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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108657
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】紙送りロール
(51)【国際特許分類】
   B65H 5/06 20060101AFI20230731BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20230731BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
B65H5/06 C
C08L23/00
C08K5/101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009811
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】明楽 直樹
(72)【発明者】
【氏名】作田 学
【テーマコード(参考)】
3F049
4J002
【Fターム(参考)】
3F049AA01
3F049CA16
3F049LA02
3F049LA05
3F049LA07
3F049LB03
4J002AC011
4J002AC061
4J002BB151
4J002EH046
4J002GM00
4J002GQ00
4J002GS00
(57)【要約】
【課題】エチレンプロピレンジエンゴムを含む第1相と、イソプレンゴムおよび天然ゴムのいずれか1種以上を含む第2相と、を弾性体層に有していても、弾性体層の表面の部位毎の不均一な紙粉付着発生を抑え、長期使用後であっても用紙の搬送性に優れ、紙詰まりを回避できる紙送りロールを提供する。
【解決手段】軸体と12、軸体12の外周に形成された弾性体層14と、を備え、弾性体層14は、ポリマーおよびモノグリセリドを含有し、モノグリセリドの含有量がポリマー100質量部に対し、0.5質量部以上5質量部以下であり、弾性体層14は、エチレンプロピレンジエンゴムを含む第1相と、イソプレンゴムおよび天然ゴムのいずれか1種以上を含む第2相と、を有する紙送りロール10とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体と、前記軸体の外周に形成された弾性体層と、を備え、
前記弾性体層は、ポリマーおよびモノグリセリドを含有し、
前記モノグリセリドの含有量が前記ポリマー100質量部に対し、0.5質量部以上5質量部以下であり、
前記弾性体層は、エチレンプロピレンジエンゴムを含む第1相と、イソプレンゴムおよび天然ゴムのいずれか1種以上を含む第2相と、を有する紙送りロール。
【請求項2】
前記モノグリセリドは、C11~21の脂肪族炭化水素基を有するモノグリセリドである、請求項1に記載の紙送りロール。
【請求項3】
前記モノグリセリドは、不飽和脂肪族炭化水素基を有するモノグリセリドである、請求項1または2に記載の紙送りロール。
【請求項4】
前記弾性体層の任意の2.5μm×2.5μm角の範囲内において、前記第2相の面積割合が30~70%の範囲内である、請求項1~3に記載の紙送りロール。
【請求項5】
前記モノグリセリドは、前記第1相中に、前記第2相中よりも高い濃度で存在する、請求項1~4に記載の紙送りロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリなどの電子写真機器において好適に用いられる紙送りロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙送りロールとしては、芯金などの軸体の外周面上にゴム架橋体などの弾性材料からなる弾性体層を有するものが知られている。弾性体層の弾性材料としては、エチレンプロピレンジエンゴムとイソプレンゴムやスチレンブタジエンゴムなどを併用したものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-196428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
