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特開2023-108930熱可塑性樹脂フィルム、粘着フィルム、および半導体製造工程用粘着フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108930
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂フィルム、粘着フィルム、および半導体製造工程用粘着フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20230731BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20230731BHJP
   C09J 7/24 20180101ALI20230731BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20230731BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230731BHJP
   C08L 23/02 20060101ALI20230731BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20230731BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
B32B27/30 B
H01L21/78 M
C09J7/24
C09J7/38
B32B27/32
C08L23/02
C08L53/02
B32B27/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010249
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】503048338
【氏名又は名称】ダイヤプラスフィルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】川口 祐二
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J004
5F063
【Fターム(参考)】
4F100AK03
4F100AK03A
4F100AK07
4F100AK07A
4F100AK12
4F100AK12A
4F100AL09
4F100AL09A
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100CB05
4F100CB05B
4F100EH17
4F100GB07
4F100GB32
4F100GB41
4F100JK02
4F100JK07
4F100JK08
4F100JL13
4F100JL13B
4F100YY00A
4J002BB031
4J002BB051
4J002BB121
4J002BB141
4J002BP012
4J002GJ01
4J002GQ00
4J004AB01
4J004CA03
4J004CA04
4J004CB03
4J004CC02
4J004FA05
5F063AA15
5F063AA18
5F063DG25
5F063EE04
5F063EE07
5F063EE08
5F063EE27
(57)【要約】
【課題】
ダイシング時における切削屑の抑制だけでなく、フィルムをカットする工程におけるバリや屑の発生を抑制することのできる熱可塑性樹脂フィルムを提供すること。
【解決手段】
熱可塑性樹脂フィルムにおいて、ポリオレフィン系樹脂及びスチレン成分の含有量が50質量%以上のスチレン系エラストマー(β)を含む熱可塑性樹脂100質量%に対する、スチレン系エラストマー(β)の含有量が25質量%以上である樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有し、かつ2以上の層を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂及びスチレン成分の含有量が50質量%以上のスチレン系エラストマー(β)を含む熱可塑性樹脂100質量%に対する、スチレン系エラストマー(β)の含有量が25質量%以上である樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有し、かつ2以上の層を有することを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項2】
フィルムの全質量中のスチレン系エラストマー(β)の含有量が20質量%以上である請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂およびオレフィン系エラストマーから選択される1種以上である、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂として、スチレン成分の含有量が50質量%未満のスチレン系エラストマーをさらに含有する、請求項1~3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項5】
熱可塑性樹脂フィルムの引張弾性率が500MPa以下、引張破断伸度が400%以上であり、且つJIS K7128-1(1998)に準拠して測定したトラウザー引き裂き強度が120N/mm以下である、請求項1~4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片方の面に粘着層を設けてなる粘着フィルム。
【請求項7】
請求項6に記載の粘着フィルムを用いた半導体製造工程用粘着フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造工程で使用される粘着フィルム(テープ)、看板、自動車等へ意匠性を付与するために貼り付けされるステッカー、ラベル及びマーキングフィルム等の化粧用粘着フィルム(テープ)、又は化粧シート等の基材として好適に用いられる熱可塑性樹脂フィルム、当該熱可塑性樹脂フィルムに粘着剤層を設けた粘着フィルム、及び当該熱可塑性樹脂フィルムに印刷層を設けた化粧フィルム等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造工程で使用される粘着フィルム(テープ)、看板、自動車等へ意匠性を付与するために貼り付けされるステッカー、ラベル及びマーキングフィルム等の化粧用粘着フィルム(テープ)、化粧シート等には、着色性、加工性、耐傷付き性、耐候性等が優れるポリ塩化ビニル樹脂製のフィルム(以下、「PVC系フィルム」ともいう。)が基材として多用されてきた。
【0003】
