(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109000
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】エンジン制御装置、エンジン制御システム、及び、エンジン制御プログラム
(51)【国際特許分類】
F02D 41/10 20060101AFI20230731BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20230731BHJP
F02D 41/14 20060101ALI20230731BHJP
F02D 41/18 20060101ALI20230731BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
F02D41/10
F02D43/00 310A
F02D41/14
F02D41/18
F02D45/00 364
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010354
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高柳 恒
(72)【発明者】
【氏名】北村 陽昌
(72)【発明者】
【氏名】蔵本 一仁
(72)【発明者】
【氏名】佐瀬 遼
【テーマコード(参考)】
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G301JA03
3G301JA21
3G301KA09
3G301KA12
3G301MA03
3G301MA11
3G301NB07
3G301ND01
3G301ND42
3G301PA16Z
3G301PE01Z
3G384BA13
3G384CA07
3G384CA12
3G384DA05
3G384DA14
3G384EA01
3G384EA30
3G384FA11Z
3G384FA54Z
3G384FA56Z
(57)【要約】
【課題】空気過剰率が過少になるのを抑制しつつ、適切なタイミングで燃料噴射量を素早く増加させることができるエンジン制御装置、エンジン制御システム、及び、エンジン制御プログラムを提供する。
【解決手段】エンジン制御装置は燃料噴射量指令値を出力するための噴射指令部と、エンジン回転数偏差に基づいたFB演算により得られる燃料噴射量を基本燃料噴射量として噴射指令部に出力するための第1演算部と、エンジンの現在のエンジン負荷に基づくFF演算により得られる燃料噴射量をFF燃料噴射量として噴射指令部に出力するための第2演算部を備える。規定値以下であった規定時間前のエンジン負荷が変動閾値以上増大する負荷投入状態が発生したと判定されると、燃料噴射量指令値は、噴射指令部が基本燃料噴射量に基づき算出される燃料噴射量から、基本燃料噴射量にFF燃料噴射量を加算した値に基づき算出される燃料噴射量に切り替わる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに供給される燃料噴射量を示す燃料噴射量指令値を出力するための噴射指令部と、
前記エンジンの実エンジン回転数および目標エンジン回転数との偏差であるエンジン回転数偏差に基づいたフィードバック演算により得られる燃料噴射量を基本燃料噴射量として前記噴射指令部に出力するための第1演算部と、
前記エンジンの現在のエンジン負荷に基づくフィードフォワード演算により得られる燃料噴射量をフィードフォワード燃料噴射量として前記噴射指令部に出力するための第2演算部と、
規定値以下であった規定時間前の前記エンジン負荷が変動閾値以上増大する負荷投入状態が発生したかを判定するための第1判定部と
を備え、
前記負荷投入状態が発生したと前記第1判定部によって判定されると、前記噴射指令部が前記基本燃料噴射量に基づいて算出される第1燃料噴射量を前記燃料噴射量指令値として出力する通常制御モードから、前記噴射指令部が前記基本燃料噴射量に前記フィードフォワード燃料噴射量を加算した値に基づいて算出される第2燃料噴射量を前記燃料噴射量指令値として出力する負荷投入制御モードに切り替わるように構成される
エンジン制御装置。
【請求項2】
前記基本燃料噴射量が前記エンジンに供給される空気の給気量と相関する特性値から決定される上限燃料噴射量以上となる条件、または、前記実エンジン回転数が規定回転数以上となる条件の少なくとも一方の条件が充足されるかを判定するための第2判定部をさらに備え、
前記負荷投入制御モード下において前記少なくとも一方の条件が充足されると前記第2判定部によって判定された場合、前記負荷投入制御モードから前記通常制御モードに切り替わるように構成される
請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記第1演算部は、前記負荷投入制御モード下において前記フィードバック演算におけるフィードバックゲイン値を維持するように構成される
請求項1または2に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記第1判定部は、
前記規定時間前のエンジン負荷が前記規定値以下であるかを判定するための低負荷判定部と、
前記エンジン負荷の増大量が前記変動閾値以上であるかを判定するための負荷増大判定部と
を含み、
前記負荷増大判定部は、少なくとも1つの負荷増大条件が全て充足される場合に、前記エンジン負荷の増大量が前記変動閾値以上であると判定するように構成され、
前記負荷増大条件は、現在の前記エンジン負荷と、現在の前記エンジン負荷よりも前記規定時間前の前記エンジン負荷との偏差である第1負荷偏差が前記変動閾値以上となる第1負荷増大条件を含む
請求項1乃至3の何れか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記第1判定部は、
前記規定時間前のエンジン負荷が前記規定値以下であるかを判定するための低負荷判定部と、
前記エンジン負荷の増大量が前記変動閾値以上であるかを判定するための負荷増大判定部と
を含み、
前記負荷増大判定部は、少なくとも1つの負荷増大条件が全て充足される場合に、前記エンジン負荷の増大量が前記変動閾値以上であると判定するように構成され、
前記負荷増大条件は、現在の前記エンジン負荷の微分値が微分閾値以上となる第2負荷増大条件を含む
請求項1乃至4の何れか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項6】
前記負荷増大条件は、現在の前記エンジン負荷と、前記規定時間前の前記エンジン負荷にローパスフィルタ処理を施すことで得られる処理済エンジン負荷との偏差である第2負荷偏差が前記変動閾値以上となる第3負荷増大条件を含む
請求項4または5に記載のエンジン制御装置。
【請求項7】
前記負荷増大条件は、前記エンジン回転数偏差が第1回転数閾値以下となる第4負荷増大条件を含む
請求項4乃至6の何れか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項8】
前記低負荷判定部は、前記規定時間前のエンジン負荷が前記規定値以下であり、且つ、前記実エンジン回転数が第2回転数閾値以下である場合に、前記規定時間前の前記エンジン負荷が前記規定値以下であると判定するように構成される
請求項4乃至7の何れか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項9】
前記第2演算部は、前記エンジンの定格エンジン負荷において参照されるデータである、前記エンジン負荷と燃料噴射量とを対応付けた対応データと、現在の前記エンジン負荷とに基づき得られる燃料噴射量を前記フィードフォワード燃料噴射量として出力するように構成される
請求項1乃至8の何れか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項10】
前記第1演算部は、
前記通常制御モード下において、前記エンジン回転数偏差に基づいた前記フィードバック演算により得られる前記燃料噴射量を前記基本燃料噴射量として出力し、
