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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108999
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】抗がん剤含有シート
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/47 20060101AFI20230731BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230731BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20230731BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230731BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
A61K31/47
A61P35/00
A61K9/70 401
A61K47/34
A61P35/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010349
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】500409219
【氏名又は名称】学校法人関西医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 明史
(72)【発明者】
【氏名】海堀 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】荏原 充宏
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA72
4C076BB40
4C076CC27
4C076EE24M
4C076FF32
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA10
4C086BC28
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA32
4C086MA70
4C086NA12
4C086ZB26
(57)【要約】
【課題】本発明は、レンバチニブを用いた抗がん剤治療において、レンバチニブの副作用をより低減するための、抗がん剤含有シートを提供することを課題とする。
【解決手段】生体適合性ポリマーを含有するナノファイバーから形成された抗がん剤含有シートであって、抗がん剤としてレンバチニブを含有する抗がん剤含有シートにより、課題を解決する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性ポリマーを含有するナノファイバーから形成された抗がん剤含有シートであって、抗がん剤としてレンバチニブを含有する抗がん剤含有シート。
【請求項2】
動物個体において、レンバチニブの血中濃度を少なくとも24時間維持するために使用される、請求項1に記載の抗がん剤含有シート。
【請求項3】
動物個体において、レンバチニブの血中濃度を14日間維持するために使用される、請求項1に記載の抗がん剤含有シート。
【請求項4】
腫瘍を有する動物個体において、腫瘍部、又は腫瘍の切除部位に直接適用するための、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗がん剤含有シート。
【請求項5】
腫瘍を有する動物個体において、腫瘍部、又は腫瘍の切除部位以外の部位に適用するための、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗がん剤含有シート。
【請求項6】
前記生体適合性ポリマーが、ポリカプロラクトンである、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗がん剤含有シート。
【請求項7】
根治切除不能な腫瘍の治療のために使用される、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗がん剤含有シート。
【請求項8】
