(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108714
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】波長可変レーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/14 20060101AFI20230731BHJP
G02B 6/12 20060101ALI20230731BHJP
G02B 6/122 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
H01S5/14
G02B6/12 301
G02B6/122
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009906
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】泉 裕友
(72)【発明者】
【氏名】秋山 傑
(72)【発明者】
【氏名】植竹 理人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠美
【テーマコード(参考)】
2H147
5F173
【Fターム(参考)】
2H147AB03
2H147AB16
2H147AB24
2H147AC05
2H147BB02
2H147BB06
2H147BD03
2H147BD10
2H147CA14
2H147CD01
2H147EA13A
2H147EA13C
2H147GA26
5F173AB44
5F173AB45
5F173AB47
5F173AB49
5F173AR04
5F173AR06
5F173MF02
5F173MF12
5F173MF26
5F173MF28
(57)【要約】
【課題】品質の高いレーザ光を生成する波長可変レーザ装置を提供する。
【解決手段】波長可変レーザ装置は、第1のミラーと、第2のミラーと、第1のミラーと前記第2のミラーとに間に設けられる光増幅部と、第1のミラーと第2のミラーとに間に設けられる波長可変フィルタと、光増幅部と波長可変フィルタとを結合する光導波路を備える。光導波路は、第1の幅で形成される第1の導波路および第1の幅より広い第2の幅で形成される第2の導波路を含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のミラーと、
第2のミラーと、
前記第1のミラーと前記第2のミラーとに間に設けられる光増幅部と、
前記第1のミラーと前記第2のミラーとに間に設けられる波長可変フィルタと、
前記光増幅部と前記波長可変フィルタとを結合する光導波路と、を備え、
前記光導波路は、第1の幅で形成される第1の導波路および前記第1の幅より広い第2の幅で形成される第2の導波路を含む
ことを特徴とする波長可変レーザ装置。
【請求項2】
前記第2の導波路は、直線導波路である
ことを特徴とする請求項1に記載の波長可変レーザ装置。
【請求項3】
前記第1の導波路と前記第2の導波路との間に、前記第1の導波路に接続する第1の端部の幅が前記第1の幅であり、前記第2の導波路に接続する第2の端部の幅が前記第2の幅であり、前記第1の端部と前記第2の端部との間で幅が連続的に変化する、テーパ導波路を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の波長可変レーザ装置。
【請求項4】
前記第1のミラーと前記第2のミラーとの間の光学長を調整するために前記光導波路の屈折率を変化させる電気回路をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の波長可変レーザ装置。
【請求項5】
前記電気回路は、前記第2の導波路の屈折率を変化させる
ことを特徴とする請求項4に記載の波長可変レーザ装置。
【請求項6】
前記波長可変フィルタは、
リング導波路と、
前記リング導波路と前記第2のミラーとを結合する第3の導波路と、を含み、
前記第3の導波路の少なくとも一部が前記第2の幅で形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の波長可変レーザ装置。
【請求項7】
前記第2の幅で形成される導波路は、前記第2の導波路のみである
ことを特徴とする請求項1に記載の波長可変レーザ装置。
【請求項8】
前記光増幅部内の導波路と前記光導波路との接続面は、前記第2の導波路を伝搬する光の方向に対して斜めに形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の波長可変レーザ装置。
