(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108811
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】放熱塗膜構造体とその構造体を用いた電子部材、電子機器
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20230731BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20230731BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
H01L23/36 Z
H01L23/36 M
H05K7/20 A
H05K7/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010058
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】土田 修三
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322AA03
5E322AB11
5E322FA09
5F136BA30
5F136DA27
5F136DA33
5F136FA01
5F136FA02
5F136FA51
5F136FA52
5F136FA55
5F136FA62
(57)【要約】
【課題】放熱性に優れ耐久性を有する放熱塗膜構造体を提供する。
【解決手段】放熱塗膜構造体は、少なくとも放熱性粒子および樹脂より構成される平面形状の構造体である放熱塗膜構造体であって、放熱性粒子は、アルミニウム、マグネシウム、およびケイ素から選択される少なくとも2種の元素を含む酸化物から構成される平均粒子径0.1~30μmの粒子であり、放熱塗膜構造体の平均厚みは、放熱性粒子の平均粒子径の10倍以上であり、放熱塗膜構造体の表面において複数の凹部が存在し、凹部の表面に放熱性粒子が複数個露出している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも放熱性粒子および樹脂より構成される平面形状の構造体である放熱塗膜構造体であって、
前記放熱性粒子は、アルミニウム、マグネシウム、及びケイ素から選択される少なくとも2種の元素を含む酸化物から構成される平均粒子径0.1~30μmの粒子であり、
前記放熱塗膜構造体の平均厚みは、前記放熱性粒子の平均粒子径の10倍以上であり、
前記放熱塗膜構造体の表面において複数の凹部が存在し、
前記凹部の表面に前記放熱性粒子が複数個露出している、放熱塗膜構造体。
【請求項2】
前記凹部の深さは、前記放熱性粒子の平均粒子径の3倍以上、前記放熱塗膜構造体の平均厚み未満である、請求項1に記載の放熱塗膜構造体。
【請求項3】
前記放熱塗膜構造体の面内方向において、前記放熱性粒子の隣り合う粒子が接触している箇所と、隣り合う粒子間の距離が前記放熱性粒子の平均粒子径の5倍以上である箇所とが複数存在する、請求項1または2に記載の放熱塗膜構造体。
【請求項4】
前記放熱塗膜構造体内における前記放熱性粒子と前記樹脂との合計重量に対する前記放熱性粒子の比率が、45.4重量%以上76.9重量%以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の放熱塗膜構造体。
【請求項5】
前記放熱塗膜構造体内における前記放熱性粒子と前記樹脂との合計重量に対する前記放熱性粒子の比率が、50.0重量%以上66.7重量%以下である、請求項4に記載の放熱塗膜構造体。
【請求項6】
前記樹脂は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、又は、アクリル樹脂からなる熱可塑性樹脂である、請求項1から5の何れか一項に記載の放熱塗膜構造体。
【請求項7】
前記樹脂は、エポキシ樹脂、エポキシポリエステル樹脂、又は、ポリエステル樹脂、またはアクリル樹脂からなる熱硬化性樹脂である、請求項1から5のいずれか一項に記載の放熱塗膜構造体。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一項に記載の放熱塗膜構造体を表面に形成した電子部材。
【請求項9】
請求項1から7の何れか一項に記載の放熱塗膜構造体を表面に形成した電子機器。
【請求項10】
熱硬化性樹脂により構成される粉体の表面に放熱性粒子を被覆させた複合化粒子を形成する複合化処理工程と、
前記複合化粒子を積層させた粉体層を形成する粉体層形成工程と、
前記粉体層を加圧もしくは加熱して前記粉体層の空隙を低減させ、前記複合化粒子を配列させた配列層を形成する配列工程と、
前記配列層を加熱することで樹脂を一旦溶融させ、冷却させることで放熱塗膜構造体を形成する加熱硬化工程と、
を含む、放熱塗膜構造体の製造方法。
【請求項11】
前記加熱硬化工程において、加圧することを特徴とする、請求項10に記載の放熱塗膜構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発熱体の熱を熱放射により外部へと放熱することのできる放熱塗膜構造体、および、放熱塗膜構造体を含む電子部材および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パワーデバイスや半導体パッケージの小型化・高密度化に伴い、機器の発熱密度が高くなっている。そのため、機器内に搭載された電子部材において、動作保証温度を超えないように、それぞれの電子部材から発生する熱を効率良く放熱させる技術が必須になっている。
