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特開2023-108712ディスパッチ計画作成装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108712
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】ディスパッチ計画作成装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20120101AFI20230731BHJP
【FI】
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009903
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】宇野 侑希
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 淳
(72)【発明者】
【氏名】近田 智洋
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC06
(57)【要約】
【課題】指令値の達成を実現し、過去のディスパッチ計画に対する遵守率が低いエネルギーリソースのディマンドリスポンスの発動が行われないようにする。
【解決手段】ディスパッチ計画作成装置は、過去の実績発電量と計画発電量との差に基づいてエネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標を算出する指標算出部40と、電気事業者からの指令値と計画発電量の合計を一致させる制約式を少なくとも設定し、エネルギーリソース毎の指標にエネルギーリソース個々の発動状態を示す状態変数を乗算して全てのエネルギーリソースについて合計するという目的関数を設定する最適化問題定式化部42と、制約式の下で、目的関数値が最小となる、エネルギーリソース毎の状態変数の値である状態値と計画発電量とをディスパッチ計画の最適化問題の解として求める求解部43を備える。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギーリソースの消費電力の変化量を発電量とし、過去の実績発電量と計画発電量との差に基づいてエネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標を算出するように構成された指標算出部と、
電気事業者からの指令値と計画発電量の合計を一致させる制約式を少なくとも設定し、前記エネルギーリソース毎の指標にエネルギーリソース個々の発動状態を示す状態変数を乗算して全てのエネルギーリソースについて合計するという目的関数を設定して、ディスパッチ計画の最適化問題を定式化するように構成された最適化問題定式化部と、
前記制約式の下で、前記目的関数値が最小となる、エネルギーリソース毎の状態変数の値である状態値と計画発電量とをディスパッチ計画の最適化問題の解として求めるように構成された求解部とを備えることを特徴とするディスパッチ計画作成装置。
【請求項2】
請求項1記載のディスパッチ計画作成装置において、
作成するディスパッチ計画のエネルギーリソース毎の計画発電量の上下限値を、エネルギーリソースの運用上の制約とエネルギーリソースの発電能力の上下限値とに基づいて設定するように構成された計画発電量上下限値設定部をさらに備え、
前記最適化問題定式化部は、前記指令値と前記エネルギーリソースの発電能力の上下限値と前記計画発電量上下限値設定部によって設定された計画発電量の上下限値とに基づいてディスパッチ計画の最適化問題の制約式を設定することを特徴とするディスパッチ計画作成装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のディスパッチ計画作成装置において、
前記指標算出部は、エネルギーリソースが過去に発動したときの実績発電量と計画発電量との差の分布のばらつきを表すエネルギーリソース毎の統計量を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とすることを特徴とするディスパッチ計画作成装置。
【請求項4】
請求項3記載のディスパッチ計画作成装置において、
前記指標算出部は、エネルギーリソースに対して過去にディマンドリスポンス指令が発動されたときの実績発電量と計画発電量との差の分布の分散をエネルギーリソース毎に算出し、作成するディスパッチ計画のエネルギーリソース毎の計画発電量に前記分散を乗算した値を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とすることを特徴とするディスパッチ計画作成装置。
【請求項5】
請求項3記載のディスパッチ計画作成装置において、
前記指標算出部は、エネルギーリソースに対して過去にディマンドリスポンス指令が発動されたときの実績発電量と計画発電量との差の絶対値をエネルギーリソース毎に算出し、差の絶対値のうちの最大値をエネルギーリソース毎に求め、作成するディスパッチ計画のエネルギーリソース毎の計画発電量に前記最大値を乗算した値を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とすることを特徴とするディスパッチ計画作成装置。
【請求項6】
請求項1または2記載のディスパッチ計画作成装置において、
前記指標算出部は、エネルギーリソースに対して過去にディマンドリスポンス指令が発動されたときの実績発電量と計画発電量との差の絶対値を時間区間毎およびエネルギーリソース毎に算出し、前記差の絶対値がこの絶対値の算出対象となった時間区間における計画発電量の所定割合を上回った第1の回数をエネルギーリソース毎に算出して、前記第1の回数をエネルギーリソースに対してディマンドリスポンス指令が発動された第2の回数で除算した結果をエネルギーリソース毎に算出し、作成するディスパッチ計画のエネルギーリソース毎の計画発電量に前記除算の結果を乗算した値を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とすることを特徴とするディスパッチ計画作成装置。
【請求項7】
請求項1または2記載のディスパッチ計画作成装置において、
エネルギーリソースの過去の環境データと、作成するディスパッチ計画を実施する計画区間における前記環境データの値とを取得するように構成された環境データ取得部をさらに備え、
前記指標算出部は、エネルギーリソースに対して過去にディマンドリスポンス指令が発動されたときの実績発電量と計画発電量との差のデータと、前記差のデータの算出対象となった環境データとを学習データとして、前記差のデータと前記環境データとの関係式に前記学習データを代入して関係式のモデルパラメータ値を算出し、前記関係式に、前記関係式のモデルパラメータ値と前記環境データの値とを代入して前記推定値を算出し、作成するディスパッチ計画のエネルギーリソース毎の計画発電量に前記推定値を乗算した値を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とすることを特徴とするディスパッチ計画作成装置。
【請求項8】
請求項4乃至7のいずれか1項に記載のディスパッチ計画作成装置において、
前記指標算出部は、前記指標算出のための前記乗算に用いる計画発電量を絶対値とすることを特徴とするディスパッチ計画作成装置。
【請求項9】
エネルギーリソースの消費電力の変化量を発電量とし、過去の実績発電量と計画発電量との差に基づいてエネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標を算出する第1のステップと、
電気事業者からの指令値と計画発電量の合計を一致させる制約式を少なくとも設定し、前記エネルギーリソース毎の指標にエネルギーリソース個々の発動状態を示す状態変数を乗算して全てのエネルギーリソースについて合計するという目的関数を設定して、ディスパッチ計画の最適化問題を定式化する第2のステップと、
前記制約式の下で、前記目的関数値が最小となる、エネルギーリソース毎の状態変数の値である状態値と計画発電量とをディスパッチ計画の最適化問題の解として求める第3のステップとを含むことを特徴とするディスパッチ計画作成方法。
【請求項10】
請求項9記載のディスパッチ計画作成方法において、
作成するディスパッチ計画のエネルギーリソース毎の計画発電量の上下限値を、エネルギーリソースの運用上の制約とエネルギーリソースの発電能力の上下限値とに基づいて設定する第4のステップをさらに含み、