【請求項9】
第1のミラーと、
第2のミラーと、
前記第1のミラーと前記第2のミラーとに間に設けられる光増幅部と、
前記第1のミラーと前記第2のミラーとに間に設けられ、前記光増幅部に結合する波長可変フィルタと、
前記波長可変フィルタと前記第2のミラーとを結合する光導波路と、を備え、
前記光導波路は、第1の幅で形成される第1の導波路および前記第1の幅より広い第2の幅で形成される第2の導波路を含む
ことを特徴とする波長可変レーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長可変レーザ装置に係わる。
【背景技術】
【0002】
大容量の光通信を実現するための光デバイスの1つとして、波長可変レーザ装置が普及している。また、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)技術を利用して高密度な光集積回路を実現するシリコンフォトニクスが注目されている。
【0003】
波長可変レーザ装置は、例えば、増幅部および外部共振器を備える。外部共振器は、シリコンフォトニクスを利用する場合、シリコン導波路を含むシリコン光集積回路により構成される。ここで、シリコン導波路は屈折率が高いので、光学長(または、光パス長)を長くできる。このため、シリコン光集積回路で外部共振器が形成される波長可変レーザ装置においては、デバイスの小型化を実現しながら出力光のスペクトル幅を狭くできる。なお、外部共振器を備える波長可変レーザ装置は、例えば、特許文献1または非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】N.Kobayashi, K.Sato et al, Silicon Photonic Hybrid Ring-Filter External Cavity Wavelength Tunable Lasers, JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY, VOL.33, NO.6, P1241-PP1246, MARCH 15, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高品質の多値光信号を送信するためには、スペクトル幅の狭いレーザ光が要求される。ここで、スペクトル幅の狭いレーザ光を生成するためには、キャビティの光学長を長くすることが好ましい。他方、キャビティ内では、「縦モード」と呼ばれる複数の微弱なスペクトルが現れる。縦モードは、キャビティの光学長に反比例する波長間隔で現れる。このため、レーザ光のスペクトル幅を狭くするためにキャビティの光学長を長くすると、縦モードの波長間隔が狭くなり、発振波長の近くに縦モードが存在しやすくなる。そして、発振に不要な光がキャビティ内で発生すると、モードホップと呼ばれる現象により、発振波長の近傍に現れる縦モードにエネルギーが移ることがある。すなわち、縦モードが増幅されることがある。この結果、レーザの発振が不安定になり、レーザ光の品質が低下してしまう。
【0007】
本発明の1つの側面に係わる目的は、品質の高いレーザ光を生成する波長可変レーザ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様の波長可変レーザ装置は、第1のミラーと、第2のミラーと、前記第1のミラーと前記第2のミラーとに間に設けられる光増幅部と、前記第1のミラーと前記第2のミラーとに間に設けられる波長可変フィルタと、前記光増幅部と前記波長可変フィルタとを結合する光導波路と、を備える。前記光導波路は、第1の幅で形成される第1の導波路および前記第1の幅より広い第2の幅で形成される第2の導波路を含む。
【発明の効果】
【0009】
上述の態様によれば、品質の高いレーザ光を生成する波長可変レーザ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】導波路およびヒータの配置の一例を示す図である。
【
図3】波長可変フィルタの構成の一例を示す図である。
【
図4】光導波路内の光パワーの分布を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係わる波長可変レーザ装置の第1の実施例を示す図である。
【
図6】幅広導波路およびヒータの配置の一例を示す図である。
【
図8】コアの側壁からの反射についての測定結果を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態に係わる波長可変レーザ装置の第2の実施例を示す図である。
