(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108783
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】光加熱装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/26 20060101AFI20230731BHJP
【FI】
H01L21/26 T
H01L21/26 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010007
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆博
(57)【要約】 (修正有)
【課題】被処理基板の主面上における照度分布を、より精細に調整可能な光加熱装置を提供する。
【解決手段】被処理基板W1に光を照射することで加熱する光加熱装置1であって、被処理基板を支持する支持部材3と、第一主面10pにLED素子10a群が搭載された複数のLED基板10bを含む光源ユニット10と、を備える。複数のLED基板のうちの少なくとも一つは、支持部材に被処理基板が支持された状態の下で、第一主面と被処理基板の第二主面W1aとが傾斜するように配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板に光を照射することで加熱する光加熱装置であって、
前記被処理基板を支持する支持部材と、
第一主面にLED素子群が搭載された複数のLED基板を含む光源ユニットとを備え、
前記複数のLED基板のうちの少なくとも一つは、前記支持部材に前記被処理基板が支持された状態の下で、前記第一主面と前記被処理基板の第二主面とが傾斜するように配置されていることを特徴とする光加熱装置。
【請求項2】
前記複数のLED基板は、前記第一主面が前記支持部材に支持された前記被処理基板の第二主面に対して傾斜するように配置されており、かつ、少なくとも一部において前記第一主面が相互に非平行となるように配置された前記LED基板を含むことを特徴とする請求項1に記載の光加熱装置。
【請求項3】
前記複数のLED基板のそれぞれは、前記被処理基板が前記支持部材に支持された状態の下で、前記第一主面と、前記被処理基板の前記第二主面とのなす角度が20°以上60°以下の範囲内となるように配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光加熱装置。
【請求項4】
前記複数のLED基板のそれぞれは、前記被処理基板が前記支持部材に支持された状態の下で、前記LED基板の前記第一主面における中心と前記被処理基板との離間距離をWd、前記被処理基板の前記第二主面と直交する方向から見たときの、前記被処理基板の中心から前記LED基板の前記第一主面における中心までの距離をRd、前記被処理基板の前記第一主面と、前記被処理基板の前記第二主面とがなす角度をθとしたときに、下記(1)式~(3)式を満たすように配置されていることを特徴とする請求項3に記載の光加熱装置。
60mm≦Wd≦200mm (1)
0.75≦Rd/Wd≦2.5 (2)
arctan(Rd/(2・Wd))≦θ≦arctan(Rd/Wd) (3)
【請求項5】
前記複数のLED基板が載置されるフレームを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の光加熱装置。
【請求項6】
前記フレームは、前記第一主面と、前記支持部材に支持された前記被処理基板の第二主面とがなす角度を調整するために、前記LED基板の位置を変更する角度調整機構を備えることを特徴とする請求項5に記載の光加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスでは、半導体ウェハ等の被処理基板に対して、成膜処理、酸化拡散処理、改質処理、アニール処理といった様々な熱処理が行われる。これらの処理は、非接触での処理が可能な光照射による加熱処理方法が多く採用されている。
【0003】
被処理基板を加熱処理するための装置としては、ハロゲンランプ等のランプや、LED等の固体光源を搭載し、被処理基板に対して加熱用の光を照射する装置が知られている。例えば、下記特許文献1には、複数のLEDを搭載した加熱装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、半導体製造プロセスの微細化といった技術の発展に伴い、より均質な加熱処理ができる加熱装置が求められている。そこで、本発明者は、被処理基板をより均質な温度分布で加熱処理できる加熱装置について鋭意検討していたところ、以下のような課題が存在することを見い出した。
