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特開2023-108965断熱材固定金具および鉄骨造建物の断熱構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108965
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】断熱材固定金具および鉄骨造建物の断熱構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/76 20060101AFI20230731BHJP
   E04B 1/80 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
E04B1/76 500D
E04B1/80 100B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010303
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000110664
【氏名又は名称】ナンカイ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】小西 健夫
(72)【発明者】
【氏名】東 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】潮 真之介
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DD01
2E001FA01
2E001FA03
2E001GA19
2E001GA52
2E001LA06
2E001LA13
(57)【要約】
【課題】鉄骨梁のフランジの面直方向にボード状の断熱材を効率よく固定することのできる断熱材固定金具と、その断熱材固定金具を用いた鉄骨造建物の断熱構造を提供する。
【解決手段】断熱材固定金具1は、フランジ31の縁部を弾性的に挟持し得る一対の挟持片11、12を備えたクリップ部10と、一方の挟持片12から該挟持片12と直交する向きに突出する断熱材穿刺爪15と、を具備する。その断熱材固定金具1が、クリップ部10を鉄骨梁3の下フランジ31Bに屋内側から挟持せしめ、断熱材穿刺爪15を下向きにして鉄骨梁3に取り付けられる。鉄骨梁3の下方に建て込まれるボード状の断熱材4の上端面に断熱材穿刺爪15が穿刺されることにより、断熱材4が鉄骨梁3の下方に固定される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一片のフランジを有する鉄骨梁の前記フランジに取り付けられて、前記フランジの面直方向に建て込まれるボード状の断熱材を固定するための断熱材固定金具であって、
前記フランジの縁部を弾性的に挟持し得る一対の挟持片を備えたクリップ部と、
前記一対の挟持片のうち一方の挟持片から該挟持片と直交する向きに突出する断熱材穿刺爪と、
を具備することを特徴とする断熱材固定金具。
【請求項2】
請求項1に記載された断熱材固定金具において、
前記クリップ部の背面から前記フランジの延長方向に延び出した持出し片と、
前記クリップ部とは別体に形成されて前記持出し片を両面から挟持し得るフィルム留付クリップと、
を具備することを特徴とする断熱材固定金具。
【請求項3】
請求項1または2に記載された断熱材固定金具において、
前記フランジに形成された取付孔に係合し得る抜止片が、前記一対の挟持片のうち少なくともいずれか一方の挟持片に形成されている
ことを特徴とする断熱材固定金具。
【請求項4】
鉄骨造建物の外周部分に配置された鉄骨梁の下フランジに、請求項1~3のいずれか一項に記載された断熱材固定金具が、前記クリップ部を前記下フランジに屋内側から挟持せしめ、前記断熱材穿刺爪を下向きにして取り付けられ、
前記鉄骨梁の下方にボード状の梁下断熱材が建て込まれて、前記梁下断熱材の上端面に前記断熱材固定金具の断熱材穿刺爪が穿刺されることにより、前記梁下断熱材が前記鉄骨梁の下フランジに固定されている
ことを特徴とする鉄骨造建物の断熱構造。
【請求項5】
請求項4に記載された鉄骨造建物の断熱構造において、
前記梁下断熱材が、その屋内側の表面を前記鉄骨梁の下フランジの屋内側の側縁よりも屋内側へ迫り出して建て込まれるとともに、