前記負荷投入制御モード下において、前記エンジンの実エンジン負荷と目標エンジン負荷との偏差に基づいた前記フィードバック演算により得られる燃料噴射量を前記基本燃料噴射量として出力するように構成される
請求項1乃至9の何れか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項11】
前記エンジンと、
前記エンジンの回転数を検出するための回転数センサと、
前記エンジンの前記エンジン負荷を検出するための負荷センサと
前記回転数センサと前記負荷センサのそれぞれの検出結果を取得するための、請求項1乃至10の何れか1項に記載のエンジン制御装置と、
前記エンジンに設けられ、前記エンジン制御装置の前記噴射指令部から出力される前記燃料噴射量指令値にしたがって燃料を噴射するための燃料噴射部と、
を備えるエンジン制御システム。
【請求項12】
コンピュータであるエンジン装置に、
エンジンに供給される燃料噴射量指令値を出力するための噴射指令ステップと、
前記エンジンの実エンジン回転数および目標エンジン回転数との偏差であるエンジン回転数偏差に基づいたフィードバック演算により得られる燃料噴射量を、前記噴射指令ステップにおいて取得される基本燃料噴射量として出力するための第1演算ステップと、
前記エンジンの現在のエンジン負荷に基づくフィードフォワード演算により得られる燃料噴射量を、前記噴射指令ステップにおいて取得されるフィードフォワード燃料噴射量として出力するための第2演算ステップと、
規定値以下であった規定時間前の前記エンジン負荷が変動閾値以上増大する負荷投入状態が発生したかを判定するための第1判定ステップと
を実行させ、
前記負荷投入状態が発生したと前記第1判定ステップによって判定されると、前記エンジン装置を、前記噴射指令ステップにおいて前記基本燃料噴射量に基づいて算出される第1燃料噴射量が前記燃料噴射量指令値として出力される通常制御モードから、前記噴射指令ステップにおいて前記基本燃料噴射量に前記フィードフォワード燃料噴射量を加算した値に基づいて算出される第2燃料噴射量が前記燃料噴射量指令値として出力される負荷投入制御モードに切り替えさせる
エンジン制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はエンジン制御装置、エンジン制御システム、及び、エンジン制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1で例示されるエンジン制御装置は、エンジンに設けられるスロットルの開度を制御する。より具体的には、エンジン制御装置は、エンジンの実回転数と目標回転数との偏差に基づいたフィードバック演算により求まるスロットル開度に、エンジン負荷に基づいたフィードフォワード演算により求まるスロットル開度を加算する。加算により得られる開度指令値は、スロットル開度を制御するステッピングモータに送られ、エンジン回転数は制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
低い値で推移していたエンジン負荷がある程度増大する場合には、エンジン駆動の高い応答性が実現されるよう、燃料噴射量を素早く増大させる必要がある。しかし、エンジン負荷が低いとき、エンジンに供給される空気量は少ないため、燃料噴射量の増大に伴って空気過剰率が過少になるおそれがある。結果、排ガスに含まれる有害物質の増加、エンジンの熱効率の低下、またはエンジンストールなどの各種問題が生じうる。従って、低い値で推移していたエンジン負荷が増大する場合には、空気過剰率が過少にならないよう適切なタイミングで燃料噴射量を素早く増大させる必要がある。
【0005】
本開示の目的は、低い値で推移していたエンジン負荷が増大した場合において、空気過剰率が過少になるのを抑制しつつ、適切なタイミングで燃料噴射量を素早く増加させることができるエンジン制御装置、エンジン制御システム、及び、エンジン制御プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の少なくとも一実施形態に係るエンジン制御装置は、
エンジンに供給される燃料噴射量指令値を出力するための噴射指令部と、
前記エンジンの実エンジン回転数および目標エンジン回転数との偏差であるエンジン回転数偏差に基づいたフィードバック演算により得られる燃料噴射量を基本燃料噴射量として前記噴射指令部に出力するための第1演算部と、
前記エンジンの現在のエンジン負荷に基づくフィードフォワード演算により得られる燃料噴射量をフィードフォワード燃料噴射量として前記噴射指令部に出力するための第2演算部と、
規定値以下であった規定時間前の前記エンジン負荷が変動閾値以上増大する負荷投入状態が発生したかを判定するための第1判定部と
を備え、
前記負荷投入状態が発生したと前記第1判定部によって判定されると、前記噴射指令部が前記基本燃料噴射量に基づいて算出される第1燃料噴射量を前記燃料噴射量指令値として出力する通常制御モードから、前記噴射指令部が前記基本燃料噴射量に前記フィードフォワード燃料噴射量を加算した値に基づいて算出される第2燃料噴射量を前記燃料噴射量指令値として出力する負荷投入制御モードに切り替わるように構成される。
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態に係るエンジン制御システムは、
前記エンジンと、
前記エンジンの回転数を検出するための回転数センサと、
前記エンジンの前記エンジン負荷を検出するための負荷センサと
前記回転数センサと前記負荷センサのそれぞれの検出結果を取得するための、上記エンジン制御装置と、
前記エンジンに設けられ、前記エンジン制御装置の前記噴射指令部から出力される前記燃料噴射量指令値にしたがって燃料を噴射するための燃料噴射部と
を備える。
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態に係るエンジン制御プログラムは、
コンピュータであるエンジン装置に、
エンジンに供給される燃料噴射量指令値を出力するための噴射指令ステップと、
前記エンジンの実エンジン回転数および目標エンジン回転数との偏差であるエンジン回転数偏差に基づいたフィードバック演算により得られる燃料噴射量を、前記噴射指令ステップにおいて取得される基本燃料噴射量として出力するための第1演算ステップと、
前記エンジンの現在のエンジン負荷に基づくフィードフォワード演算により得られる燃料噴射量を、前記噴射指令ステップにおいて取得されるフィードフォワード燃料噴射量として出力するための第2演算ステップと、
規定値以下であった規定時間前の前記エンジン負荷が変動閾値以上増大する負荷投入状態が発生したかを判定するための第1判定ステップと
を実行させ、
前記負荷投入状態が発生したと前記第1判定ステップによって判定されると、前記エンジン装置を、前記噴射指令ステップにおいて前記基本燃料噴射量に基づいて算出される第1燃料噴射量が前記燃料噴射量指令値として出力される通常制御モードから、前記噴射指令ステップにおいて前記基本燃料噴射量に前記フィードフォワード燃料噴射量を加算した値に基づいて算出される第2燃料噴射量が前記燃料噴射量指令値として出力される負荷投入制御モードに切り替えさせる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、空気過剰率が過少になるのを抑制しつつ、適切なタイミングで燃料噴射量を素早く増加させることができるエンジン制御装置、エンジン制御システム、及び、エンジン制御プログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係るエンジン制御システムの概念図である。
【
図2】一実施形態に係るエンジン制御装置の概念図である。
【
図3】一実施形態に係るエンジン負荷の経時的推移と第1判定部の判定結果との関係を示す概念図である。
【
図4】一実施形態に係る第1判定部の構成を示す概念図である。
【
図5】一実施形態に係る低負荷判定部の判定条件を示す概念図である。
【
図6】一実施形態に係るエンジン負荷の経時的推移を概念的に示すグラフである。
【
図7A】一実施形態に係る負荷増大判定部の判定条件を示す概念図である。
【
図7B】他の実施形態に係る負荷増大判定部の判定条件を示す概念図である。
