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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108631
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】ドッグフード
(51)【国際特許分類】
   A23K 20/158 20160101AFI20230731BHJP
   A23K 50/40 20160101ALI20230731BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20230731BHJP
【FI】
A23K20/158
A23K50/40
A23K10/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009766
(22)【出願日】2022-01-26
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】307029098
【氏名又は名称】藤本 大道
(74)【代理人】
【識別番号】100126815
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 岳
(72)【発明者】
【氏名】藤本 大道
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005AA05
2B150AA06
2B150AB03
2B150AB10
2B150AE01
2B150CE30
2B150CJ08
2B150DA36
2B150DA55
2B150DD31
(57)【要約】
【課題】オメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足に特徴的な症状を呈する特定の犬種のペット犬の疾患を治癒又は改善することができるドッグフードを提供する。
【解決手段】少なくとも一部の構成脂肪酸がオメガ-3脂肪酸であるグリセロリン脂質を0.001乾燥重量%乃至4乾燥重量%含む、ダックスフンド・チワワ・ポメラニアン・ヨークシャーテリア・パピヨン・パグ・フレンチブルドッグ・ブルドッグ・ジャックラッセルテリア・ワイマラナーの犬種向けドッグフードとする。さらに好ましくは、冬虫夏草を0.01乾燥重量%乃至2乾燥重量%添加する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセロリン脂質を構成するオメガ-3脂肪酸を0.001乾燥重量%乃至4乾燥重量%含む
ことを特徴とする、ドッグフード。
【請求項2】
前記グリセロリン脂質を構成するオメガ-3脂肪酸を0.01乾燥重量%乃至2乾燥重量%含む
ことを特徴とする、請求項1に記載のドッグフード。
【請求項3】
クリルオイルを0.033乾燥重量%乃至6.6乾燥重量%含む
ことを特徴とする、ドッグフード。
【請求項4】
クリルオイルを0.033乾燥重量%乃至6.6乾燥重量%含む
ことを特徴とする、請求項3に記載のドッグフード。
【請求項5】
冬虫夏草を含む
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のドッグフード。
【請求項6】
前記冬虫夏草とは、サナギタケである
ことを特徴とする、請求項5に記載のドッグフード。
【請求項7】
前記冬虫夏草を0.01乾燥重量%乃至2乾燥重量%含む
ことを特徴とする、請求項5または請求項6に記載のドッグフード。
【請求項8】
ダックスフンド・チワワ・ポメラニアン・ヨークシャーテリア・パピヨン・パグ・フレンチブルドッグ・ブルドッグ・ジャックラッセルテリア・ワイマラナーの犬種向けである
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のドッグフード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドッグフードに関するものである。より具体的には、特定の栄養素の吸収・代謝能力に劣る種類の犬に給餌することで、該栄養素の欠乏又は不足に起因する皮膚疾患や内臓疾患等の治癒又は改善効果を奏する、特定犬種向けのドッグフードに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ペットブームなどとといわれるように、多くの家庭で愛玩動物が飼育されている。愛玩動物との触れ合いを通じて精神的な安らぎが得られることや、ペットの世話を通じた身体的な活動や規則正しい生活リズムが肉体的な健康の向上にもつながるなど、飼い主の健康への好ましい影響も広く知られるようになり、今後もますます多くの愛玩動物が飼育されていくであろうと考えられる。
【0003】
