IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友重機械エンバイロメント株式会社の特許一覧

特開2023-108561排水処理装置、排水処理方法及び排水処理装置の制御プログラム
<>
  • 特開-排水処理装置、排水処理方法及び排水処理装置の制御プログラム 図1
  • 特開-排水処理装置、排水処理方法及び排水処理装置の制御プログラム 図2
  • 特開-排水処理装置、排水処理方法及び排水処理装置の制御プログラム 図3
  • 特開-排水処理装置、排水処理方法及び排水処理装置の制御プログラム 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108561
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】排水処理装置、排水処理方法及び排水処理装置の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/00 20230101AFI20230728BHJP
   C02F 1/58 20230101ALI20230728BHJP
【FI】
C02F1/00 K
C02F1/58 M
C02F1/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009751
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恭介
【テーマコード(参考)】
4D038
【Fターム(参考)】
4D038AA08
4D038AB41
4D038BA04
4D038BA06
4D038BB18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】消石灰スラリーの供給を伴う排水処理において、消石灰スラリーによる配管閉塞を抑制し、かつ、pH中性領域においても消石灰スラリーの供給制御を適切に行うことができる排水処理装置、排水処理方法及び排水処理装置の制御プログラムを提供する。
【解決手段】消石灰スラリーの供給による反応を行う反応手段と、流量計及び開閉弁を備えるスラリーの供給手段と、被処理水の流量及び消石灰との反応対象成分の濃度に基づき、スラリーの必要供給量を演算する演算手段と、スラリーの供給積算値がこの必要供給量以上となるように開閉弁のON/OFF制御を行う制御手段とを備える排水処理装置、並びにこの装置に係る排水処理方法及び制御プログラムとする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に対して消石灰スラリーを供給し、反応を進行させる反応手段と、
消石灰スラリーの流量を測定する流量計及び開閉弁を備える消石灰スラリーの供給手段と、
被処理水の流量及び消石灰との反応対象成分の濃度に基づき、消石灰スラリーの必要供給量を演算する演算手段と、
前記供給手段による消石灰スラリーの供給積算値が、前記演算手段で求めた必要供給量以上となるように、前記開閉弁のON/OFF制御を行う制御手段と、を備えることを特徴とする、排水処理装置。
【請求項2】
前記反応手段は、反応槽を備え、
前記反応手段における1回のバッチ時間を1分以上10分以下とし、
前記制御手段による前記開閉弁の開時間及び閉時間を、1回のバッチ時間当たり3秒以上とすることを特徴とする、請求項1に記載の排水処理装置。
【請求項3】
被処理水に対して消石灰スラリーを供給し、反応を進行させる反応ステップと、
消石灰スラリーの流量を測定する流量計及び開閉弁を備える消石灰スラリーの供給ステップと、
被処理水の流量及び消石灰との反応対象成分の濃度に基づき、消石灰スラリーの必要供給量を演算する演算ステップと、
前記供給ステップによる消石灰スラリーの供給積算値が、前記演算ステップで求めた必要供給量以上となるように、前記開閉弁のON/OFF制御を行う制御ステップと、を備えることを特徴とする、排水処理方法。
【請求項4】
被処理水に対して消石灰スラリーを供給し、反応を進行させる反応手段と、
消石灰スラリーの流量を測定する流量計及び開閉弁を備える消石灰スラリーの供給手段と、を備える排水処理装置の制御プログラムであって、
被処理水の流量及び消石灰との反応対象成分の濃度に基づき、消石灰スラリーの必要供給量を演算する演算機能と、