前記第2のステップは、前記指令値と前記エネルギーリソースの発電能力の上下限値と前記第4のステップによって設定された計画発電量の上下限値とに基づいてディスパッチ計画の最適化問題の制約式を設定するステップを含むことを特徴とするディスパッチ計画作成方法。
【請求項11】
請求項9または10記載のディスパッチ計画作成方法において、
前記第1のステップは、エネルギーリソースが過去に発動したときの実績発電量と計画発電量との差の分布のばらつきを表すエネルギーリソース毎の統計量を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とするステップを含むことを特徴とするディスパッチ計画作成方法。
【請求項12】
請求項11記載のディスパッチ計画作成方法において、
前記第1のステップは、エネルギーリソースに対して過去にディマンドリスポンス指令が発動されたときの実績発電量と計画発電量との差の分布の分散をエネルギーリソース毎に算出し、作成するディスパッチ計画のエネルギーリソース毎の計画発電量に前記分散を乗算した値を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とするステップを含むことを特徴とするディスパッチ計画作成方法。
【請求項13】
請求項11記載のディスパッチ計画作成方法において、
前記第1のステップは、エネルギーリソースに対して過去にディマンドリスポンス指令が発動されたときの実績発電量と計画発電量との差の絶対値をエネルギーリソース毎に算出し、差の絶対値のうちの最大値をエネルギーリソース毎に求め、作成するディスパッチ計画のエネルギーリソース毎の計画発電量に前記最大値を乗算した値を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とするステップを含むことを特徴とするディスパッチ計画作成方法。
【請求項14】
請求項9または10記載のディスパッチ計画作成方法において、
前記第1のステップは、エネルギーリソースに対して過去にディマンドリスポンス指令が発動されたときの実績発電量と計画発電量との差の絶対値を時間区間毎およびエネルギーリソース毎に算出し、前記差の絶対値がこの絶対値の算出対象となった時間区間における計画発電量の所定割合を上回った第1の回数をエネルギーリソース毎に算出して、前記第1の回数をエネルギーリソースに対してディマンドリスポンス指令が発動された第2の回数で除算した結果をエネルギーリソース毎に算出し、作成するディスパッチ計画のエネルギーリソース毎の計画発電量に前記除算の結果を乗算した値を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とするステップを含むことを特徴とするディスパッチ計画作成方法。
【請求項15】
請求項9または10記載のディスパッチ計画作成方法において、
エネルギーリソースの過去の環境データと、作成するディスパッチ計画を実施する計画区間における前記環境データの値とを取得する第5のステップをさらに含み、
前記第1のステップは、エネルギーリソースに対して過去にディマンドリスポンス指令が発動されたときの実績発電量と計画発電量との差のデータと、前記差のデータの算出対象となった環境データとを学習データとして、前記差のデータと前記環境データとの関係式に前記学習データを代入して関係式のモデルパラメータ値を算出し、前記関係式に、前記関係式のモデルパラメータ値と前記環境データの値とを代入して前記推定値を算出し、作成するディスパッチ計画のエネルギーリソース毎の計画発電量に前記推定値を乗算した値を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とするステップを含むことを特徴とするディスパッチ計画作成方法。
【請求項16】
請求項12乃至15のいずれか1項に記載のディスパッチ計画作成方法において、
前記第1のステップは、前記指標算出のための前記乗算に用いる計画発電量を絶対値とすることを特徴とするディスパッチ計画作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギーリソースの運転計画であるディスパッチ計画を作成するディスパッチ計画作成装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本政府は、第五次エネルギー基本計画(2018年7月閣議決定)において、将来的に再生可能エネルギーを主力電源化するとした上で、既に自由化されたエネルギー市場における競争促進、安定供給の確保、再生可能エネルギーの推進を含む環境適合、および需要家間の公平性確保など公益的課題に対応できるエネルギー市場の環境整備に取り組むと定めた。
【0003】
これらをまとめたエネルギー政策の基本的視点として、「エネルギーの安定供給を第一として、経済効率性を向上しつつ環境適合を図る」ことが記されることとなった。そして、この基本的視点での主目的であるエネルギーの安定供給を実現し、持続可能な社会の実現に貢献するための手段の1つとして、ディマンドリスポンス(DR)を活用する旨が明記されており、DRに関する制度設計、システム技術などが広く注目されることとなった。
【0004】
DRとは、電力供給の安定化に関する義務を負う電気事業者による電力供給の安定化を目的として、需要家が電力料金の設定やインセンティブの支払いに応じる形で、需要家側の発電設備、蓄電設備、電力消費設備(以後、これらの設備をまとめてエネルギーリソースと呼ぶ)を制御して電力需要を変化させることである。
【0005】
DRの役割としては、電力供給を維持する電力容量確保のために電力需要のピーク時に需要家側が電力使用を抑制することと、安定した電力供給にかかせないリアルタイムでの電力需給を調整するために需要家側の電力使用のパターンを変更すること、の2つが代表例として挙げられる。
【0006】
電気事業者と需要家との間には、電気事業者から委託を受けてDRを実施する事業者が介在することがある。電気事業者は、DRを実施する事業者に電力需要を変化させるように指令し、指令を受けた事業者等は、その目標を達成するようにエネルギーリソースを制御する方式が採られている。DRを実施する事業者は、電気事業者からの指令に沿うようにエネルギーリソースを制御する必要があることになる。
【0007】
そのため、DRを実施する事業者は、従来型の大規模発電所のように単独で電気事業者の目標を達成できないような需要家側の小規模エネルギーリソースであっても、電気事業者が要望する指令に沿うように小規模エネルギーリソースを複数集めて統合して制御することで目標を達成することを行っている。電気事業者からの指令を受け、複数のエネルギーリソースを統合制御してDRを実現する主体である事業者は、アグリゲーターと呼ばれている。
【0008】
アグリゲーターがDRを行う場合、アグリゲーターには、電気事業者の指令する指令値を達成するようにエネルギーリソースを制御することが求められる。そのため、アグリゲーターが指令値を達成するように複数のエネルギーリソースを統合制御するにあたり、少なくとも統合制御を開始する直前までには、エネルギーリソースに関するディスパッチ計画を策定するという方法が採られている。
【0009】
ディスパッチ計画とは、エネルギーリソースを起動するのか停止するのか、エネルギーリソースの制御設定をどのようにするのかということを、全てのエネルギーリソースに対して計画するものであり、エネルギーリソースの運転計画のことである。アグリゲーターは、電気事業者との間で、指令値を達成できなかった場合にアグリゲーターにペナルティ料金などの不利益が生じるような契約を交わすことが一般的である。よって、アグリゲーターがディスパッチ計画を策定する際は、ペナルティ料金などの不利益を生じさせないために、指令値をできるだけ達成できるような計画を策定することが望ましい。
【0010】
なお、本発明では、消費電力量の減少(電力削減)を発電とみなし正の値で表すこととし、一方で消費電力量の増加を負の値で表すこととする。つまり、本発明での発電量とは、消費電力の変化量(正の値で削減量、負の値で増加量)を意味する。同様に、指令値とは、電気事業者が指令する消費電力の変化量(正の値で削減量、負の値で増加量)を意味する。
【0011】
従来技術として、特許文献1にディマンドリスポンス計画を作成する方法が開示されている。特許文献1に開示された方法は、ディスパッチ計画作成方法の一種であり、需要電力の削減目標と需要家の組合せ毎の需要電力の削減予測量との乖離の度合いに基づいて課されるペナルティ料金の期待値を最小化する方法である。指令値と過去の実績発電量に基づく予測量の乖離の度合いを計算しており、アグリゲーターが作成するディスパッチ計画は前述のようにできるだけ指令値を達成できるように作成することが望ましいため、ここではこの指令値から乖離することで発生すると予測されるペナルティ料金の期待値を最小化する最適化問題を扱っている。
