(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108548
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】クレーン
(51)【国際特許分類】
B66D 1/44 20060101AFI20230728BHJP
B66C 13/20 20060101ALI20230728BHJP
B66D 1/40 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
B66D1/44 E
B66C13/20
B66D1/40 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009723
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】503032946
【氏名又は名称】住友重機械建機クレーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 格
【テーマコード(参考)】
3F204
【Fターム(参考)】
3F204AA04
3F204BA09
3F204CA07
3F204GA04
(57)【要約】
【課題】バケットを安定して巻下げること。
【解決手段】第1ウインチ(6)と、第1ウインチを駆動する第1油圧モータ(31)と、第2ウインチ(7)と、第2ウインチを駆動する第2油圧モータ(13)と、アタッチメント(16)と、を備えたクレーンにおいて、第1ウインチと第2ウインチが同時に巻下げ動作し、かつ、アタッチメントの荷重が閾値を超えない場合であって、第1油圧モータの負荷圧力が所定値を超えた場合に、当該所定値を保持するように第1油圧モータのモータ容量を可変し、第2油圧モータの負荷圧力が所定値を超えた場合に、当該所定値を保持するように第2油圧モータのモータ容量を可変する第1制御(S7)を実行し、第1ウインチと第2ウインチが同時に巻下げ動作し、かつ、アタッチメントの荷重が閾値を超えている場合に、第1制御と異なる第2制御(S8)でモータ容量を制御する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ウインチと、前記第1ウインチに巻き掛けられた第1ロープと、前記第1ウインチを駆動する可変容量式の第1油圧モータと、
第2ウインチと、前記第2ウインチに巻き掛けられた第2ロープと、前記第2ウインチを駆動する可変容量式の第2油圧モータと、
前記第1ロープ及び前記第2ロープで吊られるアタッチメントと、を備えたクレーンにおいて、
前記第1ウインチと前記第2ウインチが同時に巻下げ動作し、かつ、前記アタッチメントの荷重が閾値を超えない場合であって、前記第1油圧モータの負荷圧力が所定値を超えた場合に、当該所定値を保持するように前記第1油圧モータのモータ容量を可変し、前記第2油圧モータの負荷圧力が前記所定値を超えた場合に、当該所定値を保持するように前記第2油圧モータのモータ容量を可変する第1制御を実行し、
前記第1ウインチと前記第2ウインチが同時に巻下げ動作し、かつ、前記アタッチメントの荷重が閾値を超えている場合に、前記第1制御に替えて前記第1制御と異なる第2制御で前記第1油圧モータ及び前記第2油圧モータのモータ容量を制御する、ことを特徴とするクレーン。
【請求項2】
請求項1に記載のクレーンにおいて、
前記第2制御が実行されると、前記第1油圧モータのモータ容量及び前記第2油圧モータのモータ容量が特定容量に固定される、ことを特徴とするクレーン。
【請求項3】
請求項1または2に記載のクレーンにおいて、
前記第2制御が実行されると、前記第1ウインチ及び前記第2ウインチが非操作となるまで前記第2制御が維持される、ことを特徴とするクレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
