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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108823
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】地中構造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/20 20060101AFI20230731BHJP
   E02D 5/36 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
E02D5/20 101
E02D5/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010072
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】509235545
【氏名又は名称】株式会社SEET
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 剛
(72)【発明者】
【氏名】幸山 大己
(72)【発明者】
【氏名】古賀 翔平
(72)【発明者】
【氏名】白子 将則
(72)【発明者】
【氏名】三浦 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】秋山 仁
【テーマコード(参考)】
2D041
2D049
【Fターム(参考)】
2D041AA01
2D041BA52
2D041CA01
2D041CB01
2D041CB05
2D041DA01
2D041EA04
2D049EA08
2D049GA12
2D049GA17
2D049GB06
2D049GB09
2D049GC11
2D049GC13
2D049GE01
(57)【要約】
【課題】作業時間や作業空間に制約がある場合にも効率よく、高品質な地盤改良体を利用した地中構造物を構築することである。
【解決手段】原位置で築造した地盤改良体を利用して地中構造物を構築する地中構造物の構築方法であって、セメント系固化液及び硬化遅延剤を含む遅硬性固化液を供給しながら地盤を削孔する削孔工程と、前記遅硬性固化液と掘削土砂が混じった地盤改良液で満たされた前記地中孔内に、芯材を建込む建込み工程と、を備え、前記遅硬性固化液により、前記地盤改良液が前記芯材を挿入可能な流動性を維持する期間を、前記芯材の建込み時期に応じて調整する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原位置で築造した地盤改良体を利用して地中構造物を構築する地中構造物の構築方法であって、
セメント系固化液及び硬化遅延剤を含む遅硬性固化液を供給しながら地盤を削孔する削孔工程と、
前記遅硬性固化液と掘削土砂が混じった地盤改良液で満たされた前記地中孔内に、芯材を建込む建込み工程と、を備え、
前記遅硬性固化液により、前記地盤改良液が前記芯材を挿入可能な流動性を維持する期間を、前記芯材の建込み時期に応じて調整することを特徴とする地中構造物の構築方法。
【請求項2】
請求項1に記載の地中構造物の構築方法において、
前記地中孔内に建込んだのちの前記芯材を、位置支持手段を利用して保持することを特徴とする地中構造物の構築方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の地中構造物の構築方法において、
前記建込み工程ののち、前記地中孔内に硬化助剤を追加注入する追加注入工程と、
を備えることを特徴とする地中構造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良体により地中構造物を構築する地中構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地中に地盤改良体を築造し、これを利用して地中構造物を構築する方法が広く知られている。例えば特許文献1のソイルセメント構造物の構築方法では、小型の地盤改良装置を用いて複数のソイルセメント柱を築造し、これらを連結してソイルセメント構造物を構築している。
【0003】