【0012】
ただし、特許文献1に開示された方法は、エネルギーリソースの組み合わせ(すなわちポートフォリオ)を対象としたときの乖離の度合いを計算しているのであって、エネルギーリソース単体を対象にした乖離の度合いを考慮するものではない。特許文献1に開示された方法は、一般に知られている金融資産に関するポートフォリオ理論(非特許文献1、非特許文献2)の考え方と同一である。エネルギーリソース間の組み合わせの効果により、エネルギーリソースのポートフォリオを対象としたときの乖離の度合いは、組み合せを構成するエネルギーリソース単体を対象としたときの乖離の度合よりも低く評価されるものとなっている。
【0013】
上記のように、特許文献1に開示された方法では、エネルギーリソースの単体での過去の実績発電量と計画発電量の差のばらつき、すなわちエネルギーリソース個々の過去のディスパッチ計画に対する遵守率を評価していない。過去のディスパッチ計画に対する遵守率とは、アグリゲーターが個々のエネルギーリソースに対して決めた計画発電量に対してエネルギーリソースを保有する需要家がどの程度遵守して発電するか、その信頼の度合いを表すものである。遵守率が低い、すなわち信頼の度合が低いということは、アグリゲーターがエネルギーリソースを保有する需要家に対して指示した計画発電量に対してエネルギーリソースを保有する需要家が実施する実績発電量が計画発電量どおりに実現されないリスクが大きくなることを意味する。
【0014】
特許文献1に開示された方法では、エネルギーリソース個々の過去のディスパッチ計画に対する遵守率が評価されていないため、リスクの高いエネルギーリソースがディスパッチ計画の中に取り込まれてしまう可能性がある。その結果、計画発電量を実現できない実績発電量となってしまう。すなわち、電気事業者からの指令値を達成することが困難になることを意味する。指令値を達成することができず、指令値と実績発電量に乖離が生じた場合、アグリゲーターにとっては、ペナルティ料金の発生の他に、電気事業者との取引停止、ブランドイメージの毀損、信用の毀損が発生するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第6837761号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Harry Markowitz,“Portfolio Selection”,The Journal of Finance,Vol.7,No.1,pp.77-91,1952
【非特許文献2】Robert C.Merton,“An Analytic Derivation of the Efficient Portfolio Frontier”,The Journal of Financial and Quantitative Analysis,Vol.7,No.4 ,pp.1851-1872,1972
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、指令値の達成を実現すると共に、過去のディスパッチ計画に対する遵守率が低いエネルギーリソースのディマンドリスポンスの発動が行われないようなディスパッチ計画を作成することができるディスパッチ計画作成装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のディスパッチ計画作成装置は、エネルギーリソースの消費電力の変化量を発電量とし、過去の実績発電量と計画発電量との差に基づいてエネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標を算出するように構成された指標算出部と、電気事業者からの指令値と計画発電量の合計を一致させる制約式を少なくとも設定し、前記エネルギーリソース毎の指標にエネルギーリソース個々の発動状態を示す状態変数を乗算して全てのエネルギーリソースについて合計するという目的関数を設定して、ディスパッチ計画の最適化問題を定式化するように構成された最適化問題定式化部と、前記制約式の下で、前記目的関数値が最小となる、エネルギーリソース毎の状態変数の値である状態値と計画発電量とをディスパッチ計画の最適化問題の解として求めるように構成された求解部とを備えることを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明のディスパッチ計画作成装置の1構成例は、作成するディスパッチ計画のエネルギーリソース毎の計画発電量の上下限値を、エネルギーリソースの運用上の制約とエネルギーリソースの発電能力の上下限値とに基づいて設定するように構成された計画発電量上下限値設定部をさらに備え、前記最適化問題定式化部は、前記指令値と前記エネルギーリソースの発電能力の上下限値と前記計画発電量上下限値設定部によって設定された計画発電量の上下限値とに基づいてディスパッチ計画の最適化問題の制約式を設定することを特徴とするものである。
また、本発明のディスパッチ計画作成装置の1構成例において、前記指標算出部は、エネルギーリソースが過去に発動したときの実績発電量と計画発電量との差の分布のばらつきを表すエネルギーリソース毎の統計量を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とすることを特徴とするものである。
【0020】
また、本発明のディスパッチ計画作成装置の1構成例において、前記指標算出部は、エネルギーリソースに対して過去にディマンドリスポンス指令が発動されたときの実績発電量と計画発電量との差の分布の分散をエネルギーリソース毎に算出し、作成するディスパッチ計画のエネルギーリソース毎の計画発電量に前記分散を乗算した値を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とすることを特徴とするものである。
また、本発明のディスパッチ計画作成装置の1構成例において、前記指標算出部は、エネルギーリソースに対して過去にディマンドリスポンス指令が発動されたときの実績発電量と計画発電量との差の絶対値をエネルギーリソース毎に算出し、差の絶対値のうちの最大値をエネルギーリソース毎に求め、作成するディスパッチ計画のエネルギーリソース毎の計画発電量に前記最大値を乗算した値を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とすることを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明のディスパッチ計画作成装置の1構成例において、前記指標算出部は、エネルギーリソースに対して過去にディマンドリスポンス指令が発動されたときの実績発電量と計画発電量との差の絶対値を時間区間毎およびエネルギーリソース毎に算出し、前記差の絶対値がこの絶対値の算出対象となった時間区間における計画発電量の所定割合を上回った第1の回数をエネルギーリソース毎に算出して、前記第1の回数をエネルギーリソースに対してディマンドリスポンス指令が発動された第2の回数で除算した結果をエネルギーリソース毎に算出し、作成するディスパッチ計画のエネルギーリソース毎の計画発電量に前記除算の結果を乗算した値を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とすることを特徴とするものである。
【0022】
また、本発明のディスパッチ計画作成装置の1構成例は、エネルギーリソースの過去の環境データと、作成するディスパッチ計画を実施する計画区間における前記環境データの値とを取得するように構成された環境データ取得部をさらに備え、前記指標算出部は、エネルギーリソースに対して過去にディマンドリスポンス指令が発動されたときの実績発電量と計画発電量との差のデータと、前記差のデータの算出対象となった環境データとを学習データとして、前記差のデータと前記環境データとの関係式に前記学習データを代入して関係式のモデルパラメータ値を算出し、前記関係式に、前記関係式のモデルパラメータ値と前記環境データの値とを代入して前記推定値を算出し、作成するディスパッチ計画のエネルギーリソース毎の計画発電量に前記推定値を乗算した値を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とすることを特徴とするものである。
