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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108857
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】樹脂組成物および成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/00 20060101AFI20230731BHJP
   C08K 3/015 20180101ALI20230731BHJP
【FI】
C08L59/00
C08K3/015
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010136
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】後藤 理沙
(72)【発明者】
【氏名】石井 崇
(72)【発明者】
【氏名】須長 大輔
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CB001
4J002CF001
4J002CF051
4J002CF061
4J002CF071
4J002CG001
4J002CG011
4J002CH071
4J002CL001
4J002CL011
4J002CL031
4J002CL051
4J002DA076
4J002DE146
4J002DH046
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DL006
4J002EW017
4J002EW067
4J002FD037
4J002FD186
4J002GB00
4J002GC00
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】 抗菌性に優れ、かつ、湿熱環境下での変色が抑制された樹脂組成物、および、樹脂組成物から形成された成形体の提供。
【解決手段】 ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、および、ポリフェニレンエーテル樹脂の少なくとも1種を含む熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、抗菌剤(B)0.05~3.00質量部と、3価のリンを含むリン化合物(C)0.005~1.00質量部とを含み、抗菌剤(B)が、銀原子および/または銀イオンを含み、3価のリンを含むリン化合物(C)と抗菌剤(B)の質量比率である、(C)/(B)が0.02~5.00である、樹脂組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、および、ポリフェニレンエーテル樹脂の少なくとも1種を含む熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、
抗菌剤(B)0.05~3.00質量部と、
3価のリンを含むリン化合物(C)0.005~1.00質量部と
を含み、
前記抗菌剤(B)が、銀原子および/または銀イオンを含み、
前記3価のリンを含むリン化合物(C)と抗菌剤(B)の質量比率である、(C)/(B)が0.02~5.00である、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(A)が、ポリアセタール樹脂を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記抗菌剤(B)がガラス、カルシウムアパタイト、シリカゲル、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、シリカ、アルミナ、および、チオサルファイトからなる群から選ばれる1種以上の担持体を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記担持体がガラスを含む、請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記リン化合物(C)がトリフェニルホスフィンを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、軽量で、機械的性質に優れていることから、各種用途に広く用いられている。
【0003】
ここで、食品用途や水回り用途、医療用途などでは、熱可塑性樹脂から形成された成形体に抗菌性が求められる。熱可塑性樹脂に抗菌性を付与するためには抗菌剤を配合することが考えられる。例えば、ポリアセタール樹脂と無機系抗菌剤とポリエステル樹脂を含む樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-128468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、熱可塑性樹脂から成形された成形体にも抗菌性が求められるようになっている。しかしながら、抗菌性を付与するために抗菌剤を配合すると、湿熱環境下での変色が問題となる場合があることが分かった。
本発明では、かかる状況のもと、抗菌性に優れ、かつ、湿熱環境下での変色が抑制される樹脂組成物および前記樹脂組成物から形成された成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、熱可塑性樹脂に特定の抗菌剤と安定剤を配合することで、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、および、ポリフェニレンエーテル樹脂の少なくとも1種を含む熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、抗菌剤(B)0.05~3.00質量部と、3価のリンを含むリン化合物(C)0.005~1.00質量部とを含み、前記抗菌剤(B)が、銀原子および/または銀イオンを含み、前記3価のリンを含むリン化合物(C)と抗菌剤(B)の質量比率である、(C)/(B)が0.02~5.00である、樹脂組成物。
