(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108791
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】尿素合成方法
(51)【国際特許分類】
C07C 273/04 20060101AFI20230731BHJP
C07C 275/00 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
C07C273/04
C07C275/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010023
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000222174
【氏名又は名称】東洋エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100106138
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 政幸
(72)【発明者】
【氏名】柳川貴弘
(72)【発明者】
【氏名】小嶋保彦
(72)【発明者】
【氏名】佐野恵二
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC57
4H006BC10
4H006BC11
4H006BC31
4H006BD33
4H006BD83
4H006BE14
4H006BE41
(57)【要約】
【課題】尿素合成に必要なエネルギーやランニングコストを低減できる尿素合成方法を提供する。
【解決手段】
尿素合成塔Aで生成された尿素合成液を、ストリッパーCで原料二酸化炭素の少なくとも一部と加熱下に接触させ、分離された混合ガスを凝縮器Bに導入して凝縮させ、凝縮液を尿素合成塔Aに循環する尿素合成方法において、原料二酸化炭素に対する酸素供給濃度が100~2,000ppmであり、尿素合成塔Aにおける尿素合成圧力が125~145バールであり、尿素合成温度が175℃~190℃であり、N/Cが3.5~4.0であり、H/Cが0.70以下である尿素合成方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素合成塔において、アンモニアと二酸化炭素とを尿素合成温度及び尿素合成圧力において反応させ、生成された尿素、未反応アンモニア、未反応二酸化炭素、及び、水を少なくとも含む尿素合成液を、ストリッパーにおいて原料二酸化炭素の少なくとも一部と、該尿素合成圧力にほぼ等しい圧力において加熱下に接触させて、該未反応アンモニア及び該未反応二酸化炭素を、アンモニア、二酸化炭素、及び、水の混合ガスとして分離し、未分離の該未反応アンモニア及び該未反応二酸化炭素を含有する尿素合成液を更に処理して尿素を得、一方、該ストリッパーにおいて分離された該混合ガスを凝縮器の底部に導入して、吸収媒体と冷却下に接触させ、それによって該混合ガスを凝縮させ、こうして得られた凝縮液を該尿素合成塔に循環する尿素合成方法において、
前記原料二酸化炭素に対する酸素供給濃度が100~2,000ppmであり、
前記尿素合成塔における尿素合成圧力が125~145バールであり、
前記尿素合成塔における尿素合成温度が175℃~190℃であり、
前記尿素合成塔におけるN/C(アンモニアと二酸化炭素のモル比)が3.5~4.0であり、
前記尿素合成塔におけるH/C(水と二酸化炭素のモル比)が0.70以下であることを特徴とする尿素合成方法。
【請求項2】
凝縮器におけるN/C(アンモニアと二酸化炭素のモル比)が2.7~3.3である請求項1に記載の尿素合成方法。
【請求項3】
尿素合成塔での滞留時間が10~40分である請求項1又は2に記載の尿素合成方法。
【請求項4】
酸素濃度が100~2,000ppmである原料二酸化炭素の大半をストリッパーに供給し、その残りを合成塔に供給する請求項1~3の何れか一項に記載の尿素合成方法。
【請求項5】
尿素合成塔、ストリッパー、凝縮器、並びに、尿素合成塔、ストリッパー及び凝縮器の内の少なくとも2つをつなぐ配管からなる群より選ばれる少なくとも1つの装置の材料が、
(a)Cr含有量:21~26質量%、Ni含有量:4.5~7.5質量%、Mo含有量:2.5~3.5質量%、N含有量:0.08~0.30質量%、C含有量:0.03質量%以下、Si含有量:1.0質量%以下、Mn含有量:2.0質量%以下、P含有量:0.04質量%以下、S含有量:0.03質量%以下である汎用オーステナイト-フェライト系二相ステンレス鋼、又は、
(b)Cr含有量:26~35質量%、Ni含有量:3~10質量%、Mo含有量:1.0~4.0質量%、N含有量:0.2~0.6質量%のオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼である請求項1~4の何れか一項に記載の尿素合成方法。
【請求項6】
ストリッパーの材料が、
(a)Cr含有量:21~26質量%、Ni含有量:4.5~7.5質量%、Mo含有量:2.5~3.5質量%、N含有量:0.08~0.30質量%、C含有量:0.03質量%以下、Si含有量:1.0質量%以下、Mn含有量:2.0質量%以下、P含有量:0.04質量%以下、S含有量:0.03質量%以下である汎用オーステナイト-フェライト系二相ステンレス鋼、又は、
(b)Cr含有量:26~35質量%、Ni含有量:3~10質量%、Mo含有量:1.0~4.0質量%、N含有量:0.2~0.6質量%のオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼である請求項1~5の何れか一項に記載の尿素合成方法。
【請求項7】
ストリッパーと凝縮器をつなぐ配管の材料が、
(a)Cr含有量:21~26質量%、Ni含有量:4.5~7.5質量%、Mo含有量:2.5~3.5質量%、N含有量:0.08~0.30質量%、C含有量:0.03質量%以下、Si含有量:1.0質量%以下、Mn含有量:2.0質量%以下、P含有量:0.04質量%以下、S含有量:0.03質量%以下である汎用オーステナイト-フェライト系二相ステンレス鋼、又は、
