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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108918
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】抗病原体・抗アレルゲン性部材
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/34 20060101AFI20230731BHJP
   A01N 59/20 20060101ALI20230731BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20230731BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20230731BHJP
   B32B 15/01 20060101ALN20230731BHJP
【FI】
A01N25/34 A
A01N59/20 Z
A01P1/00
A01N59/16 A
A01N59/16 Z
B32B15/01 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010231
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】青野 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】森 千夏
【テーマコード(参考)】
4F100
4H011
【Fターム(参考)】
4F100AB04A
4F100AB16C
4F100AB17B
4F100AB18C
4F100AB24C
4F100AB25C
4F100EH712
4F100EH71B
4F100GB90
4F100JC00
4H011AA04
4H011BB18
4H011DA07
4H011DA08
(57)【要約】
【課題】金属銅を利用する抗病原体・抗アレルゲン性部材であって、抗病原体・抗アレルゲン活性の高い、抗病原体・抗アレルゲン性部材を提供すること。
【解決手段】基材と、前記基材表面上の無電解銅めっき層とを有する抗病原体・抗アレルゲン性部材であって、XPS分析によって測定される、前記無電解銅めっき層表面のカーボン原子濃度割合が、50atom%以下である、抗病原体・抗アレルゲン性部材。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材表面上の無電解銅めっき層とを有する抗病原体・抗アレルゲン性部材であって、
XPS分析によって測定される、前記無電解銅めっき層表面のカーボン原子濃度割合が、50atom%以下である、
抗病原体・抗アレルゲン性部材。
【請求項2】
前記無電解銅めっき層上に、ニッケル、亜鉛、パラジウム、白金、金、及び銀から選択される1種又は2種以上の第2金属を含む第2金属層を更に有する、請求項1に記載の抗病原体・抗アレルゲン性部材。
【請求項3】
前記抗病原体・抗アレルゲン性部材と供試菌液との接触時間を10分間とする他は、ISO21702に準拠して行われる抗ウイルス試験を行い、ウイルス感染価をプラーク法によって調べたときに、99%以上のウイルスが不活性化する、請求項1又は2に記載の抗病原体・抗アレルゲン性部材。
【請求項4】
前記抗病原体・抗アレルゲン性部材と供試菌液との接触時間を60分間とする他は、JIS Z 2801に準拠して行われる抗菌試験において、99%以上の細菌が不活性化する、請求項1又は2に記載の抗病原体・抗アレルゲン性部材。
【請求項5】
前記抗病原体・抗アレルゲン性部材と供試アレルゲン液との接触時間を6時間として、ELISA法によって行われる抗アレルゲン試験において、99%以上のアレルゲンが不活性化する、請求項1又は2に記載の抗病原体・抗アレルゲン性部材。
【請求項6】
JIS Z2801及びJIS R1705に準拠して行われる抗真菌試験において、80%以上の真菌が不活性化する、請求項1又は2に記載の抗病原体・抗アレルゲン性部材。
【請求項7】
(A)無電解銅めっきにより、基材上に無電解銅めっき層を形成すること、及び
(B)前記無電解銅めっき層表面のカーボンを除去して、XPS分析によって測定される、前記無電解銅めっき層表面のカーボン割合を、50atom%以下とすること
を含む、
抗病原体・抗アレルゲン性部材の製造方法。
【請求項8】
前記工程(B)において、無電解銅めっき層表面のカーボンの除去を、プラズマ照射処理、中性洗剤による洗浄処理、超音波印加処理、及び有機溶媒による洗浄処理から選択される1種又は2種以上の処理によって行う、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(B)の後に、
(C)ニッケル、亜鉛、パラジウム、白金、金、及び銀から選択される1種又は2種以上の第2金属を含む第2金属層を形成すること
を更に含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(C)において、前記第2金属がニッケル又は亜鉛であり、前記第2金属層の形成を電解めっきによって行う、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(C)において、前記第2金属がパラジウム、白金、金、又は銀であり、前記第2金属層の形成を無電解めっきによって行う、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗病原体・抗アレルゲン性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新型のウイルスによる世界規模のパンデミック、抗生物質が効かないMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による院内感染、スギ花粉問題等、病原体、アレルゲンに起因する深刻な問題が発生している。
【0003】
そのため、衛生関連用品、医療福祉関連用品、住宅関連用品等を含む種々の分野において、抗病原体性、抗アレルゲン性を示す物品が求められており、種々の検討が行われている。
【0004】
抗病原体・抗アレルゲン材については、多数の報告があるが、それぞれ、一長一短がある。例えば、光触媒を利用する抗菌材等は、光がないと抗菌作用が発現しない、病原体等の不活性化までに時間がかかる等の問題がある。また、光触媒とバインダー樹脂とを混合して樹脂組成物とすると、光触媒の作用によって、バインダー樹脂が損傷する問題が生ずる。
【0005】
こうした状況下、金属銅の抗病原体・抗アレルゲン性を利用する技術が注目されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、銅化合物と、光ラジカル重合型アクリレート樹脂と、光重合開始剤とを含む、抗微生物組成物が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、基材上に、特定のXRDパターンを有する銅被膜が形成されている、抗菌性部材が開示されている。特許文献2では、このような銅被膜は、無電解銅めっきによって形成されると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-083779号公報
【特許文献2】特開2018-123109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、金属銅を利用する公知技術の抗病原体・抗アレルゲン性部材は、必ずしも所期の性能を発揮するものではない。
【0010】
そこで本発明は、金属銅を利用する抗病原体・抗アレルゲン性部材であって、抗病原体・抗アレルゲン活性の高い、抗病原体・抗アレルゲン性部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下のとおりである。