腫瘍の転移、浸潤、及び/又は播種を予防するために使用される、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗がん剤含有シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、抗がん剤含有シートが開示される。
【背景技術】
【0002】
レンバチニブ(LENVIMA(登録商標))は、根治切除不能な甲状腺癌、切除不能な肝細胞癌、又は切除不能な胸腺癌、放射線治療歴のない高分化型甲状腺癌等の治療に使用されている(非特許文献1)。
【0003】
非特許文献1に記載のレンバチニブは、カプセル剤であり経口投与される。しかし、抗がん剤の投与方法の一態様として、例えば、特許文献1、特許文献2及び非特許文献2には、抗がん剤を含有させた生体適合性ポリマーを含有するナノファイバーから形成された抗がん剤を含むシートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-04681号公報
【特許文献2】国際公開第2020-013199号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Webページ:LENVIMA.com (https://www.lenvima.com/thank-you?url=http%3a%2f%2fwww.FDA.gov%2fmedwatch)
【非特許文献2】Niiyama et al. Adv. Healthcare Mater. 2019, 8, 1900102
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、レンバチニブは、高血圧症、心疾患、血管内凝固、肝機能障害、腎機能不全、下痢等の重篤な副作用も報告されている(非特許文献1)。
本発明は、レンバチニブを用いた抗がん剤治療において、レンバチニブの副作用をより低減するための、抗がん剤含有シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の実施形態を含む。
項1.生体適合性ポリマーを含有するナノファイバーから形成された抗がん剤含有シートであって、抗がん剤としてレンバチニブを含有する抗がん剤含有シート。
項2.動物個体において、レンバチニブの血中濃度を少なくとも24時間維持するために使用される、項1に記載の抗がん剤含有シート。
項3.動物個体において、レンバチニブの血中濃度を14日間維持するために使用される、項1に記載の抗がん剤含有シート。
項4.腫瘍を有する動物個体において、腫瘍部、又は腫瘍の切除部位に直接適用するための、項~3のいずれか一項に記載の抗がん剤含有シート。
項5.腫瘍を有する動物個体において、腫瘍部、又は腫瘍の切除部位以外の部位に適用するための、項1~3のいずれか一項に記載の抗がん剤含有シート。
項6.前記生体適合性ポリマーが、ポリカプロラクトンである、項1~5のいずれか一項に記載の抗がん剤含有シート。
項7.根治切除不能な腫瘍の治療のために使用される、項1~6のいずれか一項に記載の抗がん剤含有シート。
項8.腫瘍の転移、浸潤、及び/又は播種を予防するために使用される、項1~6のいずれか一項に記載の抗がん剤含有シート。
【発明の効果】
【0008】
レンバチニブを用いた抗がん剤治療において、レンバチニブの副作用をより低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(A)薬剤放出のイメージ図を示す。薬剤は拡散作用にて徐放される。図1(B)は、レンバチニブの累積放出量(%)を示す。レンバチニブは、8週間まで継続してシートから放出され、2週間後、4週間後、8週間後には、それぞれ14.85±0.86%、19.15±0.73%、28.02±2.15%のレンバチニブが放出された。
図2】(A)各群の腫瘍体積(mm3)の変化を示す。(B)各群の体重変化を示す。図2において、“〇”は、no treatment群を示す。“◇”は、1 mg sheet 群を表す。“■”は、2 mg sheet群を表す。“▲”は、oral 3 mg群を表す。
図3】(A)day 0、day1、day 3、 day 7、day 14における各群の血中濃度を示す。(B)図3(A)における四角破線枠内の期間(薬剤投与後3 hrs~24 hrs)における血中濃度を示す。図3において、“◇”は、1 mg sheet 群を表す。“▲”は、oral 3 mg群を表す。