また、本発明のディスパッチ計画作成装置の1構成例において、前記指標算出部は、前記指標算出のための前記乗算に用いる計画発電量を絶対値とすることを特徴とするものである。
【0023】
また、本発明のディスパッチ計画作成方法は、エネルギーリソースの消費電力の変化量を発電量とし、過去の実績発電量と計画発電量との差に基づいてエネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標を算出する第1のステップと、電気事業者からの指令値と計画発電量の合計を一致させる制約式を少なくとも設定し、前記エネルギーリソース毎の指標にエネルギーリソース個々の発動状態を示す状態変数を乗算して全てのエネルギーリソースについて合計するという目的関数を設定して、ディスパッチ計画の最適化問題を定式化する第2のステップと、前記制約式の下で、前記目的関数値が最小となる、エネルギーリソース毎の状態変数の値である状態値と計画発電量とをディスパッチ計画の最適化問題の解として求める第3のステップとを含むことを特徴とするものである。
【0024】
また、本発明のディスパッチ計画作成方法の1構成例は、作成するディスパッチ計画のエネルギーリソース毎の計画発電量の上下限値を、エネルギーリソースの運用上の制約とエネルギーリソースの発電能力の上下限値とに基づいて設定する第4のステップをさらに含み、前記第2のステップは、前記指令値と前記エネルギーリソースの発電能力の上下限値と前記第4のステップによって設定された計画発電量の上下限値とに基づいてディスパッチ計画の最適化問題の制約式を設定するステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明のディスパッチ計画作成方法の1構成例において、前記第1のステップは、エネルギーリソースが過去に発動したときの実績発電量と計画発電量との差の分布のばらつきを表すエネルギーリソース毎の統計量を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とするステップを含むことを特徴とするものである。
【0025】
また、本発明のディスパッチ計画作成方法の1構成例において、前記第1のステップは、エネルギーリソースに対して過去にディマンドリスポンス指令が発動されたときの実績発電量と計画発電量との差の分布の分散をエネルギーリソース毎に算出し、作成するディスパッチ計画のエネルギーリソース毎の計画発電量に前記分散を乗算した値を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とするステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明のディスパッチ計画作成方法の1構成例において、前記第1のステップは、エネルギーリソースに対して過去にディマンドリスポンス指令が発動されたときの実績発電量と計画発電量との差の絶対値をエネルギーリソース毎に算出し、差の絶対値のうちの最大値をエネルギーリソース毎に求め、作成するディスパッチ計画のエネルギーリソース毎の計画発電量に前記最大値を乗算した値を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とするステップを含むことを特徴とするものである。
【0026】
また、本発明のディスパッチ計画作成方法の1構成例において、前記第1のステップは、エネルギーリソースに対して過去にディマンドリスポンス指令が発動されたときの実績発電量と計画発電量との差の絶対値を時間区間毎およびエネルギーリソース毎に算出し、前記差の絶対値がこの絶対値の算出対象となった時間区間における計画発電量の所定割合を上回った第1の回数をエネルギーリソース毎に算出して、前記第1の回数をエネルギーリソースに対してディマンドリスポンス指令が発動された第2の回数で除算した結果をエネルギーリソース毎に算出し、作成するディスパッチ計画のエネルギーリソース毎の計画発電量に前記除算の結果を乗算した値を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とするステップを含むことを特徴とするものである。
【0027】
また、本発明のディスパッチ計画作成方法の1構成例は、エネルギーリソースの過去の環境データと、作成するディスパッチ計画を実施する計画区間における前記環境データの値とを取得する第5のステップをさらに含み、前記第1のステップは、エネルギーリソースに対して過去にディマンドリスポンス指令が発動されたときの実績発電量と計画発電量との差のデータと、前記差のデータの算出対象となった環境データとを学習データとして、前記差のデータと前記環境データとの関係式に前記学習データを代入して関係式のモデルパラメータ値を算出し、前記関係式に、前記関係式のモデルパラメータ値と前記環境データの値とを代入して前記推定値を算出し、作成するディスパッチ計画のエネルギーリソース毎の計画発電量に前記推定値を乗算した値を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とするステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明のディスパッチ計画作成方法の1構成例において、前記第1のステップは、前記指標算出のための前記乗算に用いる計画発電量を絶対値とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、指標算出部と最適化問題定式化部と求解部とを設けることにより、電気事業者からの指令値の達成を実現すると共に、過去のディスパッチ計画に対する遵守率が低いエネルギーリソースのディマンドリスポンスの発動が行われないようなディスパッチ計画を作成することができる。また、本発明では、遵守率が低いエネルギーリソースを発動せざるを得ない場合であっても、その発電量がなるべく0に近くなるようなディスパッチ計画を作成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明の第1の実施例に係るディスパッチ計画作成装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の第1の実施例に係るディスパッチ計画作成部の構成を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の第1の実施例に係るディスパッチ計画作成部の動作を説明するフローチャートである。
図4図4は、エネルギーリソースの過去の計画発電量のデータと実績発電量のデータの1例を示す図である。
図5図5は、本発明の第1の実施例に係る計画発電量上下限値設定部の動作を説明するフローチャートである。
図6図6は、本発明の第1の実施例に係る計画発電量上下限値設定部の動作を説明する図である。
図7図7は、本発明の第1の実施例に係るディスパッチ計画の最適化問題の定式化に用いるデータの1例を示す図である。
図8図8は、本発明の第5の実施例に係るディスパッチ計画作成装置の構成を示すブロック図である。
図9図9は、本発明の第5の実施例に係るディスパッチ計画作成部の構成を示すブロック図である。
図10図10は、本発明の第5の実施例に係る指標算出部の動作を説明するフローチャートである。
図11図11は、エネルギーリソースの過去の実績発電量のデータと計画発電量のデータと気温のデータと日射量のデータの1例を示す図である。
図12図12は、本発明の第1~第5の実施例に係るディスパッチ計画作成装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[発明の原理]
上記のとおり、ディスパッチ計画とは、ある時間区間において、エネルギーリソースを発動するのかしないのか、発動する場合はどの程度の発動強度にするのかということを、全てのエネルギーリソースについて計画するものであり、エネルギーリソースの運転計画のことである。ディスパッチ計画問題を、個々のエネルギーリソースに対するディマンドリスポンスの発動有無と発動する場合の計画発電量とを決定する計画問題として定式化した。
【0031】
個々のエネルギーリソースの発電量は毎回必ずしも同じとはならず、それぞれ計画量に対して誤差が生じることが想定できる。この誤差の影響を考慮し、指令値からの発電量の乖離をなるべく小さくすることが望ましい。
【0032】
