(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108626
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】光触媒、及び炭化水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/02 20060101AFI20230728BHJP
B01J 23/75 20060101ALI20230728BHJP
C07C 1/04 20060101ALI20230728BHJP
C07C 1/12 20060101ALI20230728BHJP
C07C 9/02 20060101ALI20230728BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230728BHJP
【FI】
B01J35/02 J ZAB
B01J23/75 M
C07C1/04
C07C1/12
C07C9/02
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009696
(22)【出願日】2023-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2022009694
(32)【優先日】2022-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.掲載アドレス https://www.morressier.com/o/event/62daeef3a6fd3a00196fa00a/article/630fcb557e215f5e7f374f83?contentLibrary=ACS&contentLibraryTitle=American+Chemical+Society&from=%2Flibrary%2FACS 2.掲載日 令和4年6月29日 3.公開者 泉 康雄、ルミシ タリク、原 慶輔、張 宏偉、石井 蓮音、平山 瑠海子、糸井 貴臣、二木 かおり [刊行物等] 1.集会名 ACS National Meeting&Exposition ACS Fall 2022,Chicago,USA 2.開催日 令和4年8月21日 3.公開者 泉 康雄 [刊行物等] 1.掲載アドレス https://confit.atlas.jp/guide/event/catsj130/static/abstract 2.掲載日 令和4年9月13日 3.公開者 石井 蓮音、ルミシ タリク、原 慶輔、大弓 知輝、泉 康雄 [刊行物等] 1.集会名 第130回触媒討論会 2.開催日 令和4年9月22日 3.公開者 石井 蓮音
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100183678
【弁理士】
【氏名又は名称】丸島 裕
(72)【発明者】
【氏名】泉 康雄
(72)【発明者】
【氏名】ルミシ タリク
(72)【発明者】
【氏名】張 宏偉
(72)【発明者】
【氏名】石井 蓮音
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA11
4G169BA04A
4G169BA05A
4G169BA05B
4G169BA08A
4G169BA48A
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB04A
4G169BB06A
4G169BB08A
4G169BC03A
4G169BC12A
4G169BC17A
4G169BC18A
4G169BC22A
4G169BC25A
4G169BC31A
4G169BC32A
4G169BC33A
4G169BC35A
4G169BC43A
4G169BC54A
4G169BC55A
4G169BC56A
4G169BC59A
4G169BC60A
4G169BC64A
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC68A
4G169BC72A
4G169BC74A
4G169BC75A
4G169BD09A
4G169BD12A
4G169CB02
4G169CB62
4G169CB63
4G169CC21
4G169DA05
4G169EA01Y
4G169EA06
4G169EA08
4G169EB18Y
4G169EB19
4G169EC02Y
4G169EC03Y
4G169FA02
4G169FB14
4G169FB43
4G169FC08
4G169HA01
4G169HB06
4G169HB10
4G169HC29
4G169HD03
4G169HE10
4H006AA02
4H006AC29
4H006BA20
4H006BA30
4H006BA55
4H006BA82
4H006BA85
4H006BA95
4H039CL35
(57)【要約】
【課題】光照射により二酸化炭素及び/又は一酸化炭素を効率良く還元でき、一実施形態において二酸化炭素を炭化水素に変換できる光触媒を提供する。