前記供給手段による消石灰スラリーの供給積算値が、前記演算機能で求めた必要供給量以上となるように、前記開閉弁のON/OFF制御を行う制御機能と、を実行させることを特徴とする、排水処理装置の制御プログラム。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理装置、排水処理方法及び排水処理装置の制御プログラムに関するものである。特に、本発明は、消石灰スラリーの供給を伴う排水処理装置、排水処理方法及び排水処理装置の制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
排水処理に係る処理手段は様々なものが知られており、排水中の除去対象成分に応じて処理手段を選択することが行われている。例えば、処理手段の一例としては、排水中の除去対象成分に応じて各種処理剤の添加を行うものが挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、フッ化物イオン含有排水の処理として、カルシウム化合物を添加するものが記載されている。また、特許文献1には、カルシウム化合物として消石灰(Ca(OH))を用いること、及び、反応槽におけるpH値が特定の範囲を満たすように、配管を介し、pH計に連動するバルブを操作してカルシウム化合物を添加することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-293474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、排水処理における添加剤として消石灰を用いる場合、粉体の状態では取扱いが困難であることや、少量で高濃度のカルシウムイオンあるいは水酸化物イオンを添加できることから、スラリーの状態で用いることが知られている。
しかし、消石灰スラリーの供給においては、スラリーの特性上、消石灰スラリーが配管内で固化や付着(以下、この現象をまとめて「固着」と呼ぶ)を起こしやすく、配管閉塞のリスクを伴うという問題がある。
一方、特許文献1には、消石灰の供給において、pHに基づき配管に設けられたバルブを操作することは記載されているが、配管閉塞のリスク回避に関することについては特に開示されていない。
【0006】
また、特許文献1には、消石灰の供給に際し、pHに基づく供給制御を行うことが示されているが、消石灰を供給する排水処理としては、消石灰と酸とを同じ反応槽に供給し、pH中性領域で処理を行うものも知られている。このような処理においては、pHを中性領域に維持するためにも消石灰を消費することになる。このため、pHに基づく消石灰の供給制御を行うと、排水処理における処理対象との反応に必要とされる消石灰の量と、pH調整に必要な消石灰の量の区別をつけることが困難であり、消石灰の過剰供給につながることになる。したがって、pHに基づく供給制御では、消石灰を添加剤として用いる排水処理全般にわたって、消石灰の供給量を適切に制御することが困難であり、特にpH中性領域において適切に機能する消石灰の供給制御が求められる。
【0007】
本発明の課題は、消石灰スラリーの供給を伴う排水処理において、消石灰スラリーによる配管閉塞を抑制し、かつ、pH中性領域においても消石灰スラリーの供給制御を適切に行うことができる排水処理装置、排水処理方法及び排水処理装置の制御プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、消石灰スラリーの供給を伴う排水処理において、必要となる消石灰スラリーの量を演算するとともに、演算した消石灰スラリー量及び消石灰スラリーの積算供給量に基づき、開閉弁のON/OFF制御を行うことで、消石灰スラリーが配管に固着して配管閉塞が生じることを抑制するとともに、消石灰スラリーの過剰供給の抑止が可能となることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の排水処理装置、排水処理方法及び排水処理装置の制御プログラムである。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の排水処理装置は、被処理水に対して消石灰スラリーを供給し、反応を進行させる反応手段と、消石灰スラリーの流量を測定する流量計及び開閉弁を備える消石灰スラリーの供給手段と、被処理水の流量及び消石灰との反応対象成分の濃度に基づき、消石灰スラリーの必要供給量を演算する演算手段と、供給手段による消石灰スラリーの供給積算値が、演算手段で求めた必要供給量以上となるように、開閉弁のON/OFF制御を行う制御手段と、を備えることを特徴とするものである。