<2>前記熱可塑性樹脂(A)が、ポリアセタール樹脂を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記抗菌剤(B)がガラス、カルシウムアパタイト、シリカゲル、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、シリカ、アルミナ、および、チオサルファイトからなる群から選ばれる1種以上の担持体を含む、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記担持体がガラスを含む、<3>に記載の樹脂組成物。
<5>前記リン化合物(C)がトリフェニルホスフィンを含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6><1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、抗菌性に優れ、かつ、湿熱環境下での変色が抑制された樹脂組成物および前記樹脂組成物から形成された成形体を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2021年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0009】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、および、ポリフェニレンエーテル樹脂の少なくとも1種を含む熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、抗菌剤(B)0.05~3.00質量部と、3価のリンを含むリン化合物(C)0.005~1.00質量部とを含み、前記抗菌剤(B)が、銀原子および/または銀イオンを含み、前記3価のリンを含むリン化合物(C)と抗菌剤(B)の質量比率である、(C)/(B)が0.02~5.00であることを特徴とする。この様な構成とすることにより、抗菌性に優れ、かつ、湿熱環境下での変色が抑制された樹脂組成物が得られる。
熱可塑性樹脂(A)に銀原子および/または銀イオンを含む抗菌剤を配合すると、湿熱環境下では樹脂組成物に含まれる抗菌剤の銀イオンが溶出する。過度な銀イオンの溶出は、銀イオンが周囲の塩基性物質と反応して変色を引き起こすと考えられる。本実施形態の樹脂組成物では、3価のリンを含むリン化合物(C)が銀イオンを程良く配位することによって銀イオンの溶出を抑え、抗菌性を保ちつつ湿熱環境下での変色を抑制できると推定される。
【0010】
<熱可塑性樹脂(A)>
本実施形態の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)を含む。
本実施形態で用いる熱可塑性樹脂(A)は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、および、ポリフェニレンエーテル樹脂の少なくとも1種を含み、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、および、ポリエステル樹脂の少なくとも1種を含むことがより好ましく、ポリアセタール樹脂を含むことがさらに好ましい。
【0011】
<<ポリアセタール樹脂>>
本実施形態の樹脂組成物はポリアセタール樹脂を含むことが好ましい。
本実施形態で用いるポリアセタール樹脂は特に限定されるものではなく、2価のオキシメチレン基のみを構成単位として含むホモポリマーであっても、2価のオキシメチレン基と、炭素数が2~6の2価のオキシアルキレン基を構成単位として含むコポリマーであってもよい。
【0012】
炭素数が2~6のオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、および、オキシブチレン基などが挙げられる。
【0013】
ポリアセタール樹脂においては、オキシメチレン基および炭素数2~6のオキシアルキレン基の総モル数に占める炭素数2~6のオキシアルキレン基の割合は特に限定されるものではなく、0.5~10モル%であればよい。
【0014】
上記ポリアセタール樹脂を製造するためには通常、主原料としてトリオキサンが用いられる。また、ポリアセタール樹脂中に炭素数2~6のオキシアルキレン基を導入するに、環状ホルマールや環状エーテルを用いることができる。環状ホルマールの具体例としては、1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサン、1,3-ジオキセパン、1,3-ジオキソカン、1,3,5-トリオキセパン、1,3,6-トリオキソカンなどが挙げられ、環状エーテルの具体例としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシドおよびブチレンオキシドなどが挙げられる。ポリアセタール樹脂中にオキシエチレン基を導入するには、主原料として、1,3-ジオキソランを用いればよく、オキシプロピレン基を導入するには、主原料として、1,3-ジオキサンを用いればよく、オキシブチレン基を導入するには、主原料として、1,3-ジオキセパンを用いればよい。なお、ポリアセタール樹脂においては、ヘミホルマール末端基量、ホルミル末端基量、熱や酸、塩基に対して不安定な末端基量が少ない方がよい。ここで、ヘミホルマール末端基とは、-OCH2OHで表されるものであり、ホルミル末端基とは-CHOで表されるものである。
【0015】
ポリアセタール樹脂としては、上記の他、特開2015-074724号公報の段落0018~0043に記載のポリアセタール樹脂を用いることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0016】
