(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108902
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】電気炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
C22B 5/02 20060101AFI20230731BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20230731BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20230731BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
C22B5/02
C22B7/00 C
B09B5/00 A
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010205
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】前場 和也
【テーマコード(参考)】
4D004
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4D004AA23
4D004BA05
4D004CA04
4D004CA08
4D004CA29
4D004CB04
4D004CB13
4D004CB31
4D004CB32
4D004DA17
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA19
4K001BA05
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA09
4K001DA05
4K001GA16
4K001GB12
5H031AA00
5H031BB09
5H031RR00
(57)【要約】
【課題】黒鉛電極を備えた傾転可能な電気炉の操業において、電気炉の傾転によるスラグの排出や黒鉛電極の交換を適切なタイミングで行うことができ、効率的な操業を可能にする方法を提供する。
【解決手段】本発明は、黒鉛電極を備え傾転可能に構成された電気炉を用いて、酸化された金属を含む原料を加熱し還元熔融する処理を行う電気炉の操業方法であって、その処理は、原料を電気炉に装入して還元熔融する時間帯Aと、生成した熔体を電気炉内で保持する時間帯Bと、電気炉を傾転することで熔体に含まれるスラグを排出する時間帯Cと、からなる操業サイクルを有し、原料を還元熔融する時間帯Aでの黒鉛電極の損耗速度と、電気炉内で熔体を保持する時間帯Bでの黒鉛電極の損耗速度とに基づき、黒鉛電極の残りの長さを推定することによって、時間帯Cでの電気炉の傾転によるスラグ排出の可否を判断する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛電極を備え、傾転可能に構成された電気炉を用いて、酸化された金属を含む原料を加熱し還元熔融する処理を行う電気炉の操業方法であって、
前記処理は、前記原料を前記電気炉に装入して加熱し還元熔融する時間帯Aと、還元熔融により生成した熔体を該電気炉内で保持する時間帯Bと、該電気炉を傾転することにより該熔体に含まれるスラグを排出する時間帯Cと、からなる操業サイクルを有し、
原料を還元熔融する前記時間帯Aでの前記黒鉛電極の損耗速度と、電気炉内で熔体を保持する前記時間帯Bでの該黒鉛電極の損耗速度と、に基づき、該黒鉛電極の残りの長さを推定することによって、前記時間帯Cでの該電気炉の傾転によるスラグ排出の可否を判断する、
電気炉の操業方法。
【請求項2】
スラグを排出する前記時間帯Cにおいて該スラグを排出した後、
必要に応じて前記黒鉛電極を交換する、
請求項1に記載の電気炉の操業方法。
【請求項3】
前記電気炉の傾転によるスラグ排出が不可と判断した場合には、該電気炉からスラグを排出せずに、前記時間帯Aに処理を移行する、
請求項1又は2に記載の電気炉の操業方法。
【請求項4】
前記黒鉛電極の損耗速度を、前記電気炉からの排ガスのドラフトで調整する、
請求項1乃至3のいずれかに記載の電気炉の操業方法。
【請求項5】