【
図8】一実施形態に係るエンジン負荷の経時的推移を概念的に示す別のグラフである。
【
図9】一実施形態に係る負荷変動応答処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
なお、同様の構成については同じ符号を付し説明を省略することがある。
【0012】
<1.エンジン制御システム1の概要の例示>
図1は、本開示の一実施形態に係るエンジン制御システム1の概念図である。本実施形態のエンジン制御システム1は、エンジン5、エンジン5を制御するためのエンジン制御装置20、回転軸19を介してエンジン5に連結される発電機4、及び、発電機4によって生成された電力を電力供給ライン3に供給するための電力供給設備2を備える。エンジン5は、例えばディーゼルエンジンなどの内燃機関である。また、エンジン制御システム1は、エンジン5への給気のブースト圧力を検出するためのブースト圧力センサ14を備える。ブースト圧力センサ14の検出結果はエンジン制御装置20に送られる。さらに、エンジン5には、例えばインジェクターであってもよい燃料噴射部9が設けられる。本例では、空気供給路8を流れる空気と燃料噴射部9によって噴射される燃料とが混合燃焼することにより機械的エネルギーが得られ、回転軸19は回転する。回転軸19の回転に伴い稼働する発電機4によって生成された電力は、電力供給設備2を経由して電力供給ライン3に供給される。他方で、電力供給設備2に所定の操作がなされると、発電機4と電力供給ライン3は別系統になり、発電機4から電力供給ライン3への電力供給は遮断される。
【0013】
一実施形態に係るエンジン制御システム1は、エンジン5の回転数を検出するための回転数センサ12と、エンジン5のエンジン負荷を検出するための負荷センサ11とをさらに備える。本例の回転数センサ12は回転軸19の回転数を検出する。回転数センサ12の検出結果(rpm信号)は、エンジン制御装置20に送られる。また、本例の負荷センサ11は、発電機4によって生成される電力を計測するための電力トランスデューサである。エンジン5の出力が大きくなる程、発電機4によって生成される電力は高まるため、電力トランスデューサの計測結果はエンジン負荷とみなすことができる。負荷センサ11の検出結果(KW信号)は、エンジン制御装置20に送られる。なお、他の実施形態に係る負荷センサ11は、回転軸19のトルクを計測するためのトルクセンサであってもよい。
【0014】
本実施形態のエンジン制御装置20は、負荷センサ11、回転数センサ12、及び、ブースト圧力センサ14のそれぞれの検出結果に基づき、燃料噴射部9を制御する。また、燃料噴射部9はエンジン制御装置20から送られる噴射量指令値にしたがい燃料を噴射する。
【0015】
発電機4と電力供給ライン3が互いに別系統になっている間、エンジン5のエンジン負荷は、例えばエンジン5の定格負荷に比べて低く、エンジン5の回転数であるエンジン回転数は低い。以下の説明では、エンジン負荷が規定値以下となるエンジン5の駆動を低負荷駆動という場合がある。規定値は、エンジン5の定格負荷の5%以下である。低負荷駆動は、実質的に0とみなせるエンジン負荷でエンジン5が駆動することを含む概念である。
【0016】
エンジン5が低負荷駆動する間、エンジン5に供給される空気量は少ないため、燃料噴射部9による燃料噴射量が多過ぎると、空気過剰率が過少になるおそれがある。一方で、エンジン5が低負荷駆動する間であっても、例えば発電機4と電力供給ライン3とを接続させるための操作が電力供給設備2で開始されてエンジン負荷が一定程度増大する場合には、燃料噴射量は素早く増加することが望ましい。なぜなら、燃料噴射量の急増によってエンジン5がエンジン負荷の増大に素早く応答できれば、発電機4から電力供給ライン3への供給電力量は素早く立ち上がるからである。
【0017】
本開示の幾つかの実施形態では、低い値で推移していたエンジン負荷が一定程度増大するときには、エンジン制御装置20は燃料噴射量を急増させる。他方で、エンジン負荷の増大量が小さい場合には、エンジン制御装置20は燃料噴射量を急増はさせない。従って、低負荷駆動においてエンジン負荷が増大する場合には、必要なタイミングでのみ燃料噴射量は急増する。
【0018】
エンジン制御装置20はコンピュータによって構成されており、プロセッサ、メモリ、及び外部通信インタフェースを備える。プロセッサは、CPU、GPU、MPU、DSP、又はこれらの組み合わせなどである。他の実施形態に係るプロセッサは、PLD、ASIC、FPGA、またはMCU等の集積回路により実現されてもよい。メモリは、各種データを一時的または非一時的に記憶するように構成され、例えば、RAM、ROM、またはフラッシュメモリの少なくとも1つによって実現される。メモリにロードされたプログラムの命令にしたがって、プロセッサは、負荷センサ11、回転数センサ12、ブースト圧力センサ14のそれぞれの検出結果を示すデータを適宜取得し、各種データを処理する。
【0019】
<2.エンジン制御装置20の具体的構成の例示>
図2は、本開示の一実施形態に係るエンジン制御装置20の概念図である。エンジン制御装置20は、エンジン5に供給される燃料噴射量を示す燃料噴射量指令値を燃料噴射部9に出力するための噴射指令部35と、噴射指令部35に対して演算結果をそれぞれ出力するための第1演算部31及び第2演算部32とを備える。
【0020】
第1演算部31は、フィードバック演算(以下、FB演算ともいう)によって得られる燃料噴射量を基本燃料噴射量として燃料噴射部9に出力するように構成される。本例のFB演算は、エンジン5の実エンジン回転数及び目標エンジン回転数の偏差であるエンジン回転数偏差に基づいて実行される。エンジン5の実エンジン回転数は、一例として、回転数センサ12の検出結果によって示される最も新しいデータ(現在データ)である。第1演算部31は、現在の実エンジン回転数を目標エンジン回転数から差し引くことで、エンジン回転数偏差を取得する。第1演算部31によるFB演算結果は、噴射指令部35から燃料噴射部9に送られる燃料噴射量指令値に反映される。そして、燃料噴射部9の燃料噴射量に応じて変化する回転軸19の回転数は、回転数センサ12によって検出されて、第1演算部31に入力値として戻される。これにより、エンジン回転数のフィードバック制御(以下、FB制御ともいう)が実現される。なお、本実施形態のFB制御はPID制御であり、第1演算部31におけるFB演算はPID演算である。他の実施形態に係るFB制御はP制御またはPI制御であってもよい。
【0021】
また、第1演算部31によって出力される基本燃料噴射量は、噴射指令部35に直接的に出力されなくてもよい。例えば、第1演算部31から出力された基本燃料噴射量を上限燃料噴射量以下に制限するためのリミット処理が施され、リミット処理されたデータが燃料噴射部9に入力されてもよい。上記の上限燃料噴射量は、エンジン5に供給される空気量に応じて変動してもよい。例えば、空気過剰率が適正範囲に収まるよう、エンジン制御装置20は回転数センサ12とブースト圧力センサ14の検出結果に基づき上限燃料噴射量を変更してもよい。
【0022】
第2演算部32は、フィードフォワード演算(以下、FF演算ともいう)によって得られる燃料噴射量をフィードフォワード燃料噴射量として噴射指令部35に出力するように構成される。以下では、フィードフォワード燃料噴射量をFF燃料噴射量という場合がある。本例のFF演算は、現在のエンジン負荷に基づいて実行される。より具体的には、負荷センサ11の検出結果を示す最も新しいデータにローパスフィルタ処理が施され、処理済みのデータの微分値に基づき、FF燃料噴射量が求められる。本例では、さらに、求められたFF燃料噴射量を所定値以下に制限するためのリミット処理が施される。このようにして得られるFF燃料噴射量が、第1演算部31から出力される基本燃料噴射量に加算される。加算により得られた燃料噴射量が、噴射指令部35における燃料噴射量指令値に反映されることで、エンジン回転数のフィードフォワード制御(以下、FF制御ともいう)は実行される。なお、基本燃料噴射量にFF燃料噴射量が加算された燃料噴射量(あるいはリミット処理が施された基本燃料噴射量にFF燃料噴射量が加算された燃料噴射量)は、直接的に噴射指令部35に入力されなくてもよい。例えば、該燃料噴射量を上限値以下に制限するためのリミット処理が施され、処理された燃料噴射量が噴射指令部35に入力されてもよい。また、負荷センサ11の検出結果が直接的に第2演算部32に入力されなくてもよく、例えば、該検出結果にリミット処理と最尤推定処理が順に施されたデータが第2演算部32に入力されてもよい。