【0012】
《態様1》基材と、前記基材表面上の無電解銅めっき層とを有する抗病原体・抗アレルゲン性部材であって、
XPS分析によって測定される、前記無電解銅めっき層表面のカーボン原子濃度割合が、50atom%以下である、
抗病原体・抗アレルゲン性部材。
《態様2》前記無電解銅めっき層上に、ニッケル、亜鉛、パラジウム、白金、金、及び銀から選択される1種又は2種以上の第2金属を含む第2金属層を更に有する、態様1に記載の抗病原体・抗アレルゲン性部材。
《態様3》前記抗病原体・抗アレルゲン性部材と供試菌液との接触時間を10分間とする他は、ISO21702に準拠して行われる抗ウイルス試験を行い、ウイルス感染価をプラーク法によって調べたときに、99%以上のウイルスが不活性化する、態様1又は2に記載の抗病原体・抗アレルゲン性部材。
《態様4》前記抗病原体・抗アレルゲン性部材と供試菌液との接触時間を60分間とする他は、JIS Z 2801に準拠して行われる抗菌試験において、99%以上の細菌が不活性化する、態様1又は2に記載の抗病原体・抗アレルゲン性部材。
《態様5》前記抗病原体・抗アレルゲン性部材と供試アレルゲン液との接触時間を6時間として、ELISA法によって行われる抗アレルゲン試験において、99%以上のアレルゲンが不活性化する、態様1又は2に記載の抗病原体・抗アレルゲン性部材。
《態様6》JIS Z2801及びJIS R1705に準拠して行われる抗真菌試験において、80%以上の真菌が不活性化する、態様1又は2に記載の抗病原体・抗アレルゲン性部材。
《態様7》(A)無電解銅めっきにより、基材上に無電解銅めっき層を形成すること、及び
(B)前記無電解銅めっき層表面のカーボンを除去して、XPS分析によって測定される、前記無電解銅めっき層表面のカーボン割合を、50atom%以下とすること
を含む、
抗病原体・抗アレルゲン性部材の製造方法。
《態様8》前記工程(B)において、無電解銅めっき層表面のカーボンの除去を、プラズマ照射処理、中性洗剤による洗浄処理、超音波印加処理、及び有機溶媒による洗浄処理から選択される1種又は2種以上の処理によって行う、態様7に記載の方法。
《態様9》前記工程(B)の後に、
(C)ニッケル、亜鉛、パラジウム、白金、金、及び銀から選択される1種又は2種以上の第2金属を含む第2金属層を形成すること
を更に含む、態様7又は8に記載の方法。
《態様10》前記工程(C)において、前記第2金属がニッケル又は亜鉛であり、前記第2金属層の形成を電解めっきによって行う、態様9に記載の方法。
《態様11》前記工程(C)において、前記第2金属がパラジウム、白金、金、又は銀であり、前記第2金属層の形成を無電解めっきによって行う、態様9に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、抗病原体・抗アレルゲン活性の高い、抗病原体・抗アレルゲン性部材が提供される。本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材は、ウイルス、細菌、真菌、アレルゲン等を、高い効率で不活性化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例1で得られた抗病原体・抗アレルゲン性部材の無電解銅めっき層のSEM像である。
図2図2は、実施例8で得られた抗病原体・抗アレルゲン性部材のFIB-SEM像である。
図3図3は、実施例で得られた、抗病原体・抗アレルゲン性部材の無電解銅めっき層の表面カーボン割合とウイルス不活性化率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
《抗病原体・抗アレルゲン性部材》
本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材は、
基材と、前記基材表面上の無電解銅めっき層とを有する抗病原体・抗アレルゲン性部材であって、
XPS分析によって測定される、前記無電解銅めっき層表面のカーボン原子濃度割合(以下、「カーボン割合」ともいう。)が、50atom%以下である、
抗病原体・抗アレルゲン性部材である。
【0016】
金属銅を利用する従来技術のうち、銅化合物をバインダー樹脂中に分散した組成物の形態によると、抗病原体・抗アレルゲン性を発現する活性点となる銅が、樹脂中に分散して存在しているため、病原体及びアレルゲンとの接触面積の点で不利になると思われる。
【0017】
そこで、本発明者らは、金属銅を用いる技術のうち、病原体及びアレルゲンとの接触面積が大きい、無電解銅めっき層を利用する技術に注目した。そして、無電解銅めっき層を利用する公知技術の抗病原体・抗アレルゲン性部材が、所期の性能を発揮しない原因について、詳細な検討を行った。その結果、無電解銅めっき層表面のカーボン割合と、抗病原体・抗アレルゲン活性との間に、一定の関係があることを見出した。
【0018】
すなわち、抗病原体・抗アレルゲン性部材の無電解銅めっき層表面のカーボン割合が、50atom%を超えると、所期の抗病原体・抗アレルゲン活性が発現しない。しかしながら、無電解銅めっき層表面のカーボン割合が50atom%以下であると、抗病原体・抗アレルゲン活性が臨界的に向上するのである。その理由は明らかではないが、本発明者らは、以下のように推察している。
【0019】
無電解銅めっき液には、銅の前駆体である銅塩の他に、液の安定化のための錯化剤、銅前駆体を還元して基材上に金属銅を析出させるための還元剤等の種々の有機成分が含まれている。これらの有機物は、金属銅とともに無電解銅めっき層に取り込まれ、金属銅からの抗病原体・抗アレルゲン活性種(例えばヒドロキシラジカル種)の生成を阻害すると考えられる。
【0020】
本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材では、無電解銅めっき層表面のカーボン割合が50atom%以下に低減されている。このことにより、本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材の無電解銅めっき層では、十分な量の抗病原体・抗アレルゲン活性種が生成することができ、その結果、優れた抗病原体・抗アレルゲン活性を示すと考えられる。
【0021】
ただし、本発明は、特定の理論に拘束されるものではない。
【0022】
本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材は、無電解銅めっき層上に、ニッケル、亜鉛、パラジウム、白金、金、及び銀から選択される1種又は2種以上の第2金属を含む第2金属層を更に有していてよい。
【0023】
本明細書において、「病原体」とは、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫等を含む概念である。
【0024】
以下、本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材の各要素について、順に説明する。
【0025】
〈基材〉
本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材に用いられる基材は、無電解めっきによって表面に銅層を形成し得るものである限り、材質及び形状に制限はない。基材は、無機材料若しくは有機材料であってよく、又はこれらの双方から成る複合材料であってよい。
【0026】
基材を構成する無機材料は、例えば、金属、無機多孔体、セラミック等であってよい。金属は、例えば、鉄、アルミニウム、ステンレス、チタン、真ちゅう等であってよい。無機多孔体は、例えば、セメント、モルタル、コンクリート、ガラス、レンガ、コージェライト等であってよい。セラミックは、例えば、アルミナ、ジルコニア、シリカ等であってよい。
【0027】
基材を構成する有機材料は、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、セルロース系材料、ゴム、繊維、不織布等であってよい。
【0028】
熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリエステル、PLA樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアミド等であってよい。熱硬化性樹脂は、例えば、フェノール樹脂、ウレア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂等であってよい。
【0029】
セルロース系材料は、例えば、木材、紙等であってよい。ゴムは、天然ゴム及び合成ゴムのいずれであってもよい。合成ゴムは、例えば、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、SBR、ブタジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、EPM、EPDM等であってよい。
【0030】
繊維は、天然繊維、合成繊維、及び再生繊維、並びに無機繊維のいずれであってもよい。天然繊維は、例えば、綿、絹、獣毛等であってよい。合成繊維は、例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル等であってよい。再生繊維は、例えば、レーヨン、キュプラ等であってよい。無機繊維は、例えば、炭素繊維、ガラス繊維等であってよい。
【0031】
基材の形状は任意である。基材は、例えば、板状、シート状、塊状等の形状を有していてもよいし、例えば、医療用品、介護用品、食器、玩具、建築材料、フィルター等の具体的製品の形状を有していてもよいし、粉体状であってもよい。
【0032】
特に、基材が繊維状、又は不織布状であるとき、本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材をフィルターとして使用すれば、濾過面積が大きくなるため、高度の抗病原体・抗アレルゲン活性を発現できる。その具体的用途については、後述する。
【0033】
基材のサイズは、基材の少なくとも一部の表面に無電解めっきを施すことができる限りで、任意である。
【0034】
〈無電解銅めっき層〉
本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材における無電解銅めっき層は、基材の表面上に存在する。
【0035】
無電解銅めっき層の厚さは、0.2μm以上、0.3μm以上、0.5μm以上、0.7μm以上、又は1.0μm以上であってよく、10.0μm以下、8.0μm以下、
5.0μm以下、3.0μm以下、2.0μm以下、又は1.0μm以下であってよい。この範囲の厚さとすることにより、良好な抗病原体・抗アレルゲン性と、優れた耐久性とが両立される。
【0036】
本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材における無電解銅めっき層の厚さは、集束イオンビーム走査電子顕微鏡(Focused Ion Beam Scanning Electron Microscope、FIB-SEM)によって測定することができる。
【0037】
無電解銅めっき層は、粒子状の銅によって構成されていてよい。粒子状の銅は、単位質量当たりの表面積が大きく、病原体及びアレルゲンとの接触頻度を高めることができるので、抗病原体・抗アレルゲン活性の観点から好ましい。粒子状の銅の平均粒子径は、20nm以上、50nm以上、75nm以上、又は100nm以上であってよく、200nm以下、150nm以下、120nm以下、又は100nm以下であってよい。
【0038】
本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材における無電解銅めっき層に含まれる銅粒子の
平均粒子径は、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)によって測定することができる。
【0039】
無電解銅めっき層中の銅粒子は、それぞれ単独の粒子として存在していてもよく、複数の粒子が凝集体を形成していてもよく、単独で存在する粒子と、複数の粒子の凝集体とが混在していてもよい。
【0040】
本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材における無電解銅めっき層は、本発明の効果を損なわない範囲で、銅とともに酸化銅を含んでいてもよい。
【0041】
本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材における無電解銅めっき層は、XPS分析によって測定される、表面のカーボン割合が、50atom%以下である。本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材は、この要件を満たすことによって、優れた抗病原体・抗アレルゲン活性が発現する。
【0042】
なお、ここでいう「カーボン」とは、元素状の炭素の他、無電解銅めっき層に取り込まれた有機物に含まれる炭素原子を含む概念である。
【0043】
無電解銅めっき層表面のカーボン割合は、48atom%以下、45atom%以下、43atom%以下、40atom%以下、38atom%以下、又は35atom%以下であってもよい。
【0044】
しかしながら、無電解銅めっき層表面のカーボン割合を過度に低くしても、抗病原体・抗アレルゲン活性が無制限に向上されるものではない。したがって、本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材における無電解銅めっき層は、XPS分析によって測定される、表面のカーボン割合が、10atom%以上、15atom%以上、20atom%以上、25atom%以上、又は30atom%以上であってよい。
【0045】
無電解銅めっき層表面のカーボン割合を測定するためのXPS分析は、具体的には、後述の実施例に記載の方法にしたがって行われてよい。
【0046】
〈第2金属層〉
本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材は、無電解銅めっき層上に、銅以外の金属(第2金属)を含む第2金属層を更に有していてよい。本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材は、無電解銅めっき層上に、銅とイオン化傾向が異なる第2金属を含む第2金属層を有することにより、抗病原体・抗アレルゲン活性が更に向上することが期待される。これは、銅と第2金属との間にガルバニック電流が発生して、抗病原体・抗アレルゲン活性種(例えばヒドロキシラジカル種)の生成が促進されることによると考えられる。
【0047】
この第2金属は、例えば、ニッケル、亜鉛、パラジウム、白金、金、銀等であってよく、これらから選択される1種又は2種以上の金属であってよく、特に、ニッケル又は銀であってよい。
【0048】
第2金属層は、無電解銅めっき層の一部の領域上に存在していてよく、無電解銅めっき層の全面上に存在していてよい。
【0049】
第2金属層の厚さは、0.2μm以上、0.3μm以上、又は0.5μm以上であってよく、10.0μm以下、8.0μm以下、又は5.0μm以下であってよい。第2金属層の厚さは、FIB-SEMによって測定することができる。
【0050】
第2金属層は、粒子状の第2金属によって構成されていてよい。粒子状の第2金属の平均粒子径は、20nm以上、50nm以上、75nm以上、又は100nm以上であってよく、200nm以下、150nm以下、120nm以下、又は100nm以下であってよい。
【0051】
第2金属層は、XPS分析によって測定される、表面のカーボン割合が少ない方が好ましく、例えば50atom%以下であってよい。
【0052】
〈抗病原体・抗アレルゲン性部材の効果〉
本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材は、病原体及びアレルゲンを極めて短時間で不活性化することができる。具体的には、例えば、以下のとおりである。