弾性体層の弾性材料が2種以上のポリマー成分で構成される場合、弾性体層は、ポリマー成分の異なる2以上の相で構成されることが多い。ポリマー成分が異なるため、相ごとで紙粉が付着する量が異なる。その結果、長期使用後は、相ごとの摩擦係数の差が大きくなるため、弾性体層は表面の摩擦係数が不均一となりやすい。弾性体層の表面の摩擦係数が不均一であると、用紙を真っ直ぐに搬送できず、搬送不良(紙詰まり)が生じるという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、エチレンプロピレンジエンゴムを含む第1相と、イソプレンゴムおよび天然ゴムのいずれか1種以上を含む第2相と、を弾性体層に有していても、弾性体層の表面の部位毎の不均一な紙粉付着発生を抑え、長期使用後であっても用紙の搬送性に優れ、紙詰まりを回避できる紙送りロールを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る紙送りロールは、軸体と、前記軸体の外周面上に形成された弾性体層と、を備え、前記弾性体層は、エチレンプロピレンジエンゴムを含む第1相と、イソプレンゴムおよび天然ゴムのいずれか1種以上を含む第2相と、グリセリンと脂肪酸とを反応させて得られるモノグリセリドと、を有し、前記モノグリセリドは、前記第1相と第2相のポリマー100質量部に対し、0.5質量部以上5質量部以下である。
【0007】
前記モノグリセリドは、さらに、グリセリンと炭素数12~22の脂肪酸とを反応させて得られるモノグリセリドであることが好ましい。また、前記モノグリセリドは、グリセリンと不飽和脂肪酸とを反応させていられるモノグリセリドであることが好ましい。更に、前記弾性体層の任意の2.5μm×2.5μm角の範囲内において、前記第2相の面積割合が30~70%の範囲内であることが好ましい。また、前記弾性体層のモノグリセリドが、前記第1相中に、前記第2相中よりも高い濃度で存在することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る紙送りロールによれば、軸体と、前記軸体の外周に形成された弾性体層と、を備え、前記弾性体層は、エチレンプロピレンジエンゴムを含む第1相と、イソプレンゴムおよび天然ゴムのいずれか1種以上を含む第2相と、グリセリンと脂肪酸とを反応させて得られるモノグリセリドと、を有し、前記モノグリセリドは、前記第1相と前記第2相のポリマー100質量部に対し、0.5質量部以上5質量部以下であることで、長期使用後において、前記弾性体層の表面の紙粉付着を抑制できるため、弾性体層の表面の部位によって紙粉付着量が異ならず、また、前記弾性体層の表面に紙粉が付着しても剥離するため摩擦係数が変化し難いため、前記弾性体層の表面の部位によって摩擦係数に差が発生しない。その結果、長期使用後の用紙の搬送不良(紙詰まり)を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る紙送りロールの外観模式図(a)と、そのA-A線断面図(b)である。
図2】弾性体層における第1相と第2相の両相の面積比率を計測する方法を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る紙送りロールについて詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る紙送りロールの外観模式図(a)と、そのA-A線断面図(b)である。
【0011】
本発明の一実施形態に係る紙送りロール10は、軸体12と、軸体12の外周面上に形成された弾性体層14と、を備える。弾性体層14は、紙送りロール10のベースとなる層(基層)である。弾性体層14は紙送りロール10の表面に現れる層となっている。
【0012】
軸体12は、金属製または樹脂製の中実体、中空体(円筒体)のものなどが挙げられる。金属材料としては、鉄、ステンレス、アルミニウムなどが挙げられる。弾性体層14は、接着剤層(プライマー層)を介して軸体12に接着されていてもよい。接着剤、プライマーなどには、必要に応じて導電化を行っても良い。
【0013】
弾性層14は、ポリマーおよびモノグリセリドを含有し、前記モノグリセリドの含有量が前記ポリマー100質量部に対し、0.5質量部以上20質量部以下であり、前記弾性体層は、エチレンプロピレンジエンゴムを含む第1相と、イソプレンゴムおよび天然ゴムのいずれか1種以上を含む第2相と、を有する。
【0014】