【0003】
放熱手段として、一般的には、対流を利用したフィンや、熱伝導を利用した熱伝導シートなどが用いられている。しかしながら、放熱手段として、このような従来の熱対策部材だけでは機器に含まれる発熱デバイスなどの発熱体の動作保証温度以下にまで放熱することは困難となっている。近年、スペースを確保せずに放熱できる手段として、熱放射を利用した放熱塗料や放熱塗膜、また放熱塗膜を表面に形成されたシートや部材が注目されている。
【0004】
図8は、例えば、特許文献1に記載される従来の方法により基材31上に作製された平面形状である構造体(以降、「放熱塗膜構造体33」と述べる。)の断面構造を示す断面図である。
図8に示すように、放熱塗膜構造体33は、樹脂30と伝熱粒子32から構成されており、基材31からの熱が主に放熱塗膜構造体33内に存在する伝熱粒子32により放熱塗膜構造体33内を厚み方向に伝熱し、放熱塗膜構造体33の表面から放熱される。この時、放熱塗膜構造体33内に粒子径の大きな伝熱粒子32を一定量含有させることで放熱塗膜構造体33の表面に凹凸を形成し、表面積を増加させることで放熱性能を向上させる内容である。
【0005】
また、
図9は、例えば、特許文献2に記載される従来の方法により基材31上に作製された放熱塗膜構造体35の断面構造を示す断面図である。粒子を含有させた膜の最表面に放射性粒子36を含有する最表層34を形成している。ここで最表層34の厚みより大きな粒子径を有する放射性粒子36を含有させることで、放射性粒子36の一部を最表層34より露出させ、放射性粒子36の表面からの放射を増加させることで、基材31から伝熱された熱の除去を促進し放熱性能を向上させる内容である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2009-142036号公報
【特許文献2】特開2006-281514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の放熱塗膜構造体33の製造方法は、伝熱粒子32を樹脂30または樹脂30となる原料である樹脂成分と、その樹脂成分を溶解させる溶剤とを混合し、基材31の表面に塗工した後、乾燥硬化させる方法である(以降、この製造方法を「湿式塗工」と述べる。)。
【0008】
しかしこの方法では、放熱塗膜構造体33の最表面には樹脂30による膜が形成され放熱塗膜構造体33の表面近傍における厚み方向の伝熱性能、および表面からの放射性能が低下する。また、隣接する伝熱粒子32粒子間にも樹脂30が入り込み、放熱塗膜構造体33内における伝熱性が低下することにより、放熱塗膜構造体33の放熱性能が不十分である。また、放熱塗膜構造体33内の伝熱性確保と、放熱塗膜構造体33の表面近傍へ伝熱粒子32を配置させ、放射性を向上させるため、伝熱粒子32を大量に含有させることが必要である。そのため樹脂成分の含有量が少なくなり、温度変化による膨張収縮や、放熱塗膜構造体33にかかる外的応力により、放熱塗膜構造体33のワレや基材31から剥離しやすくなる問題がある。
【0009】
特許文献2は、放熱塗膜構造体35の最表面層34より放射性粒子36が突出していることで、摩耗や擦れにより放射性粒子36が脱離しやすく、放熱塗膜構造体の耐久性が低下する問題がある。
【0010】
そこで、本開示は、放熱性に優れ耐久性を有する放熱塗膜構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本開示に係る放熱塗膜構造体は、少なくとも放熱性粒子および樹脂より構成される平面形状の構造体である放熱塗膜構造体であって、放熱性粒子は、アルミニウム、マグネシウム、及びケイ素から選択される少なくとも2種の元素を含む酸化物から構成される平均粒子径0.1~30μmの粒子であり、放熱塗膜構造体の平均厚みは、放熱性粒子の平均粒子径の10倍以上であり、放熱塗膜構造体の表面において複数の凹部が存在し、凹部の表面に放熱性粒子が複数個露出している。
【0012】
また、本開示に係る電子部材は、上記放熱塗膜構造体を表面に形成している。
【0013】
さらに、本開示に係る電子機器は、上記放熱塗膜構造体を表面に形成している。
【0014】
また、本開示に係る放熱塗膜構造体の製造方法は、少なくとも熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂により構成される粉体の表面に放熱性粒子を被覆させた複合化粒子を形成する複合化処理工程と、複合化粒子を積層させた粉体層を形成する粉体層形成工程と、粉体層を加圧もしくは加熱して粉体層の空隙を低減させ、複合化粒子を配列させた配列層を形成する配列工程と、配列層を加熱することで樹脂を一旦溶融させ、冷却させることで放熱塗膜構造体を形成する加熱硬化工程と、を含む。
【発明の効果】
【0015】
本開示に係る放熱塗膜構造体は、放熱性に優れ、摩耗や擦れによる放熱性能の低下を低減し、温度変化や外的負荷により発生する応力への耐性を有した放熱塗膜構造体を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施の形態1に係る放熱塗膜構造体の断面構造を示す断面図である。
【
図2】実施の形態における放熱塗膜構造体の製造方法を示す断面図である。
【
図3】実施の形態における電子部材の断面構造を示す断面図である。
【
図4】実施の形態における電子機器の断面構造を示す図である。
【
図5】比較例1、実施例1~20における放熱性能評価素子の断面構造を示す断面図である。