【0053】
本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材は、抗病原体・抗アレルゲン性部材と供試菌液との接触時間を10分間とする他は、ISO21702に準拠して行われる抗ウイルス試験を行い、ウイルス感染価をプラーク法によって調べたときに、99%以上のウイルスを不活性化することができる。
【0054】
また、本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材は、抗病原体・抗アレルゲン性部材と供試菌液との接触時間を60分間とする他は、JIS Z 2801に準拠して行われる抗菌試験において、99%以上の細菌を不活性化することができる。
【0055】
また、本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材は、抗病原体・抗アレルゲン性部材と供試アレルゲン液との接触時間を6時間として、ELISA法によって行われる抗アレルゲン試験において、99%以上のアレルゲンを不活性化することができる。
【0056】
更に、本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材は、JIS Z2801及びJIS R1705に準拠して行われる抗真菌試験において、80%以上の真菌を不活性化することができる。なお、この抗真菌性試験では、JIS Z2801に準拠して、抗病原体・抗アレルゲン性部材と接触させた状態で真菌を培養した後、JIS R1705に準拠して、培養後の真菌数を測定してよい。
【0057】
〈抗病原体・抗アレルゲン性部材の用途〉
本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材は、例えば、衛生・医療等の分野で用いられるマスク、エアコンのフィルター、ドアノブ、電車のつり革、モバイル機器のケース等として有用である。
【0058】
本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材を用いたドアノブ、電車のつり革、モバイル機器のケース等により、ウイルス等の接触感染のリスクが低減される。
【0059】
基材が繊維状、又は不織布状であるとき、本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材をフィルターとして使用すれば、マスク、エアコンのフィルターとして好適である。本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材を用いたマスクは、高度の抗ウイルス効果により、ウイルスへの感染リスクが低減される。本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材を用いたエアコンは、例えば、空間のウイルスの低減に極めて有用である。特に、家庭用エアコン、車両用エアコン等では、密閉空間のウイルスの低減に有用である。
【0060】
《抗病原体・抗アレルゲン性部材の製造方法》
本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材は、上述の特定を有している限り、どのような方法によって製造されたものであってもよい。
【0061】
本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材は、例えば、
(A)無電解銅めっきにより、基材上に無電解銅めっき層を形成すること(無電解銅めっき層を形成工程及び
(B)前記無電解銅めっき層表面のカーボンを除去して、XPS分析によって測定される、前記無電解銅めっき層表面のカーボン割合を、50atom%以下とすること(カ―ボン除去工程)
を含む、
抗病原体・抗アレルゲン性部材の製造方法によって製造されてよい。
【0062】
この抗病原体・抗アレルゲン性部材の製造方法は、上記の(B)カ―ボン除去工程の後に、
(C)ニッケル、亜鉛、パラジウム、白金、金、及び銀から選択される1種又は2種以上の第2金属を含む第2金属層を形成すること(第2金属層形成工程)
を更に含んでいてよい。
【0063】
以下、本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材の製造方法の各工程について、順に説明する。
【0064】
〈(A)無電解銅めっき層形成工程〉
本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材の製造方法では、(A)無電解銅めっき層形成工程において、基材上に、無電解銅めっきによって無電解銅めっき層を形成する。
【0065】
基材は、所望の抗病原体・抗アレルゲン性部材の構成に応じて、適宜に選択されてよい。したがって、基材としては、例えば、金属、無機多孔体、セラミック、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、セルロース系材料、ゴム、繊維、不織布等から選択される1種又は2種以上から構成される基材を用いてよい。
【0066】
基材上に、無電解銅めっきによって無電解銅めっき層を形成するには、基材表面を活性化した後に、無電解銅めっき処理を行う方法によってよい。
【0067】
基材表面の活性化は、基材表面に、金属コロイド粒子を付着させることによって行われてよい。この金属コロイド粒子は、無電解銅めっき処理において基材表面に銅を析出するときの触媒核として作用する。
【0068】
金属コロイド粒子に含まれる金属は、例えば、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、金、オスミウム、スズ等から選ばれる1種又は2種以上であってよい。これらのうち、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、金、及びスズから選ばれる1種又は2種以上の金属のコロイド粒子を使用することが好ましく、特に、パラジウム及びスズから選ばれる1種又は2種の金属のコロイド粒子が使用されてよい。
【0069】
金属コロイド粒子の粒径は、金属コロイド粒子の表面積を大きくして、触媒核としての高い活性を確保する観点から、50nmであってよい。
【0070】
基材表面に金属コロイド粒子を付着させるには、基材を、金属コロイド粒子を含む金属コロイド液中に浸漬することによってよい。ここで使用される金属コロイド液は、例えば、適当な溶媒中に、金属塩、還元剤、及び界面活性剤を添加することによって調製されてよい。
【0071】
金属コロイド液の溶媒は、金属コロイド液に含まれる成分の溶解性、分散性等の観点から、水、又は水と水溶性有機溶媒との混合物であってよく、典型的には水であってよい。
【0072】
金属塩は、溶媒への溶解性の観点から、所望の金属の硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物(特に塩化物)等であってよい。金属コロイド液中の金属塩の濃度は、0.01g/L以上2.00g/L以下であってよい。
【0073】
還元剤は、水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、硫化ナトリウム、ヒドラジン等の公知の還元剤から適宜選択して用いてよい。金属コロイド液の還元剤の濃度は、0.01g/L以上1.00g/L以下であってよい。
【0074】
界面活性剤は、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、及び両イオン性界面活性剤の何れであってもよい。界面活性剤として、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルアンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等を使用してよい。金属コロイド液の界面活性剤の濃度は、0.05g/L以上1.00g/L以下であってよい。