弾性体層14において、エチレンプロピレンジエンゴムを含む第1相は、弾性体層14の硬度を所望の範囲にするのに好適である。イソプレンゴム(IR)および天然ゴム(NR)のいずれか1種以上を含む第2相は、エチレンプロピレンジエンゴムを含む第1相よりも摩擦係数の高い材料であり、弾性体層14の表面の摩擦係数を向上するのに好適である。グリセリンと脂肪酸とを反応させて得られるモノグリセリドは、弾性体層14(特に第1相)の紙粉付着を抑制するのに好適である。モノグリセリドは、第1相と第2相のポリマー100質量部に対し、0.5質量部以上5質量部以下であり、モノグリセリドが弾性体層14の表面にブリードアウトすることによって、弾性体層14の表面と付着した紙粉との間に薄膜を形成し、薄膜が紙送りロール10の回転時に剥がれることで、弾性層体層14の表面に付着した紙粉を除去できる。この薄膜はモノグリセリドのブリードアウトにより連続的に形成される。これにより、長期使用後において、弾性体層14の表面の紙粉付着を抑制できるため、弾性体層の表面の部位によって紙粉付着量が異ならず、また、弾性体層の表面に紙粉が付着しても摩擦係数が変化し難いため、弾性体層の表面の部位によって摩擦係数に差が発生しない。その結果、長期使用後の用紙の搬送不良(紙詰まり)を解消することができる。
【0015】
エチレンプロピレンジエンゴムは、エチレンとプロピレンの共重合体であるエチレンプロピレンゴム(EPM)に第3成分として非共役ジエンを共重合させたものである。エチレンプロピレンジエンゴムは、分子構造内に、エチレンプロピレン構造や非共役ジエンに起因する構造を有する。エチレンプロピレンジエンゴムの非共役ジエンとしては、エチリデンノルボルネン(ENB)、1,4-ヘキサジエン(1,4-HD)、ジシクロペンタジエン(DCPD)などが挙げられる。
【0016】
エチレンプロピレンジエンゴムは、油展のエチレンプロピレンジエンゴムであってもよいし、非油展のエチレンプロピレンジエンゴムであってもよい。また、油展のエチレンプロピレンジエンゴムと非油展のエチレンプロピレンジエンゴムを両方含んでいてもよい。エチレンプロピレンジエンゴムとしては、ゴム練り加工時に十分なシェアが掛かりやすく、第1相に対する第2相の分散性が向上するなどの観点から、油展のエチレンプロピレンジエンゴムと非油展のエチレンプロピレンジエンゴムを両方含むことが好ましい。油展のエチレンプロピレンジエンゴムと非油展のエチレンプロピレンジエンゴムの割合としては、物性のバランスに優れるなどの観点から、質量比で、油展:非油展=5:1~2:1の範囲内が好ましい。
【0017】
油展のオイルとしては、エチレンプロピレンジエンゴムに配合されるオイルであれば特に限定されるものではないが、パラフィンオイル、ナフテン系オイルなどが好ましい。
【0018】
弾性体層14の表面の任意の2.5μm×2.5μm角の非常に狭い範囲内において第2相の面積割合が30%以上70%以下の範囲内であると、弾性体層14において第1相と第2相の両相が均一に分散(微分散)されているので、長期使用後において、部位によって摩擦係数に差が発生し難い。その結果、長期使用後の用紙の搬送不良(紙詰まり)を、より解消することができるため好ましい。
【0019】
そして、上記第2相の面積割合は、より好ましくは35%以上65%以下、さらに好ましくは40%以上60%以下である。第1相や第2相の面積割合は、走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いて表面分析することにより測定することができる。
【0020】
任意とは、どの場所においても、という意味である。第1相や第2相の面積割合は、任意の2.5μm×2.5μm角におけるものであるが、具体的には、図2に示すように、弾性体層の任意の断面を観察し、その断面における任意の40×40μmの範囲を64分割し、斜線が引いてある斜め方向に並ぶ16マスを選択し、各2.5μm×2.5μm角内における第1相や第2相の面積割合をそれぞれ計測し、選択した16マスのうちの14マス以上(8.5割以上)が該当する値である。
【0021】
第1相と第2相の両相が任意の2.5μm×2.5μm角において均一に分散(微分散)するには、例えば、第1相と第2相の両相の分散性を向上させる分散剤を用いる、第1相と第2相のポリマーの配合割合を調整する、所望の分散度まで十分に混練する、などの方法を用いることが考えられる。
【0022】
第1相のポリマーと第2相のポリマーの練り条件としては、回転数30rpm以上、練り時間5分以上であることが好ましい。より好ましくは、回転数40rpm以上、練り時間10分以上である。
【0023】