原料を還元熔融する前記時間帯A、及び電気炉内で熔体を保持する前記時間帯Bのいずれか一方又はその両方では、前記黒鉛電極の長さに基づいて、操業可能時間を調整する、
請求項1乃至4のいずれかに記載の電気炉の操業方法。
【請求項6】
前記原料を還元熔融することにより生成した前記熔体に含まれるメタルを、前記時間帯A、前記時間帯B、及び前記時間帯Cのいずれかの時間帯において、タッピングにより前記電気炉から排出する、
請求項1乃至5のいずれかに記載の電気炉の操業方法。
【請求項7】
前記原料は、廃リチウムイオン電池を含む、
請求項1乃至6のいずれかに記載の電気炉の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電気炉を使用して有価金属を製造する操業において、電気炉に設けられている黒鉛電極(以下、単に「電極」ともいう)の消耗は大きい。短くなった電極を交換して操業を再開するタイプの電気炉では、電極の交換は半日から数日に一回の頻度で行われる。
【0003】
具体的に、上側に位置する電極と下側に位置する電極がニップルとよばれるオネジにより接続されている電極を例にすると、その電極の交換は、先ず、消耗した下側に位置する電極を回してニップルから外し、次に、新しい下側に位置すべき電極を用意してその電極の頂部に設けられているメネジに、ニップルを、下側に位置すべき電極を回転させながら入れて接続し、設置する。
【0004】
一方で、電気炉を傾転することで炉内に生成した熔体に含まれるスラグを排出する電気炉にあっては、電極がある程度損耗して短くなってからでないと、構造的に傾転させることができず、熔体を排出することはできない。
【0005】
そのため、作業頻度の多い電極の交換をどのタイミングで行うか、また、接続する電極の長さをどの程度にするかが、効率的に有価金属を製造するうえで重要な要素となる。
【0006】
特許文献1では、アーク電気炉において、中心軸に沿って冷却通路を備える非消耗電極の下端にニップルを介して黒鉛質の消耗電極を接続した複合電極に電流を通電して精錬する際に、黒鉛質の非消耗電極にタール若しくはピッチを含侵し、その含浸状態のままで再焼成せずに非消耗電極となし、その下端に黒鉛質の中実のニップルを介して黒鉛質の消耗電極を接続して、消耗電極の交換のみを繰り返しつつ、精錬することを特徴とする電気アーク製錬方法についての技術が開示されている。しかしながら、炉内のスラグ等の熔体の排出を、炉体を傾転して排出するにあたって、その電極の交換のタイミングに合せることについては開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたもので、黒鉛電極を備えた傾転可能な電気炉の操業において、電気炉の傾転によるスラグの排出や黒鉛電極の交換を適切なタイミングで行うことができ、効率的な操業を可能にする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、原料を還元熔融する時間帯での黒鉛電極の損耗速度と、電気炉内で熔体を保持する時間帯Bでの黒鉛電極の損耗速度と、に基づき、その黒鉛電極の残りの長さを推定することによって、電気炉の傾転によるスラグ排出の可否を判断することで、効率的な操業を可能にすることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1)本発明の第1の発明は、黒鉛電極を備え、傾転可能に構成された電気炉を用いて、酸化された金属を含む原料を加熱し還元熔融する処理を行う電気炉の操業方法であって、前記処理は、前記原料を前記電気炉に装入して加熱し還元熔融する時間帯Aと、還元熔融により生成した熔体を該電気炉内で保持する時間帯Bと、該電気炉を傾転することにより該熔体に含まれるスラグを排出する時間帯Cと、からなる操業サイクルを有し、原料を還元熔融する前記時間帯Aでの前記黒鉛電極の損耗速度と、電気炉内で熔体を保持する前記時間帯Bでの該黒鉛電極の損耗速度と、に基づき、該黒鉛電極の残りの長さを推定することによって、前記時間帯Cでの該電気炉の傾転によるスラグ排出の可否を判断する、電気炉の操業方法である。
【0011】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、スラグを排出する前記時間帯Cにおいて該スラグを排出した後、必要に応じて前記黒鉛電極を交換する、電気炉の操業方法である。