(b)Cr含有量:26~35質量%、Ni含有量:3~10質量%、Mo含有量:1.0~4.0質量%、N含有量:0.2~0.6質量%のオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼である請求項1~6の何れか一項に記載の尿素合成方法。
【請求項8】
尿素合成塔の尿素合成圧力を低減する為の既存の尿素合成装置の改良方法であって、
前記既存の尿素合成装置が、該尿素合成塔において、アンモニアと二酸化炭素とを尿素合成温度及び尿素合成圧力において反応させ、生成された尿素、未反応アンモニア、未反応二酸化炭素、及び、水を少なくとも含む尿素合成液を、ストリッパーにおいて原料二酸化炭素の少なくとも一部と、該尿素合成圧力にほぼ等しい圧力において加熱下に接触させて、該未反応アンモニア及び該未反応二酸化炭素を、アンモニア、二酸化炭素、及び、水の混合ガスとして分離し、未分離の該未反応アンモニア及び該未反応二酸化炭素を含有する尿素合成液を更に処理して尿素を得、一方、該ストリッパーにおいて分離された該混合ガスを凝縮器の底部に導入して、吸収媒体と冷却下に接触させ、それによって該混合ガスを凝縮させ、こうして得られた凝縮液を該尿素合成塔に循環する尿素合成装置であり、
前記既存の尿素合成装置のストリッパーと凝縮器をつなぐ配管の材料が、以下の(a)及び(b)の何れの材料でもなく、
前記既存の尿素合成装置のストリッパーと凝縮器をつなぐ配管を、以下の(a)又は(b)の材料を含む配管に交換することにより、尿素合成塔の尿素合成圧力を低減することを可能とする既存の尿素合成装置の改良方法。
(a)Cr含有量:21~26質量%、Ni含有量:4.5~7.5質量%、Mo含有量:2.5~3.5質量%、N含有量:0.08~0.30質量%、C含有量:0.03質量%以下、Si含有量:1.0質量%以下、Mn含有量:2.0質量%以下、P含有量:0.04質量%以下、S含有量:0.03質量%以下である汎用オーステナイト-フェライト系二相ステンレス鋼、
(b)Cr含有量:26~35質量%、Ni含有量:3~10質量%、Mo含有量:1.0~4.0質量%、N含有量:0.2~0.6質量%のオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼
【請求項9】
尿素合成領域の尿素合成圧力を低減する為の既存の尿素合成装置の改良方法であって、
前記既存の尿素合成装置が、該尿素合成領域において、アンモニアと二酸化炭素とを尿素合成温度及び尿素合成圧力において反応させ、生成された尿素、未反応アンモニア、未反応二酸化炭素、及び、水を少なくとも含む尿素合成液を、ストリッパーにおいて原料二酸化炭素の少なくとも一部と、該尿素合成圧力にほぼ等しい圧力において加熱下に接触させて、該未反応アンモニア及び該未反応二酸化炭素を、アンモニア、二酸化炭素、及び、水の混合ガスとして分離し、未分離の該未反応アンモニア及び該未反応二酸化炭素を含有する尿素合成液を更に処理して尿素を得、一方、該ストリッパーにおいて分離された該混合ガスを凝縮領域の底部に導入して、吸収媒体と冷却下に接触させ、それによって該混合ガスを凝縮させ、こうして得られた凝縮液を該尿素合成領域に循環する尿素合成装置であり、
前記尿素合成領域と前記凝縮領域が同一の容器内に、もしくは別々の容器に存在し、
前記凝縮域が横型の容器に存在し、
前記既存の尿素合成装置のストリッパーと凝縮領域をつなぐ配管の材料が、以下の(a)及び(b)の何れの材料でもなく、
前記既存の尿素合成装置のストリッパーと凝縮領域をつなぐ配管を、以下の(a)又は(b)の材料を含む配管に交換することにより、尿素合成領域の尿素合成圧力を低減することを可能とする既存の尿素合成装置の改良方法。
(a)Cr含有量:21~26質量%、Ni含有量:4.5~7.5質量%、Mo含有量:2.5~3.5質量%、N含有量:0.08~0.30質量%、C含有量:0.03質量%以下、Si含有量:1.0質量%以下、Mn含有量:2.0質量%以下、P含有量:0.04質量%以下、S含有量:0.03質量%以下である汎用オーステナイト-フェライト系二相ステンレス鋼、
(b)Cr含有量:26~35質量%、Ni含有量:3~10質量%、Mo含有量:1.0~4.0質量%、N含有量:0.2~0.6質量%のオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素により装置内部の金属表面に不動態皮膜を形成させながら、アンモニアと二酸化炭素から尿素を合成する方法において、尿素合成に必要なエネルギーやランニングコストを低減することができる尿素合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
尿素は、植物の成長に不可欠な三大元素の一つである窒素系肥料の重要な原料で、古くから、世界の食糧生産を支えてきた。現在でも、世界の新興国における人口増加に伴う食糧増産に対応した肥料増産が求められており、信頼性及び生産性に優れた尿素合成方法に基づく尿素合成装置の建設が重要な課題となっている。
【0003】
ここで、信頼性とは、主として、金属に対する強い腐食性を有する、アンモニアと二酸化炭素から尿素を合成する際に反応中間体として生成するアンモニウムカーバメイトからこの装置内部の金属表面を保護する性質をいう。一方、生産性とは、アンモニアと二酸化炭素の反応収率を高めるだけでなく、装置建設コストの低減及び運転条件を改善したランニングコストの低減も含めた全尿素製造コストの低減をいう。
【0004】
このような信頼性及び生産性を高める技術開発は、主に三つの観点から取り組まれてきた。第一には、装置の金属表面に不動態皮膜を形成させ、耐食性を高める化学的観点である。第二には、装置材料自体の改良により、アンモニウムカーバメイトに対する耐食性を向上させる材料的観点である。第三には、製造工程や装置の改善による耐食性及び反応収率の改善を図るプロセス的観点である。しかし、これらは互いに相反する関係にあり、現在もバランスのとれた尿素合成方法が求められている。
【0005】
すなわち、出発原料である二酸化炭素やアンモニアに酸素を混合して、高温高圧下で、FeやCrの水酸化物や、Crの酸化物からなる不動態膜を1~3nm程度形成させる方法である。
【0006】