第1相のポリマーと第2相のポリマーの割合としては、質量比で、第1相:第2相=3:1~1:3の範囲内が好ましい。より好ましくは第1相:第2相=2.5:1~1:2.5の範囲内、さらに好ましくは第1相:第2相=2:1~1:2の範囲内である。
【0024】
グリセリンと脂肪酸とを反応させて得られるモノグリセリドのうち、脂肪酸の炭素数は、薄膜形成の観点から12以上、好ましくは17以上であり、ブリードアウトの観点から、好ましくは22以下、さらに好ましくは18以下である。また、脂肪酸としては、直鎖状脂肪酸が好適である。更に、飽和及び不飽和脂肪酸のいずれも使用できるが、結晶化を阻害して分子運動性を高め、ブリードアウトによる薄膜形成の効果が大きくなるという点から、不飽和脂肪酸が好ましい。
【0025】
グリセリンと脂肪酸とを反応させて得られるモノグリセリドとは、グリセリン1分子に脂肪酸1分子が、エステル結合したものである。グリセリン1分子に脂肪酸2分子がエステル結合したジグリセリドや、グリセリン1分子に脂肪酸3分子がエステル結合したトリグリセリドは、ブリードアウトし難いためである。
【0026】
脂肪酸としては、天然油脂由来のものと、合成系のものが挙げられる。天然系のものとしては、例えば、パーム油、牛脂、ナタネ油、米ぬか油、魚油などの天然油脂由来のものが挙げられ、合成系の脂肪酸としては、炭素数5~36の高級脂肪酸などが挙げられる。具体的には、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸及びこれらの分岐脂肪酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、ステアロル酸、リシノール酸、リシネライジン酸、アラキドン酸、パクセン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸等及びこれらの分岐脂肪酸などの不飽和脂肪酸などが挙げられる。なかでも、反発性、柔軟性及び流動性に優れているという点から、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、パクセン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸などの不飽和脂肪酸が好ましく、オレイン酸が特に好ましい。
【0027】
モノグリセリドの含有量は、第1相と第2相のポリマー100質量部に対し、0.5質量部以上5質量部以下である。モノグリセリドの含有量が0.5質量未満だと、長期使用後において、弾性体層14の表面に薄膜形成をすることができず、付着した紙粉を剥離することができないため、摩擦係数の低下を抑制することができないため、弾性体層の表面の部位によって摩擦係数に差が発生してしまい、長期使用後の用紙の搬送不良(紙詰まり)を解消することができない。モノグリセリドの含有量は、より好ましくは、1質量部以上である。さらに好ましくは、2質量部以上である。モノグリセリドの含有量が5質量部より多いと、モノグリセリドのブリードアウトによって、弾性体層の表面の摩擦係数が低下し、紙搬送性が悪化する。より好ましくは、5質量部以下である。さらに好ましくは、4質量部以下である。
【0028】
モノグリセリドは、第1相中に、第2相中よりも高い濃度で存在することが好ましい。
第1相は、第2相よりも耐紙粉付着性が低く、紙粉付着が発生し易いため、モノグリセリドを高い濃度で存在することで、弾性体層14の表面の硬度上昇を抑制して、効果的に紙粉付着発生を抑制できる。
【0029】
モノグリセリドが、第1相中に、第2相中よりも高い濃度で存在するためには、例えば、先に第1相のポリマーとグリセリンと脂肪酸とを反応させて得られるモノグリセリドを混合し、その後に第2相のポリマーと混合するなどの方法を用いることが考えられる。
【0030】
弾性体層14は、分散剤をさらに含んでいても良い。分散剤としては、エチレンプロピレンジエンゴムの一部構造とイソプレンゴムおよび天然ゴムのいずれかの一部構造とを有するポリマー、変性天然ゴム、変性イソプレンゴムなどが挙げられる。変性天然ゴムとしては、エポキシ化天然ゴム、塩素化天然ゴム、ニトリル化天然ゴム(アクリロニトリル化天然ゴム)などが挙げられる。変性イソプレンゴムとしては、エポキシ化イソプレンゴム、塩素化イソプレンゴム、ニトリル化イソプレンゴム(アクリロニトリル化イソプレンゴム)、マレイン酸変性イソプレンゴム、(メタ)アクリル酸変性イソプレンゴムなどが挙げられる。弾性体層14は、分散剤として、エチレンプロピレンジエンゴムの一部構造とイソプレンゴムおよび天然ゴムのいずれかの一部構造とを有するポリマーを含有するとよい。エチレンプロピレンジエンゴムの一部構造としては、エチレンプロピレン構造、ジエンに起因する構造などが挙げられる。エチレンプロピレンジエンゴムの一部構造としては、エチレンプロピレン構造が特に好ましい。イソプレンゴム、天然ゴムの一部構造としては、イソプレン構造が挙げられる。分散剤は、架橋により固定されやすいなどの観点から、2重結合を有するものが好ましい。
