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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108526
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】特性値推定装置及び特性値推定方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20230728BHJP
【FI】
G05B23/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009690
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(72)【発明者】
【氏名】増井 陽二
(72)【発明者】
【氏名】後 伸昌
(72)【発明者】
【氏名】内山 直樹
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA11
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223EB02
3C223FF04
3C223FF05
3C223FF24
3C223GG01
3C223HH08
(57)【要約】
【課題】制御対象の特性値を容易に推定可能な特性値推定装置及び特性値推定方法を提供する。
【解決手段】特性値推定装置1は、制御対象Wの特性値を推定する。特性値推定装置1は、制御対象Wの周波数特性から、制御対象Wの第1特徴値を求める第1特徴値取得部11と、前記第1特徴値に影響を与える変数を含む状態方程式を用いて、前記変数を探索領域内で変化させた場合の制御対象Wの第2特徴値を算出する第2特徴値算出部13と、前記変数を前記探索領域内で変化させることにより、第2特徴値算出部13によって算出される前記第2特徴値を変更して、前記第1特徴値と前記第2特徴値との関係式である評価関数の前記探索領域における最適解を求める最適化処理部14と、最適化処理部14によって最適解が求められるときの前記変数を、前記特性値と推定する推定部15と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象の特性値を推定する特性値推定装置であって、
前記制御対象の周波数特性から、所定の周波数における前記制御対象の第1特徴値を求める第1特徴値取得部と、
前記第1特徴値に影響を与える変数を含む状態方程式を用いて、前記所定の周波数において前記変数を探索領域内で変化させた場合の前記制御対象の第2特徴値を算出する第2特徴値算出部と、
前記変数を前記探索領域内で変化させることにより、前記第2特徴値算出部によって算出される前記第2特徴値を変更して、前記第1特徴値と前記第2特徴値との関係式である評価関数の前記探索領域における最適解を求める最適化処理部と、
前記最適化処理部によって最適解が求められるときの前記変数を、前記特性値と推定する推定部と、
を有する、
特性値推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の特性値推定装置において、
前記評価関数は、前記第1特徴値と前記第2特徴値との差の平方を含む関係式であり、
前記最適化処理部は、前記第1特徴値と前記第2特徴値との差の平方が最小の場合の前記評価関数の値を、前記最適解として求める、
特性値推定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の特性値推定装置において、
前記第1特徴値及び前記第2特徴値は、それぞれ、少なくともゲインを含む、
特性値推定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の特性値推定装置において、
前記探索領域は、複数の局所領域からなり、
前記最適化処理部は、
前記複数の局所領域において、それぞれ、前記状態方程式の前記変数を変化させることにより、前記第2特徴値算出部によって算出される前記第2特徴値を変更して、前記評価関数の最適解を得る局所領域最適化処理部と、
前記局所領域最適化処理部によって各局所領域において得られた前記評価関数の最適解のうち最適な解を、前記探索領域における前記評価関数の最適解とする最適解選択部と、
を有する、
特性値推定装置。
【請求項5】
制御対象の特性値を推定する特性値推定方法であって、
前記制御対象の周波数特性から、所定の周波数における前記制御対象の第1特徴値を求める第1特徴値取得工程と、
前記第1特徴値に影響を与える変数を含む状態方程式を用いて、前記所定の周波数において前記変数を探索領域内で変化させた場合の前記制御対象の第2特徴値を算出して、前記第1特徴値と前記第2特徴値との関係式である評価関数の前記探索領域における最適解を求める最適化処理工程と、
前記最適化処理工程で最適解が求められたときの前記変数を、前記特性値と推定する推定工程と、
を有する、
特性値推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御対象の特性値を推定する特性値推定装置及び特性値推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ(ダイナモ、動力計)から供試体(駆動モータ、エンジン、トランスミッション等の動力系)に負荷を与えて、供試体の評価試験を行う自動車試験装置において、モータ、モータの負荷となる供試体及びトルク検出器などが軸結合される動力伝達系では、各々の結合軸に生じるねじり振動が問題となっている。その解決手法の一つとして、外乱オブザーバなどを、前記自動車試験装置に適用することが考えられている。
【0003】
また、制御対象の課題解決を模索する手法として、シミュレーションを用いて制御対象を解析する方法が知られている。このような手法の場合には、前記制御対象の特性値を、シミュレーションに反映させる必要がある。
【0004】
上述のいずれの場合でも、制御対象の特性値を推定する必要がある。このように、制御の分野では、制御対象の特性値を推定することが求められている。このような制御対象の特性値の推定方法として、例えば特許文献1に開示されるパラメータ同定装置が知られている。
【0005】