【0012】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記電気炉の傾転によるスラグ排出が不可と判断した場合には、該電気炉からスラグを排出せずに、前記時間帯Aに処理を移行する、電気炉の操業方法である。
【0013】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記黒鉛電極の損耗速度を、前記電気炉からの排ガスのドラフトで調整する、電気炉の操業方法である。
【0014】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、原料を還元熔融する前記時間帯A、及び電気炉内で熔体を保持する前記時間帯Bのいずれか一方又はその両方では、前記黒鉛電極の長さに基づいて、操業可能時間を調整する、電気炉の操業方法である。
【0015】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記原料を還元熔融することにより生成した前記熔体に含まれるメタルを、前記時間帯A、前記時間帯B、及び前記時間帯Cのいずれかの時間帯において、タッピングにより前記電気炉から排出する、電気炉の操業方法である。
【0016】
(7)本発明の第7の発明は、第1乃至第6のいずれかの発明において、前記原料は、廃リチウムイオン電池を含む、電気炉の操業方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、黒鉛電極を備えた傾転可能な電気炉の操業において、電気炉の傾転によるスラグの排出や黒鉛電極の交換を適切なタイミングで行うことができ、効率的な操業を可能にする方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0019】
本実施の形態に係る電気炉の操業方法は、黒鉛電極を備え、傾転可能に構成された電気炉を用いて、酸化された金属を含む原料を加熱し還元熔融する処理を行う電気炉の操業方法である。
【0020】
この操業方法では、電気炉において、酸化された金属を含む原料を加熱して還元熔融することで、その原料に含まれる有価金属から構成されるメタルと、不純物成分から構成されるスラグとからなる混合熔体を生成させ、その熔体で保持することで、比重の小さなスラグと比重の大きなメタルを上下の層に分離する。そして、分離したスラグについては、電気炉の傾転することによって排出して回収する。また、下層にある有価金属を含むメタルについては、電気炉の下部に設けられるタップホール(メタルホール)からタッピングの操作を行って排出することで回収することができる。
【0021】
具体的に、本実施の形態に係る電気炉の操業方法は、還元熔融する処理において、原料を電気炉に装入して加熱し還元熔融する時間帯Aと、還元熔融により生成した熔体を電気炉内で保持する時間帯Bと、電気炉を傾転することにより熔体に含まれるスラグを排出する時間帯Cと、からなる操業サイクルを有する。
【0022】
そして、原料を還元熔融する時間帯Aでの黒鉛電極の損耗速度と、電気炉内で熔体を保持する時間帯Bでの黒鉛電極の損耗速度と、に基づき、その黒鉛電極の残りの長さを推定することによって、時間帯Cでの電気炉の傾転によるスラグ排出の可否を判断する、ことを特徴としている。
【0023】
原料としては、特に限定されないが、ニッケルやコバルトを酸化物として含有する廃リチウムイオン電池を含むものが挙げられる。電気炉の操業方法では、例えば廃リチウムイオン電池を含む原料を電気炉に装入して加熱し還元熔融することで、その原料に含まれるニッケルやコバルト、銅等の有価金属から構成されるメタル(合金)と、不純物成分により構成されるスラグとからなる熔体(熔融物)を生成することができる。
【0024】
廃リチウムイオン電池は、ニッケルやコバルトを酸化物として含有するため、還元熔融処理する際には、操業温度が1500℃以上1600℃以下と極めて高温になることと相まって、黒鉛電極の損耗が大きくなる。この点において、本実施の形態に係る操業方法を適用することで、効率よくかつ効果的に、スラグを分離して有価金属から構成されるメタル(合金)を回収する操業を行うことが可能となる。
【0025】