上記PVC系フィルムは、それ自体剛性を有しているが、粘着フィルムとして機能し得るよう、柔軟性付与の目的で可塑剤が添加される。しかしながら、用いる可塑剤によっては、粘着剤との相溶性が悪く、粘着フィルムとした場合に安定性が悪く、可塑剤のブリードアウトが著しくなるという問題がある。また、可塑剤の使用自体に規制が強まる傾向もある。
そこで、PVC系フィルムに代わる材料として、ポリオレフィン系樹脂フィルムが広く用いられてきている。
【0004】
また、半導体を製造する工程においても、半導体ウエハやパッケージ等を切断する際に半導体ウエハ加工用の粘着フィルムが用いられており、上記のような問題からポリオレフィン系樹脂フィルムが用いられるケースが増加している。
このような半導体製造工程用のフィルムとして、PVC系、ポリオレフィン系樹脂を用いたフィルムが開発されている(例えば特許文献1)。
【0005】
近年、半導体素子の小型化・薄型化が進み、加工時のチップの破損やエキスパンド時のチップの紛失を抑制するために、フィルムに取扱い性や十分なエキスパンド性を求められるケースが増加している。
また、ウエハやチップを分割する際の回転するブレードを用いたブレードダイシングの際に、フィルムの切削屑の発生の抑制を求められることが多い。また、ダイシング工程だけでなく、バックグラインド工程やその他の工程において、フィルムをウエハのサイズに合わせて所定の大きさに事前にカットするプレカットの工程や、ダイシングを行った後にエキスパンドを行い、フィルムをカットするといった工程においても、カットしたフィルムの端面に発生するバリや屑の抑制を求められるケースも増加している。
【0006】
特許文献2には、低温でもエキスパンド性を維持するためにポリエチレン系樹脂およびスチレン系エラストマーを用いたダイシング用基体フィルムが開示されている。
特許文献3には、帯電防止性能の付与および柔軟性と耐熱性に優れた半導体製造工程用基材フィルムが開示されている。
また、特許文献4には、カット性と透明性に優れる半導体製造工程用フィルムが開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載のフィルムにはポリエチレン系樹脂およびスチレン系エラストマーが使用されているものの、エキスパンド性やフィルムのカット時のバリや屑の発生の抑制との両立の観点からは、ポリオレフィン系樹脂およびスチレン系エラストマーの種類や添加量、それらを用いた複層フィルムの各層の構成に改善の余地があるものと推察される。
特許文献3に記載されているフィルムでは、帯電防止性能や耐熱性には優れるものの、特許文献2と同様にバリや屑の抑制に対する対策はなされておらず、改善の余地があるものと推察される。
また、特許文献4に記載のフィルムは、特定の樹脂やエラストマーを有し、カット性に優れると記載されているものの、単層のフィルムであることから、耐熱性やエキスパンド性、フィルムのカット性のバリや屑の発生の抑制といった各種の物性を付与やそれらの調整を行うことが難しいと考えられるため、必要とされる性能の付与に関し、改善の余地のあるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平09-008111号公報
【特許文献2】特開2018-125521号公報
【特許文献3】特開2020-84143号公報
【特許文献4】特許第6535573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑みて、半導体製造工程におけるダイシング時の切削屑の抑制だけでなく、半導体製造工程前に事前にフィルムをカットするプレカット工程や、エキスパンド後にフィルムをカットする工程におけるフィルムのバリや屑の発生をも抑制可能な熱可塑性樹脂フィルムを提供することを課題とする。また、本発明は、該熱可塑性樹脂フィルムに粘着剤層を設けることで、半導体製造工程用に好適に用いることができる粘着フィルムを提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、ポリオレフィン系樹脂と特定のスチレン系エラストマーを用いることで、ダイシング時における切削屑の抑制だけでなく、フィルムをカットする工程におけるバリや屑の発生を抑制した熱可塑性樹脂フィルムを鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]
ポリオレフィン系樹脂及びスチレン成分の含有量が50質量%以上のスチレン系エラストマー(β)を含む熱可塑性樹脂100質量%に対する、スチレン系エラストマー(β)の含有量が25質量%以上である樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有し、かつ2以上の層を有することを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
[2]
フィルムの全質量中のスチレン系エラストマー(β)の含有量が20質量%以上である [1]に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
[3]
前記ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂およびオレフィン系エラストマーから選択される1種以上である[1]または[2]に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
[4]
前記熱可塑性樹脂として、スチレン成分の含有量が50質量%未満のスチレン系エラストマーをさらに含有する[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
[5]
熱可塑性樹脂フィルムの引張弾性率が500MPa以下、引張破断伸度が400%以上であり、且つJIS K7128-1(1998)に準拠して測定したトラウザー引き裂き強度が120N/mm以下である[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片方の面に粘着層を設けてなる粘着フィルム。
[7]
[6]に記載の粘着フィルムを用いた半導体製造工程用粘着フィルム。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムを用いることで、半導体製造工程におけるダイシング時の切削屑の抑制だけでなく、半導体製造工程前に事前にフィルムをカットするプレカット工程や、エキスパンド後にフィルムをカットする工程におけるフィルムのバリや屑の発生をも抑制可能な熱可塑性樹脂フィルムを提供することが可能となり、該熱可塑性樹脂フィルムを半導体製造工程用に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明について詳述するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。尚、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、ポリオレフィン系樹脂及びスチレン成分の含有量が50質量%以上のスチレン系エラストマー(β)を含む熱可塑性樹脂100質量%に対する、スチレン系エラストマー(β)の含有量が25質量%以上である樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有し、かつ2以上の層を有することを特徴とする(以下、「本発明の熱可塑性樹脂フィルム」とも言う)。
