(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108632
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】ドッグフード
(51)【国際特許分類】
A23K 20/116 20160101AFI20230731BHJP
A23K 50/40 20160101ALI20230731BHJP
A23K 10/37 20160101ALI20230731BHJP
A61P 1/12 20060101ALN20230731BHJP
A61P 1/14 20060101ALN20230731BHJP
A61P 1/08 20060101ALN20230731BHJP
A61K 31/352 20060101ALN20230731BHJP
A61K 31/353 20060101ALN20230731BHJP
A61K 31/7048 20060101ALN20230731BHJP
A61K 36/45 20060101ALN20230731BHJP
【FI】
A23K20/116
A23K50/40
A23K10/37
A61P1/12
A61P1/14
A61P1/08
A61K31/352
A61K31/353
A61K31/7048
A61K36/45
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009767
(22)【出願日】2022-01-26
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】307029098
【氏名又は名称】藤本 大道
(74)【代理人】
【識別番号】100126815
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 岳
(72)【発明者】
【氏名】藤本 大道
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
2B005AA05
2B150AA06
2B150AB03
2B150AE01
2B150CA10
2B150CE19
2B150DA09
2B150DB04
2B150DD40
4C086AA02
4C086BA08
4C086EA11
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA69
4C086ZA71
4C086ZA72
4C086ZC61
4C088AB44
4C088AC05
4C088BA07
4C088BA08
4C088CA03
4C088MA02
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA69
4C088ZA71
4C088ZA72
4C088ZC61
(57)【要約】
【課題】肥満状態にあるかどうかを問わず、特定の犬種のペット犬の健康状態を一見健康な状態に見えるものを含めてより向上することができるドッグフードを提供する。
【解決手段】8乾燥重量%未満の粗脂肪と0.025乾燥重量%以上0.25乾燥重量%未満のアントシアニン又はアントシアニジン又はプロアントシアニジンのいずれかを含有する、プードル・マルチーズ・シーズー・シュナウザー・ピンシャー・グレーハウンド・ピーグル・ウィペット・サモエド・シェルティ・ダルメシアン・ビションフリーゼ・ペキニーズ・ボストンテリア・ドーベルマンの犬種向けドッグフードとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
10乾燥重量%未満の粗脂肪と、
アントシアニン又はアントシアニジン又はプロアントシアニジンのいずれかとを含有する
ことを特徴とする、ドッグフード。
【請求項2】
8乾燥重量%未満の粗脂肪を含有する
ことを特徴とする、請求項1に記載のドッグフード。
【請求項3】
0.004乾燥重量%以上0.4乾燥重量%未満のアントシアニン又はアントシアニジン又はプロアントシアニジンのいずれかを含有する
ことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のドッグフード。