【0031】
分散剤の含有量としては、第1相や第2相の分散効果に優れるなどの観点から、第1相と第2相のポリマー100質量部に対し、1.0質量部以上であることが好ましい。より好ましくは1.5質量部以上、さらに好ましくは2.0質量部以上である。また、第1相や第2相の物性を維持しやすいなどの観点から、第1相と第2相のポリマー100質量部に対し、10質量部以下であることが好ましい。より好ましくは7.0質量部以下、さらに好ましくは5.0質量部以下である。
【0032】
弾性体層14は、さらに、炭化水素系のオイルを含有することが好ましい。これにより、第1相と第2相の分散効果が得られやすい。炭化水素系のオイルとしては、パラフィンオイルなどが挙げられる。炭化水素系のオイルの含有量としては、第1相と第2相の分散性向上の観点から、第1相と第2相のポリマー100質量部に対し、10質量部以上が好ましい。より好ましくは15質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上である。また、炭化水素系オイルのブリードアウト抑制の観点から、第1相と第2相のポリマー100質量部に対し、50質量部以下が好ましい。より好ましくは45質量部以下、さらに好ましくは40質量部以下である。
【0033】
弾性体層14は、紙送り機能を確保するなどの観点から、表面の摩擦係数が0.12~22の範囲内に構成されていることが好ましい。より好ましくは1.0~2.5の範囲内である。弾性体層14の表面とは、弾性体層14の外周面である。弾性体層14の表面の摩擦係数は、市販の摩擦係数計を用いて測定することができる。弾性体層14の表面の摩擦係数は、弾性体層14の材料構成により調整することができる。
【0034】
弾性体層14は、表面のJIS-A硬度が20~80度の範囲内に構成されていることが好ましい。より好ましくは30~70度の範囲内である。弾性体層14の表面とは、弾性体層12bの外周面である。弾性体層14の表面硬度は、弾性体層14の材料構成、弾性体層14の厚みなどにより調整することができる。弾性体層14の表面のJIS-A硬度が20度以上であると、紙粉付着が抑えられやすい。弾性体層14の表面のJIS-A硬度が80度以下であると、用紙へのダメージ(用紙の削れなど)が抑えられやすく、画質の悪化が抑えられやすい。
【0035】
弾性体層14の表面には、シボ加工などの表面凹凸が施されていてもよい。弾性体層14の表面凹凸は、研磨、型転写などの方法により形成することができる。
【0036】
弾性体層14の厚さは、特に限定されるものではないが、1~10mmなどであればよい。
【0037】
弾性体層14は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、軸体12をロール成形金型の中空部に同軸的に設置し、未架橋のゴム組成物を注入して、加熱・硬化(架橋)させた後、脱型するか、あるいは、軸体12の表面に未架橋のゴム組成物を押出成形するなどにより、軸体12の外周に弾性体層14を形成する。
【0038】
弾性体層14を形成する未架橋のゴム組成物は、必要に応じて、架橋剤、導電剤、発泡剤、界面活性剤、難燃剤、着色剤、充填剤、安定剤、離型剤などを適宜含有していてもよい。
【0039】
架橋剤としては、硫黄架橋剤、過酸化物架橋剤を挙げることができる。これらの架橋剤は、単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0040】
硫黄架橋剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄、塩化硫黄、チウラム系加硫促進剤、高分子多硫化物などの従来より公知の硫黄架橋剤を挙げることができる。
【0041】
