(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108660
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】生体分子修飾シリコン及びその製造方法、並びにそれを用いた抗原測定用の固相化された抗体及び検査キット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/551 20060101AFI20230731BHJP
G01N 33/532 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
G01N33/551
G01N33/532 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009815
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(71)【出願人】
【識別番号】501083643
【氏名又は名称】学校法人慈恵大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慶介
(72)【発明者】
【氏名】ミャッ エンダラ スュエ
(72)【発明者】
【氏名】馬目 佳信
(57)【要約】
【課題】従来のマイクロウェルプレートに比較して抗体や抗原が多く固定された、抗原や抗体の定量のための固相担体が提供すること。
【解決手段】シリコン表面に生体分子が化学結合した生体分子修飾シリコンであって、前記シリコンが、(a)多突起及び/若しくは多孔シリコン粒子又は(b)表面テクスチャ構造を備えたシリコン基板であることを特徴とする生体分子修飾シリコンを用いる。多突起及び/若しくは多孔シリコン粒子、又は表面テクスチャ構造を備えたシリコン基板は大きな表面積を有するので、従来のマイクロウェルプレートよりも多くの抗体や抗原を担持できるので、こうした生体分子修飾シリコンを用いることで例えばELISA法における定量範囲が拡大される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン表面に生体分子が化学結合した生体分子修飾シリコンであって、前記シリコンが、(a)多突起及び/若しくは多孔シリコン粒子又は(b)表面テクスチャ構造を備えたシリコン基板であることを特徴とする生体分子修飾シリコン。
【請求項2】
前記生体分子が、下記一般式(1)で表す2価の基を介して前記シリコン表面に結合することを特徴とする請求項1記載の生体分子修飾シリコン。
【化1】
(上記一般式(1)中、Lは、2価の結合基である。)
【請求項3】
前記生体分子が、下記一般式(1a)で表す2価の基を介して前記シリコン表面に結合することを特徴とする請求項1又は2記載の生体分子修飾シリコン。
【化2】
(上記一般式(1a)中、L
1及びL
2は、それぞれ独立に2価の結合基である。)
【請求項4】
前記生体分子が、抗体分子である請求項1~3のいずれか1項記載の生体分子修飾シリコン。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載の生体分子修飾シリコンからなる、酵素結合免疫吸着検査(ELISA)法による抗原測定用の固相化された抗体。
【請求項6】
請求項5記載の固相化された抗体を含むことを特徴とする抗原検出用の検査キット。
【請求項7】
(a)多突起及び/若しくは多孔シリコン粒子又は(b)表面テクスチャ構造を備えたシリコン基板の表面に水酸基を導入する親水化工程と、
当該工程により表面に水酸基の導入されたシリコンに、アミノ基又はカルボキシ基を備えたアルコキシシラン化合物を作用させる結合基導入工程と、
前記結合基導入工程を経たシリコンに対して、生体分子の存在下、アミノ基とアミノ基又はカルボキシ基とを架橋させるための化合物を作用させることで、前記シリコンの表面に前記生体分子を化学結合させる結合工程と、を備えることを特徴とする生体分子修飾シリコンの製造方法。
【請求項8】
前記親水化工程が、前記シリコンにピラニア溶液又はオゾンを接触させる処理であることを特徴とする請求項7記載の生体分子修飾シリコンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子修飾シリコン及びその製造方法、並びにそれを用いた抗原測定用の固相化された抗体及び検査キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
病原である抗原と病原に対抗する抗体との結合反応により、病気を簡便かつ効率良く診断できる手法が広く用いられている。この手法では、例えば、体内から採取した病原性のある細胞やウイルスを含む体液等を検体とし、これを抗体が固定された物質に添加することで、抗原抗体反応を利用して検体に含まれる抗原の有無を診断する。また、これとは逆に、例えば血液中において特定の抗原に反応する抗体の有無やその量を調べることで、特定の病気についての既往歴や免疫の有無を診断するためにこの手法を用いることがある。抗原や抗体を定量する方法として、ELISA(Enzayme-Linked Immuno Sorbent Assay;酵素結合免疫吸着検査)法、二重免疫拡散法、ラテックス凝集法等が利用されている。
【0003】
上記のうち、ELISA法では、抗体や抗原を固相化したマイクロウェルプレートが使用され、これに検体を添加することで抗原抗体反応させてから、酵素標識された抗体を添加して検体に含まれる抗体や抗原を定量する。その手法が簡便であり、また様々な病原体に対応できることからELISA法は広く用いられる。しかし、マイクロウェルプレートでは、抗体や抗原といったタンパク質の吸着量や表面積の制限があるため、検体中の抗原や抗体の濃度があまりに高いと反応が飽和してしまい、広範囲の濃度に対する抗原抗体反応には対応が難しいという課題もある。
【0004】
