(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108570
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】熱間可逆板圧延における板ウェッジの制御と設定方法
(51)【国際特許分類】
B21B 37/58 20060101AFI20230728BHJP
B21B 37/18 20060101ALI20230728BHJP
B21B 38/04 20060101ALI20230728BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
B21B37/58 B
B21B37/18 110B
B21B38/04
B21C51/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022019100
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】522054503
【氏名又は名称】安部 可治
(72)【発明者】
【氏名】安部 可治
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124AA02
4E124AA06
4E124AA07
4E124BB18
4E124CC01
4E124EE02
4E124EE11
4E124EE12
4E124EE14
4E124GG05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】板材の可逆熱間圧延において全長にわたって作業側と駆動側の板幅端部板厚差である板ウェッジがゼロ又は小さな値の板を得るための制御と設定方法を提供する。
【解決手段】熱間粗圧延や厚板圧延などの可逆圧延において、出側に板幅方向の多点での圧延方向板厚計とミル設定計算機と板ウェッジの制御設定器とロール間隙レベリング装置を備え、出側で板ウェッジを測定し板ウェッジ比率を求めてこれを次のパスの入側板ウェッジ比率とし、出側板ウェッジ比率との差が実験式などで決まる上下限値内になるように出側板ウェッジ目標値を決める。そしてレベリング影響係数と板ウェッジ遺伝係数を用いて目標値を達成する。またその次のパスでは前パスの出側板ウェッジ比率を入側板ウェッジ比率として同様に出側板ウェッジ目標値を決めて同様にこれを達成する。以降のパスで同様にして板ウェッジを制御設定する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板材を熱間で可逆圧延するホットストリップミルの粗圧延や厚板圧延などで代表される圧延設備において、可逆圧延機出側に板幅方向に多点で圧延方向の板厚を測定する多点板厚計を設け、圧延機の設定のためにミル設定計算機および作業側と駆動側のロール間隙レベリング装置を有した設備をそなえ、圧延が進行して多点板厚計が測定可能な板厚に達した奇数パスで作業側、駆動側の板厚を測定し板ウェッジを求め、測定した板幅中央部板厚で除して次の偶数パス入側板ウェッジ比率とし、次の偶数パスの出側板ウェッジの目標値を設定計算の板幅中央部の出側板厚で除した出側板ウェッジ比率との差が板ウェッジ比率差限界内に入いるように次の偶数パスの出側板ウェッジ目標値を決め、この値が次の偶数パスのロール間隙レベリング制御設定量に影響係数を乗じたものと入側板ウェッジが出側に遺伝係数により遺伝するものとの和になる式により、ロール間隙レベリング制御設定量を求め圧延前に設定して圧延する。また次の奇数パスでは、先の偶数パスでの出側板ウェッジ目標値を入側板ウェッジとし、設定計算の板幅中央部板厚を用いて同様の演算によりロール間隙レベリングの制御設定量を求め圧延前に設定して圧延する。このような演算を最終パスまで繰り返してロール間隙レベリング制御設定量を求め、各パスの圧延前に圧延機に設定して圧延をすることにより板全長にわたって希望の板ウェッジ(ゼロである)の板を圧延する。さらに、先行材の最終パス圧延状態でのロール間隙レベリングの値を学習して次の被圧延材の最初のパスに制御設定することによりさらに精度の良い板ウェッジを有する製品を得る熱間板圧延における板ウェッジの制御設定方法。