【解決手段】金属酸化物半導体及び炭素系半導体から選択される少なくとも1種により構成される担体と、該担体に担持された金属コバルト含有成分とを含む、光照射により二酸化炭素及び/又は一酸化炭素を還元するための光触媒。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物半導体及び炭素系半導体から選択される少なくとも1種により構成される担体と、前記担体に担持された金属コバルト含有成分とを含む、光照射により二酸化炭素及び/又は一酸化炭素を還元するための光触媒。
【請求項2】
前記金属酸化物半導体が、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、オキシ塩化ビスマス、バナジン酸ビスマス、酸化ガリウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化鉄、酸化セリウム、及びタンタル酸カリウムから選択される少なくとも1種であり、
前記炭素系半導体が、グラフェン、カーボンナノチューブ及びグラファイトから選択される少なくとも1種である、
請求項1に記載の光触媒。
【請求項3】
前記担体が、酸化ジルコニウムにより構成される、請求項1に記載の光触媒。
【請求項4】
前記金属コバルト含有成分の担持量が、前記光触媒中、コバルト原子換算で1~35重量%である、請求項1に記載の光触媒。
【請求項5】
前記金属コバルト含有成分の担持量が、前記光触媒中、コバルト原子換算で2~15重量%である、請求項1に記載の光触媒。
【請求項6】
前記金属コバルト含有成分が、金、銀、銅、鉄、ニッケル、モリブデン、亜鉛、インジウム、白金、パラジウム、イリジウム、セレン、錫及びレニウムから選択される少なくとも1種の金属をさらに含有する、請求項1に記載の光触媒。
【請求項7】
光照射により二酸化炭素及び/又は一酸化炭素を還元して炭化水素を製造するための、請求項1に記載の光触媒。
【請求項8】
水素ガス及び/又は水分含有雰囲気下で、請求項1~7のいずれか一項に記載の光触媒と、二酸化炭素及び一酸化炭素から選択される少なくとも1種とを接触させながら、紫外光及び可視光のいずれか一方又は双方を含む光を前記光触媒に照射して、炭化水素を生成させる工程を含む、炭化水素の製造方法。
【請求項9】
前記工程における雰囲気温度が、200℃未満である、請求項8に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項10】
前記炭化水素が、炭素数1~4の飽和炭化水素及び炭素数2~4の不飽和炭化水素から選択される少なくとも1種を含む、請求項8に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項11】
前記炭化水素が、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、ブテン及びブタジエンから選択される少なくとも1種を含む、請求項8に記載の炭化水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光触媒、及び炭化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素は、近年の地球温暖化の主な原因物質であると考えられており、二酸化炭素の排出量の削減又はその有効利用が検討されている。例えば、触媒を用いて、二酸化炭素を有用な化合物に変換する方法が検討されている。その触媒及び方法としては、例えば、加熱により、二酸化炭素を、メタン等の燃料に変換しえる触媒及び方法が知られている(例えば、非特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Kechao Zhao et al.;Journal of CO2 Utilization 16(2016)236-244
【非特許文献2】Xinyu Jia et al.;Applied Catalysis B:Environmental 244(2019)159-169
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の触媒では、例えば紫外光及び可視光などの光を触媒に照射して二酸化炭素を還元する方法において、二酸化炭素の還元速度や、メタン等の炭化水素の生成速度が充分に高いとはいえず、触媒活性の観点から改良が必要である。
【0005】
本開示の一つの課題は、光照射により二酸化炭素及び/又は一酸化炭素を効率良く還元でき、一実施形態において二酸化炭素を炭化水素に変換できる光触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の光触媒は、光照射により二酸化炭素及び/又は一酸化炭素を還元するための触媒であり、金属酸化物半導体及び炭素系半導体から選択される少なくとも1種により構成される担体と、該担体に担持された金属コバルト含有成分とを含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、光照射により二酸化炭素及び/又は一酸化炭素を効率良く還元でき、一実施形態において二酸化炭素を炭化水素に変換できる光触媒を提供できる。特に本開示によれば、一実施形態において二酸化炭素を一分子中に炭素数2以上の炭化水素に変換できる光触媒を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、キセノンアークランプの波長に対する光強度分布である。
【
図2】
図2は、還元Co(7.5重量%)-ZrO
2(550℃水素還元)触媒を用いたCO
2光還元反応による炭化水素の生成量の時間プロットである。