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、ポリオレフィン系樹脂及びスチレン成分の含有量が50質量%以上のスチレン系エラストマー(β)を含む樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有し、当該層の樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の総含有量、即ち、ポリオレフィン系樹脂及びスチレン成分の含有量が50質量%以上のスチレン系エラストマー(β)を含む熱可塑性樹脂100質量%に対して、当該スチレン系エラストマー(β)の含有量が25質量%以上であることが重要である。以下、上記の要件を備える層を「層A」とも言う。
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムでは、層A及びその他の層においてポリオレフィン系樹脂が含有される。ポリオレフィン系樹脂は入手のしやすさ、耐熱性や柔軟性の調整が比較的容易であることから好適に用いられる。
【0016】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、オレフィン系エラストマーが、入手のし易さや柔軟性、取り扱い性、経済性等の観点から好適に用いられる。中でもポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂が、入手のし易さや経済性の観点、耐熱性や柔軟性の調節が比較的容易であることから好ましく、ポリプロピレン系樹脂を用いることがさらに好ましい。
【0017】
ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレンを主成分とするプロピレンと共重合可能な他の単量体との共重合体、これらの混合物等が例示できる。
前記プロピレンを主成分とするプロピレンと共重合可能な他の単量体との共重合体としては、プロピレンとエチレンまたは他のα-オレフィンとのランダム共重合体(ランダムポリプロピレン)やブロック共重合体(ブロックポリプロピレン)、ゴム成分を含むブロック共重合体あるいはグラフト共重合体等が挙げられる。
前記プロピレンと共重合可能な他の単量体として用いられるα-オレフィンとしては、炭素原子数が4~12のものが好ましく、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、1-デセン等が挙げられ、その1種または2種以上の混合物が用いられる。
【0018】
ポリプロピレン系樹脂の結晶融解ピークとしては、120℃以上を示すことが好ましい。120℃以上の結晶融解ピークを有することで、得られる熱可塑性樹脂フィルムに十分な耐熱性を付与することが可能となる。より好ましくは125℃以上、さらに好ましくは130℃以上である。
【0019】
入手のし易さ、耐熱性および柔軟性付与の観点から、上記のポリプロピレン系樹脂の中でもホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレンを用いることが好ましく、ランダムポリプロピレンを用いることがより好ましい。
ランダムポリプロピレンの市販品としては、例えば、ノバテックPP「FW4BA」、ノバテックPP「FX3B」(以上、日本ポリプロ社製)、PC630A、PC630S(以上、サンアロマー社製)、F-730NV、F-744NP(以上、プライムポリプロ社製)等が挙げられる。
上記ポリプロピレン系樹脂は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。熱可塑性樹脂フィルムを得る際の製膜性や、得られるフィルムの柔軟性や取扱い性、エキスパンド性を考慮し、必要に応じて適宜選択することができる。
【0020】
ポリエチレン系樹脂としては、例えば、エチレンの単独重合体、エチレンを主成分とするエチレンと共重合可能な他の単量体との共重合体(低密度ポリエチレン(LDPE)、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、メタロセン系触媒を用いて重合して得られるエチレン系共重合体(メタロセン系ポリエチレン)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の金属イオン架橋樹脂(アイオノマー)等が挙げられる。
中でも入手のし易さや樹脂の取り扱い性、得られるフィルムへの柔軟性の調整が容易であるとの観点から、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いることが好ましい。
上記ポリエチレン系樹脂は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。熱可塑性樹脂フィルムを得る際の製膜性や、得られるフィルムの柔軟性や取扱い性、エキスパンド性を考慮し、必要に応じて適宜選択することができる。
【0021】
オレフィン系エラストマーとは、ポリオレフィン系樹脂とゴム成分とを含んでなる軟質樹脂であり、ポリオレフィン系樹脂にゴム成分が分散しているものでもよいし、互いが共重合されているものでもよい。
オレフィン系エラストマーの具体例としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体エラストマー、エチレン-1-ブテン共重合体エラストマー、エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体エラストマー、エチレン-1-ヘキセン共重合体エラストマー、エチレン-1-オクテン共重合体エラストマー、エチレン-スチレン共重合体エラストマー、エチレン-ノルボルネン共重合体エラストマー、プロピレン-1-ブテン共重合体エラストマー、エチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体エラストマー、エチレン-1-ブテン-非共役ジエン共重合体エラストマー、及びエチレン-プロピレン-1-ブテン-非共役ジエン共重合体エラストマー等のオレフィンを主成分とする無定型の弾性共重合体、その誘導体及び酸変性誘導体等を挙げることができる。
【0022】