ポリアセタール樹脂のメルトインデックス(ASTM-D1238規格:190℃、2.16kg)は1.0g/10分~100g/10分であることが好ましい。
【0017】
<<ポリアミド樹脂>>
ポリアミド樹脂としては、ラクタムの開環重合、アミノカルボン酸の重縮合、ジアミンと二塩基酸の重縮合により得られる酸アミドを構成単位とする高分子であり、脂肪族ポリアミド樹脂であっても、半芳香族ポリアミド樹脂であってもよい。
具体的には、ポリアミド6、11、12、46、66、610、612、6I、6/66、6T/6I、6/6T、66/6T、66/6T/6I、9T、10T、詳細を後述するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド等が挙げられる。なお、上記「I」はイソフタル酸成分、「T」はテレフタル酸成分を示す。また、ポリアミド樹脂としては、特開2011-132550号公報の段落番号0011~0013の記載を参酌することができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0018】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂が好ましい。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジアミン由来の構成単位は、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上がメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミンの少なくとも1種に由来する。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジカルボン酸由来の構成単位は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上が、炭素数が4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。炭素数が4~20のα,ω-直鎖脂肪族二塩基酸は、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカン二酸、エイコジオン酸などが好適に使用でき、アジピン酸およびセバシン酸がより好ましい。
【0019】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジアミン成分として用いることができるメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0020】
上記炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸といったナフタレンジカルボン酸類の異性体等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0021】
<<ポリエステル樹脂>>
ポリエステル樹脂としては、公知の熱可塑性ポリエステル樹脂を用いることができ、ポリエチレンテレフタレート樹脂およびポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましく、少なくともポリブチレンテレフタレート樹脂を含むことがより好ましい。
本実施形態の樹脂組成物に用いるポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸単位および1,4-ブタンジオール単位がエステル結合した構造を有するポリエステル樹脂であって、ポリブチレンテレフタレート樹脂(ホモポリマー)の他に、テレフタル酸単位および1,4-ブタンジオール単位以外の、他の共重合成分を含むポリブチレンテレフタレート共重合体や、ホモポリマーとポリブチレンテレフタレート共重合体との混合物を含む。
【0022】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸以外のジカルボン酸単位を1種または2種以上含んでいてもよい。
他のジカルボン酸の具体例としては、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル-2,2’-ジカルボン酸、ビフェニル-3,3’-ジカルボン酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ビス(4,4’-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類、1,4-シクロへキサンジカルボン酸、4,4’-ジシクロヘキシルジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸類、および、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類等が挙げられる。
本実施形態で用いるポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸単位が全ジカルボン酸単位の80モル%以上を占めることが好ましく、90モル%以上を占めることがより好ましい。
【0023】
ジオール単位としては、1,4-ブタンジオールの外に1種または2種以上の他のジオール単位を含んでいてもよい。
他のジオール単位の具体例としては、炭素数2~20の脂肪族または脂環族ジオール類、ビスフェノール誘導体類等が挙げられる。具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノ一ル、4,4’-ジシクロヘキシルヒドロキシメタン、4,4’-ジシクロヘキシルヒドロキシプロパン、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加ジオール等が挙げられる。また、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することもできる。