【0023】
本実施形態のエンジン制御装置20は、基本燃料噴射量またはFF燃料噴射量のうち基本燃料噴射量のみが燃料噴射量指令値に反映される通常制御モードと、基本燃料噴射量及びFF燃料噴射量がいずれも燃料噴射量指令値に反映される負荷投入制御モードとの間で切り替わるように構成される。エンジン制御装置20が通常制御モードになると、噴射指令部35は基本燃料噴射量に基づいて算出される第1燃料噴射量を噴射量指令値として出力する。エンジン制御装置20が負荷投入制御モードになると、噴射指令部35は基本燃料噴射量にFF燃料噴射量を加算した値に基づいて算出される第2燃料噴射量を噴射量指令値として出力する。第2燃料噴射量は第1燃料噴射量以上である。エンジン5が低負荷駆動する間に大きなエンジン負荷が発生しなければ、燃料噴射量を素早く増加させる必要はなく、エンジン制御装置20は通常制御モードである。他方で、エンジン5が低負荷駆動する間にエンジン負荷が一定程度増加すると、燃料噴射量を素早く増加させる必要があるので、エンジン制御装置20は通常制御モードから負荷投入制御モードに切り替わる。
【0024】
上記の切り替わりが発生するかは、エンジン制御装置20の構成要素である第1判定部21の判定結果による。第1判定部21は、例えば負荷センサ11の検出結果に基づき、規定値以下であった規定時間前のエンジン負荷が変動閾値以上増大する負荷投入状態が発生したかを判定するように構成される。第1判定部21に入力される負荷センサ11の検出結果は、リミット処理と最尤推定処理が順に施されてもよい。なお、規定時間は、負荷センサ11及び回転数センサ12のそれぞれの読取周波数に相当する時間よりも十分に長い時間である。また、変動閾値は、エンジン5の定格負荷の25%以上の定数である。変動閾値は、エンジン制御装置20を構成するメモリに記憶される。
【0025】
第1判定部21によって負荷投入状態が発生したと判定される事例と、判定されない事例とを以下に例示する。
図3は、本開示の一実施形態に係るエンジン負荷の経時的推移と第1判定部21の判定結果との関係を示す概念図である。同図で示されるグラフはいずれも、横軸を時間とし縦軸をKW信号によって示されるエンジン負荷とする。また、t
cは現在時刻を示し、t
bは現在時刻から規定時間前の時刻を示し、L
cはエンジン負荷の規定値を示す(後述の
図6、
図8で示されるグラフも同様である)。また、T
Lは、エンジン負荷の変動閾値を示す。
【0026】
同図の上段グラフによって示される事例では、規定時間前の時刻tbにおけるエンジン負荷は規定値以下であり、且つ、規定時間前から現在までのエンジン負荷の増加量(ΔL1)が変動閾値(TL)以上である。従って、第1判定部21は負荷投入状態が発生したと判定する。本事例には、エンジン5の低負荷駆動中にある程度のエンジン負荷が加わる事例が該当する。当該事例では、燃料噴射量を素早く上昇させて、エンジン負荷の増大に素早く応答する必要がある。同図の中段グラフによって示される事例では、規定時間前の時刻tbにおけるエンジン負荷は規定値を上回る。従って、第1判定部21は負荷投入状態が発生していないと判定する。本事例には、規定時間前においてエンジン5が低負荷駆動をしていなかった事例が該当する。当該事例では、エンジン5に供給される給気量と燃料噴射量とがある程度確保されている。従って、燃料噴射量を素早く増大させなくとも、エンジン負荷の上昇に対してエンジン駆動の素早い応答性が比較的実現され易い。よって、燃料噴射量を素早く上昇させる必要性は乏しい。同図の下段グラフによって示される事例では、規定時間前から現在までのエンジン負荷の増加量(ΔL3)が変動閾値を下回る。従って、第1判定部21は負荷投入状態が発生していないと判定する。本事例には、低負荷駆動中のエンジン5に加わるエンジン負荷が小さい事例が該当する。当該事例では、燃料噴射量を素早く上昇させると、燃料噴射量の増加に伴いエンジン回転数が高くなり、エンジン5の不安定な動作を招くといった各種問題が生じるおそれがある。従って、このようなタイミングで燃料噴射量を素早く上昇させるのは好ましくない。
【0027】
図2に戻り、一実施形態に係るエンジン制御装置20は、第1判定部21の判定結果と第2演算部32のFF燃料噴射量とを受け付けるように構成されるフィードフォワード判定部(以下、FF判定部という)23を備える。第1判定部21の判定結果が負荷投入状態の発生を示す場合にのみ、FF判定部23は、第2演算部32によって出力されるFF燃料噴射量を噴射指令部35に送る。本構成によって、負荷投入状態が発生したと第1判定部21によって判定されると、エンジン制御装置20は通常制御モードから負荷投入制御モードに切り替わり、燃料噴射量指令値は第1燃料噴射量から第2燃料噴射量に切り替わる。なお、FF判定部23はエンジン制御装置20に設けられなくてもよい。例えば、第2演算部32の演算結果が第1判定部21に入力され、FF判定部23の機能が第1判定部21の機能に含まれてもよい。
【0028】
上記構成によれば、規定値以下であった規定時間前のエンジン負荷が変動閾値以上増大する負荷投入状態が発生したと第1判定部21によって判定された場合、エンジン制御装置20は負荷投入制御モードに切り替わる。つまり、低い値で推移していたエンジン負荷がある程度上昇する場合には、噴射量指令値が第1燃料噴射量から第2燃料噴射量に切り替わるので、燃料噴射量は素早く増加する。一方で、規定時間前のエンジン負荷が規定値を上回る場合(つまり燃料噴射量を素早く増大させる必要性が乏しい場合)、または、エンジン負荷の増大量が変動閾値未満である場合、燃料噴射量指令値は第2燃料噴射量に切り替わらない。これにより、不必要なタイミングでの燃料噴射量の急増、及び、過少な空気過剰率を招く燃料噴射量の急増は抑制される。以上より、空気過剰率が過少になるのを抑制しつつ、適切なタイミングで燃料噴射量を素早く増加させることができるエンジン制御装置20が実現される。なお、一実施形態に係る第1判定部21は、エンジン負荷の経時的な推移にのみ基づいて負荷投入状態の発生の有無を判定する。他の実施形態に係る第1判定部21は、エンジン回転数などの他のパラメータが規定の条件を併せて充足しない限り、負荷投入状態が発生したと判定しない(詳細は後述する)。いずれの実施形態においても、上記利点は得られる。
【0029】
一実施形態に係る第1演算部31は、負荷投入制御モード下において、FB演算におけるフィードバックゲイン値を変えずに維持するように構成される。第1演算部31がPID演算を実行する実施形態では、PIDゲイン値が維持される。PIDゲイン値は、通常制御モードと負荷投入制御モードのいずれにおいても同じ値であってもよい。上記構成によれば、通常制御モードから負荷投入制御モードへの切り替わりに伴う第1演算部31の設定変更が抑制されるので、第1演算部31による演算処理を簡易にしつつ、不要なタイミングで燃料噴射量が急増するのをさらに抑制できる。
【0030】
負荷投入制御モードから通常制御モードへの切り替わりについて説明する。
図2で例示される実施形態では、エンジン制御装置20の構成要素である第2判定部22の判定結果に基づき、該切り替わりが発生する。第2判定部22は、基本燃料噴射量が、エンジン5に供給される空気の給気量と相関する特性値から決定される上限燃料噴射量以上となる第1条件、または、エンジン回転数が規定回転数以上となる第2条件の少なくとも一方が充足されるかを判定するように構成される。
【0031】