クレーンでは、ウインチ駆動用モータに可変容量式の油圧モータを用い、油圧モータの回路圧に応じてモータ容量(モータ傾転)を制御するようにしたものが知られている(例えば特許文献1参照)。この種の従来技術では、操作圧力の増加に伴いモータ容量を減少させると共に、モータ回路圧がサーボ弁の設定圧(カットオフ圧)に達すると、サーボ弁の切換によりモータ容量がそれ以上減少しないように構成し、回路圧が所定のカットオフ圧より大きくなることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クレーンの作業として、2つのウインチを同時に駆動してバケットを操作し、掘削作業を行う場合がある。この場合において巻下げ操作をした時、2つのウインチの負荷のバランスが崩れると、油圧モータが可変容量式であるため、一方のウインチでは負荷が小さくなって油圧モータが小傾転側に制御され、巻下げ速度が速くなる。ところが、他方のウインチでは負荷が大きくなり、負荷が所定値を超えると油圧モータが自動的に大傾転側に制御され、巻下げ速度が遅くなる。そのため、上記従来の技術では、一旦、2つのウインチの負荷のバランスが崩れると、2つのウインチを同調させることができず、バケットを安定して巻下げることが困難になってしまう。
【0005】
本発明は、複数のウインチを同時に駆動した場合において、作業効率を維持したままバケットを安定して巻下げることができるクレーンを提供することを目的として考案された。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、代表的な本発明は、第1ウインチと、前記第1ウインチに巻き掛けられた第1ロープと、前記第1ウインチを駆動する可変容量式の第1油圧モータと、第2ウインチと、前記第2ウインチに巻き掛けられた第2ロープと、前記第2ウインチを駆動する可変容量式の第2油圧モータと、前記第1ロープ及び前記第2ロープで吊られるアタッチメントと、を備えたクレーンにおいて、前記第1ウインチと前記第2ウインチが同時に巻下げ動作し、かつ、前記アタッチメントの荷重が閾値を超えない場合であって、前記第1油圧モータの負荷圧力が所定値を超えた場合に、当該所定値を保持するように前記第1油圧モータのモータ容量を可変し、前記第2油圧モータの負荷圧力が前記所定値を超えた場合に、当該所定値を保持するように前記第2油圧モータのモータ容量を可変する第1制御を実行し、前記第1ウインチと前記第2ウインチが同時に巻下げ動作し、かつ、前記アタッチメントの荷重が閾値を超えている場合に、前記第1制御に替えて前記第1制御と異なる第2制御で前記第1油圧モータ及び前記第2油圧モータのモータ容量を制御する、ことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、複数のウインチを同時に駆動した場合において、作業効率を維持したままバケットを安定して巻下げることができる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るクレーンの側面図である。
【
図2】主巻ウインチの駆動装置の全体構成図(油圧回路図)である。
【
図3】コントローラによる油圧モータのモータ傾転制御の処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】吊り荷重とモータ保持圧力との関係を示す図である。
【
図5】モータ傾転同調制御の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るクレーンの実施形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係るクレーンの側面図である。
図1に示すクレーン1は、クローラクレーンであり、走行体2と、旋回装置3を介して走行体2上に旋回可能に搭載された旋回体4と、旋回体4の先端部に起伏可能に取り付けられたブーム5と、ブーム5の先端に設けられたシーブ10,11及びシーブ17,18とを有している。シーブ10及びシーブ17を経由した主巻ロープ(第1ロープ)12と、シーブ11及びシーブ18を経由した補巻ロープ(第2ロープ)13とによって、アタッチメントの一例であるバケット16が吊り下げられている。
【0011】
なお、旋回体4にはキャブ9が設けられており、オペレータはキャブ9内で操作レバー25,26等(後述)を操作して、クレーン1の吊り荷作業や掘削作業を行う。ちなみに、操作レバー25,26は、非操作状態では中立位置にあり、オペレータが所定の方向に操作レバー25,26を傾けることで、所望の操作が可能となる。
【0012】
主巻ロープ12、補巻ロープ13は旋回体4に搭載された主巻ウインチ(第1ウインチ)6、補巻ウインチ(第2ウインチ)7にそれぞれ巻回され、各ウインチ6,7の駆動によって各ロープ12,13が巻き取りまたは繰り出されて、吊り荷が昇降する。そして、バケット16を主巻ロープ12及び補巻ロープ13で吊り下げて、主巻ウインチ6と補巻ウインチ7とを同時に駆動することで、バケット16を巻下げることができる。詳しくは後述するが、バケット16を安定して巻下げるために、各ウインチ6,7の巻下げ速度を同調させる制御が行われる。
