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特開2023-108692進角補正方法、進角設定装置、モータ装置及び車載装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108692
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】進角補正方法、進角設定装置、モータ装置及び車載装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/00 20160101AFI20230731BHJP
【FI】
H02P6/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009866
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】大堀 竜
(72)【発明者】
【氏名】金井 猛
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560AA10
5H560BB04
5H560BB08
5H560BB12
5H560DA02
5H560DC12
5H560EB01
5H560GG04
5H560RR01
5H560SS02
5H560TT11
5H560TT15
5H560UA05
5H560XA02
5H560XA12
5H560XA15
(57)【要約】
【課題】正逆回転するブラシレスモータの作動音や振動の発生の抑制を精度良く行う。
【解決手段】ステータと、ロータと、位置検出センサと、進角補正情報を記憶する記憶部と、制御部と、進角制御を行う進角制御部と、を備えたモータ装置の進角補正方法であって、回転数変化率に基づいて予め算出されている、ロータの回転数差と、進角補正量との対応関係を示す第1進角補正情報を取得する第1進角補正情報取得ステップと、ロータ回転数差を計測する回転数差計測ステップと、第1進角補正情報とロータ回転数差とに基づいて、出力軸回転数差がより小さくなるように、第1進角補正量をロータの回転方向毎に第1正転進角補正量と第1逆転進角補正量として算出する第1進角補正量算出ステップと、算出された第1正転進角補正量と第1逆転進角補正量とをモータ装置毎の進角補正情報として記憶部に記憶させる進角補正量記憶ステップと、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数相のコイルを有するステータと、
前記複数相のコイルにより発生する磁界により正逆回転するロータと、
前記ロータの回転位置を検出する位置検出センサと、
前記位置検出センサが検出する前記回転位置からの進角の程度を示す進角補正情報を記憶する記憶部と、
前記複数相のコイルへの印加電流を各相ごとに制御する制御部と、
前記制御部に設けられ、前記位置検出センサの出力信号と、前記記憶部に記憶された前記進角補正情報とに基づいて、前記複数相のコイルへの通電タイミングを変更する進角制御を行う進角制御部と、
を備えたモータ装置の進角補正方法であって、
前記通電タイミングの進角の変化量に対する前記ロータの回転数の変化量である回転数変化率に基づいて予め算出されている、前記ロータの正回転時の回転数と逆回転時の回転数との回転数差と、進角補正量との対応関係を示す第1進角補正情報を取得する第1進角補正情報取得ステップと、
前記複数相のコイルへ所定の電流を印加した時の前記ロータの正回転時の回転数と逆回転時の回転数との差であるロータ回転数差を計測する回転数差計測ステップと、
取得された前記第1進角補正情報と、計測された前記ロータ回転数差とに基づいて、前記モータ装置の出力軸の正回転時の回転数と逆回転時の回転数との差である出力軸回転数差がより小さくなるように、第1進角補正量を前記ロータの回転方向毎に第1正転進角補正量と第1逆転進角補正量として算出する第1進角補正量算出ステップと、
算出された前記第1正転進角補正量と前記第1逆転進角補正量とを前記モータ装置毎の進角補正情報として前記記憶部に記憶させる進角補正量記憶ステップと、
を備えた進角補正方法。
【請求項2】
請求項1に記載の進角補正方法であって、
前記モータ装置は、
前記ロータに設けられた回転軸と、
前記回転軸に設けられ、前記回転軸の軸方向と交差する方向に沿う歯すじを有する第1減速部と、前記第1減速部と噛合い、前記回転軸の回転を減速して前記出力軸に伝達する第2減速部とを有する減速機と、
をさらに備え、
前記ロータの正回転時の出力軸トルクと前記減速機における伝達効率との対応関係、及び前記ロータの逆回転時の出力軸トルクと前記減速機における伝達効率との対応関係に基づいて予め算出されている、前記ロータの正回転時の回転数と逆回転時の回転数との回転数差と、進角補正量との対応関係を示す第2進角補正情報を取得する第2進角補正情報取得ステップと、
取得された前記第2進角補正情報と、計測された前記ロータ回転数差とに基づいて、前記伝達効率の差による前記出力軸回転数差がより小さくなるように、第2進角補正量を前記ロータの回転方向毎に第2正転進角補正量と第2逆転進角補正量として算出する第2進角補正量算出ステップと、
をさらに備え、
前記進角補正量記憶ステップにおいて、
前記第1正転進角補正量に前記第2正転進角補正量を加えた第3正転進角補正量と、前記第1逆転進角補正量に前記第2逆転進角補正量を加えた第3逆転進角補正量とを、前記モータ装置毎の進角補正量として前記記憶部に記憶させる
進角補正方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の進角補正方法であって、
前記第1進角補正量算出ステップにおいて、前記出力軸の正回転時の回転数と逆回転時の回転数との中間値を、進角補正後の前記出力軸の回転数の目標値とすることにより、前記出力軸回転数差がより小さくなるように前記第1進角補正量を算出する
進角補正方法。
【請求項4】
複数相のコイルを有するステータと、
前記複数相のコイルにより発生する磁界により正逆回転するロータと、
前記ロータの回転位置を検出する位置検出センサと、
前記位置検出センサが検出する前記回転位置からの進角の程度を示す進角補正情報を記憶する記憶部と、
前記複数相のコイルへの印加電流を各相ごとに制御する制御部と、
前記制御部に設けられ、前記位置検出センサの出力信号と、前記記憶部に記憶された前記進角補正情報とに基づいて、前記複数相のコイルへの通電タイミングを変更する進角制御を行う進角制御部と、
