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特開2023-108562硫化物固体電解質材料、それの製造方法、およびそれを含む電池
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  • 特開-硫化物固体電解質材料、それの製造方法、およびそれを含む電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108562
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質材料、それの製造方法、およびそれを含む電池
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/06 20060101AFI20230728BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230728BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230728BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20230728BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20230728BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
C01B33/06
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01B1/06 A
H01B1/10
H01B13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009753
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA CORPORATION
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尹 龍 燮
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】金 思 欽
(72)【発明者】
【氏名】菅野 了次
(72)【発明者】
【氏名】堀 智
【テーマコード(参考)】
4G072
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA20
4G072BB05
4G072BB12
4G072GG02
4G072HH02
4G072JJ34
4G072MM01
4G072MM36
4G072QQ20
4G072RR07
4G072RR13
4G072TT20
4G072TT30
4G072UU30
5G301CA05
5G301CA16
5G301CA19
5G301CA30
5G301CD01
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL03
5H029AM12
5H029BJ04
5H029CJ01
5H029CJ02
5H029DJ09
5H029DJ17
5H029EJ07
5H029HJ02
5H029HJ13
5H029HJ14
5H029HJ20
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050DA13
5H050EA15
5H050FA19
5H050GA02
5H050GA05
5H050HA02
5H050HA13
5H050HA14
5H050HA17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】資源量の豊富な元素をベースとし、従来とほぼ同等またはそれを上回るリチウムイオン伝導率を有し、比較的安価であり、結晶構造を有する硫化物固体電解質材料、その製造方法、およびそれを用いた電池を提供すること。
【解決手段】組成式Li2-4x-ySi1+x-yで示される硫化物組成物を含み、-0.040≦x≦0.095,0.036≦y≦0.192であることを特徴とする、硫化物固体電解質材料、その製造方法、およびそれを用いた電池。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式Li2-4x-ySi1+x-yで示される硫化物組成物を含み、-0.040≦x≦0.095,0.036≦y≦0.192であり、結晶構造を有することを特徴とする硫化物固体電解質材料。
【請求項2】
X線波長1.5418ÅのCu-Kα線による粉末X線回折測定において、少なくとも、15.43°±0.50°、15.62°±0.50°、19.49°±0.50°、20.98°±0.50°、24.94°±0.50°、26.99°±0.50°、27.68°±0.50°、30.47°±0.50°、31.04°±0.50°、39.55°±0.50°の回折角(2θ)にピークを有することを特徴とする請求項1に記載の硫化物固体電解質材料。
【請求項3】
25℃におけるイオン伝導率が4.0×10-5S/cm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の硫化物固体電解質材料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法であって、
メカニカルミリングにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成するイオン伝導性材料合成工程と、前記非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、前記硫化物固体電解質材料を得る加熱工程と、を有することを特徴とする硫化物固体電解質材料の製造方法。
【請求項5】
前記加熱工程が、300℃から500℃の範囲内であることを特徴とする請求項4に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項6】
正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された電解質層とを含有する電池であって、前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記電解質層の少なくとも一つが、請求項1~3のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質材料を含有することを特徴とする電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な硫化物固体電解質材料、それの製造方法、およびそれを含む電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラおよび携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。また、自動車産業界等においても、電気自動車用あるいはハイブリッド自動車用の高出力かつ高容量の電池の開発が進められている。現在、種々の電池の中でも、エネルギー密度が高いという観点から、リチウムイオン二次電池が注目を浴びている。
【0003】
現在市販されているリチウムイオン二次電池は、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されているため、短絡時の温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止のための構造・材料面での改善が必要となる。これに対し、電解液を固体電解質に変えて、電池を全固体化したリチウムイオン二次電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。ただし、全固体化したリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度は液系電池に比べて低いのが現状である。
【0004】
全固体リチウムイオン二次電池に用いられる固体電解質材料として、硫化物固体電解質材料が知られている。例えば、Li-Si-S系の硫化物系固体電解質が報告されている(たとえば、非特許文献1、2参照)。なお、それらの結晶性硫化物のイオン伝導率は2×10-6~4×10-5S/cm程度である。
【0005】
特許文献1は、ガラス質リチウムカチオン導体LiSiSに関する文献であり、そのイオン導電率は0.73×10-4S/cm、または0.97×10-4S/cmであることが開示されている。
【0006】
また、非特許文献3は、比較的高価なGeを含むLi10GeP12(以下において、「LGPS系硫化物固体電解質」、「LGPS」等と称することがある。)に関する文献であり、そのイオン導電率は12×10-3S/cmという電解液に匹敵するほどの高いイオン導電率を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表昭60-501731号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Byung Tae Ahn, Robert A. Huggins, Synthesis and Li Conductivities of Li2SiS3 and Li4SiS4, Mat. Res. Bull., 24, 889(1989)
【非特許文献2】Byung Tae Ahn, Robert A. Huggins, Phase behavior and conductivity of Li2SiS3 composition, Solid State Ionics, 46, 237(1991)
【非特許文献3】Noriaki Kamaya et al., A lithium superionic conductor, Nature Materials, Advanced online publication, 31 July 2011, DOI:10.1038/NMAT3066
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
全固体リチウムイオン二次電池の高エネルギー密度化や高入出力化のために、より高いイオン伝導率を有する固体電解質材料が求められている。無機系固体電解質には、非晶質材料と結晶質材料がある。この区別は、X線回折測定により、容易に確認することができる。非晶質材料は、結晶構造がランダムなため、X線回折測定では、特徴的な回折ピークは観測されず、結晶構造を特定することが困難である。一方、結晶性材料は、その材料特有の結晶構造に由来する回折ピークが観測される。そのため、格子定数などの結晶構造に関する豊富な情報が得られ、そのイオン伝導経路の解析も可能である。また、これら多くの情報が得られることは、材料の量産時における品質管理面からも有利である。このことから、無機系固体電解質材料として、結晶性材料は非晶質材料よりも多くの利点を有する。さらに、材料に使われる構成元素が天然に豊富に存在し、その原料化合物が安価であることも求められる。そこで、本発明は、資源量の豊富な元素をベースとし、従来とほぼ同等またはそれを上回るリチウムイオン伝導率を有し、結晶構造を有する硫化物固体電解質材料を提供することを目的とする。そのような材料開発においては、また、その製造方法およびそれを用いた電池を提供することも本発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明により、以下の手段が提供される。