【0006】
上記特許文献1に記載の加熱装置のように、加熱用の光を出射する光源としてLED等の固体光源が複数搭載された加熱装置は、従来、支持部材に載置された被処理基板の主面に対して平行な平面上に複数の固体光源が配置されている。このような構成が一般的に採用される理由としては、被処理基板の主面と、それぞれの固体光源との離間距離を揃えることで、被処理基板の主面上の照度分布を予測・検討しやすいこと、また、被処理基板の主面上の照度分布を制御しやすいこと等が考えられる。
【0007】
しかしながら、複数の固体光源は、固体光源が搭載される基板の主面上にはんだ付け等によって固定してしまうと、その後に位置を変更することが難しい。したがって、支持部材に載置された被処理基板の主面に平行な平面上に複数の固体光源を搭載することを前提とした従来の加熱装置では、被処理基板の主面上における照度分布を微調整しようとすると、固体光源が固定された基板を平行移動させるしかなかった。
【0008】
ところが、固体光源が固定された基板の平行移動では、複数の固体光源の配置は変化しない。このため、当該基板の移動先において、固体光源の配置が適さない場合があった。また、被処理基板の主面と直交する方向に平行移動させる場合、固体光源と被処理基板とを近づけすぎると、固体光源から出射される光が十分に拡がる前に被処理基板に照射されてしまい、かえって照度ムラが発生する。
【0009】
また、固体光源と被処理基板とを遠ざけすぎると、照度不足により十分な照度で光を照射できないといった課題が発生してしまう。つまり、従来の加熱装置は、各被処理基板に応じて、被処理基板に照射される光の照度分布を微調整することが難しかった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、被処理基板の主面上における照度分布を、より精細に調整可能な光加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光加熱装置は、
被処理基板に光を照射することで加熱する光加熱装置であって、
前記被処理基板を支持する支持部材と、
第一主面にLED素子群が搭載された複数のLED基板を含む光源ユニットとを備え、
前記複数のLED基板のうちの少なくとも一つは、前記支持部材に前記被処理基板が支持された状態の下で、前記第一主面と前記被処理基板の第二主面とが傾斜するように配置されていることを特徴とする。
【0012】
本明細書において「傾斜」とは、第一主面と第二主面とがなす角度が0°より大きく90°より小さい範囲内にある状態をいう。
【0013】
LED基板の第一主面と、支持部材に支持された被処理基板の第二主面とがなす角度は、LED基板の位置を調整することで連続的に調整することができる。また、LED基板の第一主面を、被処理基板の第二主面に対して傾斜させる場合において、LED基板を回転させる際の回転軸や、LED基板を傾かせる方向は任意である。
【0014】
上記構成とすることで、光加熱装置は、LED基板の第一主面上におけるLED素子の並べ方による調整に加え、LED基板の傾かせる方向の調整によって、被処理基板の主面上における照度分布を連続的に調整することができる。つまり、上記構成の光加熱装置は、従来構成よりも精細に被処理基板の第二主面における照度分布を調整することができる。
【0015】
上記光加熱装置において、
前記複数のLED基板は、前記第一主面が前記支持部材に支持された前記被処理基板の第二主面に対して傾斜するように配置されており、かつ、少なくとも一部において前記第一主面が相互に非平行となるように配置された前記LED基板を含んでいても構わない。
【0016】
加熱時において、被処理基板は、基板の主面(第二主面)に対する法線方向から見たときに、その中心位置に近い領域(中央部)と比較して、中央部よりも外側に離れるほど、すなわち、周端部に近づくほど温度が下がりやすい。また、上述したように、被処理基板が半導体ウェハである場合において、成膜工程中における加熱処理の場合には、処理中に処理ガスが導入される。また、複数の工程の間において、半導体ウェハに対して洗浄処理が行われる場合がある。このように、被処理基板に対して所定のガス(処理ガス等)や溶液(洗浄液等)が導入されると、特定の領域の温度が低下しやすくなり、温度分布が不均質になる可能性が考えられる。このため、被処理基板を均質な温度分布で加熱すべく、複数のLED基板の第一主面と被処理基板の第二主面との角度は、被処理基板上の光を照射する位置に応じて、それぞれ個別に調整されることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、複数のLED基板のそれぞれの第一主面の、被処理基板の第二主面に対する傾斜角度を、個別に調整することが可能となる。つまり、各LED基板の配置位置や、被処理基板の第二主面上において所望される光の照射態様に応じて、それぞれの傾斜角度が最適化される。この結果、被処理基板の第二主面上における照度分布が、より細かく調整される。