本実施形態で用いるポリブチレンテレフタレート樹脂は、1,4-ブタンジオール単位が全ジオール単位の80モル%以上を占めることが好ましく、90モル%以上を占めることがより好ましい。
【0024】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、上記した通り、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールとを重縮合させたポリブチレンテレフタレート単独重合体が好ましい。また、カルボン酸単位として、前記のテレフタル酸以外のジカルボン酸1種以上および/またはジオール単位として、前記1,4-ブタンジオール以外のジオール1種以上を含むポリブチレンテレフタレート共重合体であってもよい。ポリブチレンテレフタレート樹脂が、共重合により変性したポリブチレンテレフタレート樹脂である場合、その具体的な好ましい共重合体としては、ポリアルキレングリコール類、特にはポリテトラメチレングリコールを共重合したポリエステルエーテル樹脂や、ダイマー酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂、イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂が挙げられる。中でも、ポリテトラメチレングリコールを共重合したポリエステルエーテル樹脂を用いることが好ましい。
なお、これらの共重合体は、共重合量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂全セグメント中の1モル%以上、50モル%未満のものをいう。中でも、共重合量が、好ましくは2モル%以上50モル%未満、より好ましくは3~40モル%、さらに好ましくは5~20モル%である。このような共重合割合とすることにより、流動性、靱性が向上しやすい傾向にあり、好ましい。
【0025】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、末端カルボキシル基量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、60eq/ton以下であり、50eq/ton以下であることが好ましく、30eq/ton以下であることがさらに好ましい。上記上限値以下とすることにより、耐アルカリ性および耐加水分解性が向上する傾向にある。末端カルボキシル基量の下限値は特に定めるものではないが、ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造の生産性を考慮し、通常、10eq/ton以上である。
【0026】
なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、ベンジルアルコール25mLにポリブチレンテレフタレート樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lのベンジルアルコール溶液を用いて滴定により測定する値である。末端カルボキシル基量を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調整する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法により行えばよい。
【0027】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、0.5~2dL/gであるのが好ましい。成形性および機械的特性の点からして、0.6~1.5dL/gの範囲の固有粘度を有するものがより好ましい。固有粘度を0.5dL/g以上とすることにより、得られる樹脂組成物の機械強度がより向上する傾向にある。また、2dL/g以下とすることにより、樹脂組成物の流動性がより向上し、成形性が向上する傾向にある。
なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定する値である。
【0028】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分またはこれらのエステル誘導体と、1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分を、回分式または連続式で溶融重合させて製造することができる。また、溶融重合で低分子量のポリブチレンテレフタレート樹脂を製造した後、さらに窒素気流下または減圧下固相重合させることにより、重合度(または分子量)を所望の値まで高めることもできる。
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分とを、連続式で溶融重縮合する製造法で得られたものが好ましい。
【0029】
エステル化反応を遂行する際に使用される触媒は、従来から知られているものであってよく、例えば、チタン化合物、錫化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等を挙げることができる。これらの中で特に好適なものは、チタン化合物である。エステル化触媒としてのチタン化合物の具体例としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等を挙げることができる。
【0030】
ポリエステル樹脂としては、上記の他、特開2010-174223号公報の段落番号0013~0016の記載を参酌でき、その内容は本明細書に組み込まれる。
【0031】
<<ポリフェニレンエーテル樹脂>>
本実施形態では、公知のポリフェニレンエーテル樹脂を用いることができ、例えば、下記式で表される構成単位を主鎖に有する重合体(好ましくは、下記式で表される構成単位が末端基を除く全構成単位の90モル%以上を占める重合体)が例示される。ポリフェニレンエーテル樹脂は、単独重合体または共重合体のいずれであってもよい。