【
図3】
図3は、還元Co(5.0重量%)-ZrO
2(550℃水素還元)触媒を用いたCO光還元反応による炭化水素の生成量の時間プロットである。
【
図4】
図4は、還元Co(7.5重量%)-ZrO
2(550℃水素還元)触媒を用いたCO光還元反応による炭化水素の生成量の時間プロットである。
【
図5】
図5は、CO光還元反応による炭化水素の生成量の時間プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において数値範囲を示す「A~B」は、「~」の前後に記載された数値A及び数値Bを、下限値及び上限値、又は上限値及び下限値として含む。例えば「1~10」は、1以上10以下の数値範囲を意味する。
【0010】
[光触媒]
本開示の光触媒は、光照射により二酸化炭素及び/又は一酸化炭素を還元するための触媒であり、金属酸化物半導体及び炭素系半導体から選択される少なくとも1種により構成される担体と、該担体に担持された金属コバルト含有成分とを含む。
【0011】
一実施形態において、水素ガス及び/又は水分含有雰囲気下で、二酸化炭素及び一酸化炭素から選択される少なくとも1種を流通させながら、紫外光及び可視光のいずれか一方又は双方を含む光を上記光触媒に照射することにより、安定的に長期間にわたって、二酸化炭素及び一酸化炭素を炭化水素に変換できる。例えば、二酸化炭素及び一酸化炭素から選択される少なくとも1種と、水素ガスとを含む混合ガスを流通させてもよい。以下、この変換を「光還元反応」とも記載する。上記光触媒は、光還元反応において、高い触媒活性と、炭化水素への高い選択性とを有する。
【0012】
上記炭化水素は、好ましくは一分子中に炭素数1~5の炭化水素であり、より好ましくは炭素数1~4の炭化水素、さらに好ましくは炭素数2~4の炭化水素である。上記炭化水素としては、例えば、メタン、エタン、プロパン及びブタン等の炭素数1~4の飽和炭化水素、並びに、エチレン、プロピレン、ブテン及びブタジエン等の炭素数2~4の不飽和炭化水素が挙げられる。上記飽和炭化水素は、例えば、燃料として有用である。上記不飽和炭化水素はさらに高価となり、例えば、ポリマー合成のための反応原料であるモノマーとして有用である。
【0013】
このため、例えば、本開示の光触媒の存在下に、空気に水素ガスを流通させながら、例えば太陽光を該光触媒に照射することにより、空気中の二酸化炭素を炭化水素に効率良く変換できる。このように、地球温暖化の主な原因物質であると考えられている二酸化炭素の濃度を、本開示の光触媒、水素ガス及び太陽光を用いて低減できる。
【0014】
すなわち、本開示の光触媒は、光照射により二酸化炭素及び/又は一酸化炭素を還元するための光触媒であり、光照射により二酸化炭素及び/又は一酸化炭素を還元して炭化水素を製造するための光触媒であることが好ましい。
【0015】
本開示において上記担体は、金属酸化物半導体及び炭素系半導体から選択される少なくとも1種により構成される。本開示において担体は、単に金属コバルト含有成分を担持する物質にとどまらず、後述するように光触媒としての機能の一端を担う物質であると考えられる。
【0016】
金属酸化物半導体は、金属コバルト含有成分を担持する担体の1種である。
金属酸化物半導体としては、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO,SnO2)、酸化ニオブ(Nb2O5)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、オキシ塩化ビスマス(BiOCl)、バナジン酸ビスマス(BiVO4)、酸化ガリウム(Ga2O3)、酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化セリウム(CeO2)、及びタンタル酸カリウム(KTaO3)が挙げられる。
【0017】
炭素系半導体は、金属コバルト含有成分を担持する担体の1種である。炭素系半導体としては、例えば、グラフェン、カーボンナノチューブ及びグラファイトが挙げられる。
【0018】
金属酸化物半導体としては、二酸化炭素及び/又は一酸化炭素を良好に還元できるという観点から、25℃で2.0~5.5eVのバンドギャップを有する金属酸化物半導体が好ましく、25℃で3.0~5.5eVのバンドギャップを有する金属酸化物半導体がより好ましく、25℃で4.5~5.5eVのバンドギャップを有する金属酸化物半導体がさらに好ましい。炭素系半導体でも好適条件は同様である。
【0019】
金属酸化物半導体の中でも、より高い触媒活性を示す光触媒が得られることから、酸化ジルコニウム、酸化チタン及び酸化亜鉛が好ましく、酸化ジルコニウムがより好ましい。すなわち、本開示の光触媒は、金属コバルト含有成分-酸化ジルコニウム複合触媒であることが好ましい。
【0020】
本開示の光触媒は、1種又は2種以上の金属酸化物半導体を含むことができる。本開示の光触媒は、1種又は2種以上の炭素系半導体を含むことができる。本開示の光触媒は、1種又は2種以上の金属酸化物半導体と、1種又は2種以上の炭素系半導体とを含むことができる。
金属酸化物半導体は、多結晶及び単結晶等のいずれであってもよい。
金属酸化物半導体の形状は、例えば、粒子状である。
【0021】