特許文献1では、下端部近傍に掘削ビットを備えるロッドとこのロッドに起振力を伝達する起振装置を備えた小型の地盤改良装置を採用し、ロッドに上下方向の起振力を付与しながら回転させることにより地盤を削孔ビットで削孔しつつ、ロッドの先端よりセメントミルクを吐出する。すると、掘削土とセメントミルクが混合撹拌されて、地盤中にソイルセメント柱が築造される。このような小型の地盤改良装置を用いると、地中構造物の施工対象領域が狭隘であったり低空頭な環境下にある場合にも、効率よく地盤を削孔撹拌して地盤改良体を築造できる。
【0004】
ところが、特許文献1はあらかじめ地盤を揉みほぐす工程(以降、1次削孔という)を実施しない。このため、地盤に粘性土層があると、掘削土とセメントミルクを混合撹拌した際に撹拌不良による土のダマを生じやすく、ソイルセメントの品質に課題が生じる。また、地盤に礫層などの硬質地盤があると、削孔に時間を要するため削孔中にソイルセメントの凝結が進行する。このため、ソイルセメント中に芯材を建込む場合、高止まりを生じる恐れがある。
【0005】
そこで、特許文献2の地中構造物の構築方法では、特許文献1と同様に小型の地盤改良装置を利用して、まずは孔壁保護機能を有する調整液を吐出しつつ1次削孔を実施し、地中孔を設ける。次に、地中孔内に芯材を先行して建込んだのち、セメント系固化液を注入する。地中孔は掘削土砂と調整液の混じった掘削泥水で満たされているから、この掘削泥水と注入したセメント系固化液とを撹拌混合し、ソイルセメントよりなる地盤改良体を構築する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5443928号公報
【特許文献2】特開2020-84524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2によれば、芯材を掘削泥水中にスムーズに建込むことができ、高止まりを生じることがない。しかし、1次削孔に用いる調整液として例えばベントナイト溶液を採用すると、掘削泥水中の土粒子とベントナイトによる泥膜が、芯材や孔壁を被覆するように形成される。これら泥膜は強度発現せず、また、地中孔内で掘削泥水とセメント系固化液とをエア噴射などしながら混合撹拌している最中も、剥がれ落ちない。このため、残存する泥膜に起因して、築造後の地盤改良体と芯材及び孔壁との摩擦力を確保できない、といった課題を生じていた。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、作業時間や作業空間に制約がある場合にも効率よく、高品質な地盤改良体を利用した地中構造物を構築することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明の地中構造物の構築方法は、原位置で築造した地盤改良体を利用して地中構造物を構築する地中構造物の構築方法であって、セメント系固化液及び硬化遅延剤を含む遅硬性固化液を供給しながら地盤を削孔する削孔工程と、前記遅硬性固化液と掘削土砂が混じった地盤改良液で満たされた前記地中孔内に、芯材を建込む建込み工程と、を備え、前記遅硬性固化液により、前記地盤改良液が前記芯材を挿入可能な流動性を維持する期間を、前記芯材の建込み時期に応じて調整することを特徴とする。また、前記地中孔内に建込んだのちの前記芯材を、位置支持手段を利用して保持することを特徴とする。
【0010】
上述する本発明の地中構造物の構築方法によれば、地中孔の孔壁や芯材のまわりに形成される泥膜にセメント成分が含有しているため、この泥膜を地盤改良液とともに凝結・硬化させて強度発現させることができる。これにより、構築後の地中構造物に鉛直方向の外力が作用した際、この外力に対して地盤改良体と芯材及び地盤との間で生じる摩擦力により抵抗させることが可能となる。
【0011】
また、遅硬性固化液の配合や注入量を適宜調整することで、地盤改良液の流動性維持期間(芯材を建込むことの可能な流動性を維持する期間)を制御することが可能となる。したがって、作業スペースが狭隘、かつ電車用給電線のため空頭に制限ある低空頭の環境下などでは、芯材の必要長さによって継ぎ足し作業の回数が増加し、多大な作業時間を要することとなる。しかし、これらの作業期間を考慮して流動性維持期間を設定し、遅硬性固化液を調整管理すれば、芯材建込み作業に支障をきたすことはない。
【0012】
また、鉄道の軌道近傍での工事では、作業時間が終電始電列車間の夜間作業かつ短時間に限定される等の理由で、地盤の削孔から地中孔に芯材を挿入するまでの一連の作業を連続して実施できない場合がある。しかし、作業の休止期間を考慮して流動性維持期間を設定し、遅硬性固化液を制御すれば、適時のタイミングで作業を中断するとともに日を改めて芯材を挿入する作業を再開することができる。
