(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108645
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】草刈機
(51)【国際特許分類】
A01D 69/00 20060101AFI20230731BHJP
【FI】
A01D69/00 303Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009789
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000223698
【氏名又は名称】フジイコーポレーション株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤井 大介
(72)【発明者】
【氏名】山崎 敏栄
(72)【発明者】
【氏名】塚田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】栗原 信
(72)【発明者】
【氏名】中川 勝己
【テーマコード(参考)】
2B076
【Fターム(参考)】
2B076AA01
2B076DA02
2B076DA15
2B076DB08
2B076DC01
2B076DC02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】草刈機は他の農業機械に比べ比較的スピードの出せる設定になっている。従来、速度調整機器のHSTは純メカ式で手動で操作するのが前提となっていたのを、自動制御を実現し、安全のための走行速度制限を可能にし、安全性、安定性に優れた草刈機を提供する。
【解決手段】HST手動操作機構時の、HSTレバー機構部、またはHST足踏みペダル機構部、をほぼそのままに、その機構部に回動位置検知手段を設け、さらにHST調整軸に回動位置検知手段を設け、調整軸を三節リンクの減速でアクチュエータ駆動するシフト・バイ・ワイヤ制御構成にした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン又はモータを搭載し、左右一対の操舵前輪と駆動後輪または駆動前輪または駆動前後輪または駆動履帯と、機体中央部または機体前部に刈取部とを配設した小型乗用草刈機で、走行駆動用変速機構にHST(Hydoro Static Transmission)を使用し、HSTの油圧ポンプ側の斜板調整軸(トラニオン軸)にアクチュエータを連結し、該アクチュエータの回転変速またはストローク変速により回動調整させるように電子制御HSTに構成した小型乗用草刈機において、HST手動操作機構時の、HSTレバー機構部、またはHST足踏みペダル機構部、を略そのままに該機構部に回転センサによる、レバーまたはペダル回動位置検知手段を設け、さらにアクチュエータによる斜板調整軸の回動駆動機構部に回転センサによる斜板調整軸回動位置検知手段を設け、HSTレバーまたはペダルの回動位置に相当した速度の斜板調整軸位置になるよう制御ユニットによりアクチュエータの回転またはストロークを制御するようにシフト・バイ・ワイヤ制御構成にした電子制御HSTによる小型乗用草刈機。
【請求項2】
前記アクチュエータの回転変速またはストローク変速の機構を、てこ比で変速比を調整する二節または三節またはそれ以上のリンク機構にし、いずれか一節または二節に緩衝バネを使用する構成にした請求項1に記載する小型乗用草刈機。
【請求項3】
前記、シフト・バイ・ワイヤ制御構成にした小型乗用草刈機において、走行車輪機構または走行履帯機構にピックアップ式回転センサによる速度検知手段を設け、該速度信号を前記制御ユニットにフィードバックし、シフト・バイ・ワイヤ制御の制御要素にする構成にした請求項1または請求項2に記載する小型乗用草刈機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は草刈機または類機の芝刈機の中で主に小形乗用タイプのもので、その走行安全性と作業性の向上に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