本発明の排水処理装置によれば、消石灰スラリーの供給制御として、開閉弁のON/OFF制御に基づく消石灰スラリーの供給、及び、演算した消石灰スラリーの必要供給量と消石灰スラリーの供給積算値とを用いた制御を行うことで、消石灰スラリーの供給時に配管内でのスラリーの固着を抑制するとともに、pH制御によらない消石灰スラリーの供給制御を可能とし、消石灰スラリーの過剰供給を抑止することが可能となる。これにより、被処理水に対して消石灰スラリーを供給する反応(排水処理)において、消石灰スラリーによる配管閉塞を抑制し、かつ、pH中性領域においても消石灰スラリーの供給制御を適切に行うことが可能となる。
【0010】
また、本発明の排水処理装置の一実施態様としては、反応手段は、反応槽を備え、反応手段における1回のバッチ時間を1分以上10分以下とし、制御手段による開閉弁の開時間及び閉時間を、1回のバッチ時間当たり3秒以上とするという特徴を有する。
この特徴によれば、消石灰スラリーを用いた反応をバッチ式で行うことができ、消石灰及び消石灰との反応対象成分の接触効率を高め、反応効率(処理効率)を向上させることができる。このとき、バッチ時間が長過ぎると消石灰及び消石灰との反応対象成分の接触効率が低下していく一方、バッチ時間が短過ぎると、供給手段として設ける開閉弁の操作に係る制御が困難となる。また、消石灰スラリーを供給するための開閉弁の開時間及び閉時間について、いずれも短過ぎると開閉操作に係る操作性が低下する。したがって、バッチ時間の上限及び下限、並びに、開閉弁の開閉時間の下限を設定することで、消石灰スラリーによる配管閉塞の抑制及びpH中性領域における適切な消石灰スラリーの供給制御と併せて、効率的かつ効果的な排水処理を行うことが可能となる。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の排水処理方法は、被処理水に対して消石灰スラリーを供給し、反応を進行させる反応ステップと、消石灰スラリーの流量を測定する流量計及び開閉弁を備える消石灰スラリーの供給ステップと、被処理水の流量及び消石灰との反応対象成分の濃度に基づき、消石灰スラリーの必要供給量を演算する演算ステップと、供給ステップによる消石灰スラリーの供給積算値が、演算ステップで求めた必要供給量以上となるように、開閉弁のON/OFF制御を行う制御ステップと、を備えるという特徴を有する。
本発明の排水処理方法によれば、消石灰スラリーの供給制御に係るステップとして、開閉弁のON/OFF制御に基づく消石灰スラリーの供給、及び、演算した消石灰スラリーの必要供給量と消石灰スラリーの供給積算値とを用いた制御を含む各ステップを行うことで、消石灰スラリーの供給時に配管内でのスラリーの固着を抑制するとともに、pH制御によらない消石灰スラリーの供給制御を可能とし、消石灰スラリーの過剰供給を抑止することが可能となる。これにより、被処理水に対して消石灰スラリーを供給する反応(排水処理)において、消石灰スラリーによる配管閉塞を抑制し、かつ、pH中性領域においても消石灰スラリーの供給制御を適切に行うことが可能となる。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の排水処理装置の制御プログラムは、被処理水に対して消石灰スラリーを供給し、反応を進行させる反応手段と、消石灰スラリーの流量を測定する流量計及び開閉弁を備える消石灰スラリーの供給手段と、を備える排水処理装置の制御プログラムであって、被処理水の流量及び消石灰との反応対象成分の濃度に基づき、消石灰スラリーの必要供給量を演算する演算機能と、供給手段による消石灰スラリーの供給積算値が、演算機能で求めた必要供給量以上となるように、開閉弁のON/OFF制御を行う制御機能と、を実行させるという特徴をという特徴を有する。
本発明の排水処理装置の制御プログラムによれば、開閉弁を介した消石灰スラリーの供給を伴う排水処理装置において、消石灰スラリーの供給制御として、消石灰スラリーの必要供給量の演算、及び、演算した消石灰スラリーの必要供給量と消石灰スラリーの供給積算値とを用いた開閉弁のON/OFF制御を実行することで、消石灰スラリーの供給時に配管内でのスラリーの固着を抑制するとともに、pH制御によらない消石灰スラリーの供給制御に係る自動制御が可能となる。これにより、被処理水に対して消石灰スラリーを供給する反応(排水処理)において、消石灰スラリーによる配管閉塞を抑制し、かつ、pH中性領域においても消石灰スラリーの供給制御の最適化が容易となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、消石灰スラリーの供給を伴う排水処理において、消石灰スラリーによる配管閉塞を抑制し、かつ、pH中性領域においても消石灰スラリーの供給制御を適切に行うことができる排水処理装置、排水処理方法及び排水処理装置の制御プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施態様の排水処理装置を示す概略説明図である。