具体的に、電気炉にて原料を還元熔融する処理においては、上述したように、原料を電気炉に装入して加熱し還元熔融する時間帯(時間帯A)と、還元熔融により生成した熔体を電気炉内で保持する時間帯(時間帯B)と、電気炉を傾転することにより熔体に含まれるスラグを排出する時間帯(時間帯C)と、の3つの時間帯がある。電気炉においては、この3つの時間帯をサイクル(「操業サイクル」ともいう)として操業が行われる。
【0026】
なお、電気炉からのスラグの排出は、詳しくは後述するように、上記した時間帯Cにおいて行う。一方で、電気炉からのメタルのタッピングによる排出は、上記した、時間帯A、時間帯B、及び時間帯Cのいずれかの時間帯において行う。
【0027】
(時間帯A)
原料を電気炉に装入して加熱し還元熔融する時間帯Aでは、電気炉の上部に位置する投原管より原料を装入し、黒鉛電極に電流を印加し原料を加熱することによって還元熔融し、熔体とする。黒鉛電極を備える電気炉としては、例えば、三相交流式電気炉の一つであるサブマージドアーク炉を挙げることができる。
【0028】
サブマージドアーク炉では、複数の電極が被加熱物である原料中に埋没(サブマージ)しており、アーク放電による加熱とともにジュール熱(電気抵抗熱)を利用する。電極が被加熱物に覆われているため熱量の放出が少なく、また、粉塵の発生及び耐火物への熱損傷が少ないため粉塵処理のコスト及び耐火物交換のコストを下げることができる。
【0029】
また、原料を還元熔融するときの加熱温度(操業温度)としては、特に限定されず原料の種類に応じて適宜設定することが好ましい。例えば、1300℃以上1600℃以下とすることができる。なお、加熱温度が高温であるほど、黒鉛電極の損耗は大きくなる。
【0030】
(時間帯B)
還元熔融により生成した熔体を電気炉内で保持する時間帯Bでは、時間帯Aでの原料の還元熔融により生じた熔体を保持(セトリング)する。生成した熔体は、有価金属により構成されるメタルと、主に不純物成分から構成されるスラグとの混合熔体である。メタルとスラグとは、比重が異なる。メタルに比べて比重の小さいスラグは、メタルの上部に集まるようになる。したがって、時間帯Bにおいて、生成した熔体を電気炉内で所定の時間保持することで、比重分離により容易にメタルとスラグとを分離することができる。
【0031】
なお、上述のように、スラグはメタルに比べて比重が小さいため、比重分離によって熔体の上層にスラグ層が形成される。また、そのスラグ層の下層としてメタル(合金)層が形成される。
【0032】
(時間帯C)
スラグを排出する時間帯Cでは、時間帯Bでのセトリングにより形成されたスラグ層を構成するスラグを電気炉から排出する。このとき、スラグの排出は、傾転機構が設けられている電気炉を傾転させることによって行う。電気炉を所定の方向に傾けることで、その電気炉の上部から熔融状態のスラグを流出させる。
【0033】
電気炉の傾転機構としては、電気炉本体を傾けてその上部からスラグを流出させることができれば、特に限定されない。ただし、一般的に、電気炉と、その上部から垂下される黒鉛電極とは別体により構成されており、傾転機構により電気炉を傾転させるときには黒鉛電極は傾転しない。そのため、黒鉛電極の長さ(残りの長さ)によっては、その黒鉛電極が電気炉の傾転に際して物理的な障害になることがあり、還元熔融後の黒鉛電極が所定の長さ以上の長さを残している場合には、電気炉を傾転させることができず、すなわちスラグを排出させることができない場合がある。
【0034】
ここで、電気炉に備えられている黒鉛電極の損耗については、還元熔融する時間帯Aの方が、熔体を保持する時間帯Bよりも、はるかに損耗速度が大きい。また、還元熔融する時間帯Aにおける黒鉛電極の損耗は非常に大きい。そのため、頻繁に、黒鉛電極を交換する必要がある。一方で、上述した操業サイクルの最後の時間帯であるスラグを排出する時間帯Cでは、上述のようにスラグ排出のために電気炉を傾転させるが、傾転に際して黒鉛電極が物理的な障害とならないように、所定の長さまで黒鉛電極が短くなっている必要がある。
【0035】
そこで、本実施の形態に係る操業方法では、黒鉛電極の残りの長さ(「残寸」ともいう)を推定し、その推定結果によって、時間帯Cでの電気炉の傾転によるスラグ排出の可否を判断するようにする。
【0036】