【0018】
上記光加熱装置において、
前記複数のLED基板のそれぞれは、前記被処理基板が前記支持部材に支持された状態の下で、前記第一主面と、前記被処理基板の前記第二主面とのなす角度が20°以上60°以下の範囲内となるように配置されていても構わない。
【0019】
さらに、上記光加熱装置において、
前記複数のLED基板のそれぞれは、前記被処理基板が前記支持部材に支持された状態の下で、前記LED基板の前記第一主面における中心と前記被処理基板との離間距離をWd、前記被処理基板の前記第二主面と直交する方向から見たときの、前記被処理基板の中心から前記LED基板の前記第一主面における中心までの距離をRd、前記被処理基板の前記第一主面と、前記被処理基板の前記第二主面とがなす角度をθとしたときに、下記(1)式~(3)式を満たすように配置されているものとしても構わない。
60mm≦Wd≦200mm (1)
0.75≦Rd/Wd≦2.5 (2)
arctan(Rd/(2・Wd))≦θ≦arctan(Rd/Wd) (3)
【0020】
LED素子から出射される光の配光特性が、当該光の出射角をαとしたときに、-90°≦α≦90°の範囲においてcosαに従うことによる。この光学特性は、「ランバーシアン配光」とも称される。当該光学特性によれば、-90°≦α≦90°の範囲内の光強度の積分値を100%とすると、-20°≦α≦20°の範囲で光強度の積分値が全体の約40%となり、-60°≦α≦60°の範囲で光強度の積分値(以下、「相対強度比」と称することがある。)が全体の約90%となる(
図5参照)。
【0021】
そして、当該相対強度比は、LED素子を出射角αに相当する角度だけ傾けたときに、傾けていない状態のLED素子から出射された光が照射されている領域における光強度の積分値が何%変化するかに対応する。詳細については、「発明を実施するための形態」の項目において、
図5を参照しながら説明する。
【0022】
以上によれば、LED素子の光出射面が被処理基板の第二主面に対して20°傾けられると、配光分布における光の強度積分値が約40%変化する。また、LED素子の光出射面が被処理基板の第二主面に対して60°以上傾けられると、配光分布における光の強度積分値が約90%以上変化してしまう。つまり、LED基板の第一主面と、被処理基板の第二主面との傾斜角度は、被処理基板の第二主面上における照度分布を効率よく変化させる観点と、光の無駄を抑制する観点から、20°以上60°以下の範囲とすることが好ましい。
【0023】
さらに、LED基板と被処理基板とは、接触しないように、適切な離間距離Wd(「ワークディスタンス」とも称される)が確保されることが好ましい。また、離間距離Wdは、より均質な照度分布を実現するために、LED素子から出射された光がある程度拡がった状態で被処理基板に照射されること等も考慮して決定される。
【0024】
さらに、本発明者は、LED基板を傾斜させる構成について鋭意検討していたところ、加熱時における被処理基板に温度分布が、上記(2)式及び(3)式に現れている、距離Rdと離間距離Wdとの比(「アスペクト比」とも称される)に対して直接的に寄与していることを見い出した。
【0025】
詳細については、後述される「発明を実施するための形態」の項目において説明されるが、光加熱装置は、上記条件に基づいて構成されることで、温度分布全体における平均値(Tave)に対する、温度分布における最大値と最小値との差(ΔT)が、10%以下に抑制される。なお、このような温度分布となるように、上記(1)式~(3)式を満たすように設計することは、必然的に被処理基板全体を均質に加熱するように決定される第二主面上の照度分布を最適化することに繋がる。
【0026】
上記光加熱装置は、
前記複数のLED基板が載置されるフレームを備えていても構わない。
【0027】
さらに、上記光加熱装置において、