【0032】
【化1】
(式中、2つのRaは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、第1級もしくは第2級アルキル基、アリール基、アミノアルキル基、ハロゲン化アルキル基、炭化水素オキシ基、またはハロゲン化炭化水素オキシ基を表し、2つのRbは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、第1級もしくは第2級アルキル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、炭化水素オキシ基、またはハロゲン化炭化水素オキシ基を表す。ただし、2つのRaがともに水素原子になることはない。)
【0033】
aおよびRbとしては、それぞれ独立に、水素原子、第1級もしくは第2級アルキル基、アリール基が好ましい。第1級アルキル基の好適な例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-アミル基、イソアミル基、2-メチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-、3-もしくは4-メチルペンチル基またはヘプチル基が挙げられる。第2級アルキル基の好適な例としては、例えば、イソプロピル基、sec-ブチル基または1-エチルプロピル基が挙げられる。特に、Raは第1級もしくは第2級の炭素数1~4のアルキル基またはフェニル基であることが好ましい。Rbは水素原子であることが好ましい。
【0034】
好適なポリフェニレンエーテル樹脂の単独重合体としては、例えば、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジプロピル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-エチル-6-メチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-プロピル-1,4-フェニレンエーテル)等の2,6-ジアルキルフェニレンエーテルの重合体が挙げられる。共重合体としては、2,6-ジメチルフェノール/2,3,6-トリメチルフェノール共重合体、2,6-ジメチルフェノール/2,3,6-トリエチルフェノール共重合体、2,6-ジエチルフェノール/2,3,6-トリメチルフェノール共重合体、2,6-ジプロピルフェノール/2,3,6-トリメチルフェノール共重合体等の2,6-ジアルキルフェノール/2,3,6-トリアルキルフェノール共重合体、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)にスチレンをグラフト重合させたグラフト共重合体、2,6-ジメチルフェノール/2,3,6-トリメチルフェノール共重合体にスチレンをグラフト重合させたグラフト共重合体等が挙げられる。
【0035】
本実施形態におけるポリフェニレンエーテル樹脂としては、特に、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル、2,6-ジメチルフェノール/2,3,6-トリメチルフェノールランダム共重合体が好ましい。また、特開2005-344065号公報に記載されているような末端基数と銅含有率を規定したポリフェニレンエーテル樹脂も好適に使用できる。
【0036】
ポリフェニレンエーテル樹脂は、クロロホルム中で測定した30℃の固有粘度が0.2~0.8dL/gのものが好ましく、0.3~0.6dL/gのものがより好ましい。固有粘度を0.2dL/g以上とすることにより、成形体の機械的強度がより向上する傾向にあり、0.8dL/g以下とすることにより、樹脂組成物の流動性がより向上し、成形加工がより容易になる傾向にある。また、固有粘度の異なる2種以上のポリフェニレンエーテル樹脂を併用して、この固有粘度の範囲としてもよい。
【0037】
本実施形態に使用されるポリフェニレンエーテル樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法に従って、例えば、2,6-ジメチルフェノール等のモノマーをアミン銅触媒の存在下、酸化重合する方法を採用することができ、その際、反応条件を選択することにより、固有粘度を所望の範囲に制御することができる。固有粘度の制御は、重合温度、重合時間、触媒量等の条件を選択することにより達成できる。
【0038】
本実施形態の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)を合計で60質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、95質量%以上含むことが一層好ましく、97質量%以上含むことがより一層好ましい。上限は、99.99質量%以下であることが好ましく、99.9質量%以下であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、本実施形態の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0039】
<抗菌剤(B)>
本実施形態の樹脂組成物は、抗菌剤(B)を含む。
本実施形態で用いる抗菌剤(B)は、銀原子および/または銀イオンを含む。通常は、銀イオンとして抗菌剤(B)に含まれている。銀原子および/または銀イオンを含むことによって、得られる樹脂組成物は抗菌性に優れたものとなる。
本実施形態で用いるにおいては、抗菌剤(B)前記銀原子および/または銀イオンの合計が、前記抗菌剤(B)の0.01質量%以上を占めることが好ましく、0.1質量%を占めてもよい。上限は、前記抗菌剤(B)の5質量%を占めることが好ましく、3質量%を占めてもよい。