【請求項4】
0.01乾燥重量%以上0.1乾燥重量%未満のアントシアニン又はアントシアニジン又はプロアントシアニジンのいずれかを含有する
ことを特徴とする、請求項3に記載のドッグフード。
【請求項5】
ブルーベリーの茎またはブルーベリーの茎からの抽出物を含有する
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のドッグフード。
【請求項6】
プードル・マルチーズ・シーズー・シュナウザー・ピンシャー・グレーハウンド・ピーグル・ウィペット・サモエド・シェルティ・ダルメシアン・ビションフリーゼ・ペキニーズ・ボストンテリア・ドーベルマンの犬種向けである
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のドッグフード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドッグフードに関するものである。より具体的には、特定の栄養素の代謝能力に劣る種類の犬に給餌することで、食欲低下や下痢、嘔吐等の症状の改善等、健康状態を向上させる効果を奏する、特定犬種向けのドッグフードに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ペットブームなどとといわれるように、多くの家庭で愛玩動物が飼育されている。愛玩動物との触れ合いを通じて精神的な安らぎが得られることや、ペットの世話を通じた身体的な活動や規則正しい生活リズムが肉体的な健康の向上にもつながるなど、飼い主の健康への好ましい影響も広く知られるようになり、今後もますます多くの愛玩動物が飼育されていくであろうと考えられる。
【0003】
様々な愛玩動物が飼育されるが、その中でも犬は飼い主によく慣れ、従順で、様々な大きさや外見の犬種が存在して飼い主の嗜好に応えられるなど愛玩動物として好ましい性質を多く備えており、非常に人気のある愛玩動物の一つである。しばしば愛玩動物である犬(以下、「ペット犬」という)は飼い主にとって大切な家族の一員と認識され、その健康状態などは非常に大きな関心事である。
【0004】
ペット犬の健康に影響を与える要因は様々であるが、無視し得ない大きな要因として餌の選択があげられる。ヒトと同様、ペット犬にも餌を通じて摂取しなければならない必須アミノ酸や必須脂肪酸といった栄養素があり、これらが欠乏又は不足すると、皮膚障害や腎臓・肝臓などの内臓障害を発生してしまう。一方で、特定の栄養素を過剰に摂取させると様々な内蔵への負荷となって健康状態を低下させることがあり、また、そもそも過剰にカロリーを摂取させると肥満や糖尿病などヒトの成人病と同様の疾患を発生させてしまうことにもなる。ペット犬に過不足なく必要な栄養素を摂取させることは決して容易ではないものの、この課題を解決するため、従来より、ペット犬の必要に対応するための様々なドッグフードが開発され、上市されてきた。
【0005】
特表特開2014-138581公開特許公報には、(A)動物性タンパク質及び植物性タンパク質からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質、(B)動物性油脂及び植物性油脂からなる群より選択される少なくとも1種の油脂、(C)脱脂ゴマ、ならびに(D)肉エキス、魚介類エキス、内臓エキス、酵母エキス、乳加工物、及びそれらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1 種の嗜好性増強剤、を含有し、セサミノールトリグリコシドの含有量が0.001~0.2質量%であり、且つセサミノールトリグリコシドと、セサミン及びセサモリンとの含有比が、セサミノールトリグリコシド/(セサミン+セサモリン)>1.5であるペットフードが開示されている。また、このペットフードのうち、特に粗脂肪量が8乾燥重量%以上であるペットフードも開示されている。
【0006】