一方で、シリコン(珪素)材料に関しては、半導体分野において長年にわたって蓄積されてきた微細加工技術を応用して、微細構造を有する様々な構造体の調製に用いられている。このような微細加工技術を応用した構造体の一例として、例えば特許文献1には、単結晶シリコン基板に対して、特定のテーパー角と深さを備えた微細な溝を研削加工により形成し、これをエッチングすることで鋭利な先端部を有する針状構造の規則配列体を得ることが提案されている。また、特許文献2には、シリコン基板上にナノ秒レーザを照射することにより、針状結晶突起や樹枝状結晶突起からなるナノレベルの微細構造を形成することが提案され、この微細構造を備えたシリコン材料が機械部品や電子部品用途に有用であるとされている。さらには、本発明者らにより、金属支援化学エッチング法を応用してシリコン粒子の表面に微細な孔や突起を形成させる方法が提案されている(特許文献3及び4を参照)。
【0005】
そして、このような状況のもと、特許文献5では、シリコンナノ粒子の表面に抗体等の生体物質標識剤を結合させ、これを生体試料に対する標識として用いることが提案されている。シリコンナノ粒子はそれ自体が蛍光を有するので、これによれば、生体試料の結合の有無を蛍光の変化により識別できるとされている。しかし、特許文献5では、凹凸を備えたシリコンナノ粒子の表面に生体物質標識剤を結合させることへの言及はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-114345号公報
【特許文献2】特開2006-231376号公報
【特許文献3】特開2020-059631号公報
【特許文献4】特開2020-059632号公報
【特許文献5】国際公開第2007/125812号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、従来のマイクロウェルプレートに比較して抗体や抗原が多く固定された、抗原や抗体の定量のための固相担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、(a)多突起及び/若しくは多孔シリコン粒子又は(b)表面テクスチャ構造を備えたシリコン基板が非常に大きな表面積を有することに着目し、その表面に抗体や抗原等の生体分子を化学結合により固定させることにより上記の課題を解決できることを見出した。本発明は、こうした知見によりなされたものであり、以下のようなものを提供する。
【0009】
(1)本発明は、シリコン表面に生体分子が化学結合した生体分子修飾シリコンであって、前記シリコンが、(a)多突起及び/若しくは多孔シリコン粒子又は(b)表面テクスチャ構造を備えたシリコン基板であることを特徴とする生体分子修飾シリコンである。
【0010】
(2)また本発明は、上記生体分子が、下記一般式(1)で表す2価の基を介して上記シリコン表面に結合することを特徴とする(1)項記載の生体分子修飾シリコンである。
【化1】
(上記一般式(1)中、Lは、2価の結合基である。)
【0011】
(3)また本発明は、上記生体分子が、下記一般式(1a)で表す2価の基を介して上記シリコン表面に結合することを特徴とする(1)項又は(2)項記載の生体分子修飾シリコンである。
【化2】
(上記一般式(1a)中、L
1及びL
2は、それぞれ独立に2価の結合基である。)
【0012】
(4)また本発明は、上記生体分子が、抗体分子である請求項1~3のいずれか1項記載の生体分子修飾シリコンである。
【0013】
(5)本発明は、(1)項~(4)項のいずれか1項記載の生体分子修飾シリコンからなる、酵素結合免疫吸着検査(ELISA)法による抗原測定用の固相化された抗体でもある。
【0014】
(6)本発明は、(5)項記載の固相化された抗体を含むことを特徴とする抗原検出用の検査キットでもある。
【0015】
(7)本発明は、(a)多突起及び/若しくは多孔シリコン粒子又は(b)表面テクスチャ構造を備えたシリコン基板の表面に水酸基を導入する親水化工程と、当該工程により表面に水酸基の導入されたシリコンに、アミノ基又はカルボキシ基を備えたアルコキシシラン化合物を作用させる結合基導入工程と、上記結合基導入工程を経たシリコンに対して、生体分子の存在下、アミノ基とアミノ基又はカルボキシ基とを架橋させるための化合物を作用させることで、上記シリコンの表面に上記生体分子を化学結合させる結合工程と、を備えることを特徴とする生体分子修飾シリコンの製造方法でもある。
【0016】
(8)また本発明は、上記親水化工程が、上記シリコンにピラニア溶液又はオゾンを接触させる処理であることを特徴とする(7)項記載の生体分子修飾シリコンの製造方法でもある。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来のマイクロウェルプレートに比較して抗体や抗原が多く固定された、抗原や抗体の定量のための固相担体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の生体分子修飾シリコンの一実施形態、抗原測定用の固相化された抗体の一実施形態、抗原検出用の検査キットの一実施形態、及び生体分子修飾シリコンの製造方法の一実施態様についてそれぞれ説明する。なお、本発明は、以下の実施形態や実施態様に何ら限定されるものでなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
<生体分子修飾シリコン>
まずは、本発明の生体分子修飾シリコンの一実施形態について説明する。本発明の生体分子修飾シリコンは、シリコン表面に生体分子が化学結合した生体分子修飾シリコンであって、上記シリコンが、(a)多突起及び/若しくは多孔シリコン粒子又は(b)表面テクスチャ構造を備えたシリコン基板であることを特徴とする。
【0020】