【
図6】比較例2における放熱性能評価素子の断面構造を示す断面図である。
【
図7】昇温抑制温度変化評価装置の構成を示す断面図である。
【
図8】特許文献1における放熱塗膜構造体の断面構造を示す断面図である。
【
図9】特許文献2における放熱塗膜構造体の断面構造を示す断面図である。
【
図10】実施例および比較例において作製した放熱塗膜構造体の詳細内容を示す表1である。
【
図11】比較例および実施例のいくつかについて、実際の放熱性能の効果を示す表2である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1の態様に係る放熱塗膜構造体は、少なくとも放熱性粒子および樹脂より構成される平面形状の構造体である放熱塗膜構造体であって、放熱性粒子は、アルミニウム、マグネシウム、及びケイ素から選択される少なくとも2種の元素を含む酸化物から構成される平均粒子径0.1~30μmの粒子であり、放熱塗膜構造体の平均厚みは、放熱性粒子の平均粒子径の10倍以上であり、放熱塗膜構造体の表面において複数の凹部が存在し、凹部の表面に放熱性粒子が複数個露出している。
【0018】
第2の態様に係る放熱塗膜構造体は、上記第1の態様において、凹部の深さは、放熱性粒子の平均粒子径の3倍以上、放熱塗膜構造体の平均厚み未満であってもよい。
【0019】
第3の態様に係る放熱塗膜構造体は、上記第1又は第2の態様において、放熱塗膜構造体の面内方向において、放熱性粒子の隣り合う粒子が接触している箇所と、隣り合う粒子間の距離が放熱性粒子の平均粒子径の5倍以上である箇所とが複数存在してもよい。
【0020】
第4の態様に係る放熱塗膜構造体は、上記第1から第3のいずれかの態様において、放熱塗膜構造体内における前記放熱性粒子と前記樹脂との合計重量に対する前記放熱性粒子の比率が、45.4重量%以上76.9重量%以下であってもよい。
【0021】
第5の態様に係る放熱塗膜構造体は、上記第4の態様において、放熱塗膜構造体内における放熱性粒子と樹脂との合計重量に対する放熱性粒子の比率が、50.0重量%以上66.7重量%以下であってもよい。
【0022】
第6の態様に係る放熱塗膜構造体は、上記第1から第5のいずれかの態様において、樹脂は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、又は、アクリル樹脂からなる熱可塑性樹脂であってもよい。
【0023】
第7の態様に係る放熱塗膜構造体は、上記第1から第5のいずれかの態様において、樹脂は、エポキシ樹脂、エポキシポリエステル樹脂、または、ポリエステル樹脂からなる熱硬化性樹脂であってもよい。
【0024】
第8の態様に係る電子部材は、上記第1から第7のいずれかの態様に係る放熱塗膜構造体を表面に形成している。
【0025】
第9の態様に係る電子機器は、上記第1から第7のいずれかの態様に係る放熱塗膜構造体を表面に形成している。
【0026】
第10の態様に係る放熱塗膜構造体の製造方法は、少なくとも熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂により構成される粉体の表面に放熱性粒子を被覆させた複合化粒子を形成する複合化処理工程と、複合化粒子を積層させた粉体層を形成する粉体層形成工程と、粉体層を加圧もしくは加熱して粉体層の空隙を低減させ、複合化粒子を配列させた配列層を形成する配列工程と、配列層を加熱することで樹脂を一旦溶融させ、冷却させることで放熱塗膜構造体を形成する加熱硬化工程と、を含む。
【0027】
第11の態様に係る放熱塗膜構造体の製造方法は、上記第10の態様において、加熱硬化工程において、加圧してもよい。
【0028】
以下、添付図面を参照しながら本開示の実施の形態に係る放熱塗膜構造体について詳しく説明する。なお、図面において実質的に同一の部材については同一の符号を付している。
【0029】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る放熱塗膜構造体の断面構造を示す断面図を示す。放熱塗膜構造体1は、基材4の表面に形成された平面形状の構造体であり、少なくとも放熱性粒子2および樹脂3より構成されている。放熱性粒子2は、アルミニウム、マグネシウム、およびケイ素から選択される少なくとも2種の元素を含む酸化物から構成される平均粒子径0.1~30μmの粒子であり、放熱塗膜構造体1の厚みは、放熱性粒子2の平均粒子径の10倍以上であり、放熱塗膜構造体の表面において複数の凹部5が存在し、凹部5の表面に放熱性粒子2が複数個露出している。ここで凹部5の表面とは、放熱塗膜構造体1の表面から凹んでいる面のことを示しており、凹みの斜面および凹んでいる底を含んだ部分(図中A領域)を示している。
【0030】
上記構成にすることで、放熱塗膜構造体1の表面に摩耗や擦れによる負荷が付加されても、多数の放熱性粒子2へ負荷が分散されることで脱離しにくい。また凹部5に存在する放熱性粒子2は物理的に接触しにくいため摩耗しにくく、放熱性能を維持しやすい効果が得られる。さらに、放熱塗膜構造体1の表面における表面積が増加し、放熱性能が向上する効果もある。
【0031】
次に、凹部5の深さは、放熱性粒子2の平均粒子径の3倍以上、放熱塗膜構造体1の平均厚み未満であることが望ましい。この構成にすることで、放熱塗膜構造体1の表面に引っかき傷など強い外的ストレスが付加され、凹部の肩部(図中B領域)に存在する放熱性粒子2が仮に脱離しても、放熱性粒子2の平均粒子径の3倍以上の深さがあることで、凹部5の表面における放熱性粒子2は維持されやすい。そのため放熱性能を維持し、耐久性が向上する効果が得られる。