前記特許文献1のパラメータ同定装置では、2慣性系モデルのモデルパラメータを同定する。詳しくは、前記パラメータ同定装置は、モータに対するトルク指令と、前記モータの角度及び角速度の実測値と、負荷の角度及び角速度の実測値と、に基づいて複数の位相面図を生成し、該位相面図に基づいて、前記モータの慣性、粘性、摩擦、前記負荷の慣性、粘性、摩擦、前記モータと前記負荷とを連結する連結部材の剛性、及び、前記連結部材の不感帯幅を示すモデルパラメータを同定する。
【0006】
また、制御対象の特性値を推定する方法として、演算プログラムを用いて時系列データにフィッティングする数式等を求めることにより、特性値を推定する方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6756653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、前記特許文献1のパラメータ同定装置では、2慣性系モデルを対象としているとともに、モータ及び負荷のそれぞれの角速度を実測する必要がある。そのため、前記特許文献1のパラメータ同定装置を用いて、多慣性系の場合でも制御対象の特性値を推定できるようにしようとすると、前記パラメータ同定装置のアルゴリズムを大幅に変更する必要があるとともに、前記角速度を実測するためのセンサが多数必要になる。
【0009】
また、時系列データにフィッティングする数式等を求めて特性値を推定する手法も、演算に時間を要するとともに、時系列データに数式等を精度良くフィッティングさせることができる特性値を容易に推定することは難しい。
【0010】
本発明の目的は、制御対象の特性値を容易に推定可能な特性値推定装置及び特性値推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態に係る特性値推定装置は、制御対象の特性値を推定する装置である。この特性値推定装置は、前記制御対象の周波数特性から、所定の周波数における前記制御対象の第1特徴値を求める第1特徴値取得部と、前記第1特徴値に影響を与える変数を含む状態方程式を用いて、前記所定の周波数において前記変数を探索領域内で変化させた場合の前記制御対象の第2特徴値を算出する第2特徴値算出部と、前記変数を前記探索領域内で変化させることにより、前記第2特徴値算出部によって算出される前記第2特徴値を変更して、前記第1特徴値と前記第2特徴値との関係式である評価関数の前記探索領域における最適解を求める最適化処理部と、前記最適化処理部によって最適解が求められるときの前記変数を、前記特性値と推定する推定部と、を有する(第1の構成)。
【0012】
これにより、制御対象の特徴値を求める状態方程式の変数を探索領域内で変更して、評価関数の最適解を求め、その最適解が求められるときの変数を前記制御対象の特性値と推定することができる。前記評価関数は、前記制御対象の周波数特性から求められる第1特徴値と、前記探索領域内で変更された前記変数と状態方程式とを用いて算出される第2特徴値との関係式であるため、前記評価関数の最適解を求めることにより、前記特性値を容易に推定することができる。
【0013】
ところで、一般的に行われている時間応答のフィッティングや周波数応答のフィッティングの場合には、各測定値に対してデータをフィッティングさせる必要がある。そのため、フィッティングの精度は、データ量の影響を受ける。よって、前記時間応答のフィッティングや周波数応答のフィッティングでは、精度良くフィッティングするために、多くの測定点に対してデータをフィッティングさせる必要があり、装置の演算負荷が大きかった。
【0014】
これに対し、上述の構成では、前記第1特徴値及び前記第2特徴値を用いて前記評価関数によって最適化するため、データの演算処理を大幅に減らすことができる。
【0015】
よって、従来のように時系列データ等に対してフィッティングする特性値を求める場合に比べて、装置の演算処理を軽減することができる。
【0016】
したがって、上述の構成により、制御対象の特性値を容易に推定可能な特性値推定装置が得られる。
【0017】
前記第1の構成において、前記評価関数は、前記第1特徴値と前記第2特徴値との差の平方を含む関係式である。前記最適化処理部は、前記第1特徴値と前記第2特徴値との差の平方が最小の場合の前記評価関数の値を、前記最適解として求める(第2の構成)。
【0018】
これにより、前記第1の構成において、第1特徴値と第2特徴値との関係式である評価関数を実現できる。しかも、前記第1特徴値と前記第2特徴値との差を平方することにより、前記第1特徴値及び前記第2特徴値の大小に関係なく、それらの差を求めることができる。最適化処理部は、前記第1特徴値と前記第2特徴値との差の平方が最小の場合の評価関数の値を、評価関数の最適解とするため、前記最適解を容易に求めることができる。
【0019】
したがって、上述の構成により、制御対象の特性値を容易に推定可能な特性値推定装置が得られる。
【0020】
前記第1または第2の構成において、前記第1特徴値及び前記第2特徴値は、それぞれ、少なくともゲインを含む(第3の構成)。
【0021】
これにより、振動周波数及びゲインを用いて、制御対象におけるばね定数などの特性値を求めることができる。
【0022】
前記第1から第3の構成のうちいずれか一つの構成において、前記探索領域は、複数の局所領域からなる。前記最適化処理部は、前記複数の局所領域において、それぞれ、前記状態方程式の前記変数を変化させることにより、前記第2特徴値算出部によって算出される前記第2特徴値を変更して、前記評価関数の最適解を得る局所領域最適化処理部と、前記局所領域最適化処理部によって各局所領域において得られた前記評価関数の最適解のうち最適な解を、前記探索領域における前記評価関数の最適解とする最適解選択部と、を有する(第4の構成)。
【0023】
これにより、変数の探索領域が複数に分割されることによって得られる局所領域において、それぞれ、評価関数の最適解を求めることができる。そして、各局所領域における最適解の中から、前記探索領域において最適な解を求めることにより、局所的な最適解ではなく、前記探索領域の全体における最適解を求めることができる。よって、前記探索領域における評価関数の最適解を精度良く求めることができる。したがって、制御対象の特性値を精度良く求めることができる。
【0024】