前記鉄骨梁の屋内側の側面にもボード状の梁横断熱材が嵌め込まれ、
前記梁下断熱材の屋内側の表面と前記梁横断熱材の屋内側の表面とが面一に揃えられた
ことを特徴とする鉄骨造建物の断熱構造。
【請求項6】
請求項5に記載された鉄骨造建物の断熱構造において、
前記梁下断熱材の屋内側の表面と前記梁横断熱材の屋内側の表面とにわたって、気密、防湿、または耐火を目的とするフィルム材が張り重ねられた
ことを特徴とする鉄骨造建物の断熱構造。
【請求項7】
請求項2を引用する請求項6に記載された鉄骨造建物の断熱構造において、
前記断熱材固定金具の持出し片の屋内側に前記フィルム材が被せられて、その屋内側から前記持出し片に前記フィルム留付クリップを挟持せしめることにより前記フィルム材が固定された
ことを特徴とする鉄骨造建物の断熱構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願が開示する発明は、鉄骨造建物の外周部分の断熱工法に用いられる断熱材固定金具と、その断熱材固定金具を用いた鉄骨造建物の断熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨造建物の外周部分に採用される断熱工法として、以下のようなものが公知である。
【0003】
(1)外周部分の柱と梁とによって囲まれる躯体軸組の枠内(構面内)に断熱材を充填し、テープ等によって躯体軸組に固定する工法(例えば、特許文献1)。断熱材としては、グラスウールやロックウール等の繊維系断熱材がよく用いられる。
【0004】
(2)躯体軸組の屋内側に建て込まれる内壁下地を断熱仕様にする工法。具体的には、上下のランナーの間にスタッドを適宜間隔で建て込んで形成されるフレーム状の内壁下地において、スタッド間の隙間に断熱材を充填する(例えば、特許文献2)。断熱材としては、前記繊維系断熱材だけでなく、発泡性樹脂(ポリスチレンフォーム、ウレタンフォーム、フェノールフォーム等)からなる硬質のボード状断熱材もよく用いられる。繊維系断熱材を用いる場合は、樹脂フィルム製の袋に充填して、その袋耳をスタッド等にビスやタッカーで留め付けることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-216896号公報
【特許文献2】実開平05-054706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記(1)の断熱工法では、躯体軸組の構面内に配置されるブレース材等を避けて断熱材を充填しなければならないので、施工に手間がかかる。構面内の部位に応じて断熱性能が不均等になりやすく、気密性能も担保しにくくなる。さらに、熱橋になりやすい柱や梁の内側面までを繊維系断熱材で隙間なく被覆するのは難しいので、それらの部位を別途、断熱処理する必要もある。
【0007】
前記(2)の断熱工法では、内壁下地を構成する軽量鉄骨製のランナーやスタッドが熱橋になって、断熱性能の低下を招く。また、内壁下地と上階の梁との間に形成される空間にも断熱・気密ラインの切れ目が残ってしまう。
【0008】
かかる事情に鑑み、本願が開示する発明は、均質で良好な断熱性能を得やすいボード状の断熱材を用いて、鉄骨造建物の外周部分の躯体軸組と内壁下地との間に切れ目のない断熱・気密ラインを形成すべく、かかる断熱材を鉄骨梁の近傍に効率よく固定することのできる断熱材固定金具と、その断熱材固定金具を用いた鉄骨造建物の断熱構造を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願が開示する発明が採用する断熱材固定金具は、少なくとも一片のフランジを有する鉄骨梁の前記フランジに取り付けられて、前記フランジの面直方向に建て込まれるボード状の断熱材を固定するための断熱材固定金具であって、前記フランジの縁部を弾性的に挟持し得る一対の挟持片を備えたクリップ部と、前記一対の挟持片のうち一方の挟持片から該挟持片と直交する向きに突出する断熱材穿刺爪と、を具備するものとして特徴付けられる。
【0010】
さらに断熱材固定金具は、前記クリップ部の背面から前記フランジの延長方向に延び出した持出し片と、前記クリップ部とは別体に形成されて前記持出し片を両面から挟持し得るフィルム留付クリップと、を具備するものとして特徴付けられる。
【0011】
