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  • 特開-レーザマーキング方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108731
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】レーザマーキング方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/26 20060101AFI20230731BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20230731BHJP
   B23K 26/18 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
B41M5/26
B23K26/00 B
B23K26/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009931
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】502245118
【氏名又は名称】学校法人国士舘
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 公俊
【テーマコード(参考)】
2H111
4E168
【Fターム(参考)】
2H111HA14
2H111HA23
2H111HA32
4E168AA01
4E168DA02
4E168DA23
4E168JA17
4E168JA18
(57)【要約】
【課題】樹脂組成物に高精度に画像を印刷する。
【解決手段】樹脂組成物からなる対象物1の加工面Fにレーザ2を照射することで画像を印刷するレーザマーキング方法であって、レーザ2を透過する放熱部材4を対象物1の加工面Fに設置した状態で、当該加工面Fにレーザ2を照射し、放熱部材4の熱伝導率は、対象物1の熱伝導率よりも高い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物からなる対象物の表面にレーザを照射することで画像を印刷するレーザマーキング方法であって、
前記レーザを透過する放熱部材を前記対象物の表面に設置した状態で、当該表面にレーザを照射し、
前記放熱部材の熱伝導率は、前記対象物の熱伝導率よりも高い
レーザマーキング方法。
【請求項2】
前記対象物は、可視光線の透過率が10%以上である
請求項1のレーザマーキング方法。
【請求項3】
前記樹脂組成物は、フッ素樹脂を含む
請求項1または請求項2のレーザマーキング方法。
【請求項4】
前記対象物の厚さは、1mm以下である
請求項1から請求項3の何れかのレーザマーキング方法。
【請求項5】
前記放熱部材の熱伝導率は、空気の熱伝導率よりも低い
請求項1から請求項4の何れかのレーザマーキング方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザで樹脂組成物の表面を加工する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属や木材などの対象物の表面にレーザを照射することで表面を変色させて、文字や模様といった画像を印刷(いわゆるレーザマーキング)する各種の技術が提案されている。
【0003】
ここで、近年、製品や生産のトレーサビリティを確保する観点から、固体番号やバーコード等を製品の表面に直接的に印刷したいという要望がある。製品の表面は、樹脂組成物からなる場合も多い。しかし、樹脂組成物は、一般的には撥水性が高い。したがって、インクにより樹脂組成物に画像を印刷することが困難な場合がある。
【0004】
そこで、樹脂組成物にレーザを用いて画像を印刷する技術が開示されている(例えば特許文献1)。特許文献1の技術では、樹脂組成物に直接的にレーザを照射する。そして、樹脂組成物の表面のうちレーザが照射された箇所が溶融することで変色して、所望の画像が印刷される。樹脂組成物が溶融する際に、樹脂組成物の表面から周囲の空気へ熱伝達が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-123616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、空気の熱伝導性は低く、樹脂組成物の表面から周囲の空気への熱伝達は悪い。その結果、レーザが照射された樹脂組成物の表面の温度が急激に上昇する。さらに、樹脂組成物自体も熱伝導性が低い場合が多い。そうすると、レーザの照射により溶融した箇所は、瞬間的に気化に至って損傷(過度の変形や変色)が激しくなる。すなわち、画像が高精度に印刷されないという問題が発生する。特に厚さが1mm以下の薄膜状である樹脂組成物からなる対象物に画像を印刷する場合には、容易に穴あきや切断といった損傷を引き起こす。以上の事情を考慮して、本発明では、レーザを用いて樹脂組成物に高精度に画像を印刷することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