【0011】
[1]
組成式Li2-4x-ySi1+x-yで示される硫化物組成物を含み、-0.040≦x≦0.095,0.036≦y≦0.192であり、結晶構造を有することを特徴とする硫化物固体電解質材料。
[2]
X線波長1.5418ÅのCu-Kα線による粉末X線回折測定において、少なくとも、15.43°±0.50°、15.62°±0.50°、19.49°±0.50°、20.98°±0.50°、24.94°±0.50°、26.99°±0.50°、27.68°±0.50°、30.47°±0.50°、31.04°±0.50°、39.55°±0.50°の回折角(2θ)にピークを有することを特徴とする[1]に記載の硫化物固体電解質材料。
[3]
25℃におけるイオン伝導率が4.0×10-5S/cm以上であることを特徴とする[1]または[2]に記載の硫化物固体電解質材料。
[4]
[1]~[3]のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法であって、メカニカルミリングにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成するイオン伝導性材料合成工程と、前記非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、前記硫化物固体電解質材料を得る加熱工程と、を有することを特徴とする硫化物固体電解質材料の製造方法。
[5]
前記加熱工程が、300℃から500℃の範囲内であることを特徴とする[4]に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
[6]
正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された電解質層とを含有する電池であって、前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記電解質層の少なくとも一つが、[1]~[3]のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質材料を含有することを特徴とする電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施態様により、資源量の豊富なケイ素(Si)を基本構成元素として含み、良好なリチウムイオン伝導率を有する、新規な硫化物固体電解質材料、およびその製造方法を提供することができる。さらに、本実施態様の硫化物固体電解質材料を電池材料等に用いることにより、高いイオン伝導率を有する電池等を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の硫化物系固体電解質の組成の範囲を示すLiS-SiS-P系の三元組成図である。
図2】本発明の一実施態様である硫化物固体電解質材料と、従来知られているEquilibrium-LiSiSやMetastable-LiSiSとのX線回折図である。
図3】本発明の一実施態様である硫化物固体電解質材料の製造方法の概要を模式的に示したものである。
図4】示差走査熱量測定の一例を示したものである。
図5】非晶質の前駆体を種々の加熱温度(熱処理温度と称することもある)で得られる硫化物固体電解質材料のX線回折図である。
図6】460℃(733K)以上の加熱温度(熱処理温度と称することもある)で得られる硫化物固体電解質材料のX線回折図である。
図7】本発明の一実施態様である硫化物固体電解質材料のX線回折図である。
図8】本発明の一実施態様である硫化物固体電解質材料のイオン伝導率の測定結果を示したものである。
図9】本発明の一実施態様である硫化物固体電解質材料の定電流充放電試験の結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の硫化物固体電解質材料について、詳細に説明するが、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
まず、本発明の硫化物固体電解質材料について説明する。
本発明者らは、従来知られているEquilibrium-LiSiS(非特許文献1)やMetastable-LiSiS(非特許文献2)をベースとして、製造条件および組成比を見直すことにより、より優れたリチウムイオン伝導率を有する硫化物固体電解質材料を得られること、及び、当該硫化物固体電解質材料はこれまで確認されていなかった新規な結晶構造を有することを見出した。これらの検討の結果、本発明は完成された。
【0016】
(組成)
本発明に係る、硫化物固体電解質材料は、組成式Li2-4x-ySi1+x-yで示される硫化物組成物を含み、-0.040≦x≦0.095,0.036≦y≦0.192である。
【0017】