【
図10】波長可変フィルタおよびミラーのレイアウトについて説明する図である。
【
図11】本発明の実施形態に係わる波長可変レーザ装置の第3の実施例を示す図である。
【
図12】本発明の実施形態に係わる波長可変レーザ装置の第4の実施例を示す図である。
【
図13】光増幅部の導波路と光集積回路の導波路との接続面の一例を示す図である。
【
図14】本発明の実施形態に係わる波長可変レーザ装置の第5の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、波長可変レーザ装置の一例を示す。
図1に示す波長可変レーザ装置100は、シリコン基板10上に形成される。すなわち、波長可変レーザ装置100は、シリコンフォトニクス技術を利用して形成される。なお、シリコン基板10の形状は、この実施例では矩形である。
【0012】
波長可変レーザ装置100は、光増幅部11、波長可変フィルタ12、光導波路13、ミラー14、およびミラー15を備える。なお、波長可変レーザ装置100は、
図1に示していない他の要素を備えてもよい。例えば、波長可変レーザ装置100は、光増幅部11に駆動電流を供給するための電気回路(例えば、電極)を備える。また、波長可変レーザ装置100は、レーザ光の波長を制御するための電気回路(例えば、ヒータ)、およびキャビティの光学長を調整するための電気回路(例えば、ヒータ)を備える。
【0013】
シリコン基板10は、
図1に示すように、光集積回路領域およびテラス領域を備える。光集積回路領域には、シリコンフォトニクス技術により、波長可変フィルタ12、光導波路13、およびミラー14が形成される。テラス領域は、シリコン基板10の表面を所定の深さだけ削ることにより形成される。そして、テラス領域には、光増幅部11が設けられる。
【0014】
光増幅部11は、例えば、半導体光増幅器(Semiconductor Optical Amplifier)である。そして、光増幅部11は、光増幅部11の電極がテラス領域に形成される不図示の電極パターンに電気的に接触するように、テラス領域内の所定の位置に実装される。
【0015】
波長可変フィルタ12は、リング導波路を含み、所望の波長を選択することができる。
図1に示す例では、波長可変フィルタ12は2個のリング導波路を備えるが、本発明の実施形態はこの構成に限定されるものではない。即ち、波長可変フィルタ12は、1個のリング導波路を備える構成であってもよいし、3個以上のリング導波路を備えてもよい。なお、波長可変フィルタ12が複数のリング導波路を備える場合、全体としてバーニア型の可変フィルタとして機能するので、複数のリング導波路の直径は互いに微小量だけ異なることが好ましい。ただし、本出願の図面では、便宜的に同じ直径で図示している。波長可変フィルタ12の構成については後で
図3を参照して説明する。
【0016】
光導波路13は、光増幅部11と波長可変フィルタ12とを光学的に結合する。ここで、光導波路13は、シリコン基板10の長手方向に形成される直線導波路13aおよび傾斜導波路13bを備える。なお、
図1においては、直線導波路13aおよび傾斜導波路13bは所定の角度で接続されているが、実際には微小な曲率の曲がり導波路により、連続的に接続されている。傾斜導波路13bは、光導波路13を伝搬する光が光増幅部11と光集積回路との間で、両素子の端面に対して垂直に入射しないようにするために設けられる。この構成により、光導波路13から光増幅部11に入射/出射する光に対する反射が抑制される。なお、光増幅部11内の導波路は、光導波路13に対して十分に小さい損失で結合するものとする。また、光増幅部11と結合する光導波路13の先端部(
図1では、傾斜導波路13b)には、スポットサイズコンバータが形成されることが好ましい。
【0017】
光導波路13は、例えば、シリコン基板10の表面に形成されるシリコン導波路により実現される。光導波路13のコアの断面の形状は、例えば、矩形である。コアの高さは、例えば、220nmである。この場合、光導波路13のコアの幅は、マルチモードの伝搬が十分に抑制されるように決定される。一例としては、光導波路13のコアの幅は約500nmである。なお、光導波路のコアの幅が500nm以下であれば、マルチモードの伝搬が十分に抑制される。
【0018】
光導波路13の近傍には、ヒータ21が設けられる。ヒータ21は、例えば、光導波路13の近傍に形成される電気回路により実現される。例えば、