例えば、推定した黒鉛電極の残寸が、電気炉を傾転可能な長さ以下となる場合には、スラグ排出が可能(可)であると判断し、電気炉を傾転させることによってスラグ排出を実行する。一方で、推定した黒鉛電極の残寸が、電気炉を傾転可能な長さよりも長く、傾転に際して黒鉛電極が物理的な障害になる場合には、スラグ排出が不可(否)であると判断する。そして、スラグ排出が不可の場合には、電気炉からのスラグ排出の操作をスキップして、原料(新たな原料)を還元熔融する時間帯Aに操業サイクルを移行する。
【0037】
また、黒鉛電極の残寸の推定結果によって、時間帯Cでのスラグ排出の可否を判断するとともに、電気炉の傾転によるスラグ排出が可能な具体的なタイミングを判断するようにしてもよい。例えば、スラグ排出が不可であると判断したときには、その黒鉛電極の残寸の推定結果から、スラグ排出が可能なタイミング、すなわち、あとN回の操業サイクルを実行した後に排出するといったようにタイミングを見積もる。
【0038】
このように、本実施の形態に係る方法によれば、黒鉛電極の残寸を推定することによって時間帯Cでの電気炉の傾転によるスラグ排出の可否を判断することで、遅滞なく効率的に電気炉操業を行うことが可能となる。
【0039】
また、黒鉛電極の交換については、電気炉の傾転によるスラグ排出の可否判断に基づいて、スラグを排出する時間帯Cにおいてスラグ排出を行った後、すなわち、スラグ排出が可能であると判断して電気炉の傾転によりスラグを排出させた後のタイミングにて行うようにする。これにより、黒鉛電極の交換操作を、黒鉛電極の残寸が交換が必要となる残寸に丁度一致する適切なタイミングで行うことができ、無用な交換操作による操業効率の低下を効果的に防ぐことができる。
【0040】
なお、黒鉛電極の交換は、電極として有効に機能して、電気炉内に装入した原料を加熱して還元熔融できる、言い換えると操業可能である限りにおいて、複数回の操業サイクルの終了後に行うようにしてもよい。
【0041】
さて、一般的な電気炉の操業においては、排ガスのドラフトを強くすると、電気炉に装入した原料の排ガスへの分配が増加する、あるいは、フリーエアーの増加に伴って黒鉛電極の損耗が加速される、等のデメリットが生じる。ところが、上述したように、所定の長さまで黒鉛電極が短くならなければ、電気炉を傾転させてスラグを排出することができない。このことは、電気炉の容量にも依存するが、原料を電気炉に装入して還元熔融する時間帯Aと、生成した熔体を電気炉内で保持する時間帯Bと、スラグを排出する時間帯Cからなる操業サイクルが途中で止まってしまうことを意味している。すなわち、操業効率が著しく低下する。
【0042】
また、操業サイクルを止めないために、例えば、スラグを排出する時間帯Cの前の時間帯Bの操業時間(セトリング時間)を延長して、黒鉛電極の長さが電気炉の傾転における物理的な障害とならない長さとなるまで黒鉛電極を損耗させるといった措置が考えられるが、操業予定の変更を要し、また操業効率を低下させる可能性がある。
【0043】
そこで、操業サイクルにおいて、スラグを排出する時間帯Cに合わせ、電気炉からの排ガスのドラフトを調整することによって、意図的に、黒鉛電極の損耗を加速するよう制御してもよい。このように、黒鉛電極の残寸を推定するにあたって、その黒鉛電極の損耗速度を、電気炉からの排ガスのドラフトで調整する。
【0044】
これにより、スラグを排出する時間帯Cとなったときに、黒鉛電極の長さを、電気炉を傾転させることのできる長さに効率的に調整することができ、電気炉内でのスラグの長時間に亘る滞留や、それに伴う操業効率の低下を効果的に防ぐことができる。
【0045】
また、原料を還元熔融する時間帯A、及び生成した熔体を電気炉内で保持する時間帯Bのいずれか一方又はその両方では、黒鉛電極の長さに基づいて、各時間帯における操業可能時間を調整するようにしてもよい。
【0046】
具体的には、操業サイクルにおける、原料を還元熔融する時間帯Aと、生成した熔体を保持する時間帯Bでの処理を開始するにあたり、そのときの黒鉛電極の長さ(残寸)と、各時間帯での処理の単位時間当たりにおける黒鉛電極の損耗速度とに基づいて、各時間帯での操業可能時間を調整し設定するようにしてもよい。
【0047】
このようにすることで、黒鉛電極の残寸により、スラグを排出する時間帯Cにて電気炉を傾転することに可否が生じるスラグの排出を円滑に行うことができるとともに、各時間帯での処理を円滑に行って有効な還元熔融の処理が可能になり、純度の高い有価金属の回収を可能にする。また、黒鉛電極の交換をより好ましいタイミングで行うこともできる。