発明者は、電気事業者からの指令値を達成する計画問題を作成する際に、エネルギーリソース単体に対する過去の実績発電量と計画発電量との差の分布のばらつきを表す統計量を、エネルギーリソースの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標として定式化し、計画問題に組み入れることで、過去のディスパッチ計画に対する遵守率が低いエネルギーリソースの発動が行われないようなディスパッチ計画を策定可能であることに想到した。
【0033】
エネルギーリソースの実績発電量と計画発電量との差が従う分布のばらつきを表す統計量がより大きい場合、計画発電量に対する遵守率が低くなると考えることができる。各エネルギーリソースが過去に発動した時の実績発電量と計画発電量との差のデータを基に、そのばらつきを表す統計量等を用いてディスパッチ計画に対する遵守率の指標として扱う。これにより、エネルギーリソース個々の遵守率を数値として表すことが可能となる。
【0034】
エネルギーリソースに関しては、一定の物理制約、運用制約が存在するため、各エネルギーリソースの関連情報として予め設定された条件を満たすように、運転計画案を作成する必要がある。これらの中でも特に、電気事業者からの指令値を満足させるためには、指令値と計画発電量とが一致するという条件は重要となる。計画時に考慮すべきこれらの条件を制約式として定式化し、計画問題に組み込んだ。
【0035】
次に、電気事業者からの指令値と計画発電量が一致するという制約の下で、エネルギーリソース単体に関する差のばらつきを表す統計量を並列的に用いる目的関数(例えば単純総和関数)として定式化し、これが最小となるようなエネルギーリソース群の計画発電量を決定するディスパッチ計画を求める。このようにして求めたディスパッチ計画は、指令値と計画発電量が一致するという制約によって指令値を達成することができ、更にばらつきが最小となる計画を求めることで遵守率が低いエネルギーリソースの発動を避けたディスパッチ計画となる。
【0036】
以上の説明では、目的関数に、過去の実績発電量と計画発電量との差のばらつきを表す統計量を組み入れた計画問題として説明しているが、目的関数と制約条件の互換性の観点から、ばらつきを表す統計量が、ある値以上であるエネルギーリソースを排除するという制約条件を用いることで、制約条件にばらつきを表す統計量を組み入れた計画問題とすることと発明原理上は同一となっている。
【0037】
また、上記では数理計画型の計画問題を念頭において本発明の原理を説明してきたが、これに限定するものではない。人工知能型の計画問題(制約充足問題 CSP)などの各種シミュレーション技術での実施を含む技術思想となっている。
【0038】
なお、本発明は、過去のディスパッチ計画に対する遵守率が低いエネルギーリソースを発動せざるを得ない場合であっても、そのエネルギーリソースの発電量がなるべく0に近くなるようなディスパッチ計画を策定可能である。また、本発明は、各エネルギーリソースに消費電力量を減らすDR(“下げ”DR)を指示する場合にも、各エネルギーリソースに消費電力量を増やすDR(“上げ”DR)を指示する場合にも同様に適用することができる。
【0039】
[第1の実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。まず、本実施例の目的関数を以下に示す。
【0040】
【数1】
【0041】
Rはエネルギーリソースrの集合、ξrはエネルギーリソースrに対するディマンドリスポンス指令の発動状態(以下ではエネルギーリソースrの発動状態と記載)を示す状態値(0=非発動,1=発動)、prは策定するディスパッチ計画の解となる、エネルギーリソースrの計画発電量(非負の値)、T’は過去データに対応する時間区間tの集合、V[x]はxの標本分散、gr,tはエネルギーリソースrの過去の時間区間tにおける実績発電量、g^r,tはエネルギーリソースrの過去の時間区間tにおける計画発電量である。
【0042】
式(1)は、過去データとして蓄積された実績発電量gr,tと計画発電量g^r,tの差に対して、計画発電量g^r,tによって正規化した標本分散の値ν(r)を用いて、エネルギーリソースrの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標「ν(r)・pr」を全エネルギーリソースについて合計したものである。本実施例における計画問題は、式(1)に示す目的関数が最小となるように、エネルギーリソースrの発動状態ξrと、エネルギーリソースrの計画発電量prとを決定する問題として定式化している。
【0043】
なお、本発明のディスパッチ計画作成装置では、ディスパッチ計画を実施する将来の計画区間毎に個別の問題を作成する構成としており、目的関数を構築、求解することを計画区間毎に行う。
【0044】
次に、本実施例の最適化問題の制約式を以下に示す。
【0045】
【数2】
【0046】
g^は電気事業者からの指令値(総発電量)、pr minはエネルギーリソースrの発電能力の下限値(設備上の制約から事前に決まる定数)、pr maxはエネルギーリソースrの発電能力の上限値(設備上の制約から事前に決まる定数)、アンダースコアprはエネルギーリソースrの計画発電量の下限値(運用上の制約から決める定数)、バーprはエネルギーリソースrの計画発電量の上限値(運用上の制約から決める定数)である。
【0047】
式(3)は、電気事業者が指令する指令値g^と、アグリゲーターによって計画されるエネルギーリソースr毎の計画発電量prの総和Σprとが一致しなければならないという制約を示している。
【0048】
式(4)は、計画発電量prが、エネルギーリソースrの非発動時には0となり、発動時にはエネルギーリソースrの発電能力の上下限範囲に入らなければならないという制約を示している。上限値pr maxと下限値pr minとは、エネルギーリソースrを発動させた時に発揮できる発電能力の上下限値であり、設備能力などから事前に設定される。例えば発動時に50kWから100kWの発電が可能なエネルギーリソースrの場合は、上限値pr max=100kW、下限値pr min=50kWと設定される。
【0049】
式(5)は、計画発電量prが、エネルギーリソースrの計画発電量の上下限範囲に入らなければならないという制約を示している。エネルギーリソースrの発動の要否にかかわらず、計画発電量prを上限値バーprと下限値アンダースコアprの範囲に限定する。
【0050】
例えばメンテナンス中などの理由でエネルギーリソースrを発動できない場合は、上限値バーpr、下限値アンダースコアprを共に0kWと設定する。また、エネルギーリソースrの発動の可否が指定されていない場合には、発動時に最大100kWの発電能力を持つエネルギーリソースrであれば、上限値バーpr=100kW、下限値アンダースコアpr=0kWと設定する。
【0051】
式(6)は、エネルギーリソースrの発動状態値ξrが、1(発動)か0(非発動)のいずれか一方のみでなければならないという制約を示している。
【0052】
次に、本実施例のディスパッチ計画作成装置の構成と動作について説明する。図1はディスパッチ計画作成装置の構成を示すブロック図である。ディスパッチ計画作成装置は、需要家のエネルギーリソースrの特性情報を記憶するエネルギーリソース特性情報保存部1と、エネルギーリソースrの過去の計画発電量g^r,tの履歴情報を記憶するエネルギーリソースディスパッチ計画履歴保存部2と、エネルギーリソースrの過去の運用履歴情報を記憶するエネルギーリソース運用履歴保存部3と、ディスパッチ計画を作成するディスパッチ計画作成部4と、ディスパッチ計画作成装置へのエネルギーリソースrのデータ入力のためのデータ入力部5と、作成されたディスパッチ計画の情報を出力する結果出力部6とを備えている。
【0053】
エネルギーリソース特性情報保存部1は、例えばディスパッチ計画を策定したいアグリゲーターの担当者または需要家の担当者がデータ入力部5によって入力したエネルギーリソースrの特性情報を記憶している。特性情報としては、エネルギーリソースrの名称または識別情報、エネルギーリソースrの発電能力の情報(pr min,pr max)、エネルギーリソースrの運用スケジュールの情報がある。なお、特性情報については、時刻毎に記憶できるようにしてもよい。
【0054】
エネルギーリソースディスパッチ計画履歴保存部2は、エネルギーリソースrの過去の計画発電量g^r,tの履歴情報を記憶している。計画発電量g^r,tは、エネルギーリソースrの名称または識別情報と、時刻の情報と対応付けて記憶されている。計画発電量g^r,tの情報は、需要家のエネルギーリソースrを制御するエネルギーリソース制御システム7から取得すればよい。また、ディスパッチ計画作成装置が、ある計画区間について過去に作成したディスパッチ計画の計画発電量prを、当該計画区間の計画発電量g^r,tとして記憶しておくようにしてもよい。
