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  • 特開-メタノール製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108879
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】メタノール製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/94 20060101AFI20230731BHJP
   C07C 29/80 20060101ALI20230731BHJP
   C07C 31/04 20060101ALI20230731BHJP
   C07C 53/02 20060101ALN20230731BHJP
   C07C 53/06 20060101ALN20230731BHJP
   C07F 5/06 20060101ALN20230731BHJP
   C07F 15/02 20060101ALN20230731BHJP
【FI】
C07C29/94
C07C29/80
C07C31/04
C07C53/02
C07C53/06
C07F5/06 D
C07F15/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010169
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】509002280
【氏名又は名称】株式会社富士クリーン
(71)【出願人】
【識別番号】520261758
【氏名又は名称】バリオスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】町川 和倫
(72)【発明者】
【氏名】三矢 昌俊
【テーマコード(参考)】
4H006
4H048
4H050
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AD11
4H006AD40
4H006BE12
4H048AA03
4H048VA80
4H048VB10
4H050AA03
(57)【要約】
【課題】 蒸留によって、 メタノールとギ酸を含む水溶液からメタノールを分離するメタノール製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 メタノール及びギ酸を含む水溶液に、ギ酸と反応することでギ酸とメタノールとのエステル化反応を抑制する反応抑制物質を添加する添加ステップと、前記添加ステップで前記反応抑制物質が添加された水溶液から、蒸留によりメタノールを分離する蒸留ステップと、を有し、前記蒸留ステップにおいて、メタノールの沸点以上、かつ、ギ酸の沸点未満の所定の加熱温度にて加熱を行うことを特徴とする、メタノール製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノール及びギ酸を含む水溶液に、ギ酸と反応することでギ酸とメタノールとのエステル化反応を抑制する反応抑制物質を添加する添加ステップと、
前記添加ステップで前記反応抑制物質が添加された水溶液から、蒸留によりメタノールを分離する蒸留ステップと、
を有し、
前記蒸留ステップにおいて、メタノールの沸点以上、かつ、ギ酸の沸点未満の所定の加熱温度にて加熱を行うことを特徴とする、メタノール製造方法。
【請求項2】
前記添加ステップにおいて、添加された前記反応抑制物質は、ギ酸と反応してギ酸塩を生成する
ことを特徴とする、請求項1に記載のメタノール製造方法。
【請求項3】
前記反応抑制物質は、炭酸塩である
ことを特徴とする、請求項1または2に記載のメタノール製造方法。
【請求項4】
前記反応抑制物質は、炭酸ナトリウムである
ことを特徴とする、請求項3に記載のメタノール製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノールとギ酸を含む水溶液からメタノールを製造する、メタノール製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化が深刻化する中、パリ協定の発効やSDGsの採択などによって、地球温暖化対策や再生可能エネルギーの導入が世界的潮流となっている。日本国が目標とする「2050年までに温室効果ガス排出を80%削減」は、従来の取組の延長では実現困難であり、事業者、地方自治体等のそれぞれが、相互に連携して、対策を強化することが求められている。
【0003】
上記の社会的要請に基づき、廃棄物場に集積された産業・生活廃棄物、家畜、糞尿等をメタン発酵させることにより、メタンガスを生成し、これをエネルギー利用すること等の取り組みが行われている。「メタン発酵」は、家畜排せつ物、食品廃棄物、農作物残さ等を原料として、微生物の働きによりメタン (CH4)を主体とした「バイオガス」を生成する技術である。
【0004】
近年、水素ではなくメタノール水溶液を燃料として利用する燃料電池が注目されている。このような燃料電池としては、例えば、直接メタノール型燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)やメタノール改質型・水素燃料電池が挙げられる。
【0005】
直接メタノール型燃料電池では、正極に空気、負極にメタノール水溶液を供給することにより、以下の化学反応が起こり電気が生成される。
燃料極(負極):CH3OH+H2O→6H++CO2+6e-