【0013】
なお、ブーム5の先端部にはペンダントロープ14が接続されており、旋回体4に搭載された起伏ウインチ8の駆動により起伏ロープ15が巻き取りまたは繰り出されると、ペンダントロープ14を介してブーム5が起伏される。
【0014】
図2は、主巻ウインチ6の駆動装置の全体構成図(油圧回路図)である。
図2に示すように、主巻ウインチ6の駆動装置は、可変容量式の油圧ポンプ30と、一対のメイン管路37,38を介して供給される油圧ポンプ30からの圧油によって駆動する可変容量式の油圧モータ(第1油圧モータ)31と、油圧ポンプ30から油圧モータ31への圧油の流れを制御する方向制御弁32と、方向制御弁32と油圧モータ31の間に介装されるカウンターバランス弁33と、ポンプ吐出圧を制限するリリーフ弁(図示せず)と、主巻ウインチ6の駆動を指令する電気式の操作レバー25と、油圧モータ31のモータ容量(モータ傾転、モータ吸収量ともいう)を制御するモータ容量制御装置40と、を備える。
【0015】
油圧モータ31の出力軸と主巻ウインチ6のドラム6aとは連結しており、油圧モータ31の回転に連動してドラム6aが回転し、主巻ロープ12が巻き取りまたは繰り出される。なお、油圧ポンプ30は、旋回体4内に設けられたエンジン(図示せず)により駆動される。また、油圧ポンプ30のポンプ容量は、いわゆる馬力制御によりポンプ吐出圧に応じて制御され、油圧モータ31についても同様に馬力制御によりモータ容量が制御されている。
【0016】
操作レバー25からの操作信号は、コントローラ60を介して電磁切換弁55,56に入力される。電磁切換弁55,56は、常態では位置P1の状態である。オペレータが操作レバー25を操作すると、コントローラ60から電磁切換弁55,56に操作信号が入力され、電磁切換弁55,56は位置P1から位置P2に切り換わる。そうすると、油圧源であるパイロットポンプ47からの圧油(パイロット圧)が、方向制御弁32の受圧部32aまたは受圧部32bに導入され、方向制御弁32が位置A0から位置A1または位置A2に切り換わる。方向制御弁32が位置A1に切り換わると、主巻ウインチ6が巻上げられ、方向制御弁32が位置A2に切り換わると、主巻ウインチ6は巻下げられる。なお、
図2において、符号E1~E5は電気配線を示している。
【0017】
ここで、電気式の操作レバー25の代わりに、油圧式の操作レバーを用いても良い。この場合、油圧源からのパイロット圧を油圧式の操作レバーの操作により直接、方向制御弁32の受圧部32a,32bに導入すれば良い。また、方向制御弁32の代わりに電磁比例式の方向制御弁を用いても良い。この場合、パイロット圧を方向制御弁に導入する必要がないため、油圧配管を簡素化できる。
【0018】
主巻ウインチ6の巻上げ速度及び巻下げ速度は、モータ容量制御装置40によって制御される。モータ容量制御装置40は、油圧モータ31のモータ傾転を変化させるための装置であり、具体的には以下のように構成される。なお、主巻ウインチ6の巻上げ速度及び巻下げ速度は、油圧ポンプ30の吐出流量や各種バルブの開度によっても制御されるが、ここでの説明は省略する。
【0019】
油圧モータ31には斜板の角度(モータ傾転)を変化させるピストン41が設けられている。ピストン41の一方の油室41aにはメイン管路38の圧油が導入され、他方の油室41bにはメイン管路38の圧油が制御弁である負荷圧力制御スプール42、制御弁である傾転制御スプール44、及び絞り50を介して導入される。油室41b内のピストン径は油室41a内のピストン径よりも大きい。
【0020】
したがって、油室41aに導入される圧油の圧力にピストン断面積を乗じた値Xと、油室41bに導入される圧油にピストン断面積を乗じた値Yとの大小関係により、ピストン41は、a方向またはb方向に移動する。具体的には、値X>値Yのとき、ピストン41はa方向に移動してモータ傾転が大きくなる。その結果、油圧モータ31の回転速度が小さくなる(遅くなる)。一方、値X<値Yのとき、ピストン41はb方向に移動してモータ傾転が小さくなる。その結果、油圧モータ31の回転速度が大きくなる(速くなる)。
【0021】
負荷圧力制御スプール42は、ピストン43を備える。ピストン43の一方の油室43aにはメイン管路38の圧油が導入され、他方の油室43bにはメイン管路37の圧油が導入される。油室43aに作用する力と油室43bに作用する力の差と、ばね42aの付勢力とのバランスにより、負荷圧力制御スプール42は、位置B0から位置B1または位置B2に切り換わる。