様々な愛玩動物が飼育されるが、その中でも犬は飼い主によく慣れ、従順で、様々な大きさや外見の犬種が存在して飼い主の嗜好に応えられるなど愛玩動物として好ましい性質を多く備えており、非常に人気のある愛玩動物の一つである。しばしば愛玩動物である犬(以下、「ペット犬」という)は飼い主にとって大切な家族の一員と認識され、その健康状態などは非常に大きな関心事である。
【0004】
ペット犬の健康に影響を与える要因は様々であるが、無視し得ない大きな要因として餌の選択があげられる。ヒトと同様、ペット犬にも餌を通じて摂取しなければならない必須アミノ酸や必須脂肪酸といった栄養素があり、これらが欠乏又は不足すると、皮膚障害や腎臓・肝臓などの内臓障害を発生してしまう。必須栄養素はペット犬の年齢その他の属性によってもその必要量が変化する一方、不足を恐れて大量に給餌すると肥満や糖尿病などヒトの成人病と同様の疾患を発生させてしまうことにもなる。このため、従来より、ペット犬の必要に対応するために様々なドッグフードが開発され、上市されてきた。
【0005】
特開2016-202077公開特許公報には、(A)二重結合を3つ以上有する不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂、(B)鉄、鉄化合物、銅及び銅化合物から選ばれるミネラル成分、(C)クエン酸及び/又はその塩合計量がモル比で成分(B)の10倍以上、(D)レシチン、(E)脱脂ごまを含有するペットフードが開示されている。この発明は、不飽和結合を複数含む脂肪酸を保有する油脂とミネラル成分を含有するペットフードの酸化安定性を顕著に改善したペットフードに係るものである。種々の生理的効果を有することが期待されているオメガ-3脂肪酸やオメガ-6脂肪酸といった不飽和脂肪酸を分子内に含む油脂は酸化しやすく、臭い、嗜好性が悪化しやすいところ、この発明においては酸化安定性を顕著に改善し、長期保存を可能としている。
【0006】
また、同公報にはオメガ-3脂肪酸やオメガ-6脂肪酸といった不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂を好ましくは1質量%乃至45質量%含有したペットフードが開示されている。犬にとってオメガ-6脂肪酸は必須脂肪酸であり、これを構成脂肪酸として含む油脂を含む本ペットフードを給餌することにより、ペット犬に必要量の必須脂肪酸を摂取させることができる。また、犬はオメガ-6脂肪酸の一であるリノール酸をオメガ-3脂肪酸の一であるα-リノレン酸に転換できるため、オメガ-3脂肪酸は必須脂肪酸ではないとはいえ、犬に給餌するオメガ-6脂肪酸とオメガ-3脂肪酸の割合が健康に関係するといわれており(例えば、オメガ-6脂肪酸とオメガ-3脂肪酸の比が5~10:1程度が好ましいといわれる)、このペットフードによって適正なオメガ-6脂肪酸とオメガ-3脂肪酸の割合で脂肪酸を摂取させることにより、その健康に寄与することが期待される。
【0007】
オメガ-6脂肪酸やオメガ-3脂肪酸といった不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂を含有したペットフードを給餌することで、ペット犬に必要量の必須脂肪酸を摂取させることができ、必須脂肪酸に関連する範囲での健康を担保することができるように思われる。ところが、本願発明者の研究によると、十分な量のオメガ-6脂肪酸やオメガ-3脂肪酸を給餌しているにもかかわらず、必須脂肪酸が欠乏または不足していると思われるペット犬が存在することが見いだされた。具体的には、被毛の光沢の喪失や皮膚炎のような皮膚疾患や腎機能の低下、脳神経疾患など、オメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足が疑われる症状が観察され、さらに、これら症例が特定の犬種に特に多く発生するらしいことを見出した。
【0008】
本願発明者はさらに研究を進め、特定の犬種においては、一見健康に見える若い犬ですら、食餌として十分な量を給餌してもドキソヘキサ塩酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、あるいはαリノレン酸のようなオメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足状態となりやすいことを見出した。正確な原因は不明であるものの、特定の犬種においては、これら脂肪酸の吸収・代謝・輸送のプロセス、または、オメガ-6脂肪酸からの転換のプロセスに先天的問題があるらしいのである。
【0009】