図4】1 mg sheet群(“◇”で表す)、2 mg sheet群(“■”で表す)、及びoral 3 mg群(“▲”で表す)におけるday 7、day 14のレンバチニブの血中濃度を示す。
図5-1】(A)シートの挿入位置を示す。左から、薬剤非含有シートを挿入した群(control群;“〇”で表す)、腫瘍に直下に1 mg sheetを挿入した群(directly群; “▲”で表す)、腫瘍周囲に1 mg sheetを挿入した群(around群;“◇”で表す)、及び腫瘍の対側に1 mg sheetを挿入した群(contralateral群;“■”で表す)を示す。
図5-2】(B)(A)にしたがってシートを挿入した各群の腫瘍体積の変化を示す。(C)(A)にしたがってシートを挿入した各群の体重変化を示す。
図6図5におけるdirectly群、around群、contralateral群の血中のレンバチニブの濃度を示す。
図7】1 mg レンバチニブ徐放シート を皮下挿入した群 (1 mg sheet群;“●”で表す)、薬剤非含有シートを皮下挿入した群 (Control群;“〇”で表す)の生存率を表すKaplan-Meier曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のある実施形態は、抗がん剤としてレンバチニブを含有する抗がん剤含有シート(以下、単に「抗がん剤含有シート」と呼ぶこともある)に関する。前記抗がん剤含有シートのシート部分は、生体適合性ポリマーを含有するナノファイバーから形成される。また、抗がん剤含有シートは、抗がん剤としてレンバチニブを含有する。
本明細書において、レンバチニブは、下式で表される化合物、又はその薬学的に許容される塩を含む。
【0011】
【化1】

レンバチニブとして、好ましくは、レンバチニブメシル酸塩である。
【0012】
生体適合性ポリマーを含有するナノファイバーは、直径が 約10nm~約1000nmであり、長さが直径の100倍以上の繊維状物質を意図する。ここで、「生体適合性ポリマーを含有するナノファイバー」は、生体適合性ポリマーを基材とするナノファイバーを意図する。
【0013】
生体適合性ポリマーとして、生分解性脂肪族ポリエステルを挙げることができる。生分解性脂肪族ポリエステルとして、好ましくは、例えば、ポリカプロラクトン(以下、「PCL」と略記する場合がある)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリグリセロール酸、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリブチレンサクシネート、これらの共重合体、これらの誘導体等が挙げられる。より好ましくは、柔軟性等の点から、ポリカプロラクトンまたはその共重合体、ポリ乳酸またはその共重合体、ポリグリコール酸またはその共重合体、およびそれらの混合物からなる群から選択される生分解性脂肪族ポリエステルが挙げられる。上記共重合体の例としては、ポリ乳酸-ポリカプロラクトン共重合体、ポリ(ε-カプロラクトン-co-DL-ラクチド)等が挙げられる。生分解性脂肪族ポリエステルとして、より好ましくは、ポリカプロラクトンであり、さらに好ましくは、非特許文献2に記載されている、触媒として2-エチルヘキサノエートスズ(II)を使用して、1,4-ブタンジオールの末端ヒドロキシル基から開環重合によって合成されるポリカプロラクトンである。
【0014】
抗がん剤含有シートは、例えば電界紡糸法によって製造され得る。ポリカプロラクトンを基材とする抗がん剤含有シートは、好ましくは非特許文献2に記載の方法により製造することができる。抗がん剤含有シートの製造例の一例として生体適合性ポリマーとして、ポリ(ε-カプロラクトン)(PLC)を使用する例を示す。PLCの調製は、例えば、Adv. Healthcare Mater. 2019, 8, 1900102にしたがって行うことができる。
【0015】
調製したPLCを20 %(重量/容積)となるようにヘキサフルオロ-2-プロパノールに溶解しPLC溶液を調製する。続いて、調製したPLC溶液に抗がん剤を溶解し、ナノファイバー原液とする。ナノファイバー原液中の抗がん剤の含有量は、例えば、1~10%(重量/容積)とすることができる。Nanon-01A(MECC Co.、Ltd.、Japan)を使用し、印加電圧を例えば20 kVとし、ナノファイバー原液を噴出する針とコレクタープレートを例えば13 cm離してナノファイバー原液をエレクトロスピニングすることにより抗がん剤を含有する不織布のシートを形成することができる。流量は、例えば1.0 mL h-1とすることができる。