しかし、酸化剤として供給する酸素が多すぎると、イナートガスが増加すると共に、後述するH/C(水と二酸化炭素のモル比)が高くなり反応収率が下がる。一方、未転化原料や他の揮発成分から酸素を最終的に分離して取り除くためのスクラバーや、尿素生成物中に含まれる痕跡量の水素と酸素とが混合される危険性を防ぐための水素燃焼除去装置も必要となる。このように、酸素は、供給量の増加と共に、耐食性を高める一方、ランニングコストに悪影響を及ぼすという問題がある。
【0007】
そのためステンレス鋼自体の耐食性を高める方向に開発が進められてきた。例えば、特許文献1に開示されているように、Cr、Ni、Mo、Nの効果に着目して改良され、Cr含有量が26質量%以上で28質量%未満、Ni含有量が6~10質量%、Mo含有量が0.2~1.7質量%、N含有量が0.3質量%を超えて0.4質量%までを含むオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼が提案されている。
【0008】
しかし、このように、耐食性に優れた、Cr含有量が多いオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼の材料価格は高く、尿素プラントの建設コストが高くなるという問題があり、信頼性と生産性を兼ね備えた尿素合成装置の建設は難しい。
【0009】
そこで、特許文献2に開示されているように、製造工程や装置の改善も行われてきた。特に、ストリッパーの導入により未反応生成物を有効に再利用することや、凝縮器に反応器同様の尿素合成機能を付与したことは、反応収率を高め、製造設備を小さくすることができ、生産性の向上に貢献しうるものである。
【0010】
しかし、これらの技術は、耐食性に必要な酸素濃度、ステンレス鋼の材質、及び、効率のよい製造工程のバランスのとれた、信頼性と生産性を満足する尿素合成方法としては改良の余地があった。
【0011】
そこで、特許文献3に開示されるような、安価な汎用ステンレス鋼を選択するにもかかわらず、酸化剤として供給する酸素(以後、防食酸素と記す。)を必要最低限とし、防食性に優れている上、高反応収率、低建設コストで、低コストで尿素を生産できる尿素合成方法が提案されている。
【0012】
しかし、従来の尿素合成方法には、尿素合成に必要なエネルギーやランニングコストの点で更なる改善が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003-301241号公報
【特許文献2】特開平10‐182587号公報
【特許文献3】国際公開2014/192823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、以上説明した従来技術の課題を解決する為になされたものである。すなわち本発明の目的は、酸素により装置内部の金属表面に不動態皮膜を形成させながら、アンモニアと二酸化炭素から尿素を合成する方法において、尿素合成に必要なエネルギーやランニングコストを低減することができる尿素合成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、尿素合成塔の尿素合成圧力を低減することが、尿素合成に必要なエネルギーやランニングコストを低減に非常に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は、尿素合成塔において、アンモニアと二酸化炭素とを尿素合成温度及び尿素合成圧力において反応させ、生成された尿素、未反応アンモニア、未反応二酸化炭素、及び、水を少なくとも含む尿素合成液を、ストリッパーにおいて原料二酸化炭素の少なくとも一部と、該尿素合成圧力にほぼ等しい圧力において加熱下に接触させて、該未反応アンモニア及び該未反応二酸化炭素を、アンモニア、二酸化炭素、及び、水の混合ガスとして分離し、未分離の該未反応アンモニア及び該未反応二酸化炭素を含有する尿素合成液を更に処理して尿素を得、一方、該ストリッパーにおいて分離された該混合ガスを凝縮器の底部に導入して、吸収媒体と冷却下に接触させ、それによって該混合ガスを凝縮させ、こうして得られた凝縮液を該尿素合成塔に循環する尿素合成方法において、
前記原料二酸化炭素に対する酸素供給濃度が100~2,000ppmであり、
前記尿素合成塔における尿素合成圧力が125~145バールであり、
前記尿素合成塔における尿素合成温度が175℃~190℃であり、
前記尿素合成塔におけるN/C(アンモニアと二酸化炭素のモル比)が3.5~4.0であり、
前記尿素合成塔におけるH/C(水と二酸化炭素のモル比)が0.70以下であることを特徴とする尿素合成方法である。
【0017】
また本発明は、尿素合成塔の尿素合成圧力を低減する為の既存の尿素合成装置の改良方法であって、
前記既存の尿素合成装置が、該尿素合成塔において、アンモニアと二酸化炭素とを尿素合成温度及び尿素合成圧力において反応させ、生成された尿素、未反応アンモニア、未反応二酸化炭素、及び、水を少なくとも含む尿素合成液を、ストリッパーにおいて原料二酸化炭素の少なくとも一部と、該尿素合成圧力にほぼ等しい圧力において加熱下に接触させて、該未反応アンモニア及び該未反応二酸化炭素を、アンモニア、二酸化炭素、及び、水の混合ガスとして分離し、未分離の該未反応アンモニア及び該未反応二酸化炭素を含有する尿素合成液を更に処理して尿素を得、一方、該ストリッパーにおいて分離された該混合ガスを凝縮器の底部に導入して、吸収媒体と冷却下に接触させ、それによって該混合ガスを凝縮させ、こうして得られた凝縮液を該尿素合成塔に循環する尿素合成装置であり、
前記既存の尿素合成装置のストリッパーと凝縮器をつなぐ配管の材料が、以下の(a)及び(b)の何れの材料でもなく、
前記既存の尿素合成装置のストリッパーと凝縮器をつなぐ配管を、以下の(a)又は(b)の材料を含む配管に交換することにより、尿素合成塔の尿素合成圧力を低減することを可能とする既存の尿素合成装置の改良方法である。
(a)Cr含有量:21~26質量%、Ni含有量:4.5~7.5質量%、Mo含有量:2.5~3.5質量%、N含有量:0.08~0.30質量%、C含有量:0.03質量%以下、Si含有量:1.0質量%以下、Mn含有量:2.0質量%以下、P含有量:0.04質量%以下、S含有量:0.03質量%以下である汎用オーステナイト-フェライト系二相ステンレス鋼、