図1のLiS-SiS-Pの三元系組成図を参照して本発明の硫化物系固体電解質を説明する。本発明の硫化物固体電解質材料のベースとなる材料は、従来知られているEquilibrium-LiSiS(非特許文献1)やMetastable-LiSiS(非特許文献2)である。この組成、LiSiSは、図1の三元系組成図では、三角形の左辺の中点であり、言い換えると、三角形の上の頂点(LiS)と三角形の左の頂点(SiS)の中間点にあり、LiS:SiS=50:50(モル比)の組成であるが、この場合、LiSiSの不純物が析出しやすいため、SiS rich組成とすると単一相が得られやすい。具体的には、三元系組成図の三角形で左の頂点(SiS)にシフトさせる。組成式Li2-4x-ySi1+x-yでは、xを大きくする。
【0018】
また、三元系組成図の三角形の右の頂点(P)にシフトさせると、Pの組成比率が多くなる。その場合、結晶性が向上し、イオン伝導率向上に寄与する。しかしながら、P比率が多すぎるとイオン伝導率が低いLi不純物相が析出するため、イオン伝導率が低下する。また、リンをベースとした硫化物固体電解質材料、例えばLiPSやLiPSなどが知られているが、それらの構成元素の1つであるリン(P)は、地殻中に質量比0.1%(11位)しか存在していない、一方、ケイ素(Si)は地殻中に2番目に多く存在し(質量比27%)、資源面から有利な元素である。それらを踏まえて、組成式Li2-4x-ySi1+x-yでは、yを適切な範囲で規定する。
【0019】
上記の指針に基づいて、組成式Li2-4x-ySi1+x-yにおいて、-0.040≦x≦0.095、0.036≦y≦0.192とする。図1の対象組成領域の拡大図において、#1→#7→#8→#5→#6を繋いで描かれた領域が、当該組成範囲に相当する。この組成範囲において、新規な結晶構造を有する硫化物系固体電解質が得られることを本発明者が見出した。
【0020】
(X線回折測定)
本発明の一実施態様では、X線波長1.5418ÅのCuKα線を用いたX線回折測定において、少なくとも、15.43°±0.50°、15.62°±0.50°、19.49°±0.50°、20.98°±0.50°、24.94°±0.50°、26.99°±0.50°、27.68°±0.50°、30.47°±0.50°、31.04°±0.50°、39.55°±0.50°の回折角(2θ)にピークを有する硫化物固体電解質材料であってもよい。X線回折ピークは、結晶構造によって決定されるものである。
【0021】
図2は、本発明の一実施態様である硫化物固体電解質材料のX線回折ピークと、従来知られているEquilibrium-LiSiSやMetastable-LiSiSのX線回折ピークとを、比較できるように、並べて表示したものである。
図2のn-LiSiSは本発明の一実施態様の硫化物固体電解質材料を指し、m-LiSiSはMetastable-LiSiSを指し、e-LiSiSはEquilibrium-LiSiSを指す。図2の右端のチャートは、2θが26~28°の辺りを拡大表示したものであり、本発明の一実施態様の硫化物固体電解質材料が、従来知られているEquilibrium-LiSiSやMetastable-LiSiSとは異なるピークを有しており、新規な結晶構造を有することが裏付けられている。また結晶構造はイオン伝導率に関係すると考えられており、新規な結晶構造では、従来知られているEquilibrium-LiSiSやMetastable-LiSiSを越えるイオン伝導率を得ることができる。
【0022】
(イオン伝導率)
本発明の一実施態様では、硫化物固体電解質材料は、25℃における硫化物固体電解質材料のイオン伝導率は、粉末状の硫化物固体電解質材料を交流インピーダンス法により測定した場合に、4.0×10-5S/cm以上を得ることができる。イオン伝導率は高いことが好ましく、本発明の一実施態様では、硫化物固体電解質材料のイオン伝導率は、好ましくは7.0×10-5S/cm以上であってもよく、さらに好ましくは1.0×10-4S/cm以上であってもよい。なお、従来知られているEquilibrium-LiSiSおよびMetastable-LiSiSのイオン伝導率は、それぞれ、4×10-6S/cm、2×10-5S/cmであり、本発明の一実施態様である硫化物固体電解質材料は、それらを上回る良好なイオン伝導性を有する。
【0023】
(製造方法)
本発明の一実施態様である、硫化物固体電解質材料は、製造手段が限定されるものではないが、以下の手段により製造することが可能である。図3は、製造方法の概要を模式的に示したものである。本発明の一実施態様である、固体電解質材料の製造方法は、メカニカルミリングにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成するイオン伝導性材料合成工程と、前記非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、前記硫化物固体電解質材料を得る加熱工程を有することを特徴としてもよい。以下、詳細に説明する。
【0024】
まず、Li元素、Si元素、P元素およびS元素を所望の組成となるように秤量する。各元素の供給原料として、各元素の硫化物、LiS、SiS、P、を用いてもよい。また、粒度が粗い原料は、事前に粉砕することが好ましい。図3に示すように、LiS、SiS、およびPを所望の組成となるように秤量し、メカニカルミリングの前に、事前にめのう乳鉢を用いて、予備混合する。
【0025】
(イオン伝導性材料合成工程)
供給原料をメカニカルミリングすることにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成する。
【0026】