小型乗用草刈機は国内では従来ほとんどが4輪の後輪駆動-前輪操舵型で普及している。(特許文献1、2) 駆動操縦系としてはこれが一般的であるが、不整地を考慮した4輪駆動型、また車輪駆動型よりは少ないが履帯駆動型もある。また更に草刈機はほとんどの場合、他の農業機械もそうであるが、走行速度制御にHST(Hydoro Static Transmission)が使用される。従来はこのHSTの調整軸を一本のレバー操作で回動させ走行速度や前後進のコントロールを行っていた。制御技術が年々高度化していく現在、HSTの電子制御化により、より高い安全性と作業性が求められる時代になっている。
【特許文献1】実開平06-55320
【特許文献2】特開2003-320864
【特許文献3】特開1988-214557
【特許文献4】特開2000-145932
【特許文献5】特開2004-141049
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
草刈機は他の農業機械に比べ比較的スピードの出せる設定になっている。移動時の効率性からであるが作業時に高速走行した場合、舵取りによっては機体が不安定になり横転の危険性すらある。また移動時であっても草刈機は不整地走行する場合がほとんどであり高速走行中に急ハンドルが切られた場合非常に危険であった。この舵取りに関わる安全装置としては高速走行中の急な進行方向変更や旋回時の際の速度制限がある。しかし速度調整装置のHSTは純メカ式で手動で調整軸をレバーや足踏みペダルなどで操作するのが前提となっているため自動制御化を難しくしていた。本発明はこの従来からのHST概念を革新しHSTの自動制御を実現し、安全のための走行速度制限を可能にし、安全性、安定性に優れた草刈機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために本発明において講じた手段は、エンジン又はモータを搭載し、左右一対の操舵前輪と駆動後輪または駆動前輪または駆動前後輪または駆動履帯と、機体中央部または機体前部に刈取部とを配設した小型乗用草刈機で、走行駆動用変速機構にHSTを使用し、HSTの油圧ポンプ側の斜板調整軸(トラニオン軸)にアクチュエータを連結し、そのアクチュエータの回転変速またはストローク変速により回動調整させるように電子制御HSTに構成した小型乗用草刈機において、HST手動操作機構時の、HSTレバー機構部、またはHST足踏みペダル機構部、をほぼそのままの状態で、その機構部に回転センサによる、レバーまたはペダル回動位置検知手段を設け、さらにアクチュエータによる斜板調整軸の回動駆動機構部に回転センサによる斜板調整軸回動位置検知手段を設け、HSTレバーまたはペダルの回動位置に相当した速度の斜板調整軸位置になるよう制御ユニットによりアクチュエータの回転またはストロークを制御するようにシフト・バイ・ワイヤ制御構成にしたことである。
【0005】
そしてアクチュエータの回転変速またはストローク変速の機構を、てこ比で変速比を調整する二節または三節またはそれ以上のリンク機構にし、いずれか一節または二節に緩衝バネを使用する構成にし、さらに走行車輪機構または走行履帯機構にピックアップ式回転センサによる速度検知手段を設け、機体の速度信号を前記制御ユニットにフィードバックし、シフト・バイ・ワイヤ制御の制御要素にする構成にしたことである。
【発明の効果】
【0006】
本発明は上記手段を施したことにより以下の効果を有する。
【0007】
連結アクチュエータの作動により操縦者の操作とは別にHSTの制御を行うことができるため速度制限制御が可能になり草刈機の走行安全性が向上する。
【0008】
HST調整の従来概念を打ち破り新たな制御機構の展開で、草刈機の操作性、作業性に優れた草刈機を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
現行のHSTは昔と違い構造的にしっかりしており、出始めの頃見られたクリープ現象(調整軸ニュートラル位置のズレ)はほとんど見られなくなった為、速度検知手段(センサ)のフィードバック無しでも安定制御は可能であるが、機構構造の経年劣化まで考慮すると、有った方が草刈機の対応年数に配慮した最良の設計である。
【実施例0010】
本発明の第一実施例を添付図面に基づいて説明する。