図2に示すように、500nm幅の導波路コアの上部に、TiNなどの薄膜状金属を、導波路コアより広い幅で導波路コアに沿って形成することで、ヒータ21が実現される。この場合、この電気回路は、光導波路13の近傍に形成される電極パターンおよびその電極パターンに接続する端子を含む。そして、ヒータ21に供給する電流を制御することにより、光導波路13の屈折率が変化する。すなわち、ヒータ21に供給する電流を制御することにより、光導波路13の光学長が調整され、波長可変レーザ装置100の共振器長が調整される。したがって、ヒータ21は、波長可変レーザ装置100内を伝搬する光の位相を調整する位相調整器として動作し得る。
【0019】
ミラー14は、波長可変フィルタ12の出力端に光学的に結合される。よって、波長可変フィルタ12から出力される光は、ミラー14により反射され、波長可変フィルタ12に入力される。ミラー14は、全反射ミラーであり、損失がゼロに近いことが好ましい。また、ミラー14は、特に限定されるものではないが、この実施例ではループミラーにより実現される。ループミラーは、光導波路により実現される。
【0020】
ミラー15は、波長可変レーザ装置100の出射端に設けられる。すなわち、ミラー15は、光増幅部11の出射面に設けられる。また、ミラー15は、ハーフミラー(即ち、半透過ミラー)である。したがって、ミラー15は、光増幅部11において増幅される光成分の一部を出射すると共に、残りの光成分を反射する。なお、ミラー15の反射率(または、透過率)は、波長可変レーザ装置100が高い効率でレーザ光を生成するように設定される。
【0021】
上記構成の波長可変レーザ装置100において、光増幅部11を駆動することで光増幅部11により光が生成される。そうすると、光増幅部11により生成される光は、ミラー14、15間で伝搬する。すなわち、光増幅部11から出力される光は、光導波路13を介して波長可変フィルタ12に導かれる。波長可変フィルタ12を通過する光は、ミラー14により反射され、波長可変フィルタ12に戻る。波長可変フィルタ12を通過する光は、光導波路13を介して光増幅部11に導かれる。光導波路13から光増幅部11に入力される光は、ミラー15により反射され、光導波路13に出力される。
【0022】
このとき、波長可変フィルタ12は、指定された波長の光を通過させる。よって、ミラー14、15間で指定された波長の光が伝搬することになる。また、ヒータ21に供給する電流を制御することにより、光導波路13を伝搬する光の位相が調整される。よって、位相がそろった光が生成される。すなわち、レーザ光が生成される。さらに、このレーザ光は、光増幅部11において増幅される。そして、このレーザ光の一部は、ミラー15を通過する。したがって、波長可変レーザ装置100は、所望の波長のレーザ光を生成することができる。
【0023】
図3は、波長可変フィルタ12の構成の一例を示す。この実施例では、波長可変フィルタ12は、
図3(a)に示すように、リング導波路12a~12bおよび導波路12c~12eを備える。導波路12cは、
図1に示す光導波路13に光学的に結合する。なお、導波路12cは、光導波路13の一部であってもよい。この場合、波長可変フィルタ12は、リング導波路12a~12bおよび導波路12d~12eを備える。リング導波路12aは、導波路12cに光学的に結合する。導波路12dは、リング導波路12aに光学的に結合する。すなわち、リング導波路12aは、導波路12cおよび導波路12dにそれぞれ結合する。リング導波路12bは、導波路12dに光学的に結合する。導波路12eは、リング導波路12bに光学的に結合する。すなわち、リング導波路12bは、導波路12dおよび導波路12eにそれぞれ結合する。そして、導波路12eは、
図1に示すミラー14に光学的に結合する。
【0024】
図3に示す波長可変フィルタ12において、光ポートK1から入力される光は、導波路12c、リング導波路12a、導波路12d、リング導波路12b、および導波路12eを介して光ポートK2に導かれる。よって、
図1に示す光導波路13から波長可変フィルタ12に入力する光は、導波路12c、リング導波路12a、導波路12d、リング導波路12b、および導波路12eを伝搬して
図1に示すミラー14に導かれる。
【0025】
ミラー14は、波長可変フィルタ12の光ポートK2から出力される光を反射する。この反射光は、波長可変フィルタ12の光ポートK2に入力される。光ポートK2から入力される光は、導波路12e、リング導波路12b、導波路12d、リング導波路12a、および導波路12cを介して光ポートK1に導かれる。よって、ミラー14からの反射光は、導波路12e、リング導波路12b、導波路12d、リング導波路12a、および導波路12cを伝搬して光導波路13に導かれる。