また、本願発明者は、オメガ-3脂肪酸を通常の脂質(グリセロ脂質)としてペット犬に給餌するのではなく、リン脂質(グリセロリン脂質)としてペット犬に給餌することで、前記オメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足が疑われる症状が大きく改善することを発見した。詳細は不明ながら、両親媒性を呈し血液脳関門を通過できるなどのリン脂質特有の性質が前記特定犬種の先天的問題の回避に寄与したためと想像され、この発見は特定犬種において必須脂肪酸の欠乏又は不足に特徴的な疾患を根本的に解決できる可能性のあるものである。
【0010】
さらに、本願発明者は、グリセロリン脂質に加え、冬虫夏草又はこれから抽出した成分をペット犬に給餌することで、前記効果をより顕著なものとすることができることをも発見した。冬虫夏草は強い抗炎症効果を奏し、漢方薬としても重用される菌類であるが、これを給餌することがオメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足時に発生する炎症等の症状に作用し、オメガ-3脂肪酸をグリセロリン脂質として給餌することと相乗的に作用して顕著な効果を発現するものと考えられる。
【0011】
これらの研究成果をもとに、本願発明者は、オメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足に特徴的な症状を呈する特定の犬種のペット犬の疾患を治癒又は改善することができるドッグフードを完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2016-202077 公開特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上説明した通り、本発明が解決しようとする課題は、オメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足に特徴的な症状を呈する特定の犬種のペット犬の疾患を治癒又は改善することができるドッグフードを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)前記課題を解決するため、本発明においては、
グリセロリン脂質を構成するオメガ-3脂肪酸を0.001乾燥重量%乃至4乾燥重量%含む
ことを特徴とする、ドッグフードとしている。
【0015】
グリセロリン脂質とは、グリセロールのヒドロキシル基のうち一つにリン酸基が結合し、残りの二つに脂肪酸が結合した物質の総称である。同じ脂質ではあるが、グリセロ脂質がグリセノールのすべてのヒドロキシル基に脂肪酸が結合している点が異なっている。脂質中の脂肪酸は疎水性を呈する一方、リン酸基は親水性を呈するため、通常のグリセロ脂質と異なり、グリセロリン脂質は両親媒性を呈するなど特有の性質を備える。このような性質の違いにより、通常のグリセロ脂質を給餌しても十分にこれの構成脂肪酸を吸収・代謝・輸送して利用することのできない先天的問題を持つ犬種においても、グリセロリン脂質を給餌することで吸収等の利用ができると想像される。
【0016】
オメガ-3脂肪酸とは、ω-3位に炭素-炭素二重結合をもつ脂肪酸であり、不足すると皮膚障害や腎臓・肝臓疾患の原因となるほか、てんかん等の脳神経障害にも関連することで知られる。特に、オメガ-3脂肪酸の一であるDHAやEPAを多く含有するグリセロ脂質として知られる魚油は、ヒトだけでなく愛玩動物を対象としたサプリメント等に応用され、市場に広く流通するようになっている。
【0017】
なお、オメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足に特徴的な疾患に直接的に働きかけるため、本発明はオメガ-3脂肪酸を構成脂肪酸の少なくとも一部として含むグリセロリン脂質を含むドッグフードとしている。しかし、これは本発明に係るドッグフードにオメガ-6脂肪酸を構成脂肪酸の少なくとも一部として含むグリセロリン脂質を添加することを否定するものではない。通常の食餌原料では、オメガ-3脂肪酸と比べてオメガ-6脂肪酸が不足することはまれであるので、オメガ-3脂肪酸を優先的に強化することが好ましいのであるが、犬にとってオメガ-6脂肪酸は必須脂肪酸でもあり、全食餌中で必要な量のオメガ-6脂肪酸を摂取できるように調整しなければならないことは言うまでもないことなのである。
【0018】
本発明に係るドッグフードは、先天的問題でオメガ-3脂肪酸をグリセロ脂質として摂取してもこれを十分に体内で利用できない犬種のペット犬の健康に大きく寄与できるものであるが、オメガ-3脂肪酸も他のあらゆる栄養素と同様に不足してはいけない一方で、過剰に摂取することも好ましくない。オメガ-3脂肪酸の不足が様々な疾患の原因になることはすでに説明した通りであるが、過剰摂取は血液凝固障害や滲出性紅斑などの原因になるといわれるほか、摂取カロリー過剰による肥満とこれを原因とする疾病を招きかねない。
【0019】