第1条件について説明する。第2判定部22は、回転数センサ12とブースト圧力センサ14の検出結果に基づき上限燃料噴射量を決定する。ブースト圧力センサ14の検出結果は、実際の給気量と高い相関を有する特性値であると了解される。第1演算部31のFB演算により得られる基本燃料噴射量が上限燃料噴射量以上であれば、エンジン5に供給される燃料噴射量は十分に高くなっており、エンジン5の空気過剰率が過少になるのを抑制する観点から、燃料噴射量を素早く増加させる制御を継続する必要性は乏しい。第2判定部22の判定条件に第1条件が含まれることで、このようなタイミングでの燃料噴射量の増大を抑制できる。
【0032】
第2条件について説明する。第2判定部22は、回転数センサ12の検出結果により特定される実エンジン回転数が規定回転数以上となるかを判定する。実エンジン回転数が規定回転数以上であれば、実際の燃料噴射量を上限燃料噴射量まで高めなくても、エンジン5はある程度の回転数で回転しており、エンジン5の出力も一定水準以上になっている。このため、燃料噴射量を素早く増加させる制御を継続する必要性は乏しい。第2判定部22の判定条件に第2条件が含まれることで、このようなタイミングでの燃料噴射量の急増を抑制できる。
【0033】
以上のように、第1演算部31によって出力される基本燃料噴射量が上限燃料噴射量以上となる場合、実際の燃料噴射量は十分に高くなっており、エンジン5の空気過剰率が過少になるのを抑制する観点から噴射量指令値が第2燃料噴射量となる必要性が乏しい。また、基本燃料噴射量が上限燃料噴射量に到達することなく実エンジン回転数が規定回転数以上となる場合、実際の燃料噴射量を十分に高くしなくても、ある程度の回転数でエンジン5が回転できているため、燃料噴射量指令値が第2燃料噴射量となる必要性が乏しい。この点、上記構成によれば、少なくとも一方の条件が充足されると、エンジン制御装置20は負荷投入制御モードから通常制御モードに切り替わり、燃料噴射量指令値は第2燃料噴射量から第1燃料噴射量に切り替わる。従って、不要なタイミングで燃料噴射量が急増するのをさらに抑制できる。なお、第2判定部22の判定処理は、負荷投入状態が発生したと第1判定部21によって判定された場合に実行されてもよいし、第1判定部21の判定結果に関わらず実行されてもよい。後者の実施形態では、負荷投入状態が発生したと第1判定部21によって判定された後に、第2判定部22の判定結果が参照される。いずれの実施形態においても、上記利点は得られる。
【0034】
<3.第1判定部21の構成の例示>
図4は、本開示の一実施形態に係る第1判定部21の構成を示す概念図である。第1判定部21は、規定時間前のエンジン負荷が規定値以下であるかを判定するための低負荷判定部26と、エンジン負荷の増大量が変動閾値以上であるかを判定するための負荷増大判定部27とを含む。低負荷判定部26と負荷増大判定部27のそれぞれの判定処理は並列的に実行されてもよいし、低負荷判定部26の判定処理が、負荷増大判定部27の判定処理の前または後に実行されてもよい。以下では、低負荷判定部26と負荷増大判定部27のそれぞれの判定条件を説明する。
【0035】
図5は、本開示の一実施形態に係る低負荷判定部26の判定条件を示す概念図である。一実施形態に係る低負荷判定部26は、条件N1、N2の双方が充足される場合に、規定時間前のエンジン負荷が規定値以下であると判定するように構成される。条件N1は規定時間前のエンジン負荷が規定値以下となる条件である。規定時間前のエンジン負荷は、負荷センサ11の検出結果に基づき取得される。条件N2は実エンジン回転数が第2回転数閾値以下となる条件である。実エンジン回転数は回転数センサ12の検出結果に基づき取得される。本判定で参照される実エンジン回転数は、現在の実エンジン回転数、規定時間前の実エンジン回転数、または、規定時間前から現在までの任意の時刻における実エンジン回転数のいずれかである。規定時間前のエンジン負荷が規定値以下であるかの判定において、条件N1のみならず条件N2の充足の有無が判定される利点を、以下に説明する。
【0036】
図6は、本開示の一実施形態に係るエンジン負荷の経時的推移を概念的に示すグラフである。同グラフは、エンジン5が低負荷駆動をしていなかったにも関わらず、KW信号によって示されるエンジン負荷が突発的に発生した要因によって急落した事例を示す。突発的に発生する要因としては、例えば、エンジン5の間欠失火、または、負荷センサ11の計測に影響を及ぼすノイズが挙げられる。間欠失火が発生した場合には、急落したエンジン負荷は即座に元の水準に回復し、ノイズが発生した場合には、実際のエンジン負荷は規定値を下回らない。これらの場合、エンジン制御装置20が負荷投入制御モードに切り替わって燃料噴射量が急増する必要がないにも関わらず、KW信号によって示される規定時間前のエンジン負荷が規定値以下になる。他方、上記で例示される突発的な要因が発生しても、実エンジン回転数は高い状態を維持する傾向がある。この点、上記構成によれば、実エンジン回転数が第2回転数閾値以下になり条件N2が充足されないと、低負荷判定部26は規定時間前のエンジン負荷が規定値以下であると判定しない。よって、不要なタイミングで燃料噴射量が急増するのを抑制することができる。
【0037】
図7Aは、一実施形態に係る負荷増大判定部27の判定条件を示す概念図である。一実施形態に係る負荷増大判定部27は、少なくとも1つの負荷増大条件が全て充足される場合に、エンジン負荷の増加量が変動閾値以上であると判定するように構成される。本例の負荷増大条件は、負荷増大条件A1、A2、A3を含む。以下、負荷増大条件A1、A2、A3などの個別の判定条件を総称するときに単に負荷増大条件という場合がある。負荷増大条件A1は、現在のエンジン負荷よりも規定時間前のエンジン負荷との偏差である第1負荷偏差が変動閾値以上となる条件である。第1負荷偏差は、現在の負荷センサ11の検出結果によって示されるエンジン負荷から、規定時間前の負荷センサ11の検出結果によって示されるエンジン負荷を差し引くことで得られる。負荷増大条件A2は、エンジン回転数偏差が第1回転数閾値以下となる条件である。エンジン回転数偏差の取得方法は既述の通りである。負荷増大条件A3は、現在のエンジン負荷と、規定時間前のエンジン負荷にローパスフィルタ処理を施すことで得られる処理済エンジン負荷との偏差である第2負荷偏差が変動閾値以上となる条件である。第2負荷偏差は、現在のエンジン負荷から処理済エンジン負荷を差し引くことで得られる。
【0038】
図7Aで示される負荷増大判定部27の負荷増大条件に、負荷増大条件A1が含まれる構成によれば、エンジン負荷の増大量が変動閾値以上であるかの判定に、エンジン負荷の偏差としての第1負荷偏差が用いられる。これにより、負荷増大判定部27による判定精度を確保することができる。なお、負荷増大条件が、負荷増大条件A1に加えて負荷増大条件A2または負荷増大条件A3の少なくとも一方を含むかに関わらず、上記利点は得られる。負荷増大条件が、負荷増大条件A1のみを含む場合、全1つの負荷増大条件A1が充足された場合に、エンジン負荷の増大量が前記変動閾値以上であると判定される。
【0039】
また、負荷増大条件は、負荷増大条件A1の他に負荷増大条件A2を含む。つまり、負荷増大判定部27は、第1負荷偏差が変動閾値以上であり、且つ、エンジン回転数偏差が第1回転数閾値以下である場合に、エンジン負荷の増大量が変動閾値以上であると判定するように構成される。負荷増大判定部27に送られるKW信号によって示されるエンジン負荷は、上述したように、突発的に発生する要因によって一時的に急落する場合がある。この場合、燃料噴射量が実際には急増する必要がないにも関わらず、第1負荷偏差が変動閾値以上になる。一方で、上記突発的な要因が発生してもエンジン回転数偏差は高い状態を維持する傾向にある。この点、上記構成によれば、実際のエンジン負荷が変動閾値以上増大することに伴いエンジン回転数偏差が第1回転数閾値以下にならないと、エンジン負荷の増大量が変動閾値以上であると判定されない。よって、不要なタイミングで燃料噴射量が急増するのをさらに抑制することができる。なお、負荷増大条件が、負荷増大条件A1、A2に加えて条件A3を含むかに関わらず、上記利点は得られる。
【0040】