【0055】
エネルギーリソース運用履歴保存部3は、エネルギーリソースrの過去の運用履歴情報を記憶している。運用履歴情報としては、エネルギーリソースrの名称または識別情報と、エネルギーリソースrの時刻毎の実績発電量gr,tと、エネルギーリソースrの時刻毎の運用情報(発動状態、異常状態等)がある。
【0056】
図2はディスパッチ計画作成部4の構成を示すブロック図、図3はディスパッチ計画作成部4の動作を説明するフローチャートである。ディスパッチ計画作成部4は、過去の実績発電量gr,tと計画発電量g^r,tとの差の分布のばらつきを表すエネルギーリソースr毎の統計量を、エネルギーリソースrの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標として算出する指標算出部40と、作成するディスパッチ計画のエネルギーリソースr毎の計画発電量prの上下限値を、エネルギーリソースrの運用上の制約とエネルギーリソースのr発電能力の上下限値とに基づいて設定する計画発電量上下限値設定部41と、電気事業者からの指令値g^に基づいてディスパッチ計画の最適化問題の制約式を設定し、エネルギーリソースr毎の指標にエネルギーリソース個々の状態値ξrを乗算した値を全てのエネルギーリソースについて合計するという目的関数を設定して、ディスパッチ計画の最適化問題を定式化する最適化問題定式化部42と、制約式が設定された条件下で、目的関数が最小となる、エネルギーリソースr毎の状態値ξrと計画発電量prとをディスパッチ計画の最適化問題の解として求める求解部43とから構成される。
【0057】
ディスパッチ計画作成部4の指標算出部40は、過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標をエネルギーリソースr毎に算出する(図3ステップS100)。具体的には、指標算出部40は、エネルギーリソースディスパッチ計画履歴保存部2に記憶されているエネルギーリソースrの過去の計画発電量g^r,tのデータと、エネルギーリソース運用履歴保存部3に記憶されているエネルギーリソースrの過去の実績発電量gr,tのデータとを取得する。
【0058】
指標算出部40は、式(2)に示したようにエネルギーリソースrが過去に発動したときの同一の時間区間tにおける実績発電量gr,tと計画発電量g^r,tとの差を時間区間tにおける計画発電量g^r,tで正規化した値(gr,t-g^r,t)/g^r,tの標本分散ν(r)を、エネルギーリソースr毎に算出する。そして、指標算出部40は、標本分散ν(r)に、今回策定するディスパッチ計画の計画発電量prを乗じた値を、エネルギーリソースrの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とする。指標算出部40は、以上のような処理をエネルギーリソースr毎に実行すればよい。
【0059】
図4に、エネルギーリソースAの過去の計画発電量g^r,tのデータと実績発電量gr,tのデータの1例を示す。図4のデータを基に、実績発電量gr,tと計画発電量g^r,tとの差を計画発電量g^r,tで正規化した値の標本分散ν(r)を算出すると、0.0025となる。
【0060】
次に、ディスパッチ計画作成部4の計画発電量上下限値設定部41は、計画発電量prの上限値バーprと下限値アンダースコアprとをエネルギーリソースr毎に設定する(図3ステップS101)。具体的には、計画発電量上下限値設定部41は、エネルギーリソース特性情報保存部1に記憶されているエネルギーリソースrの特性情報と、エネルギーリソース運用履歴保存部3に記憶されているエネルギーリソースrの過去の運用履歴情報とを取得する。そして、計画発電量上下限値設定部41は、取得した情報を基に、図5で説明するような処理を実行する。
【0061】
エネルギーリソースrには、例えばメンテナンスや故障といった理由で発動できない、あるいは定められた日時に発動しなければならない、といった運用上の制約がある。今回策定するディスパッチ計画を実施する計画区間におけるエネルギーリソースrの運用上の制約については、特性情報に含まれるエネルギーリソースrの運用スケジュールから求めることができる。
【0062】
計画発電量上下限値設定部41は、取得した特性情報から計画区間においてエネルギーリソースrを発動できないことが判明した場合(図5ステップS200においてYES)、このエネルギーリソースrの計画発電量prの上限値バーprと下限値アンダースコアprを共に0kWに設定する(図5ステップS201)。
【0063】
次に、計画発電量上下限値設定部41は、計画区間において発動を開始すると所定時間(例えば3時間)連続して発動し続けなければならないエネルギーリソースrについては、このエネルギーリソースrの最新の発動開始時刻(非発動状態から発動状態へ移行した時刻)と計画区間の開始時刻との間隔が上記所定時間未満であれば、発動しなければならないと判定する(図5ステップS202においてYES)。
【0064】
そして、計画発電量上下限値設定部41は、発動しなければならないと判定したエネルギーリソースrの発電能力の上限値pr maxを計画発電量prの上限値バーprとして設定し、発電能力の下限値pr minを計画発電量prの下限値アンダースコアprとして設定する(図5ステップS203)。上記のとおり、エネルギーリソースrの発電能力の上限値pr maxと下限値pr minの情報は特性情報に含まれる。
【0065】
また、計画発電量上下限値設定部41は、ステップS200,S202のいずれの場合にも該当しないエネルギーリソースrの場合、発動も非発動も可能と判定する(図5ステップS202においてNO)。計画発電量上下限値設定部41は、発動も非発動も可能と判定したエネルギーリソースrの発電能力の上限値pr maxを計画発電量prの上限値バーprとして設定し、計画発電量prの下限値アンダースコアprを0kWに設定する(図5ステップS204)。
【0066】
計画発電量上下限値設定部41は、図5の処理をエネルギーリソースr毎に実行すればよい。図5の処理による計画発電量prの上限値バーprと下限値アンダースコアprの設定例を図6にまとめて示す。
【0067】
次に、ディスパッチ計画作成部4の最適化問題定式化部42は、ディスパッチ計画の最適化問題を定式化する(図3ステップS102)。具体的には、最適化問題定式化部42は、電気事業者からの指令値(総発電量)g^と、エネルギーリソース特性情報保存部1に記憶されているエネルギーリソースrの発電能力の上限値pr maxと下限値pr minと、計画発電量上下限値設定部41によって設定された計画発電量prの上限値バーprと下限値アンダースコアprと、指標算出部40によって算出された指標ν(r)・prとを取得する。
【0068】
そして、最適化問題定式化部42は、ディスパッチ計画の対象となる需要家の全てのエネルギーリソースrについて式(3)~式(6)の制約式を設定し、さらにステップS100で算出された遵守率の指標ν(r)・prに状態値ξrを乗じた値を全てのエネルギーリソースrについて合計するという式(1)の目的関数を設定することにより、ディスパッチ計画の最適化問題を定式化する。
【0069】
以下に、定式化の実例を示す。ここでは、需要家のエネルギーリソースrとして、エネルギーリソースA,B,Cの3つがあるものとして説明する。また、電気事業者からの指令値g^を200kWとする。エネルギーリソースA,B,Cに関するデータの1例を図7に示す。
【0070】
エネルギーリソースA,B,Cの状態値をξA,ξB,ξCとし、エネルギーリソースA,B,Cの計画発電量をpA,pB,pCとすると、目的関数は式(7)のようになる。
0.0025・ξA・pA+0.01・ξB・pB+0.0009・ξC・pC
・・・(7)
【0071】
式(3)に相当する制約式は式(8)のようになる。
A+pB+pC=200 ・・・(8)
【0072】
式(4)に相当する制約式は式(9)~式(11)のようになる。
ξA・100≦pA≦ξA・100 ・・・(9)
ξB・50≦pB≦ξB・100 ・・・(10)
ξC・80≦pC≦ξC・100 ・・・(11)
【0073】
式(5)に相当する制約式は式(12)~式(14)のようになる。
100≦pA≦100 ・・・(12)
0≦pB≦100 ・・・(13)
0≦pC≦100 ・・・(14)
【0074】
式(6)に相当する制約式は式(15)のようになる。
ξA,ξB,ξC∈{0,1} ・・・(15)
【0075】