金属酸化物半導体等の上記担体の算術平均粒子径は、より高い触媒活性が得られるという観点から、好ましくは1~500nmであり、より好ましくは2nm以上、さらに好ましくは3nm以上、よりさらに好ましくは5nm以上、特に好ましくは8nm以上であり、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは100nm以下、特に好ましくは50nm以下である。平均粒子径は、金属酸化物半導体等の上記担体の透過電子顕微鏡法(TEM)により得られた画像において、無作為に選んだ100個の担体粒子の長軸径を測定し、算術平均することにより算出できる。
【0022】
金属酸化物半導体等の上記担体の比表面積は、より高い触媒活性が得られるという観点から、好ましくは1~300m2/gであり、より好ましくは10m2/g以上、さらに好ましくは50m2/g以上であり、より好ましくは200m2/g以下、さらに好ましくは150m2/g以下である。比表面積は、BET法により測定できる。
【0023】
上記担体に担持されている金属コバルト含有成分に含まれるコバルトは、少なくとも一部が金属コバルトである。本開示において、上記担体に担持されているコバルト含有成分において少なくとも一部が金属コバルトを維持した状態で上記光還元反応を行うことで、例えば、二酸化炭素及び/又は一酸化炭素を炭化水素に良好に変換できる。
【0024】
金属コバルト含有成分は、例えば、金属コバルト、及びコバルトを含む合金から選択される少なくとも1種であり、好ましくは金属コバルトである。金属コバルト含有成分は、金属コバルトと他の金属とから構成される複合粒子であってもよい。合金や複合粒子に含まれる他の金属としては、例えば、金、銀、銅、鉄、ニッケル、モリブデン、亜鉛、インジウム、白金、パラジウム、イリジウム、セレン、錫及びレニウムが挙げられる。合金は、例えば、コアシェル構造を有する合金であってもよい。例えば、コアシェル構造の外殻が金属コバルトであり、外殻により被覆された物質が他の金属である。
【0025】
上記担体に担持されている金属コバルト含有成分は、好ましくは粒子状であり、例えば金属ナノ粒子である。また、上記光還元反応を良好に進められることから、金属コバルト含有成分の粒子に含まれるコバルトは、該粒子の表面において少なくとも一部が金属コバルトであることが好ましく、該粒子の表面及び内部のいずれにおいても金属コバルトであることがより好ましい。
【0026】
上記担体に担持されている金属コバルト含有成分の算術平均粒子径は、より高い触媒活性が得られるという観点から、好ましくは0.3~50nmであり、より好ましくは0.5nm以上、さらに好ましくは0.8nm以上であり、より好ましくは30nm以下、さらに好ましくは10nm以下、特に好ましくは5.0nm以下である。金属コバルト含有成分の平均粒子径は、広域X線吸収微細構造(EXAFS)解析により算出できる。
【0027】
上記担体の算術平均粒子径に対する、金属コバルト含有成分の算術平均粒子径の比は、例えば、好ましくは0.01~0.9であり、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.8以下、さらに好ましくは0.6以下である。
【0028】
本開示の光触媒において、金属コバルト含有成分の担持量は、コバルト原子換算で、好ましくは1~35重量%、より好ましくは2重量%以上、さらに好ましくは4重量%以上、特に好ましくは6重量%以上であり、より好ましくは25重量%以下、さらに好ましくは18重量%以下、よりさらに好ましくは15重量%以下、特に好ましくは9重量%以下である。担持量が下限値以上であると、金属コバルト含有成分による触媒作用がより良好に発揮される。担持量が上限値以下であると、金属酸化物半導体及び/又は炭素系半導体による触媒作用がより良好に発揮される。したがって、担持量が上記範囲にあると、より優れた還元性能が得られ、具体的には炭化水素の高い生成速度を達成できる。一実施形態において、本開示の光触媒は、コバルト原子以外の上述した他の金属を上記範囲(1~35重量%)で含んでもよい。
【0029】
本開示において、例えば金属コバルト担持酸化ジルコニウム複合触媒におけるコバルトの担持量を変えて二酸化炭素(CO2)からの炭化水素の生成速度を検討した結果、酸化ジルコニウム表面でCO2がCOに還元され、金属コバルト表面(金属ナノ粒子表面)でメチレン種(CH2)、さらにメチル種(CH3)へと段階的に還元され、炭素数1のメタンや、例えば炭素数2~4の炭化水素が生成することが分かった。反応条件に応じて、CH2種又はCH3種のC-C結合形成反応が進むと推測される。また、反応条件を調整して、金属コバルト表面でのCH2濃度を上げることにより、エチレンを合成できることがわかった。反応選択性は、金属コバルト表面での主な中間種がメチレン種であるか、又はメチル種であるかによると推測される。反応条件は、例えば、水素ガスの供給量である。このような効果、特に炭化水素の高い生成速度は、上述した光照射により得られる。
【0030】
[光触媒の製造方法]
本開示の光触媒の製造方法は、金属コバルト含有成分が担持された金属酸化物半導体又は炭素系半導体を製造できれば特に限定されない。上記担体に担持されたコバルト含有成分が例えばコバルト酸化物である場合は、コバルト酸化物を還元する必要がある。
【0031】
一実施形態において、本開示の光触媒の製造方法は、金属酸化物半導体及び炭素系半導体から選択される少なくとも1種とコバルト含有化合物とを混合して混合物を得る工程と、混合物に対して還元処理を行う工程とを含む。