【実施例0048】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。
【0049】
[実施例1]
廃リチウムイオン電池を含む原料を用い、その原料を電気炉に装入して加熱し還元熔融することによって、原料に含まれる有価金属から構成されるメタル(合金)と、不純物成分から構成されるスラグとを分離して回収する処理を行った。
【0050】
具体的には、廃リチウムイオン電池を含む原料に対して粉砕処理を施し、その後、篩分処理を行って、篩下の粉状の処理原料(粉状物)と、篩上の箔状の処理原料(箔状物)とを、混合しない状態で別々に準備した。
【0051】
熔融炉として電極先端に定形である長さ1200mmの黒鉛電極が接続された三相交流式電気炉の一つであるサブマージドアーク炉を用い、原料に対して還元熔融の処理を施す電気炉操業を行った。
【0052】
電気炉操業では、先ず予熱操業を行い、その最後で、長さ1000mmの黒鉛電極に交換した。その後、定常操業として、その炉内に、1時間当たり合計30kg(粉状の処理原料24kg、箔状の処理原料6kg)の装入速度で3時間に亘って原料を計90kg装入し、還元熔融処理に付した。なお、この処理の時間帯を、操業サイクルにおける「原料を還元熔融する時間帯A」とした。原料としては箔状の処理原料と粉状の処理原料とを用い、それぞれを電極側方に設けられている装入口から装入した。原料を還元熔融する時間帯Aでの黒鉛電極の損耗速度は30mm/hであった。この時間帯Aにおける操業を3時間に亘って繰り返し行いながら行った。
【0053】
次に、生成した還元熔融物(熔体)をスラグ(スラグ層)とメタル(メタル層)とに分離するために、電気炉内で熔体を保持した。なお、この処理の時間帯を、操業サイクルにおける「生成した熔体を保持する時間帯B」とし、保持時間を4時間とした。生成した熔体を保持する時間帯Bでの黒鉛電極の損耗速度は15mm/hであった。
【0054】
その後、原料を還元熔融する時間帯Aと生成した熔体を保持する時間帯Bでの処理を再度行い、次に、サブマージドアーク炉を傾転することによってスラグを排出した。なお、この処理の時間帯を、操業サイクルにおける「スラグを排出する時間帯C」とした。
【0055】
実施例1では、上述した操業サイクルにおいて、原料を還元熔融する時間帯Aでの黒鉛電極の損耗速度と、電気炉内で熔体を保持する時間帯Bでの黒鉛電極の損耗速度と、に基づいて、黒鉛電極の残りの長さ(残寸)を700mmと推定し、これにより、スラグを排出する時間帯Cでの電気炉の傾転によるスラグ排出の可否を判断し、その結果「可能」であると判断して操作を実行した。また、黒鉛電極の残寸を700mmと推定したことから、スラグを電気炉から排出した後、長さ1000mmの新しい黒鉛電極に交換した。
【0056】
なお、通電の間、制御盤の値を確認しながら黒鉛電極の損耗値を確認して、各時間帯における電極の損耗速度を測定した。また、サブマージドアーク炉の排ガスを吸引するダクトに設けられているマノメーターの値が150~250Paの範囲内となるように、排ガスのドラフトを調整した。
【0057】
このような操業の結果、原料の熔解量は12.8kg/hとなった。また、スラグ排出の操作と黒鉛電極の交換操作は、1時間の時間内で行うことができた。なお、スラグ層の下層に形成されたメタルは、サブマージドアーク炉を傾転する前の保持時間終了直後に、タッピングにより排出した。
【0058】
[比較例1]
比較例1では、損耗速度に基づく黒鉛電極の残寸の推定や、その推定結果によって電気炉の傾転によるスラグ排出の可否の判断をせずに定常操業を行った。
【0059】
具体的には、定常操業として、定形長さの1200mmの黒鉛電極が取り付けられ、1時間当たり30kgの装入速度で3時間に亘って原料を電気炉内に装入し、還元熔融処理に付した。次に、生成した熔体を電気炉内で4時間に亘り保持した。このような操作を再度行った後、黒鉛電極の残寸が、スラグ排出のために電気炉を傾転可能となるまで、合わせて27時間の通電した後、サブマージドアーク炉を傾転してスラグを排出した。また、スラグを排出した後、黒鉛電極の交換作業を行った。なお、交換時の電極の残寸は700mmであった。
【0060】
このような操業の結果、原料の熔解量は6.6kg/hとなり、実施例1に比べておよそ半分程度の処理量となった。すなわち、実施例1に比べて操業効率が低下したことを意味する。