また、負荷増大条件は、負荷増大条件A1の他に負荷増大条件A3を含む。つまり、負荷増大判定部27は、第1負荷偏差が変動閾値以上であり、且つ、第2負荷偏差が変動閾値以上である場合に、エンジン負荷の増大量が変動閾値以上であると判定するように構成される。上述したように、負荷増大判定部27に送られるKW信号によって示されるエンジン負荷が、突発的な要因によって一時的に急落する場合がある。この点、上記構成によれば、噴射指令部35に送られる規定時間前のエンジン負荷に対してローパスフィルタ処理が施されるので、負荷増大判定部27が取得するエンジン負荷には、一時的な急落現象は反映されない。これにより、突発的な要因によって第2負荷偏差が変動閾値以上となることが抑制され、不要なタイミングで燃料噴射量が急増するのをさらに抑制することができる。また、第1負荷偏差と第2負荷偏差のそれぞれの判定閾値がいずれも同じ変動閾値であるので、負荷増大判定部27による判定処理を簡易にすることができる。なお、負荷増大条件が、負荷増大条件A1、A3の他に負荷増大条件A2を含むかに関わらず、上記利点は得られる。また、第2負荷偏差の判定閾値は、上記変動閾値とは異なる値であってもよい。
【0041】
図7Bは、他の実施形態に係る負荷増大判定部27の判定条件を示す概念図である。他の実施形態に係る負荷増大条件は、負荷増大条件A1に代えて負荷増大条件B1を含む。そして、同図で例示される実施形態では、負荷増大条件B1に加えて上述の負荷増大条件A2、A3がいずれも充足される場合に、負荷増大判定部27はエンジン負荷の増加量が変動閾値以上であると判定するように構成される。そして、負荷増大条件B1は、現在のエンジン負荷の微分値が微分閾値以上となる条件である。負荷増大判定部27は、現在のエンジン負荷と、負荷センサ11の読取周波数に相当する時間分現在から遡った時刻におけるエンジン負荷との偏差に基づき、現在のエンジン負荷の微分値を取得する。負荷増大判定部27は、取得された微分値と、メモリに記憶される規定値としての微分閾値とを比較することで、負荷増大条件B1が充足されるかを判定する。
【0042】
負荷増大条件に負荷増大条件B1が含まれる実施形態では、負荷増大判定部27は、現在のエンジン負荷の微分値が微分閾値以上である場合に、エンジン負荷の増大量が変動閾値以上であると判定するように構成される。本構成の利点を以下に説明する。
【0043】
図8は、本開示の一実施形態に係るエンジン負荷の経時的推移を示す別のグラフである。同グラフは、エンジン5が低負荷駆動をしている間に、エンジン負荷が漸増する事例を示す。当該事例では、エンジン負荷が将来的には規定値以上に到達するのはほぼ確定的であるにも関わらず、到達時刻が遅いため、エンジン制御装置20が通常制御モードから負荷投入制御モードに切り替わるタイミングが遅れる(
図8の例では、負荷投入制御モードに切り替わる時刻がt
cよりも後のt
dになる。)。この点、上記構成によれば、エンジン負荷の増加速度が遅い場合であっても、エンジン負荷の微分値が微分閾値以上になれば、エンジン負荷の増大量が閾値以上であると判定される。これにより、エンジン負荷の増加速度が遅い場合であっても、エンジン制御装置20は素早く負荷投入制御モードに切り替わり、燃料噴射量を急増させることができる。なお、負荷増大条件は、負荷増大条件B1のみを含んでいてもよいし、負荷増大条件B1、A2、A3に加えて負荷増大条件A1を含んでいてもよい。いずれの実施形態においても、上記利点は得られる。
【0044】
<4.第1演算部31の演算処理の例示>
一実施形態に係るエンジン制御装置20(
図2参照)は、通常制御モードと負荷投入制御モードとの間でFB制御の対象とするパラメータを切り替えてもよい。具体的には、通常制御モード下において、第1演算部31は、エンジン回転数偏差に基づいたFB演算により得られる燃料噴射量を基本燃料噴射量として出力する。一方で、負荷投入制御モード下において、エンジン5の実エンジン負荷と目標エンジン負荷との偏差に基づいたFB演算により得られる燃料噴射量を基本燃料噴射量として出力する(図示外)。実エンジン負荷は、負荷センサ11の検出結果に基づき取得される。目標エンジン負荷は、例えばエンジン制御装置20を構成するメモリに一定値として記憶される。上記構成によれば、通常制御モードから負荷投入制御モードへの切り替わりに伴い、エンジン負荷が直接的に第1演算部31によって制御されるようになる。これにより、負荷投入状態の発生中、エンジン負荷をより微細に制御することができる。
【0045】
なお、他の実施形態では、エンジン制御装置20が通常制御モードまたは負荷投入制御モードであるかに関わらず、エンジン回転数がFB制御の対象となっていてもよい。
【0046】
<5.第2演算部32の演算処理の例示>
他の実施形態に係る第2演算部32のFF燃料噴射量は、エンジン負荷と燃料噴射量とを対応付けた対応データに基づいて決定されてもよい。本実施形態に係る対応データは、エンジン5が定格エンジン負荷のもと駆動する間においても参照されるデータである。対応データは、エンジン負荷と燃料噴射量とを対応付けたデータテーブルであってもよいし、規定の関数式であってもよい。上記構成によれば、FF燃料噴射量を求めるための専用のデータが用意される必要がない。よって、第2演算部32による演算処理を簡易にしつつ、不要なタイミングで燃料噴射量が急増するのを抑制できる。
【0047】
<6.負荷変動応答処理>
図9は、本開示の一実施形態に係る負荷変動応答処理を示すフローチャートである。エンジン5が低負荷駆動を開始する場合、負荷変動応答処理は、エンジン制御装置20に搭載される少なくとも1つのプロセッサ(以下、単にプロセッサともいう)によって実行される。以下の説明では、ステップを「S」と略記する場合がある。また、負荷変動応答処理の開始時、エンジン制御装置20は通常制御モードであると仮定する。
【0048】
はじめに、プロセッサは、エンジン5に負荷投入状態が発生したかを判定する(S11)。本判定処理の詳細は上述した通りであり、プロセッサによって実行されるS11には、上述の第1判定部21によって実行される判定処理が含まれる。
【0049】
負荷投入状態が発生していないと判定された場合(S11:NO)、プロセッサは、上述したFB演算により得られる燃料噴射量を基本燃料噴射量として扱うFB制御を実行する(S13)。プロセッサによって実行されるS13は、第1演算部31によって実行される演算処理が含まれる。なお、S13の実行時、現在のエンジン負荷に基づくFF演算により得られる燃料噴射量は基本燃料噴射量に加算されない。このときFF演算は実行されていてもよいし、停止していてもよい。S13では、エンジン制御装置20は通常制御モードである。
【0050】
プロセッサは、S13において出力される基本燃料噴射量を取得し、基本燃料噴射量に基づいて算出される第1燃料噴射量を噴射量指令値として燃料噴射部9に出力する(S15)。S15では、基本燃料噴射量が第1燃料噴射量として扱われてもよいし、基本燃料噴射量にローパスフィルタ処理が施されたデータが第1燃料噴射量として扱われてもよい。プロセッサによって実行されるS15には、通常制御モードにおいて噴射指令部35によって実行される出力処理が含まれる。
【0051】
次いで、プロセッサは、負荷変動応答処理を終了するかを判定する(S17)。例えば、エンジン制御装置20に対してエンジン5の駆動終了指示がデータとして入力された場合には(S17:YES)、プロセッサは処理を終了する。負荷変動応答処理を終了しないと判定された場合(S17:NO)、プロセッサは処理をS11に戻す。負荷投入状態が発生しない状況が継続する間、プロセッサは、S11~S15を順に繰り返し、エンジン制御装置20は通常制御モードに維持される。
【0052】
負荷投入状態が発生したと判定された場合(S11:YES)、プロセッサは、FB演算を実行するために取得する信号を、エンジン回転数偏差から第1負荷偏差に切り替える(S19)。一実施形態では、エンジン制御装置20はこのときに通常制御モードから負荷投入制御モードに切り替わる。
【0053】
続いて、プロセッサは、FB制御に加えて、上述のFF演算により得られるFF燃料噴射量を燃料噴射量指令値に反映するFF制御を実行する(S21)。S21では、FB演算により得られる基本燃料噴射量と、FF演算により得られるFF燃料噴射量とが燃料噴射部9に入出力される。プロセッサによって実行されるS21には、第1演算部31と第2演算部32のそれぞれによって実行される演算処理が含まれる。