そこで、本発明に係るドッグフードは、グリセロリン脂質を構成するオメガ-3脂肪酸を0.001乾燥重量%乃至4乾燥重量%含むこととしている。この範囲であれば、本発明に係るドッグフードでペット犬の必要カロリーを充足した場合に、適正な量のオメガ-3脂肪酸を摂取させることができ、副作用なくオメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足を原因とする疾患を改善又は防止することができるからである。
【0020】
(2)前記課題を解決するため、本発明においては、
前記グリセロリン脂質を構成するオメガ-3脂肪酸を0.01乾燥重量%乃至2乾燥重量%含む
ことを特徴とする、(1)に記載のドッグフードとしている。
【0021】
ペット犬に摂取させなければならないオメガ-3脂肪酸の量は、当然ながらそのペット犬の犬種や、体重、運動量、年齢などによって異なるものである。より多くのペット犬に必要十分な量のオメガ-3脂肪酸を摂取させるため、本発明においては、グリセロリン脂質を構成するオメガ-3脂肪酸を0.01乾燥重量%乃至2乾燥重量%含むこととしている。この範囲であれば、オメガ-3脂肪酸の不足の度合いが高いペット犬に対しても十分な量のオメガ-3脂肪酸を摂取させることができ、かつ、オメガ-3脂肪酸の不足の度合いが比較的軽微なペット犬に対しても過剰摂取となる恐れがない、多くのペット犬に安心して給餌できるドッグフードとすることができるからである。
【0022】
(3)前記課題を解決するため、本発明においては、
クリルオイルを0.033乾燥重量%乃至6.6乾燥重量%含む
ことを特徴とする、ドッグフードとしている。
【0023】
クリルオイルとは、動物プランクトンの一種である南極オキアミから抽出精製される食用油であり、魚油と同様にオメガ-3脂肪酸を多く含有することで知られるほか、オメガ-3脂肪酸の多くがグリセリ脂質ではなくグリセロリン脂質として含有されることも大きな特徴である。本発明に係るドッグフードに添加する、少なくとも一部の脂肪酸がオメガ-3脂肪酸であるグリセロリン脂質を天然生物からの抽出物によることとできると、化学的プロセスを経ない天然原料、もしくは、人工的な加工度の低い原材料からなるドッグフードを志向するペット犬の飼い主にとって安心感ある選択肢となる他、原材料コストの低減にも寄与し得る。
【0024】
国際食品規格委員会の食品規格CXS 329-2017によると、天然原料であるのでばらつきがあるものの、クリルオイル中に含有される脂肪酸のうちオメガ-3脂肪酸は22.5重量%~57.2重量%もの割合を占めるとされる。そこで、本発明に係るドッグフードにクリルオイルを0033乾燥重量%乃至6.6乾燥重量%含むこととする。こうすると、(1)の場合とほぼ等価なグリセロリン脂質を構成するオメガ-3脂肪酸をペット犬に摂取させることができ、したがって(1)の場合とほぼ等価な効果が得られる。
【0025】
(4)前記課題を解決するため、本発明においては、
クリルオイルを0.33乾燥重量%乃至3.3乾燥重量%含む
ことを特徴とする、(3)に記載のドッグフードとしている。
【0026】
本発明に係るドッグフードの原材料にクリルオイルを用いた場合も、(2)の場合と同様に、より多くのペット犬に必要十分な量のオメガ-3脂肪酸を摂取させることができるよう、より好ましい添加量を設定することができる。具体的には、クリルオイルを0.33乾燥重量%乃至3.3乾燥重量%含むこととすれば、(2)の場合とほぼ等価なグリセロリン脂質を構成するオメガ-3脂肪酸をペット犬に摂取させることができ、(2)の場合とほぼ等価な効果が得られる。
【0027】
(5)前記課題を解決するため、本発明においては、
冬虫夏草を含む
ことを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載のドッグフードとしている。
【0028】
冬虫夏草とはフユムシナツクサタケ、セミタケ、ノムシタケ、サナギタケ、ハナサナギタケなど土中の昆虫類に寄生した菌糸が地上に子実体を作るきのこの総称である。冬虫夏草は、抗炎症作用、抗腫瘍作用、免疫抑制作用のような様々な効果を備えることが明らかにされており、抗腫瘍薬として実用化されている。
【0029】
さて、ペット犬がオメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足状態に陥っている場合、皮膚障害や腎臓・肝臓などの内臓障害を発生してしまうことはすでに説明した通りであるが、このような障害に至るメカニズムの一つとして組織の炎症性反応が関係しているといわれる。例えば、オメガ-3脂肪酸は抗炎症系エイコサノイドに転換されて炎症を抑制するといわれるが、先天的問題によってグリセロ脂質を構成するオメガ-3脂肪酸を十分に利用できない犬種では慢性的に炎症性反応を起こしやすい状態にさらされていると考えられる。
【0030】