【0075】
基材を金属コロイド液に浸漬させる際、金属コロイド液の温度は、0℃以上50℃以下であってよく、典型的には室温であってよい。浸漬時間は、5分以上、10分以上、又は30分以上であってよく、6時間以下、4時間以下、又は2時間以下であってよい。
【0076】
金属コロイド液浸漬後の基材は、必要に応じて、例えばイオン交換水によって洗浄した後に、次の無電解銅めっき処理に供されてよい。
【0077】
無電解銅めっき処理では、基材を、無電解銅めっき液中に浸漬することによってよい。ここで使用される金属コロイド液は、例えば、適当な溶媒中に、銅塩、還元剤、錯化剤、及びpH調整剤、並びに必要に応じてその他の添加剤を添加することによって調製されてよい。その他の添加剤としては、例えば、緩衝剤、シアン化合物、ジピリジル、硫黄化合物、界面活性剤等が挙げられる。
【0078】
無電解銅めっき液の溶媒は、無電解銅めっき液に含まれる成分の溶解性等の観点から、水、又は水と水溶性有機溶媒との混合物であってよく、典型的には水であってよい。
【0079】
銅塩は、硫酸銅、硝酸銅、銅ハロゲン化物(例えば塩化銅)等であってよい。無電解銅めっき液中の銅塩の濃度は、5g/L以上、10g/L以上、15g/L以上、20g/L以上、25g/L以上、又は30g/L以上であってよく、150g/L以下、120g/L以下、100g/L以下、80g/L以下、60g/L以下、50g/L以下、又は40g/L以下であってよい。
【0080】
還元剤は、ホルムアルデヒド、グリシルオキシル酸、次亜リン酸ナトリウム、ヒドラジン、硝酸コバルト等であってよい。無電解銅めっき液中の還元剤の濃度は、1g/L以上、5g/L以上、10g/L以上、15g/L以上、20g/L以上、又は25g/L以上であってよく、100g/L以下、80g/L以下、60g/L以下、50g/L以下、40g/L以下、又は30g/L以下であってよい。
【0081】
錯化剤は、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸、ロッシェル塩(酒石酸ナトリウムカリウム4水和物)等であってよい。無電解銅めっき液中の錯化剤の濃度は、1g/L以上、5g/L以上、10g/L以上、又は15g/L以上であってよく、50g/L以下、40g/L以下、30g/L以下、又は20g/L以下であってよい。
【0082】
pH調製剤としては、公知の酸及び塩基を使用することができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硝酸、塩酸等から適宜に選択して使用してよい。無電解銅めっき液のpHは、使用する銅塩の種類に応じて適宜に設定されてよい。例えば、銅塩として硫酸銅を使用する場合、無電解銅めっき液はアルカリ性であってよく、そのpHは、8以上、9以上、10以上、11以上、又は12以上であってよく、14以下又は13以下であってよい。銅塩として塩化銅を使用する場合、無電解銅めっき液は酸性であってよく、そのpHは、4以上、5以上、又は6以上であってよく、7未満又は6以下であってよい。
【0083】
基材を無電解銅めっき液に浸漬させる際、無電解銅めっき液の温度は、0℃以上50℃以下であってよく、典型的には室温であってよい。浸漬時間は、5分以上、10分以上、又は20分以上であってよく、4時間以下、2時間以下、1時間以下、又は0.8時間以下であってよい。
【0084】
無電解銅めっき処理後の基材は、必要に応じて、例えばイオン交換水によって洗浄した後に、次の(B)カ―ボン除去工程に供されてよい。
【0085】
〈(B)カ―ボン除去工程〉
(B)カ―ボン除去工程では、無電解銅めっき層表面のカーボンを除去して、XPS分析によって測定される、前記無電解銅めっき層表面のカーボン割合を50atom%以下とする。
【0086】
(B)カ―ボン除去工程における無電解銅めっき層表面のカーボンの除去は、乾式法及び湿式法のどちらで行ってもよい。乾式法としては、例えば、プラズマ照射処理等が挙げられる。湿式法としては、例えば、中性洗剤による洗浄処理、超音波印加処理、有機溶媒による洗浄処理等が挙げられる。無電解銅めっき層表面のカーボンの除去は、上記から選択される1種又は2種以上の洗浄処理によって行われてよい。
【0087】
プラズマ照射処理は、大気圧下又は減圧下における化学的汚染除去であっても、減圧下における物理的汚染除去であってもよい。化学的汚染除去は、例えば、空気プラズマ、酸素プラズマ、水素プラズマ等によって行われてよい。物理的汚染除去は、例えば、アルゴンプラズマ等によって行われてよい。プラズマ照射処理は、市販のプラズマクリーナーを用いて行われてよい。
【0088】
中性洗剤による洗浄処理は、無電解銅めっき層の表面を、所定の濃度に調整された中性洗剤溶液と接触させることにより行われてよい。接触は、典型的には、無電解銅めっき層を有する基材を中性洗剤溶液中に浸漬することによって行われてよい。このとき、中性洗剤溶液の撹拌、中性洗剤溶液への超音波の印加、中性洗剤溶液へのマイクロバブルの導入等を併用してよい。
【0089】
超音波印加処理は、無電解銅めっき層を有する基材を中性洗剤溶液中に浸漬した状態で、超音波を印加することによって行われてよい。超音波印加処理は、市販の超音波洗浄機を用いて行われてよい。
【0090】
有機溶媒による洗浄処理は、無電解銅めっき層の表面を、有機溶媒と接触させることにより行われてよい。接触は、典型的には、無電解銅めっき層を有する基材を有機溶媒中に浸漬することによって行われてよい。洗浄処理に用いられる有機溶媒としては、無電解銅めっき層中に取り込まれている錯化剤、還元剤等の溶解性の観点から、水溶性有機溶媒であってよい。有機溶媒は、具体的には、例えば、ジエチルエーテル、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等であってよい。
【0091】
洗浄処理に用いられる有機溶媒には、有機溶媒洗浄の効果を損なわない範囲で、水が含まれていてもよい。
【0092】
有機溶媒による洗浄処理を行う際、有機溶媒の撹拌、有機溶媒への超音波の印加、有機溶媒へのマイクロバブルの導入等を併用してよい。
【0093】
〈(C)第2金属層形成工程〉
本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材の製造方法では、(B)カ―ボン除去工程の後に、(C)第2金属層形成工程を更に行ってよい。この(C)第2金属層形成工程では、(B)カ―ボン除去工程後の無電解銅めっき層上に、ニッケル、亜鉛、パラジウム、白金、金、及び銀から選択される1種又は2種以上の第2金属を含む第2金属層が形成される。
【0094】
第2金属層に含まれる第2金属が、銅よりもイオン化傾向の大きい金属である場合、すなわち、第2金属がニッケル又は亜鉛であるとき、第2金属層の形成は、電解めっきによって行われてよい。この電解めっきは、第2金属の種類に応じて、公知の方法によって行われてよい。
【0095】
一方、第2金属層に含まれる第2金属が、銅よりもイオン化傾向の小さい金属である場合、すなわち、第2金属がパラジウム、白金、金、又は銀であるとき、第2金属層の形成は、無電解めっきによって行われてよい。この無電解めっきは、第2金属の種類に応じて、公知の方法によって行われてよい。
【0096】
なお、上述のとおり、第2金属層は表面のカーボン割合が少ない方が好ましい。したがって、第2金属層の形成を無電解めっきによって行う場合、無電解めっきのためのめっき浴は、実質的に有機物を含まないことが望ましい。
【0097】
また、第2金属層についても、無電解銅めっき層と同様のカ―ボン除去工程を行ってもよい。
【実施例0098】
I.無電解銅めっき層及び第2金属層の分析方法
下記の比較例及び実施例において、無電解銅めっき層及び第2金属層の厚さ、並びにこれらの層に含まれる金属粒子の粒径は、それぞれ、以下のようにして分析した。
【0099】
(1)層の厚さ