しかも、上述の構成により、前記探索領域が広くても前記特性値を推定できるため、前記探索領域の範囲を調整せずに且つ局所解を求めることなく、前記特性値を精度良く求めることができる。
【0025】
一方、変数の探索領域を複数に分割しない場合には、局所解を求める可能性が高いため、前記探索領域を試行錯誤して変更する必要がある。また、最適化の繰り返し回数を増やすことや評価関数の収束評価の判断値を厳しくすることにより、局所解の算出を回避することが考えられるものの、演算に時間を要する。これに対して、上述の構成のように探索領域を複数の局所領域に分割することにより、試行錯誤や収束評価の判断値変更を行うことなく、最適解を求めることが可能となる。よって、上述のように前記探索領域を複数に分割して各局所領域で評価関数の最適解を求めることにより、特性値推定装置の演算負荷を軽減することができる。
【0026】
本発明の一実施形態に係る特性値推定方法は、制御対象の特性値を推定する方法である。この特性値推定方法は、前記制御対象の周波数特性から、所定の周波数における前記制御対象の第1特徴値を求める第1特徴値取得工程と、前記第1特徴値に影響を与える変数を含む状態方程式を用いて、前記所定の周波数において前記変数を探索領域内で変化させた場合の前記制御対象の第2特徴値を算出して、前記第1特徴値と前記第2特徴値との関係式である評価関数の前記探索領域における最適解を求める最適化処理工程と、前記最適化処理工程で最適解が求められたときの前記変数を、前記特性値と推定する推定工程と、を有する(第1の方法)。
【0027】
これにより、制御対象の特徴値を求める状態方程式の変数を探索領域内で変化させて、評価関数の最適解を求め、その最適解が求められるときの変数を前記制御対象の特性値と推定することができる。前記評価関数は、前記制御対象の周波数特性から求められる第1特徴値と、前記探索領域内で変更された前記変数と状態方程式とを用いて算出される第2特徴値との関係式であるため、前記評価関数の最適解を求めることにより、前記特性値を容易に推定することができる。
【0028】
したがって、制御対象の特性値を容易に推定可能な特性値推定方法を実現することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の一実施形態に係る特性値推定装置及び特性値推定方法は、制御対象の周波数特性から、所定の周波数における前記制御対象の第1特徴値を求め、前記所定の周波数において前記第1特徴値に影響を与える変数を探索領域内で変化させることにより第2特徴値を変更して、前記第1特徴値と前記第2特徴値との関係式である評価関数の前記探索領域における最適解を求める。そして、前記特性値推定装置及び前記特性値推定方法は、前記最適解が求められたときの前記変数を、前記特性値と推定する。
【0030】
これにより、制御対象の特性値を容易に推定可能な特性値推定装置及び特性値推定方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、実施形態1に係る特性値推定装置の概略構成を機能ブロックで示す図である。
図2図2は、制御対象の一例をモデルで示す図である。
図3図3は、状態方程式で表される制御対象の周波数特性の一例を示すボード線図である。
図4図4は、特性値推定方法のフローを示す図である。
図5図5は、探索領域の一例を示す図である。
図6図6は、実施形態2に係る特性値推定装置の概略構成を機能ブロックで示す図である。
図7図7は、実施形態2に係る特性値推定方法のフローを示す図である。
図8図8は、探索領域を分割して得られる局所領域の一例を示す図である。
図9図9は、評価関数の局所解を求めた場合の変数を用いて得られる周波数特性の一例を示す図である。
図10図10は、実施形態2の方法によって評価関数の最適解を求めた場合の周波数特性の一例を示す図である。
図11図11は、実施形態3に係る特性値推定装置の概略構成を機能ブロックで示す図である。
図12図12は、評価関数で用いる各値の関係を模式的に示す図である。
図13図13は、慣性モーメント、ばね定数及び粘性減衰係数が実測値と演算値とで異なる場合の周波数特性の一例を示す。
図14図14は、粘性減衰係数が実測値と演算値とで異なる場合の周波数特性の一例を示す。
図15図15は、ばね定数が実測値と演算値とで異なる場合の周波数特性の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0033】
<実施形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る特性値推定装置1の概略構成を機能ブロックで示す図である。この特性値推定装置1は、制御対象Wの特性値を推定するための装置であり、例えば、コンピュータなどの演算装置によって構成されている。
【0034】
(制御対象)
制御対象Wは、例えば、多慣性系である。図2は、制御対象Wの一例を機械系の動特性モデルで示す図である。図2に示す制御対象Wは、4慣性系である。制御対象Wは、モータ、トルク検出器及び供試体などを含む。図2に示す例では、j1はモータの慣性モーメントであり、j2~j4は、トルク検出器や供試体などの慣性モーメントである。
【0035】
図2に示すように、慣性モーメントj1~j4を有する構造体は、ばね定数k1~k3を有するばね、及び、粘性減衰係数c1~c3を有するダンパによって、接続されている。慣性モーメントj1を有するモータには、指令トルクuが入力される。なお、制御対象Wにおいて構造体間で生じるねじりトルクは、Ti=k∫(ωi-ωi+1)dtである。図2に示す例では、i=1、2、3である。
【0036】
制御対象Wにおいて、慣性モーメントj2を有する構造体と慣性モーメントj3を有する構造体との間で軸のねじりトルクをセンサによって検出可能な場合、状態方程式の一例は、以下のとおりである。なお、状態方程式は、以下の式以外であってもよい。
【0037】
【数1】
【0038】
図3は、上述の状態方程式で表される制御対象Wの周波数特性の一例を示すボード線図である。図3に示すように、4慣性系である制御対象Wは、一般的に、3つの共振を有する。
【0039】
(特性値推定装置)
図1に示すように、特性値推定装置1は、第1特徴値取得部11と、パラメータ設定部12と、第2特徴値算出部13と、最適化処理部14と、推定部15とを備える。
【0040】