メカニカルミリングは、試料を、機械的エネルギーを付与しながら粉砕する方法である。本実施態様においては、供給原料に対して、機械的エネルギーを付与することで、非晶質化したイオン伝導性材料を合成する。このようなメカニカルミリングとしては、例えば、ボールミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル等を挙げることができ、中でも振動ミルおよびボールミルが好ましい。
【0027】
ボールミルの条件は、非晶質化したイオン伝導性材料を得ることができるものであれば特に限定されるものではない。一般的に、回転数が大きいほど、イオン伝導性材料の生成速度は速くなり、処理時間が長いほど、原料組成物からイオン伝導性材料への転化率は高くなる。遊星型ボールミルを行う際の台盤回転数としては、例えば200rpm~500rpmの範囲内、中でも300rpm~400rpmの範囲内であることが好ましい。
【0028】
振動ミルの条件は、非晶質化したイオン伝導性材料を得ることができるものであれば特に限定されるものではない。振動ミルの振動振幅は、例えば5mm~15mmの範囲内、中でも6mm~10mmの範囲内であることが好ましい。振動ミルの振動周波数は、例えば500rpm~2000rpmの範囲内、中でも1000rpm~1800rpmの範囲内であることが好ましい。振動ミルの試料の充填率は、例えば1体積%~80体積%の範囲内、中でも5体積%~60体積%の範囲内、特に10体積%~50体積%の範囲内であることが好ましい。また、振動ミルには、振動子(例えばアルミナ製振動子)を用いることが好ましい。
【0029】
メカニカルミリングを行う際の処理時間は、非晶質化したイオン伝導性材料を合成するために、30時間以上としてもよい。30時間以下では、得られた非晶質化したイオン伝導性材料(以下、前駆体と称することもある)の各元素の均一性が低下して焼成時に不純物相が析出すること、焼成物の結晶性が低下すること、および/またはイオン伝導率が低下することがある。処理時間の上限は特に制限されないが、均一性、結晶性、イオン伝導率等の向上する効果が飽和してくるので、96時間以下としてもよく、72時間以下であってもよい。
【0030】
(加熱工程)
非晶質化したイオン伝導性材料(前駆体)を加熱(焼成)することにより、本発明の実施態様の結晶構造を有する硫化物固体電解質材料を得ることができる。
【0031】
前駆体は、ペレット化し、石英管内に真空封入して、加熱することが好ましい。これにより、前駆体の酸化や、供給原料の一部が揮発して組成が変化することを防ぐことができる。
【0032】
加熱温度は、300℃以上が好ましい。300℃以上とすることにより、前記の新規な結晶相が析出しやすくなる。好ましくは350℃以上としてもよい。図4は、非晶質化したイオン伝導性材料(前駆体)の示差走査熱量測定の一例を示す。300℃付近にガラス転移(Tg)、350℃付近に結晶化ピーク(Tc)が観測されている。このことから、300℃以上で、結晶相が析出することが裏付けられる。
【0033】
加熱温度の上限は、結晶性を高める観点から、高くすることが好ましく、450℃±50℃の温度範囲まで加熱することが好ましい。一方で、加熱温度が500℃以上では、Equilibrium-LiSiSやLiSiSが析出してイオン伝導率が低下することがある。
【0034】
図5は、種々の加熱温度(熱処理温度と称することもある)で得られる硫化物固体電解質材料のX線回折図であり、加熱温度(熱処理温度)に応じて得られる結晶構造の変化を確認することができる。加熱温度275℃の試料は、熱処理前と同じ非晶質であったが、300℃の試料では、新規な結晶相のピーク(●)が確認できる。
【0035】
また、図6は、460℃(733K)以上で焼成した本発明の一実施態様である硫化物固体電解質材料のX線回折図である。500℃(773K)で焼成すると、Equilibrium相とLiSiSが出現し始め、600℃(873K)では、Equilibrium相へ完全に構造変化していることが確認できる。なお、従来知られているEquilibrium-LiSiS(非特許文献1)やMetastable-LiSiS(非特許文献2)は、1000℃の熱処理により融液としたものを、前者は、その後、720℃で12時間保持したのち自然放冷したもの、後者は、融液を5時間から6時間かけて室温まで冷却して得られたものである。
【0036】
上記に基づいて、本発明の一実施態様では、加熱工程は、300℃から500℃の範囲内であってもよい。この温度範囲では、Equilibrium-LiSiSやMetastable-LiSiSおよびLiSiSを含まずに、本発明の一実施態様である、新規な結晶構造を有する硫化物固体電解質材料を好適に得ることができる。
【0037】
上記の製造方法に含まれる一連の工程では、空気中の水分によって原料粉末、前駆体粉末、および得られた硫化物固体電解質材料が加水分解することを防止するために、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下でグローブボックス等の中で作業することが好ましい。
【0038】
(電池)
本発明の一実施態様の硫化物固体電解質材料は、イオン伝導性を有することができるので、イオン伝導性を必要とする任意の用途に用いることができる。中でも、本願の硫化物固体電解質材料は、電池に用いられるものであることが好ましい。電池の高性能化に大きく寄与することができるからである。
【0039】
本発明の一実施態様の電池は、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された電解質層とを含有する電池であって、前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記電解質層の少なくとも一つが、上述した本発明の一実施態様である硫化物固体電解質を含有する。