本発明に係るドッグフードを給餌することで、このように慢性的にオメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足状態に置かれているペット犬の状態は大いに改善することが期待できるのだが、これに加え、強い抗炎症作用を奏する冬虫夏草を添加することで本発明に係るドッグフードの効果をさらに顕著にすることができる。
【0031】
ところで、本発明において冬虫夏草を含む、とは、冬虫夏草の子実体そのもの、または、これを粉砕した粉末にしたものを本発明に係るドッグフードに添加することを含むことは言うまでもないが、これに限られるものではない。例えば、冬虫夏草に特徴的な成分といわれるD-マンニトールやコルジセピン等を抽出したものを添加することとしてもよい。
【0032】
(6)前記課題を解決するため、本発明においては、
前記冬虫夏草とは、サナギタケである
ことを特徴とする、(5)に記載のドッグフードとしている。
【0033】
少なくとも一部の構成脂肪酸をオメガ-3脂肪酸とするグリセロリン脂質と冬虫夏草を含有するドッグフードとすることで、通常のグリセロ脂質を給餌しても十分にこれの構成脂肪酸であるオメガ-3脂肪酸を吸収・代謝・輸送して利用することのできない先天的問題を持つ犬種においてもオメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足に特徴的な疾患の治癒又は改善を図ることができることはすでに説明した通りであるが、本願発明者の研究によると、様々な種類の冬虫夏草のなかでも特にサナギタケを選択することで最大の効果が得られることが判明しており、本発明にとって好ましい選択である。
【0034】
(7)前記課題を解決するため、本発明においては、
前記冬虫夏草を0.01乾燥重量%乃至2乾燥重量%含む
ことを特徴とする、(5)または(6)に記載のドッグフードとしている。
【0035】
一般に冬虫夏草は安全な食用茸とされ特段の副作用は知られていないものの、ドッグフードの原料としては高価な材料であって必要以上の量を添加することは費用対効果の観点で好ましくない。また、様々な優れた効能を奏する一方で、加熱しても柔らかくなりにくく特段の味も感じにくいため、あまり添加量が多くなるとドッグフードの嗜好性に悪影響を与えることも懸念される。
【0036】
そこで、十分な効果が得られ、かつ、嗜好性に悪影響を与えることもない望ましい添加割合として、冬虫夏草を0.01乾燥重量%乃至2乾燥重量%含むこととしている。この範囲で冬虫夏草を添加することにより、本発明に係るドッグフードの効果、すなわち、通常のグリセロ脂質を給餌してもオメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足に特徴的な症状を呈するペット犬の状態を治癒又は改善することができる。
【0037】
なお、前記のとおり、本発明に係るドッグフードが含む冬虫夏草の形態は、冬虫夏草の子実体そのものやこれを粉砕したもの、あるいは、これの抽出物など任意の形態をとり得るのだが、冬虫夏草を0.01乾燥重量%乃至2乾燥重量%含む、とは、その形態を問わず、もとの冬虫夏草の子実体の乾燥重量に換算して求めた割合である。必要な効果を得るために必要な有効成分の量を管理しなければならないのであるから、原材料である冬虫夏草の子実体の乾燥重量を基準にすることが簡便かつ正確と考えられるからである。
【0038】
(8)前記課題を解決するため、本発明においては、
ダックスフンド・チワワ・ポメラニアン・ヨークシャーテリア・パピヨン・パグ・フレンチブルドッグ・ブルドッグ・ジャックラッセルテリア・ワイマラナーの犬種向けである
ことを特徴とする、(1)~(7)のいずれかに記載のドッグフードとしている。
【0039】
本発明に係るドッグフードは、実はどの犬種に給餌しても、オメガ-3脂肪酸を摂取させ、もってオメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足時に特徴的な疾患の治癒又は改善に寄与し得るものであり、したがって、どの犬種に対して投餌しても何ら差し支えの無いものである。しかし、少なくとも構成脂肪酸の一部をオメガ-3脂肪酸とするグリセロ脂質の摂取を通じて必要なオメガ-3脂肪酸を充足できる犬種であれば、本発明に係るドッグフードによらずとも健康を維持することが可能である。例えば、魚油にはオメガ-3脂肪酸を構成脂肪酸に豊富に含むグリセロ脂質が多く含有されるので、すでに市場に流通している魚油を含むサプリメントを利用することができる。
【0040】