次に、ディスパッチ計画作成部4の求解部43は、式(8)~式(15)の制約式が設定された条件下で、式(7)の目的関数が最小となる、エネルギーリソースr毎の状態値ξrと計画発電量prとを最適化問題の解として求める(図3ステップS103)。最適化問題を解く方法としては、既知の数理計画法における解法(例えば、分枝限定法など)や、メタヒューリスティック手法(例えば、遺伝的アルゴリズムなど)がある。
【0076】
状態値ξr(ξA,ξB,ξC)と計画発電量pr(pA,pB,pC)の取り得る値の全ての組み合わせの中で、式(8)~式(15)の制約式を全て満たしている状態値ξrと計画発電量prの値の組み合わせである実行可能解(解候補)は、次のとおり解候補1~解候補3の3つある。
【0077】
解候補1はξA=1,ξB=1,ξC=0,pA=100,pB=100,pC=0、解候補2はξA=1,ξB=0,ξC=1,pA=100,pB=0,pC=100、解候補3はξA=0,ξB=1,ξC=1,pA=0,pB=100,pC=100である。解候補1の目的関数の値は1.25、解候補2の目的関数の値は0.34、解候補3の目的関数の値は1.09である。したがって、目的関数を最小化する解候補は解候補2となり、解候補2が最適解となる。
【0078】
ディスパッチ計画作成装置の結果出力部6は、ディスパッチ計画作成部4によって作成されたディスパッチ計画の情報を出力する。ディスパッチ計画の情報は、エネルギーリソースr毎の状態値ξrと、エネルギーリソースr毎の計画発電量prと、計画区間の日時情報とを含む。出力方法としては、例えばディスパッチ計画の表示、ディスパッチ計画の外部への送信などがある。
【0079】
こうして、本実施例では、電気事業者からの指令値の達成を実現すると共に、過去のディスパッチ計画に対する遵守率が低いエネルギーリソースのDRの発動が行われないようなディスパッチ計画を作成することができる。また、本実施例では、遵守率が低いエネルギーリソースを発動せざるを得ない場合であっても、その発電量がなるべく0に近くなるようなディスパッチ計画を作成可能である。
【0080】
なお、本実施例では、将来の1つの計画区間についてディスパッチ計画を作成する例を説明しているが、複数の計画区間についてディスパッチ計画を作成する場合には、計画区間毎に上記の処理を行うようにすればよい。
【0081】
[第2の実施例]
第1の実施例では、計画発電量prを非負の値としている。すなわち、消費電力量を減らす下げDRのみを可能としている。これに対し、本発明の第2の実施例では、各エネルギーリソースrに消費電力量を増やすDR(上げDR)を指示することを可能にするため、第1の実施例で説明した式(1)の目的関数の代わりに次式を用いる。
【0082】
【数3】
【0083】
エネルギーリソースrが消費電力量を増やす上げDRを行う場合は、式(16)の計画発電量prが負の値となる。
本実施例のディスパッチ計画作成部4の指標算出部40は、第1の実施例で説明した分散ν(r)に、今回策定するディスパッチ計画の計画発電量prの絶対値|pr|を乗じた値を、エネルギーリソースrの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とする(図3ステップS100)。
【0084】
本実施例のディスパッチ計画作成部4の最適化問題定式化部42は、第1の実施例と同様にディスパッチ計画の対象となる需要家の全てのエネルギーリソースrについて式(3)~式(6)の制約式を設定し、さらにステップS100で算出された遵守率の指標ν(r)・|pr|に状態値ξrを乗じた値を全てのエネルギーリソースrについて合計するという式(16)の目的関数を設定することにより、ディスパッチ計画の最適化問題を定式化する(図3ステップS102)。
その他の構成は第1の実施例と同じである。
【0085】
[第3の実施例]
第1の実施例では、実績発電量gr,tと計画発電量g^r,tとの差に関する分散ν(r)にディスパッチ計画の計画発電量prを乗じた値をディスパッチ計画の遵守率の指標とし、第2の実施例では、分散ν(r)に計画発電量prの絶対値|pr|を乗じた値を遵守率の指標とした。
一方、本発明の第3の実施例では、第1の実施例で説明した式(1)の目的関数の代わりに次式を用いる。
【0086】
【数4】
【0087】
本実施例のディスパッチ計画作成部4の指標算出部40は、エネルギーリソースrが過去に発動したときの同一の時間区間tにおける実績発電量gr,tと計画発電量g^r,tとの差の絶対値ADr,t=|gr,t-g^r,t|を時間区間t毎およびエネルギーリソースr毎に算出し、時間区間t毎の差の絶対値ADr,tのうちの最大値max(ADr,t)をエネルギーリソースr毎に求める。そして、指標算出部40は、最大値max(ADr,t)に、今回策定するディスパッチ計画の計画発電量prを乗じた値を、エネルギーリソースrの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とする(図3ステップS100)。
【0088】
本実施例のディスパッチ計画作成部4の最適化問題定式化部42は、第1の実施例と同様にディスパッチ計画の対象となる需要家の全てのエネルギーリソースrについて式(3)~式(6)の制約式を設定し、さらにステップS100で算出された指標max(ADr,t)・prに状態値ξrを乗じた値を全てのエネルギーリソースrについて合計するという式(17)の目的関数を設定することにより、ディスパッチ計画の最適化問題を定式化する(図3ステップS102)。
【0089】
本実施例のディスパッチ計画作成部4の求解部43は、式(3)~式(6)の制約式が設定された条件下で、式(17)の目的関数が最小となる、エネルギーリソースr毎の状態値ξrと計画発電量prとを最適化問題の解として求める(図3ステップS103)。
【0090】
その他の構成は第1の実施例と同じである。なお、第2の実施例と同様に、最大値max(ADr,t)に、今回策定するディスパッチ計画の計画発電量prの絶対値|pr|を乗じた値を遵守率の指標としてもよい。
【0091】
[第4の実施例]
次に、本発明の第4の実施例について説明する。本発明の第4の実施例では、第1の実施例で説明した式(1)の目的関数の代わりに次式を用いる。
【0092】
【数5】
【0093】
本実施例のディスパッチ計画作成部4の指標算出部40は、エネルギーリソースrが過去に発動したときの同一の時間区間tにおける実績発電量gr,tと計画発電量g^r,tとの差の絶対値ADr,t=|gr,t-g^r,t|を時間区間t毎およびエネルギーリソースr毎に算出し、差の絶対値ADr,tがこの絶対値ADr,tの算出対象となった時間区間tにおける計画発電量g^r,tの所定割合(例えば10%)を上回った回数Nrをエネルギーリソースr毎に算出して、回数Nrをエネルギーリソースrが発動した回数N1rで除算した結果Nr/N1rをエネルギーリソースr毎に算出する。
【0094】
回数N1rはエネルギーリソースrの状態値ξrが1(発動)となった回数である。そして、指標算出部40は、除算の結果Nr/N1rに、今回策定するディスパッチ計画の計画発電量prを乗じた値を、エネルギーリソースrの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とする(図3ステップS100)。
【0095】
本実施例のディスパッチ計画作成部4の最適化問題定式化部42は、第1の実施例と同様にディスパッチ計画の対象となる需要家の全てのエネルギーリソースrについて式(3)~式(6)の制約式を設定し、さらにステップS100で算出された指標Nr/N1r・prに状態値ξrを乗じた値を全てのエネルギーリソースrについて合計するという式(18)の目的関数を設定することにより、ディスパッチ計画の最適化問題を定式化する(図3ステップS102)。
【0096】
本実施例のディスパッチ計画作成部4の求解部43は、式(3)~式(6)の制約式が設定された条件下で、式(18)の目的関数が最小となる、エネルギーリソースr毎の状態値ξrと計画発電量prとを最適化問題の解として求める(図3ステップS103)。
【0097】
その他の構成は第1の実施例と同じである。なお、第2の実施例と同様に、Nr/N1rに、今回策定するディスパッチ計画の計画発電量prの絶対値|pr|を乗じた値を遵守率の指標としてもよい。
【0098】
[第5の実施例]