【0032】
また、放熱塗膜構造体1の面内方向において、放熱性粒子2の隣り合う粒子が接触している箇所と、隣り合う粒子間の距離が放熱性粒子2の平均粒子径の5倍以上である箇所が複数存在する構成にすることが望ましい。この構成にすることで、温度変化などの膨張収縮による応力や、歪による応力を分散させやすく、膜耐性が向上する。更に、放熱性粒子2が多い領域(図中の符号6)と少ない領域(図中の符号7)とが存在することになる。そのため、放熱性粒子2が多い領域6では放熱性粒子2同士が接触し易く、放熱塗膜構造体1における厚み方向の熱伝導性を向上させる効果がある。
【0033】
また、ここで放熱塗膜構造体1内における放熱性粒子2と樹脂3との合計重量に対する放熱性粒子2の重量比率が45.4重量%以上71.4重量%以下であることが望ましい。これは、放熱性粒子の重量比率が多すぎると膜強度が低下し、少なすぎると放熱性能が低下するためである。
【0034】
本実施の形態で用いる材料について詳細を以下に説明する。
【0035】
[放熱性粒子2]
<放熱性粒子2の種類>
放熱塗膜構造体1表面における遠赤外線放射率は、放熱塗膜構造体1の表面近くに存在し得る放熱性粒子2だけでなく、樹脂3にも影響を受ける。一般に、樹脂の遠赤外線放射率は、0.6以上0.8以下である。したがって、放熱性粒子2の遠赤外線放射率は、樹脂3の値よりも大きく、0.8以上であることが好ましく、さらには0.85以上であることがより好ましい。0.8よりも小さい場合、樹脂3の遠赤外線放射率の影響を受ける場合もあるため、放熱塗膜構造体1の遠赤外線放射率は0.8よりも小さくなる可能性があり、熱の放射性が低下し放熱性能が不十分となる。
【0036】
放熱塗膜構造体1の遠赤外線放射率を好ましくは0.85以上、より好ましくは0.9以上にすることを目的とし、本開示では、放熱性粒子2として、基本的には、アルミニウム、マグネシウムおよびケイ素からなる群から選択される元素を少なくとも2つ含む酸化物を用いる。このアルミニウム、マグネシウムおよびケイ素のうち少なくとも2つの成分を含むことで、これらの成分に起因する遠赤外線放射率のピークが重なり得る。そのため、電子部材の熱移動に寄与する波長域である2μm~22μmの遠赤外線放射率の平均値が0.85以上となり得る。
好ましくは、マグネシウムケイ酸塩であるタルクやコージェライト、マグネシウム-アルミニウム系炭酸塩であるハイドロタルサイト、アルミノケイ酸塩であるゼオライトやベントナイトなどを使用することが望ましい。
さらに、放熱性粒子2は、アルミニウム、マグネシウムおよびケイ素からなる群から選択される元素を少なくとも2つ含む酸化物であって、比表面積が、7m2/g以上50m2/g以下である粒子である。
【0037】
ここで遠赤外線放射率とは、もっとも理想状態に近い黒体放射の値を1とした場合、この理想状態に対する値を0~1の範囲内で示した割合である。
【0038】
<放熱性粒子2の平均粒子径>
放熱性粒子2の平均粒子径は、例えば、0.1μm以上30μm以下の範囲内であり、好ましくは0.3μm以上10μm以下の範囲内である。平均粒子径は、例えば、フェレ径(射影幅)の数平均粒子径である。放熱性粒子2の平均粒子径が0.1μmよりも小さい場合、放熱塗膜構造体1の厚み方向における放熱性粒子2同士の接触点が増加することになる。そのため接触点界面における熱伝熱抵抗が増加し熱伝導性が損なわれ、その結果、放熱塗膜構造体1の放熱性能を低下させる場合がある。一方、放熱性粒子2の平均粒子径が30μmよりも大きい場合、摩耗や擦れにより放熱性粒子2が放熱塗膜構造体1の表面から脱離や、放熱塗膜構造体1のワレ、剥離が発生しやすく、放熱塗膜構造体1における放熱性能を低下させる場合がある。
【0039】
<樹脂3の種類>
樹脂3は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、又は、アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂、もしくは、エポキシ樹脂、エポキシポリエステル樹脂、又は、ポリエステル樹脂アクリル樹脂など熱硬化性樹脂であることが望ましい。具体的に、この樹脂3は加熱により一旦溶融し冷却により固化する熱可塑性樹脂、もしくは、加熱により一旦溶融し樹脂内部に添加された硬化剤が反応することで硬化反応が進行し固化する熱硬化性樹脂が望ましい。つまり、加熱することで一旦溶融し、最終的に冷却した時点で固化する樹脂であれば、それ以外は特に限定されない。
【0040】
<樹脂3の平均粒子径>
樹脂3の平均粒子径は、例えば、1μm以上500μm以下の範囲内であり、好ましくは5μm以上300μm以下であることが望ましい。さらに、放熱性粒子2の平均粒子径の2倍以上50倍以下が好ましく、放熱性粒子2の平均粒子径の5倍以上30倍以下が望ましい。平均粒子径は、例えば、フェレ径の数平均粒子径である。
【0041】
<放熱塗膜構造体1の製造方法>
次に、本実施の形態における放熱塗膜構造体1の製造方法について、
図2を用いて説明する。具体的には、少なくとも放熱性粒子2と樹脂3から構成される放熱塗膜構造体1の製造方法について説明する。必要に応じて少量の顔料やバインダ(図示せず)などを添加することも可能である。
図2は、放熱塗膜構造体1の製造方法を示す模式図である。
【0042】
放熱塗膜構造体1の製造方法は、放熱性粒子2と樹脂3(
図2の(a))を準備し、それぞれを複合化させた複合化粒子8を形成する複合化処理工程(