既に述べたように、血液等の検体に含まれる抗原や抗体の濃度を調べるために、これらの抗原や抗体に反応する生体分子の固定されたマイクロウェルプレートを用いて、ELISA法により定量を行うことがある。ELISA法では、これら定量対象の濃度が蛍光や吸光度の変化として観察できるので、精度の高い測定が可能である。その一方で、検体中に含まれる定量対象の濃度があまりに高い場合には、マイクロウェルプレートに固定された抗原や抗体が全て反応してもなお、検体中に未反応の定量対象が残ることがあり、反応の飽和による定量限界を迎えることになる。ELISA法におけるこのような制限は、マイクロウェルプレートにおいて、抗原や抗体に反応する生体分子を固定することのできる面積に限りがあることによりもたらされるものである。
【0021】
本発明では、このような制限を解消するために、抗原や抗体に反応する生体分子を固定するための担体として、従来のマイクロウェルプレートではなく、多突起及び/若しくは多孔シリコン粒子、又は表面テクスチャ構造を備えたシリコン基板を用いる。多突起及び/若しくは多孔シリコン粒子や表面テクスチャ構造を備えたシリコン基板は、大きな表面積を有し、かつ、それらを調製する方法は既に確立されている。本発明は、このような点に着目してなされたものであり、抗原や抗体に反応する生体分子を固定するための担体として、こうしたシリコン粒子やシリコン基板を用いる点がポイントとなる。
【0022】
本発明で用いるシリコン粒子は、表面に多突起及び/又は多孔を備える。多突起とは、
粒子の表面に突起となる構造が二以上存在することを意味し、多孔とは、粒子の表面に孔となる構造が二以上存在することを意味する。なお、「表面に多突起及び/又は多孔を備える」とは、粒子の表面に多突起構造のみを備えてもよいし、多孔構造のみを備えてもよいし、多突起構造と多孔構造の両方を備えてもよいという意味である。これらの構造を備えたシリコン粒子は、表面積が大きく、抗原や抗体に反応する生体分子を固定するための担体として好ましく用いられる。
【0023】
本発明で用いるシリコン基板は、表面テクスチャ構造を備える。表面テクスチャ構造とは、表面が平坦でなく何らかの構造が表面に形成された状態を意味する。このようなシリコン基板もまた、表面積が大きく、抗原や抗体に反応する生体分子を固定するための担体として好ましく用いられる。このような構造としては、連続したピラミッド構造や、連続した突起構造や、連続した孔構造や、連続したピラミッド構造と孔構造の両方を備えた構造等を挙げることができる。
【0024】
生体分子とは、生体に含まれる分子の総称であるが、本発明においては、ペプチド、糖鎖、ポリヌクレオチド、あるいはこれらの組み合わせ等のように比較的高分子量のものを好ましく含む。これらには、例えば抗体-抗原、相補的な塩基対等のように、ある化合物A(生体分子であるか否かを問わない。)に対して特異性をもって結合する性質を示すものがあり、そのような物質を本発明における生体分子として使用することで、本発明の生体分子修飾シリコンは、上記化合物Aに対する検出剤として有用性を持つことになる。このような生体分子の一例として、抗体分子、抗原分子等を好ましく挙げることができる。これらの中でも、抗体分子がより好ましく挙げられる。
【0025】
本発明の生体分子修飾シリコンは、上記のようにシリコン表面に生体分子が化学結合したものだが、より具体的には、上記生体分子が下記一般式(1)で表す2価の基を介してシリコン表面に結合したものを好ましく例示することができる。
【0026】
【0027】
上記一般式(1)中、Lは、2価の結合基である。上記一般式(1)において、酸素原子がシリコン表面に結合し、Lが生体分子に結合するリンカー(結合基)となる。シリコン表面を化学処理により親水化するとその表面には水酸基が多量に形成されるが、その水酸基が、生体分子を備えたリンカーであるLと結合を形成することで、シリコン表面に生体分子が固定されることになる。シリコン自体は固相なので、このように生体分子が表面に固定されたシリコンは、当該生体分子の固相担体となる。
【0028】
上記一般式(1)で表す2価の基として、下記一般式(1a)で表すものを好ましく挙げることができる。
【0029】
【0030】
上記一般式(1a)中、L1及びL2はそれぞれ独立に2価の基である。
【0031】
シリコン表面に形成された水酸基に対して、上記一般式(1)で表すようにリンカーLを介して生体分子を導入する場合の合成方法の一例として、まず、アミノアルキレン基を備えたシランカップリング剤をその水酸基と反応させてアルキルアミノ基を導入し、このアミノ基と生体分子に含まれるアミノ基とを架橋させる試薬(すなわち架橋剤)を使って、上記アミノ基の先に[-架橋剤-生体分子]からなる基を導入する方法が考えられる。このような手順でシリコン表面に生体分子を導入する場合、L1は、アミノアルキレン基を備えたシランカップリング剤の残基となり、L2は、架橋剤の残基となる。
【0032】
このようなシランカップリング剤や架橋剤は市販されている。例えば、シランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0033】
また、架橋剤としては、アミノ基と反応して化学結合を形成することのできるN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステル構造(NHSエステル)やイソチオシアノ基を結合基として2つ備えた化合物が市販されている。このような化合物は、結合基間の長さの異なるもの等が複数市販されており、一例として、株式会社同仁化学研究所製のBS3等を挙げることができる。
【0034】
生体分子修飾シリコンが粒子形状をとる場合、その粒子径としては50nm~300nm程度を挙げることができ、約100nm程度をより好ましく挙げることができる。
【0035】
<抗原測定用の固相化された抗体>
次に、本発明の抗原測定用の固相化された抗体の一実施形態について説明する。本発明の抗原測定用の固相化された抗体は、上記本発明の生体分子修飾シリコンからなるものであり、測定対象となる抗原に結合可能な抗体が生体分子としてシリコン表面に結合して固相化されたものである。このような生体分子修飾シリコンについては既に説明した通りなので、ここでの説明を省略する。
