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  • 特開-工事用エレベータ 図1
  • 特開-工事用エレベータ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108651
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】工事用エレベータ
(51)【国際特許分類】
   B66B 9/02 20060101AFI20230731BHJP
   B66B 1/34 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
B66B9/02 A
B66B1/34 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009803
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】592217141
【氏名又は名称】サノヤス・エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100195752
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 一正
(72)【発明者】
【氏名】寺田 圭
(72)【発明者】
【氏名】神尾 勇治
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】石井 高広
【テーマコード(参考)】
3F301
3F502
【Fターム(参考)】
3F301AA13
3F301BA08
3F502NA14
(57)【要約】
【課題】インバータや誘導モータの容量を増やさずに、高層化をなし得る工事用エレベータを実現することを課題とする。
【解決手段】
工事用エレベータにおける制御装置であって、複数の誘導モータ2(2a、2b、2c)及び前記複数の誘導モータ2(2a、2b、2c)で回転駆動されるピニオンギヤを有した搬器1と、前記ピニオンギヤが噛み合うラック5と、前記複数の誘導モータ2(2a、2b、2c)を制御する制御装置3と、前記制御装置3から前記搬器1における前記複数の誘導モータ2(2a、2b、2c)まで伸びるケーブル4と、を備え、前記制御装置3は、ベクトル制御により前記複数の誘導モータ2(2a、2b、2c)を駆動する一のインバータ6を有し、前記ピニオンギヤの回転により前記搬器が前記ラック5に沿って上昇又は下降することを特徴とする工事用エレベータ10とした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工事用エレベータにおける制御装置であって、
複数の誘導モータ及び前記複数の誘導モータで回転駆動されるピニオンギヤを有した搬器と、
前記ピニオンギヤが噛み合うラックと、
前記複数の誘導モータを制御する制御装置と、
前記制御装置から前記搬器における前記複数の誘導モータまで伸びるケーブルと、を備え、
前記制御装置は、ベクトル制御により前記複数の誘導モータを駆動する一のインバータを有し、前記ピニオンギヤの回転により前記搬器が前記ラックに沿って上昇又は下降することを特徴とする工事用エレベータ。
【請求項2】
前記複数の誘導モータは、前記ケーブルを介して並列に前記インバータの出力端子に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の工事用エレベータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築現場で使用される工事用エレベータであって、搬器に搭載された複数のモータを1台のインバータでベクトル制御して駆動するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ビルが高層化することに伴い、ビルの建築現場で使用される工事用エレベータも高層化している。デパート等の常設エレベータと違い、工事用エレベータはビル建築の進捗に合わせて長さを伸ばしていく必要があるため、ワイヤーロープを用いた滑車部駆動方式ではなく、搬器にモータを搭載して上下動させている。このため、重い搬器を上下動させるのに複数のモータを搭載してトルクを稼ぐとともに、地上又は地下に設置されたインバータから高層階まで届くような長いケーブルで信号を送ってモータ駆動する必要がある。
【0003】
従来の工事用エレベータにおけるモータは複数の誘導モータを搬器に搭載し、電圧と周波数の比を一定にしたV/F制御行っていた。しかしながら、ビルの高層化に伴ってケーブル長が長くなることで、搬器の重量が重く、また電圧降下が大きくなるため高層化に限界があった。
【0004】
特許文献1には、インバータを搬器に搭載して、インバータと誘導モータとのケーブル長を短くした構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特許文献1:特開2003-238051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のものは、インバータの重量が搬器の重量に加わるので、上下動させる誘導モータの数か容量を増やさなければならず、電力消費が大きくなりコストがかさむ恐れがあるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決して、インバータや誘導モータの容量を増やさずに、高層化をなし得る工事用エレベータを実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、工事用エレベータにおける制御装置であって、
複数の誘導モータ及び前記複数の誘導モータで回転駆動されるピニオンギヤを有した搬器と、
前記ピニオンギヤが噛み合うラックと、
前記複数の誘導モータを制御する制御装置と、
前記制御装置から前記搬器における前記複数の誘導モータまで伸びるケーブルと、を備え、
前記制御装置は、ベクトル制御により前記複数の誘導モータを駆動する一のインバータを有し、前記ピニオンギヤの回転により前記搬器が前記ラックに沿って上昇又は下降することを特徴とする工事用エレベータを提供するものである。
【0009】
この構成により、ベクトル制御により消費電力及び電圧降下が低減することで、ケーブルを細くしてより高層化を可能とすることができる。
【0010】
工事用エレベータであって、前記複数の誘導モータは、前記ケーブルを介して並列に前記インバータの出力端子に接続されている構成としてもよい。
【0011】
この構成により、インバータは複数の誘導モータを1台の誘導モータとして制御でき、容易に複数の誘導モータをベクトル制御により駆動することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の工事用エレベータにより、消費電力を低減することでビルの高層化に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例1における工事用エレベータを説明する図である。