樹脂組成物からなる対象物の表面にレーザを照射することで画像を印刷するレーザマーキング方法であって、前記レーザを透過する放熱部材を前記対象物の表面に設置した状態で、当該表面にレーザを照射し、前記放熱部材の熱伝導率は、前記対象物の熱伝導率よりも高い。
【発明の効果】
【0008】
本発明の好適な態様に係るレーザマーキング方法は、樹脂組成物の損傷を低減することが可能である。ひいては、樹脂組成物に高精度に画像を印刷することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係るレーザマーキング方法を模式的に表す模式図である。
図2】比較例に係るレーザマーキング方法を模式的に表す模式図である。
図3】実施例および比較例に係るレーザマーキング方法で画像を印刷した対象物の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、対象物の表面にレーザを照射することで画像(例えば文字や模様)を印刷(いわゆるレーザマーキング)するレーザマーキング方法である。
【0011】
本発明に係る対象物は樹脂組成物からなる。樹脂組成物は、樹脂材料を主成分(例えば全体の90質量%以上)とする。樹脂材料としては、特に制限はなく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および光硬化性樹脂等から公知の任意の材料が1種以上使用される。例えば、ポリエチレン、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン、スチレン樹脂、ABS樹脂、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂、塩化ビニリデン樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、アセタール樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが樹脂材料として例示される。
【0012】
なお、樹脂組成物には、樹脂材料の他に任意の添加剤が配合され得る。添加剤としては、例えば、難燃剤、潤滑剤、熱安定剤、染料、顔料、離型剤、酸化防止剤、可塑剤などが例示される。樹脂組成物および添加剤の種類は、樹脂組成物に対してレーザマーキングが可能であれば任意である。
【0013】
図1は、本実施形態に係るレーザマーキング方法を模式的に表す模式図である。以下の説明では、対象物1のうち画像を印刷する表面を「加工面F」と表記する。図1に例示される通り、本実施形態に係るレーザマーキング方法は、放熱部材4を加工面Fに設置した状態で当該加工面Fにレーザ2を照射する。レーザ2は、所望する画像に応じた軌跡に沿って走査され、放熱部材4を透過して対象物1に照射される。そして、加工面Fにおいてレーザ2が照射された箇所が溶融して変色することで画像が印刷される。
【0014】
加工面Fに対するレーザ2の照射には、対象物1である樹脂組成物に吸収される波長をもつ光を照射可能な公知の任意のレーザ加工器により行われる。例えば、波長が780nm以上1mm以下の範囲内にある赤外線を照射するレーザ加工器が使用される。なお、微細な画像を高精度に印刷する観点からは、レーザ2の照射を微細な領域に限定できるCO2レーザ加工器が好適である。
【0015】
放熱部材4は、レーザ2の照射により対象物1(特に加工面F付近)で発生した熱を放熱するための部材である。具体的には、放熱部材4は、対象物1の加工面Fに接触した状態で設置される。本実施形態に係る放熱部材4は、レーザ2を透過する。レーザ2の発振波長(ピーク波長)における透過率が20%以上であり、好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは70%以上である材料で放熱部材4が形成される。レーザ2は放熱部材4を透過して対象物1に吸収される。