【0036】
本発明の抗原測定用の固相化された抗体は、例えば、ELISA法による抗原濃度の測定に好ましく用いることができる。
【0037】
<抗原検出用の検査キット>
次に、本発明の抗原検出用の検査キットについて説明する。本発明の検査キットは、上記本発明の抗原測定用の固相化された抗体を含むことを特徴とし、ELISA法により抗原の濃度を測定する際に用いられるものである。
【0038】
本発明の検査キットは、上記本発明の抗原測定用の固相化された抗体に加え、ELISA法による抗原濃度測定のために必要となる各種の試薬や用具を含むことができる。本発明の検査キットの適用例としては、悪性腫瘍のマーカー抗体を用いて、悪性腫瘍が疑われる患者の血液中からの抗原測定によるスクリーニングや非対象がんとの鑑別診断、腫瘍摘出手術の後の摘出率や再発を調べる腫瘍マーカーの測定用の試薬や従来のマイクロプレートによる測定では検出限界以下となってしまう微量抗原の測定用具等が挙げられる。さらに、本発明の検査キットの適用例として、抗体を固相化する対象が他の物質との反応性が比較的少ないシリコン粒子なので患者検体の病理組織上での抗原の検出キットや体内での安全性から腸管内や腹腔内の抗原の定量用具等も挙げることができる。
【0039】
<その他>
本発明の生体分子修飾シリコンは、生理活性物質を含むものなので、例えば、培養により特定の細胞を増やしたり活性化させたりするような用途にも用いることが可能である。
【0040】
<生体分子修飾シリコンの製造方法>
上記生体分子修飾シリコンの製造方法も本発明の一つである。次に、本発明の生体分子修飾シリコンの製造方法の一実施態様について説明する。本発明の生体分子修飾シリコンの製造方法は、(a)多突起及び/若しくは多孔シリコン粒子又は(b)表面テクスチャ構造を備えたシリコン基板の表面に水酸基を導入する親水化工程と、当該工程により表面に水酸基の導入されたシリコンに、アミノ基又はカルボキシ基を備えたアルコキシシラン化合物を作用させる結合基導入工程と、上記結合基導入工程を経たシリコンに対して、生体分子の存在下、アミノ基とアミノ基又はカルボキシ基とを架橋させるための化合物を作用させることで、上記シリコンの表面に上記生体分子を化学結合させる結合工程と、を備える。
【0041】
本発明で用いる多突起及び/又は多孔シリコン粒子や表面テクスチャ構造を備えたシリコン基板については、上記本発明の生体分子修飾シリコンにて既に説明した通りである。これらのシリコンを調製する方法としては、公知のものを特に制限無く挙げることができるが、このようなシリコンのうち、多突起及び/又は多孔シリコン粒子の調製方法の一例を下記に説明する。
【0042】
この調製方法では、金属支援化学エッチング法と呼ばれる手法を用いる。これは、エッチング液中に遷移金属イオンとフッ化水素酸とを共存させてシリコン微粒子をエッチングすることで、次のような過程を経て表面孔や微細突起のような構造をシリコン微粒子表面に形成させる。
【0043】
まず、遷移金属イオン及びフッ化水素酸を含む溶液中にシリコン微粒子を浸漬させると、フッ化水素酸がシリコン微粒子の表面を覆う酸化膜(SiO2)を溶解し、これを除去する。それにより、シリコン微粒子の表面にはシリコン(Si)が露出し、このシリコンが溶液中の遷移金属イオンと接触する。すると、シリコンに含まれる電子が遷移金属イオンへ受け渡され、遷移金属イオンはその場で遷移金属の粒子核となってシリコン表面に付着する一方で、遷移金属の粒子核とシリコンとの接触部では、シリコンが電子を失って局所酸化されることになる。局所酸化されたシリコンは、溶液中に含まれるフッ化水素酸により除去され、その後、その箇所にてさらに遷移金属イオンによる酸化を受けて、遷移金属の粒子核が成長する。この反応が繰り返されることにより、シリコン表面にて遷移金属粒子がシリコン表面を掘り進むかのようにシリコン微粒子の内部へ挿入されて行き、その箇所に孔が形成される。そして、このような孔の形成がシリコン表面にて疎らに生じれば、複数の表面孔の形成されたシリコン微粒子となるし、密に生じれば、孔と孔の間に残されたシリコンが突起状となって残り、表面に複数の微細突起の形成されたシリコン微粒子となる。こうした孔の形成密度は、エッチング液中の遷移金属イオン濃度に依存するため、エッチング液に含まれる遷移金属イオンの濃度を調節することで、表面孔を有するシリコン微粒子と微細突起を有するシリコン微粒子とを作り分けることができることになる。なお、両者の中間的な条件でエッチングを行うと、表面孔と微細突起の両方を備えたシリコン微粒子を形成させることも可能である。
【0044】
本調製方法では、シリコン粉末を原料とし、シリコン粉末に含まれるシリコン微粒子を解砕する解砕小工程と、フッ化水素酸及び遷移金属イオンを含む溶液にシリコン微粒子を浸漬することで、上記シリコン微粒子の表面に遷移金属粒子を析出させるとともに、当該析出に伴って、上記遷移金属粒子との接触部が酸化された上記シリコン微粒子の表面をフッ化水素酸でエッチングする第一エッチング小工程と、上記第一エッチング工程を経た混合液に酸化剤を添加してこれらを混合しながら反応させる第二エッチング小工程と、第二エッチング工程を経たシリコン微粒子から、遷移金属粒子を除去する除去小工程と、を備える。これらのうち、解砕小工程及び除去小工程は任意工程となる。以下、各小工程について説明する。
【0045】
[解砕小工程]
まずは解砕小工程について説明する。この工程は、原料となるシリコン粉末を水中へ分散させ、この混合液に適切な外力を作用させて混合液中のシリコン粉末を解砕させる。このような外力を供給する装置としては、一般的な撹拌装置の他、市販の超音波ホモジナイザーを好ましく挙げることができる。
【0046】