【0013】
本発明の地中構造物の構築方法は、前記建込み工程ののち、前記地中孔内に硬化助剤を追加注入する追加注入工程と、を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の地中構造物の構築方法によれば、硬化助剤の種類や添加量を適宜調整することで、流動性維持期間の経過後に地盤改良液が凝結を開始する時期や硬化後の発現強度を制御することが可能となる。したがって、作業時間や作業空間に制約がある場合にも、経済的かつ効率よく地盤改良体を利用した地中構造物を構築することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、セメント系固化液及び硬化遅延剤を含む遅硬性固化液を供給しながら地盤を削孔したのち、芯材を建込むことで、地中構造物の作業工程全体に高い自由度をもたらしつつ高品質な地盤改良体を築造でき、作業時間や作業空間に制約がある場合にも効率よく地中構造物を構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施の形態における地中構造物の概略を示す図である。
図2】本実施の形態における地中構造物の構築方法の概略を示す図である(その1)。
図3】本実施の形態における地中構造物の構築方法の概略を示す図である(その2)。
図4】本実施の形態における地中構造物の構築方法を示す図である(第1実施形態)。
図5】本実施の形態における地中構造物の構築方法を示す図である(第1実施形態)。
図6】本実施の形態における地盤改良液のフロー試験及び地盤改良体の一軸圧縮強度試験の結果を示す図である(第1実施形態)。
図7】本実施の形態における地中構造物の構築方法を示す図である(第2実施形態)。
図8】本実施の形態における地中構造物の構築方法の示す図である(第2実施形態)。
図9】本実施の形態における地盤改良液のフロー試験及び地盤改良体の一軸圧縮強度試験の結果を示す図である(第2実施形態)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の地中構造物の構築方法について、低空頭の環境下で地盤改良体を利用して支持杭を構築する場合を事例に挙げ、図1図9を参照しつつ、その詳細を以下に説明する。
【0018】
≪≪地中構造物≫≫
図1で示すように、支持杭1は円柱状に形成された地中構造物であり、地中孔Hに建込まれた芯材2と、芯材2を内包するように地中孔Hに築造される地盤改良体3とにより構成されている。
【0019】
その構築方法の概略を図2及び図3で示すと、まず、遅硬性固化液W1を注入しつつ地盤を削孔し地中孔Hを構築するとともに、地中孔H内を遅硬性固化液W1に掘削土砂Gが混じった地盤改良液W2で満たす。次に、図3(a)で示すように、地中孔Hに芯材2を建込み養生して、地盤改良液W2を凝結・硬化させて地盤改良体3を築造する。もしくは、図3(b)で示すように、芯材2を建込んだのち、地盤改良液W2に硬化助剤W3を追加注入(追加注入)して養生し、これらを凝結・硬化させて地盤改良体3を築造する。
【0020】
このような手順で構築される支持杭1を構成する芯材2は、いずれの鋼材を採用してもよいが、本実施の形態では図1で示すように、複数のH形鋼21を継ぎ足す構造を採用している。また、掘削土砂Gが混じって地盤改良液W2となる遅硬性固化液W1、及び地盤改良液W2に追加注入する硬化助剤W3は、次に示す材料により構成されている。
【0021】
≪遅硬性固化液W1≫
遅硬性固化液W1は、図2で示すように、少なくともセメント系固化液Cと硬化遅延剤Rとを含む。もしくは、セメント系固化液Cと硬化遅延剤Rと凝結調整剤Sとを含む。
【0022】
セメント系固化液Cは、セメント系硬化剤と水を含み、セメント系硬化剤は、普通、早強、超早強、低熱、中庸熱等の各種ポルトランドセメント、エコセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント等の公知のセメントを使用できる。その他、反応性を有するAlを含有する材料として、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、メタカオリン等の非晶質Alを含む材料のうち1つあるいは複数種類を組み合わせて使用できる。