を備えたモータ装置に進角補正情報を書き込む進角設定装置であって、
前記通電タイミングの進角の変化量に対する前記ロータの回転数の変化量である回転数変化率に基づいて予め算出されている、前記ロータの正回転時の回転数と逆回転時の回転数との回転数差と、進角補正量との対応関係を示す第1進角補正情報を取得する第1進角補正情報取得部と、
前記複数相のコイルへ所定の電流を印加した時の前記ロータの正回転時の回転数と逆回転時の回転数との差であるロータ回転数差を計測する回転数差計測部と、
取得された前記第1進角補正情報と、計測された前記ロータ回転数差とに基づいて、前記モータ装置の出力軸の正回転時の回転数と逆回転時の回転数との差である出力軸回転数差がより小さくなるように、第1進角補正量を前記ロータの回転方向毎に第1正転進角補正量と第1逆転進角補正量として算出する第1進角補正量算出部と、
算出された前記第1正転進角補正量と前記第1逆転進角補正量とを前記モータ装置毎の進角補正情報として前記記憶部に記憶させる進角補正情報書込部と、
を備えた進角設定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の進角設定装置であって、
前記モータ装置は、
前記ロータに設けられた回転軸と、
前記回転軸に設けられ、前記回転軸の軸方向と交差する方向に沿う歯すじを有する第1減速部と、前記第1減速部と噛合い、前記回転軸の回転を減速して前記出力軸に伝達する第2減速部とを有する減速機と、
をさらに備え、
前記ロータの正回転時の出力軸トルクと前記減速機における伝達効率との対応関係、及び前記ロータの逆回転時の出力軸トルクと前記減速機における伝達効率との対応関係に基づいて予め算出されている、前記ロータの正回転時の回転数と逆回転時の回転数との回転数差と、進角補正量との対応関係を示す第2進角補正情報を取得する第2進角補正情報取得部と、
取得された前記第2進角補正情報と、計測された前記ロータ回転数差とに基づいて、前記伝達効率の差による前記出力軸回転数差がより小さくなるように、第2進角補正量を前記ロータの回転方向毎に第2正転進角補正量と第2逆転進角補正量として算出する第2進角補正量算出部と、
をさらに備え、
前記進角補正情報書込部は、
前記第1正転進角補正量に前記第2正転進角補正量を加えた第3正転進角補正量と、前記第1逆転進角補正量に前記第2逆転進角補正量を加えた第3逆転進角補正量とを、前記モータ装置毎の進角補正量として前記記憶部に記憶させる
進角設定装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の進角設定装置であって、
前記第1進角補正量算出部は、
前記出力軸の正回転時の回転数と逆回転時の回転数との中間値を、進角補正後の前記出力軸の回転数の目標値とすることにより、前記出力軸回転数差がより小さくなるように前記第1進角補正量を算出する
進角設定装置。
【請求項7】
複数相のコイルを有するステータと、
前記複数相のコイルにより発生する磁界により正逆回転するロータと、
前記ロータの回転位置を検出する位置検出センサと、
前記位置検出センサが検出する前記回転位置からの進角の程度を示す進角補正情報を記憶する記憶部と、
前記複数相のコイルへの印加電流を各相ごとに制御する制御部と、
前記制御部に設けられ、前記位置検出センサの出力信号と、前記記憶部に記憶された前記進角補正情報とに基づいて、前記複数相のコイルへの通電タイミングを変更する進角制御を行う進角制御部と、
を備えたモータ装置であって、
前記記憶部には、
前記通電タイミングの進角の変化量に対する前記ロータの回転数の変化量である回転数変化率に基づいて予め算出されている、前記ロータの正回転時の回転数と逆回転時の回転数との回転数差と、進角補正量との対応関係を示す第1進角補正情報と、
前記複数相のコイルへ所定の電流が印加された時の前記ロータの正回転時の回転数と逆回転時の回転数との差であるロータ回転数差が計測された回転数差計測結果と、
に基づいて、前記モータ装置の出力軸の正回転時の回転数と逆回転時の回転数との差である出力軸回転数差がより小さくなるように、第1進角補正量として前記ロータの回転方向毎に算出された第1正転進角補正量と第1逆転進角補正量とが、前記進角補正情報として記憶されており、
前記進角制御部は、
前記ロータを正回転させる場合には、前記第1正転進角補正量に基づいて進角制御を行い、前記ロータを逆回転させる場合には、前記第1逆転進角補正量に基づいて進角制御を行う
モータ装置。
【請求項8】
請求項7に記載のモータ装置であって、
前記ロータに設けられた回転軸と、
前記回転軸に設けられ、前記回転軸の軸方向と交差する方向に沿う歯すじを有する第1減速部と、前記第1減速部と噛合い、前記回転軸の回転を減速して前記出力軸に伝達する第2減速部とを有する減速機と、
をさらに備え、
前記記憶部には、
前記ロータの正回転時の出力軸トルクと前記減速機における伝達効率との対応関係、及び前記ロータの逆回転時の出力軸トルクと前記減速機における伝達効率との対応関係に基づいて予め算出されている、前記ロータの正回転時の回転数と逆回転時の回転数との回転数差と、進角補正量との対応関係を示す第2進角補正情報と、
前記複数相のコイルへ所定の電流が印加された時の前記ロータの正回転時の回転数と逆回転時の回転数との差であるロータ回転数差が計測された回転数差計測結果と、
に基づいて、前記伝達効率の差による前記出力軸回転数差がより小さくなるように、第2進角補正量として前記ロータの回転方向毎に算出された第2正転進角補正量と第2逆転進角補正量とについて、
前記第1正転進角補正量に前記第2正転進角補正量を加えた第3正転進角補正量と、前記第1逆転進角補正量に前記第2逆転進角補正量を加えた第3逆転進角補正量とが、前記進角補正情報として記憶されており、
前記進角制御部は、
前記ロータを正回転させる場合には、前記第3正転進角補正量に基づいて進角制御を行い、前記ロータを逆回転させる場合には、前記第3逆転進角補正量に基づいて進角制御を行う
モータ装置。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載のモータ装置であって、
前記第1進角補正量は、
前記出力軸の正回転時の回転数と逆回転時の回転数との中間値を、進角補正後の前記出力軸の回転数の目標値とすることにより、前記出力軸回転数差がより小さくなるように算出されている
モータ装置。
【請求項10】
請求項7から請求項9のいずれか一項に記載のモータ装置と、
