(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010865
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】ろ過膜
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20230113BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20230113BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20230113BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20230113BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
B01D69/08
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186154
(22)【出願日】2022-11-22
(62)【分割の表示】P 2018167865の分割
【原出願日】2018-09-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1)ウェブサイトの掲載日 2018年2月27日 ウェブサイトのアドレス http://www3.scej.org/meeting/83a/pages/jp_appl-intellectual.html (その2) 開催日 2018年3月13日から2018年3月15日(公開日は2018年3月14日) 集会名、開催場所 化学工学会 第83年会 関西大学 千里山キャンパス(大阪府吹田市山手町3丁目3番35号)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム「大学・エコシステム推進型 スタートアップ・エコシステム形成支援」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 貞夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】中田 昌伸
(57)【要約】
【課題】有機溶媒及び溶質を含有する溶液中のナノサイズの溶質をより効率的にろ過する
ことができる技術を提供すること。
【解決手段】多孔質疎水性シリカ膜を含む、有機溶媒及び溶質を含有する溶液中のナノサ
イズ溶質をろ過するためのろ過膜、並びに有機溶媒及び溶質を含む溶液中のナノサイズ溶
質を浸透気化分離法によりろ過することを含む、ろ過方法
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質疎水性シリカ膜を含む、有機溶媒及び溶質を含有する溶液中のナノサイズ溶質をろ
過するためのろ過膜。
【請求項2】
前記ナノサイズ溶質の分子量が200~1000である、請求項1に記載のろ過膜。
【請求項3】
前記ナノサイズ溶質の分子量が200~500である、請求項1又は2に記載のろ過膜。
【請求項4】
前記多孔質疎水性シリカ膜の平均細孔径が2nm未満である、請求項1~3のいずれかに
記載のろ過膜。
【請求項5】
前記多孔質疎水性シリカ膜の平均細孔径が0.1~0.9nmである、請求項1~4のい
ずれかに記載のろ過膜。
【請求項6】
前記多孔質疎水性シリカ膜の厚みが50~500nmである、請求項1~5のいずれかに
記載のろ過膜。
【請求項7】
前記疎水性シリカが炭化水素基を含む、請求項1~6のいずれかに記載のろ過膜。
【請求項8】
さらに支持体を含み、且つ前記多孔質疎水性シリカ膜が該支持体上に配置されている、請
求項1~7のいずれかに記載のろ過膜。
【請求項9】
前記支持体の平均細孔径が2~500nmである、請求項8に記載のろ過膜。
【請求項10】
前記支持体が、平均細孔径20~500nmの支持層、及び該支持層上に配置されている
平均細孔径2~10nmの中間層を含む、請求項8又は9に記載のろ過膜。
【請求項11】
前記中間層の厚みが0.2~5μmである、請求項10に記載のろ過膜。
【請求項12】
浸透気化分離法によるろ過に用いるための、請求項1~11のいずれかに記載のろ過膜。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載のろ過膜を含む、膜モジュール。
【請求項14】
請求項13に記載の膜モジュールを含む、膜分離システム。
【請求項15】
請求項1~12のいずれかに記載のろ過膜を用いて、有機溶媒及び溶質を含む溶液中のナ
ノサイズ溶質をろ過することを含む、ろ過方法。
【請求項16】
前記ろ過が浸透気化分離法により行われる、請求項15に記載のろ過方法。
【請求項17】