【0023】
硬化遅延剤Rは、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、及びリンゴ酸等の有機酸類、又はそのナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩、またはグルコースルコース、マルトース等の糖類等が挙げられ、1種または2種以上を使用できる。
【0024】
凝結調整剤Sは、セメント系硬化剤に含まれるクリンカーが水と混練りするとすぐ凝結を開始することから、このような凝結を調整緩和するべく用いる材料であり、硫酸カルシウム2水和物(石こう)、硫酸カルシウム1/2水和物、硫酸ナトリウム10水和物、硫酸第一鉄7水和物、硫酸マンガン5水和物、硫酸カルシウム無水和物、硫酸マグネシウム7水和物等が挙げられる。これらは、1つあるいは複数種類を組み合わせて使用できる。
【0025】
遅硬性固化液W1は、上記の材料に加えて、主に流動性の向上を目的として、ポリカルボン酸、ナフタレンスルホン酸、メラミンスルホン酸を主成分とする高性能AE減水剤、もしくはリグニンスルホン酸を主成分とするAE減水剤のうち1つあるいは複数種類を組合せて使用できる。
【0026】
≪硬化助剤W3≫
硬化助剤W3は、図3(b)で示すように、地盤改良液W2の凝結を促進できる材料、及び/または硬化後の強度発現を促進できる材料であれば、いずれを採用してもよい。例えば、遅硬性固化液W1に含まれるセメント系固化液Cと同様の材料であって配合を適宜変更したもの、もしくは珪酸ナトリウムなどの急硬剤などを採用できる。
【0027】
≪≪地中構造物の構築方法≫≫
以下に、第1実施形態として上記の遅硬性固化液W1のみを採用して地盤改良体3を築造し、支持杭1を構築する手順の詳細を、第2実施形態として遅硬性固化液W1と硬化助剤W3とを採用して地盤改良体3を築造し、支持杭1を構築する手順の詳細を、それぞれ説明する。
【0028】
≪≪第1実施形態≫≫
上記の遅硬性固化液W1のみを採用して地盤改良体3を築造し、支持杭1を構築する手順の詳細を、以下に説明する。
【0029】
≪地中構造物の構築方法:削孔工程≫
まず、図4(a)で示すように、支持杭1の施工対象領域の所定位置に据え付けた削孔撹拌装置10を用いて遅硬性固化液W1を吐出しながら地盤を削孔する。これにより、地中孔Hが構築され、地中孔Hは図4(b)で示すように、遅硬性固化液W1に掘削土砂Gが混じった地盤改良液W2で満たされた状態となる。
【0030】
<遅硬性固化液W1の配合及び注入量の管理>
このとき、遅硬性固化液W1が吐出されることで余剰となる掘削土砂Gは、地中孔Hの孔口近傍に設けられた排泥管Tを介して排泥する。また、遅硬性固化液W1の配合及び注入量は、地中孔Hを満たす地盤改良液W2が比重1.5程度、少なくとも芯材2の建込み作業を終了する予定期日まで地盤改良液W2が芯材2を建込むことの可能な流動性を維持、かつ、芯材2を建込んだのちには所望の一軸強度を発現するよう、調整管理する。
【0031】
遅硬性固化液W1の調整管理にあたり、遅硬性固化液W1に含まれるセメント系硬化剤Cの水セメント比は、200%以上300%以下、好ましくは200%以上250%以下の範囲で調整するとよい。こうすると、遅硬性固化液W1の注入量を増大させる必要が生じ、これに伴い排泥管Tを介して排出される掘削土砂Gも増大する。
【0032】
よって、対象地盤に粘性土層が存在する場合には、地盤改良液W2に含まれる粘性土が大幅に排出されるため、セメント系硬化剤による硬化が阻害されにくく、また、地中孔Hの孔壁や芯材2のまわりに形成される泥膜Mの膜厚を低減することが可能となる。さらに、掘削土砂Gに対する使用水量が多くなるため、掘削土砂Gと混合撹拌した際に撹拌不良による土のダマが生じにくく、高品質な地盤改良液W2を作成することができる。
【0033】
<削孔撹拌装置>
また、地盤削孔に用いる削孔撹拌装置10は、図4(a)で示すように、キャタピラからなる移動機構11と、移動機構11に搭載された台座部12と、台座部12から鉛直方向に延びるように支持されたリーダー13とを備える。また、リーダー13に沿って上下方向に移動可能な起振装置14と、頭部が起振装置14に接続されたロッド15と、ロッド15の先端に取り付けられた掘削撹拌部16とを備える。さらには、掘削撹拌部16の先端から吐出される遅硬性固化液W1をロッド15の内部に供給する固化液供給装置17と、ロッド15に回転力を付与する回転装置18と、を備える。