【0032】
還元処理としては、例えば、還元剤を用いる液相還元法、及び水素ガスを用いる接触還元法が挙げられる。液相還元法及び接触還元法のいずれか一方を用いてもよく、両者を併用してもよい。
【0033】
液相還元法におけるコバルト含有化合物としては、溶媒中に溶解可能であれば特に限定されず、例えば、硝酸コバルト、硫酸コバルト、酢酸コバルト及び塩化コバルトなどのコバルト塩、並びにこれらの水和物が挙げられる。これらの中でも、硝酸コバルト及びその水和物が好ましい。
上記溶媒としては、例えば、水及び有機溶媒が挙げられ、水が好ましい。
コバルト含有化合物は1種又は2種以上用いることができる。
【0034】
液相還元法における還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム及び水素化ホウ素リチウム等の水素化ホウ素化合物、水素化シアノホウ素化合物、ジメチルアミノボラン等のボラン化合物、ヒドラジン化合物、金属ナトリウム、並びに金属ヒドリドが挙げられる。これらの中でも、水素化ホウ素化合物が好ましく、水素化ホウ素ナトリウムがより好ましい。
還元剤は1種又は2種以上用いることができる。
【0035】
還元剤の添加量は、コバルト含有化合物におけるコバルト原子1モルに対して、好ましくは0.2~100モル、より好ましくは0.5~20モルである。これにより、良好にコバルトを還元できる。
【0036】
液相還元法の具体例としては、金属酸化物半導体及びコバルト含有化合物を溶媒中に浸漬し、還元剤を加え、必要に応じて撹拌してコバルトを還元し、ろ過及び乾燥処理等により溶媒を除去する方法が挙げられる。これにより、一実施形態において、金属コバルト含有成分が担持された金属酸化物半導体が得られる。炭素系半導体についても同様である。
【0037】
金属コバルトは空気中において酸化されやすいため、一実施形態において、金属酸化物半導体とコバルト含有化合物との混合物に対して、液相還元法による処理を行った後、水素ガスを用いる接触還元法による処理をさらに行うことが好ましい。炭素系半導体についても同様である。液相還元法による処理を行った後、不活性ガスで満たしたグローブボックス内で光触媒を反応装置内に移し、大気に触れないで用いることも非常に好ましい。これにより、光触媒の活性をより向上できる。
【0038】
接触還元法では、例えば、水素ガス、及び水素ガスと不活性ガス(例:窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス)との混合ガスが用いられる。混合ガス中の水素ガスの割合は、好ましくは20モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上である。
【0039】
水素ガスを用いる接触還元法において、雰囲気温度は、好ましくは200~800℃であり、より好ましくは300℃以上、さらに好ましくは400℃以上、特に好ましくは500℃以上であり、より好ましくは750℃以下、さらに好ましくは700℃以下、特に好ましくは650℃以下である。接触還元法による処理時間は、例えば、1分~10時間である。これにより、コバルト酸化物を金属コバルトに良好に還元できる。
【0040】
金属コバルトの酸化を避けるという観点から、本開示の光触媒を、その使用直前まで非酸化性雰囲気下に保管することが好ましい。非酸化性雰囲気としては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス及びアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気、並びに、水素ガスなどの還元ガス雰囲気が挙げられる。
【0041】
[炭化水素の製造方法]
一実施形態において、本開示の炭化水素の製造方法は、水素ガス及び/又は水分含有雰囲気下で、本開示の光触媒と、二酸化炭素及び一酸化炭素から選択される少なくとも1種とを接触させながら、紫外光及び可視光のいずれか一方又は双方を含む光を光触媒に照射して、炭化水素を生成させる工程(以下「工程(1)」とも記載する)を含む。一実施形態において、工程(1)では、本開示の光触媒と、二酸化炭素及び一酸化炭素から選択される少なくとも1種並びに水素ガスを含む混合ガスとを接触させながら、紫外光及び可視光のいずれか一方又は双方を含む光を光触媒に照射して、炭化水素を生成させる。
【0042】
本開示では、光照射により二酸化炭素及び/又は一酸化炭素から、炭化水素を生成できる。炭化水素の具体例は上述したとおりである。炭化水素としては、特に、一分子中に炭素数1のメタン、エタン及びエチレンなどの炭素数2の炭化水素、プロパン及びプロピレン等の炭素数3の炭化水素、ブタン、ブテン及びブタジエン等の炭素数4の炭化水素が挙げられる。このように、光照射により、二酸化炭素から炭素数2以上の炭化水素を生成する光触媒は、従来技術において通常見られるものではない。本開示の光触媒は、例えば、都市ガスのみならず、プロパンガスなどの燃料のインフラストラクチャーの設計に寄与することができ、また、反応条件を調整することにより、例えば、燃料として有用な炭素数1~4の飽和炭化水素(メタン、エタン、プロパン、ブタン等)を生成したり、反応原料として有用な炭素数2~4の不飽和炭化水素(エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン等)を生成したりすることもできる。例えばガス分離モジュールを用いて、所望の成分を選択的に得ることができる。