第1特徴値取得部11は、制御対象Wの入出力の周波数特性の測定結果から、共振周波数及びそのゲインを求める。具体的には、第1特徴値取得部11は、図3に示すボード線図における3つの共振周波数及びそれらのゲインを取得する。第1特徴値取得部11は、制御対象Wの共振周波数及びそのゲインを自動的に取得してもよいし、第1特徴値取得部11に対して制御対象Wの共振周波数及びゲインが入力されてもよい。第1特徴値取得部11は、制御対象Wの共振周波数及びそのゲインを取得可能な構成であれば、どのような構成であってもよい。
【0041】
本実施形態では、第1特徴値取得部11によって制御対象Wの周波数特性から求められる共振周波数及びそのゲインが、第1特徴値に対応する。本実施形態では、前記第1特徴値は、制御対象Wの周波数特性における固有値である。前記第1特徴値は、制御対象Wの特徴値であれば、共振周波数及びそのゲイン以外のパラメータを含んでいてもよい。すなわち、前記第1特徴値は、前記固有値以外の値であってもよい。本実施形態では、前記共振周波数が、本発明における所定の周波数である。
【0042】
パラメータ設定部12は、制御対象Wの設計情報や周波数特性等から、例えば、慣性モーメントj1~j4及びばね定数k2を取得する。パラメータ設定部12は、自動的に制御対象Wのパラメータを取得してもよいし、パラメータ設定部12に対して制御対象Wのパラメータが入力されてもよい。パラメータ設定部12は、制御対象Wのパラメータを取得可能な構成であれば、どのような構成であってもよい。
【0043】
また、パラメータ設定部12は、制御対象Wの状態方程式における残りのパラメータ(例えば、ばね定数k1,k3、粘性減衰係数c1~c3)である変数の探索領域を設定する。詳しくは、パラメータ設定部12は、後述する最適化処理部14で演算を行う前記変数の探索領域を設定する。前記変数の探索領域は、図示しない記憶部等に予め記憶されていてもよいし、パラメータ設定部12に対して入力されてもよい。
【0044】
第2特徴値算出部13は、制御対象Wの状態方程式を用いて、該状態方程式の変数を前記探索領域内で変更した後の共振周波数及びそのゲインを求める。第2特徴値算出部13は、後述する最適化処理部14によって前記変数を前記探索領域内で変更した際に、前記状態方程式を用いて、前記共振周波数及び前記ゲインを求める。すなわち、第2特徴値算出部13は、最適化処理部14が最適化処理の演算を行う際に前記探索領域内で変更された前記変数を用いて、前記共振周波数及び前記ゲインを求める。
【0045】
本実施形態では、変更後の前記変数を用いて、第2特徴値算出部13によって算出された共振周波数及びそのゲインが、第2特徴値に対応する。本実施形態では、前記第2特徴値は、制御対象Wの周波数特性における固有値である。前記第2特徴値は、制御対象Wの特徴値であれば、共振周波数及びそのゲイン以外のパラメータを含んでいてもよい。すなわち、前記第2特徴値は、前記固有値以外の値を含んでいてもよい。本実施形態では、前記共振周波数が、本発明における所定の周波数である。
【0046】
最適化処理部14は、前記変数を前記探索領域内で変更するとともに、変更後の変数を用いて第2特徴値算出部13によって求められる第2特徴値と、第1特徴値取得部11によって取得される第1特徴値とを用いて、前記探索領域内で評価関数の最適解を求める最適化処理を行う。詳しくは、最適化処理部14は、前記第1特徴値である共振周波数及びそのゲインと前記第2特徴値である共振周波数及びそのゲインとを用いて、前記探索領域内で前記評価関数が最小になる最適解を求めるとともに、そのときの変数を求める。
【0047】
前記評価関数は、前記第1特徴値と前記第2特徴値との関係式である。すなわち、前記評価関数は、前記第1特徴値と前記第2特徴値との差の平方を含む関係式である。詳しくは、前記評価関数は、前記第1特徴値である共振周波数と前記第2特徴値である共振周波数との差の平方と、前記第1特徴値であるゲインと前記第2特徴値であるゲインとの差の平方とを含む関係式である。本実施形態では、前記評価関数は、制御対象Wにおける複数のモード(本実施形態では、1次共振、2次共振及び3次共振の3つのモード)の特徴値を、各モードで重み係数を考慮して加算した関係式である。具体的には、前記評価関数は、例えば、以下の(1)式である。
【0048】
【数2】
【0049】
ここで、w1~w6は重み係数であり、f1~f3は第1特徴値である共振周波数であり、G(f1)~G(f3)は第1特徴値であるゲインであり、fm1~fm3は第2特徴値である共振周波数であり、G(fm1)~G(fm3)は第2特徴値であるゲインである。
【0050】
最適化処理部14は、前記変数を前記検索範囲内で変更した際に前記評価関数が最小値になる値を求めることにより、第1特徴値に近い第2特徴値を求めることができる。
【0051】
推定部15は、最適化処理部14によって前記評価関数の最小値が求められた場合に、そのときの変数を制御対象Wの特性値と推定する。
【0052】
(特性値推定方法)
次に、上述の構成を有する特性値推定装置1を用いて、制御対象Wの特性値を推定する方法について、図4を用いて説明する。図4は、特性値推定方法のフローを示す図である。
【0053】
図4に示すフローがスタートすると(START)、まず、ステップSA1で第1特徴値取得部11が制御対象Wの周波数特性を取得する。そして、ステップSA2において、第1特徴値取得部11は、前記周波数特性から、共振周波数及びそのゲインを求める。すなわち、第1特徴値取得部11は、第1特徴値を取得する。
【0054】
続くステップSA3では、パラメータ設定部12が、制御対象の設計情報や周波数特性等から、慣性モーメントj1~j4及びばね定数k2を取得する。すなわち、パラメータ設定部12は、変数以外の定数を取得する。その後、ステップSA4において、パラメータ設定部12は、前記変数の探索領域を決定する。図5は、探索領域の一例を示す図である。なお、図5には、説明のために、変数の探索領域の一例として、ばね定数k1,k3を変化させた場合の探索領域を示している。
【0055】
ステップSA5では、最適化処理部14は、前記変数を前記探索領域内で変更する。最適化処理部14は、例えば、前記変数の初期値を前記探索領域内での最小値に設定する。第2特徴値算出部13は、変更後の変数及び制御対象Wの状態方程式を用いて、第2特徴値を求める。最適化処理部14は、第1特徴値取得部11によって取得された第1特徴値及び第2特徴値算出部13によって取得された第2特徴値を用いて、評価関数の最適解を求める最適化処理を行う。詳しくは、最適化処理部14は、前記第1特徴値である共振周波数及びそのゲインと前記第2特徴値である共振周波数及びそのゲインとを用いて、前記評価関数が最小になる最適解を求めるとともに、そのときの変数を求める。