【請求項2】
請求項1の設備において、請求項1では、圧延が進行して多点板厚計が測定可能な板厚に達した奇数パスで作業側、駆動側および板幅中央部の板厚を測定し板ウェッジを求めて、それ以降の最終パスまでのロール間隙レベリングを制御設定した。一般に測定回数が多くなれば製品精度は向上する。そこで、すべての奇数パスにおいて多点板厚計で測定した板ウェッジ値を使って請求項1の方法と同様に次の偶数パスとそれにつずく奇数パスの2つのパスで制御設定をして圧延を行う。さらにこれを最終パスまで繰り返す熱間板圧延における板ウェッジの制御設定方法。さらに、先行材の最終パス圧延状態でのロール間隙レベリングの値を学習して次の被圧延材の最初のパスに制御設定することによりさらに制度の良い板ウェッジを有する製品を得る熱間板圧延における板ウェッジの制御設定方法。
【請求項3】
熱間粗圧延設備には可逆圧延機を2ないし3スタンド単独に有するもの、4ないし6スタンドの単独粗圧延機で各スタンドは一つのスラブに対して一回の圧延を行う一方向粗圧延設備、次に可逆粗圧延機と最終パスには2スタンドのタンデム粗圧延設備などがあるが、これらの圧延機配置は異なっているが基本的には順番に各圧延機で圧延を行うものである。このような圧延設備に対して最終パスまたは最終圧延機の出側に多点板厚計を設置して、作業側と駆動側の板厚差から板ウェッジをもとめ、板幅中心部の板厚から出側板厚を求め、これらから板ウェッジ比率を求めるとともに、最終パスの一つ前のパスに対して設定計算の出側板厚と出側板ウェッジの目標値からなる目標板ウェッジ比率との差が板ウェッジ比率差限界内に入るように出側板ウェッジ目標値を求めて、この出側板ウェッジ目標値を達成するためにレベリングと影響係数および遺伝係数式を用いてロール間隙レベリング制御設定値を求め、さらに最終パスの二つ前のパスに対して最終パスと同様な演算をしてレベリング制御設定値を求め、さらに上流のすべてのパスに対して同様にしてレベリング制御設定値をもとめ、すべてのパスで圧延前にこれらを制御設定して圧延するとともに、一つのスラブが各圧延機で圧延終了時におけるレベリング値を学習して次のスラブに制御設定することを特徴とする熱間板圧延機の制御設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属等の熱間板圧延、特にホットストリップミルの粗圧延や厚板圧延機のような単スタンド可逆圧延における板ウェッジの制御と設定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属などの熱間板圧延においては 被圧延板のウェッジをなくす、つまり板幅方向での作業側と駆動側の板厚差をゼロにすることが望まれていた。被圧延板にウェッジが存在すると被圧延板の寸法や平坦度が不良になり、被圧延材の先端や尾端が湾曲したり、またいわゆるキャンバーが発生して、板全体が長さ方向にCの字型に湾曲することが生じていた。これらのキャンバーや湾曲部分は切り落とす必要があり、このため製品板の歩留まりを低下していた。また板の蛇行や絞り込みなどが正常な圧延を阻害していた。
これらの対策として特許文献1では、ホットストリップミルの仕上圧延機の典型例は7スタンドのタンデム圧延機であるがその最終スタンド出側に板幅方向多点での圧延方向板厚計を設置して、被圧延材のウェッジを測定し、ウェッジの希望値(ゼロが普通である)からの偏差を第1スタンドから最終の第7スタンドのロール間隙レベリングにフィードバック制御して被圧延材のウェッジを板の全長にわたり希望値にすることが示されている。
この特許は現在ではすでに実用化しており、実際のホットストリプミルの仕上圧延機で大きな効果を上げている。また、この特許で出願した数式等は実機において正しいことを確認済みである。
ところで、 ホットストリップミルの粗圧延機や厚板圧延機では通常の設備はエッジャーと水平ミルの一つのスタンド(以下単スタンドと記す)で可逆圧延を繰り返すので、特許文献1の方法は直接には適用できない欠点があった。