前記モータ装置の前記出力軸によって車両の前後方向に駆動される被駆動部と、
を備え、
前記被駆動部の被駆動方向と車両の走行方向とが対向する場合の前記ロータの回転方向を逆回転とした場合に、正回転の進角量が、逆回転の進角量よりも大きい
車載装置。
【請求項11】
請求項10に記載の車載装置であって、
前記制御部は、
車速が閾値以上の場合に進角補正量を加算する
車載装置。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の車載装置であって、
前記制御部は、
前記複数相のコイルへの印加電流をパルス幅変調することにより前記ロータの回転力を制御し、
正回転時の前記印加電流のデューティ比と逆回転時の前記印加電流のデューティ比との差が、所定の閾値以上である場合に進角量を増加させる
車載装置。
【請求項13】
請求項10又は請求項11に記載の車載装置であって、
前記制御部は、
前記複数相のコイルへの印加電流をパルス幅変調することにより前記ロータの回転力を制御し、
前記印加電流のデューティ比が、所定の閾値以上である場合に進角量を増加させる
車載装置。
【請求項14】
請求項10から請求項13のいずれか一項に記載の車載装置であって、
前記被駆動部が車両の窓を払拭するワイパブレードである
車載装置。
【請求項15】
請求項10から請求項13のいずれか一項に記載の車載装置であって、
前記被駆動部が車両の進行方向にスライド開閉する電動窓である
車載装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、進角補正方法、進角設定装置、モータ装置及び車載装置に関する。
【背景技術】
【0002】
正逆回転モータにおいて、反転位置のずれを抑制するために、モータの負荷を算出し回転角を制御するものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-131885号公報
【0004】
ところで、ブラシレスモータは、ロータと共に回転するセンサマグネットの磁極の切り替わりを、回転方向に所定間隔で配置されたホールセンサが検出することにより、回転を制御する。しかしながら、センサマグネットとホールセンサとの相対的な取り付け位置の製造誤差がモータごとに異なることがあり、ロータの回転方向によっては、回転角の制御が適切に行えない場合があった。このようにロータの回転方向によって回転制御特性が異なると、作動音や振動が増大するという課題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、正逆回転するブラシレスモータの作動音や振動の発生の抑制を精度良く行うことができる進角補正方法、進角設定装置、モータ装置及び車載装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、複数相のコイルを有するステータと、前記複数相のコイルにより発生する磁界により正逆回転するロータと、前記ロータの回転位置を検出する位置検出センサと、前記位置検出センサが検出する前記回転位置からの進角の程度を示す進角補正情報を記憶する記憶部と、前記複数相のコイルへの印加電流を各相ごとに制御する制御部と、前記制御部に設けられ、前記位置検出センサの出力信号と、前記記憶部に記憶された前記進角補正情報とに基づいて、前記複数相のコイルへの通電タイミングを変更する進角制御を行う進角制御部と、を備えたモータ装置の進角補正方法であって、前記通電タイミングの進角の変化量に対する前記ロータの回転数の変化量である回転数変化率に基づいて予め算出されている、前記ロータの正回転時の回転数と逆回転時の回転数との回転数差と、進角補正量との対応関係を示す第1進角補正情報を取得する第1進角補正情報取得ステップと、前記複数相のコイルへ所定の電流を印加した時の前記ロータの正回転時の回転数と逆回転時の回転数との差であるロータ回転数差を計測する回転数差計測ステップと、取得された前記第1進角補正情報と、計測された前記ロータ回転数差とに基づいて、前記モータ装置の出力軸の正回転時の回転数と逆回転時の回転数との差である出力軸回転数差がより小さくなるように、第1進角補正量を前記ロータの回転方向毎に第1正転進角補正量と第1逆転進角補正量として算出する第1進角補正量算出ステップと、算出された前記第1正転進角補正量と前記第1逆転進角補正量とを前記モータ装置毎の進角補正情報として前記記憶部に記憶させる進角補正量記憶ステップと、を備えた進角補正方法である。
【0007】
本発明の一態様は、複数相のコイルを有するステータと、前記複数相のコイルにより発生する磁界により正逆回転するロータと、前記ロータの回転位置を検出する位置検出センサと、前記位置検出センサが検出する前記回転位置からの進角の程度を示す進角補正情報を記憶する記憶部と、前記複数相のコイルへの印加電流を各相ごとに制御する制御部と、前記制御部に設けられ、前記位置検出センサの出力信号と、前記記憶部に記憶された前記進角補正情報とに基づいて、前記複数相のコイルへの通電タイミングを変更する進角制御を行う進角制御部と、を備えたモータ装置に進角補正情報を書き込む進角設定装置であって、前記通電タイミングの進角の変化量に対する前記ロータの回転数の変化量である回転数変化率に基づいて予め算出されている、前記ロータの正回転時の回転数と逆回転時の回転数との回転数差と、進角補正量との対応関係を示す第1進角補正情報を取得する第1進角補正情報取得部と、前記複数相のコイルへ所定の電流を印加した時の前記ロータの正回転時の回転数と逆回転時の回転数との差であるロータ回転数差を計測する回転数差計測部と、取得された前記第1進角補正情報と、計測された前記ロータ回転数差とに基づいて、前記モータ装置の出力軸の正回転時の回転数と逆回転時の回転数との差である出力軸回転数差がより小さくなるように、前記第1進角補正量を前記ロータの回転方向毎に第1正転進角補正量と第1逆転進角補正量として算出する第1進角補正量算出部と、算出された前記第1正転進角補正量と前記第1逆転進角補正量とを前記モータ装置毎の進角補正情報として前記記憶部に記憶させる進角補正情報書込部と、を備えた進角設定装置である。
【0008】