【0022】
傾転制御スプール44は、ピストン45を備える。ピストン45の油室45aには固定容量式のパイロットポンプ47からの圧油(パイロット圧)が電磁比例弁46を介して導入される。パイロットポンプ47は、図示しないエンジンによって駆動される。なお、電磁比例弁46の開度はコントローラ60からの制御信号に応じて制御される。油室45aに作用する力とばね44aの付勢力とのバランスにより、傾転制御スプール44は、位置C0から位置C1または位置C2に切り換わる。
【0023】
負荷圧力制御スプール42が位置B1、かつ、傾転制御スプール44が位置C1に切り換わると、メイン管路38からの圧油が管路51を流れて、油室41bに導入される。なお、管路51には絞り50が設けられおり、油室41bに急激な流量の圧油が供給されないよう、圧油の流量が制限されている。
【0024】
一方、傾転制御スプール44が位置C2に切り換わると、油室41bとタンク34とが連通し、油室41b内の圧油がタンク34に戻る。
【0025】
なお、負荷圧力制御スプール42が位置B0、または、傾転制御スプール44が位置C0に切り換わると、モータ傾転が安定する。
【0026】
ここで、
図2において補巻ウインチ7を駆動するための油圧回路の構成を省略しているが、実際には主巻ウインチ6と同様の構成が設けられており、操作レバー26を操作することで補巻ウインチ7の油圧モータ(第2油圧モータ)131が回転し、補巻ウインチ7の油圧モータ131用のモータ容量制御装置140によって、油圧モータ131のモータ傾転が制御される。そして、操作レバー25と操作レバー26とを同時に操作することで、バケット16を巻下げて掘削作業を行うことができる。なお、本実施形態において、主巻ウインチ6の油圧モータ31と補巻ウインチ7の油圧モータ131とは、油圧ポンプ30に対して直列に接続されてシリーズ回路を構成している。即ち、油圧ポンプ30から吐出された圧油は、油圧モータ131に供給された後に油圧モータ31に供給される構成となっている。勿論、本発明は、このようなシリーズ回路に限定されない。
【0027】
次に、油圧モータ31,131のモータ傾転制御(モータ容量制御)について説明する。
図3は、コントローラ60による油圧モータ31,131のモータ傾転制御の処理手順を示すフローチャートである。
【0028】
コントローラ60は、CPUや記憶装置であるROM及びRAM、その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成される。コントローラ60は、操作レバー25,26と電気配線E1を介して接続されると共に、起伏ロープ15のロープ張力(吊り荷の荷重)を検出するラインプル検出器61と電気配線E2を介して電気的に接続されている(
図2参照)。そして、これらから入力される検知信号に基づいて、電磁切換弁55,56の動作を制御し、あるいは電磁比例弁46の動作を制御する。
【0029】
まず、コントローラ60は、バケット16の荷重を検出するために、ラインプル検出器61から起伏ロープ15のロープ張力Tのデータを取得し(ステップS1)、ロープ張力Tが閾値Trを超えているか閾値判定を行い、その判定結果を記憶する(ステップS2)。次いで、主巻ウインチ6の操作レバー25が操作中であるか否かを判定する(ステップS3)。操作レバー25が操作中である場合(ステップS3/Yes)には、コントローラ60は、補巻ウインチ7の操作レバー26が操作中であるか否かを判定する(ステップS4)。操作レバー26が操作中である場合(ステップS4/Yes)には、コントローラ60は、主巻ウインチ6と補巻ウインチ7とが同時に巻下げ操作中であるか否かを判定する(ステップS5)。
【0030】
主巻ウインチ6と補巻ウインチ7とが同時に巻下げ操作中でない場合(ステップS5/No)、コントローラ60は、主巻ウインチ6と補巻ウインチ7の巻上げ速度/巻下げ速度をそれぞれ単独で制御するモータ傾転単独制御を実行する(ステップS7)。一方、主巻ウインチ6と補巻ウインチ7とが同時に巻下げ操作中である場合(ステップS5/Yes)、コントローラ60は、ステップS2における閾値判定の結果を確認する。即ち、コントローラ60は、起伏ロープ15のロープ張力Tが閾値Trを超えているか否かを判定する(ステップS6)。
【0031】