次に、本発明の第5の実施例について説明する。第5の実施例は、データを学習することで構築される学習モデルを用いた人工知能(AI)による遵守率の指標の算出に関するものとなっている。図8は本発明の第5の実施例に係るディスパッチ計画作成装置の構成を示すブロック図である。本実施例のディスパッチ計画作成装置は、エネルギーリソース特性情報保存部1と、エネルギーリソースディスパッチ計画履歴保存部2と、エネルギーリソース運用履歴保存部3と、ディスパッチ計画作成部4aと、データ入力部5と、結果出力部6と、外部環境データ取得部9と、外部環境データ保存部10と、環境データ取得部11とを備えている。
【0099】
本実施例における環境データとしては、エネルギーシステムの外部環境である気温、湿度、天候、日射量、降雨量等に加え、エネルギーシステムの内部環境であるエネルギーリソース(設備)の特性情報や運用情報などを含むものとなっている。なお、以降では外部環境を例にして説明する。
【0100】
外部環境データ取得部9は、外部環境データ(実測値)と外部環境データの予報値とを外部環境データ提供システム(例えば気象予報システム)から取得して、外部環境データ保存部10に格納する。
【0101】
環境データ取得部11は、過去の外部環境データと、ディスパッチ計画を実施する計画区間における外部環境データの予報値とを外部環境データ保存部10から取得する。なお、内部環境データを用いる場合、環境データ取得部11は、エネルギーリソース特性情報保存部1からエネルギーリソースrの特性情報を取得し、エネルギーリソース運用履歴保存部3からエネルギーリソースrの運用履歴情報を取得すればよい。
【0102】
図9は本実施例のディスパッチ計画作成部4aの構成を示すブロック図である。ディスパッチ計画作成部4aは、指標算出部40aと、計画発電量上下限値設定部41と、最適化問題定式化部42aと、求解部43aとから構成される。
【0103】
ディスパッチ計画作成部4aの処理の流れは第1の実施例と同様であるので、図3のフローチャートを用いてディスパッチ計画作成部4aの動作を説明する。
ディスパッチ計画作成部4aの指標算出部40aは、過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標をエネルギーリソースr毎に算出する(図3ステップS100)。
【0104】
図10は指標算出部40aの動作を説明するフローチャートである。まず、指標算出部40aは、エネルギーリソースディスパッチ計画履歴保存部2に記憶されているエネルギーリソースrの過去の計画発電量g^r,tのデータと、エネルギーリソース運用履歴保存部3に記憶されているエネルギーリソースrの過去の実績発電量gr,tのデータとを取得する。さらに、指標算出部40aは、過去の外部環境データxr,dと外部環境データの予報値バーxr,dとを環境データ取得部11を通じて取得する(図10ステップS300)。
【0105】
なお、外部環境データxr,d,バーxr,dは、エネルギーリソースrの外部環境データの項目d(dは1以上の整数)の値を示し、外部環境データが1乃至複数種類存在することを意味する。本実施例では、d=1の外部環境データを気温のデータ、d=2の外部環境データを日射量のデータとしている。
【0106】
続いて、指標算出部40aは、エネルギーリソースrが過去に発動したときの同一の時間区間tにおける実績発電量gr,tと計画発電量g^r,tとの差Δpr=gr,t-g^r,tのデータと、差Δprの算出対象となった時間区間tにおける外部環境データxr,dとを学習データとして、複数の時間区間tにおける学習データを差Δprと外部環境データxr,dとの直線的な関係を示す式(19)に代入して、最小二乗法により直線の定数(傾きar,dと切片br)を算出する(図10ステップS301)。
【0107】
【数6】
【0108】
第1の実施例で説明したとおり、Rはエネルギーリソースrの集合である。次に、指標算出部40aは、算出した定数(傾きar,d、切片br)と、エネルギーリソースrが設置された地域の、ディスパッチ計画を実施する計画区間における外部環境データの予報値バーxr,dとを、計画区間における実績発電量と計画発電量との差の推定値バーΔprと外部環境データの予報値バーxr,dとの直線的な関係を示す式(20)に代入して、実績発電量と計画発電量との差の推定値バーΔprを算出する(図10ステップS302)。
【0109】
【数7】
【0110】
そして、指標算出部40aは、推定値バーΔprに、今回策定するディスパッチ計画の計画発電量prを乗じた値を、エネルギーリソースrの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とする(図10ステップ303)。指標算出部40aは、以上のような処理をエネルギーリソースr毎に実行すればよい。
【0111】
以下に、指標算出部40aの動作の実例を示す。図11に、エネルギーリソースAの過去の実績発電量gr,tのデータと計画発電量g^r,tのデータと気温xr,1のデータと日射量xr,2のデータの1例を示す。図11のデータを基に、最小二乗法により式(19)の傾きar,dと切片brとを算出すると、ar,1=0.1,ar,2=0.01,br=0が得られた。
r,1=0.1,ar,2=0.01,br=0を、式(20)に定数として代入すると、次式が得られる。
【0112】
【数8】
【0113】
バーxr,1は、計画区間における気温の予報値、バーxr,2は計画区間における日射量の予報値である。式(21)から得られる推定値バーΔprに計画発電量prを乗じた値を、エネルギーリソースrの過去のディスパッチ計画に対する遵守率の指標とする。
【0114】
ディスパッチ計画作成部4aの計画発電量上下限値設定部41の動作(図3ステップS101)は、第1の実施例と同じである。
【0115】
ディスパッチ計画作成部4aの最適化問題定式化部42aは、第1の実施例と同様にディスパッチ計画の対象となる需要家の全てのエネルギーリソースrについて式(3)~式(6)の制約式を設定し、さらにステップS303で算出された指標バーΔpr・prに状態値ξrを乗じた値を全てのエネルギーリソースrについて合計するという式(22)の目的関数を設定することにより、ディスパッチ計画の最適化問題を定式化する(図3ステップS102)。
【0116】
【数9】
【0117】
次に、ディスパッチ計画作成部4aの求解部43aは、式(3)~式(6)の制約式が設定された条件下で、式(22)の目的関数が最小となる、エネルギーリソースr毎の状態値ξrと計画発電量prとを最適化問題の解として求める(図3ステップS103)。
【0118】
その他の構成は第1の実施例と同じである。なお、第2の実施例と同様に、指標バーΔpr・prに、今回策定するディスパッチ計画の計画発電量prの絶対値|pr|を乗じた値を遵守率の指標としてもよい。
【0119】
第1~第5の実施例で説明したディスパッチ計画作成装置は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインターフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を図12に示す。
【0120】
コンピュータは、CPU200と、記憶装置201と、インターフェース装置(I/F)202とを備えている。I/F202には、データ入力部5のハードウェアと結果出力部6のハードウェアとエネルギーリソース制御システム7と外部環境データ取得部9のハードウェア等が接続される。本発明のディスパッチ計画作成方法を実現させるためのディスパッチ計画作成プログラムは記憶装置201に格納される。CPU200は、記憶装置201に格納されたプログラムに従って第1~第5の実施例で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、エネルギーリソースの制御のためのディスパッチ計画を作成する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0122】
1…エネルギーリソース特性情報保存部、2…エネルギーリソースディスパッチ計画履歴保存部、3…エネルギーリソース運用履歴保存部、4,4a…ディスパッチ計画作成部、5…データ入力部、6…結果出力部、7…エネルギーリソース制御システム、9…外部環境データ取得部、10…外部環境データ保存部、11…環境データ取得部、40,40a…指標算出部、41…計画発電量上下限値設定部、42,42a…最適化問題定式化部、43,43a…求解部。
図1
図2
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図6
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図10
図11
図12