【0016】
放熱部材4の熱伝導率は、対象物1の熱伝導率よりも高い。さらに、放熱部材4の熱伝導率は、対象物1が存在する空間内の空気の熱伝導率よりも高いことが好ましい。具体的には、放熱部材4の熱伝導率は、例えば、1W/mK以上であり、好ましくは10W/mK以上であり、さらに好ましくは50W/mK以上である。放熱部材4の熱伝導率の上限値は特に限定されないが、例えば150W/mK以下である。
【0017】
なお、対象物1の熱伝導率は、対象物1に使用する樹脂組成物の種類に応じて異なるが、例えば0.2~0.4W/mKである。また、空気の熱伝導率は、例えば20度の場合には0.0257W/mKである。
【0018】
以上の説明から理解される通り、放熱部材4の材料は、使用するレーザ2の発振波長および使用する対象物1の熱伝導率に応じて適宜に選択される。
【0019】
例えば、発振波長が9~11μmの範囲内にあるレーザ2(例えば発振波長が約10.6μmであるCO2レーザ)を使用する場合には、例えば、当該レーザ2を透過するシリコン、ゲルマニウム、セレン化亜鉛、硫化亜鉛などを放熱部材4として用いることが好ましい。
【0020】
発振波長が4~6μmの範囲内にあるレーザ2(例えば発振波長が約5μmであるCOレーザ)を使用する場合には、例えば、当該レーザ2を透過するシリコン、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、酸化マグネシウムなどを放熱部材4として用いることが好ましい。
【0021】
発振波長が1~3μmの範囲内にあるレーザ2(例えば発振波長が約1.9μmであるツリウムドープレーザや発振波長が約1.06μmのファイバーレーザ)を使用する場合には、例えば、当該レーザ2を透過する石英、サファイア、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、ホウケイ酸ガラスなどを放熱部材4として用いることが好ましい。
【0022】
なお、放熱部材4の材料は、以上の例示に限定されない。レーザ2を透過し、かつ、対象物1の熱伝導率よりも高い材料であれば、放熱部材4の材料は任意である。例えば、複数種の材料や各種の添加剤を含有した放熱部材4を使用してもよい。
【0023】
放熱部材4の厚さは、放熱部材4の素材に応じて適宜に選択され、特に限定はされない。放熱部材4でのレーザ2の吸収および散乱を抑制して対象物1に十分にレーザを到達させる観点からは、放熱部材4の厚さは、例えば0.5~4.0mmが好ましく、1.0~2.0mmがさらに好ましい。
【0024】
ここで、樹脂組成物からなる対象物1の表面に直接的にレーザ2を照射するレーザマーキング方法(以下「比較例」という)を想定する。図2は、比較例に係るレーザマーキング方法を模式的に表す模式図である。図2に示される通り、比較例は、対象物1における加工面Fが空気に接触している状態である。
【0025】
しかし、空気の熱伝導性は低く、加工面Fから周囲の空気への熱伝達は悪い。そうすると、レーザ2が照射された加工面Fの温度が急激に上昇する。さらに、樹脂組成物自体も熱伝導性が低いことが多い。その結果、比較例のレーザマーキング方法では、レーザ2の照射により溶融した箇所(以下「溶融箇所」)3は、瞬間的に気化に至って損傷(例えば過度な変形や変色)が激しくなる。
【0026】
また、対象物1の温度が上昇して分解点を超えると、溶融箇所3内で発泡をして発泡箇所を形成する。比較例では、加工面Fから周囲の空気への熱伝達が悪いため、溶融箇所3が広範囲になる。そうすると、発泡箇所も広範囲にわたり形成されることになる。その結果、発泡箇所が対象物1の厚さにわたり形成され、穴あきや切断といった損傷を引き起こす。比較例のレーザマーキング方法では、特に厚さが1mm以下である薄膜状の対象物1に画像を印刷する場合には、容易に穴あきや切断といった損傷を引き起こす。
【0027】
以上の説明から理解される通り、比較例では、対象物1が損傷して画像が高精度に印刷されないという問題が発生する。
【0028】
図3には、比較例に係るレーザマーキング方法で実際に画像(QRコード(登録商標))を印刷した場合の対象物の写真を示す。比較例では、厚さ約0.1mmであるフッ素樹脂(半透明)からなる対象物を使用し、発振波長が約10.6μmであるレーザ(マークスピード:500mm/s,レーザパワー:50%)を使用した。図3に示される通り、比較例では、レーザを照射した箇所が過度に変形および変色して、さらに穴あきや切断も引き起こしていることが確認できる。