前述したポリオレフィン系樹脂のメルトフローレートは、その適用する成形方法や用途により適宜選択されるものの、190℃もしくは230℃の温度条件下、荷重2.16kgで測定した値が0.1~50g/10分であることが好ましい。0.1g/10分以上であればフィルムの成形性が良好となり、50g/10分以下であればフィルムの厚み精度を良好に保つことが可能となる。より好ましくは0.5~40g/10分、さらに好ましくは1.0~30g/10分である。
【0023】
ポリオレフィン系樹脂の強度については、それらの樹脂単独で得られるフィルムの引張弾性率が50~2000MPaの範囲内であることが好ましい。引張弾性率が50~2000MPaの範囲内であれば、本発明のフィルムに適度な柔軟性を付与することが可能となる。より好ましくは50~1500MPaの範囲内、さらに好ましくは50~1000MPaの範囲内である。
【0024】
上記のポリオレフィン系樹脂は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。熱可塑性樹脂フィルムを得る際の製膜性や、得られるフィルムの柔軟性や取扱い性、エキスパンド性等を考慮し、必要に応じて適宜選択することができる。
【0025】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも1層には、ポリオレフィン系樹脂に加えて、スチレン成分の含有量が50質量%以上のスチレン系エラストマー(β)(以下、スチレン系エラストマー(β)という。)が含まれる。フィルムの少なくとも1層にスチレン系エラストマー(β)を含有させることで、得られる熱可塑性樹脂フィルムの柔軟性や加工性を損なうことなく、容易にカット可能とするための引き裂き強度を適度に低下させることが可能となる。引き裂き強度の調整のために、スチレン成分の含有量は55質量%以上とすることがより好ましく、60質量%以上とすることがさらに好ましい。
【0026】
スチレン系エラストマーの一般的な構造としては、下記式(I)または(II)で表されるブロック共重合体であることが好ましい。
X-(Y-X)n …(I)
(X-Y)n …(II)
一般式(I)および(II)におけるXはスチレンに代表される芳香族ビニル重合体ブロック(以下、スチレン成分)で、式(I)においては分子鎖両末端で重合度が同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、Yとしてはブタジエン重合体ブロック、イソプレン重合体ブロック、ブタジエン/イソプレン共重合体ブロック、水添されたブタジエン重合体ブロック、水添されたイソプレン重合体ブロック、水添されたブタジエン/イソプレン共重合体ブロック、部分水添されたブタジエン重合体ブロック、部分水添されたイソプレン重合体ブロックおよび部分水添されたブタジエン/イソプレン共重合体ブロックの中から選ばれた少なくとも1種である。また、nは1以上の整数である。
【0027】
スチレン系エラストマー(β)の具体例としては、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン-ブテン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、スチレン-水添ブタジエンジブロック共重合体、スチレン-水添イソプレンジブロック共重合体、スチレン-ブタジエンジブロック共重合体、スチレン-イソプレンジブロック共重合体等が挙げられ、その中でもスチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン-ブテン-スチレン共重合体が好適である。また、スチレン-エチレン・ブチレン-結晶性オレフィン共重合体であるブロック共重合体を用いることもできる。
スチレン系エラストマーのメルトフローレート(230℃の温度条件下、荷重2.16kgで測定した値)は、0.1~10g/10分であることが好ましく、0.15~9g/10分であることがより好ましく、0.2~8g/10分であることが特に好ましい。スチレン系エラストマーのメルトフローレートが0.1g/10分以上、10g/10分以下であれば、他樹脂との相溶性がよく、製膜性の点で好ましい。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムには、スチレン系エラストマー(β)は必須成分として含有されるが、スチレン成分の含有量が50質量%未満ものを併用することも可能である。熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも1層にスチレン成分の含有量が50質量%未満のものを併用して含有させることにより、得られる熱可塑性樹脂フィルムに柔軟性の付与や引張弾性率の調整を行うことが可能となる。柔軟性や引張弾性率の調整の観点から、スチレン成分の含有量が50質量%未満のものの中でも、45質量%以下のものであることがより好ましく、40質量%以下であるものがさらに好ましい。
【0029】
スチレン成分の含有量およびそれ以外の成分の含有量は、H-NMRや13C-NMRを用いることにより測定することができる。ここで、「スチレン成分の含有量」とは、スチレン系エラストマーの質量を基準としてスチレンに代表される芳香族ビニル重合体ブロックの含有割合(質量%)をいう。
【0030】
スチレン系エラストマー(β)の市販品としては、例えば、タフテックH1043、タフテックP2000(以上、旭化成社製)、セプトン2104、(以上、クラレ社製)、ダイナロン9901P(以上、JSR社製)、クレイトンA1535(以上、クレイトンポリマージャパン社製)等が挙げられる。
【0031】
上記スチレン系エラストマー(β)は、1種類のエラストマーを単独で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。また、前述した通り、スチレン成分の含有量が50質量%未満のものを併用してもよい。熱可塑性樹脂フィルムを得る際の製膜性や、得られるフィルムの柔軟性や取扱い性、エキスパンド性、引き裂き強度等を考慮し、必要に応じて適宜選択することができる。
【0032】
<その他の樹脂>
本発明の熱可塑性樹脂フィルムに用いられる樹脂としては、前述したポリオレフィン系樹脂、スチレン系エラストマー以外にも性能を損なわない範囲でその他の樹脂を、層A及び/又はその他の層に添加することができる。その他の樹脂としては、環状オレフィン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、前述したポリオレフィン系樹脂、スチレン系エラストマーとの相溶性等の観点から性能を損なう可能性が低く、求められる性能に応じて適宜用いることが可能である。
環状オレフィン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、環状共役ジエン重合体等が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体が好ましい。また、ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン系単量体の開環重合体、ノルボルネン系単量体とエチレン等のα-オレフィンを共重合したノルボルネン系共重合体等が挙げられる。また、これらの水素添加物も用いることができる。