前記フレームは、前記第一主面と、前記支持部材に支持された前記被処理基板の第二主面とがなす角度を調整するために、前記LED基板の位置を変更する角度調整機構を備えていても構わない。
【0028】
上記構成とすることで、LED基板は、フレームに載置して固定するだけで、LED基板の第一主面と、被処理基板の第二主面とのなす角度が、被処理基板に応じて予め決定された所定の角度となるように構成することができる。
【0029】
また、角度調整機構を備えるフレームの場合は、様々な被処理基板の種類、サイズ、形状等に応じて、適宜LED基板の傾斜角度を微調整することができる。つまり、当該構成の光加熱装置は、被処理基板における照度分布をより精細に調整することができ、より均質な加熱処理を実施することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、被処理基板の主面上における照度分布を、より精細に調整可能な光加熱装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】光加熱装置の一実施形態をY方向に見たときの模式的な断面図である。
【
図2】
図1のチャンバを+Z側から見たときの図面である。
【
図3】
図1のフレームを-Z側から見たときの図面である。
【
図4】シリコン(Si)の温度が543Kのときの光の波長と吸収率の関係を示すグラフである。
【
図5】LED素子から出射される光の相対強度分布と、当該分布における相対強度比を示すグラフである。
【
図6A】光源ユニットの構成、及び光源ユニットと被処理基板との配置関係について説明するための模式的な図面である。
【
図6B】
図6Aの光源ユニット及び被処理基板を+Z側から見たときの図面である。
【
図7A】アスペクト比ごとの、角度と温度分布との相関特性を示すグラフである。
【
図7B】
図7Aのグラフにおいて、ΔT/T
aveが0.1を下回る時の、角度θの上限値と下限値をプロットしたグラフである。
【
図8】光加熱装置の一実施形態をY方向に見たときの模式的な断面図である。
【
図9】光加熱装置の別実施形態をY方向に見たときの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の光加熱装置、加熱処理方法について、図面を参照して説明する。なお、光加熱装置に関する以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比や個数は、実際の寸法比や個数と必ずしも一致していない。
【0033】
図1は、光加熱装置1の第一実施形態をY方向に見たときの模式的な断面図である。
図1に示すように、光加熱装置1は、被処理基板W1を収容するチャンバ2と、チャンバ2内に収容された被処理基板W1を加熱するための光を被処理基板W1に対して照射する複数の光源ユニット10を備える。この複数の光源ユニット10は、フレーム11に支持されている。
【0034】
光源ユニット10は、
図1に示すように、加熱用の光を出射する複数のLED素子10aと、複数のLED素子10aが載置されるLED基板10bとを備える。
図1は、LED素子10aから出射される光のうちの主光線L1のみが模式的に図示されている。
【0035】
本実施形態の光源ユニット10は、ピーク波長が850nmの赤外光を出射するLED素子10aがLED基板10bの第一主面10p上に配列されている。
【0036】
図2は、
図1のチャンバ2を+Z側から見たときの図面である。
図3は、
図1のフレーム11を-Z側から見たときの図面である。なお、
図2においては、チャンバ2内の構造が視認できるように、後述される透光窓2aにはハッチングが施されていない。
【0037】
以下の説明においては、
図2に示すように、チャンバ2内に収容された加熱処理対象である被処理基板W1の主面(以下、「第二主面W1a」と記載する。)と平行な平面をXY平面とし、
図1に示すように、XY平面と直交する方向をZ方向とする。
【0038】
また、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+Z方向」、「-Z方向」のように、正負の符号を付して記載され、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「Z方向」と記載される。
【0039】
また、第一実施形態の説明においては、被処理基板W1がシリコンウェハであることを前提として説明するが、本発明の光加熱装置1は、シリコンウェハ以外の被処理基板W1(例えば、ガラス基板等)の加熱処理に利用することも想定される。