超音波ホモジナイザーによる処理を行う場合、シリコン粉末を水に分散させて適当な容器に収容し、市販の超音波ホモジナイザー装置の破砕ホーンを分散液に接触させて解砕を行えばよい。このときのシリコン微粒子と水との混合割合としては、シリコン微粒子300mgあたり水44mL程度を挙げることができ、超音波ホモジナイザーによる解砕条件としては、発振周波数20kHz、出力400W、最大振幅30%、発振時間(ON/OFF)10秒/5秒、処理時間5分程度を挙げることができるが、これらの条件は適宜設定すればよい。
【0047】
なお、原料となるシリコン微粒子としては、結合させる抗体の大きさよりも約5倍程度の粒径を備えた粉末状のものが好ましく挙げられ、このような一例として50nm~300nm程度の粒径を備えたものが好ましく挙げられ、約100nm程度の粒径を備えたものがより好ましく挙げられる。シリコン微粒子としては、シリコンの粉末であればどのようなものでも好ましく用いられ、半導体素子の生産過程で生じるシリコンウエハの切削粉や、珪石を還元して得られたシリコンを粉砕したものであってもよい。特に好ましくは、プラズマを用いてシラン化合物を気相にて還元したものや切削粉等の廃シリコンが挙げられ、これらのものは市販品を入手して用いてもよい。なお、シリコン微粒子は、アンドープシリコンでもドープシリコンでもよいが、アンドープシリコンであることが好ましい。また、上記分散液においては、水に代えて又は水とともに、アルコール等の親水溶媒を用いてもよい。また、シリコン粉末としては、既に説明したように、市販のものを用いることができる。
【0048】
こうした解砕小工程を経ることにより、混合液に分散されたシリコン粉末がシリコン微粒子へと解砕される。シリコン微粒子を含む混合液は、第一エッチング小工程に付される。
【0049】
[第一エッチング小工程]
第一エッチング小工程は、フッ化水素酸及び遷移金属イオンを含む溶液にシリコン微粒子を浸漬することで、上記シリコン微粒子の表面に遷移金属粒子を析出させるとともに、当該析出に伴って、上記遷移金属粒子との接触部が酸化された上記シリコン微粒子の表面をフッ化水素酸でエッチングする工程である。
【0050】
本調製方法では、上記解砕小工程を経た混合液にフッ化水素酸及び遷移金属イオンを添加することで、上記「フッ化水素酸及び遷移金属イオンを含む溶液にシリコン微粒子を浸漬」した状態となる。上記解砕小工程を行わない場合には、適切な量の水にシリコン微粒子を加えて混合液とし、この混合液へフッ化水素酸及び遷移金属イオンを添加すればよい。この場合の水の量としては、既に説明したように、シリコン微粒子300mgあたり水44mL程度を挙げることができる。なお、フッ化水素酸及び遷移金属イオンの添加順序は、いずれが先でもよく、特に限定されない。
【0051】
上記遷移金属としては、銅、銀、金、鉄等が挙げられ、これらの中でも銀が好ましく挙げられる。これらの遷移金属は、遷移金属塩の状態で混合液中へ添加され、遷移金属イオンとなる。このような遷移金属塩としては、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等が挙げられ、これらの中でも硝酸塩が好ましく挙げられる。
【0052】
溶液中における遷移金属イオンの濃度は、0.7mmol/L~40mmol/Lを好ましく挙げられる。既に述べたように、溶液中における遷移金属イオンの濃度が、シリコン微粒子表面に形成される形状が表面孔となるか微細突起となるか、あるいはそれら両方を備えたものになるのかを決める要素となる。概ね、遷移金属イオンの濃度が10mmol/L付近を境として、これよりも低濃度だと表面孔が形成され、これよりも高濃度だと微細突起が形成される。そして、境となる10mmol/L付近では、これらを両方備えたハイブリッド型となる。なお、遷移金属イオンの濃度が30mmol/L程度の高濃度側であっても、後述する第二エッチング小工程での反応時間を短くすることでハイブリッド型とすることができる。このように、第一エッチング小工程での遷移金属イオンの濃度と第二エッチング小工程での反応時間に応じて、シリコン微粒子の表面状態を表面孔(エッチングの程度が低い)→ハイブリッド(エッチングの程度が中間)→微細突起(エッチングの程度が高い)と変化させることができる。溶液中における遷移金属イオンの濃度が上記の範囲であることにより、シリコン微粒子表面への表面孔又は微細突起が良好に形成されつつ、シリコン微粒子の溶解が抑制される。溶液中における遷移金属イオンの濃度としては、1mmol/L~30mmol/Lをより好ましく挙げることができる。
【0053】
溶液中に添加されるフッ化水素酸は、市販のフッ化水素酸溶液である46質量%フッ化水素酸換算で、上記溶液中濃度が10体積%~15体積%となるように添加されることが好ましい。
【0054】
遷移金属イオン及びフッ化水素酸が添加された混合液は、室温(15℃~30℃程度)にて適宜撹拌されることによりエッチング反応が進行する。撹拌時間としては概ね1分間程度を例示できるが、特に限定されない。得られた混合液は、第二エッチング小工程に付される。
【0055】
[第二エッチング小工程]
第二エッチング小工程は、上記第一エッチング小工程を経た混合液に酸化剤を添加してこれらを混合しながら反応させる工程である。第一エッチング小工程にて、遷移金属イオンとシリコン微粒子との間での電子のやり取りによりシリコン微粒子が局所的に酸化され、次いで酸化されたシリコンがフッ化水素酸で溶解されることで局所的なエッチングが生じることは既に述べた通りである。しかしながら、遷移金属粒子がシリコン微粒子の表面で生成されるに連れて電子の供給が徐々に飽和するため、シリコン微粒子の局所エッチングが生じにくくなり、多孔化や微細突起化に必要な細孔深度を大きくすることができなくなる。そこで、第二エッチング小工程では、酸化剤を混合液へ追加で添加する。これにより、遷移金属粒子内の電子が過酸化水素により奪われ、シリコン微粒子内部の深さ方向への局所エッチングが促進される。
【0056】