【0016】
抗がん剤含有シートは、磁性ナノ粒子を含んでいてもよい。磁性ナノ粒子として、Iron(III) oxide nanopowder (<50 nm particle size)等を挙げることができる。磁性ナノ粒子を使用する場合、磁性ナノ粒子はナノファイバー原液に添加することにより、抗がん剤と共に不織布に含有させることができる。
【0017】
抗がん剤含有シートにおける抗がん剤の含有量は、1平方センチメートル(1cm×1cm)×厚さは0.1mmのシートに対して、1~10mg程度である。好ましくは、4~8mg程度である。ここで、「×」は乗算を示す。例えば、5%(重量/容積)の抗がん剤を含有するナノファイバー原液から形成された抗がん剤含有シートは、1平方センチメートル(1cm×1cm)×厚さは0.1mmのシートに約6.6mgの抗がん剤が含有され得る。
【0018】
抗がん剤含有シートは、動物個体に埋殖された後、シートに含まれる抗がん剤を徐放することが好ましい。ここで、徐放とは、例えば、埋殖後2週間で単位立方センチメートルあたりに含まれる抗がん剤の10~20%程度を放出することを意図する。好ましくは12~18%程度を放出することを意図する。また、埋殖後4週間で単位立方センチメートルあたりに含まれる抗がん剤の15~25%程度を放出することを意図する。好ましくは18~22%程度を放出することを意図する。さらに、埋殖後8週間で単位立方センチメートルあたりに含まれる抗がん剤の20~35%程度を放出することを意図する。好ましくは25~32%程度を放出することを意図する。
【0019】
例えば、抗がん剤含有シートは、1平方センチメートル(1cm×1cm)×厚さは0.1mmのシートに約6.6mgの抗がん剤は、埋殖後2週間で0.66~1.32mg程度、埋殖後4週間で0.99~1.65mg程度、埋殖後8週間で1.32~2.31mg程度の抗がん剤を放出することが好ましい。
【0020】
抗がん剤含有シートは、動物個体において、レンバチニブの血中濃度を維持することが好ましい。したがって、抗がん剤含有シートは、レンバチニブの血中濃度を少なくとも24時間維持するために使用される。また、レンバチニブの血中濃度は、好ましくは少なくとも7日間、より好ましくは14日間維持するために維持される。「血中濃度を維持する」とは、抗がん剤含有シートを動物個体に適用してから少なくとも24時間後、7日後、14日後に血中においてレンバチニブが検出されることを意図する。
【0021】
後述する実施例に示すようにレンバチニブを経口投与した場合、投与から24時間後に採血しレンバチニブの血中濃度を測定しても検出されないか、検出されてもわずかである。マウスにレンバチニブを経口で3mg/kgで投与した場合、血中のレンバチニブの半減期は、5時間から6時間程度である。一方、抗がん剤含有シートを使用した場合、血中のレンバチニブの半減期は、5日から6日程度である。
【0022】
抗がん剤含有シートは、直接腫瘍部、又は腫瘍の切除部位に適用してもよい。しかし、抗がん剤含有シートは、抗がん剤含有シート適用後、レンバチニブの血中濃度を維持できるため、必ずしも腫瘍部、又は腫瘍の切除部位に直接適用しなくてもよい。抗がん剤含有シートは、腫瘍部、又は腫瘍の切除部位以外の部位に適用してもよい。例えば、体表面や体腔内に適用しうる。
【0023】
また、抗がん剤含有シートは、腫瘍の転移、浸潤、及び/又は播種を予防するために使用することができる。特に、抗がん剤含有シートは、腫瘍部、又は腫瘍の切除部位に直接適用しなくても効果があるため、遠隔転移の予防、及び/又は治療に使用することができる。
【0024】
さらに、抗がん剤含有シートを使用する場合、レンバチニブによる副作用を低減できる。したがって、レンバチニブが適用される腫瘍において、副作用がより低減した治療法を適用できる。
【0025】
抗がん剤含有シートは、腫瘍、特に癌の治療に使用することができる。好ましくは、現在レンバチニブが適用されている根治切除不能な腫瘍の治療のために使用することができる。腫瘍は、例えば、甲状腺癌、肝癌、胸腺癌等である。