【0056】
ステップSA6では、推定部15は、最適化処理部14によって前記評価関数の最適解が求められた場合に、そのときの変数を、制御対象Wの特性値と推定する。その後、このフローを終了する(END)。
【0057】
上述のフローにおいて、前記ステップSA2が第1特徴値取得工程に対応し、前記ステップSA5が最適化処理工程に対応し、前記ステップSA6が推定工程に対応する。
【0058】
以上より、本実施形態の特性値推定装置1は、制御対象Wの特性値を推定する。特性値推定装置1は、制御対象Wの周波数特性から、制御対象Wの第1特徴値を求める第1特徴値取得部11と、前記第1特徴値に影響を与える変数を含む状態方程式を用いて、前記変数を探索領域内で変化させた場合の制御対象Wの第2特徴値を算出する第2特徴値算出部13と、前記変数を前記探索領域内で変化させることにより、第2特徴値算出部13によって算出される前記第2特徴値を変更して、前記第1特徴値と前記第2特徴値との関係式である評価関数の前記探索領域における最適解を求める最適化処理部14と、最適化処理部14によって最適解が求められるときの前記変数を、前記特性値と推定する推定部15と、を有する。
【0059】
これにより、制御対象Wの特徴値を求める状態方程式の変数を探索領域内で変更して、評価関数の最適解を求め、その最適解が求められるときの変数を制御対象Wの特性値と推定することができる。前記評価関数は、制御対象Wの周波数特性から求められる第1特徴値と、前記探索領域内で変更された前記変数と状態方程式とを用いて算出される第2特徴値との関係式であるため、前記評価関数の最適解を求めることにより、前記特性値を容易に推定することができる。
【0060】
したがって、上述の構成により、制御対象Wの特性値を容易に推定可能な特性値推定装置1が得られる。
【0061】
また、本実施形態では、前記評価関数は、前記第1特徴値と前記第2特徴値との差の平方を含む関係式である。最適化処理部14は、前記第1特徴値と前記第2特徴値との差の平方が最小の場合の前記評価関数の値を、前記最適解として求める。
【0062】
前記第1特徴値と前記第2特徴値との差を平方することにより、前記第1特徴値及び前記第2特徴値の大小に関係なく、それらの差を求めることができる。最適化処理部14は、前記第1特徴値と前記第2特徴値との差の平方が最小の場合の評価関数の値を、評価関数の最適解とするため、前記最適解を容易に求めることができる。
【0063】
したがって、上述の構成により、制御対象Wの特性値を容易に推定可能な特性値推定装置1が得られる。
【0064】
また、本実施形態では、前記第1特徴値及び前記第2特徴値は、それぞれ、振動周波数及びゲインを含む。これにより、振動周波数及びゲインを用いて、制御対象Wにおけるばね定数などの特性値を求めることができる。
【0065】
<実施形態2>
図6は、実施形態2に係る特性値推定装置100の概略構成を機能ブロックで示す図である。特性値推定装置100は、変数の探索領域を複数に分割する点で、実施形態1の特性値推定装置1とは構成が異なる。以下の説明では、実施形態1と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略し、実施形態1と異なる構成についてのみ説明する。
【0066】
(特性値推定装置)
図6に示すように、特性値推定装置100は、第1特徴値取得部11と、パラメータ設定部120と、第2特徴値算出部13と、最適化処理部140と、推定部15とを有する。
【0067】
なお、本実施形態でも、第1特徴値は、制御対象Wの周波数特性から求められる共振周波数及びそのゲインである。前記第1特徴値は、固有値であってもよいし、固有値以外の値であってもよい。また、第2特徴値は、制御対象Wの周波数特性から求められる共振周波数及びそのゲインである。前記第2特徴値は、固有値であってもよいし、固有値以外の値であってもよい。前記第1特徴値及び前記第2特徴値における前記共振周波数は、本発明における所定の周波数である。
【0068】
パラメータ設定部120は、探索領域分割部121を有する。探索領域分割部121は、変数の探索領域を複数に分割することにより、複数の局所領域を得る。探索領域分割部121は、予め設定されている数で前記探索領域を分割してもよいし、前記探索領域を、設定されている変数の範囲によって複数に分割してもよい。探索領域分割部121は、分割数や分割範囲などの入力に応じて、前記探索領域を複数の局所領域に分割してもよい。
【0069】
パラメータ設定部120は、実施形態1のパラメータ設定部12と同様、制御対象Wの設計情報や周波数特性等から、例えば、慣性モーメントj1~j4及びばね定数k2を取得する。
【0070】
最適化処理部140は、パラメータ設定部120によって得られた各局所領域内で、変数を変更するとともに、各局所領域内で変更後の変数を用いて第2特徴値算出部13によって求められる第2特徴値と、第1特徴値取得部11によって取得される第1特徴値とを用いて、評価関数の最適解を求める最適化処理を行う。すなわち、最適化処理部140は、前記各局所領域において、前記評価関数の最適解を求める。最適化処理部140は、前記各所領域で求めた前記評価関数の最適解の中から、前記探索領域における最適解を求める。
【0071】
具体的には、最適化処理部140は、局所領域最適化処理部141と、最適解選択部142とを有する。
【0072】
局所領域最適化処理部141は、前記各局所領域内で変数を変更して求められる前記第2特徴値と、前記第1特徴値とを用いて、前記各局所領域において、前記評価関数の最適解を求める。局所領域最適化処理部141は、複数の局所領域内で前記評価関数の最適解を順番に求めてもよいし、複数の局所領域のうち少なくとも一部の局所領域で同時に前記評価関数の最適解を求めてもよい。前記最適解は、前記各局所領域において、前記評価関数の最小値である。
【0073】