図2】本発明の実施例1におけるインバータと誘導モータを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0014】
本発明の実施例1について、図1図2を参照して説明する。図1は、本発明の実施例1における工事用エレベータを説明する図である。図2は、本発明の実施例1におけるインバータと誘導モータを説明する図である。
【0015】
実施例1における工事用エレベータ10は、略垂直に建てられたラック5に沿って搬器1が上昇又は下降するように構成されている。搬器1の下部には、複数の誘導モータ2(2a、2b、2c)が設けられ、それぞれ図示しないピニオンギヤを備え、このピニオンギヤを複数の誘導モータ2(2a、2b、2c)が駆動することでラック5に噛み合って回転し搬器1を上昇又は下降させることができる。
【0016】
なお、実施例1においては、複数の誘導モータ2(2a、2b、2c)に、それぞれピニオンギヤを備えた構成としたが、必ずしもこれに限定されず適宜変更が可能である。例えば、複数の誘導モータ2(2a、2b、2c)で1個のピニオンギヤを備えた構成としてもよい。
【0017】
搬器1のラック5とは反対側の面には図示しない各階のフロア及び各階扉があり、搬器1が各階に停止し、図示しない搬器1の扉及び各階扉を開放することで、人や荷物が乗り降りできる。
【0018】
ラック5の高さはビルの建築が進捗するにしたがって上方に伸ばすことで所定の階まで搬器1を上昇させることができる。また、逆にビル建築が完成すると、工事用エレベータ10は上からラック5を解体して撤収する。
【0019】
なお、実施例1においては、搬器1の下部に複数の誘導モータ2(2a、2b、2c)を設けるように構成したが、必ずしもこれに限定されず適宜変更が可能である。例えば、複数の誘導モータ2(2a、2b、2c)を搬器1の上部に設けてもよいし、搬器1の側部に設けてもよく、搬器1における任意の位置に設けることができる。
【0020】
また、実施例1においては、搬器1から乗り降りする方向をラック5の反対側としたが、必ずしもこれに限定されず適宜変更が可能である。例えば、搬器1の側面(図1における手前側又は奥行側)から乗り降りするようにしてもよい。
【0021】
複数の誘導モータ2(2a、2b、2c)は、地上又は地下に設置された制御装置3により制御駆動される。制御装置3には、1台のインバータ6が設けられ、ケーブル4により複数の誘導モータ2(2a、2b、2c)に接続されている。制御装置3は地上又は地下にあり、複数の誘導モータ2(2a、2b、2c)が設けられた搬器1は地上又は地下付近から最上階まで上昇を行うため、ケーブル4は最上階までの長さを必要とする。このため、ケーブル4の重量は大きく、揚程300mの場合で約1.2トンとなる。
【0022】
インバータ6は、ベクトル制御を行って複数の誘導モータ2(2a、2b、2c)を駆動制御している。図2に示すように、インバータ6の出力端子からケーブル4を介して並列に複数の誘導モータ2(2a、2b、2c)の入力端子に接続され、これにより、インバータ6からみた誘導モータは1台であるとして制御を行っている。
【0023】
インバータ6がベクトル制御を行うことで、トルク分電流と励磁電流とを分けて考え、モータ電流の方向をベクトル制御できる。そのため、誘導モータにおいて発生する「すべり(固定子の回転周波数に対する回転子の回転周波数の遅れ)」分をリアルタイムに計算して誘導モータに印加でき、誘導モータの回転数は負荷の大きさによって変化せず一定速度制御をすることができる。特に、低速時の電流を軽減できる。実際の実験では、V/F制御に比べて約2/3まで消費電流を抑えることができた(表1参照)。
【0024】
一般にベクトル制御により複数の誘導モータを駆動することは困難と考えられてきたが、実施例1においては、複数の誘導モータを1台の誘導モータとして制御することで、複数の誘導モータ2(2a、2b、2c)を1台のインバータ6で駆動制御することができた。実施例1においては、エンコーダによるフィードバックなしに制御を行っているが、インバータ6から複数の誘導モータ2(2a、2b、2c)へ出力する電流と電圧を参照することで、出力波形を修正し、より細かく速度制御を行うことができる。
【0025】
実施例1におけるベクトル制御を行うことで、従来のV/F制御に比べて、消費電力を大幅に低減することができる。表1に、実験を行ったときの上昇時の最大電流の実測値、下降時の最大電流の実測値をV/F制御時及びベクトル制御時毎に示す。
【0026】
表1
|制御方式 | 上昇時の最大電流 | 下降時の最大電流 |
|V/F制御 | 154A | 62.6A |
|ベクトル制御 | 104A | 50.4A |
注)ケーブル径38sq-4C、ケーブル長200mで実施
【0027】
なお、実施例1においては、3個の誘導モータ2(2a、2b、2c)を使用することとしたが、必ずしもこれに限定されず適宜変更が可能である。例えば、4個以上の誘導モータを使用してもよいし、2個の誘導モータを使用するようにしてもよい。
【0028】
このように、消費電力(電流)を低減することにより、ケーブル径を細くして負荷を軽減することができ、誘導モータの負荷を減らすことができるため誘導モータの個数を減らすことが可能である。また、ケーブル径を細くして負担重量を軽減することで電圧降下を減らして、より長いケーブル長の重量を同じ定格モータで使用できるため、工事用エレベータの高層化が実現できる。
【0029】
このように実施例1においては、工事用エレベータにおける制御装置であって、
複数の誘導モータ及び前記複数の誘導モータで回転駆動されるピニオンギヤを有した搬器と、
前記ピニオンギヤが噛み合うラックと、
前記複数の誘導モータを制御する制御装置と、
前記制御装置から前記搬器における前記複数の誘導モータまで伸びるケーブルと、を備え、
前記制御装置は、ベクトル制御により前記複数の誘導モータを駆動する一のインバータを有し、前記ピニオンギヤの回転により前記搬器が前記ラックに沿って上昇又は下降することを特徴とする工事用エレベータにより、消費電力及び電圧降下が低減することで、ケーブルを細くしてより高層化を可能とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明における工事用エレベータにより、高層化するビルの建築現場におけるエレベータの分野に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0031】
1:搬器
2(2a、2b、2c):誘導モータ
3:制御装置
4:ケーブル
5:ラック
6:インバータ
10:工事用エレベータ
図1
図2