【0043】
工程(1)は、水素ガス含有雰囲気下に行うことができる。二酸化炭素(CO2)又は一酸化炭素(CO)1モルに対する水素ガス(H2)の供給量は、好ましくは0.1~40モルであり、より好ましくは0.5モル以上、さらに好ましくは1モル以上であり、また目的物や触媒活性に応じて2モル以上又は5モル以上でもよく、より好ましくは30モル以下、さらに好ましくは20モル以下である。これにより、例えば、上記担体に担持された金属コバルト含有成分の活性を良好に維持しながら、二酸化炭素を還元できる。
【0044】
水素ガスの供給量を調整することにより、あるいは、反応時間を調整(例えば生成物を採取するタイミングを調整)することにより、例えば、炭素数1のメタンと炭素数2以上の炭化水素との生成比や、飽和炭化水素と不飽和炭化水素との生成比を調整することができる。例えば水素ガスの供給量が大きい場合は、飽和炭化水素の生成量が大きくなる傾向にあり、水素ガスの供給量が小さい場合は、不飽和炭化水素の生成量が大きくなる傾向にある。特に、多段階水素化過程を制御することにより、付加価値の高いエチレン及びプロピレンへの転換を容易に行うことができる。一実施形態において、一酸化炭素(CO)1モルに対する水素ガス(H2)の供給量が0.1~5モルの条件で反応を行う場合に、反応初期(例えば反応開始から4時間まで)において、エチレン及びプロピレンなどの不飽和炭化水素を効率的に得ることができる。
【0045】
上記混合ガスは、窒素ガス、ヘリウムガス及びアルゴンガス等の不活性ガスを、例えば搬送ガスとして含んでもよい。
【0046】
工程(1)は、水分含有雰囲気下、又は水素ガス及び水分含有雰囲気下に行うこともできる。水も、二酸化炭素を還元するための水素供給源となりえる。二酸化炭素又は一酸化炭素1モルに対する水の供給量は、上記担体に担持された金属コバルト含有成分の活性を良好に維持しながら、二酸化炭素を還元するという観点から、一実施形態において、0.01~10モルであり、好ましくは0.1~5モルである。
【0047】
工程(1)において光触媒に照射される光は、紫外光及び可視光のいずれか一方又は双方を含む。紫外光が上記担体における電荷分離を誘起して、二酸化炭素を一酸化炭素に還元し、可視光が金属コバルトを加熱して水素ガスを活性化し、一酸化炭素をメタン等に変換すると推測されることから、光触媒に照射される光は、紫外光及び可視光を含むことが好ましい。
【0048】
上記光は、例えば、波長200~800nmの光を含む。上記光は、波長200~715nmの光を少なくとも含むことが好ましい。上記光は、波長200~320nmの光と、波長320nm超520nm以下の光、及び/又は波長520nm超715nm以下の光とを少なくとも含むことがさらに好ましい。
【0049】
上記光の照射量は、好ましくは1~1000mW/cm2であり、より好ましくは10mW/cm2以上であり、より好ましくは500mW/cm2以下である。上記光として、例えば太陽光を用いてもよい。
【0050】
工程(1)における雰囲気温度は、特に限定されず、常温で行うことができる。一実施形態において、工程(1)における雰囲気温度は、好ましくは200℃未満、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは100℃以下、よりさらに好ましくは50℃以下であり、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上である。このような温度範囲であっても、本開示の炭化水素の製造方法では、光照射により、炭化水素の高い生成速度を達成できる。
【0051】
反応形式は、例えば本開示の光触媒と二酸化炭素及び水素ガスを含む混合ガスとを効率的に接触できれば特に制限はなく、例えば、固定床、流動床及び移動床で反応を行わせることができる。本開示の光触媒は、粉末のまま用いてもよく、成型して用いてもよい。反応圧力については、特に制限されない。
【0052】
本開示の光触媒を用いた二酸化炭素の光還元反応(水素化反応)における生成物は、主として炭化水素であるが、一酸化炭素及び水等の副生成物を含んでもよい。
【0053】
本開示の光触媒を用いることにより、既存の化石燃料の使用に伴う不可逆な二酸化炭素の生成に対して、該二酸化炭素を燃料に戻すカーボン・ニュートラル・サイクルを形成できる。例えば、既存の石油化学系インフラストラクチャーを活用して、シンプルな設備で燃料又は反応原料を得ることができる。したがって、本開示の光触媒は、地球温暖化及びエネルギー問題の解決に寄与できる。
【0054】
本開示は、例えば以下の[1]~[11]に関する。
[1]金属酸化物半導体及び炭素系半導体から選択される少なくとも1種により構成される担体と、該担体に担持された金属コバルト含有成分とを含む、光照射により二酸化炭素及び/又は一酸化炭素を還元するための光触媒。
[2]金属酸化物半導体が、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、オキシ塩化ビスマス、バナジン酸ビスマス、酸化ガリウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化鉄、酸化セリウム、及びタンタル酸カリウムから選択される少なくとも1種であり、炭素系半導体が、グラフェン、カーボンナノチューブ及びグラファイトから選択される少なくとも1種である、上記[1]に記載の光触媒。