さらに断熱材固定金具は、前記フランジに形成された取付孔に係合し得る抜止片が、前記一対の挟持片のうち少なくともいずれか一方の挟持片に形成されている、ものとして特徴付けられる。
【0012】
また、本願が開示する発明が採用する鉄骨造建物の断熱構造は、鉄骨造建物の外周部分に配置された鉄骨梁の下フランジに、前記断熱材固定金具が、前記クリップ部を前記下フランジに屋内側から挟持せしめ、前記断熱材穿刺爪を下向きにして取り付けられ、前記鉄骨梁の下方にボード状の梁下断熱材が建て込まれて、前記梁下断熱材の上端面に前記断熱材固定金具の断熱材穿刺爪が穿刺されることにより、前記梁下断熱材が前記鉄骨梁の下フランジに固定されている、ものとして特徴付けられる。
【0013】
さらに、鉄骨造建物の断熱構造は、前記梁下断熱材が、その屋内側の表面を前記鉄骨梁の下フランジの屋内側の側縁よりも屋内側へ迫り出して建て込まれるとともに、前記鉄骨梁の屋内側の側面にもボード状の梁横断熱材が嵌め込まれ、前記梁下断熱材の屋内側の表面と前記梁横断熱材の屋内側の表面とが面一に揃えられた、ものとして特徴付けられる。
【0014】
さらに、鉄骨造建物の断熱構造は、前記梁下断熱材の屋内側の表面と前記梁横断熱材の屋内側の表面とにわたって、気密、防湿、または耐火を目的とするフィルム材が張り重ねられた、ものとして特徴付けられる。
【0015】
さらに、前記フィルム材の張り重ねに際しては、前記断熱材固定金具の持出し片の屋内側に前記フィルム材が被せられて、その屋内側から前記持出し片に前記フィルム留付クリップを挟持せしめることにより前記フィルム材が固定された、ものとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本願が開示する断熱材固定金具を使用すれば、少なくとも一片のフランジを有する鉄骨梁に対して、該フランジの面直方向にボード状の断熱材を簡単かつ効率的に建て込むことができる。
【0017】
また、その断熱材固定金具を使用して、鉄骨造建物の外周部分に配置された鉄骨梁の下方にボード状の梁下断熱材を建て込み、その梁下断熱材の屋内側の表面を、鉄骨梁の下フランジの側縁よりも屋内側へ迫り出させるとともに、鉄骨梁の屋内側の側面にもボード状の梁横断熱材を嵌め込んで、梁横断熱材の屋内側の表面と梁下断熱材の屋内側の表面とを面一に揃えることで、鉄骨造建物の外周部分の躯体軸組と内壁下地との間に切れ目のない断熱ラインを効率よく施工することができる。
【0018】
さらに、その断熱ラインの屋内側に、気密、防湿、耐火等を目的とするフィルム材を張り重ねることで、鉄骨造建物の気密、防湿、耐火性能を向上させることができる。
【0019】
フィルム材を張り重ねる場合は、クリップ部の背面から持出し片が延び出している断熱材固定金具をフィルム留付クリップとともに用いることで、断熱ラインの屋内側にフィルム材を効率よく張り重ねることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本願が開示する発明の第1実施形態に係る断熱材固定金具の正面図(a)、上面図(b)、側面図(c)および底面図(d)である。
図2】前記第1実施形態に係る断熱材固定金具の上面側斜視図(a)および底面側斜視図(b)である。
図3】前記第1実施形態に係る断熱材固定金具を用いた鉄骨造建物の断熱構造を示す鉄骨梁周りの要部断面図である。
図4】本願が開示する発明の第2実施形態に係る断熱材固定金具の上面図(a)、側面図(b)、および底面図(c)である。
図5】前記第2実施形態に係る断熱材固定金具の上面側斜視図(a)および下面側斜視図(b)である。
図6】前記第2実施形態に係る断熱材固定金具を用いた鉄骨造建物の断熱構造を示す鉄骨梁周りの要部断面図である。
図7】前記第2実施形態に係る断熱材固定金具におけるフィルム留付クリップの変形例を示す上面側斜視図(a)および下面側斜視図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本願が開示する発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
<第1実施形態>
図1および図2は本願が開示する発明の第1実施形態に係る断熱材固定金具の構成を示し、図3は、その断熱材固定金具を用いて鉄骨造建物の外周部分の鉄骨梁周りに断熱材を固定する際の納まりを示している。