以下では被圧延材を単に板と呼ぶこともあるが両者は同じものである。また特に断らない限り出側板厚は板幅中央部のものである。
また、他の例として非特許文献1では、厚板圧延では通常エッジャーと水平圧延機が一体化された単スタンド圧延機において、可逆圧延を行って希望の厚板製品を得ている。この場合、板のキャンバー(湾曲)も一つの課題であった。これに対して単スタンド圧延機の出側に 複数台の板幅オフセンター計を圧延方向に設置して板幅中央部のオフセンターを長さ方向に測定して、板のキャンバーを求め、これに基いて板のウェッジ修正量を求めて、必要なロール間隙レベリングを制御して、板のキャンバーを少なくすることが報告されている。
また、非特許文献2では圧延機、ロールおよび板の変形を連立方程式として計算する方法が示されている。さらに非特許文献3では板圧延において板幅方向にメタルフローがありこれが板の平坦度を緩和することが記載されている。ただし板クラウンと平坦度の関係は述べられているが板ウェッジと板平坦度などとの関係は述べられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】田中他著、厚板圧延におけるキャンバー制御技術、川崎製鉄技報、18(1986)2,145-151
【非特許文献2】安部可治、関口邦男著、冷間板圧延の平坦度制御、2003年10月1日、電気学会論文誌、123号
【非特許文献3】板圧延の理論と実際、社団法人 日本鉄鋼協会 共同研究会 圧延理論部会、昭和59年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来ホットストリップミルの粗圧延機や厚板圧延機などの可逆圧延において、
図1に示す作業側板幅端と駆動側板幅端の板厚差である板ウェッジは板の平坦度やキャンバーの原因であり、さらに板の先端や尾端の幅方向曲がりの原因であり、また片波や板の蛇行による絞り込みの原因であり、さらに製品の寸法精度を不良にしていたなどの問題を生じるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る板材圧延における板ウェッジの制御と設定方法は、
図2に示すように板材を熱間圧延の粗圧延機や厚板圧延機により可逆圧延するものにおいて、圧延機の出側に板幅方向の多点の板厚(少なくとも 作業側の板幅端の板厚、板幅中央部の板厚、駆動側の板幅端の板厚)を圧延方向に測定する(以下多点板厚計と記す)を備えた圧延設備と、圧延の設定計算のための計算機を備える。圧延の設定計算は圧延前に圧延各パスでの板厚、板幅、圧延荷重、板幅中心でのロール間隙、圧延速度などを予測計算するものでありすでに多くの圧延機で用いられている周知技術である。さらに圧延機の制御のための例えばプログラマブル ロジック コントローラ(以後PLCと記す)を備える。
圧延では素材であるスラブを製品板厚まで圧延するが、多点板厚計はある基準板厚(例えば 100mm)以上は測定できないものもある。したがって板ウェッジの測定は板厚が基準板厚以下での測定となる。
まず寄数パス(多点板厚計方向の圧延)において、板厚が基準板厚以下に達したら、作業側の板幅端と駆動側の板幅端の板厚を測定し、これらの差である板ウェッジを求める。そして希望する板ウェッジ値(実際にはゼロ値である)との差である板ウェッジ偏差を求める。また板幅中央部の板厚を測定する。以下では板ウェッジ偏差は実質的に板ウェッジ値であるので板ウェッジ値と記す。
そしてこれ以降のパスから最終パスにおいて、各パスの出側板ウェッジ値を少しずつ小さくして最終的にゼロにするのがこの特許の一つの特徴である。
図5に一例を示す。