過酸化物架橋剤としては、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ケトンパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、ジアシルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイドなどの従来より公知の過酸化物架橋剤を挙げることができる。
【0042】
架橋剤の配合量としては、ブリードしにくいなどの観点から、未架橋ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1~2質量部の範囲内、より好ましくは0.3~1.8質量部の範囲内、さらに好ましくは0.5~1.5質量部の範囲内である。
【0043】
以上の構成の紙送りロール10によれば、弾性体層14が、エチレンプロピレンジエンゴムを含む第1相と、イソプレンゴムおよび天然ゴムのいずれか1種以上を含む第2相と、グリセリンと脂肪酸とを反応させて得られるモノグリセリドと、を有し、モノグリセリドは、前記第1相と前記第2相のポリマー100質量部に対し、0.5質量部以上5質量部以下であることで、長期使用後において、弾性体層の表面の紙粉付着を抑制できるため、弾性体層の表面の部位によって紙粉付着量が異ならず、また、弾性体層の表面に紙粉が付着しても剥離するため摩擦係数が変化し難いため、前記弾性体層の表面の部位によって摩擦係数に差が発生しない。その結果、長期使用後の用紙の搬送不良(紙詰まり)を解消することができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【実施例0045】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0046】
(実施例1)
<ゴム組成物の調製>
油展EPDM60質量部と、非油展EPDM20質量部と、パラフィンオイル30質量部と、分散剤3質量部と、酸化亜鉛5質量部と、カーボンブラック0.25質量部と、グリセリンと脂肪酸とを反応させて得られるモノグリセリド5質量部と、過酸化物架橋剤3質量部と、をニーダーで混練した後に、IR50質量部と、をニーダーで根練することにより、ゴム組成物を調製した。
【0047】
<弾性体層の作製>
成形金型に芯金(直径8mm)をセットし、上記ゴム組成物を注入し、160℃で40分加熱した後、冷却、脱型して、芯金の外周に、厚さ6mmのゴム弾性体からなる弾性体層を形成した。
【0048】
(実施例2)
油展EPDM60質量部と、非油展EPDM20質量部と、IR50質量部と、パラフィンオイル30質量部と、分散剤3質量部と、酸化亜鉛5質量部と、カーボンブラック0.25質量部と、グリセリンと脂肪酸とを反応させて得られるモノグリセリド5質量部と、過酸化物架橋剤3質量部と、をニーダーで混練することにより、ゴム組成物を調製した。
【0049】
(実施例3~9)
表1に示す配合組成(質量部)にて、実施例2と同様にゴム組成物を調製し、弾性体層を形成した。
【0050】
(比較例1~5)
表1に示す配合組成(質量部)にて、実施例1と同様にゴム組成物を調製し、弾性体層を形成した。
【0051】
用いた材料は以下の通りである。
・油展EPDM:住友化学製「エスプレン600F」
・非油展EPDM:住友化学製「エスプレン512F」
・IR:日本ゼオン製「ニポール IR2200」
・パラフィンオイル:出光興産製「ダイアナプロセスPS-430」
・ナフテンオイル:出光興産製「ダイアナプロセスNS-100」
・分散剤:EVONIK製「AEROSILR805」(水添イソプレン)
・酸化亜鉛:試薬
・カーボンブラック:キャボット製「ショウブラックMAF-G」
・モノグリセリド(i):理研ビタミン製「ポエムM-200」(グリセリンモノカプレート)炭素数8の直鎖飽和脂肪酸
・モノグリセリド(ii):理研ビタミン製「ポエムM-300」(グリセリンモノラウレート)炭素数12の直鎖飽和脂肪酸
・モノグリセリド(iii):理研ビタミン製「リケマールS-100」(グリセリンモノステアレート)炭素数18の直鎖飽和脂肪酸
・モノグリセリド(iv):理研ビタミン製「リケマールXO-100」(グリセリンモノオレエート)炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸
・モノグリセリド(v):理研ビタミン製「リケマールB-100」(グリセリンモノベヘネート)炭素数22の直鎖飽和脂肪酸
・ソルビタンオレート:理研ビタミン製「リケマールOV-250」(ソルビタンオレート)
・過酸化物架橋剤:日油製「パークミルD」