なお、前記評価関数は、実施形態1における評価関数と同じである。また、前記各局所領域において前記評価関数の最適解を求める方法は、実施形態1において探索領域内で前記評価関数の最適解を求める方法と同様である。よって、前記各局所領域内で最適解を求める方法については、詳しい説明を省略する。
【0074】
最適解選択部142は、局所領域最適化処理部141によって求められた前記各局所領域における前記評価関数の最適解のうち、前記探索領域において最適な解を選択する。本実施形態では、最適解選択部142は、前記各局所領域における前記評価関数の最適解のうち、最も小さい値を、前記探索領域における最適解として選択する。最適解選択部142は、前記探索領域における最適解が求められるときの変数を、推定部15に出力する。推定部15は、前記変数を、制御対象Wの特性値と推定する。
【0075】
(特性値推定方法)
次に、上述の構成を有する特性値推定装置100を用いて、制御対象Wの特性値を推定する方法について、図7を用いて説明する。図7は、実施形態2に係る特性値推定方法のフローを示す図である。
【0076】
図7に示すフローがスタートすると(START)、まず、ステップSB1で第1特徴値取得部11が制御対象Wの周波数特性を取得する。そして、ステップSB2において、第1特徴値取得部11は、前記周波数特性から、共振周波数及びそのゲインを求める。すなわち、第1特徴値取得部11は、第1特徴値を取得する。
【0077】
続くステップSB3では、パラメータ設定部120が、制御対象の設計情報や周波数特性等から、慣性モーメントj1~j4及びばね定数k2を取得する。すなわち、パラメータ設定部120は、変数以外の定数を取得する。その後、ステップSB4において、パラメータ設定部120は、前記変数の探索領域を決定する。なお、ステップSB1~SB4は、実施形態1の図4に示すフローのステップSA1~SA4と同様である。
【0078】
ステップSB5では、パラメータ設定部120の探索領域分割部121が、前記探索領域を複数の局所領域に分割する。図8は、前記探索領域を分割して得られる局所領域の一例を示す図である。なお、図8では、説明のために、前記探索領域の一例として、ばね定数k1,k3を変化させた場合の探索領域を示している。
【0079】
ステップSB6では、最適化処理部140の局所領域最適化処理部141は、各局所領域内において変数を変更する。局所領域最適化処理部141は、例えば、前記変数の初期値を各局所領域内での最小値に設定する。第2特徴値算出部13は、変更後の変数及び制御対象Wの状態方程式を用いて、第2特徴値を求める。局所領域最適化処理部141は、第1特徴値取得部11によって取得された第1特徴値及び第2特徴値算出部13によって取得された第2特徴値を用いて、各局所領域内で評価関数の最適解を求める最適化処理を行う。
【0080】
詳しくは、局所領域最適化処理部141は、前記第1特徴値である共振周波数及びそのゲインと前記第2特徴値である共振周波数及びそのゲインとを用いて、各局所領域内で前記評価関数が最小になる最適解を求める。そして、続くステップSB7において、最適化処理部140の最適解選択部142は、前記各局所領域内の最適解のうち最も小さい値を、前記探索領域における最適解とし、そのときの変数を求める。
【0081】
ステップSB8では、推定部15は、最適化処理部140によって前記探索領域における前記評価関数の最適解が求められた場合に、そのときの変数を、制御対象Wの特性値と推定する。その後、このフローを終了する(END)。
【0082】
上述のフローにおいて、前記ステップSB2が第1特徴値取得工程に対応し、前記ステップSB6,SB7が最適化処理工程に対応し、前記ステップSB8が推定工程に対応する。
【0083】
ところで、実施形態1のように探索領域全体で変数を変化させて評価関数の最適解を求める場合には、評価関数の最適解ではなく局所解を求めてしまう場合がある。図9は、評価関数の局所解を求めた場合の変数を用いて得られる周波数特性の一例を示す図である。図9に示すように、評価関数の局所解を求めた場合の変数を用いて得られる周波数特性は、実際の周波数特性の測定結果とは大きく異なっている。すなわち、求めた前記変数は、実際の値とは異なっている。
【0084】
これに対し、本実施形態のように、変数の探索領域を複数の局所領域に分割することにより、図10に示すように、計測結果に近い周波数特性を得ることができる。図10は、実施形態2の方法によって評価関数の最適解を求めた場合の周波数特性の一例を示す図である。なお、図10では、ばね定数k1,k3は分割せず、粘性減衰係数c1~c3をそれぞれ5分割して、前記最適解を求めた場合の例である。
【0085】
このように、本実施形態の構成によって、前記探索領域における評価関数の最適解を精度良く求めることができる。したがって、本実施形態の構成により、制御対象Wの特性値を精度良く推定することができる。
【0086】
本実施形態では、前記探索領域は、複数に分割された局所領域を有する。最適化処理部140は、前記複数の局所領域において、それぞれ、前記状態方程式の前記変数を変化させることにより、第2特徴値算出部13によって算出される前記第2特徴値を変更して、前記評価関数の最適解を得る。推定部15は、最適化処理部140によって各局所領域において得られた前記評価関数の最適解のうち最適な解を、前記探索領域における前記評価関数の最適解とする。
【0087】
これにより、変数の探索領域が複数に分割されることによって得られる局所領域において、それぞれ、評価関数の最適解を求めることができる。そして、各局所領域における最適解の中から、前記探索領域において最適な解を求めることにより、局所的な最適解ではなく、前記探索領域の全体における最適解を求めることができる。よって、前記探索領域における評価関数の最適解を精度良く求めることができる。したがって、制御対象Wの特性値を精度良く求めることができる。
【0088】
しかも、上述の構成により、前記探索領域が広くても前記特性値を推定できるため、前記探索領域の範囲を調整せずに且つ局所解を求めることなく、前記特性値を精度良く求めることができる。
【0089】
一方、変数の探索領域を複数に分割しない場合には、局所解を求める可能性が高いため、前記探索領域を試行錯誤して変更する必要がある。また、最適化の繰り返し回数を増やすことや評価関数の収束評価の判断値を厳しくすることにより、局所解の算出を回避することが考えられるものの、演算に時間を要する。これに対して、上述の構成のように探索領域を複数の局所領域に分割することにより、試行錯誤や収束評価の判断値変更を行うことなく、最適解を求めることが可能となる。よって、上述のように前記探索領域を複数に分割して各局所領域で評価関数の最適解を求めることにより、特性値推定装置100の演算負荷を軽減することができる。