(b)Cr含有量:26~35質量%、Ni含有量:3~10質量%、Mo含有量:1.0~4.0質量%、N含有量:0.2~0.6質量%のオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼
【0018】
さらに本発明は、尿素合成領域の尿素合成圧力を低減する為の既存の尿素合成装置の改良方法であって、
前記既存の尿素合成装置が、該尿素合成領域において、アンモニアと二酸化炭素とを尿素合成温度及び尿素合成圧力において反応させ、生成された尿素、未反応アンモニア、未反応二酸化炭素、及び、水を少なくとも含む尿素合成液を、ストリッパーにおいて原料二酸化炭素の少なくとも一部と、該尿素合成圧力にほぼ等しい圧力において加熱下に接触させて、該未反応アンモニア及び該未反応二酸化炭素を、アンモニア、二酸化炭素、及び、水の混合ガスとして分離し、未分離の該未反応アンモニア及び該未反応二酸化炭素を含有する尿素合成液を更に処理して尿素を得、一方、該ストリッパーにおいて分離された該混合ガスを凝縮領域の底部に導入して、吸収媒体と冷却下に接触させ、それによって該混合ガスを凝縮させ、こうして得られた凝縮液を該尿素合成領域に循環する尿素合成装置であり、
前記尿素合成領域と前記凝縮領域が同一の容器内に、もしくは別々の容器に存在し、
前記凝縮域が横型の容器に存在し、
前記既存の尿素合成装置のストリッパーと凝縮領域をつなぐ配管の材料が、以下の(a)及び(b)の何れの材料でもなく、
前記既存の尿素合成装置のストリッパーと凝縮領域をつなぐ配管を、以下の(a)又は(b)の材料を含む配管に交換することにより、尿素合成領域の尿素合成圧力を低減することを可能とする既存の尿素合成装置の改良方法である。
(a)Cr含有量:21~26質量%、Ni含有量:4.5~7.5質量%、Mo含有量:2.5~3.5質量%、N含有量:0.08~0.30質量%、C含有量:0.03質量%以下、Si含有量:1.0質量%以下、Mn含有量:2.0質量%以下、P含有量:0.04質量%以下、S含有量:0.03質量%以下である汎用オーステナイト-フェライト系二相ステンレス鋼、
(b)Cr含有量:26~35質量%、Ni含有量:3~10質量%、Mo含有量:1.0~4.0質量%、N含有量:0.2~0.6質量%のオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、特に、原料二酸化炭素に対する酸素供給濃度を低くすることにより、尿素合成塔における尿素合成圧力を低くすることを可能とし、その結果として、尿素合成に必要なエネルギーを削減できるとともに、ランニングコストを低減できる。なお、本発明において、「原料二酸化炭素に対する酸素供給濃度」とは、原料として尿素合成装置に供給する二酸化炭素に対する、酸化剤として尿素合成装置に供給する酸素(空気を供給する場合は空気中の酸素)の濃度を意味し、例えば
図2の場合はライン2における二酸化炭素に対する酸素の濃度を意味する。
【0020】
具体的には、原料二酸化炭素に対する酸素供給濃度を低くすることは、酸素(酸素を含む空気を供給する場合は空気)の供給量を低くすることを意味し、これにより混合ガス中の原料ガス(原料二酸化炭素)の割合が高くなり、尿素合成工程における原料以外のガス(イナートガス)の分圧が低下するので、尿素合成圧力を低くすることが可能になる。なお、このような手法によって尿素合成圧力を低くする発想は、従来は全く無かった発想である。なぜならば尿素合成圧力は、例えばN/C等の条件によって最適圧力が異なると考えられており、酸素供給濃度を低くするだけで尿素合成圧力を低減できること、並びに、そのような低い圧力でも良好に尿素合成が可能であることは知られていなかったからである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明における二酸化炭素ストリッピング方式の尿素合成方法を用いた尿素合成装置のプロセスフローである。
【
図2】本発明における二酸化炭素ストリッピング方式の尿素合成方法を用いた尿素合成装置の一実施態様であり、実施例1及び参考例1で用いた尿素合成方法のプロセスフローである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態は、
図1に示す二酸化炭素ストリッピング方式尿素合成方法、すなわち、原料の液体アンモニアを尿素合成塔Aに供給し、防食酸素は空気として原料のガス状二酸化炭素(
図1の炭酸ガス)と共に、尿素合成塔A及びストリッパーCに供給する方法が好適である。特に、尿素合成方法として好適である実施形態は、特開平10-182587号に開示された各種合成プロセスであって、
図2には、その一実施形態を示したが、これに限定されるものではない。
【0023】
例えば、原料の液体アンモニアを、尿素合成塔A及び凝縮器Bに供給し、炭酸ガス圧縮機Hから供給する防食用空気を含む原料のガス状二酸化炭素を、尿素合成塔Aには供給せずにストリッパーCのみに供給する形態でも良い。また、例えば、原料の液体アンモニアを、尿素合成塔Aのみに供給し、炭酸ガス圧縮機Hから供給する防食酸素を含む原料のガス状二酸化炭素を、ストリッパーCには供給せずに尿素合成塔Aのみに供給する形態(アンモニアストリッピング方式)でも良い。ただし、従来技術に示したように、尿素合成方法の違いによって、尿素合成塔A、ストリッパーC、凝縮器B等、各領域の圧力及び温度条件、滞留及び通過する流体の組成が異なるため、当該方式に適用するステンレス鋼が必要とする防食酸素量に差異が生じることに留意を要する。
【0024】
また、
図1のプロセスフローでは、凝縮器Bからの液を昇圧し合成液を循環させる目的で、簡単な構造、耐久性、メンテナンス性に優れるという観点から、エジェクターGを使用しているが、ポンプなど他の昇圧手段を循環のために用いることもできる。しかし、各装置の配置によって尿素合成液の循環が良好に実現できる場合は、これを省略しても良い。例えば、各装置の配置を工夫すれば、重力のみによって尿素合成液を循環することが可能である。ただし、エジェクターG等の昇圧手段を設ければ、尿素合成塔A、凝縮器B、ストリッパーCを低い位置に設置可能となり、据え付け工事やメンテナンスの点で好ましい。更に、以上の各装置は、個別に設置しても、凝縮器Bとスクラバー等を組み合わせても良い。