【0034】
起振装置14は、ロッド15に起振力を発生させる装置であり、ロッド15に上下方向又は横方向のうち少なくとも何れかの成分を含む振動を伝達可能な起振力を発生できれば、その機構はいずれでもよい。回転装置18は、内方に備えたロッド把持部にてロッド15の周面を把持し、ロッド15の軸を中心とした正方向もしくは逆方向の回転力を付与する。その配置位置は、起振装置14の下側に位置し、起振装置14とともにリーダー13に沿って鉛直移動可能に設置されている。
【0035】
ロッド15は中空の一重管よりなり、起振装置14にて頭部を支持された状態で立設している。中間部にはスイベル151が設置され、これを介して遅硬性固化液W1を供給する固化液供給装置17に接続されている。固化液供給装置17は、遅硬性固化液W1を製造するプラント171と、遅硬性固化液W1をロッド15に供給する固化液供給管172とを備える。また、ロッド15の先端部に接続された掘削撹拌部16は、ロッド15に接続される軸部161と、軸部161の先端部近傍であって側方に延びる掘削翼本体162と、掘削翼本体162に取り付けられた掘削ビット163とを備える。また、軸部161の先端には、先端ビット164と吐出口が設けられている。
【0036】
上記の削孔撹拌装置10は、掘削撹拌部16を、地中を余掘りした孔壁保護管P内に貫入させた状態で作動させると、起振装置14により上下方向の振動を付与されつつ回転装置18によりロッド15の軸を中心に正回転する。これと同時に、固化液供給装置17から供給され遅硬性固化液W1が、ロッド15を介して掘削撹拌部16の軸部161先端に設けられた吐出口より吐出される。これにより、図4(b)で示すように、掘削ビット163および先端ビット164にて地盤が削孔されることにより掘削土砂Gと遅硬性固化液W1が混合撹拌され、地中孔H内は掘削土砂Gが混じった地盤改良液W2で満たされる。
【0037】
≪地中構造物の構築方法:建込み工程≫
こうして、地中孔H内を地盤改良液W2で満たしたのち、図5(a)(b)で示すように、地盤改良液W2が満たされた地中孔Hへ、芯材2の建込み作業を行う。本実施の形態では、施工対象領域が低空頭な環境下にある場合を事例とし、芯材2の建込み作業に門型リフター20を採用している。なお、空頭に制限がない場合には、クレーン等の揚重機を芯材2の建込み作業に採用してもよい。
【0038】
<門型リフター>
門型リフター20は、図5(a)で示すように、間隔を有して並列配置される一対の脚部201と、脚部201の上端部どうしを連結する梁部202とを備えている。脚部201は、油圧ジャッキ等の伸縮装置204を備え、高さ方向に伸縮自在となっている。また、その下端にはホイール等の走行手段203が設けられている。そして、梁部202には、長さ方向(水平方向)に移動自在なフック205が設けられ、このフック205に取り付けられたワイヤーを介してH形鋼21が支持されている。
【0039】
したがって、上記の門型リフター20を用いて芯材2を建込む際には、まず、図5(a)で示すように、門型リフター20を梁部202の軸線が地中孔Hの直径方向と鉛直面内で平行となるように据え付けておく。また、先行して地中孔Hに挿入したH形鋼21は、上端が地中孔Hより突出する態様で保持部材30により保持しておく。次に、門型リフター20を操作して、フック205を梁部202上で適宜移動させる。これにより、フック205に吊持されたH形鋼21の軸心を、地中孔Hの軸心と合致させることができる。
【0040】
そして、図5(b)で示すように、H形鋼21を吊り下ろし、これを保持部材30で保持した先行のH形鋼21に接合する。本実施の形態では、スプライスプレート22と高力ボルトを用いた高力ボルト接合を例示した。しかし、H形鋼21どうしを接合可能であれば、溶接接合等いずれの手段を採用してもよい。こののち、保持部材30を開放して、H形鋼21が継ぎ足された芯材2を自重により地盤改良液W2中に沈降させる。このような作業を芯材2が所望の長さとなるまで繰り返し行ったのち、地盤改良液W2が凝結・硬化するまで芯材2が建込み位置を維持できるよう、門型リフター20もしくは保持部材30を芯材2の位置支持手段として利用し、これらに芯材2を保持させておく。
【0041】