【0052】
作製した紙送りロールについて、弾性体層の面積割合を測定した。また、弾性体層の初期の摩擦係数を測定した。また、実機評価を行った。
【0053】
(面積割合)
走査型プローブ顕微鏡(島津製作所製「SPM-9700」)を用いて測定した。図2に示すように、弾性体層の任意の表面を観察し、その表面における任意の20×20μmの範囲を64分割し、斜線が引いてある斜め方向に並ぶ16マスを選択し、各2.5μm×2.5μm角内における第1相と第2相の面積割合をそれぞれ計測し、16マスのうち14マス以上(8.5割以上)が該当する値とした。
・測定個所:弾性体層の左端部、中央部、右端部のそれぞれ周方向4か所(合計12か所)
・カンチレバー:SI-DF40
・走査範囲:5.0000μm
・走査速度:1.00Hz
【0054】
(摩擦係数)
紙送りロールとポリテトラフルオロエチレン製板との間に、ロードセルに接続した60mm×210mmサイズの紙(富士ゼロックス社のP紙)をはさみ、紙送りロールの回転軸に鉛直荷重W(W=250gf)を加え、紙送りロールをポリテトラフルオロエチレン製板に圧接させた。次いで、温度23℃、湿度55%の条件下で、紙送りロールを周速300mm/秒で回転させた。通紙の前後において、発生した紙24の搬送力F(gf)をロードセルで測定し、F(gf)及び荷重W(W=250gf)とから、下記の数式1より摩擦係数μを求めた。初期摩擦係数は1.5以上を「〇〇」、1.0以上1.5未満を「〇」、1.0未満を「×」とした。
(数式1)
μ=F(gf)/W(gf)
【0055】
(実機評価)
紙送りロールをFRR方式の給紙システムを持った市販の複写機に組み込み、紙送り性の評価を行った。用紙には市販のPPC用紙を用い、30万枚(300K枚)通紙を行い、紙詰まりの発生回数を測定した。紙詰まりの発生回数が1回以下のものを「○○〇」、紙詰まりの発生回数が2回以上5回以下のものを「○〇」、紙詰まりの発生回数が6回以上10回以下のものを「〇」、紙詰まりの発生回数が11回のものを「×」とした。また、紙詰まりが11回発生した場合には、耐久性の評価を中止した。
【0056】
(偏在確認)
走査型プローブ顕微鏡(島津製作所製「SPM-9700」)を用いて測定した。図2に示すように、弾性体層の任意の表面を観察し、硬度測定を行うことによって、モノグリセリドの偏在を確認した。第1相中のモノグリセリドの存在割合と、第2相中のモノグリセリドの存在割合は、モノグリセリドを含有していない場合の硬度との差によって判断することができる。硬度の変化に差がない場合は、偏在は無しに該当し、硬度の変化に差がある場合には、偏在は有りに該当する。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
比較例1、2は、モノグリセリドを有していないため、第1相の紙粉付着が発生し易く、また、紙粉付着によって、摩擦係数の低下を抑制できないため、長期使用後の実機評価において劣っている。比較例3は、弾性体層のポリマーがEPDMのみで構成されている。このため、弾性体層の表面の初期摩擦係数は低く、また、弾性体層の表層の紙粉付着が発生し易いため、長期使用後の実機評価において劣っている。比較例4は、モノグリセリドが0.1質量部未満であるため、第1相の紙粉付着が発生し易く、また、紙粉付着によって、摩擦係数の低下を抑制できないため、長期使用後の実機評価において劣っている。比較例5は、モノグリセリドが5質量部より多いので、モノグリセリドのブリードアウトによって、弾性体層の表面の初期摩擦係数が低下し、紙搬送性が悪化する。
【0060】
これに対し、実施例は、弾性体層のポリマーがEPDMとIRで構成されており、また、グリセリンと脂肪酸とを反応させて得られるモノグリセリドを有しており、実機評価では、30万枚の長期の使用時にも、用紙をまっすぐに搬送できないことはほとんどなく、搬送不良(紙詰まり)はほとんど発生しなかった。特に、モノグリセリドが、グリセリンと炭素数12~22の不飽和脂肪酸である場合、モノグリセリドが第1相に偏在している場合、第2相の面積割合が30~70%に狭い範囲におさまっている場合に、実機評価でも搬送不良(紙詰まり)を抑える効果により優れていた。
【0061】
以上、本発明の実施形態・実施例について説明したが、本発明は上記実施形態・実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 紙送りロール
12 軸体
14 弾性体層
図1
図2