【0040】
チャンバ2は、
図1に示すように、被処理基板W1を載置する支持部材3と、光源ユニット10から出射された光をチャンバ2の内側へと導くための透光窓2aを備える。なお、光源ユニット10がチャンバ2内に配置される場合や、チャンバ2内が密閉される必要が無い場合等においては、チャンバ2は、透光窓2aを備えていなくても構わない。
【0041】
支持部材3は、
図1及び
図2に示すように、台座3aと、当該台座3a設けられた複数の突起3bを含む。被処理基板W1は、複数の突起3bの先端に載置されて支持される。なお、支持部材3は、被処理基板W1を所定の位置に固定、又は静止させることできる部材であれば、被処理基板W1の周端部が載置されて支持される構成や、被処理基板W1を非接触吸着方式によって支持する構成等であっても構わない。
【0042】
本実施形態の支持部材3は、
図1に示すように、複数のローラ3cによる回転機構が設けられている。このローラ3cによって、加熱処理が行われる際に、支持部材3の中心をZ方向に通過する軸z1(
図2参照)を回転軸として、被処理基板W1をXY平面上で回転させることができる。ただし、光源ユニット10が、被処理基板W1の第二主面W1aにおける周方向に均質に光を照射するように構成されている場合には、支持部材3は、被処理基板W1を回転させる構成でなくてもよい。つまり、支持部材3がローラ3cを備えるか否かは任意である。
【0043】
図4は、シリコン(Si)の温度が543Kのときの光の波長と吸収率の関係を示すグラフである。LED素子10aが出射する光のピーク波長は任意に設定しても構わないが、
図4に示すように、吸収率が少なくとも25%以上、すなわち、反射率が少なくとも75%以下であるという点から、ピーク波長が300nm以上1000nm以下であることが好ましく、350nm以上950nm以下であることがより好ましい。
【0044】
さらに、
図4に示すように、シリコン(Si)は、波長が800nm以上900nm以下の範囲の光に対して、波長の変動に対する吸収率の変化が小さい。このため、加熱ムラを抑制する観点から、光源ユニット10に搭載されるLED素子10aが出射する光は、ピーク波長が800nm以上900nm以下であることがさらに好ましく、820nm以上880nm以下であることが特に好ましい。
【0045】
本実施形態におけるフレーム11は、
図1に示すように、LED素子10aから出射される光の出射方向を変化させるように、光源ユニット10の傾きの角度θを調整するため、角度調整機構としての調整ネジ11aを備えている。また、フレーム11は、
図1及び
図3に示すように、光源ユニット10の傾きを調整した際に、位置がずれることを防止するための、支持壁11bが設けられている。
【0046】
フレーム11は、
図1に示すように、調整ネジ11aによって、光源ユニット10が備えるLED基板10bの第一主面10pがXY平面に対して角度θだけ傾くように調整される。なお、角度調整機構としては、例えば、ピエゾアクチュエータ、又はエンコーダ付きのマイクロメータヘッドといった機構を採用しても構わない。
【0047】
本実施形態における光源ユニット10は、フレーム11に搭載されると、角度θが45°となるように構成されている。ただし、角度θは、45°以外の角度であってもよく、複数のLED基板10bはそれぞれ、第一主面10pと被処理基板W1の第二主面W1aとがなす角度θが異なるように、すなわち、複数のLED基板10bの第一主面10pが相互に非平行となるように配置されていても構わない。
【0048】
ここで、角度θの設定に関して説明する。
図5は、LED素子から出射される光の出射角ごとの光強度の相対関係を表示したグラフG1と、グラフG1において、0°から出射角αまでの光強度の積分値の、0°≦α≦90°(出射角αが負の範囲については、-90°≦α≦0°。)にわたる光強度の積分値に対する相対値(相対強度比)を角度別に表示したグラフG2とを重ね合わせたものである。
図5に示すグラフにおいて、横軸は出射角αを示し、左縦軸はグラフG1に関連する光強度の相対値を示し、右縦軸はグラフG2に関連する相対強度比を示す。
【0049】
LED素子は、半導体層の積層体で構成されており、一般的には、その最上面又は最下面が光取り出し面を構成する。つまり、LED素子は、
図5に示すように、出射角0°で出射される光の強度を1として規格化すると、出射角αで出射される光の強度がcosαで表される配光分布となることが知られている。そして、当該配光分布に関し、0°から出射角αまで光強度を積分したときの積分値は、光強度の足し合わせであることと、cosαのαに関する積分演算によって求められることから、sinαの絶対値に比例する。