図2】本発明の実施態様の排水処理装置における制御ステップの一例を示すフロー図である。
図3】本発明の実施態様の排水処理装置における消石灰スラリーの供給制御の一例を模式的に示すグラフである。
図4】本発明の実施態様の排水処理装置の別態様を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の排水処理装置、排水処理方法及び排水処理装置の制御プログラムは、消石灰スラリーの供給を伴う排水処理に利用されるものである。特に、本発明の排水処理装置、排水処理方法及び排水処理装置の制御プログラムは、反応槽内に貯留された所定量の被処理水に対して消石灰スラリーの供給を行うという、いわゆるバッチ式による排水処理に好適に利用されるものである。
【0016】
本発明における被処理水Wとしては、被処理水W内に消石灰と反応する反応対象成分を含むものであればよく、特に限定されない。ここで、消石灰との反応対象成分としては、被処理水Wからの除去対象成分であるフッ素等のほか、消石灰との反応によるpH調整(中和)が生じる水素イオンが挙げられる。なお、以下、「消石灰との反応対象成分」は、単に「反応対象成分」と呼ぶことがある。
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る排水処理装置、排水処理方法及び排水処理装置の制御プログラムの実施態様を詳細に説明する。なお、本発明の排水処理方法及び排水処理装置の制御プログラムについては、以下の排水処理装置の構造及びの作動の説明に置き換えるものとする。また、実施態様に記載する排水処理装置の構造については、本発明に係る排水処理装置を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0018】
[実施態様]
(排水処理装置)
図1は、本発明の実施態様における排水処理装置10の概略説明図である。
本実施態様に係る排水処理装置10は、図1に示すように、被処理水Wが供給される反応槽1と、消石灰スラリーSを反応槽1に供給する供給手段2と、消石灰スラリーSの必要供給量を演算する演算手段3と、消石灰スラリーSの供給に係る制御を行う制御手段4と、を備えている。なお、図1において、一点鎖線の矢印は、制御可能あるいは入力可能に接続されていることを示している。
【0019】
本実施態様の排水処理装置10では、反応槽1内の被処理水Wに対し、供給手段2を介して消石灰スラリーSが供給され、反応が進行する。反応槽1内で進行する反応は、消石灰と消石灰との反応対象成分との反応であり、本実施態様においては、消石灰との反応対象成分として被処理水W中の除去対象成分(フッ素)を例にとり、以下説明を行う。
【0020】
本実施態様の反応槽1は、被処理水Wに対して消石灰スラリーSを供給し、反応を進行させる反応ステップを行うためのものである。
反応槽1は、被処理水Wを貯留することができる槽であればよく、構造や材質については特に限定されない。
また、反応槽1には、被処理水Wを供給するラインL1と、消石灰スラリーSとの反応後の処理水W1を排出するラインL2が接続されている。ここで、ラインL1には、後述する演算手段3において演算パラメータの一つとして用いるために、被処理水Wの供給流量を測定する流量計11が設けられる。
さらに、反応槽1には、後述する供給手段2が接続されており、供給手段2を介して消石灰スラリーSが被処理水Wに供給される。
【0021】
ここで、本実施態様の反応槽1としては、いわゆるバッチ式の排水処理において汎用される反応槽を用いることが挙げられる。消石灰スラリーSを用いた反応をバッチ式で行うことにより、消石灰及び消石灰との反応対象成分の接触効率を高め、反応効率(処理効率)を向上させることができる。
このとき、バッチ時間が長過ぎると消石灰及び消石灰との反応対象成分の接触効率が低下していく一方、バッチ時間が短過ぎると、後述する供給手段2として設ける開閉弁24の操作に係る制御が困難となる。したがって、本実施態様の反応槽1におけるバッチ時間の上限及び下限を設定することで、効率的かつ効果的な排水処理を行うことが可能となる。