ところで、板ウェッジ値をパスごとに少しずつ小さくし、最終的にゼロにする過程では、各パスにおいて板の作業側と駆動側の伸び率差や平坦度を悪くしないようにすること、板が蛇行して絞り込みなどがないことおよびキャンバーなどがないことなどが大切である。これについて非特許文献3において板クラウンと平坦度の関係が記述されている。一方、板ウェッジについての記述はない。ところで任意パスにおいて、入側と出側における板ウェッジ比率(板ウェッジ/板厚)差を上限値と下限値の間のある範囲内になるようにすれば、板の作業側と駆動側の伸び率差が許容値内に入りかつ板平坦度が悪くならない、板が蛇行し絞り込まない、そしてキャンバーなどが発生しないということを発明した。ところで、板圧延では板の板幅方向メタルフローが知られていて、これが板の平坦度が悪くなること、板が蛇行して絞り込むことそしてキャンバーが発生することなどを緩和する。これらのことを考えて任意パスの入側と出側における板ウェッジ比率差の上限値と下限値は実験的に測定できて実験式又は実験値で整理できる。以下では、これらを板ウェッジ比率差限界式と呼ぶことにする。したがって基準板厚に達したら板ウェッジと板幅中央部の板厚を測定して、以降のパスで板ウェッジ比率差限界式内に入るように制御設定をして圧延すれば平坦度は悪くならない、板が蛇行して絞り込まないおよびキャンバーが発生しないで最終パスまでで板ウェッジを全長にわたってゼロにできることが本特許の他の特徴である。
つぎに、板ウェッジ比率差限界式を用いると、上述のように板厚が基準板厚になった iパス以降において出側の板ウェッジを測定できるが,これを出側板厚測定値で除して、次の(i+1)パスでの入側の板ウェッジ比率となる。そこで次の(i+1)パスにおいて板ウェッジ比率差限界内に入る最小の出側の板ウェッジ比率が求まる。その値に設定計算の出側板厚を乗ずれば(i+1)パス出側における板ウェッジ制御後の板ウェッジ目標値が求まる。以上が本特許の他の特徴である。
次に (i+2) パスにおいては前述の(i+1)パスの出側板ウェッジ目標値/板厚が入側板ウェッジ比率になる。再び板ウェッジ比率差限界式を (i+2)パスに適用すれば出側における板ウェッジ制御後の板ウェッジ目標値が求まる。このような演算を最終パスまで実施すればすべてのパス出側において板ウェッジ制御後の板ウェッジ目標値が決定できる。
図5はこの一例である。これが本特許の他の特徴である。
ところで、任意パスの出側板ウェッジ目標値はそのパスのロール間隙レベリング修正量に影響係数を乗じたものと、そのパスの入側板ウェッジに遺伝係数を乗じたものの和であることを発明した。以下ではこの関係式をレベリングと影響係数および遺伝係数式と呼ぶ。これらの影響係数と遺伝係数は圧延機の変形、ロールの変形さらに板の変形を連立してすべての鋼種、板厚および板幅に対して計算することができる。この計算はかなり膨大であり、オンラインで計算はできるが、実際には経済的な要因からオフラインで計算してこの結果を数式化しておく方がよいと考えられる。(例えば、非特許文献2参照)
【0007】
以上の結果を用いて、基準板厚以下の板厚において板のウェッジを測定し、これ以降のパスにおいて板ウェッジ比率差限界式を用いて出側の板ウェッジ目標値を求め、これを実現するためにレベリングと影響係数および遺伝係数式を使って、順番に最終パスまでのロール間隙レベリング制御量を求めて各パスの圧延前に印加することにより板全長で目標(ゼロである)の板ウェッジを有する製品を得ることができる。これはこの特許の他の特徴である。また、圧延中にロール間隙レベリングをステップ状に変更する実験を7スタンドの連続熱間仕上げ圧延機の任意スタンドでおこない影響係数と遺伝係数を同定して精度を上げることを実機でおこない良好な結果を得たが可逆圧延機でも実施できる。
また、次の被圧延材に対して前材の最終パスにおけるロール間隙レベリング修正量を学習して設定する。学習の方法は指数平滑法、AI法、一次遅れ系などいろいろある。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、板全長にわたって、板のキャンバーや先尾端の湾曲などがなく、圧延中の板の蛇行による絞りこみがなく、板の平坦度を悪くすることがなく、板の全長にわたって希望する板厚と板幅の製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は板ウェッジの形状を説明する図である。
【
図2】
図2はこの発明に係る板ウェッジの制御・設定方法についての全体構成例を概念的に示すシステム構成図である。