[3]担体が、酸化ジルコニウムにより構成される、上記[1]又は[2]に記載の光触媒。
[4]金属コバルト含有成分の担持量が、光触媒中、コバルト原子換算で1~35重量%である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の光触媒。
[5]金属コバルト含有成分の担持量が、光触媒中、コバルト原子換算で2~15重量%である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の光触媒。
[6]金属コバルト含有成分が、金、銀、銅、鉄、ニッケル、モリブデン、亜鉛、インジウム、白金、パラジウム、イリジウム、セレン、錫及びレニウムから選択される少なくとも1種の金属をさらに含有する、上記[1]~[5]のいずれかに記載の光触媒。
[7]光照射により二酸化炭素及び/又は一酸化炭素を還元して炭化水素を製造するための、上記[1]~[6]のいずれかに記載の光触媒。
[8]水素ガス及び/又は水分含有雰囲気下で、上記[1]~[7]のいずれかに記載の光触媒と、二酸化炭素及び一酸化炭素から選択される少なくとも1種とを接触させながら、紫外光及び可視光のいずれか一方又は双方を含む光を光触媒に照射して、炭化水素を生成させる工程を含む、炭化水素の製造方法。
[9]上記工程における雰囲気温度が、200℃未満である、上記[8]に記載の炭化水素の製造方法。
[10]上記炭化水素が、炭素数1~4の飽和炭化水素及び炭素数2~4の不飽和炭化水素から選択される少なくとも1種を含む、上記[8]又は[9]に記載の炭化水素の製造方法。
[11]上記炭化水素が、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、ブテン及びブタジエンから選択される少なくとも1種を含む、上記[8]~[10]のいずれかに記載の炭化水素の製造方法。
【実施例0055】
以下、本開示の光触媒及び炭化水素の製造方法を実施例に基づきより詳細に説明する。
【0056】
[調製例]
担体として0.500gのZrO2粉末(JRC-ZRO-3、触媒学会参照触媒;平均粒子径12nm、比表面積94.4m2/g)と、0.0633~0.274gの硝酸コバルト(II)六水和物(純度99.9%超、和光純薬(株)製)とを、100mLの水(電気伝導率0.055μS/cm未満)に加えた。
【0057】
得られた混合物を超音波(430W、38kHz)により20分間撹拌し、マグネティックスターラーを用いて900rpmで1時間撹拌した。0.0658~0.285gの水素化ホウ素ナトリウム(純度95%超、和光純薬(株)製)を20mLの水に溶かした溶液を上記混合物に加え、マグネティックスターラーを用いて900rpmで撹拌した。
【0058】
次いで、得られた懸濁液を、ポリテトラフルオロエチレン系メンブレンフィルター(メルクミリポア社製、オムニポア、JVWP04700;細孔径0.1μm)を用いてろ過し、得られた固体残渣を250mLの水を用いて洗浄した。得られた粉末を100℃で一晩乾燥した。得られた粉末を「Co3O4-ZrO2」と記載する。Co担持量は2.5~10重量%であった。得られた粉末は薄緑色を呈していた。
【0059】
[水素ガスを用いた還元処理]
それぞれ20mgのZrO2又はCo3O4-ZrO2を、パイレックス(登録商標)ガラス循環システム(体積206.1mL)に接続された、内容積46.0mLのU字型石英管に入れ、ロータリーポンプ及び拡散ポンプの両方を用いて、10-6Paの真空中で1時間処理した。次いで、20kPaのH2(純度99.99%超)を系中に導入し、昇温速度15℃/分で450℃、550℃又は700℃に昇温し、450℃で10分間、又は550℃若しくは700℃で1時間保持した。このようにして還元処理された触媒サンプルを、「還元ZrO2」又は「還元Co(X重量%)-ZrO2」(Xは担持量を示す)と記載する。還元処理された触媒サンプルについてEXAFSにより金属コバルト含有成分の平均粒子径を算出したところ、0.96~2.9nmの範囲に入ると推定された。
【0060】
[CO
2
及びCOの光還元試験]
13CO2の光還元試験を、調製例で得られた触媒サンプル20mgを用いて行った。13CO2の光還元試験では、2.3kPaの13CO2及び21.7kPaのH2(純度99.99%超)を反応器に導入した。また、2.3kPaの13CO2及び2.3kPaのH2を反応器に導入した光還元試験も行った。また、2.3kPaの13CO及び21.7kPaのH2を反応器に導入した光還元試験も行った。さらに、炭化水素への水素種付加速度を評価するために、2.3kPaの13CO及び2.3kPaのH2を反応器に導入した光還元試験も行った。各反応は常温で行った。
【0061】
上記試験において、キセノンアークランプ(SX-UID502XAM、ウシオ電機(株)製;500W)を用いて、紫外・可視光を、Y型石英ファイバーライトガイド((株)オプテル)を介して、上記触媒サンプルを含む石英反応器の上部及び下部から48時間照射した。ファイバーライト出口(Φ=5mm)と触媒サンプルとの距離は20mmであった。触媒サンプルの中心位置における光の強度は142mW/cm
2であった。キセノンアークランプの波長に対する光強度分布を、紫外・可視光源から20mmの位置に置かれた分光放射照度計(USR45DA、ウシオ電機(株)製)を用いて測定した。結果を