【0033】
ポリメチルペンテン系樹脂としては、メチルペンテンをモノマーとする単独重合体またはその他のモノマーとの共重合体を用いることが好ましい。具体例としては、ポリプロピレン系樹脂についてプロピレンと共重合可能な他の単量体として例示したα-オレフィンと4-メチルペンテン-1との共重合体を挙げることができる。
ポリメチルペンテン系樹脂が、共重合体である場合は、共重合に用いられるα-オレフィン成分の含有量が20質量%以下であることが好ましい。20質量%以下とすることで、結晶融解ピークの低下を抑制することが可能となる。より好ましくは10質量%以下である。
【0034】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの各層には帯電防止性や耐熱性、耐候性等を付与するために各種添加剤を配合することができる。
具体例としては、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤、中和剤、滑剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、染顔料、結晶核剤、紫外線吸収剤、充填剤、剛性を付与する無機フィラー、及び柔軟性を付与するために前述したもの以外のエラストマー等を、本発明の効果を阻害しない範囲において用いてもよい。
高分子型帯電防止剤としては公知のものを使用することができ、例えば、疎水性ブロックと親水性ブロックとのブロック共重合体を用いることができる。高分子型帯電防止剤は、疎水性ブロックと親水性ブロックとが、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合及びウレア結合等によってブロック共重合体を形成している。
紫外線吸収剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤等を挙げることができる。
光安定剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、ヒンダードアミン系光安定剤等を挙げることができる。
滑剤やアンチブロッキング剤としては、前述したポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等との相溶性に優れ、得られるフィルムの表面へのブリードアウトによる不具合や長期的な耐傷付き性や滑り性の付与を可能にすることから、シリコーン-オレフィン共重合体を用いることが好ましい。
【0035】
<熱可塑性樹脂フィルム>
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、上記した通り、ポリオレフィン系樹脂及びスチレン成分の含有量が50質量%以上のスチレン系エラストマー(β)を含む熱可塑性樹脂100質量%に対する、スチレン系エラストマー(β)の含有量が25質量%以上である樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有し、かつ2以上の層を有することを特徴とする。
【0036】
前述した通り、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの層(A)及びその他の層にポリオレフィン系樹脂を含有することで耐熱性と適度な柔軟性を付与することが可能となり、また、少なくとも層(A)にスチレン系エラストマー(β)を含有することで、柔軟性や取扱い性を損なうことなく、適度に引き裂き強度を低下させることが可能となる。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは2層以上の複数の層を有する構造であることが必要となる。2層以上の層を有することで、表層のみに耐熱性や帯電防止性能といった性能を付与することが可能となり、表層以外の層に強度や柔軟性を付与するといったことも可能となる。
さらに、2層以上の熱可塑性樹脂フィルム(以下、複層フィルム)の少なくとも1層が、熱可塑性樹脂100質量%に対して、スチレン系エラストマー(β)を25質量%以上含有する樹脂組成物からなる層(層(A))であることが必要となる。スチレン系エラストマー(β)を25質量%以上含有する層を有することにより、得られるフィルムの柔軟性を適度に保ちつつ、容易にカット可能とするための引き裂き強度を適度に低下させることが可能となる。スチレン系エラストマー(β)の含有量としては、より好ましくは27質量%以上、さらに好ましくは29質量%以上である。スチレン系エラストマー(β)の含有量の上限としては80質量%以下とすることが好ましい。80質量%以下とすることで、得られるフィルムの柔軟性の維持と引き裂き強度の低下の両立が可能となる。より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。
【0038】
また、複層フィルムの全質量中のスチレン系エラストマー(β)の含有量が20質量%以上であることが前述した柔軟性や引き裂き強度の観点から好ましい。より好ましくは22質量%、さらに好ましくは24質量%である。複層フィルムの全質量中のスチレン系エラストマー(β)の含有量の上限としては70質量%以下とすることが好ましい。70質量%以下とすることで、得られるフィルムの柔軟性の維持と引き裂き強度の低下の両立が可能となる。より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。
ここで、複層フィルムの全質量中のスチレン系エラストマー(β)の含有量は、複層フィルムを構成する樹脂組成物の総質量に対する、複層フィルム中のスチレン系エラストマー(β)の総含有量の割合を算出して求められる。
【0039】
複層フィルムの場合の各層については、求められる性能に応じて各層に用いられる樹脂組成物を異なるものとしてもよいし、同じものとしてもよい。得られるフィルムの機能性の観点から、各層の樹脂組成物は異なるものとすることが好ましい。
【0040】
本発明の複層フィルムの基本的な構成は次の通りである。
(1)表層と裏層からなる2層フィルムの構成。
(2)表層、中間層、裏層とを備える3層フィルムの構成。
ここで、(2)の3層フィルムの構成において、表層と裏層を構成する樹脂組成物は、同じ組成であっても、異なる組成であってもよい。
また、(2)の構成においては、中間層が2以上の多層から構成されていてもよい。その場合には、(2)の構成は、3層以上からなるフィルム構成も包含する。
【0041】