本発明の一態様は、複数相のコイルを有するステータと、前記複数相のコイルにより発生する磁界により正逆回転するロータと、前記ロータの回転位置を検出する位置検出センサと、前記位置検出センサが検出する前記回転位置からの進角の程度を示す進角補正情報を記憶する記憶部と、前記複数相のコイルへの印加電流を各相ごとに制御する制御部と、前記制御部に設けられ、前記位置検出センサの出力信号と、前記記憶部に記憶された前記進角補正情報とに基づいて、前記複数相のコイルへの通電タイミングを変更する進角制御を行う進角制御部と、を備えたモータ装置であって、前記記憶部には、前記通電タイミングの進角の変化量に対する前記ロータの回転数の変化量である回転数変化率に基づいて予め算出されている、前記ロータの正回転時の回転数と逆回転時の回転数との回転数差と、進角補正量との対応関係を示す第1進角補正情報と、前記複数相のコイルへ所定の電流が印加された時の前記ロータの正回転時の回転数と逆回転時の回転数との差であるロータ回転数差が計測された回転数差計測結果と、に基づいて、前記モータ装置の出力軸の正回転時の回転数と逆回転時の回転数との差である出力軸回転数差がより小さくなるように、第1進角補正量として前記ロータの回転方向毎に算出された第1正転進角補正量と第1逆転進角補正量とが、前記進角補正情報として記憶されており、前記進角制御部は、前記ロータを正回転させる場合には、前記第1正転進角補正量に基づいて進角制御を行い、前記ロータを逆回転させる場合には、前記第1逆転進角補正量に基づいて進角制御を行うモータ装置である。
【0009】
本発明の一態様は、上述のモータ装置と、前記モータ装置の前記出力軸によって車両の前後方向に駆動される被駆動部と、を備え、前記被駆動部の被駆動方向と車両の走行方向とが対向する場合の前記ロータの回転方向を逆回転とした場合に、正回転の進角補正量が、逆回転の進角補正量よりも大きい車載装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、正逆回転するブラシレスモータの作動音や振動の発生の抑制を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態のモータ装置の構成の一例を示す図である。
図2】本実施形態のウォームとヘリカルギアとの噛み合いの状態の一例を示す図である。
図3】本実施形態のモータ装置の機能構成の一例を示す図である。
図4】本実施形態の第1進角補正情報の一例を示す図である。
図5】本実施形態の進角補正値の設定の流れの一例を示す図である。
図6】本実施形態の第1進角補正量の設定例を示す図である。
図7】本実施形態の第2進角補正情報の一例を示す図である。
図8】本実施形態の伝達効率の正逆回転差を加味した進角補正値の設定の流れの一例を示す図である。
図9】本実施形態のモータ装置における進角補正前の回転力と回転数及び駆動電流との対応関係の一例を示す図である。
図10】本実施形態のモータ装置における進角補正後の回転力と回転数及び駆動電流との対応関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本実施形態のモータ装置1の構成の一例を示す図である。モータ装置1は、モータ2と、ギアボックス3と、インバータ50と、制御部60とを備える。
【0013】
モータ装置1は、自動車用ワイパ装置の駆動源として使用され、フロントガラス面(払拭面)上に配置されたワイパブレードを往復動させる。
なお、本実施形態においてモータ装置1がワイパ装置に適用される場合を一例にして説明するが、モータ2が正逆回転するものであればよく、ワイパ装置に限られずに適用可能である。例えば、モータ装置1は、自動車の電動窓(例えば、サンルーフやパワーウインドウ)、自動車の電動シート、自動車の電動ミラーなどに適用されてもよい。
【0014】
モータ2は、ステータ21と、ロータ22とを備える。
ステータ21は、複数相の電機子コイルを有する。
ロータ22は、ステータ21の内側に設けられている。ロータ22は、ロータ軸24と、ロータ軸24に取り付けたセンサマグネット22bとを備える。
【0015】
ロータ軸24には、複数の永久磁石26が固定されている。モータ2の回転状態(例えば、回転数や回転力)は、ステータ21に巻装された電機子コイルに流れる駆動電流を変化させることによって制御される。すなわち、ロータ22は、複数相のコイルにより発生する磁界により正逆回転する。
ロータ軸24の先端部には、ウォーム31が形成されている。ウォーム31には、ギアボックス3に回動自在に支持されたヘリカルギア32が噛合している。以下の説明において、ウォーム31とヘリカルギア32とによる回転数の減速機構のことを減速機ともいう。
【0016】
図2は、本実施形態のウォーム31とヘリカルギア32との噛み合いの状態の一例を示す図である。ヘリカルギア32には、ギアボックス3に回動自在に軸承される出力軸33が一体に取り付けられている。モータ2の駆動力は、ウォーム31、ヘリカルギア32を経て減速された状態で出力軸33に出力される。
【0017】
出力軸33には、ワイパ装置のクランクアーム(不図示)が取り付けられている。モータ2が作動すると出力軸33を介してクランクアームが駆動され、クランクアームと接続されたリンク機構を介してワイパアームが作動する。ワイパアームにはワイパブレードが取り付けられており、ワイパブレードは、モータ2の回転に伴って、フロントガラス面上において往復払拭動作を行う。
【0018】
[インバータの構成例]
図3は、本実施形態のモータ装置1の機能構成の一例を示す図である。
インバータ50は、制御部60が生成した駆動信号に基づいて、バッテリ53から供給される直流電力から駆動電流を生成することにより、モータ2を回転駆動させる。
インバータ50は、3相ブリッジ接続された6個のスイッチング素子51a~51fと、ダイオード52a~52fとを備える。
スイッチング素子51a~51fは、例えば、NチャネルMOSFET(MetalOxideSemiconductorFieldEffectTransistor)であり、3相のブリッジ回路を構成している。
ダイオード52a~52fは、いずれもいわゆる還流ダイオードである。
【0019】
[モータの構成例]
モータ2は、例えば、3相4極形のブラシレスモータである。
ステータ21は、モータ2のケースの内周に固定されている。ステータ21は、3相の電機子コイル(21u、21v、21w)を備える。ステータ21は、3相の電機子コイル(21u、21v、21w)が巻装されている。これら3相の電機子コイル(21u、21v、21w)は、デルタ結線によって接続される。
なお、同図では3相の電機子コイル(21u、21v、21w)がデルタ結線によって接続されている一例を示すが、3相の電機子コイルはスター結線によって接続されていてもよい。
【0020】