一方、本出願人の研究によれば、少なくとも、ダックスフンド・チワワ・ポメラニアン・ヨークシャーテリア・パピヨン・パグ・フレンチブルドッグ・ブルドッグ・ジャックラッセルテリア・ワイマラナーの犬種(以下、「対象犬種」という)は、グリセロ脂質の摂取を通じて必要なオメガ-3脂肪酸を充足することが難しく、慢性的にオメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足状態に陥る傾向が強いことが判明している。従って、本発明に係るドッグフードを、特にこれら犬種向けのドッグフードとすることで、飼い主がオメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足状態に陥りやすいペット犬に本発明に係るドッグフードを給餌するという判断を容易とし、以て、ペット犬の健康維持に寄与することができる。
【発明の効果】
【0041】
(1)グリセロリン脂質を構成するオメガ-3脂肪酸を含むドッグフードとしたので、先天的問題でオメガ-3脂肪酸をグリセロ脂質として給餌してもこれを十分に体内で利用できない犬種のペット犬であっても、オメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足による疾患の治癒又は改善を図れるドッグフードとすることができるという効果を奏する。
【0042】
また、グリセロリン脂質を構成するオメガ-3脂肪酸を0.001乾燥重量%乃至4乾燥重量%含むこととしたので、ペット犬に適正な量のオメガ-3脂肪酸を摂取させることができ、かつ、過剰摂取に伴う血液凝固障害や摂取カロリー過剰のような問題を発生しないドッグフードとすることができるという効果を奏する。
【0043】
(2)グリセロリン脂質を構成するオメガ-3脂肪酸を0.01乾燥重量%乃至2乾燥重量%含むこととしたので、様々な属性のペット犬、つまり、広い範囲の犬種や体重、運動量、年齢などの属性のペット犬に安心して給餌できるドッグフードとすることができるという効果を奏する。
【0044】
(3)クリルオイルを0.033乾燥重量%乃至6.6乾燥重量%含むこととしたので、(1)同様の作用効果を科学的プロセスを経ない天然原料、もしくは、人工的な加工度の低い原材料からなるドッグフードで実現することができペット犬の飼い主にとって安心感あるドッグフードとすることができるという効果を奏する。
【0045】
(4)クリルオイルを0.33乾燥重量%乃至3.3乾燥重量%含むこととしたので、(2)同様の作用効果を科学的プロセスを経ない天然原料、もしくは、人工的な加工度の低い原材料からなるドッグフードで実現することができペット犬の飼い主にとって安心感あるドッグフードとすることができるという効果を奏する。
【0046】
(5)冬虫夏草を含むこととしたので、本発明に係るドッグフードのオメガ-3脂肪酸を充足させる作用と冬虫夏草の抗炎症作用等が相乗的に働き、オメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足による疾患の治癒又は改善の効果をさらに顕著なものとすることができるという効果を奏する。
【0047】
(6)冬虫夏草としてサナギタケを含むこととしたので、(5)の効果を最大化できるという効果を奏する。
【0048】
(7)冬虫夏草を0.01乾燥重量%乃至2乾燥重量%含むこととしたので、オメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足による疾患の治癒又は改善をするという本発明の効果を維持しつつ、原材料コストの増大を抑え、ドッグフードとしての嗜好性にも不都合の無いドッグフードとすることができるという効果を奏する。
【0049】
(8)対象犬種向けのドッグフードとしたので、飼い主がオメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足状態に陥りやすいペット犬に本発明に係るドッグフードを給餌するという判断が容易になり、以て、ペット犬の健康維持に寄与することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明について実施例に基づいて具体的に説明する。
【実施例0051】
表1に示すような2種類のドッグフードを調整し、それぞれを実施例1、比較例1と名付けた。これらは、総カロリーが360kcalであって、粗タンパク質25%、粗脂肪10%、粗繊維5%となるように調整した総合栄養食を準備し、これにオメガ-3脂肪酸の含有量が0.1乾燥重量%となるように少なくとも一部の脂肪酸がオメガ-3脂肪酸であるグリセロリン脂質を添加したものを実施例1とし、少なくとも一部の脂肪酸がオメガ-3脂肪酸であるグリセロ脂質を添加したものを比較例1としたものである。
【0052】
実際には、少なくとも一部の脂肪酸がオメガ-3脂肪酸であるグリセロリン脂質としてはクリルオイルを原材料とし、少なくとも一部の脂肪酸がオメガ-3脂肪酸であるグリセロ脂質としてはマグロ魚油を原材料とした。なお、言うまでもないことであるが、クリルオイルとマグロ魚油以外の原材料については、実施例1と比較例1で全く同一としている。
【0053】
【表1】
【0054】