【0026】
なお、
図3に示す光ポートK1、K2は、波長可変フィルタ12の構成および動作を説明するために図示したものであり、波長可変フィルタ12が物理的な「ポート」を備えるわけではない。すなわち、導波路12cおよび
図1に示す光導波路13は、連続する光導波路により実現されることが好ましい。また、導波路12eおよび
図1に示すミラー14は、連続する光導波路により実現されることが好ましい。
【0027】
ここで、波長可変フィルタ12は、
図3(b)に示すように、リング導波路12a、12bの近傍にそれぞれヒータ22a、22bを備える。この部分の断面構造は、
図2に示す構造と実質的に同じである。すなわち、各リング導波路コアの上部に、それぞれ、リング導波路コアに沿って薄膜状金属が形成される。ヒータ22a、22bは、それぞれ、リング導波路12a、12bの近傍に形成される電極パターンにより実現される。そして、ヒータ22a、22bに供給する電流を制御することによりリング導波路12a、12bの屈折率が変化し、リング導波路12a、12bの光学長が調整される。換言すれば、ヒータ22a、22bを利用してリング導波路12a、12bの共振波長を調整できる。このとき、この共振波長に対応する波長の光が選択されて出力される。したがって、リング導波路12a、12bおよびヒータ22a、22bは、所望の波長の光を選択する波長選択器として動作し得る。
【0028】
このように、
図1に示す波長可変レーザ装置100は、所望の波長のレーザ光を生成することができる。ただし、
図1に示す構成では、キャビティ内で不要な光が生成され、この不要な光に起因してモードホップが発生することがある。そして、モードホップが発生すると、レーザの発振が不安定になり、レーザ光の品質が低下してしまう。
【0029】
この問題に関して、本件出願の発明者は、不要な光が生成される原因の1つが光導波路内での反射(または、散乱)であることを見出した。以下、
図4を参照して光導波路内での反射について説明する。
【0030】
図4に示すグラフは、光導波路内の光パワーの分布を表す。横軸は、光導波路のコアを横切るX-X線上の位置を表す。X-X線は、シリコン基板10の表面に平行である。縦軸は、光パワーを表す。なお、光導波路に入力される光のパワーは、
図4(a)に示すケースおよび
図4(b)に示すケースで同じである。また、光ファイバのコアの高さは、
図4(a)に示すケースおよび
図4(b)に示すケースで同じである。
【0031】
図4(a)に示すケースでは、マルチモードの伝搬が抑制されるように光導波路が形成されている。すなわち、コアの幅W1は、マルチモードの伝搬が抑制されるように、設計されている。一例としては、コアの幅W1は、約500nmである。
【0032】
光パワーは、コアの中心付近において最も高い。そして、コアの中心からの距離が大きくなるにつれて、光パワーは低くなっていく。ただし、
図4(a)に示すケースでは、コアの幅W1は狭い。このため、コアの側壁(即ち、位置S1、S2)における光パワーP1は比較的大きい。他方、コアの側壁(即ち、コアとクラッドとの境界)を完全に滑らかに形成することは困難である。そして、コアの側壁が滑らかでないときは、コア内を伝搬する光に対してランダムな反射が発生する。ここで、コアの側壁に接する光のパワーが高いほど反射光が強くなる。すなわち、コアの側壁に接する光のパワーが高いほど不要な反射光のパワーが高くなる。したがって、
図4(a)に示すように、コアの幅W1が狭い場合、不要な反射光のパワーが高くなってしまう。
【0033】
図4(b)に示すケースでは、コアの幅W2は、
図4(a)に示す幅W1よりも広い。一例としては、コアの幅W2は、約2μmである。このため、コアの側壁(即ち、位置S3、S4)における光パワーP2は十分に小さい。このため、コアの側壁が滑らかでない場合であっても、コア内を伝搬する光に対する反射光は弱い。したがって、
図4(b)に示すように、コアの幅W2が広い場合、不要な反射光のパワーは小さくなる。
【0034】
そこで、本発明の実施形態においては、光増幅部11と波長可変フィルタ12とを結合する光導波路13の少なくとも一部の区間のコア幅を広くする。具体的には、光導波路13の少なくとも一部の区間のコア幅は、マルチモードの伝搬が抑制される導波路幅(例えば、500nm)よりも広く形成される。これにより、