【0023】
断熱材固定金具1は、図3に示すように、鉄骨梁3のフランジ31に取り付けられて、該フランジ31の面直方向にボード状の断熱材4を固定し得るように構成されている。ここで、「鉄骨梁のフランジ」とは、主としてH形鋼、またはこれに類する形鋼材(例えば、リップのない溝形鋼、ハット形鋼、2本の溝形鋼を背合わせに結合した鋼材等)からなる梁材の材軸直交断面において略水平に張り出す、少なくとも一片の平坦な板状部位を指す。また、ボード状の断熱材とは、主として硬質の発泡性樹脂(ポリスチレンフォーム、ウレタンフォーム、フェノールフォーム等)からなる数cm厚の板体を想定している。
【0024】
例示形態の断熱材固定金具1は、ばね弾性を有する薄鋼板を打抜き折曲するなどして形成された部材で、図1および図2に示すように、上下一対の挟持片11、12を備えたクリップ部10を具備している。一対の挟持片11、12は、互いに離隔している正面側(開口側)の対向間隔が鉄骨梁3のフランジ31の厚みよりもわずかに小さく、上下の挟持片11、12同士が接続される背面13側の対向間隔がフランジ31の厚みよりもわずかに大きくなるように賦形されて、フランジ31の縁部を弾性的に挟持し得るように加工されている。挟持片11、12は、少なくとも一方の奥行きが、挟持するフランジ31の、ウェブ32からの張出長さを超えない寸法に設定されている。
【0025】
上下いずれか一方(例示形態では上側)の挟持片11には、フランジ31の適所に予め形成された取付孔(図示せず)に係合し得る抜止片14が、該挟持片11の中間部をクリップ部10の内側へ切り起こして形成されている。なお、フランジ31への装着を容易にするため、上下いずれか一方または両方の挟持片11、12の開口縁が、対向間隔を拡げる側へ斜めに折り返されていてもよい。
【0026】
一対の挟持片11、12のうち、鉄骨梁3の外側に添接される(例示形態では下側の)挟持片12には、該挟持片12と直交する向き(例示形態では下向き)に突出する断熱材穿刺爪15が、該挟持片12の中間部分を切り起こして形成されている。断熱材穿刺爪15の先端部は、ボード状の断熱材4に穿刺しやすいように略V字形に尖っている。
【0027】
本願が開示する発明に係る鉄骨造建物の断熱構造は、図3に示すように、鉄骨造建物の外周部分に配置される鉄骨柱(図示せず)と鉄骨梁3とによって囲まれた躯体軸組の構面内に、屋内側へ寄せてボード状の断熱材4を建て込むことにより、躯体軸組と内壁下地61との間に断熱ラインを形成するものである。なお、図3において、符号62は外壁材、符号63は外壁材62を躯体に結合するためのパネル枠材、符号64は上階のALC床版、符号65は下階の天井下地である。
【0028】
かかる断熱構造を実現するために、前述の断熱材固定金具1が、断熱材穿刺爪15を下向きにして、鉄骨梁3の下フランジ31Bに屋内側から取り付けられる。H形鋼からなる鉄骨梁3の下フランジ31Bにクリップ部10を挟持せしめ、抜止片14を下フランジ31Bに形成された取付孔に係合させることで、断熱材固定金具1が鉄骨梁3から容易に脱落しないように、また鉄骨梁3の材長方向にずれないように固定される。
【0029】
複数個の断熱材固定金具1が鉄骨梁3の材長方向に適宜間隔で取り付けられた後、鉄骨梁3の下方にボード状の梁下断熱材4Bが建て込まれる。梁下断熱材4Bは、その高さ寸法が鉄骨梁3の下階の床下地面(図示せず)から鉄骨梁3の下面までの高さに合致するように予め切寸されている。その梁下断熱材4Bを少し傾けて鉄骨梁3と床下地面との間に差し入れ、梁下断熱材4Bを鉄骨梁3に押し付けるように持ち上げて、クリップ部10の下方に突出する断熱材穿刺爪15を梁下断熱材4Bの上端面に突き刺すことにより、梁下断熱材4Bが鉄骨梁3の下フランジ31Bに固定される。その状態で梁下断熱材4Bの下端部(図示せず)を鉄骨梁3の直下まで押し込むと、梁下断熱材4Bが鉄骨梁3の直下に略垂直に建て込まれる。このとき、梁下断熱材4Bは、その屋内側の表面が鉄骨梁3の下フランジ31Bの屋内側の側縁よりも屋内側へわずかに迫り出すように建て込まれるのが好ましい。
【0030】