ホールセンサ23は、センサマグネット22bの磁束を検出することにより、センサマグネット22bとともに回転するロータ軸24の回転位置を検出する。すなわち、ホールセンサ23は、ロータ22の回転位置を検出する。モータ装置1は、複数のホールセンサ23(例えば、ホールセンサ23u、ホールセンサ23v、ホールセンサ23wの3つ)を備える。ホールセンサ23からのパルス信号は、制御部60に出力される。
【0021】
[制御部(モータ制御装置)の構成例]
制御部60は、例えば、CPU(CentralProcessingUnit)などを含むプロセッサであり、複数相のコイルへの印加電流を各相ごとに制御する。
具体的には、制御部60は、PWM(PulseWithModulation:パルス幅変調)制御を行い、目標のロータ22の回転出力(例えば、目標回転数)に応じたデューティ比を設定し、設定したデューティ比に応じた駆動信号をインバータ50に出力する。
より具体的には、制御部60は、ホールセンサ23からのパルス信号に基づいて、ロータ軸24の回転数と回転方向とを検出する。制御部60は、検出したロータ軸24の回転数に基づいて、電源電圧をON/OFFさせることにより所定のデューティ比の駆動電流を生成し、生成した駆動電流をモータ2に供給することで、モータ2をフィードバック制御する。
なお、制御部60のことをモータ制御装置ともいう。
【0022】
制御部60は、ゲート制御電圧出力部61と、PWM制御部62と、進角制御部63と、記憶部64とを備える。
【0023】
PWM制御部62は、ホールセンサ23u,23v,23wの出力に基づいて、スイッチング素子51a~51fのON/OFF状態を切り替えるPWM信号(駆動信号)を生成する。PWM制御部62は、生成した駆動信号をゲート制御電圧出力部61に出力する。
ゲート制御電圧出力部61は、PWM制御部62が生成した駆動信号に基づいたゲート制御電圧をスイッチング素子51a~51fのゲート端子に出力することにより、スイッチング素子51a~51fを駆動する。
【0024】
進角制御部63は、PWM制御部62が生成する駆動信号を進角させる必要がある場合に、進角制御を行う。進角制御とは、電機子コイルのインダクタンスによって生じる駆動電流(相電流)の位相遅れによる回転力の変化に起因する駆動音や振動の悪化を抑制するため、複数相のコイルへの通電タイミングを制御し駆動電流の位相を進めさせる(あるいは遅らせる)制御である。本実施形態の一例では、進角制御部63は、ロータ22の回転数に対応付けられた進角補正量に基づいて、ホールセンサ23が検出するロータ22の回転位置に対して駆動電流の位相を進めさせる(あるいは遅らせる)ようにして、駆動電流の進角を制御する。
【0025】
記憶部64には、進角補正情報が記憶されている。進角補正情報とは、ホールセンサ23が検出するロータ22の回転位置からの進角の程度を示す情報である。すなわち、記憶部64は、ホールセンサ23(位置検出センサ)が検出する回転位置からの進角の程度を示す進角補正情報を記憶する。
【0026】
進角制御部63は、進角制御を行う所定の条件(例えば、高車速領域でワイパを駆動する場合の車速条件)が成立すると、記憶部64に記憶されている進角補正情報と、PWM制御部62が検出しているロータ22の回転数とに基づいて、進角補正量を算出する。進角制御部63は、算出した進角補正量に基づいて、進角制御を行う。
すなわち、進角制御部63は、制御部60に設けられ、ホールセンサ23(位置検出センサ)の出力信号と、記憶部64に記憶された進角補正情報とに基づいて、複数相のコイルへの通電タイミングを変更する進角制御を行う。
【0027】
進角補正情報は、モータ装置1の工場出荷前の工程(例えば、調整工程や検査工程)において、進角設定装置100によってモータ装置1の記憶部64に設定され(書き込まれ)る。進角設定装置100の構成例について説明する。
【0028】
[進角設定装置の構成例]
進角設定装置100は、記憶部110と、CPUなどを含むプロセッサとを備えている。進角設定装置100は、回転数差計測部120と、第1進角補正情報取得部131と、第2進角補正情報取得部132と、第1進角補正量算出部141と、第2進角補正量算出部142と、進角補正情報書込部150とを、プロセッサの機能部として備える。
【0029】
記憶部110には、第1進角補正情報と、第2進角補正情報とが記憶されている。まず第1進角補正情報を用いた進角設定について説明する。
【0030】
[第1進角補正情報を用いた進角設定]
図4は、本実施形態の第1進角補正情報の一例を示す図である。第1進角補正情報とは、通電タイミングの進角の変化量に対するロータ22の回転数の変化量である回転数変化率に基づいて予め算出されている、ロータ22の正回転時の回転数と逆回転時の回転数との回転数差と、進角補正量との対応関係を示す情報である。
進角の変化量に対する回転数の変化量は、モータ装置1の設計段階において定まる。したがって、モータ装置1の設計段階において、ロータ22の正回転時の回転数と逆回転時の回転数との回転数差と、進角補正量との対応関係が定まる。つまり、第1進角補正情報は、モータ装置1の設計段階において定まる、ロータ22の正回転時の回転数と逆回転時の回転数との回転数差と、進角補正量との対応関係を示している。
なお、第1進角補正情報の進角補正量においては、減速機の減速効率(伝達効率)の正逆回転差が加味されていない。
【0031】
進角補正値の設定の具体的な手順について、図5を参照して説明する。
図5は、本実施形態の進角補正値の設定の流れの一例を示す図である。
(ステップS110)回転数差計測部120は、複数相のコイルへ所定の電流を印加した時のロータ22の正回転時の回転数と逆回転時の回転数との差であるロータ22の回転数差を計測する。
具体的には、進角設定装置100は、進角設定対象のモータ装置1が接続されると、モータ装置1の制御部60に対して正回転指令と逆回転指令とを順次出力する。回転数差計測部120は、モータ装置1の制御部60から、ロータ22の正回転時の回転数と、ロータ22の逆回転時の回転数とを、それぞれ取得する。回転数差計測部120は、取得した正回転時の回転数と、逆回転時の回転数との差を算出する。
【0032】
(ステップS120)第1進角補正情報取得部131は、記憶部110から第1進角補正情報を取得する。第1進角補正量算出部141は、第1進角補正情報取得部131が取得する第1進角補正情報と、ステップS110において回転数差計測部120が算出したロータ22の正逆回転数差とに基づいて、第1進角補正量を算出する。