(1)の2層フィルムの構成としては、少なくとも表裏の一方の面が、ポリオレフィン系樹脂およびスチレン系エラストマー(β)を含有する熱可塑性樹脂100質量%中のスチレン系エラストマー(β)の含有量が25質量%以上である樹脂組成物からなる層であることが必要となる。また、表裏の双方が上記の樹脂組成物からなる層であってもよい。表裏の双方が上記の樹脂組成物からなる層である場合、得られるフィルムの製膜性や柔軟性、引き裂き強度の調整の観点から、2層は異なる樹脂組成物からなる層であることが好ましい。また、一方の面にスチレン系エラストマー(β)を所定の量含む場合は、もう一方の面はスチレン系エラストマー(β)を含まない層とすることもできる。表裏のスチレン系エラストマー(β)の含有量が異なる場合、表裏のどちらにスチレン系エラストマー(β)を多く含有させることができるかについては、いずれの面からフィルムがカットされるか、ダイシング時にブレードが接触するか等の加工状況や、その際のフィルムの屑やバリの発生状況等を考慮し、適宜決定することができる。
【0042】
(2)の3層フィルムの構成としては、表層、中間層、裏層のうち少なくともいずれか1つの層が、ポリオレフィン系樹脂およびスチレン系エラストマー(β)を含有する熱可塑性樹脂100質量%中のスチレン系エラストマー(β)の含有量が25質量%以上である樹脂組成物からなる層であることが必要となる。前述の通り、中間層が2以上の多層から構成されていてもよい。
表層、中間層、裏層のいずれか1つの層のみにスチレン系エラストマー(β)を含有させてもよいし、2つの層もしくは3つの層全てにスチレン系エラストマー(β)を含有させてもよい。中間層が2以上の多層から構成される場合は、その中のいずれか1つの層が、スチレン系エラストマー(β)を25質量%以上含有する樹脂組成物で構成されていればよい。
3層フィルムも2層フィルムの場合と同様に、いずれの面からフィルムがカットされるか、ダイシング時にブレードが接触するか等の加工状況や、その際のフィルムの屑やバリの発生状況等を考慮し、いずれの層にスチレン系エラストマー(β)を含有させるか、含有させる場合はその含有量を適宜決定することができる。
得られるフィルムの柔軟性や引き裂き強度の調整、屑やバリの抑制の観点から、中間層にスチレン系エラストマー(β)を所定の量含有させることが好ましい。中間層にスチレン系エラストマー(β)が含まれる場合、表層、裏層については、それぞれスチレン系エラストマー(β)を含有する層としても、含有しない層としてもよく、得られるフィルムの性能に応じて適宜選択することができる。フィルムの製膜性や各種性能の観点から、表層および/もしくは裏層を構成する樹脂組成物中のスチレン系エラストマー(β)の含有量は、中間層を構成する樹脂組成物中のスチレン系エラストマー(β)の含有量よりも少ないことが好ましい。
【0043】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、30~400μmであることが好ましい。30μm以上であればフィルムを生産する際の製膜性や得られるフィルムの取り扱い性が良好となり、400μm以下であれば該フィルムに印刷層や粘着層を積層する工程におけるフィルムの取り扱い性や工程通過性を良好に保つことが可能となる。本発明の熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、より好ましくは40~350μm、さらに好ましくは50~300μmである。
また、スチレン系エラストマー(β)を25質量%以上含有する樹脂組成物からなる層(即ち、層(A))の厚みは、フィルムの総厚みの50%以上であることが好ましい。当該層の厚みを50%以上有することにより、得られる複層フィルムの柔軟性を損なうことなく、引き裂き強度を適度なものとすることが可能となる。より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。
【0044】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの引張弾性率は、500MPa以下であることが好ましい。500MPa以下であればフィルムが柔軟すぎず、取扱い性を良好に保つことが可能となる。より好ましくは450MPa以下、さらに好ましくは400MPa以下である。
【0045】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの引張破断伸度は、400%以上を示すものであることが好ましい。400%以上を示すものであればフィルムに粘着加工等を施す場合においても破断による不具合が抑制され、さらに半導体製造工程におけるエキスパンド工程においても、エキスパンド時の破断が起きにくくなることから好ましい。より好ましくは450%以上、さらに好ましくは500%以上である。
【0046】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、JIS K7128-1に準拠して測定したトラウザー引き裂き強度が120N/mm以下であることが好ましい。引き裂き強度が120N/mm以下であることにより、ダイシング時の切削屑を抑制することが可能となり、さらに半導体製造工程の前工程であるプレカット工程やエキスパンド後にフィルムをカットする工程においても、フィルムのバリや屑の発生を抑制することが可能となる。より好ましくは110N/mm以下、さらに好ましくは100N/mm以下である。
【0047】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの成形方法としては、公知の方法を用いることができるが、溶融押出成形法を用いることが好ましい。溶融押出成形法の中でも、Tダイを有する押出機より溶融状態の樹脂を押出し、冷却固化させてフィルムを得るTダイ成形法がより好ましい。
【0048】
フィルムを得るためには、複数の押出機を利用した共押出Tダイ成形法とすることが好ましい。複数の押出機を利用した共押出Tダイ成形法を用いることで、複層のフィルムを得ることが可能となり、表裏および/もしくは中間層にそれぞれの機能を付与することが可能となる。
【0049】
共押出Tダイ成形法としては、マルチマニホールドダイを用いて、複数の樹脂層をフィルム状としたのち、Tダイ内で接触させて複層化させフィルムを得る方法と、フィードブロックと称する溶融状態の樹脂を合流させる装置を用い、複数の樹脂を合流させ密着した後、複層のフィルムを得る方法が挙げられる。
【0050】
フィルムには必要に応じて、片面または両方の面にプラズマ処理やコロナ処理、オゾン処理および火炎処理等の方法による表面処理を行ってもよい。得られるフィルムの用途に応じて、片面または両方の面に表面処理を行うかを選択することができる。
【0051】
<粘着フィルム>
本発明の熱可塑性樹脂フィルムには、表裏の少なくとも片方の面に粘着剤層を設けることで、粘着フィルムとすることができる(以下「本発明の粘着フィルム」ともいう)。
粘着剤層に用いられる粘着剤は特に限定されないが、例えば、天然ゴム系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂等の各種粘着剤が用いられる。また粘着剤層の上にさらに接着剤層や熱硬化性樹脂層等の機能層を設けてもよい。