空気極(正極):6H++3/2O2+6e-→3H2O
全反応式:CH3OH+3/2O2→CO2+2H2O
【0006】
メタノール改質型・水素燃料電池では、まず、メタノール水溶液が数百度に加熱されることによって、水素と二酸化炭素とに分解され、得られた水素が水素燃料電池に送られる。この水素燃料電池において、送られた水素と空気中の酸素とが反応して水を生成する際に、電気が生成される。
改質槽 :CH3OH+H2O→2H2+CO2
燃料極(負極):2H2→4H++4e-
空気極(正極):4H++4e-+O2-→2H2O
全反応式 :2H2+O2→2H2O
【0007】
したがって、廃棄物場などで発生したメタンガスをメタノール水溶液とすることにより、直接メタノール型燃料電池やメタノール改質型・水素燃料電池の燃料として有効活用することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】エア・ウォーター北海道 世界初の実用化・事業化に向けた「バイオガスからメタノールとギ酸を製造する光化学プラント」の開発・実働について ~大阪大学・北海道興部町・岩田地崎建設と連携協定を締結~、[令和3年12月20日検索]、インターネット<URL:https://www.awi.co.jp/ja/business/news/news-4248608685323387794.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
メタンガスを出発原料として、非特許文献1の方法に基づきメタノールを製造すると、メタノール及びギ酸を含有する水溶液(以下、メタノール・ギ酸含有水溶液とも称す)が得られる。このメタノール・ギ酸含有水溶液を、例えば燃料電池にそのまま燃料として用いると、ギ酸は強酸であるため、燃料電池の腐食が促進され、製品寿命が縮まってしまうおそれがある。そのため、メタノール・ギ酸含有水溶液からメタノールを選択的に分離する必要がある。
【0010】
ここで、一般的に、メタノールの沸点はギ酸の沸点よりも低いため、メタノールの沸点以上、ギ酸の沸点未満の加熱温度にて蒸留処理を行うことにより、メタノール・ギ酸含有水溶液からメタノールを分離させる方法が考えられる。しかしながら、本発明者らが、蒸留によってメタノール・ギ酸含有水溶液からメタノールを分離する実験を行ったところ、蒸留で得られた溶液中に、ギ酸メチルが含有されていることがわかった。
【0011】
本発明者らは鋭意検討を行い、このギ酸メチルは、蒸留前に、メタノール・ギ酸含有水溶液内で、メタノールとギ酸とがエステル化反応を起こして生成されたものであることを発見した。ギ酸メチルの沸点はメタノールの沸点よりも低いため、メタノールの蒸留とともにギ酸メチルも蒸留されてしまい、メタノールだけを分離することができなかったと考えられる。
【0012】
上記点に鑑み、本発明は、蒸留によって、メタノールとギ酸を含む水溶液からメタノールを選択的に分離するメタノール製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係るメタノール製造方法は、(1)メタノール及びギ酸を含む水溶液に、ギ酸と反応することでギ酸とメタノールとのエステル化反応を抑制する反応抑制物質を添加する添加ステップと、前記添加ステップで前記反応抑制物質が添加された水溶液から、蒸留によりメタノールを分離する蒸留ステップと、を有し、前記蒸留ステップにおいて、メタノールの沸点以上、かつ、ギ酸の沸点未満の所定の加熱温度にて加熱を行うことを特徴とする。
【0014】
(2)前記添加ステップにおいて、添加された前記反応抑制物質は、ギ酸と反応してギ酸塩を生成することを特徴とする、(1)に記載のメタノール製造方法。
【0015】
(3)前記反応抑制物質は、炭酸塩であることを特徴とする、(1)または(2)に記載のメタノール製造方法。
【0016】
(4)前記反応抑制物質は、炭酸ナトリウムであることを特徴とする、(3)に記載のメタノール製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、蒸留によって、メタノールとギ酸を含む水溶液からメタノールを選択的に分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態におけるメタノール製造方法のフローチャートを示す。
図2】本実施形態における蒸留に用いられる蒸留装置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(メタノール製造方法のフロー)
図1は、本実施形態におけるメタノール製造方法のフローチャートである。同図を参照して、まず、メタノール・ギ酸含有水溶液に、ギ酸と反応することでギ酸とメタノールとのエステル化反応を抑制する物質(以下、反応抑制物質と称す)を添加する(ステップS1)。上述の「メタノール及びギ酸を含む水溶液」とは、例えば、メタンガスからメタノールを生成することで得られた、不純物としてのギ酸を含むメタノール水溶液である。メタンガスからメタノール・ギ酸含有水溶液を生成する方法については、既知の様々な方法を用いることができる(非特許文献1参照)。
【0020】
反応抑制物質としては、化合物、単体、イオンなど、種々の物質を用いることができる。反応抑制物質とギ酸とが反応することにより生成される反応生成物(以下、単に反応生成物とも称す)は、メタノールよりも沸点が高い。
【0021】