【
図3】
図3はこの発明に係る駆動側と作業側におけるロール間隙をそれぞれ独立に開閉する装置を示すものである
【
図4】はロール間隙レベリングを示すものであり、駆動側を△L(mm)だけ開にし、作業側を△L(mm)だけ閉にした場合の説明図である。
【
図5】は基準板厚に到達したときに板ウェッジを測定し(iパス)、これ以降の各パス(i+1)パス ,(i+2)パス・・・において、板ウェッジ比率差限界内で出側板ウェッジの目標値を求め、さらに最終パスまでの出側板ウェッジ目標値を求めて示した一例である。横軸はパス出側板厚(mm)、縦軸はパス出側板ウェッジ目標値(mm)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、熱間可逆板圧延における板ウェッジの制御と設定方法について説明する。典型例としては、スラブを熱間圧延するホットストリップミル粗の単スタンド可逆圧延や厚板圧延における単スタンド可逆圧延について説明する。
【実施例0011】
図1は板ウェッジの形状を説明する図である。板ウェッジとは板幅方向で作業側板幅端部と駆動側板幅端部との板厚差である。板厚端部は例えば 板エッジから40(mm)、100(mm)位置などで定義される、つまり、
【数1】
板幅端部の板厚である。一般には板ウェッジを板の全長にわたってゼロにすることが望まれている。したがって 本来は(1)式から板ウェッジ目標値を差し引いて板ウェッジ偏差
ジと呼ぶことにする。
【0012】
次に、
図2はこの発明に係る板ウェッジの制御と設定方法についての全体構成例を概念的に示すシステム構成図である。被圧延材11は圧延前に加熱されたスラブであり、典型例としては、板厚は200から300(mm)などである。これをエッジャー6と水平ミル7からなる可逆圧延機で可逆圧延する。ホットストリップミルの粗圧延では 30から 50(mm) くらいの板厚まで可逆圧延する。 厚板圧延では 板厚5から6(mm)くらいまで圧延するが製品板幅は 5000(mm)などが典型例である。6,7の可逆圧延機から8の多点板厚計方向の圧延を5の奇数パスとし,その逆方向を4の偶数パスとする。8の多点板厚計は少なくとも駆動側板幅端部、板幅中心部そして作業側板幅端部の3点で板厚を圧延方向で連続的に測定する。8の多点板厚計では普通はX線やγ線を被圧延材に通して板厚を測定する。ただし、ある基準板厚以下で精度よく測定するものが多い。14は圧延命令書である。これは圧延すべき素材スラブの鋼種、板厚、板幅、重量、製品板厚、製品板幅などを13のミル設定計算機に入力する。ミル設定計算はよく知られた既知の技術である。また図示していないスラブ温度は別途13のミル設定計算に入力する。13のミル設定計算では圧延前に、圧延パス数、各パスの出側板厚、板幅、圧延荷重、圧延速度、ロール間隙などを予測計算する。また 後述する学習をしてロール間隙レベリング量を計算設定する。
【0013】
この発明による被圧延材のウェッジ制御設定方法は、多点板厚計が測定できる基準板厚まで薄くなったら、5の奇数パスで11の被圧延材が8の多点板厚計に達した時点から駆動側板幅端部、板幅中央部、作業側板幅端部の板厚をロールが反転し板が多点板厚計を抜けるまで連続的に測定し、これらを10のウェッジ制御に入力する。そしてこれら3点の板長さ方向の板ウェッジ平均値を(1)式を用いて求めるとともに板幅中心部の板厚平均値を求める。これらにiパスのサフィックスをつける。また次式で板ウェッジ比率を定義する。つまり、
【数2】
ある。つまり板厚が測定できる最初の奇数パス iで被圧延材が多点板厚計に到達した時点から、被圧延材が逆転して多点板厚計をオフする間に測定した板幅中央部の平均板厚を
用いることが本発明の一つの特徴である。
【0014】
ところで、実際の圧延では被圧延材は圧延中に板幅方向にメタルフロー(ラテラルフロー)を起こすことが知られている。(例えば 非特許文献3参照)
【0015】