図2の(b))と、前記複合化粒子8を、例えば、アルミニウムやステンレスなど金属構造体(基材)4の表面に敷き詰め粉体層9を形成する粉体層形成工程(
図2の(c))と、粉体層9を加熱もしくは加圧しながら複合化粒子8間の空隙10に存在する気体を押し出し、複合化粒子8を再配列させた配列層11を形成する配列工程(
図2(d))と、さらに配列層11を加熱または必要に応じて加圧して、樹脂3を軟化させながら配列層11の表面を平坦化し、その状態で硬化させることで放熱塗膜構造体1を形成する加熱硬化工程(
図2(e))から成る。
以下に、各工程の詳細を説明する。
【0043】
[複合化処理工程](
図2の(b))
粉体層を形成する前準備として、放熱性粒子2と樹脂3とからなる粒子を乾式で攪拌混合する工程を経ることが重要である。ここで攪拌混合とは、放熱性粒子2と樹脂3とを混合する際、圧縮力とせん断力とをかけながら混合する方法を示しており、それ以外に特に限定されない。この工程の目的は、樹脂3からなる粒子表面の少なくとも一部に放熱性粒子2を被覆させることである。混合時に圧縮力とせん断力とを付与することで、樹脂3からなる粒子の表面に放熱性粒子2を部分的に埋没させることで付着性を向上させた、表面に放熱性粒子2が被覆された樹脂3粒子である複合化粒子8を得る。
【0044】
また、放熱性粒子2と樹脂3との配合比は、重量を基準として、例えば、76.9:23.1~45.4:54.6、好ましくは66.7:33.3~50:50である。また、体積を基準とすると、53.6:46.4~27.8:72.2、好ましくは48.0:52.0~31.6:68.4である。配合比が上記の範囲内であることで、最終的に放熱性能が高く、耐久性が高い放熱塗膜構造体1を得ることができる。
【0045】
[粉体層形成工程](
図2の(c))
本実施の形態における粉体層形成工程としては、例えば、以下の方法がある。
(1)前記複合化処理工程で得られた放熱性粒子2および樹脂3から構成される複合化粒子8を、放熱性粒子2および樹脂3が溶融しない溶剤に分散させ、さらに必要に応じて少量の顔料など無機フィラーやバインンダーを分散させてスラリー化したインクを作製し、得られたインクを金属構造体4の表面に塗布し乾燥させることで粉体層9を得る。
また、インクの塗布方法としては、特に限定されないが、ブレードコーター、グラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ロールナイフコーター、ワイヤーバーコーター、スロットダイコーター、エアーナイフコーター、カーテンコーター、スプレーコーター等、またはこれらの組み合わせの公知の塗布方法が挙げられる。
【0046】
スラリー化に用いる溶剤としては、例えば、水、エタノールなどが挙げられるが、これらに限定するものではなく、放熱性粒子2および樹脂3と化学反応を起こさない溶剤を適宜選択すればよい。
また、乾燥において、溶剤を除去できれば特に限定されることなく、ヒーターなどを用いた公知の乾燥方法または焼成方法を採用してよい。
【0047】
(2)また、本実施の形態における粉体層9の作製に関する別の方法として、次の方法がある。
粉体状態の複合化粒子8(スラリー化していない)と、必要に応じて少量の顔料など無機フィラーやバインダーなどを混合し混合粉体を作製する。この得られた混合粉体を均一に金属構造体4の表面に堆積させ粉体層9を形成する。ここで混合粉体を均一に堆積させる方法は特に限定されないが、粉体をスキージで押し広げるスキージ法や、静電的な力を利用して粉体を飛翔させる静電塗工法、静電スクリーン法、またはこれらの組み合わせの公知の方法が挙げられる。
【0048】
ここで、粉体層9を形成した際に、放熱性粒子2が表面に被覆された樹脂3からなる複合化粒子8が堆積した形態を経て放熱塗膜構造体1を製造することが重要であり、他の内容については特に限定されるものではない。以降、この粉体層9の形成を経て放熱塗膜構造体1を形成する方法を、「乾式塗工」と述べる。
【0049】
[配列工程](
図2の(d))
本実施の形態における配列工程としては、例えば、以下の方法がある。
粉体層形成工程で形成された粉体層9の表面を、金型などを用いて加圧または/および加熱し、複合化粒子8間に存在する空隙10内に存在する気体(大気中での作業する際は空気)を押し出しながら複合化粒子8および空隙10を押しつぶし、配列層11を得る。生産性を考慮した場合、ロールtoロールで処理するために、加圧ローラーで加圧しながら粉体層9を搬送することも可能である。
【0050】
[加熱硬化工程](
図2の(e))
本実施の形態における加熱硬化工程としては、例えば、以下の方法がある。
配列工程で形成した配列層11を、金型などを用いて加圧または/および加熱することで、樹脂3を軟化させ配列層11内に残留した隙間に樹脂3を充填させ、配列層11の表面を平坦化させる。最終的に冷却することで樹脂3を固化させ、放熱塗膜構造体1を形成する。ここで生産性を考慮した場合、ロールtoロールで処理するために、加圧ローラーで加圧しながら配列層11を搬送することも可能である。また、加熱する温度や加圧する圧力は、複数回に分け段階的に設定することも可能である。さらに、放熱塗膜構造体1内において、面内方向(図中C)に、隣接する放熱性粒子2同士が接触する箇所6と、接触しない箇所7とを形成させるように温度および圧力を調整することが重要であり、材料の物性、平均粒子径などを考慮して適宜調整することが可能である。
【0051】
<電子部材>
実施の形態において、電子部材12は、