抗がん剤含有シートが適用されうる動物は、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等である。
【実施例0026】
以下に、実施例を示して本発明についてより詳細に説明する。しかし、本発明は、実施例に限定して解釈されるものではない。また、以下に示す動物実験等は、関西医科大学の指針にしたがって行われ、関西医科大学動物実験委員会の承認を経て行った。
【0027】
1.レンバチニブを抗がん剤として含むレンバチニブ徐放シートの作製
以下の方法にしたがって、レンバチニブ徐放シートを作製した。生体適合性ポリマーとして、ポリ(ε-カプロラクトン)(PLC)を使用した。PLCの調製は、Adv. Healthcare Mater. 2019, 8, 1900102にしたがった。ただし、ここでは磁性ナノ粒子は使用しなかった。
【0028】
調製したPLCを20 w/v%となるようにヘキサフルオロ-2-プロパノールに溶解した。調製したPLC溶液にレンバチニブとなるようにレンバチニブ(ケイマン)を溶解し、ナノファイバー原液とした。Nanon-01A(MECC Co.、Ltd.、Japan)を使用し、印加電圧を20 kVとし、ナノファイバー原液を噴出する針とコレクタープレートを13 cm離してナノファイバー原液をエレクトロスピニングすることにより不織布のシートを形成した。流量は、1.0 mL h-1とした。
【0029】
実施例において使用したシートのサイズは、1平方センチメートル(1cm×1cm)、厚さは0.1mm程度である。後の実験に使用する1 mgレンバチニブ徐放シートはレンバチニブ6.6mgを内包させた。
【0030】
2.レンバチニブの放出試験
放出試験を行うため、レンバチニブ含有シート10 mg (n=3)を5 mLのリン酸緩衝液(PBS)に浸漬させ、100 rpmで撹拌しながら37℃で静置し、レンバチニブを放出させた。薬剤放出をさせたPBSを24時間ごとに回収し、レンバチニブ特有の吸収波長である250 nmでの吸収強度をNanoDropTM2000分光光度計(Thermo Scientific)を用いて測定することで放出量を算出した。
【0031】
図1(A)薬剤放出のイメージ図を示す。薬剤は拡散作用にて徐放される。図1(B)は、レンバチニブの累積放出量(%)を示す。レンバチニブは、8週間まで継続してシートから放出され、2週間後、4週間後、8週間後には、それぞれ14.85±0.86%、19.15±0.73%、28.02±2.15%のレンバチニブが放出された。
【0032】
この結果より、1 mgレンバチニブ徐放シートは、レンバチニブ6.6mgを内包し、14日間で6.6mg中の14.85%の0.98mgが放出される計算で設計した。
【0033】
これはマウス(平均体重21.5 g)におけるレンバチニブ10 mg/kg/dayの経口投与量(合計3.01 mg / 14days)の約33 %に相当する。
【0034】
3.レンバチニブ徐放シートの効果の検証
3-1.方法
BALB/c ヌードマウス(日本チャールズ・リバー株式会社)の皮下に高分化型ヒト肝癌由来細胞株であるHuH-7細胞を5 × 106/100μLで移植したヒト肝細胞癌皮下移植マウスモデルを作製した。平均腫瘍体積が約180mm3となった時点をday0と定め、コントロール群(以下、No treatment群と表記)、1mgレンバチニブ徐放シート群(1 mg sheet群)、2mgレンバチニブ徐放シート群 (2 mg sheet群)、レンバチニブ経口投与群(Oral 3 mg群)の4群にランダムに割り付け治療を開始した。
No treatment群は、レンバチニブ徐放シートを使用せず、またレンバチニブの経口投与を行わないヒト肝細胞癌皮下移植マウスモデルとした。
Oral 3 mg群はレンバチニブ(10 mg/kg/day)を14日間毎日投与、計算上3.01 mg/14日のレンバチニブを摂取することとなる。
【0035】
レンバチニブシート群は、麻酔下に皮膚を切開し1cm角にカットしたレンバチニブシートを腫瘍部に直接挿入した。1 mg sheet群は1mgレンバチニブ含有シートを1枚、2 mg sheet群は1 mgレンバチニブ含有シートを2枚重ねて挿入した。
【0036】
治療効果の判定のため、腫瘍体積を測定した。腫瘍体積はノギスで測定し、(1/2) × 長径 × (短径)2より計算した。また、副作用の確認のため、各マウスの体重を測定した。
【0037】