また、本実施形態で用いる抗菌剤(B)は、銀原子および/または銀イオンが担持体に担持されていることが好ましい。本実施形態で用いる抗菌剤(B)は、ガラス、カルシウムアパタイト、シリカゲル、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、シリカ、アルミナ、および、チオサルファイトからなる群から選ばれる1種以上の担持体を含むことが好ましく、ガラスを含むことがより好ましい。
前記担持体と銀原子および/または銀イオンの合計が、前記抗菌剤(B)の60質量%以上を占めるのが好ましく、70質量%以上を占めるのがより好ましく、80質量%以上を占めるのがさらに好ましく、90質量%以上であってもよい。
市販品としては、例えば、富士ケミカル社製のバクテキラー、興亜硝子者製の「ミリオンガード」、東亞合成社製の「ノバロン」などが挙げられる。
【0040】
本実施形態の樹脂組成物における前記抗菌剤(B)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、0.05質量部以上である。前記抗菌剤(B)の含有量は、0.075質量部以上であることがより好ましく、0.10質量部以上であることがさらに好ましく、0.15質量部以上であることが一層好ましい。好ましい量前記下限値以上とすることにより、抗菌性がより向上する傾向にある。また、前記抗菌剤(B)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、3.00質量部以下であり、2.50質量部以下であることがより好ましく、2.00質量部以下であることがさらに好ましく、1.00質量部以下であることが一層好ましく、0.70質量部以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、湿熱環境下での変色が抑制されるためより好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、抗菌剤(B)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0041】
<リン化合物(C)>
本実施形態の樹脂組成物は、3価のリンを含むリン化合物(C)を含む。
湿熱環境下では、樹脂組成物に含まれる抗菌剤(B)の銀イオンが溶出する傾向がある。過度な銀イオンの溶出は、銀イオンが周囲の塩基性物質と反応して変色を引き起こす原因となり得る。本実施形態の樹脂組成物は、銀イオンを程良く配位するリン化合物(C)を含むことによって、銀イオンの溶出を抑えることができ、抗菌性を保ちつつ、湿熱環境下での変色が抑制されると考えられる。
本実施形態で用いるリン化合物(C)は、3価のリンを含む限り特に限定されないが、例えば、亜リン酸、ホスフィン化合物、ホスホナイト化合物、ホスファイト化合物などの、3価のリンを含む化合物が挙げられる。中でも、ホスフィン化合物が好ましく、特にトリフェニルホスフィンが好ましい。
本実施形態で用いるリン化合物(C)の分子量は100~900が好ましい。
【0042】
ホスフィン化合物は特に限定されるものではなく、1級、2級および3級のいずれのホスフィン化合物も使用できるが、特に3級ホスフィン化合物が好ましく、より好ましくは3級芳香族ホスフィン化合物が挙げられる。
【0043】
3級ホスフィン化合物は、下記式
3
(式中、Rは置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基を表し、3個のRは同一であっても互いに異なっていてもよい。)
で表される。Rとしてはフェニル基が好ましい。Rの置換基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-アミル基、イソアミル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのアルキル基、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基などが挙げられる。
【0044】
3級芳香族ホスフィン化合物の具体例としては、トリフェニルホスフィン、トリ-m-トリルホスフィン、トリ-o-トリルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、トリス-p-メトキシフェニルホスフィン等が挙げられ、より具体的にはトリフェニルホスフィンの使用が好ましいが、他のホスフィン化合物を併用してもよい。
【0045】
ホスファイト化合物としては、好ましくは、下記式:
2O-P(OR3)(OR4
(式中、R2、R3およびR4は、それぞれ水素原子、炭素原子数1~30のアルキル基または炭素原子数6~30のアリール基であり、R2、R3およびR4のうちの少なくとも1つは炭素原子数6~30のアリール基である。)
で表される化合物が挙げられる。
【0046】
ホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)、テトラ(トリデシル)4,4’-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。
【0047】
ホスホナイト化合物としては、好ましくは、下記式:
5-P(OR6)(OR7
(式中、R5、R6およびR7は、それぞれ水素原子、炭素原子数1~30のアルキル基または炭素原子数6~30のアリール基であり、R5、R6およびR7のうちの少なくとも1つは炭素原子数6~30のアリール基である。)
で表される化合物が挙げられる。
【0048】
ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4-ジ-iso-プロピルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-n-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-iso-プロピルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-n-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、およびテトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられる。