【0050】
図5に示すグラフG2は、LEDから出射される光の出射角0°から出射角αまでの範囲内における光強度の積分値が、出射角範囲0°≦α≦90°(出射角αが負の範囲については、-90°≦α≦0°。)にわたる光強度の積分値に対して何%に相当するかを出射角αごと示している。このような特性は、LED素子10aを出射角αに相当する角度だけ傾けたときに、傾けていない状態のLED素子から出射された光が照射されている領域における光強度の積分値が何%変化するかに対応する。
【0051】
図5に示すグラフG2によれば、具体的には、LED素子10aの光出射面が被処理基板W1の第二主面W1aに対して20°傾けられると、傾けていない状態のLED素子から出射される光が照射されていた領域における光強度の積分値が約40%変化する。そして、LED素子10aの光出射面が被処理基板W1の第二主面W1aに対して60°以上傾けられると、当該領域における光強度の積分値が約90%以上変化してしまう。
【0052】
つまり、LED基板10bの第一主面10pと、被処理基板W1の第二主面W1aとがなす角度θは、被処理基板W1の第二主面W1a上における照度分布を効率よく変化させる観点と、光の無駄を抑制する観点から、20°以上60°以下の範囲とすることが好ましい。
【0053】
以下では、光源ユニット10と被処理基板W1に関し、被処理基板W1における温度分布をより均質化させるためのより好ましい位置関係について説明する。なお、半導体ウェハ等のような、加熱処理時において極めて高い温度の均質性が要求されない被処理基板W1を加熱処理する場合、光加熱装置1は、以下で説明される配置条件を満たしていなくても構わない。
【0054】
最初に、光源ユニット10と、被処理基板W1との離間距離について説明する。
図6Aは、光源ユニット10の構成、及び光源ユニット10と被処理基板W1との配置関係について説明するための模式的な図面であり、
図6Bは、
図6Aの光源ユニット10及び被処理基板W1を+Z側から見たときの図面である。
【0055】
図6A及び
図6Bに示す構成では、説明の都合上、第一主面10pと第二主面W1aとの角度θ、光源ユニット10と被処理基板W1のサイズ比が、
図1とは異ならせて図示されており、かつ、光源ユニット10周辺のみが図示されている。また、説明の都合上、
図6Aでは、チャンバ2、及び光源ユニット10が備えるLED素子10aが図示されていない。
【0056】
光源ユニット10は、
図6Aに示すように、LED基板10bの第一主面10pの中心10cと、被処理基板W1との離間距離をWdとし、被処理基板W1の中心W1cをZ方向に通過する軸z2と、光源ユニット10の中心10cとの距離をRdとする。
【0057】
離間距離Wdは、光源ユニット10を傾けた際に、光源ユニット10と被処理基板W1とが接触してしまうことを回避する観点と、被処理基板W1に対して加熱に必要な光を十分に照射する観点から、上記(1)式を満たすように設定されることが好ましい。念の為に、上記(1)式を再掲する。
60mm≦Wd≦200mm (1)
【0058】
なお、本実施形態において、離間距離Wdは、100mmに設定されており、距離Rdは、150mmに設定されている。
【0059】
次に、離間距離Wdと距離Rdの比である、アスペクト比(=Rd/Wd)ごとの角度θと温度分布との相関特性について説明する。
図7Aは、アスペクト比ごとの、角度θと温度分布との相関特性を示すグラフであり、
図7Bは、各離間距離Wdに対し、
図7Aのグラフにおいて、ΔT/T
aveが0.1を下回る時の、角度θについての上限値と下限値をプロットしたグラフである。
【0060】
図7Aに示すグラフは、縦軸が被処理基板W1の温度分布の最大値と最小値との差ΔTを、当該温度分布全体の平均値T
aveで割った値を示し、横軸は角度θを示す。なお、
図7Aに示す結果は、シミュレーションして得られたグラフであり、各アスペクト比は、
図1に示す構成の光加熱装置1において、離間距離Wdを変化させることで調整した。
【0061】
図7Bに示すグラフは、縦軸が角度θを示し、横軸が離間距離Wdを示している。そして、丸点のプロットは、ΔT/T
aveが0.1を下回る時の角度θの下限値を示し、四角点のプロットは、ΔT/T
aveが0.1を下回る時の角度θの上限値を示している。なお、