図1は本発明車輪型草刈機の実施例で左斜視図、
図2はその左側面図と平面図、
図4に走行駆動機構の平面透視図を示し、
図5にHST調整軸のモータ駆動機構の詳細を、
図6にHSTレバー機構の詳細を示す。
走行駆動用変速機4は本出願人の車輪型草刈機の中での最上位機種で4輪駆動のものを示している(
図4)。速度調整のHST5はこれに直結され、その調整軸52を回動駆動する調整軸モータ53も走行駆動用変速機4に、剛性の高いブラケット(図省略)で固定している。HST調整軸52側に回動用の調整軸アーム521を、調整軸モータ53側にモータアーム531を固定し、それらアーム間を緩衝バネを含む調整軸リンク522で回動自在に連結し3節リンク構成にし、調整軸の回動をモータで制御している(
図5)。
【0011】
調整軸アーム521には別にセンサアームb523に回動自在に連結するアームが出ており、調整軸の回動変位をセンサアームb523に固定した、HST調整軸回動センサS2の回動軸に伝導し、センサは回動変位信号を制御ユニット9(
図1、
図4)へ送出する。制御動作は制御ユニット9の設定した調整軸回動センサS2の値になるよう調整軸モータ53が動作する。
【0012】
HSTを操作するHSTレバー51は操作回動軸に、プリー&プーリーブレーキ514とHSTレバーアーム511を固定し回動自在に軸支している(
図6)。HSTレバー51は運転中はプーリーブレーキが働き回動操作位置で止まっていて(即ち操作速度維持)、ブレーキペダル55が操作された場合、また本願実施例には無いが走行クラッチが断操作された場合に、プーリーブレーキが解除されニュートラル位置にスプリングリターンしリセットされる機構で、電磁ブレーキやモータなどを使用するジョイステックに比べシンプルな機構で、HSTを使用する農機、建機などで広く一般的に使用されているものである。
【0013】
HSTレバーアーム511にはリンクロッド512の一端が回動自在に連結され、もう一端がセンサーアームa513に回動自在に連結しており、センサアームa513に軸固定したHSTレバー回動センサS1を回動させ、HSTレバー51の回動操作が回動センサS1に伝導される。回動センサS1は制御ユニット9にHSTレバー51操作位置、即ち操縦者の速度設定手値を送信し、その設定速度になるようHST調整軸回動センサS2の値を設定し、その値になるよう調整軸モータ53を駆動する(
図5)。
【0014】
HSTを操作するもう一つのHSTペダル54は自動車操縦感覚として近年ブームになっているが、自動車と違い前後進操作になり又回動角も鋭敏になる為、HSTレバー51のような回動位置固定はしていない。市場ではほとんどがHSTレバー51の補助として使用される(例えば操縦中右手がふさがり使えなくなった時とか)。このHSTペダル54にもHSTレバー51と同様に、回動軸に連結して回動センサを装着している。(図省略)レバーとペダルの同時操作になった場合、レバー側のセンサ信号を優先している。
【0015】
HST調整軸52を調整軸モータ53で回動駆動するのに、1節に緩衝バネを含む3節リンクを使用したのは、全く偶然の賜だった。ほとんどがそうだが、調整軸をモータ駆動制御しようとするとギヤトレーン駆動にしようと考えるのが普通である。(例えば特許文献5)出願人も20年程前に調整軸のモータ駆動に挑戦したことがあったが、その時もギヤトレーンを使用した。今回の開発で教訓となったことであるが、構成部品側から改良する方向と、機体側から改良する方向とでは明らかに違っていた。従来の手動操作機構ではHSTレバー51で調整軸52を動かそうとすると、レバーから調整軸までの距離を(
図4)途中の支持固定部品経由で5節リンクで連結していて、製造、調整が大変だったものであるが、それがHSTのそばに固定されたモータからの連結であるから極端に簡単になり、あっさりと3節リンクで即設計となった。これが当初予想してなかった絶大な効果があることが、実車試験で明らかになった。
【0016】