本実施態様におけるバッチ時間の下限としては、1分以上とすることが挙げられる。一方、本実施態様におけるバッチ時間の上限としては、10分以下とすることが挙げられる。これにより、消石灰スラリーSの適切な供給制御と併せて、効率的かつ効果的な排水処理を行うことが可能となる。
【0022】
反応槽1には、被処理水Wに含まれる消石灰との反応対象成分(フッ素)と消石灰スラリーSとの反応効率を高め、被処理水Wの処理効率向上のための手段を設けるものとしてもよい。例えば、反応槽1内に撹拌機構(不図示)を備えることなどが挙げられる。
【0023】
供給手段2は、反応槽1に消石灰スラリーSを供給する供給ステップを行うためのものである。
本実施態様の供給手段2は、図1に示すように、消石灰スラリーSを貯留する貯留槽21と、貯留槽21から反応槽1に対して消石灰スラリーSを移送する配管22と、配管22上に設けられる消石灰スラリーSの流量を測定する流量計23及び開閉弁24を備えている。さらに、配管22には、分岐路25を設け、この分岐路25を貯留槽21に接続することで消石灰スラリーSの循環路を形成することが好ましい。これにより、消石灰スラリーSを反応槽1に供給しない間についても、消石灰スラリーSが配管22内に滞留することによる固着の抑制が可能となる。
【0024】
本実施態様の供給手段2における開閉弁24は、配管22上に設けられ、ON/OFF制御を行うことができるものであればよく、弁(バルブ)の構造については特に限定されない。本実施態様における開閉弁24の具体的な例としては、開度0%と開度100%とを切換え可能な電磁弁が挙げられるが、これに限定されない。開閉弁24の他の例としては、開度を段階的あるいは自在に調節できる調節弁であって、開度0%と設定した所定開度との2つの開度のみを切り換える制御が可能なものなどが挙げられる。
【0025】
また、供給手段2として、後述する演算手段3において演算パラメータの一つとして用いるために、消石灰スラリーSの濃度を測定する濃度計を備えるものとしてもよい(不図示)。
さらに、供給手段2として、貯留槽21内に撹拌機構を設けるものとしてもよい(不図示)。これにより、貯留槽21内における消石灰スラリーSの分散性低下(濃度変動)を抑制し、消石灰スラリーSを安定して供給することが可能となる。
【0026】
演算手段3は、被処理水W中の反応対象成分(フッ素)との反応に際して供給すべき消石灰スラリーSの必要供給量を演算するためのものであり、本実施態様においては反応槽1に供給すべき消石灰スラリーSの必要供給量を演算するためのものである。
なお、ここで、「供給すべき消石灰スラリーSの必要供給量」とは、反応槽1における反応として所望する結果を得るために必要な消石灰スラリーSの供給量のことである。より具体的には、例えば、反応対象成分がフッ素のような被処理水Wからの除去対象成分である場合、供給すべき消石灰スラリーSの必要供給量とは、被処理水W中のフッ素除去に必要となる消石灰スラリーSの供給量のことを指すものとなる。また、別の例としては、反応対象成分が水素イオンである場合、供給すべき消石灰スラリーSの必要供給量とは、被処理水WのpHを所定のpHに調整するために必要となる消石灰スラリーSの供給量のことを指すものとなる。
【0027】
本実施態様の演算手段3は、反応槽1に供給される被処理水Wの流量と、被処理水W中の反応対象成分(フッ素)濃度を演算パラメータとして用い、消石灰スラリーSの必要供給量を演算することができるものであればよく、例えば、作業者の手動による操作を含むものであってもよいが、情報取得のためのデータ入出力機能を有し、演算に必要なプログラムをCPU等のプロセッサにより実行する計算装置を用いること等が挙げられる。
【0028】
演算手段3で用いる演算パラメータである反応槽1に供給される被処理水Wの流量と、被処理水W中の反応対象成分(フッ素)濃度については、各計測手段によって測定した結果を用いるものであってもよく、設定値として作業者が入力するものであってもよい。
演算パラメータ取得の一例として、例えば、図1に示すように、反応槽1に被処理水Wを供給するラインL1上の流量計11と演算手段3とを入出力可能に接続し、被処理水Wの流量に係るデータを直接演算手段3に入力することが挙げられる。また、被処理水W中の反応対象成分の濃度を計測する濃度計測手段12を設け、この濃度計測手段12と演算手段3とを入出力可能に接続し、反応対象成分の濃度に係るデータを直接演算手段3に入力することが挙げられる。