【0049】
本実施形態の樹脂組成物における前記リン化合物(C)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、0.005質量部以上であり、0.0075質量部以上であることがより好ましく、0.01質量部以上であることがさらに好ましく、0.015質量部以上であることが一層好ましい。好ましい量を前記下限値以上とすることにより、湿熱環境下での変色が効果的に抑制される。また、前記リン化合物(C)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、1.00質量部以下であり、0.75質量部以下であることがより好ましく、0.50質量部以下であることがさらに好ましく、0.30質量部以下であることが一層好ましく、0.20以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、抗菌性をより効果的に保つことができる。
本実施形態の樹脂組成物は、前記リン化合物(C)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0050】
本実施形態の樹脂組成物における、前記3価のリンを含むリン化合物(C)と抗菌剤(B)の質量比率である、(C)/(B)が0.02~5.00である。前記下限値以上とすることにより、湿熱後の変色をより効果的に抑止できる。前記上限値以下とすることにより、抗菌性がより向上する傾向にある。前記(C)/(B)は、0.08以上であることが好ましく、0.10以上であることがより好ましく、0.18上であることがさらに好ましく、0.25以上であることが一層好ましく、0.35以上であることがより一層好ましい。前記(C)/(B)は、また、4.00以下であることが好ましく、3.00以下であることがより好ましく、2.00以下であることがさらに好ましく、1.00以下であることが一層好ましく、0.60以下であることがより一層好ましい。
【0051】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲内で、従来公知の任意の添加剤や充填剤を含んでいてもよい。本実施形態で用いる添加剤や充填剤としては、例えば、前記熱可塑性樹脂(A)以外の樹脂、紫外線吸収剤、前記リン化合物(C)以外の熱安定剤、光安定剤、ホルムアルデヒド捕捉剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤、炭素繊維、ガラス繊維、ガラスフレーク、チタン酸カリウムウイスカー等が挙げられる。
【0052】
本実施形態の樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂(A)、前記抗菌剤(B)、および前記リン化合物(C)と、必要に応じ配合されるその他成分の合計が100質量%になるように配合される。本実施形態の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)、抗菌剤(B)、およびリン化合物(C)の合計量が樹脂組成物の80質量%以上占めることが好ましく、90質量%以上占めることがより好ましく、95質量%以上占めることがさらに好ましく、99質量%以上占めることが一層好ましい。上限は、100質量%である。
本実施形態の樹脂組成物は、前記リン化合物(C)以外の熱安定剤を実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、例えば、前記リン化合物(C)以外の熱安定剤の含有量が樹脂組成物に含まれる前記リン化合物(C)の含有量の10質量%以下であることであり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0053】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、樹脂組成物の調製法として従来から知られた各種の方法により調製することができる。例えば、(1)樹脂組成物を構成する全成分を混合し、これを押出機に供給して溶融混練し、ペレット状の組成物を得る方法、(2)樹脂組成物を構成する成分の一部を押出機の主フィード口から、残余成分をサイドフィード口から供給して溶融混練し、ペレット状の組成物を得る方法、(3)押出し等により一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを混合して所定の組成に調整する方法、(4)熱可塑性樹脂(A)のペレットまたは粉砕物に所定量の配合成分を混合するか、熱可塑性樹脂(A)のペレットまたは粉砕物の表面に所定量の配合成分をコーティングして所定の樹脂組成物を得る方法などが採用できる。
【0054】
<樹脂組成物の特性>
本実施形態の樹脂組成物は、抗菌性に優れている。具体的には、樹脂組成物から形成された成形体をJIS Z 2801に準拠して抗菌試験を実施したときの、下記式(1)で算出される抗菌活性値が2.0以上であることが好ましい。前記抗菌活性値の上限値は特に定められるものではないが、20.0以下が実際的である。
式(1)
抗菌活性値=log(無加工試料1cm2当たり・培養後生菌数)-log(加工試料1cm2当たり・培養後生菌数)
抗菌性は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0055】
本実施形態の樹脂組成物は、湿熱環境下での変色が抑制される。具体的には、樹脂組成物を用いてISO527に準拠したダンベル試験片を成形し、試験片を温度60℃、湿度95%の条件下に500時間静置した前後の色調差ΔEが10.0以下であることが好ましく、7.0以下であることがより好ましく、5.0以下であることがさらに好ましく、3.0以下であることが一層好ましく、2.5以下であることがより一層好ましい。前記色調差ΔEの下限値は0が理想であるが、0.01以上が現実的である。