同公報に開示される発明は、ペットの肥満を防止し、各種疾病のリスクや歩行障害のリスクを低減してペットのQOLを高く保つことを企図してなされたものである。すなわち、ペットの体脂肪量又は体重を適正にコントロールすべくペットフード中の粗脂肪量を少なくするとともに、ペットの筋肉量や除脂肪量を適正にコントロールできるよう嗜好性を高めるために脱脂ゴマや肉エキスとうの嗜好性増強剤を含有するペットフードとしたものである。このペットフードによれば、粗脂肪が少なく摂取カロリーを制限してペットの肥満を防止しつつも十分な嗜好性を維持し、ペットの筋肉量や除脂肪量を維持することを通じて、その健康に寄与できることが期待される。
【0007】
ところで、肥満状態でない健康なペット犬の摂取脂肪量を制限することは一般的には好ましくない。カロリーの高い脂肪の過剰摂取で肥満状態を招くことは避けなければならないものの、犬は一般的に脂肪の代謝能力が高く、摂取総カロリーが管理されていれば健康上の問題を生じることは少なく、むしろ、摂取総カロリーに占める炭水化物の割合が多すぎると糖尿病の原因となったり消化器官の負担になるため注意が必要といわれる。
【0008】
しかし、本願発明者は決して肥満状態ではなく、一般的には健康の範疇ととらえられるペット犬においても、摂取総カロリーに占める脂肪の割合が少ない方がより健康状態が向上する場合があることを発見した。例えば、肥満状態ではないペット犬の食欲低下や活性低下(元気がない)というような軽微な健康上の問題症状が、粗脂肪量を少なく調整したドッグフードを継続して給餌することで改善する事例を観察し、かつ、これらの事例が特定の犬種に特に多く発生するらしいことを見出した。さらに本願発明者は研究を進め、特定の犬種においては、ドッグフードに含有される粗脂肪量を少なく調整するだけでなく、これに抗酸化物質をも添加することで、ペット犬の軽微な健康状態の問題症状をより顕著に改善できることをも見出した。
【0009】
これらの現象の正確な原因は不明であるものの、特定の犬種において、脂質の代謝能力が低いと共にいわゆる酸化ストレスに弱い(抗酸化機能が弱い)のであろうと推測される。抗酸化機能が弱いと高脂血症を発症しやすいといわれるが、このようなペット犬では摂取した脂肪を速やかに効率よく利用できずに給餌後の高脂血状態が通常よりも長時間にわたって継続してしまうであろうことがメカニズム的に容易に想像される。このため、該当する犬種のペット犬において脂質の摂取量を抑制するとともに抗酸化物質を投与することが健康状態の向上に寄与することは何ら不思議なことではない。なお、脂質や抗酸化物質の生体内の働きについてはいまだ未解明な不明点が多く、本発明も、推定しているメカニズムの妥当性によらず疫学的アプローチによってペット犬の健康状態を向上しようとするものである。
【0010】
さらに、本願発明者は、抗酸化物質の種類によって特定の犬種の健康状態を向上する効果に差異があることを発見し、抗酸化物質の中でもアントシアニジン、及び、これの前駆体のプロアントシアニジン、及び、これを構造に含むアントシアニンが対象となる犬種のペット犬全般で優れた効果を奏することを見出した。
【0011】
これらの研究成果をもとに、本願発明者は、肥満状態にあるかどうかを問わず、特定の犬種のペット犬の健康状態を一見健康な状態に見えるものを含めてより向上することができるドッグフードを完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2014-138581 公開特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上説明した通り、本発明が解決しようとする課題は、肥満状態にあるかどうかを問わず、特定の犬種のペット犬の健康状態を一見健康な状態に見える個体を含めてより向上することができるドッグフードを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)前記課題を解決するため、本発明においては、
10乾燥重量%未満の粗脂肪と、
アントシアニン又はアントシアニジン又はプロアントシアニジンのいずれかとを含有する
ことを特徴とする、ドッグフードとしている。
【0015】