無電解銅めっき層及び第2金属層の厚さは、それぞれ、集束イオンビーム走査電子顕微鏡(FIB-SEM)を用い、イオンビームにより試料を切削加工しながら、露出した表面(断面)についてSEM観察を行うことにより、測定した。
【0100】
(2)無電解銅めっき層及び第2金属層に含まれる金属粒子の平均粒子径
無電解銅めっき層及び第2金属層に含まれる金属粒子の平均粒子径は、それぞれ、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)を用いて得られた画像から、平均値として算出した。
【0101】
II.抗病原体・抗アレルゲン性部材の製造
以下の実施例及び比較例では、後述の各評価に適合するサイズ及び形状の基材を用い、評価ごとにそれぞれ個別の抗病原体・抗アレルゲン性部材を製造した。
【0102】
《比較例1》
比較例1では、特許文献2(特開2018-123109号公報)の実施例1に準拠して、抗病原体・抗アレルゲン性部材の製造を行った。
【0103】
(1)基材表面の前処理
イオン交換水1L中に、濃度0.5g/Lの塩化パラジウム(II)水溶液162mgを投入して撹拌し、希釈液を得た。得られた希釈液を撹拌しながら、ここに、濃度1質量%のステアリルトリメチルアンモニウムクロリド水溶液10mL、濃度0.15質量%の水素化ホウ素ナトリウム水溶液50mLをこの順に加えて、パラジウムコロイド液を調製した。
【0104】
基材としてのステンレス板を、得られたパラジウムコロイド液100mL中に室温にて1時間浸漬した。1時間後、ステンレス板を引き上げ、イオン交換水で洗浄後、100℃、空気中で乾燥して、表面にパラジウムコロイド粒子が付着したステンレス板を得た。
【0105】
(2)無電解銅めっき層の形成
イオン交換水1L中に、下記の成分を添加して溶解し、無電解銅めっき液を調製した。
硫酸銅(II)五水和物 30.0g、
ホルマリン(35~38質量%ホルムアルデヒド水溶液) 69.0g、
酒石酸ナトリウムカリウム四水和物 141.1g、
水酸化ナトリウム 40g、
炭酸ナトリウム 25.4g、及び
エチレンジアミン四酢酸 16.7g。
【0106】
得られた無電解銅めっき液200mLに、パラジウムコロイド粒子が付着したステンレス板を室温にて30分浸漬して、無電解銅めっき処理を行った。30分後、ステンレス板を引き上げ、イオン交換水100mL中に浸漬し、5分間撹拌して洗浄を行った。その後、105℃、空気中で1時間乾燥することにより、基材であるステンレス板の表面に、無電解銅めっき層を形成した。この無電解銅めっき層を有するステンレス板を、比較例1の抗病原体・抗アレルゲン性部材として用いた。FIB-SEM測定の結果、この抗病原体・抗アレルゲン性部材における無電解銅めっき層の厚さは約0.50μmであり、この無電解銅めっき層に含まれる銅は平均粒子径約100nmの粒子状であった。
【0107】
《比較例2》
(1)基材表面の前処理
Pd金属換算の濃度0.5g/Lの硝酸パラジウム(II)水溶液100mL中に、ステンレス板を室温にて1時間浸漬して、ステンレス板の表面に硝酸パラジウムを吸着させた。次いで、ステンレス板を引き上げ、イオン交換水中に浸漬し、1分間の撹拌により洗浄した後、150℃にて1時間加熱して、硝酸を分解した。更に、上記処理後のステンレス板を、濃度0.1質量%の水素化ホウ素ナトリウム水溶液中に、室温にて10分間浸漬して、ステンレス板表面のPdを還元することにより、表面にPd金属が付着したステンレス板を得た。
【0108】
(2)無電解銅めっき層の形成
無電解銅めっき液としては、奥野製薬工業(株)製の無電解銅めっき液「化学銅500」を用いた。「化学銅500A」100mLにイオン交換水600mLを加えて希釈した後、「化学銅500B」100mLを添加して混合し、無電解銅めっき液を調製した。
【0109】
得られた無電解銅めっき液200mLに、Pd金属が付着したステンレス板を室温(25℃)にて30分浸漬して、無電解銅めっき処理を行った。この無電解銅めっき処理中、めっき液の撹拌、及び液中への銅の析出防止のために、無電解銅めっき液に、撹拌のためエアーバブリングを行った。無電解銅めっき処理後のステンレス板を無電解銅めっき液から引き上げた後、余分な液滴をエアガンで吹き払い、室温で一昼夜(24時間)静置して乾燥させることにより、比較例2の抗病原体・抗アレルゲン性部材を得た。
【0110】
比較例2の抗病原体・抗アレルゲン性部材における無電解銅めっき層の厚さは0.50μmであり、この無電解の銅めっき層に含まれる銅は平均粒子径約80nmの粒子状であった。
【0111】
《比較例3》
比較例2と同様の方法によって得られた、無電解銅めっき層を有するステンレス板の無電解銅めっき層上に、銀の無電解めっき処理を行い、第2金属層を形成した。
【0112】
銀の無電解めっき処理は、無電解銅めっき層を有するステンレス板を、濃度0.1mol/Lの硝酸銀水溶液中に浸漬し、室温にて1時間撹拌することによって行った。めっき処理後のステンレス板をめっき浴から引き上げ、イオン交換水で十分に洗浄した後に、自然乾燥させた。以上の操作により、ステンレス板上に、無電解銅めっき層、及び第2金属層としての銀層をこの順に有する、比較例3の抗病原体・抗アレルゲン性部材を得た。
【0113】
比較例3の抗病原体・抗アレルゲン性部材における銀層の厚さは0.15μmであり、この銀層に含まれる銀は平均粒子径約60nmの粒子状であった。
【0114】
《比較例4》
基材として、ステンレス板の代わりに不織布E90(倉敷繊維加工(株)製、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする不織布、厚み約3mm)を用いた他は、比較例2と同様にして、不織布を構成する繊維の表面に無電解銅めっき層を形成した。この無電解銅めっき層を有する不織布を、比較例4の抗病原体・抗アレルゲン性部材として用いた。
【0115】
比較例4の抗病原体・抗アレルゲン性部材における無電解銅めっき層の厚さは0.5μmであり、この無電解の銅めっき層に含まれる銅は平均粒子径約80nmの粒子状であった。
【0116】
《実施例1》
比較例1と同様の方法によって、ステンレス板の表面に、無電解銅めっき層を形成した。得られた無電解銅めっき層に対し、E.A.Fischione Instruments,Inc.社製のプラズマクリーナー、形式名「Fischione SP1200」を用いて、以下の条件でプラズマを照射して、実施例1の抗病原体・抗アレルゲン性部材を得た。
イオンエネルギー 12eV
周波数 13.56MHz
ガス種 Ar(アルゴン)/O(酸素)=75vol%/25vol%
プラズマ照射時間 10分間
【0117】
なお、実施例1の抗病原体・抗アレルゲン性部材において、無電解銅めっき層の厚さ、及び無電解銅めっき層に含まれる銅粒子の粒径は、プラズマ照射の前後で実質的な変化はなかった。
【0118】
実施例1で得られた抗病原体・抗アレルゲン性部材の無電解銅めっき層のSEM像を、図1に示す。
【0119】
《実施例2》
比較例2と同様の方法によって、表面にPd金属が付着したステンレス板を作製し、このステンレス板に対して、無電解銅めっき処理を行った。無電解銅めっき処理後のステンレス板を無電解銅めっき液から引き上げた後、余分な液滴をエアガンで吹き払った。その後、アズワン(株)製、「Navis」ブランドの業務用中性洗剤、「Sani-Clear」をイオン交換水で10倍に希釈した溶液中に、無電解銅めっき処理後のステンレス板を浸漬し、5分間撹拌して洗浄を行った。次いで、無電解銅めっき層にイオン交換水をかけ流して中性洗剤を洗い流した後、40℃の温風を当てて乾燥させることにより、実施例2の抗病原体・抗アレルゲン性部材を得た。
【0120】
実施例2の抗病原体・抗アレルゲン性部材において、無電解銅めっき層の厚さ、及び無電解銅めっき層に含まれる銅粒子の粒径は、洗浄の前後で実質的な変化はなかった。
【0121】
《実施例3》