有機溶媒及び溶質を含む溶液中のナノサイズ溶質を浸透気化分離法によりろ過することを
含む、ろ過方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒及び溶質を含有する溶液中のナノサイズ溶質をろ過するためのろ過
膜等に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノろ過は逆浸透と限外ろ過の中間サイズである分画分子量(200-2000)を分
離するものであり、一般的には水溶液から水を透過させるものであるが、医薬品、石油化
学産業において有機溶媒を透過させることができる有機溶媒ナノろ過膜(OSN)の開発
が望まれている。OSNは石油化学産業を始め、医薬品製造プロセスにおける有機溶媒回
収・リサイクルに有効であり、これまで廃棄されていた廃液の処理費用、有機溶媒のコス
トを大幅にカットすることができ、大幅な環境負荷低減を可能にする技術である。しかし
、既存の膜は透過係数が低く、阻止率も十分ではないので、膨大な膜面積が必要であった
り、加圧にエネルギーがかかったり、透過側に望ましくない物質が混入したりなどの問題
がある。特に、潤滑油などの分子量(約300)は有機溶媒の分子量と比較的近いので、
これらの問題がより顕著になる。
【0003】
有機溶媒ナノろ過膜としては、高分子膜が多く用いられている。ただ、高分子膜は、透
過流束が低いなどの問題がある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chem.Rev.,114,10735-10806(2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、有機溶媒及び溶質を含有する溶液中のナノサイズの溶質をより効率的にろ過
することができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、ろ過を多孔質疎水性シリカ膜を含
むろ過膜を用いて行う、且つ/或いはろ過を浸透気化分離法により行うことにより、有機
溶媒及び溶質を含有する溶液中のナノサイズの溶質をより効率的にろ過できることを見出
した。この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。
【0007】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0008】
項1. 多孔質疎水性シリカ膜を含む、有機溶媒及び溶質を含有する溶液中のナノサイ
ズ溶質をろ過するためのろ過膜。
【0009】
項2. 前記ナノサイズ溶質の分子量が200~1000である、項1に記載のろ過膜
。
【0010】
項3. 前記ナノサイズ溶質の分子量が200~500である、項1又は2に記載のろ
過膜。
【0011】
項4. 前記多孔質疎水性シリカ膜の平均細孔径が2nm未満である、項1~3のいず
れかに記載のろ過膜。
【0012】
項5. 前記多孔質疎水性シリカ膜の平均細孔径が0.1~0.9nmである、項1~
4のいずれかに記載のろ過膜。
【0013】
項6. 前記多孔質疎水性シリカ膜の厚みが50~500nmである、項1~5のいず
れかに記載のろ過膜。
【0014】
項7. 前記疎水性シリカが炭化水素基を含む、項1~6のいずれかに記載のろ過膜。
【0015】
項8. さらに支持体を含み、且つ前記多孔質疎水性シリカ膜が該支持体上に配置され
ている、項1~7のいずれかに記載のろ過膜。
【0016】
項9. 前記支持体の平均細孔径が2~500nmである、項8に記載のろ過膜。
【0017】
項10. 前記支持体が、平均細孔径20~500nmの支持層、及び該支持層上に配
置されている平均細孔径2~10nmの中間層を含む、項8又は9に記載のろ過膜。
【0018】
項11. 前記中間層の厚みが0.2~5μmである、項10に記載のろ過膜。
【0019】
項12. 浸透気化分離法によるろ過に用いるための、項1~11のいずれかに記載の
ろ過膜。
【0020】
項13. 項1~12のいずれかに記載のろ過膜を含む、膜モジュール。
【0021】
項14. 項13に記載の膜モジュールを含む、膜分離システム。
【0022】
項15. 項1~12のいずれかに記載のろ過膜を用いて、有機溶媒及び溶質を含む溶
液中のナノサイズ溶質をろ過することを含む、ろ過方法。
【0023】
項16. 前記ろ過が浸透気化分離法により行われる、項15に記載のろ過方法。
【0024】
項17. 有機溶媒及び溶質を含む溶液中のナノサイズ溶質を浸透気化分離法によりろ
過することを含む、ろ過方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、有機溶媒及び溶質を含有する溶液中のナノサイズの溶質を、より効率
的に、具体的には例えばより高い阻止率及び/又はより高い透過係数で、ろ過することが
できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】中空糸状ジルコニア支持体上にγ-アルミナ膜を形成する方法(比較例1)の概略を示す。
【
図2】比較例1で調整したろ過膜を支持体として、該支持体上に多孔質疎水性シリカ膜を形成する方法(実施例1)の概略を示す。
【
図3】ナノろ過試験(試験例3-1)の概略を示す。
【
図4】浸透気化分離試験(試験例3-2)の概略を示す。
【
図5】既報(Chem.Rev.,114,10736-10799(2014))の高分子膜のメチルオレンジ分離試験の結果と、試験例3-1の結果とを対比した図である。疎水性シリカ膜が実施例1の膜である。
【
図6】浸透気化分離試験(試験例3-2)の結果について温度変化の影響を示す図である。
【
図7】透気化分離試験(試験例3-2)の結果について経時変化の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」
、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0028】
1.実施形態1
本発明は、その一態様において、多孔質疎水性シリカ膜を含む、有機溶媒及び溶質を含
有する溶液中のナノサイズ溶質をろ過するためのろ過膜(本明細書において、「本発明の
ろ過膜」と示すこともある。)、並びに本発明のろ過膜を用いたろ過方法(本明細書にお
いて、「本発明のろ過方法1」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説
明する。
【0029】
1-1.多孔質疎水性シリカ膜
多孔質疎水性シリカ膜は、多孔質であり、且つ疎水性シリカが主成分である膜である限
り、特に制限されない。ここで、「主成分である」とは、疎水性シリカの含有量が、多孔
質疎水性シリカ膜100質量%に対して、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%
以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であることを示
す。
【0030】
多孔質疎水性シリカ膜の平均細孔径は、ナノサイズ溶質をろ過することが可能である限
り特に制限されるものではない。該平均細孔径は、透過させたい物質及び透過を阻止した
い物質に応じて適宜設定することができる。例えば、阻止したい物質の半分くらいの細孔
径であり、且つ溶媒が十分に通ることができる細孔径のおよそ1.5倍(例えば1.3~1.8倍
程度)の細孔径が例示される。具体的態様の一例として、阻止率、透過係数等の観点から
、例えば2nm未満、好ましくは0.1~1.5nm、より好ましくは0.1~1nm、
さらに好ましくは0.1~0.9nm、よりさらに好ましくは0.2~0.7nm、特に
好ましくは0.3~0.5nmである。
【0031】
なお、平均細孔径は、パームポロメトリで測定することができる。該測定では、非凝集
性ガスにはヘリウム、凝集性ガスには水及びヘキサンを用いる。凝集性ガスと非凝集性ガ
スを膜に供給し、膜を透過したヘリウムの透過流量を石鹸膜流量計によって測定する。水
及びヘキサンは、Eq.(1)のKelvin式(下記)から算出した蒸気圧となるよう
にシリンジポンプを用いて供給する。膜の測地温度は315Kで行う。
【0032】
【0033】
ここで、dはKlvin径[m]、νはモル体積[m3mol-1]、Rは気体定数[
Jmol-1K-1]、Tは温度[K]、σは表面張力[Nm-1]、θは接触角[de
g.]、Pは蒸気圧[Pa]及びPsは飽和蒸気圧[Pa]である。
【0034】
多孔質疎水性シリカ膜の厚みは、特に制限されるものではなく、本発明のろ過膜の機械
的強度の観点から適宜設定することができる。具体的態様の一例として、阻止率、透過係
数等の観点から、例えば10~1000nm、好ましくは50~500、より好ましくは
50~400nm、さらに好ましくは100~300、よりさらに好ましくは150~2
50nmである。
【0035】
なお、厚みは、膜の断面を顕微鏡で観察し、得られた観察像に基づいて測定することが
できる。
【0036】
疎水性シリカは、通常、疎水性官能基を含むシリカであり、その限りにおいて特に制限
されない。疎水性基としては、例えば炭化水素基が挙げられる。炭化水素基としては、ハ
ロゲン原子等で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子等で置換されていてもよ
いシクロアルキル基、ハロゲン原子等で置換されていてもよいアリール基等が挙げられる
。
【0037】
アルキル基には、直鎖状又は分岐鎖状(好ましくは直鎖状)のいずれのものも包含され