さらに、鉄骨梁3の屋内側の側面、つまり例示形態ではH形鋼の上フランジ31Tと下フランジ31Bとウェブ32とによって囲まれる凹部にも、ボード状の梁横断熱材4Aが嵌め込まれる。この梁横断熱材4Aには梁下断熱材4Bと同じ材質の断熱材を用いることができる。梁横断熱材4Aは、その高さ寸法が前記凹部の内寸高さよりもわずかに大きくなるように予め切寸され、前記凹部内に押し込まれることで固定される。この梁横断熱材4Aも、その屋内側の表面が鉄骨梁3の下フランジ31Bの側縁よりも屋内側へわずかに迫り出して、梁下断熱材4Bの屋内側の表面と略面一に揃うように取り付けられるのが好ましい。
【0031】
このようにして鉄骨梁3の下方および側方に取り付けられたボード状の断熱材4(4A、4B)により、鉄骨造建物の外周部分の躯体軸組と内壁下地61との間に切れ目のない断熱ラインが形成される。梁下断熱材4Bおよび梁横断熱材4Aの屋内側の表面を鉄骨梁3の下フランジ31Bの側縁よりも屋内側へわずかに迫り出させることにより、鉄骨梁3の下フランジ31Bが断熱ラインよりも屋内側へ突き出して熱橋になるのを防ぐことができる。梁下断熱材4Bと梁横断熱材4Aとの隣接部は適宜のテープを張って塞いでもよいが、地震時に躯体の揺動変形を許容する構造を採用する場合は、梁下断熱材4Bと梁横断熱材4Aとをテープ等で接合しなくてもよい。
【0032】
この断熱ラインの屋内側には、さらに気密、防湿、耐火等を目的とする適宜のフィルム材5を張り重ねることができる。そのフィルム材5の重なり箇所をテープ等で封着すれば、断熱ラインの直ぐ屋内側に、気密、防湿、耐火等の機能を有する包囲面が形成される。フィルム材5を張り重ねる際には、梁下断熱材4Bに張り重ねるフィルム材5の縁部と、梁横断熱材4Aに張り重ねるフィルム材5の縁部とが、梁下断熱材4Bと梁横断熱材4Aとの隣接部に重ならない位置で張着されるようにすると、より好ましい。
【0033】
<第2実施形態>
図4および図5は本願が開示する発明の第2実施形態に係る断熱材固定金具の構成を示し、図6は、その断熱材固定金具を用いて鉄骨造建物の外周部分の鉄骨梁周りに断熱材を固定する際の納まりを示している。
【0034】
この形態に係る断熱材固定金具1も前記第1実施形態と同様に、ばね弾性を有する一枚の薄鋼板を打抜き折曲するなどして形成された部材で、一対の挟持片11、12を備えたクリップ部10と、一方(例示形態では下側)の挟持片11を切り起こして該挟持片11と直交する向き(例示形態では下向き)に突出する断熱材穿刺爪15と、を具備することに加え、クリップ部10の背面13から延び出す持出し片16を具備し、さらに、クリップ部10とは別体に形成されたフィルム留付クリップ20を組み合わせて構成される。
【0035】
例示形態の持出し片16は上面視略矩形の平坦な板片で、クリップ部10の背面13から下側の挟持片12にかけての一部を略コ字形に切り起こし、クリップ部10の背面13の高さ方向における中間部分を起点として、クリップ部10に挟持されるフランジ31の延長方向に折り返すことにより形成されている。持出し片16の背面側二か所の角部には、フィルム材5を破らないようにするためのR加工が施されている。
【0036】
フィルム留付クリップ20は、上面視略矩形の平坦な上面片21と、上面片21の両側縁から下向きに延設された一対の側面片22、22と、上面片21の後縁から下向きに延設された背面片23と、を具備し、上面片21と各側面片22、22との間にはクリップ部10側の持出し片16に嵌装可能な嵌装溝24が形成されている。嵌装溝24は、側面片22の上辺部を緩い山形に傾斜させて形成されており、ここに持出し片16を挿し込むと、側面片22が若干変形して持出し片16を挟持する。上面片21の正面側二か所の角部と、各側面片22、22の正面側の縁部にも、フィルム材5を破らないようにするためのR加工が施されている。
【0037】
この断熱材固定金具1も前記第1実施形態と同様に、鉄骨造建物の外周部分に配置される鉄骨梁3の下フランジ31Bに、屋内側からクリップ部10を挟持せしめ、断熱材穿刺爪15を下向きにして取り付けられる。鉄骨梁3の下方にはボード状の梁下断熱材4Bが建て込まれ、下向きに突出する断熱材穿刺爪15が梁下断熱材4Bの上端面に穿刺されて、梁下断熱材4Bが固定される。さらに、鉄骨梁3の屋内側の側面にもボード状の梁横断熱材4Aが嵌め込まれる。梁下断熱材4Bの屋内側の表面と梁横断熱材4Aの屋内側の表面とは、鉄骨梁3の下フランジ31Bの側縁よりも屋内側へわずかに迫り出して、互いに略面一に揃えられる。
【0038】