このメタルフローが平坦度、板の蛇行による絞り込みさらにキャンバーなどの緩和作用となる。この緩和作用を含めた関係は基本的には実験で決まる実験式又は実験値である。板クラウンと板平坦度などとの関係は非特許文献3に記述されているが、板ウェッジと板平坦度、板の蛇行による絞り込みおよびキャンバーなどとの関係は記されていない。板ウェッジが変わると板幅方向で板の圧延方向の伸びが異なってくる。このため板にウェッジ量変化に応じた引っ張り力や圧縮力が働く、これは板のヤング率に関係するが板の座屈力を超えると例えば板の平坦度として現れる。また蛇行や絞り込み又はキャンバーが発生する。さらに板が板幅方向にメタルフローを生じるので全体としての限界などの厳密な数式化は現在のところ困難である。
以上のことを考慮して、板の平坦度不良、蛇行による絞り込みやキャンバーなどを生じない範囲での i パス出側の板ウェッジ比率と(i+1)パス出側での板ウェッジ比率の関係は、次の(3)式のようになることを発明した。つまり、板ウェッジ比率差限界式は次式である。
【数3】
γ と δ は上に述べた板の伸び差限界の緩和作用を含めて表わした実験で決まるもの又は実験式又は実験値である。つまり、iパスと (i+1)パスの出側で(3)式が成り立つように(i+1)パスの出側板ウェッジ目標値を選べば板の平坦度不良、蛇行による絞り込みやキャンバーなどは生じないことを発明した。(3)式から(i+!)パスの圧延前にこのパスの出側板ウェッジ目標値を求めるが、板ウェッジ比率差限界式内でこれはなるべく小さくしたい。この方針にしたがって、(3)式における i パスでのMEAS値は測定すること
が決まる。
つまり、(i+1)パスでは板ウェッジ比率差限界内で、しかも出側の板ウェッジがなるべく目標値のゼロ値に近くなるように制御設定後の出側板ウェッジ目標値を求めるのが本特許の一つの特徴である。
【0016】
次に (i+1) パスにおいては 出側の板ウェッジ目標値は (i+1)パスでのロール間隙レベリング修正量に影響係数を乗じたものと、入側板ウェッジの値が出側に遺伝するものの和となることを発明したことが本特許の他の特徴である。
つまり、
【数4】
ウェッジがどれくらい変わるかを示す影響係数である。
かを示す遺伝係数である。すでに述べたように(4)式を以下ではレベリングと影響係数および遺伝係数式と呼ぶ。
【0017】
これらの影響係数および遺伝係数は、圧延機、ロールおよび被圧延材の変形式を連立させて、圧延するすべての鋼種、板厚および板幅に対して計算することができる。(例えば、非特許文献2参照)
【0018】
これらの計算はかなり膨大なものでありオンラインで計算することはできるが装置が大きくなるので、実際は図示していないオフラインの計算機で計算し、これらの計算結果を鋼種、板厚、板幅および圧延荷重などの代数式にまとめてPLCコントローラで利用できるようにすることが経済的である。そしてこれらの代数式を
図2の10で示すウェッジの制御と設定を行うコントローラに入れておく。さらに、13で示すミル設定計算で一本ごとのスラブのすべてのパスに対してミル設定計算を行い、鋼種、板厚、板幅、圧延荷重などを計算する。そしてすべてのパスに対して上記の代数式で影響係数と遺伝係数を求める。以上が本特許の他の特徴である。
【0019】
以上で述べたことを利用して、
図2の10で示すウェッジの制御と設定で(4)式から(i+1)パスの圧延前に、
【数5】
り、これを
図2の9に示すレベル制御で圧延前にミルに制御設定して (i+1)パスの先端から尾端まで圧延する。
【0020】
さらに、次の奇数パスである (i+2)パスでは,圧延前に以上に記したi パスと(i+1)パスの関係を同様に用いる。つまり、(I+1)パスで出側の板ウェッジ目標値が達成できたとして、(3)式においてパスを一つ進めて、
【数6】
となるが、この板ウェッジ比率差限界式で(i+1)パスの部分に対しては、出側板厚は設定計算値を用い、出側板ウェッジ測定値は(3)式で求めた出側板ウェッジ目標値を用いて、板ウェッジ比率差限界式は次のようになる。
【数7】
が求まる。そしてこれを用いて、(5)式と同様に (i+2) パスのロール間隙レベリング量の制御量が求まる。