図3に示すように少なくとも上述の放熱塗膜構造体1を表面に有した部材を示している。例えば、放熱塗膜構造体1を表面に形成した金属構造体4と、発熱デバイス13(又は発熱体)と互いに接触させて使用される部材である。また、金属構造体4を省き、発熱デバイス13の表面に直接に放熱塗膜構造体1を形成した場合も可能である。ここで発熱デバイス13は、発熱するものである限り、特に制限はないが、例えば、パワーモジュールやLED素子などが挙げられる。
【0052】
<電子機器>
本開示の実施の形態において、電子機器14とは、少なくとも上述の放熱塗膜構造体1を含むものであれば、特に制限はなく、例えば、スマートフォン、タブレット端末、照明機器、産業機器の制御ユニットなどが挙げられる。
例えば、
図4は、放熱塗膜構造体1と、発熱体15と、基板16と、タブレット筐体17とから構成され得る本開示の実施の形態の電子機器を示す。
このように、本開示に係る放熱塗膜構造体では、ファンやヒートシンクを設置することができない小型で軽量かつ薄型の電子機器の放熱用途に適用することができる。
【0053】
以下、実施例を挙げて本開示における実施の形態の具体内容を説明するが、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例および比較例)
実施例および比較例において作製した放熱塗膜構造体の詳細内容を
図10の表1に示す。
図10の表1では、各実施例及び比較例における放熱塗膜構造体を作製する際の条件として、放熱性粒子2及び樹脂3の材料種、配合比(重量%および体積%)、製造方法について示す。
ここで示す配合比は、製造する際の混合した比率であるが、製造過程においてこの配合比率は実質的に変化せず、最終的に形成される放熱塗膜構造体内における混合比を示すものである。
【0055】
(評価サンプル)
放熱塗構造体の放熱特性を評価するに当たり、
図10の表1に示す条件に従い、
図5に示す構成で、60mm×60mm 厚み2mmのアルミニウム金属板20の表面に、40mm×40mm 厚み0.03~0.08mmの放熱塗膜構造体21を形成した放熱性能評価素子22を作製した。
【0056】
実施例及び比較例における具体的な内容を以下に示す。
放熱性粒子としてコージェライト粒子(平均粒子径1.7μm)(SS-1000:丸ス釉薬製)を用い、上述した塗工方法および表1に示す条件に従い、放熱塗膜構造体21を含む放熱性能評価素子22を作製した。
【0057】
(比較例1)
比較例1については、従来の湿式塗工方法を用いてアルミニウム金属板上に放熱塗膜構造体21を形成し、放熱性能評価素子22を作製した。具体的には、コージェライト粒子をシロキサンなどシリコン樹脂となりうる樹脂を溶解させた溶剤に分散させ、アルミニウム金属板状に塗工・乾燥させ放熱塗膜構造体21を形成し、放熱性能評価素子22とした。
【0058】
(比較例2)
比較例2については、
図6のように放熱塗膜構造体21を作製せずアルミニウム金属板のみを放熱性能評価素子23とした。
【0059】
(比較例3~6および実施例1~6)
比較例3~6および実施例1~6については、本実施の形態に示した乾式塗工方法を用いてアルミニウム金属板上に放熱塗膜構造体21を形成し、放熱性能評価素子22を作製した。
【0060】
具体的にはコージェライト粒子と熱可塑性樹脂(ポリエチレン:PE)(ACumistB-6:Honeywell製)から成る5~50μmの粒子をあらかじめ混合して複合粒子を作製し、スキージ法を用いて複合粒子による粉体層を形成した後、プレス機を用いて粉体層を加圧することで配列層を形成し、熱プレス機を用いて配列層を加熱加圧することで放熱塗膜構造体21を形成した。比較例3~6および実施例1~6の違いは、コージェライト粒子に対する熱可塑性樹脂の混合比を増加させ配合比を変化させたものである。
【0061】
(実施例7~16)
実施例7~16については、本実施の形態に示した作成方法を用いてアルミニウム金属板上に放熱塗膜構造体21を形成し、放熱性能評価素子22を作製した。
具体的にはコージェライト粒子と熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂:PE)(ペルパウダーPCE750:ペルノックス製)から成る5~50μmの粒子をあらかじめ混合して複合粒子を作製し、スキージ法を用いて複合粒子による粉体層を形成した後、プレス機を用いて粉体層を加圧することで配列層を形成し、熱プレス機を用いて配列層を加熱加圧することで放熱塗膜構造体21を形成した。実施例7~16の違いは、コージェライト粒子に対する熱硬化性樹脂の混合比を増加させ配合比を変化させたものである。
【0062】
比較例および実施例で作製した放熱性能評価素子22に関して、熱放射性および耐久性を評価するために、それぞれ遠赤外線放射率および膜強度の測定を行った。各評価方法は、以下の通りである。
【0063】
<遠赤外線放射率測定>
比較例および実施例で作製した放熱性能評価素子22について、簡易型放射率測定装置(品番:TSS-5X、ジャパンセンサー製)を用いて、各サンプルの遠赤外線放射率を測定した。ここで、遠赤外線放射率は、波長域2μm~22μmでの分光遠赤外線放射率を平均化した値である。ここで、遠赤外線放射率が0.85以上のものは実用性がある範囲とし、さらに望ましい範囲として0.9以上と判断し、遠赤外線放射率が0.85以下のものを×、0.85~0.9のものを〇、0.9以上のものを◎と評価した。
【0064】
<膜強度>