【0052】
粘着剤層を設けるには、熱可塑性樹脂フィルム上に粘着剤を直接コーティングすることにより設けることもできる。また、離型層を有するセパレータ等に粘着剤層を積層し、その粘着剤層側を本発明の熱可塑性樹脂フィルムの表層に貼り合わせ、粘着剤層を転写することにより設けることもできる。
【0053】
本発明の粘着フィルムにおいて、粘着剤層を設ける前のフィルムの片面もしくは両方の面に、前述した表面処理を行ってもよい。また、フィルムと粘着剤層の間には、必要に応じて、プライマー層を設けてもよい。
粘着剤層やプライマー層の厚さは、必要に応じて適宜決めることができる。
【0054】
本発明のフィルムは、半導体製造工程におけるダイシング時の切削屑の抑制だけでなく、半導体製造工程前に事前にフィルムをカットするプレカット工程や、エキスパンド後にフィルムをカットする工程におけるフィルムのバリや屑の発生をも抑制可能な熱可塑性樹脂フィルムである。
さらに、該フィルムに粘着剤層を積層することで粘着フィルムを得ることも可能であり、該粘着フィルムを半導体製造工程用にも好適に用いることができる。
【実施例0055】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して、具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例で使用した材料、評価した特性の測定方法等は、次の通りである。
【0056】
[使用材料]
熱可塑性樹脂としてポリプロピレン系樹脂、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマーを以下に示す通り用いた。
【0057】
[ポリプロピレン系樹脂]
サンアロマー社製、「PC630A」(ランダムポリプロピレン、230℃、2.16kgにおけるメルトフローレート:7.5g/10分、結晶融解ピーク:135℃、単独フィルムの引張弾性率:600MPa)
<オレフィン系エラストマー(α-1)>
日本ポリプロ社製、ウェルネクス「RFX4V」(オレフィン系エラストマー、230℃、2.16kgにおけるメルトフローレート:6.0g/10分、結晶融解ピーク:90℃および131℃、単独フィルムの引張弾性率:250MPa)
<オレフィン系エラストマー(α-2)>
日本ポリプロ社製、ウェルネクス「RFG4VM」(オレフィン系エラストマー、230℃、2.16kgにおけるメルトフローレート:6.0g/10分、結晶融解ピーク:127℃、単独フィルムの引張弾性率:240MPa)
[スチレン系エラストマー]
<スチレン系エラストマー(γ―1)>
旭化成社製、「タフテックH1221」(230℃、2.16kgにおけるメルトフローレート:4.5g/10分、スチレン成分含有量:12質量%、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体)
<スチレン系エラストマー(γ-2)>
旭化成社製、「タフテックH1041(230℃、2.16kgにおけるメルトフローレート:5.0g/10分、スチレン成分含有量:30質量%、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体)
<スチレン系エラストマー(β)>
旭化成社製、「タフテックH1043」(230℃、2.16kgにおけるメルトフローレート:2.0g/10分、スチレン成分含有量:67質量%、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体)
【0058】
<樹脂組成物の調製>
上記の熱可塑性樹脂を合計で100質量%となるように配合を行った。また、2種類以上を用いる際はドライブレンドにより混合し、目視にて均一に混合できていることを確認した。
【0059】
<フィルムの製膜方法>
3台の東芝機械製単軸押出機(表層用:35φmm,L/D=25mm、中間層用:50φmm,L/D=32、裏層用:35φmm,L/D=25mm)のそれぞれのホッパーに各樹脂組成物を投入し、各押出機の押出機温度を1900~230℃に設定し、フィードブロック部にて、表層/中間層/裏層の3層構成に合流させ、650mm幅Tダイ(温度設定210~230℃、リップ開度0.5mm)から押し出した。厚み構成は、表1に記載の厚みとなるよう各押出機回転数を設定した。
押出された溶融樹脂は、鏡面状の冷却ロールを備えた巻き取り機(冷却ロール700mm幅×φ350mm、ロール温度約30℃)にて冷却固化後、両面にコロナ処理を実施し巻き取りを行い、厚みが約100μmの2種3層となる複層のフィルムを得た。
また、本発明では、得られたフィルムの鏡面状の冷却ロール(表面粗さRa≒0.1μm)側の面を表層と表現している。
【0060】
[各層のスチレン系エラストマー(β)含有量]
各層に含まれるスチレン系エラストマー(β)の含有量を、各層を構成する樹脂組成物の合計から計算し算出した。
【0061】
[フィルム中のスチレン系エラストマー(β)含有量]
フィルムの全質量中に含まれるスチレン系エラストマー(β)の含有量を、フィルムを構成する樹脂組成物の合計から計算し算出した。
【0062】
[各層の厚み]
各押出機から押し出される樹脂の吐出量から計算し、各層の厚みを設定した。
【0063】
[フィルムの総厚み]
接触式厚み計を用いてフィルムの中央部、両端部の厚みの測定を行い、所定の厚みになっていることを確認した。
【0064】
[引張弾性率]
得られた複層フィルムから、JISK6732に準じて作製されたダンベル「SDK-600」を使用して試験片を採取し、JISK7127を参照した次の条件、23℃、50%RHの雰囲気下、オートグラフ(島津製作所製AGS-X)を用いて、引張速度50mm/分にて引張弾性率(MPa)を測定した。
引張弾性率の測定は、フィルムの押出方向(MD)で測定を行った。
【0065】
[引張破断伸度]
得られたフィルムから、JISK6732に準じて作製されたダンベル「SDK-600」を使用して試験片を採取し、23℃、50%RHの雰囲気下、小型卓上試験機(島津製作所製EZ-L)を用いて、引張速度300mm/分にて引張破断伸度(%)を測定した。
引張破断伸度の測定は、フィルムの押出方向(MD)で測定を行った。
【0066】
[トラウザー引き裂き強度]
実施例および比較例で作製したフィルムの押出方向(MD)および押出方向に直角となる方向(TD)から、JISK7128-1を参照し、それぞれ方向の試験片を採取した。また、JISK7128-1に記載の試験方法を参照し、23℃、50%RHの雰囲気下、オートグラフ(島津製作所製AGS-X)を用いて、速度200mm/分にてそれぞれの方向から採取した試験片の試験を行い、引き裂き強度(N/mm)を測定した。
【0067】
[実施例1]