マウスのn数は、no treatment群 n=16, 18 (7日群,14日群)、oral 3 mg群 n=10, 10、1 mg sheet群 n=15, 20、2 mg sheet群 n=10, 10とした。
3-2.結果
(1)レンバチニブ含有シートの効果と副作用の検証
【0038】
図2(A)に各群の腫瘍体積(mm3)の変化を示す。day7時点でno treatment (1102 ± 138 mm3: tumor volume ± SD)群(“〇”で表す)は、腫瘍体積は大幅に増加した。これに対してoral 3 mg群(“▲”で表す)は、day 7 (787 ± 128 mm3)までは腫瘍体積の増加が認められたが、コントロール群と比べて腫瘍体積の増加は抑えられていた。また、day 7からday 14 (780 ± 111 mm3)にかけては、腫瘍体積の増加は認められなかった。
【0039】
day 7における1 mg sheet (354 ± 55 mm3) 群(“◇”で表す)、及び2 mg (344 ± 38 mm3) sheet群(“■”で表す)では、腫瘍体積の増加はわずかであり、no treatment (P<0.01) 群とoral 3 mg (P < 0.05) 群のday 7と比較して有意に腫瘍体積の増加は抑えられていた。day14の1 mg sheet (375 ± 54 mm3) 群では、day 7からday 14にかけても腫瘍体積の増加はわずかであり、oral 3 mg 群のday 14と比較して有意に腫瘍体積の増加は抑えられていた(P<0.05)。2 mg (315 ± 67 mm3) sheet群では、day 7からday 14にかけて腫瘍体積はわずかに減少した。2 mg sheet群では、経口投与群のday 14と比較して有意に腫瘍体積の増加は抑えられていた(P<0.05)。1 mg sheet群と2 mg sheet群の間に腫瘍体積の大きな差はなかった。
この結果は、経口投与を行うよりも、レンバチニブ徐放シートの方が低用量で腫瘍の増殖抑制効果が得られることを示していると考えられた。
【0040】
図2(B)に各群の体重変化を示す。全群ともday 7では体重の減少が起こった。no treatment群、1 mg sheet群、及び2 mg sheet群ではday 14には、体重が戻る傾向があったが、経口投与群ではday 14においてさらなる体重の減少が認められた。ただし、群間に統計学的な有意差は認めなかった。
(2)レンバチニブの血中濃度変化
【0041】
図3に、上記3-2.(1)と同じ1 mg sheet群(“◇”で表す)と、oral 3 mg群(“▲”で表す)におけるレンバチニブの血中濃度を示す。血中濃度は、液体クロマトグラフィー分析により得られたピーク面積で示した。図3(A)は、day 0、day1、day 3、 day 7、day 14における各群の血中濃度を示す。図3(B)は、図3(A)における四角破線枠内の期間(薬剤投与後3 hrs~24 hrs)における血中濃度を示す。oral 3 mg群では、経口投与後3時間で血中のレンバチニブ濃度は最高に達し、その後急激に減少した。24時間でレンバチニブは血中からほぼ消失した。一方、1 mg sheet群は、貼付後3時間後では経口投与群と同程度の血中濃度を示し、その後さらに血中濃度が上昇した。そして、24 時間後に最高血中濃度に達し、その後、緩やかに血中濃度は低下した。上記3.において説明したように、1 mg sheetは、経口投与の場合と比較してレンバチニブの容量は低く、約1/3程度である。しかし1 mg sheetの方が長い時間レンバチニブの血中濃度を維持できることが示された。
【0042】
図4に、上記3.において使用した1 mg sheet群(“◇”で表す)、2 mg sheet群(“■”で表す)、及びoral 3 mg群(“▲”で表す)におけるday 7、day 14のレンバチニブの血中濃度を示す。各群のn数は10とした。血中濃度は、液体クロマトグラフィー分析により得られたピーク面積で示す。この結果において、1 mg sheet群、2 mg sheet群の間では、血中のレンバチニブ濃度に有意な差はなかった(day 7においてP=0.8377;day 14においてP=0.3034)。以上の結果から、レンバチニブ徐放シートは、レンバチニブの含有量が低い場合であっても、血中のレンバチニブの濃度を維持でき、結果的にレンバチニブの用量を減らすことができると考えられた。