第1進角補正量とは、モータ装置1の出力軸33の正回転時の回転数と逆回転時の回転数との差である出力軸回転数差がより小さくなるように算出される補正量である。第1進角補正量は、ロータ22の回転方向毎に第1正転進角補正量と第1逆転進角補正量として算出される。
この第1進角補正量は、モータ装置1の設計時のロータ22の正逆回転数差と進角補正量との対応関係に基づいて算出される値であり、組み立てられたモータ装置1ごとに異なる固有の値である。
【0033】
図6は、本実施形態の第1進角補正量の設定例を示す図である。同図には、回転数差計測部120が取得した正回転時の回転数が2000(rpm)であり、逆回転時の回転数が1000(rpm)である場合を一例として示す。
ここで、ロータ22の正回転時の回転数と逆回転時の回転数との回転数差は、ロータ22が正回転している場合には、逆回転時の回転数から正回転時の回転数を差し引いた回転数であり、ロータ22が逆回転している場合には、正回転時の回転数から逆回転時の回転数を差し引いた回転数である。
同図の一例の場合、ロータ22が正回転している状態での回転数差は、1000rpm-2000rpm=-1000rpmである。この場合、第1進角補正量算出部141は、-9度を第1正転進角補正量として算出する。
また、ロータ22が逆回転している状態での回転数差は、2000rpm-1000rpm=1000rpmである。この場合、第1進角補正量算出部141は、+9度を第1逆転進角補正量として算出する。
【0034】
なお、第1進角補正量算出部141は、出力軸33の正回転時の回転数と逆回転時の回転数との中間値を、進角補正後の出力軸33の回転数の目標値とすることにより、出力軸33回転数差がより小さくなるように第1進角補正量を算出する。
【0035】
図5に戻り、進角補正情報書込部150は、算出された第1進角補正量(第1正転進角補正量及び第1逆転進角補正量)が、補正上限値未満であるか否かを判定する。この補正上限値は、モータ装置1の回転力伝達系が破損している場合や、ホールセンサ23とセンサマグネット22bとの相対位置が許容誤差以上となっている場合を考慮して設定される。
進角補正情報書込部150は、算出された第1進角補正量が補正上限値未満であると判定した場合(ステップS120;YES)には、処理をステップS130に進める。進角補正情報書込部150は、算出された第1進角補正量が補正上限値未満でないと判定した場合(ステップS120;NO)には、処理をステップS140に進める。
【0036】
(ステップS130)進角補正情報書込部150は、第1進角補正量(第1正転進角補正量及び第1逆転進角補正量)をモータ装置1毎の進角補正情報として記憶部64に記憶させる。
なお、モータ装置1の設計時において、電機子コイルのインダクタンスなどに基づく進角設定値である基本進角設定値が予め求められている。進角補正情報書込部150は、この基本進角設定値に対して、ステップS120で算出された第1進角補正量(第1正転進角補正量及び第1逆転進角補正量)を加えた値を記憶部64に記憶させてもよい。
【0037】
(ステップS140)第1進角補正量が補正上限値以上である場合には、進角設定装置100は、モータ装置1の進角補正量に異常が生じていると判定し、進角補正量の書き込みを行わずに処理を終了する。この場合、進角設定装置100は、モータ装置1が不良品であることを示す表示をしてもよい。
【0038】
[第2進角補正情報を用いた進角設定]
次に、第2進角補正情報を用いた進角設定について説明する。
図7は、本実施形態の第2進角補正情報の一例を示す図である。第2進角補正情報とは、減速機における伝達効率の正逆回転差を加味した進角補正量を示す情報である。この第2進角補正情報は、モータ2とギアボックス3とが組み合わされた状態での、ロータ22の正回転時の伝達効率と逆回転時の伝達効率との差を、モータ装置1の設計段階における実験やシミュレーションなどによって求めることによって、予め算出されたものである。
すなわち、第2進角補正情報とは、ロータ22の正回転時の出力軸33トルクと減速機における伝達効率との対応関係、及びロータ22の逆回転時の出力軸33トルクと減速機における伝達効率との対応関係に基づいて予め算出されている、ロータ22の正回転時の回転数と逆回転時の回転数との回転数差と、進角補正量との対応関係を示す進角補正情報である。
【0039】
図2を参照して説明したように、本実施形態のモータ装置1の減速機は、ウォーム31(第1減速部)と、ヘリカルギア32(第2減速部)とを備えている。ウォーム31は、ロータ軸24(回転軸)に設けられ、ロータ軸24(回転軸)の軸方向と交差する方向に沿う歯すじを有している。ヘリカルギア32(第2減速部)は、ウォーム31(第1減速部)と噛合い、ロータ軸24(回転軸)の回転を減速して出力軸33に伝達する。
すなわち、モータ装置1の減速機は、ウォーム31の歯すじの方向と、ヘリカルギア32の歯すじの方向とが平行でない。このため、モータ装置1は、ロータ22の正回転時の伝達効率と、逆回転時の伝達効率とが互いに異なる。例えば図6に示したように、モータ装置1の出力軸33の回転力(出力軸トルク)と伝達効率(減速効率)との対応関係をプロットすると、ロータ22の正回転時の伝達効率と、逆回転時の伝達効率とに差が生じる。
この回転方向の違いによる伝達効率の差は、ロータ22が正回転している場合のロータ22の回転数と、ロータ22が逆回転している場合の回転数との差として現れる。
そこで、進角設定装置100は、モータ装置1の正逆回転数差と、上述した第2進角補正情報とに基づいて、減速機の減速効率(伝達効率)の正逆回転差を加味した進角補正量をモータ装置1に設定する。
【0040】
減速機の伝達効率の正逆回転差を加味した進角補正値の設定の具体的な手順について、図8を参照して説明する。
図8は、本実施形態の伝達効率の正逆回転差を加味した進角補正値の設定の流れの一例を示す図である。この一例では、上述した第1進角補正量と、第2進角補正量とを併せてモータ装置1に設定する場合について説明する。なお、第1進角補正量の設定については、上述した手順と同様であるため、適宜説明を省略する。
(ステップS210)回転数差計測部120は、複数相のコイルへ所定の電流を印加した時のロータ22の正回転時の回転数と逆回転時の回転数との差であるロータ22の回転数差を計測する。具体的な手順は、上述したステップS110と同様であるため、説明を省略する。
【0041】
(ステップS220)第1進角補正情報取得部131及び第1進角補正量算出部141は、上述したステップS120と同様にして、第1進角補正量を算出する。