【0054】
プロセッサは、S21において出力される燃料噴射量(基本燃料噴射量にFF燃料噴射量を加算した値)に基づいて算出される第2燃料噴射量を、噴射量指令値として燃料噴射部9に出力する(S23)。S23では、基本燃料噴射量とFF燃料噴射量との合計値が第2燃料噴射量として扱われてもよいし、該合計値にローパスフィルタ処理が施されたデータが第2燃料噴射量として扱われてもよい。プロセッサによって実行されるS23には、負荷投入制御モードにおいて噴射指令部35によって実行される出力処理が含まれる。
【0055】
プロセッサは、負荷投入状態が消失したかを判定する(S25)。本判定処理の詳細は上述した通りであり、プロセッサによって実行されるS25には、第2判定部22によって実行される判定処理が含まれる。負荷投入状態が消失したと判定された場合(S25:YES)、プロセッサは処理をS13に移行し、エンジン制御装置20は負荷投入制御モードから通常制御モードに切り替わる。そして、FB制御の制御対象となるパラメータもエンジン負荷からエンジン回転数に切り替わる。一方で、負荷投入状態が消失していないと判定された場合(S25:NO)、プロセッサは処理をS17に移行する。負荷投入状態が発生する状況が継続する間、プロセッサは、S11、S19~S25、S17を順に繰り返す。このとき、S19において、FB制御の制御対象となるパラメータが、エンジン負荷偏差に切り替わっていれば、特段の制御は実行されないスキップ処理が実行される。
【0056】
なお、他の実施形態では、S19は実行されなくてもよい。この場合、負荷投入状態が発生したと判定されると(S11:YES)、S21が実行されることでエンジン制御装置20は通常制御モードから負荷投入制御モードに切り替わる。
【0057】
<7.その他>
他の実施形態に係るエンジン5は、発電機4に連結される代わりに、車両に搭載された原動機に連結されてもよい。この場合、負荷センサ11は、エンジン5の出力トルクを計測するためのトルクセンサであってもよい。このような実施形態においても、例えば車両のアイドリング運転などはエンジン5の低負荷駆動に該当し、空気過剰率が過少にならないよう、適切なタイミングで燃料噴射量が素早く増大することが好ましい。
【0058】
<8.まとめ>
上述した幾つかの実施形態は、例えば以下のように把握されるものである。
【0059】
1)本開示の一実施形態に係るエンジン制御装置(20)は、
エンジン(5)に供給される燃料噴射量を示す燃料噴射量指令値を出力するための噴射指令部(35)と、
前記エンジンの実エンジン回転数および目標エンジン回転数との偏差であるエンジン回転数偏差に基づいたフィードバック演算により得られる燃料噴射量を基本燃料噴射量として前記噴射指令部に出力するための第1演算部(31)と、
前記エンジンの現在のエンジン負荷に基づくフィードフォワード演算により得られる燃料噴射量をフィードフォワード燃料噴射量として前記噴射指令部に出力するための第2演算部(32)と、
規定値以下であった規定時間前の前記エンジン負荷が変動閾値以上増大する負荷投入状態が発生したかを判定するための第1判定部(21)と
を備え、
前記負荷投入状態が発生したと前記第1判定部によって判定されると、前記噴射指令部が前記基本燃料噴射量に基づいて算出される第1燃料噴射量を前記燃料噴射量指令値として出力する通常制御モードから、前記噴射指令部が前記基本燃料噴射量に前記フィードフォワード燃料噴射量を加算した値に基づいて算出される第2燃料噴射量を前記燃料噴射量指令値として出力する負荷投入制御モードに切り替わるように構成される。
【0060】
上記1)の構成によれば、規定値以下であった規定時間前のエンジン負荷が変動閾値以上増大する負荷投入状態が発生した場合、エンジン制御装置は負荷投入制御モードに切り替わる。つまり、低い値で推移していたエンジン負荷がある程度上昇する場合には、燃料噴射量指令値が第1燃料噴射量から第2燃料噴射量に切り替わり、燃料噴射量が素早く増加する。一方で、規定時間前のエンジン負荷が規定値を上回る場合(つまり燃料噴射量を素早く増大させる必要性が乏しい場合)、または、エンジン負荷の増大量が変動閾値未満である場合、燃料噴射量指令値は第2燃料噴射量に切り替わらない。これにより、不必要なタイミングでの燃料噴射量の急増、及び、空気過剰率が過少になりかねないタイミングでの燃料噴射量の急増は抑制される。以上より、空気過剰率が過少になるのを抑制しつつ、適切なタイミングで燃料噴射量を素早く増加させることができるエンジン制御装置が実現される。
【0061】
2)幾つかの実施形態では、上記1)に記載のエンジン制御装置であって、
前記基本燃料噴射量が前記エンジンに供給される空気の給気量と相関する特性値から決定される上限燃料噴射量以上となる条件、または、前記実エンジン回転数が規定回転数以上となる条件の少なくとも一方の条件が充足されるかを判定するための第2判定部(22)をさらに備え、
前記負荷投入制御モード下において前記少なくとも一方の条件が充足されると前記第2判定部によって判定された場合、前記負荷投入制御モードから前記通常制御モードに切り替わるように構成される。
【0062】
第1演算部によって出力される基本燃料噴射量が上限燃料噴射量以上となる場合、実際の燃料噴射量は十分に高くなっており、エンジンの空気過剰率が過少になるのを抑制する観点から燃料噴射量指令値が第2燃料噴射量となる必要性が乏しい。また、基本燃料噴射量が上限燃料噴射量に到達することなく実エンジンの回転数が規定回転数以上となる場合、実際の燃料噴射量を十分に高くしなくても、ある程度の回転数でエンジンが駆動できているため、燃料噴射量指令値が第2燃料噴射量となる必要性が乏しい。この点、上記2)の構成によれば、少なくとも一方の条件が充足されると、エンジン制御装置は負荷投入制御モードから通常制御モードに切り替わり、燃料噴射量指令値は第2燃料噴射量から第1燃料噴射量に切り替わる。従って、不要なタイミングで燃料噴射量が急増するのを抑制できる。
【0063】
3)幾つかの実施形態では、上記1)または2)に記載のエンジン制御装置であって、
前記第1演算部は、前記負荷投入制御モード下において前記フィードバック演算におけるフィードバックゲイン値を維持するように構成される。
【0064】
上記3)の構成によれば、通常制御モードから負荷投入制御モードへの切り替わりに伴った第1演算部の設定変更が抑制されるので、第1演算部による演算処理を簡易にしつつ、不必要なタイミングで燃料噴射量が急増するのをさらに抑制できる。
【0065】
4)幾つかの実施形態では、上記1)から3)のいずれかに記載のエンジン制御装置であって、
前記第1判定部は、
前記規定時間前のエンジン負荷が前記規定値以下であるかを判定するための低負荷判定部(26)と、
前記エンジン負荷の増大量が前記変動閾値以上であるかを判定するための負荷増大判定部(27)と
を含み、
前記負荷増大判定部は、少なくとも1つの負荷増大条件が全て充足される場合に、前記エンジン負荷の増大量が前記変動閾値以上であると判定するように構成され、
前記負荷増大条件は、現在の前記エンジン負荷と、現在の前記エンジン負荷よりも前記規定時間前の前記エンジン負荷との偏差である第1負荷偏差が前記変動閾値以上となる第1負荷増大条件(負荷増大条件A1)を含む。
【0066】
上記4)の構成によれば、エンジン負荷の増大量が変動閾値以上であるかの判定に、エンジン負荷の偏差としての第1負荷偏差が用いられるので、負荷増大判定部による判定精度を確保することができる。
【0067】
5)幾つかの実施形態では、上記1)から4)のいずれかに記載のエンジン制御装置であって、
前記第1判定部は、
前記規定時間前のエンジン負荷が前記規定値以下であるかを判定するための低負荷判定部(26)と、
前記エンジン負荷の増大量が前記変動閾値以上であるかを判定するための負荷増大判定部(27)と
を含み、
前記負荷増大判定部は、少なくとも1つの負荷増大条件が全て充足される場合に、前記エンジン負荷の増大量が前記変動閾値以上であると判定するように構成され、
前記負荷増大条件は、現在の前記エンジン負荷の微分値が微分閾値以上となる第2負荷増大条件(負荷増大条件B1)を含む。
【0068】