HSTの電子制御はかなり以前から業界で試みられていた。当初は調整軸のニュートラル位置(±1度)の狂いを補正する為に始まった(特許文献3、4)。だがそれとは別に調整軸の狂いには別の原因がある。草刈機は低μの不整地を走行する為、走行負荷変動が激しく、その負荷変動が走行ミッション-HSTと伝達され、調整軸から調整軸駆動側にトルク反力として加わる。HSTレバーの手動操作ではレバーを握っている手の感触でそれを感ずることができ、なれた人は自然とレバー調整をするのであるが、機械にはそれがわからない。それだけ人間の感覚能力と学習能力(慣れ)は機械制御や電子制御を凌ぐものがある。剛性の高いギヤトレーン駆動だと、強いトルク反力によっては駆動機構の固定が位置ズレてしまうことがある。出願人も20年程前これを経験した。しかし今回の3接リンク駆動ではそれがみられなく、100Hの耐久試験でも調整軸ニュートラル位置の狂いはなかった。リンク駆動機構が調整軸トルク反力の緩衝になっていたのである。ただモータ音のうなりが聞こえたような感じがあったので、緩衝効果をより完璧なものにする為、3節の内一つにバネを付け加えることを発案した。
【0017】
ところがこのこともさらなる予想外の効果があることがわかった。ソフトスタート、ソフトストップ、更にソフト加速、ソフト減速の効果である。もちろん不慣れな、またはせっかちな操縦者の突飛なレバー操作、ペダル操作に対する保護であり、当然制御ソフトでも行っているが、メカ、ソフト共に完璧なものになった。
【0018】
図3に本願第二実施例を示す。このタイプは乗用、歩行型兼用で、可倒式の踏み台に立って乗用として、踏み台を倒して歩行型として使用するものである。刈取部1aは前方位置に、エンジン、走行ミッションは機体内部に、クローラ6aで走行する。(詳細図省略)HSTレバー51aは操縦パネル上にあり、機体内部のレバー回動検知と3節リンクによる調整軸駆動機構は第一実施例と全く同じである。(詳細図省略)ただこのタイプはHSTペダルはない。
【0019】
以上、HST電子制御技術を完成させたが、開発当初は調整軸狂いを補正する為、車速フィードバックを考えていた。耐久時間をクリアしたとはいえ、10年の対応年数を考慮すると、やはり完成させておくことが必要である。車速検知は単純にピックアップ式回転センサを使用するもので、車輪駆動型は自動車のABS用やクルーズ用に使用されるものと、機構原理は同じである。ただ草刈機は高級なディスクブレーキは使わない為、ブレーキデスクの代わりに車輪ホイールを取り付けるホイールハブに検知用歯車やスリットデスクを併設し、カリパーブラケットの代わりにハブカバーにピックアップ式回転センサを装着した。(図省略)
【0020】
図7、及び
図3にクローラ駆動型での速度検知機構を示す。車輪駆動型の構成をそのままクローラ6aに当てはめると、クローラ走行に伴い回転する駆動輪のスプロケット61a、従動輪の転輪62aが対象となり、ピックアップ式回転センサS3の取り付けスペースから、転輪62aの転輪フレーム63aに装着し、検出回転体631aは転輪回転軸に併設するようにした。検出回転体631aは草刈機そのものの走行速度が遅いのと(最高速ほぼ10km/h)更に転輪径が車輪より遙かに小さいのとで、多歯数の歯車にする必要は無く、二つ突起の回転体でよく、ピックアップの欠落無く確実に検出することができる。以上は出願人が以前、他の機械で試みていたのを完成させたものである。
【0021】
車速フィードバックによる調整軸ニュートラル位置の狂いを補正する制御ユニット9の制御は逐次読み取り制御を行う。何らかの原因で調整軸ニュートラル位置がズレたとしても、車速ゼロの時のHST調整軸回動センサS2の値を読み込み新しくゼロに設定する。ニュートラル位置がズレたとしても、回動角度による速度変化には変わりが無いからである。同様にHSTレバー回動センサS1、HST調整軸回動センサS2も何らかの原因で零点が狂ったとしても、感度にはほぼ変わりが無い為、機能継続することができる。こうして車速ゼロの時のそれぞれのセンサ値を絶えず読み取り、ゼロに逐次設定していくことで、HSTとセンサの狂いを相殺することができる。この技術はセンサフィードバックマイコン制御で出願人が以前確立したものである。
【0022】
以上、HSTの電子制御を実現することが出来た。過去の取り組みにあった、いくつかの電子制御化の課題を解決し、名実共に実機搭載を可能にした。これにより、農機の作業機でも、より高度な速度制御が可能になり、安全性の向上はもとより、主たる作業性においてもより向上させる制御が可能になる。