第2進角補正情報取得部132は、記憶部110から第2進角補正情報を取得する。第2進角補正量算出部142は、取得された第2進角補正情報と、ステップS210において計測されたロータ22の回転数差とに基づいて、伝達効率の差による出力軸33の回転数差がより小さくなるように、第2進角補正量をロータ22の回転方向毎に第2正転進角補正量と第2逆転進角補正量として算出する。
【0042】
一例として、モータ装置1の出力軸33の回転力(出力軸トルク)は、0~10Nmの範囲で使用される。図7に示した第2進角補正情報の一例では、ロータ22の正回転時の伝達効率よりも、ロータ22の逆回転時の伝達効率の方が大きく、0~10Nmの範囲における伝達効率の正逆回転差が2ポイント~8ポイント程度ある。この場合、第2進角補正量算出部142は、出力軸33の正回転時の回転数と、出力軸33の逆回転時の回転数との差が小さくなるように、ロータ22の正回転時の進角補正量をより大きく(例えば+2度に)し、ロータ22の逆回転時の進角補正量をより小さく(例えば-2度に)する。つまり、この一例の場合、第2進角補正量算出部142は、+2度を第2正転進角補正量として算出し、-2度を第2逆転進角補正量として算出する。
【0043】
なお、第2進角補正量算出部142は、出力軸33の正回転時の回転数と逆回転時の回転数との中間値を、進角補正後の出力軸33の回転数の目標値とすることにより、出力軸33の正逆回転数差がより小さくなるように第2進角補正量を算出してもよい。
ここで、第2進角補正量は、ロータ22の回転方向の違いによる伝達効率の差を加味して算出される進角補正量である。このため、出力軸33の正逆回転数差がより小さくなるように第2進角補正量を算出した場合、ロータ22の正回転時の回転数と、逆回転時の回転数とが互いに異なることになる。
【0044】
進角補正情報書込部150は、算出された第1正転進角補正量と第2正転進角補正量とを加算して第3正転進角補正量を算出する。また、進角補正情報書込部150は、第1逆転進角補正量と第2逆転進角補正量とを加算して第3逆転進角補正量を算出する。
具体的には、第1正転進角補正量が-9度であり、第2正転進角補正量が+2度である場合、進角補正情報書込部150は、-7度を第3正転進角補正量として算出する。第1逆転進角補正量が+9度であり、第2逆転進角補正量が-2度である場合、進角補正情報書込部150は、+7度を第3逆転進角補正量として算出する。
【0045】
進角補正情報書込部150は、算出した第3進角補正量(第3正転進角補正量及び第3逆転進角補正量)が、補正上限値未満であるか否かを判定する。この補正上限値は、モータ装置1の回転力伝達系が破損している場合や、ホールセンサ23とセンサマグネット22bとの相対位置が許容誤差以上となっている場合を考慮して設定される。
進角補正情報書込部150は、算出した第3進角補正量が補正上限値未満であると判定した場合(ステップS220;YES)には、処理をステップS230に進める。進角補正情報書込部150は、算出した第3進角補正量が補正上限値未満でないと判定した場合(ステップS220;NO)には、処理をステップS240に進める。
【0046】
(ステップS230)進角補正情報書込部150は、算出された第3進角補正量(第3正転進角補正量及び第3逆転進角補正量)をモータ装置1毎の進角補正情報として記憶部64に記憶させる。
【0047】
(ステップS240)第3進角補正量が補正上限値以上である場合には、進角設定装置100は、モータ装置1の進角補正量に異常が生じていると判定し、進角補正量の書き込みを行わずに処理を終了する。この場合、進角設定装置100は、モータ装置1が不良品であることを示す表示をしてもよい。
【0048】
図9は、本実施形態のモータ装置1における進角補正前の回転力と回転数及び駆動電流との対応関係の一例を示す図である。進角補正前においては、回転力と駆動電流との対応関係及び回転力と駆動電流との対応関係について、正回転時と逆回転時との間に差が生じている。
図10は、本実施形態のモータ装置1における進角補正後の回転力と回転数及び駆動電流との対応関係の一例を示す図である。進角補正後においては、回転力と駆動電流との対応関係及び回転力と駆動電流との対応関係について、正回転時と逆回転時との間の差が、進角補正前に比べて少なくなっている。
【0049】
なお、上述したようにモータ装置1は、自動車用ワイパ装置や、サンルーフ装置の駆動源として使用される。この場合、自動車用ワイパ装置やサンルーフ装置は、モータ装置1の出力軸33によって車両の前後方向に駆動される被駆動部とを備える車載装置であるともいえる。
例えば、車載装置の被駆動部が車両の窓を払拭するワイパブレードであれば自動車用ワイパ装置であり、車載装置の被駆動部が車両の進行方向にスライド開閉する電動窓であればサンルーフ装置である。
この場合、被駆動部(例えば、ワイパブレードや電動窓)の被駆動方向と車両の走行方向とが対向する場合(つまり、被駆動部が車両の進行方向に逆らって駆動される場合)には、被駆動部が車両の走行風の風上側から風下側に駆動される。この場合、被駆動部が車両の走行風の風下側から風上側に駆動される場合に比べて、少ない回転力で被駆動部を駆動することができる。逆に、被駆動部が車両の走行風の風下側から風上側に駆動される場合には、より大きな回転力で被駆動部を駆動することが求められる。
このように、被駆動部が車両の進行方向に沿って駆動される装置の場合には、被駆動部の被駆動方向と車両の走行方向とが対向する場合のロータ22の回転方向を逆回転とした場合に、正回転の進角量をより大きくし、逆回転の進角量をより小さくするように、進角補正量が設定されていてもよい。
例えば、進角補正情報書込部150は、算出された第1進角補正量または第3進角補正量が補正上限値未満であると判定した場合(ステップS120;YESまたはステップS220;YES)、処理をステップS130またはステップS230に進める前に、第1進角補正量または第3進角補正量にさらに第4進角補正量を加算する。ここで、第4進角補正量は、正回転の進角量を増加させ、かつ逆回転の進角量を減少させるように加算される。例えば、第4進角補正量は、正回転の進角量が正の値の範囲で設定され、逆回転の進角量が負の値の範囲で設定される。
なお、第4進角補正量は、車両や車載装置の仕様(車両の窓の大きさや取付角度、ワイパ装置のリンク機構の構造など)や、車両に対する車載装置の取付位置、車載装置に対するモータ装置1の取付方向などに応じて予め所定値に設定しておき、記憶部110に格納しておくように設定してもよい。