こうして形成される断熱ラインの屋内側に、気密、防湿、耐火等を目的とするフィルム材5が張り重ねられるのも前記第1実施形態と同様である。ただし、この第2実施形態では、断熱材固定金具1の持出し片16が梁下断熱材4Bと梁横断熱材4Aの隣接部から屋内側へ少し突き出すように保持されて、その持出し片16の屋内側にフィルム材5が被せられ、さらにその屋内側から持出し片16にフィルム留付クリップ20を挟持せしめることによって、フィルム材5が断熱材固定金具1に留め付けられる。このような持出し片16を具備する断熱材固定金具1を使用すれば、断熱ラインの屋内側にフィルム材5を効率よく張り重ねることができる。
【0039】
なお、図6に示した形態では、鉄骨梁3の上フランジ31Tに、断熱材穿刺爪15を有しない断熱材固定金具1Bが屋内側から取り付けられ、その断熱材固定金具1Bに形成された持出し片16にフィルム材5が被せられて、フィルム留付クリップ20で留め付けられている。
【0040】
図7は、フィルム留付クリップの他の構成例を示す。例示のフィルム留付クリップ20Bは、ばね弾性を有する長矩形の薄鋼板を中間部で折り重ねた形状をなし、開口側の各角部にR加工が施されるとともに、一方の開口縁25が拡幅側へ斜めに折り返されている。このように単純な形態のフィルム留付クリップ20でも、持出し片16にフィルム材5を留め付けることができる。
【0041】
相手方の持出し片16については、前述のような平坦な形状に限定されるものではなく、例えばフィルム材との間に適度の摩擦抵抗を生じさせる凹凸、屈曲、段部等が、上下いずれかの片面または両面に形成されていてもよい。また、平面形状も、矩形に限らず、例えば半長円形や半楕円形その他の形状を選択することができる。フィルム留付クリップ20の形状は、その持出し片16の形状に合わせて適宜改変されればよい。
【0042】
以上に説明したように、本願が開示する断熱材固定金具1を使用すれば、少なくとも一片のフランジ31を有する鉄骨梁3に対して、該フランジ31の面直方向にボード状の断熱材4を簡単かつ効率的に建て込むことができる。また、その断熱材固定金具1を使用して、鉄骨造建物の外周部分に配置された鉄骨梁3の下方にボード状の梁下断熱材4Bを建て込み、その梁下断熱材4Bの屋内側の表面を、鉄骨梁3の下フランジ31Bの側縁よりも屋内側へ迫り出させるとともに、鉄骨梁3の屋内側の側面にもボード状の梁横断熱材4Aを嵌め込んで、梁横断熱材4Aの屋内側の表面と梁下断熱材4Bの屋内側の表面とを面一に揃えることで、鉄骨造建物の外周部分の躯体軸組と内壁下地61との間に切れ目のない断熱ラインを効率よく施工することができる。さらに、その断熱ラインの屋内側に、気密、防湿、耐火等を目的とするフィルム材5を張り重ねることにより、鉄骨造建物の気密、防湿、耐火性能を向上させることができる。
【0043】
なお、本願が開示する発明の技術的範囲は、例示した実施形態によって限定的に解釈されるべきものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて概念的に解釈されるべきものである。例示した断熱材固定金具および鉄骨造建物の断熱構造の構成は一例であり、本願が開示する発明の実施に際しては、特許請求の範囲において具体的に特定していない構成要素の詳細な形状、寸法、構造、材質、数量、他要素との結合形態、相対的な位置関係等を、例示形態と実質的に同等以上の作用効果が得られる範囲内で適宜、改変することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本願が開示する発明は、鉄骨造建物の断熱工法に幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 断熱材固定金具
10 クリップ部
11 挟持片
12 挟持片
13 背面
14 抜止片
15 断熱材穿刺爪
16 持出し片
20 フィルム留付クリップ
21 上面片
22 側面片
23 背面片
24 嵌装溝
25 開口縁
3 鉄骨梁
31 フランジ (31B 下フランジ、 31T 上フランジ)
32 ウェブ
4 断熱材 (4A 梁横断熱材、 4B 梁下断熱材)
5 フィルム材
61 内壁下地
62 外壁材
63 パネル枠材
64 ALC床版
65 天井下地
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7