本発明に係るドッグフードは、粗脂肪の含有割合を10乾燥重量%未満としており、一般に市場に流通している通常のドッグフードに含有される粗脂肪量が10乾燥重量%乃至20乾燥重量%程度であるのに対して少なく調整されていることを特徴としている。肥満状態に陥っているペット犬向けのドッグフードでは、先行技術文献1に開示されたペットフードのように、より粗脂肪の含有割合をより少なく調整したもの(例えば8乾燥重量%)も知られるが、健康なペット犬に給餌することを企図した通常のドッグフードとしては顕著に粗脂肪の含有割合が少ないといえる。
【0016】
ドッグフードに含有される脂肪分は、消化・吸収されてペット犬の体内で脂質として代謝・利用されるのであるが、特定の犬種においては脂質の代謝能力が低く、通常の脂質の代謝能力に問題のない犬種のペット犬と同じ量の脂肪分を含有するドッグフードを給餌された場合に、食欲不振や活性の低下といった、重篤な疾病ではないものの軽微な健康上の問題症状を呈する。しかし、摂取総カロリーにおける脂肪分の割合を低く調整したことにより、このような軽微な健康上の問題症状の発生を抑制することができる。
【0017】
アントシアニンとは、フラボノイドの一種である色素であって、植物の抗酸化物質として知られる。アントシアニンはアントシアニジンが糖や糖鎖と結びついた配糖体である。また、プロアントシアニジンは植物界において広く分布している物質であり、分解してアントシアニジンを生ずる。これらは、いずれも動物の体内で抗酸化作用を奏するとされるものである。食餌として摂取できる抗酸化物質としては、ビタミンEやタンニン、セサミンなどきわめて多くの種類が知られているが、本願発明者の研究によると、多くの抗酸化物質のなかでアントシアニン、アントシアニジン、プロアントシアニジンが、脂質の代謝能力が低いと考えられる特定の犬種にとって最も顕著に前記健康上の問題症状の発生を抑制することが判明しており、摂取総カロリー中の粗脂肪量を少なく調整するとともにアントシアニン、アントシアニジン、プロアントシアニジンのいずれかを添加したドッグフードが特に好ましいのである。
【0018】
前記課題を解決するため、本発明においては、
4乾燥重量%以上の粗脂肪を含有する
ことを特徴とする、(1)に記載のドッグフードとしている。
【0019】
すでに説明した通り、特定の犬種にとっては多くの脂質を摂取することは、重篤ではないにせよ、食欲低下や活性低下といった好ましくない症状の原因となる。しかしながら、犬にとって脂質は重要な栄養素であり、特にオメガ-6系脂肪酸であるリノール酸は体内で合成できない必須脂肪酸であり、欠乏又は不足すると被毛の光沢の喪失や皮膚炎のような皮膚疾患や腎機能の低下を招く。また、犬はオメガ-6脂肪酸の一であるリノール酸をオメガ-3脂肪酸の一であるα-リノレン酸に転換できるため、オメガ-3脂肪酸は必須脂肪酸ではないのだが、犬に給餌するオメガ-6脂肪酸とオメガ-3脂肪酸の割合が健康に関係するといわれる。従って、犬の健康にとって必要不可欠な脂肪酸を食餌を通じて摂取させる必要があり、従って、脂質の代謝能力が低いと考えられる特定の犬種のペット犬に対しても、4乾燥重量%以上の粗脂肪を含有するドッグフードとして必須脂肪酸の充足を図ることが好ましい。
【0020】
前記課題を解決するため、本発明においては、
6乾燥重量%以上の粗脂肪を含有する
ことを特徴とする、(1)に記載のドッグフードとしている。
【0021】
ペット犬が必要とする必須脂肪酸を食餌を通じて摂取させるため、脂質の代謝能力が低いと考えられる特定の犬種のペット犬に対しても、4乾燥重量%以上の粗脂肪を含有するドッグフードとすることが好ましいことはすでに説明した通りであるが、より好ましくは6乾燥重量%以上の粗脂肪を含有するドッグフードとする。この程度の脂肪量であれば、ほとんどの対象犬種のペット犬が脂質過剰となることなく、同時に、より確実に必須脂肪酸の欠乏又は不足状態に陥らないからである。
【0022】
(2)前記課題を解決するため、本発明においては、
8乾燥重量%未満の粗脂肪を含有する
ことを特徴とする、(1)に記載のドッグフードとしている。
【0023】