ロープ張力Tが閾値Trを超えていると判定した場合(ステップS6/Yes)には、コントローラ60は、主巻ウインチ6と補巻ウインチ7の巻下げ速度を同調させるモータ傾転同調制御を実行する(ステップS8)。一方、ロープ張力Tが閾値Tr以下であると判定した場合(ステップS6/No)には、コントローラ60は、主巻ウインチ6と補巻ウインチ7の巻下げ速度をそれぞれ単独で制御するモータ傾転単独制御を実行する(ステップS7)。なお、操作レバー25が操作されてない場合、及び操作レバー26が操作されていない場合(ステップS3/No、ステップS4/No)は、処理を終了する。
【0032】
ここで、ステップS1において、起伏ロープ15のロープ張力Tのデータを取得する代わりに、主巻ロープ12のロープ張力T1と補巻ロープ13のロープ張力T2とを取得し、これらの合計値(T1+T2)が閾値を超えているかを判定しても良い。即ち、吊り荷であるバケット16の荷重を検出できれば、その検出手段は問わない。尚、バケット16の荷重とは、バケット16が内容物を保持している状態では、内容物の重量を含んだ荷重のことを指す。
【0033】
次に、ステップS7で実行されるモータ傾転単独制御(第1制御)について説明する。モータ傾転単独制御とは、一般的に行われる可変容量式の油圧モータの制御であり、モータ保持圧力(負荷圧力)が所定値を超えると、モータ傾転を自動的に小傾転から大傾転側に可変する制御のことである。以下、
図4を用いて詳細に説明する。
【0034】
図4は、吊り荷重とモータ保持圧力との関係を示す図である。
図4に示すように、横軸に吊り荷重(ロープ張力)、縦軸にモータ保持圧力を取ると、油圧モータ31,131を小傾転で運転した場合には、吊り荷重の増加に伴って、モータ保持圧力は点Aから点Bへと直線的に変化し、油圧モータ31,131を大傾転で運転した場合には、モータ保持圧力は点Cから点Dへと直線的に変化する。小傾転で運転した方が大傾転で運転するよりも吊り荷重の増加に伴うモータ保持圧力の増加の傾きは大きい。
【0035】
そして、油圧モータ31,131を小傾転で運転している際、モータ保持圧力が所定値Paになると、それ以上モータ保持圧力が高くならないようにするために、油圧モータ31,131に搭載されている図示しないレギュレータにより、自動的にモータ傾転を大傾転側に移動させる。つまり、
図4の点Eから点Fまでの間(ロープ張力Ta~Tb間)、モータ傾転が小傾転から大傾転に移動するため、吊り荷重が増加してもモータ保持圧力は所定値Paに保持される。この機能により、モータ傾転単独制御中は、油圧モータ31,131は、点A→点E→点F→点Dを結ぶ線に沿って、吊り荷重の増加に伴ってモータ保持圧力が増加するように制御される。
【0036】
ところで、上述したように、点Eから点Fの間は、モータ保持圧力が所定値Paを超えないようにモータ傾転が自動的に大傾転側に移動するため、油圧モータ31,131のモータ傾転はモータ負荷に応じて自動的に可変することとなる。よって、この間は、吊り荷重が変化すると回転速度も変化してしまう。そのため、点Eから点Fの間において、主巻ウインチ6と補巻ウインチ7とを同時に巻下げ操作した場合、両ウインチ6,7の荷重のバランスが変化すると巻下げ速度を同調させることが困難となる。そこで、本実施形態では、主巻ウインチ6と補巻ウインチ7とを同時に巻下げ操作中(
図3のステップS3/Yes)、かつ、ロープ張力Tが、点Eに対応するロープ張力Ta(モータ傾転が自動的に大傾転側に移動を開始するロープ張力)より若干小さい値である閾値Trを超えた場合(
図3のステップS6/Yes)に、モータ傾転同調制御(第2制御/
図3のステップS8)を実行するようにしている。モータ傾転同調制御について、
図5を用いて以下説明する。
【0037】
図5は、本実施形態に係るモータ傾転同調制御の詳細を示すフローチャートである。
図5に示すように、モータ傾転同調制御が開始されると、コントローラ60は、モータ容量制御装置40,141を制御して、主巻ウインチ6の油圧モータ31及び補巻ウインチ7の油圧モータ131を最大傾転(特定容量)に固定する(ステップS81)。
【0038】
具体的には、コントローラ60が電磁比例弁46を切り換えて、油室45a内のパイロット圧をタンク34に戻す。すると、ばね44aの付勢力により、傾転制御スプール44が位置C2に切り換わって、油室41b内の圧油が管路51を流れてタンク34に戻される。このとき油室41aにはメイン管路38からの圧油が導入されているから、ピストン41はa方向に移動し、油圧モータ31のモータ傾転θ1は最大傾転に固定される。即ち、油圧モータ31は、最大傾転に相当する特定容量となるよう制御される。同様の制御により、油圧モータ131のモータ傾転θ2も最大傾転に固定される。こうして、主巻ウインチ6及び補巻ウインチ7が、同じ巻下げ速度で回転し、バケット16はゆっくり安定して下降する。