図4を参照して説明した通り、光導波路13において不要な反射光の発生が抑制される。この結果、モードホップが発生しにくくなり、レーザの発振が安定するので、レーザ光の品質が改善する。なお、光導波路のコアの幅を広くすることで、マルチモードが伝搬するリスクが高くなるが、本発明の実施形態は、後で説明するが、マルチモードの発生を抑制するように構成される。
【0035】
図5は、本発明の実施形態に係わる波長可変レーザ装置の第1の実施例を示す。第1の実施例に係わる波長可変レーザ装置1の構成は、
図1に示す波長可変レーザ装置100とほぼ同じである。ただし、光導波路13の構成は、
図1に示す波長可変レーザ装置100と
図5に示す波長可変レーザ装置1とで異なる。
【0036】
波長可変レーザ装置1においては、光導波路13は、幅広導波路31を含む。具体的には、光導波路13は直線導波路13aを含み、直線導波路13aは、第1の幅でコアが形成される第1の導波路および第1の幅より広い第2の幅でコアが形成される第2の導波路を含む。なお、
図5に示す幅広導波路31は、第2の導波路に対応する。また、直線導波路13aのうちの幅広導波路31以外の導波路部分は、第1の導波路に対応する。
【0037】
このように、波長可変レーザ装置1においては、光増幅部11と波長可変フィルタ12とを結合する光導波路13が幅広導波路31を含む。ここで、
図4を参照して説明したように、光導波路13のコア幅を広くすると、光導波路13において不要な反射光の発生が抑制される。したがって、モードホップが発生しにくくなり、レーザの発振が安定するので、レーザ光の品質が改善する。
【0038】
なお、ミラー14、15間の光学長を調整するためのヒータ21は、
図1に示す構成と同様に、光導波路13の近傍に設けられる。波長可変レーザ装置1においては、ヒータ21は、通常の導波路の近傍に設けてもよいし、幅広導波路31の近傍に設けてもよい。
図5では、ヒータ21は、幅広導波路31の近傍に設けられている。この場合、光集積素子の導波路全体に対して幅広導波路が占める割合が大きくなるので、導波路からの反射が小さくなり、より安定したレーザ動作が得られる。
【0039】
図6は、幅広導波路およびヒータの配置の一例を示す。幅広導波路の近傍にヒータを設ける場合の構造は、
図2に示す通常の導波路の近傍にヒータを設ける場合の構造と同じでよい。また、幅広導波路の近傍に設けるヒータは、
図2に示す通常の導波路の近傍に設けるヒータと同様に、例えば、薄膜状金属で形成される。なお、
図2および
図6に示す例では、通常の導波路の近傍に設けるヒータおよび幅広導波路の近傍に設けるヒータの幅が互いに同じであるが、通常の導波路の近傍に設けるヒータより幅広導波路の近傍に設けるヒータの幅を広くしてもよい。
【0040】
図7は、光導波路13の構造の実施例を示す。光導波路13は、上述したように、直線導波路13aを備える。そして、
図7(a)に示す例では、直線導波路13aは、幅広導波路31およびシングルモード導波路32a、32bから構成される。幅広導波路31の一方の端部にシングルモード導波路32aが接続され、幅広導波路31の他方の端部にシングルモード導波路32bが接続される。例えば、シングルモード導波路32aは、
図5に示す傾斜導波路13bを介して光増幅部11に結合され、シングルモード導波路32bは、
図5に示す波長可変フィルタ12に結合される。
【0041】
シングルモード導波路32a、32bのコアの幅W1は、上述したように、マルチモードの伝搬が抑制されるように設計されており、この実施例では約500nmである。幅広導波路31のコアの幅W2は、シングルモード導波路32a、32bのコアの幅W1よりも広く、この実施例では約2μmである。なお、幅広導波路31およびシングルモード導波路32a、32bの高さは互いに同じである。
【0042】
このように、本発明の実施形態に係わる光導波路13は、幅広導波路31を備える。よって、
図4を参照して説明したように、光導波路13における不要な反射光の発生は抑制される。
【0043】
ただし、
図7(a)に示す構成では、光の伝搬方向において光導波路13のコアの断面積が不連続に変化する。具体的には、幅広導波路31とシングルモード導波路32aとの境界および幅広導波路31とシングルモード導波路32bとの境界において、それぞれ光導波路13のコアの断面積が不連続に変化する。そして、光導波路のコアの断面積が不連続に変化すると、光の損失が大きくなるだけでなく、モード変換が発生し得る。したがって、
図7(a)に示す構成では、マルチモードが発生し得る。
【0044】
この問題を考慮すると、光導波路13は、
