、
図3中のEDTA-Ca
2+で示されるキレート錯体を形成する。このキレート錯体は、下記の構造式(2)で示される。
【0033】
【0034】
このキレート錯体は、2価の陽イオンであるCaイオンと4価の陰イオンであるEDTAで形成されており、キレート錯体全体で2価の陰イオンである。このため、このキレート錯体は、熱輸送媒体12中の水に溶解した状態で存在する。このように、EDTAが、リン酸塩の析出の要因となるカルシウムイオンと結合することで、熱輸送媒体12からの析出物の生成が抑制される。これにより、熱交換部16表面への析出物の付着による冷却性能の低下を抑制することができる。また、析出物による流路の閉塞を回避することができる。
【0035】
ここで、本発明者の実験結果によれば、熱輸送媒体12に含まれるEDTAの濃度は、0.05~0.1mol/Lであることが好ましい。基本的には、EDTAは、熱輸送媒体12に存在するカルシウムイオンと、1:1で、キレート錯体を形成する。このため、熱輸送媒体12に含まれるEDTAの濃度は、熱輸送媒体12に含まれるカルシウムイオンの濃度以上であればよい。日本の水道水よりもカルシウムイオン濃度の高いヨーロッパの水道水でも、カルシウムイオン濃度は、0.01mol/L程度である。EDTAの濃度0.05~0.1mol/Lは、この水のカルシウムイオン濃度の5倍から10倍の濃度である。本発明者は、熱輸送媒体12を構成する水としてカルシウムイオン濃度が0.01mol/Lの高濃度の水を用いた場合において、熱輸送媒体12に含まれるEDTAの濃度が0.05~0.1mol/Lであるときに、EDTAの溶解性と、熱輸送媒体12からの析出物の生成抑制の有効性とを確認している。
【0036】
なお、析出物が生成するのは、熱輸送媒体12にカルシウムイオンが含まれる場合に限られない。カルシウムイオン以外の金属イオン(例えば、マグネシウムイオン、銅イオン、鉄イオン等)が含まれる場合においても、析出物が生成する可能性がある。金属イオンは、熱輸送媒体12の製造に用いられる水に予め含まれていたり、熱輸送媒体12の製造時に添加されたり、熱輸送媒体12の使用時に熱マネジメントシステム10の構成部から熱輸送媒体12に溶出したりする。金属イオンが、熱輸送媒体12の製造時に添加されたり、熱輸送媒体12の使用時に熱マネジメントシステム10から熱輸送媒体12に溶出したりすることから、熱輸送媒体12の製造に用いられる水として、純水が用いられる場合においても、析出物が生成する。
【0037】
また、金属イオン以外の陽イオンが熱輸送媒体12に含まれてもよい。この場合においても、熱輸送媒体12に含まれる陽イオンが熱輸送媒体12に含まれる陰イオンと結合して、析出物が生成されることを、EDTAによって抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態の熱輸送媒体12には、イオン性防錆剤としてのリン酸イオンが含まれる。しかしながら、熱輸送媒体12には、リン酸イオンではなく、他のイオン性防錆剤としての陰イオンが含まれてもよい。イオン性防錆剤としての陰イオンとしては、亜硝酸塩、モリブデン酸塩、クロム酸塩、ホスホン酸塩等から解離した陰イオンが挙げられる。また、熱輸送媒体12は、イオン性防錆剤としての機能を果たすものではない陰イオンが含まれてもよい。これらの場合においても、この陰イオンが熱輸送媒体12に含まれる陽イオンと結合して、析出物が生成されることを、EDTAによって抑制することができる。
【0039】
熱輸送媒体12に含まれるEDTAの濃度が0.05~0.1mol/Lであれば、熱輸送媒体12中で共存する陽イオンが、EDTAの錯形成能を超えるような極端に高い濃度で存在することは、実際には無いと考えられる。このため、EDTAがCaイオン以外の陽イオンと錯形成をしても、EDTAは、Caイオンと錯形成できるものと考えられる。また、EDTAは、熱輸送媒体12に存在するCaイオンを補足するため、Caとスケール(すなわち、析出物)を形成する炭酸イオン(CO3
2-)に対しても、析出物の生成抑制に有用な阻害剤である。
【0040】
(他の実施形態)