る。該アルキル基の炭素数は、特に制限されず、例えば1~12、好ましくは1~8、よ
り好ましくは2~5、さらに好ましくは3~4、よりさらに好ましくは3である。該アル
キル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-
ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、ネ
オペンチル基、n-ヘキシル基、3-メチルペンチル基、n-ヘプチル基、n-オクチル
基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基等が挙げられる。
これらの中でも、特に好ましくはn-プロピル基である。該アルキル基は、フッ素原子、
塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0038】
シクロアルキル基の炭素数は、特に制限されず、例えば3~10である。該シクロアル
キル基の具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シク
ロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。該シクロアルキル
基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子で置換されていて
もよい。
【0039】
アリール基は、特に制限されないが、炭素数が6~12のものが好ましく、6~8のも
のがさらに好ましい。該アリール基は、単環式又は多環式(例えば2環式、3環式等)の
いずれでも有り得るが、好ましくは単環式である。該アリール基としては、具体的には、
例えばフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ペンタレニル基、インデニル基、アント
ラニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオレニル
基、フェナントリル基等が挙げられ、好ましくはフェニル基が挙げられる。該アリール基
は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子で置換されていても
よい。
【0040】
多孔質疎水性シリカ膜は、ゾルゲル法によるシリカゲルの作製方法に準じた方法により
製造することができる。例えば、多孔質疎水性シリカ膜は、ケイ素原子に連結した疎水性
基を含むアルコキシシラン、界面活性剤、及び溶媒を混合してアルコキシシランを加水分
縮重合した後、得られた混合液を焼成することにより得ることができる。
【0041】
アルコキシシランは、ケイ素原子に連結した疎水性基を含む限りにおいて、特に制限さ
れない。該アルコキシシランとしては、例えば一般式(1):
【0042】
【0043】
[式中:R1は疎水性基を示す。R2、R3及びR4は同一又は異なって、アルキル基を
示す。]
で表される化合物が挙げられる。
【0044】
R1で示される疎水性基については、上記で説明した疎水性基と同様である。
【0045】
R2、R3及びR4で示されるアルキル基には、直鎖状又は分岐鎖状のいずれのものも
包含される。該アルキル基の炭素数は、特に制限されず、例えば1~6、好ましくは1~
4、より好ましくは1~2である。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基
、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基
、sec-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、3-メチルペ
ンチル基等が挙げられる。
【0046】
アルコキシシランの使用量は、特に制限されないが、溶媒100mLに対して、例えば
0.003~0.3mol、好ましくは0.01~0.1mol、より好ましくは0.0
2~0.5molである。
【0047】
界面活性剤としては、特に制限されず、例えばカチオン界面活性剤、アニオン界面活性
剤、ノニオン界面活性剤等を広く使用することができる。これらの中でも、好ましくは陽
イオン性界面活性剤が挙げられ、より好ましくはアルキルアンモニウム又はその塩が挙げ
られる。界面活性剤は、アルコキシシラン又はその加水分解物の疎水性基と相互作用する
ことにより、焼成後の細孔の形成に寄与する。この観点から、界面活性剤は、炭素数12
以上(好ましくは12~25、より好ましくは12~20、さらに好ましくは14~18
、よりさらに好ましくは15~17のアルキル基)を含むことが好ましい。
【0048】
界面活性剤の使用量は、特に制限されないが、溶媒100mLに対して、例えば0.0
008~0.08mol、好ましくは0.002~0.03mol、より好ましくは0.