【0025】
一方、凝縮器の設置の向きとしては、横型でも縦型でもよい。例えば、横型凝縮器を地上もしくは地上に近い位置に設置すれば、その全高が低いこととあいまって、尿素合成塔の据え付け工事やメンテナンスが容易である。また、縦型凝縮器を用いれば、設置面積を節約できるだけでなく、凝縮部において気液向流接触し、滞留時間を十分長く取れることが可能となる。
【0026】
更に、本発明の尿素合成方法で用いる尿素製造装置は、その全てを新たに建造した新設装置であっても良いし、既存の設備に一部を追加もしくは取替えた改造装置(いわゆるrevamping)にしても良い。
【0027】
このような尿素合成装置において、尿素合成塔A、ストリッパーC、及び、凝縮器B、並びにこれらをつなぐ配管が腐食性を有する流体と接触する箇所のうち、少なくとも一部の箇所が、下記組成(a)のオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼とすることができる。
【0028】
[本発明に適用するオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼の組成(a)]
Cr:21~26質量%
Ni:4.5~7.5質量%
Mo:2.5~3.5質量%
N:0.08~0.30質量%
C:0.03質量%以下
Si:1.0質量%以下
Mn:2.0質量%以下
P:0.04質量%以下
S:0.03質量%以下
残部は、Feならびに例えば不純物、添加剤など
【0029】
特に、汎用オーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼として安価に入手できる、S31803やS31260を用いることが好ましい。
【0030】
更に、該オーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼として、下記組成(a1)のオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼を用いることがより好ましい。
【0031】
[本発明に適用するオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼の組成(a1)]
Cr:24~26質量%
Ni:5.5~7.5質量%
Mo:2.5~3.5質量%
N:0.08~0.30質量%
C:0.03質量%以下
Si:1.0質量%以下
Mn:1.5質量%以下
P:0.04質量%以下
S:0.03質量%以下
残部は、Feならびに例えば不純物、添加剤など
【0032】
特に、汎用オーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼として安価に入手できる、S31260を用いることが好ましい。
【0033】
更に、腐食が進行し易いストリッパーには、下記組成(b)のオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼を用いることが好ましい。
【0034】
[本発明に適用するオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼の組成(b)]
Cr:26~35質量%
Ni:3~10質量%
Mo:1.0~4.0質量%、
N:0.2~0.6質量%
残部は、Feならびに例えば不純物、添加剤など
(なお、Crの含有量は26質量%を超え、35質量%以下であっても良い。)
【0035】
特に、このようなオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼として、例えば、S32707、S32808を用いることが好ましい。
【0036】
また、配管、バルブ等、腐食環境に応じて、S31603系汎用ステンレス鋼を用いることもでき、防食酸素量を増やすことなく更に設備コストの低減を図ることも可能である。
【0037】
以上の各ステンレス鋼を使用する具体的な好ましい態様としては、例えば、尿素合成塔、ストリッパー、凝縮器、並びに、尿素合成塔、ストリッパー及び凝縮器の内の少なくとも2つをつなぐ配管からなる群より選ばれる少なくとも1つの装置の材料が、上記組成(a)の汎用オーステナイト-フェライト系二相ステンレス鋼、又は、上記組成(b)のオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼である態様、ストリッパーの材料が、上記組成(a)の汎用オーステナイト-フェライト系二相ステンレス鋼、又は、上記組成(b)のオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼である態様、ストリッパーと凝縮器をつなぐ配管の材料が、上記組成(a)の汎用オーステナイト-フェライト系二相ステンレス鋼、又は、上記組成(b)のオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼である態様などが挙げられる。
【0038】
以上のような材料で作製された尿素合成装置は、主として、反応収率という観点から、尿素合成塔Aの運転条件を、圧力:125~145バール、N/C:3.5~4.0、H/C:1.0以下、滞留時間:10~40分、温度:175℃~190℃とし、ストリッパーの運転条件を、圧力:125~145バール、特に好ましくは130~140バール、温度:170~190℃とし、凝縮器Bの運転条件を、圧力:125~145バール、温度:130~250℃、特に好ましくは170~190℃、N/C:2.5~3.5、特に好ましくは2.7~3.3、H/C:1.0以下、滞留時間:10~30分として稼働させることが好ましい。ここで、N/Cとは、アンモニア(アンモニウムカーバメイト及び尿素に転化したアンモニアを含む)と二酸化炭素(アンモニウムカーバメイト及び尿素に転化した二酸化炭素を含む)のモル比(以下「N/C」という)であり、H/Cとは、水(尿素合成反応で生成した水は除く)と二酸化炭素(アンモニウムカーバメイト及び尿素に転化した二酸化炭素を含む)のモル比(以下「H/C」という)である。
【0039】
このような運転条件が好ましいのは、