次に、ステップS1で反応抑制物質が添加されたメタノール・ギ酸含有水溶液から、蒸留によりメタノールを選択的に分離する(ステップS2)。ここで、本実施形態における蒸留を有効に実施するための蒸留装置の一例を、図2に示す。同図を参照して、蒸留装置10は、ヒーター1と、蒸留窯2と、蒸留塔3と、連結管4と、冷却器5と、受器6と、を備える。ステップS1で反応抑制物質が添加されたメタノール・ギ酸含有水溶液は、蒸留窯2に投入され、ヒーター1によって所定の加熱温度で温められて沸騰する。ヒーター1によって蒸留窯2で気化したメタノールは、蒸留塔3から連結管4を介して冷却器5に流入する。冷却器5に流入したメタノールは、冷却器5の冷却作用により、気相状態から液相状態に戻り、受器6にて回収される。なお、蒸留に用いられる蒸留装置は、図2に示すものに限られず、他の既知の蒸留装置が用いられてもよい。
【0022】
ここで上述した「所定の加熱温度」とは、メタノールの分離を行うための温度である。
(1)反応生成物の沸点が、ギ酸の沸点以下である場合、「所定の加熱温度」は、メタノールの沸点以上反応生成物の沸点未満の温度に設定される。加熱温度を反応生成物の沸点以上に設定すると、蒸留によって、メタノールとともに反応生成物も分離されてしまうため、メタノールの分離を適切に行うことができない。
(2)反応生成物の沸点が、ギ酸の沸点より高い場合、「所定の加熱温度」は、メタノールの沸点以上ギ酸の沸点未満の温度に設定される。加熱温度がギ酸の沸点以上である場合、蒸留によって、メタノールとともに水溶液中に残存しているギ酸も分離されてしまうため、メタノールの分離を適切に行うことができない。
【0023】
なお、蒸留の際、蒸留窯2の内部が真空となるため、水の沸点が低下し、メタノール分離時に水も不可避的に分離されることがある。そのため、蒸留によって分離して得られるメタノール溶液に、水が含有されることもある。
【0024】
蒸留ステップ(ステップS2)の前に、メタノール及びギ酸を含む水溶液に反応抑制物質を添加することで(ステップS1)、メタノールをギ酸と反応させずにそのまま残存させることができる。また、反応抑制物質と、ギ酸と、が反応して生成される反応生成物の沸点は、メタノールの沸点よりも高い。そのため、メタノールの沸点以上反応生成物の沸点未満の温度で蒸留を行うことにより、メタノール及びギ酸を含む水溶液から、メタノールを選択的に分離することができる。なお、この方法によれば、当初のメタノール・ギ酸含有水溶液に含有されたメタノールをギ酸と反応し難くして蒸留にて分離・回収できるため、反応抑制物質を添加しない場合と比較して、効率的にメタノールを得ることができる。
【0025】
(反応抑制物質について)
反応抑制物質として化合物を用いる場合、反応抑制物質としては、例えば、(1)炭酸塩、(2)塩基性化合物、(3)金属酸化物を採用することができる。炭酸塩には、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどが含まれる。塩基性化合物には、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化アルミニウムなどが含まれる。金属酸化物には、酸化鉄(II)、酸化銅(II)、酸化亜鉛、四三酸化マンガンなどが含まれる。以下に、上記(1)~(3)の各場合における、ギ酸とメタノールとの反応を抑制するメカニズムについて説明する。
【0026】
(反応抑制物質が炭酸塩である場合)
酸の酸性度は、一般的に、(1)硫酸・塩酸・スルホン酸、(2)カルボン酸、(3)炭酸、(4)フェノール類の順に高くなる。
すなわち、炭酸は、ギ酸(カルボン酸)よりも酸性度が低く、メタノール(フェノール類)よりも酸性度が高い。そのため、炭酸塩を、メタノール及びギ酸を含む水溶液に添加すると、ギ酸によって炭酸が遊離するとともに、ギ酸塩が生成される。これにより、メタノールとギ酸とのエステル化反応が抑制される。例えば、反応抑制物質として炭酸ナトリウムを用いた場合における上記遊離反応の反応式は、以下の通りであり、ギ酸塩としてギ酸ナトリウムが生成される。
Na2CO3 + 2HCOOH → 2HCOONa + H2O + CO2
【0027】
(反応抑制物質が塩基性化合物である場合)
酸性であるギ酸が、反応抑制物質としての塩基性化合物と中和することで、ギ酸塩(中和塩)が生成される。これにより、メタノールとギ酸とのエステル化反応が抑制される。例えば、反応抑制物質として水酸化アルミニウムを用いた場合における上記中和反応の反応式は、以下の通りであり、ギ酸塩としてギ酸アルミニウムが生成される。
Al(OH)3 + 3HCOOH → (HCOO)3Al + 3H2O
【0028】
(反応抑制物質が金属酸化物である場合)
ギ酸が、反応抑制物質としての金属酸化物と反応することで、ギ酸塩が生成される。これにより、メタノールとギ酸とのエステル化反応が抑制される。例えば、反応抑制物質として酸化鉄(II)を用いた場合における上記反応の反応式は、以下の通りであり、ギ酸鉄が生成される。
FeO + 2HCOOH → (HCOO)2Fe + H2O
【0029】
反応抑制物質の添加量が過度に低下すると、水溶液に含まれるギ酸及びメタノールが互いに反応して、ギ酸メチルが生成されるため、ステップS2の蒸留処理を実施した際に、メタノールだけを分離回収することができない。したがって、メタノールだけを分離回収するのに必要な添加量を反応抑制物質ごとに予め実験等で求めておき、必要な添加量を把握しておくことが望ましい。
【符号の説明】
【0030】
1:ヒーター
2:蒸留窯
3:蒸留塔
4:連結管
5:冷却器
6:受器
図1
図2