以下、上記実施例1と比較例1をオメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足が原因とみられる症状・疾患のあるペット犬にそれぞれ給餌して、それら症状・疾患の治癒・改善具合を比較した。なお、犬種ごとに50頭ずつ調査を行い、共通にオメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足する傾向を示していた犬種は、対象犬種(ダックスフンド・チワワ・ポメラニアン・ヨークシャーテリア・パピヨン・パグ・フレンチブルドッグ・ブルドッグ・ジャックラッセルテリア・ワイマラナー)であり、これらの群を対象に以下のような試験を実施したものである。なお、対象犬種以外では共通する栄養素の不足傾向はみられなかった。
【0055】
(A)皮膚疾患
皮膚疾患症状を呈する対象犬種であるペット犬20頭を10頭ごとの2グループに分け、一方には実施例1のドッグフードのみを給餌することし、他方には比較例1のドッグフードのみを給餌することし、2カ月経過後に飼い主にそれぞれのペット犬の皮膚疾患症状の改善具合を聞き取り調査した。この結果を、表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
表に示す通り、実施例1のドッグフードを給餌した群では、10頭のうち7頭が皮膚疾患症状に改善が見られたと回答し、3頭が変化が無いと回答した。なお、試験中に被検体であるペット犬が死亡した場合などはその他に算入するが、この試験期間中にそのような事態は発生しなかった。一方、比較例1のドッグフードを給餌した群では、皮膚疾患症状に改善が見られたという回答は皆無であった。
【0058】
以上より、明らかに本発明の実施例1に係るドッグフードは、オメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足時に罹りやすいといわれる皮膚疾患症状の治癒又は改善に効果があったと判断できる。
【0059】
なお、波動測定器といわれる測定器が実用に供されており、オペレータの熟練度や体調等によって測定の再現性や信頼性が影響を受けるなどの限界を指摘されつつも、絶対値ではなく被検体の相対的な傾向を把握する尺度としての活用であれば有用であるといわれる。
【0060】
本試験においても参考のため、被検体であるペット犬のオメガ-3脂肪酸の充足状態を調べたところ、試験開始前には20頭のペット犬のすべてでオメガ-3脂肪酸の不足が認められたが、試験後には実施例1のペットフードを給餌されていた群では10頭すべてでオメガ-3脂肪酸の不足が解消されていたのに対し、比較例1のペットフードを給餌されていた群では10頭すべてでオメガ-3脂肪酸の不足が解消されていなかった。ペットフード中に含有されるオメガ-3脂肪酸の量は実施例1と比較例1でほぼ等しいので、この結果は、オメガ-3脂肪酸をグリセロ脂質ではなくグリセロリン脂質の形で給餌することで、対象のペット犬がオメガ-3脂肪酸を利用可能となることを示していると考えられる。
【0061】
(B)肝機能
アルカリフォスファターゼ(ALP)の血中濃度は肝臓の機能低下を示す指標として有名であるが、この血中ALP濃度が正常範囲外に高い被検体であるペット犬10頭を5頭ごとの2グループに分け、一方には実施例1のドッグフードのみを給餌することし、他方には比較例2のドッグフードのみを給餌することし、2カ月経過後に血中ALP濃度の変化を調べた。なお、被検体であるペット犬はすべて対象犬種である。この結果を、表4に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
表から明らかな通り、実施例1のドッグフードを給餌した群では5頭のうち5頭が血中ALP濃度が改善した一方、比較例1のドッグフードを給餌した群では5頭のうち1頭のみで血中ALP濃度の改善が見られた。
【0064】
この結果は、本発明の実施例1に係るドッグフードは、オメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足時に罹りやすいといわれる肝機能低下(例えば慢性肝炎)の治癒又は改善に効果があることを示すものである。
【0065】
なお、本試験においても波動測定器により、実施例1のドッグフードを給餌した群でのみ、オメガ-3脂肪酸の不足が解消されたことを確認している。直接的に、又は、間接的に、オメガ-3脂肪酸の充足が肝機能の回復(血中ALP濃度の改善)に寄与したものと想像される。
【0066】
(C)脳神経疾患
てんかんによる発作症状が認められる被検体であるペット犬10頭を5頭ごとの2グループに分け、一方には実施例1のドッグフードのみを給餌することし、他方には比較例2のドッグフードのみを給餌することし、6カ月間にてんかん発作の発生が認められるかどうかを調べた。なお、被検体であるペット犬はすべて対象犬種である。この結果を、表5に示す。