005~0.012molである。
【0049】
加水分解の際には、加水分解触媒として、硝酸、塩酸、硫酸等の酸が添加されているこ
とが好ましい。
【0050】
溶媒は、アルコキシドの加水分解に必要な水を含む限りにおいて、特に制限されない。
通常、溶媒は、水及び有機溶媒(例えば、エタノール等のアルコール)の混合溶媒である
。
【0051】
混合時間及び混合温度は、特に制限されず、例えば10~40℃で1~5時間(好まし
くは2~4時間)である。これによりアルコキシドが加水分解される。
【0052】
得られた混合液は、必要に応じて適当な基材に塗布してから、焼成される。基材として
は、後述の支持体を用いることが好ましい。焼成により、溶媒を蒸発させ、残った水酸基
同士の反応を促進することにより、アモルファスのシリカ膜を得ることができる。
【0053】
基材への塗布は、特に制限されず、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。
塗布方法としては、例えばディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコ
ーティング法等が挙げられる。
【0054】
焼成温度は、溶媒の蒸発及び残った水酸基同士の反応が促進され、且つ疎水性基が除去
されない程度の温度である限り、特に制限されない。該温度は、例えば100~250℃
、好ましくは130~220℃、より好ましくは160~220℃、さらに好ましくは1
70~190℃である。焼成時間は、焼成温度により適宜設定されるものであり、特に制
限されない。該時間は、例えば1~6時間、好ましくは2~4時間である。焼成後は、膜
を洗浄することが望ましい。
【0055】
1-2.ろ過膜の層構造
本発明のろ過膜は、多孔質疎水性シリカ膜を含む限りにおいて特に制限されない。好ま
しくは、本発明のろ過膜は、さらに支持体を含む。この場合、多孔質疎水性シリカ膜は、
支持体上に配置されている。支持体により、本発明のろ過膜の機械的強度を保ちながらも
、多孔質疎水性シリカ膜の膜厚をより薄くすることができる。
【0056】
支持体の材料は、特に制限されず、ろ過膜の支持体として使用され得る材料を広く使用
することができる。該材料としては、例えばジルコニア、アルミナ、シリカ、チタニア、
マグネシア等が挙げられる。
【0057】
支持体の平均細孔径は、特に制限されないが、阻止率、透過係数等の観点から、例えば
2~500nm、好ましくは2~200nm、より好ましくは2~100nmである。支
持体の厚みは、特に制限されないが、阻止率、透過係数等の観点から、例えば50~30
0μm、好ましくは120~200μmである。
【0058】
支持体の層構造は特に制限されない。支持体は単層からなるものであることもできるし
、複層からなるものであることもできる。支持体は、好ましくは平均細孔径20~500
nmの支持層、及び該支持層上に配置されている平均細孔径2~10nmの中間層を含む
。
【0059】
支持層の平均細孔径は、特に制限されないが、阻止率、透過係数等の観点から、好まし
くは20~200nm、より好ましくは20~100nm、さらに好ましくは30~80
nmである。支持層の厚みは、特に制限されないが、阻止率、透過係数等の観点から、例
えば50~300μm、好ましくは120~200μmである。支持層の材料は、好まし
くはジルコニアである。
【0060】
中間層の平均細孔径は、特に制限されないが、阻止率、透過係数等の観点から、好まし
くは2~8nm、より好ましくは3~6nmである。中間層の厚みは、特に制限されない
が、透過係数等の観点から、好ましくは0.2~5μm、より好ましくは0.5~3μm
、さらに好ましくは0.7~2μmである。中間層の材料は、好ましくはアルミナである
。
【0061】
支持層、中間層等の支持体は、公知の方法に従って又は準じて形成することができる。