比較例および実施例で作製した放熱性能評価素子22について、放熱塗膜構造体21の表面を10~20kgf/cm2の圧力で加圧しながら擦り、放熱塗膜構造体21を構成するコージェライト粒子が脱離するか確認した。ここで脱離してしまう状態は、実用性が低く、ほぼ脱離しない状態を実用性があると判断、さらに全く脱離しない状態を望ましい状態と判断し、放熱塗膜構造体全面において脱離するものを×、ほぼ脱離しないものを〇、脱離しなかったものを◎と評価した。
【0065】
<実施例の結果と考察>
まず、比較例1、比較例3~6、および実施例1~6の比較について述べる。
比較例1の従来の湿式塗工方法を用いた方式で作製した場合、遠赤外線放射率を確保させるため、コージェライト粒子と樹脂の合計重量に対するコージェライト粒子の配合重量比が90%と非常に高くする必要がある。また、本実施の形態で述べた乾式塗工方法を用いて製造した比較例3~4の場合では、コージェライト粒子の配合重量比が76.9%および71.4%と低くしても遠赤外線放射率を確保することができるが、膜強度の観点では不十分である。一方、本実施の形態で述べた乾式塗工方法を用いて製造した比較例5~6においてコージェライト粒子の配合重量比が47.6%および45.4%とさらに低くすると、膜強度は確保できるが、遠赤外線放射率が低下してしまう。
【0066】
次に、実施例1~6では、コージェライト粒子の配合重量比が66.7~50.0%の範囲で遠赤外線放射率0.85以上を確保でき、膜強度も確保することができる。このことは従来の湿式塗工方法と比べ、本実施の形態に示す乾式塗工方法を用いて放熱塗膜構造体21を作製することで、コージェライト粒子の配合比を少なくすることができることを示している。また逆に樹脂の配合比を増加させても遠赤外線放射率を維持させることが可能である。
【0067】
上記結果の考察について述べる。比較例1における湿式塗工による放熱塗膜構造体21の製造方法では、コージェライト粒子が樹脂に覆われ放熱塗膜構造体21の表面に露出しにくくなる。
【0068】
また、比較例3~4では、コージェライト粒子の配合重量比が高く、逆に樹脂の配合重量比が少ないため膜強度を維持することが困難であると考える。一方比較例5~6では、コージェライト粒子の配合重量比が低く、逆に樹脂の配合重量比が多いため、放熱塗膜構造体21の表面へ樹脂が浮き出ることで放熱塗膜構造体21の表面からの放射性が妨げられ、遠赤外線放射率が低下したと考える。つまり比較例では、遠赤外線放射率と膜強度を両立することができない結果である。
【0069】
それに対し、実施例1~6のように、あらかじめ樹脂粒子の表面にコージェライト粒子を被覆させた複合粒子を堆積させることで、少量のコージェライト粒子配合比でも放熱塗膜構造体21の表面に露出させることができたためと考える。またコージェライト粒子の配合重量比を減少させることで、逆に樹脂の配合重量比を増加させることができ、膜強度が強く耐久性が向上したものと考える。ここで遠赤外線放射率と膜強度を両立するコージェライト粒子の配合重量比の範囲は、66.7~50.0%が好ましい。さらには62.5~55.6%が望ましい。
【0070】
次に、実施例1~6と実施例7~16の比較について述べる。
上述した遠赤外線放射率と膜強度を両立するコージェライト粒子の配合重量比の範囲が、放熱塗膜構造体21を作製する樹脂を熱可塑性樹脂から熱硬化性樹脂に変更することで拡大することが確認される。具体的には、熱可塑性樹脂を用いた実施例1~6では、好ましくは配合重量比66.7~50.0%、望ましくは62.5~55.6%であるのに対し、熱硬化性樹脂を用いた実施例7~16では、好ましくは76.9~45.4%、望ましくは66.7~50.0%と拡大する。
【0071】
この結果の理由について考察を以下に述べる。
放熱塗膜構造体21を作製する配列工程から加熱硬化工程において、熱可塑性樹脂の場合、加熱により樹脂の粘度が低下しやすく、以下の現象が発生しやすいためと考える。樹脂の配合比が多い場合は、放熱塗膜構造体21の表面に樹脂が浮き出やすく、放熱塗膜構造体21の表面におけるコージェライト粒子の露出を妨げてしまう。また樹脂の配合比が少ない場合は、放熱塗膜構造体21内において樹脂が流れやすい箇所に部分的に凝集することで、コージェライト粒子と樹脂とが接触しない箇所が発生し、膜強度が低下したものと考える。
【0072】
一方、放熱塗膜構造体21を作製する配列工程から加熱硬化工程において、熱硬化性樹脂を用いると、加熱による樹脂の粘度低下が起こりにくい。また加熱しながら硬化が進行していくため、樹脂の配合比が多い場合では、上述した放熱塗膜構造体21の表面へ樹脂が浮き出る現象が低減する。また樹脂の配合比が少ない場合は、加熱硬化工程の加圧力により、軟化した樹脂粒子へコージェライト粒子が押し込まれ固定化されやすく、コージェライト粒子の脱離が低減したものと考える。
そのため、放熱塗膜構造体21を構成する樹脂は、加熱および加圧して膜として成り立つ樹脂であれば特に限定されるものではないが、望ましくは熱硬化性樹脂が好ましい。
【0073】
また、本実施例にて作製した放熱塗膜構造体21の表面では、部分的に凹部があり、さらに凹部の表面にコージェライト粒子の一部が露出しているため、放熱塗膜構造体21の表面積が増加し、且つ、コージェライト粒子の放射性能を有効に活用することができたためと考える。
【0074】
ここで、凹部の深さは、コージェライト粒子の平均粒子径の3倍以上であることが好ましい。これにより、放熱塗膜構造体の表面が摩耗し一部のコージェライト粒子が脱離しても、凹部の形状は確保でき、凹部の表面に露出したコージェライト粒子を維持することができるため放熱性能を確保することが可能である。さらに凹部の深さは、放熱塗膜構造体21の平均厚みより浅くすることが望ましい。平均厚みより浅くすることで、凹部が放熱塗膜構造体21を貫通し、アルミニウム金属板20の表面の露出による放熱性能低下を防ぐことができるためである。