まったく同様にこのような演算を次々のパスに対して行うと、すべての残りのパスでパス出側の板ウェッジ目標値とロール間隙レベリング修正量が求まる。以上で求まったロール間隙修正量を
図2のレベル制御で各パスの圧延前に制御設定する。なお、途中パスで板ウェッジの目標値がゼロになる場合もある。
一例を
図5に示す。この
図5で横軸は i パスでは測定した出側板厚,縦軸は測定した板ウェッジ値であり、次の(i+1)パス以降では横軸は出側板厚の設定計算値、縦軸は出側の板ウェッジ目標値であり、 その後のパスも同様である。パスの進行に従って全パスで板ウェッジが小さくなっていくのがわかる。これが本特許の他の特徴である。
また、(4)式と(5)式が正しいことは別途正業操業中の7スタンドのホットストリップミル仕上圧延機で出側に板幅方向の多点板厚計を設置して、一部の板について圧延中に例えば第4スタンドのロール間隙レベリングを手動でステップ状に動かして仕上圧延機第7スタンドの出側で板ウェッジの変化を測定し、別途(4)と(5)式を用いて第4スタンドから第7スタンド出側までの板ウェッジ変化の計算結果と照合して一致することを確認した。つまり(4)式と(5)式を実験的に実証した。これらは可逆圧延機でできる。
【0021】
また、1本のスラブを圧延完了したら、このスラブに対して制御設定を行った最終パスまで積算したロール間隙レベリングの修正量を次のスラブに対して学習して制御設定し、次々のスラブに対して全く同じように学習して制御設定することが本特許の他の特徴である。この場合の学習方法は例えば 指数平滑方法、一次遅れ系でのスムージング、その他の学習方法を使うことが考えられる。
以上のように、板全長にわたって 圧延した板の板ウェッジを希望値のゼロ又はゼロ近くになるようにできるとともに平坦度がよく、板の先端のまがり、板全体のキャンバーや絞りなどがなく製品の寸法精度の良い板を圧延できるのが本特許の他の特徴である。
以上実施例1に述べた板ウェッジの制御設定では、板厚が基準板厚に到達したら奇数パスである iパスで板ウェッジと出側板厚を測定する。そして次の(i+1)パスに対して板ウェッジ比率差限界内に入るように出側の板ウェッジ目標値を求め、これを達成するためのロール間隙レベリング制御設定量を求めて、圧延前に圧延機に設定して圧延する。またその次の(i+2)パスに対しては(i+1)パスの出板側ウェッジ目標値が達成できたとして、これを入側板ウェッジとし、また設定計算の出側板厚を用いて(i+1)パスと同様に(i+2)パスの出側板ウェッジ目標値を求める。そして(i+2)パスのロール間隙レベリング制御設定量を求めて圧延前に制御設定し圧延する。そして最終パスまで同様な演算をして最終的に制御設定をして板ウェッジを目標値のゼロになるようにしていた。
ところで、(i+2)パス以降では最終パスまで奇数パスで板ウェッジと出側板厚が測定できる。板ウェッジの設定制御では一般的に測定値をなるべく使った方が制御設定精度を向上することが期待される。
そこで本実施例では奇数パスの(i+2)パスで出側板ウェッジと出側板厚を測定し、実施例1 と全く同様の演算を次の(i+3)パスと(i+4)パスでおこなって,それぞれ圧延前に制御設定行行って制御設定精度を向上させることができる。まったく同じようにこの演算や操作を最終パスまで繰り返す。つまり奇数パスで測定し、次の偶数パスで制御設定し、その次の奇数パスで制御設定する。またこの奇数パスで測定し、次の2パスで制御設定を繰り返す。これを最終パスまで実施する。
また、1本のスラブを圧延完了したら、このスラブに対して制御設定を行った最終パスまで積算したロール間隙レベリングの修正量を次のスラブに対して学習して制御設定し、次々のスラブに対して全く同じように学習して制御設定することが本特許の他の特徴である。この場合の学習方法は例えば 指数平滑方法、一次遅れ系でのスムージング、その他の学習方法を使うことが考えられる。
以上のように、板全長にわたって 圧延した板の板ウェッジを希望値のゼロ又はゼロ近くになるようにできるとともに板の平坦度がよく、板の先端のまがり、板全体のキャンバーや絞りなどがなく,製品の寸法精度の良い板を圧延できる本特許の他の特徴である。