上記のとおり、遅硬性固化液W1を供給しつつ地盤を削孔し地中孔Hを設けると、一定時間の経過後には図1で示すように、地中孔Hの孔壁や芯材2のまわりに泥膜Mが形成される。しかし、泥膜Mにセメント成分が含有しているため、この泥膜Mを地盤改良液W2とともに凝結・硬化させて強度発現させることができる。これにより、構築後の支持杭1に鉛直方向の外力が作用した際、この外力に対して地盤改良体3と芯材2及び地盤との間で生じる摩擦力により抵抗できる。
【0042】
また、遅硬性固化液W1の配合や注入量を適宜調整することで、地盤改良液W2の流動性維持期間(芯材2を建込むことの可能な流動性を維持する期間)を制御することが可能となる。例えば、低空頭の環境下では、芯材2の必要長さによってH形鋼21の継ぎ足し作業の回数が増加し、多大な作業時間を要することとなる。しかし、これらの作業期間を考慮して流動性維持期間を設定し、遅硬性固化液W1を調整管理すれば、芯材2建込み作業に支障をきたすことはない。
【0043】
また、鉄道の軌道近傍での工事では、作業時間が終電始電列車間の夜間作業かつ短時間に限定される等の理由で、地盤の削孔から地中孔に芯材を挿入するまでの一連の作業を連続して実施できない場合がある。しかし、作業の休止期間を考慮して流動性維持期間を設定し、遅硬性固化液W1を制御すれば、適時のタイミングで作業を中断するとともに日を改めて芯材2を挿入する作業を再開することができる。
【0044】
≪地盤改良液のフロー試験及び地盤改良体の一軸圧縮強度試験≫
上記の地中構造物の構築方法を採用した場合の、地盤改良液W2の流動性、及び地盤改良液W2を硬化させた地盤改良体3の一軸圧縮強度を確認する試験を行った。試験結果を図6に示す。
【0045】
試験は、セメント系固化液C、硬化遅延剤R、及び凝結調整剤Sを含む遅硬性固化液W1と掘削土砂Gに見立てた試料土を混合撹拌して地盤改良液W2を作液した。こののち、地盤改良液W2のテーブルフロー値(以降、TF値という)を、作成直後、24時間、72時間、及び168時間経過時に測定した。また、地盤改良液W2が硬化した地盤改良体3の材齢56日及び91日における一軸圧縮強度を測定した。
【0046】
≪遅硬性固化液W1、試料土、及び地盤改良液W2の作液≫
実施例1では、高炉セメントB種に凝結調整剤Sを添加し、水セメント比200%に調整したセメント系固化液Cに、硬化遅延剤Rを添加した遅硬性固化液W1を採用した。セメント系固化液Cは、1mの試料土に対して700L、硬化遅延剤Rは15.0L添加した。
【0047】
実施例2では、高炉セメントB種に凝結調整剤Sを添加し、水セメント比250%に調整したセメント系固化液Cに、硬化遅延剤Rを添加した遅硬性固化液W1を採用した。セメント系固化液Cは、1mの試料土に対して700L、硬化遅延剤Rは15.0L添加した。実施例1及び実施例2で作液された地盤改良液W2の比重はいずれも、1.5前後に調整した。
【0048】
一般に、TF値は160mm以上であれば、芯材2が地盤改良液W2に対して良好に挿入できる。そこで、実施例1では72時間(3日)経過後、実施例2では168時間(7日)経過後に、TF値160mm以上を維持していることを目標に設定した。また、地盤改良体3の一軸圧縮強度は、実施例1及び2は材齢56日で1000kN/mを満足することを目標に設定している。
【0049】
≪試験方法≫
実施例1及び実施例2ともに、地盤改良液W2が硬化した地盤改良体3の一軸圧縮強度は、「JIS A 1108 コンクリートの圧縮強度試験方法」に準じて試験を行った。また、地盤改良液W2のTF値は、「JIS R5201 2015 セメントの物理試験方法」に規定された「12.フロー試験」に準じた試験を実施した。TF値の測定方法は、フローテーブルを15秒間に15回上下させ規定量のモルタルの広がり(直径)を測定するというものである。
【0050】
なお、TF値160mmは、等厚式ソイルセメント地中連続壁工法(以降、TRD工法という)において、固化液混合スラリーに芯材を建込む際に必要な最小のTF値が150mmと規定されていることを参考に設定した。TRD工法における固化液混合スラリーとは、掘削泥水にセメント系固化液を混合撹拌して作成したものである(「TRD工法(等厚式ソイルセメント地中連続壁工法) 技術資料」 平成20年7月 TRD工法協会発行より)。
【0051】
≪試験結果≫
図6の試験結果を見ると、実施例1では72時間(3日)経過後のTF値が164mm、材齢56日の一軸圧縮強度が2435kN/mであり、実施例2では、168時間(7日)経過後のTF値が200mm、材齢56日の一軸圧縮強度が1241kN/mと、いずれも設定した目標をTF値及び一軸圧縮強度ともに満足していることがわかる。