酸化剤としては、特に限定されないが、過酸化水素水が好ましく挙げられる。酸化剤として過酸化水素水を用いる場合、市販の過酸化水素水である30質量%過酸化水素水換算で、上記混合液中濃度が0.3体積%~1.0体積%となるように添加されることが好ましい。過酸化水素水の添加量がこの範囲であることにより、シリコン微粒子表面への表面孔又は微細突起が良好に形成されつつ、シリコン微粒子が完全に溶解されてしまうのが抑制されるので好ましい。より好ましくは、混合液50mLあたり30質量%過酸化水素水を0.3mL程度添加することを挙げられるが、特に限定されない。
【0057】
過酸化水素水の添加された混合液は、室温(15℃~30℃程度)にて撹拌される。この間、シリコン微粒子の表面ではエッチングにより、表面孔や微細突起が形成されることになる。なお、既に述べたように、微細突起は、多数の表面孔が隣接して形成されることで形成されるので、これを形成するにはシリコン微粒子が高度にエッチングされる必要がある。このため、シリコン表面に微細突起を形成させる場合には、表面孔を形成させる場合に比べてより長時間の反応時間を確保する必要がある。シリコン表面に表面孔を形成させるには、この反応時間を10分間程度確保するのが望ましい。また、シリコン表面に微細突起を形成させる場合や、微細突起と表面孔の両方を形成させる場合には、10~30分間程度反応させることが望ましい。なお、この反応時間は一例であり、エッチングの進行状況に応じて適宜調整して、目的となる表面構造がシリコン表面に形成されるようにすればよい。
【0058】
上記の反応後、例えば混合液と同体積程度の水を添加することでフッ化水素酸や過酸化水素の濃度を低下させ、エッチング反応を停止させる。または、水を添加することに代えて、混合液からシリコン微粒子を濾別等の手段で分離してエッチング反応を停止してもよい。その後、シリコン微粒子は、除去小工程に付される。
【0059】
[除去小工程]
除去小工程は、上記第二エッチング小工程を経たシリコン微粒子から、遷移金属粒子を除去する工程である。
【0060】
本工程において、上記第二エッチング小工程を経たシリコン微粒子は、酸処理を受け、遷移金属粒子が除去される。具体的には、混合液中に含まれるシリコン微粒子は、混合液のまま又は混合液から濾別された状態で酸水溶液中に投入されて浸漬される。これにより、遷移金属粒子がシリコン微粒子から酸水溶液へと移行する。このときに用いられる酸水溶液としては希硝酸水溶液が好ましく挙げられ、また、そのときの処理方法としては濾取したシリコン微粒子を10分間程度酸水溶液に浸漬させることが挙げられる。
【0061】
本小工程において酸処理を受けたシリコン微粒子は、濾別される。濾別されたシリコン微粒子の表面には、表面孔及び/又は微細突起が形成され、多突起及び/又は多孔シリコン粒子が得られる。
【0062】
次に、本発明の生体分子修飾シリコンの製造方法の各工程について説明する。
【0063】
[親水化工程]
親水化工程は、多突起及び/若しくは多孔シリコン粒子、又は表面テクスチャ構造を備えたシリコン基板の表面に水酸基を導入する工程である。この工程では、適切な酸化剤を上記のシリコンに作用させ、そのシリコン表面に水酸基を形成させる。
【0064】
この工程で用いるシリコンは、多突起及び/若しくは多孔シリコン粒子、又は表面テクスチャ構造を備えたシリコン基板である。これらシリコンに酸化剤を接触させることで本工程は完了する。
【0065】
この工程で用いられる酸化剤としては、ピラニア溶液と呼ばれる、硫酸と過酸化水素の混合物やオゾン等が挙げられる。これらのうち、ピラニア溶液が好ましく挙げられ、中でも硫酸と過酸化水素とを質量比で3:1となるように混合したピラニア溶液が好ましく用いられる。
【0066】
なお、シリコンをピラニア溶液で処理するに際して、予めフッ化水素酸とシリコンとを接触させて、シリコン表面に存在する酸化膜(酸化シリコン)を除去しておくことが好ましい。さらに、シリコンとしてシリコン微粒子を用いる場合には、シリコン酸化膜を除去する前に、上記解砕小工程で示したのと同様の手順でシリコン微粒子を水中で解砕しておくことが好ましい。
【0067】
ピラニア溶液を用いてシリコンを処理する際の反応条件としては、110℃程度のピラニア溶液中で50分間程度処理することを一例として挙げることができるが、特に限定されない。
【0068】
ピラニア溶液による処理を経たシリコンは、フィルターで回収された後、水で洗浄される。この洗浄後、シリコンは、結合基導入工程に付される。
【0069】
[結合基導入工程]
結合基導入工程は、親水化工程を経て表面に水酸基の導入されたシリコンに、アミノ基又はカルボキシ基を備えたアルコキシシラン化合物、すなわちシランカップリング剤を作用させる工程である。この工程を経ることにより、シリコン表面に存在する水酸基とシランカップリング剤のアルコキシ基とが脱水縮合し、シリコン表面にシランカップリング剤由来のアミノ基又はカルボキシ基が導入される。
【0070】
シランカップリング剤としては、アミノ基又はカルボキシ基を備えたものであれば特に限定されず、一例として、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-カルボキシプロピルトリメトキシシラン、3-カルボキシプロピルトリエトキシシラン、等を挙げることができる。これらのシランカップリング剤は、市販のものを容易に入手することができる。これらの中でも、3-アミノプロピルトリエトキシシランが好ましく挙げられる。
【0071】
シリコンとシランカップリング剤とを反応させる際の反応条件としては、特に限定されないが、一例として、液体であるシランカップリング剤とシリコンとを接触させて加温することを挙げられる。この際、必要に応じて水等の溶媒を用いてもよい。加温の際の温度としては40℃程度が好ましく例示され、反応時間としては30分間程度が好ましく例示される。その後、シリコンをフィルターで回収し、80℃程度で20分間程度熱処理することで、脱水縮合反応を完結させる。