【0067】
【表5】
【0068】
表から明らかな通り、実施例1のドッグフードを給餌した群では5頭のうち4頭でてんかん発作が発生しなかった。また、てんかん発作が発生した1頭においても、症状の緩和が見られた。一方、比較例1のドッグフードを給餌した群では継続しててんかん発作を発生するなど症状の改善は見られなかった。
【0069】
この結果は、本発明の実施例1に係るドッグフードは、オメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足時に罹りやすいといわれる脳神経疾患の治癒又は改善に効果があることを示すものである。
【0070】
なお、本試験においても波動測定器により、実施例1のドッグフードを給餌した群でのみ、オメガ-3脂肪酸の不足が解消されたことを確認している。オメガ-3脂肪酸は脳神経細胞の形成やネットワーク化に重要な役割を果たすことが明らかにされており、オメガ-3脂肪酸の充足によって脳神経疾患が治癒又は改善したものと想像される。
【0071】
(D)一般健康状態
何らかの疾患を抱えているとは認められない、健康に見える被検体であるペット犬20頭を10頭ごとの2グループに分け、一方には実施例1のドッグフードのみを給餌することし、他方には比較例2のドッグフードのみを給餌することし、2カ月経過後に飼い主にそれぞれのペット犬の健康状態の変化を聞き取り調査した。健康状態として、「被毛の状態」「便質」「元気さ」の3つの観点で評価してもらった。なお、被検体であるペット犬はすべて対象犬種である。この結果を、表6に示す。
【0072】
【表6】
【0073】
表から明らかな通り、実施例1のドッグフードを給餌した群では10頭のうち8頭で健康状態が改善したとの回答が得られている一方、比較例1のドッグフードを給餌した群では健康状態が改善したという回答はなかった。なお、健康状態の改善の内訳は、すべての例で、「被毛の状態」「便質」「元気さ」のすべてが向上した実感があるとの回答であった。
【0074】
「被毛の状態」(広義には「皮膚の状態」)は、オメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足時に顕著に悪化しやすいことが知られているが、「便質」や「元気さ」についても本発明の実施例1に係るドッグフードによって改善が得られるという結果である。これは、一見健康状態に問題がないように見えるペット犬であっても、対象犬種ではオメガ-3脂肪酸の軽微な不足状態に陥っていることがあり、本発明のドッグフードによってこれを解消して本来の健康状態を回復したことを示すものであると考えられる。
【0075】
なお、本試験においても波動測定器により、実施例1のドッグフードを給餌した群でのみ、オメガ-3脂肪酸の不足が解消されたことを確認している。
【実施例0076】
表2に示すような2種類のドッグフードを調整し、それぞれを実施例2、比較例2と名付けた。これらは、腎機能が低下しているペット犬に合わせて粗タンパク質21%と低めに調整していることを除き、実施例1の場合と同様である。
【0077】
【表2】
【0078】
(E)腎機能
尿素窒素(BUN)の血中濃度は腎臓の機能低下を示す指標として有名であるが、この血中BUN濃度が正常範囲外に高い被検体であるペット犬10頭を5頭ごとの2グループに分け、一方には実施例1のドッグフードのみを給餌することし、他方には比較例2のドッグフードのみを給餌することし、2カ月経過後に血中BUN濃度の変化を調べた。なお、被検体であるペット犬はすべて対象犬種である。この結果を、表7に示す。
【0079】
【表7】
【0080】
表から明らかな通り、実施例1のドッグフードを給餌した群では5例のうち4例が血中BUN濃度が改善した一方、比較例1のドッグフードを給餌した群では5例のうち1例のみで血中BUN濃度の改善が見られた。
【0081】
オメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足と腎機能の低下の関係は必ずしも明らかではないものの、この結果は、本発明の実施例1に係るドッグフードは、腎機能低下の治癒又は改善にも直接的または間接的に効果があることを示唆するものである。例えば、腎機能の低下の原因の一つに腎臓の炎症があるといわれており、オメガ-3脂肪酸の抗炎症作用が寄与している可能性が考えられる。
【0082】
なお、本試験においても波動測定器により、実施例1のドッグフードを給餌した群でのみ、オメガ-3脂肪酸の不足が解消されたことを確認している。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上説明した通り、本発明は、オメガ-3脂肪酸の欠乏又は不足に特徴的な症状を呈する特定の犬種のペット犬の疾患を治癒又は改善することができるドッグフードを提供するものであり、その産業上の価値は頗る高い。