すでに説明した通り、脂質の代謝能力が低いと考えられる特定の犬種のペット犬に対して含有する脂肪分の割合を10乾燥重量%程度まで低く調整したドッグフードを給餌することにより、食欲不振や活性の低下といった軽微な健康上の問題症状の発生を抑制することができる。しかし、本願発明者の研究によれば、その効果は粗脂肪の含有量をさらに7乾燥重量%程度まで減らすことでより高い効果が得られることが判明している。一方で、犬にとって脂質は重要な栄養素であり、中でもオメガ-6系脂肪酸であるリノレン酸は必須脂肪酸であって、どうしても食餌を通じて摂取させなければならない。これが欠乏又は不足すると、直ちに被毛の光沢の喪失や皮膚炎のような皮膚疾患や腎機能の低下といった健康上の問題を生じるからである。
【0024】
ところで、ドッグフードは注意深く調整するとしても、天然の原材料から製造する以上、どうしてもある程度の含有栄養素に変動が生じてしまう。そうすると、ドッグフード中の粗脂肪を減らすことで軽微な健康上の問題症状の発生が抑制できる一方、含有栄養素の変動の範囲で必須脂肪酸が不足してしまうことで逆に健康上の問題を発生してしまうというリスクが生じてしまう。そこで、含有栄養素が多少変動したとしても必須脂肪酸の欠乏又は不足に陥る懸念が無いよう、粗脂肪の含有量を8乾燥重量%未満程度狙いにすることが好ましいのである。
【0025】
(3)前記課題を解決するため、本発明においては、
0.004乾燥重量%以上0.4乾燥重量%未満のアントシアニン又はアントシアニジン又はプロアントシアニジンのいずれかを含有する
ことを特徴とする、(1)または(2)のいずれかに記載のドッグフードとしている。
【0026】
本発明に添加するアントシアニン又はアントシアニジン又はプロアントシアニジンは、犬の三大栄養素などといわれる蛋白質、脂質、炭水化物などと比較すると、非常に少量で効果が発現するのであるが、やはり、あまりに少なすぎると十分な効果が得られない。また、直接的にこれらの毒性を報告したものは見当たらないものの、Natural Medicines Comprehensive Databaseによれば、これらを豊富に含むビルベリーについて米国でGRAS物質(Generally Recognized As Safe)に認定されており、通常食事に含まれる量の摂取はおそらく安全であるとされている一方で、大量の摂取については抗凝血、胃腸障害を発生を起こす可能性が報告されている。従って、アントシアニン又はアントシアニジン又はプロアントシアニジンについても、必要以上の大量摂取は控えることが好ましいと考えられる。
【0027】
本発明においては、アントシアニン又はアントシアニジン又はプロアントシアニジンの含有量を0.004乾燥重量%以上0.4乾燥重量%未満とする。この範囲であれば、本発明の効果が得られるとともに、これを給餌したペット犬に健康上の不都合を生じないことが見いだせているからである。なお、この範囲外、特にこれらの物質をより多く含有したドッグフードの効果や安全性を否定するものではない。
【0028】
(4)前記課題を解決するため、本発明においては、
0.01乾燥重量%以上0.1乾燥重量%未満のアントシアニン又はアントシアニジン又はプロアントシアニジンのいずれかを含有する
ことを特徴とする、(3)に記載のドッグフードとしている。
【0029】
アントシアニン又はアントシアニジン又はプロアントシアニジンは少量でも効果が発現するものの、ペット犬の犬種や状態によって好ましい摂取量が多少異なることは当然である。対象犬種において、特段の事情の無いペット犬に対してより確実な効果を得るため、0.01乾燥重量%以上0.1乾燥重量%未満のアントシアニン又はアントシアニジン又はプロアントシアニジンのいずれかを含有することとすることがより好ましい。
【0030】
(5)前記課題を解決するため、本発明においては、
ブルーベリーの茎またはブルーベリーの茎からの抽出物を含有する
ことを特徴とする、(1)乃至(4)のいずれかに記載のドッグフードとしている。
【0031】
脂質の代謝能力が低く、通常の脂質の代謝能力に問題のない犬種のペット犬に、粗脂肪の含有割合を少なくし、アントシアニン又はアントシアニジン又はプロアントシアニジンのいずれかを添加したドッグフードを給餌することで、軽微な健康上の問題症状の発生を抑制することができることはすでに説明した通りであるが、人工的に合成された、または、化学的プロセスを通じて抽出された物質を給餌することに対して不安感を抱く飼い主が一定数存在することも事実である。人工的に合成された、または、化学的プロセスを通じて抽出されたアントシアニン、アントシアニジン、プロアントシアニジンを添加することに変えて、これらの物質を含有している天然材料を配合することとすれば、このような飼い主の不安は解消される。また、ドッグフードの原料コストの低減にも寄与するものである。