これらは、例えば、既報(Adv.Funct.Mater. 27(2017)160
4311.、Journal of Membrane Science,290(20
07)138-145等)に従って形成することができる。
【0062】
1-3.用途
本発明のろ過膜は、有機溶媒及び溶質を含有する溶液中のナノサイズ溶質をろ過するた
めに用いられる。
【0063】
有機溶媒としては、特に制限されないが、例えばメタノールやエタノール等のアルコー
ル、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、1-メチル,2-ピロリドン、
イソプロパノール、n-ヘプタン、n-ヘキサン、ジメチルホルミアミド、テトラヒドロフラ
ン等が挙げられる。有機溶媒の分子量は、例えば20~150、好ましくは30~120
、より好ましくは30~100である。
【0064】
ナノサイズ溶質は、特に制限されないが、例えば分子量が200~1000、好ましく
は200~500、より好ましくは200~400、さらに好ましくは250~400の
溶質が挙げられる。ナノサイズ溶質としては、例えば潤滑油、より具体的には例えばアル
ファオレフィンオリゴマー、ポリブデン、ジエステル、リン酸エステル、ケイ酸エステル
等が挙げられる。
【0065】
ろ過の方法としては、例えばナノろ過法、浸透気化分離法等が挙げられる。本発明のろ
過膜は、いずれの方法に用いても、より高い阻止率及び/又はより高い透過係数を達成す
ることができる。これらの方法は、従来公知の方法に従って又は準じて実施することがで
きる。本発明のろ過膜は、浸透気化分離法によるろ過に用いることにより、透過係数をよ
り顕著に高めることができる。
【0066】
浸透気化分離法によるろ過の際の供給温度は、特に制限されない。該温度は、例えば5
℃以上、好ましくは15℃以上、より好ましくは30℃以上、さらに好ましくは50℃以
上、よりさらに好ましくは60℃以上である。該温度をより高く設定することにより、透
過係数をより顕著に高めることができる。上限は、特に制限されず、有機溶媒の沸点に応
じて、操作圧力と有機溶媒の蒸気圧に基づいて適宜設定することができる。該上限は、例
えば200℃、150℃、100℃、80℃である。
【0067】
本発明のろ過膜を用いて、有機溶媒及び溶質を含有する溶液中のナノサイズ溶質をろ過
することにより、より高い阻止率及び/又はより高い透過係数を達成することができる。
【0068】
透過係数は、例えば0.1Lm-2h-1bar-1以上、好ましくは0.15Lm-
2h-1bar-1以上である。浸透気化分離法を採用した場合は、透過係数は、例えば
1Lm-2h-1bar-1以上、好ましくは5Lm-2h-1bar-1以上、より好
ましくは10Lm-2h-1bar-1以上、さらに好ましくは20Lm-2h-1ba
r-1以上、よりさらに好ましくは40Lm-2h-1bar-1以上、特に好ましくは
60Lm-2h-1bar-1以上である。透過係数の上限は特に制限されず、例えば1
00Lm-2h-1bar-1である。
【0069】
透過係数は、供給側の溶質濃度及び透過側の溶質濃度に基づいて、以下の式に従って算
出することができる。
【0070】
【0071】
阻止率は、例えば90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さ
らに好ましくは99%以上、よりさらに好ましくは99.5%以上、特に好ましくは99
.8%以上であり、通常100%未満である。
【0072】
阻止率は、供給側の溶質濃度及び透過側の溶質濃度に基づいて、以下の式に従って算出
することができる。
【0073】
【0074】
1-4.膜モジュール、膜分離システム
本発明は、その一態様において、本発明のろ過膜を含む膜モジュール、及び該膜モジュ
ールを含む膜分離システムに関する。
【0075】