上記5)の構成によれば、エンジン負荷の増加速度が遅い場合であっても、エンジン負荷の微分値が微分閾値以上になれば、エンジン負荷の増大量が閾値以上であると判定される。これにより、エンジン負荷の増加速度が遅く、エンジン負荷が規定値以上に到達するまでの時間が長い場合であっても、エンジン制御装置は素早く応答して燃料噴射量を急増させることができる。
【0069】
6)幾つかの実施形態では、上記4)または5)に記載のエンジン制御装置であって、
前記負荷増大条件は、現在の前記エンジン負荷と、前記規定時間前の前記エンジン負荷にローパスフィルタ処理を施すことで得られる処理済エンジン負荷との偏差である第2負荷偏差が前記変動閾値以上となる第3負荷増大条件(負荷増大条件A3)を含む。
【0070】
負荷増大判定部に送られる信号によって示されるエンジン負荷は、エンジンの間欠失火またはノイズなど突発的に発生する要因によって一時的に急落する場合がある。この点、上記6)の構成によれば、第1負荷偏差が変動閾値以上である場合、且つ、現在の前記エンジン負荷と、前記規定時間前の前記エンジン負荷にローパスフィルタ処理を施すことで得られる処理済エンジン負荷との偏差である第2負荷偏差が前記変動閾値以上である場合に、前記エンジン負荷の増大量が前記変動閾値以上であると判定する。規定時間前のエンジン負荷にローパスフィルタ処理が施されるので、負荷増大判定部が取得するエンジン負荷に、一時的な急落現象は反映されない。これにより、不要なタイミングで燃料噴射量が急増するのをさらに抑制することができる。また、第1負荷偏差と第2負荷偏差のそれぞれの判定閾値がいずれも変動閾値であるので、負荷増大判定部による判定処理を簡易にすることができる。
【0071】
7)幾つかの実施形態では、上記4)から6)のいずれかに記載のエンジン制御装置であって、
前記負荷増大条件は、前記エンジン回転数偏差が第1回転数閾値以下となる第4負荷増大条件(負荷増大条件A2)を含む。
【0072】
負荷増大判定部に送られる信号が示すエンジン負荷は、エンジンの間欠失火またはノイズなど突発的に発生する要因によって一時的に急落する場合がある。この場合、燃料噴射量が実際には急増する必要がないにも関わらず、第1負荷偏差が変動閾値以上になる。一方で、上記突発的な要因が発生してもエンジン回転数偏差は高い状態を維持する傾向にある。この点、上記7)の構成によれば、負荷増大判定部は、第1負荷偏差が前記変動閾値以上である場合、且つ、エンジン回転数偏差が第1回転数閾値以下である場合に、エンジン負荷の増大量が前記変動閾値以上であると判定する。従って、実際のエンジン負荷が変動閾値以上増大することに伴いエンジン回転数偏差が第1回転数閾値以下にならないと、エンジン負荷の増大量が変動閾値以上であると判定されない。よって、不要なタイミングで燃料噴射量が急増するのをさらに抑制することができる。
【0073】
8)幾つかの実施形態では、上記4)から7)のいずれかに記載のエンジン制御装置であって、
前記低負荷判定部は、前記規定時間前のエンジン負荷が前記規定値以下であり、且つ、前記実エンジン回転数が第2回転数閾値以下である場合に、前記規定時間前の前記エンジン負荷が前記規定値以下であると判定するように構成される。
【0074】
低負荷判定部に送られる信号が示すエンジン負荷は、エンジンの間欠失火またはノイズなど突発的に発生する要因によって一時的に急落する場合がある。この場合、燃料噴射量が実際には急増する必要がないにも関わらず、規定時間前のエンジン負荷が規定値以下になる。他方で、上記突発的な要因が発生しても実エンジン回転数は高い状態を維持する傾向にある。この点、上記構成によれば、実エンジン回転数が第2回転数閾値以下にならないと、規定時間前のエンジン負荷が規定値以下であると判定されない。よって、不要なタイミングで燃料噴射量が急増するのをさらに抑制することができる。
【0075】
9)幾つかの実施形態では、上記1)から8)のいずれかに記載のエンジン制御装置であって、
前記第2演算部は、前記エンジンの定格エンジン負荷において参照されるデータである、前記エンジン負荷と燃料噴射量とを対応付けた対応データと、現在の前記エンジン負荷とに基づき得られる燃料噴射量を前記フィードフォワード燃料噴射量として出力するように構成される。
【0076】
上記9)の構成によれば、フィードフォワード燃料噴射量を求めるための専用のデータが用意される必要がない。よって、第2演算部による演算処理を簡易にしつつ、不要なタイミングで燃料噴射量が急増するのをさらに抑制できる。
【0077】
10)幾つかの実施形態では、上記1)から9)のいずれかに記載のエンジン制御装置であって、
前記第1演算部は、
前記通常制御モード下において、前記エンジン回転数偏差に基づいた前記フィードバック演算により得られる前記燃料噴射量を前記基本燃料噴射量として出力し、
前記負荷投入制御モード下において、前記エンジンの実エンジン負荷と目標エンジン負荷との偏差に基づいた前記フィードバック演算により得られる燃料噴射量を前記基本燃料噴射量として出力するように構成される。
【0078】
上記10)の構成によれば、通常制御モードから負荷投入制御モードへの切り替わりに伴い、エンジン負荷が直接的に第1演算部によって制御されるようになる。これにより、負荷投入状態の発生中、エンジン負荷をより微細に制御することができる。
【0079】
11)本開示の少なくとも一実施形態に係るエンジン制御システム(1)は、
前記エンジンと、
前記エンジンの回転数を検出するための回転数センサ(12)と、
前記エンジンの前記エンジン負荷を検出するための負荷センサ(11)と
前記回転数センサと前記負荷センサのそれぞれの検出結果を取得するための、上記1)乃至10)の何れかに記載のエンジン制御装置(20)と、
前記エンジンに設けられ、前記エンジン制御装置の前記噴射指令部から出力される前記燃料噴射量指令値にしたがって燃料を噴射するための燃料噴射部(9)と
を備える。
【0080】
上記11)の構成によれば、上記1)と同様の理由により、空気過剰率が過少になるのを抑制しつつ、適切なタイミングで燃料噴射量を素早く増加させることができるエンジン制御システムが実現される。
【0081】
12)本開示の少なくとも一実施形態に係るエンジン制御プログラムは、コンピュータであるエンジン装置(20)に、
エンジン(5)に供給される燃料噴射量である燃料噴射量指令値を出力するための噴射指令ステップ(S15、S23)と、
前記エンジンの実エンジン回転数および目標エンジン回転数との偏差であるエンジン回転数偏差に基づいたフィードバック演算により得られる燃料噴射量を、前記噴射指令ステップにおいて取得される基本燃料噴射量として出力するための第1演算ステップ(S13)と、
前記エンジンの現在のエンジン負荷に基づくフィードフォワード演算により得られる燃料噴射量を、前記噴射指令ステップにおいて取得されるフィードフォワード燃料噴射量として出力するための第2演算ステップ(S23)と、
規定値以下であった規定時間前の前記エンジン負荷が変動閾値以上増大する負荷投入状態が発生したかを判定するための第1判定ステップ(S11)と
を実行させ、
前記負荷投入状態が発生したと前記第1判定ステップによって判定されると、前記エンジン装置を、前記噴射指令ステップにおいて前記基本燃料噴射量に基づいて算出される第1燃料噴射量が前記燃料噴射量指令値として出力される通常制御モードから、前記噴射指令ステップにおいて前記基本燃料噴射量に前記フィードフォワード燃料噴射量を加算した値に基づいて算出される第2燃料噴射量が前記燃料噴射量指令値として出力される負荷投入制御モードに切り替えさせる(S19またはS21)。
【0082】
上記12)の構成によれば、上記1)と同様の理由により、空気過剰率が過少になるのを抑制しつつ、適切なタイミングで燃料噴射量を素早く増加させることができる。
【符号の説明】
【0083】
1 :エンジン制御システム
5 :エンジン
9 :燃料噴射部
11 :負荷センサ
12 :回転数センサ
20 :エンジン制御装置
21 :第1判定部
22 :第2判定部
26 :低負荷判定部
27 :負荷増大判定部
31 :第1演算部
32 :第2演算部
35 :噴射指令部
A1、A2、A3、B1 :負荷増大条件