図7Bでは、説明の都合上、縦軸が、上に向かうほど角度θの値が小さくなるように表示されている。また、
図7Bでは、横軸が離間距離Wdで表示されているが、上述したように、Rdが150mmに固定されているため、そのままアスペクト比に対応している。
【0062】
具体的には、アスペクト比はそれぞれ、0.75(Wd=200mm)、1.00(Wd=150mm)、1.50(Wd=100mm)、2.00(Wd=75mm)、2.50(Wd=60mm)、3.00(Wd=50mm)に対応している。
【0063】
図7Aに示すように、ΔT/T
aveは、アスペクト比が大きくなるにつれて、徐々に極小値となる角度θが大きくなる。離間距離Wdが大きい場合は、LED素子から出射される光が、より拡がった状態で被処理基板W1に照射されるため、極小値は、角度θが比較的小さい範囲に現れる。そして、離間距離Wdが小さい場合は、角度θが大きいほど、被処理基板W1の第二主面W1aに対してより広範囲にわたって光が照射され、より均質な加熱処理となりやすいため、極小値は、角度θが比較的大きい範囲に現れる。
【0064】
また、距離Rdが大きい場合(距離Rdが被処理基板W1の半径よりも大きい場合も含む)は、角度θが小さすぎると被処理基板W1の周端部に光が集中しやすく、周端部で発生した熱のほとんどがそのまま周端部から排熱される。つまり、極小値は、被処理基板W1の中央部側にも光を照射できるような角度θが比較的大きい範囲に現れる。そして、距離Rdが小さい場合は、角度θが小さく設定されることで、被処理基板W1の中央部側に光が照射され、中央部側から周端部側に向かう熱によって比較的均質な加熱処理となりやすい。このため、極小値は、角度θが比較的小さい範囲に現れる。
【0065】
近年の半導体製造における微細プロセス等、より高い精度での温度分布の均質性が求められる場合、ΔT/Taveがより低くなるように加熱処理ができる光加熱装置が求められており、具体的には、ΔT/Taveが0.1以下であることが好ましい。
【0066】
まず、上述した角度θの範囲である20°以上60°以下において、ΔT/Taveが0.1を下回っている領域が含まれるのは、アスペクト比が上記(2)式で示される範囲内の場合である。念の為に、上記(2)式を再掲する。
0.75≦Rd/Wd≦2.5 (2)
【0067】
また、アスペクト比が上記(2)式を満たす前提でΔT/T
aveが0.1を下回る条件は、
図7A及び
図7Bより、以下のように決定される。
【0068】
図7Aにおいて、アスペクト比が上記(2)式を満たす前提でΔT/T
aveが0.1を下回る条件は、
図7Bに示すように、各離間距離Wd(アスペクト比)における下限値の近似曲線(一点鎖線)と上限値の近似曲線(二点鎖線)より、角度θがθ1≦θ≦θ2であることが導き出される。そして、θ1とθ2はそれぞれ、
図6Aに示す位置関係から、距離Rdと離間距離Wdを用いて表現することができ、当該条件は、上記(3)式となる。念の為に、上記(3)式を再掲する。
arctan(Rd/(2・Wd))≦θ≦arctan(Rd/Wd) (3)
【0069】
したがって、上記(1)式~(3)式を満たすように構成されることで、光加熱装置1は、被処理基板W1全体における温度差がより小さくなるように加熱処理する。
【0070】
なお、
図6Aに示すように、被処理基板W1の第二主面W1aの中心W1cからLED基板10bの中心10cに向かって引いた仮想線s1と、被処理基板W1の第二主面W1aの中心をZ方向に通過する軸z2とがなす角度がθ1に対応する。そして、
図6Bに示すように、Z方向から見たときの、被処理基板W1の中心W1cからLED基板10bの中心10cに向かって引いた線の中点と重なる被処理基板W1上の点を点W1hとし、
図6Aに示すように、点W1hからLED基板10bの中心10cに向かって引いた仮想線s2と、軸z2とがなす角度がθ2に対応する。
【0071】
つまり、本実施形態においては、上記(3)式の条件は、本実施形態の構成に対応させるように模式的に図示すると、
図6Aに示すように、LED基板10bの中心10cを、第一主面10pと直交する方向に通過する線が、被処理基板W1の中心W1cと中点W1hの間を通過するという条件に相当する。
【0072】
以上より、上記構成とすることで、光加熱装置1は、LED素子10a群の配置パターンの調整に加え、LED基板10bの第一主面10pと被処理基板W1の第二主面W1aとがなす角度や、LED基板10bの傾かせる方向等の調整によって、被処理基板W1の第二主面W1a上における照度分布を連続的に調整することができる。つまり、光加熱装置1は、従来構成よりも精細に、被処理基板W1の第二主面W1aにおける照度分布を調整することができる。