膜モジュールの種類としては、特に制限されず、例えばスパイラル型モジュール、プリ
ーツ型モジュール、モノリス型モジュール、チューブ型モジュール等が挙げられる。膜モ
ジュールには、本発明のろ過膜の他に、適宜、モジュールを構成する部品が含まれる。
【0076】
膜分離システムは、上記膜モジュール以外に、膜分離システムを構成する部品や装置が
含まれる。例えば、ろ過モードの場合は、加圧器、多段システム等、多段の場合の透過し
ない液を前段に戻すシステム等を含む。PVモードの場合は、供給装置(連続でも、バッチ
でも可)等、連続の場合は多段システム等、多段の場合はリサイクル透過しなかった液を
リサイクルするシステム、真空装置、冷却して透過蒸気を回収する装置等をを含む。
【0077】
実施形態2
本発明は、その一態様において、有機溶媒及び溶質を含む溶液中のナノサイズ溶質を浸
透気化分離法によりろ過することを含む、ろ過方法にも関する。
【0078】
各構成の定義等は、実施形態1における定義と同じである。本方法に使用するろ過膜と
しては、本発明のろ過膜以外にも、公知のろ過膜を挙げることができる。公知のろ過膜と
しては、例えばポリジメチルシロキサン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン-プロ
ピレン-ジエン三元共重合体、ポリウレタン尿素、ポリ(エーテル-ブロックアミド)、
ポリ(1-トリメチルシリル-1-プロピン)、ポリプロピレン、ポリアニリン、ポリイ
ミド、ポリエーテルスルフォン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ジメチルホルムア
ミド、ポリエチレンイミン等の高分子膜、チタニア、アルミナ、シリカ等を用いた無機膜
等の膜が挙げられる。
【実施例0079】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によっ
て限定されるものではない。
【0080】
比較例1.γ-アルミナ膜を含むろ過膜の調製
中空糸状ジルコニア支持体上にγ-アルミナ膜を形成した。具体的には以下のようにし
て行った。また、この形成方法の概略を
図1に示す。
【0081】
ポリビニルアルコール1.75g及び0.05M硝酸水溶液50mLを混合して、90
℃で2時間還流させた。そこへベーマイト溶液(濃度:0.8mol/L)25mLを添
加して、20分間、超音波攪拌して、γ-アルミナ膜形成用溶液を得た。中空糸状ジルコ
ニア支持体(厚み:158μm、平均細孔径約50nm、Adv.Funct.Mate
r. 27(2017)1604311.)を、2mm/sの速度でγ-アルミナ膜形成
用溶液に浸漬して20秒間保持させた後、1mm/sの速度の速度で該溶液から引き上げ
た。室温で3時間乾燥させた後、600℃で24時間焼成して、γ-アルミナ膜を得た。
【0082】
実施例1.多孔質疎水性シリカ膜を含むろ過膜の調製
比較例1で調製したろ過膜を支持体として、該支持体の中間層(γ-アルミナ膜)上に
多孔質疎水性シリカ膜を形成した。具体的には以下のようにして行った。また、この形成
方法の概略を
図2に示す。エタノール25mL、1M硝酸水溶液7.5mL、N-プロピ
ルトリメトキシシラン0.01mol、及びセチルトリメチルアンモニウムブロマイド0
.008molを混合して、室温下で3時間攪拌して、多孔質疎水性シリカ膜形成用溶液
(シリカゾル)を得た。比較例1で調製したろ過膜を、多孔質疎水性シリカ膜形成用溶液
に浸漬して60秒間保持させた後、1mm/sの速度の速度で該溶液から引き上げた。1
80℃3時間焼成後、エタノールに24時間浸漬し、多量のエタノールで洗浄して、多孔
質疎水性シリカ膜を得た。
【0083】
試験例1.膜厚の測定
実施例1で調製したろ過膜の断面をFE-SEM(電界放出形走査電子顕微鏡)(日立
製作所製、製品名S-4800)で観察し(倍率20000倍)、得られた観察像に基づ