図7(b)に示すように、幅広導波路31とシングルモード導波路32a、32bとの間で、コアの断面積が連続的に変化するように形成されることが好ましい。具体的には、幅広導波路31とシングルモード導波路32aとの間にテーパ導波路33aを設ける。テーパ導波路33aのコアの幅は、W1とW2との間で連続的に変化する。同様に、幅広導波路31とシングルモード導波路32bとの間にテーパ導波路33bを設ける。テーパ導波路33bのコアの幅は、W1とW2との間で連続的に変化する。なお、テーパ導波路33bの高さは、幅広導波路31とシングルモード導波路32a、32bと同じである。
【0045】
このように、
図7(b)に示す光導波路13は、幅広導波路31を備え、且つ、コアの断面積が連続的に変化するように形成される。よって、光導波路13における不要な反射光の発生が抑制され、且つ、マルチモードの発生も抑制される。
【0046】
なお、
図4を参照して説明したように、幅広導波路31の幅を広くするほど、光導波路の側壁からの反射光が弱くなる。ただし、幅広導波路31の幅を広くするほど、マルチモードが伝搬しやすくなる。ここで、
図7(b)に示すテーパ導波路33a、33bを設けることでマルチモードの発生が抑制されるが、マルチモードをゼロにすることは困難である。すなわち、幅広導波路31の幅を広くし過ぎると、マルチモードが伝搬するリスクが高くなる。したがって、本発明の実施形態においては、光導波路のコアの側壁からの反射光およびマルチモードが伝搬するリスクの双方を考慮して、幅広導波路31の幅の最大値を設定することが好ましい。
【0047】
例えば、マルチモードをゼロにすることは困難なので、マルチモードの伝搬を抑制するために、一例として、幅広導波路31の幅の最大値は2μmである。他方、光導波路のコアの側壁を滑らかに形成できるときは、コアの側壁からの反射光が弱いので、幅広導波路31の幅を2μmより狭くしてもよい。そして、このような設計により、光導波路13における不要な反射光の発生は抑制され、且つ、マルチモードの伝搬も抑制される。この結果、レーザの発振が安定するので、レーザ光の品質が改善する。
【0048】
図8は、コアの側壁からの反射についての測定結果を示す。グラフの横軸は、光の伝搬方向における光導波路上の位置を表す。位置R1、R2は、それぞれ幅広導波路の端部を表す。すなわち、位置R1~R2に幅広導波路が形成されている。幅広導波路の長さ(すなわち、位置R1、R2間の距離)は、例えば、1mmである。また、幅広導波路の両端には、
図7(b)に示すように、テーパ導波路が形成されている。グラフの縦軸は、コアの側壁からの反射量を表す。なお、反射量は、反射測定器(リフレクトメータ)により測定される。
【0049】
図8(a)は、幅広導波路のコアの幅がシングルモード導波路のコアの幅よりも少しだけ広いケースでの反射量を示す。
図8(b)は、幅広導波路のコアの幅が、
図8(a)に示すケースより広く、
図8(c)に示すケースより狭いときの反射量を示す。
図8(c)は、幅広導波路のコアの幅が十分に広いケース(たとえば、2μm)での反射量を示す。このように、光導波路のコアの幅を広くすると、コアの側壁からの反射(又は、散乱)が抑制される。
【0050】
図9は、本発明の実施形態に係わる波長可変レーザ装置の第2の実施例を示す。第2の実施例に係わる波長可変レーザ装置2は、
図5に示す波長可変レーザ装置1に幅広導波路34を追加することで構成される。
【0051】
上述したように、光導波路のコアの幅を広くすることにより、コアの側壁からの反射が抑制される。このため、コアの側壁からの反射を少なくするためには、ミラー14、15間の光パスにおいて、幅広導波路をできるだけ長く形成することが好ましい。ただし、曲線導波路のコアの幅を広くすると、高次のモードの伝搬光が励振され、結果的に光の損失が大きくなるおそれがある。したがって、例えば、波長可変フィルタ12内のリング導波路のコアの幅を広くすることは好ましくない。よって、本発明の実施形態では、各リング導波路12a、12bのコアの幅は、通常の導波路(例えば、シングルモード導波路)と同じである。
【0052】
そこで、波長可変レーザ装置2は、波長可変フィルタ12内の導波路12eが幅広導波路34を含むように構成される。このため、波長可変レーザ装置2においては、
図5に示す波長可変レーザ装置1と比較すると、幅広導波路のトータル長が大きくなり、コアの側壁からの反射が少なくなると考えられる。
【0053】
ただし、幅広導波路の個数が増えると、通常の導波路(
図7では、シングルモード導波路32a、32b)と幅広導波路との間の変換の数が増加する。ここで、通常の導波路と幅広導波路との間には、損失および/またはモード変換を抑制するために、