このとき、濃度計測手段12としては、反応対象成分の濃度を測定することができるものであればよく、本実施態様においてはフッ素濃度計を用いることが挙げられる。なお、反応対象成分が水素イオンの場合、濃度計測手段12としてはpH計を用いることが挙げられる。また、図1に示すように、濃度計測手段12をラインL1上に設けることのほか、反応槽1内に濃度計測手段12を設けるものとしてもよい。さらに、濃度計測手段12による計測は、リアルタイムで反応対象成分の濃度を常時計測することのほか、被処理水Wの排出状況についての変動が少ない場合、一定間隔ごと(1日当たり1回~数回など)の定期的なサンプリング及び反応対象成分の濃度計測を行い、この計測結果を演算手段3に入力することなどが挙げられる。
【0029】
演算手段3における演算の一例について説明する。ここで、反応対象成分としてフッ素を用いた場合を例にとり、説明を行う。
まず、反応槽1に対して供給すべき消石灰の必要供給量(a)[kg/h]を算出する。消石灰の必要供給量(a)は、以下の式1により演算する。
【数1】
ここで、bは被処理水Wの流量[m/h]、cは反応対象成分(フッ素)の濃度[mg/L]、dはカルシウムの添加率[倍]、eは反応対象成分(フッ素)の分子量[g/mol]、fは反応対象成分と消石灰の反応による反応生成物(フッ化カルシウム)の分子量[g/mol]である。
なお、bは、流量計11の測定結果に係る値である。cは、濃度計測手段12の測定結果に係る値である。dは、反応効率に係る補正値であり、作業者が設定する設定値である。e及びfはそれぞれの成分に応じた固定値である。
dの値は、反応手段における消石灰と消石灰との反応対象成分の反応が理論どおり100%進行する場合は1となるものである。しかし、排水処理の実態においては、この反応の100%進行を阻害する要因(競合物質の存在や別反応の進行等)によって、反応手段(反応槽1)における反応が理論どおり進行せず、理論値よりも多くの消石灰を必要とする場合がある。そのため、被処理水Wに対して消石灰を添加した際における反応対象成分の濃度変化に係る傾向をあらかじめ把握すること(ビーカーテスト)による結果や過去の処理実績などから補正値を求め、dとして設定するものである。
【0030】
次に、式1により求めた消石灰の必要供給量(a)の値を用い、消石灰スラリーの必要流量(i)[m/h]を算出する。
消石灰スラリーの必要流量(i)は、以下の式2により演算する。
【数2】
ここで、gは消石灰スラリーの濃度[%]、hは消石灰スラリーの比重である。なお、g及びhは貯留槽21に貯留する消石灰スラリーSに係る値であり、あらかじめ作業者が入力する値であってもよく、貯留槽21に濃度計などの計測手段を設けて測定した値であってもよい。
【0031】
そして、式2で求めた消石灰スラリーの必要流量(i)を用い、消石灰スラリーの必要流量積算値(j)[m]が算出される。この消石灰スラリーの必要流量積算値(j)は、反応槽1に供給すべき消石灰スラリーの必要供給量に相当する値となる。
消石灰スラリーの必要流量積算値(j)は、以下の式3により演算する。
【数3】
【0032】
本実施態様の演算手段3は、上述した式1~式3における各演算パラメータを表示する表示手段、及び、表示手段に対する入力手段を備えるものとしてもよい。例えば、表示手段としてディスプレイを設け、このディスプレイ上に式1~式3を表示し、表示された各式における演算パラメータの一部あるいは全てについて、各計測手段からの計測結果が自動入力されることや作業者が外部から入力可能とすることなどが挙げられる。これにより、消石灰スラリーSの供給制御について、作業者が容易に状況を把握することができるとともに、適切な対応を行うことが容易となる。
【0033】
上述した式1~式3に基づき演算した消石灰スラリーの必要流量積算値(消石灰スラリーの必要供給量)を用い、制御手段4により消石灰スラリーSの供給制御を行う。
【0034】
制御手段4は、反応槽1に対する消石灰スラリーSの供給を制御する制御ステップを行うためのものである。
制御手段4は、図1に示すように、制御対象となる開閉弁24に対し、制御可能に接続されており、また、制御に係る情報として、流量計23の測定結果及び演算手段3の演算結果が入力可能となるように接続されている。
【0035】
制御手段4としては、制御対象として接続した開閉弁24のON/OFF制御、並びに、制御に係る情報取得及び演算を行うことができるものであればよい。本実施態様における制御手段4としては、例えば、作業者の手動による操作を含むものであってもよいが、情報取得のためのデータ入出力機能を有し、制御に係る演算や制御信号発信を行うためのプログラムをCPU等のプロセッサにより実行する計算装置を用い、自動制御可能とすることが好ましい。これにより、被処理水Wに対する消石灰スラリーSの供給制御を最適化することが容易となる。