【0043】
4.レンバチニブ含有シートの貼付位置の検討
4-1.方法
上記1.において準備した1 mg レンバチニブ徐放シート(1 mg sheet)を使い、シートの挿入位置による抗腫瘍効果の違いを検証した。上記3-1.と同様に、ヒト肝細胞癌皮下移植マウスモデルを作製した。腫瘍は、マウスの右腹側に形成させた。図5-1(A)に示すように、薬剤非含有シートを挿入した群(control群:n=11;“〇”で表す)、腫瘍に直下に1 mg sheetを挿入した群(directly群:n=10;“▲”で表す)、腫瘍周囲に1 mg sheetを挿入した群(around群:n=10;“◇”で表す)、及び腫瘍の対側に1 mg sheetを挿入した群(contralateral群:n=10;“■”で表す)を作製し、腫瘍体積と体重の変化を観察した。
【0044】
4-2.結果
図5-2(B)に各群の腫瘍体積の変化を示す。control群ではday 7 (1233 ± 333 mm3)、day 14 (2003 ± 327 mm3)において腫瘍体積の著しい増加が確認された。一方、1 mg sheetを挿入した群については、いずれの場所に挿入しても、同様に腫瘍体積の増加を有意に抑制した。図中、**はday7、day 14におけるcontrol群に対してP<0.01であったことを示す。この結果から、レンバチニブ徐放シートは、直接腫瘍に貼付しなくても、腫瘍の増殖を抑制することが示された。
【0045】
図5(C)に各群の体重変化を示す。各群間に体重変化の有意な差はなかった。このことからレンバチニブ徐放シートの挿入位置に依存した副作用はないものと考えられた。
【0046】
図6に、directly群、around群、contralateral群の血中のレンバチニブの濃度を示す。各群のn数は5とした。血中濃度は、液体クロマトグラフィー分析により得られたピーク面積で示す。血中のレンバチニブの濃度についても、挿入位置による差は認められなかった(周囲vs 直接:P=0.9283、周囲 vs 対側:P=1.0000、直接 vs 対側:P=1.0000)。
【0047】
以上の結果から、レンバチニブ徐放シートは、腫瘍から離れた部位に挿入しても、腫瘍の増殖抑制効果が高く、直接シート等を貼付できない位置に発生した腫瘍の治療にも有効であることが示された。また、このような使用方法を採用しても、副作用が低いことが示された。さらに、レンバチニブ徐放シートを使用することにより、腫瘍の遠隔転移の予防、又は治療が可能であることが示唆された。
【0048】
5.HuH -7-Luc 腹膜播種モデルマウスを用いたレンバチニブ徐放シートの有効性の検証
5-1.方法
肝細胞がん培養細胞株であるHuH -7-Luc細胞(細胞番号JCRB16:JCRB細胞バンクより購入)を一匹あたり5×107個となるようにBALB/c ヌードマウスの腹腔内に接種し約30日で死亡するHuH -7-Luc 腹膜播種モデルを作成した。肝細胞がん培養細胞株であるHuH -7-Lucを腹腔内に接種し、それと同時に、1 mg レンバチニブ徐放シート を皮下挿入した群 (1 mg sheet群;“●”で表す)、又はレンバチニブを含有していないPLCシート(薬剤非含有シート)を皮下挿入した群 (Control群;“〇”で表す)に分けた。この日をday 0と定義した。1 mg sheet群のn数は、10であった。control群のn数は8であった。
【0049】
7-2.結果
図7に各群の生存率を表すKaplan-Meier曲線を示す。1 mg sheet群では、day 30において生存率は1を示し、全てのマウスが生存していた。一方、control群の生存率は、day 30において0.125であり、8匹中1匹のみが生存していた。ログランク検定による2群間の生存率の有意差は、p<0.0001であり、レンバチニブ徐放シート挿入群では、有意な生存率を示した。また、control群では、投与後14日目に肉眼的な腹膜腫瘍結節が確認され,20日目には8匹中6匹(75%)に血性腹水が見られた。投与後30日目には8匹中7匹(87.5%)のマウスが死亡した。一方、1mgシート群では、投与後30日目にすべてのマウスが生存しており、腹水や肉眼的播種結節は認めなかった。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7