【0075】
次に、比較例および実施例のいくつかについて、実際の放熱性能の効果を以下の方法で測定し結果を
図11の表2に示す。
【0076】
<昇温抑制温度変化測定>
実施例および比較例で作製した放熱性能評価素子22および23を
図7に示す構成で昇温抑制温度変化測定を行った。評価装置の具体的な構成は、放熱性能評価素子22もしくは23の放熱塗膜構造体が形成されていない面にヒーター24、そのヒーター24の反対側に断熱板25を積層した構成である。また、放熱性能評価素子22もしくは23とヒーター24との界面は、界面における隙間由来の熱伝導への影響を避けるため、熱伝導性ペースト(図示せず)を挟み密接させ、昇温抑制温度変化測定機26とした。
【0077】
次に、昇温抑制温度変化測定機26を25℃に保った恒温槽に設置し、温度が一定に安定した状態で、且つ、無風状態において、ヒーター24に電流を流した。電圧を上げていき、放熱塗膜構造体を有さない放熱性評価素子23を用いた比較例2において測定されたヒーター24の温度を基準に、同一条件で比較例1および実施例4、実施例9、実施例12で作製した放熱性能評価素子22を用いた場合のヒーター24の温度との差ΔTを、以下の式1で求めた。
ΔT=[(比較例2のヒーター24温度)-(比較例1、実施例4、実施例9、実施例12のヒーター24の温度)]…(式1)
【0078】
例えば、比較例1において作製された放熱性能評価素子22の温度差(ΔT)は、2.1℃となった(
図11(表2))。
ここで、昇温抑制率は、以下の式2で示すことができる。
昇温抑制率(%)=ΔT/比較例2のヒーター24の温度×100 ・・・・(式2)
ここで昇温抑制率は大きいほうが好ましく、測定した温度差(ΔT)および昇温抑制率を
図11の表2に示す。
【0079】
上記方法で求めた昇温抑制率は、比較例1の1.7%と比較し、実施例4、実施例9、実施例12では4.0%、4.9%、5.3%と高い結果が得られた。その要因について以下に説明する。
【0080】
この昇温抑制率は、ヒーター24から発する熱が放熱性能評価素子22を構成するアルミニウム金属板および放熱塗膜構造体21の厚み方向に熱が伝導し、放熱塗膜構造体21の表面から熱が放射され放熱される熱移動全体の評価結果である。
【0081】
ここで比較例1と、実施例4、実施例9、実施例12の結果について考察する。前述した遠赤外線放射率では、どれも同様に0.9以上であり放熱塗膜構造体21の表面からの放射性能は同程度であると考えられる。そのため放熱塗膜構造体21の厚み方向の熱伝導性が異なることに起因していると考えられる。ここで本実施例における放熱塗膜構造体21は、放熱塗膜構造体21内においてコージェライト粒子がアルミニウム金属板と接触し、さらに部分的にコージェライト粒子が密接している箇所と、密接していない箇所が存在する構造になっている。そのためコージェライト粒子が密接している箇所では熱伝導パスとなり、放熱塗膜構造体21の厚み方向に熱が伝わりやすくなった効果によるものと考える。
【0082】
つまり、比較例1のような従来の湿式塗工による放熱塗膜構造体21の製造方法では、コージェライト粒子が放熱塗膜構造体21内で分散していることにより、コージェライト粒子同士、およびコージェライト粒子とアルミニウム金属板との接点に樹脂が混入し熱伝導を阻害すると考えられる。それに対し、本実施例における乾式塗工により製造した放熱塗膜構造体21内では上述したコージェライト粒子の熱伝導接点が確保されやすくなったためと考える。
【0083】
さらに、放熱塗膜構造体21内においてコージェライト粒子が密接している箇所と、密接していない箇所が存在することは、部分的に樹脂が多い箇所が点在することを示している。これによって、放熱塗膜構造体21に物理的または熱的応力を受けても、その点在する樹脂により応力を緩和する効果があり、放熱塗膜構造体のワレや剥がれを防止する効果が期待できる。放熱塗膜構造体内の構造として、例えば、任意の箇所を放熱塗膜構造体の面内方向に切断した場合、隣接するコージェライト粒子同士が接触している箇所と、隣接するコージェライト粒子間の距離がコージェライト粒子の平均粒子径の5倍以上の間隔を有している箇所とが存在することが望ましい。この隣接するコージェライト粒子間の距離は、放熱塗膜構造体を作製する際に使用する樹脂材料の平均粒子径および放熱塗膜構造体の製造過程における加熱温度や加圧力の調整で制御することが可能である。
【0084】
なお、本開示においては、前述した様々な実施の形態及び/又は実施例のうちの任意の実施の形態及び/又は実施例を適宜組み合わせることを含むものであり、それぞれの実施の形態及び/又は実施例が有する効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本開示に係る放熱塗膜構造体によれば、放熱性に優れ、摩耗や擦れによる放熱性能の低下を低減し、温度変化や外的負荷により発生する応力への耐性を有する。
【符号の説明】
【0086】
1 放熱塗膜構造体
2 放熱性粒子
3 樹脂
4 基材(金属構造体)
5 凹部
8 複合化粒子
9 粉体層
10 空隙
11 配列層
12 電子部材
13 発熱デバイス
14 タブレット端末(電子機器)
15 発熱体
16 基板
17 タブレット筐体
20 アルミニウム金属板
21 放熱塗膜構造体
22、23 放熱性能評価素子