【0090】
<実施形態3>
図11は、実施形態3に係る特性値推定装置200の概略構成を機能ブロックで示す図である。特性値推定装置200は、共振周波数だけでなく、他の周波数のデータも用いる点で、実施形態1の特性値推定装置1とは構成が異なる。以下の説明では、実施形態1と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略し、実施形態1と異なる構成についてのみ説明する。
【0091】
特性値推定装置200は、第1特徴値取得部211と、パラメータ設定部12と、第2特徴値算出部213と、最適化処理部214と、推定部15とを有する。
【0092】
第1特徴値取得部211は、制御対象Wの入出力の周波数特性の測定結果から、制御対象Wの共振周波数及びそのゲインを取得するとともに、所望の周波数における制御対象Wのゲインを取得し、共振周波数の近傍の周波数における制御対象Wのゲインも取得する。第1特徴値取得部211は、第1取得部211aと、第2取得部211bとを有する。
【0093】
第1取得部211aは、制御対象Wの共振周波数及びそのゲインを取得する。第2取得部211bは、前記所望の周波数における制御対象Wのゲインを取得し、共振周波数の近傍の周波数における制御対象Wのゲインも取得する。本実施形態において、前記所望の周波数及び前記近傍の周波数は、本発明における所定の周波数である。
【0094】
本実施形態では、第1取得部211a及び第2取得部211bによって取得された共振周波数及びゲインが、第1特徴値に対応する。
【0095】
第2特徴値算出部213は、制御対象Wの状態方程式を用いて、該状態方程式の変数を前記探索領域内で変更した後の共振周波数及びそのゲインを求めるとともに、前記所望の周波数における制御対象Wのゲインを求め、共振周波数の近傍の周波数における制御対象Wのゲインも求める。第2特徴値算出部213は、第1演算部213aと、第2演算部213bとを有する。
【0096】
第1演算部213aは、制御対象Wの状態方程式を用いて、該状態方程式の変数を前記探索領域内で変更した後の共振周波数及びそのゲインを求める。
【0097】
第2演算部213bは、制御対象Wの状態方程式を用いて、前記所望の周波数における制御対象Wのゲインを求めるとともに、共振周波数の近傍の周波数における制御対象Wのゲインも求める。本実施形態において、前記所望の周波数及び前記近傍の周波数は、本発明における所定の周波数である。
【0098】
本実施形態では、第1演算部213a及び第2演算部213bによって求めた共振周波数及びゲインが、第2特徴値に対応する。
【0099】
最適化処理部214は、制御対象Wの状態方程式の変数を探索領域内で変更するとともに、変更後の変数を用いて第2特徴値算出部213によって求められる第2特徴値と、第1特徴値取得部11によって取得される第1特徴値とを用いて、前記探索領域内で評価関数の最適解を求める最適化処理を行う。詳しくは、最適化処理部214は、前記第1特徴値である共振周波数及びゲインと前記第2特徴値である共振周波数及びゲインとを用いて、前記探索領域内で前記評価関数が最小になる最適解を求めるとともに、そのときの変数を求める。
【0100】
前記評価関数は、前記第1特徴値と前記第2特徴値との関係式である。すなわち、前記評価関数は、前記第1特徴値と前記第2特徴値との差の平方を含む関係式である。詳しくは、前記評価関数は、前記第1特徴値である共振周波数と前記第2特徴値である共振周波数との差の平方と、前記第1特徴値であるゲインと前記第2特徴値であるゲインとの差の平方とを含む関係式である。具体的には、前記評価関数は、例えば、以下の(2)式である。
【0101】
【数3】
【0102】
ここで、w1~w5は重み係数であり、fpは第1特徴値である共振周波数であり、fpmは第2特徴値である共振周波数であり、εは前記所望の周波数であり、fpl,fphは共振周波数の近傍の周波数であり、G(fp),G(ε),G(fpl),G(fph)は第1特徴値であるゲインであり、Gm(fpm),Gm(ε),Gm(fpl),Gm(fph)は第2特徴値であるゲインである。なお、本実施形態では、fplは共振周波数よりも低い周波数であり、fghは共振周波数よりも高い周波数である。図12に、前記評価関数における各値の関係を示す。図12に示す例では、前記所望の周波数は、共振周波数よりも低い周波数である。
【0103】
(2)式において、w3(G(ε)-Gm(ε))は、前記所望の周波数でのフィッティングを行い、w4(G(fpl)-Gm(fpl))+w5(G(fph)-Gm(fph))は、共振の減衰に関するフィッティングの精度を高めることができる。
【0104】
なお、最適化処理部214において前記評価関数を用いて最適解を求める方法は、実施形態1、2と同様である。よって、前記評価関数の最適解を求める演算方法の詳しい説明については省略する。
【0105】
本実施形態の構成により、前記所望の周波数でのフィッティングを行いつつ、共振の減衰に関するフィッティングの精度を高めることができるため、制御対象Wの特性値を容易に且つより精度良く推定することができる。
【0106】
前記評価関数には、w3(G(ε)-Gm(ε))が含まれていなくてもよいし、w4(G(fpl)-Gm(fpl))+w5(G(fph)-Gm(fph))が含まれていなくてもよい。また、εは、共振周波数よりも高い周波数であってもよい。前記評価関数は、実施形態1の評価関数のように複数の共振周波数に対応可能な評価関数であってもよい。
【0107】
図13は、慣性モーメント、ばね定数及び粘性減衰係数が実測値と演算値とで異なる場合の周波数特性の一例を示す。図13では、共振周波数及びそのゲインが実測値と演算値とで一致している一方、他の周波数のゲインが実測値と演算値とで異なっている。図13に示す場合には、上述の(2)式を用いることにより、演算値を実測値にフィッティングさせることができる。
【0108】