【0050】
また、被駆動部が車両の進行方向に沿って駆動される装置の場合には、制御部60は、車速が閾値以上の場合に第4進角補正量を加算するように構成されていてもよい。この場合、制御部60は、車両から車速情報を取得し、記憶部64に記憶されている進角補正量情報による進角補正量に、取得した車速情報に基づく第4進角補正量を加算して、モータ2の進角補正量を算出してもよい。
なお、制御部60は、被駆動部が車両の進行方向に駆動される場合と、車両の進行方向に逆らって駆動される場合とで、進角量を異ならせて制御してもよい。例えば、制御部60は、被駆動部が車両の進行方向に駆動される場合には進角量を増加させず(又は進角量を減少させ)、被駆動部が車両の進行方向に逆らって駆動される場合には進角量を増加させるように制御してもよい。
【0051】
また、車速情報が取得できない場合には、制御部60は、正回転時の駆動電流のデューティ比と、逆回転時の駆動電流のデューティ比とを比較し、デューティ比の差が所定の閾値を超えていれば、第4進角補正値を加算するようにしてもよい。すなわち、制御部60は、複数相のコイルへの印加電流をパルス幅変調することによりロータ22の回転力を制御し、正回転時の印加電流のデューティ比と逆回転時の印加電流のデューティ比との差が、所定の閾値以上である場合に進角量を増加させるようにしてもよい。
【0052】
また、車速情報が取得できない場合には、制御部60は、正回転時の駆動電流のデューティ比と、逆回転時の駆動電流のデューティ比とを比較し、デューティ比の差が所定の閾値を超えていれば、第4進角補正値を加算するようにしてもよい。すなわち、制御部60は、複数相のコイルへの印加電流をパルス幅変調することによりロータ22の回転力を制御する場合に、正回転時の印加電流のデューティ比と逆回転時の印加電流のデューティ比との差が、所定の閾値以上である場合に第4進角量を増加させるようにしてもよい。
また、制御部60は、複数相のコイルへの印加電流をパルス幅変調することによりロータ22の回転力を制御する場合に、印加電流のデューティ比が、所定の閾値以上である場合に第4進角量を増加させるようにしてもよい。
【0053】
上述のように構成されたモータ装置1によれば、回転数をモータ装置1毎に個別に測定したうえで、ロータ22の正回転時の進角量と逆回転時の進角量とを個別に設定できる。このため、本実施形態のモータ装置1によれば、モータ装置1の製造ばらつきが生じたとしても、正回転時の駆動電流の通電タイミングと、逆回転時の駆動電流の通電タイミングとをいずれも適正に制御することができる。この結果、本実施形態のモータ装置1によれば、モータ装置1の製造ばらつきに起因する不適正な通電タイミングによる作動音や振動を低減することができる。
また、本実施形態のモータ装置1によれば、ロータ22の正回転時の進角量と逆回転時の進角量とを個別に設定できるため、左右の勝手違い(例えば、右ハンドル車と左ハンドル車の違い)によって仕様ごとに回転方向が入れ替わるような場合でも、仕様ごとに正逆の進角量を入れ替えて設定することができる。このため、本実施形態のモータ装置1によれば、左右の勝手違いによる製品バリエーションの増加を抑止することができる。
【0054】
また、本実施形態のモータ装置1によれば、減速機の伝達効率の正逆回転差を加味した進角補正量をロータ22の回転方向毎に個別に設定できる。このため、本実施形態のモータ装置1によれば、回転方向によって伝達効率が大きく変化する形式の減速機(例えば、ギアの噛み合わせによってスラスト荷重が生じるウォームギアとヘリカルギアとの組み合わせや、平行軸の円弧歯車の組み合わせによる減速機)を用いた場合でも、減速機の出力軸の正逆回転数差を低減することができる。
【0055】
また、本実施形態のモータ制御装置は、上述したように作動音や振動を低減できるため、駆動に要する電力を低減することができる。したがって、本実施形態のモータ制御装置によれば、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「全ての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」の達成に寄与することができる。
【0056】
なお、上述した実施形態では、制御部60が、PWM制御部62と、進角制御部63と、記憶部64とを備える場合を一例にして説明したが、これに限られない。PWM制御部62、進角制御部63及び記憶部64は、モータ装置1が備える他の装置や、モータ装置1の外部にある装置に備えられていてもよい。
【0057】
制御部60が有する機能の少なくとも一部は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等の回路部(circuitry)を含むハードウェアにより実現されてもよい。或いは、モータ制御装置30が有する機能の少なくとも一部は、ソフトウェアとハードウェアの協働により実現されてもよい。また、これらのハードウェアは、一つに統合されていてもよいし、複数に分かれていてもよい。
【0058】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明した。ただし、モータ制御装置及びモータ制御方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形、置換、組み合わせ及び設計変更の少なくとも一つを加えることができる。
【0059】
また、上述した本発明の実施形態の効果は、一例として説明した効果である。したがって、本発明の実施形態は、上述した効果以外にも上述した実施形態の記載から当業者が認識し得る他の効果も奏し得る。
【符号の説明】
【0060】
1…モータ装置、11…ケースフレーム、2…モータ、21…ステータ、22…ロータ、23…ホールセンサ、24…ロータ軸、26…永久磁石、3…ギアボックス、31…ウォーム、32…ヘリカルギア、33…出力軸、50…インバータ、60…制御部、61…ゲート制御電圧出力部、62…PWM制御部、63…進角制御部、64…記憶部、100…進角設定装置、110…記憶部、120…回転数差計測部、131…第1進角補正情報取得部、132…第2進角補正情報取得部、141…第1進角補正量算出部、142…第2進角補正量算出部、150…進角補正情報書込部
図1
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図7
図8
図9
図10