【0072】
結合基導入工程を経て表面にアミノ基又はカルボキシ基の導入されたシリコンは、結合工程に付される。
【0073】
[結合工程]
結合工程は、結合基導入工程を経たシリコンに対して、生体分子の存在下、アミノ基とアミノ基又はカルボキシ基とを架橋させるための化合物を作用させることで、シリコンの表面に生体分子を化学結合させる工程である。この工程を経ることで、シリコン表面に生体分子が導入されることになる。
【0074】
上記結合基導入工程を経ることでシリコン表面にはアミノ基又はカルボキシ基が導入されており、また、生体分子の多くはアミノ基を有するので、シリコン表面に存在するアミノ基又はカルボキシ基と生体分子に含まれるアミノ基とを架橋させることでシリコン表面に生体分子が導入される。
【0075】
架橋剤としては、アミノ基と反応して化学結合を形成することのできるN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステル構造(NHSエステル)やイソチオシアノ基を結合基として2つ備えた化合物や、カルボキシ基とアミノ基とを結合させるカルボジイミド基を備えた化合物が市販されている。このような化合物は、結合基間の長さの異なるもの等が複数市販されており、一例として、株式会社同仁化学研究所製のBS3等を挙げることができる。
【0076】
この反応を行うに際しては、リン酸緩衝食塩水(PBS)のような緩衝液中にシリコンと生体分子とを加え、室温にて架橋剤を少量ずつ反応させる方法が挙げられる。なお、生体分子の導入されたシリコンは、4℃程度にて冷蔵保存されることが望ましい。また、生体分子としては、抗体分子が好ましく挙げられる。
【実施例0077】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0078】
[多孔シリコンP-1の調製]
市販のシリコン粉末300mgを純水44mL中に加え、超音波ホモジナイザー処理を行った。超音波ホモジナイザー処理の条件は、発振周波数20kHz、出力400W、最大振幅30%、発振時間(ON/OFF)10秒/5秒、処理時間5分とした。得られた分散液に、市販の46質量%フッ化水素酸5.7mL及び硝酸銀8.5mgを添加し、室温にて撹拌速度50rpmで1分間撹拌した。このとき、混合液中の銀イオン濃度は、約1mmol/Lとなる。その後、市販の30質量%過酸化水素水0.3mLを混合液に加え、10分間撹拌した。反応終了後、固体を濾別し、さらに純水100mLを流し込んでこれを洗浄した。濾取したシリコン微粒子を希硝酸(1mol/L)10mLに加え、10分間放置した後に純水を加えて数十秒間超音波解砕することで多孔シリコン微粒子P-1を得た。
【0079】
[多孔シリコンP-2の調製]
市販のシリコン粉末300mgを純水44mL中に加え、超音波ホモジナイザー処理を行った。超音波ホモジナイザー処理の条件は、発振周波数20kHz、出力400W、最大振幅30%、発振時間(ON/OFF)10秒/5秒、処理時間5分とした。得られた分散液に、市販の46質量%フッ化水素酸5.7mL及び硝酸銀84.9mgを添加し、室温にて撹拌速度50rpmで1分間撹拌した。このとき、混合液中の銀イオン濃度は、約10mmol/Lとなる。その後、市販の30質量%過酸化水素水0.3mLを混合液に加え、10分間撹拌した。反応終了後、固体を濾別し、さらに純水100mLを流し込んでこれを洗浄した。濾取したシリコン微粒子を希硝酸(1mol/L)10mLに加え、10分間放置した後に純水を加えて数十秒間超音波解砕することで多孔シリコン微粒子P-2を得た。
【0080】
[多突起シリコンK-1の調製]
市販のシリコン粉末300mgを純水44mL中に加え、超音波ホモジナイザー処理を行った。超音波ホモジナイザー処理の条件は、発振周波数20kHz、出力400W、最大振幅30%、発振時間(ON/OFF)10秒/5秒、処理時間5分とした。得られた分散液に、市販の46質量%フッ化水素酸5.7mL及び硝酸銀84.9mgを添加し、室温にて撹拌速度50rpmで1分間撹拌した。このとき、混合液中の銀イオン濃度は、約1mmol/Lとなる。その後、市販の30質量%過酸化水素水0.3mLを混合液に加え、30分間撹拌した。反応終了後、固体を濾別し、さらに純水100mLを流し込んでこれを洗浄した。濾取したシリコン微粒子を希硝酸(1mol/L)10mLに加え、10分間放置した後に純水を加えて数十秒間超音波解砕することで多突起シリコン微粒子K-1を得た。
【0081】
[多突起シリコンK-2の調製]
市販のシリコン粉末300mgを純水44mL中に加え、超音波ホモジナイザー処理を行った。超音波ホモジナイザー処理の条件は、発振周波数20kHz、出力400W、最大振幅30%、発振時間(ON/OFF)10秒/5秒、処理時間5分とした。得られた分散液に、市販の46質量%フッ化水素酸5.7mL及び硝酸銀169mgを添加し、室温にて撹拌速度50rpmで1分間撹拌した。このとき、混合液中の銀イオン濃度は、約20mmol/Lとなる。その後、市販の30質量%過酸化水素水0.3mLを混合液に加え、10分間撹拌した。反応終了後、固体を濾別し、さらに純水100mLを流し込んでこれを洗浄した。濾取したシリコン微粒子を希硝酸(1mol/L)10mLに加え、10分間放置した後に純水を加えて数十秒間超音波解砕することで多突起シリコン微粒子K-2を得た。
【0082】
[多孔及び多突起(ハイブリッド)シリコンHの調製]
市販のシリコン粉末900mgを純水131.9mL中に加え、超音波ホモジナイザー処理を行った。超音波ホモジナイザー処理の条件は、発振周波数20kHz、出力400W、最大振幅30%、発振時間(ON/OFF)10秒/5秒、処理時間5分とした。得られた分散液に、市販の46質量%フッ化水素酸17.0mL及び硝酸銀767.4mgを添加し、室温にて撹拌速度50rpmで1分間撹拌した。このとき、混合液中の銀イオン濃度は、約30mmol/Lとなる。その後、市販の30質量%過酸化水素水0.919mLを混合液に加え、10分間撹拌した。反応終了後、固体を濾別し、さらに純水100mLを流し込んでこれを洗浄した。濾取したシリコン微粒子を希硝酸(1mol/L)10mLに加え、10分間放置した後に純水を加えて数十秒間超音波解砕することで多孔及び多突起(ハイブリッド)シリコン微粒子Hを得た。