【0073】
図8は、
図1に示す光加熱装置1とは別の実施形態をY方向に見たときの模式的な断面図である。本実施形態におけるフレーム11は、
図8に示すように、調整ネジ11aと支持壁11bとを備えることなく、光源ユニット10を所定の角度θで固定するように構成されていても構わない。
【0074】
上記実施形態では、光加熱装置1は、複数の光源ユニット10を固定するフレーム11を備え、このフレーム11の形状によって、複数の光源ユニット10が固定される角度θが設定されていた。別の態様として、光加熱装置1は、フレーム11を備えず、複数の光源ユニット10のそれぞれが、所定の位置において所定の角度θとなるように、各別に固定される構成であっても構わない。
【0075】
さらに、
図1に示すように、本実施形態におけるフレーム11は、LED基板10bの第一主面10pが、XY平面と一致している状態から、Y軸を回転軸として角度θだけ回転させて光源ユニット10を傾かせているが、XY平面と平行な軸であれば回転軸の取り方は任意である。
【0076】
さらに、
図8に示すように、光加熱装置1は、LED基板10bの第一主面10pとXY平面とが平行、すなわち、第一主面10pと被処理基板W1の第二主面W1aとが平行に配置された光源ユニット10を一部含んでいても構わない。
【0077】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0078】
〈1〉
図9は、光加熱装置1の別実施形態をY方向に見たときの模式的な断面図である。
図9に示すように、光加熱装置1の別実施形態は、制御部90と、制御部90より出力される駆動信号d2に基づいてLED基板10bの位置を変化させる角度調整機構である駆動機構11cとを備える。そして、本実施形態における制御部90は、入力部90aと、記憶部90bと、判定部90cと、出力部90dとを備える。
【0079】
入力部90aは、被処理基板W1に関する情報を含むデータd1の入力を受け付ける。記憶部90bは、データd1に含まれる被処理基板W1の情報に対応した、上記(1)式~上記(3)を満たす離間距離Wdと角度θの値のテーブルが格納されている。判定部90cは、入力部90aに入力されたデータd1に含まれる被処理基板W1の情報を参照し、記憶部90bに格納されているテーブルに基づいて、角度θと離間距離Wdの値を決定する。出力部90dは、LED基板10bの第一主面10pと被処理基板W1の第二主面W1aとのなす角度θ、及びLED基板10bと被処理基板W1との離間距離Wdが、判定部90cが決定した値となるように、駆動機構11cに対して駆動信号d2を出力する。
【0080】
上記構成とすることで、光加熱装置1は、制御部90に入力される被処理基板W1の情報に基づいて、上記(1)式~(3)式を満たす角度θと離間距離Wdを決定し、LED基板10bの位置を自動的に最適な位置となるように調整する。
【0081】
〈2〉 光加熱装置1は、第一主面10pと第二主面W1aがなす角度θを計測するための角度センサを備えていても構わない。このような角度センサを備えることで、光加熱装置1は、光源ユニット10の配置位置が上記(3)式の条件を満たしているかどうかを確認しながら光源ユニット10の配置位置を調整することができる。
【0082】
また、本実施形態の光加熱装置1は、大きな衝撃を受けて光源ユニット10の位置がずれてしまった場合等に、上記(3)式の条件を満たさなくなってしまった状態を検知し、アラートを発するように構成することができる。
【0083】
なお、本実施形態の光加熱装置1の角度センサとしては、例えば、ロータリーポテンショメータ、又はロータリーエンコーダを採用し得る。
【0084】
〈3〉 上述した光加熱装置1が備える構成は、あくまで一例であり、本発明は、図示された各構成に限定されない。
【符号の説明】
【0085】
1 : 光加熱装置
2 : チャンバ
2a : 透光窓
3 : 支持部材
3a : 台座
3b : 突起
3c : ローラ
10 : 光源ユニット
10a : LED素子
10b : LED基板
10c : 中心
10p : 第一主面
11 : フレーム
11a : 調整ネジ
11b : 支持壁
11c : 駆動機構
90 : 制御部
90a : 入力部
90b : 記憶部
90c : 判定部
90d : 出力部
L1 : 主光線
W1 : 被処理基板
W1a : 第二主面