【0052】
≪≪第2実施形態≫≫
次に、遅硬性固化液W1と硬化助剤W3とを採用して地盤改良体3を築造し、支持杭1を構築する手順の詳細を、以下に示す。
【0053】
≪地中構造物の構築方法:削孔工程及び建込み工程≫
削孔撹拌装置10を利用して、遅硬性固化液W1を注入しつつ地盤を削孔する削孔工程から門型リフター20を利用して地中孔Hに芯材2を建込む建込み工程までは、第1実施形態と同様である。しかし、第2実施形態では建込み工程で、図7(a)(b)で示すように、芯材2とともにエア供給ホース4及びエア噴射管6を地中孔Hへ配置する作業が追加される。エア供給ホース4と硬化助剤供給ホース5は、芯材2に取り付けられており、後述する硬化助剤W3を追加注入する追加注入工程で用いる。
【0054】
<エア供給ホース4及びエア噴射管6>
エア供給ホース4は、基端部が地上に設置されているエアコンプレッサ81に連結され、先端部にはエア噴射管6が設置される。エア供給ホース4とエアコンプレッサ81との間には空気流量計82が設置し、供給する圧縮空気Aの流量が測定可能である。また、硬化助剤供給ホース5は、基端部が地上に設置されている硬化助剤供給装置91に連結され、先端部には硬化助剤吐出管7が設置される。硬化助剤供給装置91では、硬化助剤W3の配合および流量を管理している。
【0055】
これらは、図7(a)で示すように、エア噴射管6及び固化液吐出管7を芯材2の先端部となるH形鋼21に取り付けたのち、図7(b)で示すように、H形鋼21を継ぎ足すごとに、継ぎ足されたH形鋼21に設置された把持具41、51にエア供給ホース4及び硬化助剤供給ホース5を把持させる。これにより、芯材2とともにエア供給ホース4及び硬化助剤供給ホース5を地中孔H内に配置することができる。
【0056】
≪追加注入工程≫
上記の手順で、芯材2とともにエア供給ホース4及び固化液供給ホースを地中孔Hに配置したのち、地中孔Hを満たす地盤改良液W2に硬化助剤W3を追加注入し、地盤改良液W2と硬化助剤W3とを混合撹拌する。このとき、芯材2は門型リフター20のフック205に取り付けたワイヤーを介して保持されて、建込み位置を維持した状態にある。
【0057】
まず、図8(a)で示すように、硬化助剤供給装置91から硬化助剤供給ホース5及び硬化助剤吐出管7を介して地中孔Hの孔底近傍に、硬化助剤W3を吐出する。併せて、硬化助剤W3の供給量に対応した地盤改良液W2を、排泥管Tを介して排泥する。硬化助剤吐出管7は芯材2の下端に配置されているため、地中孔Hの孔口から排泥される地盤改良液W2に、硬化助剤W3が混在することはない。こののち、図8(b)で示すように、エアコンプレッサ81からエア供給ホース4及びエア噴射管6を介して地中孔Hの孔底近傍から孔壁に向けて圧縮空気Aを噴射する。すると、圧縮空気Aは連続する気泡となって上昇し、地中孔H内に上昇流を生じさせる。
【0058】
これにより、硬化助剤W3と地盤改良液W2は混合撹拌されて、地中孔Hの高さ方向に均質に混じり合った混合物となる。均質に混じり合ったところで圧縮空気Aの供給を停止し、作業を終了する。なお、硬化助剤W3を追加注入する手段、及び地盤改良液W2と硬化助剤W3とを混合撹拌する手段は、上記のエア供給ホース4及び硬化助剤供給ホース5に限定されるものではない。また、硬化助剤吐出管7の設置位置も、排泥される地盤改良材W2に硬化助剤W3が混在しなければ、必ずしも芯材2の下端でなくてもよい。
【0059】
≪地盤改良液のフロー試験及び地盤改良体の一軸圧縮強度試験≫
第2実施形態で例示した地中構造物の構築方法を採用した場合の、地盤改良液W2の流動性、及び地盤改良液W2と硬化助剤W3との混合物を硬化させた地盤改良体3の一軸圧縮強度を確認する試験を行った。図9に試験結果を示す。
【0060】
試験は、第1実施形態と同様に、セメント系固化液Cに含まれるセメント材料、硬化遅延剤、及び凝結調整剤の配合量を適宜調整した遅硬性固化液W1と掘削土砂Gに見立てた試料土を混合撹拌して地盤改良液W2を作液した。こののち、地盤改良液W2に硬化助剤W3を添加した直後のTF値を測定した。また、硬化助剤W3を追加注入した地盤改良液W2が硬化した地盤改良体3の材齢28日及び56日における一軸圧縮強度を測定した。
【0061】
≪遅硬性固化液W1、掘削土砂G、及び地盤改良液W2の作成≫