湿熱環境下での変色は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0056】
<樹脂組成物の成形体>
本実施形態には、本実施形態の樹脂組成物から形成された成形体も含まれる。
本実施形態の樹脂組成物をペレタイズして得られたペレットは、各種の成形法で成形して成形体とされる。またペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂組成物を直接、成形して成形体にすることもできる。
成形体の形状としては、特に制限はなく、成形体の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、プレート状、ロッド状、シート状、フィルム状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、歯車状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状、キャップ状のもの等が挙げられる。本実施形態の成形体は、完成品であってもよいし、部品であってもよく、それぞれの溶着品でもよい。
【0057】
成形体を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。
【0058】
<用途>
本実施形態の樹脂組成物および樹脂組成物から形成される成形体は、抗菌性が求められる用途に好ましく用いられる。
例えば、食品用途や水回り用途、医療用途、衛生用途が好適である。具体的には、食品搬送用ベルト、浴槽周辺部品、トイレ周辺部品、インヘラー、インシュリンペンなどが挙げられる。
【実施例0059】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0060】
1.原料
ポリアセタール樹脂(A)(POM):トリオキサンと1,3-ジオキソランとを、POM中の1,3-ジオキソランの含有率が3.8質量%(4.6モル%)となるように共重合して得られたアセタールコポリマーであって、メルトインデックス(ASTM-D1238規格:190℃、2.16kg)が10.5g/10分であるアセタールコポリマー、融点165℃
【0061】
抗菌剤(B):銀担持ガラス、富士ケミカル社製、商品名「バクテキラー BM-102SD」
【0062】
リン化合物(C1):トリフェニルホスフィン、BASF社製
【化2】
比較用安定剤(C2):Tinuvin 765、BASF社製
【化3】
【0063】
2.実施例1~10、比較例1~6
<コンパウンド>
ポリアセタール樹脂(A)、抗菌剤(B)、および、リン化合物(C)もしくは比較用安定剤(C2)を表1~表3に示す配合割合(質量部)で、誠和鉄工社製タンブラーを用いて均一に混合したのち、2軸押出機(株式会社池貝製、PCM-30、スクリュー径30mm)を用いて、スクリュー回転数120rpm、シリンダー設定温度190℃の条件下で溶融混練し、ストランドに押出し、ペレタイザーにてカットすることで樹脂組成物(ペレット)を製造した。
【0064】
<抗菌性>
抗菌性は、長さ50mm×幅50mm×厚み2mmの平板状試験片を用いて、JIS Z 2801に準拠して実施した。
上記で得られた樹脂組成物(ペレット)を、射出成形機(日精樹脂工業社製、DCE140)を用い、樹脂温度240℃、金型温度80℃の条件で長さ63mm×幅63mm×厚み2mmの平板状試験片を成形した。その後、ダイヤカットマシンで長さ50mm×幅50mm×厚み2mmに加工して試験片を作製した。
次に、上記で得られた平板状試験片を用いて、JIS Z 2801に準拠して抗菌試験を実施した。
シャーレに試験片(長さ50mm×幅50mm×厚み2mm)を入れ、大腸菌または表皮ブドウ球菌の試験菌液0.4mLを滴下し、フィルム(40mm×40mm)をかぶせ、さらにシャーレのふたをした。シャーレを35℃、90%RH以上の環境下に24時間静置して培養した。その後、レシチン・ソルベート80加・ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天(SCDLP)培地10mL加えて、フィルムと試験片から試験菌を洗い出し、液中の菌数を寒天平板培養法により測定し、下記の式(1)に従い抗菌活性値を算出した。
式(1)
抗菌活性値=log(無加工試料1cm2当たり・培養後生菌数)-log(加工試料1cm2当たり・培養後生菌数)
抗菌活性値 ≧ 2.0:+ 抗菌性あり
抗菌活性値 < 2.0:- 抗菌性なし
と評価した。
【0065】
<湿熱処理後の変色度>
上記で得られた樹脂組成物(ペレット)を、射出成形機(芝浦機械社製、EC100SX-2A)を用い、樹脂温度190℃、金型温度90℃の条件下でISO527に準拠したダンベル試験片を成形した。その後、日本電色工業社製のSE6000型(光源:C/2、反射光)を使用して色調を測定した。その後、恒温恒湿試験機(エスペック社製)を用いて、上記ダンベル試験片を温度60℃、湿度95%の条件下に500時間静置した。その後、前述の方法で再度色調を測定し、湿熱処理前後の色差ΔEを計算した。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
上記結果からも明らかな通り、本実施形態の樹脂組成物(実施例1~10)から得られた成形体は、抗菌性に優れ、かつ、湿熱環境下での変色が抑制された。
これに対し、3価のリンを含むリン化合物(C)を含まない場合(比較例1~2)は、湿熱環境下での変色度が大きくなった。抗菌剤(B)に対してリン化合物(C)の含有量が少なすぎる場合(比較例3)は、湿熱環境下での変色度が大きくなった。また、3価のリンを含むリン化合物(C)以外の熱安定剤を配合した場合(比較例4~6)、湿熱環境下での変色度が大きくなった。