図1に示すように、尿素合成塔Aでは、下記の式1及び式2の反応が生起しているだけでなく、凝縮器Bにおいても、アンモニアガス及び/又は二酸化炭素ガスを凝縮させながら進行することに基づいている。なお、式1は、アンモニア(NH
3)と二酸化炭素(CO
2)の反応によってアンモニウムカーバメイト(NH
2CO
2NH
4)が生成する反応である。式2は、アンモニウムカーバメイト(NH
2CO
2NH
4)の脱水反応によって尿素(CO(NH
2)
2)が生成する平衡反応である。
【0040】
【0041】
すなわち、
図1では、原料の液体アンモニアは、所望の圧力までアンモニアポンプ(不図示)で昇圧されて尿素合成塔Aに供給されると共に、その一部は熱交換器によって加熱されてエジェクターGにも供給される一方、エジェクターGには、凝縮器Bからも尿素合成液が供給され、このエジェクターGからアンモニアを含む尿素合成液が尿素合成塔Aに昇圧、供給される。原料のガス状二酸化炭素は、炭酸ガス圧縮機Hにより所望の圧力まで昇圧され、その大半がストリッパーCに供給される。残りの二酸化炭素の一部は、尿素合成塔Aの温度制御と防食酸素を供給する目的で、尿素合成塔Aに供給される。ここで、二酸化炭素の「大半」がストリッパーCに供給されるとは、具体的には、ストリッパーCに供給される原料二酸化炭素の量[X
C(t/d)](例えば
図2ではライン2bで供給される原料二酸化炭素の量)と尿素合成塔Aに供給される原料二酸化炭素の量[X
A(t/d)](例えば
図2ではライン2aで供給される原料二酸化炭素の量)の比[X
C/X
A]が、90/10~70/30程度であることを意味する。なお、例えば
図1及び
図2に示されるように、予め防食用空気(ただし空気以外の防食酸素含有ガスでも良い)を混合した原料二酸化炭素の大半をストリッパーCに供給する場合は、防食酸素の大半もストリッパーCに供給されるので、比較的腐食し易いストリッパーCの防食を有効に防止できる。防食酸素として、通常空気が炭酸ガス圧縮機Hの一段目吸い込み側又は中間段に供給される。尿素合成塔Aと凝縮器Bで尿素が合成され、尿素合成塔Aを出た尿素を含む流出物は、ストリッパーCへ供給される。この流出物中には、合成された尿素、水、アンモニウムカーバメイト、未反応のアンモニアが液相として、また一部の未反応のアンモニアと二酸化炭素はイナートガスと共に気相として存在する。ここでイナートガスとは、例えば尿素合成塔A、ストリッパーC、凝縮器B、スクラバー及びそれらを結合する配管などで構成される尿素合成装置の腐食を防止するために導入された防食用空気と、原料二酸化炭素中に含まれている水素、窒素等の不純物の総称である。尿素合成塔Aからの合成液はストリッパーCに供給され、ここで未反応のアンモニアと未反応の二酸化炭素を処理する。原料二酸化炭素は、ストリッピング剤として用いられる。
【0042】
従って、
図1に示したような製造装置における、尿素合成塔A、ストリッパーC、凝縮器Bの各運転条件は、ルシャトリエの原理も含めて、次に示す理由により決定される。
【0043】
尿素合成塔A内部の圧力(尿素合成圧力)は125~145バールであり、好ましくは130~140バールである。この合成圧力を125バール以上にすると、イナートガスの分圧の低減により、尿素の合成に好ましい温度(例えば180℃以上)における合成平衡圧力に対して余裕のある運転圧を採用可能となり、しかもガス化による反応収率の低下を防止できる。また、合成圧力を145バール以下にすると、原料アンモニア、原料炭酸ガス及び未反応アンモニウムカーバメイト液を昇圧するためのエネルギーを著しく抑制でき、ランニングコストを低減できる。ここでアンモニウムカーバメイト液とは、合成工程より下流の回収工程にて未反応アンモニア及び二酸化炭素をアンモニウムカーバメイト水溶液として回収した液である。
【0044】
次いで、尿素合成塔A内部の合成温度については、それが高い程、式1の反応は左辺に進み、式2の反応は右辺に進むので、反応収率上適度な領域が存在するので、175℃~190℃とする。この合成温度を175℃以上にすると、尿素生成の反応速度が遅くなることを防止できる。また、合成温度を190℃以下にすると、腐食速度の増加に加えていわゆる活性腐食のリスクが高まることを防止できる。この合成温度は、例えば、エジェクターGを駆動するアンモニアの予熱温度及び/又は尿素合成塔Aへ供給する二酸化炭素の量によって制御できる。
【0045】
尿素合成塔A内部のN/Cは、式1より化学量論的には2であるが、過剰の未反応アンモニアが存在する状態にあることが好ましく、本発明においては3.5~4.0とする。より好ましくは3.6~3.8である。
【0046】
尿素合成塔A内部のH/Cは、式1及び式2より、反応収率の観点から、H/Cは低いほど良いので、この回収装置に供給する水の量は必要最小限とすることが好ましく、本発明においては0.70以下とする。より好ましくは0.6以下である。このH/Cを可能な限り少なくすることができればよりよいが、H/Cは尿素合成装置を出る未反応物(アンモニアと二酸化炭素)を回収する回収装置(不図示)にてその吸収に必要な水の量で決まる場合が多く、実際には多少の水が存在するためである。H/Cの下限を設定する必要はない。
【0047】
尿素合成塔A内部における尿素合成液の滞留時間は、10分~40分が好ましい。この滞留時間を10分以上にすると、尿素合成反応の進行が促進される。一方、40分を超える滞留時間にした場合は、既に平衡反応収率近くに達しているので、それ以上の反応収率の上昇はほとんど期待できない。
【0048】
以上の運転条件において、尿素合成塔A内部において、反応収率は60%以上75%以下程度となる。ここで、二酸化炭素基準の反応収率とは、考慮対象としている装置もしくは領域に供給された二酸化炭素のモル数と、供給された二酸化炭素のうち尿素に転化したモル数の比であり、通常%で示される。
【0049】
ストリッパーCの運転条件は、式1の逆反応を促進することが求められ、基本的には、温度が高い程、圧力は低い程好ましいが、尿素合成装置全体のバランスから、圧力:125~145バール、特に好ましくは130~140バールとし、温度:170~190℃とされる。なお、ストリッパーCにおいては、尿素合成圧力にほぼ等しい圧力においてストリッピングを行う。ここで「ほぼ等しい圧力」とは、尿素合成圧力との差が±5バール以内であることを意味する。