【0039】
そして、コントローラ60は、ステップS82において、操作レバー25,26が操作中であるか否かを判定し、操作レバー25,26が操作中である場合(S82/Yes)には、ステップS81に戻ってモータ傾転θ1,θ2を最大傾転に固定した状態を継続する。一方、操作レバー26,26が非操作であると判定した場合、別言すると、操作レバー25,26が中立位置にあると判定した場合、コントローラ60は、モータ傾転の固定を解除して(ステップS83)、処理を終了する。
【0040】
本実施形態に係るモータ傾転同調制御について、
図4を用いてさらに説明を加える。モータ傾転同調制御が実行されると、油圧モータ31,131のモータ傾転を最大傾転(最大モータ容量)に固定する。そのため、本実施形態では、点A→点E´→点G→点F→点Dの線に沿って、油圧モータ31,131のモータ傾転が制御される。
【0041】
よって、従来は、点Eと点Fとの間、モータ傾転が小傾転から大傾転側へ可変中であるため、両ウインチ6,7の巻下げ速度を同調させることが難しかったところ、第2実施形態では、点E´からモータ傾転を大傾転に固定するよう制御するため、油圧モータ31,131を点Eと点Fの間で運転するのを回避できる。したがって、主巻ウインチ6と補巻ウインチ7とを同時に駆動して、バケット16を巻下げる場合であっても、バケット16を安定して巻下げる(下降させる)ことができる。
【0042】
しかも、起伏ロープ15のロープ張力Tが閾値Trを超えた場合に限って、モータ傾転θ1,θ2を最大傾転に固定するようにしているため、作業効率の低下を抑えることができる。即ち、本実施形態では、バケット16が大きな荷重の内容物を掴んで巻下げる場合に限って、最大傾転(特定容量)となるように制御しており、内容物を何も掴んでいない場合のように十分に軽量の場合は小傾転で高速に運転することができるため、作業効率の低下を極力抑えつつ、安定した姿勢で巻下げを行うことができる。
【0043】
また、モータ傾転同調制御が開始されると、操作レバー25,26が非操作になるまで(ステップS82でNoになるまで)当該制御が継続するため、バケット16の巻下げ操作を安定して行える。
【0044】
ここで、本実施形態の作用効果について、さらに説明を加える。例えば、油圧モータ31と油圧モータ131のうちモータ負荷圧力が高い方の圧力を使用して、油圧モータ31,131のモータ傾転を制御する構成が考えられる。しかしながら、この構成の場合、初期状態で2つのロープ12,13のロープ張力が一致している状態では、モータ傾転が可変する圧力に到達しない。また、2つのロープ12,13のロープ張力のバランスが崩れた段階で、モータ傾転の同時可変制御が始まると、主巻ウインチ6と補巻ウインチ7の荷重バランスが崩れたまま、バケット16が降下することになる。
【0045】
これに対して、本実施形態によれば、主巻ウインチ6と補巻ウインチ7とが同時に巻下げ動作している場合であって、バケット16の荷重が閾値を超えている場合に、モータ傾転同調制御を実行する構成としているため、作業効率の低下を極力抑えつつ、安定した姿勢で巻下げを行うことができる。
【0046】
また、例えば、巻下げ運転時にのみ、特定のモータ容量(モータ傾転)に固定する制御を行う構成にすると、巻下げ中は常にウインチ6,7のウインチ速度が低速で運転されることとなり、作業効率が低下してしまう。
【0047】
これに対して、本実施形態によれば、バケット16の荷重が閾値を超えているか否かにより、モータ傾転同調制御を行うか否かを決定しているため、作業効率の低下を防ぐことができる。以上のように、本実施形態によれば、複数のウインチ6,7を同時に駆動した場合において、作業効率を維持したままバケット16を安定して巻下げることができる。
【0048】
(その他の実施形態への言及)
なお、本発明は前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【0049】
例えば、本実施形態において、起伏ロープ15のロープ張力Tをラインプル検出器61を用いて検出し、バケット16(吊り荷)の荷重を計測したが、その他のセンサを用いてバケット16の荷重を検出しても良い。また、油圧回路の回路圧を検出する圧力センサを設け、この圧力センサで検出した回路圧が所定値(例えば、リリーフ圧の60%)を超えた場合に、アタッチメントであるバケット16の荷重が閾値を超えたと判定し、モータ傾転θ1,θ2を最大傾転に固定するようにしても良い。