比較例2と同様の方法によって、表面にPd金属が付着したステンレス板を作製し、このステンレス板に対して、無電解銅めっき処理を行った。無電解銅めっき処理後のステンレス板を無電解銅めっき液から引き上げた後、余分な液滴をエアガンで吹き払った。その後、イオン交換水100mL中に、無電解銅めっき処理後のステンレス板を浸漬し、超音波洗浄機を用いて、4,600Hzにて5分間の超音波洗浄処理を行った。次いで、余分な水滴を吹き払い、40℃の温風を当てて乾燥させることにより、実施例3の抗病原体・抗アレルゲン性部材を得た。
【0122】
実施例3の抗病原体・抗アレルゲン性部材において、無電解銅めっき層の厚さ、及び無電解銅めっき層に含まれる銅粒子の粒径は、洗浄の前後で実質的な変化はなかった。
【0123】
《実施例4》
比較例2と同様の方法によって、表面にPd金属が付着したステンレス板を作製し、このステンレス板に対して、無電解銅めっき処理を行った。無電解銅めっき処理後のステンレス板を無電解銅めっき液から引き上げた後、余分な液滴をエアガンで吹き払った。その後、アセトン中に、無電解銅めっき処理後のステンレス板を浸漬し、10分間撹拌して洗浄を行った。次いで、余分なアセトンを吹き払った後、イオン交換水中にステンレス板を浸漬し、1分間撹拌して洗浄を行った。更に、余分な水滴を吹き払い、40℃の温風を当てて乾燥させることにより、実施例4の抗病原体・抗アレルゲン性部材を得た。
【0124】
実施例4の抗病原体・抗アレルゲン性部材において、無電解銅めっき層の厚さ、及び無電解銅めっき層に含まれる銅粒子の粒径は、洗浄の前後で実質的な変化はなかった。
【0125】
《実施例5》
比較例2と同様の方法によって得られた無電解銅めっき層を有するステンレス板を用いた他は、実施例1と同様にしてプラズマ照射を行うことにより、実施例5の抗病原体・抗アレルゲン性部材を得た。
【0126】
実施例5の抗病原体・抗アレルゲン性部材において、無電解銅めっき層の厚さ、及び無電解銅めっき層に含まれる銅粒子の粒径は、プラズマ照射の前後で実質的な変化はなかった。
【0127】
《実施例6》
実施例2と同様の方法によって得られた、無電解銅めっき層を有するステンレス板の無電解銅めっき層に、銀の無電解めっき処理を行って、ステンレス板上に、無電解銅めっき層、及び第2金属層としての銀層をこの順に有する、実施例6の抗病原体・抗アレルゲン性部材を得た。銀の無電解めっき処理は、比較例3と同様にして行った。
【0128】
実施例6の抗病原体・抗アレルゲン性部材における銀層の厚さは0.15μmであり、この銀層に含まれる銀は平均粒子径約60nmの粒子状であった。
【0129】
《実施例7》
実施例2と同様の方法によって得られた、無電解銅めっき層を有するステンレス板の無電解銅めっき層に、ニッケルの電解めっき処理を行った。
【0130】
無電解銅めっき層を有するステンレス板を、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、及びホウ酸を含有するワット浴中に浸漬した。50mm×50mm×1mmのPt電極のカソード側をステンレス板に、アノード側を対極に、それぞれ接続した。そして、0.1Aの電流を30分間通電して、ニッケルの電解めっき処理を行った。めっき処理後のステンレス板をめっき浴から引き上げ、イオン交換水で十分に洗浄した後に、自然乾燥させることにより、ステンレス板上に、無電解銅めっき層、及び第2金属等としてのニッケル層をこの順に有する、実施例7の抗病原体・抗アレルゲン性部材を得た。
【0131】
実施例7の抗病原体・抗アレルゲン性部材におけるニッケル層の厚さは0.15μmであり、このニッケル層に含まれるニッケルは平均粒径約50nmの粒子状であった。
【0132】
《実施例8》
比較例4と同様の方法によって、不織布を構成する繊維の表面に、無電解銅めっき処理を行った。無電解銅めっき処理後の不足布を無電解銅めっき液から引き上げた後、余分な液滴を回転式の吹き払い装置によって吹き払った。次いで、実施例2におけるのと同様の条件下で、中性洗剤洗浄及びイオン交換水洗浄処理を行った後、余分な水滴を吹き払い、40℃の温風を当てて乾燥させることにより、実施例8の抗病原体・抗アレルゲン性部材を得た。
【0133】
実施例8の抗病原体・抗アレルゲン性部材において、無電解銅めっき層の厚さ、及び無電解銅めっき層に含まれる銅粒子の粒径は、洗浄の前後で実質的な変化はなかった。
【0134】
実施例8で得られた抗病原体・抗アレルゲン性部材のFIB-SEM像を図2に示す。
【0135】
【表1】
【0136】
III.抗ウイルス性の評価
抗ウイルス性の評価では、直径30mm、厚み1mmの円盤状の基材を用いて得られた抗病原体・抗アレルゲン性部材を評価用試料とした。これら評価用試料の無電解銅めっき層表面又は第2金属層表面について、評価用試料と供試菌液との接触時間を10分間とする他は、ISO21702に準拠して行われる抗ウイルス試験を行い、ウイルス感染価をプラーク法によって調べた。供試ウイルス液としては、A型インフルエンザウイルス(Influenza A virus、A/PR/8/34、ATCC VR-1469)をリン酸緩衝液で希釈したものを使用した。
【0137】
保湿シャーレの底面に、滅菌水を含侵させたろ紙を敷き、ガラス製のU字管を置いた上に、無電解銅めっき処理面を上に向けて評価用試料を載置した。評価用試料の無電解銅めっき処理面上に、供試ウイルス液0.15mLを接種し、その上に、30mm角のポリプロピレン製のカバーフィルムを載せ、評価用試料の無電解銅めっき処理面と供試ウイルス液との接触効率を高めた。この状態でシャーレに蓋をして、室温にて10分間静置した。
【0138】
その後、評価用試料をストマッカー用袋中に回収し、SCDLP培地10mLを加え、評価用試料からウイルスを誘出して、得られた液を、ウイルス感染価測定用の試料原液として用いた。リン酸緩衝液を用いてこの試料原液を10倍段階希釈して、原液、及び100,000(10万)倍希釈までの6種類の濃度のサンプルを得た。
【0139】
感染価測定用の細胞株としては、イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来細胞(MDCK(Madin Darby Canine Kidney)細胞)を用いた。予め12ウェルプレートの各ウェルに、MDCK細胞を播種して、COインキュベータ中で35℃にて4日間(96時間)培養しておいた。
【0140】
ウイルス感染価測定用の試料原液、及びこれを10倍段階希釈して得られた各濃度のサンプル1.0mLを、それぞれ2ウェルずつ摂取し、37℃にて1時間静置して、細胞にウイルスを感染させた。
【0141】
感染後の細胞について、クリスタルバイオレットを加えたメタノールによる染色を行った後、ウイルスの増殖によって形成されたプラークの数を計測して、試験片当たりのウイルス感染価(VIT)(単位:PFU(Plague Formation Unit)/試験片)を求めた。
【0142】
各実施例及び比較例の評価用試料の代わりに、無加工品(無電解銅めっきを行っていない、直径30mm、厚み1mmのガラス板)を用いた他は、上記と同じ手法により、試験片当たりのウイルス感染価を求め、得られた値を無加工品の感染価(VIT)とした。
【0143】
また、初期感染価の測定のために、評価用試料と接触させていない供試ウイルス液0.15mLに、SCDLP培地10mLを加えて得られた液について、上記と同様の10倍段階希釈により、6種類の濃度のサンプルを得た。これらのサンプル各1.0mLを用いて、上記と同じ手法により、予め12ウェルプレートにて培養しておいたMDCK細胞にウイルスを感染させて、試験片当たりのウイルス感染価を求め、得られた値を初期感染価(VIT)とした。
【0144】
上記で得られた評価用試料についてのウイルス感染価、無加工品の感染価、及び評価用試料と接触させていない供試ウイルス液による初期感染価を用いて、下記数式によって、抗病原体・抗アレルゲン性部材の感染価対数減少値(LRV)及び無加工品の感染価対数減少値(LRV)を求め、これらの値から算出したウイルス不活性化率(%)を、抗ウイルス性の指標とした。