【0032】
幸いにして、アントシアニン又はアントシアニジン又はプロアントシアニジンは植物界に広く分布している物質であり、これを含む植物を配合することで目的は達成可能なのであるが、例えばアントシアニンはアントシアニジンの配糖体で様々な種類があり、当然ながら植物によって含まれるアントシアニンの種類は異なるので、植物の種類によって作用効果が異なることが予想される。本願発明者の研究によれば、これら物質を含む様々な植物のうち、ブルーベリーの茎が特に本発明に係るドッグフードの効果を顕著にすることが明らかになっている。従って、ブルーベリーの茎を含有するドッグフードとすることが好ましいのである。
【0033】
本発明におけるブルーベリーの茎は、ブルーベリーの茎そのものを粉砕等して添加することとしてもよいが、ブルーベリーの茎の抽出物を添加することとしてもよい。もちろん、後者の場合は抽出物中にアントシアニン又はアントシアニジン又はプロアントシアニジンを含んでいなければならないことは言うまでもない。本発明特有の効果を発生させるのはブルーベリーの茎に含まれる成分中のこれらの物質であるからである。
【0034】
ところで、ブルーベリーの茎またはブルーベリーの茎からの抽出物の添加量については、これらに含まれるアントシアニン又はアントシアニジン又はプロアントシアニジンの量が0.004乾燥重量%以上0.4乾燥重量%未満となるようにすることが好ましく、より好ましくは0.01乾燥重量%以上0.1乾燥重量%未満とする。例えば、株式会社GEウェルネスが販売しているブルーベリー茎エキス末にはプロアントシアニジンが約40重量%含有するとされるので、ブルーベリー茎エキス末を0.025乾燥重量%以上0.25乾燥重量%未満添加することでプロアントシアニジンを0.01乾燥重量%以上0.1乾燥重量%未満添加したドッグフードを調整できる。
【0035】
(6)前記課題を解決するため、本発明においては、
プードル・マルチーズ・シーズー・シュナウザー・ピンシャー・グレーハウンド・ピーグル・ウィペット・サモエド・シェルティ・ダルメシアン・ビションフリーゼ・ペキニーズ・ボストンテリア・ドーベルマンの犬種向けである
ことを特徴とする、(1)乃至(5)のいずれかに記載のドッグフードとしている。
【0036】
本発明に係るドッグフードは、様々なエビデンスより、脂質の代謝能力が低いとともに抗酸化機能が弱いと考えられる犬種にとって、その健康状態の向上を図ることができるというものである。もっとも、犬に限らず生物の体内で発生している真の現象を完全に解明することは至難の業であるので、本発明に係るドッグフードが特定の犬種の健康状態を向上することのメカニズムには推定を含むことを認めざるを得ない。また、脂質の代謝能力が高い通常の犬種においては、摂取総カロリーに占める炭水化物の割合が過剰となると糖尿病や胃腸障害を引き起こすリスクもあるといわれるため、本発明に係るドッグフードがあらゆる犬種にとって好適であるとは言い切れない。
【0037】
一方、本出願人の研究によれば、少なくとも、プードル・マルチーズ・シーズー・シュナウザー・ピンシャー・グレーハウンド・ピーグル・ウィペット・サモエド・シェルティ・ダルメシアン・ビションフリーゼ・ペキニーズ・ボストンテリア・ドーベルマンの犬種(以下、「対象犬種」という)については、脂質の代謝能力が低いとともに抗酸化機能が弱い傾向にあることを確認しているのみならず、本発明に係るドッグフードを給餌することで健康状態が向上することを確認しており、メカニズムに関わらず、対象犬種の健康状態に対して利益があるあることが明らかである。
【0038】
そこで、本発明に係るドッグフードをこれら対象品種向けのドッグフートとすることで、飼い主が脂質の代謝能力が低いとともに抗酸化機能が弱いペット犬に本発明に係るドッグフードを給餌するという判断を容易とし、以て、ペット犬の健康維持に寄与することができる。