【0050】
凝縮器Bの運転条件は、これに合成能力を付与しているため、尿素合成塔Aと同様に考えることができ、尿素合成塔Aとほぼ同じ条件、すなわち、圧力:125~145バール、温度:130~250℃、特に170~190℃が好ましく、N/C:2.5~3.5、特に好ましくは2.7~3.3、H/C:0.7以下、滞留時間:10~30分として、20~60%の反応収率を達成することができる。
【0051】
このような合成装置、運転条件の下、
図1に示したように、二酸化炭素と同時に、空気として装置の防食酸素を供給する。尿素合成塔A、ストリッパーC、凝縮器B各装置で、必要な防食酸素量は異なり、ストリッパーCが最も腐食しやすい環境にあり、順に凝縮器B、尿素合成塔Aである。しかし、
図1に示した合成装置は、防食酸素が、合成装置全体に行き渡るようになっているため、ストリッパーで最低限必要な酸素供給量で決定され、好ましくは100~2,000ppm、更に好ましくは100~1,000ppmの防食酸素が必要である。また、合成装置の各部に使用するステンレス鋼の材質を選択することによって、更に好ましい100~500ppmの防食酸素量で運転することができる。ただし、汎用オーステナイト-フェライト系二相ステンレス鋼のみを用いた場合は、上記下限値を、それぞれ、150ppm以上とすることが好ましい。
【0052】
特に、腐食が進行し易いストリッパーと、ストリッパーと凝縮器をつなぐ配管に、Cr含有量:26~35質量%、Ni含有量:3~10質量%、Mo含有量:1.0~4.0質量%、N含有量:0.2~0.6質量%のようなオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼、例えば、S32707、S32808を用いる場合、二酸化炭素に対する酸素供給濃度を100~500ppmまで低減できる。
【0053】
この防食酸素の供給方法は、
図1のプロセスフローに示したように、原料二酸化炭素中に防食用空気を混合して供給することが、昇圧装置を新たに設ける必要が無いという観点から好ましい。しかし、本発明は、この供給方法に限定されない。例えば、各装置に個別に防食用空気の導入口及び所定の圧力に昇圧させる装置を設けて、装置毎に防食用空気を供給しても良い。この場合も、防食酸素が、合成装置全体に行き渡るようになっているため、供給する防食用空気の量、即ち防食酸素濃度に変わりはない。
【0054】
このように、防食酸素を低減することで爆発範囲からガス組成を外すことになり、水素燃焼除去装置を省略することができるが、安全のため設置してもよい。設置する場合には、導入した防食酸素の一部を用いて水素除去装置内で水素を触媒燃焼により除去することができ、かつストリッパーのように高温の条件での爆発範囲より手前であるということから、防食用空気の下流の二酸化炭素コンプレッサーの中段もしくは出口、あるいは、ストリッパーの二酸化炭素を導入する段階より上流にあることが好ましい。
【0055】
以上、本発明の方法について説明したが、本発明は尿素合成塔の尿素合成圧力を低減する為の既存の尿素合成装置の改良方法としても利用できる。
【0056】
すなわち、前記既存の尿素合成装置が、該尿素合成塔において、アンモニアと二酸化炭素とを尿素合成温度及び尿素合成圧力において反応させ、生成された尿素、未反応アンモニア、未反応二酸化炭素、及び、水を少なくとも含む尿素合成液を、ストリッパーにおいて原料二酸化炭素の少なくとも一部と加熱下に接触させて、該未反応アンモニア及び該未反応二酸化炭素を、アンモニア、二酸化炭素、及び、水の混合ガスとして分離し、未分離の該未反応アンモニア及び該未反応二酸化炭素を含有する尿素合成液を更に処理して尿素を得、一方、該ストリッパーにおいて分離された該混合ガスを凝縮器の底部に導入して、吸収媒体と冷却下に接触させ、それによって該混合ガスを凝縮させ、こうして得られた凝縮液を該尿素合成塔に循環する尿素合成装置であり、
前記既存の尿素合成装置のストリッパーと凝縮器をつなぐ配管の材料が、以下の(a)及び(b)の何れの材料でもなく、
前記既存の尿素合成装置のストリッパーと凝縮器をつなぐ配管を、以下の(a)又は(b)の材料を含む配管に交換することにより、尿素合成塔の尿素合成圧力を低減することを可能とする既存の尿素合成装置の改良方法としても有用である。
(a)Cr含有量:21質量%以上26質量%未満、Ni含有量:4.5~7.5質量%、Mo含有量:2.5~3.5質量%、N含有量:0.08~0.30質量%、C含有量:0.03質量%以下、Si含有量:1.0質量%以下、Mn含有量:2.0質量%以下、P含有量:0.04質量%以下、S含有量:0.03質量%以下である汎用オーステナイト-フェライト系二相ステンレス鋼、
(b)Cr含有量:26~35質量%、Ni含有量:3~10質量%、Mo含有量:1.0~4.0質量%、N含有量:0.2~0.6質量%のオーステナイト-フェライト二相系ステンレス鋼
【0057】
さらに本発明は、別のタイプの装置(尿素合成領域と凝縮領域が同一の容器内に、もしくは別々の容器に存在し、凝縮領域が横型の容器に存在する装置)の尿素合成圧力を低減する為の改良方法としても利用できる。
【0058】
すなわち、前記既存の尿素合成装置が、該尿素合成領域において、アンモニアと二酸化炭素とを尿素合成温度及び尿素合成圧力において反応させ、生成された尿素、未反応アンモニア、未反応二酸化炭素、及び、水を少なくとも含む尿素合成液を、ストリッパーにおいて原料二酸化炭素の少なくとも一部と加熱下に接触させて、該未反応アンモニア及び該未反応二酸化炭素を、アンモニア、二酸化炭素、及び、水の混合ガスとして分離し、未分離の該未反応アンモニア及び該未反応二酸化炭素を含有する尿素合成液を更に処理して尿素を得、一方、該ストリッパーにおいて分離された該混合ガスを凝縮領域の底部に導入して、吸収媒体と冷却下に接触させ、それによって該混合ガスを凝縮させ、こうして得られた凝縮液を該尿素合成領域に循環する尿素合成装置であり、
前記尿素合成領域と前記凝縮領域が同一の容器内、もしくは別々の容器に存在し、 前記凝縮領域が横型の容器に存在し、
前記既存の尿素合成装置のストリッパーと凝縮領域をつなぐ配管の材料が、前記(a)及び前記(b)の何れの材料でもなく、