実施例3~6では、高炉セメントB種と凝結調整剤を添加した遅硬性固化液W1を準備採用した。
【0062】
実施例3及び4の遅硬性固化液W1は、1mの試料土に対して水セメント比200%のセメント系固化液Cを700L使用し、硬化遅延剤Rを20.0L添加した。実施例5及び6の遅硬性固化液W1は、1mの試料土に対して水セメント比250%のセメント系固化液Cを700L使用し、硬化遅延剤Rを16.5L添加した。
【0063】
上記の実施例3~6で作液された地盤改良液W2の比重はいずれも、1.5前後に調整した。また、第2実施形態では、硬化助剤W3を追加注入する際、強度発現時期や一軸圧縮強度を調整できるため、実施例3及び4では72時間以上(3日以上)、実施例5及び6については、168時間以上(7日以上)経過後にTF値160mm以上を維持していることを目標に設定した。
【0064】
≪硬化助剤W3の作成≫
硬化助剤W3は、実施例3及び5では急硬剤を採用し、実施例4及び6ではセメントミルクを採用した。セメントミルクは、遅硬性固化液W1を作液する際に用いたセメント系固化液Cと同様の材料で配合を変えたものを採用した。したがって、実施例4及び6では、高炉セメントB種に凝結調整剤Sを添加したセメントミルクを採用した。
【0065】
硬化助剤W3は、硬化助剤供給装置91に応じて容易に供給可能な範囲で水セメント比を小さく設定し(実施例4及び6では、70%)、配合設計を行った。これは、水セメント比をできるだけ小さく設定することで地盤改良液W2へ添加する量を少量とすることにより、地盤改良液W2の排出量を抑制するためである。また、実施例3及び5で採用した急硬剤は、水急硬剤比を100%に設定し、配合設計を行った。
【0066】
≪試験結果≫
図9の試験結果をみると、実施例3~6のすべてにおいて、地盤改良液W2に硬化助剤W3を添加した直後のTF値が160mmを超え、かつ材齢56日の一軸圧縮強度も1000kN/mを超えており、設定した目標を満足していることがわかる。特に、添加後のTF値が24時間後には急激に低下し、材齢28日の時点で一軸圧縮強度が1000kN/mを超えていることがわかる。
【0067】
つまり、遅硬性固化液W1に、凝結調整剤Sを添加したうえで硬化助剤W3を追加注入すると、効果的に凝結を促進し早期に一軸圧縮強度を発現させることができる。このように、硬化助剤W3を追加注入することにより、芯材2を建込んだのちの地盤改良液W2について、強度発現の時期や発現強度を制御することも可能となる。
【0068】
上記のとおり、地中構造物の構築方法によれば、地中構造物の作業工程全体に高い自由度をもたらしつつ高品質な地盤改良体を築造でき、作業時間や作業空間に制約がある場合にも効率よく地中構造物を構築することが可能となる。
【0069】
なお、本発明の地中構造物の構築方法は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0070】
例えば、本実施の形態では、硬化助剤W3としてセメントミルクを採用する際、遅硬性固化液W1を作液する際に用いたセメント系固化液Cと同様の材料を採用し、配合を変えて追加注入した。しかし、これに限定するものではなく、使用するセメント系硬化剤を遅硬性固化液W1に使用したものと異なる材料としてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 支持杭(地中構造物)
2 芯材
21 H形鋼
22 スプライスプレート
3 地盤改良体
4 エア供給ホース
41 把持具
5 硬化助剤供給ホース
51 把持具
6 エア噴射管
7 硬化助剤吐出管
81 エアコンプレッサ
82 空気流量計
91 硬化助剤供給装置
10 削孔撹拌装置
11 移動機構
12 台座部
13 リーダー
14 起振装置
15 ロッド
151 スイベル
16 掘削撹拌部
161 軸部
162 掘削翼本体
163 掘削ビット
164 先端ビット
17 固化液供給装置
171 プラント
172 固化液供給管
18 回転装置
20 門型リフター
201 脚部
202 梁部
203 走行手段
204 伸縮装置
205 フック
30 保持部材
W1 遅硬性固化液
W2 地盤改良液
W3 硬化助剤
G 掘削土砂
C セメント系固化液(セメントミルク)
R 硬化遅延剤
S 凝結調整剤
H 地中孔
T 排泥管
P 孔壁保護管
M 泥膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9