【発明の効果】
【0039】
(1)10乾燥重量%未満の粗脂肪と、アントシアニン又はアントシアニジン又はプロアントシアニジンのいずれかとを含有するを含むドッグフードとしたので、脂質の代謝能力が低く抗酸化機能が弱い犬種のペット犬の食欲不振や活性の低下といった軽微な健康上の問題症状をの発生を抑制し、健康状態を向上できるドッグフードとすることができるという効果を奏する。
【0040】
また、4乾燥重量%以上の粗脂肪を含有する(1)に記載のドッグフードとしたので、必須脂肪酸の欠乏又は不足を発生して被毛の光沢の喪失や皮膚炎のような皮膚疾患や腎機能の低下といった疾病を招く懸念の少ないドッグフードとすることができるという効果を奏する。
【0041】
さらに、6乾燥重量%以上の粗脂肪を含有する(1)に記載のドッグフードとしたので、より広い範囲の対象犬種のペット犬において脂質過剰となる懸念が無く、かつ、より確実に必須脂肪酸を充足でき、飼い主が安心してペット犬に給餌できるドッグフードとすることができるという効果を奏する。
【0042】
(2)8乾燥重量%未満の粗脂肪を含有することとしたので、本発明の効果がより顕著に得られるばかりでなく、天然の原材料から製造するドッグフードの含有栄養素の変動が生じた場合でも必須脂肪酸の欠乏又は不足に陥る懸念の無いドッグフードとすることができるという効果を奏する。
【0043】
(3)0.004乾燥重量%以上0.4乾燥重量%未満のアントシアニン又はアントシアニジン又はプロアントシアニジンのいずれかを含有することとしたので、本発明の効果が得られるとともに、これを給餌したペット犬に健康上の不都合を生じないという効果を奏する。
【0044】
(4)0.01乾燥重量%以上0.1乾燥重量%未満のアントシアニン又はアントシアニジン又はプロアントシアニジンのいずれかを含有することとしたので、より広い範囲の対象犬種のペット犬において本発明の効果をより確実に得られるという効果を奏する。
【0045】
(5)ブルーベリーの茎またはブルーベリーの茎からの抽出物を含有することとしたので、人工的に合成された、または、化学的プロセスを通じて抽出された物質を給餌することに対して不安感を抱く飼い主が安心して本発明に係るドッグフードを給餌できるという効果を奏する。また、ドッグフードの原料コストを低減できるという効果も奏する。
【0046】
さらに、様々なアントシアニン又はアントシアニジン又はプロアントシアニジンを含有する植物原材料のうち、ブルーベリーの茎又はブルーベリーの茎からの抽出物を選択することで、本発明に係るドッグフードの効果を最大化できるという効果を奏する。
【0047】
(6)対象犬種向けのドッグフードとしたので、飼い主が脂質の代謝能力が低いとともに抗酸化機能が弱い犬種のペット犬に本発明に係るドッグフードを給餌するという判断が容易になり、以て、ペット犬の健康維持に寄与することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明について実施例に基づいて具体的に説明する。
【実施例0049】
表1の実施例1に示すとおり、総カロリーが360kcalであって、粗タンパク質25%、粗脂肪7%、粗繊維5%となるように調整した総合栄養食を準備し、株式会社GEウェルネス製のブルーベリーエキス末を0.1乾燥重量%添加したドッグフードを得た。これを表1の表示のとおり実施例1とする。なお、ブルーベリーエキス末には40%程度のプロアントシアニジンを含有するとされており、プロアントシアニジン相当量としては、0.04乾燥重量%程度を含有するドッグフードを調整したことになる。
【0050】
【0051】
上記実施例1のドッグフードを対象犬種(プードル・マルチーズ・シーズー・シュナウザー・ピンシャー・グレーハウンド・ピーグル・ウィペット・サモエド・シェルティ・ダルメシアン・ビションフリーゼ・ペキニーズ・ボストンテリア・ドーベルマン)のペット犬それぞれ5頭に3カ月間給餌した。そして、給餌開始前と3カ月間の給餌後の健康状態の変化についてそれぞれのペット犬の飼い主に、改善、無変化、悪化の3水準で回答してもらい集計を行った結果を表2に示す。なお、本試験における健康状態の変化とは、重篤な疾患の発生や治癒といったものではなく、食欲低下や活性低下(元気がない)のような軽微な健康中の問題症状に注目したものであるので、前記回答は飼い主の主観によって相互的にペットの健康状態を評価してもらったものである。