なお、制御手段4としての計算装置は、演算手段3としての計算装置と兼用されるものであってもよく、別体として設けるものであってもよい。また、演算手段3と同様に、後述する制御パラメータ(式4及び式5を参照)を表示する表示手段、及び、表示手段に対する入力手段を備えるものとしてもよい。
【0036】
(消石灰スラリーの供給制御)
以下、本実施態様の排水処理装置10において、被処理水Wに対する消石灰スラリーSの供給に係る好適な制御ステップの一例について、例示して説明する。なお、各制御ステップに係る説明及びフローチャートについては、実施態様の例示にすぎず、これに限定されるものではない。
【0037】
図2は、本実施態様の排水処理装置10における制御手段4による制御ステップに係るフロー図を示すものである。なお、以下、制御手段4による制御に係る説明においては、1回のバッチ時間内における処理プロセスを基に説明を行う。
【0038】
まず、被処理水Wを反応槽1に供給する。このとき、被処理水Wの流量(b)及び消石灰との反応対象成分の濃度(c)に係る情報を、演算手段3に入力する。
そして、演算手段3では、上述した式1~式3に基づき、消石灰スラリーの必要供給量として、消石灰スラリーの必要流量積算値(j)が算出される。
【0039】
ここで、制御手段4は、反応槽1に供給すべき消石灰スラリーの必要供給量である消石灰スラリーの必要流量積算値(j)を満たすように、供給手段2を制御する必要がある。
そのため、制御手段4では、制御パラメータの一つとして、演算手段3で求められた消石灰スラリーの必要流量(i)を基に、供給手段2から供給する消石灰スラリーの供給目標値(P)[m]を定める。消石灰スラリーの供給目標値(P)は、以下の式4により演算する。
【数4】
ここで、T1はバッチ時間[s]である。なお、T1は作業者があらかじめ設定する設定値である。また、設定するT1の値は、上述したように、1分以上10分以内とすることが好ましい。
【0040】
式4に基づき供給目標値(P)を設定した後、制御手段4によって開閉弁24を開とする。
このとき、流量計23によって計測される消石灰スラリーの流量(k)[m/h]を用い、供給手段2から供給される消石灰スラリーの供給積算値として、消石灰スラリーの流量積算値(l)[m]を算出し、制御パラメータの一つとして用いる。消石灰スラリーの流量積算値(l)は、以下の式5により演算する。
【数5】
【0041】
制御手段4は、式5で求めた消石灰スラリーの流量積算値(l)が供給目標値(P)を超えた段階で開閉弁24を閉とするとともに、消石灰スラリーの流量積算値(l)をリセットする。
そして、所定のバッチ時間T1が経過した後、次のバッチ処理を開始する。
【0042】
図3は、本実施態様の排水処理装置10における消石灰スラリーの供給制御の一例を模式的に示すグラフである。
ここで、図3は、反応槽1に供給された被処理水Wに対する消石灰スラリーSの供給を伴う排水処理において、1回のバッチ時間をT1[s]とした処理を複数回繰り返すものを示している。
また、図3は、横軸を時間とし、開閉弁24の開閉操作と、演算手段3で求められる消石灰スラリーの必要供給量(消石灰スラリーの必要流量積算値(j))及び制御手段4によって供給される消石灰スラリーの供給積算値(消石灰スラリーの流量積算値(l))の経時変化を示すグラフである。
【0043】
図3に示すように、最初のバッチ処理では、消石灰スラリーの必要流量積算値(j)が時間経過とともに上昇する。このとき、最初のバッチ時間T1経過後の消石灰スラリーの必要流量積算値(j)の高さが、制御手段4で用いる供給目標値(P)に相当することになる。
そして、次のバッチ時間T1におけるバッチ処理では、消石灰スラリーの流量積算値(l)が供給目標値(P)に到達するまで開閉弁24の開放を行う。消石灰スラリーの流量積算値(l)が供給目標値(P)を超えた時点で開閉弁24を閉とし、消石灰スラリーの流量積算値(l)のリセットを行う。
所定のバッチ時間T1経過後、再び消石灰スラリーの必要流量積算値(j)に基づき、制御手段4による供給目標値(P)の設定及び開閉弁24のON/OFF制御を行い、被処理水Wのバッチ処理を繰り返す。
【0044】
このとき、消石灰スラリーSを供給するための開閉弁24の開時間及び閉時間が短過ぎると開閉操作に係る操作性が低下する。したがって、開閉弁24の開時間及び閉時間の下限を設定することが好ましい。