前記既存の尿素合成装置のストリッパーと凝縮領域をつなぐ配管を、前記(a)又は前記(b)の材料を含む配管に交換することにより、尿素合成領域の尿素合成圧力を低減することを可能とする既存の尿素合成装置の改良方法としても有用である。
【実施例0059】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明する。ただし本発明は実施例により制限されるものではない。
【0060】
<実施例1>
図2に示す日産2200トンの尿素合成装置を用いる尿素合成プロセスで尿素合成を実施した。
【0061】
ストリッパーCと凝縮器B、凝縮器BとエジェクターG、エジェクターGと尿素合成塔Aを接続する配管材料に汎用オーステナイト-フェライト系二相ステンレス鋼を用い、その他の配管にはS31603系汎用ステンレス鋼を用いた。原料二酸化炭素には、二酸化炭素圧縮工程で二酸化炭素に対する酸素供給濃度が約1000ppmとなるように予め防食用空気を混合した。尿素の合成系統の圧力を136バールとした。
【0062】
ライン1から原料アンモニア1237t/dが供給され、ライン14から原料二酸化炭素1600t/dが圧縮機に供給される。原料アンモニアはポンプで180バールに昇圧され、ライン1から熱交換器Dにおいてスチーム凝縮水で147℃に加熱されて、エジェクターGを通って尿素合成塔Aの底部に供給された。また原料二酸化炭素1528t/dと防食用空気約14t/dは、圧縮機で141バールに昇圧されて、原料二酸化炭素1233t/dと防食用空気約11t/dはライン2および2bを経てストリッパーCの底部に供給された。二酸化炭素295t/dと防食用空気約3t/dはライン2aを経て尿素合成塔Aの底部に供給された(比[XC/XA]=約81/19)。また原料二酸化炭素の72t/dは、圧縮機の中間段から分岐されてライン13を経てストリッパー下流の分解工程にある低圧分解塔に供給された。一方、ライン7からの吸収媒体としての回収液1849t/dは下記組成を有し、106℃の温度で141バールに昇圧され、スクラバーFに供給される。
尿素0.2%、アンモニア35.0%、二酸化炭素40.6%、水24.2%
【0063】
スクラバーFは、136バール、160℃で運転された。スクラバーF出口液は、受器16およびダウンパイプ11を経て凝縮器Bの底部に供給された。一方、スクラバーFの塔頂からライン15を経てイナートガスが放出された。
【0064】
ストリッパーCで分離されたアンモニア、二酸化炭素、水およびイナートガスからなる混合ガスは、ライン5を経て凝縮器Bの底部に送られた。凝縮器Bの胴側は、前記回収液と凝縮によって生じたアンモニウムカーバメイトで満たされており、この液により上記混合ガスが吸収される。なお、吸収熱は、ライン13およびライン14で示される冷却器で除熱される。混合ガスを吸収した凝縮液は、20分の滞留時間後、ダウンパイプ3を重力で流下し、エジェクターGにて昇圧後、尿素合成塔Aの底部に供給された。
【0065】
尿素合成塔Aの底部に供給された液体の原料アンモニアと凝縮液とは、尿素合成塔Aを上昇しながら、さらに尿素合成反応をすすめた。その際の滞留時間は20分であった。
【0066】
尿素合成塔Aの頂部からライン4を経てストリッパーCに供給された合成液は、アンモニウムカーバメイトの加熱分解およびアンモニア、二酸化炭素の混合ガスとしての分離がなされる。ストリッパーCは、塔頂温度180℃、頂部圧力136バールで運転された。
【0067】
以上述べたように、気体および液体が凝縮器B、尿素合成塔AおよびストリッパーC間で循環され運転された。このためのドライビングフォースとして用いられる、液体の原料アンモニアを駆動流体とするエジェクターGの吐出側と吸い込み側の差圧は約3バールであった。
【0068】
原料アンモニアおよび回収液を昇圧するポンプの動力と原料二酸化炭素を昇圧する圧縮機の動力を表1に、尿素合成塔A、凝縮器B、ストリッパーCおよびエジェクターGの運転条件を表2~5に、塔底(ライン12)の組成を表6に記載する。
【0069】
<参考例1>
図2に示す日産2200トンの尿素合成装置を用いる尿素合成プロセスで、各装置を接続する全ての配管にS31603系汎用ステンレス鋼を用いて尿素合成を実施した。
【0070】
原料二酸化炭素には、配管に用いるS31603系汎用ステンレス鋼の腐食を防止するため、二酸化炭素圧縮行程で二酸化炭素中に対する酸素濃度が5000ppmとなるように予め防食用空気を混合した。
【0071】
尿素合成塔Aの塔頂および凝縮器Bの塔頂からスクラバーFに流れるイナートガスに同伴するプロセスガス(アンモニア、二酸化炭素、水)の流量を抑制するため、運転圧力と液の飽和蒸気圧との差の過剰圧を大きくし、合成系統の運転圧力を152バールとした。
【0072】
原料アンモニアおよび回収液を昇圧するポンプの動力と原料二酸化炭素を昇圧する圧縮機の動力を表1に、尿素合成塔A、凝縮器B、ストリッパーCおよびエジェクターGの運転条件を表2~5に、塔底(ライン12)の組成を表6に記載する。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
<評価>
実施例1は、合成系統の運転圧力の低下により、参考例1に比べて、アンモニアと回収液の昇圧ポンプの動力が135kW(約10%)、原料二酸化炭素の圧縮機の動力が169kW(約2%)削減された。
【0080】
また、低圧によりストリッパーでの分離効率が向上するため、18.1バールの低い圧力の加熱スチームを用いても、ストリッパー塔底で得られるアンモニア及び二酸化炭素の濃度が低くなる。濃度が低いことにより、ストリッパーの下流の分離工程(
図2には非表示)におけるアンモニア及び二酸化炭素の分離のためのエネルギーが少なくなる。また分離したアンモニア及び水を水溶液として回収した回収液量も減少し、合成系に持ち込む水が少なくなり、合成系のH/Cが低下し、低いH/Cは二酸化炭素の低下率向上に寄与する。
本発明は、酸素により装置内部の金属表面に不動態皮膜を形成させながら、アンモニアと二酸化炭素から尿素を合成する方法として、特に、尿素合成に必要なエネルギーやランニングコストを低減することができる尿素合成方法として非常に有用である。