【0029】
以下、本発明に係るレーザマーキング方法を詳細に説明する。図1に例示される通り、放熱部材4側からレーザ2を照射する。そして、放熱部材4を透過したレーザ2は、対象物1に吸収されて熱に変わり溶融箇所3を形成する。その際、加工面F付近で発生した熱は、対象物1よりも熱伝導率が高い放熱部材4に熱伝達により移動(図1の破線矢印のように移動)する。したがって、加工面Fにおける過度の温度上昇が抑制される。具体的には、加工面Fの温度が対象物1(樹脂組成物)の融点を上回ることを抑制できる。過度の温度上昇が抑制される結果、対象物1の損傷(過度の変形や変色)を発生させずに、対象物1の内部を更に高温へ加熱できる。
【0030】
さらに、対象物1の内部が高温に加熱されると、対象物1の温度が分解点を超える。分解点を超えると、溶融箇所3内で発泡箇所5を形成して変色する。本発明では、加工面Fにおける温度上昇が抑制されるから、溶融箇所3の範囲を限定的にすることができる。そして、溶融箇所3内に形成される発泡箇所5の範囲も限定的にすることができる。具体的には、発泡箇所5の範囲を対象物1の肉厚未満とすることができる。したがって、対象物1における穴あきや切断といった損傷の発生を抑制できる。
【0031】
以上の説明から理解される通り、本発明のレーザマーキング方法によれば、対象物1の損傷を抑制できるから、高精度に画像を印刷できる。本発明では、特に、対象物1の厚さが1mm以下である薄膜状である場合に、穴あきや切断を引き起こさずに好適に利用できる。
【0032】
図3には、本実施形態の一例(以下「実施例」という)に係るレーザマーキング方法で、比較例と同様の条件において画像を印刷した場合の写真も図示されている。実施例では、シリコンを放熱部材4として使用した。なお、シリコンの熱伝導率は148W/mKであり、対象物1であるフッ素樹脂の熱伝導率は0.25W/mKである。図3に示される通り、実施例では、対象物1における過度の変形や損傷が発生せず、高精度に画像(白く変色している箇所)を印刷できることが確認できる。
【0033】
特に、対象物1が半透明または透明である樹脂組成物からなる場合には、レーザ2による変色が薄く視認性が悪いという問題がある。したがって、濃く発色させるには、過度の発泡を起こす必要がある。しかし、半透明または透明である樹脂組成物は、溶融から帰化に至るまでの温度範囲が狭く、容易に穴あきや切断といった損傷を引き起こすという問題が顕著である。ひいては、対象物1における損傷を抑制しつつ、適切な発色を可能にするためのレーザ2の照射条件の設定が困難である。
【0034】
本発明では、対象物1が半透明または透明である樹脂組成物からなる場合であっても、放熱部材4により対象物1で発生した熱を放熱することができるから、適切に画像を印刷できるという利点がある。すなわち、対象物1が半透明または透明である樹脂組成物からなる場合に、本発明は好適に利用される。
【0035】
なお、本発明において、半透明である樹脂組成物は、可視光線(波長範囲360~780nm)を10%以上90%未満透過させるものであり、透明は可視光線を90%以上透過させるものである。
【0036】
また、撥水性が高い樹脂組成物を含む樹脂組成物から対象物1がなる場合には、インクを用いて画像を印刷しようとすると、インクがはじかれて定着せず画像を印刷しにくいという問題がある。それに対して、本発明では、撥水性の高い樹脂組成物に対してもレーザ2の照射により適切に画像を印刷できる。
【0037】
特に、フッ素樹脂を主成分(全体の90質量%以上)とする樹脂組成物の場合には、半透明や透明であり、かつ、撥水性も非常に高い。したがって、本発明は、特に、フッ素樹脂を主成分とする樹脂組成物を対象物1とする場合に好適に利用できる。
【0038】
以上の説明から理解される通り、本発明に係るレーザマーキング方法によれば、加工面Fに設けた放熱部材4による放熱効果により、加工面Fの温度が対象物1の融点を上回ることを抑制しつつ、かつ、対象物1の内部における限定的な範囲において分解点を超えるまで加熱して変色することが可能になる。したがって、加工面Fにおける損傷を抑制して高精度に画像を印刷できる。
【0039】
なお、例えば樹脂組成物以外の材料(例えばパルプ)からなる基材の表面に樹脂組成物からなる対象物1を設けた構造体のうち当該対象物1の表面に画像を印刷する場合にも本発明は適用できる。
【符号の説明】
【0040】
1:対象物
2:レーザ
3:溶融箇所
4:放熱部材
5:発泡箇所
F:加工面
図1
図2
図3