いて各層の厚みを測定した。その結果、γ-アルミナ膜の厚みは約1μmであり、多孔質
疎水性シリカ膜の厚みは約200nmであった。
【0084】
試験例2.平均細孔径の測定
比較例1で調製したろ過膜及び実施例1で調製したろ過膜について、γ-アルミナ膜及
び多孔質疎水性シリカ膜それぞれの細孔径分布をパームポロメトリで測定した。本試験例
では、非凝集性ガスにはヘリウム、凝集性ガスには水及びヘキサンを用いた。凝集性ガス
と非凝集性ガスを膜に供給し、膜を透過したヘリウムの透過流量を石鹸膜流量計によって
測定した。水及びヘキサンは、Eq.(1)のKelvin式(下記)から算出した蒸気
圧となるようにシリンジポンプを用いて供給した。膜の測地温度は315Kで行った。
【0085】
【0086】
ここで、dはKlvin径[m]、νはモル体積[m3mol-1]、Rは気体定数[
Jmol-1K-1]、Tは温度[K]、σは表面張力[Nm-1]、θは接触角[de
g.]、Pは蒸気圧[Pa]及びPsは飽和蒸気圧[Pa]である。
【0087】
その結果、γ-アルミナ膜の平均細孔径は4.1nmであり、多孔質疎水性シリカ膜の
平均細孔径は0.43nmであった。
【0088】
試験例3.透過試験
試験例3-1.ナノろ過(NF)試験
有機溶媒としてエタノールを用い、溶質にメチルオレンジ(分子量327、分子径約1
nm)を用いて、メチルオレンジ35μMの溶液を調製した。圧力容器に膜(比較例1又
は実施例1)を接続し、圧力容器上部より6bar加圧した。透過液は圧力容器下部より
ビーカーに回収した。供給側及び透過側の濃度は吸光度計(ASUV 6300-PC、
アズワン社製)で測定した。本試験の概略を
図3に示す。
【0089】
透過係数(Permeance)及び阻止率(Rejection)を以下の式に従っ
て算出した。
【0090】
【0091】
【0092】
試験例3-2.浸透気化分離試験
有機溶媒としてエタノールを用い、溶質にメチルオレンジ(分子量327)を用いて、
メチルオレンジ35μMの溶液を調製した。膜(比較例1又は実施例1)を溶液に浸漬し
、真空ポンプで膜の内側を約5.0Paに減圧した。透過した気体をコールドトラップで
液体として回収し、透過液の重量を測定した。供給側の濃度は吸光度計(ASUV 63
00-PC、アズワン社せい)で測定した。本試験の概略を
図4に示す。
【0093】
供給温度を20、30、50、60、及び70℃に設定し、各温度で30分間溶液を回
収し、温度変化の分離性能に及ぼす影響を検討した。70℃の試験の後に30分毎に溶液
を回収し続け270分間試験し、経時変化の影響を検討した。
【0094】
透過係数及び阻止率を試験例3-1と同じ方法でv算出した。
【0095】
試験例3-3.結果
<結果1>
比較例1の膜(γ-アルミナ)と実施例1の膜(H-silica)で、NF試験を行
った結果を表1に示す。
【0096】
【0097】
比較例1の膜は阻止率が13.6%と低い値を示したものの、シリカ層をコーティング
した膜は99.9%以上と高い膜を示した。透過係数は、中間層のみで行った試験に比べ
て低いものの、
図5に示す既報(Chem.Rev.,114,10735-10806
(2014))の高分子膜のメチルオレンジ分離試験と比較した場合、トレードオフの関
係を突破していることが分かる。
【0098】
<結果2>
浸透気化分離試験の結果を表2(供給温度20℃)に示す。また、温度及び経時変化の
影響を
図6及び
図7に示す。
【0099】
【0100】
表2に示されるように、浸透気化分離を行うことによって、透過係数が大幅に上昇した
。また、
図6より、20~70℃では温度増加に伴い透過流束が増加することが分かった
。また、
図7より、透過流束は経時変化に伴い徐々に減少し、270分経過後で一定にな
ったことが分かった。ただ、270分経過後の膜を洗浄して再度試験に供したところ、同
程度の性能を示すことが分かった。