例えば、本実施態様における開閉弁24の開時間及び閉時間の下限としては、いずれも1回のバッチ時間当たり3秒以上とすることが挙げられる。これにより、消石灰スラリーSの適切な供給制御と併せて、効率的かつ効果的な排水処理を行うことが可能となる。
なお、開閉弁24の開時間及び閉時間に関する上限については特に限定されないが、反応手段(反応槽1)による排水処理を安定して行うためには、反応槽1におけるバッチ時間を短くし、短いスパンで消石灰スラリーSを供給するよう開閉弁24の開閉操作を行うことが、疑似連続性が高まるという観点からは好ましい。
【0045】
上述した消石灰スラリーの供給制御及び処理プロセスを繰り返すことで、消石灰スラリーSの供給時に配管21内でのスラリーの固着を抑制するとともに、pH制御によらない消石灰スラリーSの供給制御を可能とし、消石灰スラリーSの過剰供給を抑止することが可能となる。
また、上述した消石灰スラリーの供給制御及び処理プロセスについて、制御プログラムを作成し、演算手段3及び制御手段4におけるCPU等のプロセッサを介して各手段に係る機能を実行させることが好ましい。これにより、消石灰スラリーの供給制御に係る自動制御が可能となり、消石灰スラリーの供給制御の最適化が容易となる。
【0046】
以上のように、本実施態様の排水処理装置10は、消石灰スラリーSの供給制御として、開閉弁のON/OFF制御に基づく消石灰スラリーの供給、及び、演算した消石灰スラリーの必要供給量と消石灰スラリーの供給積算値とを用いた制御を行うことで、消石灰スラリーの供給時に配管内でのスラリーの固着を抑制するとともに、pH制御によらない消石灰スラリーの供給制御を可能とし、消石灰スラリーの過剰供給を抑止することが可能となる。これにより、被処理水に対して消石灰スラリーを供給する反応(排水処理)において、消石灰スラリーによる配管閉塞を抑制し、かつ、pH中性領域においても消石灰スラリーの供給制御を適切に行うことが可能となる。
【0047】
なお、上述した実施態様は排水処理装置、排水処理方法及び排水処理装置の制御プログラムの一例を示すものである。本発明に係る排水処理装置、排水処理方法及び排水処理装置の制御プログラムは、上述した実施態様に限られるものではなく、要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る排水処理装置、排水処理方法及び排水処理装置の制御プログラムを変形してもよい。
【0048】
本実施態様の排水処理装置及び排水処理方法としては、反応槽1の後段に更に処理設備を設け、排水処理を行うものとしてもよい。特に、被処理水Wに含まれる消石灰との反応対象成分がフッ素のような除去対象成分である場合、フッ素除去に係る各種処理設備を備え、排水処理を行うことが好ましい。
【0049】
図4は、本実施態様の排水処理装置の別態様を示す概略説明図である。
本実施態様の排水処理装置10′としては、図4に示すように、反応槽1の後段に、調整槽5及び凝集沈殿槽6を備えるものが挙げられる。
調整槽5は、反応槽1から排出された処理水W1に対し、凝集沈殿槽6に供給する前に必要となる前処理を行うためのものであり、例えば、ラインL2を介して供給された処理水W1に対し、凝集剤(硫酸バンド等)などの添加剤を添加するためのものである。
また、凝集沈殿槽6は、調整槽5から供給される処理水W2について固液分離処理を行うためのものであり、凝集沈殿槽として公知のものを用いることができる。例えば、ラインL3を介して処理水W2が槽内に供給され、この槽内において、反応槽1にて消石灰とフッ素との反応により生成した反応生成物であるフッ化カルシウムを沈殿させ、処理水W3と固体分に分離し、それぞれラインL4及びラインL5を介して系外に排出するものが挙げられる。
これにより、消石灰スラリーの供給制御を適切に行うことと併せ、被処理水Wに対する排水処理能力を向上させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の排水処理装置、排水処理方法及び排水処理装置の制御プログラムは、消石灰スラリーの供給を伴う排水処理に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0051】
10,10′ 排水処理装置、1 反応槽、11 流量計、12 濃度計測手段、2 供給手段、21 貯留槽、22 配管、23 流量計、24 開閉弁、25 分岐路、3 演算手段、4 制御手段、5 調整槽、6 凝集沈殿槽、L1~L5 ライン、S 消石灰スラリー、W 被処理水、W1,W2,W3 処理水
図1
図2
図3
図4