【0040】
本発明の一実施態様の硫化物固体電解質材料は、上記のとおり、良好なイオン伝導性を有することができる。そのため、本実施態様の電池では、上述した硫化物固体電解質材料を用いることにより、良好な性能を示す固体電池とすることができる。
【0041】
加えて、当然のことながら、実際に電池として利用されることを考えると、イオン伝導性が確認された固体電解質材料であっても、電池に組み込まれた場合に安定的に充放電可能であり且つ性能劣化(充放電容量低下)が少ないことが確認されていることが望ましい。本発明の一実施態様の硫化物固体電解質材料を用いた電池では、実運転を模擬した充放電試験を行った場合でも、安定的に作動し、且つ充電容量の低下が少なく、好ましい。
【0042】
正極活物質、負極活物質、電解質層としては、特に制限をされるものではなく、本発明の作用効果に影響を与えない範囲で、一般的な電池で採用されているものを利用することができる。
【実施例0043】
以下、実施例を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。なお、下記の実施例は本発明を限定するものではない。
【0044】
(試料の作製)
アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、出発原料のLiS、SiS、およびPを所望の組成となるように秤量し、めのう乳鉢を用いて粉砕混合して、さらにボールミルで40時間のメカニカルミリング処理により、非晶質体(前駆体)を合成した。その試料をペレッターに入れ、一軸プレス機を用いてそのペレッターに20MPaの圧力を印加して、φ13mmのペレットを成形した。カーボンコートした石英管にこのペレットを10Paの略真空で封入した。そして、ペレットを入れた石英管を3時間で300~500℃まで昇温させた後、8時間保持し、その後自然冷却した。さらに、その後の評価のために、めのう乳鉢で十分に粉砕して粒度を調整した。合成した試料の組成は、表1に示し、図1の対象組成領域の拡大図に示された#1~#9に対応する。
【0045】
【表1】
【0046】
得られた試料について、下記の測定および評価を行った。
【0047】
(粉末X線回折測定)
作製した試料に含まれる結晶相を同定するために、粉末X線回折装置Ultima-IV(株式会社リガク製)およびSmart Lab(株式会社リガク製)を使用して、粉末X線回折測定を行った。粉末X線回折測定には、X線波長1.5418オングストロームのCu-Kα線を使用した。10~50°の範囲で0.01°ステップで回折角(2θ)で粉末X線回折測定を行った。
【0048】
(イオン伝導率の測定)
イオン伝導率の測定は、樹脂製の筒の上下からそれぞれSUS製治具(ピン)を設置した圧粉セルを用いた。圧粉セルの片面にピンを設置した筒の中に試料を入れた後、もう一方の面からピンを入れて平らにした後、5MPaの圧力をかけて仮成型した。仮成型したペレットの両面に金粉末を分散させた後、15MPaの圧力をかけることで、ペレットの両面に電極を形成した測定用試料を作製した。測定用試料のイオン伝導率の測定には、インピーダンス・ゲインフェーズアナライザーSolatron1260(ソーラトロン社製)を使用した。測定周波数範囲1Hz~3MHz、印加電圧10mV、25℃の測定温度で交流インピーダンス測定を行い、試料のイオン伝導率を算出した。
【0049】
(定電流充放電試験)
充放電試験では、リチウムイオン伝導性固体電解質として実施例で得られた硫化物固体電解質材料#1(Li1.82SiP0.036)を圧粉セルに入れ、その片面に正極活質としてLiNbOをコートしたLiNi0.6Co0.2Mn0.2を含んだ正極活物質層、もう一方の面に負極活物質としてLiTi12を含んだ負極活物質層を積層し、全固体リチウムイオン二次電池を構成した。これらの電池に、30℃で1/10C(=18mA/g)で充放電試験を行った。
【0050】
[評価]
(X線回折測定)
上記で得られた硫化物固体電解質材料を用いて、X線回折(XRD)測定を行った。その結果を図7に示す。本願発明の組成範囲内にある硫化物固体電解質材料(#1~9)では、新規な結晶構造を示すピーク(●)が確認された。
【0051】
(Liイオン伝導率の測定)
上記で得られた硫化物固体電解質材料#1(Li1.82SiP0.036)の圧縮粉体のイオン電導性をACインピーダンス法により測定した結果を図8の左に示す。本発明例による硫化物固体電解質材料#1(Li1.82SiP0.036)を460℃で加熱(焼成)したものでは、従来知られているLiSiSに比べ、1桁以上高いイオン伝導率(6.5×10-4S/cm@25℃)が確認された。表1には、#1~9の試料について300℃及び/または500℃で加熱(焼成)したもののイオン伝導率を示す。
【0052】
(定電流充放電試験)
充放電試験では、リチウムイオン伝導性固体電解質として、上記で得られた硫化物固体電解質材料を正極活物質層と負極活物質層との間のセパレーター層に用いて、全固体リチウムイオン二次電池を構成した。この電池を充放電した際の充放電カーブを図9に示す。本発明例による硫化物固体電解質材料を用いた全固体リチウムイオン二次電池は、充放電が可能であり、問題なく作動することが確認された。すなわち、本願の電解質材料は、電気化学的安定性が高く、且つ、全固体電池用の固体電解質として機能することが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9