LRV=log10(VIT/VIT
LRV=log10(VIT/VIT
ウイルス不活性化率(%)={1-(1/10(LRVS-LRVR)}×100
【0145】
比較例1、及び各実施例についての抗病原体・抗アレルゲン性部材のウイルス除去率を、表2に示す。
【0146】
なお、プラーク法によるウイルス感染価の検出限界は、1試料当たりのPFU値として1.5×10程度である。したがって、表1において、ウイルス不活性化率が99.99%超(>99.99%)であるとは、プラーク法によって検出可能な数のウイルスが存在していなかったことを意味する。
【0147】
【表2】
【0148】
IV.抗菌性の評価
抗菌性の評価では、比較例2、並びに実施例2及び6において、それぞれ、直径30mm、厚み1mmの円盤状の基材を用いて得られた抗病原体・抗アレルゲン性部材を評価用試料とした。これら評価用試料の無電解銅めっき処理面について、評価用試料と供試菌液との接触時間を60分間とする他は、JIS Z 2801に準拠して抗菌試験を行った。供試菌液としては、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus IID 1677:MRSA)を精製水で希釈して、菌濃度を約1×10個/mLに調整した溶液を用いた。
【0149】
保湿シャーレの底面に、滅菌水を含侵させたろ紙を敷き、ガラス製のU字管を置いた上に、評価用試料を載置した。評価用試料の面上に供試菌液0.2mLを接種し、シャーレに蓋をして、室温にて60分間静置して培養した。
【0150】
60分間培養後の試料をストマッカー用袋中に回収し、SCDLP培地10mLを加え、評価用試料から細菌を洗い出した。得られた液を、菌数測定用の試料原液として用いた。リン酸緩衝液を用いてこの試料原液を10倍段階希釈して、10倍希釈系列のサンプルを得た。
【0151】
各濃度のサンプルを、それぞれSCDLP寒天培地と混合してシャーレに分注して、インキュベータ中、35℃にて2日間(48時間)培養した。培養後のシャーレに発生したコロニー数をカウントし、評価用試料1枚当たりの菌数に換算した。
【0152】
また、各実施例及び比較例の評価用試料の代わりに、無加工品(無電解銅めっきを行っていない30mm径の円形のガラス板)を用いた他は、上記と同じ手法により、コロニー数をカウントし、1枚当たりの菌数に換算した。
【0153】
そして、評価用試料の菌数を無加工品の菌数で除して、百分率で表した数値を、菌不活性化率(%)として評価した。
【0154】
得られた結果を、表3に示す。
【0155】
【表3】
【0156】
V.抗アレルゲン性の評価
抗アレルゲン性の評価では、比較例2、並びに実施例2及び6において、それぞれ、30mm×30mmの矩形の基材を用いて得られた抗病原体・抗アレルゲン性部材を評価用試料とした。これら評価用試料の無電解銅めっき処理面について、抗アレルゲン性を、ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)法によって調べた。測定には、富士フィルムワコーシバヤギ(株)製のイムノアッセイキット(品名「レビス Cryj1 ELISA Kit」)を用い、供試アレルゲンとしては、スギアレルゲン(Cryj1)を精製水で希釈した溶液を用いた。
【0157】
保湿シャーレの底面に、滅菌水を含侵させたろ紙を敷き、ガラス製のU字管を置いた上に、評価用試料を載置した。評価用試料の面上に供試アレルゲン液0.2mLを滴下し、シャーレに蓋をして、室温にて6時間静置した。その後、試料面のアレルゲン濃度をELISA法によって測定した。
【0158】
また、各実施例及び比較例の評価用試料の代わりに、無加工品(無電解銅めっきを行っていない30mm×30mmのガラス板)を用いた他は、上記と同じ手法により、試料面のアレルゲン濃度を調べた。
【0159】
そして、評価用試料のアレルゲン濃度を無加工品のアレルゲン濃度で除して、百分率で表した数値を、アレルゲン不活性化率(%)として評価した。
【0160】
得られた結果を、表4に示す。
【0161】
【表4】
【0162】
VI.抗真菌性の評価
抗真菌性の評価では、比較例2、並びに実施例2及び6において、それぞれ、50mm×50mmの矩形の基材を用いて得られた抗病原体・抗アレルゲン性部材を評価用試料とした。これら評価用試料の無電解銅めっき処理面について、抗真菌性を、JIS Z2801及びJIS R1705に準拠して調べた。
【0163】
すなわち、JIS Z2801に準拠して、抗病原体・抗アレルゲン性部材と接触させた状態で真菌を培養した後、JIS R1705に準拠して、培養後の真菌数を測定した。具体的には、以下の操作を行った。
【0164】
真菌種としては、カビ抵抗性試験用菌株Aspergillus niger NBRC105649(クロコウジカビ)を用いた。これを、ポテトデキストロース寒天培地上、26±2℃の範囲の温度において、7日間培養した。培養により発育した真菌のコロニーをかき取り、濃度0.005質量%のスルホこはく酸ジオクチルナトリウム水溶液中に懸濁して、真菌濃度を約10個/mLに合わせたものを、供試菌液として用いた。ここで用いたスルホこはく酸ジオクチルナトリウム水溶液は、富士フィルム和光純薬(株)製の商品名「エーロゾルOT」(スルホこはく酸ジオクチルナトリウム75.0質量%含有)を希釈して調製した。
【0165】
直径90mmの滅菌シャーレ内に評価用試料を置き、供試菌液0.1mLを接種し、その上に、40mm角のポリプロピレン製のカバーフィルムを載せて、評価用試料の供試面と供試菌液との接触効率を高めた。この状態でシャーレに蓋をして、室温にて24時間静置した。
【0166】
その後、評価用試料を、SCDLP培地10mLを入れたストマッカー用袋中に回収し、評価用試料から真菌を誘出して、得られた液を、抗カビ性評価用の試料原液として用いた。
【0167】
エーロゾルOTを用いて調製した、0.005質量%のスルホこはく酸ジオクチルナトリウムを含有する生理食塩水を用いて、上記で得られた試料原液を10倍段階希釈して、10倍希釈系列のサンプルを得た。
【0168】
各濃度のサンプルを、それぞれPDA培地約20mLと混合してシャーレに分注して、インキュベータ中、26±2℃にて1週間培養した。培養後のシャーレに発生したコロニー数をカウントし、評価用試料面1cm当たりの真菌数に換算した。なお、この方法の検出限界は、0.63個/cmである。
【0169】
以上の評価結果を表5に示す。
【0170】
【表5】
【0171】
VII.表面カーボン割合の測定
表面カーボン割合の測定では、比較例1及び2、並びに実施例1~5において、それぞれ、50mm×50mmの矩形の基材を用いて得られた抗病原体・抗アレルゲン性部材を評価用試料とした。これら評価用試料の無電解銅めっき処理面について、XPS(X線光電子分光分析)によって表面カーボン割合を調べた。測定条件は、以下のとおりとした。
測定装置:(株)アルバック製、多機能走査型X線光電子分光分析装置、型式名「PHI5000Versa-Probe II」
線源:Monochromated Al Kα、Φ100μm、25W、15kV
チャンバー真空度:2~5×10-7Pa
エネルギー軸補正:C1s 284.8eV
【0172】
結果を表6に示した。表6には、上記「II.抗ウイルス性の評価」で得られたウイルス不活性化率を合わせて示す。また、表面カーボン割合とウイルス不活性化率との関係を示すグラフを、図3に示す。
【0173】
【表6】
【0174】
上記の表2~6の結果から、基材表面上に無電解銅めっき層を有し、この無電解銅めっき層表面のカーボン割合が50atom%以下である、本発明の抗病原体・抗アレルゲン性部材は、優れた抗ウイルス性、抗菌性、抗アレルゲン性、及び抗真菌性を示すことが検証された。また、表2に見られるように、基材がステンレスプレートである場合のみならず、不織布を基材とする場合であっても、同様の優れた効果が確認された。
図1
図2
図3