図1に示す。
【0062】
13CO2及び13COの光還元・変換試験の生成物を、オンライン接続したガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS、JMS-Q1050GC、日本電子(株)製)を用いて経時追跡した。ここで、分子篩「13X-S」(長さ3m、内径3mm;ジーエルサイエンス(株)製)の充填カラムを用いた。ヘリウム(0.40MPa、純度99.9999%超)を、搬送ガスとして用いた。パイレックス(登録商標)ガラスシステムからなるサンプリングループ(4.6mL)を、ロータリーポンプ及び拡散ポンプを用いて10-6Paの真空下に維持してから反応ガスをサンプリングし、その後1.5mの不活性化石英ガラス管(内径250μm)を介してGC-MSに接続した。石英ガラス管は、分析中の気体の吸着を避けるため、120℃に維持した。
【0063】
表1に、13CO2及び13COの光還元・変換反応の結果を示す。
【0064】
【0065】
酸化ジルコニウム上に金属コバルト含有成分が担持された複合触媒にCO
2及びH
2雰囲気で紫外・可視光を照射すると、メタンに加えて、エタン及びプロパンが生成した(実施例4に関する
図2参照)。このように、上記複合触媒を用いると、メタンの生成に加えて、C-C結合形成反応が起きることが見出された。
【0066】
還元ZrO2を光触媒として用いた場合は、主にCOのみが生成した(比較例1)。H2で還元処理されていないCo3O4-ZrO2を光触媒として用いた場合も、主にCOのみが生成した(比較例2)。これに対して、還元Co-ZrO2を用いた場合は、上述したように、メタン、エタン及びプロパンから選択される少なくとも1種の炭化水素が主に生成した(実施例1~6)。以上の結果から、高温でのH2還元処理が、酸化ジルコニウム上にコバルト含有成分が担持された複合触媒を用いたCO2の光還元において重要であると考えられる。
【0067】
還元Co(7.5重量%)-ZrO2(550℃)が最も高い触媒活性を示した(実施例4)。実施例1~6での各生成物の生成比(モル比)は、多少の変動はあるものの、おおよそ一定となっている。したがって、実施例1~6の条件では、同じ反応機構を経て反応が進行していると推測される。
【0068】
13CO
2の代わりに
13COを用い、2.3kPaの
13CO及び21.7kPaのH
2を反応器に導入した(実施例7に関する
図3参照、実施例7~8)。実施例7~8でも、各生成物の生成比(モル比)が、おおよそ一定となっている。物質量比で
13C
2H
6及び
13C
3H
8の生成比が炭化水素全体の13%程度まで上昇した。
13C
2H
6及び
13C
3H
8の生成比が増加していることから、C-C結合形成反応は金属コバルト表面に存在するCHOH種やCH
x種の濃度に依存していると推測される。
【0069】
多段階水素付加の過程を遅くさせるため、2.3kPaの
13CO及び2.3kPaのH
2を反応器に導入した(実施例9、
図4参照)。その結果、
13C
2H
4の生成が確認された。生成量のプロットは逐次反応のグラフとなり、2CH
2→ C
2H
4 → C
2H
6の素過程での反応速度定数はそれぞれ0.51s
-1、0.0077s
-1と求められた。0~2時間までの生成速度は5.5μmol・h
-1・g
-1であり、また、全生成物の25%程度が
13C
2H
4であった。
【0070】
13CO及びH
2雰囲気で、光触媒として還元Co(7.5重量%)-ZrO
2(550℃)を用いて光還元試験を行った場合(実施例8及び9)、H
2圧を21.7kPaから2.3kPaに下げると光触媒反応全体が抑制され、また、エチレン生成が確認された(
図5(A)(1)及び(2))。エチレンは逐次反応の中間物質であり、さらにエタンに転換された。
【0071】
13CO及びH
2雰囲気で、光触媒として還元Co(7.5重量%)-ZrO
2(700℃)を用いて光還元試験を行った場合、H
2圧を21.7kPaから2.3kPaに下げると(実施例9a)、やはり光触媒反応全体が抑制され、プロピレンはその生成速度が低速になったものの定常生成した一方、エチレンは逐次反応的にエタンに転換された(
図5(B))。特に光触媒として還元Co(7.5重量%)-ZrO
2(700℃)を用い、
13CO圧が2.3kPa、H
2圧が2.3kPaの条件での光還元試験を行った場合、反応初期3~4時間までは炭素水素生成物の内、エチレンが主生成物となった。
【0072】
光照射に用いた光の波長カットを、各々のファイバーライト出口に設置されたシャープカットフィルターを用いて行った。型番「UV32」及び「Y52」(厚さがそれぞれ2.5mm;HOYA(株)製)のフィルターを、それぞれ、波長λ>320nm及びλ>520nmの光を透過させるために用いた。光触媒として還元Co(7.5重量%)-ZrO2(550℃)を用いたCO2の光還元反応を、13CO2(2.3kPa)及びH2(21.7kPa)の条件で行った。結果を表2に示す。
【0073】
【0074】
ZrO2のバンドギャップが5.0eV(λ=248nm)程度であることから、紫外光をカットすることで炭化水素の生成速度が低下するものの、入射光の波長が320nm超でも520nm超でも活性がある。これはZrO2表面の酸素欠陥サイトに吸着したCO2分子が反応しやすいためであると考えられる。