図7(b)に示すテーパ導波路を設けることが可能である。しかし、テーパ導波路を設ける場合であっても、完全な導波路幅変換を実現することは容易ではなく、損失および/またはモード変換が発生し得る。
【0054】
したがって、本発明の実施形態に係わる波長可変レーザ装置は、下記の2つの要件を満たすことが好ましい。
(1)ミラー14、15間の光パスにおいて、幅広導波路をできるだけ長く形成する。
(2)幅広導波路の個数を少なくする。
【0055】
図10は、波長可変フィルタ12およびミラー14のレイアウトについて説明する図である。なお、
図10においては、光導波路13および導波路12cは、1本の光導波路を構成するものとする。したがって、
図10に係わる記載では、この光導波路を「導波路13_12c」と呼ぶことがある。
【0056】
図10(a)に示すレイアウトは、
図9に示す波長可変レーザ装置2に対応する。すなわち、
図9に示す幅広導波路34は、
図10(a)に示す区間Fに形成される。この場合、波長可変レーザ装置2は、2個の幅広導波路を備えることになる。
【0057】
図10(b)に示すレイアウトでは、
図10(a)に示すレイアウトと比較して、リング導波路12a、12bの位置がミラー14側に移動している。具体的には、リング導波路12bとミラー14との間の距離が可能な限り小さくなるようにリング導波路12a、12bの位置をシフトさせる。このとき、ミラー14の位置は変わらない。よって、
図10(a)に示すレイアウトと比較して、区間Fに相当する長さだけ導波路13_12cが長くなる。
【0058】
このように、
図10(b)に示すレイアウトでは、
図10(a)に示すレイアウトと比較すると、点K3とミラー14との間の光パスにおいて、導波路12eの長さが区間Fだけ短くなり、導波路13_12cの長さが区間Fだけ長くなる。すなわち、点K3とミラー14との間の光学長は、互いに同じである。
【0059】
図11は、本発明の実施形態に係わる波長可変レーザ装置の第3の実施例を示す。第3の実施例に係わる波長可変レーザ装置3は、光増幅部11と波長可変フィルタ12との間に幅広導波路35を備える。ここで、波長可変フィルタ12は、
図10(b)に示すレイアウトに基づいて形成される。また、波長可変レーザ装置3においては、
図9に示す幅広導波路34は形成されず、
図10(b)に示す区間Fに幅広導波路が形成される。なお、
図10(b)に示す区間Fに形成される幅広導波路は、幅広導波路35の一部である。
【0060】
幅広導波路35の長さは、
図9に示す幅広導波路31の長さおよび幅広導波路34の長さの合計値以上である。よって、上記要件(1)は満たされる。また、
図11に示す波長可変レーザ装置3においては、幅広導波路の個数は1である。よって、上記要件(2)も満たされる。この結果、光導波路13での不要な反射光の発生を抑制しながら、幅広導波路を設けることに起因する損失および/またはモード変換を抑制できる。
【0061】
図12は、本発明の実施形態に係わる波長可変レーザ装置の第4の実施例を示す。第4の実施例に係わる波長可変レーザ装置4においては、シリコン基板10の長手方向に対して、光増幅部11が斜めに実装されている。加えて、
図13に示すように、光増幅部11内の導波路と光導波路13との接続面が、光の伝搬方向に対して斜めに形成される。この場合、光増幅部11との接続部から幅広導波路35に至る経路が全て直線の導波路で構成され、通常幅の曲がり導波路が含まれていない。したがって、この構成によれば、光集積素子の導波路全体に対して幅広導波路が占める割合が大きくなるので、導波路からの反射が小さくなり、より安定したレーザ動作が得られる。
【0062】
図14は、本発明の実施形態に係わる波長可変レーザ装置の第5の実施例を示す。第1~第4の実施例では、光増幅部11と波長可変フィルタ12との間に幅広導波路が形成される。これに対して、第5の実施例に係わる波長可変レーザ装置5においては、波長可変フィルタ12とミラー14との間に形成される光導波路13が幅広導波路31を含む。そして、この構成であっても、第1~第4の実施例と同様に、光導波路内で発生する不要な反射光が抑制され、レーザ光の品質が改善する。
【符号の説明】
【0063】
1~5 波長可変レーザ装置
10 シリコン基板
11 光増幅部
12 波長可変フィルタ
12a、12b リング導波路
13 光導波路
13a 直線導波路
14 ミラー(ハーフミラー)
15 ミラー(ループミラー)
31、34、35 幅広導波路
32a、32b シングルモード導波路
33a、33b テーパ導波路