【0052】
【0053】
表2に示す通り、実施例1のドッグフードを給餌することで、対象犬種すべてに明らかな健康状態の改善傾向が見られ、健康状態が悪化した例は一例も見られなかった。つまり、実施例1のドッグフードが、ペット犬の飼い主が効果を実感できるレベルで対象犬種の健康状態を改善する効果を奏することが示された。
【0054】
また、ドッグフード中の粗脂肪量が対象犬種の健康状態の改善効果に関連があること、及び、ドッグフードに抗酸化物質を添加することが前記改善効果を顕著にすることを証明するため、表1の比較例1~比較例4に示す各種ドッグフードを調整した。これらは、総カロリーが360kcalであって、粗タンパク質25%、粗繊維5%を共通として、粗脂肪を7%、9%、11%の3水準に調整したものをそれぞれ表1の表示のとおり比較例1、比較例2、比較例3とし、さらに、粗脂肪を7%に調整したものに株式会社GEウェルネス製のブルーベリーエキス末を1mg添加して比較例4を得た。すでに説明した通り、ブルーベリーエキス末には40%程度のプロアントシアニジンを含有するとされており、比較例4にはプロアントシアニジンを0.4mg程度が含有されることになる。
【0055】
次に、健康なペット犬を対象犬種ごとに15頭選び、これを5頭ずつの3グループに分けてそれぞれに上記比較例1~比較例3のドッグフードを3カ月間給餌した。そして、給餌開始前と3カ月間の給餌後の健康状態の変化についてそれぞれのペット犬の飼い主に、改善、無変化、悪化の3水準で回答してもらい、集計を行った結果を表3に示す。本試験においても、健康状態の変化とは実施例1の場合と同じく飼い主の主観によって相互的にペットの健康状態を評価してもらったものである。
【0056】
【0057】
表3に示す通り、いずれの犬種においてもドッグフード中の粗脂肪量11%の場合(比較例3)には健康状態が悪化傾向であるところ、ドッグフード中の粗脂肪量7%の場合(比較例1)には健康状態が改善する傾向がはっきりと表れており、ドッグフード中の粗脂肪量9%の場合(比較例2)にはこれらの中間であった。つまり、ドッグフード中の粗脂肪量を少なくすることで対象犬種の健康状態が改善する傾向があることが示された。なお、これは試験の対象としたペット犬が対象犬種、つまり、脂質の代謝能力が低いと思われる犬種であるために得られた結果であり、脂肪の代謝能力に優れた一般の犬種を対象とした場合には異なる結果となり得るものである。
【0058】
また、表3では、比較例1のドッグフード(粗脂肪量7%のドッグフード)を給餌した場合でも、健康状態に変化が見られないペット犬が相当数存在する。そこで、これらの健康状態に変化が見られないペット犬を犬種ごとに5頭選択し、比較例1のドッグフードにプロアントシアニジン源としてブルーベリー茎エキス末を1mg添加した比較例4のドッグフードを1カ月間給餌した。そして、給餌開始前と1カ月間の給餌後の健康状態の変化についてそれぞれのペット犬の飼い主に、改善、無変化、悪化の3水準で回答してもらい、集計を行った結果を表4に示す。本試験においても、健康状態の変化とは実施例1の場合と同じく飼い主の主観によって相互的にペットの健康状態を評価してもらったものである。
【0059】
【0060】
表4に示す通り、ドッグフード中の粗脂肪量を7%としただけでは健康状態に変化を感じられなかったペット犬群であるにもかかわらず、多くの割合のペット犬の健康状態の改善が1カ月間の間に感じられる結果となった。つまり、脂質の代謝能力が低く抗酸化機能が弱いと思われる犬種に対し、ドッグフード中の粗脂肪量を少なくするだけでなくプロアントシアニジンを添加することで飼い主が実感できるほどに健康状態が改善することが示された。
以上説明した通り、本発明は、脂質の代謝能力が低く抗酸化機能が弱いと思われる犬種のペット犬の健康状態を一見健康な状態に見えるものを含めてより向上することができるドッグフードを提供するものであり、その産業上の価値は頗る高い。