表層および裏層の熱可塑性樹脂として、ランダムポリプロピレンを用いた。中間層の熱可塑性樹脂として、ランダムポリプロピレン、スチレン系エラストマー(γ-1)およびスチレン系エラストマー(β)を表1に記載の配合量とし、樹脂組成物を調製した。
上記の表層および裏層用の樹脂組成物と、中間層用の樹脂組成物を用い、前述した製膜方法にて2種3層からなる総厚みが100μmのフィルムを得た。各層の厚みは、表層が5μm、中間層が90μm、裏層が5μmとなるよう製膜の条件の調整を行った。表層および裏層にはスチレン系エラストマー(β)は用いておらず、中間層のスチレン系エラストマー(β)の含有量は30質量%であった。また、フィルム中のスチレン系エラストマー(β)の含有量は、中間層の厚みが全体の90%であることから、27質量%であった。
得られたフィルムの引張弾性率は220MPa、引張破断伸度は710%を示し、十分な柔軟性と破断特性を備えることを確認した。
さらにMD方向の引き裂き強度は67N/mm、TD方向の引き裂き強度は75N/mmを示し、120N/mm以下を示したことから、続き工程でフィルムのカット等を行った場合でもバリや屑の発生が抑制されたものであると推察される。
よって、本フィルムは特定のスチレン系エラストマーを十分に含有しており、
良好な柔軟性と破断特性を有し、取扱い性にも優れ、且つフィルムのカット等が行われた場合でもバリや屑の発生の少ない良好な加工性を有するフィルムであることが確認された。
【0068】
[実施例2]
表層、裏層および中間層の熱可塑性樹脂として、ランダムポリプロピレン、スチレン系エラストマー(γ-1)およびスチレン系エラストマー(β)を表1に記載の配合量とし、樹脂組成物を調製した。
上記の表層および裏層用の樹脂組成物と、中間層用の樹脂組成物を用い、前述した製膜方法にて2種3層からなる総厚みが100μmのフィルムを得た。各層の厚みは、表層が5μm、中間層が90μm、裏層が5μmとなるよう製膜の条件の調整を行った。表層および裏層のスチレン系エラストマー(β)含有量は10質量%であり、中間層のスチレン系エラストマー(β)の含有量は35質量%であった。また、フィルム中のスチレン系エラストマー(β)の含有量は、表層および裏層が全体の各5%、中間層の厚みが全体の90%であることから、32.5質量%であった。
得られたフィルムの引張弾性率は260MPa、引張破断伸度は700%を示し、十分な柔軟性と破断特性を備えることを確認した。
さらにMD方向の引き裂き強度は82N/mm、TD方向の引き裂き強度は90N/mmを示し、120N/mm以下を示したことから、続き工程でフィルムのカット等を行った場合でもバリや屑の発生が抑制されたものであると推察される。
よって、本フィルムは特定のスチレン系エラストマーを十分に含有しており、
良好な柔軟性と破断特性を有し、取扱い性にも優れ、且つフィルムのカット等が行われた場合でもバリや屑の発生の少ない良好な加工性を有するフィルムであることが確認された。
【0069】
[比較例1]
表層および裏層の熱可塑性樹脂として、ランダムポリプロピレンを用いた。中間層の熱可塑性樹脂として、ランダムポリプロピレン、オレフィン系エラストマー(α-1)およびスチレン系エラストマー(γ-1)を表1に記載の配合量とし、樹脂組成物を調製した。
上記の表層および裏層用の樹脂組成物と、中間層用の樹脂組成物を用い、前述した製膜方法にて2種3層からなる総厚みが100μmのフィルムを得た。各層の厚みは、表層が5μm、中間層が90μm、裏層が5μmとなるよう製膜の条件の調整を行った。
得られたフィルムの引張弾性率は120MPa、引張破断伸度は720%を示し、十分な柔軟性と破断特性を備えることを確認した。
しかしながら、スチレン成分の含有量が50質量%以上のスチレン系エラストマーを含んでいないことから、MD方向の引き裂き強度は134N/mm、TD方向の引き裂き強度は134N/mmを示し、120N/mmを上回る値を示したことから、続き工程でフィルムのカット等を行った場合に、バリや屑の発生が顕著に発生するものであると考えられる。
よって、本フィルムは良好な柔軟性と破断特性を有し、取扱い性にも優れるものの、スチレン系エラストマー(β)を含有しておらず、フィルムの引き裂き強度が所定の値を上回ることから、フィルムのカット等が行われた場合にバリや屑が顕著に発生する加工性に劣るフィルムであると推察される。
【0070】
[比較例2]
表層および裏層の熱可塑性樹脂として、ランダムポリプロピレンを用いた。中間層の熱可塑性樹脂として、ランダムポリプロピレン、オレフィン系エラストマー(α-2)およびスチレン系エラストマー(γ-2)を表1に記載の配合量とし、樹脂組成物を調製した。
上記の表層および裏層用の樹脂組成物と、中間層用の樹脂組成物を用い、前述した製膜方法にて2種3層からなる総厚みが100μmのフィルムを得た。各層の厚みは、表層が5μm、中間層が90μm、裏層が5μmとなるよう製膜の条件の調整を行った。
得られたフィルムの引張弾性率は200MPa、引張破断伸度は660%を示し、十分な柔軟性と破断特性を備えることを確認した。
しかしながら、スチレン成分の含有量が50質量%以上のスチレン系エラストマーを含んでいないことから、MD方向の引き裂き強度は168N/mm、TD方向の引き裂き強度は138N/mmを示し、120N/mmを上回る値を示したことから、続き工程でフィルムのカット等を行った場合に、バリや屑の発生が顕著に発生するものであると考えられる。
よって、本フィルムは良好な柔軟性と破断特性を有し、取扱い性にも優れるものの、スチレン系エラストマー(β)を含有しておらず、フィルムの引き裂き強度が所定の値を上回ることから、フィルムのカット等が行われた場合にバリや屑が顕著に発生する加工性に劣るフィルムであると推察される。
【0071】
【表1】
【0072】
[実施例3]
アクリル系粘着剤(綜研化学(株)製SKダイン1502C)をセパレータ上にコンマコート法にて、乾燥後の粘着剤層の厚みが25μmになるように塗工し、80℃の熱風乾燥機にて5分間乾燥させた後、粘着剤層を形成した。
作製したセパレータの粘着剤層側の面を実施例1で得られたフィルムの表層側の面に貼り合わせることで本発明のフィルムと粘着剤層とが積層された粘着フィルムを得た。
また、粘着剤を有するフィルムをカットする際にも、本粘着フィルムの基材として用いられているフィルムは、カットした際のバリや屑の発生が抑制されているものであることから、粘着フィルムをカットした際にも同様の不具合が抑制できるものであると考えられる。
【0073】
[産上の利用可能性]
本発明により、半導体製造工程におけるダイシング時の切削屑の抑制だけでなく、半導体製造工程前に事前にフィルムをカットするプレカット工程や、エキスパンド後にフィルムをカットする工程におけるフィルムのバリや屑の発生をも抑制可能な熱可塑性樹脂フィルムを提供することができる。また、該熱可塑性樹脂フィルムに粘着剤層を設けることで、半導体製造工程用に好適に用いることができる粘着フィルムを提供することも可能となる。