【0083】
[結合基修飾処理]
上記の手順で得た多孔シリコン微粒子(P-1、P-2)、多突起シリコン微粒子(K-1、K-2)、ハイブリッドシリコン微粒子(H)、及びエッチング加工処理を行っていないシリコン微粒子(B、C)のそれぞれについて、下記の手順で、シリコン表面に結合基としてアミノ基を導入する修飾処理を行った。
【0084】
シリコン微粒子300mgを純水(47.5mL)に加え、超音波ホモジナイザー処理を行った。超音波ホモジナイザー処理の条件は、発振周波数20kHz、出力400W、最大振幅30%、発振時間(ON/OFF)10秒/5秒、処理時間5分とした。得られた分散液に、市販の49質量%フッ化水素酸水溶液を、上記純水:フッ化水素酸=19:1の比率になるように加え、シリコン微粒子表面の酸化層を除去した。シリコン微粒子をフィルターで回収し、親水化処理としてこれを硫酸:過酸化水素=3:1のピラニア溶液に加え、110℃に温めながら50分間反応させた。反応終了後、シリコン微粒子をフィルターで回収した後、これを40mLの純水に加えて混合液とした。この混合液に(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン10mLを加え、40℃で30分間撹拌しながら反応させることでシリコン微粒子の表面に、アミノ基を末端に持つシランオリゴマーを形成させた。処理後のシリコン微粒子をフィルターで回収した後、そのフィルターごと80℃に温めたホットプレート上に載せ、20分間加熱を行うことで脱水縮合反応によるアミノ基の修飾処理を行った。得られた表面アミノ基修飾処理シリコン微粒子は、ニンヒドリン反応により青紫色を呈したことから、その表面にアミノ基を有することが確認された。
【0085】
[抗体結合処理]
上記の手順で表面アミノ基修飾処理のされたシリコン微粒子のうち、シリコン微粒子Bを除いたそれぞれに対して、抗体分子を結合させた。架橋剤として、分子の両端にN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステル構造を備え、アミノ基同士の架橋反応が可能である、株式会社同仁化学研究所製のBS3を選択し、この5mgをリン酸緩衝食塩水(PBS溶液、100mmol/Lの定格濃度)40μLに溶解させ、架橋剤溶液を調製した。次いで、アミノ基修飾シリコン10mgに、甲状腺乳頭がんを認識する抗体であるJT-95抗体を産生するハイブリドーマ細胞培養上清液(コスモ・バイオ株式会社、コスメディウム005 ハイブリドーマ用培地;抗体濃度2.2mg/mL)300μLを加え、ここへ架橋剤溶液を10μLずつ4回に分けて添加した。添加の間隔は10分間とし、その間転倒混和を行った。架橋剤溶液の添加が終了した後、さらに転倒混和を30分間継続し、表面アミノ基修飾シリコン微粒子にJT-95抗体を結合させた。
【0086】
[酵素抗体法による抗体結合の確認]
上記の手順で抗体の結合されたシリコン微粒子のそれぞれについて、ELISA法と同様の手順にて、シリコン表面に抗体が結合していることを確認した。まず、上記の手順で抗体の結合されたシリコン微粒子のそれぞれについて、PBS溶液による洗浄を4回行った。洗浄に際しては、各回について遠心処理(液温4℃程度、1500rpm、2分間)を行った。その後、シリコン微粒子をブロッキング溶液(雪印乳業株式会社製、Block-Ace)100μL中に加え1時間置いた。その後、さらに、上記と同様の手順にてPBS-T溶液による洗浄を4回行い、IgM-Po(SentaCruzBiotechnology社製、goat anti-mouse IgM-HRP;JT-95抗体に結合し、ホースラディッシュペルオキシダーゼの付加された抗体)を添加し、さらに1時間置いた。その後、さらに、上記と同様の手順にてPBS-T溶液による洗浄を4回行った。上清を廃棄した後、シリコン微粒子にTMB Substrate Reagentを添加し、遮光下室温で10分程度置き、青色に発色したことを確認してから停止液を添加した。停止液を添加することで黄色に変色した液体を100μLμウェルプレートにとり、プレートリーダーを用いて450nmで吸光度(OD)を測定した。なお、この吸光度測定に際しては、表面エッチング処理がされず、かつ抗体の結合のされないシリコン微粒子Bに対して同様の手順で吸光度測定を行い、この吸光度を0としたときの値を求めた。すなわち、各サンプルにて実測された吸光度から、シリコン微粒子Bにて実測された吸光度を差し引いた値が各サンプルの吸光度となる。その結果を表1に示す。また、TMB Substrate Reagentには、ホースラディッシュペルオキシダーゼにより酸化されて発色するTMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)が含まれ、これはELISA法における発色工程でよく用いられるものである。シリコン微粒子B(Blank)は、表面エッチング処理がされないシリコン微粒子にアミノ基のみを導入したものであり、シリコン微粒子C(Control)は、表面エッチング処理がされないシリコン微粒子に抗体が結合されたものになる。
【0087】
【0088】
表1に示すように、表面多孔及び/又は多突起シリコン微粒子に生体分子として抗体を結合させた本発明の生体分子修飾シリコンは、結合する抗体に対応する抗原と反応可能であり、表面多孔及び/又は多突起シリコン微粒子でないシリコン微粒子Cよりも高い吸光度を示したことからこれよりも抗体の結合量が多いことが示され、ELISA法による定量にも有用な固相担体であることが理解できる。