(1)上記した実施形態では、熱輸送媒体12に含まれる阻害剤として、EDTAが用いられている。しかしながら、阻害剤として、EDTAと同様に、熱輸送媒体12に存在する陽イオンとキレート錯体を形成する他の化合物が用いられてもよい。このような他の化合物が用いられることで、EDTAが用いられたときと同じ効果が得られる。他の化合物として、EDTMPが挙げられる。EDTMPは、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸のことであり、ethylenediamine tetra(methylene phosphonic acid)の略称である。EDTMPは、下記の構造式(3)で示される。
【化3】
【0041】
また、他の化合物として、DTPMPが挙げられる。DTPMPは、ジエチレントリアミンペンタキスメチレンホスホン酸のことであり、diethylenetriamine penta(methylene phosphonic acid)の略称である。DTPMPは、下記の構造式(4)で示される。
【化4】
【0042】
(2)上記した実施形態では、インバータ2が熱マネジメントの対象物である。しかしながら、モータジェネレータ、電池、車両に搭載されるコンピュータ等の電気が流れる他の車載機器が対象物であってもよい。また、電気が流れるものであれば、車両に搭載されていないものが対象物であってもよい。船舶、航空機等の移動体に搭載されるものが対象物であってもよい。また、対象物は、定置用であってもよい。定置用の対象物としては、例えば、電動車両の電池を充電する定置用の充電ステーションが備えるインバータ等の電気機器が挙げられる。また、定置用の大型計算機が挙げられる。また、対象物は、電気が流れるものに限られない。対象物は、種々の産業分野で温度の調整がされるものであればよい。対象物としては、例えば、ボイラー、蒸気発生器、復水器等が挙げられる。
【0043】
(3)上記した実施形態では、熱マネジメントの対象物の温度が高いときに、対象物と熱輸送媒体12との間の熱交換によって、対象物が冷却される。しかしながら、熱マネジメントの対象物の温度が低いときに、対象物と熱輸送媒体12との間の熱交換によって、対象物が加熱されてもよい。この場合、図示しないが、回路14には、熱輸送媒体12を加熱する加熱部が含まれる。対象物が加熱されるときにおいても、熱輸送媒体12の温度が高いため、熱輸送媒体12にEDTAが含まれていないと、上記の説明の通り、熱輸送媒体12から析出物が生成する。これに対して、熱輸送媒体12にEDTAが含まれていることで、上記した実施形態と同様の効果が得られる。したがって、熱マネジメントシステム10は、対象物の冷却のみを行う場合だけでなく、対象物の加熱のみを行ったり、対象物の冷却と加熱との両方を行ったりしてもよい。すなわち、回路14は、冷却部と加熱物との少なくとも一方を有していればよい。
【0044】
(4)上記した実施形態では、熱マネジメントシステム10が備える回路14は、ポンプ20によって熱輸送媒体12が強制的に循環するものである。しかしながら、回路14は、熱輸送媒体の液相と気相の間の相変化によって熱輸送媒体が自然循環するものであってよい。また、熱マネジメントシステム10は、熱輸送媒体が循環して流れる回路14に替えて、熱輸送媒体を収容する容器を備えていてもよい。この場合の熱輸送媒体は、使用状態で常に液状ではなく、受熱による沸騰と放熱による凝縮とを繰り返す。そして、熱マネジメントの対象物が容器の外面に接して設けられる場合、熱輸送媒体は、容器の壁を介して、対象物との間で熱を授受する。また、熱マネジメントの対象物が容器の内部の液状の熱輸送媒体に浸漬される場合、熱輸送媒体は、直接、対象物との間で熱を授受する。
【0045】
(5)本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能であり、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、構成要素等の材質、形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の材質、形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その材質、形状、位置関係等に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0046】
2 インバータ
10 熱マネジメントシステム
12 熱輸送媒体
14 回路