【0050】
また、バケット16を吊下げた状態で、起伏ウインチ8を駆動してブーム5を起立させた際の起伏ウインチ8用の油圧モータの圧力が所定の閾値を超えた場合には、コントローラ60は、重量物であるバケット16を吊下げた状態であると判定できる。その場合、コントローラ60は、起伏ウインチ8用の油圧モータの圧力が所定の閾値を超えたことを例えばフラグを立てて記憶しておき、操作レバー25,26が同時に巻下げ操作されたときに、フラグが成立していたことに基づいて、油圧モータ31,131を最大傾転に固定するよう制御しても良い。この場合も、バケット16を安定して巻下げ操作できる。
【0051】
また、本実施形態において、モータ傾転θ1,θ2を最大傾転より若干小さいモータ傾転(例えば最大傾転の80%程度)に固定するようにしても良く、検出された張力の値によりその値を任意に設定しても良い。即ち、バケット16を主巻ロープ12及び補巻ロープ13で吊り下げて、主巻ウインチ6及び補巻ウインチ7を同時に巻下げ操作したときに、点Eから点Fの間(
図4参照)で油圧モータ31,131の運転を避けることができれば、モータ傾転の角度は問わない。バケット16が安定して巻下げられる程度に油圧モータ31,131の回転速度を小さくすれば良い。この際、モータ傾転の固定は、あらゆる手段を用いれば良い。油圧モータ31,131の斜板を物理的に固定する構成としても良いし、モータ容量制御装置40,140の制御により斜板を所望の角度に固定する構成としても良い。
【0052】
なお、本発明において、油圧モータは可変容量式であればあらゆる形式のものを採用可能であることは言うまでもない。
【0053】
また、操作レバー25,26等の各ウインチの操作レバーはクレーン1のキャブ9ではなく、例えばクレーン1とは遠隔の遠隔操作室に配置されていても良い。また、操作レバー25,26の代わりに操作ダイヤル等の装置を用いても良いし、ウインチ6,7等の巻上げ/巻下げ速度をタッチパネルや携帯端末等などの操作部から入力し、コントローラ60がその入力値(速度値)に対応する電流指令値を電磁切換弁55,56に出力する構成としても良い。即ち、ウインチ6,7等の回転速度を指示する手段として、操作者が操作レバー25,26の操作量により指示する手段のほかに、操作ダイヤルによる指示や速度値の直接入力による指示など、あらゆる手段を用いることができる。
【0054】
また、クレーンの一例として、クローラクレーンを例示したが、本発明は、これに限らず、ホイールクレーン、トラッククレーン、ラフテレーンクレーン、オールテレーンクレーン等の他の移動式クレーンに加えて、タワークレーン、天井クレーン、ジブクレーン、引込みクレーン、スタッカークレーン、門型クレーン、アンローダ、アースドリル等の基礎機械等のあらゆるクレーンに適用可能である。また、アタッチメントの一例として、
図1に示すようにグラブバケット16を例示したが、本発明は、複数のウインチで動作するアタッチメントであればあらゆる形式のものを用いることができ、例えば、クラムシェル、ハンマグラブ、連壁装置なども適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 クレーン
2 走行体
3 旋回装置
4 旋回体
5 ブーム
6 主巻ウインチ(第1ウインチ)
7 補巻ウインチ(第2ウインチ)
8 起伏ウインチ
9 キャブ
10,11 シーブ
12 主巻ロープ(第1ロープ)
13 補巻ロープ(第2ロープ)
14 ペンダントロープ
15 起伏ロープ
16 バケット(アタッチメント)
17,18 シーブ
25,26 操作レバー
30 油圧ポンプ
31 油圧モータ(第1油圧モータ)
32 方向制御弁
32a,23b 受圧部
33 カウンターバランス弁
34 タンク
37,38 メイン管路
40 モータ容量制御装置
41 ピストン
41a,41b 油室
42 負荷圧力制御スプール
42a ばね
43 ピストン
43a,43b 油室
44 傾転制御スプール
44a ばね
45 ピストン
45a 油室
46 電磁比例弁
47 パイロットポンプ
50 絞り
51 管路
55,56 電磁切換弁
60 コントローラ
61,62 ラインプル検出器
131 油圧モータ(第2油圧モータ)
140 モータ容量制御装置
E1~E5 電気配線