なお、図13の場合には、(2)式において、W1(G(fp)-Gm(fpm))、W2(fp-fpm)に加えて、w3(G(ε)-Gm(ε))、w4(G(fpl)-Gm(fpl))、w5(G(fph)-Gm(fph))の少なくとも一つが含まれた式を、評価関数として用いてもよい。また、図13の場合には、(2)式において、W1(G(fp)-Gm(fpm))、W2(fp-fpm)が含まれずに、w3(G(ε)-Gm(ε))、w4(G(fpl)-Gm(fpl))、w5(G(fph)-Gm(fph))が含まれた式を、評価関数として用いてもよい。
【0109】
図14は、粘性減衰係数が実測値と演算値とで異なる場合の周波数特性の一例を示す。図14では、共振周波数が実測値と演算値とで一致している一方、共振周波数におけるゲインが実測値と演算値とで異なっている。図14に示す場合には、以下の(3)式を用いることにより、演算値を実測値にフィッティングさせることができる。
【0110】
【数4】
【0111】
なお、図14の場合には、(3)式において、W1(G(fp)-Gm(fpm))、W2(fp-fpm)に加えて、w3(G(fpl)-Gm(fpl))、w4(G(fph)-Gm(fph))のいずれか一方が含まれた式を、評価関数として用いてもよい。また、図14の場合には、(3)式において、W1(G(fp)-Gm(fpm))に加えて、w3(G(fpl)-Gm(fpl))、w4(G(fph)-Gm(fph))のいずれか一方が含まれた式を、評価関数として用いてもよい。また、図14の場合には、(3)式において、W1(G(fp)-Gm(fpm))、W2(fp-fpm)が含まれずに、w3(G(fpl)-Gm(fpl))、w4(G(fph)-Gm(fph))が含まれた式を、評価関数として用いてもよい。
【0112】
図15は、ばね定数が実測値と演算値とで異なる場合の周波数特性の一例を示す。図15では、共振周波数が実測値と演算値とで異なっている一方、共振周波数におけるゲインが実測値と演算値とで一致している。図15に示す場合にも、(3)式を用いることにより、演算値を実測値にフィッティングさせることができる。
【0113】
なお、図15の場合も、(3)式において、W1(G(fp)-Gm(fpm))、W2(fp-fpm)に加えて、w3(G(fpl)-Gm(fpl))、w4(G(fph)-Gm(fph))のいずれか一方が含まれた式を、評価関数として用いてもよい。また、図15の場合には、(3)式において、W2(fp-fpm)が含まれずに、W1(G(fp)-Gm(fpm))に加えて、w3(G(fpl)-Gm(fpl))、w4(G(fph)-Gm(fph))のいずれか一方が含まれた式を、評価関数として用いてもよい。また、図15の場合には、(3)式において、W1(G(fp)-Gm(fpm))、W2(fp-fpm)が含まれずに、w3(G(fpl)-Gm(fpl))、w4(G(fph)-Gm(fph))が含まれた式を、評価関数として用いてもよい。
【0114】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0115】
前記実施形態2では、特性値推定装置100は、ばね定数k1,k3を分割せずに、粘性減衰係数c1~c3をそれぞれ5分割して、評価関数の最適解を求めている。しかしながら、特性値推定装置は、ばね定数及び粘性減衰係数の全てを分割してもよいし、ばね定数及び粘性減衰係数の少なくとも1つを分割してもよい。
【0116】
前記各実施形態では、制御対象Wは、4慣性系であり、モータ、トルク検出器及び供試体などを含む。しかしながら、制御対象Wは、3慣性系や5慣性系など、4慣性系以外の多慣性系であってもよいし、2慣性系であってもよい。また、制御対象Wは、上記以外の他の構成を含んでいてもよいし、上記以外の他の構成を有する軸系を含んでいてもよい。
【0117】
前記各実施形態では、第1特徴値は、共振周波数及びゲインである。第2特徴値は、共振周波数及びゲインである。しかしながら、第1特徴値は、共振周波数のみであってもよい。第2特徴値は、共振周波数のみであってもよい。また、第1特徴値は、制御対象Wの共振周波数及びそのゲイン以外の特徴値(モータの電流応答など)を含んでいてもよいし、その特徴値だけであってもよい。第2特徴値は、制御対象Wの共振周波数及びそのゲイン以外の特徴値(モータの電流応答など)を含んでいてもよいし、その特徴値だけであってもよい。
【0118】
前記各実施形定では、特性値推定装置1,100は、制御対象Wのばね定数k1,k3を推定している。しかしながら、特性値推定装置は、他のパラメータを推定してもよい。
【0119】
前記各実施形態では、最適化処理部14,140は、変数の探索領域において評価関数の最小値を最適解として求めている。しかしながら、最適化処理部は、前記探索領域において評価関数の最大値などの他の値を最適解として求めてもよい。この場合には、前記評価関数として、実施形態1の評価関数ではなく、前記他の値を最適解として求めることができるような評価関数を用いればよい。最適化処理部で用いられる評価関数は、前記各実施形態で用いられている評価関数とは別の評価関数であってもよい。
【0120】
前記各実施形態では、最適化処理部14,140は、変数の初期値を、探索領域または局所領域の最小値に設定している。しかしながら、最適化処理部は、変数の初期値を、探索領域または局所領域における他の値に設定してもよい。
【0121】
前記各実施形態では、探索領域の一例として、ばね定数k1,k3を変化させた場合の例が記載されている。しかしながら、前記探索領域は、制御対象の状態方程式の変数である他のパラメータを変化させた領域であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は、制御対象の特性値を推定する特性値推定装置及び特性値推定方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0123】
1、100、200 特性値推定装置
11、211 第1特徴値取得部
12、120 パラメータ設定部
13、213 第2特徴値算出部
14、140、214 最適化処理部
15 推定部
121 探索領域分割部
141 局所領域最適化処理部
142 最適解選択部
211a 第1取得部
211b 第2取得部
213a 第1演算部
213b 第2演算部
W 制御対象
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15